(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180604
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】豆腐用凝固剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/45 20210101AFI20241219BHJP
【FI】
A23L11/45 106A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181299
(22)【出願日】2024-10-16
(62)【分割の表示】P 2020154153の分割
【原出願日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019168104
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100230857
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 悠也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
(72)【発明者】
【氏名】沖坂 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 真梨
(72)【発明者】
【氏名】清水 将夫
(57)【要約】
【課題】塩化マグネシウム六水和物の濃度を溶解度付近まで高めたにがり水を用いても、にがり水からの経時的な析出物の発生を抑えることができ、析出物に起因する製造ラインの不具合を抑えることができる、油中水乳化型豆腐用凝固剤の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化マグネシウム六水和物を65~80質量%含有するにがり水を水相とする油中水型乳化組成物を得る豆腐用凝固剤の製造方法であって、
にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度を確認し、
各濃度の合計値が基準値以下の場合に、にがり水と油脂とを混合して乳化分散し、
各濃度の合計値が基準値を超える場合に、にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持して沈殿物を除去し、にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値を基準値以下としてから、にがり水と油脂とを混合して乳化分散する、
豆腐用凝固剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化マグネシウム六水和物を65~80質量%含有するにがり水を用いて、該にがり水を水相とする油中水型乳化組成物を得ることを含む豆腐用凝固剤の製造方法であって、
前記油中水型乳化組成物の調製に当たり、前記にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度を確認し、
前記各濃度の合計値が基準値以下の場合に、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散し、
前記各濃度の合計値が基準値を超える場合に、該にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持して沈殿物を除去し、該にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値を基準値以下としてから、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散する、
豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項2】
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%]以上、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下である、請求項1に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項3】
前記基準値が0.24質量%である、請求項1又は2に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項4】
前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値を超える場合であって、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上74質量%未満であるときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、0℃以上20℃以下であり、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が74質量%以上80質量%以下であって、塩化マグネシウム六水和物の濃度をX質量%、塩化マグネシウム六水和物の溶解度がX質量%であるときの温度をY℃としたときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、Y℃以上[Y+20]℃以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項5】
前記にがり水を入手又は調製した段階で、該にがり水には析出が生じていない、請求項1~4のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項6】
前記にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の確認時点において、該にがり水には析出が生じていない、請求項1~5のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項7】
前記乳化分散を乳化剤の存在下で行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項8】
にがり水を水相とする油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、
該にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65~80質量%、ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が0.24質量%以下である、
豆腐用凝固剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆腐用凝固剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、豆乳に凝固剤を加えてタンパク質を架橋、ゲル化して製造される。タンパク質が架橋されて形成される網目構造中には多数の水分子が保持され、豆腐特有の弾力とみずみずしさが発現する。この凝固剤として、古くから塩化マグネシウム六水和物を主成分とするにがりを水に溶解してなるにがり水が使用されてきた。塩化マグネシウムは豆腐にほどよい甘味を付与するため、にがり水を用いることで風味のよい豆腐に仕上げることができる。一方、塩化マグネシウムの凝固作用は速効性であり、豆乳中に均一に拡散する前に凝固反応が素早く進行する。したがって、にがり水を凝固剤として用いてゲル組織の均一性の高い高品質の豆腐を得るには熟練した技術を要する。
【0003】
にがり水を、油脂及び乳化剤と混合して油中水型に乳化分散し、これを凝固剤として用いることで、塩化マグネシウムによる豆乳の凝固反応が遅効化し、なめらかで緻密な組織からなる絹様の豆腐が得られることが知られている(例えば、特許文献1及び2)。
このような油中水型豆腐用凝固剤において、水相中の塩化マグネシウム濃度が低い場合には、豆乳の十分な凝固を引き起こすためにより多くの凝固剤を添加する必要が生じる。その結果、得られる豆腐は凝固剤に含まれる油や乳化剤の異味を感じるものとなる。一方で、塩化マグネシウム濃度を高めた油中水型豆腐用凝固剤も知られている。例えば特許文献3には、塩化マグネシウムの含有量が24~28質量%、カリウムの含有量が0.4質量%以下の範囲で一定量含有する油中水型豆腐用凝固剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-304923号公報
【特許文献2】特開平10-57002号公報
【特許文献3】特開2014-117160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
得られる豆腐の風味や豆腐製造の経済性などの観点から、豆腐製造における油中水型豆腐用凝固剤の使用量は極力低減することが望まれている。そのため、塩化マグネシウム六水和物の濃度をその溶解度付近まで高めた高濃度にがり水を用いて、油中水型豆腐用凝固剤の製造が行われるようになってきている。
しかしながら、高濃度にがり水を豆腐用凝固剤の製造ラインに用いると、条件によっては析出物が発生して経時的に沈殿物を生じることが明らかになってきた。この沈殿物は、豆腐用凝固剤の製造ラインにおける貯蔵タンク内に蓄積したり、輸送ポンプを詰まらせたりして製造ラインの安定的な運転の妨げとなる。
【0006】
本発明は、塩化マグネシウム六水和物の濃度をその溶解度付近まで高めたにがり水を用いても、当該にがり水からの経時的な析出による沈殿物の発生を抑えることができ、この沈殿物に起因する製造ラインの不具合の発生を抑えることができる、油中水型豆腐用凝固剤の製造方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の豆腐用凝固剤の製造方法を提供すべく鋭意検討を重ねた。その結果、高濃度にがり水から経時的に生じる沈殿物は、主要成分である塩化マグネシウム六水和物由来のマグネシウム塩ではなく、にがり水中に少量混在するナトリウム塩やカリウム塩が主体であることがわかってきた。
すなわち、上記の高濃度にがり水であっても、塩化マグネシウム六水和物が溶解度未満の濃度であれば、マグネシウム塩は析出しにくく、ナトリウムイオンないしカリウムイオンが一定の濃度以上混入している場合に、経時的に、ナトリウム塩ないしカリウム塩が特異的に析出し、凝固剤の安定的な製造の妨げになっていることが明らかとなってきた。
さらに本発明者らが検討を重ねた結果、高濃度にがり水において事前にナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度を確認し、これらのイオン濃度の合計が一定値(基準値)を上回る場合には、塩化マグネシウム濃度は実質的にそのままに、ナトリウム塩ないしカリウム塩を特異的に析出させて除去できること、その結果、当該塩を除去した高濃度にがり水を用いて油中水型豆腐用凝固剤の製造を安定的に実施することが可能になることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、塩化マグネシウム六水和物を65~80質量%含有するにがり水を用いて当該にがり水を水相とする油中水型乳化組成物を得ることを含む豆腐用凝固剤の製造方法であって、
前記油中水型乳化組成物の調製に当たり、前記にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度を確認し、
前記各濃度の合計値が基準値以下の場合に、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散し、
前記各濃度の合計値が基準値を超える場合に、該にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持して沈殿物を除去し、該にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値を基準値以下としてから、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散する、
豆腐用凝固剤の製造方法に関する。
【0009】
また本発明は、にがり水を水相とする油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、
該にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65~80質量%、ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が0.24質量%以下である、
豆腐用凝固剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の豆腐用凝固剤の製造方法によれば、塩化マグネシウム六水和物の濃度をその溶解度付近まで高めたにがり水を用いながらも、当該凝固剤の製造過程における当該にがり水からの析出を抑えて経時的な沈殿物の発生を抑えることができ、この沈殿物に起因する製造ラインの不具合の発生を抑えて安定的に油中水型豆腐用凝固剤を製造することができる。
また本発明の豆腐用凝固剤は、その製造において水相成分を構成するにがり水からの析出が抑えられ、製造ラインの不具合を生じにくく安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の豆腐用凝固剤の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称す。)の好ましい実施形態について説明する。
本発明の製造方法は、油脂を主成分とする油相を連続相とし、塩化マグネシウム六水和物をその溶解度付近(「溶解度付近」は「溶解度又はその付近」の意味である。)の高濃度で含有するにがり水(水相)を分散相とする油中水型の乳化組成物からなる豆腐用凝固剤を、製造ラインで安定的に大量生産することを可能とする方法である。本発明において「溶解度」とは、水に対する溶解度(塩化マグネシウム六水和物の飽和水溶液中における塩化マグネシウム六水和物の濃度)を意味し、その単位は「質量%」(100×溶質量[g]/{溶質量[g]+水量[g]})で表す。
油中水型の乳化組成物からなる豆腐用凝固剤(油中水型豆腐用凝固剤)それ自体は公知であり、本発明においても通常の方法により、油相成分と水相成分とを混合して乳化分散し、油中水型の乳化組成物を得ることができる。通常は、油脂と親油性乳化剤とを混合してなる油脂組成物とにがり水とを混合し、乳化分散して油中水型乳化組成物の形態とする。また、特開2015-192613号公報や特開2017-12090号公報に記載されているような特定の油脂成分を用いることにより、乳化剤を用いることなく油中水型の乳化組成物を得ることができる。本発明は、乳化剤の有無にかかわらず適用することができる。油中水型乳化物の安定性の観点からは乳化剤を用いることが好ましい。また、油相と水相の割合についても、目的に応じて適宜に設定すればよい。このような油中水型豆腐用凝固剤の製造については、必要により、例えば上述した特許文献等を参照することができる。
本発明の好ましい実施形態について、本発明に特徴的な構成を中心に以下に説明する。
【0012】
本発明の製造方法では、水相成分として、塩化マグネシウム六水和物を65~80質量%、好ましくは69~80質量%の濃度で含有するにがり水を用いる。にがり水において塩化マグネシウム六水和物は、水中に溶解した状態にある。すなわち本発明において、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物は、塩化マグネシウム六水和物の水に対する溶解度以下の濃度である。
【0013】
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度は、沈殿物の発生を防止する観点から、好ましくは次の範囲とする。
[にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%](「L濃度」と称す)以上、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)](「U濃度」と称す)以下。
前記「L濃度」(質量%)は、[にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-4質量%]が好ましく、[にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-3質量%]がより好ましい。
また前記「U濃度」(質量%)は、[にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-0.5質量%]が好ましい。
【0014】
本発明において「にがり水が曝される最低温度」とは、凝固剤の製造においてにがり水が曝される最低温度である。具体的には、にがり水の輸送中、保管中、製造ラインのタンク内への投入時ないし投入後、あるいは送液配管内の流液中などにおいて、にがり水が曝される温度のうち最も低い温度である。この最低温度は、輸送・保管・製造ライン等を温度管理する設備の能力に応じて設定することができるが、下限値は沈殿物発生のトラブルを防止しつつ塩化マグネシウム六水和物の濃度を出来るだけ高濃度に出来る観点から、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。
この最低温度の上限値は、完成した凝固剤が常温に置かれた際に、凝固剤中の水相中で結晶が発生するのを防止する観点から、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下であり、さらに好ましくは25℃以下である。
【0015】
塩化マグネシウム六水和物の溶解度曲線(温度依存的な塩化マグネシウム六水和物の飽和溶液濃度)は公知であり、例えば化学便覧 基礎編改訂5版を参照することができる。
【0016】
前記にがり水は、塩化マグネシウム六水和物の他、カリウムやナトリウムなど、本発明の効果を妨げない程度で他の成分を含有しうる。例えば、塩化ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどのナトリウム塩、塩化カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウムなどのカリウム塩、硫酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム塩から選ばれる1種または2種以上を含有していてもよい。
【0017】
本発明で用いるにがり水は、通常は、食品添加物であるにがりを水に溶解させたものであるが、市販の塩化マグネシウム六水和物試薬(高純度品)を水に溶解させたものをにがり水として用いることもできる。また、市販のにがり水に、にがりや塩化マグネシウム六水和物試薬を溶解させて、塩化マグネシウム六水和物の濃度が本発明で規定する高濃度範囲にあるにがり水を得ることもできる。ここで塩化マグネシウム六水和物の濃度は、配合量から計算することを原則とするが、それが難しい、ないし出来ない場合は以下に示すマグネシウムイオンの濃度を確認する方法と同様の方法により確認することもできる。
なお、入手又は調製したにがり水は、入手又は調製した段階では、通常は析出を生じておらず、沈殿物を含まないことが好ましい。もし沈殿物を含んでいた場合は、製造ラインに適用する前に沈殿物をろ過など通常想定される作業により除去するものとする。本発明の製造方法によれば、このようなにがり水を製造ラインに適用した場合の、将来的な析出ないし沈殿物の発生を予測し、沈殿物による製造ラインの不具合の発生を抑制できる。したがって、本発明の製造方法における、にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の確認時において、にがり水が析出を生じておらず、沈殿物を含まない場合に、本発明の製造方法の適用は特に適している。ここで、「析出を生じていない」、「沈殿物を含まない」とは、析出物や沈殿物を実質的に含まないことを意味する。具体的には、目視観察等により析出が生じておらず、沈殿物を確認できないことを意味する。
なお、本発明で用いるにがり水は入手又は調製後、通常は室温にて保管されるが、塩の析出を抑制する観点から温度調節可能な場所で保管することが好ましく、その保管温度は適宜に調整することができる。なお、保管温度は通常、該にがり水中の塩化マグネシウムの濃度が飽和溶解度となるときの温度以上の温度である。
【0018】
にがり水には塩化マグネシウム以外にも、塩やミネラルが含まれている。本発明の製造方法では、前記にがり水を油脂と混合して乳化分散する前に、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの各濃度を確認する。ここで本発明において「確認」とは、下記実施例で示すように各イオン濃度を測定することによる確認や、入手した際に添付されている納品書や品質規格証明書等の書類に記載されている当該濃度の確認などを含む意味で用いる。イオンの各濃度の測定は、通常の方法に従って様々な方法で測定することができるが、本発明においては原子吸光分析法により測定するものとする。原子吸光分析法における具体的な測定条件は、実施例の欄に記載されている条件に従うものとする。
なお、通常のにがり水では、カリウムイオンに比べナトリウムイオンを多く含有する。
【0019】
前記にがり水について、確認したナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値(質量%)が基準値以下である場合は、当該にがり水をそのまま水相成分として用いて、油脂と混合して乳化分散し、油中水型豆腐用凝固剤を製造することができる。このようなにがり水は、特定の温度制御下において経時的に沈殿物を生じず、製造ラインの不具合を生じない。したがって、製造ラインにおいて、豆腐用凝固剤の安定的な大量生産が可能となる。
前記基準値は、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度や、にがり水が曝される温度条件によって適宜に設定される。
例えば、基準値を0.24質量%に設定した場合において、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値が基準値以下である場合には、後述する実施例に示されるように、塩化マグネシウム六水和物の濃度が73~74質量%程度のにがり水では10℃程度の温度下においても経時的な析出による沈殿物の発生が抑えられ、65~70質量%程度のにがり水では0℃程度の温度下においても経時的な析出が抑えられ、78質量%程度のにがり水では40℃程度の温度下において経時的な析出が抑えられる。よって、温度管理が比較的容易な温度下における経時的な析出をより抑える観点から、上記基準値は0.24質量%であることが好ましく、0.23質量%であることがより好ましい。
【0020】
前記にがり水について、確認したナトリウムイオン及びカリウムイオンの合計値が基準値を越える場合は、このにがり水をこれらのイオンの合計値が基準値を越えたままの状態では、水相成分として用いない。
しかし、このにがり水を、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で一定期間保持し、析出した沈殿物を除去することにより、当該にがり水を水相成分として用いることが可能となる。沈殿物の除去により、にがり水中のナトリウムイオン及びカリウムイオンの各濃度の合計値は上記基準値以下となる。ここで、「ナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度」は、マグネシウム塩は析出しない温度(すなわち、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、当該温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(飽和溶液濃度)以下となる温度)である。
【0021】
本発明者らは、塩化マグネシウム六水和物をその溶解度付近の高濃度で含有するにがり水(高濃度にがり水)において経時的に生じる析出ないし沈殿物が、塩化マグネシウム六水和物由来のマグネシウム塩ではなく、ナトリウム塩やカリウム塩であることを見出した。つまり、高濃度にがり水であっても、ナトリウムイオンやカリウムイオンの濃度が低ければ(ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値以下であれば)、高濃度にがり水は溶液状態を安定して維持できること、他方で、高濃度にがり水においてナトリウムイオンやカリウムイオンの濃度が高い場合には(ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値を越えると)、温度を制御することにより、塩化マグネシウム六水和物由来のマグネシウム塩を析出させずに(にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の含有量を維持したまま)、ナトリウム塩やカリウム塩を特異的に析出させることができ、こうしてナトリウム塩やカリウム塩を除去することにより、高濃度にがり水の溶液状態を安定して維持できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0022】
前記のナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度は、用いるにがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度により適宜設定することができる。例えば、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上74質量%未満であるときは、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度は、0℃以上20℃以下、より好ましくは0℃以上15℃以下、さらに好ましくは0℃以上10℃以下、であることが好ましい。にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が69質量%以上74質量%未満であるときも、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度は、0℃以上20℃以下、より好ましくは0℃以上15℃以下、さらに好ましくは0℃以上10℃以下、であることが好ましい。
また、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が74質量%以上80質量%以下であり、具体的には塩化マグネシウム六水和物の濃度がX質量%であって、塩化マグネシウム六水和物の溶解度がX質量%であるときの温度がY℃であるとき、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度は、Y℃以上[Y+20]℃以下、より好ましくは[Y+3]℃以上[Y+15]℃以下、さらに好ましくは[Y+5]℃以上[Y+10]℃以下とするのが好適である。このような塩化マグネシウム六水和物の濃度に応じた温度範囲であれば、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度の合計値が基準値を上回っている場合、マグネシウム塩を析出することなく、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を析出させることができる。なお、上記温度範囲のなかで具体的に適用する温度は、にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、当該温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度未満となる温度である。
【0023】
前記にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持する時間は、生産効率と確実にナトリウムイオン及びカリウムイオンの合計値を基準値以下とする観点から、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは14時間以上であり、さらに好ましくは16時間以上である。同様の観点から、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは40時間以下であり、更に好ましくは32時間以下である。
【0024】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の油中水型乳化形態の豆腐用凝固剤の製造方法を開示する。
【0025】
<1>塩化マグネシウム六水和物を65~80質量%含有するにがり水を用いて、該にがり水を水相とする油中水型乳化組成物を得ることを含む豆腐用凝固剤の製造方法であって、
前記油中水型乳化組成物の調製に当たり、前記にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度を確認し、
前記各濃度の合計値が基準値以下の場合に、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散し、
前記各濃度の合計値が基準値を超える場合に、該にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持して沈殿物を除去し、該にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値を基準値以下としてから、該にがり水と油脂とを混合して乳化分散する、
豆腐用凝固剤の製造方法。
【0026】
<2>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは69~80質量%である、前記<1>に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<3>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%]以上、より好ましくは、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-4質量%]以上、さらに好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-3質量%]以上である、前記<1>又は<2>に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<4>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、より好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-0.5質量%]以下である、前記<1>~<3>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<5>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、より好ましくは、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-4質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、さらに好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-3質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-0.5質量%]以下である、前記<1>~<4>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<6>前記「にがり水が曝される最低温度」の下限値が、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上である、前記<3>~<5>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<7>前記「にがり水が曝される最低温度」の上限値が、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下である、前記<3>~<6>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<8>前記「にがり水が曝される最低温度」が、好ましくは0℃以上40℃以下、より好ましくは10℃以上30℃以下、さらに好ましくは15℃以上25℃以下である、前記<3>~<7>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【0027】
<9>前記基準値が好ましくは0.24質量%、より好ましくは0.23質量%である、前記<1>~<8>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<10>前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値を超える場合であって、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上74質量%未満であるときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくは0℃以上であり、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が74質量%以上80質量%以下であって、塩化マグネシウム六水和物の濃度をX質量%、塩化マグネシウム六水和物の溶解度がX質量%であるときの温度をY℃としたときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくはY℃以上、より好ましくは[Y+3]℃以上、さらに好ましくは[Y+5]℃以上である、
前記<1>~<9>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<11>前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値を超える場合であって、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上74質量%未満であるときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下であり
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が74質量%以上80質量%以下であって、塩化マグネシウム六水和物の濃度をX質量%、塩化マグネシウム六水和物の溶解度がX質量%であるときの温度をY℃としたときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくは[Y+20]℃以下、より好ましくは[Y+15]℃以下、さらに好ましくは[Y+10]℃以下である、
前記<1>~<10>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<12>前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が基準値を超える場合であって、
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上74質量%未満であるときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくは0℃以上20℃以下、より好ましくは0℃以上15℃以下、さらに好ましくは0℃以上10℃以下であり
前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が74質量%以上80質量%以下であって、塩化マグネシウム六水和物の濃度をX質量%、塩化マグネシウム六水和物の溶解度がX質量%であるときの温度をY℃としたときに、前記ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を特異的に析出させる温度が、好ましくはY℃以上[Y+20]℃以下、より好ましくは[Y+3]℃以上[Y+15]℃以下、さらに好ましくは[Y+5]℃以上[Y+10]℃以下である、
前記<1>~<11>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<13>前記にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持する時間が、好ましくは12時間以上、より好ましくは14時間以上、さらに好ましくは16時間以上である、前記<1>~<12>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<14>前記にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持する時間が、好ましくは48時間以下、より好ましくは40時間以下、さらに好ましくは32時間以下、である、前記<1>~<13>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<15>前記にがり水をナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で保持する時間が、好ましくは12時間以上48時間以下、より好ましくは14時間以上40時間以下、さらに好ましくは16時間以上32時間以下である、前記<1>~<14>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【0028】
<16>前記にがり水を入手又は調製した段階で、該にがり水には析出が生じていない、前記<1>~<15>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<17>前記にがり水中のナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の確認時点において、該にがり水には析出が生じていない、前記<1>~<16>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<18>前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の確認が、該ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度を測定することによって確認される、前記<17>に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<19>前記乳化分散を乳化剤の存在下で行う、前記<1>~<18>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【0029】
<20>にがり水と油脂とを混合して乳化分散することを含む豆腐用凝固剤の製造方法であって、
該にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65質量%以上80質量%以下、ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が0.24質量%以下である、製造方法。
<21>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは69~80質量%である、前記<20>に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<22>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%]以上、より好ましくは、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-4質量%]以上、さらに好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-3質量%]以上である、前記<20>又は<21>に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<23>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、より好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-0.5質量%]以下である、前記<20>~<22>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<24>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-5質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、より好ましくは、[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-4質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)]以下、さらに好ましくは[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-3質量%]以上[該にがり水が曝される最低温度における塩化マグネシウム六水和物の溶解度(質量%)-0.5質量%]以下である、前記<20>~<23>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<25>前記「にがり水が曝される最低温度」の下限値が、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上である、前記<22>~<24>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<26>前記「にがり水が曝される最低温度」の上限値が、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下である、前記<22>~<25>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<27>前記「にがり水が曝される最低温度」が、好ましくは0℃以上40℃以下、より好ましくは10℃以上30℃以下、さらに好ましくは15℃以上25℃以下である、前記<22>~<26>のいずれか1項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
<28>前記にがり水を入手又は調製した段階で、該にがり水には析出が生じていない、前記<20>~<27>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【0030】
<29>前記<1>~<28>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤の製造方法により得られた豆腐用凝固剤と、豆乳とを混合することを含む、豆腐の製造方法。
【0031】
<30>にがり水を水相とする油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、
該にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が65~80質量%、ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が0.24質量%以下である、
豆腐用凝固剤。
<31>前記にがり水中の塩化マグネシウム六水和物の濃度が、好ましくは69~80質量%である、前記<30>に記載の豆腐用凝固剤。
<32>前記ナトリウムイオンとカリウムイオンの各濃度の合計値が0.23質量%以下である、前記<30>又は<31>に記載の豆腐用凝固剤。
【0032】
<33>前記<30>~<32>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤と、豆乳とを混合することを含む、豆腐の製造方法。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
下記表2~4に示す組成(単位:質量%)となるように、にがり水(塩化マグネシウム水溶液;実験例1~22)を各100g得た。表2~4に記載の塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)として、塩化マグネシウム六水和物試薬(試薬特級グレード、純度98.0質量%以上、富士フイルム和光純薬製)を用いた。表2~4に記載の塩化カリウム(KCl)として塩化カリウム試薬(試薬特級グレード、富士フイルム和光純薬製)を用いた。表2~4に記載の塩化ナトリウム(NaCl)として塩化ナトリウム試薬(試薬特級グレード、富士フイルム和光純薬製)を用いた。
【0035】
塩化マグネシウム六水和物の濃度が73.5質量%のにがり水(実験例1~7)、及び70.0質量%のにがり水(実験例16~22)は、室温にて塩化マグネシウム六水和物、塩化カリウム、塩化ナトリウムを水に完全に溶解させた。
また、塩化マグネシウム六水和物の濃度が78.0質量%のにがり水(実験例8~15)は、調製する際に予め水を60℃まで加温しながら塩化マグネシウム六水和物、塩化カリウム、塩化ナトリウムを完全に溶解させた。
これらのにがり水は、溶解後に沈殿物がないことを目視により確認した後、各イオン濃度の測定及び静置後の析出評価を行った。
【0036】
<にがり水中のナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度測定>
検量線用サンプルとしてナトリウム標準液(Na1000、富士フイルム和光純薬製、品番199-10831)を20±2℃になるように調温後、マイクロピペットで正確に100μl、400μl、600μl、1000μlを100ml容ガラス製メスフラスコに入れた。超純水を8割程度入れた後に2N塩酸1mlを加え、超純水で100mlまでメスアップして倒立混合し、分析用標準液とした。
同様にカリウム標準液(K1000、富士フイルム和光純薬製、品番165-17471)を20±2℃になるように調温後、マイクロピペットで正確に100μl、200μl、300μl、400μlを100ml容ガラス製メスフラスコに入れた。超純水を8割程度入れた後に2N塩酸1mlを加え、超純水で100mlまでメスアップして倒立混合し、分析用標準液とした。
同様にマグネシウム標準液(Mg1000、富士フイルム和光純薬製、品番165-17471)を20±2℃になるように調温後、マイクロピペットで正確に50μl、100μl、150μl、200μlを100ml容ガラス製メスフラスコに入れた。超純水を8割程度入れた後に2N塩酸1mlを加え、超純水で100mlまでメスアップして倒立混合し、分析用標準液とした。
分析用サンプルとして、にがり水を100ml容ガラス製メスフラスコに約0.2g秤量し(0.1mgの桁まで精秤した)、超純水を8割程度入れた後に2N塩酸(富士フィルム和光純薬製)1mlを加え、超純水で100mlまでメスアップして倒立混合し、分析用サンプルとした。
調製した分析用標準液及び分析用サンプルを、偏光ゼーマン原子吸光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 Z2000)を用いて定量した。分析条件を下記表1に、分析結果(濃度(質量%))を下記表2~4にそれぞれ示す。
【表1】
【0037】
試験例 静置後のにがり水の析出評価
塩化マグネシウム六水和物の濃度が73.5質量%であるにがり水(実験例1~7)を10℃で24時間静置させ、静置後のにがり水の状態を、下記評価基準に基づき目視で評価した。
また、塩化マグネシウム六水和物の濃度が78.0質量%であるにがり水(実験例8~15)を40℃で24時間静置させ、静置後のにがり水の状態を、下記評価基準に基づき目視で評価した。
さらに、塩化マグネシウム六水和物の濃度が70.0質量%であるにがり水(実験例16~22)を0℃で24時間静置させ、静置後のにがり水の状態を、下記評価基準に基づき目視で評価した。
<評価基準>
Y:結晶の析出による沈殿物がなく透明な溶液である。
N:結晶の析出による沈殿物がある。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値(質量%)が0.24質量%以下であるにがり水(実験例1~4、8~11、及び16~18)は、それぞれ塩化マグネシウム六水和物の濃度に応じた上記温度で24時間静置させても、沈殿物の発生は確認されなかった。
【0042】
塩化マグネシウム六水和物の濃度が73.5質量%、78.0質量%、及び70.0質量%である上記にがり水であって、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値(質量%)が0.24質量%を越えるもの(実験例5~7、12~15、及び19~22)について、静置させた後に生じた沈殿物は、ナトリウム塩とカリウム塩で構成されていた。該沈殿物を除去したにがり水について、マグネシウムイオン濃度を上記と同様の条件で測定したところ、マグネシウムイオンの減少は確認されなかった。
【0043】
また、沈殿物を除去した上記にがり水(実験例5~7、12~15、及び19~22)について、上記測定方法により再度ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定したところ、これらの各濃度の合計値は0.24質量%以下であった。
さらに、当該沈殿物を除去したにがり水を、それぞれ静置させた温度下で24時間保管しても、新たな沈殿物の発生は確認されなかった。
【0044】
上記実験例において、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値が基準値を下回ったにがり水(実験例1~4、8~11、及び16~18)を用いて、豆腐用凝固剤を製造したところ、良好な凝固剤が得られた。また、上記実験例において、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の合計値が基準値を超えるにがり水(実験例5~7、12~15、及び19~22)を、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩が特異的に析出する温度下で一定期間保持し、析出した沈殿物を除去した後に、水相成分として用いて豆腐用凝固剤を製造したところ、良好な凝固剤が得られた。