特開 2024-18079 織物

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024018079

(43)【公開日】2024-02-08

(54)【発明の名称】織物

(51)【国際特許分類】

   D03D 15/56 20210101AFI20240201BHJP

   D03D 15/283 20210101ALI20240201BHJP

   D03D 15/292 20210101ALI20240201BHJP

   D01F 8/14 20060101ALI20240201BHJP

【ＦＩ】

D03D15/56

D03D15/283

D03D15/292

D01F8/14 B

【審査請求】未請求

【請求項の数】8

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022121165

(22)【出願日】2022-07-29

(71)【出願人】

【識別番号】000003159

【氏名又は名称】東レ株式会社

(72)【発明者】

【氏名】川原 慎也

(72)【発明者】

【氏名】原田 翔平

(72)【発明者】

【氏名】稲田 康二郎

【テーマコード（参考）】

4L041

4L048

【Ｆターム（参考）】

4L041BA21

4L041CA06

4L041CA13

4L041CA17

4L041DD01

4L048AA20

4L048AA21

4L048AA28

4L048AA34

4L048AA51

4L048AB06

4L048AB10

4L048AB11

4L048AC12

4L048BA01

4L048BD00

4L048CA04

4L048CA15

4L048DA01

4L048EA00

(57)【要約】

【課題】 本発明は、身体の矯正力と運動への追従性を兼ね備え、肌あたりが良好な織物を提供する。
【解決手段】 本発明の織物は、長手方向に平行な糸がポリエステル系エラストマーを含む織物であり、かつ幅方向に平行な糸が前記織物の少なくとも一方の幅端で折り返されており、かつ前記織物の長手方向に１００Ｎ／５０ｍｍ荷重時の前記荷重方向の伸長率が１．０％以上２０．０％以下であり、かつ幅が３０ｍｍ以上２００ｍｍ以下である織物である。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】

【請求項1】

長手方向に平行な糸がポリエステル系エラストマーを含む織物であり、かつ幅方向に平行な糸が前記織物の少なくとも一方の幅端で折り返されており、かつ前記織物の長手方向に１００Ｎ／５０ｍｍ荷重時の前記荷重方向の伸長率が１．０％以上２０．０％以下であり、かつ幅が３０ｍｍ以上２００ｍｍ以下である織物。

【請求項2】

前記幅方向に平行な糸が前記織物の一方の幅端で折り返され、他方の幅端に絡み糸を含む請求項１に記載の織物。

【請求項3】

前記ポリエステル系エラストマーを含む糸の繊度が２０００ｄｔｅｘ以上２５００ｄｔｅｘ以下である請求項１または２に記載の織物。

【請求項4】

前記幅方向に平行な糸が１５００ｄｔｅｘ以上２０００ｄｔｅｘ以下である請求項１または２に記載の織物。

【請求項5】

前記絡み糸が１５０ｄｔｅｘ以上３５０ｄｔｅｘ以下である請求項２に記載の織物。

【請求項6】

前記幅方向に平行な糸が非弾性糸を含む請求項１または２に記載の織物。

【請求項7】

前記長手方向に平行な糸が芯鞘型の糸であり、鞘成分がポリエステル系エラストマーを主成分とし、芯成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とする請求項１または２に記載の織物。

【請求項8】

前記長手方向に荷重１００Ｎ／５０ｍｍで５０回伸長後の伸長回復率が６０％以上１００％以下である請求項１または２に記載の織物。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、織物に関するものである。

【背景技術】

【0002】

繊維製品を用いて身体を固定、矯正する提案が既に知られており、特許文献１では、伸縮性の織物を用いた腰痛帯が開示されており、また、特許文献２では緯糸にモノフィラメントを用いて横方向の剛性を向上させ、事故の衝撃による緯糸破壊を抑制するシートベルトウェビングが開示されている。特許文献３には、矯正具に関する発明が記載され、前記矯正具において、装着時に、矯正部位に矯正力を発現する機能を持つ、帯状の織物構造体を用いることが記載されている。このように金属やプラスチック材料よりも柔軟性の高い繊維製織物を用いることで身体の動きや形態に追従し、固定することができるが、身体のうち、特に下肢等の高い矯正力を必要とする部位の矯正には、高応力下での適度な伸長特性をもつ材料の開発が望まれている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２００５－９５５０８号公報

【特許文献2】特開２００３－４１４３１号公報

【特許文献3】国際公開第２０２１／０２９３２５号

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかしながら、従来知られているゴムバンドに代表される伸縮性素材ではある程度の足の動きには追従できるが、矯正部位の固定力が十分でなく、必要な強制力が得られない。また、特許文献２にあるような素材は一定の剛性や屈曲性はあるものの、長手方向の伸縮性に乏しく、矯正する際に身体の動きに追従できず皮膚との擦れによる痛みが発生する。また、特許文献３に具体的に記載された織物構造体は、織物構造体の緯方向を帯状の長手方向に用いており、織物から帯状に加工する必要があった。織物を帯状に加工して用いるに際し、生産性の観点から広幅織物に対して熱による溶断カット等をしようとすると溶けた繊維の樹脂がバリとなって皮膚と擦れ、痛みが発生するおそれがあり、改善の余地があった。

【0005】

そこで本発明の目的は、身体の矯正力と運動への追従性を兼ね備え、肌あたりが良好な織物を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は、上記目的を達成せんとするものであり、以下の構成を有する。

【0007】

（１） 長手方向に平行な糸がポリエステル系エラストマーを含む織物であり、かつ幅方向に平行な糸が前記織物の少なくとも一方の幅端で折り返されており、かつ前記織物の長手方向に１００Ｎ／５０ｍｍ荷重時の前記荷重方向の伸長率が１．０％以上２０．０％以下であり、かつ幅が３０ｍｍ以上２００ｍｍ以下である織物。

【0008】

（２） 前記幅方向に平行な糸が前記織物の一方の幅端で折り返され、他方の幅端に絡み糸を含む前記（１）に記載の織物。

【0009】

（３） 前記ポリエステル系エラストマーを含む糸の繊度が２０００ｄｔｅｘ以上２５００ｄｔｅｘ以下である前記（１）または（２）に記載の織物。

【0010】

（４） 前記幅方向に平行な糸が１５００ｄｔｅｘ以上２０００ｄｔｅｘ以下である前記（１）～（３）のいずれかに記載の織物。

【0011】

（５） 前記絡み糸が１５０ｄｔｅｘ以上３５０ｄｔｅｘ以下である前記（２）～（４）のいずれかに記載の織物。

【0012】

（６） 前記幅方向に平行な糸が非弾性糸を含む前記（１）～（５）のいずれかに記載の織物。

【0013】

（７） 前記長手方向に平行な糸が芯鞘型の糸であり、鞘成分がポリエステル系エラストマーを主成分とし、芯成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とする前記（１）～（６）のいずれかに記載の織物。

【0014】

（８） 前記長手方向に荷重１００Ｎ／５０ｍｍで５０回伸長後の伸長回復率が６０％以上１００％以下である前記（１）～（７）のいずれかに記載の織物。

【発明の効果】

【0015】

本発明により、身体の矯正に適する伸長特性を有し、身体の矯正力と運動への追従性を兼ね備え、肌あたりが良好な織物を提供することができるようになった。

【0016】

本発明の織物は特に繊維製の矯正具および装具用の矯正ベルトに好適であり、身体の変形防止、機能改善、日常生活の動作向上を目的とした治療用、更生用の上肢装具、体幹装具、下肢装具といった装具類に好適に使用することができるが、その適用範囲がこれらに限られるものではない。

【図面の簡単な説明】

【0017】

【図1】図１は実施例で作製した繊維製の内反足矯正具を示す概念図である。

【発明を実施するための形態】

【0018】

本発明の織物は長手方向に平行な糸がポリエステル系エラストマーを含む。ポリエステル系エラストマーを含むことで、織物の長手方向の伸長において適度な伸長性と回復性を付与できる。

【0019】

上記の場合において、ポリエステル系エラストマーを含む長手方向に平行な糸の使用割合は所望の特性が得られる範囲で適宜決定されるが、織物の長手方向に平行な糸全体として、５０質量％以上、１００質量％以下であることが好ましい。

【0020】

ポリエステル系エラストマーは、伸縮性織物として身体の矯正に必要な強度と伸長後の回復性などを得るため、芳香族ジカルボン酸とグリコールとを主原料として用いられる芳香族ポリエステルとポリオキシアルキレングリコールとのブロック共重合体が好ましい。さらに、伸長後の回復性が良いため、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールの共重合体がより好ましく用いられる。

【0021】

このようなポリエステル系エラストマーとして、東レ・デュポン製“ハイトレル“（登録商標）等の市販品を用いることができる。

【0022】

また、本発明においては前記長手方向に平行な糸がポリエステル系エラストマーを含む芯鞘型の糸であることが好ましく、なかでも鞘成分がポリエステル系エラストマーを主成分とし、芯成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とすることが好ましい。

【0023】

芯成分としてゴム弾性を有さないポリエチレンテレフタレートを含むことで、織物長手方向のゴム弾性をあえて低下させることができ、その結果、身体の矯正により適した伸縮特性を付与できる。なお、上記において「主成分」とは、構成成分の中で最も多い成分をいい、織物長手方向のゴム弾性を制御する観点から好ましくは５０質量％以上、より好ましくは８０質量％以上、最も好ましくは１００質量％である。

【0024】

原糸横断面における芯と鞘の面積比率のうち、芯成分の比率は好ましくは３％以上、５０％以下であり、さらに好ましくは５％以上、２０％以下である。また、前記長手方向に平行な糸はフィラメント数が少ない方が好ましく、モノフィラメントであることがより好ましい。モノフィラメントとすることで、織物交錯点での糸同士の接触面積が低減し、伸縮の回復性、すなわち追従性が良好となる。

【0025】

また、本発明の織物は幅方向に平行な糸が非弾性糸を含むことが好ましい。幅方向に平行な糸が非弾性糸を含むことで、織物の長手方向およびバイアス方向のゴム弾性をあえて低下させることができ、結果として身体の矯正により適した伸縮特性を付与できる。ここでいう「非弾性糸」とは弾性糸以外の糸であり、好適には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートやそれらの共重合体、ポリアミド等から構成される糸、あるいは金属繊維等が挙げられるが、熱によるセット性のある糸が好ましく用いられる。なお、ここで「構成される」とは、主成分として前記ポリマーが含まれるが、各種添加剤など、その他の成分を含んでいてもよいことを意味する。

【0026】

上記の場合において、非弾性糸の使用割合は所望の特性が得られる範囲で適宜決定されるが、織物の幅方向に平行な糸全体として、５０質量％以上、１００質量％以下であることが好ましい。

【0027】

本発明の織物は幅方向に平行な糸が前記織物の少なくとも一方の幅端で折り返されている。幅方向に平行な糸が前記織物の両方の幅端で折り返されていてもよい。ここで「折り返す」とは、幅方向に平行な糸、例えば緯糸が長手方向に平行な糸と交錯して製織される際、幅端で切断および絡み糸等を用いて編み込まれるなどの端部処理を施すことなく緯糸として単純に折り返されることをいう。織物の一方の幅端のみで折り返される場合、他方の幅端は、絡み糸を用い編み込むことで幅方向に平行な糸が織物の織組織外に突出しないように構成することが好ましい。上記態様とすることで、織物の幅端を熱や超音波等で溶断する必要が無く、身体の矯正等に用いる場合に糸のホツレやバリによる身体への擦傷が低減できる。上記態様とするためにはシャトル織機やニードル織機を用いて製織することが好ましい。

【0028】

なかでも、幅方向に平行な糸が一方で折り返され、他方の幅端に絡み糸を含む織物とすることで製織速度が向上し生産性が向上するためより好ましい。また、絡み糸に使用される糸は本発明で規定する範囲を満たす限り短繊維で構成される紡績糸、長繊維いずれでもよい。糸の材質においても本発明で規定する範囲を満たす限り天然繊維、合成繊維などの限定はなく、各種繊維が使用可能であるが、長手方向に平行な糸または幅方向に平行な糸と同じ材質を用いることが、外観や染色性等の観点から好ましい。

【0029】

本発明の織物は、前記ポリエステル系エラストマーを含む糸の繊度が２０００ｄｔｅｘ以上２５００ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。前記ポリエステル系エラストマーを含む糸の繊度が２０００ｄｔｅｘ以上であることで織物の強度に優れ、織物に適度な厚みとハリ感が生じて矯正力や適用快適性に優れる。２５００ｄｔｅｘ以下とすることで織物の柔軟性に優れ、身体の矯正等に用いる場合にごわつくことなく、着用快適性に優れる、または所望の荷重下での伸長性がより好ましい範囲となる。前記ポリエステル系エラストマーを含む糸の繊度は２１００ｄｔｅｘ以上、２４００ｄｔｅｘ以下であることがより好ましい。

【0030】

本発明の織物は、幅方向に平行な糸が１５００ｄｔｅｘ以上２０００ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。幅方向に平行な糸が１５００ｄｔｅｘ以上であることで、前記ポリエステル系エラストマーと同様に織物の強度に優れ、織物に適度な厚みとハリ感が生じて矯正力や適用快適性に優れる。２０００ｄｔｅｘ以下とすることで織物の柔軟性に優れ、身体の矯正等に用いる場合にごわつくことなく着用快適性に優れる。幅方向に平行な糸の繊度は１６００ｄｔｅｘ以上、１９００ｄｔｅｘ以下であることがより好ましい。

【0031】

本発明の織物において絡み糸を用いる場合、絡み糸が１５０ｄｔｅｘ以上３５０ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。絡み糸が１５０ｄｔｅｘ以上であることにより織物の強度に優れ、３５０ｄｔｅｘ以下であることで端部の糸拘束力がよりいっそう適切な範囲となり、織物とした際にパッカリングなど外観が不良となることなく、外観に優れる。絡み糸の繊度は１８０ｄｔｅｘ以上、３００ｄｔｅｘ以下であることがより好ましい。

【0032】

また、前記織物の長手方向に１００Ｎ／５０ｍｍ荷重時の前記荷重方向の伸長率が１．０％以上２０．０％以下である。１．５％以上１０．０％以下が更に好ましい。伸長率を１．０％以上とすることで、身体の矯正等に用いる場合に矯正部位を過度に固定することなく、適度に伸長することとなり、矯正部位と矯正具との摩擦が低減される。これにより、動作時における矯正部位の揺動や、矯正力が作用する際に起こる、身体への圧迫等に対しての追従性が良くなり、装着時の痛みや違和感が抑制される。加えて、動作時に、装着者が加える力を上記織物が受容することで、筋肉を動かし易くなり、機能回復、日常の動作向上に効果がある。また、伸長率を２０．０％以下とすることで適度に伸び止まり、身体を矯正できる。

【0033】

前記織物の織組織は、本発明で規定する範囲を満たす限り特に限定されるものではないが、平織、綾織、朱子織や、これらの組織を組み合わせた二重織等の組織を用途に応じて適宜選定することができる。

【0034】

また、本発明の織物は長手方向に平行な糸のカバーファクターは８００以上２０００以下が好ましい。カバーファクターが８００以上であることで織物の強度に優れ、２０００以下であることにより製織工程での生産性に優れる。より好ましくは１２００以上１８００以下である。また、幅方向に平行な糸のカバーファクターは１４００以上３０００以下であることが好ましい。カバーファクターが１４００以上であることで、織物の強度に優れ、３０００以下であることで織物長手方向の伸張性がよりいっそう適切な範囲となる。より好ましくは１５００以上２１００以下である。

【0035】

ここで、カバーファクターは、以下のように計算される値である。尚、上記織物のカバーファクターは、原則生機を後加工した仕上げ品としての織物の織密度および構成糸の繊度で行うが、便宜上、使用する原糸繊度をベースに算出してもよい（ただし技術常識上、製織前の原糸、構成糸のいずれの繊度でも上記範囲内に含まれることが明らかでない場合は原則に則り測定するものとする）。また、後述する実施例および比較例は仕上げ品の織密度および原糸繊度をベースに算出した。

【0036】

（カバーファクター）＝（密度：本／２．５４ｃｍ）×（繊度：（９／１０）×繊度（ｄｔｅｘ））^１／２。

【0037】

また、本発明の織物は幅が３０ｍｍ以上２００ｍｍ以下である。幅が３０ｍｍよりも小さいと織物の強度が不足する。または、身体の矯正等に用いる場合に身体との接触面が低下し、また、織物が長手方向において比較的低伸長率であるために食い込みやすくなることで着用快適性が低下する傾向がある。また、幅が２００ｍｍよりも大きいと、織物が長手方向において比較的低伸長率であるために、身体の矯正等に用いる場合に生地がごわついてしまい着用快適性が低下する傾向がある。本発明の織物は幅が４０ｍｍ以上１００ｍｍ以下であることがより好ましい。

【0038】

本発明の織物は前記長手方向に荷重１００Ｎ／５０ｍｍで５０回伸長後の伸長回復率が６０％以上１００％以下であることが好ましく、８０％以上１００％以下であることが更に好ましい。５０回伸長後の伸長回復率を上記の範囲とすることで、身体の矯正等に用いる場合に、装着者が加える力に対し、元の矯正位置に戻す力が適度に作用することで、適切な矯正位置が保たれ、機能回復、日常の動作向上に効果があるため好ましい。加えて、適度な固定力、矯正力が長期間保持されることで、本発明の矯正具を持続的に使用可能となり、機能回復、日常の動作向上に一層効果を発揮する。前記伸長回復率が６０％以上１００％以下とする方法としては、織物の長手方向にポリエステル系エラストマーを含む糸を用いる織物とする方法等があげられる。

【0039】

かくして得られる本発明の織物は、身体の矯正力と運動への追従性を兼ね備え、肌あたりが良好であるため、繊維製の矯正具および装具用の矯正ベルト（特に矯正方向に矯正力を働かせるために用いられるアンカー部材（例えば矯正部材について、矯正方向に矯正力を持たせるための支点となる部材）や矯正部材）に好適に用いることができる。なかでも、身体の変形防止、機能改善、日常生活の動作向上を目的とした治療用、更生用の上肢装具、体幹装具、下肢装具といった装具類に好適に使用することができるが、その適用範囲がこれらに限られるものではない。

【実施例0040】

次に、本発明の織物について、実施例に基づいて説明する。実施例において用いた特性の測定方法は、下記のとおりである。

【0041】

（１）繊度
繊度は、ＪＩＳ Ｌ １０１３：２０１０ ８．３．１ 正量繊度（Ｂ法）に基づき測定した。

【0042】

（２）織物幅
定規を用い、織物の幅方向を任意で５点測定し、その平均で表した。

【0043】

（３）荷重１００Ｎ／５０ｍｍ時の伸長率
織物に対して、幅方向に５０ｍｍ、長手方向に３００ｍｍの試験片を５枚採取した。自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を２００ｍｍとし、試験片のたるみや張力を除いてつかみに固定した。引張速度２００ｍｍ／分で荷重１５０Ｎに到達するまで伸ばし、測定を実施して得た荷重変形曲線に基づき、１００Ｎの時の変位を測り、次の式により伸長率Ｌ（％）を求め、５枚の平均で表した。

【0044】

伸長率Ｌ（％）＝（Ｌ１／Ｌ）×１００
Ｌ ：つかみ間隔（ｍｍ）
Ｌ１：１００Ｎまで伸ばした時の変位（ｍｍ）
尚、織物の幅が５０ｍｍ未満の場合は、織物の幅から荷重が１００Ｎ／５０ｍｍとなるように荷重を換算して測定し、算出した。

【0045】

（４）伸長回復率
幅方向に５０ｍｍ、長手方向に３００ｍｍの試験片を５枚採取した。自動記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔を２００ｍ（Ｌｄ）として印を付け、試験片のたるみや張力を除いて、つかみに固定した。引張速度２００ｍｍ／分で１００Ｎまで伸ばして、１分放置した後、同じ速度で元の位置まで戻し、３分間放置する。この操作を５０回繰り返した後、荷重を取り除き、３分間放置した後、試験片のたるみや張力を除いて、印間の長さ（Ｌｄ１）を測定し、次式により伸長回復率ＬＤ（％）を求め、５枚の平均で表した。
伸長回復率ＬＤ（％）＝［Ｌｄ－（Ｌｄ１－Ｌｄ）／Ｌｄ］×１００
尚、織物の幅が５０ｍｍ未満の場合は、織物の幅から荷重が１００Ｎ／５０ｍｍとなるように荷重を換算して測定し、算出した。

【0046】

（５）織密度
ＪＩＳ Ｌ １０９６：２０１０ ８．６．１（Ａ法）に基づき測定した。試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる５カ所について１ｉｎｃｈ（２．５４ｃｍ）間に存在する経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。

【0047】

（６）着用評価
本発明の織物を用いて図１に示す繊維製の内反足矯正具を作製した。図１は実施例で作製した繊維製の内反足矯正具を示す概念図である。特に記載のない限りは幅方向（長手方向に対して垂直方向）の幅端部をカットすること無く、図1に示すようにアンカー部材Ａ１及びアンカー部材Ｂ３と矯正部材２として用い、矯正方向４の方向に矯正力を働かせることを目的とする構造とした。その際、織物長手方向を各部材の長手方向に用いた。この内反足矯正具を、内反足患者の矯正が必要な片足に着用して、１時間歩行した状態で、内反矯正力、着用快適性、追従性の３項目を評価した。内反矯正力は着用者の歩行状態を専門的な第三者が観察することで評価し、着用快適性、追従性の評価は着用者による官能評価で実施し、いずれも◎、〇、△、×の４段階で評価した。

【0048】

Ａ．内反矯正力
◎：矯正具の未着用時よりも十分に内反が矯正され、着地際に足底の外縁と内縁とも地面につくように歩く。

【0049】

〇：歩行中に若干足の内反があるが、矯正具の未着用時よりも内反が矯正され、着地際に足底の外縁と内縁とも地面につくように歩く。

【0050】

△：歩行中に足の内反が一定量あるが、矯正具の未着用時よりも内反が改善されており、歩行が安定化している。

【0051】

×：矯正具の未着用時と内反状態に差が無く、足の内反が矯正できず、着地際に足底の外縁が地面につくように歩き、歩行が不安定となる。

【0052】

Ｂ．着用快適性
◎：歩行中の違和感がない。

【0053】

〇：歩行中の違和感がわずかにある。

【0054】

△：歩行中の違和感が多少あるが着用継続は可能。

【0055】

×：歩行中の違和感があり、着用を継続できない。

【0056】

なお、△以下の場合は違和感の詳細も併記した。

【0057】

Ｃ．追従性
◎：歩行の動作に十分に追従している。

【0058】

〇：歩行の動作に概ね追従している。

【0059】

△：歩行の動作に追従しているが、多少追従できない時がある。

【0060】

×：歩行の動作に追従できていない。

【0061】

（実施例１）
芯成分としてポリエチレンテレフタレート、鞘成分としてポリ（ブチレングリコール／ポリテトラメチレンエーテルグリコール）テレフタレート（東レ・デュポン製“ハイトレル“（登録商標））を使用し、その断面積比率が芯：鞘＝１０：９０である２２００ｄｔｅｘの芯鞘型モノフィラメントを経糸として用い、非弾性糸の緯糸として１６７０ｄｔｅｘ－１４４フィラメントのポリエチレンテレフタレート（東レ製高強力ポリエスエル）繊維を７０Ｔ／ｍの甘撚を掛けた糸を用いた。更に絡み糸として２２０ｄｔｅｘ－７２フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維を用いて、ニードル織機にて、経糸密度３０本／２．５４ｃｍ、緯密度４２本／２．５４ｃｍで、緯糸の一端が折り返されており、他方の端部が絡み糸によって編み込まれている２／２ツイル織物を作製した。得られた織物を糸同士が融着しない条件、すなわち１７０℃の温度で２分間熱処理を行い、続けて連続精練機にて精練することで表１に示す性量の織物とした。また、得られた織物の物性及び着用評価結果を表１に示す。身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0062】

（実施例２）
織機の設定を変更し、織物の仕上がり幅を５０ｍｍから３０ｍｍに変更した以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。着用快適性がやや劣るが、身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0063】

（実施例３）
織機の設定を変更し、織物の仕上がり幅を５０ｍｍから２００ｍｍに変更した以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。着用快適性がやや劣るが、身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0064】

（実施例４）
絡み糸として、３６０ｄｔｅｘ－７２フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維を用いたこと以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。端部にパッカリングが確認されるものの、身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0065】

（実施例５）
実施例１の経糸を２２００ｄｔｅｘ－７２フィラメントの芯鞘型マルチフィラメントとした以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0066】

（実施例６）
実施例１の経糸をポリ（ブチレングリコール／ポリテトラメチレンエーテルグリコール）テレフタレート（東レ・デュポン製“ハイトレル“（登録商標））のみからなる２２００ｄｔｅｘのモノフィラメントとした以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。矯正力がやや劣るが身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0067】

（実施例７）
実施例１の緯糸をポリ（ブチレングリコール／ポリテトラメチレンエーテルグリコール）テレフタレート（ 東レ・デュポン製“ハイトレル“（登録商標））（弾性糸）のみからなる１６７０ｄｔｅｘ－１４４フィラメントのマルチフィラメントとした以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。矯正力がやや劣るが身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0068】

（実施例８）
シャトル織機を用い、絡み糸を用いることなく製織し、緯糸の両端が折り返されている織物としたこと以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。製織速度が遅く生産性に劣るものの、身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0069】

（実施例９）
実施例１の経糸を１６７０ｄｔｅｘ－７２フィラメントの芯鞘型マルチフィラメントに変更し、緯糸を３５０ｄｔｅｘ－１４４フィラメントのポリエチレンテレフタレート（東レ製高強力ポリエスエル）繊維を１５０Ｔ／ｍの甘撚を掛けた糸に変更し、生機密度を経糸密度３４本／２．５４ｃｍ、緯密度９２本／２．５４ｃｍとした以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。矯正力、着用快適性にやや劣るが身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0070】

（実施例１０）
実施例１の経糸を３０００ｄｔｅｘの芯鞘型マルチフィラメントに変更し、緯糸を２５００ｄｔｅｘ－１４４フィラメントのポリエチレンテレフタレート（東レ製高強力ポリエスエル）繊維を５７Ｔ／ｍの甘撚を掛けた糸に変更し、生機密度を経糸密度２６本／２．５４ｃｍ、緯密度３４本／２．５４ｃｍとした以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表１に示す。ごわつきがあり着用快適性にやや劣るが身体の矯正に好適に用いられるものであった。

【0071】

（比較例１）
芯成分としてポリエチレンテレフタレート、鞘成分としてポリ（ブチレングリコール／ポリテトラメチレンエーテルグリコール）テレフタレート（東レ・デュポン製“ハイトレル“（登録商標））を使用し、その断面積比率が芯：鞘＝１０：９０である２２００ｄｔｅｘの芯鞘型モノフィラメントを用い、丸編み機で天竺組織の編み物を作製した。加工は実施例１と同様の方法で実施し編み物を得た。得られた編み物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。生地の伸長率が高く、矯正力に劣るものであった。

【0072】

（比較例２）
経糸に２２００ｄｔｅｘのポリエチレンテレフタレートモノフィラメントを用いたこと以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。織物の伸長特性が低く、着用快適性や追従性に劣るものであった。

【0073】

（比較例３）
レピア織機を用い、仕上がり品の両端を熱溶断することで幅を調整したこと以外は実施例１と同様の方法織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。織物端部にバリが発生し、皮膚と擦れ痛みが生じて着用快適性に劣るものであった。

【0074】

（比較例４）
織機の設定を変更し、織物の仕上がり幅を５０ｍｍから２５ｍｍに変更した以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。織物が皮膚に食込み、着用快適性に劣るものであった。

【0075】

（比較例５）
織機の設定を変更し、織物の仕上がり幅を５０ｍｍから２０５ｍｍに変更した以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。織物がごわつき、着用快適性に劣るものであった。

【0076】

（比較例６）
経糸に２２００ｄｔｅｘ－１４フィラメントのポリウレタン単独成分からなるマルチフィラメントを用いたこと以外は実施例１と同様の方法で織物を得た。得られた織物の性量、物性及び着用評価結果を表２に示す。生地の伸長率が高く、矯正力に劣るものであった。

【0077】

【表1】

【0078】

【表2】

【符号の説明】

【0079】

１ アンカー部材Ａ
２ 矯正部材
３ アンカー部材Ｂ
４ 矯正方向

【図1】