IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018072
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】トリアジン誘導体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/22 20060101AFI20240201BHJP
   C07D 251/24 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C07D251/22 C
C07D251/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121147
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】千歳 洋平
(72)【発明者】
【氏名】土`屋 陽一
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(57)【要約】
【課題】トリアジン環の2個以上の水素原子をシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基で置換した構造を有するトリアジン誘導体を、簡便な方法により高収率で合成する方法を開発すること。
【解決手段】式(1)の化合物と式(2)の化合物を塩基の存在下で反応させて式(3)のトリアジン誘導体を製造する方法において、式(2)の化合物と塩基の合計量を式(1)の化合物の2.5当量未満とする。Arは芳香環、Rの少なくとも1個はシアノ基で残りはその他の置換基、nは1以上、Rは水素原子または置換基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)で表されるトリアジン誘導体を製造する方法であって、
前記式(2)で表される化合物と前記塩基の合計量が、前記式(1)で表される化合物の2.5当量未満である、方法。
【化1】
[ここで、Arは縮環していてもよい芳香環を表す。Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表し、nは1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表す。Rは水素原子または置換基を表す。]
【請求項2】
前記式(1)および(3)のArが芳香族炭化水素基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(2)および(3)のRがアミノ基または置換アリール基である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記置換アリール基が、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されたアリール基である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記式(2)で表される化合物と前記塩基の合計量が、前記式(1)で表される化合物の1.8当量以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基の量が、前記式(1)で表される化合物の1.7当量未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記式(2)で表される化合物の量が、前記式(1)で表される化合物の1.0当量未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が、下記反応式で表される反応である、請求項1に記載の方法。
【化2】
[ここで、Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表し、mは1~5のいずれかの整数を表す。隣り合う環骨格構成原子に結合しているRどうしは互いに結合して環状構造を形成していてもい。Rは水素原子または置換基を表す。]
【請求項9】
前記式(1’)において、シアノ基であるRがCN基のパラ位に結合しており、前記式(3’)において、CN基がトリアジン環の結合位置に対するパラ位に結合している、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個以上のシアノアリール基を有するトリアジン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアジン環の水素原子をシアノアリール基で置換したトリアジン誘導体は、電子輸送材料や医薬品として有用であり、また、これらの用途に用いられる化合物を合成するための、合成中間体としても有用である。特にトリアジン環の2個以上の水素原子をシアノアリール基で置換したトリアジン誘導体は、トリアジン環内の電子密度が極めて低くなることから、化合物の電子受容性を利用した様々な用途への応用が期待される。
【0003】
こうしたシアノアリール基を有するトリアジン誘導体の合成法としては、トリクロロトリアジンとシアノアリール基を有するホウ素化合物を原料に用い、鈴木・宮浦カップリング反応にて、トリクロロトリアジンのC-Cl結合が切断した位置に、ホウ素化合物のシアノアリール基を導入する方法が考えられる。しかし、トリクロロトリアジンとシアノアリール基を有するホウ素化合物を、鈴木・宮浦カップリング法で反応させようとしても、シアノアリール基が強い電子求引性を示すことから求核種として機能させることができず、目的のシアノアリール基を有するトリアジン誘導体は得られない(非特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献1には、塩基の存在下でシアノベンゼンにグアニジン塩酸塩を反応させてトリアジン誘導体を合成したことが記載されている。しかし、ここで合成されているトリアジン誘導体は、4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-アミンであり、反応過程でシアノベンゼンのC-CN結合が切断されてトリアジン環への結合部位になったものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Advanced Synthesis & Catalysis, 359, 2514-1519 (2017).
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-158450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにトリアジン誘導体の合成方法については、これまでに幾つか提案されているが、2個以上のシアノアリール基を有するトリアジン誘導体の合成に成功した例は示されていない。また、本発明者らが、引用文献1に記載の合成方法を応用して、シアノベンゼンの代わりにジシアノベンゼンを用い、引用文献1と同様の反応系で、2個以上のシアノフェニル基を有するトリアジン誘導体の合成を試みたが、その反応物の中に目的のトリアジン誘導体を確認することはできなかった(後掲の比較例1参照)。
【0008】
そこで本発明者らは、トリアジン環の2個以上の水素原子をシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基で置換した構造を有するトリアジン誘導体を、簡便な方法により高収率で合成する方法を開発することを目的として鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、2個以上の水素原子をシアノ基で置換した芳香族化合物とアミジンを、塩基の存在下で反応させる際、アミジンと塩基の合計量を、上記の芳香族化合物に対する当量比で2.0当量未満とすることにより、トリアジン環の2個以上の水素原子がシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基で置換された構造を有するトリアジン誘導体を、高収率で合成できることを見出した。具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)で表されるトリアジン誘導体を製造する方法であって、
前記式(2)で表される化合物と前記塩基の合計量が、前記式(1)で表される化合物の2.5当量未満である、方法。
【化1】
[ここで、Arは縮環していてもよい芳香環を表す。Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表し、nは1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表す。Rは水素原子または置換基を表す。]
[2] 前記式(1)および(3)のArが芳香族炭化水素基である、[1]に記載の方法。
[3] 前記式(2)および(3)のRがアミノ基または置換アリール基である、[1]に記載の方法。
[4] 前記置換アリール基が、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されたアリール基である、[3]に記載の方法。
[5] 前記式(2)で表される化合物と前記塩基の合計量が、前記式(1)で表される化合物の1.8当量以下である、[1]に記載の方法。
[6] 前記塩基の量が、前記式(1)で表される化合物の1.7当量未満である、[1]に記載の方法。
[7] 前記式(2)で表される化合物の量が、前記式(1)で表される化合物の1.0当量未満である、[1]に記載の方法。
[8] 前記反応が、下記反応式で表される反応である、[1]に記載の方法。
【化2】
[ここで、Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表し、mは1~5のいずれかの整数を表す。隣り合う環骨格構成原子に結合しているRどうしは互いに結合して環状構造を形成していてもよい。Rは水素原子または置換基を表す。]
[9] 前記式(1’)において、シアノ基であるRがCN基のパラ位に結合しており、前記式(3’)において、CN基がトリアジン環の結合位置に対するパラ位に結合している、[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、トリアジン環の2個以上の水素原子をシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基で置換した構造を有するトリアジン誘導体を簡便な手法を用いて高い収率で合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明の方法に用いられる化合物および本発明の方法で製造するトリアジン誘導体の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(重水素原子D)であってもよい。
【0013】
<トリアジン誘導体を製造する方法>
本発明のトリアジン誘導体を製造する方法は、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)で表されるトリアジン誘導体を製造する方法であって、式(2)で表される化合物と塩基の合計量を、式(1)で表される化合物に対する当量比で2.5当量未満とする点に特徴がある。こうした当量比で反応系を設計することにより、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物を原料として、式(3)で表されるトリアジン誘導体、すなわち、トリアジン環の2個以上の水素原子をシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基で置換した構造を有するトリアジン誘導体を、簡便な方法で収率よく合成することができる。
【0014】
【化3】
【0015】
式(1)および(3)において、Arは縮環していてもよい芳香環を表す。芳香環は、環員の全てが炭素原子である芳香族炭化水素基を構成していてもよいし、ヘテロ原子を環員として含む芳香族ヘテロ環基を構成していてもよい。
【0016】
芳香族炭化水素基を構成する芳香環は、単環であっても、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。芳香環の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~20であることがより好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。芳香環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、フェナントレン環、アントラセン環、トリフェニレン環を挙げることができる。本発明の好ましい一態様では、式(1)および式(3)のArは、ベンゼン環またはベンゼン環を構成環として含む縮合環である。
【0017】
芳香族ヘテロ環基を構成する芳香族ヘテロ環は、単環であっても、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。芳香族ヘテロ環が縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。ヘテロアリール基の環骨格構成原子数は4~40であることが好ましく、4~20であることがより好ましく、5~14の範囲内で選択したり、5~10の範囲内で選択したりしてもよい。単環の芳香族ヘテロ環の具体例として、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環を挙げることができ、縮環した芳香族ヘテロ環の具体例として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、カルバゾール環、フェナトリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、ベンゾフラン環、クロメン環、イソクロメン環、キサンテン環、ベンゾチオフェン環、アルキレンジオキシチオフェン環、チアントレン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環が挙げられる。
【0018】
式(1)および(3)において、Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表す。nは1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表す。「Arに置換可能な最大数」とは、具体的には、Arにおける置換基で置換可能な水素原子の数であり、Arがベンゼン環である場合には5であり、Arがピリジン環である場合には4である。nは、例えば1~5のいずれかの整数であってもよいし、1~4の中から選択してもよいし、1~3の中から選択してもよく、1または2であってもよい。nが1であるとき、Rはシアノ基である。nが2以上であるとき、複数のRは、全てがシアノ基であってもよいし、一部がシアノ基であって、残りがシアノ基以外の置換基であってもよい。複数のRのうち、シアノ基以外の置換基の数が2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。式(1)および(3)において、シアノ基であるRの数は少なくとも1個であり、1~5個であっても1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。本発明の好ましい一態様では、Arが芳香族炭化水素基であって、シアノ基であるRの数が1個または2個である。
【0019】
がとりうるシアノ基以外の置換基として、例えばアルキル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、複素環基、アシル基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、スルホニル基が挙げられる。アミノ基は、一級アミノ基であってもよいし、二級アミノ基や三級アミノ基であってもよい。二級アミノ基および三級アミノ基のNに結合する置換基として、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アリル基、ヒドロキシ基、エーテル基、グリコール基を挙げることができる。例えばRの具体例として、ジフェニルアミノ基やカルバゾリル基を例示することができる。
【0020】
アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~16、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、さらにより好ましく1~4である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロオクチル基を挙げることができる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
ハロアルキル基は、アルキル基の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された基であり、アルキル基の全ての水素原子がハロゲン原子で置換されたパーハロアルキル基であってもよいし、アルキル基の一部の水素原子がハロゲン原子で置換された部分ハロアルキル基であってもよい。アルキル基の好ましい範囲と具体例、ハロゲン原子の具体例については、上記のアルキル基、ハロゲン原子についての記載を参照することができる。ハロアルキル基の具体例として、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、1-フルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、2-クロロエチル基、1-クロロエチル基、2,2-ジクロロエチル基、1,2-ジクロロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、3-クロロプロピル基が挙げられる。
【0021】
アルコキシ基は、直鎖状、分枝状のいずれであってもよい。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~16、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、さらにより好ましく1~4である。アルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基が挙げられる。
ハロアルコキシ基は、アルコキシ基の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された基であり、アルコキシ基の全ての水素原子がハロゲン原子で置換されたパーハロアルコキシ基であってもよいし、アルコキシ基の一部の水素原子がハロゲン原子で置換された部分ハロアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基の好ましい範囲と具体例、ハロゲン原子の具体例については、上記のアルコキシ基、ハロゲン原子についての記載を参照することができる。アルコキシ基の具体例として、フルオロメトキシ基、クロロエトキシ基が挙げられる。
【0022】
アルキルチオ基は、直鎖状、分枝状のいずれであってもよい。アルキルチオ基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~16、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6、さらにより好ましく1~4である。アルキルチオ基の具体例として、メチルチオ基、エチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、2-エチルヘキシルチオ基が挙げられる。
【0023】
アリール基は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよいし、2つ以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。アリール基の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~20であることがより好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。アリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、ビフェニル基を挙げることができる。アリール基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基として、アルキル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルチオ基を挙げることができる。これらの置換基の好ましい範囲と具体例については、上記のRにおける「シアノ基以外の置換基」としての各基についての記載を参照することができる。
【0024】
式(2)および(3)において、Rは水素原子または置換基を表す。Rがとりうる置換基として、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アリル基、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルチオ基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、スルホニル基、複素環基、エーテル基、グリコール基が挙げられる。例えばRの具体例として、電子許与性を有するジフェニルアミノ基、カルバゾリル基、トリアジニル基を例示することができる。
【0025】
アミノ基は、一級アミノ基であってもよいし、二級アミノ基や三級アミノ基であってもよい。二級アミノ基および三級アミノ基のNに結合する置換基として、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アリル基、ヒドロキシ基、エーテル基、グリコール基を挙げることができる。
【0026】
アリール基の好ましい範囲と具体例については、上記の「Rがとりうるシアノ基以外の置換基」としてのアリール基についての記載を参照することができる。アリール基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基として、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基が挙げられる。
アミノ基の置換基としてのアルキル基、アリール基、アリール基の置換基としてのアルキル基の好ましい範囲と具体例、アリール基の置換基としてのハロゲン原子の具体例については、上記の「Rがとりうるシアノ基以外の置換基」としてのアルキル基、アリール基、ハロゲン原子についての記載を参照することができる。
【0027】
本発明の好ましい一態様では、式(2)および式(3)のRはアミノ基である。本発明の別の好ましい態様では、式(2)および式(3)のRは、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されたアリール基であり、本発明のより好ましい一態様では、式(2)および式(3)のRは、少なくとも1つの水素原子が臭素原子で置換されたアリール基である。
また、式(2)で表される化合物は塩を形成していてもよい。塩は、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等の無機酸塩であってもよいし、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。
【0028】
本発明の方法で行う反応の好ましい一態様として、以下の反応を挙げることができる。
【化4】
【0029】
ここで、Rの少なくとも1個はシアノ基であり、残りはシアノ基以外の置換基を表し、mは1~5のいずれかの整数を表す。隣り合う環骨格構成原子に結合しているRどうしは互いに結合して環状構造を形成していてもよい。Rは水素原子または置換基を表す。
式(1’)および(3’)のRにおける「シアノ基以外の置換基」の好ましい範囲と具体例については、上記の式(1)および(3)についての対応する記載を参照することができる。式(2)およびRの説明については、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物の反応を示す反応式の式(2)およびRについての説明を参照することができる。
【0030】
mは、1~5のいずれの整数であってもよく、1~4や1~3の中から選択してもよいし、1または2であってもよい。式(1’)のmが1であるとき、Rはシアノ基である。式(1’)および(3’)のmが2以上であるとき、複数のRは、全てがシアノ基であってもよいし、一部がシアノ基であって、残りがシアノ基以外の置換基であってもよい。複数のRのうち、シアノ基以外の置換基の数が2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。式(1’)において、シアノ基であるRの数は少なくとも1個であり、1~5個であってもよく、1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。式(3’)において、シアノ基であるRの数は、0~4個であってもよく、0~2個であってもよく、0個または1個であってもよい。本発明の好ましい態様では、シアノ基であるRの数は、式(1’)では1個または2個であり、式(3’)では0個または1個であり、本発明のより好ましい態様では、シアノ基であるRの数は、式(1’)では1個であり、式(3’)では0個である。
式(1’)において、シアノ基であるRの位置は、CN基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが、シアノ基であるRの1つは、CN基に対するパラ位に結合していることが好ましい。式(3’)のCNの位置は、トリアジン環の結合位置に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが、パラ位にCNを有するトリアジン誘導体の収率が高い。
【0031】
どうしが互いに結合して形成する環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。Rどうしが互いに結合して、コアのベンゼン環とともに形成する環状構造としては、上記のArがとりうる芳香環のうち、ベンゼン環を含む縮合環の例と同じ例を挙げることができる。具体的には、ナフタレン環、フェナレン環、フェナントレン環、アントラセン環、トリフェニレン環のような縮合多環芳香族炭化水素、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、カルバゾール環、フェナトリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、ベンゾフラン環、クロメン環、イソクロメン環、キサンテン環、ベンゾチオフェン環、チアントレン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環のような縮合多環芳香族ヘテロ環を挙げることができる。
【0032】
以下において、式(1)または(2)で表される化合物の具体例、および、式(3)で表されるトリアジン誘導体の具体例を例示するが、本発明においてトリアジン誘導体の製造に用いる原料化合物、および、本発明において製造するトリアジン誘導体はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0033】
式(1)で表される化合物の具体例
【化5】
【0034】
式(2)で表される化合物の具体例
【化6】
【0035】
式(3)で表されるトリアジン誘導体の具体例
【化7】
【0036】
ここで、誘導体1は、化合物A1と化合物B1を所定の条件で反応させることにより製造されるトリアジン誘導体であり、誘導体2は、化合物A1と化合物B2を所定の条件で反応させることにより製造されるトリアジン誘導体である。
【0037】
[反応条件]
次に、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物を反応させる際の反応条件について説明する。
本発明では、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物を塩基の存在下で反応させる。その際に、式(2)で表される化合物と塩基の合計量が、式(1)で表される化合物の2.5当量未満であるように各化合物の配合量を選択する。ここで、「式(2)で表される化合物と塩基の合計量が、式(1)で表される化合物の2.5当量未満である」とは、反応系に含まれる式(2)で表される化合物の当量数(V)と塩基の当量数(V)の合計が、式(1)で表される化合物の当量数(V)に対して2.5当量未満であることを意味する。すなわち、式(2)で表される化合物の当量数と塩基の当量数の合計を「V2+B」、式(1)で表される化合物の当量数を「V」としたとき、「V2+B/V」(当量比)が2.5未満であることを意味する。本明細書中では、V2+B/Vの単位を「当量」(eq)と表記することとする。また、同様に、塩基の式(1)で表される化合物に対する当量比は「V/V」であり、式(2)で表される化合物の式(1)で表される化合物に対する当量比は「V/V」である。
ここで、反応に供する式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物および塩基は、それぞれ1種類であっても2種類以上であってもよい。2種類以上である場合、それらの当量数の合計が、式(1)または(2)で表される化合物の当量数、または、塩基の当量数であることとする。
【0038】
(塩基)
本発明で用いる塩基は、有機塩基であっても、無機塩基であってもよい。有機塩基の例として、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン、N-メチルモルホリン等の環式3級アミン、ピリジンが挙げられる。無機塩基の例として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物が挙げられる。中でも、アルカリ金属水素化物が好ましく、水素化ナトリウムがより好ましい。
【0039】
(式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物および塩基の当量比)
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物を塩基の存在下で反応させる際、本発明では、式(2)で表される化合物と塩基の合計量を、式(1)で表される化合物に対する当量比で2.5当量未満とする。式(2)で表される化合物と塩基の合計量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で2.3未満であることが好ましく、2.0未満であることがより好ましく、1.8当量以下であることがさらに好ましく、1.7当量以下であることがさらにより好ましく、1.5当量以下であることがなおさらに好ましく、1.3当量以下や、1.1当量以下であってもよい。また、式(2)で表される化合物と塩基の合計量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で0.5当量以上であることが好ましく、0.6当量以上、0.7当量以上、0.9当量以上であってもよい。
【0040】
塩基の配合量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で1.7当量未満であることが好ましく、1.5当量未満であることがより好ましく、1.4当量以下の範囲内で選択してもよく、1.3当量以下や、1.2当量以下、1.0当量以下の範囲内で選択してもよい。また、塩基の量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で0.2当量以上であることが好ましく、0.3当量以上、0.4当量以上、0.6当量以上の範囲内で選択してもよい。
【0041】
式(2)で表される化合物の配合量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で1.2当量未満であることが好ましく、0.9当量以下や、0.7当量以下、0.5当量以下の範囲内で選択してもよく、0.5当量未満や、0.4当量以下、0.3当量以下の範囲内で選択してもよい。また、式(2)で表される化合物の量は、式(1)で表される化合物に対する当量比で0.1当量以上であることが好ましく、0.2当量以上、0.25当量以上の範囲内で選択してもよい。
【0042】
(各化合物と塩基の混合手順)
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物の塩基存在下での反応は、各化合物と塩基を混合した状態で行うことができる。混合の手順は特に限定されないが、式(1)で表される化合物と塩基を含む混合物に、式(2)で表される化合物を加えて反応させることが好ましい。このとき、式(2)で表される化合物は、式(1)で表される化合物と塩基の混合物に一度に加えてよいが、一定の時間(添加時間)をかけて、連続的または間欠的に添加することが好ましく、式(2)で表される化合物の溶液を、連続的に滴下して添加することがより好ましい。添加時間は、例えば15分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましく、1時間~1.5時間程度であることがさらにより好ましい。
【0043】
(溶媒)
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物の反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒は、反応に不活性なものであって、トリアジン誘導体の合成原料を溶解できるものであれば特に制限されないが、非プロトン性有機溶媒であることが好ましい。非プロトン性有機溶媒として、例えばアセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類が挙げられ、DMF、DMSOを用いることが好ましい。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
溶媒は、式(1)で表される化合物と塩基の混合物に加えてもよいし、混合前の、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物の少なくとも一方に加えて、化合物を溶解させておいてもよい。例えば、式(1)で表される化合物を溶媒に溶解した溶液に塩基を加えて混合物を調製し、この混合物に、式(2)で表される化合物を溶媒に溶解した溶液を加えて反応を行うことができる。
反応系に存在させる溶媒の量は、例えば式(1)で表される化合物の1モルに対して、0.5~50Lであることが好ましく、1~20Lであることが好ましく、2~15Lであることがより好ましい。
【0045】
(反応温度および反応時間、周囲の条件)
反応温度は、例えば0~30℃の範囲から選択することができ、10~28℃の範囲から選択してもよく、20~25℃であってもよい。
【0046】
反応時間は、特に制限されず、1~48時間の範囲内であってもよいし、1~24時間の範囲内であってもよく、1.5~12時間の範囲内や2~6時間の範囲内であってもよい。また、原料を検出しながら反応を行い、原料が検出されなくなったところで反応を終了してもよい。原料の検出は、例えばガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)などを用いて行うことができる。
【0047】
本発明で行う反応は、大気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとして、例えば窒素ガス、希ガス(アルゴンガスなど)等を挙げることができる。また、本発明で用いる反応は、減圧下、加圧下、常圧下のいずれで行ってもよい。
【0048】
(精製方法)
本発明の方法で製造されたトリアジン誘導体は、精製してから所望の用途に供してもよい。トリアジン誘導体の精製は、濃縮、デカンテーション、再沈殿、再結晶、クロマトグラフィー、抽出等の公知の方法を用いて行うことができる。また、トリアジン誘導体を合成した反応混合液に貧溶媒を加えてトリアジン誘導体を析出(沈殿)させ、その析出物を分離することによっても精製することができる。
【0049】
貧溶媒としては、水などの水系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒を用いることができる。これらの貧溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
貧溶媒の添加量は、反応溶媒または反応混合液の20℃での体積に対して0.5~10倍であることが好ましく、1~5倍であることがより好ましく、1~3倍であることがさらに好ましい。
析出物の溶媒からの分離は、ろ過方式(例えば吸引ろ過)、圧力方式、遠心分離方式などの公知の分離方法を用いて行うことができる。分離した析出物は、さらに貧溶媒で洗浄したり、洗浄後に乾燥したりしてもよい。
【実施例0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下の実施例において、「室温」とは25℃のことを意味する。
【0052】
(実施例1)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で0.85当量とした誘導体1の製造
【化8】
【0053】
0℃の氷浴中で、化合物A1(300 mg,2.3mmol,1当量)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(8mL)を撹拌しながら、60%鉱油分散液として水素化ナトリウムNaH(56mg,1.4mmol,0.6当量)をゆっくり加えて混合物を得た。この混合物に化合物B1(56mg,0.59mmol,0.25当量)のDMF溶液(8mL)をおよそ0.5時間かけて滴下し、室温で13時間撹拌して反応させた。この反応混合液に水(30ml)とジクロロメタンを加えて抽出を行い、その有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させた後、溶媒を留去することにより、目的の誘導体1を収率10%で得た。
Chemical Formula: C17H10N6
Exact Mass: 298.09669
Molecular Weight: 298.30900
m/z:298.09669(100.0%), 299.10005(18.4%), 299.09373(2.2%), 300.10340(1.6%)
【0054】
(実施例2)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で1.7当量とした誘導体1の製造
0℃の氷浴中で、化合物A1(2.0g,15.6mmol,1当量)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(50mL)を撹拌しながら、60%鉱油分散液として水素化ナトリウムNaH(748mg,18.7mmol,1.2当量)をゆっくり加えて混合物を得た。この混合物に化合物B1(747mg,7.82mmol,0.5当量)のDMF溶液(50mL)を1~1.5時間かけて滴下し、室温で18時間撹拌して反応させた。この反応混合液に水(100mL)を加えて固体を析出させ、得られた固体をろ取し、水で洗浄することにより、目的の誘導体1を収率39%で得た。
Chemical Formula: C17H10N6
Exact Mass: 298.09669
Molecular Weight: 298.30900
m/z:298.09669(100.0%), 299.10005(18.4%), 299.09373(2.2%), 300.10340(1.6%)
【0055】
(実施例3)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で1.1当量とした誘導体1の製造
化合物A1の配合量とそのDMF溶液の使用量、水素化ナトリウムNaHの配合量、化合物B1の配合量とそのDMF溶液の使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例2と同様の反応と処理を行って目的の誘導体1を収率61%で得た。
Chemical Formula: C17H10N6
Exact Mass: 298.09669
Molecular Weight: 298.30900
m/z:298.09669(100.0%), 299.10005(18.4%), 299.09373(2.2%), 300.10340(1.6%)
【0056】
(実施例4)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で2.2当量とした誘導体1の製造
化合物A1の配合量とそのDMF溶液の使用量、水素化ナトリウムNaHの配合量、化合物B1の配合量とそのDMF溶液の使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の反応と処理を行って目的の誘導体1を収率41%で得た。
Chemical Formula: C17H10N6
Exact Mass: 298.09669
Molecular Weight: 298.30900
m/z:298.09669(100.0%), 299.10005(18.4%), 299.09373(2.2%), 300.10340(1.6%)
【0057】
(実施例5)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で1.7当量とした誘導体1の製造
化合物A1の配合量とそのDMF溶液の使用量、水素化ナトリウムNaHの配合量、化合物B1の配合量とそのDMF溶液の使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の反応と処理を行って目的の誘導体1を収率60%で得た。
Chemical Formula: C17H10N6
Exact Mass: 298.09669
Molecular Weight: 298.30900
m/z:298.09669(100.0%), 299.10005(18.4%), 299.09373(2.2%), 300.10340(1.6%)
【0058】
また、化合物A1および化合物B1の溶媒として、DMFの代わりにジメチルスルホキシドを用いること以外は、実施例2~5と同様の反応と処理を行ったところ、同様に誘導体1の生成を確認することができた。
【0059】
(実施例6)化合物B2と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で1.7当量とした誘導体2の製造
【化9】
【0060】
化合物B1の代わりに化合物B2を用い、化合物A1の配合量とそのDMF溶液の使用量、水素化ナトリウムNaHの配合量、化合物B2の配合量とそのDMF溶液の使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の反応と処理を行って目的の誘導体2を収量34mg、収率1.0%で得た。
Chemical Formula: C23H12BrN5
Exact Mass: 437.02761
Molecular Weight: 438.28800
m/z: 437.02761(100.0%), 439.02556(97.3%), 438.03096(24.9%), 440.02892(24.2%), 439.03432(3.0%), 441.03227(2.9%), 438.02464(1.8%), 440.02260(1.8%)
【0061】
(実施例7)化合物B2と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で1.75当量とした誘導体2の製造
化合物A1の配合量とそのDMF溶液の使用量、水素化ナトリウムNaHの配合量、化合物B2の配合量とそのDMF溶液の使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例3と同様の反応と処理を行って目的の誘導体2を収量342mg、収率5.0%で得た。
Chemical Formula: C23H12BrN5
Exact Mass: 437.02761
Molecular Weight: 438.28800
m/z: 437.02761(100.0%), 439.02556(97.3%), 438.03096(24.9%), 440.02892(24.2%), 439.03432(3.0%), 441.03227(2.9%), 438.02464(1.8%), 440.02260(1.8%)
【0062】
(比較例1)化合物B1と塩基の合計量を化合物A1に対する当量比で6.6当量とした比較製造例
0℃水浴中で、化合物A1(320mg,2.5mmol,1当量)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(10mL)を撹拌しながら、水素化ナトリウムNaH(431mg,11mmol,4.4当量)をゆっくり加えて混合物を得た。この混合物に化合物B1(522mg,5.5mmol,2.2当量)のDMSO溶液(10mL)を1~1.5時間かけて滴下し、室温で12時間撹拌して反応させた。この反応混合液に水(30ml)を加えて1時間撹拌したが、固体の析出は見られなかった。そこで、この反応混合液にジクロロメタンを加えて抽出を行い、その有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させた後、溶媒を留去することにより固体を得た。この固体について同定分析を行ったところ、目的物は観測されなかった。
【0063】
特許文献1(特開2001-158450号公報)の実施例10の欄には、4位がトリフルオロメチルで置換されたシアノベンゼンを原料に用い、比較例1と同様の工程を行って2つの4-トリフルオロメチル基と1つのアミノ基が置換したトリアジン誘導体(4,6-ビス(4-(トリフルオロメチル)フェニル-1,3,5-トリアジン-2-アミン)を定量的に得たことが記載されている。ここで、シアノ基もトリフルオロメチル基と同程度の強い電子求引性を示すため、比較例1の反応で誘導体1が得られるものと予測していたが、このように目的物が得られなかったことは全く予想外であった。
【0064】
【表1】
【0065】
(参考例1)誘導体1を用いた第2誘導体1の合成
【化10】
【0066】
臭化銅(II)(271mg,1.21mmol,1.8当量)、アセトニトリル(10mL)、および亜硝酸tert-ブチル(0.17mL,1.54mmol,2.3当量)を順にフラスコ内に入れ、窒素雰囲気下、60℃で加熱撹拌した。この混合物の溶液を、室温まで冷ました後、誘導体1(200mg,0.67mmol,1当量)を加え、再び60℃で11時間加熱撹拌した。この反応溶液を室温まで冷ました後、塩化メチレン、水を加えて抽出を行った。その有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液から溶媒を留去した。得られた粗生成物を、ヘキサン:酢酸エチル=3:1(v/v)の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、目的の第2誘導体1を収量41mg、収率17%で得た。
Chemical Formula: C17H8BrN5
Exact Mass: 360.99631
Molecular Weight: 362.19000
m/z: 360.99631(100.0%), 362.99426(97.3%), 361.99966(18.4%), 363.99762(17.9%), 361.99334(1.8%), 363.99130(1.8%), 363.00302(1.6%), 365.00097(1.5%)
【0067】
(参考例2)第2誘導体1を用いた第3誘導体1の合成
【化11】
【0068】
第2誘導体1(70mg,0.193mmol,1.5当量)、化合物C1(18mg,0.129mmol,1当量)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(1.0mg,0.00129mmol,0.01当量)、炭酸カリウム(71mg,0.515mmol,4当量)、トルエン(5mL)、水(1mL)、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(1滴)をフラスコに入れ、窒素雰囲気下、60℃で12時間加熱撹拌した。この反応溶液を室温まで冷ました後、塩化メチレン、水を加えて抽出を行った。その有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液から溶媒を留去した。得られた粗生成物を、ヘキサン:酢酸エチル=1:1(v/v)の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、目的の第3誘導体1を収量35mg、収率72%で得た。
Chemical Formula: C23H12FN5
Exact Mass: 377.10767
Molecular Weight: 377.38240
m/z: 377.10767(100.0%), 378.11103(24.9%), 379.11438(3.0%), 378.10471(1.8%)
【0069】
(参考例3)誘導体1を用いた第4誘導体1の合成
【化12】
【0070】
フラスコ内に1,4-ジオキサン(6mL)を入れ、水浴中で、亜硝酸tert-ブチル(0.14mL,1.21mmol,1.2当量)、クロロトリメチルシラン(0.15mL,1.21mmol,1.2当量)を順にフラスコ内に入れた。その後、誘導体1(300mg,1.00mmol,1当量)をゆっくり加え、アルゴン雰囲気下、60℃で反応溶液を5時間加熱撹拌した。この混合物の溶液を、室温まで冷ました後、水を加えて固体を析出させた。得られた固体をろ過し、水、ヘキサンで洗浄したのち、目的の第4誘導体1を収量268mg、収率84%で得た。
Chemical Formula: C17H8ClN5
Exact Mass: 317.04682
Molecular Weight: 317.73600
m/z: 317.04682 (100.0%), 319.04387 (32.0%), 318.05018 (18.4%), 320.04723 (5.9%), 318.04386 (1.8%), 319.05353 (1.6%)
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、2個以上のシアノアリール基またはシアノヘテロアリール基を有するトリアジン誘導体を簡便な手法を用いて高い収率で合成することができる。こうして得られたトリアジン誘導体は、電子材料や医薬品、これらの合成中間体等として用いることができるため、本発明は産業上の利用可能性が高い。