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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180623
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 47/02 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
F16K47/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181908
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2021134664の分割
【原出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 亮司
(72)【発明者】
【氏名】中川 大樹
(57)【要約】
【課題】消音部材における錆の発生を防止できる上、消音部材が剥離した際の弁部に対する剥離異物の攻撃性を低減でき、これらに起因した腐食を抑制できる電動弁を提供する。
【解決手段】電動弁10は、主弁体3で主弁ポート1Bを閉じるとともに、主弁体3に設けられた副弁ポート3Dの開度を副弁体4のニードル弁42によって制御することで、ニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間で流体の流量を絞る小流量制御域を有する。主弁体3には、主弁室1Aに向かって開口した連通路3Eと、連通路3Eと副弁室3Bとの間にて軸線L回りに環状に連続する環状空間3Fと、が形成され、連通路3Eと副弁ポート3Bとの間には、流体の通過音を消音する樹脂製の消音部材35,37が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主弁室および主弁ポートを構成する弁本体と、前記主弁室内に設けられて前記主弁ポートを開閉する主弁体と、前記主弁体内に形成された副弁室において軸線方向に移動自在に設けられた副弁体と、を備え、前記主弁体で前記主弁ポートを閉じるとともに、前記主弁体に設けられた副弁ポートの開度を前記副弁体のニードル弁によって制御することで、前記ニードル弁と前記副弁ポートとの隙間で流体の流量を絞る小流量制御域を有する電動弁であって、
前記主弁体には、前記主弁室に向かって開口した連通路と、前記連通路と前記副弁室との間にて軸線回りに環状に連続する環状空間と、が形成され、
前記連通路と前記副弁ポートとの間には、前記流体を通過させる樹脂製の消音部材が設けられ、
前記副弁ポートの周囲には、前記軸線を中心とした副弁座が形成され、
前記環状空間は、前記副弁座の外周側に形成され、前記副弁座の上面よりも下方に凹んだ溝状であることを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記環状空間は、前記連通路の径方向内側かつ上方に位置して前記軸線回りに環状に連続するとともに、上方に開口し、かつ、下方に開口せず形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルシステムなどに使用する電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機の冷凍サイクルに設けられる電動弁として、小流量制御域と大流量域とで流量制御する電動弁が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。このような従来の電動弁は、主弁体と副弁体とを備え、副弁体の連通路から主弁体内の副弁室へ冷媒(流体)を流入させ、副弁体のニードル弁と副弁ポートとの隙間であるポート絞り部で冷媒を絞って小流量制御を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-106086号公報
【特許文献2】特開2019-128001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来の電動弁では、連通路に流入する冷媒が気相に液相が混入し、冷媒の状態が不安定である場合、冷媒が安定しないままポート絞り部に流入すると、ポート絞り部の冷媒通過音が増大するという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2に記載された電動弁では、前述した冷媒通過音を抑制するため、連通路(小流量通路)を流れる冷媒(流体)中の気泡を細分化する消音部材を備えている。しかしながら、消音部材は、金属の焼結や、積層線材または線材の成形品による多孔体が主であるため、以下の要因による腐食が生じる問題がある。腐食の要因としては、流体通過時の壊食や配管内不純物に由来するもの、湿度環境や塩害環境で放置されることによるもの、および消音部材が剥離した際の金属異物が弁部に詰まることによるもの、が挙げられる。
【0006】
本発明の目的は、主弁体で主弁ポートを全閉状態とし、この主弁体に設けられた副弁ポートと副弁体との隙間により流体の小流量制御域での流量制御を行う電動弁において、消音部材における錆の発生を防止できる上、消音部材が剥離した際の弁部に対する剥離異物の攻撃性を低減でき、これらに起因した腐食を抑制できる電動弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動弁は、主弁室および主弁ポートを構成する弁本体と、前記主弁室内に設けられて前記主弁ポートを開閉する主弁体と、前記主弁体内に形成された副弁室において軸線方向に移動自在に設けられた副弁体と、を備え、前記主弁体で前記主弁ポートを閉じるとともに、前記主弁体に設けられた副弁ポートの開度を前記副弁体のニードル弁によって制御することで、前記ニードル弁と前記副弁ポートとの隙間で流体の流量を絞る小流量制御域を有する電動弁であって、前記主弁体には、前記主弁室に向かって開口した連通路と、前記連通路と前記副弁室との間にて軸線回りに環状に連続する環状空間と、が形成され、前記連通路と前記副弁ポートとの間には、前記流体を通過させる樹脂製の消音部材が設けられ、前記副弁ポートの周囲には、前記軸線を中心とした副弁座が形成され、前記環状空間は、前記副弁座の外周側に形成され、前記副弁座の上面よりも下方に凹んだ溝状であることを特徴とする。
【0008】
このような本発明によれば、消音部材が樹脂製であるため、錆の発生を防止できる上、素材の硬度が低いことから、消音部材が剥離した際の弁部に対する剥離異物の攻撃性を低減でき、これらに起因した腐食を抑制できる。加えて、消音部材が樹脂製であるため、形状の自由度が高いと共に、樹脂成型によって多量に制作できる。また、樹脂材料は、金属に比して制振性に優れるため、振動の影響に有利であり、良好な作動性の維持が可能となる。
【0009】
この際、前記環状空間は、前記連通路の径方向内側かつ上方に位置して前記軸線回りに環状に連続するとともに、上方に開口し、かつ、下方に開口せず形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電動弁によれば、電動弁において冷媒通過音を抑制するための消音部材が樹脂製であるため、錆の発生を防止できる上、素材の硬度が低いことから、消音部材が剥離した際の弁部に対する剥離異物の攻撃性を低減でき、これらに起因した腐食を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態の電動弁を示す縦断面図である。
図2】前記電動弁の小流量制御域状態の要部を示す拡大断面図である。
図3】前記電動弁の小流量制御域状態の流体の流れを示す図である。
図4】前記電動弁の変形例1を示す拡大断面図である。
図5】前記電動弁の変形例2を示す拡大断面図である。
図6】前記電動弁の変形例3を示す拡大断面図である。
図7】前記電動弁の変形例4を示す拡大断面図である。
図8】本発明の第2実施形態の電動弁の要部を示す拡大断面図である。
図9】前記電動弁の変形例5を示す断面図である。
図10】前記電動弁の変形例6を示す拡大断面図である。
図11】前記電動弁の変形例7を示す拡大断面図である。
図12】前記電動弁の変形例8を示す拡大断面図である。
図13】前記電動弁の変形例9を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電動弁の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施形態の電動弁を示す縦断面図、図2は電動弁の小流量制御域状態(副弁下端位置)の要部を示す拡大断面図、図3は電動弁の小流量制御域状態の冷媒(流体)の流れを示す図である。なお、以下の説明における「上、下」の概念は図1における上、下に対応し、この上、下方向を軸線L方向とし、軸線Lと直交する方向を径方向と呼ぶことがある。また、後述する第2実施形態以降において、第1実施形態と同一または類似する部材や部位に関しては、共通の符号を付すとともに説明を省略または簡略することがある。
【0013】
本実施形態の電動弁10は、弁本体である弁ハウジング1と、ガイド部材2と、主弁体3と、副弁体4と、駆動部5と、を備えている。
【0014】
弁ハウジング1は、例えば、黄銅やステンレス等で略円筒形状に形成されており、その内側に主弁室1Aを有している。弁ハウジング1の外周片側には、主弁室1Aに導通される第1継手管11が接続されるとともに、下端から下方に延びる筒状部に第2継手管12が接続されている。また、弁ハウジング1の第2継手管12の主弁室1A側には、主弁座13が形成され、この主弁座13の内側は、主弁ポート1Bとなっている。主弁ポート1Bは、軸線Lを中心とする円柱形状の孔であり、第2継手管12は、主弁ポート1Bを介して主弁室1Aに導通される。なお、本実施形態では、主弁座1Bは、弁ハウジング1に一体的に形成されているが、主弁ポートを有する弁座部材を弁ハウジングとは別体に設け、弁座部材を弁ハウジングに組み付ける形態としてもよい。
【0015】
弁ハウジング1の上端の開口部には、ガイド部材2が取り付けられている。ガイド部材2は、弁ハウジング1の内周面内に嵌合される嵌合部21と、嵌合部21の内側に位置して軸線Lを中心とする略円柱状のガイド部22と、ガイド部22の上部に延設されたホルダ部23と、ホルダ部23の上方に設けられたストッパ部24と、嵌合部21の外周に突出する金属板からなるリング状の固定金具25とを有している。嵌合部21、上部ガイド部22、ホルダ部23およびストッパ部24は、樹脂製の一体品として構成されており、固定金具25は、インサート成形により樹脂製の嵌合部21と一体に設けられている。なお、ガイド部材2の嵌合部21を弁ハウジング1に対して圧入してもよい。
【0016】
ガイド部材2は、嵌合部21により弁ハウジング1に組み付けられ、固定金具25を介して弁ハウジング1の上端部に溶接を用いて固定されている。また、ガイド部材2において、嵌合部21とガイド部22の内側には、軸線Lと同軸の円筒形状のガイド孔2Aが形成される。また、ホルダ部23の中心には、ガイド孔2Aと同軸であり、後述するロータ軸51を進退案内する挿通孔2Bが形成されている。ストッパ部24の中心には、ガイド孔2Aおよび挿通孔2Bと同軸であり、ロータ軸51の後述する雄ねじ部51Aと螺合する雌ねじ部2Cが形成されている。そして、ガイド孔2A内には主弁体3が配設され、主弁体3がガイド孔2Aによって軸線L方向に進退案内される。
【0017】
主弁体3は、主弁座13に対して着座および離座する主弁部31と、主弁体3の側壁であって副弁体4を保持する保持部32と、を有して構成されている。主弁部31の内側には円柱状の開口3Aが形成される。保持部32の内側には、円柱状の副弁室3Bが形成され、この副弁室3Bの内側には、後述する消音部材37を主弁体3内に保持する保持部材3Cが設けられている。そして、主弁部31と保持部32との間には、軸線Lを中心として副弁室3Bから開口3A側に開口する円柱状の副弁ポート3Dが形成されている。
【0018】
主弁体3の保持部32の側面には、軸線Lと交差する方向で主弁室1Aに向かって開口した連通路3Eが形成されている。図3(A)に示すように、軸線L周りに回転対称な位置に複数本(例えば8本)の連通路3Eが放射状に形成されている。主弁体3は、保持部32の上端部にリテーナ33を有する。また、主弁体3は、リテーナ33とガイド部材2のガイド孔2Aの上端部との間に主弁ばね34を有している。主弁体3は、主弁ばね34により主弁座13の方向(閉方向)に付勢されている。なお、主弁部31の開口3Aの内側には、後述する消音部材35が配設されている。また、連通路3Eは、回転対称な位置に放射状に複数本形成される形態に限らず、連通路3Eの数を一個としたり、不等間隔に複数本形成したりしてもよい。
【0019】
副弁体4は、ロータ軸51の下端部に一体に設けられている。この副弁体4はガイド用ボス部41とニードル弁42とを有して構成されている。また、副弁体4のニードル弁42は、その先端が副弁ポート3D対して軸線L方向に挿通されるものであり、ニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間を小流量の冷媒が流れることにより小流量制御が行われる。ガイド用ボス部41の上端には、潤滑性樹脂製の円環状をなすワッシャ43が配設され、ガイド用ボス部41は、保持部材3C内に挿通されている。そして、このガイド用ボス部41の外周面が保持部材3Cの内周面に摺接して案内されるようになっている。なお、副弁体4と、ロータ軸51と、をそれぞれ別体で形成し、それらを組み付けてもよい。
【0020】
弁ハウジング1の上端には、ケース14が溶接等によって気密に固定され、このケース14の内外に駆動部5が構成されている。駆動部5は、ステッピングモータ5Aと、ステッピングモータ5Aの回転により副弁体4を進退させるねじ送り機構5Bと、ステッピングモータ5Aの回転を規制するストッパ機構5Cと、を備えている。
【0021】
ステッピングモータ5Aは、ロータ軸51と、ケース14の内部に回転可能に配設されたマグネットロータ52と、ケース14の外周においてマグネットロータ52に対して対向配置されたステータコイル(不図示)と、その他、ヨークや外装部材等と、により構成されている。ロータ軸51は、ブッシュを介してマグネットロータ52の中心に取り付けられ、このロータ軸51の上部の外周には、雄ねじ部51Aが形成されている。雄ねじ部51Aは、ガイド部材2の雌ねじ部2Cに螺合されている。これにより、ガイド部材2は、ロータ軸51を軸線L上に支持している。そして、ガイド部材2の雌ねじ部2Cおよびロータ軸51の雄ねじ部51Aは、ねじ送り機構5Bを構成している。
【0022】
ガイド部材2のストッパ部24の外周面には、雄ねじ状のガイド溝24Aが形成されている。ガイド溝24Aには、スライダ53が設けられている。スライダ53は、マグネットロータ52に当接し、マグネットロータ52の回転に伴いガイド溝24Aに沿って回転かつ上下動する。そして、スライダ53は、ガイド溝24Aの上端または下端に当接することで、マグネットロータ52の回転を規制するストッパ機構5Cを構成している。このストッパ機構5Cにより、ロータ軸51とマグネットロータ52との最下端位置および最上端位置が規制される。
【0023】
以上の構成により、ステッピングモータ5Aが駆動されると、マグネットロータ52およびロータ軸51が回転し、雄ねじ部51Aと雌ねじ部2Cとのねじ送り機構5Bにより、マグネットロータ52とともにロータ軸51が軸線L方向に移動する。そして、副弁体4が軸線L方向に進退移動し、副弁体4のニードル弁42が副弁ポート3Dに対して近接または離間する。また、副弁体4が上昇するとき、ワッシャ43が主弁体3のリテーナ33に係合し(副弁上端位置)、主弁体3が副弁体4とともに移動して、主弁体3の主弁部31が主弁座13から離座する。これにより、主弁ポート1Bが全開となって大流量域状態となる。
【0024】
図2および図3に示すように、主弁体3の副弁ポート3Dの周囲には、軸線Lを中心とした副弁座36が形成されている。副弁座36は円筒状に形成され、開口3Aから上方に立ち上がって設けられている。副弁座36の外周側には、副弁座36の上面よりも下方に凹んだ溝状の環状空間3Fが形成されている。環状空間3Fは、連通路3Eの径方向内側かつ上方に位置して軸線L回りに環状に連続するとともに、上方に開口して形成されている。環状空間3Fは、図3(A)に示すように、環状の流路断面積を有している。そして、環状空間3Fは、8本の連通路3Eの流路断面積の合計よりも大きな流路断面積を備えている。また、後述するように環状空間3Fにて流体を確実に減速させるため、環状空間3Fの高さは、連通路3Eの半径以上の大きさにすることが好ましい。環状空間3Fの上側には、消音部材37が設けられ、環状空間3Fの上部開口が消音部材37によって覆われている。
【0025】
ここで、一般的に消音部材は、金属の焼結、積層線材、線材の成形品による多孔体で構成されることが主となる。しかしながら、消音部材を金属材料によって構成した場合、次のような問題点が懸念される。すなわち、流体通過時の壊食や配管内における不純物由来の腐食や、電動弁が湿度環境や塩害環境にて単品で放置された場合による消音部材の腐食、または、消音部材が剥離した際の硬い金属異物が弁部に噛み込まれて詰まりを生じる等の問題点が挙げられる。
【0026】
そこで、本実施形態の電動弁10では、消音部材35,37をメッシュ状または多孔質の樹脂材料によって形成するようにした。樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂:Poly Tetra Fluoro Ethylene)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂:Poly Phenylene Sulfide Resin)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂:PolyEthylene(米国)、Poly Ethene(英国))、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂:Poly Propylene)等の耐薬品性に優れたものが好ましく、樹脂焼結(ポーラス状)、多層不織布、メンブレン等の構成であることが望ましい。また、本実施形態の電動弁10では、消音部材35が全体として円柱状に形成されており、消音部材37が全体として環状に形成されている。
【0027】
保持部材3Cは、全体略円筒状に形成され、その上端部にて径方向外側に突出して主弁体3の内周面に嵌合する嵌合部38Aと、主弁体3の内周面に沿って延び副弁体4を軸線L方向に案内する円筒状の案内部38Bと、案内部38Bの下端部から径方向内側に延びる底部38Cと、底部38Cの径方向内側から下方に延びる円筒状の延出部38Dと、を備えている。保持部材3Cは、嵌合部38Aが主弁体3の内周面に嵌合することで固定され、底部38Cによって消音部材37を保持している。また、延出部38Dの下端と副弁座36の上面との間には、狭い隙間が形成され、この隙間によって、環状空間3Fよりも流路断面積が小さい絞り通路3Gが構成されている。
【0028】
図2および図3に示す電動弁10の小流量制御域状態では、主弁体3は主弁座13に着座した状態で主弁ポート1Bが弁閉となり、副弁体4のニードル弁42により副弁ポート3Dの開度が制御され、小流量の制御が行われる。このとき、第1継手管11から主弁室1A内に流入した冷媒は、図3(A),(B)に示すように、連通路3Eから環状空間3Fに入り、環状空間3Fにて旋回した後に、軸線L方向上方に屈曲してから消音部材37を通過する。さらに、冷媒は、図3(C)に示すように、消音部材37を通過しつつ径方向内方に屈曲し、絞り通路3Gを通過してから副弁室3Bに入り、副弁室3Bからニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間で絞られる。
【0029】
図4図7は、それぞれ本実施形態の電動弁10における変形例1~4を示す拡大断面図である。これらの変形例1~4で前述の実施形態と異なる点は、保持部材3Cの形態と冷媒の流路である。
【0030】
図4に示す変形例1の保持部材3Cは、延出部38Dの下端が副弁座36の上面に当接して設けられ、延出部38Dの中間に設けられた貫通孔によって、環状空間3Fよりも流路断面積(の合計)が小さい絞り通路3Gが構成されている。この変形例1では、前述と同様に、消音部材37を通過した冷媒が貫通孔である絞り通路3Gを通過してから副弁室3Bに入る。
【0031】
図5に示す変形例2の保持部材3Cは、延出部38Dの下端が副弁座36の上面に当接して設けられ、底部38Cに設けられた貫通孔によって、環状空間3Fよりも流路断面積(の合計)が小さい絞り通路3Gが構成されている。この変形例2では、消音部材37を通過した冷媒が上方に流れ、貫通孔である絞り通路3Gを軸線L方向に通過してから副弁室3Bに入り、副弁室3B内で径方向内方に屈曲してから副弁ポート3Dに流れる。
【0032】
図6に示す変形例3の保持部材3Cは、底部38Cおよび延出部38Dを備えず、案内部38Bの下端を消音部材37に当接させて保持している。また、副弁室3Bには、環状空間3Fよりも容積が拡大された拡大空間3Hが設けられている。この変形例3では、消音部材37を通過した冷媒が拡大空間3Hに入り、拡大空間3H内で径方向内方に屈曲してから副弁ポート3Dに流れる。
【0033】
図7に示す変形例4の保持部材3Cは、延出部38Dの下端が副弁座36の上面に当接して設けられ、案内部38Bに第二連通路としての貫通孔38Eが設けられている。この変形例4では、消音部材37を通過した冷媒が径方向外側に屈曲し、主弁体3の内周面と案内部38Bとの隙間を上方に流れ、貫通孔38Eを径方向に通過してから副弁室3Bに入る。すなわち、環状空間3Fと副弁室3Bとの間には、径方向外側に屈曲しさらに軸線L方向に屈曲した屈曲路3Jが設けられている。なお、屈曲路3Jの流路断面積は、環状空間3Fの流路断面積よりも小さくなっている。
【0034】
以上の本実施形態によれば、仮に主弁室1A内の冷媒が、気相の冷媒に液相の冷媒が混入した状態であっても、この冷媒は環状空間3Fを通ることで減速され、さらに消音部材37を通過し、さらに絞り通路3Gや拡大空間3H、屈曲路3Jを通ってから副弁室3Bに入ることで安定化される。従って、副弁室3Bでの冷媒の状態が安定化され、ニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間を通過するときの冷媒通過音が低減され、この電動弁10の騒音や振動の発生を抑制することができる。
【0035】
そして、本実施形態によれば、前述した消音効果に加え、消音部材35,37が樹脂製であるため、錆の発生を防止できる上、素材の硬度が低いことから、消音部材35,37が剥離した際の弁部(副弁ポート3Dの副弁座36と副弁体4のニードル弁42との間)に対する剥離異物の攻撃性を低減でき、これらに起因した腐食を抑制できる。加えて、消音部材35,37が樹脂製であるため、形状の自由度が高いとともに、樹脂成形によって多量に製造できる。また、樹脂材料は、金属に比して制振性に優れるため、振動の影響に有利であり、良好な作動性の維持が可能となる。
【0036】
図8は、本発明の第2実施形態の電動弁の要部を示す拡大断面図である。この第2実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点は、保持部材3Cの形態と消音部材37の位置である。図8に示すように、保持部材3Cは、嵌合部38Aと、案内部38Bと、底部38Cと、底部38Cの中間部から下方に延びる円筒状の延出部38Dと、を備えている。延出部38Dの下端は、副弁座36の上面に当接して設けられ、延出部38Dの中間に設けられた貫通孔38Eによって、環状空間3Fよりも流路断面積(の合計)が小さい絞り通路が構成されている。消音部材37は、延出部38Dよりも径方向内側に設けられ、保持部材3Cの底部38Cと副弁座36の上面との間に保持されている。
【0037】
このような電動弁では、主弁室1A内に流入した冷媒は、図8に示すように、連通路3Eから環状空間3Fに入り、環状空間3Fにて旋回した後に、軸線L方向上方に屈曲してから径方向内方に屈曲し、貫通孔38Eを通過してから消音部材37を通過する。消音部材37を通過した冷媒は、副弁室3Bに入り、副弁室3Bからニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間で絞られる。
【0038】
図9図11は、それぞれ本実施形態の電動弁10における変形例5~7を示す拡大断面図である。これらの変形例5~7で第2実施形態と異なる点は、保持部材3Cの形態と、環状空間3Fからの冷媒を絞る絞り部材39を備えた点である。絞り部材39は、環状空間3Fの上部開口を覆うように設けられた板状の部材であって、周方向の複数箇所に上下に貫通する貫通孔39Aが形成されている。すなわち、貫通孔39Aによって、環状空間3Fよりも流路断面積(の合計)が小さい絞り通路が構成されている。これらの貫通孔39Aは、連通路3Eと同じ数で周方向の同じ位置に設けられていてもよいし、連通路3Eと周方向にずれた位置に設けられていてもよい。消音部材37は、保持部材3Cと絞り部材39の上面との間に保持されている。すなわち、絞り部材39は、消音部材37の環状空間3F側に設けられる第一固定部材としても機能し、貫通孔39Aによって第一貫通孔が構成されている。
【0039】
図9に示す変形例5の保持部材3Cは、底部38Cを有し、底部38Cが消音部材37の上面に当接し、消音部材37の下面が絞り部材39の上面に当接している。すなわち、底部38Cは、消音部材37を介して絞り部材39を環状空間3Fの上部開口の周縁に向けて押圧している。この変形例5では、環状空間3Fからの冷媒は、貫通孔39Aで絞られてから消音部材37に入り、消音部材37内で径方向内方に屈曲して通過してから副弁室3Bに入る。図10に示す変形例6の保持部材3Cは、底部38Cを有さず、案内部38Bの下端が消音部材37の上面に当接し、消音部材37の下面が絞り部材39の上面に当接している。すなわち、案内部38Bは、その下端において消音部材37を介して絞り部材39を環状空間3Fの上部開口の周縁に向けて押圧している。この変形例6では、環状空間3Fからの冷媒は、貫通孔39Aで絞られてから消音部材37に入り、消音部材37を上方に通過してから副弁室3Bに入る。図11に示す変形例7では、図9の場合と比較して消音部材37の高さ寸法(体積)が大きくなっており、消音部材37内部で冷媒が減速されるようになっている。
【0040】
図12および図13は、それぞれ本実施形態の電動弁10における変形例8、9を示す拡大断面図である。これらの変形例8、9では、消音部材37を保持する固定部材60を備えた点が上述の形態と相違し、上述のワッシャ43が省略されるとともにリテーナ33によって保持部材3Cが主弁体3の保持部32内に固定されている。固定部材60は、主弁体3の内部において、環状空間3F側に設けられる第一固定部材61と、消音部材37を挟んで第一固定部材61の反対側に設けられる第二固定部材62と、を有している。固定部材60は、第一固定部材61と第二固定部材62とによって軸線L方向両側から消音部材37を挟むとともに、主弁体3内に圧入された保持部材3Cによって第二固定部材62が軸線L方向下方に押圧されることで消音部材37を保持する。
【0041】
第一固定部材61は、平面視で円環状に形成されるとともに、消音部材37の底面に当接するとともに環状空間3Fの上部開口を覆う底部61Aと、消音部材37の径方向内側の側面に対向して当接する壁部61Bと、を有して断面略L字形に形成されている。第一固定部材61の底部61Aには、環状空間3Fに連通する第一貫通孔61Cが周方向に沿って複数箇所に設けられている。これらの第一貫通孔61Cは、環状空間3Fからの冷媒を絞る絞り通路として機能するものであり、連通路3Eと同じ数で周方向の同じ位置に設けられていてもよいし、連通路3Eと周方向にずれた位置に設けられていてもよい。また、第一固定部材61および第二固定部材62の少なくとも一方は弾性部材であり、この変形例8、9では、第二固定部材62が弾性部材であり、保持部材3Cに押圧されることで軸線L方向に弾性変形して潰されつつ消音部材37に押し付けられている。
【0042】
図12に示す変形例8の第二固定部材62の径方向の幅寸法は、消音部材37の径方向の幅寸法よりも小さく形成され、消音部材37の外周側の上面に当接している。消音部材37の内周側の上面は覆われておらず、環状空間3Fからの冷媒は、第一貫通孔61Cで絞られてから消音部材37に入り、消音部材37内を上昇して第二固定部材62よりも内周側から副弁室3Bに入り、副弁室3B内で径方向内方に屈曲する。図13に示す変形例9の第二固定部材62は、消音部材37の上面の略全面に当接して設けられるとともに、副弁室3Bに連通する第二貫通孔62Aが設けられている。また、第一固定部材61の壁部61Bの高さ寸法は、消音部材37の高さ寸法よりも小さく形成され、壁部61Bの先端部(上端部)よりも上の消音部材37の側面が露出されており、壁部61Bの上端部と第二固定部材62の径方向内端部との間には隙間が設けられている。この変形例9では、環状空間3Fからの冷媒は、第一貫通孔61Cで絞られてから消音部材37に入り、消音部材37を上方に通過してから再び第二貫通孔62Aで絞られてから副弁室3Bに入る。また、消音部材37を通過した一部の冷媒は、第一固定部材61の壁部61Bの上端部と第二固定部材62の径方向内端部との隙間から副弁室3Bに入ることもある。
【0043】
以上の変形例8、9によれば、消音部材37が固定部材60の第一固定部材61と第二固定部材62とによって挟まれて保持されていることで、消音部材37の保持性を高めることができる。また、第一固定部材61の壁部61Bが消音部材37の径方向内側の側面に当接することで、消音部材37の径方向の保持性も高めることができる。特に、変形例9のように、消音部材37を上方に通過して第二貫通孔62Aを介して副弁室3Bに入る流路と、壁部61Bを径方向に通過して(すなわち、壁部61Bの上端部と第二固定部材62との隙間を介して)副弁3Bに入る流路に流路とに分岐させることで冷媒を分散させることで静音性を向上させることができる。さらに、第一貫通孔61Cが環状空間3Fよりも流路断面積(の合計)が小さい絞り通路として機能することで、副弁室3Bでの冷媒の状態が安定化される。また、第一固定部材61および第二固定部材62の少なくとも一方が弾性部材で構成されることで、消音部材37を軸線L方向に押圧して保持することができ、消音部材37の保持性をより一層高めることができる。
【0044】
以上の本実施形態によっても、冷媒は環状空間3Fを通ることで減速され、さらに貫通孔38E,39Aや第一貫通孔61Cで絞られてから消音部材37を通過した後に、副弁室3Bに入ることで安定化される。さらに、変形例9のように、消音部材37を通過した冷媒は、第二固定部材62の第二貫通孔62Aや、第一固定部材61の壁部61Bの上端部と第二固定部材62との隙間で絞られてから副弁室3Bに入ることで安定化される。従って、副弁室3Bでの冷媒の状態が安定化され、ニードル弁42と副弁ポート3Dとの隙間を通過するときの冷媒通過音が低減され、この電動弁10の騒音や振動の発生を抑制することができる。しかも、消音部材35,37が前述したように樹脂製であるため、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0045】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。また、本発明の電動弁は、家庭用エアコンや業務用エアコン等の空気調和機に用いられてもよいし、空気調和機に限らず、各種の冷凍機等にも適用可能である。
【0046】
前記実施形態の電動弁10では、主弁体3に副弁座36および副弁ポート3Dを一体に形成したが、これに限らず、副弁ポートを有する弁座部材を主弁体とは別体に設け、弁座部材を主弁体に組み付ける形態としてもよい。
【0047】
また、前記実施形態の電動弁10では、主弁体3の内部に保持部材3Cが設けられ、この保持部材3Cによって副弁体4を案内するとともに、保持部材3Cによって消音部材37を保持するものとしたが、これに限らず、保持部材3Cから副弁体4を案内する案内部38Bを廃し、主弁体の内周面によって副弁体を案内するようにしてもよい。さらに、消音部材37を保持する保持部材としては、ワッシャ状の部材で構成されていてもよい。
【0048】
また、前記実施形態の電動弁10の駆動部5は、ステッピングモータ5Aと、ねじ送り機構5Bと、ストッパ機構5Cと、を備えていたが、これら各部の構成は前記実施形態のものに限らず、任意の形式の機構を採用することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 弁ハウジング(弁本体)
1A 主弁室
1B 主弁ポート
2 ガイド部材
3 主弁体
3B 副弁室
3C 保持部材
3D 副弁ポート
3E 連通路
3F 環状空間
3G 絞り通路
3H 拡大空間
3J 屈曲路
4 副弁体
37 消音部材
38E 貫通孔(絞り通路、第二連通路)
39 絞り部材(第一固定部材)
39A 貫通孔(絞り通路、第一貫通孔)
42 ニードル弁
60 固定部材
61 第一固定部材
61A 底部
61B 壁部
61C 第一貫通孔(絞り通路)
62 第二固定部材
62A 第二貫通孔(絞り通路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13