(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180708
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】地下壁杭構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/44 20060101AFI20241219BHJP
E02D 5/48 20060101ALI20241219BHJP
E02D 5/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E02D5/44 A
E02D5/44 B
E02D5/48
E02D5/20 102
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024187050
(22)【出願日】2024-10-24
(62)【分割の表示】P 2021111726の分割
【原出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 暁洋
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
(57)【要約】
【課題】壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造において、地盤との摩擦強度を向上させることができる地下壁杭構造を開発する。
【解決手段】壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造であって、壁厚方向に一定の壁厚を有する壁状体本体と、底部が壁厚方向に拡底された拡底部と、を備え、拡底部は、底が壁厚方向にアーチ形状であり、拡底部の側面は弧状を有する拡翼指に形成されており、拡翼指は、単独あるいは複数が連続して設けられている地下壁杭構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造であって、
壁厚方向に一定の壁厚を有する壁状体本体と、
底部が壁厚方向に拡底された拡底部と、を備え、
拡底部は、底が壁厚方向にアーチ形状であり、拡底部の側面は弧状を有する拡翼指に形成されており、
拡翼指は、単独あるいは複数が連続して設けられていることを特徴とする地下壁杭構造。
【請求項2】
拡翼指の底面は、凸型曲面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の地下壁杭構造。
【請求項3】
拡底部は、壁状体の長手方向に部分的、断続的あるいは全長に渡って形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の地下壁杭構造。
【請求項4】
拡底部は、壁状体の両面あるいは片面に形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の地下壁杭構造。
【請求項5】
壁状体の側面の中間部に、周面を曲面とする膨出部が形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の地下壁杭構造。
【請求項6】
拡底部は、下方に突軸部を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の地下壁杭構造。
【請求項7】
地下壁杭構造の拡底部の形状に掘削する掘削装置であって、
フレーム躯体とフレーム躯体の下方に設けられた回転揺動掘削体を備えており、
フレーム躯体は、上部に地盤に圧接する上部スタビライザー、下部に地盤に圧接する下部スタビライザーが設けられており、
回転揺動掘削体は、フレームに水平に設けられた取付軸に、周面にビットが取り付けられたシャフトが回転と揺動可能に取り付けられていることを特徴とする地下壁杭構造の拡底部を形成する拡翼掘削装置。
【請求項8】
シャフトの揺動に伴う傾斜を計測する傾斜計が設けられていることを特徴とする請求項7記載の拡翼掘削装置。
【請求項9】
フレーム躯体には排泥管が装着されており、シャフトは先端が開放された中空パイプで形成されており、シャフトの後端が排泥管に接続した排泥機能を備えたことを特徴とする請求項7又は8記載の拡翼掘削装置。
【請求項10】
回転揺動掘削体には、シャフトが複数設けられており、
シャフトは隣接する回転軌跡が重複しないように配置されていることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の拡翼掘削装置。
【請求項11】
回転シャフトの先端に、先端に向かって縮径するビットが設けられていることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の拡翼掘削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下壁杭構造に関する。特に、建築構造物の基礎杭の機能を果たす壁杭などに利用される地下壁杭構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の地下壁杭は深さ方向に同じ壁厚を有していた。その後、深さ方向に掘削断面形状(壁厚)が異なる地下壁杭を構築して、基礎の先端での支持力を確保するか、それとも全体の剛性を大きくして変形量を小さくする等の理由により、深さ方向に異なる壁厚を有する地下壁杭が開発されている。山留め用の連壁でも水圧や土圧は深さ方向によって変化するので、深さ方向に応じて壁厚が異なるものが使用される。
拡底部や途中に拡幅部を設ける従来例として、次のような提案がなされている。
特許文献1(特開平9-228398号公報)には、建物の基礎杭として先端部分の杭径を拡大した拡底杭を用いて、支持力を増大させることが開示されている。
特許文献2(特開平6-336725号公報)には、拡底部を有する地下壁杭が開示されている。掘削機として、水平に配置されたロータリーカッタを用い、拡底部では、ロータリーカッタを下部では増やして拡底部の掘削する掘削機を使用すること
が開示されている。
特許文献3(特開2009-2156号公報)には、拡底部と中間に拡幅部を設けた壁杭が開示されている。鉛直方向を軸として回転可能なケリーバーと、ケリーバーの下端部に取り付けられるバケット部とを備えた掘削機を用いることが開示されている。
本出願人は、アーチ状の底面を有する拡底部を備えた地下壁杭を特許文献4(特開2019-100124号公報)として提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-228398号公報
【特許文献2】特開平06-336725号公報
【特許文献3】特開2009-002156号公報
【特許文献4】特開2019-100124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造において、地盤との摩擦強度を向上させることができる地下壁杭構造を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造であって、
壁厚方向に一定の壁厚を有する壁状体本体と、
底部が壁厚方向に拡底された拡底部と、を備え、
拡底部は、底が壁厚方向にアーチ形状であり、拡底部の側面は弧状を有する拡翼指に形成されており、
拡翼指は、単独あるいは複数が連続して設けられていることを特徴とする地下壁杭構造。
2.拡翼指の底面は、凸型曲面に形成されていることを特徴とする1.記載の地下壁杭構造。
3.拡底部は、壁状体の長手方向に部分的、断続的あるいは全長に渡って形成されていることを特徴とする1.又は2.記載の地下壁杭構造。
4.拡底部は、壁状体の両面あるいは片面に形成されていることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の地下壁杭構造。
5.壁状体の側面の中間部に、周面を曲面とする膨出部が形成されていることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の地下壁杭構造。
6.拡底部は、下方に突軸部を有することを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の地下壁杭構造。
7.地下壁杭構造の拡底部の形状に掘削する掘削装置であって、
フレーム躯体とフレーム躯体の下方に設けられた回転揺動掘削体を備えており、
フレーム躯体は、上部に地盤に圧接する上部スタビライザー、下部に地盤に圧接する下部スタビライザーが設けられており、
回転揺動掘削体は、フレームに水平に設けられた取付軸に、周面にビットが取り付けられたシャフトが回転と揺動可能に取り付けられていることを特徴とする地下壁杭構造の拡底部を形成する拡翼掘削装置。
8.シャフトの揺動に伴う傾斜を計測する傾斜計が設けられていることを特徴とする7.記載の拡翼掘削装置。
9.フレーム躯体には排泥管が装着されており、シャフトは先端が開放された中空パイプで形成されており、シャフトの後端が排泥管に接続した排泥機能を備えたことを特徴とする7.又は8.記載の拡翼掘削装置。
10.回転揺動掘削体には、シャフトが複数設けられており、
シャフトは隣接する回転軌跡が重複しないように配置されていることを特徴とする7.~9.のいずれかに記載の拡翼掘削装置。
11.回転シャフトの先端に、先端に向かって縮径するビットが設けられていることを特徴とする7.~10.のいずれかに記載の拡翼掘削装置。
【発明の効果】
【0006】
1.アーチ状の底面を有する拡底部を備えた地下壁杭構造は、アーチ状の拡底部の曲面に沿って地盤反力が働くので、フラットの拡底部に比べて、地盤反力が偏在しないので、ひび割れなどの損傷が抑制された高支持力の地下壁杭を形成することができる。
そして、拡底部の側面には弧状曲面を備えた拡翼指を設けたので、拡底部側面に形成された凸凹と地盤の摩擦が大きくなる。
上部躯体の柱部分など高軸力が作用する箇所の直下に重点的に拡底部を備えた地下壁杭を形成する。
拡底部を設けることにより、地震による引き抜き抵抗や剪断抵抗を向上させることができる。
2.拡翼指の底部に凸型曲面を設けることにより、凸型曲面が支持地盤内に突出して支持地盤に固定された状態となり、さらに、地下壁杭構造を支持地盤に強固に支持させることができる。さらに、拡底部から下方に突軸部を設けることにより、地下壁杭構造が支持地盤に強固に支持させることができる。
3.拡底部は、壁状体の長手方向に全長、部分的、あるいは断続的に形成することができる。また、拡底部を壁状体の両面あるいは片面に形成することができる。さらに、大きさの異なる拡底部を設けることができる。このように、拡底部の形成箇所、大きさを設定することにより、躯体の部分に応じた支持力を負担する地下壁部分を設計することができる。あるいは、地盤強度に応じた地下壁杭を設計することができる。さらに、隣接地や隣接建物との関係で、外側への張り出しが制限される場合は、外側の拡底部を小さくする、あるいは、設けずに内側にのみ設けることができる。例えば、地下掘削時の山留め壁に使用できる。
さらに、壁状体の壁面に中間に膨出部を設けることにより、地盤の支持力及び地盤との摩擦を向上させることができる。
4.拡底部の下方に突軸部を備えた地下壁杭は鉛直性が確保され、せん断抵抗が向上した壁杭構造が実現できる。
5.拡底部は、0°以上90°以下の間で、必要な支持力に応じて設定することができる。好ましくは、40°以内に形成される。
6.これらの拡底部は、軸が回転し、シャフトが揺動する回転揺動掘削体を備えた拡翼掘削機を用いることにより、高精度に製造することができる。
地盤に設けた削孔壁面を押圧することができるスタビライザーを掘削機の本体フレームの上部と下部に設けたので、掘削機本体を安定して固定することができ、下部の回転揺動掘削体の制動精度向上させることができ、掘削壁面の正確性が向上した。傾斜計を設けて、シャフトが揺動する角度を計測して拡底部の張り出し量をコントロールできる。
その結果、拡翼の張り出し角度、拡翼指の弧状の曲面形状の精度が向上し、設計に応じた施工ができるようになった。試験施工した地下壁杭を掘り出して、実物確認をしたところ、本発明の拡底部を備えた地下壁杭は設計精度を十分に満足していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】拡底部の張り出し形態を示す図。(a)両側同張出拡底、(b)左右偏張出拡底、(c)片側拡底。
【
図5】壁の中間に膨出部が形成された状態を示す図。(a)両側同張出拡底、(b)左右偏張出拡底、(c)片側拡底。
【
図6】地下壁杭の拡底部の平面的配置の例を示す図。(a)全長両側拡底、(b)全長片側拡底、(c)部分拡底。
【
図7】地下壁の配置と拡底部形成例を示す図。(a)田の字配置地下壁の例、(b)T字部割付例、(c)L字部割付例、(d)十字部割付例。
【
図9】拡底部を備えた地下壁杭の実例を示す図。(a)拡底部の下半部、(b)拡底部の上半部。
【
図10】拡底部掘削装置の例を示す図。(a)拡翼掘削機、(b)平面図、(c)底面図、(d)側面図、(e)先端ビットの例。
【
図11】掘削工程を示す図。(a)地下壁軸部掘削工程、(b)拡底部粗掘削工程、(c)底部掘削残土排出工程、(d)拡底部仕上掘削工程、(e)底部掘削残土排出工程。
【0008】
本発明は、壁状体の下部が広がった拡底部を有し、底面がアーチ状である拡底部を備えた地下壁杭構造であって、拡底部の側面に弧状の曲面を備えた拡翼指を形成した地下壁構造である。拡底部のアーチ状の底面は、アーチ状の曲面に沿って地盤反力が作用するために、フラットな拡底部で生じる地盤反力等の偏在はなく、ひび割れなどの損傷が抑制された高支持力の地中連壁となり、さらに、拡底部の側面には弧状の曲面によって形成された凸凹が地盤としっかり密着して摩擦抵抗が大きくなり、安定性が向上する。本発明の拡底部を備えた地下壁杭は、大きな支持力と引き抜き抵抗を得ることができる。
拡底部の設定は、壁状体に対して、左右に連続、片方、部分的、あるいは断続的に設けることができる。また、拡底部の大きさである張り出しは、左右対称、左右非対称とすることができる。また、壁状体の途中側面に膨出部を設けることもできる。
拡底部の設置箇所、設置長さ、大きさ、中間高さの膨出部と組み合わせることにより、各種多様な地下壁杭を設計することができる。
本発明の地下壁杭は、場所打ち杭であり、この多様な地下壁杭を施工するために掘削孔を正確に掘削できる掘削装置を開発することによって、建築設計に実用できる施工方法を開発し、本発明を実用できるレベルに完成させた。
【0009】
本発明の地下壁杭は、建物などの建築構造物の壁杭などの基礎支持構造あるいは、山留
め用の連壁などに使用できる。
本発明で開発した拡底部を有する場所打ち連続地中壁杭構築工法は、大きな支持力や引抜き抵抗を得るため、連続地中壁の先端部にアーチ形の底面を備えた拡底部を設ける工法であり、拡底部の側面に弧状の曲面を備えた指状に凸凹を設ける工法である。
連続した壁状の杭機能を発揮するので本発明の地下壁杭は、単独杭を配置する場合に比べて、高い地盤支持力が確保できる。特に高層建物では、建物重量も増加するために、地下壁杭による杭構造が適している。また、建物を連続した面で支えるので安定性も向上する。拡底部の底面がアーチ状に湾曲しているので、壁杭本体の建物厚さを一様に増加させることなく、壁杭先端に拡底部を設けることで、支持地盤の支持面積が増加されるために、地下壁杭の荷重耐力が向上する。そして、拡幅部が無筋であっても、アーチ状のアーチ面にそって荷重が分散するが、平坦面を有する拡幅部を備えた壁杭では、荷重が面的に偏在するので、ひび割れなど損傷のリスクがあって、底面積に比べて設定荷重耐力に限界がある。そして、拡底部の側面の弧状の凹凸によって、地盤との摩擦抵抗が大きくすることができた。
本発明は、掘削用ビット付きシャフトを軸が振り子のように揺動するので、拡底部の底面がアーチ状になり、壁杭の支配面積を増大できる。そして、回転するビット付きのシャフトによる隔壁掘削部の側面は、弧状に仕上げられる。本発明では、掘削機の固定性を向上させることと、シャフトの揺動角度を測定して、掘削孔の形状管理精度を向上させることができたので、本発明の特殊な形状の拡底部付きの地下壁構造を実現することができた。加えて、拡底部の掘削装置に排泥機能を持たせたので、掘削土砂を速やかに排出することができ、掘削土砂が散乱して、掘削壁面を壊すリスクを減らすことができたので、更に、拡底部の出来形精度を向上させることができている。
【0010】
<地下壁杭>
本発明の地下壁杭構造である壁杭の例を
図1に示す。
壁杭10は、建物の基礎などに沿って長く伸びる壁状体2とその下側に拡底部3を有し、その拡底部の底面がアーチ形底面34となっており、拡底部の側面32の表面は弧状にいくつか連なっていて指状の拡翼指31を形成している。壁杭10の下部には突軸部4が設けられている。この突軸部4は設けられない場合もある。
拡底部3は、壁杭10の鉛直方向に対して拡底角度θを有する扇形の断面を備えており、壁状体2の両面あるいは片面に設けられている。図示では、右拡底部3a、左拡底部3bが設けられ、拡翼指31、弧状の側面32を備えた3つ(31a、31b、31c)が連続して形成されている。
拡底部の底面がアーチ形であることにより、上部構造の負荷(鉛直荷重、特に圧縮軸力)を安定して支持することができ、平らな底面に比べて、大きな鉛直荷重を負担でき、高い支持力を発揮することができる。あるいは、壁圧を薄くすることができる。弧状の側面は地盤との摩擦が大きくなり壁杭の長手方向のせん断抵抗が大きくなる。また、壁杭の長手方向に斜めに働く引き抜き抵抗も大きくなり、建物をひねるような地震荷重に対して抵抗性を発揮することができる。
また、拡底部において、壁状部よりも拡幅している部分は、配筋することが難しいので、無筋とすることにより、地震などで大きな負荷がかかると、ひび割れなどが入って損傷しやすく、拡底部を大きくすることが難しい。本発明は拡底部の底面をアーチ形とすることにより、拡底部が安定し、耐荷重が向上する。
鉄筋は、本地下壁杭構造の形に地盤を掘削した孔に壁状部の厚さに沿う組鉄筋を挿入する。壁状体から広がった部分には鉄筋を配筋することは難しく、無筋になることが多い。
この地下壁杭構造は、建物の壁状の基礎構造や山留め壁を兼用する壁杭などに適している。
【0011】
地下壁杭構造の形状の基本例を
図2に示す。
図2は、
図1に示す突軸部を持つ拡底部付き地下壁杭11の基本三面を示しており、側面(a)、平面(b)、正面(c)である。
符号は
図1と共通するので、説明を省略する。
図2(a)に示す地下壁杭構造は、下部側が壁状体2の側面から左右に張り出した拡底部3を備えている。拡底幅L1は、壁の厚さである壁厚L2に張出長L3を加えた長さとする。この図では、左右に張り出しているので、L1=L2+2L3である。なお、張出長には湾曲している弧状部分32は含めていない。
【0012】
本発明の地下壁杭の主なサイズ、強度は、次のようなものである。
壁状体の部分には、籠鉄筋などの鉄筋が挿入され、拡底部は無鉄筋でとなる場所打ちとなる拡底部を有する場所打ち連続地中壁杭であり、大きな支持力や引抜き抵抗を発揮する。
壁厚は120~240cm程度、拡底幅は130~480cm、拡底角度45度以内、コンクリートの設計基準強度Fcは最大60N/mm2まで使用可能であり、 幅広い種類の地盤に適用可能である。なお、拡底幅は、壁状部の両側に同じ張り出し量として拡底部を示しており、片側の張り出し量は5cmから設定可能である。
拡幅量は、拡幅部を掘削する装置の性能にもよるが、装置的には、水平角度(拡幅角度90度)まで技術的には可能であり、掘削シャフトの長さから壁厚の1/2を引いた分の張り出し量を確保できるが、実用的には45度、さらには、30度程度とするのが好ましい。
【0013】
図3は、拡翼指の凸状底面の例を示す図である。
拡翼指31の底面側に凸型曲面36が形成されている例を示している。拡翼指31の底面に凸型曲面36が形成されることにより、拡底部3の底面にも凸凹が形成されることとなり、地盤との摩擦を増加させることができる。
【0014】
図4は、拡底部3の張出形態を示している。壁状体2の左右の側面に、同じ大きさの張出を形成、あるいは、大小大きさを変えて形成、さらにあるいは、片方に形成することができる。さらにまた、左右の拡底部を異なる高さに設けることもできる。
(a)は、左右に大きな張出3aを設けた例、(b)は左側に大きな張出3a、右側に小さな張出3b、(c)は左側に大きな張出3aを設け、右側には張出を設けない例を示している。
地下壁杭の左右の状況に応じて、拡底部の張り出し量を調整することとなる。例えば、(b)、(c)は地下壁杭構造を山留め用の連壁として形成することができ、右側に隣接境界がある場合に適用できる。建物が近接している場合も同様である。
【0015】
図5に、壁の中間に膨出部5が形成された状態を示す。壁状体2の下部には拡底部3が形成されており、中間部に膨出部5が形成されている。膨出部5の底面もアーチ状を呈している。膨出部の位置、左右の形状は、必要に応じて、任意に形成することができる。
(a)は、左右に大きな張出3aが設けられた底部3の上方に大きな左膨出部51、大きな右膨出部52、さらに、右側に小さな膨出部53が設けられた例、(b)は左側に大きな張出3a、右側に小さな張出3bが設けられた底部3、左方に大きな左膨出部51、右側に小さな膨出部53が設けられた例、(c)は、左側に大きな張出3aを設けた拡底部3、左方に大きな左膨出部51が設けられ、右側には張出および膨出部を設けない例を示している。
壁状体2の中間部に膨出部を設けることにより、地下壁構造の支持力をさらに向上させることができ、地盤とも摩擦を大きくすることができる。膨出部の支持力を加えることにより、地壁構造をより小型化することができる。
膨出部は、拡底部のような大きさから小さな大きさまで設定することができる。
図5に示した膨出部は、拡翼掘削機を用いて掘削した例である。したがって、図示の例では、回転揺動ロータを揺動した角度の円弧状の底部(アーチ状の底部)を持つ膨出部が形成されている。膨出部の側周面は拡底部の核抑止のような円弧状が形成される。ただし、膨出部
に期待される機能として摩擦が主である場合は、凸凹を形成することが主となるので、周面の曲面は円弧のような厳密性を求める必要はない。
そして、膨出部は、拡翼指の指状部に相当する本数は1本でもよく、2本、3本それ以上連続していてもよい。また、地下壁の一部に設けてもよく、連続、あるいは断続、部分的など適宜箇所に設置することができる。
【0016】
図6に地下壁杭の拡底部の平面的配置の例を示す。
拡底部は、壁杭の全長に渡って、左右にあるいは片方に、または、部分的に設けることができる。(a)は全長に渡って壁状体2の両側に拡底部30a、拡底部30bを設けた例、(b)は壁状体2の片側に拡底部30aを全長に渡っても設けた例、(c)は壁状体2の両側に部分拡底部30p1、部分拡底部30p2を間隔を置いて断続的に設けた例を示している。
【0017】
図7に地下壁杭を田の字に配置した例を用いて地下壁の配置と拡底部形成例を示す。
(a)は田の字に配置された地下壁の例である。
(b)はT字部に拡底部を割り付けた例であり、T1は両側に拡底部がT字部近傍を避けて設けられた例、T2は外側には拡底部を連続した形成し。内側はT字部近傍を避けて設けられた例、T3は外側に拡底部を設けずに内側にT字部近傍を避けて拡底部が設けられた例を示している。
(c)はL字部に拡底部を割り付けた例であり、L1は角部を避けて両側に拡底部が設けられた例、L2は、一方の片の外側全長に拡底部が設けられ、内側は隅角部を避けて拡底部が設けられており、他方の片の外側にも拡底部が設けられている例、L3は外側には設けられず、内側は隅角部を避けて拡底部が設けられている例である。
(d)は十字部に拡底部を割り付けた例であり、交差部付近を除いて両側に拡底部が設けられている例を示している。
【0018】
図8に壁杭の配置例を示している。
(a)は一重に配置された壁杭の例、(b)は二重に配置された壁杭の例、(c)は碁盤目状に配置された壁杭の例、(d)は周囲に壁杭が一重に設けられ、内側に部分的に設けられた壁杭が配置された例が示されている。
この図では、周回して配置された壁杭を中心に示したが、周回せずに直線形状あるいはL形、く字形など、ある程度の長さを有する壁状の杭に適用することができる。建物を建てる地層の分布によっても建物支持構造の設計にも影響がある。
【0019】
<施工方法>
本発明の施工方法は、拡底部を備えた地下壁杭構造の形状に掘削した地盤空隙にコンクリートを打設する場所打ち連続地中壁杭構築工法を採用している。基本的な施工方法は、先に出願した特願2017-234125号に提案した方法に準じる。先行壁構造と後行壁構造を交互に作成して、連続した地下壁杭構造を構築する方法を採用することができる。
第1工程として、鉛直方向に同幅の掘削及び土砂の搬出を行う。
第2工程として、垂直掘削孔部に拡底用の掘削機を投入する。
第3工程として、拡底用の掘削機に取り付けられている回転揺動ロータを側方に回動させて拡幅掘削を行う。
第4工程として、前工程で幅掘削して出た土砂を搬出する。第4工程は、第3工程時に同時に行うこともある。
第5工程として、反対側の拡幅掘削を行う。
第6工程として、第4工程と同様に第5工程で出た土砂を搬出する。
第7工程として、拡底部の下方に形成される突軸部用の穴から土砂を搬出する。この工程は、第6工程に連続して行うことができる。
第8工程として、形成された地下壁杭構造用の空間に組鉄筋(鉄筋籠)を挿入して、コンクリートを打設する。その後養生して先行又は後行の地下壁杭構造を製造する。
【0020】
<拡底部掘削装置>
図10に拡底部掘削装置の例を示す。(a)に拡翼掘削機の斜視図、(b)に平面図、(c)に底面図、(d)に側面図を示す。(e)には先端ビットの例を示している。
拡底部掘削は、垂直方向に掘削した孔に回動してスイングできる回転揺動ロータを用いて行うことは先の出願に提案した装置と基本は同様であるが、本体部の固定度を挙げる工夫と拡幅掘削に伴う土砂の搬出を行う工夫、拡幅掘削角度を計測する機器を設けて、掘削制御を行うようにした。
【0021】
拡底部掘削装置は、フレーム7の下方に回転揺動ロータ6を取り付けた拡翼掘削機60が図示されている。
フレーム7には、上部に上スタビライザー71、下部に下スタビライザー72、側方に側部スタビライザー73が設けられている。フレーム7の下部には水平に取付軸64が設けられていて、回転揺動ロータ6が取り付けられる。フレーム7の上部は地上から吊り下げられるように吊り部が設けられている。
取付軸64には傾斜計66が取り付けられており、回転揺動ロータ6の揺動角度を計測する。
フレーム7の内部には、回転揺動ロータの駆動機構と排泥機構が設けられている。
排泥機構は、地上に延びる排泥管75が上方からフレーム内に延びており、可撓性排泥管76に接続している。中間に排泥ポンプ74が設けられている。可撓性排泥管76の先端は、回転揺動ロータ6の中空パイプに接続している。
【0022】
回転揺動ロータ6は、周囲に掘削用のビット62を取り付けた回転するシャフト61が取付軸64の揺動可能に取り付けられている。図示の例では、第1ロータ6a、第2ロータ6b、第3ロータ6cの3本のロータで回転揺動ロータ6が形成されている。各回転ロータの回転軌跡はオーバーラップしないように隣接して設けられている。
中央の第2ロータを形成するシャフトは中空のパイプシャフト63が用いられており、先端と後端が開放されて、後端は可撓性排泥管76に連結されている。
(a)~(d)の図示では、設けられた先端のビットは平らになっている。この先端のビットを(e)に示す先尖りの尖端ビット65に交換することができる。尖端ビット65を用いることにより、凸状に出っ張った軌跡の掘削ができる。
図3に示す凸型曲面36を形成することができることになる。
【0023】
フレーム7に設けられた上下のスタビライザーを伸長させて、掘削孔の内壁に押し付けることにより、拡翼掘削機60を固定することができ、スタビライザーの伸長度を調整することにより、姿勢もコントロールできる。これによって、回転揺動ロータの掘削軌跡も安定し、正確な形の拡幅掘削を行うことができる。
3本の回転ロータ6a、6b、6cは、取付軸64に揺動可能に取り付けられている。各ロータは個別に揺動あるいは同時に揺動できるように設置されている。ロータのシャフ61は回転することができ、回転によってビット62が地盤を掘削する。そして、シャフトを揺動させることによって、拡幅掘削ができる。取付軸を回転中心となるので、ロータの先端は円弧になり、拡底部の底面をアーチ形に形成することになる。傾斜計66を用いて、ロータの揺動角度を測定して、拡幅角度をコントロールすることができ、拡幅部の形状を正確に形成できる。
【0024】
シャフト61にパイプシャフト63を採用することができ、このパイプシャフト63を排泥機構に接続することにより、拡幅掘削の土砂を速やかに搬出して、先掘された削土砂が掘削壁を荒らすことを防止でき、掘削孔壁の仕上がりをきれいにできる。
これによって、拡底部の掘削形状の正確性が実現でき、掘削揺動ロータの回転軌跡の外周となる部分が弧状に形成されることとなる。したがって、コンクリートを打設すると、弧状の側面を有する拡翼指を形成することができる。
更に、シャフト61に尖端ビット65を取り付けることにより、ロッド凸状の揺動軌跡が形成でき、拡翼指の天面を凸状曲面に形成することができる。
【0025】
図11に掘削工程を示す。
施工工程は前述してとおりである。
図11に本発明の拡翼掘削機60を用いた、拡底部の掘削工程を示す。
掘削は、壁本体となる壁状部の掘削は従来より用いられている軸部掘削機を用い、拡幅部の掘削を拡翼掘削機で行う。
(a)地下壁軸部掘削工程:地上から所定の壁杭の先端レベルまでリバース式の軸部掘削機により軸部掘削して掘削孔8を形成する。なお、掘削は、掘削孔に水を充填し、水圧を利用して掘削孔の崩壊を防止する。したがって、掘削孔内は泥水状態である。
(b)拡底部粗掘削工程:軸部掘削機を引き上げ、本発明で提案する拡翼掘削機60を地上から掘削孔に投入し、所定の深度で拡翼掘削機の上下のスタビライザーを伸長して土壁にフレームを固定する。回転ロータを回転させながら左側あるいは右側にはね上げることにより、拡底部を掘削して、拡底部形掘削孔部81を形成する。この段階では、揺動を小さくしてやや小さい目の掘削部の形の粗堀りとする。拡底部の掘削は、拡翼掘削機のロータを回転させながら、シャフトの角度(拡翼角度)を傾斜計によりモニタリングし、跳ね上げ角度を制御する。
掘削孔8は、拡底部よりも深く形成して、拡底部の掘削土砂を貯める穴部とする。
(c)底部掘削残土排出工程:いったん拡翼掘削機60を引き上げて、土砂の排出を行う。排出機は、バケットなど通常の機器を用いる。垂直掘削孔部82と拡底部形掘削孔部81が形成される。
【0026】
(d)拡底部仕上掘削工程:排出機を引き上げて、再度拡翼掘削機60を投入して、スタビライザーによって固定し、所定の拡幅角度まで回転ロータを跳ね上げて、設計形状の拡底部となるように掘削する。この掘削においても傾斜計により角度をモニタリングして、掘削する角度を制御する。この工程では、ロータのシャフトに用いられている中空パイプシャフトと可撓性排泥管、排泥管を利用して、拡翼掘削機の排泥機能を働かせて、排泥する。この仕上げ掘削は、排泥と組み合わせて断続的に行うなどして、掘削土砂が孔の壁面にぶつかって削ることを防止しながら行うことができる。したがって、拡翼掘削機に入出機機能を付与することによって、掘削孔壁をきれいに仕上げることができる。
(e)底部掘削残土排出工程:拡翼掘削機を引き上げて、再度土砂の排出機を投入して、余分な土砂を浚渫する。この場合、拡底部の下方に空間を設けた場合は、突軸部の空間である突軸孔部83が形成できることとなる。拡底部の底部と同レベルまで土砂を残す、あるいは、後工程で、土砂を充填した場合は、突軸部は形成されないこととなる。
【0027】
このようにアート型底部の拡底部を備えた掘削孔のか壁状部に組鉄筋を挿入して、コンクリート打設して拡底部を備えた地下壁構造ができる。
また、先に出願した特開2019-100124号公報に提案したと同様に先行施工部と後行施工部を交互に施工して、連続した地下壁構造にする施工方法も採用することができる
【0028】
図9に拡底部を備えた地下壁杭の実例を示す。
壁長320cm、壁厚150cm、拡底部の長さ245cm、拡底幅279cm、円弧部膨らみ36cm、地下壁の深さ14mの拡底部を備えた地下壁杭を打設して、掘り出した例を
図9に示している。上下二分した状態で示しており、突軸部4がある拡底部3の下半部の地下壁(a)とその上部部分の地下壁(b)である。(a)の弧状側面32の穴は
試験用にコア抜きした穴である。
拡底部3の側面には弧状側面を備えた3本の拡底指31a、31b、31cがきれいに形成されている。壁状体2から回転揺動体を跳ね上げて掘削した際にできたチップの回転軌跡がきれいに残っており、拡翼掘削機の施工能力が高いことが示されている。
設計と出来形の一致性は高く、コンクリート強度も十分得られることが確認できた。
そのほか様々な地盤条件で試験施工を行った結果、拡底部の形状・寸法やコンクリートの品質を確保できることを確認している。
【符号の説明】
【0029】
10 壁杭
11 突軸軸部付き壁杭
12 突軸無壁杭
2 壁状体
21 壁状体の側面
3 拡底部
3a 大張出部
3b 小張出部
30a 右拡底部
30b 左拡底部
31 拡翼指
32 弧状側面
34 アーチ形底面
36 凸型曲面
4 突軸部
5 膨出部
51 右膨出部
52 左膨出部
60 拡翼掘削機
6 回転揺動ロータ
6a 第1ロータ
6b 第2ロータ
6c 第3ロータ
61 シャフト
62 ビット
63 パイプシャフト
64 取付軸
65 尖端ビット
7 フレーム
71 上スタビライザー
72 下スタビライザー
73 側部フレーム
74 排泥ポンプ
75 排泥管
8 掘削孔
81 拡底形掘削孔部
82 垂直掘削孔部
83 突軸孔部
【手続補正書】
【提出日】2024-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下壁杭構造の拡底部の形状に掘削する掘削装置であって、
フレーム躯体とフレーム躯体の下方に設けられた回転揺動掘削体を備えており、
フレーム躯体は、上部に地盤に圧接する上部スタビライザー、下部に地盤に圧接する下部スタビライザーが設けられており、
回転揺動掘削体は、フレームに水平に設けられた取付軸に、周面にビットが取り付けられたシャフトが回転と揺動可能に取り付けられていることを特徴とする地下壁杭構造の拡底部を形成する拡翼掘削装置。
【請求項2】
シャフトの揺動に伴う傾斜を計測する傾斜計が設けられ、
フレーム躯体には排泥管が装着されており、シャフトは先端が開放された中空パイプで形成されており、シャフトの後端が排泥管に接続した排泥機能を備えたことを特徴とする請求項1記載の拡翼掘削装置。
【請求項3】
回転揺動掘削体には、シャフトが複数設けられており、
シャフトは隣接する回転軌跡が重複しないように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の拡翼掘削装置。
【請求項4】
回転シャフトの先端に、先端に向かって縮径するビットが設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の拡翼掘削装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載された拡翼掘削装置で掘削された掘削孔に形成された壁状体の底部が壁厚方向に拡底された地下壁杭構造であって、
壁厚方向に一定の壁厚を有する壁状体本体と、
底部が壁厚方向に拡底された拡底部と、を備え、
拡底部は、底が壁厚方向にアーチ形状であり、拡底部の側面は弧状を有する拡翼指に形成されており、
拡翼指は、単独あるいは複数が連続して設けられていることを特徴とする地下壁杭構造。
【請求項6】
拡翼指の底面は、凸型曲面に形成されていることを特徴とする請求項5記載の地下壁杭構造。
【請求項7】
拡底部は、壁状体の長手方向に部分的、断続的あるいは全長に渡って形成されていることを特徴とする請求項5又は6記載の地下壁杭構造。
【請求項8】
拡底部は、壁状体の両面あるいは片面に形成され、
壁状体の側面の中間部に、周面を曲面とする膨出部が形成されていることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の地下壁杭構造。
【請求項9】
拡底部は、下方に突軸部を有することを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の地下壁杭構造。