(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180772
(43)【公開日】2024-12-27
(54)【発明の名称】チロシナーゼ阻害化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/39 20060101AFI20241220BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241220BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20241220BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20241220BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20241220BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20241220BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20241220BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20241220BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20241220BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20241220BHJP
【FI】
A61K38/39
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/02
A61K8/64
A61K38/05
A61K38/06
A61K38/07
A61K38/08
A61K38/10
A23L33/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099701
(22)【出願日】2023-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】513256192
【氏名又は名称】株式会社バイタルリソース応用研究所
(71)【出願人】
【識別番号】516361532
【氏名又は名称】株式会社福岡フーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】岡元 孝二
(72)【発明者】
【氏名】畠中 登志也
(72)【発明者】
【氏名】吉水 優貴
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME14
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083EE16
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA15
4C084BA16
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA21
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC202
(57)【要約】 (修正有)
【課題】皮膚の美白作用及び美白効果の増強作用等を行いうるチロシナーゼ阻害化合物の開発。
【解決手段】水溶性ブタエラスチン、又は水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチド(これに相当する化学的に合成された化合物を含む)を有効成分とすることを特徴とするチロシナーゼ阻害化合物。本発明のチロシナーゼ阻害化合物を、皮膚外用剤(化粧品等)や健康食品(サプリメント等)などとして用いることで、毒性・副作用の無い生体構成成分由来の化合物による有用な皮膚美白作用及び美白増強作用の有用な効果が期待できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ブタエラスチン、又は水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチド(これに相当する化学的に合成された化合物を含む) を有効成分とすることを特徴とするチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項2】
水溶性ブタエラスチンの分子量が300,000 未満、好ましくは100,000 未満、特に好ましくは平均分子量が20,000 から 30,000 未満である請求項1に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項3】
水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチドの分子量が 100 から 2,000 未満、好ましくは 100 から 1,000 未満である請求項1に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項4】
水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチドが、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)中の繰り返し配列である VGVAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPG の配列中に含まれる、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、デカペプチド ウンデカペプチド、ドデカペプチドのいずれかで表される請求項3に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項5】
ブタ水溶性エラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチドが、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)中に含まれる X1X2P又はGX1G又はAX1A (X1 又は X2=A、G、S、V、L、T、I、C、M、D、N、E、Q、H、K、R、F、Y、W、P のいずれかで表されるアミノ酸)のいずれかのトリペプチドで表される請求項3に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項6】
水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチドが、配列番号4から21 のいずれか又は複数を含む、分子量 1,000 未満のペプチドである請求項3に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項7】
水溶性ブタエラスチン分解物であるエラスチン由来ペプチドが、配列番号4、5、7、8、9、10 のいずれか又は複数で表される請求項3に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【請求項8】
請求項1ないし7のチロシナーゼ阻害化合物を有効成分としチロシナーゼ阻害化合物がチ ロシナーゼを阻害することで、皮膚の美白作用及び美白効果の増強作用を特徴とする医薬品、皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)、好ましくは皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)として構成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシナーゼ阻害化合物に関する。より詳細にいうと本発明は、美白作用などを目的とするチロシナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
「色の白いは七難隠す」という諺があるように、美白は古来より羨望の対象とされてきた。現代においても、美白は人々の、とりわけ女性たちの関心の対象である。女性向け情報サイト「mellow メロウー」(非特許文献1)では、20代以上の女性200人に肌の悩みに関するアンケートを実施したところ、毛穴、ニキビ、しわ、乾燥、たるみなどを抑えて、40%弱の女性が美白を第一位であると回答した。
このように美白は、現代の女性にとっての必須のアイテムであり、美容上大きな関心事であるといえる。
【0003】
ヒトの皮膚の色調はメラニン(黒)、ヘモグロビン(赤)、カロチン(黄)の3つ要素から成っているが、実際にはメラニンの量によってほとんど皮膚の色調は決定されている。メラニンをつくりだす細胞はメラノサイトと呼ばれ、ヒトの場合、皮膚においては表皮の最下部にある基底層に位置している。
チロシナーゼはこのメラノサイトと呼ばれる細胞に存在し、粗面小胞体のリボソームで生成され、ゴルジ器官関連小胞体で糖鎖付加を受けて成熟し、メラノソームと呼ばれる袋状の細胞内器官に転送配置されて、メラニン生成を触媒することができるようになる。シミの原因は、皮膚の色素細胞であるメラノサイトでチロシナーゼの働きによって発生した黒色メラニンが紫外線などにより過剰になり、肌から排出するターンオーバーの周期が年齢とともに遅くなり、その黒色メラニンがうまく排出されずに蓄積した結果である。
シミを予防するにはメラニンの過剰な生成を抑制すること、あるいはターンオーバーの周期を高めてメラニンの排出を促すことが大切である。
【0004】
メラニン分子は巨大なバイオポリマーであり、原料はアミノ酸の1種であるチロシンである。メラニンを合成する主要酵素群の中で注目されているのがチロシナーゼ(EC 1.14.18.1)であるので、チロシナーゼを阻害する物質は美白効果をもたらすことになる。チロシナーゼはメラニン合成過程において主に2つの反応を触媒する。
1つはL-チロシンのようなモノフェノール をL-ドーパキノンのようなo- キノンへと酸化触媒する (モノフェノラーゼ活性) 作用であり、もう1つは L-DOPA のようなジフェノールを o-キノンへと酸化触媒する(ジフェノラーゼ活性) 作用である。
【0005】
従来から皮膚の美白化には種々のチロシナーゼ阻害剤が用いられてきた。例えばコウジ酸、ハイドロキノン、ハイドロキノンのフェノール性 OH基にグルコースが結合したアルブチンなどがその代表例として挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(女性向け情報サイト「mellow メロウー」、2022年11月15日発表記事。URL;https://arinna.co.jp/mellow/cosmetics-78/)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、代表例として知られているチロシンキナーゼ阻害剤については、課題も多い。
すなわち、ハイドロキノン、コウジ酸は特に水中で熱や酸化に対して極めて弱く、不安定で製剤作製中において経時的に分解着色などが生じる。
一方、アルブチンは熱や酸化に対する安定性については改善されてはいるが、ヒト由来チロシナーゼのジフェノラーゼ活性を50%阻害する濃度(IC50)で比較してコウジ酸やハイドロキノンに比べて阻害効果の面などで必ずしも満足できるものではない。また副作用については、ハイドロキノンは短期的な使用で赤み、炎症、かぶれなどがみられ、長期的な使用で白斑がみられている。
コウジ酸使用では接触性皮膚炎がみられ、動物実験で高用量による発がん性が示唆されたことより、ヒトでの高用量の使用は避ける必要がある。
アルブチン使用ではハイドロキノンに比べて皮膚の刺激症状は出にくいが、接触性皮膚炎を起こしたという報告もある。
【0008】
上記事情を背景として本発明は、従来のチロシナーゼ阻害剤にみられる上記のような問題点を解決できるチロシナーゼ阻害剤を生体構成成分であるタンパク質またはその分解物に焦点を当てて探索し、皮膚外用剤(化粧品等)または健康食品(サプリメント等)として提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、エラスチンとその分解物に着目して研究開発を行った。
すなわち、エラスチンは生体内の皮膚、血管、靭帯などに広く分布するタンパク質である。水溶性ブタエラスチンを摂取すると胃の酵素や小腸の酵素で順次消化されて最終的にアミノ酸、ジペプチドやトリペプチドの低分子ペプチド(エラスチン分解物)が生じる。これらの低分子ペプチドの中には種々の生理活性を持つペプチド(活性ペプチド)があり、それらは腸管から吸収されて血中を移動し、体内の種々の組織に運ばれる。
例えば、活性ペプチドが皮膚組織に運ばれると表皮の最下部にある基底層に位置しているメラノサイトに到達し、チロシナーゼを阻害してメラニン合成を抑制する可能性に想到した。
【0010】
また、皮膚組織は角質層がバリアーの役目をしているため、高分子物は皮膚を透過しにくいが、分子量1,000未満の低分子物は皮膚を比較的通過しやすいといわれている。
そこで分子量1,000未満のチロシナーゼ阻害を有する水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)を皮膚に塗布することにより、これらの水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)は皮膚を透過し、表皮の最下部にある基底層に位置しているメラノサイトに到達し、チロシナーゼを阻害してメラニン合成を抑制することにより、皮膚の美白化を図ることができる可能性に想到した。
【0011】
発明者らは、これらの可能性について鋭意研究を行ったところ、水溶性ブタエラスチンないし水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、チロシナーゼの阻害作用を有することを見出し、発明を完成させたものである。
【0012】
本発明は、以下の構成からなる。
[1]水溶性ブタエラスチン、又は水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)(これに相当する化学的に合成された化合物を含む)を有効成分とすることを特徴とするチロシナーゼ阻害化合物。
【0013】
[2]水溶性ブタエラスチンの分子量が 300,000 未満、好ましくは100,000 未満、特に好ましくは平均分子量が 20,000 から 30,000 未満である [1]に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
[3]水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の分子量が 100から2,000未満、好ましくは100から 1,000 未満 である [1]に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
[4]水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)中の繰り返し配列である VGVAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPGの配列中に含まれる、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ぺンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、デカペプチド、ウンデカペプチド、ドデカペプチドのいずれかで表される [3] に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
[5]水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)中に含まれる X1X2P又はGX1G 又はAX1A(X1又は X2 = A、G、S、V、L、T、I、C、M、D、N、E、Q、H、K、R、F、Y、W、Pのいずれかで表されるアミノ酸)のいずれかのトリペプチドで表される[3]に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【0014】
[6]水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、配列番号4から21のいずれか又は複数を含む、分子量1,000未満のペプチドである [3] に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
[7]水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、配列番号4、5、7、8、9、10で表される [3]に記載のチロシナーゼ阻害化合物。
【0015】
[8] [1]ないし [7] のチロシナーゼ阻害化合物を有効成分とし、チロシナーゼ阻害化合物がチロシナーゼを阻害することで、美白作用又は美白効果の増強作用を特徴とする医薬品、皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)、好ましくは皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、有用なチロシナーゼ阻害化合物の提供が可能となった。
本発明のチロシナーゼ阻害化合物を、皮膚外用剤(化粧品等)や健康食品(サプリメント等の)などとして用いることで、従来の皮膚外用剤(化粧品等)や健康食品(サプリメント等)とは異なり、新規の水に溶けやすくて毒性・副作用の無い生体構成成分由来の有用な化合物による美白効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)のチロシナーゼ阻害率(%)及び毒性を調べた結果を示した図。
【
図2】水溶性ブタエラスチンと水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の IC
50 及び水に対する溶解性を算出した結果を示した図。
【
図3】既存の化合物のIC
50 及び水に対する溶解性を示した図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物について説明を行う。
【0019】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、水溶性ブタエラスチン、又は水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物) (これに相当する化学的に合成された化合物を含む)を有効成分とすることを特徴とする。すなわち、配列番号1に示されるブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)、ないしこれの由来ペプチド(分解物)を有効成分として、チロシナーゼ阻害作用を発揮するものである。
水溶性ブタエラスチンの分子量は典型的には 300,000 未満とすることができ、好ましくは 100,000 未満、特に好ましくは平均分子量が20,000 から 30,000 未満とすることができる。
さらに、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の分子量は典型的には、100 から 2,000 未満とすることができ、好ましくは100から 1,000 未満とすることができる。
【0020】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物について、エラスチンを分解して製造する場合は、公知の方法を用いて製造することができる(国際公開第2006/046626号パンフレット)。
すなわち、豚、馬、牛、羊などの哺乳動物から得られる大動脈血管及び靭帯などの生体組織を原料として用いるが、鳥類の動脈血管や魚類の動脈球などの生体組織を原料として用いても良い。まずこれらの生体組織を脱脂・ホモジナイズ等することにより細分化する。続いて、細分化試料についてアルカリ性溶液等を用いてコラーゲン等の除去を行い、不溶性エラスチンを得る。さらに、不溶性エラスチンについて、酸もしくはアルカリ等により加水分解処理を行い、この処理溶液について分離作業を行い、水溶性エラスチンを得ることができる。この水溶性エラスチンについて酵素処理等による処理を行い、得られた処理液について膜分離やゲルろ過によるカラム精製などを行い、100 から 2,000 未満の分子量の画分から成るエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)を得ることができる。
【0021】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物については、化学的に合成することもできる。すなわち、本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、ペプチドとして構成されていることから、ペプチド合成装置などにより化学合成することができる。
【0022】
水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の好ましい態様として、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、VGVAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPG(配列番号2)の配列中に含まれる、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、デカペプチド、ウンデカペプチド、ドデカペプチドのいずれかで表される、分子量 1,000 未満の化合物とすることができる。
なお、配列番号2で示される前記化合物は、アミノ酸の一文字表記で表され、左側が N末端、右側がC末端として表される (以下、同様)。
【0023】
また、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の異なる好ましい態様として、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、X1X2P又はGX1G又はAX1A(X1又はX2 = A、G、S、V、L、T、I、C、M、D、N、E、Q、H、K、R、F、Y、W、P のいずれかで表されるアミノ酸)のトリペプチドで表される、分子量1,000 未満の化合物とすることができる。
【0024】
さらに、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の異なる好ましい態様として、水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、配列番号4から21 のいずれか又は複数を含む、分子量 1,000未満のペプチドとすることができ、特に好ましくは、配列番号4、5、7、8、9、10のいずれか又は複数で表されるペプチドとすることができる。
これら水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の好ましい態様とすることにより、チロシナーゼ阻害化合物の設計ならびに化学的合成が容易になり、本発明のチロシナーゼ阻害化合物を高純度かつ再現性高く得ることができる効果を有する。
【0025】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、上記のとおりの化学構造を有するものであるが、これに限定する趣旨ではない。
すなわち、上記で示された化学構造を有する化合物によりチロシナーゼ阻害効果を発揮するという本発明の趣旨に鑑み、化合物そのものがチロシナーゼ阻害作用を発揮する場合に加え、体内における様々な代謝を受けて本発明の化合物構造となりチロシナーゼ阻害作用を発揮する、いわゆるDDS(Drug Delivery System)化された化合物、すなわちPDS(Particle Delivery System)化された化合物を含んでもかまわない。この意味において、本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、部分的な化学的修飾を受けていてもよい。
【0026】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、チロシナーゼ阻害作用を発揮しうる限り特に限定する必要はなく医薬品、健康食品(サプリメント等)、皮膚外用剤(化粧品等)など種々の用途で用いることができる。好ましい用途として、例えば、健康食品(サプリメント等)、皮膚外用剤(化粧品等)などの態様で用いることができる。健康食品(サプリメント等)などの剤型としては、例えば、錠剤、散剤・顆粒剤、カプセル剤、注射剤、内服液剤・シロップ剤などの態様で用いることができる。また皮膚外用剤(化粧品等)の剤型としては、例えば、パウダー、バーム、クリーム、リキッドなどの態様で用いることができる。
【0027】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物の好ましい用途として、美白作用等の用途が挙げられる。
すなわち、本発明のチロシナーゼ阻害化合物をヒトが摂取又は皮膚に塗布することにより、皮膚組織の基底層に位置しているメラノサイトのチロシナーゼを阻害してメラニン合成を抑制することにより、美白効果に寄与することである。
このような態様として、本発明のチロシナーゼ阻害化合物を有効成分とし、チロシナーゼ阻害化合物がチロシナーゼを阻害することで、皮膚の美白作用を特徴とする皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)として構成することができる。
異なる態様として、本発明のチロシナーゼ阻害化合物を有効成分とし、チロシナーゼ阻害化合物がチロシナーゼを阻害することで、皮膚の美白作用の効果を増強することを特徴とする皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)として構成することができる。
【0028】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物は、種々の添加物を含むことができる。すなわち、本発明のチロシナーゼ阻害化合物を有効成分して、皮膚外用剤(化粧品等)又は健康食品(サプリメント等)の組成物とする場合、剤型により、適切な添加物を選択することができる。
このような添加物として、例えば、賦形剤、安定化剤、酸化防止剤、pH調整剤、乳化剤、可溶化剤、等張化剤などが挙げられる。
【0029】
賦形剤としては、例えば、D-ソルビトール、マンニトール、キシリトール、プロピレングリコールなどの糖アルコール、ブドウ糖、白糖、乳糖、果糖などの糖類、結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、β-シクロデキストリン、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、タルク、カオリン、オリーブ油、ゼラチン、カゼイン、ペクチンなどが挙げられる。
【0030】
安定化剤としては、例えば、ペクチン、デキストラン、グリセリン、多糖類(グァーガム、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロガム、タマリンドシードガム)、デンプン類(ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)、寒天、ゼラチン、メチルセルロースなどが挙げられる。
【0031】
酸化防止剤としては、例えば、L-アスコルビン酸類(L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル)、エリソルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール、γ-オリザノール、カテキン、カンゾウ油性抽出物、クエルセチン、クエン酸、モノクエン酸グリセリル、トコトリエノール、トコフェロール類(d-α-トコフェロール、d-γ-トコフェロール、d-δ-トコフエロール)、レシチン、フェルラ酸、メラロイカ精油、ヒマワリ種子抽出物、ブドウ種子抽出物、プロポリス抽出物、ヘゴイチョウ抽出物、ヤマモモ抽出物、ローズマリー抽出物などが挙げられる。
【0032】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、リンゴ酸、リン酸、マレイン酸、酒石酸、乳酸、乳酸カルシウム、酢酸アンモニウム、メグルミン、グルコノ-δ-ラクトンなどを用いることができる。
【0033】
乳化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤 ; 例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子; 例えばシェラックロウ、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、環状ラノリン、ラノリンワックス、キャンデリラロウ、モクロウ、モンタンロウ、セラックロウ、ライスワックスなどワックス類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム塩類、エンジュサポニン、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ビートサポニン、スフィンゴ脂質、トマト糖脂質、植物性ステロール、植物レシチン、酵素分解レシチン、卵黄レシチン、ユッカフォーム抽出物、オオムギ殻皮抽出物、キラヤ抽出物などが挙げられる。
【0034】
可溶化剤としては、例えば、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000、ラウロマクロゴール、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、D-マンニトール、クエン酸ナトリウム、無水クエン酸、酒石酸、亜硫酸水素ナトリウム、アルギニンなどが挙げられる。
【0035】
等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、ホウ酸などが挙げられる。
【実施例0036】
本発明のチロシナーゼ阻害化合物について、実験例を用いてさらに説明を行う。
【0037】
<<実験例1,水溶性ブタエラスチン及び水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)によるチロシナーゼ阻害試験 >>
<実験概要>
1.Human Tyrosinase Inhibitor Screening Kit (Diphenolase activity) (Sakulab Science、Japan)のプロトコールに従って実験を行った。使用した Enzyme (Tyrosinase) はヒト由来のものである。Substrate は L-DOPA である。Inhibitor control は 10mM Kojic acid である。Sample は水溶性ブタエラスチンまたは水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)である。
2.キット付属のEnzyme を 1 ウエルあたり 5μL、キット付属の Assay buffer を 1 ウエルあたり 15μL加えて Enzyme solution を調製した。ついでキット付属の Substrate を 1 ウェルあたり 5μL、キット付属の Assay buffer を 1 ウエルあたり 55μL加えて Substrate solution を調製した。キット付属のマイクロプレートの各ウエルに20μ L の Assay buffer (Control)、Inhibitor control、Sample を添加した。続いて各ウエルに 20μL の Enzyme solution を添加し、軽く攪拌後、インキュベーター (25 - 30℃) にて 10 分間反応した。
続いて各ウェルに 60L の Substrate solutionを添加し、軽く撹拌後、インキュベーター(25 - 30℃)にて酵素反応開始した。
酵素反応開始後、30分後及び 60 分後の各ウエルの吸光度 (495nm)をプレートリーダーにて測定した。
阻害率の算出は次のように行なった。
△(Control) = 60分の吸光度値 (Control) ― 30分の吸光度値(Control)
△(Sample) = 60分の吸光度値 (Sample) ― 30分の吸光度値(Sample)
△(Control) > △ (Sample) の場合:
阻害率 (%)= △(Control) ― △ (Sample) / △ (Control) X 100
3.チロシナーゼ阻害能については、
図1に示す化合物番号1から18の化合物、ならびに
図2に示す水溶性ブタエラスチン、これら合計 19 の化合物を用いて検討を行った。
【0038】
4.化合物番号1から18については下記の由来である。すなわち、いずれの化合物についても、配列番号1に示されるブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)に由来する化合物である。
(1) 化合物番号1から3、5、7、10、14から18については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)のアミノ酸残基の 496番目のVal 残基から 519 番目の Gly 残基のVGVAPG 繰り返し配列 (VGVAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPG、配列番号2) 由来に含まれる。
(2) 化合物番号 13 については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)の アミノ酸残基の692番目のPro 残基から694番目の Pro 残基由来のPRP 配列である。
(3) 化合物番号 11については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)のアミノ酸残基の 370 番目のVal 残基から 372 番目の Pro 残基、659 番目のVal 残基から 661番目の Pro 残基由来の VSP 配列である。
(4) 化合物番号 12については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)の アミノ酸残基の 682番目の Thr 残基から 684番目の Pro 残基由来のTRP 配列である。
(5) 化合物番号8については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)のアミノ酸残基の 249番目のGly 残基から 251番目の Pro残基、283番目の Gly 残基から285 番目の Pro 残基、306番目の Gly 残基から308番目の Pro 残基、468番目の Gly 残基から 470番目の Pro 残基、531番目の Gly 残基から 533番目のPro残基由来の GAP 配列である。
(6) 化合物番号6については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)のアミノ酸残基の 73番目の Ala 残基から76番目のAla 残基間の配列、235番目のAla 残基か ら246番目のAla 残基間の配列、286番目のAla 残基から295番目の Ala 残基間の配列、373番目の Ala 残基から 383 番目のAla 残基間の配列、427番目のAla 残基から434番目 の Ala 残基間の配列、471番目の Ala残基から482番目のAla残基間の配列、539番目の Ala 残基から544番目のAla 残基間の配列、589 番目のAla 残基から594番目のAla 残基 間の配列、623番目のAla 残基から632番目のAla 残基間の配列、662 番目のAla 残基か ら668番目のAla 残基間の配列に含まれる配列である。
(7) 化合物番号4については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)のアミノ酸残基の32番目の Gly 残基から 34番目の Gly 残基、311番目の Gly 残基から313 番目の Gly 残基、487番目の Gly 残基から 489番目の Gly 残基、523番目の Gly 残基から 525番目の Gly 残基由来のGPG 配列である。
(8) 化合物番号9 については、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)の アミノ酸残基の21番目の Gly 残基から 23番目の Gly 残基、24番目の Gly 残基から26 番目の Gly 残基、48 番目の Gly 残基から 50番目の Gly 残基、52 番目の Gly 残基から 54 番目の Gly 残基、86番目の Gly 残基から 88番目の Gly 残基、95番目の Gly 残基から97 番目の Gly 残基、485番目の Gly 残基から487 番目の Gly 残基、641番目の Gly残基から 643 番目の Gly 残基、709 番目の Gly 残基から711番目の Gly 残基由来のGLG 配列である。
【0039】
5.チロシナーゼ阻害率及び毒性を調べた結果を
図1に示す。
(1) 化合物 12 (配列番号10)、化合物13(配列番号9)、化合物 14 (配列番号8)、化合物 15 (配列番号7)、化合物16(配列番号5) 及び化合物 18 (配列番号4) が優れたチロシナーゼ阻害活性を有していて、ペプチド濃度 40m M でいずれも阻害率81%以上を示した。
(2) 特に、化合物 14 (配列番号8) が 97% 以上の阻害率を示し、化合物 18 (配列番号4)が100%の阻害率を示した。
(3) onlineによるToxinPred tool を用いて調べた毒性について、化合物 1 から 18の毒性は、いずれも無毒であった。
【0040】
6.IC
50及び水に対する溶解性を調べた結果を
図2に示す。
(1) 化合物13(配列番号9)、化合物 15 (配列番号7)、化合物 18 (配列番号4)では、それぞれ18mM、15mM、16mMの比較的低い IC
50 値を示していた。これより、化合物13(配列番号9)、15(配列番号7)及び化合物18(配列番号4)は、チロシナーゼに対して優れた阻害活性を有すると考えられた。
(2) さらに、化合物12(配列番号10)、化合物14(配列番号8)、化合物16(配列番号5)もチロシナーゼに対して阻害活性を有すると考えられた
(3) また、水溶性ブタエラスチンは、通常の平均分子量が 20,000Da~30,000Da である。これより、水溶性ブタエラスチンの平均分子量を 25,000Da と仮定すると、IC
50 は 0.088mM となる。これは、化合物13、化合物15及び化合物18 の IC
50 値よりもはるかに小さな値であり、水溶性ブタエラスチンは優れた阻害活性を有すると考えられた。
(3) 創薬モダリティ研究を支援する統合計算化学システム MOE (Molecular Operating Environment) を用いて求めた水に対する溶解性については、VAPG (配列番号8)、TRP (配列番号10)、VGVAPG (配列番号7)、VAPGVG (配列番号5)のいずれも水に対する溶解性が高く、水に溶けやすいことを示した。
【0041】
7.既存のチロシナーゼ阻害化合物のIC
50 及び水に対する溶解性を
図3に示す。
(1) アルブチンは
図2に示す水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)よりも低い IC
50 値(高い阻害活性)を示すが、平均分子量を25,000Daと仮定した水溶性ブタエラスチンの 0.088mM(88μM) よりも高い IC
50 値(低い阻害活性)を示している。
(2) これは水溶性ブタエラスチンを摂取すると体内で消化、吸収されて生じた数多くのエラスチン分解物である水溶性エラスチン由来ペプチド (化合物1から18) が相乗的に作用して、アルブチン単独よりも大きなチロシナーゼ阻害効果を発揮するものと考えられる。
(3) 創薬モダリティ研究を支援する統合計算化学システム MOE(Molecular Operating Environment) を用いて求めた水に対する溶解性については、アルブチンは水に溶けにくい欠点を有している。
8.これらの結果から、水溶性ブタエラスチン、ないし水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)が、チロシナーゼを阻害することが分かった。 特に、化合物15 及び18については、IC
50 がそれぞれ15mM及び16mMであり、ペプチド濃度40mMにおける阻害率がそれぞれ 90% 及び 100% と優れた結果を有しており、チロシナーゼ阻害化合物として有用であることが分かった。
9.また、強い阻害活性を有する化合物15(配列番号7)のVGVAPG配列は、ブタトロポエラスチン(ブタエラチン前駆体)中の496番目から519番目の配列(配列番号2に相当)中において、連続した4回の繰り返し配列として存在する。また、同様に強い阻害活性を有する化合物18(配列番号4)のVAPGVGVAPGVG配列は、ブタトロポエラスチン(ブタエラスチン前駆体)中の 492 番目から515番目の配列(配列番号3に相当)中において、連続した 2 回の 繰り返し配列として存在する。
10.さらに、阻害活性を示す化合物16(配列番号5)のVAPGVG配列及び化合物14(配列番号8)のVAPG配列は上記の配列番号3中においてそれぞれ連続した4回の繰り返し配列及び不連続した4回の繰り返し配列として存在する。このような繰り返し配列の存在から、化合物14(配列番号8)、化合物15(配列番号7)、化合物16(配列番号5)及び化合物18(配列番号4)が、チロシナーゼ阻害に有用であることが推認された。
【0042】
11.これらの実験結果より、水溶性ブタエラスチンまたは水溶性ブタエラスチン由来ペプチド(エラスチン分解物)の摂取又は皮膚への塗布による臨床試験での皮膚の美白効果が想定できる。