(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180644
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241219BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024182596
(22)【出願日】2024-10-18
(62)【分割の表示】P 2021172539の分割
【原出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手操 亮裕
(72)【発明者】
【氏名】玉井 伸三
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
(57)【要約】
【課題】電力変換器から出力される三相交流電流を高速に制御することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】複数の電力変換器3は、直流電圧を三相交流電圧に変換して出力する。複数の第1の電流検出器5は複数の電力変換器3の出力電流を検出する。複数の電力変換器3の交流端子は多重変圧器2の複数の2次巻線にそれぞれ接続され、多重変圧器2の複数の1次巻線は互いに直列接続されて三相交流電力系統1に接続される。電流制御部は、交流電流指令値に対する各第1の電流検出器5の検出値の偏差を補償するためのフィードバック制御によって、複数の三相交流電圧指令値を生成する。電流制御部は、d軸電流指令値およびq軸電流指令値を三相交流電流指令値に変換する第1の座標変換器と、三相交流電流指令値に対する、各第1の電流検出器5によって検出される出力電流の偏差を入力とし、少なくとも比例制御演算を行う第1の補償器とを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を三相交流電圧に変換して交流端子に出力する複数の電力変換器と、
前記複数の電力変換器の出力電流をそれぞれ検出する複数の第1の電流検出器と、
前記複数の電力変換器を制御する制御装置とを備え、
前記複数の電力変換器の前記交流端子は多重変圧器の複数の2次巻線にそれぞれ接続され、前記多重変圧器の複数の1次巻線は互いに直列に接続されて三相交流電力系統または三相交流負荷に接続され、
前記制御装置は、
交流電流指令値に対する各前記複数の第1の電流検出器の検出値の偏差を補償するためのフィードバック制御によって、複数の三相交流電圧指令値を生成する電流制御部と、
各前記複数の三相交流電圧指令値に基づいて各前記複数の電力変換器の制御信号を生成することにより、前記複数の電力変換器をPWM制御するPWM回路とを含み、
前記交流電流指令値は、d軸電流指令値およびq軸電流指令値を含み、
前記電流制御部は、
前記d軸電流指令値および前記q軸電流指令値を三相交流電流指令値に変換する第1の座標変換器と、
前記三相交流電流指令値に対する、各前記複数の第1の電流検出器によって検出される前記出力電流の偏差を入力とし、少なくとも比例制御演算を行う第1の補償器とを含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記多重変圧器の1次巻線電流を検出する第2の電流検出器をさらに備え、
前記第2の電流検出器によって検出される前記1次巻線電流をd軸電流値およびq軸電流値に変換する第2の座標変換器と、
前記d軸電流指令値に対する前記d軸電流値の偏差および前記q軸電流指令値に対する前記q軸電流値の偏差を入力とし、少なくとも積分制御演算を行う第2の補償器と、
前記第2の補償器による演算値を二相三相変換する第3の座標変換器と、
各前記複数の第1の電流検出器の検出値に対する前記第1の補償器による演算値と、前記第3の座標変換器による演算値とを加算することにより、前記複数の三相交流電圧指令値を生成する加算器とを含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電流制御部は、
前記複数の第1の電流検出器によって検出される前記複数の電力変換器の出力電流の平均電流を演算する演算器と、
前記平均電流をd軸電流値およびq軸電流値に変換する第2の座標変換器と、
前記d軸電流指令値に対する前記d軸電流値の偏差および前記q軸電流指令値に対する前記q軸電流値の偏差を入力とし、少なくとも積分制御演算を行う第2の補償器と、
前記第2の補償器による演算値を二相三相変換する第3の座標変換器と、
各第1の電流検出値に対する前記第1の補償器による演算値と、前記第3の座標変換器による演算値とを加算することにより、前記複数の三相交流電圧指令値を生成する加算器とを含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電流制御部は、
前記複数の第1の電流検出器のいずれか1つの電流検出器の検出値をd軸電流値およびq軸電流値に変換する第2の座標変換器と、
前記d軸電流指令値に対する前記d軸電流値の偏差および前記q軸電流指令値に対する前記q軸電流値の偏差を入力とし、少なくとも積分制御演算を行う第2の補償器と、
前記第2の補償器による演算値を二相三相変換する第3の座標変換器と、
各第1の電流検出値に対する前記第1の補償器による演算値と、前記第3の座標変換器による演算値とを加算することにより、前記複数の三相交流電圧指令値を生成する加算器とを含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
直流電圧を三相交流電圧に変換して交流端子に出力する複数の電力変換器と、
前記複数の電力変換器の出力電流をそれぞれ検出する複数の第1の電流検出器と、
前記複数の電力変換器を制御する制御装置とを備え、
前記複数の電力変換器の前記交流端子は多重変圧器の複数の2次巻線にそれぞれ接続され、前記多重変圧器の複数の1次巻線は互いに直列に接続されて三相交流電力系統または三相交流負荷に接続され、
前記多重変圧器の1次巻線電流を検出する第2の電流検出器をさらに備え、
前記制御装置は、
交流電流指令値に対する各前記複数の第1の電流検出器の検出値の偏差を補償するためのフィードバック制御によって、複数の三相交流電圧指令値を生成する電流制御部と、
各前記複数の三相交流電圧指令値に基づいて各前記複数の電力変換器の制御信号を生成することにより、前記複数の電力変換器をPWM制御するPWM回路とを含み、
前記交流電流指令値は、d軸電流指令値およびq軸電流指令値を含み、
前記電流制御部は、
前記d軸電流指令値および前記q軸電流指令値を三相交流電流指令値に変換する第1の座標変換器と、
前記複数の第1の電流検出器によって検出される前記複数の電力変換器の出力電流の平均電流を演算する演算器と、
前記三相交流電流指令値に対する前記平均電流の偏差を入力とし、少なくとも比例制御演算を行う第1の補償器と、
前記第2の電流検出器によって検出される前記1次巻線電流をd軸電流値およびq軸電流値に変換する第2の座標変換器と、
前記d軸電流指令値に対する前記d軸電流値の偏差および前記q軸電流指令値に対する前記q軸電流値の偏差を入力とし、少なくとも積分制御演算を行う第2の補償器と、
前記第2の補償器による演算値を二相三相変換する第3の座標変換器と、
前記第1の補償器による演算値と、前記第3の座標変換器による演算値とを加算することにより、前記複数の三相交流電圧指令値を生成する加算器とを含む、電力変換装置。
【請求項6】
前記演算器はさらに、前記平均電流に対する各前記複数の電力変換器の出力電流の偏差を演算し、
前記第1の補償器はさらに、各前記複数の電力変換器の出力電流の偏差を小さくするための比例制御演算を行い、
前記加算器は、前記平均電流の偏差に対する前記第1の補償器による演算値と、各前記複数の電力変換器の出力電流の偏差に対する前記第1の補償器による演算値と、前記第3の座標変換器による演算値とを加算することにより、前記複数の三相交流電圧指令値を生成する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1の補償器は、少なくとも比例要素を含み、
前記第1の補償器は、入力信号の直流成分を通過させるとともに特定の周波数成分を減衰させるフィルタ、位相進み遅れ特性を有するフィルタ、およびノッチフィルタのいずれかをさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第2の補償器は、少なくとも積分要素を含み、
前記第2の補償器は、入力信号の直流成分を通過させるとともに特定の周波数成分を減衰させるフィルタおよび比例要素の少なくともいずれかをさらに含む、請求項2から6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平7-28534号公報(特許文献1)には、変圧器を介して電力系統または負荷と接続される電力変換装置の制御装置が開示される。電力変換装置は、自己消弧素子から構成されている。電力系統の電圧または電力変換装置の出力電圧に直流成分が含まれていた場合、変圧器に直流成分を含んだ励磁電流が流れることになり、この励磁電流の直流成分が変圧器を偏磁させる。特許文献1では、制御装置は、変圧器の1次巻線電流と2次巻線電流との差分に含まれる直流成分を検出し、直流成分に基づいて電力変換装置の出力電圧指令値を補正するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した制御装置において、電力変換装置の出力電圧指令値は、電圧検出器により検出される系統電圧と、電流検出器により検出される変圧器の1次巻線電流とを用いて生成される。具体的には、1次巻線電流をdq変換したd軸電流およびq軸電流をd軸電流指令値およびq軸電流指令値にそれぞれ追従させるための電流フィードバック制御が実行されて出力電圧指令値が生成される。1次巻線電流が三相平衡状態にあるときには、d軸電流およびq軸電流は直流量として導出される。これらの直流量はフィードバック制御の帰還信号であり、これらに対する指令値が与えられて電流制御系が構成される。
【0005】
しかしながら、電力系統の電圧変動や変圧器における偏磁の発生によって三相不平衡状態となった場合には、各相に同相で流れる零相電流が生じる。上述した電流制御系では零相電流についての制御がなされないため、電力変換器の出力電流への外乱を抑制することができず、電力変換器に過電流が流れてしまうおそれがある。
【0006】
上記特許文献1では、変圧器の1次巻線電流と2次巻線電流との差分に含まれる直流成分を検出するためにフィルタが用いられる。このフィルタには、入力のうち基本波成分およびそれ以上の周波数成分を減衰させるために、低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)のような応答性の遅いフィルタが使用される。これは、応答性の速いフィルタでは、フィルタを通過する高調波成分が電流フィードバック制御の外乱となってしまい、電力変換器の出力電流が歪み易くなるためである。その一方で、応答性の遅いフィルタを用いると、偏磁を高速に抑制することができず、結果的に電力変換器に過電流が流れるおそれがある。
【0007】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電力変換器から出力される三相交流電流を高速に制御することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る電力変換装置は、直流電圧を三相交流電圧に変換して交流端子に出力する電力変換器と、電力変換器の出力電流を検出する第1の電流検出器と、電力変換器を制御する制御装置とを備える。電力変換器の交流端子は変圧器の2次巻線に接続される。変圧器の1次巻線は三相交流電力系統または三相交流負荷に接続される。制御装置は、電流制御部と、PWM回路とを含む。電流制御部は、交流電流指令値に対する第1の電流検出器の検出値の偏差を補償するためのフィードバック制御によって、三相交流電圧指令値を生成する。PWM回路は、三相交流電圧指令値に基づいて電力変換器の制御信号を生成することにより、電力変換器をPWM制御する。電流制御部は、第1の電流検出器の検出値に基づいた3自由度を有する電流値と、交流電流指令値に基づいた3自由度を有する電流指令値との偏差を入力とし、少なくとも比例制御演算を行う第1の補償器を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電力変換器から出力される三相交流電流を高速に制御することができる電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図2】
図1に示した電力変換器の構成例を示す回路図である。
【
図3】第1補償器および第2補償器の構成例を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態2に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図5】実施の形態3に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図6】実施の形態4に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図7】実施の形態5に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図8】実施の形態6に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図9】実施の形態7に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図10】実施の形態8に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図11】実施の形態9に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図12】実施の形態10に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図13】参考例に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一または相当部分について同一符号を付して、その説明は原則的に繰り返さないものとする。
【0012】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。実施の形態1に係る電力変換装置は、例えば、三相交流電力系統1の無効電力を補償する無効電力補償装置として使用される。あるいは、実施の形態1に係る電力変換装置は、図示しない三相交流負荷に電力を供給する給電装置として使用される。
【0013】
図1に示すように、実施の形態1に係る電力変換装置は、電力変換器3と、電圧検出器4と、電流検出器5と、制御装置7とを備える。電力変換器3の3つの交流端子は、三相変圧器2を介して、U相、V相、W相を有する三相交流電力系統1の三相送電線に接続されている。
【0014】
電力変換器3の直流端子は、バッテリまたはコンデンサなど直流電力を蓄える電力貯蔵装置、あるいは直流電力を発生する直流電源に接続されている。
図2は、
図1に示した電力変換器3の構成例を示す回路図である。
【0015】
図2に示すように、電力変換器3は、自己消弧型のスイッチング素子を有する。
図2の例では、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられている。電力変換器3は、IGBT素子Q1~Q6と、ダイオードD1~D6とを有する。IGBT素子Q1,Q3,Q5のコレクタはともに直流正母線PLに接続され、それらのエミッタはそれぞれ交流端子Tu,Tv,Twに接続される。IGBT素子Q2,Q4,Q6のコレクタはそれぞれ交流端子Tu,Tv,Twに接続され、それらのエミッタは直流負母線NLに接続される。ダイオードD1~D6は、それぞれIGBT素子Q1~Q6に逆並列に接続される。
【0016】
IGBT素子Q1~Q6は、制御装置7から与えられる制御信号(ゲートパルス)によってオンオフが制御される。本実施の形態では、IGBT素子Q1~Q6の制御方式として、PWM(Pulse Width Modulation)制御を適用することができる。
【0017】
電力変換器3は、制御装置7から与えられるゲートパルスに従って、電力貯蔵装置(例えば、コンデンサC1)からの直流電力を三相交流電力に変換する。電力変換器3によって生成された三相交流電力は三相変圧器2を介して三相交流電力系統1に供給される。三相変圧器2の三相交流電力系統1側を1次側とし、三相変圧器2の電力変換器3側を2次側とする。
【0018】
図1に戻って、電圧検出器4は、三相交流電力系統1の三相交流電圧を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。三相交流電圧は、U相電圧Vu、V相電圧VvおよびW相電圧Vwを有する。
【0019】
電流検出器5は、電力変換器3の出力電流(三相交流電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。電力変換器3の出力電流は、三相変圧器2の2次巻線を流れる電流(以下、2次巻線電流とも称する)に相当しており、U相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwを有する。
【0020】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17と、PWM回路22とを含む。
【0021】
位相検出器9は、周知のPLL(Phase Locked Loop)回路またはDFT(Discrete Fourier Transform)回路などを用いて、電圧検出器4の出力信号に基づいて、基準位相θを生成する。基準位相θは、三相交流電力系統1の系統電圧の正相電圧位相である。
【0022】
電流制御部8は、交流電流指令値に対する電流検出器5の検出値の偏差を補償するための制御演算により、フィードバック制御量を算出する。交流電流指令値は、三相交流電力系統1の系統電圧を一定に維持するため、あるいは、電力変換器3に入力される直流電圧を一定に制御するために生成される。交流電流指令値は、一般に、上位コントローラで生成される。電力変換装置により三相交流電力系統1の電圧制御を行う場合には、系統制御系が上位コントローラとされる。
図1の例では、交流電流指令値は、d軸電流指令値id*と、q軸電流指令値iq*とを含む。
【0023】
電流制御部8は、固定座標変換器10と、減算器11~13と、dq変換器14と、逆dq変換器15と、加算器16と、第1補償器CP11~CP13と、第2補償器CP21,CP22とを含む。
【0024】
固定座標変換器10は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を、基準位相θを用いて固定座標変換(二相三相変換)を行うことにより、三相交流電流指令値に変換する。二相三相変換は次式(1)で表される。三相交流電流指令値は、電力変換器3の出力電流指令値であり、U相電流指令値iu*、V相電流指令値iv*およびW相電流指令値iw*を有する。
【0025】
【0026】
減算器11は、U相電流指令値iu*と、電流検出器5によって検出されるU相電流iuとの偏差Δiuを算出する(Δiu=iu*-iu)。減算器12は、V相電流指令値iv*と、電流検出器5によって検出されるV相電流ivとの偏差Δivを算出する(Δiv=iv*-iv)。減算器13は、W相電流指令値iw*と、電流検出器5によって検出されるW相電流iwとの偏差Δiwを算出する(Δiw=iw*-iw)。
【0027】
第1補償器CP11~CP13は、直流ゲインが有限になる周波数特性を持つ補償器である。すなわち、第1補償器CP11~CP13は積分要素を有していない。第1補償器CP11~CP13は、少なくとも比例要素を有しており、三相交流電流指令値に対する三相交流電流の偏差Δiu,Δiv,Δiwを小さくするための比例制御演算により、比例制御量を算出する。なお、第1補償器CP11~CP13には、直流以外の成分に対して位相進み遅れ特性やノッチフィルタ特性をさらに持たせることができる。第1補償器CP11~CP13は「第1の補償器」の一実施例に対応する。
【0028】
dq変換器14は、減算器11~13からの偏差Δiu,Δiv,Δiwを、基準位相θを用いたdq変換(三相二相変換)を行うことにより、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqに変換する。三相二相変換は次式(2)で表される。d軸偏差Δidは、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差に対応する(Δid=id*-id)。q軸偏差Δiqは、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差に対応する(Δiq=iq*-iq)。
【0029】
【0030】
第2補償器CP21,CP22は、少なくとも積分要素を持つ補償器である。第2補償器CP21,CP22は、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqを小さくするための積分制御演算により、積分制御量を算出する。なお、第2補償器CP21,CP22には、直流以外の成分を除去するためのフィルタおよび/または比例要素をさらに持たせることができる。第2補償器CP21,CP22は「第2の補償器」の一実施例に対応する。
【0031】
逆dq変換器15は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)を行うことにより、三相分の積分制御量に変換する。
【0032】
図3は、第1補償器CP11~CP13および第2補償器CP21,CP22の構成例を示すブロック図である。
【0033】
図3に示すように、第1補償器CP11~CP13の各々は、乗算器81を有する。Kpは比例ゲインである。第1補償器CP11は、U相電流指令値iu*に対するU相電流iuの偏差Δiuに基づいて、比例制御量Kp・Δiuを算出する。第1補償器CP12は、V相電流指令値iv*に対するV相電流ivの偏差Δivに基づいて、比例制御量Kp・Δivを算出する。第1補償器CP13は、W相電流指令値iw*に対するW相電流iwの偏差Δiwに基づいて、比例制御量Kp・Δiwを算出する。
【0034】
第1補償器CP11~CP13は、直流ゲインが有限であれば、周波数特性を持たせてもよく、フィルタ82をさらに有していてもよい。このフィルタ82は、例えば、三相変圧器2における偏磁の発生時に三相交流電圧指令値の歪みを軽減するためのフィルタである。あるいは、フィルタ82は、比例制御量から特定の高調波成分を除去するためのフィルタ、または、制御安定性を改善するための位相進み遅れ特性を有するフィルタである。
【0035】
なお、偏差Δiu,Δiv,Δiwに含まれる直流成分は、フィルタ82で除去されないため、フィルタ82を通過しても変化しない。そのため、第1補償器CP11~CP13を用いた電流制御は、三相変圧器2の偏磁の抑制に適している。
【0036】
また、フィルタ82には、従来の電力変換装置において直流偏磁量を検出するために用いられるフィルタ(代表的にはLPF)に比べて応答の速いフィルタを適用することができる。第1補償器CP11~CP13は、電流制御のための補償器であるため、応答が速くても電流制御の外乱にはならない。
【0037】
第2補償器CP21,CP22の各々は、乗算器83および積分器84を有している。Kiは積分制御ゲインである。第2補償器CP21は、d軸偏差Δidに基づいて、積分制御量Σ(Ki・Δid)を算出する。第2補償器CP22は、q軸偏差Δiqに基づいて、積分制御量Σ(Ki・Δiq)を算出する。なお、第2補償器CP21,CP22は、直流以外の成分を除去するためのフィルタ(例えば、移動平均フィルタなど)および/または比例要素をさらに有していてもよい。
【0038】
図1に戻って、加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、偏差Δiu,Δiv,Δiwを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0039】
乗算器18~20および逆dq変換器21は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。具体的には、乗算器18は、d軸電流指令値id*にゲインωLを乗算する。乗算器19は、q軸電流指令値iq*にゲインωLを乗算する。なお、ωLは、電力変換器3および三相交流電力系統1の間に存在するリアクタンスであり、三相変圧器2の漏れリアクタンス成分を含む。乗算器20は、乗算器19による演算値に「-1」を乗算する。逆dq変換器21は、式(1)を用いて逆dq変換(二相三相変換)を行うことにより、d軸およびq軸の補正量を三相分の補正量に変換する。このようにすると、電力変換器3から三相交流電力系統1までの配線にて生じる電圧降下を補正する形で、電力変換器3の出力電圧を制御することができる。ただし、乗算器18~20および逆dq変換器21は、必要に応じて追加または省略することができる。
【0040】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値を生成する。三相交流電圧指令値は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*およびW相電圧指令値Vw*を有する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0041】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてゲートパルスを生成する。例えば、PWM回路22は、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と搬送波(例えば三角波)との比較に基づいてゲートパルスを生成する。なお、PWM回路22は、搬送波を用いてゲートパルスを生成する方法以外に、予め定められたテーブルを参照して三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたゲートパルスを生成する方法や、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の振幅および位相を用いた演算処理によってゲートパルスを生成する方法などを用いることができる。電力変換器3は、ゲートパルスに従って三相交流電力を、三相変圧器2を介して三相交流電力系統1に供給する。
【0042】
以下に、実施の形態1に係る電力変換装置が奏する作用効果について、参考例としての電力変換装置(
図13参照)と比較しながら説明する。
【0043】
図13は、参考例に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
図13に示すように、参考例に係る電力変換装置は、電力変換器3と、電圧検出器4と、電流検出器6と、制御装置7Aとを備える。参考例に係る電力変換装置は、基本的には
図1に示した実施の形態1に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、電流検出器5および制御装置7に代えて、電流検出器6および制御装置7Aを備える点が実施の形態1に係る電力変換装置とは異なっている。
【0044】
電流検出器6は、三相変圧器2の1次巻線を流れる電流(以下、1次巻線電流とも称する)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7Aに与える。
【0045】
制御装置7Aは、位相検出器9と、dq変換器200と、電流制御部8Aと、乗算器18,19と、減算器209と、加算器210~212と、逆dq変換器213と、PWM回路22とを含む。
【0046】
位相検出器9は、電圧検出器4の出力信号に基づいて、基準位相θを生成する。dq変換器200は、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwを、基準位相θを用いたdq変換により、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqに変換する。
【0047】
電流制御部8Aは、交流電流指令値に対する電流検出器6の検出値の偏差を小さくするための制御演算により、フィードバック制御量を算出する。交流電流指令値は、d軸電流指令値id*と、q軸電流指令値iq*とを含む。
【0048】
具体的には、電流制御部8Aは、dq変換器214と、減算器201,202と、比例器203,204と、積分器205,206と、加算器207,208とを含む。
【0049】
dq変換器214は、電流検出器6によって検出される1次巻線電流(三相交流電流)を、式(2)を用いたdq変換(三相二相変換)を行うことにより、d軸電流idおよびq軸電流iqに変換する。
【0050】
減算器201は、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差(d軸偏差)Δidを算出する。減算器202は、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差(q軸偏差)Δiqを算出する。
【0051】
比例器203は、d軸偏差Δidに基づいて比例制御量Kp・Δidを算出する。比例器204は、q軸偏差Δiqに基づいて比例制御量Kp・Δiqを算出する。Kpは比例ゲインである。
【0052】
積分器205は、d軸偏差Δidに基づいて積分制御量Σ(Ki・Δid)を算出する。積分器206は、q軸偏差Δiqに基づいて積分制御量Σ(Ki・Δiq)を算出する。Kiは積分ゲインである。
【0053】
加算器207は、比例器203からの比例制御量Kp・Δidと、積分器205からの積分制御量Σ(Ki・Δid)とを加算することにより、d軸偏差Δidを低減するためのフィードバック制御のために要求される、d軸電圧指令値Vd*を生成する。加算器208は、比例器204からの比例制御量Kp・Δiqと、積分器206からの積分制御量Σ(Ki・Δiq)とを加算することにより、q軸偏差Δiqを低減するためのフィードバック制御のために要求される、q軸電圧指令値Vq*を生成する。
【0054】
乗算器18は、d軸電流指令値id*にゲインωLを乗算する。乗算器19は、q軸電流指令値iq*にゲインωLを乗算する。乗算器18,19は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。
【0055】
減算器209は、加算器207からのd軸電圧指令値Vd*から乗算器19からの補正量を減算する。加算器210は、加算器208からのq軸電圧指令値Vq*に乗算器18からの補正量を加算する。
【0056】
加算器211は、加算器209からのd軸電圧指令値Vd*にdq変換器200からのd軸電圧Vdを加算する。加算器212は、加算器210からのq軸電圧指令値Vq*にdq変換器200からのq軸電圧Vqを加算する。
【0057】
逆dq変換器213は、加算器211からのd軸電圧指令値Vd*および加算器212からのq軸電圧指令値Vq*を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0058】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3は、ゲートパルスに従って三相交流電力を、三相変圧器2を介して三相交流電力系統1に供給する。
【0059】
図13に示す参考例では、電流検出器6によって検出される三相変圧器2の1次巻線電流(三相交流電流)を、d軸電流idおよびq軸電流iqにdq変換(三相二相変換)する。そして、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差Δidおよびq軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差Δiqに対して比例積分制御演算を行うことにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を生成する。
【0060】
ここで、参考例にて用いられるdq変換は、三相交流電流が三相平衡状態であることを前提としている。三相平衡状態とは、各相電流の振幅が等しく、かつ、位相が120°ずつずれている状態である。三相平衡状態では、各相電流の和が零(すなわち、iu+iv+iw=0)であるため、零相電流が零となる。
【0061】
dq変換によれば、電源角速度で回転する直交2軸座標系(dq座標系)において各軸上の状態量は直流量として扱うことができ、三相交流電流の各相間の制御が干渉することを抑制することができる。
【0062】
しかしながら、三相交流電力系統1に過渡的な電圧変動が生じた場合や三相変圧器2に偏磁が発生した場合などにおいては、三相交流電流の正弦波状の波形が歪む、あるいは三相交流電流に直流成分が重畳されるなどの外乱が生じる場合がある。このような場合、三相交流電流が三相不平衡状態となり、零相電流が流れるが、参考例による電流フィードバック制御では、零相電流が制御されないために、上述した外乱を抑制することが困難となる。
【0063】
これに対して、実施の形態1に係る電力変換装置では、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に変換し、この三相交流電流指令値に対する三相交流電流の偏差を低減するように電流フィードバック制御が実行される。すなわち、参考例では、電流フィードバック制御がd軸電流の制御系およびq軸電流の制御系から構成され、制御の自由度が2であるのに対して、実施の形態1では、三相交流電流の各相電流に対して制御系が構成されるため、電流フィードバック制御の自由度が3となる。したがって、電流フィードバック制御の自由度が電力変換器3の交流端子の数と同数となるため、電力変換器3の交流端子Tu,Tv,Twの各々に生じている外乱を電流フィードバック制御によって抑制することが可能となる。
【0064】
さらに、実施の形態1に係る電力変換装置では、電力変換器3の出力電流(すなわち、三相変圧器2の2次巻線電流)を検出し、この検出値を用いて上述した各相の電流フィードバック制御が実行される。電力変換器3の出力電流をフィードバック制御する場合、制御対象に三相変圧器2の励磁回路が含まれることになるが、励磁回路のインピーダンスは偏磁発生時に変化するためにその扱いが難しい。また、フィードバック電流に偏磁電流が含まれるため、生成される電圧指令値の波形が歪んでしまい、高調波を発生させる可能性がある。実施の形態1では、電力変換器3から出力される三相交流電流の各相電流について制御系が構成されるため、偏磁発生時にも相ごとに個別に対応することができる。その結果、三相変圧器2の偏磁を解消するように電力変換器3の出力電流が制御されるため、偏磁の発生によって電力変換器3に過電流が流れることを抑制することができる。
【0065】
ここで、偏磁電流を抑制するための従来の手法としては、特許文献1に記載されるように、三相変圧器2の1次巻線電流と2次巻線電流との差分に含まれる直流成分に基づいて、電力変換器の出力電圧指令値を補正する手法がある。しかしながら、この手法では、直流成分の検出にLPFなどの応答の遅いフィルタを用いるため、当該フィルタの遅延の影響を受けて偏磁電流抑制制御の応答性が遅くなることが懸念される。一方、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、比例制御を担う第1補償器CP11~CP13の各々が各相電流に含まれる直流成分を小さくするための制御演算を実行するため、より高速に偏磁電流を抑制することができる。
【0066】
なお、実施の形態1における電流フィードバック制御は、三相交流電流指令値に対する三相交流電流の偏差Δiu,Δiv,Δiwに基づいて比例制御量を算出する一方で、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に対するd軸電流およびq軸電流の偏差Δid,Δiqに基づいて積分制御量を算出するように構成されている。これは、三相交流電流は三相交流電力系統1の周波数で振動する交流量であるため、三相交流電流の偏差の変化を時間積分する積分制御では定常偏差をなくすことができないためである。一方、d軸電流およびq軸電流は直流量であるため、d軸電流およびq軸電流の偏差の時間積分によって制御量が増加し続けるため、定常偏差をなくすことができる。
【0067】
[実施の形態2]
図4は、実施の形態2に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0068】
図4に示すように、実施の形態2に係る電力変換装置は、基本的には
図1に示した実施の形態1に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、電流検出器6を備える点、および制御装置7が減算器23および偏磁検出器24を有する点が実施の形態1に係る電力変換装置とは異なっている。
【0069】
電流検出器6は、三相変圧器2の1次巻線を流れる電流(1次巻線電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。
【0070】
減算器23は、電流検出器6によって検出される1次巻線電流と、電流検出器5によって検出される電力変換器3の出力電流(2次巻線電流)との差分を算出する。減算器23により算出される差分は、三相変圧器2の励磁回路を流れる励磁電流に相当する。
【0071】
偏磁検出器24は、減算器23により求められる差分(励磁電流)に基づいて、三相変圧器2における偏磁の発生の有無を判定する。具体的には、三相変圧器2に偏磁が発生すると、変圧器を構成する鉄心が飽和することによって励磁インダクタンスが低下するため、励磁電流が増加する。偏磁検出器24は、励磁電流が所定の閾値を上回る場合には、三相変圧器2に偏磁が生じていると判定する。
【0072】
偏磁検出器24は、三相変圧器2に偏磁が生じていると判定された場合には、第1補償器CP11~CP13における比例ゲインKpを低下させるとともに、第2補償器CP21,CP22における積分ゲインKiを低下させる。
【0073】
これは、三相変圧器2において磁気飽和現象が発生すると、励磁インダクタンスが低下するために、電力変換器3の出力側のインピーダンスが低下することに起因する。電流フィードバック制御における制御ゲインを一定とした場合には、出力側のインピーダンスの低下に伴ってループゲインが上昇するため、電力変換器3の出力電流が増加し、電流フィードバック制御が不安定になるおそれがある。そこで、三相変圧器2に偏磁が発生した場合には、第1補償器の比例ゲインKpおよび第2補償器の積分ゲインKiを低下させることによって、電流フィードバック制御の安定性を確保することができる。
【0074】
なお、実施の形態2では、三相変圧器2の偏磁発生時に比例ゲインKpおよび積分ゲインKiを低下させる構成例について説明したが、少なくとも比例ゲインKpを低下させる構成としてもよい。
【0075】
[実施の形態3]
図5は、実施の形態3に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0076】
図5に示すように、実施の形態3に係る電力変換装置は、基本的には
図1に示した実施の形態1に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、電流検出器6を備える点、および制御装置7における電流制御部8がdq変換器40および減算器41,42を有する点が実施の形態1に係る電力変換装置とは異なっている。
【0077】
電流検出器6は、三相変圧器2の1次巻線を流れる電流(1次巻線電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。
【0078】
電流制御部8において、dq変換器40は、電流検出器6によって検出される1次巻線電流(三相交流電流)を、式(2)を用いたdq変換(三相二相変換)を行うことにより、d軸電流idおよびq軸電流iqに変換する。
【0079】
減算器41は、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差(d軸偏差)Δidを算出する。減算器42は、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差(q軸偏差)Δiqを算出する。
【0080】
第2補償器CP21,CP22は、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqに対する積分制御演算により、積分制御量を算出する。逆dq変換器15は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相分の積分制御量に変換する。
【0081】
加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15からの三相分の積分制御量とを加算することにより、偏差Δiu,Δiv,Δiwを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0082】
乗算器18~20および逆dq変換器21は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。
【0083】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0084】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3は、ゲートパルスに従って三相交流電力を、三相変圧器2を介して三相交流電力系統1に供給する。
【0085】
以上説明したように、実施の形態3に係る電力変換装置は、電力変換器3の出力電流(すなわち、三相変圧器2の2次巻線電流)と三相電流指令値との偏差を小さくするための比例制御を実行する制御系(固定座標変換器10、減算器11~13および第1補償器CP11~CP13)を有することにより、三相変圧器2の偏磁を高速に抑制することができる。
【0086】
さらに、実施の形態3に係る電力変換装置は、三相変圧器2の1次巻線電流をd軸電流およびq軸電流に変換し、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に対するd軸電流およびq軸電流の偏差を小さくするための積分制御を実行する制御系(dq変換器40、減算器41,42、第2補償器CP21,CP22および逆dq変換器15)を有することにより、1次巻線電流に含まれる定常偏差をなくすことができる。
【0087】
[実施の形態4]
図6は、実施の形態4に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0088】
図6に示すように、実施の形態4に係る電力変換装置は、基本的には
図1に示した実施の形態1に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、三相変圧器2が多重変圧器である点、電流検出器5a,5b、電流検出器6、電力変換器3a,3bを備える点が実施の形態1に係る電力変換装置とは異なっている。
【0089】
多重変圧器2は、2つの電力変換器3a,3bの交流端子にそれぞれ接続される2つの2次巻線2a,2bと、互いに直列接続されて三相交流電力系統1に接続される2つの1次巻線2cとを有する。これにより、電力変換器3a,3bの交流出力電圧を各相直列合成した電圧が三相交流電力系統1に出力される。なお、
図6の例では、2つの電力変換器3a,3bを多重変圧器2で直列多重化する2段直列多重構成を示しているが、直列多重数は2に限定されない。
【0090】
電力変換器3a,3bの各々は、自己消弧型のスイッチング素子を有しており、
図2に示した電力変換器3と同様の構成を有している。なお、電力変換器3a,3bの直列回路(
図2の例ではコンデンサC1)は共通である。
【0091】
電力変換器3a,3bの各々は、制御装置7から与えられるゲートパルスに従って、直流電力を三相交流電力に変換する。電力変換器3a、3bによって生成された三相交流電力は三相変圧器2によって各相直列合成されて三相交流電力系統1に供給される。
【0092】
電流検出器5aは、電力変換器3aの出力電流(三相交流電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。電力変換器3aの出力電流は、三相変圧器2の2次巻線2aを流れる電流(2次巻線電流)に相当しており、U相電流i1u、V相電流i1vおよびW相電流i1wを有する。
【0093】
電流検出器5bは、電力変換器3bの出力電流(三相交流電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。電力変換器3bの出力電流は、三相変圧器2の2次巻線2bを流れる電流(2次巻線電流)に相当しており、U相電流i2u、V相電流i2vおよびW相電流i2wを有する。
【0094】
電流検出器6は、三相変圧器2の1次巻線2cを流れる電流(1次巻線電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。1次巻線電流は、U相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwを有する。
【0095】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17、57と、PWM回路22とを含む。制御装置7は、基本的に
図1に示した制御装置7と同様の構成を備えるが、電流制御部8がdq変換器40、減算器41,42,51~53、および第1補償器CP14~CP16を有する点、および加算器57を有する点が実施の形態1における制御装置7とは異なっている。
【0096】
固定座標変換器10は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に変換する。
【0097】
減算器11は、U相電流指令値iu*と、電流検出器5aによって検出されるU相電流i1uとの偏差Δi1uを算出する(Δi1u=iu*-i1u)。減算器12は、V相電流指令値iv*と、電流検出器5aによって検出されるV相電流i1vとの偏差Δi1vを算出する(Δi1v=iv*-i1v)。減算器13は、W相電流指令値iw*と、電流検出器5aによって検出されるW相電流i1wとの偏差Δi1wを算出する(Δi1w=iw*-i1w)。
【0098】
第1補償器CP11~CP13は、偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wに対する比例制御演算により、比例制御量を算出する。第1補償器CP11は、偏差Δi1uに基づいて、比例制御量Kp・Δi1uを算出する。第1補償器CP12は、偏差Δi1vに基づいて、比例制御量Kp・Δi1vを算出する。第1補償器CP13は、偏差Δi1wに基づいて、比例制御量Kp・Δi1wを算出する。なお、Kpは比例ゲインである。
【0099】
減算器51は、U相電流指令値iu*と、電流検出器5bによって検出されるU相電流i2uとの偏差Δi2uを算出する(Δi2u=iu*-i2u)。減算器52は、V相電流指令値iv*と、電流検出器5bによって検出されるV相電流i2vとの偏差Δi2vを算出する(Δi2v=iv*-i2v)。減算器53は、W相電流指令値iw*と、電流検出器5bによって検出されるW相電流i2wとの偏差Δi2wを算出する(Δi2w=iw*-i2w)。
【0100】
第1補償器CP14~CP16は、偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wに対する比例制御演算により、比例制御量を算出する。第1補償器CP14は、偏差Δi2uに基づいて、比例制御量Kp・Δi2uを算出する。第1補償器CP15は、偏差Δi2vに基づいて、比例制御量Kp・Δi2vを算出する。第1補償器CP16は、偏差Δi2wに基づいて、比例制御量Kp・Δi2wを算出する。なお、Kpは比例ゲインである。第1補償器CP14~CP16の比例ゲインは、第1補償器CP11~CP13の比例ゲインと同じ値であっても異なる値であってもよい。
【0101】
dq変換器40は、電流検出器6によって検出される1次巻線電流(三相交流電流)を、式(2)を用いたdq変換(三相二相変換)により、d軸電流idおよびq軸電流iqに変換する。
【0102】
減算器41は、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差(d軸偏差)Δidを算出する。減算器42は、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差(q軸偏差)Δiqを算出する。
【0103】
第2補償器CP21,CP22は、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqに対する積分制御演算により、積分制御量を算出する。逆dq変換器15は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相分の積分制御量に変換する。
【0104】
加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*を生成する。
【0105】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0106】
加算器56は、第1補償器CP14~CP16による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*を生成する。
【0107】
加算器57は、加算器56からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0108】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3aは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0109】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3bは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0110】
以上説明したように、実施の形態4に係る電力変換装置によれば、複数の電力変換器3a,3bが多重変圧器2で直列多重化された構成においても、電力変換器ごとに、交流端子と同数の自由度を有する比例制御が実行されるため、各電力変換器の交流端子に生じている外乱を抑制することができる。これによると、複数の電力変換器3a,3bの間で、変圧器の特性や搬送波の位相差に起因して偏磁のしやすさに差がある場合であっても対応することができる。
【0111】
また、多重変圧器2の1次巻線電流がd軸電流およびq軸電流に変換され、d軸偏差およびq軸偏差を小さくするための積分制御が実行されるため、1次巻線電流に含まれる定常偏差をなくすことができる。
【0112】
[実施の形態5]
図7は、実施の形態5に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0113】
図7に示すように、実施の形態5に係る電力変換装置は、基本的には
図6に示した実施の形態4に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、制御装置7の構成が実施の形態4に係る電力変換装置とは異なっている。
【0114】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17,57と、PWM回路22とを含む。制御装置7は、基本的に
図4に示した制御装置7と同様の構成を備えるが、電流制御部8が、平均・偏差演算器60、減算器61~66、第1補償器CP17~CP19および加算器67~69を有する点が実施の形態4における制御装置7とは異なっている。
【0115】
平均・偏差演算器60は、電流検出器5aにより検出される電力変換器3aの出力電流(三相交流電流i1u,i1v,i1w)と、電流検出器5bにより検出される電力変換器3bの出力電流(三相交流電流i2u,i2v,i2w)とを受ける。
【0116】
平均・偏差演算器60は、電流検出器5a,5bの検出値を用いて、各相電流の平均値iaを算出する。U相電流の平均値(以下、U相平均電流とも称する)をiau、V相電流の平均値(以下、V相平均電流とも称する)をiav,W相電流の平均値(以下、W相平均電流とも称する)をiawとすると、三相平均電流iau,iav,iawは次式(3)~(5)で与えられる。
【0117】
【0118】
平均・偏差演算器60は、三相平均電流に対する、各電力変換器の出力電流(三相交流電流)の偏差を算出する。具体的には、平均・偏差演算器60は、三相平均電流iau,iav,iawに対する三相交流電流i1u,i1v,i1wの偏差di1u,di1v,di1wを算出する。偏差di1u,di1v,di1wは次式(6)~(8)で与えられる。
【0119】
【0120】
同様に、平均・偏差演算器60は、三相平均電流iau,iav,iawに対する三相交流電流i2u,i2v,i2wの偏差di2u,di2v,di2wを算出する。偏差di2u,di2v,di2wは次式(9)~(11)で与えられる。
【0121】
【0122】
減算器11は、U相電流指令値iu*とU相平均電流iauとの偏差Δiauを算出する(Δiau=iu*-iau)。減算器12は、V相電流指令値iv*とV相平均電流iavとの偏差Δiavを算出する(Δiav=iv*-iav)。減算器13は、W相電流指令値iw*とW相平均電流iawとの偏差Δiawを算出する(Δiaw=iw*-iaw)。
【0123】
第1補償器CP11~CP13は、偏差Δiau,Δiav,Δiawに対する比例制御演算により、比例制御量Kp・Δiau,Kp・Δiav,Kp・Δiawをそれぞれ算出する。なお、Kpは比例ゲインである。
【0124】
減算器61は、U相偏差指令値di1u*とU相偏差di1uとの偏差Δdi1uを算出する(Δdi1u=di1u*-di1u)。減算器62は、V相偏差指令値di1v*とV相偏差di1vとの偏差Δdi1vを算出する(Δdi1v=di1v*-di1v)。減算器63は、W相偏差指令値di1w*とW相偏差di1wとの偏差Δdi1wを算出する(Δdi1w=di1w*-di1w)。三相偏差指令値di1u*,di1v*,di1w*は、三相電流指令値iu*,iv*,iw*と同様に、上位コントローラにより生成することができる。
【0125】
第1補償器CP14~CP16は、偏差Δdi1u,Δdi1v,Δdi1wに対する比例制御演算により、比例制御量Kp・Δdi1u,Kp・Δdi1v,Kp・Δdi1wをそれぞれ算出する。なお、Kpは比例ゲインである。
【0126】
減算器64は、U相偏差指令値di2u*とU相偏差di2uとの偏差Δdi2uを算出する(Δdi2u=di2u*-di2u)。減算器65は、V相偏差指令値di2v*とV相偏差di2vとの偏差Δdi2vを算出する(Δdi2v=di2v*-di2v)。減算器66は、W相偏差指令値di2w*とW相偏差di2wとの偏差Δdi2w(Δdi2w=di2w*-di2w)を算出する。三相偏差指令値di2u*,di2v*,di2w*は、三相電流指令値iu*,iv*,iw*と同様に、上位コントローラにより生成することができる。
【0127】
第1補償器CP17~CP19は、偏差Δdi2u,Δdi2v,Δdi2wに対する比例制御演算により、比例制御量Kp・Δdi2u,Kp・Δdi2v,Kp・Δdi2wをそれぞれ算出する。
【0128】
加算器67は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、第1補償器CP14~CP16による演算値である三相分の比例制御量とを加算する。加算器16は、加算器67による演算器と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に対する三相交流電流i1u,i1v,i1wの偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0129】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値を生成する。三相交流電圧指令値は、U相電圧指令値V1u*、V相電圧指令値V1v*およびW相電圧指令値V1w*を有する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0130】
加算器68は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、第1補償器CP17~CP19による演算値である三相分の比例制御量とを加算する。加算器69は、加算器68による演算器と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に対する三相交流電流i2u,i2v,i2wの偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0131】
加算器57は、加算器69からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値を生成する。三相交流電圧指令値は、U相電圧指令値V2u*、V相電圧指令値V2v*およびW相電圧指令値V2w*を有する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0132】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3aは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。PWM回路22は、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3bは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0133】
以上説明したように、実施の形態5に係る電力変換装置によれば、複数の電力変換器3a,3bが多重変圧器2で直列多重化された構成においても、電力変換器ごとに、交流端子と同数の自由度を有する比例制御が実行されるとともに、多重変圧器2の1次巻線電流がd軸電流およびq軸電流に変換されて積分制御がされるため、上述した実施の形態4に係る電力変換装置と同様の効果を得ることができる。
【0134】
さらに、実施の形態5に係る電力変換装置では、複数の電力変換器3a,3bの出力電流が、三相平均電流iau,iav,iawと、三相平均電流に対する電力変換器3aの出力電流の偏差di1u,di1v,di1wと、三相平均電流に対する電力変換器3bの出力電流の偏差di2u,di2v,di2wとに分解される。そして、三相平均電流を三相電流指令値に一致させるための比例制御と、偏差di1u,di1v,di1wを偏差指令値di1u*,di1v*,di1w*に一致させるための比例制御と、偏差di2u,di2v,di2wを偏差指令値di2u*,di2v*,di2w*に一致させるための比例制御とが実行される。これによると、これら比例制御における比例ゲインKpを互いに独立して設定することができるため、より細やかな制御を実現することができる。
【0135】
[実施の形態6]
図8は、実施の形態6に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0136】
図8に示すように、実施の形態6に係る電力変換装置は、基本的には
図7に示した実施の形態5に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、制御装置7の構成が実施の形態5に係る電力変換装置とは異なっている。
【0137】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17,57と、PWM回路22とを含む。制御装置7は、基本的に
図5に示した制御装置7と同様の構成を備えるが、電流制御部8が、減算器61~66、第1補償器CP14~CP19および加算器67~69を有さない点が実施の形態5における制御装置7とは異なっている。
【0138】
平均・偏差演算器60は、電流検出器5aにより検出される電力変換器3aの出力電流(三相交流電流i1u,i1v,i1w)と、電流検出器5bにより検出される電力変換器3bの出力電流(三相交流電流i2u,i2v,i2w)とを受ける。
【0139】
平均・偏差演算器60は、電流検出器5a,5bの検出値を用いて、各相電流の平均値を算出する。平均・偏差演算器60は、上記式(3)~(5)を用いて、U相平均電流iau、V相平均電流iavおよびW相平均電流iawを算出する。
【0140】
減算器11は、U相電流指令値iu*とU相平均電流iauとの偏差Δiauを算出する。減算器12は、V相電流指令値iv*とV相平均電流iavとの偏差Δiavを算出する。減算器13は、W相電流指令値iw*とW相平均電流iawとの偏差Δiawを算出する。
【0141】
第1補償器CP11~CP13は、偏差Δiau,Δiav,Δiawに対する比例制御演算により、比例制御量Kp・Δiau,Kp・Δiav,Kp・Δiawをそれぞれ算出する。なお、Kpは比例ゲインである。
【0142】
加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に対する三相交流電流i1u,i1v,i1wの偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0143】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からのフィードフォワード制御量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧とを加算することにより、三相交流電圧指令値を生成する。三相交流電圧指令値は、U相電圧指令値V1u*、V相電圧指令値V1v*およびW相電圧指令値V1w*を有する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0144】
加算器56は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、三相交流電流指令値iu*,iv*,iw*に対する三相交流電流i2u,i2v,i2wの偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0145】
加算器57は、加算器56からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からのフィードフォワード制御量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧とを加算することにより、三相交流電圧指令値を生成する。三相交流電圧指令値は、U相電圧指令値V2u*、V相電圧指令値V2v*およびW相電圧指令値V2w*を有する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0146】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3aは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。PWM回路22は、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3bは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0147】
以上説明したように、実施の形態6に係る電力変換装置では、複数の電力変換器3a,3bが多重変圧器2で直列多重化された構成において、複数の電力変換器3a,3bの出力電流の三相平均電流iau,iav,iawを三相電流指令値に一致させるための比例制御が実行される。これによると、実施の形態4および5で示した電力変換器ごとの比例制御が実行されないが、電流制御部8の計算量を軽減させることができる。したがって、複数の電力変換器3a,3bの間で変圧器の特性のばらつきが小さく、偏磁のしやすさに大差がないような場合には、実施の形態6に示す制御系を採用することで、電流制御を簡素化することができる。
【0148】
[実施の形態7]
図9は、実施の形態7に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0149】
図9に示すように、実施の形態7に係る電力変換装置は、基本的には
図6に示した実施の形態4に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、制御装置7の構成が実施の形態4に係る電力変換装置とは異なっている。
【0150】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17,57と、PWM回路22とを含む。制御装置7は、基本的に
図4に示した制御装置7と同様の構成を備えるが、電流制御部8が、平均演算器100およびdq変換器101を有する点が実施の形態4における制御装置7とは異なっている。
【0151】
平均演算器100は、電流検出器5aにより検出される電力変換器3aの出力電流(三相交流電流i1u,i1v,i1w)と、電流検出器5bにより検出される電力変換器3bの出力電流(三相交流電流i2u,i2v,i2w)とを受ける。平均演算器100は、電流検出器5a,5bの検出値を用いて、各相電流の平均値(U相平均電流iau、V相平均電流iav、W相平均電流iaw)を算出する。
【0152】
dq変換器101は、三相平均電流iau,iav,iawを、式(2)を用いたdq変換(三相二相変換)により、d軸平均電流iadおよびq軸平均電流iaqに変換する。
【0153】
減算器102は、d軸電流指令値id*に対するd軸平均電流iadの偏差Δiadを算出する。減算器103は、q軸電流指令値iq*に対するq軸平均電流iaqの偏差Δiaqを算出する。
【0154】
第2補償器CP21,CP22は、偏差Δiadおよび偏差Δiaqに対する積分制御演算により、積分制御量を算出する。逆dq変換器104は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相分の積分制御量に変換する。
【0155】
加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器104による三相分の積分制御量とを加算することにより、電流偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0156】
乗算器18~20および逆dq変換器21は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。
【0157】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0158】
加算器56は、第1補償器CP14~CP16による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器104による三相分の積分制御量とを加算することにより、電流偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0159】
加算器57は、加算器56からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0160】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3aは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。PWM回路22は、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3bは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0161】
以上説明したように、実施の形態7に係る電力変換装置によれば、複数の電力変換器3a,3bが多重変圧器2で直列多重化された構成においても、電力変換器ごとに、交流端子と同数の自由度を有する比例制御が実行されるため、各電力変換器の交流端子に生じている外乱を抑制することができる。
【0162】
また、実施の形態7に係る電力変換装置では、複数の電力変換器3a,3bの出力電流の三相平均電流がd軸電流およびq軸電流に変換され、d軸偏差およびq軸偏差を小さくするための積分制御がされるため、各電力変換器の出力電流に含まれる定常偏差をなくすことができる。
【0163】
なお、多重変圧器2において1次巻線2cおよび2次巻線2a間の励磁回路と、1次巻線2cおよび2次巻線2b間の励磁回路との間でインピーダンスに差がある場合、または、電流検出器5aと電流検出器5bとの間に検出誤差がある場合に、電力変換器3aの出力電流および電力変換器3bの出力電流に対して別々に第2補償器CP21,CP22を設けると、電力変換器3a,3bの出力電圧に大きな電圧差が生じて電力変換装置が正常な運転を行うことが困難となるおそれがある。これは、多重変圧器2に偏磁が生じていない場合には、励磁回路のインピーダンスが1次巻線および2次巻線の漏れインピーダンスよりも十分に大きいため、各電力変換器の出力電流に含まれる偏差に対して積分制御を行うと、各電力変換器の出力電圧が別々に大きくなる可能性があることによる。実施の形態7では、上述したように、複数の電力変換器3a,3bの出力電流の三相平均電流を用いて積分制御が実行されるため、このような懸念点を回避できる。
【0164】
[実施の形態8]
図10は、実施の形態8に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【0165】
図10に示すように、実施の形態8に係る電力変換装置は、基本的には
図6に示した実施の形態4に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、制御装置7の構成が実施の形態4に係る電力変換装置とは異なっている。
【0166】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17,57と、PWM回路22とを含む。制御装置7は、基本的に
図4に示した制御装置7と同様の構成を備えるが、電流制御部8が、dq変換器105を有する点が実施の形態4における制御装置7とは異なっている。
【0167】
dq変換器105は、電流検出器5aにより検出される電力変換器3aの出力電流(三相交流電流i1u,i1v,i1w)を、式(2)を用いたdq変換(三相二相変換)により、d軸電流i1dおよびq軸電流i1qに変換する。
【0168】
減算器41は、d軸電流指令値id*に対するd軸電流i1dの偏差Δi1dを算出する(Δi1d=id*-i1d)。減算器42は、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流i1qの偏差Δi1qを算出する(Δi1q=iq*-i1q)。
【0169】
第2補償器CP21,CP22は、偏差Δi1dおよび偏差Δi1qに対する積分制御演算により、積分制御量を算出する。逆dq変換器15は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)により、三相分の積分制御量に変換する。
【0170】
加算器16は、第1補償器CP11~CP13による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、電流偏差Δi1u,Δi1v,Δi1wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0171】
乗算器18~20および逆dq変換器21は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。
【0172】
加算器17は、加算器16からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0173】
加算器56は、第1補償器CP14~CP16による演算値である三相分の比例制御量と、逆dq変換器15による三相分の積分制御量とを加算することにより、電流偏差Δi2u,Δi2v,Δi2wを低減するためのフィードバック制御のために要求される、三相交流電圧指令値を生成する。
【0174】
加算器57は、加算器56からの三相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧Vu,Vv,Vwとを加算することにより、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0175】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値V1u*,V1v*,V1w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3aは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。PWM回路22は、三相交流電圧指令値V2u*,V2v*,V2w*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3bは、ゲートパルスに従って三相交流電力を生成する。
【0176】
なお、
図10の例では、電力変換器3aの出力電流を用いて三相分の積分制御量を算出する構成について説明したが、電力変換器3bの出力電流を用いて三相分の積分制御量を算出する構成としてもよい。すなわち、複数の電力変換器3a,3bのうちのいずれか1つの電力変換器の出力電流を代表値として用いて三相分の積分制御量を算出することができる。
【0177】
以上説明したように、実施の形態8に係る電力変換装置によれば、複数の電力変換器3a,3bが多重変圧器2で直列多重化された構成においても、電力変換器ごとに、交流端子と同数の自由度を有する比例制御が実行される。これによると、複数の電力変換器3a,3bの間で、変圧器の特性や搬送波の位相差に起因して偏磁のしやすさに差がある場合であっても、各電力変換器の交流端子に生じている外乱を抑制することができる。
【0178】
また、複数の電力変換器3a,3bのうちのいずれか1つの出力電流を代表値とし、当該出力電流がd軸電流およびq軸電流に変換され、d軸偏差およびq軸偏差を小さくするための積分制御が実行される。実施の形態7で述べたように、電力変換器3aの出力電流および電力変換器3bの出力電流に対して別々に第2補償器CP21,CP22を設けると、電力変換器3a,3bの出力電圧に大きな電圧差が生じて電力変換装置が正常な運転を行うことが困難となるおそれがある。実施の形態8では、複数の電力変換器3a,3bのうちのいずれか1つの出力電流を用いて積分制御が実行されるため、このような懸念点を回避できる。
【0179】
[実施の形態9]
上述した実施の形態1~8では、三相交流電力系統1に三相変圧器2を介して接続される電力変換器3の出力電流を制御するための制御構成について説明したが、当該制御構成は、単相交流電力系統に単相変圧器を介して接続される電力変換器の出力電流の制御にも適用することができる。
【0180】
図11は、実施の形態9に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
図11に示すように、実施の形態9に係る電力変換装置は、電力変換器3と、電圧検出器4と、電流検出器5,6と、制御装置7とを備える。電力変換器3の交流端子は、単相変圧器2Aを介して、単相交流電力系統1Aの単相送電線に接続されている。
【0181】
電力変換器3の直流端子は、バッテリまたはコンデンサなど直流電力を蓄える電力貯蔵装置、あるいは直流電力を発生する直流電源に接続されている。電力変換器3は、自己消弧型のスイッチング素子を有する。電力変換器3は、制御装置7から与えられるゲートパルスに従って直流電力を単相交流電力に変換する。電力変換器3によって生成された単相交流電力は単相変圧器2Aを介して単相交流電力系統1Aに供給される。単相変圧器2Aの単相交流電力系統1A側を1次側とし、単相変圧器2Aの電力変換器3側を2次側とする。
【0182】
電圧検出器4は、単相交流電力系統1Aの単相交流電圧Vを検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。
【0183】
電流検出器5は、電力変換器3の出力電流(単相交流電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。
【0184】
電流検出器6は、単相変圧器2Aの1次巻線を流れる電流(1次巻線電流)を検出し、その検出値を示す信号を制御装置7に与える。
【0185】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、乗算器18~20と、逆dq変換器21と、加算器17と、PWM回路22とを含む。
【0186】
位相検出器9は、電圧検出器4の出力信号に基づいて、基準位相θを生成する。基準位相θは、単相交流電力系統1Aの系統電圧の単相電圧位相である。
【0187】
電流制御部8は、交流電流指令値に対する電流検出器5の検出値の偏差を小さくするための制御演算により、フィードバック制御量を算出する。交流電流指令値は、d軸電流指令値id*と、q軸電流指令値iq*とを含む。
【0188】
電流制御部8は、固定座標変換器10と、減算器11と、第1補償器CP11と、加算器16と、dq変換器40と、減算器41,42と、第2補償器CP21,CP22と、逆dq変換器15とを含む。
【0189】
固定座標変換器10は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を、基準位相θを用いて座標変換を行うことにより、単相交流電流指令値i*に変換する。座標変換は次式(12)で表される。
【0190】
【0191】
減算器11は、単相交流電流指令値i*と、電流検出器5によって検出される単相交流電流iとの偏差Δiを算出する(Δi=i*-i)。
【0192】
第1補償器CP11は、比例要素を有しており、単相交流電流指令値に対する単相交流電流の偏差Δiを小さくするための比例制御演算により、比例制御量を算出する。
【0193】
dq変換器40は、電流検出器6によって検出される1次巻線電流を、基準位相θを用いた座標変換を行うことにより、d軸電流idおよびq軸電流iqに変換する。座標変換は次式(13)で表される。
【0194】
【0195】
減算器41は、d軸電流指令値id*に対するd軸電流idの偏差(d軸偏差)Δidを算出する。減算器42は、q軸電流指令値iq*に対するq軸電流iqの偏差(q軸偏差)Δiqを算出する。
【0196】
第2補償器CP21,CP22は、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqに対する積分制御演算により、積分制御量を算出する。逆dq変換器15は、第2補償器CP21,CP22により演算された積分制御量を、式(12)を用いた座標変換により、単相分の積分制御量に変換する。
【0197】
加算器16は、第1補償器CP11による演算値である単相分の比例制御量と、逆dq変換器15からの単相分の積分制御量とを加算することにより、偏差Δiを低減するためのフィードバック制御のために要求される、単相交流電圧指令値を生成する。
【0198】
乗算器18~20および逆dq変換器21は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*に応じた値の補正量を生成する。
【0199】
加算器17は、加算器16からの単相交流電圧指令値に、逆dq変換器21からの補正量と、電圧検出器4によって検出される単相交流電圧Vとを加算することにより、単相交流電圧指令値V*を生成する。単相交流電圧指令値V*は、PWM回路22に与えられる。
【0200】
PWM回路22は、単相交流電圧指令値V*に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3は、ゲートパルスに従って単相交流電力を、単相変圧器2Aを介して単相交流電力系統1Aに供給する。
【0201】
以上説明したように、実施の形態9に係る電力変換装置は、電力変換器3の出力電流(すなわち、単相変圧器2Aの2次巻線電流)と単相電流指令値との偏差を小さくするための比例制御を実行する制御系(固定座標変換器10、減算器11および第1補償器CP11)を有することにより、単相変圧器2Aの偏磁を高速に抑制することができる。
【0202】
さらに、実施の形態9に係る電力変換装置は、単相変圧器2Aの1次巻線電流をd軸電流およびq軸電流に変換し、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に対するd軸電流およびq軸電流の偏差を小さくするための積分制御を実行する制御系(dq変換器40、減算器41,42、第2補償器CP21,CP22および逆dq変換器15)を有することにより、1次巻線電流に含まれる定常偏差をなくすことができる。
【0203】
[実施の形態10]
上述した実施の形態1~8では、電力変換器3の出力電流のフィードバック制御のうちの比例制御における自由度を、電力変換器3の交流端子の数と同数の「3」とするために、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を三相電流指令値iu*,iv*,iw*に変換し、U相電流、V相電流およびW相電流の各々について比例制御を実行する制御系を設ける構成について説明した。
【0204】
実施の形態10では、比例制御の自由度を「3」とするための別の構成として、d軸電流id、q軸電流iqおよび零相電流izの各々について比例制御を実行する制御系を設ける構成について説明する。
【0205】
図12は、実施の形態10に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
図12に示すように、実施の形態10に係る電力変換装置は、基本的には
図1に示した実施の形態1に係る電力変換装置と同様の構成を備えるが、制御装置7の構成が実施の形態1に係る電力変換装置とは異なっている。
【0206】
制御装置7は、位相検出器9と、電流制御部8と、dq変換器23と、乗算器18,19と、減算器29と、加算器30,31,32と、逆dq変換器33とを、PWM回路22と含む。
【0207】
位相検出器9は、電圧検出器4の出力信号に基づいて、基準位相θを生成する。
dq変換器23は、電圧検出器4によって検出される三相交流電圧を、基準位相θに基づいて、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqに変換する。
【0208】
電流制御部8は、交流電流指令値に対する電流検出器5の検出値の偏差を小さくするための制御演算により、フィードバック制御量を算出する。実施の形態10では、交流電流指令値は、d軸電流指令値id*と、q軸電流指令値iq*と、零相電流指令値iz*とを含む。
【0209】
零相電流指令値iz*は、三相交流電力系統1側には流れないため、電力変換装置内部の事情により生成される。例えば、電力変換器3に出力電流のピーク値を抑えるために、iz*=0に設定することができる。あるいは、三相変圧器2の2次巻線がオープンデルタ結線されている場合には、デルタ巻線に流したい循環電流の値に基づいて零相電流指令値iz*を設定することができる。
【0210】
電流制御部8は、減算器25,26,36と、第1補償器CP11~CP13と、第2補償器CP21,CP22と、dq変換器34と、零相演算器35とを含む。
【0211】
dq変換器34は、電流検出器5により検出される三相交流電流を、基準位相θを用いて、d軸電流idおよびq軸電流iqに変換する。
【0212】
零相演算器35は、電流検出器5により検出される三相交流電流から零相電流izを算出する。具体的には、零相演算器35は、U相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwの和を3で割ることにより、零相電流izを求める。
【0213】
減算器25は、d軸電流指令値id*と、dq変換器34により演算されるd軸電流idとの偏差(d軸偏差)Δidを算出する。減算器26は、q軸電流指令値iq*と、dq変換器34により演算されるq軸電流iqとの偏差(q軸偏差)Δiqを算出する。減算器36は、零相電流指令値iz*と、零相演算器35により演算される零相電流izとの偏差(以下、零相偏差とも称する)Δizを算出する。
【0214】
第1補償器CP11~CP13は、d軸電流指令値id*、q軸電流指令値iq*および零相電流指令値iz*に対するd軸電流id、q軸電流iqおよび零相電流izの偏差を小さくするための比例制御演算により、比例制御量を算出する。具体的には、第1補償器CP11は、d軸偏差Δidに基づいて、比例制御量Kp・Δidを算出する。第1補償器CP12は、q軸偏差Δiqに基づいて、比例制御量Kp・Δiqを算出する。第1補償器CP13は、零相偏差Δizに基づいて、比例制御量Kp・Δizを算出する。なお、Kpは比例ゲインである。
【0215】
第2補償器CP21,CP22は、d軸偏差Δidおよびq軸偏差Δiqを小さくするための積分制御演算により、積分制御量を算出する。具体的には、第2補償器CP21は、d軸偏差Δidに基づいて、積分制御量Σ(Ki・Δid)を算出する。第2補償器CP22は、q軸偏差Δiqに基づいて、積分制御量Σ(Ki・Δiq)を算出する。なお、Kiは積分制御ゲインである。
【0216】
加算器27は、第1補償器CP11からの比例制御量Kp・Δidと、第2補償器CP21からの積分制御量Σ(Ki・Δid)とを加算することにより、d軸電圧指令値Vd*を生成する。加算器28は、第1補償器CP12からの比例制御量Kp・Δiqと、第2補償器CP22からの積分制御量Σ(Ki・Δiq)とを加算することにより、q軸電圧指令値Vq*を生成する。
【0217】
乗算器18は、d軸電流指令値id*にゲインωLを乗算する。乗算器19は、q軸電流指令値iq*にゲインωLを乗算する。減算器29は、加算器27からのd軸電圧指令値Vd*から乗算器19からの補正量を減算する。加算器30は、加算器28からのq軸電圧指令値Vq*に乗算器18からの補正量を加算する。
【0218】
加算器31は、減算器29からのd軸電圧指令値Vd*にdq変換器23からのd軸電圧Vdを加算する。加算器32は、加算器30からのq軸電圧指令値Vq*にdq変換器23からのq軸電圧Vqを加算する。
【0219】
逆dq変換器33は、加算器31からのd軸電圧指令値Vd*および加算器32からのq軸電圧指令値Vq*に式(1)を用いた逆dq変換(二相三相変換)を行うことにより、三相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。三相交流電圧指令値は、PWM回路22に与えられる。
【0220】
PWM回路22は、三相交流電圧指令値に基づいて、ゲートパルスを生成する。電力変換器3は、ゲートパルスに従って三相交流電力を、三相変圧器2を介して三相交流電力系統1に供給する。
【0221】
以上説明したように、実施の形態10に係る電力変換装置によれば、電力変換器3の出力電流(三相交流電流)をd軸電流id、q軸電流iqおよび零相電流izに変換し、d軸電流指令値id*、q軸電流指令値iq*および零相電流指令値iz*に対する偏差を低減するように電流フィードバック制御が実行される。すなわち、実施の形態10では、d軸電流、q軸電流および零相電流の各々に対して制御系が構成されるため、電流フィードバック制御の自由度が3となる。したがって、電流フィードバック制御の自由度が電力変換器3の交流端子の数と同数となるため、電力変換器3の各交流端子に生じている外乱を電流フィードバック制御によって抑制することが可能となる。
【0222】
なお、実施の形態10における電流フィードバック制御は、実施の形態1における電流フィードバック制御と同様に、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に対するd軸電流およびq軸電流の偏差Δid,Δiqに対する積分制御が実行されるため、定常偏差をなくすことができる。
【0223】
なお、上述した実施の形態および変更例について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0224】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0225】
1 三相交流電力系統、1A 単相交流電力系統、2 三相変圧器(多重変圧器)、2A 単相変圧器、2a,2b 2次巻線、2c 1次巻線、3,3a,3b 電力変換器、4 電圧検出器、5,6 電流検出器、7,7A 制御装置、8,8A 電流制御部、9 位相検出器、10 固定座標変換器、11~13,23,25,26,29,36,41,42,51~53,61~66,201,202,209 減算器、14,40 dq変換器、15,21 逆dq変換器、16,17,27~32,56,57,67~69,207~212 加算器、18~20,81,83 乗算器、22 PWM回路、24 偏磁検出器、35 零相演算器、60 平均・偏差演算器、82 フィルタ、100 平均演算器、203,204 比例器、84,205,206 積分器、CP11~CP19 第1補償器、CP21,CP22 第2補償器。