(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180654
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/064 20060101AFI20241219BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20241219BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C03C3/064
C03C3/068
G02B1/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024184202
(22)【出願日】2024-10-18
(62)【分割の表示】P 2022503214の分割
【原出願日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2020034271
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020034272
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020034273
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020038425
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三上 修平
(72)【発明者】
【氏名】成田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康裕
(57)【要約】
【課題】 波長460nmにおける内部透過率が高く、屈折率の高い光学ガラスおよび光学素子を提供すること。
【解決手段】 BaO、La
2O
3、Gd
2O
3、およびWO
3の合計含有量とCaO、SrO、およびY
2O
3の合計含有量との質量比[(BaO+La
2O
3+Gd
2O
3+WO
3)/(CaO+SrO+Y
2O
3)]が2.0以下であり、B
2O
3およびP
2O
5の合計含有量とSiO
2およびAl
2O
3の合計含有量との質量比[(B
2O
3+P
2O
5)/(SiO
2+Al
2O
3)]が0.10以下であり、Li
2O、Na
2O、およびK
2Oの合計含有量[Li
2O+Na
2O+K
2O]が10質量%以下であり、Al
2O
3の含有量とSiO
2およびZrO
2の合計含有量との質量比[(Al
2O
3/(SiO
2+ZrO
2)]が0.0000より大きい、光学ガラス。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およびY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]が2.0以下であり、
B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]が0.10以下であり、
Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]が10質量%以下であり、
Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]が0.0000より大きい、光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AR(拡張現実)技術の進展に伴い、ARデバイスとして、ゴーグル型あるいは眼鏡型等の表示装置が開発されている。例えばゴーグル型の表示装置には、平面レンズであって、高屈折率、高透過率、かつ低比重であるレンズが用いられ、このようなレンズに適用できるガラスの需要が高まっている。ここでの透過率は、ガラス内部を光が透過するときの内部透過率であり、反射損失を含む外部透過率とは区別される。
【0003】
一般に、ガラスの屈折率は、ガラスを透過する光とガラス中の電子雲との相互作用が大きいほど増加する。そのため、ガラスの屈折率を高めるには、ガラス中により多くの電子が充填されるように、ガラス成分を選択する。すなわち、イオン半径のわりに原子番号が大きく、多くの電子を含むガラス成分を選択して、ガラスの単位体積あたりの電子密度(多くは酸素数密度)を増加させる。その一例として、ホウ酸-ランタン系のガラスが挙げられる。しかし、ホウ酸-ランタン系のガラスは比重が大きく、ゴーグル型のAR表示装置に使用した場合にレンズが重くなることが問題となる。
【0004】
低比重を維持したまま屈折率を高めることができるガラス成分として、近紫外域に吸収を持つNb2O5やTiO2等が挙げられる。しかし、このようなガラス成分の含有量が増加すると、光の吸収領域が、近紫外域のみならず、可視短波長域(青色領域)にまで拡大するという問題がある。また、Nb2O5やTiO2の含有量が増加すると、NbイオンやTiイオンに酸素を供与できる他のイオンの割合が相対的に低下することから、NbイオンやTiイオンの一部が還元され着色し、ガラスの可視光における内部透過率が低下するという問題があった。
【0005】
また、ガラスの透過率低下の要因の一つに、ガラス熔解炉に由来する白金(Pt)の混入がある。例えば、ガラスの屈折率を高めようとして、Nb2O5やTiO2等の含有量を増加させると、ガラスの熔解温度が上昇し、ガラス原料を高温で熱する必要がある。この時、高温の熔融ガラスが白金(Pt)と接触すると、Ptイオンが熔融ガラスに溶け込み、ガラスに固溶する。Ptは紫外域に吸収を有するが、ガラス中のPt量が多くなると、光の吸収領域が紫外域のみならず、可視光域にも拡大する。その結果、ガラスの可視光域での内部透過率が低下する。
【0006】
一方、耐火物レンガを用いた熔解炉で熔融できるガラスでは、熔解炉に由来する白金(Pt)の混入が抑制される。耐火物レンガを用いた熔解炉で熔融できるガラスとしては、例えば、SiO2-TiO2系のガラスが挙げられる。この系のガラスでは、屈折率ndを1.85程度に高めることができ、かつ比重を3.5程度に低減でき、透過率も比較的優れることが知られている(特許文献1)。
【0007】
ここで耐火物レンガとは、ZrO2やAl2O3および/またはSiO2を主成分としたレンガである(例えば特許文献2)。各成分の含有比率は、例えばZrO2:Al2O3:SiO2=4:5:1や、3:6:1程度のものがあげられるが、例えばhttps://www.an.shimadzu.co.jp/apl/material/chem0502005.htmに示されるとおり、Al2O3やSiO2を、ほぼ含有しない耐火レンガも存在する。ただし特許文献2のとおり、熱衝撃耐性不足や耐食性を高めようとすると、一定量のAl2O3が含有されることが多い。
【0008】
しかし、AR表示装置用レンズに適用するには、屈折率をさらに高める必要がある。例えば、特許文献3には、屈折率ndが1.86~1.99の範囲であり、かつアッベ数νdが21~29の範囲である、SiO2-TiO2系のガラスが開示されている。しかし、このガラスは熔解温度が高く、熔解炉の耐火物レンガのガラス質部分を侵食し、その結果、耐火物レンガの成分がガラス中に混入しやすいという問題があった。ガラスに、耐火物レンガに由来する成分、とりわけZrO2成分やSiO2成分が多くガラス中に固溶すると、ガラス組成が変化し、ガラスの安定性を維持したり、屈折率を高く維持したりすることが困難となる。また、耐火物レンガの主成分であるAl2O3やZrO2のような結晶成分が異物としてガラス中に混入することでガラスの均質性を損なわれる。そのため、このようなガラスは白金製の容器の中で熔融することになるが、白金製の容器でガラスを熔融すると前記のとおりPtがガラスに導入されて、内部透過率が低下するという問題があった。
【0009】
Nb2O5やTiO2等を含有するSiO2系のガラスであって、耐火物レンガを用いた熔解炉で熔融できるガラスであれば、屈折率を高く維持したまま、透過率を向上させることができる。このようなガラスは、AR用表示装置のレンズに有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2535407号公報
【特許文献2】特表2018-537387号公報
【特許文献3】特開2012-229135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、波長460nmにおける内部透過率が高く、屈折率の高い光学ガラスおよび光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およびY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]が2.0以下であり、
B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]が0.10以下であり、
Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]が10質量%以下であり、
Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]が0.0000より大きい、光学ガラス。
【0013】
(2)TiO2およびNb2O5の合計含有量[TiO2+Nb2O5]が20質量%以上であり、
Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]が0.0000より大きい、光学ガラス。
【0014】
(3)B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]が0.15以下である、(2)に記載の光学ガラス。
【0015】
(4)TiO2、Nb2O5、およびZrO2の合計含有量とB2O3、SiO2、Al
2O3およびGeO2の合計含有量との質量比[(TiO2+Nb2O5+ZrO2)/(B2O3+SiO2+Al2O3+GeO2)]が1.8以上であり、
BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およびY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)が3.0以下である、(2)または(3)に記載の光学ガラス。
【0016】
(5)TiO2、Nb2O5、およびZrO2の合計含有量とB2O3、SiO2、Al2O3およびGeO2の合計含有量との質量比[(TiO2+Nb2O5+ZrO2)/(B2O3+SiO2+Al2O3+GeO2)]が1.8以上であり、
B2O3、ZnO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とSiO2、CaO、TiO2、およびNb2O5の合計含有量と質量比[(B2O3+ZnO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(SiO2+CaO+TiO2+Nb2O5)]が0.15以下である、(2)~(4)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、波長460nmにおける内部透過率が高く、屈折率の高い光学ガラスおよび光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る光学ガラスの一例における、内部透過率を示すグラフであり、内部透過率が90%となる波長であるλτ90を示す。
【
図2】実施例2における、レンガ試料の侵食試験の結果を示す写真である。
【
図3】実施例2の侵食試験において、レンガ試料の直径を測定する位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一態様について説明する。なお、本発明および本明細書において、ガラス組成は、特記しない限り、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいい、各ガラス成分の表記は慣習にならい、SiO2、TiO2などと記載する。ガラス成分の含有量および合計含有量は、特記しない限り質量基準であり、「%」は「質量%」を意味する。
【0021】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0022】
以下に、本発明の光学ガラスを第1実施形態と第2実施形態とに分けて説明する。なお、第2実施形態における各ガラス成分の作用、効果は、第1実施形態における各ガラス成分の作用、効果と同様である。したがって、第2実施形態において、第1実施形態に関する説明と重複する事項については適宜省略する。
【0023】
第1実施形態
本発明の第1実施形態に係る光学ガラスは、
BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およ
びY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]が2.0以下であり、
B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]が0.10以下であり、
Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]が10%以下であり、
Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]が0.0000より大きい。
【0024】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およびY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]は2.0以下である。該質量比の上限は、好ましくは1.9であり、さらには1.8、1.7、1.6の順により好ましい。該質量比の下限は、好ましくは0.0であり、さらには0.3、0.5、0.8、1.0、1.2の順により好ましい。
【0025】
質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]を上記範囲とすることで、原子量が大きすぎる高屈折率成分、とりわけ第6周期元素以降で比較的屈折率を高めるはたらきをする元素の含有量を抑え、あるいは酸素の充填を促進するような高屈折率の成分の使用量を制限することができ、ガラスの比重を低減できる。一方、該質量比が大きすぎると、ガラスの比重が増大することによって熔融ガラスの動粘性が低下し、ガラス流の制御が困難になるなどして生産性が悪化するおそれがある。また、耐火物レンガの侵食が増大するおそれがある。
【0026】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]は0.10以下である。該質量比の上限は、好ましくは0.09であり、さらには0.08、0.07、0.06の順に好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0.00であり、さらには0.01、0.02、0.03、0.04、0.05の順により好ましい。
【0027】
質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガのガラス質の侵食を抑制できる。該質量比が大きすぎると、耐火物レンガの侵食が大きくなり、熔融ガラスの均質性が低下し、耐失透性が低下するおそれがある。
【0028】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]は10%以下である。該合計含有量の上限は、好ましくは8.0%であり、さらには6.0%、5.0%、4.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0.01%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、3.0%の順により好ましい。
【0029】
合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]を上記範囲とすることで、ガラスの粘性を適切に維持してガラスの生産性を高めることができる。また、TiやNbによって生じる還元成分に由来する光吸収を抑え、さらには熔解温度の低下や徐冷によるガラス中の電子的な欠陥の解消を促進することによって、460nmの内部透過率を高めることができる。また、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。一方、該合計含有量が小さすぎると、ガラス原料の熔融性が悪化し、原料の熔解温度を高く設定する必要が生じる。結果として耐火物レンガの劣化が促進されるなど生産性が悪化する。逆に、該合計含有量が大きすぎると、ガラスの粘性低下と、それにともなって熱的安定性の低下が起こり、生産性が悪化するおそれがある。また、熔融ガラスの比抵抗が低下して、熔融ガラスを通電により加熱する際の加熱効率が低下し、結果としてガラスの熔融性が低下し、生産性も悪化するおそれがある。
【0030】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]は、0.0000より大きい。該質量比の下限は、好ましくは0.0001であり、さらには0.0003、0.0006、0.0010、0.0020、0.0030、0.0040、0.0050、0.0060の順により好ましい。該質量比の上限は、好ましくは0.3000であり、さらには0.2000、0.1500、0.1000、0.0500、0.0300、0.0150の順により好ましい。
【0031】
質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。また、この比率が上記範囲外であるガラスと比べて熱的安定性を高め、加熱時の失透性、あるいは熔融ガラスを冷却する際の結晶析出を遅らせる効果がある。一方、該質量比が大きすぎると、屈折率ndが低下するうえ、熱的安定性が低下し、失透するおそれがある。
【0032】
以下、第1実施形態に係る光学ガラスについて、好ましい態様を説明する。
【0033】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2およびNb2O5の合計含有量[TiO2+Nb2O5]の下限は、好ましくは20%であり、さらには、24%、28%、33%、37%、40%、42%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは70%であり、さらには、60%、55%、50%、46%の順により好ましい。
【0034】
TiO2およびNb2O5は、比重をあまり高めることなく高屈折率化に寄与する成分である。したがって、ガラスの比重を高めすぎずに所望の屈折率を有するガラスを得るために、TiO2およびNb2O5の合計含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0035】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2、Nb2O5、およびZrO2の合計含有量とB2O3、SiO2、Al2O3およびGeO2の合計含有量との質量比[(TiO2+Nb2O5+ZrO2)/(B2O3+SiO2+Al2O3+GeO2)]の下限は、好ましくは1.8であり、さらには2.0、2.1、2.2、2.3の順により好ましい。また、該質量比の上限は、好ましくは7.0であり、さらには6.0、5.0、4.0、3.5、3.0の順により好ましい。
【0036】
質量比[(TiO2+Nb2O5+ZrO2)/(B2O3+SiO2+Al2O3+GeO2)]を上記範囲とすることで、屈折率が高められ、ARデバイスの表示装置用レンズとして用いる場合には広い視野角を実現できる。また、さらに比重の低減された光学ガラスが得られる。一方、該質量比が小さすぎると、比重に対する屈折率が低下するため、本発明の用途に適さない。また該質量比が大きすぎると、ガラスの安定性が低下するほか、透過率が低下するおそれがある。
【0037】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3、ZnO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とSiO2、CaO、TiO2、およびNb2O5の合計含有量と質量比[(B2O3+ZnO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(SiO2+CaO+TiO2+Nb2O5)]の上限は、好ましくは0.15であり、さらには0.12、0.10、0.08の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0.01であり、さらには0.02、0.03、0.04、0.05、0.06の順により好ましい。
【0038】
質量比[(B2O3+ZnO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(SiO2+CaO+TiO2+Nb2O5)]を上記範囲とすることで、通常ホウ酸をネットワークフォーマーとするタイプのガラスに多く含まれるガラス成分の含有率を抑えることができ、その結果、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。その結果、ガラスと白金との接触を抑えてガラスの内部透過率を高めることができる。また、該質量比を上記範囲とすることにより、原子量が大きすぎる成分、あるいは酸素の充填を促進するような高屈折率の成分の使用量を制限することにもなるので、同じ屈折率でも比重を低くし、さらにガラスの動粘度の低下を抑えることにより生産性を向上できる。
【0039】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al2O3の含有量の下限は、好ましくは0.001%であり、さらには、0.002%、0.003%、0.005%、0.007%、0.010%、0.025%、0.050%、0.075%、0.100%、0.125%、0.150%、0.175%、0.200%の順により好ましい。Al2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、6.0%、3.0%、1.00%、0.50%の順により好ましい。
【0040】
耐火物レンガを用いた熔解炉でガラスを熔解する場合、耐火物レンガ由来のAl2O3が熔融ガラスに導入される。したがって、ガラス原料にAl2O3が含まれない場合でも、耐火物レンガを用いた熔解炉で熔解され製造されたガラスには、Al2O3が微量に含まれる。Al2O3の含有量が上記範囲である場合には、Al2O3の含有量が上記範囲外である場合と比べて、熱的安定性が高く、加熱時の失透が抑制され、また熔融ガラスを冷却する際の結晶析出が抑制される。しかし、Al2O3は、比重を低減させる働きが小さく、また屈折率を低下させる働きを有する成分であることから、高屈折率・低比重のガラスを得る観点からはAl2O3の含有量は少ないほど好ましい。また、Al2O3の含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が低下し、ガラス転移温度Tgが上昇し、また、熱的安定性が低下するおそれがある。一方、Al2O3の含有量が少なすぎると、耐火物レンガの侵食が増加するおそれがある。
【0041】
第1実施形態に係る光学ガラスにおける上記以外のガラス成分の含有量および比率について、以下に非制限的な例を示す。
【0042】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2、CaO、SrO、およびY2O3の合計含有量とBaO、MgO、Nb2O5、Ta2O5、WO3、Bi2O3、La2O3、およびGd2O3の合計含有量との質量比[(TiO2+CaO+SrO+Y2O3)/(BaO+MgO+Nb2O5+Ta2O5+WO3+Bi2O3+La2O3+Gd2O3)]の下限は、好ましくは0.5であり、さらには0.6、0.7、0.8、0.9、1.0の順により好ましい。また、該質量比の上限は、好ましくは4.0であり、さらには3.0、2.5、2.0、1.5の順により好ましい。
【0043】
質量比[(TiO2+CaO+SrO+Y2O3)/(BaO+MgO+Nb2O5+Ta2O5+WO3+Bi2O3+La2O3+Gd2O3)]を上記範囲とすることで、屈折率ndが高く、かつ比重の低減された光学ガラスが得られる。該質量比が小さすぎると、高屈折率と低比重とを両立できないおそれがある。また該質量比が大きすぎると、ガラスの安定性が低下するおそれがある。
【0044】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2の含有量とNb2O5の含有量との質量比[TiO2/Nb2O5]の下限は、好ましくは0.5であり、さらには、0.53、0.54、0.55、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0の順により好ましい。また質量比[TiO2/Nb2O5]の上限は、好ましくは4.0であり、さらには、3.0、2.5、2.0、1.5の順により好ましい。
【0045】
質量比[TiO2/Nb2O5]を上記範囲とすることで、ガラスの比重を低減しながら、ガラスの安定性を向上できる。一方、該質量比が小さすぎると、液相温度が上昇し、熔解性が悪化して、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食が増大するおそれがある。また、製造コストが増大するおそれもある。また、該質量比が大きすぎると、ガラスの耐失透性が低下し、ガラスの透過率が低下するおそれがある。
【0046】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]の下限は、好ましくは5.0%であり、さらには、10.0%、15.0%、18.0%、22.0%、25.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは50.0%であり、さらには、45.0%、40.0%、36.0%、33.0%、30.0%の順により好ましい。
【0047】
合計含有量[MgO+CaO+SrO+BaO]を上記範囲とすることで、ガラスの熔解性を改善し、またガラスの熱的安定性を高めることができる。一方、該合計含有量が小さすぎると、ガラスの熔融性が悪化するおそれがあり、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食が増大するおそれもある。また、該合計含有量が大きすぎると、所望の光学特性が得られず、安定性が低下するおそれがある。
【0048】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量とMgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量との質量比[(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]の下限は、好ましくは0.00020であり、さらには0.001、0.005、0.010、0.050、0.100の順により好ましい。該質量比の上限は、好ましくは2.0であり、さらには1.5、1.0、0.5、0.3、0.2の順により好ましい。
【0049】
質量比[(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]を上記範囲とすることで、ガラスの比重を低減しやすい。またガラスの還元を抑えることで内部透過率を高くしやすい。一方、該質量比が小さすぎると、ガラスの熔融性が悪化するおそれがあり、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食が増大するおそれもある。また、該質量比が大きすぎると、ガラス成分の揮発や脈理によりガラスの均質性が低下するおそれがあるほか、粘性の低下によって安定性が低下するおそれがある。
【0050】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2Oの含有量を29.9で割った値と、B2O3の含有量を69.6で割った値、Li2Oの含有量を29.9で割った値、Na2Oの含有量を62.0で割った値、およびK2Oの含有量を94.2で割った値の合計値の比率[(Li2O/29.9)/{(B2O3/69.6+Li2O/29.9+Na2O/62.0+K2O/94.2)}]の下限は、好ましくは0.10であり、さらには0.20、0.30、0.40、0.45、0.50の順により好ましい。該比率の上限は、好ましくは1.00であり、さらには0.90、0.80、0.70、0.60、0.55の順により好ましい。ここで、各ガラス成分の含有量の除数は、各酸化物の分子量に相当するので、この比率はガラス中のLiイオン、Bイオン、Naイオン、およびKイオンの合計イオン数に対するLiイオンのイオン数の割合を概ね表す。
【0051】
比率[(Li2O/29.9)/(B2O3/69.6+Li2O/29.9+Na2O/62.0+K2O/94.2)]を上記範囲とすることで、ガラスの充填を密にすることができ、ガラスの熔融温度を高めるような高融点の高屈折率成分を導入することなく、低比重かつ高屈折のガラスを得ることができる。さらにLiイオンの数が多くなる結果、通電により熔融ガラスを加熱する際の加熱効率が向上し、また、熔融ガラスの流動性も高めることができる。また、この比率を上記範囲にすることにより、ガラスの熔解性を確保しつつ、ガラスの熔融時に生じる可能性のある還元着色を抑えて内部透過率を高める効果もある。一方、該比率が小さすぎると、熔融ガラスの比抵抗が上昇し、通電熔融においてより高い電圧を加える必要があるため、結果としてガラス熔融時における耐火物レンガの侵食が増大するおそれがある。逆に該比率が大きすぎると、ガラスの安定性が低下するおそれがある。
【0052】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2の含有量の下限は、好ましくは5.0%であり、さらには8.0%、11.0%、13.0%、15.0%の順により好ましい。また、SiO2の含有量の上限は、好ましくは35.0%であり、さらには30.0%、27.0%、25.0%、23.0%、21.0%の順により好ましい。
【0053】
SiO2はガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性、耐候性を改善し、また、熔融ガラスの粘度を高める働きを有する。SiO2の含有量が少なすぎると、ガラスの耐失透性が低下する傾向がある。SiO2の含有量が多すぎると、屈折率ndが低下し、粘度が増加し、また、部分分散比Pg,Fが増加するおそれがある。
【0054】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrO2の含有量の下限は、好ましくは0.0000%であり、さらには、0.0005%、0.0010%、0.0050%、0.0100%、0.0500%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。また、ZrO2の含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、7.0%、5.0%、3.0%、2.0%の順により好ましい。
【0055】
耐火物レンガを用いた熔解炉でガラスを熔解する場合、耐火物レンガ由来のZrO2が熔融ガラスに導入される傾向がある。したがって、ガラス原料にZrO2が含まれない場合、耐火物レンガを用いた熔解炉で熔解され製造されたガラスには、ZrO2が微量に含まれる場合がある。また、強化白金とガラス融液との接触によってガラス中にZrが供給される場合もある。ZrO2の含有量が少なすぎると、耐火物レンガの侵食が増大するおそれがある。ZrO2の含有量が多すぎると、ガラスの熔融性が悪化するおそれがある。ZrO2の含有量を上記範囲とすることで、レンガの侵食を抑えつつ屈折率の高いガラスを得ることができる。また、ガラスの熔融性および熱的安定性を保持できる。
【0056】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、P2O5の含有量の上限は、好ましくは5.0%であり、さらには、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%、0.6%の順により好ましい。また、P2O5の含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%であるが、ガラスの安定性や液相温度の調整のために0.20%以上、0.40%以上の範囲で導入してもよい。P2O5の含有量は0.0%でもよい。
【0057】
P2O5の含有量を上記範囲とすることにより、ガラスの失透が抑制され、また、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。
【0058】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3の含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、6.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。B2O3の含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには、0.1%、0.2%、0.4%、0.7%の順により好ましい。
【0059】
B2O3は、ガラスの熱的安定性を改善し、ガラスの熔解性を高める働きを有する。また、ガラスのネットワーク形成成分の中では比較的屈折率が高く、かつ比重を小さくできる成分である。B2O3の含有量を上記範囲とすることで、ガラスの熔融性を改善し、また、屈折率が高く、比重の低減された光学ガラスが得られる。一方、B2O3の含有量が少なすぎると、高屈折率性が損なわれ、比重が増大するおそれがある。また、B2O3の含有量が多すぎると、ガラス熔融時にガラス成分の揮発量が増加するおそれがある。また、高分散化を妨げ、耐失透性が低下する傾向がある。
【0060】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2およびAl2O3の合計含有量[SiO2+Al2O3]の下限は、好ましくは5%であり、さらには、8%、11%、13%の順により好ましい。また、合計含有量[SiO2+Al2O3]の上限は、好ましくは40%であり、さらには、35%、30%、25%、23%、21%、15%の順により好ましい。
【0061】
合計含有量[SiO2+Al2O3]を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。ただし該合計含有量が大きすぎると、比重があまり低下しない一方で屈折率が大幅に低下し、本発明の求める屈折率が得られなくなるおそれがある。
【0062】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3およびP2O5の合計含有量[B2O3+P2O5]の下限は、好ましくは0.1%であり、さらには、0.2%、0.4%、0.7%、1%の順により好ましい。また、合計含有量[B2O3+P2O5]の上限は、好ましくは10%であり、さらには、6%、3%、2%の順により好ましい。
【0063】
合計含有量[B2O3+P2O5]を上記範囲とすることで、ガラスの粘性を維持して安定性を高めるとともに、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。
【0064】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2の含有量の下限は、好ましくは5.0%であり、さらには、10.0%、14.0%、14.2%、14.5%、14.8%、15.0%、18.0%、20.0%の順により好ましい。また、TiO2の含有量の上限は、好ましくは40.0%であり、さらには、35.0%、30.0%、25.0%、22.0%の順により好ましい。
【0065】
TiO2の含有量を上記範囲とすることで、屈折率が高く、比重が低減されたガラスが得られる。また、紫外線透過率を低下させる効果も有する。一方、TiO2の含有量が少なすぎると、屈折率が低下し、比重が増加するおそれがある。また、TiO2の含有量が多すぎると、ガラスの可視域、とくに短波長域の内部透過率が低下し、耐失透性も低下するおそれがある。
【0066】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb2O5の含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには、5.0%、10.0%、13.0%、15.0%の順により好ましい。また、Nb2O5の含有量の上限は、好ましくは40.0%であり、さらには、35.0%、30.0%、28.0%、27.0%、26.0%、25.0%、20.0%、17.0%の順により好ましい。
【0067】
Nb2O5の含有量を上記範囲とすることで、屈折率が高く、比較的比重の低減された光学ガラスが得られる。一方、Nb2O5の含有量が少なすぎると、屈折率が低下し、比重が増加するおそれがある。Nb2O5の含有量が多すぎると、耐失透性が低下するおそれがある。
【0068】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2、Nb2O5、およびZrO2の合計含有量[TiO2+Nb2O5+ZrO2]の下限は、好ましくは25%であり、さらには、30%、35%、40%、45%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは75%であり、さらには、70%、60%、55%、52.5%、50%の順により好ましい。
【0069】
合計含有量[TiO2+Nb2O5+ZrO2]を上記範囲とすることで、比重の増加を抑えながら、屈折率が高く、かつ所定の波長における内部透過率の高い光学ガラスが得られる。
【0070】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、WO3の含有量の上限は、5.0%であり、さらには3.0%、2.0%、1.0%、0.5%の順により好ましい。WO3の含有量の下限は、好ましくは0.0%である。WO3の含有量は0.0%でもよい。
【0071】
WO3の含有量を上記範囲とすることで、比重が低減され、また、紫外線透過率の低減された光学ガラスが得られる。一方、WO3の含有量が多すぎると、部分分散比Pg,Fが上昇し、内部透過率が低下し、比重が増加するおそれがある。また、可視域、特に短波長域の透過率が低下し、ガラスが不安定化するおそれがある。
【0072】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Bi2O3の含有量の上限は、5.0%であり、さらには3.0%、2.0%、1.0%、0.5%の順により好ましい。Bi2O3の含有量の下限は、好ましくは0.0%である。Bi2O3の含有量は0.0%でもよい。
【0073】
Bi2O3の含有量を上記範囲とすることで、比重が低減され、また、紫外線透過率の低減された光学ガラスが得られる。一方、Bi2O3の含有量が多すぎると、部分分散比Pg,Fが上昇し、比重が増加し、また、Biイオンが特定波長の光を吸収することによって、短波長域の透過率に加え内部透過率も低下するおそれがある。また、ガラスの白金に対する侵食量が増加しガラスの着色が増加するおそれもある。
【0074】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、WO3およびBi2O3の合計含有量[WO3+Bi2O3]は3%以下とすることが好ましく、さらには2.4%以下、1.9%以下、1.4%以下、0.9%以下、0.4%以下の順により好ましい。WO3およびBi2O3を含有しないことが特に好ましい。
【0075】
合計含有量[WO3+Bi2O3]を上記範囲とすることで、特に可視光領域の内部透過率の低下を抑制できる。
【0076】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2Oの含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、7.0%、5.0%、3.0%、2.0%の順により好ましい。Li2Oの含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。
【0077】
Li2Oの含有量を上記範囲とすることで、ガラス構造の充填率が高められ、屈折率が高く、比重の低減された光学ガラスが得られる。また、ガラスの熔融性を向上させ、熔融ガラスの比抵抗を低減できる。さらにガラスの熔融時に生じる可能性のある還元着色を抑える効果もある。一方、Li2Oの含有量が少なすぎると、ガラスの透過率が低下するおそれがある。Li2Oの含有量が多すぎると、化学的耐久性、耐候性が低下し、再加熱時の安定性が低下するおそれがある。
【0078】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Na2Oの含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、7.0%、5.0%、3.0%、2.0%の順により好ましい。Na2Oの含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。
【0079】
Na2Oの含有量を上記範囲とすることで、比重の低減された光学ガラスが得られる。また、ガラスの熔融性を向上させ、熔融ガラスの比抵抗を低減できる。一方、Na2Oの含有量が少なすぎると、ガラスの熔解性が低下するおそれがある。Na2Oの含有量が多すぎると、屈折率が低下するおそれがある。
【0080】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、K2Oの含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。K2Oの含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%であり、さらには、0.1%、0.3%、0.6%、0.9%の順に少ない方がより好ましい。
【0081】
K2Oの含有量を上記範囲とすることで、TiO2を含むガラスの安定性を改善する効果がある。また、ガラスの熔融性を向上できる。一方、K2Oの含有量が多すぎると、屈折率が著しく低下するおそれがある。
【0082】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Cs2Oの含有量の上限は、好ましくは15.0%であり、さらには、10.0%、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。Cs2Oの含有量の下限は、好ましくは0.0%である。Cs2Oの含有量は0.0%でもよい。
【0083】
Cs2Oは、ガラスの熔融性を向上させ熱的安定性を改善する働きを有する。一方、Cs2Oの含有量が多すぎると、屈折率が著しく低下したり、ガラスの化学的耐久性が悪化するおそれがある。
【0084】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。また、MgOの含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%である。MgOの含有量は0.0%でもよい。
【0085】
MgOの含有量を上記範囲とすることで、ガラスの安定性を向上し、ガラスの着色を低減できる。一方、MgOの含有量が多すぎると、高屈折率と低比重とを両立できないおそれがある。
【0086】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、CaOの含有量の上限は、好ましくは30.0%であり、さらには、25.0%、20.0%、16.0%、13.0%の順により好ましい。また、CaOの含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには3.0%、6.0%、8.0%、10.0%の順により好ましい。
【0087】
CaOの含有量を上記範囲とすることで、屈折率が高く、比重が低減され、熔融性の向上した光学ガラスが得られる。一方、CaOの含有量が少なすぎると、高屈折率と低比重とを両立できないおそれがある。また、CaOの含有量が多すぎると、レンガ侵食量が増大して、高分散性が維持できず、ガラスの熱的安定性が低下し、また耐失透性が低下するおそれがある。
【0088】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、SrOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、7.0%、5.0%、3.0%、2.5%、2.0%の順により好ましい。また、SrOの含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%であり、さらには0.1%、0.5%、1.0%、1.5%の順に少ないほどより好ましい。
【0089】
SrOの含有量を上記範囲とすることで、熔融性を向上できる。一方、SrOの含有量が多すぎると、比重が増加し、高分散性が維持できず、ガラスの熱的安定性が低下し、また耐失透性が低下するおそれがある。
【0090】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、BaOの含有量の上限は、好ましくは30.0%であり、さらには、25.0%、20.0%、16.0%、13.0%の順により好ましい。また、BaOの含有量の下限は、好ましくは0.0%であり、さらには3.0%、6.0%、8.0%、10.0%の順により好ましい。BaOの含有量は0.0%でもよい。
【0091】
BaOの含有量を上記範囲とすることで、熔融性を向上できる。一方、BaOの含有量が少なすぎると、ガラスの安定性が低下するおそれがある。また、BaOの含有量が多すぎると、比重が大幅に増加し、高分散性が維持できず、ガラスの熱的安定性が低下し、また耐失透性が低下するおそれがある。
【0092】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZnOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。また、ZnOの含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%である。ZnOの含有量は0.0%でもよい。
【0093】
ZnOの含有量を上記範囲とすることで、ガラス転移温度Tgを低下させることができる。一方、ZnOの含有量が多すぎると、比重が増加するほか、ガラスの安定性を損なうおそれがある。
【0094】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。また、La2O3の含有量の下限は、好ましくは0.0%である。
【0095】
La2O3の含有量を上記範囲とすることで、ガラスの内部透過率を悪化させることなく高屈折率の光学ガラスが得られる。一方、La2O3の含有量が少ないと、屈折率が低下する傾向がある。また、La2O3の含有量が多すぎると、比重が増加し、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0096】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gd2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、5.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。また、Gd2O3の含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは0.0%である。
【0097】
Gd2O3の含有量を上記範囲とすることで、ガラスの内部透過率を悪化させることなく高屈折率の光学ガラスが得られる。一方、Gd2O3の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下し、比重が増加するおそれがある。ガラスの製造コストが上昇するおそれもある。
【0098】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Y2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、5.0%、3.0%、2.0%、1.5%の順により好ましい。また、Y2O3の含有量の下限は、好ましくは0.0%である。
【0099】
Y2O3を、例えばZrO2やNb2O5の代わりに上記範囲内で導入することにより、ガラスの内部透過率を悪化させることなく、高屈折率で、かつ比重の小さな光学ガラスが得られる。一方、Y2O3の含有量が少ないと、屈折率が低下する傾向がある。また、Y2O3の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下し、耐失透性が低下するおそれがある。
【0100】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、GeO2の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、6.0%、4.0%、3.0%、2.0%、1.0%の順により好ましい。また、GeO2の含有量は少ない方が好ましく、その下限は好ましくは0.0%である。
【0101】
GeO2は、高価なガラス成分であり、GeO2の含有量が多すぎると、製造コストが増大するおそれがある。
【0102】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ta2O5の含有量の上限は、好ましくは5%であり、さらには、3%、2%、1%の順により好ましい。また、Ta2O5の含有量の下限は、好ましくは0%である。
【0103】
Ta2O5は、ガラスの内部透過率を悪化させずに屈折率を高める働きを有するガラス成分であり、部分分散比Pg,Fを低下させる成分でもある。一方、Ta2O5は高価なガラス成分であり、Ta2O5の含有量が多くなると、製造コストが増大するおそれがある。また、比重が上昇するおそれがある。そのため、Ta2O5の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0104】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Sc2O3の含有量は、好ましくは2%以下である。また、Sc2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。
【0105】
Sc2O3は、ガラスの屈折率を高める働きを有するが、高価な成分である。そのため、Sc2O3の各含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0106】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、HfO2の含有量の上限は、好ましくは2%であり、さらには1.5%、1.0%、0.5%、0.3%である。また、HfO2の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.005%、0.01%、0.03%、0.05%、0.07%、0.09%の順により好ましい。
【0107】
なお、HfO2はZrO2の原料に一定量含まれることがある。したがって、ZrO2を含有するガラスは、一定量のHfO2を含有することがある。そのため、第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrO2の含有量に対するHfO2の含有量の質量比[HfO2/ZrO2]も所定範囲となりうる。例えば、該質量比[HfO2/ZrO2]の下限は、0.005であってもよく、さらには0.010、0.013、または、0.015であってもよい。一方で、該質量比の上限は、0.05であってもよく、さらには0.040、0.030、0.020、または0.018であってもよい。耐火物レンガの成分がガラス中に熔出することを抑える観点から、ガラスは少量のZrO2を含有することが好ましく、そのためにHfO2の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0108】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Lu2O3の含有量は、好ましくは2%以下である。また、Lu2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。
【0109】
Lu2O3は、ガラスの屈折率を調整する働きを有するが、分子量が大きいことから、ガラスの比重を増加させるガラス成分でもある。そのため、Lu2O3の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0110】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Yb2O3の含有量は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。また、Yb2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。
【0111】
Yb2O3は、ガラスの屈折率を調整する働きをするが、分子量が大きいことから、ガラスの比重を増大させる。ガラスの比重が増大すると、光学素子の質量が増大する。したがって、Yb2O3の含有量を低減させて、ガラスの比重の増大を抑えることが望ましい。
【0112】
また、Yb2O3の含有量が多すぎるとガラスの熱的安定性が低下する。さらに赤外域に吸収をもたらす。ガラスの熱的安定性の低下を防ぎ、比重の増大を抑制する観点から、Yb2O3の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0113】
第1実施形態に係る光学ガラスは、主として上述のガラス成分、すなわちAl2O3、SiO2、ZrO2、P2O5、B2O3、TiO2、Nb2O5、WO3、Bi2O3、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、La2O3、Gd2O3、Y2O3、GeO2、Ta2O5、Sc2O3、HfO2、Lu2O3、およびYb2O3で構成されていることが好ましく、上述のガラス成分の合計含有量は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が一層好ましい。
【0114】
なお、第1実施形態に係る光学ガラスは、基本的に上記ガラス成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0115】
(その他の成分)
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seは、いずれも毒性を有する。そのため、本実施形態に係る光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0116】
U、Th、Raはいずれも放射性元素である。そのため、本実施形態に係る光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0117】
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tmは、ガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。そのため、本実施形態に係る光学ガラスがこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。ただし、本発明の目的である460nm付近の透過率を悪化させない元素については、本発明の課題を解決できる範囲で導入することができる。
【0118】
Sb(Sb2O3)、Ce(CeO2)は清澄剤として機能する任意に添加可能な元素である。このうち、Sb(Sb2O3)は、清澄効果の大きな清澄剤である。Ce(CeO2)は、Sb(Sb2O3)と比較し、清澄効果が小さい。Ce(CeO2)は、多量に添加するとガラスの着色が強まる傾向がある。
【0119】
Sb2O3の含有量は、外割り表示とする。すなわち、Sb2O3およびCeO2以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのSb2O3の含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、さらには0.4質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、0.02質量%以下、0.01質量%以下の順に好ましい。Sb2O3の含有量は0質量%であってもよい。
【0120】
CeO2の含有量も、外割り表示とする。すなわち、CeO2、Sb2O3以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのCeO2の含有量は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、一層好ましくは0.1質量%以下の範囲である。CeO2の含有量は0質量%であってもよい。CeO2の含有量を上記範囲とすることによりガラスの清澄性を改善できる。
【0121】
(ガラスの特性)
<屈折率nd>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、屈折率ndの上限は、2.50とすることができ、さらには2.20、2.10、2.05、2.00または1.98とすることもできる。また、屈折率ndの下限は1.85とすることができ、さらには1.87、1.89、1.90とすることもできる。屈折率は、高屈折率化に寄与するガラス成分であるTiO2、Nb2O5、ZrO2、Y2O3等の含有量を調整したり、SiO2、Al2O3、B2O3等の低屈折率成分の含有量を調整したり、Li2OやCaOなどの修飾成分を導入することにより制御できる。
【0122】
<アッベ数νd>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数νdの上限は、30.0とすることができ、さらには28.0、26.0、25.0、または24.5とすることもできる。また、アッベ数νdの下限は、15.0とすることができ、さらには18.0、20.0、22.0、または23.0とすることもできる。アッベ数νdを上記範囲とすることで、所望の分散性を有するガラスを得ることができる。アッベ数νdは、高分散化に寄与するガラス成分である、TiO2、Nb2O5、WO3、ZrO2、およびBi2O3の含有量などを調整することにより制御できる。
【0123】
<ガラスの比重>
第1実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率ガラスでありながら、比重が大きくない。ガラスの比重を低減することができれば、レンズの重量を減少できる。一方、比重が小さすぎると、熱的安定性の低下を招く。
【0124】
したがって、第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、比重の上限は、好ましくは7.0であり、さらには6.0、5.0、4.5、4.0の順により好ましい。比重の下限は、好ましくは2.5であり、さらには3.0、3.5の順により好ましい。
【0125】
比重は、ガラスに含まれる構成成分の原子量と、その原子の占有体積によって決まる。例えば第六周期元素あるいは原子番号57以上の原子番号の大きな元素を含む酸化物を導入した場合には比重が増加する傾向があるが、その元素の占有体積も大きい場合、比重の増加が抑えられることもある。ただし元素の占有体積が大きすぎると屈折率が低下する。また、元素の占有体積は固有のものではなく、他のガラス成分の存在によっても多少変化する。このように各成分の合計量や比率の調整することにより比重値を制御できる。さらに各元素の占有体積はガラスの徐冷条件によっても多少変化する。
【0126】
<ガラス転移温度Tg>
第1実施形態に係る光学ガラスの一例において、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限はないが、徐冷に要する時間など生産性を考慮すると、好ましくは850℃であり、さらには800℃、750℃、700℃、650℃の順により好ましい。また、ガラス転移温度Tgの下限に特に制限はないが、光学ガラスに適度な耐熱性を備える観点からは、好ましくは100℃であり、さらには200℃、300℃、400℃、500℃の順により好ましい。
【0127】
ガラス転移温度Tgは、導入されるガラス成分の中に、Tgを低下させる成分として知られているLiやZnなどの成分を導入するほか、ガラス形成成分の増減、各成分の比率等を調整することにより制御する。
【0128】
ガラス転移温度Tgの上限が上記を満たすことにより、ガラスのリヒートプレス時の成型温度およびアニール温度の上昇を抑制することができ、リヒートプレス成形用設備およびアニール設備への熱的ダメージを軽減できる。
【0129】
ガラス転移温度Tgの下限が上記を満たすことにより、所望のアッベ数、屈折率を維持しつつ、リヒートプレス成形性およびガラスの熱的安定性を良好に維持しやすくなる。
【0130】
<液相温度LT>
第1実施形態に係る光学ガラスの液相温度LTの上限は、ガラスの熔融に用いるエネルギーをなるべく少なくする観点から、好ましくは1450℃であり、さらには、1400℃、1350℃、1300℃、1250℃、1200℃の順により好ましい。また、液相温度の下限に特に制限はないが、一定の安定性を得る観点からは、好ましくは800℃であり、さらには、900℃、1000℃、1050℃、1100℃の順により好ましい。液相温度を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。
【0131】
なお、液相温度は次のように決定する。10cc(10ml)のガラスを白金坩堝中に投入し1250℃~1450℃で20~30分熔融した後にガラス転移温度Tg以下まで冷却し、ガラスを白金坩堝ごと所定温度の熔解炉に入れ2時間保持する。保持温度は800℃以上で5℃あるいは10℃刻みとし、2時間保持後、冷却し、100倍の光学顕微鏡でガラス内部の結晶の有無を観察する。結晶の析出しなかった最低温度を液相温度とする。
【0132】
<Pt含有量>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ptの含有量の上限は、好ましくは10.0質量ppmであり、さらには、8.0質量ppm、7.0質量ppm、6.0質量ppm、5.0質量ppmの順により好ましい。Ptの含有量は少ない方が好ましく、その下限は、好ましくは4.0量ppmであり、さらには3.0質量ppm、2.0質量ppm、0.0質量ppmの順に少ないほどより好ましい。
【0133】
熔解炉の一部、特にバッチ原料を加熱、熔解する部位に耐火物レンガを用いた熔解炉で製造されたガラスでは、白金炉で製造されたガラスよりもPtの含有量が低減される。Ptの含有量を上記範囲とすることで、透過率に優れる光学ガラスが得られる。
【0134】
<τ460、τ440>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、厚さ10.0mm±0.1mmでの波長460nmにおける内部透過率τ460の下限は、好ましくは88.0%であり、さらには90.0%、91.0%、92.0%、93.0%、94.0%、95.0%の順により好ましい。該内部透過率は高いほど好ましく、好ましくは100.0%であり、その上限は、99.0%、98.0%、97.0%、96.0%の順に高いほどより好ましい。なお、本実施形態に係る光学ガラスを用いたガラス製品の肉厚(光路長)はその用途に応じて適宜選定されるものであり、10.0mmに限定されず、たとえば15mm以上、さらには20mm以上、30mm以上とすることができるほか、用途により8mm以下、6mm以下、4mm以下とすることもできる。
【0135】
また、第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、厚さ10.0mm±0.1mmでの波長440nmにおける内部透過率τ440の下限は、好ましくは85.0%であり、さらには88.0%、90.0%、91.0%、92.0%、93.0%、94.0%の順により好ましい。該内部透過率は高いほど好ましく、好ましくは100.0%であり、その上限は、99.0%、98.0%、97.0%、96.0%、95.0%の順に高いほどより好ましい。
【0136】
内部透過率(τ)は、入射側および出射側における表面反射損失を除いた透過率である。厚さの異なる2つのガラス試料について、それぞれ波長460nmまたは440nmにおける表面反射損失を含む透過率の測定値を用いて、下記式により内部透過率を求める。ガラス試料の厚みd
1、d
2は、それぞれ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmとする。
【数1】
ここで
τ:試料の厚みd
2におけるガラスの内部透過率
Δd:試料の厚みの差[d
2-d
1]
T
1:試料の厚みd
1で得られる表面反射損失を含む透過率
T
2:試料の厚みd
2で得られる表面反射損失を含む透過率
【0137】
内部透過率は、屈折率によらない素材の透過率であり、ガラスに含まれる元素が持つ固有の光吸収や、Ptをはじめとする不純物に由来する光吸収、さらにはガラス骨格の中で発生する着色中心による吸収等を調整することにより制御できる。
上記観点からは、例えばWO3、Bi2O3といった内部透過率を低下させる成分の含有量を調整することにより、内部透過率を上記範囲に制御できる。また、Sb2O3、およびPtといった微量成分の含有量を調整することも有効である。さらに、βOHや、Li2O、Na2O、およびK2Oといったアルカリ成分の含有量を調整して還元着色を低減しやすくすることも有効である。
【0138】
<λτ90、λτ80、λτ5>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、光線透過性は、λτ90、λτ80、λτ5によっても評価できる。例えば、λτ90は、
図1に示すとおり内部透過率が90%となる波長である。同様に、λτ80、λτ5は、それぞれ内部透過率が80%、5%となる波長である。内部透過率は、上記式にて求められる。
【0139】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、λτ90の上限は、所望の波長における透過率を高める観点から、好ましくは500nmであり、さらには470nm、450nm、430nm、420nmの順により好ましい。λτ90の下限について特に制限は無いが、人体に悪影響をおよぼす短波長の光の透過率を低減する観点からは、好ましくは150nmであり、さらには200nm、250nm、300nm、350nmの順に好ましい。
【0140】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、λτ80の上限は、所望の波長における透過率を高める観点から、好ましくは450nmであり、さらには440nm、430nm、420nm、410nmの順により好ましい。λτ80の下限について特に制限は無いが、人体に悪影響をおよぼす短波長の光の透過率を低減する観点からは、好ましくは150
nmであり、さらには200nm、250nm、300nm、350nmの順に好ましい。
【0141】
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、λτ5の上限は、所望の波長における透過率を高める観点から、好ましくは390nmであり、さらには380nm、370nm、365nm、360nmの順により好ましい。λτ5の下限について特に制限は無いが、人体に悪影響をおよぼす短波長の光の透過率を低減する観点からは、好ましくは150nmであり、さらには250nm、300nm、330nm、350nm、355nmの順により好ましい。
【0142】
<λ70>
第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、λ70の上限は、所望の波長における透過率を高める観点から、好ましくは435nmであり、さらには430nm、425nm、420nm、415nm、410nm、405nm、400nmの順により好ましい。λ70の下限について特に制限は無いが、高屈折率との両立をはかる観点から、好ましくは300nmであり、さらには310nm、320nm、330nm、340nm、350nmの順により好ましい。
【0143】
70%の外部透過率であるλ70は、ガラスの内部透過率と屈折率によって決まるため、本発明のガラスの性質を表すための最適な指標ではない。しかしながら、目安として上記範囲のλ70を有することが好ましい。
【0144】
(光学ガラスの製造)
本発明の実施形態に係る光学ガラスは、上記所定の組成となるようにガラス原料を調合し、調合したガラス原料により公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を耐火物レンガで構成された坩堝に入れて加熱、熔融ガラスとし、さらに清澄、均質化した後に熔融ガラスを成形し、徐冷して光学ガラスを得る。清澄や均質化の工程は適宜白金製の坩堝で熔解を行うこともできる。白金製の坩堝で熔融を行う際は、白金の酸化を抑制するために非酸化性雰囲気すなわち窒素雰囲気や水蒸気雰囲気等の中で熔解することもできる。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。なお、ガラス原料には耐火物レンガや石英坩堝などで粗熔解された熔融ガラスを急冷して得られるカレットを原料として用いても良い。
【0145】
なお、ガラス中に所望のガラス成分を所望の含有量となるように導入することができれば、バッチ原料を調合するときに使用する化合物は特に限定されないが、このような化合物として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、水和物、フッ化物、塩化物等が挙げられる。
【0146】
その他に、白金製坩堝から導入されることのあるPtによるガラス成分の酸化を抑制する手段の一つとして、ガラス中の水酸基の量を制御してもよい。本実施形態に係る光学ガラスはケイ酸塩を主体とするガラスであることから、過剰な水酸基の導入によってガラス構造が切断され、ガラスの熱的安定性が低下することがある。この熱的安定性は、熔融ガラスを徐冷する際に生じる結晶析出の度合いに影響するほか、ガラスを再加熱する際の結晶析出にも影響する。本実施形態に係る光学ガラスの場合、後者の影響が大きいことから、この水酸基の量を適切に制御することが好ましい。
【0147】
ガラス中の水酸基の量はβOHの値であらわすことができる。第1実施形態に係る光学ガラスにおいて、下記式(1)に示すβOHの値の下限は、好ましくは0.1mm-1であり、さらには0.2mm-1、0.3mm-1、0.4mm-1の順でより好ましい。また、βOHの値の上限は、好ましくは1.5mm-1であり、さらには1.2mm-1、1.0mm-1、0.9mm-1、0.8mm-1、0.7mm-1、0.6mm-1の順でより好ましい。
βOH=-[ln(B/A)]/t …(1)
【0148】
ここで、式(1)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。
【0149】
なお、「外部透過率」とは、ガラスに入射する入射光の強度Iinに対するガラスを透過した透過光の強度Ioutの比(Iout/Iin)、すなわち、ガラスの表面における表面反射も考慮した透過率であり、透過率は、分光光度計を用いて、透過スペクトルを測定することにより得られる。
【0150】
βOHを評価することにより、ガラスにおける水(および/または水酸化物イオン、以下、単に「水」という。)の含有量を評価することができる。すなわち、βOHが高いガラスは、ガラスにおける水の含有量が高いことを意味している。
【0151】
βOHの値を上記範囲とすることで、失透を抑制し、透過率の高い光学ガラスが得られる。一方、本発明においてβOHの値が高すぎると、ガラスをガラス転移点以上に再加熱した時の熱的安定性が低下する傾向がある。また、ガラスの徐冷工程すなわち、歪点付近より高温かつ屈服点付近以下での分単位あるいは時間単位の保持において、ガラスの白濁・失透が促進されるおそれもある。
【0152】
βOHの値を制御する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス原料として水を含む原料を用いる、熔融工程において熔融雰囲気に水蒸気を付加するなどが挙げられる。また、耐火物レンガを用いた熔解炉でガラスを熔解する場合には、熔融ガラスはガスバーナにより間接的に熱されるが、このときガスバーナの燃焼により発生する水が熔融ガラスに導入される。これにより、熔融ガラス中の水分量が適度に高められ、βOHの値を上記範囲とすることができる。
【0153】
(光学素子等の製造)
本発明の実施形態に係る光学ガラスを使用して光学素子を作製するには、公知の方法を適用すればよい。例えば、上記光学ガラスの製造において、熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、本発明に係る光学ガラスからなるガラス素材を作製する。得られたガラス素材を適宜、切断、研削、研磨し、プレス成形に適した大きさ、形状のカットピースを作製する。カットピースを加熱、軟化して、公知の方法でプレス成形(リヒートプレス)し、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを作製する。光学素子ブランクをアニールし、公知の方法で研削、研磨して光学素子を作製する。
【0154】
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
【0155】
本発明の一態様によれば、上記光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、平面レンズ、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム、回折格子等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、上記光学ガラスからなるガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。こうした加工を行う際、上記ガラスを使用することにより、破損を軽減することができ、高品質の光学素子を安定して供給することができる。
【0156】
第2実施形態
本発明の第2実施形態に係る光学ガラスは、
TiO2およびNb2O5の合計含有量[TiO2+Nb2O5]が20%以上であり、
Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]が0.0000より大きい。
【0157】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2およびNb2O5の合計含有量[TiO2+Nb2O5]は20%以上である。該合計含有量の下限は、好ましくは22%であり、さらには、24%、26%、28%、33%、37%、40%、42%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは70%であり、さらには、60%、57%、55%、53%、50%、46%の順により好ましい。
【0158】
TiO2およびNb2O5は、比重を比較的高めずに高屈折率化に寄与する成分である。したがって、所望の比重特性と屈折率特性を両立するガラスを得るために、TiO2およびNb2O5の合計含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0159】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al2O3の含有量とSiO2およびZrO2の合計含有量との質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]は0.0000より大きい。該質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]の下限は、好ましくは0.0001であり、さらには0.0003、0.0005、0.0007、0.0010、0.0050、0.0100、0.0200、0.0250、0.0350、0.0450の順により好ましい。該質量比の上限は、好ましくは0.3000であり、さらには0.2500、0.2000、0.1500、0.1000、の順により好ましい。
【0160】
質量比[(Al2O3/(SiO2+ZrO2)]を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。また、この比率が上記範囲外であるガラスと比べて熱的安定性を高め、加熱時の失透性、あるいは熔融ガラスを冷却する際の結晶析出を遅らせる効果がある。一方、該質量比が大きすぎると、屈折率ndが低下するうえ、熱的安定性が低下し、失透するおそれがある。
【0161】
以下、第2実施形態に係る光学ガラスについて、好ましい態様を説明する。
【0162】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3およびP2O5の合計含有量とSiO2およびAl2O3の合計含有量との質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]の上限は、好ましくは0.30であり、さらには0.26、0.21、0.18、0.16、0.15、0.14、0.12、0.10、0.90、0.08の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0.00であり、さらには0.01、0.02、0.03、0.04、0.05の順により好ましい。
【0163】
質量比[(B2O3+P2O5)/(SiO2+Al2O3)]を上記範囲とすることで、ガラス熔融時における耐火物レンガのガラス質の侵食を抑制できる。該質量比が大きすぎると、耐火物レンガの侵食が大きくなり、熔融ガラスの均質性が低下し、耐失透性が低下するおそれがある。
【0164】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、BaO、La2O3、Gd2O3、およびWO3の合計含有量とCaO、SrO、およびY2O3の合計含有量との質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]の上限は、好ましくは3.0であり、さらには2.7、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6の順により好ましい。該質量比の下限は、好ましくは0.0であり、さらには0.5、0.8、1.0、1.2の順により好ましい。
【0165】
質量比[(BaO+La2O3+Gd2O3+WO3)/(CaO+SrO+Y2O3)]を上記範囲とすることで、原子量が大きすぎる成分、あるいは酸素の充填を促進するような高屈折率の成分の使用量を制限することができ、ガラスの比重を低減できる。一方、該質量比が大きすぎると、ガラスの比重が増大することによって熔融ガラスの動粘性が低下し、ガラス流の制御が困難になるなどして生産性が悪化するおそれがある。また、耐火物レンガの侵食が増大するおそれがある。
【0166】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2O、Na2O、およびK2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]の上限は、好ましくは13%であり、さらには11%、10%、8.0%、6.0%、5.0%、4.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0.00%であり、さらには0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、3.0%の順により好ましい。
【0167】
合計含有量[Li2O+Na2O+K2O]を上記範囲とすることで、ガラスの粘性を適切に維持してガラスの生産性を高めることができる。また、TiやNbによって生じる還元成分に由来する光吸収を抑え、さらには熔解温度の低下や徐冷によるガラス中の電子的な欠陥の解消を促進することによって、460nmの内部透過率を高めることができる。また、ガラス熔融時における耐火物レンガの侵食を抑制できる。一方、該合計含有量が小さすぎると、ガラス原料の熔融性が悪化し、原料の熔解温度を高く設定する必要が生じる。結果として耐火物レンガの劣化が促進されるなど生産性が悪化する。逆に、該合計含有量が大きすぎると、ガラスの粘性低下と、それにともなって熱的安定性の低下が起こり、生産性が悪化するおそれがある。また、熔融ガラスの比抵抗が低下して、熔融ガラスを通電により加熱する際の加熱効率が低下し、結果としてガラスの熔融性が低下し、生産性も悪化するおそれがある。Al2O3の含有量が大きいガラスほど、上記含有量が大きすぎないように調整することが望ましい。
【0168】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al2O3の含有量の下限は、好ましくは0.01%であり、さらには、0.05%、0.08%、0.10%、0.13%、0.16%、0.20%、0.30%、0.50%、0.70%、1.0%の順により好ましい。Al2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、2.0%の順により好ましい。
【0169】
耐火物レンガを用いた熔解炉でガラスを熔解する場合、耐火物レンガ由来のAl2O3が熔融ガラスに導入される。したがって、ガラス原料にAl2O3が含まれない場合でも、耐火物レンガを用いた熔解炉で熔解され製造されたガラスには、Al2O3が微量に含まれる。Al2O3の含有量が上記範囲である場合には、Al2O3の含有量が上記範囲外である場合と比べて、熱的安定性が高く、加熱時の失透が抑制され、また熔融ガラスを冷却する際の結晶析出が抑制される。しかし、Al2O3は、比重を低減させる働きが小さく、また屈折率を低下させる働きを有する成分であることから、高屈折率・低比重のガラスを得る観点からはAl2O3の含有量は少ないほど好ましい。また、Al2O3の含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が低下し、ガラス転移温度Tgが上昇し、また、熱的安定性が低下するおそれがある。一方、Al2O3の含有量が少なすぎると、耐火物レンガの侵食が増加するおそれがある。
【0170】
第2実施形態に係る光学ガラスにおいて、上記以外のガラス成分の含有量および比率については、第1実施形態と同様とすることができる。また、第2実施形態におけるガラス特性、光学ガラスの製造および光学素子等の製造についても、第1実施形態と同様とすることができる。
【実施例0171】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0172】
(実施例1)
表1、2に示すガラス組成を有するガラスサンプルを以下の手順で作製し、各種評価を行った。
【0173】
[光学ガラスの作製]
まず、ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られる光学ガラスのガラス組成が、表1、2に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。こうして得られた調合原料(バッチ原料)を、耐火酸化物から成る坩堝に投入し、1150℃~1450℃で1時間加熱して熔融ガラスとし、白金坩堝に移し替えたのち、攪拌して均質化を図り、清澄してから、熔融ガラスを適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを、ガラス転移温度Tgより100℃低い温度で30分間熱処理し、炉内で室温まで放冷することにより、ガラスサンプルを得た。
なお、実施例では、原材料の量は酸化物基準でおよそ150gとした。
【0174】
[ガラス成分組成の確認]
得られたガラスサンプルについて、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各ガラス成分の含有量を測定し、表1、2に示す各組成のとおりであることを確認した。
【0175】
[光学特性の測定]
得られたガラスサンプルを、さらにガラス転移温度Tg付近で約30分から約2時間アニール処理した後、炉内で降温速度-30℃/時間で室温まで冷却してアニールサンプルを得た。得られたアニールサンプルについて、屈折率nd、ng、nFおよびnC、アッベ数νd、τ460、τ440、λτ90、λτ80、λτ5、λ70を測定した。結果を表3に示す。
(i)屈折率nd、ng、nF、nCおよびアッベ数νd
上記アニールサンプルについて、JIS規格 JIS B 7071-1の屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、nCを測定し、下式に基づきアッベ数νdを算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0176】
(ii)τ460、τ440
波長460nm、440nmにおける内部透過率(τ460、τ440)を測定した。
厚さの異なる2つのガラス試料について、それぞれ波長460nmまたは440nmにおける表面反射損失を含む透過率の測定値を用いて、下記式により内部透過率を求めた。ガラス試料の厚みd
1、d
2は、それぞれ2.0mm±0.1mmおよび10.0mm±0.1mmとした。
【数1】
ここで
τ:試料の厚みd
2におけるガラスの内部透過率
Δd:試料の厚みの差[d
2-d
1]
T
1:試料の厚みd
1で得られる表面反射損失を含む透過率
T
2:試料の厚みd
2で得られる表面反射損失を含む透過率
【0177】
(iii)λτ90、λτ80、λτ5、λ70
内部透過率が90%となる波長(λτ90)、内部透過率が80%となる波長(λτ80)、内部透過率が5%となる波長(λτ5)、外部透過率が70%となる波長(λ70)を測定した。内部透過率は、上記式にて算出した。
【0178】
[比重]
比重は、アルキメデス法により測定した。結果を表3に示す。
【0179】
[ガラス転移温度Tg]
ガラス転移温度Tgは、NETZSCH JAPAN社製の示差走査熱量分析装置(DSC3300SA)を使用し、昇温速度10℃/分にて測定した。結果を表3に示す。
【0180】
[液相温度LT]
液相温度LTは次のように決定した。10cc(10ml)のガラスを白金坩堝中に投入し1250℃~1400℃で20~30分熔融した後にガラス転移温度Tg以下まで冷却し、ガラスを白金坩堝ごと所定温度の熔解炉に入れ2時間保持した。保持温度は800℃以上で5℃あるいは10℃刻みとし、2時間保持後、冷却し、100倍の光学顕微鏡でガラス内部の結晶の有無を観察した。結晶の析出しなかった最低温度を液相温度とした。結果を表3に示す。
【0181】
[Pt含有量]
Pt含有量を測定した。測定は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で行った。結果を表3に示す。
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
(実施例2)
[耐火物レンガの侵食試験]
表1のNo.13、26、27、28、および比較例Aのガラス組成を有するガラスサンプルを、実施例1と同様の手順で作製し、耐火物レンガの侵食について以下の手順で評価を行った。
【0186】
ガラスサンプル40ccを、白金坩堝で1280℃、30分間加熱し、熔解した。円柱形のレンガ試料(AGCセラミックス製 ZB-1711VF、SiO2:ZrO2:Al2O3の比率がおよそ1:4:5、直径20mm、長さ100mm)を、白金坩堝中で熔解したガラスサンプルに浸漬させ、1280℃で72時間加熱した。加熱後、レンガ試料を取り出した。
【0187】
取り出したレンガ試料を、試料の中心を通るように縦半分に割断した。割断面において、試料の幅は直径に相当する。割断面の写真を
図1に示す。
図1に示すように、比較例では、浸漬時に熔解したガラスサンプルの液面に位置した部分にくびれのような損傷がある。また、熔解したガラスサンプルに浸漬していた部分は、全体的に侵食されて直径が小さくなっている。一方、実施例では、レンガ試料にくびれのような目立った損傷はなく、熔解したガラスサンプルに浸漬していた部分の侵食も小さい。
【0188】
取り出したレンガ試料は、次のように評価した。まず、割断面において、
図2に示すように、侵食試験前の直径、侵食試験後にガラス液面との接触部付近に生じる、直径の極小値(くびれ位置の直径)、このくびれ位置から25mm下の直径を測定した。下記式に基づき、侵食試験後の直径の増減率(%)、平均増減率ΔDを評価した。なお、直径には、レンガ試料表面に付着したガラスやガラス変質部は含めない。
【0189】
増減率DN(%)=([直径の極小値(くびれ位置の直径)]-[侵食試験前の直径])/[侵食試験前の直径]×100
【0190】
増減率D25(%)=([侵食試験後のくびれ位置から25mm下の直径]-[侵食試験前の直径])/[侵食試験前の直径]×100
【0191】
平均増減率ΔD=(増減率DN+増減率D25)/2
【0192】
上記式において、レンガ試料の直径は、0.01mmまで表示できるデジタルノギスを用いて3回計測し、その平均値(単位:mm)の小数第2位を四捨五入して小数第一位まで求めた値とした。平均増減率ΔDの絶対値(|ΔD|)の値に基づいて、表4のとおり分類し、侵食の程度を判定した。結果を表5に示す。
【0193】
【0194】
【0195】
(実施例3)
実施例1において作製した各光学ガラスを用いて、公知の方法により、レンズブランクを作製し、レンズブランクを研磨等の公知方法により加工して各種レンズを作製した。
作製した光学レンズは、平面レンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ等の各種レンズである。ここで光学ガラスを加熱軟化せずに切断して得られた部材をレンズブランクとすることもできる。
各種レンズは、他種の光学ガラスからなるレンズと組合せることにより、二次の色収差を良好に補正することができた。
【0196】
また、ガラスが低比重であるため、各レンズとも同等の光学特性、大きさを有するレンズよりも重量が小さく、ゴーグル型または眼鏡型のAR表示装置用として好適である。同様にして、実施例1で作製した各種光学ガラスを用いてプリズムを作製した。
【0197】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0198】
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。