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特開2024-180613導電性積層体及びこれを用いた光学装置、導電性積層体の製造方法
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  • 特開-導電性積層体及びこれを用いた光学装置、導電性積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180613
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】導電性積層体及びこれを用いた光学装置、導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20241219BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20241219BHJP
   B32B 15/00 20060101ALI20241219BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241219BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B7/025
B32B15/00
H01B13/00 503B
H05K9/00 V
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181474
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2020035784の分割
【原出願日】2020-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】若生 仁志
(57)【要約】
【課題】長期間にわたって低電気抵抗で、高透過率を有する導電性積層体及びこれを備えた各種光学素子、導電性積層体の製造方法の提供。
【解決手段】導電性積層体1は、透明基板2と、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層されている。第1の透明材料層3は、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されている。第2の透明材料層5は、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の少なくとも1面上に、第1の透明材料層と、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層と、第2の透明材料層が、上記透明基板側からこの順に積層された導電性積層体において、
上記第1の透明材料層が、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、亜鉛と錫の総和に対して錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されており、
上記第2の透明材料層が、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が上記第2の透明材料層中の全金属の総和に対して10原子%以下の金属酸化物(ただし、錫の含有率が上記第2の透明材料層中の全金属の総和に対して10原子%である場合を除く。)で構成されており、
全光線透過率が90%以上である、導電性積層体。
【請求項2】
上記第2の透明材料層が、アルミニウム及びガリウムの少なくとも1種を、上記第2の透明材料層中の全金属の総和に対して2原子%以上含有する、請求項1に記載の導電性積層体。
【請求項3】
上記金属層が、銀を90原子%以上含有する、請求項1又は2に記載の導電性積層体。
【請求項4】
上記金属層の厚みが5nm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項5】
上記透明基板が、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリシクロオレフィン(COC、COP)のいずれか若しくはその積層体からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項6】
上記第2の透明材料層中の錫の含有率が、上記第1の透明材料層中の錫の含有率よりも少ない、請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項7】
上記第1の透明材料層の厚みが30~80nmであり、
上記第2の透明材料層の厚みが30~70nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いた、タッチパネル。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いた、調光素子。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いた、電気泳動型光学素子。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いた、発光素子。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体を少なくとも1枚用いた、アンテナ。
【請求項13】
透明基板の少なくとも1面上に、第1の透明材料層と、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層と、第2の透明材料層を、上記透明基板側からこの順に積層する工程を有し、
上記第1の透明材料層が、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、亜鉛と錫の総和に対して錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されており、
上記第2の透明材料層が、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が上記第2の透明材料層中の全金属の総和に対して10原子%以下の金属酸化物(ただし、錫の含有率が上記第2の透明材料層中の全金属の総和に対して10原子%である場合を除く。)で構成されており、
全光線透過率が90%以上である、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、例えばタッチパネル、調光素子、電気泳動型光学素子、発光素子、アンテナなどに用いられる導電性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明で導電性のある材料は、種々の光学装置に利用されてきた。例えば、画像素子デバイス上に積層され、静電容量の変化などで押された位置を検出するタッチパネルや、エレクトロクロミズム現象を利用して外光の強い光を電気的に可変的に調整する調光素子、エレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子、液中に分散させた電荷をもつ微粒子を電界にて操作する電気泳動型光学素子、窓などに貼っても眺望性を損じることのないアンテナなどが挙げられる。
【0003】
これらの光学装置に用いる電極は光学的に透明であることが求められており、且つ、動作上の課題から電気伝導度を高める必要がある。そのため、透明で電気抵抗の少ない材料が求められている。この種の材料としては、一般にはインジウムと錫の複合酸化物であるITO(Indium Tin Oxide)が広く使われている。ITOは、すでに市場において大きな位置を占めている。しかし、ITOは抵抗値を低く、透明性を高めるためには高温での成膜もしくは成膜後に熱処理を加える必要があり、熱に弱い基板及び素子に用いる場合には課題があった。
【0004】
そのため、非加熱で抵抗値が低く、透明性の高い材料の開発が進められ、Zn-O、In-Zn-O(IZO)、Al-Zn-O(AZO)、Sn-Zn-O(ZTO)などの亜鉛系酸化物をITOの代替材料として用いることが検討されている。これらの亜鉛系酸化物のうち、AZO、ZTOは、人体に影響があると懸念されているインジウムを含まないため、より好まれている。
【0005】
ところで、プラズマテレビなどでは、装置の構成上、画面より電磁波が放出されてしまう。その電磁波を吸収するために各種透明材料が開発されてきたが、非常に薄い銀薄膜を高屈折率の透明材料で挟んだ積層体が非常に効果的であることが分かり幅広く研究、開発が行われた。この積層体は、銀で導電性を付与し、高屈折率の材料と銀との間での光干渉効果で表面反射を抑制して透過率を高めることで高透過、低抵抗を実現している。そして、この積層体を上述の光学装置などに応用する例もみられている。
【0006】
このように、透過性と導電性を併せ持つ透明導電膜は、様々な応用例が考えられるが、上記素子の省電力、高速動作の実現には、さらなる低抵抗・高透過率が求められる。ITOなどの金属酸化物では、抵抗値を下げるために膜の厚みを厚くする必要があり、膜を厚くすると透過率が下がってしまい、十分な特性を得ることが難しかった。そのため、金属の両側を透明材料で挟んだ積層体が非常に有益であると考えられる。特に、特許文献2に例示される錫と亜鉛の複合酸化物を透明材料として銀の両側を挟んだ積層体は、錫と亜鉛の複合酸化物が化学的に安定であり、優れた水蒸気バリア性能を有するため、銀薄膜の劣化を抑制することができ、安定した特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4820738号公報
【特許文献2】特許第4961786号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Appl.Phys.A(2014) 116:1287-1291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、実際に導電薄膜として錫と亜鉛の複合酸化物を透明材料として銀の両側を挟んだ導電性積層体を、高温高湿度の加速環境下で保存すると、透過率の性能を保持するものの、表面抵抗が急激に増大して導電膜として利用することが難しい傾向にあることが分かった。このことは、導電性積層体の長期間での使用に課題があることを示している。
【0010】
そのため、高透過率であり、高温高湿度の加速環境下で保存した後も低電気抵抗を維持できる導電性積層体が望まれている。また、導電膜として使用されているインジウム・錫複合酸化物は、レアマテリアルであり、また、人体への影響も懸念されているインジウムを使用しないことが望まれている。
【0011】
そこで、本技術は、かかる問題点を鑑みてなされたもので、その目的は、長期間にわたって低電気抵抗で、高透過率を有する導電性積層体及びこれを備えた各種光学素子、導電性積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、透明基板側より第1の透明材料層、銀を主成分とする金属層、第2の透明材料層を順次積層させた導電性積層体において、第1の透明材料層が少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を所定量含有する複合金属酸化物で構成され、第2の透明材料層が亜鉛を含有するとともに錫の含有率が所定量以下の金属酸化物で構成されていることが、高透過率と低電気抵抗を両立しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本技術は、透明基板の少なくとも1面上に、第1の透明材料層、銀を主成分とする金属層、第2の透明材料層が、透明基板側からこの順に積層された導電性積層体において、第1の透明材料層が、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されており、第2の透明材料層が、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成されている。
【0014】
また、本技術に係る光学装置は、上述の導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いたものである。
【0015】
また、本技術に係る導電性積層体の製造方法は、透明基板の少なくとも1面上に、第1の透明材料層、銀を主成分とする金属層、第2の透明材料層を、透明基板側からこの順に積層する工程を有し、第1の透明材料層が、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されており、第2の透明材料層が、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、導電性積層体の各界面での光吸収層の生成を抑制できるため、長期間にわたって低電気抵抗で、高透過率を有する導電性積層体を提供でき、このような導電性積層体を、省電力、高性能のタッチパネル、調光素子、アンテナ、電気泳動素子、発光素子などの各種光学装置の電極として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本技術が適用された導電性積層体の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、薄膜形成装置の内部構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術が適用された導電性積層体及びこれを用いた光学装置、導電性積層体の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0019】
[導電性積層体]
図1は、本技術が適用された導電性積層体1の構成例を模式的に示す断面図である。導電性積層体1は、図1に示すように、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層されている。また、導電性積層体1は、第1の透明材料層3が少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成されており、第2の透明材料層5が亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成されている。
【0020】
導電性積層体1の上記各層3~5を成膜する上では、例えば、真空成膜技術の一つであるスパッタリングを用いることができる。本発明者は、スパッタリングで各種透明材料と銀を積層させ検討したところ、亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合酸化物を第1の透明材料層3として用いることで光吸収を抑制でき、また、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物を第2の透明材料層5として用いることで長期間にわたって低電気抵抗を維持できることを見出した。
【0021】
ここで、第1の透明材料層3として酸化亜鉛を用いると、酸化亜鉛を成膜した後に銀をスパッタリングにて成膜する際に、光吸収層が生じてしまう。すなわち、ターゲットから高速で飛び出した銀原子が透明基板2に到達すると、運動エネルギーを失い透明基板2の表面に定着する。その際、ターゲットから高速で飛び出した銀原子と、第1の透明材料3を構成する金属との間で相互作用が強い場合は、銀原子が第1の透明材料層3側で合金化してしまい、光吸収層が生じてしまう。また、亜鉛は、金属層4を構成する銀との間に広い固溶領域を持ち、金属層4を構成する銀との相互作用が強い元素であるため、容易に光吸収層を形成する。
【0022】
しかし、本技術のように、第1の透明材料層3が錫を含有する場合、特に、第1の透明材料層3中の錫の含有率が亜鉛と錫の総和に対して10原子%以上90原子%以下であることにより、亜鉛と錫の複合酸化物の化学的安定性のために、金属層4を構成する銀との反応を抑制して薄膜を形成できる。
【0023】
第2の透明材料層5を形成する際に、金属層4を構成する銀と相互作用の低い材料を用いると、第2の透明材料層5が十分に濡れ広がらず、界面に多数の小さな空隙を形成し、そこで光吸収が生じてしまう。第2の透明材料層5として亜鉛を含有する金属の酸化物を用いると、表面での濡れ性が向上し、良好な界面を形成することができる。しかも、亜鉛と酸素の結合が強いため、亜鉛が金属層4を構成する銀と合金を形成する前に酸化被膜となるため、合金層による光吸収層の形成もより効果的に抑制できる。第2の透明材料層5に実用可能な導電性酸化物としては、亜鉛酸化物および亜鉛合金複合酸化物が挙げられる。外部から導電性積層体1の表面に電荷を実質的に移動させる際に、酸化亜鉛および亜鉛合金複合酸化物は、良好な接触抵抗を有するため好ましい。しかし、第2の透明材料層5に、亜鉛と錫の複合酸化物を用いた場合、強固な結合により安定相において電気伝導性を得ることが難しい傾向にある。一般的に、良好な電気伝導性を得るためには、複合酸化物中の酸素含有率を化学量論組成から意図的に欠損させ、スパッタリングの際の酸素導入量を調整することが考えられる。しかし、亜鉛と錫の複合酸化物は、成膜直後に電気伝導性が得られるものの、長時間保持すると大気中の酸素により酸化が進行し電気伝導性が失われてしまう傾向にある。
【0024】
このように、第1の透明材料層3と、第2の透明材料層5とでは、必要とされる特性が異なる。すなわち、第1の透明材料層3では化学的安定性が求められ、電気伝導性はそれ程重要ではなく、一方、第2の透明材料層5では、電気伝導性が重要である。ここで、酸化亜鉛に酸化錫を加えることにより、化学的安定性が増していくが、同時に電気伝導性の劣化をもたらす。そのため、第1の透明材料層3と、第2の透明材料層5の組成を同一にすると、本技術の効果を得ることが困難である。
【0025】
本技術では、透明基板2の少なくとも1面上に、少なくとも亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成された第1の透明材料層3と、銀を主成分とする金属層4と、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成された第2の透明材料層5とを、透明基板2側からこの順で積層することにより、各界面での光吸収を抑制することができる。これにより、インジウムを使用しなくても、長期間にわたって低電気抵抗で、高透過率を有する導電性積層体1を得ることができる。
【0026】
また、本技術の導電性積層体1によれば、表面抵抗(電気抵抗)を低くでき、全光線透過率を高くすることができる。例えば、導電性積層体1は、表面抵抗が20Ω/□以下であり、かつ、全光線透過率が90%以上とすることができる。表面抵抗及び全光線透過率の測定方法は、後述する実施例の測定方法と同義である。なお、一般的に使われているITO(インジウム錫複合酸化物)フィルムなどは、ITOの膜厚によっても異なるが、表面抵抗が100Ω/□、全光線透過率が88%となることが多い。
【0027】
したがって、本技術は、導電性積層体1を少なくとも1枚用いた省電力、高性能の光学装置、例えば、導電性積層体を電極の少なくとも一方の極として用いた、タッチパネル、調光素子、電気泳動型光学素子、発光素子、アンテナなどに適用することができる。
【0028】
以下、導電性積層体1を構成する各層について詳細に説明する。上述したように、本技術が適用された導電性積層体1は、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層されている。
【0029】
<透明基板>
透明基板2としては、ガラス基材、樹脂フィルムのいずれからなるものを用いることができる。透明基板2として樹脂フィルムからなるものを用いる場合には、ロールツーロール法によって製造することができるので、生産効率を向上させることができる。
【0030】
このような樹脂フィルムの材料としては、特に限定されることはないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene Terephthalate)、ポリエチレンナフタレート(PEN:Polyethylene Naphthalate)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC:Triacetylcellulose)、ポリシクロオレフィン(COC:Cyclic Olefin Copolymer、COP:Cyclic Olefin Copolymer)等を用いることができる。
【0031】
透明基板2の厚みは、特に限定されないが、樹脂フィルムを用いたときの製造時の取り扱いの容易さと部材の薄型化を考慮して、20μm以上200μm以下とすることが好ましい。
【0032】
導電性積層体1において、透明基板2は、光透過率が100%であることを必要とせず、本技術の効果を奏する範囲で透明であればよく、例えば、光透過率が88%以上であることが好ましい。
【0033】
なお、透明基板2の耐擦過性を向上させる観点から、透明基板2の両面に、例えばアクリル系樹脂による薄膜を、溶液塗布により形成することもできる。
【0034】
<第1の透明材料層>
第1の透明材料層3は、上述のように亜鉛と錫の複合酸化物で構成されており、錫の比率が亜鉛と錫の合計量に対して10原子%以上90原子%以下である。また、第1の透明材料層3は、亜鉛と錫の合計量に対して50原子%を超えない範囲で、亜鉛と錫以外の他の元素を1種又は複数種含有してもよい。
【0035】
第1の透明材料層3の厚みは、特に限定されず、材料構成に応じて最も透過率が高くなる膜厚に設定することができる。第1の透明材料層3の具体的な厚みとしては、30~80nmの範囲とすることができる。
【0036】
第1の透明材料層3の形成方法については、特に限定されず、生産効率を向上させる観点、膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0037】
第1の透明材料層3は、防湿性などの観点から、複数の層に分けて形成してもよい。この場合、複数の第1の透明材料層3のうち、少なくとも金属層4に接する透明材料層が、亜鉛と錫を含有し、かつ、錫を10原子%以上、90原子%以下含有する複合金属酸化物で構成される。
【0038】
<金属層>
第1の透明材料層3上に積層される金属層4は、銀を主成分とする金属層である。金属層4は、銀を90原子%以上含有するとともに、全体で10原子%を超えない範囲で添加元素を含んでもよい。すなわち、金属層4は、90原子%以上の銀又は純銀で構成することができる。
【0039】
金属層4の厚みは、5nm以上であることが好ましい。金属層4の膜厚が5nm以上であることにより、連続膜として形成しやすくなり、金属層4を構成する銀が島状化することによって生じる吸収を抑制することもできる。換言すると、金属層4の膜厚が5nmよりも薄いと、容易に島状の膜が形成されてしまい、光透過性が阻害されるおそれがある。金属層4の膜厚の上限は、特に限定されないが、15nm未満が好ましい。金属層4の膜厚を15nm未満とすることにより、界面での吸収よりも金属層4を構成する銀の層内部での光吸収が大きくなることをより効果的に抑制することができる。
【0040】
金属層4の形成方法は、特に限定されないが、金属層4の形成後、連続して第2の透明材料層5を形成することが好ましく、生産効率を向上させる観点、膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0041】
<第2の透明材料層>
金属層4上に積層される第2の透明材料層5は、上述のように亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成される。特に、本技術の効果をより高める観点から、第2の透明材料層5中の錫の含有率は、第1の透明材料層3中の錫の含有率よりも少ないことが好ましい。第2の透明材料層5中の錫の含有率の下限値は、特に限定されず、0原子%であってもよく、1原子%以上であってもよく、4原子%以上であってもよく、6原子%以上であってもよく、8原子%以上であってもよい。
【0042】
第2の透明材料層5は、光学特性、電気伝導性、化学的安定性の観点から、50原子%を超えない範囲で、亜鉛以外の他の元素を1種類又は複数種類含有してもよい。特に、第2の透明材料層5は、アルミニウム及びガリウムの少なくとも1種を2原子%以上含有することが好ましく、アルミニウム又はガリウムを2原子%以上含有することがより好ましい。これにより、第2の透明材料層5の電気伝導性をより向上させることができる。第2の透明材料層5が、アルミニウム及びガリウムの少なくとも1種を含有する場合、アルミニウム及びガリウムの合計量の上限値は、特に限定されず、例えば、15原子%以下とすることができ、12原子%以下とすることもでき、10原子%以下とすることもでき、8原子%以下とすることもでき、5原子%以下とすることもできる。
【0043】
第2の透明材料層5の厚みは、特に限定されず、材料構成に応じて最も透過率が高くなる膜厚に設定することができる。第2の透明材料層5の具体的な厚みとしては、例えば30~70nmの範囲とすることができる。
【0044】
第2の透明材料層5の形成方法は、特に限定されないが、金属層4の形成後に、連続して形成することが好ましく、生産効率を向上させる観点、膜厚分布を均一化させる観点から、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0045】
第2の透明材料層5は、耐擦傷性などの観点から、複数の層に分けて形成してもよい。この場合、複数の第2の透明材料層5のうち、少なくとも金属層4に接する透明材料層が、亜鉛を含有するとともに錫の含有率が10原子%以下の金属酸化物で構成され、50原子%を超えない範囲で1種類もしくは複数種類の元素を含有してもよい。また、複数の第2の透明材料層5のうち、金属層4に接する透明材料層以外の他の層においても、良好な電気伝導性を保持するために、電気伝導性を有する透明酸化物であることが好ましい。
【0046】
なお、図1に示す導電性積層体1は、透明基板2の一方の面に第1の透明材料層3、金属層4及び第2の透明材料層5が積層されているが、透明基板2の他方の面、あるいは透明基板2の両面に第1の透明材料層3、金属層4及び第2の透明材料層5が積層されていてもよい。
【0047】
[導電性積層体の製造方法]
上述した導電性積層体1は、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5を、透明基板2側からこの順に積層する工程により製造できる。
【0048】
第1の透明材料層3、金属層4、第2の透明材料層5の成膜は、例えば特開2014-34701号公報に記載された薄膜形成装置を用いて形成することができる。図2は、特開2014-34701号公報に記載の薄膜形成装置の内部構成を示す斜視図である。この薄膜形成装置は、ロールツーロール法によってフィルム基材上にスパッタリングによる成膜を行うもので、複数のスパッタリングターゲットを設置することができ、しかも、一旦ロールをセットすると真空雰囲気を維持したまま異なる複数種類の材料を成膜することが可能である。
【0049】
さらに、この薄膜形成装置では、スパッタリング時にスパッタガスであるアルゴンガスの他に酸素ガスをプラズマ中に導入することができ、それによりターゲット材料の酸化物をフィルム基材上に形成することができる。
【0050】
以下、薄膜形成装置の構成を詳述する。この薄膜形成装置は、基材フィルムが長手方向に連続的に供給され、基材フィルム上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する測定部と、基材フィルムの幅方向に複数のガスノズルが設けられ、ターゲット近傍に反応性ガスを供給する供給部と、測定部における幅方向の光学特性に基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量を制御する制御部とを備え、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成可能としたものである。
【0051】
また、具体的な構成として、供給部と、ターゲットに電圧を印加するスパッタ電極と、成膜中における基材フィルムの幅方向のプラズマの発光スペクトルを測定するプラズマ測定部とを有する成膜部を備えることが好ましい。これにより、制御部は、測定部における幅方向の光学特性及びプラズマ測定部における発光スペクトルに基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量及びターゲットに印加する電圧を制御することができ、幅方向により均一な厚みの薄膜を形成することが可能となる。
【0052】
また、具体的な構成として、基材フィルムを長手方向に巻き出す巻出部と、成膜部が基材フィルムの長手方向に複数配置された成膜ユニットと、成膜ユニットにて薄膜が形成された基材フィルムを巻き取る巻取部とを備えることが好ましい。これにより、基材フィルムの巻き出しから巻き取りまでに、多層の薄膜を形成することができる。また、測定部は、成膜部の後にそれぞれ設置されることが好ましいが、少なくとも最後の成膜部の後、すなわち成膜ユニットと巻取部との間に設置されることが好ましい。これにより、単層の薄膜又は多層の薄膜の両者の光学特性を測定することができる。
【0053】
図2に示す薄膜形成装置は、基材フィルムであるベースフィルムをキャンロールに巻付けながら走行させ、スパッタリングによってベースフィルム表面に薄膜を形成するものである。
【0054】
この薄膜形成装置は、巻出部である巻出ロール11からベースフィルム10(透明基板2)を供給し、薄膜が形成されたベースフィルム10を巻取部である巻取ロール12によって巻き取る。また、真空チャンバー内に成膜ユニットである第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットを備える。真空チャンバーは、空気の排出を行う真空ポンプと接続され、所定の真空度に調整可能である。
【0055】
第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットは、それぞれ第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22を備え、キャンロール21、22の外周面に対向するように成膜部であるスパッタ室SP1~10を複数配置する。各スパッタ室SP1~10には、電極上に所定のターゲットが取り付けられるとともに、ベースフィルム10の幅方向に複数のガスノズルを有する供給部が設けられる。
【0056】
また、薄膜形成装置は、第1の成膜室ユニットと第2の成膜室ユニットとの間、すなわちスパッタ室SP5による成膜後に、光学特性を測定する測定部である光学モニター31を備える。これにより、第1の成膜室ユニット後の中間品の成膜を制御することができるとともに、単層による調整時の調整時間を削減することができる。また、第2の成膜室ユニットの後、すなわちスパッタ室SP10による成膜後に光学特性を測定する測定部である光学モニター32を備える。これにより、第2の成膜室ユニット後の最終品の成膜の品質を確認することができる。
【0057】
光学モニター31、32は、後述するように、幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、ベースフィルム10上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する。この光学モニター31、32により、例えば、光学特性として反射率のピーク波長を測定し、光学厚みに換算することにより、幅方向の光学厚み分布を得ることができる。
【0058】
このような構成からなる薄膜形成装置は、巻出ロール11からベースフィルム10を繰出し、第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22の搬送時にベースフィルム10上に薄膜を形成し、巻取ロール12によって巻取ることにより、多層の薄膜を得ることができる。ここで、光学モニター31、32によって、ベースフィルム10上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定し、光学特性に基づいて、幅方向に設けられた各ガスノズルからの反応性ガスの流量を制御することにより、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【実施例0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本技術を具体的に説明するが、本技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
図2に示す特開2014-34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基板上に第1の透明材料層、金属層、第2の透明材料層を順次形成した。透明基板としては厚さ50μmのCOPフィルムを用いた。
【0061】
薄膜形成装置は、複数の材料の薄膜を同時に順次積層することができ、本実施例ではフィルム巻き出し側に近い側より50原子%錫含有酸化亜鉛(以下、「50atm%Sn-Zn-O」などという)、銀、酸化亜鉛のターゲットをこの順に配置した。それぞれのターゲットは、独立した電源に接続されており、任意の電力を投入して放電することが可能である。また、それぞれのターゲットは、それぞれ独立した容器内に収納されており、ターゲットを隔てる隔壁がキャンロール付近にわずかな隙間を有するのみであり、実質的に異なるガス雰囲気を実現することが可能である。
【0062】
この薄膜形成装置の真空槽内全体を1×10-3Pa以下に真空排気した後、50atm%Sn-Zn-Oが設置された第1のカソード部にアルゴンガスを150sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第1のカソード部に導入し、50atm%Sn-Zn-Oターゲットに電力を印加して放電させ、スパッタリングによる成膜を行った。この際、酸素不足による50atm%Sn-Zn-Oの光吸収を抑制するために6sccmの酸素を添加し、透明な酸化物層を形成した。このときのフィルムの走行速度は、3m/minであった。電力は、予め、電力と膜厚との関係を測定した後、3m/minの走行速度で64nmの厚みの50atm%Sn-Zn-Oが形成できるように調整した。
【0063】
第1のカソード部で50atm%Sn-Zn-Oを形成した後、第2のカソード部で銀薄膜を形成した。具体的に、第2のカソード部にアルゴンガスを450sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第2のカソード部に導入し、銀ターゲットに電力を印加して放電させスパッタリングによる成膜を行った。本実施例では、隣接する2つのカソードを使用したが、必ずしも隣接した2つのカソードを使用する必要はない。装置構成によっては1つのカソード室を使用せず、カソード室全体を隔壁としてもよい。電力はあらかじめ電力と膜厚との関係を測定したのち3m/minの走行速度で7nmの厚みの銀薄膜が形成できるように調整した。
【0064】
第2のカソード部で銀薄膜を形成したのち、第3のカソード部で酸化亜鉛を形成した。具体的に、第3のカソード部にアルゴンガスを150sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第3のカソード部に導入し、酸化亜鉛ターゲットに電力を印加して放電させスパッタリングによる成膜を行った。この際、アルゴンガスとは別に微量の酸素をマスフローコントローラーにて調整しながら導入して、酸素不足・酸素過多による導電性不良を起こさないように酸素量を調整して良好な透明導電性酸化物を得た。本実施例では、隣接する2つのカソードを使用したが、必ずしも隣接した2つのカソードを使用する必要はない。装置構成によっては1つのカソード室を使用せず、カソード室全体を隔壁としてもよい。電力はあらかじめ電力と膜厚との関係を測定したのち3m/minの走行速度で46nmの厚みの酸化亜鉛が形成できるように調整した。
【0065】
3層を成膜したのち、フィルムを連続的に巻き取り、図1の構成となるフィルムを巻き取ったのち、装置全体に大気を導入して試料を取り出しサンプルとした。
【0066】
<実施例2>
第3のカソード部に設置するターゲットを、酸化亜鉛から10原子%錫含有酸化亜鉛に変更し、酸化亜鉛と同一の成膜速度になるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0067】
<実施例3>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から10原子%錫含有酸化亜鉛に変更し、50原子%錫含有酸化亜鉛と同一の成膜速度になるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0068】
<実施例4>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から90原子%錫含有酸化亜鉛に変更し、膜厚が55nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部で成膜する酸化亜鉛の膜厚が51nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0069】
<実施例5>
第1のカソード部で成膜する50原子%錫含有酸化亜鉛の膜厚を63nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部に設置するターゲットを酸化亜鉛から5原子%アルミニウム含有酸化亜鉛に変更するとともに膜厚が46nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0070】
<実施例6>
第1のカソード部で成膜する50原子%錫含有酸化亜鉛の膜厚を63nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部に設置するターゲットを酸化亜鉛から10原子%ガリウム含有酸化亜鉛に変更するとともに膜厚が43nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0071】
<比較例1>
第3のカソード部に設置するターゲットを、酸化亜鉛から15原子%錫含有酸化亜鉛に変更し、酸化亜鉛と同一の成膜速度になるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0072】
<比較例2>
第1のカソード部で成膜する50原子%錫含有酸化亜鉛の膜厚を65nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部に設置するターゲットを酸化亜鉛から50原子%錫含有酸化亜鉛に変更するとともに膜厚が47nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0073】
<比較例3>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から酸化亜鉛に変更した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0074】
<比較例4>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から酸化錫に変更するとともに膜厚が47nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部で成膜する亜鉛酸化物の膜厚を56nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0075】
<比較例5>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から5原子%錫含有酸化亜鉛に変更した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0076】
<比較例6>
第1のカソード部に設置するターゲットを、50原子%錫含有酸化亜鉛から95原子%錫含有酸化亜鉛に変更するとともに膜厚が52nmとなるように放電条件を調整し、また、第3のカソード部で成膜する亜鉛酸化物の膜厚を51nmとなるように放電条件を調整した以外は、実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0077】
[評価結果]
各試料は、任意のサイズに切り出した後、測定・評価を行った。
【0078】
<表面抵抗>
表面抵抗は「JIS K-7194」に準拠して、接触式の抵抗測定器である「ロレスタGP(登録商標)(株式会社ダイアインスツルメンツ製)」を用いて測定を行った。具体的に、表面抵抗は、各試料の長期間での安定性の評価のため、各試料を温度65℃、相対湿度90RH%の環境下に240時間暴露する前後での抵抗、すなわち、初期の抵抗値と、65℃、相対湿度90RH%の環境下に240時間暴露した後の抵抗値をそれぞれ測定した。その際、表面抵抗の指標である20Ω/□以下とならないものについては、実用性に耐えられないと判断した。結果を表1に示す。
【0079】
<全光線透過率>
全光線透過率は、「JIS K-7105」に準拠して「NDH5000(日本電色工業株式会社製)」を用いて測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
<光吸収>
光吸収は、分光器、「U-4100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)」を用いて、入射角度5°の透過率及び反射率を測定し、波長550nmでのそれぞれの値について下記式(1)の式にて示される量を光吸収量として定義した。
光吸収(%)=100(%)-(透過率(%)+反射率(%)) ・・・・(1)
【0081】
すなわち、反射も透過もしていないものは、薄膜及び基材内部で熱に変換されている(吸収している)とした。実際には、散乱などにより実質的な透過率および反射率が低下し見かけ上では光吸収が増えて見えることがあるが、本発明で使用した基材は極めて吸収が小さく表面も平滑なため、式(1)で求めた光吸収はほぼ積層した膜による吸収とみなしてよい。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
<実施例1>
実施例1のサンプルは、表面抵抗20Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持しており、また、高温高湿環境下においても抵抗値に大きな変化が見られず、長期間の使用にも耐えうることを示している。
【0084】
<実施例2>
実施例1における第2の透明材料に錫を10原子%加えた実施例2のサンプルは、高温高湿環境下におくと実施例1のサンプルと比べて抵抗値が増大したものの、表面抵抗20Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持しており、長期間の使用にも耐えうることを示している。
【0085】
<実施例3,4>
実施例1における第1の透明材料の錫の濃度を10原子%又は90原子%に変更した実施例3,4のサンプルは、実施例1のサンプルと比べて波長550nmでの光吸収が増大し、高温高湿環境下におくと抵抗値が増大したものの、表面抵抗20Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持しており、長期間の使用にも耐えうることを示している。
【0086】
<実施例5,6>
実施例1における第2の透明材料にアルミニウム又はガリウムを加えた実施例5,6のサンプルは、表面抵抗20Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持しており、また、高温高湿環境下においても抵抗値に大きな変化が見られず、長期間の使用にも耐えうることを示している。なお、実施例5,6のサンプルは、実施例1のサンプルと比べて抵抗値が微減した。これは、第2の透明材料にアルミニウム又はガリウムを加えたことにより、第2の透明材料の導電率が増大したためと考えられる。
【0087】
<比較例1,2>
実施例1における第2の透明材料に錫を15原子%又は50原子%加えた比較例1,2のサンプルは、初期の抵抗値はいずれも指標を満たしたが、高温高湿環境下において抵抗値が大きく増大した。なお、比較例1,2のサンプルについて、上述の接触式の抵抗測定器ではなく、別の非接触式抵抗率計で表面抵抗を測定したところ、高温高湿環境下においても、初期とほぼ変わらない抵抗値を示すことが分かった。この理由は次のように考えられる。本技術の構成上、電流は、測定端子の接触する表面の第2の透明材料層を経て、金属層内を流れ、また第2の透明材料層を介して測定端子に戻り計測される。抵抗値は、ほぼ金属層内の値で決まると考えられるが、僅か100nm以下ではあるが第2の透明材料層が高温高湿環境下で酸化が進行し、極めて絶縁性が高くなったために、接触式抵抗率計で測定できなくなったものと推定される。
【0088】
<比較例3~6>
実施例1おける第1の透明材料の錫の含有比率を変えた比較例3~6のサンプルは、抵抗値が高温高湿環境下でも安定していたが、全光線透過率が大きく低下した。この原因として、第1の透明材料層の錫の含有率が10原子%以上90原子%以下を満たさなかったため光吸収が増大し、光吸収が増大した分、透過率が減少したことが考えられる。また、この光吸収は、上述のように、第1の透明材料層と、金属層(銀)との間に吸収層が形成されたことによるものと推定される。
【0089】
以上説明したように、実施例及び比較例の結果から、本技術の効果を実証することができた。なお、本技術は、上述した例に限定されるものではなく、本技術の属する分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0090】
1 導電性積層体、2 透明基板、3 第1の透明材料層、4 金属層、5 第2の透明材料層、10 ベースフィルム、11 巻出ロール、12 巻取ロール、21 第1のキャンロール、22 第2のキャンロール、31 光学モニター、32 光学モニター、SP スパッタ室
図1
図2