(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180630
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】転写シート及びこれを用いた化粧材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20241219BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241219BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20241219BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20241219BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/00 L
B32B7/023
B32B7/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024182101
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2021052284の分割
【原出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 沙織
(72)【発明者】
【氏名】古田 哲
(72)【発明者】
【氏名】臼井 優美子
(72)【発明者】
【氏名】秋田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】西根 祥太
(57)【要約】
【課題】顧客の需要の多様性に対応しやすく、優れた艶消効果の視認性及び質感を付与する転写シート及びこれを用いた化粧材の製造方法を提供する。
【解決手段】離型性支持体上に転写層を有する転写シートであって、前記離型性支持体は、支持体上に離型層を有し、前記離型層は、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記離型層の前記転写層側の面が不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、前記離型層の60°グロス値が5.0以下である、転写シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型性支持体上に転写層を有する転写シートであって、
前記離型性支持体は、支持体上に離型層を有し、
前記離型層は、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記離型層の前記転写層側の面が不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、前記離型層の60°グロス値が5.0以下である、転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シート及びこれを用いた化粧材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば壁、天井、床等の建築物の内装用部材、外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材、窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材の他、箪笥、棚、机等の一般家具、食卓、流し台等の厨房家具、台所、トイレ、風呂場、洗面台等の水廻りで用いられる各種家具及び部材、又は家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板、車両の内装又は外装用部材等の表面を装飾し、保護するための物品として、いわゆる化粧材、化粧シートが用いられている。そして、かかる化粧材、化粧シート等の物品には、近年の顧客の高級品志向の高まりに伴い、高級感を有するものが求められるようになっている。
【0003】
高級感を付与する手法としては、物品の表面に凹凸形状(「凹凸模様」ともいう。)を付与し、質感を高める手法が一般的に採用される。具体的には、「賦型シートを用いた賦型加工」、「エンボス版等を用いたエンボス加工」、「凹凸形状を有する層を具備する転写シートを用いて、被着体に凹凸形状を有する層を転写する転写法」等により、物品の表面に凹凸形状を付与することで、艶消効果(マット効果)を発現させる方法等が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材シートの表面に電離放射線硬化性樹脂で凹凸形状を設けた層を有し、剥離する際に凹凸形状が割れたりしないような架橋密度を付与することにより、所望の模様形状を再現する賦型シート、及び該賦型シートを用いたポリエステル化粧板が提案されている。
また、特許文献2には、基材上に、印刷層と透明樹脂層とを順に有し、該透明樹脂層の最表面にエンボス模様を施した化粧シートが提案されている。
また、特許文献3には、基材シート上に転写層が設けられてなり、転写層が所定の樹脂を含む転写シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-235744号公報
【特許文献2】特開2011-073207号公報
【特許文献3】特開2004-167828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述のように、顧客の高級品志向が高まっていることから、より高い質感が求められるようになっている。しかし、特許文献1に記載される賦型フィルムが有する凹凸形状は、撥液性樹脂で所定の絵柄を形成し、次いで無機フィラーを含む2液硬化型樹脂組成物を塗布することで、該撥液性樹脂の撥液効果により該絵柄上の2液硬化型樹脂組成物だけがはじかれることで形成されるものである。そのため、繊細な凹凸形状の形成には限界があるため、優れた艶消効果を付与するには至らず、所望の要求に対応しきれない場合があった。
また、特許文献2のようにエンボス加工を施すことで最表面に凹凸形状を形成する手法の場合、エンボスの版の作製は多大な手間がかかり容易なことではなく、さらに所望の柄ごとに版を作製する必要が生じる。そのため、顧客の需要の多様性に十分に対応しやすい手法であるとはいえない。
また、特許文献1の賦型加工、特許文献2のエンボス加工では、製造工程が制約されたり、凹凸形状を付与しようとする物品の材質によっては凹凸形状を付与しにくかったりする場合がある。
【0007】
特許文献3の転写シートは、被着体に転写層を転写することにより凹凸形状を付与することができる。特許文献3の転写シートは、離型性支持体である基材シートとして、艶消剤を練りこんだ基材シート、サンドブラスト加工した基材シートを用いている。特許文献3の転写シートにより付与される凹凸形状は、離型性支持体である基材シートの表面形状が反映された形状となる。しかし、特許文献3では、離型性支持体である基材シートの表面形状により、質感を高めることに関して何ら検討していない。
さらに、化粧シート等の物品の表面に意匠外観を付与する化粧形態として、凹凸形状及び絵柄層等の装飾層の両方を付与する場合が多い。その場合、特許文献1及び3に記載の発明においては、基材に対して絵柄層の形成のための印刷工程と凹凸形状を賦型するためのエンボス工程という異種の二つの工程が必要となる。そのため、工程時間も長くなり、また製造原価も高くなるという問題もあった。
【0008】
本発明は、顧客の需要の多様性に対応しやすく、優れた艶消効果の視認性及び質感を付与する転写シート及びこれを用いた化粧材の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は、以下の[1]及び[2]を提供する。
[1]離型性支持体上に転写層を有する転写シートであって、
前記離型性支持体は、支持体上に離型層を有し、
前記離型層は、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記離型層の前記転写層側の面が不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、前記離型層の60°グロス値が5.0以下である、転写シート。
[2]下記(1)及び(2)の工程を有する、化粧材の製造方法。
(1)請求項1~11のいずれか1項に記載の転写シートの転写層側と、被着体とを密着した積層体を得る工程。
(2)前記積層体から離型性支持体を剥離し、被着体上に転写層を有する化粧材を得る工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、顧客の需要の多様性に対応しやすく、優れた艶消効果の視認性及び質感を付与する転写シート及びこれを用いた化粧材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の転写シートの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の一実施形態を示す平面図である。
【
図3】本発明の転写シートを構成する離型性支持体の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】実施例1の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図5】実施例2の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図6】実施例3の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図7】比較例1の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の光学顕微鏡画像である。
【
図8】比較例2の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例の数値は数値範囲の上下限に用い得る数値である。
【0013】
[転写シート]
本実施形態の転写シートは、離型性支持体上に転写層を有してなり、前記離型性支持体は、支持体上に離型層を有し、前記離型層は、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記離型層の前記転写層側の面が不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、前記離型層の60°グロス値が5.0以下であることを特徴とするものである。
【0014】
図1は、本発明の転写シートの一実施形態を示す断面図である。
図1の転写シート100は、離型性支持体10上に転写層20を有している。また、
図1において、離型性支持体10は、支持体11上に離型層12を有している。また、
図1において、転写層20は、離型性支持体10に近い側から、剥離層21、プライマー層22、装飾層23及び接着剤層24をこの順に有している。
【0015】
<離型性支持体>
本実施形態の転写シートにおける離型性支持体は、支持体上に離型層を有する。離型性支持体は、被着体に転写層を転写した後に、転写層から剥離される。
【0016】
〔支持体〕
支持体は、その形態(あるいは形状)は特に制限はないが、転写シートとしての用途を考慮すると、フィルム、シート、板等の平面状の形状であることが好ましい。ここで、フィルム、シート及び板は、通常、相対的に厚みの薄いものからフィルム、シート及び板と称されるが、本明細書中においては、これら三者を厳密に区別する意義は特になく、フィルム、シート及び板の相違によって、本発明の権利解釈に相違が生じることはないものとする。よって、「転写シート」における「シート」には、一般にシートと称されるものを含むのはもちろん、一般にフィルム、板状と称される形状のものも含み得る。また、本明細書では、フィルム、シート及び板については、これらを「シート」、「シート状」等と総称することがある。
支持体がシートであると、既述のように転写シートとして使いやすく、また支持体上に設けられる離型層、さらには剥離層、プライマー層、装飾層、接着剤層等の転写層の形成が容易であるため、製造適性が向上する。
【0017】
支持体としては、通常化粧材、化粧シート等の物品の支持体(基材)として用いられるものを制限なく採用することができ、例えば、紙、不織布及び織布等の繊維質材料、樹脂、金属等からなる支持体(基材)が代表的に挙げられ、繊維質材料、樹脂からなる支持体が好ましい。中でも樹脂の支持体は、離型層を形成しやすく、かつ、転写後の剥離作業性が良好なため好適である。以下、樹脂を材質とする支持体は、プラスチックシートとも称する。
支持体は単層でもよいし、上記材料からなる層を2層以上積層したものであってもよい。支持体が2以上の層の積層体の場合、異種材料の層を2層以上積層し、各層の材料の有する諸性能を互いに補完してなるものが好ましい。
【0018】
複数層の支持体を採用する場合、複数層を構成する各層を、例えば材料Aで構成される層と、材料Bで構成される層とを積層してなる積層体を「A/B」と表記する場合;
(1)樹脂/金属系材料
(2)樹脂/繊維質材料
(3)樹脂1/樹脂2(例えば、「オレフィン樹脂/アクリル樹脂」等の異なる樹脂により構成される複数の層を有する場合)
等の態様が好ましく挙げられる。
また、支持体が複数層である場合、複数層の各層間に、隣接する各層の接着性を向上させるための層として、接着剤層、粘着剤層、プライマー層(アンカー層、易接着層とも称される。)を更に有するものであってもよい。
【0019】
繊維質材料の支持体としては、例えばクラフト紙、チタン紙、リンター紙、硫酸紙、パラフィン紙、グラシン紙、パーチメント紙、壁紙用裏打紙、薄葉紙、上質紙、和紙、板紙、石膏ボード用原紙等の紙の支持体が挙げられる。また紙の支持体としては、その繊維間又は多層の紙の支持体との層間強度を向上させるため、またケバ(毛羽)立ち防止のために、更にアクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂を添加(抄造後に樹脂を含浸、又は抄造時に内填)させたものでもよい。このような紙の支持体としては、紙間強化紙、樹脂含浸紙等が挙げられる。また、繊維質材料層に樹脂層を積層した支持体としては、建材分野で汎用される壁紙用裏打紙の表面に、塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、アクリル樹脂層等の各種樹脂層を積層した壁紙原反等も挙げられる。
【0020】
不織布又は織布の支持体としては、例えばガラス、アルミナ、シリカ、炭素等の無機材料により構成される無機繊維、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種合成樹脂により構成される有機繊維、絹、木綿、麻等のタンパク質系又はセルロース系の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の各種繊維で構成される不織布又は織布、またこれらの複合体等の基材が挙げられる。
【0021】
樹脂の支持体としては、合成樹脂、天然樹脂等の各種樹脂により構成される基材が挙げられる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、アイオノマー等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート-ブチル(メタ)アクリレート共重合体等のアクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン66等に代表されるポリアミド樹脂;三酢酸セルロース、セロファン、セルロイド等のセルロース系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂からなる樹脂の支持体が挙げられる。
硬化性樹脂としては、既述の艶消層を構成し得る電離放射線硬化性樹脂、その他熱硬化性樹脂等が挙げられる。
また、天然樹脂としては、天然ゴム、松脂、琥珀等が挙げられる。
【0022】
金属系材料の支持体としては、アルミニウム又は各種アルミニウム合金、鉄又は炭素鋼等の各種鉄合金、錫、銅、ニッケル等の支持体が挙げられry。金属系材料の支持体は、金属箔と称される厚さが10μmから100μm程度のフィルム、又はシートの形態とすることができる。
【0023】
支持体は、着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。また、支持体が着色されている場合、着色の態様には特に制限はなく、透明着色であってもよいし、不透明着色(隠蔽着色)であってもよい。
【0024】
支持体には、必要に応じて、添加剤が配合されてもよい。添加剤としては、主に樹脂の場合において、例えば、炭酸カルシウム、クレーなどの無機、水酸化マグネシウムなどの難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。添加剤の配合量は、表面特性、加工特性等を阻害しない範囲であれば特に制限はなく、要求特性等に応じて適宜設定できる。
【0025】
本実施形態の転写シートの劣化防止の観点から、上記添加剤の中でも、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤、光安定剤としては、後述する剥離層に含み得るものとして例示したものが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、その他各種添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0026】
支持体の厚さには特に制限はない。すなわち、本実施形態における支持体は、マイクロメートル単位の厚みが薄い支持体であってもよいし、ミリメートル単位以上の厚みが厚い支持体であってもよい。
【0027】
支持体としてプラスチックシートを採用する場合、その厚みは特に限定されないが、転写シートの取り扱い性を向上させるために、10μm以上200μm以下であることが好ましく、15μm以上150μm以下であることがより好ましく、20μm以上125μm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
支持体は、離型層との密着性を高めるために、その片面又は両面に、酸化法、凹凸化法等の物理的表面処理、又は化学的表面処理等の表面処理を施したり、易接着剤層を形成してもよい。
酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン-紫外線処理法等が挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理が表面処理の効果及び操作性等の観点から好ましい。
【0029】
〔離型層〕
本実施形態の転写シートにおける離型層は、離型層が、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む樹脂組成物(以下、「離型層形成用の樹脂組成物」と称することがある。)の硬化物により構成される層である。すなわち、本実施形態において離型層は、当該離型層を形成する樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下の含有量で、シワ形成安定剤を含む層である。
【0030】
(シワ形成安定剤)
シワ形成安定剤は、離型層の表面にシワの形成を安定させることで、本実施形態の離型層の全面にわたり均一に艶消効果の視認性が発現し、部分的な艶のムラが低減される、安定的な艶消効果の視認性(以下、単に「安定的な艶消効果の視認性」といった表現、これに準ずる表現を用いる場合がある。)とともに質感を付与する機能を有するものである。
シワ形成安定剤が有する、上記の「シワの形成を安定させる」ことは、より具体的には、「シワ」の形状及びその幾何学的特性値(シワが有する凹凸形状における個々の突起部(凸部)の長さ、幅及びこれらの比、また例えば、Rz(最大高さ)、Rsm(曲線要素の平均長さ)、Ra(算術平均粗さ)、Ssk(スキューネス)、Sku(クルトシス)等の統計的指標、また面内分布(分散σ)等の各種の数値及び指標が、「シワ形成安定剤」を用いることにより、これを用いない場合に比べて収束することを意味する。
【0031】
本実施形態の転写シートにおいて、転写層の表面形状は、離型性支持体の表面形状(≒離型層の表面形状)を反映した形状となる。したがって、本実施形態の転写シートの離型層が艶消効果とともに質感を有することにより、前記転写シートの転写層を転写して得られる化粧材は、艶消効果及び質感を有する(これをあわせて「高級感」とも称することができる。)ものとなる。すなわち、従来技術におけるいわゆる「艶消剤」と本実施形態における「シワ形成安定剤」とは、例えその構成物質、平均粒子径が同じであった場合においても、両者の艶消の機構(作用)、艶消を発現させるための構造、及び使用量と、表面の艶(グロス値)の程度との関係において異なるものとなる。
【0032】
従来技術において、艶消表現のために用いられてきた艶消剤は、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果を発現するものである。具体的には、一般に艶消剤と称されるものは、一般に艶消剤粒子と周囲の樹脂及び空気との屈折率差を有し、その粒子の輪郭形状に対応した形状が光線の反射及び屈折性界面による光拡散効果により艶消効果の視認性を発現するものである。一方、本実施形態の転写シートにおいて、シワ形成安定剤は、粒子それ自体による光線の反射及び屈折による光拡散が艶消効果の視認性を発現するのではなく、かかる表面と空気との屈折率差界面でのシワ形成安定剤に起因して離型層の表面におけるシワの形成を安定させることで、シワの形状に起因する光拡散効果により転写シートに安定的に艶消効果の視認性とともに質感を付与するというものである。よって、本実施形態で用いられるシワ形成安定剤は、それ自体が艶消効果の視認性を発現する艶消剤とは、(仮に、両者の構成物質、平均粒子径が同じであったとしても、)両者の艶消の機構(作用)、艶消を発現させるための構造等は異なるものである。
さらに、「シワ形成安定剤」と「艶消剤」とは、含有量と表面の艶(グロス値)との関係においても異なる。同じ物質Aをシワ形成開始剤AW(W:シワ,wrincleの略称)として用い、これを特定量Cで含有させて表面にシワを形成させた場合の表面の60°グロス値G60°
AW(C)は、同物質Aを単なる艶消剤AM(M:マット、matteの略称)として用い、これを当該特定量Cで含有させるも表面にシワが形成しない場合の表面の60°グロス値G60°
AM(C)よりも明らかに低下する。すなわち、以下の関係式が成立する。
G60°
AW(C)<G60°
AM(C)
【0033】
離型層は、従来艶消剤として用いられてきた剤を含んでもよいが、艶消剤を含まないことが好ましい。このように、本実施形態の転写シートは、従来艶消効果の視認性を得るために用いていた艶消剤を実質的に含まなくても、極めて優れた艶消効果の視認性及び質感を有するものであるといえる。そのため、艶消剤を含める(添加する)場合においては、離型層表面のシワによる艶消効果を補強する程度でたりる。ここで、「艶消剤を含まない」とは、艶消剤を全く含まないことに加えて、含んでいても艶消剤自体の作用効果に基づく艶消効果の視認性を有することがない、具体的には艶消剤の含有量が樹脂100質量部に対して15.0質量部未満、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下であることを意味する。
なお、本願明細書において「艶消剤」は、既述のように頭出しの効果により凸部を形成する観点から、具体的には当該艶消剤が含まれ得る層、すなわち離型層の厚さの100%超及び30μm超のいずれか小さい方を下限とする平均粒子径を有する粒子を意味する。
【0034】
シワ形成安定剤は、既述のように艶消剤ではない、平均粒子径が離型層の厚さの100%以下のものである、例えば有機粒子、無機粒子等の各種の粒子を採用することができる。本実施形態において、シワ形成安定剤を用いない場合、シワの形成が不安定となり、全体としてみればシワの形成による優れた艶消効果の視認性及び質感は安定的に得られない。
【0035】
本実施形態で用いられるシワ形成安定剤としては、艶消剤ではない、平均粒子径が好ましくは離型層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする粒子であれば特に制限なく用いることが可能であり、中でも平均粒子径が1μm以上、かつ離型層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするシワ形成安定剤1、平均粒子径が1μm未満であるシワ形成安定剤2を用いることが好ましい。本実施形態においては、シワ形成安定剤として、一種又は複数種のシワ形成安定剤1を用いてもよいし、一種又は複数種のシワ形成安定剤2を用いてもよいし、一種又は複数種のシワ形成安定剤1と一種又は複数種のシワ形成安定剤2とを組み合わせて用いてもよい。本実施形態においては、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、シワ形成安定剤1及びシワ形成安定剤2の二種のシワ形成安定剤を用いることが好ましい。
【0036】
シワ形成安定剤としては、例えば有機粒子、無機粒子を用いることができる。
有機粒子を構成する有機物としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル-スチレン共重合体樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン、フッ素系樹脂及びポリエステル系樹脂等が挙げられる。
無機粒子を構成する無機物としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケート及び硫酸バリウム等が挙げられ、これらの中でも透明性に優れるシリカが好ましい。
【0037】
シワ形成安定剤の形状としては、特に制限はないが、例えば球形、多面体、鱗片状、不定形等が挙げられる。
【0038】
シワ形成安定剤の平均粒子径は、シワの形成を安定させて、艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、上限としては、離型層の厚さに対しては、好ましくは離型層の厚さの90%以下、より好ましくは離型層の厚さの80%以下、更に好ましくは離型層の厚さの70%以下であり、絶対値については、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは8μm以下、より更に好ましくは7μm以下であり、離型層の厚さに対する上限と絶対値の上限とを任意に組み合わせた場合のいずれか小さい方とすればよい。例えば、離型層の厚さの90%以下及び20μm以下のいずれか小さい方を上限としてもよいし、離型層の厚さの90%以下及び10μm以下のいずれか小さい方を上限とすることもできる。なお、離型層の厚さについては後述する。また下限として好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上である。
【0039】
既述のようにシワ形成安定剤1及び2に分けて用いる場合、シワ形成安定剤1の平均粒子径は、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは1.8μm以上であり、上限としては既述のとおりである。
また、これと同様の観点から、シワ形成安定剤2の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、上限として好ましくは900nm以下、より好ましくは700nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
本明細書において、シワ形成安定剤の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値d50として測定したものである。
【0040】
シワ形成安定剤の含有量は、離型層を形成する樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下である。0.5質量部未満であると、シワ形成安定剤の使用効果を得ることができずシワの形成が安定しないため、安定的に艶消効果の視認性及び質感が得られない。他方、6.0質量部を超えても、シワの形成が安定しにくくなり、安定的に艶消効果の視認性及び質感が得られにくくなる。前記の含有量は、シワ形成安定剤としてシワ形成安定剤1と2とを併用する場合は、これらの合計の含有量を意味する。
【0041】
シワ形成安定剤によるシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、シワ形成安定剤1及びシワ形成安定剤2の合計の含有量は、離型層を形成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.75質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.2質量部以上であり、上限としては安定的な艶消効果の視認性の向上の観点から、6.0質量部以下であれば特に制限はない。
【0042】
また、シワ形成安定剤1及びシワ形成安定剤2の各々の含有量としては、合計の含有量が上記範囲内であれば特に制限はないが、シワ形成安定剤2の含有量は樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、上限として好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、更に好ましくは3.5質量部以下である。また、シワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2との配合割合(シワ形成安定剤1/シワ形成安定剤2)としては、好ましくは0.05~0.95、より好ましくは0.10~0.90、更に好ましくは0.20~0.80、より更に好ましくは0.30~0.70である。
【0043】
(離型層の表面形状)
離型層は、上記の特定のシワ形成安定剤を特定の含有量で含む離型層形成用の樹脂組成物の硬化物により構成される層であり、既述のように離型層の表面においてシワの形成が安定することで、シワの形状に起因する光拡散効果により安定的に艶消効果の視認性及び質感を発現する層である。離型層の表面形状は、転写層の表面形状に反映される。したがって、離型層の表面形状は、被着体に転写層を転写してなる化粧材の表面形状として反映される。このため、離型層が備える艶消効果及び質感は、被着体に転写層を転写してなる化粧材の艶消効果及び質感に反映される。
【0044】
図2は本実施形態の転写シートを構成する離型性支持体の、離型層側の表面の一実施形態を示す平面図である。また、
図2は、実施例で得られた離型性支持体の転写層側の表面の画像を模式化したものである。
図2には、本実施形態の離型性支持体の表面(本実施形態の離型層の表面)に、シワが形成されていることが示されている。
【0045】
離型層の少なくとも一方の表面に発現するシワにより構成される凹凸形状は、シワ形成安定剤により形成が安定し、安定的に艶消効果の視認性及び質感を発現することとなる。また、不規則なシワは、複数の突起部により形成する複数の凸部と、複数の突起部により囲まれて形成する凹部と、により構成されていることが好ましく、当該突起部は線条の突起部を有していることが好ましい。本明細書において、「線条の突起部」(以下、「線条突起部」とも称する。)とは、当該突起部の長さと幅との比(長さ/幅)が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であることを意味し、当該長さ及び幅の決定方法は後述の通りである。
本実施形態において、より好ましい不規則なシワは、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、当該複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部により構成されるもの、である。
【0046】
これらのシワに関する態様としては、例えば
図2に示される態様が挙げられる。
図2には、離型性支持体の表面、すなわち離型層の表面に、平面視において不規則なシワを有していること、また不規則なシワが、湾曲した複数の線条突起部により形成する複数の凸部3と、複数の突起部(複数の凸部3)により囲まれて形成する凹部2とを含むことにより構成されていること、また湾曲した複数の凸部3の少なくとも一部が、各々蛇行する線条突起部により形成され、当該蛇行する線条突起部に囲まれるようにして、蛇行する凹部2が形成していることも示されている。本実施形態の転写シートは、
図2に示されるシワの形成の安定により安定的に艶消効果の視認性及び質感を発現している。
【0047】
ここで「湾曲」とは、平面視において、連続する線条の凸部3の延在方向が一方側から他方側に反転している部分を1箇所以上有することを意味する。延在方向が一方側から他方側に反転している部分の例としては、例えば線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したとき(幅を0とみなしたとき)に連続曲線で近似される場合に、変曲点を有する形態等が挙げられる。また、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、V字型の折線又は3角形の1頂点を挟む2辺で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
また「蛇行」とは、平面視において、連続する線条の凸部3の延在方向が一方側から他方側に反転している部分(以下、「反転部分」とも称する。)を、少なくとも2箇所以上有し、線条の凸部3をその延在方向に進んだときに、互いに隣接する当該2箇所において交互に線条の凸部3の延在方向が逆向きに反転部分する部分を有することを意味する。例えば、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに連続曲線で近似される場合に、ローマ字「S」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。また、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、ローマ字「W」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
【0048】
本明細書において、不規則とは、一定の法則を有する形状、また一定の法則をもって配列される、いわゆるパターン化している、とはいえないことを意味する。不規則ではない形状(規則的な形状)の典型的な例としては、例えば円柱形状の単位レンズをその長手方向と直行する方向に複数個が互いに隣接して配列した、いわゆる「レンティキュラーレンズ」のように、特定の方向に一定の周期性をもって配列した形状等が挙げられる。よって、本実施形態における不規則なシワは、一つの突起部の形状自体が周期性等の一定の法則をもって形成される形状ではなく不規則であること、また複数の突起部により形成する複数の凸部の形状が一定の法則をもって形成及び配列されるものではなく不規則であること、またこのような複数の突起部により囲まれた凹部の形状も不規則であること、を包含するものである。
本実施形態の転写シートを構成する離型層において、一つの突起部(一つの凸部)の形状自体、複数の突起部(複数の凸部)の各々の形状及びその配列、複数の突起部により囲まれた凹部の形状のいずれかが不規則であれば、不規則なシワを有することによる艶消効果の視認性及び質感は得られるが、いずれもが不規則であることが好ましい。本実施形態の転写シートは、離型層が不規則なシワを有することにより、その艶消効果の視認性及び質感は向上し、極めて優れた艶消効果の視認性及び質感を安定的に発現するものとなる。
【0049】
既述のように、離型層はその少なくとも一方の表面にシワ、すなわち凹凸形状を有する。凹凸形状における凸部と凹部は、例えば本実施形態の転写シートの表面の画像の明度差を利用して、濃度分布画像で最も濃い部分を階調255とし、濃度分布画像で最も薄い部分を階調0として、階調0~255について、階調0~127を凹部、階調128~255を凸部と、二値化処理して区分すればよい。
【0050】
本実施形態の転写シートを構成する離型層の表面は、少なくともその一部に不規則なシワが形成されていることが好ましく、全面にわたって不規則なシワが形成されていることがより好ましい。シワが形成する箇所は、離型層の表面であれば特に制限はなく、例えば後述する装飾層に対応する箇所だけに限らず、離型層表面の少なくとも一部であれば、シワの形成による艶消効果の視認性及び質感は発現する。
また
図2にも示されるように、離型層の表面は、不規則ながらもある程度の均質性をもった複数の突起部により形成される複数の凸部と、当該凸部により囲まれた凹部と、を有していることが好ましい。よって、1つの凸部(突起部)において、その幅が極端に変化する形状、その高さが極端に変化する形状は、艶消効果の視認性及び質感を得るにあたり好ましい態様とはいえない。不規則なシワを形成する凸部(突起部)、凹部の形状について、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる上で優位となり得る具体的な態様について、以下説明する。
【0051】
離型層の少なくとも一方の表面に形成するシワの形状について、その凸部の高さ(突起部の高さ)は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上であり、上限としては10μm以下程度である。また、凸部の幅は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上であり、上限として好ましくは10μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下である。凸部の高さ及び幅が上記範囲内であると、凹部との関係で、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
ここで、凸部の上記寸法は、本実施形態の転写シートを構成する離型層の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部(突起部)、すなわち合計100の凸部の平均値である。また、
図2に示されるように、1の凸部(突起部)においてその幅は同じではなく広狭があるため、1の凸部(突起部)の幅は、当該1の凸部(突起部)における任意の5箇所の幅の平均値とする。凸部(突起部)の高さについても同様とする。
【0052】
凹部の深さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上であり、上限としては10μm以下程度である。また、凹部の幅は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、上限として好ましくは10μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下である。凹部の深さ及び幅が上記範囲内であると、凸部との関係で、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
ここで、凹部の寸法は、上記の凸部の寸法と同様に決定する。
【0053】
凸部の頂から凹部の底までの距離(凸部と凹部との高低差)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、上限として好ましくは20μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは7μm以下である。当該距離が上記範囲内であると、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
ここで、凹部の寸法は、上記の凸部の寸法と同様に決定する。
【0054】
凸部の占有割合は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であり、上限として好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは60%以下である。凸部の占有割合が上記範囲内であると、当該凸部に囲まれる凹部の占有割合との関係で、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
ここで、凸部の占有割合は、本実施形態の転写シートを構成する離型層の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の占有割合の平均値である。
【0055】
凸部及び凹部は、略同一方向及び略同一幅の箇所を有していてもよいが、安定的に艶消効果の視認性及び質感の向上の観点から、その長さは短いことが好ましい。具体的には、略同一方向及び略同一幅の凸部及び凹部が連続する長さは、好ましくは95μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは70μm以下であり、下限として好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。当該長さが上記範囲内であると、シワがより不規則となるため、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
ここで、本実施形態の転写シートを構成する離型層の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部及び凹部(すなわち合計100の凸部及び凹部)について、その80%以上が上記の条件を満たすものであることが好ましく、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは95%以上である。また、本明細書における「略同一」の「略」は、概ね同じであることを意味し、枝分かれすることなく、方向の場合は±3°以内の違いを意味し、幅の場合は±5%以内の違いを意味する。
【0056】
また、100μm四方の領域における凸部(突起部)の数は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上であり、上限として好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは70以下である。当該凸部の数が上記範囲内であると、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
当該凸部の数は、本実施形態の転写シートを構成する離型層の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の数の平均値である。
【0057】
図3は、本実施形態の転写シートを構成する離型性支持体10の一実施形態を示す断面図であり、離型性支持体を厚さ方向(同図においてはZ方向)に平行な面で切断した断面図である。
凹部の形状としては、例えば
図3の2aのように鋭角状のものでもよいし、また2bのように半円又は半楕円状のものであってもよく、これらの組合せであってもよい。また一つの凸部が一部に凹部を有する、
図3の2cのような形状であってもよい。
他方、凸部の形状としては、
図3の3a、3bのように幅の広狭はあるものの、半円又は半楕円の形状を呈する。
【0058】
離型層の厚さは、安定的に艶消効果の視認性及び質感を発現し得る程度に上記のシワを形成することができる厚さであれば特に制限はないが、作製のしやすさ等も考慮すると、通常1μm以上であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上、より更に好ましくは5μm以上であり、上限として好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。
本明細書において、離型層の厚さは、転写シートの断面について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像から20箇所の厚さを測定し、20箇所の値の平均値とする。なお、SEMの加速電圧は3kV、倍率は厚さに応じて設定とする。また、他の層の厚さについても同様である。
【0059】
離型層は、安定的な艶消効果の視認性及び質感の向上の観点から、支持体の全面にわたって設けられていることが好ましい。
離型層が支持体の部分的に設けられるものである場合、被着体に転写された転写層の表面形状は、部分的に離型層の表面形状を反映しない形状を有することになる。なお、離型層が支持体の部分的に設けられるものである場合、支持体の離型層を有さない箇所には、第2の離型層を有することが好ましい。第2の離型層は、離型性を有し、かつ本発明の効果を阻害しない層であれば、層の形状及び組成は特に制限されない。
【0060】
(樹脂)
離型層を形成する樹脂としては、上記シワ形成安定剤を所定量で含む離型層形成用の樹脂組成物を形成し、硬化することにより硬化物となり離型層を構成する樹脂であればよい。このような樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。
【0061】
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線硬化性官能基を有する樹脂のことであり、電離放射線硬化性官能基は電離放射線の照射によって架橋硬化する基であり、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクロイル基を示す。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合及び/又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も含まれる。
【0062】
電離放射線硬化性樹脂としては、電子線硬化性樹脂及び紫外線硬化性樹脂が挙げられ、シワ形成安定剤によるシワの形成を安定させて、艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、紫外線硬化性樹脂が好ましい。
電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0063】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0064】
シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点、更に耐擦傷性及び耐候性等の表面特性、また加工特性を向上させる観点から、多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましく、2以上3以下がよりさらに好ましい。これらの多官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、及びノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等がある。
【0066】
これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点、更に耐擦傷性及び耐候性等の表面特性、また加工特性を向上させる観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが更に好ましい。
【0067】
これらの重合性オリゴマーの官能基数は、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点、更に耐擦傷性及び耐候性等の表面特性、また加工特性を向上させる観点から、2以上8以下のものが好ましく、上限としては、6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましく、3以下がよりさらに好ましい。
また、これと同様の観点から、これらの重合性オリゴマーの重量平均分子量は、2,500以上7,500以下が好ましく、3,000以上7,000以下がより好ましく、3,500以上6,000以下がさらに好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0068】
本実施形態において、離型層を形成する樹脂としては、上記重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、重合性オリゴマーと重合性モノマーとの合計100質量部に対する重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは55質量部以上、より更に好ましくは60質量部以上であり、上限として好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。重合性オリゴマーの含有量が上記範囲内であると、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させることができ、更に耐擦傷性及び耐候性等の表面特性、また加工特性を向上させることもできる。
【0069】
(樹脂組成物)
離型層は、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含む樹脂組成物の硬化物により構成され、当該樹脂組成物は、具体的には上記樹脂と、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含むものである。本実施形態で用いられる樹脂組成物は、上記シワ形成安定剤及び樹脂の他、所望の性能等に応じて、他の成分を含んでもよい。
離型層形成用の樹脂組成物は、例えばその粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを含有してもよい。これらの単官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
また、上記樹脂が紫外線により硬化する紫外線硬化性樹脂である場合、光重合開始剤、光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、シワの形成が促進され、艶消効果の視認性及び質感が向上する。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0071】
また、離型層は、転写層との離型性が良好であることが好ましい。このため、離型層は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤としては、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤等が挙げられ、より安価かつ高い離型性を得る観点から、シリコーン系離型剤が好ましい。
【0072】
シリコーン系離型剤としては、ポリシロキサン構造を基本構造とするものが挙げられ、中でもその側鎖及び末端の少なくともいずれかに有機基が導入された変性シリコーンオイルが好ましく、両末端に有機基が導入された変性シリコーンオイルがより好ましい。有機基としては、より質感の高い意匠性を得る観点から、(メタ)アクリル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルビノール基、フェノール基、カルボキシル基等の反応性官能基、ポリエーテル基、アラルキル基、フロロアルキル基、アルキル基、脂肪酸アミド基、フェニル基等の非反応性基官能基等が好ましく挙げられる。中でも反応性官能基が好ましく、特に(メタ)アクリル基が好ましい、すなわち特に(メタ)アクリル変性シリコーンオイルが好ましい。また、これらの有機基は窒素原子、硫黄原子、水酸基、アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0073】
離型剤の含有量は、離型層を形成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部、更に好ましくは1~2質量部である。離型剤の含有量が上記範囲内であると、効率的に離型剤の添加効果が得られる。
【0074】
〔60°グロス値〕
本実施形態の転写シートは、離型層が上記不規則なシワにより構成される凹凸形状を有しており、また離型層の60°グロス値が5.0以下であることから、優れた艶消効果の視認性及び質感を有する転写層を被着体に形成できるものである。本明細書において「艶消」は、光沢を視認しにくいことを意味し、転写層の色調等によりかわるため一概にはいえないが、例えば60°グロス値が5.0以下のものを「艶消」と扱うものとする。また、本実施形態の転写シートは、離型層により艶消を付与するものであり、離型層が有する上記の凹凸形状及び60°グロス値を付与し得るものである。よって、上記離型層の60°グロス値は、本実施形態の転写シートが付与し得る60°グロス値(被着体に転写層を転写してなる化粧材の60°グロス値)を意味する。
【0075】
本実施形態の転写シートを構成する離型層が、シワの形成の安定により安定的に艶消効果及び質感を有していれば、被着体に転写層を転写してなる化粧材も同様に、安定的に艶消効果の視認性及び質感を有する高級感のある化粧材となり得る。そして、転写シートを構成する離型性支持体(離型層)の60°グロス値と、被着体に転写層を転写してなる化粧材の60°グロス値とは、両者の色調が同様のものであれば、多少の相違は発生するが、基本的には同じ程度になる。
【0076】
これまで、例えば黒色等の暗色を呈する化粧材であれば、離型層に艶消剤を含む転写シートを用いても、60°グロス値が5.0以下という優れた艶消効果の視認性を付与することは可能ではある。「暗色」とは、明度が低く、例えばJIS Z8781-4:2013に準拠して測定されるCIE(国際照明委員会)L*a*b*表色系におけるL*値(以下、単に「L*値」と称することがある。)が、通常40以下程度、好ましくは30以下であることを意味する。しかし、艶消剤を多く使用することから、離型層形成時のスジ、ムラが発生するため、容易に製造できるものとはならず、また離型層の強度が低下する問題があった。また、暗色以外の色調を呈する化粧材については、60°グロス値を艶消と称される程度に低減することは難しく、離型層に艶消剤を含む転写シートを用いても60°グロス値の低減には限界がある。
このような傾向は、60°グロス値を小さくするほど顕著となる。そのため、艶消剤を用いる従来技術においては、製造上の理由等から艶消剤の使用量を抑制する必要があるため、より優れた艶消効果の視認性を得ることはできない状況にあった。
【0077】
本実施形態の転写シートでは、シワ形成安定剤を用い、かつその含有量を既述のように少量とすることにより、シワの形成を安定させて、安定的に優れた艶消効果及び質感が得られるに至った。また、シワ形成安定剤の使用量を極めて少量に抑えることで、樹脂組成物の著しい粘度上昇を抑えられることにより、離型層の生産性を向上することにもなる。
【0078】
本実施形態の転写シートは、既述のように色調に応じてかわるため一概に規定することはできないが、離型性支持体の離型層側の60°グロス値として5.0以下と極めて優れた艶消効果の視認性を発現し得るものである。また、既述のように、本実施形態の転写シートを構成する離型性支持体の離型層側の60°グロス値は、被着体に転写層を転写してなる化粧材の表面の60°グロス値と実質的に同じである。
本明細書において、60°グロス値は、JIS K 5600-4-7:1999に準拠して測定した60°鏡面光沢度のことであり、任意の10箇所におけるグロスメータ等を用いて測定し得る値の平均値である。なお、60°グロス値を測定する際には、サンプルの背面の反射を抑制するために、測定サンプルの背面に、接着剤層を介して黒色板を貼り合わせることが好ましい。
【0079】
〔その他の層〕
本実施形態の転写シートを構成する離型性支持体は、支持体及び離型層以外の層を有していてもよい。支持体及び離型層以外の層としては、帯電防止層、易接着層等が挙げられる。
【0080】
<転写層>
転写層は、被着体に転写される層である。
転写層は、少なくとも剥離層を有することが好ましい。また、転写層は、離型性支持体側から、剥離層及び接着剤層をこの順に有することがより好ましい。さらに、転写層は、前記剥離層と前記接着剤層との間に、プライマー層及び装飾層から選ばれる1以上の層を有することがより好ましい。前記剥離層と前記接着剤層との間に、プライマー層及び装飾層を有する場合、前記プライマー層の位置を前記装飾層より前記剥離層側とすることが好ましい。
【0081】
また、転写層は、さらにその他の機能層を有してもよい。その他の機能層としては、防眩層、防汚層、応力緩和層、帯電防止層、ガスバリア層、防曇層及び透明導電層等が挙げられる。
【0082】
〔剥離層〕
剥離層は、被着体に転写された際に、転写層の最表面に位置する層である。このため、剥離層は、耐擦傷性、耐候性及び耐汚染性等が良好であることが好ましい。
【0083】
剥離層は、樹脂を主成分とすることが好ましい。主成分とは、剥離層を構成する全固形分の50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0084】
剥離層は、耐擦傷性を良好にするために、前記樹脂として、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。
剥離層に含まれる樹脂の全量に対して、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%である。
【0085】
硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物が挙げられる。
熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物は、紫外線吸収剤の使用制限がないため、耐候性を良好にしやすい点で好ましい。
電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物は、耐擦傷性をより良好にしやすい点で好ましい。中でも、電子線硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物は、耐擦傷性をより良好にしつつ、紫外線吸収剤の使用制限がないため、耐候性を良好にしやすい点で好ましい。
【0086】
熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらは単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。また、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加したものであってもよい。
【0087】
剥離層の電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、離型層の電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物で例示したものが挙げられ、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等のウレタンアクリル系樹脂が好ましい。
【0088】
剥離層は、艶消し剤及びシワ形成安定剤等の粒子を含んでいてもよいが、前記粒子を実質的に含有しないことが好ましい。剥離層中に粒子を実質的に含まないことにより、粒子の脱落をきっかけとして、剥離層の耐擦傷性、耐候性及び耐汚染性等が低下することを抑制できる。
剥離層が粒子を実質的に含有しないとは、粒子の含有量が剥離層を構成する全固形分の1質量%以下であることを意味し、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0質量%である。
【0089】
剥離層は、既述のように被着体に転写された際に、転写層の最表面に位置する層となることから、耐候性を良好にするために、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を含むことが好ましい。本実施形態においては、耐光性を向上させるため、紫外線吸収剤及び光安定剤を含むことがより好ましい。
【0090】
紫外線吸収剤及び光安定剤は、汎用の化合物を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられ、中でもヒドロキシフェニルトリアジン紫外線吸収剤が好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン化合物は、剥離剤からブリードアウト(bleed out)しにくく、すなわち剥離層形成用の樹脂組成物の硬化物からブリードアウトしにくい。そのため、紫外線吸収剤がブリードアウトしてべたつきが生じる等の、転写後の化粧材の表面の美観の悪化を抑制し、美観が良好に保たれるだけでなく、ブリードアウトした紫外線吸収剤が雨で流出等により徐々に失われ経時的に剥離層中の紫外線吸収剤の濃度が低下することによる耐候性の低下を抑制し、長期にわたって優れた耐光性が得られる。
【0091】
光安定剤としては、例えばピペリジニルセバケート系光安定剤等のヒンダードアミン系光安定剤等が好ましく挙げられ、中でもヒンダードアミン系化合物が好ましい。
また、これらの紫外線吸収剤、光安定剤は、分子中に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合を有する反応性官能基を有するものであってもよい。剥離剤の形成に好ましく採用される上記硬化性樹脂との反応により、ブリードアウトしにくくなるからである。
【0092】
剥離層中の紫外線吸収剤の含有量は、剥離層の樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下が好ましく、0.1質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上7質量部以下がさらに好ましい。
剥離層中の光安定剤の含有量は、剥離層の樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下が好ましく、0.1質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上7質量部以下がさらに好ましい。
【0093】
剥離層の厚みは、転写シートの取り扱い性、並びに、剥離層の耐擦傷性及び耐候性を向上させるために、1.5μm以上30μm以下が好ましく、2μm以上20μm以下がより好ましく、3μm以上15μm以下がさらに好ましい。
【0094】
〔接着剤層〕
剥離層は、被着体に転写層を転写しやすくするため、必要に応じて形成される層である。例えば、被着体に転写シートの転写層を転写する際に、被着体と転写シートとの間に、別途用意した接着剤を用いる場合には、転写層は接着剤層を有していなくてもよい。また、接着剤を用いることなく、転写層と被着体とを密着できる場合には、転写層は接着剤層を有していなくてもよい。
転写層が接着剤層を有する場合、転写層を構成する層の中で、離型性支持体から最も離れた位置に接着剤層を形成することが好ましい。接着剤層は、後述する装飾層の機能を兼ねることもできる。
【0095】
接着剤層としては、感圧接着剤層、硬化系の接着剤層、及び感熱接着剤層が挙げられる。こられの中でも、転写シートの取り扱い性及び転写層と被着体との密着性を向上させるために、感熱接着剤層であることが好ましい。感熱接着剤層は、ヒートシール層と呼ばれる場合もある。
【0096】
接着剤層が感圧接着剤層の場合、接着剤層に粘着剤を含むことが好ましい。
粘着剤としては、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の粘着剤を適宜選択して使用できる。
【0097】
接着剤層が硬化系の接着剤層の場合、接着剤層に熱硬化性接着剤を含むことが好ましい。
熱硬化型接着剤としては、熱によって化学反応が生じて架橋する性質を有する組成物を含むものが好ましく、例えば、2液硬化型ウレタン系接着剤、ポリエステルウレタン系接着剤、ポリエ-テルウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等を例示できる。なお、2液硬化型ウレタン系接着剤を構成するウレタン系樹脂は、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンである。
【0098】
接着剤層が感熱接着剤層の場合、接着剤層に熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、スチレン-アクリル共重合、ポリエステル樹脂、アミド樹脂、シアノアクリレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。これらの中でも、耐候性が良好なアクリル樹脂が好ましい。
【0099】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、10,000以上200,000以下が好ましく、50,000以上150、000以下が好ましく、80,000以上120,000以下がより好ましい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が前記の範囲内であると、コーティング適性が良好になり、接着剤層を良好な状態で形成しやすくなる。さらに、前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が前記の範囲内であると、接着剤層と被着体との密着性を向上しやすくできる。
【0100】
接着剤層の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましく、2μm以上8μm以下がより好ましく、3μm以上7μm以下がさらに好ましい。接着剤層の厚みが前記範囲内であると、接着剤層と被着体との密着性を良好にしやすくできるとともに、転写シートの取り扱い性を良好にしやすくできる。
【0101】
接着剤層には、必要に応じて着色剤を含有させてもよい。
接着剤層が着色剤を含むことにより、接着剤層単体、あるいは接着剤層と後述する装飾層との組み合わせにより、転写層の意匠性を高め、また転写層の隠蔽性を向上させて被着材の表面の色、外観を隠蔽することができる。
【0102】
着色剤としては、特に制限は無く、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、ニッケルアゾ錯体、フタロシアニンブルー、アゾメチンアゾブラック等の有機顔料又は染料;アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片等の金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片等の真珠光沢(パール)顔料;等が挙げられる。
【0103】
着色剤の含有量は、接着剤層を構成する樹脂100質量部に対して、5質量部以上90質量部以下が好ましく、15質量部以上80質量部以下がより好ましく、20質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。
着色剤の含有量が5質量部以上であることにより、転写層の意匠性を良好にしやすくできる。また、着色剤の含有量が90質量部以下であることにより、接着剤層の接着力の低下を抑制しやすくできる。
【0104】
〔プライマー層〕
転写層は、転写層を構成する層同士の密着性を良好にするため、
転写層各層に、必要に応じて既述の酸化法、凹凸化法等の物理的表面処理、化学的表面処理等の表面処理を施す、またこれらの各層の層間に易接着層としてプライマー層を設けてもよく、またこれらの表面処理とプライマー層とを組み合わせて採用してもよい。プライマー層は、例えば、剥離層と接着剤層との層間に形成することができる。剥離層と接着剤層との間に、プライマー層及び装飾層を有する場合、プライマー層の位置装飾層よりも剥離層側とすることが好ましい。
プライマー層が剥離層と接着層との間に形成されることにより、転写層の層間密着性が良好となり、転写層の耐候性及び耐久性を向上できる。
【0105】
プライマー層は、主としてバインダー樹脂から構成され、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0106】
バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体(ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端、側鎖に2個以上の水酸基を有する重合体(ポリカーボネートポリオール)由来のウレタン-アクリル共重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
また、バインダー樹脂は、これら樹脂に、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加し、架橋硬化したものであってもよい。
これらの中でも、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体が好ましい。
【0107】
ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体は、例えば、下記(1)及び(2)の工程により得ることができる。ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体は、柔軟性が良好である点、剥離層の硬化収縮に追従しやすい点、耐候性が良好である点、などにおいて好ましい。
(1)ポリカーボネートジオールと(ジ)イソシアネートを反応させてポリカーボネート系ポリウレタン高分子を得る。
(2)前記ポリカーボネート系ポリウレタン高分子と、アクリルモノマーとをラジカル重合させ、ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体を得る。
【0108】
(ジ)イソシアネートとしては、例えば、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、n-イソシアネートフェニルスルホニルイソシアネート、o又はp-イソシアネートフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;脂環式イソシアネート;等が挙げられる。
【0109】
アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0110】
ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体中のアクリル成分とウレタン成分との質量比としては、アクリル成分とウレタン成分との合計量100質量部に対して、ウレタン成分が好ましくは30質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは85質量部以上であり、上限として好ましくは95質量部以下、より好ましくは93質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。アクリル成分とウレタン成分の質量比を前記範囲とすることにより、プライマー層が過度に硬い塗膜となることがなく、十分な加工適性が得られ、特に剥離層がウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等のウレタンアクリル系樹脂からなる場合において、剥離層との層間密着性が良好となる。
【0111】
プライマー層はブロッキング防止剤を含むことが好ましい。ブロッキング防止としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム等の無機粒子、有機粒子が挙げられる。これらの中でも無機粒子が好ましく、無機粒子の中でもシリカが好ましい。
【0112】
ブロッキング防止剤の平均粒子径は、0.1~10μm程度が好ましく、より好ましくは0.5~8μm、さらに好ましくは0.5~5μmの範囲である。ブロッキング防止剤の粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値d50として測定したものである。
ブロッキング防止剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して0.1~30質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1~25質量部、さらに好ましくは3~20質量部、特に好ましくは5~15質量部である。
【0113】
プライマー層の厚さは、0.5μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上8μm以下がより好ましく、2μm以上6μm以下がさらに好ましい。
【0114】
〔装飾層〕
転写層は、意匠性を高めるため、装飾層を有していてもよい。装飾層は、剥離層と接着剤層との間に形成することが好ましい。
【0115】
装飾層は転写シートの全面に形成しても良いし、一部のみに形成してもよい。
【0116】
装飾層としては、インキをベタ塗りしてなる着色層;インキを模様として印刷してなる絵柄層;金属薄膜;等が挙げられる。
装飾層により表現する絵柄(模様)としては、木材板表面の年輪及び導管溝等の木目模様;大理石、花崗岩等の石板表面の石目模様;布帛表面の布目模様;皮革表面の皮シボ模様;目地溝を含むタイル貼り模様;目地溝を含む煉瓦積模様;砂目模様;梨地模様;互いに平行な方向に伸びる凹條部及び凸條部を複数配列させてなる模様(いわゆる「万線状凹凸模様」又は「光線彫模様」);幾何学模様、文字、図形、水玉及び花柄等の抽象柄模様;等が挙げられる。
【0117】
着色層及び絵柄層に用いられるインキとしては、バインダー樹脂に顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜混合したものが使用される。
着色層及び絵柄層のバインダー樹脂としては特に制限はなく、例えば、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が挙げられる。また、1液硬化型樹脂、イソシアネート化合物等の硬化剤を伴う2液硬化型樹脂など、種々のタイプの樹脂を使用できる。
【0118】
着色剤としては、特に制限は無く、接着剤層で例示した着色剤を好適に使用できる。
着色剤の含有量は、装飾層を構成する樹脂100質量部に対して、5質量部以上90質量部以下が好ましく、15質量部以上80質量部以下がより好ましく、30質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。
【0119】
着色層及び絵柄層は、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
着色層及び絵柄層の厚みは、所望の絵柄に応じて適宜選択すればよいが、意匠性を向上させるために、0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、2μm以上5μm以下がさらに好ましい。特に、被着材の色及び外観を隠蔽する必要がある場合には、含有する着色剤の種類及び含有量のいかんにもよるが、着色層及び絵柄層の厚さは1.5μm以上とすることが好ましい。
【0120】
金属薄膜としては、金、銀、銅、錫、鉄、ニッケル、クロム、コバルト等の金属元素単体の薄膜;前記金属元素の2種以上を含む合金の薄膜;等が挙げられる。合金としては、例えば、真鍮、青銅、ステンレス鋼等が挙げられる。
金属薄膜の膜厚は、0.1μm以上1μm以下程度とできる。
【0121】
上述した剥離層、プライマー層、接着剤層及び装飾層は、例えば、各層を形成する組成物を含む塗布液を、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式で離型性支持体上に塗布し、必要に応じて、乾燥、硬化することにより形成できる。
【0122】
<セパレータ>
転写シートは、転写層の離型性支持体とは反対側にセパレータを有していてもよい。
接着剤層が感圧接着層の場合、転写層上にセパレータを有することにより、転写シートをロール状に巻き取った際にブロッキングを防ぎやすくしたり、転写シートが不用意に他の物体に貼りつくことを防ぎやすくしたりできる。
【0123】
セパレータの材質は、転写層と剥離可能な材質であれば特に制限されることなく、プラスチックフィルムが好適に用いられる。
セパレータとして用いるプラスチックフィルムとしては、上述の支持体で例示したものと同様のものを使用できる。セパレータは、転写層と接する表面が、離型剤等で離型処理されていることが好ましい。離型剤としては、フッ素系離型剤及びシリコーン系離型剤等の公知の離型剤を使用できる。
セパレータの厚みは特に限定されないが、転写シートの取り扱い性を向上させるために、10μm以上200μm以下であることが好ましく、15μm以上150μm以下であることがより好ましく、20μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0124】
〔離型性支持体の製造方法〕
本実施形態の転写シートを構成する離型性支持体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
支持体の一方の主面側に、シワ形成安定剤を樹脂100質量部に対して0.5質量部以上6.0質量部以下で含む、離型層形成用の樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する工程、少なくとも100nm以上200nm未満の波長光で照射して前記塗布層を硬化させて離型層を形成する、離型層形成工程を経て製造することが好ましい。また、樹脂組成物が溶剤を含有する場合、塗布層を形成する工程の後、溶剤乾燥工程を経てもよい。
【0125】
上記転写シートの製造方法は、とりわけ、前記離型層側の60°グロス値が5.0以下という艶消効果を付与し得る転写シートを製造する場合に好適な製造方法となり得る。中でも、本実施形態の離型性支持体の製造方法は、特に、μmオーダーの粒子の添加量が樹脂100質量部に対して15質量部以下という低含有量に抑えて、しかも60°グロス値が5.0以下の艶消(低艶、低光沢)の表面を実現し得る点において、従来公知の艶消化粧材の製造方法とは一線を画するものである。
このような製造方法により、本実施形態の離型性支持体を容易に得ることが可能となる。具体的には、離型層の形成にあたり、少なくとも100nm以上200nm未満という低波長の紫外線を、離型層を形成するシワ形成安定剤を含む樹脂組成物に照射することにより、当該離型層の少なくとも一方の表面に、シワを形成させることができ、離型性支持体の表面(≒離型層の表面)に安定的に艶消効果の視認性及び質感を付与しやすくなる。
【0126】
このような低波長の紫外線を、離型層形成用の樹脂組成物に照射することにより、離型層の少なくとも一方の表面におけるシワの形成が安定することで安定的に艶消効果の視認性及び質感が発現する機構についての詳細は不明であるが、以下の機構によるものと推察される。
【0127】
離型層形成用の樹脂組成物を所定の厚さで塗布した塗布物に低波長の紫外線を照射すると、当該紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、当該樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめることから、表面だけが硬化収縮を生じることで、シワが形成するものと考えられる。このように、シワの形成の安定は、低波長の紫外線の照射により、離型層形成用の樹脂組成物の表面からの一定の厚み方向のみが硬化した状態において生じていると考えられる。
また、後述する実施例と比較例との対比より、シワ形成安定剤を含まない場合にシワの形成が不安定となり艶消効果の視認性が離型層の全面にわたって安定して、十分な程度には発現しないことから、当該艶消効果の安定的な発現は、低波長の紫外線による表面部分のみの硬化だけでは説明できない。すなわち、本実施形態の転写シートがシワを安定的に有することで艶消効果の視認性を発現するには、シワ形成安定剤が含まれることが必要不可欠である。シワ形成安定剤を含まない場合にシワの形成の安定による安定的な艶消効果の視認性が得られていないことを考慮すると、シワ形成安定剤がシワ形成のきっかけとなる核のような機能を有しており、当該核を中心に、上記樹脂組成物の表面部分の樹脂が集まりシワの凸部(突起部)と、凸部(突起部)の形成とともに凹部が形成し、結果としてシワの形成が安定するものと考えられる。そして、このようにして形成したシワは、その形状に起因する光拡散効果により、離型性支持体の表面に艶消効果の視認性を安定的に付与するとともに、質感をも安定的に付与するものと考えられる。
【0128】
本製造方法で用いられるシワ形成安定剤、シワ形成安定剤を含む離型層形成用の樹脂組成物は、上記の本実施形態の離型層で用いられ得るシワ形成安定剤、離型層形成用の樹脂組成物として説明した内容と同じである。
【0129】
本製造方法では、離型層形成用の樹脂組成物を少なくとも100nm以上200nm未満の波長光で照射することが好ましい。この照射により、当該紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、当該樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめることから、表面だけが硬化収縮を生じることでシワの形成が安定し、当該樹脂組成物の表層はシワを有する硬化物となる。そして、かかる後、硬化の進行が遅い当該表面近傍部分から深さ方向に離れた深奥部分への硬化が進み、当該樹脂組成物の全厚さにわたり硬化し、かつ表面に光拡散効果を発現するシワを有する離型層を構成するものとなる。当該深奥部分への硬化の進行を促進する観点からは、後述するように、100nm以上200nm未満の波長光で照射した後、さらに他の照射処理を行うことが好ましい。
【0130】
少なくとも100nm以上200nm未満の波長光としては、例えば、Ar、Kr、Xe、Ne等の希ガス、F、Cl、I、Br等のハロゲンによる希ガスのハロゲン化物等ガス、又はこれらの混合ガスの放電によって形成される励起状態の2量体、すなわちエキシマ(excimer)からの紫外線波長域の光を含む「エキシマ光」が好ましい。エキシマ光の波長及び光源となるエキシマとしては、例えばAr2のエキシマから輻射される波長126nmの光(以下、「126nm(Ar2)」のように略称する。)、146nm(Kr2)、157nm(F2)、172nm(Xe2)、193nm(ArF)等の波長光を好ましく採用することができる。エキシマ光としては、自然放出光、誘導放出によるコヒーレンス(可干渉性)の高いレーザ光のいずれも用いることができるが、通常自然放出光を用いれば十分である。なお、当該光(紫外線)を放射する放電ランプは、「エキシマランプ」とも称されている。
エキシマ光は波長ピークが単一であり、また通常の紫外線(例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプ等から放射される紫外線)と比べて波長の半値幅が狭いことが特徴として挙げられる。このようなエキシマ光を用いることで、シワの形成が安定し、安定的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
【0131】
シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、波長としては好ましくは120nm以上、より好ましくは140nm以上、更に好ましくは150nm以上、より更に好ましくは155nm以上であり、上限として200nm未満であり、特に好ましくは、172nm(Xe2)である。このように、本製造方法では、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、より短波長の波長光を用いることが好ましく、低波長紫外線(波長:280nm以下)のうち、200nm未満の領域の低波長紫外線が好ましい、ともいえる。
【0132】
本製造方法において、上記波長光の積算光量は、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果の視認性及び質感を向上させる観点から、好ましくは1mJ/cm2以上、より好ましくは10mJ/cm2以上、更に好ましくは30mJ/cm2以上、より更に好ましくは50mJ/cm2以上である。また上限としては特に制限はなく、波長光の照射に必要な灯数を低減し、また生産効率の向上等の生産性の観点から、上限として好ましくは1,000mJ/cm2以下、より好ましくは500mJ/cm2以下、更に好ましくは300mJ/cm2以下である。
また、これと同様の観点から、紫外線出力密度は、好ましくは0.01W/cm以上、より好ましくは0.1W/cm以上、更に好ましくは0.5W/cm以上であり、上限として好ましくは10W/cm以下、より好ましくは5W/cm以下、更に好ましくは3W/cm以下である。
また、上記波長光を照射する際の酸素濃度は、より低いことが好ましく、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは750ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、より更に好ましくは300ppm以下である。
【0133】
本製造方法における離型層形成工程では、上記の少なくとも100nm以上200nm未満の波長光での照射の他、離型層形成用の樹脂組成物の硬化に寄与する他の処理を行ってもよい。
例えば、既述の表面部分と表面から深さ方向に離れた深奥部分の硬化の進行度合いの違いによるシワの形成を安定させ、かつ深奥部分への硬化の進行を促進する観点から、例えば200nm以上の波長光、例えば、380nm以上、好ましくは385nm以上400nm以下程度の波長光で予め照射して離型層形成用の樹脂組成物を全体的に予備硬化させた後に、100nm以上200nm未満の波長光で照射してもよいし、また100nm以上200nm未満の波長光での照射後に、樹脂組成物を更に硬化させるために後硬化を行ってもよい。予備硬化、後硬化については、離型層に求められる所望の性状(例えば、耐擦傷性、耐汚染性等の表面特性、また加工特性)に応じて採用の要否を適宜決めればよい。また、上記波長光は紫外線に属するものであるが、紫外線に限らず他の電離放射線、例えば電子線等を用いることも可能である。例えば、後硬化においては、離型層の耐久性向上のため、電子線が好ましく用いられ得る。
【0134】
本製造方法において、離型層は、離型層形成用の樹脂組成物を、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式で塗布した塗布層(未硬化樹脂層)を、少なくとも100nm以上200nm未満の波長光で照射して形成することができる。
【0135】
[化粧材の製造方法]
本実施形態の化粧材の製造方法は、下記(1)及び(2)の工程を有する。
(1)上述した本実施形態の転写シートの転写層側と、被着体とを密着した積層体を得る工程。
(2)前記積層体から離型性支持体を剥離し、被着体上に転写層を有する化粧材を得る工程。
【0136】
本実施形態の転写シートは、離型性支持体の表面形状(≒離型層の表面形状)が、艶消効果の視認性及び質感を有している。離型層の表面形状は、転写層の表面形状に反映される。このため、本実施形態の転写シートを用いた本実施形態の化粧材の製造方法によれば、艶消効果の視認性及び質感に優れた化粧材を得ることができる。
【0137】
〔被着材〕
工程(1)の被着体については、特に限定されることなく、紙、不織布及び織布等の繊維質材料、樹脂、木質系材料、金属、非金属無機材料等を材質とする被着体を適宜選択できる。
被着材の形態(乃至は形状)は、フィルム、シート、板、多面体、多角柱、円柱、錐体、球面、回転楕円体面等の各種形状とすることができ、特に制限はない。フィルム、シート、板については、上記支持体について説明した内容と同じである。
【0138】
また、被着材は、上記支持体と同様に、単層でもよいし、上記材料からなる層を2層以上積層したものであってもよい。被着材が2以上の層の積層体の場合、異種材料の層を2層以上積層し、各層の材料の有する諸性能を互いに補完してなるものが好ましい。2層以上積層してなる基材の例としては、
上記支持体で例示した(1)~(3)の積層体に加えて、以下(4)~(9)の積層体も挙げられる。なお、「/」は各層の界面を示す。
(4)樹脂/金属
(5)樹脂/繊維質材料
(6)金属/木質系材料
(7)金属/非金属無機材料
(8)金属/繊維質材料
(9)金属1/金属2(例えば、金属1が銅、金属2がクロムにより構成される複数の層を有する場合)
【0139】
紙、不織布及び織布等の繊維質材料、樹脂、木質系材料を材質とする被着体としては、上記支持体として説明した材料から適宜選択し得る。
金属としては、アルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウムを含む合金、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄を含む合金、胴、真鍮、青銅等の銅を含む合金、金、銀、クロム、ニッケル、コバルト、錫、チタン等が挙げられる。また、金属により構成される金属基材としては、これらの金属をめっき等の処理を施したものを用いることもできる。
また、非金属無機材料としては、セメント、ALC(軽量気泡コンクリート)、石膏、珪酸カルシウム、木片セメント等の非セラミック系窯業系材料、陶磁器、土器、硝子、琺瑯等のセラミックス系窯業系材料、石灰岩(大理石を含む。)、花崗岩、安山岩等の天然石等が挙げられる。
【0140】
その他、支持体がとり得る態様として、例えば基材が着色されていてもよいこと、添加剤が配合されてもよいこと、表面処理を施したり、プライマー層を形成してもよいこと等、については、上記支持体について説明した内容と同じである。
【0141】
工程(1)において、転写シートの転写層側と、被着体とは、例えば、転写層の接着剤層により密着させることができる。転写層が接着剤層を有さない場合、工程(1)において、転写層と被着体との間に、接着剤を介在させればよい。
【0142】
工程(1)の一実施形態としては、下記(a1)及び(a2)の工程を順に有する、ラミネート法による方法が挙げられる。
(a1)平板上の被着体上に、転写シートの転写層側の面を接し、重ね合わせる工程。
(a2)転写シートの剥離フィルム側から加熱及び/又は加圧し、前記平板上の被着体と前記転写シートの転写層とを密着させる工程。
【0143】
また、工程(1)の他の実施形態としては、下記(z1)~(z4)の工程を順に要する、インモールド成形による方法が挙げられる。インモールド成形では、工程z2で流し込む樹脂が被着体となる。
(z1)転写シートの転写層側をインモールド成形用金型の内側に向けて配置する工程。
(z2)前記インモールド成形用金型内に樹脂を射出注入する工程。
(z3)前記転写シートと、前記樹脂とを一体化させて、前記転写シートの転写層と前記樹脂とを密着させ、樹脂成形体を形成する工程。
(z4)前記樹脂成形体を前記インモールド成形用金型から取り出す工程。
【0144】
なお、転写シートが、転写層の離型性支持体とは反対側にセパレータを有する場合、上記(1)の工程の前に、下記(0)の工程を有することが好ましい。
(0)転写シートからセパレータを剥離する工程。
【0145】
以上のようにして得られる化粧材は、任意切断し、表面や木口部にルーター、カッター等の切削加工機を用いて溝加工、面取加工等の任意加飾を施すことができる。そして種々の用途、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材、外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材、窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材の他、箪笥、棚、机等の一般家具、食卓、流し台等の厨房家具、台所、トイレ、風呂場、洗面台等の水廻りで用いられる各種家具及び部材、又は家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板、車両の内装、外装用部材、看板、防音壁等の各種部材として好適に用いられる。
更に、上記の各種部材の他にも、化粧材は、単体で、又は他の素材と積層乃至は複合化した形態で、包装材料、ディスプレイ用防眩フィルム、白板又は黒板、クレジットカード、キャッシュカード、テレフォンカード、各種証明書類等の各種カード、各種キーボード類の鍵盤、窓、扉、間仕切り等の透明板(窓ガラス、ショウウィンドウ等)、人工皮革等に用いることができる。すなわち、本実施形態の転写シートは、これらの各種部材等に凹凸形状及び絵柄層等の転写層を転写するための転写シートとして好適に用いられる。
また、化粧材のうち、樹脂化粧板については、主に箪笥、棚、机等の一般家具の表面化粧板、扉(ドア)等の建具、各種カウンター等に好適に用いられる。
【実施例0146】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0147】
1.評価
1-1.60°グロス値
実施例及び比較例で得られた化粧材のポリカーボネート樹脂板の背面に、接着剤層を介して黒色板を貼り合わせたサンプルを作製した。前記サンプルの剥離層側から、グロスメータ(「マイクログロス(機種名)」、BYKガードナー社製)を用いて、JIS K5600-4-7:1999に準拠して60°鏡面光沢度を測定した。
【0148】
1-2.耐候性試験前の質感の評価
実施例及び比較例で得られた化粧材について、任意の成人20人に表面の質感(面状態の均一性)について評価させて、以下の基準で評価した。
A:18人以上が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
B:15人以上17人以下が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
C:14人以下が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
【0149】
1-3.耐候性試験後の質感の評価
実施例及び比較例で得られた化粧材について、下記の耐候性試験を実施した。耐候性試験後の化粧材について、1-2と同一の基準で、表面の質感(面状態の均一性)を評価した。
<耐候性試験>
耐候性試験装置(ダイプラ・ウィンテス株式会社製の商品名「メタルウェザー」)を用いて、耐候性試験を実施した。耐候性試験では、下記の「紫外線照射工程」、「結露工程」、「水噴霧工程」を1サイクルとして、500時間経過するまで前記サイクルを繰り返し実施した。
《紫外線照射工程》
照度:60mW/cm2、ブラックパネル温度:63℃、槽内湿度:50%RH、時間:20時間
《結露工程》
照度:0mW/cm2、ブラックパネル温度:30℃、槽内湿度:98%RH、時間:4時間
《水噴霧工程》
結露工程の前後10秒間、水を噴霧する。
【0150】
2.転写シートの作製、転写シートを用いた化粧材の作製
[実施例1]
支持体(コロナ放電処理を施したPETシート。厚さ:100μm)の一方の面に、アクリル樹脂及びウレタン樹脂をバインダー樹脂として含む樹脂組成物を塗布、乾燥して、易接着層(厚さ:2μm)を形成した。
易接着層上に、下記の離型層形成用の樹脂組成物を、グラビア法により塗布し(塗布量:5g/m2(乾燥時))、次いでLEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:395nm、紫外線量:0.6W/cm2)、次いでエキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:172nm(Xe2)、紫外線出力密度:1W/cm、積算光量:10~100mJ/cm2、窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下))、次いで更に高圧水銀灯を用いて紫外線を照射して(波長:365nm、紫外線出力密度:200W/cm)、離型層を形成した。
上記工程により、支持体上に、易接着層及び離型層を有する離型性支持体を得た。
【0151】
次いで、離型性支持体の離型層上に、下記の剥離層形成用の樹脂組成物1を塗布して未硬化樹脂層を形成し、電子線(加圧電圧:175KeV、5Mrad(50kGy))を照射して未硬化樹脂層を硬化させて、剥離層(厚さ:5μm)を形成した。その後、剥離層上にコロナ照射を実施した。
次いで、コロナ照射した剥離層上に、下記のプライマー層形成用の樹脂組成物を塗布、乾燥し、厚さ2.5μmのプライマー層を形成した。
次いで、上記プライマー層上に、アクリル樹脂(PMMA、重量平均分子量:96,000)を塗布、乾燥し、厚さ4μmのヒートシール性を有する接着剤層を形成した。接着層剤を形成後、常温にて24時間エージングすることで、実施例1の転写シートを得た。
【0152】
実施例1の転写シートの接着剤層と、被着体であるポリカーボネート板(厚さ:2mm、AGC社製、商品名「カーボポリッシュ」)の一方の面とを対向させ、積層した。その後、転写シート側より、ラミネーター(ロール式熱転写機、「RT-300(型番)」、ナビタス株式会社製)を用い、ラミロール温度160℃、搬送速度1.5m/minの条件で熱しながら加圧し、転写シートの転写層と被着体を密着した積層体を得た。
次いで、前記積層体から剥離フィルムを剥離し、実施例1の化粧材を得た。実施例1の化粧材は、被着体上に転写層を有している。
【0153】
<離型層形成用の樹脂組成物>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4官能):65質量部
・単官能アクリレートモノマー:35質量部
・シワ形成安定剤(シリカ粒子、平均粒子径:3μm):1.0質量部
・光重合開始剤(ベンゾフェノン系):0.8質量部
【0154】
<剥離層形成用の樹脂組成物1>
・電離放射線硬化性樹脂(2官能ウレタンアクリレートオリゴマー):100質量部
・紫外線吸収剤(BASF社、商品名:Tinuvin479):0.5質量部
・光安定剤(BASF社、商品名:Tinuvin123):0.3質量部
【0155】
<プライマー層形成用の樹脂組成物>
・ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体:100質量部
(重量平均分子量50,000)
・紫外線吸収剤(BASF社、商品名:Tinuvin479):20質量部
・紫外線吸収剤(BASF社、商品名:Tinuvin400):15質量部
・光安定剤(BASF社、商品名:Tinuvin123):3.5質量部
・ブロッキング防止剤(平均粒子径3μmのシリカ):10質量部
・溶剤:適量
【0156】
[実施例2~3]
実施例1において、離型層形成用の樹脂組成物中のシワ形成安定剤を第1表に示される使用量に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3の転写シートを得た。得られた転写シートを用いて、実施例1と同様にして、実施例2~3の化粧材を得た。
【0157】
[実施例4]
実施例1において、離型層形成用の樹脂組成物中のシワ形成安定剤を第1表に示される使用量に変更した。さらに、剥離層形成用の樹脂組成物1を、下記の剥離層形成用の樹脂組成物2に変更した。前述した変更点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の転写シートを得た。得られた転写シートを用いて、実施例1と同様にして、実施例4の化粧材を得た。
【0158】
<剥離層形成用の樹脂組成物2>
・電離放射線硬化性樹脂(2官能ウレタンアクリレートオリゴマーと6官能ウレタンアクリレートオリゴマーとの質量比4:6):100質量部
・紫外線吸収剤(BASF社、商品名:Tinuvin479):2質量部
・光安定剤(日本乳化剤株式会社、商品名:サノールLS-3410):3質量部
【0159】
[比較例1]
実施例1において、離型層形成用の樹脂組成物中のシワ形成安定剤の使用量を0質量部とした以外は、実施例1と同様にして転写シートを得た。得られた転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を得た。
【0160】
[比較例2]
実施例1において、離型層形成用の樹脂組成物中のシワ形成安定剤の使用量を0質量部とし、代わりに艶消剤(平均粒子径:5.0μm)を15.0質量部使用したものを用い、高圧水銀灯を用いて紫外線を照射(波長:365nm、紫外線出力密度:200W/cm)した以外は、実施例1と同様にして転写シートを得た。得られた転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を得た。
【0161】
[比較例3]
支持体(厚さ100μmのPET)の一方の面からサンドブラスト処理を施した。次いで、サンドブラスト処理面上に、実施例1と同様に、剥離層、プライマー層及び接着剤層を形成し、比較例3の転写シートを得た。次いで、得られた転写シートを用いて、実施例1と同様にして化粧材を得た。
【0162】
【0163】
第1表の結果から、実施例1~4の転写シートを用いて得られた化粧材は、化粧材の60°グロス値が1.4~1.8となっており、艶消効果の視認性に極めて優れることが確認された。
一方、離型層にシワ形成安定剤を含まない比較例1の転写シートを用いて得られた化粧材は、
図7に示されるようにその表面にはシワが若干発生していたものの、安定的に艶消効果の視認性が得られず、優れた質感を付与できるものではなかった。離型層に艶消剤を含む比較例2の化粧シートは15.0質量部と実施例におけるシワ形成安定剤の含有量より多い量を含有させても、離型層に相当する表面の層にシワの形成がなく、これを用いて得られた化粧材の60°グロス値は8.3と、実施例におけるシワ形成安定剤よりも多量に艶消剤を用いたにもかかわらず、実施例の化粧材のグロス値に劣っており、また質感にも劣るものであることが確認された。また、サンドブラスト処理された支持体を含む比較例3の転写シートを用いて得られた化粧材は、60°グロス値が21.4と高く、艶消し効果に劣るものであった。
【0164】
また実施例1~3の離型性支持体の離型層側表面の光学顕微鏡画像(各々
図4~6)によれば、これらの実施例の転写シートは離型層の表面に不規則なシワを均一に有していることが確認できる。一方、比較例1の光学顕微鏡画像(
図7)によれば既述のように、その表面にはシワが若干発生しており、部分的に実施例と同様のシワを有する領域はあるものの、シワの形成が不安定であり(均一でなく)、シワがない領域と混在していることが分かる。また、比較例2の光学顕微鏡画像(
図8)によれば、実施例の転写シートのようなシワは確認されず、艶消剤の輪郭形状に対応した凸形状が確認された。この結果から、本実施形態の転写シートは、その表面のシワに起因して極めて優れた艶消効果の視認性が発現していることが確認された。