(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180629
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】カチオン交換樹脂を含む創傷封止粉末
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20241219BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241219BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241219BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K33/26
A61P17/02
A61K9/14
A61K47/30
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024182067
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2021547563の分割
【原出願日】2020-02-12
(31)【優先権主張番号】16/274,406
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521358109
【氏名又は名称】バイオライフ、エル.エル.シー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァデルンド、カート
(72)【発明者】
【氏名】キーン、タルマッジ ケリー
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィ、マーク
(57)【要約】
【課題】創傷封止粉末、創傷封止粉末を作製する方法及び創傷封止粉末を使用して創傷からの血流を低減させる方法を提供する。
【解決手段】創傷封止粉末は、有効量の不溶性カチオン交換材料の粒子状粉末材料を利用し、粉末中の粒子の大部分は、およそ48ミクロン未満の粒径を有する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になる粒子状粉末を含み、前記粉末中の粒子の粒径分布範囲が160ミクロン以下である、創傷封止組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、2019年2月13日出願の米国仮特許出願第16/274,406号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、概して、出血を阻止する局所適用止血創傷封止粉末、及びそのような創傷封止粉末を調製し、使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
止血剤は先行技術で周知である。例えば、それを参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるPattersonらの米国特許第6,187,347号は、(1)血液の存在下で水和してFe+++を生成して、凝血させ、酸素を生成する実質的に無水の鉄酸塩の化合物を準備すること、及び(2)この化合物を、血流を阻止し、微生物集団を低減させ、創傷上に保護被覆を形成するのに十分な時間にわたって創傷に適用することにより、創傷からの出血を阻止する自由流動粉末を開示している。一実施例では、カチオン交換材料を鉄酸塩と混合して、創傷上に保護のための保護被覆をもたらす。鉄酸塩は酸素を与えて、創傷部位における細菌、ウイルス及び真菌のレベルを実質的に低減させる。鉄酸塩と酸カチオン交換樹脂の組合せにより、鉄カチオンが血液と共有結合的に相互作用することが可能になる形態のFe+++が生成され、凝固が生じ、創傷上に抗微生物特性を有する保護痂皮が作られる。
【0004】
粉末以外の止血剤も先行技術で公知である。例えば、それを参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるHenらの米国特許第8,961,479号は、鉄酸カリウム及びカチオンイオン交換樹脂(水素樹脂と称されることもある)を含みうる止血粉末から作製された錠剤を開示している。粉末は、出血創傷送達用錠剤へと加圧形成される。錠剤は、散布される止血粉末の薄層のものと比較して、出血創傷表面への接着速度が向上し、錠剤を手で創傷部位に圧縮することにより、顕著により大きくより均一な圧力を加えることが可能になる。血液又は滲出液が錠剤の直接接触表面と相互作用し封止物が形成されると、未使用の錠剤の塊が封止物から容易に剥離するため、除去が容易になる。錠剤の未使用部分が創傷部位から取り除かれない場合、止血ドレッシングのリザーバによって更なる出血が止められる。錠剤は任意の表面配向に適用することができ、任意の可能な形状及び厚さをとることができる。公知の止血粉末と異なり、錠剤は垂直な表面に適用することができる。
【0005】
Pattersonによって開示された創傷封止粉末の作製では、カチオン交換樹脂を洗浄された水素形態で準備し、およそ110℃で24時間乾燥させ、その後粉砕機で約100メッシュサイズに粉末化する。100メッシュの粉末粒子は、直径149ミクロン(又は0.149mm)である。
【0006】
WoundSeal(登録商標)局所粉末は、創傷からの出血を阻止するための市販の(2018年)創傷封止製品である。現行のWoundSeal(登録商標)創傷封止粉末は、親水性ポリマー(上記で言及された水素樹脂など)及び鉄酸カリウムからなる。WoundSeal(登録商標)の使用には、粉末が作用するために血液が存在しなければならないため、まず創傷を清潔にし、出血再開後に粉末を創傷上に注ぐ。
【0007】
2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)の作製工程を表すフローチャートを
図4に示し、以下に記載する。水素樹脂は、2%の架橋スルホン化ポリスチレン樹脂の水素形態であってもよい。水素樹脂は、平均粒径が直径およそ500ミクロン(本明細書の目的では、1つ又は複数の粒子に関する「直径」及び「粒径」は同義である)の、完全な不溶性の概して円形のビーズとして入手可能であるか、又は代替的に、樹脂は、サイズが平均で直径80ミクロン~200ミクロンのより微細な断片として入手可能であるか、又は断片へと粉砕されてもよい。
【0008】
水素樹脂(ペンシルベニア州Bala CynwydのPurolite Corporationから入手可能なPurolite CT122が好適なそのような樹脂である)を、最初に例えばおよそ100℃~110℃の温度のオーブンで、周囲湿度に応じて平均12.5日間乾燥させる。樹脂の乾燥の目標は、3%以下の水分含有量、典型的にはおよそ1%の水分含有量を達成することである。乾燥プロセスの間、樹脂からの水分子の脱水のために、樹脂の粒径は典型的に低減する。樹脂を乾燥することにより、樹脂がプロトンを輸送又は交換する能力が低減するため、乾燥樹脂は一般的に不活性になる。樹脂が別の乾燥プロトン受容体と混合される場合、樹脂をある程度まで乾燥する必要がある。
【0009】
鉄酸塩は購入されてもよく、又は酸化鉄を酸化剤と混合し、その後鉄酸塩ケーキが生成されるまで加熱することによって生成されてもよい。鉄酸塩ケーキを使用する場合、典型的には手動で又は公知の機械によってケーキを小片へと分解し、その後ナイフ粉砕機又は他の公知の好適なデバイスを使用してケーキを分解する。典型的な例では、2mmふるいを有するナイフ粉砕機が使用されてもよい。この分解プロセスにより、直径2mm以下の粒径の鉄酸塩が得られる。
【0010】
WoundSeal(登録商標)局所粉末は、典型的に鉄酸塩カリウム:水素樹脂のおよそ1:7重量混合物から作製されるが、特定の用途に応じて1:3~1:12の範囲の重量混合物が十分に出血を阻止する。一実施例では、鉄酸塩(分解後)及び樹脂(乾燥後)を混合してターボミルで粉砕する。このターボミルは、粉砕チャンバ内に備えられた高速ローターとふるいを利用する、ローターとふるいの衝突によって粒径を低減させるローターミル式粉砕機である。粒径は、ローターの速度及びふるいの目開きのサイズによって制御される。未粉砕ビーズのサイズ及び粉砕ふるいの目開きのサイズに基づき、未粉砕(完全な)ビーズの画分が粉砕プロセスを通過し、典型的に粉砕後のふるい分けプロセスは行われない。
【0011】
ターボミルでは、ミルに継続的に供給が行われ、制御ふるいを通過した粒子がミルから継続的に流れ出る。この実施例で使用されるふるいは1mmふるいであり、ミルを20~25kg/時間の生成速度で操作することによりWoundSeal(登録商標)局所粉末が得られる。生成後、粉末を販売用の消費者向け包装に包装できるまで、再水和を防止するために粉末をプラスチックタブなどの密閉容器内に保管する。
【0012】
WoundSeal(登録商標)は信頼性のある止血製品であるが、使用者は製品に特定の改善の必要性を示している。まず、使用者は製品の色があまり望ましいものではないと認識しており、多くの場合「汚く」見える又は土の色であると述べている。この色は、特定の皮膚の色彩と大きく異なり、使用時に目立つ。第二に、使用者は、角度のついた又はほぼ垂直な皮膚表面への接着を達成するのが困難であると認識している。粉末は、患者の創傷がほぼ水平な位置にある場合などに水平表面に容易に適用される。樹脂の未粉砕部分(残存する概して円形のビーズ)により、粉末は完全に水平な表面に比較的均等に広がる。しかし、粉末が患者の顔若しくは首領域などのより垂直な表面に、又は患者の腕などの湾曲した若しくは不規則な表面に適用される場合、粉末状の2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)粉末は転がり落ちやすい。粉末の一部は落ちる際に無駄になり、他の粒子への密着又はより垂直若しくは曲線状の皮膚表面との接着を達成することができない。
【0013】
したがって、消費者にとってより許容可能な色を呈し、且つ無駄の低減、身体のより垂直な表面への粉末の接着の増加、及び粉末の密着性の増強を可能にする有効な創傷封止粉末を有する必要性が存在する。本発明は、これらの長年の必要性を満たすことを試みる。
【0014】
前述の関連技術の例及びそれに関する制限は例示を目的とし、排他的ではない。本明細書を読み図面を検討することにより、当業者には関連技術の他の制限が明らかになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,187,347号
【特許文献2】米国特許第8,961,479号
【特許文献3】米国特許出願第14/147,143号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
簡潔に述べると、本発明は、一実施例では、創傷封止粉末として有用な組成物であって、有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の粒径分布範囲が160ミクロン以下である組成物を対象とする。
【0017】
別の実施例では、本発明は、有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の大部分がおよそ48ミクロン未満の粒径を有する創傷封止組成物を対象とする。
【0018】
別の実施例では、本発明は、有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末が158ミクロン以上の粒径を有する粒子を本質的に含有しない創傷封止組成物を対象とする。
【0019】
別の実施例では、本発明は、創傷封止組成物用の粒子状粉末を作製する方法であって、粉末が、有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になり、粉末が158ミクロン以上の粒径を有する粒子を本質的に含有せず、方法が、不溶性カチオン交換材料をおよそ3%以下の水分含有量まで乾燥する工程、平均粒径が2mm以下である実質的に無水の鉄酸塩化合物とカチオン交換材料を、およそ1対2の鉄酸塩対カチオン交換材料の重量比で混合する工程、平均粒径が約70未満の乾燥されたカチオン交換材料を準備する工程、混合された1:2の鉄酸塩:カチオン交換材料を、約70ミクロン未満の平均粒径を有する乾燥されたカチオン交換材料とブレンドして、鉄酸塩対カチオン交換材料のおよそ1対7重量混合物を得る工程を含む、方法を対象とする。
【0020】
また別の実施例では、本発明は、流血創傷を有する患者の創傷からの血流を阻止又は低減させる方法であって、有効量の不溶性カチオン交換材料と組み合わされた実質的に無水の鉄酸塩化合物から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の大部分がおよそ48ミクロン未満の粒径を有する創傷封止組成物を適用する工程、及び創傷からの血流が低減するように、創傷上に封止物を形成させる工程を含む、方法を対象とする。
【0021】
別の実施例では、本発明は、粉砕された不溶性カチオン交換材料から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の粒径分布範囲が160ミクロン以下である創傷封止組成物を対象とする。更に別の実施例では、本発明は、粉砕された不溶性カチオン交換材料から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の大部分がおよそ48ミクロン未満の粒径を有する創傷封止組成物を対象とする。
【0022】
また別の実施例では、本発明は、不溶性カチオン交換材料から本質的になる粒子状粉末を含み、粉末中の粒子の粒径分布範囲が160ミクロン以下であり、粉末の水分含有量が20%以下である創傷封止組成物を対象とする。更に別の実施例では、本発明は、粉砕された不溶性カチオン交換材料から本質的になる粒子状粉末であって、粉末中の粒子の大部分がおよそ48ミクロン未満の粒径を有し、粉末の水分含有量が20%以下である粒子状粉末を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】本発明の粉末粒子の安息角を示す図である。
【
図2】本発明の創傷封止粉末(「本発明の方法」)の粒径分布対2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)(「WS」)及び2種の試験粉末(試験#1、試験#2)の粒径分布を表の形式で示す図である。
【
図3】
図2の同じ粒径分布を別のグラフの形式で示す図である(「BP03 1.0mm」は2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)であり、「BP03 0.35mm」及び「BP03 0.25mm」は試験#1及び試験#2であり、「BP08 方法」は本発明の創傷封止粉末である)。
【
図4】2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)の作製プロセスをフローチャートの形式で示す図である。
【
図5】本発明の創傷封止粉末の作製プロセスをフローチャートの形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここで、その1つ又は複数の実例が以下に記載される本発明の実施例を詳細に参照する。各実例は、本発明の説明として提供され、本発明を限定するものではない。実際、当業者には、本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、本発明に種々の改変及び変更を加えることができることが明らかである。例えば、一実施例の一部として例示又は記載される特色を別の実施例で使用し、また更なる実施例を生み出すことができる。以下の実施例及びその態様は、例証及び例示を意図し、範囲の限定ではないシステム、道具及び方法と併せて記載され例示される。種々の実施例では、上述の課題の1つ又は複数が軽減される又は除かれ、一方で別の実施例は、他の改善に関する。
【0025】
したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内に入るそのような改変及び変更を包含することが意図される。本発明の他の目的、特色及び態様は、以下の詳細な説明に開示されるか、又はそれから明白である。当業者であれば、本発明の考察は単に例証的実施例の説明であり、本発明のより広範な態様を限定するものではないことを理解する。
【0026】
本明細書に記載される実例及び実施例は、単に例示を目的とし、それに照らした種々の改変又は変更が当業者に提案され、且つ本出願の精神及び範囲並びに添付の特許請求の範囲内に包含されることが理解されるべきである。更に、本明細書に開示される任意の発明又はその実施例の任意の要素又は限定は、任意の及び/若しくは全ての他の要素若しくは限定(個々に又は任意の組合せで)又は本明細書に開示される任意の他の発明若しくはその実施例と組み合わされてもよく、全てのそのような組合せは、それを限定することなく本発明の範囲によって考えられる。
【0027】
イオン交換樹脂は、典型的に高圧液体クロマトグラフィーで10ミクロン未満、摂取可能薬物送達樹脂で40~250ミクロン、及び一部の産業用途で300~1200ミクロンの範囲の粒径を有する球体として典型的に調製される。これらのサイズは、全ての樹脂の大半が完全水和状態で使用されるため、完全水和サイズである。製造されたままの樹脂は、ガウス分布を有する平均サイズ(直径)を有し、ビーズサイズの変動は製造プロセスに基づく。樹脂は、用途に適合する適正なサイズが得られるように、その後粉砕及び/又は分画ふるい分けによって更にサイズ調整されてもよい。薬物送達システムでは、一貫した送達を確保するために狭いガウス分布を有する同様のサイズが必要とされる。イオン交換樹脂床を使用する産業用液体処理用途では、サイズ分布が広すぎるとビーズの積層に影響が及び、床中の流動特性が妨げられ、イオン交換樹脂カラム全体に大きな圧力損失が生じる。圧力損失の増加は、より小さい粒子がより大きな粒子間の空間に入り込むことができ、それにより液体の流動が妨げられるために生じる。
【0028】
水素形態の乾燥強酸カチオン樹脂(以下SACR-H)が血液に適用されると、SACR-Hは血液表面に浮遊し、血液から液体を急速に吸収する。樹脂の細孔は、小さすぎて血液固形物又は大きなタンパク質を吸収することができない。血液固形物を除きながら液体を急速に吸収することにより、固形物がSACR-Hの下で積層する。これらの固形物は、形成されていた血球のバリアを通って液体がそれ以上移動できなくなるまで積層し続ける。このバリアが押されて表面と接触すると、乾燥した血液の天然の糊状の性質のために、表面に接着する。この表面が出血創傷である場合、バリアは創傷部位に接着し、更なる出血を止める。
【0029】
本質的に円形の乾燥SACR-Hビーズが出血部位に注がれると、血液に接触するビーズは血液に接着するが、更なるビーズは、特に創傷部位が水平に位置せず、起立状態の患者の首、胸又は頭部領域などより垂直である場合は、単に創傷部位から転がり落ちる。これは、創傷部位が腕、指又は爪先などの身体の湾曲部分にある場合にも観察される。そのような曲線状又はより垂直に位置する皮膚表面に接着できるビーズの単層は、吸収能があまり十分ではなく、多数回適用することなしに出血創傷を止めるには能力が低い。血液から十分な液体を吸収し、創傷からの出血を止めるのに十分な強度のバリアを作るには複数の層が必要とされうる。
【0030】
本発明者らは、創傷部位で粉末のより多くを接着させるこのような必要性を解決するために、樹脂をより小さな粒子に粉砕し、その結果粒子から粒子の摩擦接触面積(すなわち、粒子間の密着)が増加することにより、粉末が適用された際に安息角が増加する可能性があることを見出した。典型的に、本発明の粉末に残存する未粉砕の比較的円形のビーズの量は、最終粉末中5%以下である。これらの効果を
図1A及び拡大形態で1Bに示す。
【0031】
この安息角の増加により、適用の際に創傷部位から容易に落ちる材料の量を低減させながら、複数の粉末層が出血創傷上に留まることが可能になる。安息角の増加に加え、傾斜度の増加により、製品がより傾斜した又は湾曲した創傷表面により良好に接着することも可能になる。本発明の創傷封止粉末によって得られる安息角は、現在入手可能なWoundSeal(登録商標)粉末で典型的に見出される25°~30°の範囲の安息角に比べ、典型的に40°~50°の範囲である。新規に発明された粉末は、粒子間のより良好な密着と、患者又は創傷部位へのより良好な接着の両方を有する。
【0032】
SACR-Hは、塩酸のものと同様の負のpKaを有する(強酸であることを示す)。血液に適用されると、樹脂の骨格に付着した水素原子の一部分が中和されるが、樹脂の骨格上の残りの水素原子は抗菌特性を示す。積層特性のために、完全なビーズが適用され創傷の上の血液バリアに接着すると、より微細に粉砕されたSACR-H製品によって作られる緊密な間隔の閉塞と比べて細菌が侵入するのに十分大きな空間がビーズ間に生じる。
【0033】
しかし、過度に微細に粉砕される粉末は、適用された際に細かい塵雲を生じる可能性がある。更に、粒子が小さすぎると、肺吸入の問題ももたらす可能性がある。これらの特徴の一部を克服するために、特定の実施例では、更なる凝固剤又は創傷治癒剤がSACR-Hと組み合わされてもよい。
【0034】
粒子間の密着を増加させることによって全ての皮膚表面への粉末の接着を増加させるという長年の必要性を満たすために、適切な出発材料と適切な粉砕及びふるい分け法が利用される。「低すぎる」及び「高すぎる」画分又は粒径をふるい分けて排除することにより、本発明によって許容される粒径分布のより狭くより低い範囲が得られ、創傷に必要とされる接着性が与えられる。
【0035】
本発明では、止血粉末に使用されるSACR-Hは、約3%未満の水分含有量まで乾燥した(しかし、典型的な乾燥によって水分含有量はおよそ1%以下になる)後のサイズが150~1000ミクロンの範囲である球状ビーズとして供給業者から購入される。次に、乾燥したSACR-H樹脂ビーズを創傷上に分散するのに好適な粒径分布まで粉砕して、良好な接着をもたらし、適用の際に創傷に接着できず、単に皮膚表面から落ちる粉末の量を低減させる。
【0036】
別の長年の必要性に適合する、より小さな粒径分布を有するSACR-Hを使用する別の利益は、得られる粉末の色がより明るくなることである。典型的に暗琥珀褐色である2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)とは異なり、本発明の創傷封止粉末は、より淡黄褐色の、コーカサス人の皮膚の色により適合する色を呈する。より均一な淡黄褐色はより調和しており、「汚い褐色」粉末と知覚されないという点で、このより好ましい色は許容可能な製品として大きなマーケティング上の影響を及ぼす。より微細に粉砕された粉末は、化粧材料のものにより近い色及び質感を有する。
「実施例1」
【0037】
この実例では、2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)より良好な接着及び密着特性並びにより許容可能な均一な色を呈する創傷封止粉末を、
図5に記載されるフローチャートに示され、且つ以下に記載されるように作製する。
【0038】
利用することができる1種の水素樹脂は、ペンシルベニア州Bala CynwydのPurolite Corporationから入手可能なPurolite CT122である。しかし、当業者であれば、水素形態の他の親水性カチオン性樹脂が使用されてもよいことを理解する。一実施例で利用される特定の樹脂は、1)最大10%が1400ミクロンを超える、2)最大5%が850ミクロン未満である、且つ3)最大2%が425ミクロン未満である粒径分布を有し、一次粒径の範囲は850ミクロン~1400ミクロンである。
【0039】
まず、樹脂を、例えばおよそ100℃~110℃の温度のオーブンなどの静的乾燥器中平均12。5日間乾燥させる。乾燥時間の変動は、これらに限定されないが周囲湿度を含む乾燥条件に依存する場合がある。樹脂の乾燥の目標は、3%以下の水分含有量、典型的にはおよそ1%の水分含有量を達成することであり、この乾燥プロセスにより、樹脂は、再水和されるまで活性プロトン交換状態から比較的不活性なプロトン交換状態に変換される。乾燥プロセスの間、樹脂からの水分子の脱水のために、樹脂の粒径は典型的に低減する。
【0040】
鉄酸塩は購入されてもよく、又は酸化鉄を酸化剤と調合し、その後鉄酸塩ケーキが生成されるまで加熱することによって生成されてもよい。鉄酸塩ケーキを使用する場合、典型的には手動で又は公知の機械によってケーキを小片へと分解し、その後ナイフ粉砕機又は他の公知の好適なデバイスを使用してケーキを分解する。典型的な例では、2mmふるいのナイフ粉砕機が使用されてもよい。この分解プロセスにより、直径2mm以下の粒径の鉄酸塩が得られる。
【0041】
粉末混合プロセスの第1の工程は、ふるい分けされた鉄酸塩(2mmふるい)と乾燥樹脂を1:2の鉄酸塩:水素樹脂の比で混合することである。次に、この混合物を、0.25mmふるいを使用し、例えば20~25kg/時間の生成速度においてターボミル(上述)中で粉砕し、中間生成物を得ることができる。
【0042】
次の工程は、乾燥した水素樹脂のみを例えば20~25kg/時間の生成速度でアトライターミルで粉砕することである。ターボミルとは異なり、アトライターミルは、より小さくより軟質の材料を破砕するための回転撹拌アームによって撹拌される、より大きな硬質ステンレス鋼の球(例えば、直径9~10mm)を使用する撹拌ボールミルである。粉砕作用は、ステンレス鋼の球、撹拌アーム及び粉砕タンクの側面の衝突によって生じる。粒径は、撹拌アームの速度、粉砕媒体のサイズ及び粉砕時間によって制御される。1つの特定の実施例では、アトライターミルを使用し、乾燥した水素樹脂をおよそ40ミクロンの平均粒径まで粉砕する(しかし、当業者は、最大70ミクロンの平均粒径が本発明のために好適であることを認識する)。
【0043】
次に、この40ミクロンのサイズの乾燥した樹脂を1:2の鉄酸塩:水素樹脂混合物とブレンドして、鉄酸塩:水素樹脂のおよそ1:7重量混合物を得るが、特定の用途に応じて1:3~1:12の範囲の重量混合物が出血を十分に阻止する。ブレンド後、粉末を販売用の消費者向け包装に包装できるまで、再水和を防止するために粉末をプラスチックタブなどの密閉容器内に保管してもよい。
【0044】
図2(表の形式)は、本発明の創傷封止粉末(「本発明の方法」)の粒径分布対2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)(「WS」)及び2種の試験粉末(試験#1、試験#2)の粒径分布を示す図である。同様に、
図3(グラフの形式)は、
図2の同じ粒径分布を示す図である(「BP03 1.0mm」は2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)であり、「BP03 0.35mm」及び「BP03 0.25mm」は試験#1及び試験#2)であり、「BP08 方法」は本発明の創傷封止粉末である)。
【0045】
図2に示されるように、2018年及びそれ以前に存在したWoundSeal(登録商標)並びに市販されていない、且つこれまで開示されていない2種の試験創傷封止粉末を含む鉄酸塩と樹脂の混合物からなる創傷封止粉末は、1.0mmふるい(WoundSeal(登録商標)2018年バージョン)を利用した場合およそ100ミクロン~およそ700ミクロン、0.35mmふるい(試験#1)を利用した場合およそ60ミクロン~およそ700ミクロン、及び0.25mmふるい(試験#2)を利用した場合およそ60ミクロン~およそ200~300ミクロンの範囲の粒径分布を示した。一方、本発明の粉末及び方法では、およそ2ミクロン~158ミクロンの範囲の粒径分布が得られた。
【0046】
1.0mmふるい(WoundSeal(登録商標)2018年バージョン)又は0.35ふるい(試験#1)でふるい分けされた創傷封止粉末では、粒子の大部分(およそ65%)がおよそ158ミクロンより大きい粒径を有し、0.25mmふるい(試験#2)でふるい分けされた創傷封止粉末では、粒子の大部分(およそ80%)がおよそ98ミクロンより大きい粒径を有した。一方、本発明の創傷封止粉末は、およそ158ミクロンより大きい粒径を実質的に有さず(0.3%)、およそ98ミクロンより大きい粒子はほんのわずかな少数(3.9%)であった。本明細書の目的では、「粒径を実質的に有さない」とは、粒子の10%以下が述べられた直径を有することを意味する。
【0047】
更なる比較では、分析された創傷封止粉末のいずれも約48ミクロン未満の粒径を有さなかったが、本発明の創傷封止粉末は、圧倒的多数の48ミクロン未満のサイズの粒子(83.3%)を有した。
【0048】
図3に示されるように、1.0mmふるい(WoundSeal(登録商標)2018年バージョン)及び0.35mmふるい(試験#1)でふるい分けされた試験された創傷封止粉末のメディアン粒径は、およそ190ミクロンであり、0.25mmふるい(試験#2)でふるい分けされたものでは、およそ110ミクロンであった。一方、本発明の創傷封止粉末のメディアン粒径はおよそ55ミクロンであった。
【0049】
比較された製品の嵩密度は、2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)局所粉末でおよそ0.75g/ccであり、本発明の創傷封止組成物でおよそ0.60g/ccである。
【0050】
予想外の結果
本発明の創傷封止粉末は、2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)局所粉末と同じやり方で創傷に適用されたとき、複数の予想外の結果を示すことが見出された。
【0051】
第一に、当業者は、より小さな粒子の移動活動のために、より微細な粉砕粉末を予想するであろう。しかし、病院設定におけるエンド・ユーザー試験では、より微細に粉砕された本発明の粉末は、2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)より扱いやすいことが見出された。
【0052】
第二に、粉末の色は、より明るく、病院関係者にとってより魅力的であった。新規の本発明の粉末は、土というより化粧品に近い外観である。
【0053】
更に、本発明のより均一且つより微細に粉砕された粉末は、錠剤へと圧縮されたとき、大気に吸収された水分によってもたらされる劣化速度の低下を示すことが予想外に見出された。2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)を作製するために使用された粉末から作製された錠剤は、典型的な大気条件に曝露された場合、適正に取り扱って包装することができなくなる程度まで劣化する。
【0054】
第三に、本発明のより均一に粉砕された粒子は、より同様の速度で膨張するため、2018年バージョンのWoundSeal(登録商標)のより大きい粉末粒子と比較して、粉末は予想外に血管カテーテル部位上でより良好且つより長く適所に保持される。
【0055】
新規に発明された粉末の別の予想外の結果は、粉末が錠剤に圧縮されたとき、粒子の塊の全体的な嵩膨張の低減により、構造的一体性が向上した錠剤が作製され、これは周囲空気から水分を吸収するからである。乾燥した材料は、周囲空気から水を取り込んで膨張する。球状の粒子を有さないより微細な粉末を用いて作製された錠剤は外観がより均一であり、得られる錠剤は、2018年の粉末を用いて同じ圧縮力下で作製された錠剤よりも硬質である。
【0056】
より硬質且つ強度が高いことに加え、錠剤はより薄く製造することが可能である。この高さの減少により、圧縮錠が患者に褥瘡をもたらす可能性が低減される。2018年の粉末の高さの最小限界は、緊密に連結しない球状の粒子の数のために、新規に発明された粉末より厚い。新規に発明された粉末錠剤の緊密な連結及び空気中での膨張の欠如にもかかわらず、錠剤は体液に適用された際に依然として剥離する。空気中と体液に適用された際の膨張特性の差は、錠剤内における相対的な膨張の差に起因する。
【0057】
更に、粉末と創傷との間に作られる乾燥した血液バリアにより、創傷が治癒する際の封入を含め、製品の最終的な色に影響を及ぼすために添加される任意の顔料と創傷との間の相互作用も低減する。これら及び他の予想外の結果は、本発明によって特許請求される創傷封止粉末の特許性を実証する。
【0058】
最後に、上記で記載された粉砕及び形成プロセスを利用し、水素樹脂のみからなり(鉄酸塩又は顔料を含まない)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第14/147,143号に記載されるような、3%の水分レベルの制約を伴わない創傷封止粉末を形成することができることが理解されるべきである。
【0059】
限定することなく、全ての論文、刊行物、特許、特許出願、仮特許出願、掲示、文書、報告、原稿、冊子、書籍、インターネットの投稿、学術誌記事及び/又は定期刊行物を含む本明細書に引用される全ての参考文献は、全ての図面及び表を含め、本明細書の明示的な教示と矛盾しない程度までこれによりそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における参考文献の考察は、単に著者によってなされた主張を要約することを意図し、任意の参考文献が先行技術を構成することを認めるものではない。出願人は、引用される参考文献の正確性及び適切性に異議を唱える権利を保有する。
【0060】
添付の特許請求の範囲により詳細に記載される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に対するこれら及び他の改変及び変更が当業者によって実施されてもよい。それに加え、種々の実施例の態様は、全体的又は部分的に相互交換可能であることが理解されるべきである。更に、当業者は、前述の記載が単なる例示目的であり、そのような添付の特許請求の範囲にそのように更に記載される本発明を限定するものではないことを理解する。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲は、その中に含有される変形の記載に限定されるべきではない。