(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024180793
(43)【公開日】2024-12-27
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/78 20230101AFI20241220BHJP
C02F 1/48 20230101ALI20241220BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241220BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241220BHJP
【FI】
C02F1/78
C02F1/48 B
C02F1/28 D
C02F1/44 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024182584
(22)【出願日】2024-10-18
(62)【分割の表示】P 2024533919の分割
【原出願日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2023092028
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲文
(72)【発明者】
【氏名】中川 彰利
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(57)【要約】
【課題】原水を水処理に供してから比較的短時間で再利用水を得ることを課題とする。また、水処理の過程で被処理物質が濃縮された排液をエネルギー効率良く処理することを課題とする。
【解決手段】水処理装置1は、被ろ過水貯留槽2、オゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7を備える。被ろ過水貯留槽2は、ろ過に供される被処理物質を含有する被ろ過水を貯留する。オゾン水混合槽6は、前記ろ過により前記被ろ過水から分離された前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をオゾン水と混合する。パルスプラズマ放電槽7は、前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマを供する。パルスプラズマ放電槽7は、前記混合液の液面近傍の気相に配置される一端から前記パルスプラズマを放電する電極を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過に供される被処理物質を含有する被ろ過水を貯留する被ろ過水貯留槽と、
前記ろ過により前記被ろ過水から分離された前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をオゾン水と混合するオゾン水混合槽と、
前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマを供するパルスプラズマ放電槽と、
を備え、
前記パルスプラズマ放電槽は、前記混合液の液面近傍の気相に配置される一端から前記パルスプラズマを放電する電極を有することを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
ヒドロキシラジカルの酸化ポテンシャルよりも高い結合エネルギーを有する前記被処理物質の元素間結合を分解する前記パルスプラズマを発生可能な電源を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記元素間結合は、炭素元素とフッ素元素の結合であることを特徴とする請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記被処理物質濃縮排液は、前記被ろ過水貯留槽に添加された吸着剤の再生の過程で生成されることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記吸着剤は、活性炭及び/又はイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記混合液は、曝気されることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項7】
被処理物質を含有する被ろ過水をろ過に供して当該被ろ過水から当該被処理物質を分離する工程と、
前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をオゾン水と混合する工程と、
前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマを供する工程と、
を有し、
前記パルスプラズマを供する工程は、前記混合液の液面近傍の気相に配置される電極の一端から前記パルスプラズマを放電することを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に含まれる有機物の分解を行う水処理技術、特に難分解性の有機物の分解を行う水処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業排水や湖沼の水処理や飲用水、工業用水の確保のために水質を浄化するために使用する液面プラズマ放電が利用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の水処理装置は、被処理水が導入される反応槽内の液相に陰極を配置する一方で当該反応槽内の気相に陽極を配して当該陰極と当該陽極との間でプラズマ放電をさせることで、当該被処理水内の有機物や化学物質の分解等の浄化処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-97975号公報
【特許文献2】特開2005-111296号公報
【特許文献3】特許第6702514号公報
【特許文献4】特許第4296393号公報
【特許文献5】特開2006-297240号公報
【特許文献6】特開2018-38955号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】飯島崇文、牧瀬竜太郎、村田隆昭「難分解性有害有機物処理への適用を目指すOHラジカル発生装置」東芝レビュー Vol.61 No.8(2006)
【非特許文献2】S. Horikoshi, S. Sato, M. Abe and N. Serpone, A novel liquid plasma AOP device integrating microwaves and ultrasounds and its evaluation in defluorinating perfluorooctanoic acid in aqueous media, Ultrason. Sonochem., 2011, 18, 938-942
【発明の概要】
【0006】
特許文献1には湖沼水の浄化に適用した前記水処理装置の実施例が記載されている。当該実施例は、原水を濾過機、曝気槽、吸着濾過槽(木炭槽及びゼオライト槽)を備えた前処理装置に供して得られた前処理水を前記水処理装置に供給する。
【0007】
しかしながら、原水を前処理装置で処理した後に水処理装置で処理する必要があるため、原水を前記前処理装置及び前記水処理装置を有する水処理システムに供して再利用水として得られるまでの時間(滞留時間)が長時間となる。工場廃水を前記水処理システムに供して工業用水として再生する時間は短時間であることが望ましい。
【0008】
また、原水中の有機物や化学物質(以下、被処理物質とも称する)を濃縮する工程がないため、前処理装置により得られる前処理水の被処理物質の濃度が非常に薄くなる。濃度が薄い被処理物質に対してオゾンやプラズマ放電など大きなエネルギーをかけて処理するのは非効率である。
【0009】
さらに、前処理装置、特に前記吸着濾過槽にて吸着された被処理物質をどのように処理するかが検討されていない。前記吸着濾過槽は連続使用の中で徐々に濾過能力が低下する。濾過能力が一定水準まで低下すると、吸着濾過槽の濾材は表洗、逆洗など、水や酸又は塩基を含む水による洗浄を受け、濾過能力の回復が図られる。そして、濾材を洗浄した水は原水から分離された被処理物質を高い濃度で含むので当該物質の無害化が必要となる。
【0010】
本発明は、以上のことを鑑み、原水を水処理に供してから比較的短時間で再利用水を得ることを課題とする。また、水処理の過程で被処理物質が濃縮された排液をエネルギー効率良く処理することを課題とする。
【0011】
そこで、本発明の一態様である水処理装置は、ろ過に供される被処理物質を含有する被ろ過水を貯留する被ろ過水貯留槽と、前記ろ過により前記被ろ過水から分離された前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をオゾン水と混合するオゾン水混合槽と、前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマを供するパルスプラズマ放電槽と、を備え、前記パルスプラズマ放電槽は、前記混合液の液面近傍の気相に配置される一端から前記パルスプラズマを放電する電極を有する。
【0012】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、ヒドロキシラジカルの酸化ポテンシャルよりも高い結合エネルギーを有する前記被処理物質の元素間結合を分解する前記パルスプラズマを発生可能な電源を備える。
【0013】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、前記元素間結合は、炭素元素とフッ素元素の結合であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、前記被処理物質濃縮排液は、前記被ろ過水貯留槽に添加された吸着剤の再生の過程で生成される。
【0015】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、前記混合液は、曝気される。
【0016】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、前記吸着剤は、活性炭及び/又はイオン交換樹脂である。
【0017】
本発明の一態様は、前記水処理装置において、前記被処理物質濃縮排液は、活性汚泥を滞留させた前記被ろ過水貯留槽から前記被ろ過水を第一ろ過膜によるろ過に供して第一ろ過水を分離し、さらに、この第一ろ過水を当該第一ろ過膜よりも小さな孔径の第二ろ過膜によるろ過に供して生成される。
【0018】
本発明の一態様である水処理方法は、被処理物質を含有する被ろ過水をろ過に供して当該被ろ過水から当該被処理物質を分離する工程と、前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をオゾン水と混合する工程と、前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマを供する工程と、を有し、前記パルスプラズマを供する工程は、前記混合液の液面近傍の気相に配置される電極の一端から前記パルスプラズマを放電する。
【0019】
以上の本発明によれば原水を水処理に供してから比較的短時間で再利用水を得ることができる。また、水処理の過程で被処理物質が濃縮された排液をエネルギー効率良く処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一態様である実施形態1の水処理装置の概略構成図。
【
図2】本発明の一態様である実施形態2の水処理装置の概略構成図。
【
図3】本発明の一態様である実施形態3の水処理装置の概略構成図。
【
図4】各種遊離基の酸化ポテンシャルと各種元素間の結合エネルギーの関係図。
【
図5】(a)有機フッ素化合物の一例であるパーフルオロオクタンカルボン酸の構造式、(b)パーフルオロオクタンカルボン酸の分解過程の説明図。
【
図6】(a)小規模施設に適用される本発明の態様例、(b)中規模施設に適用される本発明の態様例、(c)大規模施設に適用される本発明の態様例。
【
図7】本発明のパルスプラズマ放電処理プロセスの事前試験のフロー図。
【
図8】本発明の実施例に係る水処理装置の概略構成図。
【
図9】事前試験でのPFOS含有水のパルスプラズマ放電処理による水質評価点(1)(2)(3)のPFOS濃度、フッ化物イオン濃度及びPFOS低減率。
【
図10】事前試験でのPFOA含有水のパルスプラズマ放電処理による水質評価点(1)(2)(3)のPFOA濃度、フッ化物イオン濃度及びPFOA低減率。
【
図11】被処理水をオゾン水混合処理プロセス及びパルスプラズマ放電処理プロセスで処理した際の水質評価点(1)(2)(3)のPFOSとPFOAの合算総量の低減率、PFOSとPFOAの合算総量、フッ化物イオンの総量。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本発明の水処理方法及び水処理装置は、原水の固液分離により予め被処理物質を濃縮した前処理水(以下、被処理物質濃縮排液)をオゾン水と混合した後、さらに、パルスプラズマに暴露することで、被処理物質をエネルギー効率よく分解する。本発明は、一般的な水処理で分解される有機物のみならず、従来の水処理装置では分解が困難であった有機フッ素化合物(以下、PFAS)等の難分解性有機物も分解できる。
【0023】
[実施形態1]
図1に示された本発明の実施形態1における水処理装置1は、被ろ過水貯留槽2、吸着剤添加手段3、吸着剤移送手段4、吸着剤再生装置5、オゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7を備える。
【0024】
被ろ過水貯留槽2は、ろ過に供される被処理物質を含有する被ろ過水を貯留する。前記被ろ過水には膜ろ過装置20が浸漬される。さらに、前記被ろ過水には吸着剤として活性炭が添加される。膜ろ過装置20は、前記被ろ過水を吸引して当該被ろ過水から前記被処理物質を含有しないろ過水を分離するろ過膜21を備える。ろ過膜21としてはセラミック膜が好ましい。このセラミック膜としては例えばアルミナ系(アルミナを主成分)のセラミックからなるものが挙げられる。前記ろ過水は図示省略の処理設備に供される。前記被処理物質は前記添加された活性炭に吸着される。
【0025】
吸着剤添加手段3は、被ろ過水貯留槽2内の前記被ろ過水に前記活性炭を添加する。吸着剤添加手段3としては排水処理技術において利用される粉体フィーダー等の周知の粉体供給装置が適用される。
【0026】
吸着剤移送手段4は、被処理物質を吸着した活性炭を被ろ過水貯留槽2から吸着剤再生装置5に移送する。吸着剤移送手段4としては被ろ過水貯留槽2から前記活性炭を含んだ液相を吸着剤再生装置5に移送するポンプが適用される。
【0027】
吸着剤再生装置5は、前記活性炭を含んだ液相から当該活性炭を分離して薬液処理により当該活性炭から前記被処理物質を脱離することで当該活性炭を再生する。前記活性炭の分離にはスクリーン装置等の排水処理技術において周知の分離装置が適用される。前記薬液処理としては前記活性炭を例えば特許文献2に記載のアルカリ及び酸の再生薬液と接触させる周知の薬液処理法が適用される。
【0028】
オゾン水混合槽6は、吸着剤再生装置5において前記活性炭から脱離された前記被処理物質を濃縮した被処理物質濃縮排液をバッチ式若しくは連続式にオゾン水と混合させることで当該被処理物質のC-F結合以外の元素間結合を分解する。
【0029】
前記オゾン水としては、オゾンガスを原料水に溶解させたものを適用できる。この溶解の方法は、既存のオゾン水生成方法を適用でき、例えば原料水とオゾンガスを気液混合器に供してオゾン水を生成する方法が挙げられる。
【0030】
前記原料水は、オゾンガスを溶解可能なものであれば適宜適用でき、例えば、純水、超純水等が挙げられる。必要に応じて周知の純水製造装置等により原料水の純水度を高めることも可能である。
【0031】
前記オゾンガスは、周知のオゾンガス生成装置により生成することができる。前記オゾンガス生成装置としては、例えば特許文献3に記載の明電舎製のピュアオゾンジェネレータが挙げられる。オゾンガスを前記ピュアオゾンジェネレータによって生成する場合、オゾン濃度50体積%以上、オゾン分圧30kPa(abs)以下のオゾンガスを前記気液混合器に供給できるため、高濃度(100ppm以上)のオゾン水を安全に生成できる。
【0032】
前記気液混合器としては、例えば、エジェクタ,アスピレータ,ジェットポンプ等が挙げられるが、これに限定されることなく、種々の態様を適用できる。
【0033】
前記気液混合器は、例えば、受容した原料水が流通する原料水流通路と、この原料水流通路に接続されて受容した前記オゾンガスを当該原料水流通路に導入するオゾンガス導入路と、を有する。
【0034】
前記オゾンガス導入路には、前記原料水流通路に流通する原料水の流量(流速)に応じてベルヌーイの定理による吸引圧が発生する。前記オゾンガス導入路には、前記原料水の飽和蒸気圧に応じた蒸気が発生する。
【0035】
前記原料水は水と同等の特性(飽和蒸気圧特性や水蒸気圧特性)を有するので、当該原料水と前記気液混合器のオゾンガスの受容圧力とに基づき、前記オゾンガス導入路の蒸気圧が当該受容圧力よりも小さくなる原料水温度範囲となる吸引可能範囲が導き出される。前記吸引可能範囲は、原料水に対する気体の一般的の溶解特性(原料水の温度が低くなるに連れて溶解度が向上する傾向)に応じて適宜(例えば特許文献4に記載の25℃以下)に設定される。したがって、前記原料水の温度が前記吸引可能範囲から外れる場合、前記気液混合器に供される前の当該原料水の温度調整または当該原料水が導入された当該気液混合器の温度調整により当該範囲に調整される。
【0036】
前記気液混合器にて生成されたオゾン水は、オゾン水混合槽6に供する前に、オゾン濃度を安定化させる濃度調整ガスを加えてもよく、前記気液混合器を備えたオゾン水生成部に循環供給若しくは一時的に貯留してもよい。また、濃度調整ガスにより高濃度化を図る場合には、例えばオゾン水に炭酸ガス等を注入して当該オゾン水を酸性化させる方法が挙げられる。
【0037】
以上のオゾン水生成方法によれば、100ppm以上(例えば300~400ppm)の高濃度のオゾン水を安全に生成できる。
【0038】
パルスプラズマ放電槽7において、オゾン水混合槽6から供された前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水の混合液にパルスプラズマが供される。以下、前記被処理物質濃縮排液や前記混合液といった被処理水にパルスプラズマを供することを、「パルスプラズマ放電処理」や「パルス放電処理」とも称する。
【0039】
前記パルスプラズマを供する方式としては、例えば、前記混合液に浸漬される一対の電極の間にパルス電圧を印加することでパルスプラズマを当該混合液に放電する。
【0040】
前記パルスプラズマを供する方式の他の態様としては、パルスプラズマ放電槽7内の前記混合液の安定した液面の近傍における気相に配置される一方の電極と前記混合液に浸漬される他方の電極との間にパルス電圧を印加することでパルスプラズマを当該混合液に放電する。
【0041】
前記他方の電極は
図8に示されたパルスプラズマ放電槽7の態様としてもよい。パルスプラズマ放電槽7において前記一方の電極としての電極72と前記他方の電極として機能する導電性のパルスプラズマ放電槽7との間にパルス電圧が印加されて液面近傍の電極72の一端から放電されたパルスプラズマは当該液面近傍の気相を介して前記混合液に供される。
【0042】
前記パルス電圧を印加するための電源は、ヒドロキシラジカル(以下、・OH)の酸化ポテンシャルよりも高い結合エネルギーを有する前記被処理物質の元素間結合(例えば炭素元素とフッ素元素の結合)を分解する前記パルスプラズマを発生可能とする。前記電極及び前記電源としては例えば特許文献5に記載の電極及び電源装置が適用される。
【0043】
また、パルスプラズマ放電槽7内の前記混合液は
図8に示したように曝気装置71により空気曝気するとよい。この空気曝気によりパルスプラズマの放電が安定化し、PFOS及びPFOAの低減率の向上を図ることができる。
【0044】
図1を参照して実施形態1の水処理装置1の作用及び動作例について説明する。
【0045】
被ろ過水貯留槽2に導入された被ろ過水には吸着剤添加手段3から前記活性炭が添加される。前記被ろ過水の被処理物質は前記活性炭により吸着される。前記被ろ過水に浸漬された膜ろ過装置20のろ過膜21は前記活性炭を阻止及び捕捉するのに十分小さな細孔を有するので、ろ過膜21により前記活性炭が除去される。前記被処理物質の吸着及び前記活性炭の分離については大規模な水処理にも適用可能であり、ろ過膜21によるろ過水を大量且つ迅速に得ることができる。前記被処理物質を吸着した活性炭を含む液相は吸着剤移送手段4により吸着剤再生装置5に移送される。一方、ろ過膜21により分離された前記被処理物質を含まないろ過水は系外に移送される。
【0046】
吸着剤再生装置5では、前記スクリーン等により前記液相から分離された活性炭が前記再生薬液と接触することで当該活性炭から前記被処理物質が脱離して当該活性炭が再生される。容易に分解可能な有機物は前記再生の過程で分解されることがあるが、前記被処理物質がPFAS等の難分解性有機物である場合には分解されることなく前記再生の排液に高濃度に濃縮される。この被処理物質濃縮排液はオゾン水混合槽6に供される。
【0047】
オゾン水混合槽6では、前記被処理物質濃縮排液と前記オゾン水との接触により前記被処理物質のC-F以外の元素間結合が分解される。即ち、
図4(非特許文献1)に示された・OHの酸化ポテンシャルよりも低い結合エネルギーを有する前記元素間結合(例えば、C-C結合、C=O結合、C=C結合、C-H結合)が前記オゾン水の活性種(・OH、・O、O
3)により酸化分解される。例えば、前記被処理物質が
図5(a)に示されたPFASの一種であるPFOA(パーフルオロオクタンカルボン酸)の場合(非特許文献2)、前記活性種の酸化力により破線で囲まれた直鎖炭素末端の脱炭酸及び酸化を繰り返して分解される。しかし、C-F結合を含むPFOA又はその分解物は前記活性種の酸化力では完全に分解されず、これらを含む液相はパルスプラズマ放電槽7に供される。
【0048】
パルスプラズマ放電槽7では、オゾン水混合槽6から導入された前記混合液が空気曝気される。前記混合液は、前記パルス電圧の印加により発生したパルスプラズマにより、・OHの酸化ポテンシャルよりも高い結合エネルギーを有する前記被処理物質の元素間結合が分解される。例えば、
図5(b)のようにオゾン水混合槽6から供された液相に含まれるC-F結合を含むPFOAの分解物が前記パルスプラズマによりフッ素イオンと二酸化炭素ガスまでに分解される。
【0049】
前記パルスプラズマは、C-F結合を分解可能だがC-F結合を選択的に分解するわけではない。そのため、例えばPFOAのようにC-F結合以外にC-C結合、C=O結合等を有する物質を含む被処理水(即ち、被処理物質濃縮排液)にパルスプラズマを生成した場合、そのエネルギーがC-C結合やC=O結合等の分解にも費やされ、C-F結合の分解に多くのエネルギーと時間を要する可能性がある。
【0050】
そこで、本実施形態のように前記有機物の元素間結合のうちオゾン水の酸化ポテンシャルよりも低い元素間結合を当該オゾン水により分解し、当該酸化ポテンシャルよりも高い元素間結合をパルスプラズマにより分解する。これにより、難分解性有機物がエネルギー効率よく分解される。パルスプラズマ放電処理後の処理水は前記難分解性有機物の分解により無害化するので排水の再利用が可能となる。
【0051】
以上の本実施形態によれば、活性炭とセラミック膜を組み合わせた最初のろ過で再利用できる水が生成できるため、系内での滞留時間が従来(特許文献1)よりも短縮化できる。また、被処理物質を濃縮後にオゾン水及びパルスプラズマにより分解処理するためエネルギー効率が向上する。さらに、前記被処理物質を吸着した物質(活性炭)の再利用が可能となる。そして、ヒドロキシラジカルの酸化ポテンシャルよりも高い結合エネルギーを有する被処理物質の元素間結合の分解も可能となり、通常の水処理では困難なPFAS等の難分解性有機物の分解及び無害化を達成できる。
【0052】
[実施形態2]
図2に示された実施形態2の水処理装置1は活性炭に代えてイオン交換樹脂を吸着剤として用いること以外は実施形態1と同態様となる。前記イオン交換樹脂としては例えば特許文献6に記載の周知のイオン交換樹脂が適用され、また、当該イオン交換樹脂の再生には同特許文献に記載の酸やアルカリといった再生剤を含む再生液が適用される。以上の本実施形態も実施形態1と同様の効果が得られることは明らかである。尚、イオン交換樹脂は実施形態1の活性炭と共に併用してもよい。
【0053】
[実施形態3]
図3に示された本発明の実施形態3の水処理装置1は、膜分離活性汚泥法(以下、MBR)を採用し、吸着剤の代わりに活性汚泥が被ろ過水貯留槽2に添加され且つ吸着剤再生装置5の代わりに逆浸透膜ろ過機8を有すること以外は実施形態1,2と同態様となる。
【0054】
被処理物質を逆浸透膜ろ過機8により濃縮する場合、被ろ過水貯留槽2は逆浸透膜ろ過機8の前処理となる。そのため、本実施形態の被ろ過水貯留槽2においては前記吸着剤の投入は不要となる。通常の生物処理で分解可能な有機物を被ろ過水貯留槽2内の活性汚泥により処理するMBRは後段の処理(逆浸透膜ろ過機8、オゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7)を効率化する観点から有効である。
【0055】
同図を参照して実施形態3の水処理装置1の作用及び動作例について説明する。
【0056】
被ろ過水貯留槽2に導入された被ろ過水は曝気攪拌される。被ろ過水貯留槽2内の液相中の前記通常の生物処理で分解可能な有機物は前記活性汚泥により分解される。本実施形態の第一ろ過膜に相当する被ろ過水貯留槽2内の膜ろ過装置20のろ過膜21は活性汚泥を阻止及び捕捉するのに十分小さな細孔を有するので、ろ過膜21により当該活性汚泥と第一ろ過水に分離される。前記第一ろ過水はポンプ圧送により逆浸透膜ろ過機8に供給される。
【0057】
逆浸透膜ろ過機8では、本実施形態の第二ろ過膜に相当する逆浸透膜(以下、RO膜)81により前記第一ろ過水が前記被処理物質(難分解性有機物)を含有しない第二ろ過水と当該被処理物質が濃縮された被処理物質濃縮排液とに分離される。前記第一ろ過水は、RO膜81の疎外となる固形物や容易に分解される有機物を含まないが、PFAS等の前記被処理物質は未だ含有する。RO膜81は、前記被処理物質を阻止及び捕捉するのに十分な、ろ過膜21よりも小さな孔径の細孔を有するので、前記第一ろ過水からは当該被処理物質が除去される。前記被処理物質濃縮排液は実施形態1,2と同様にオゾン水混合槽6、パルスプラズマ放電槽7に順次供される。一方、前記第二ろ過水は系外に移送される。
【0058】
本実施形態によっても実施形態1,2と同様の効果が得られることは明らかである。
【0059】
[本発明の他の態様例]
本発明は、上述の実施形態に限定することなく
図6に例示したような各種の業界やサービス形態に応じて適用でき、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0060】
同図(a)の水処理装置1は、予め採取された前記被処理物質濃縮排液が供される例えば処理水量100L/hのバッチ式のオゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7を備える。本態様の水処理装置1は、ポンプ等の動力は非搭載であり、研究室内等の小規模施設に組み付けられる。
【0061】
同図(b)の水処理装置1は、例えば処理水量100-1000L/hのバッチ式のオゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7を備え、既存の中規模施設に設置可能であり、ポンプ等の動力も搭載してスタンドアロンで動作可能とする。
【0062】
同図(c)の水処理装置1は、例えば処理水量1000L/h以上のバッチ式若しくは連続式のオゾン水混合槽6及びパルスプラズマ放電槽7を備え、既存若しくは新設の浄水場9等の全量処理を想定した大規模施設に適用される。本態様のオゾン水混合槽6には例えば浄水場9にて前記吸着剤及び膜ろ過により予め生成された被処理物質濃縮排液が供される。
【0063】
尚、本発明の水処理装置の被ろ過水貯留槽に適用されるろ過膜は、実施形態1~3の浸漬型のろ過膜に限定することなく、槽外型のろ過膜も適用できる。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0065】
本発明の実施例に先立ち、PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)含有水及びPFOA含有水を被処理水としてパルス放電処理の事前試験を実施した。
図7を参照して事前試験の概要について説明する。
【0066】
PFOS含有水はPFOSを水道水に溶解してPFOSの濃度が7,200μg/Lに調製されたものである。同等にPFOA含有水はPFOAを水道水に溶解してPFOAの濃度が11,000μg/Lに調製されたものである。
【0067】
図7に示された「曝気なし」及び「曝気あり」のパルスプラズマ放電槽7は
図8のパルスプラズマ放電槽7のように曝気装置71、電極72及びパルス電源73を備える。パルスプラズマ放電槽7の槽本体部70はGND電極として機能する。曝気装置71は、「曝気あり」のパルスプラズマ放電槽7とする場合に大気中から空気を導入するブロア74と、このブロア74に接続されてパルスプラズマ放電槽7内の被処理水を空気曝気する散気管75を備える。電極72は、高電圧出力用の丸棒の電極からなり、先端がパルスプラズマ放電槽7内の液面近傍の気相に配置され、パルス電源73からのパルス電圧の印加によりパルスプラズマ放電槽7との間でパルスプラズマを発生させる。前記パルスプラズマは前記液面近傍の気相を介して前記混合液に供されて当該混合液の液面に沿って流れてパルスプラズマ放電槽7を介してグラウンド(アース)に流れる。
【0068】
パルスプラズマ放電槽7の槽本体部70は内径100mm、内容量700mLのステンレス製の円筒型容器に構成した。槽本体部70内には前記被処理水を300mL投入し、槽本体部70中央の液面近傍(液面から1mmの高さ)の気相にステンレス製3mmφの丸棒の電極72を配置した。そして、パルス電源73を用いて電極72,槽本体部70間に高電圧パルスを印加してパルスプラズマ放電を発生させた。「曝気あり」のパルスプラズマ放電槽7では、槽本体部70内の被処理水の攪拌、気泡内放電を図るために空気曝気を併用した。被処理水のパルスプラズマ放電の条件を以下の表1に示した。
【0069】
【0070】
本事前試験でのPFOS含有水のパルス放電処理によるPFOS濃度、フッ化物イオン濃度及びPFOS低減率を
図9に示した。また、PFOA含有水のパルス放電処理によるPFOS濃度、フッ化物イオン濃度及びPFOS低減率を
図10に示した。
【0071】
図9の横軸に示された
図7の水質評価点(1)はPFOS含有水である。
図10の横軸に示された
図7の水質評価点(1)はPFOA含有水である。
図9,10において、水質評価点(2)の処理水1は「曝気なし」のパルスプラズマ放電の処理水であり、水質評価点(3)の処理水2は「曝気あり」のパルスプラズマ放電の処理水である。
【0072】
図9の結果のように水質評価点(3)は水質評価点(2)と比べてPFOS濃度が低くなり、フッ化物イオン濃度は高くなった。「曝気あり」のパルスプラズマ放電処理によるPFOS低減率は「曝気なし」のパルス放電処理と比べて40%高くなる結果となった。
【0073】
図10の結果のように水質評価点(3)は水質評価点(2)と比べてPFOA濃度が低くなり、フッ化物イオン濃度は高くなった。「曝気あり」のパルス放電処理によるPFOA低減率は「曝気なし」のパルス放電処理と比べて7%高くなる結果となった。
【0074】
以上の「曝気なし」「曝気あり」のパルス放電処理の事前試験により、空気曝気を行うことでパルスプラズマ放電が安定すると共にPFOSとPFOAの低減率が高くなる結果が得られた。また、パルス放電処理にあたり、高電圧側の電極の先端をパルスプラズマ放電槽7内の液面近傍の気相に配置することで、パルスプラズマ放電槽7内の液面に対して安定したパルスストリーマ放電が行えることが実験的に明らかとなった。以下に述べる実施例1は上述の事前試験の結果に基づくものである。
【0075】
[実施例1]
実施例1の被処理水として、PFOS及びPFOAを含有した被処理水(PFOSの濃度は3,300μg/L、PFOAの濃度は5,300μg/L、PFOSとPFOAの合算濃度は8,600μg/L)を使用した。この被処理水は事前試験と同様に試薬グレードのPFOS及びPFOAを水道水に溶解して調製されたものである。そして、この被処理水を
図8に示されたオゾン水混合槽6にてオゾン水混合処理した後にパルスプラズマ放電槽7にてパルスプラズマ放電処理した処理水を実施例1の処理水とした。
【0076】
(オゾン水混合処理プロセス)
オゾン水混合処理プロセスは
図8に示されたオゾン水混合槽6にて実施される。被処理水と高濃度オゾン水をオゾン水混合槽6に供給して混合させた。本処理は、バッチ方式とし、高濃度オゾン水に溶存するオゾン、さらにはこのオゾンが分解する際に生成する活性酸化種による被処理水中のPFAS含む有機物の酸化分解を図った。前述のようにPFASの有するC-F結合の分解はオゾン及び活性酸化種の酸化ポテンシャルでは困難と予想されるので、有機物のC-C、C=C等の結合を切断、分解、若しくは当該有機物の無機化を期待した。高濃度オゾン水は、前記ピュアオゾンジェネレータで製造したものを使用した。本実施例のオゾン水混合処理プロセスの条件を以下の表2に示した。
【0077】
【0078】
(パルス放電処理プロセス)
パルス放電処理プロセスは、
図8のパルスプラズマ放電槽7にて実施される。パルスプラズマ放電槽7にはオゾン水混合処理プロセス(オゾン水混合槽6)の処理水(被処理水と高濃度オゾンの混合液)が供給される。曝気装置71は散気管75を介したブロア74により前記混合液を空気曝気する。電極72は、先端がパルスプラズマ放電槽7内の液面近傍の気相に配置され、パルス電源73からのパルス電圧の印加によりパルスプラズマ放電槽7との間でパルスプラズマを発生させる。前記パルスプラズマは前記液面近傍の気相を介して前記混合液に供されて当該混合液の液面に沿って流れてパルスプラズマ放電槽7を介してグラウンド(アース)に流れる。
【0079】
オゾン水混合処理プロセスの処理水は、パルス放電処理プロセスの直前でも薄紫色を呈しており、溶存オゾンが存在する状態でパルス放電処理が実施された。本実施例は、パルスプラズマ放電槽7内の混合液を曝気装置71により空気曝気をしながらパルス放電処理を実施した。
【0080】
本実施例のパルス放電処理プロセスの条件は表1に示した条件と同様である。
【0081】
図11は、被処理水をオゾン水混合処理プロセス及びパルス放電処理プロセスで処理した際の
図8の水質評価点(1)(2)(3)におけるPFOSとPFOAの合算総量の低減率、PFOSとPFOAの合算総量、フッ化物イオンの総量を示す。
【0082】
図8において、水質評価点(1)はオゾン水混合処理プロセス(オゾン水混合槽6)に供する前の被処理水である。水質評価点(2)は前記オゾン水混合処理プロセスの処理水である。水質評価点(3)はパルス放電処理プロセス(パルスプラズマ放電槽7)の処理水である。
【0083】
前述のようにオゾン水接触処理プロセスでは、被処理水と高濃度オゾン水を1:1で混合しているため、希釈効果により原水中の物質の濃度は2分の1となる。本実施例でのオゾンによる前記被処理水の含有物質の酸化分解及びパルスプラズマ放電による当該含有物質の分解を評価するために、水質評価点(1)(2)(3)の含有物質は濃度ではなく総量で表示及び評価した。
【0084】
図11の結果のように、オゾン水接触処理とパルス放電処理の組み合わせによりPFOSとPFOAの合算総量の低減率が43%となった。また、パルス放電処理後にフッ化物イオン量が増加した。フッ化物イオンの増加は、被処理水に含まれるPFOS及びPFOAのC-F結合がパルス放電処理により切断された結果であると推測される。尚、オゾン水接触処理では、フッ化物イオンは増加しなかったため、PFOS及びPFOAのC-F結合の切断には、オゾン水接触処理よりもパルス放電処理の効果が高いと考えられる。
【0085】
以上の実施例1の結果から明らかなようにオゾン水接触処理とパルス放電処理の組合せはPFOS及びPFOAの除去に有効であることが確認された。
【0086】
(比較例1)
パルス放電処理前のオゾン水接触処理の有無によるPFOSの低減効果を検証するため、比較例1として、オゾン水混合槽6にて高濃度オゾン水の代わりに純水を被処理水と混合処理した後にパルスプラズマ放電槽7でのパルス放電処理を行った。被処理水と純水との混合比率(容量比)は被処理水:純水=1:1とした。
【0087】
実施例1及び比較例1のパルス放電処理プロセスの処理水のPFOS低減率、各処理液のPFOS量、フッ化物イオン量を以下の表3に示した。
【0088】
【0089】
表3の結果から、比較例1のPFOS低減率は56%であるのに対して実施例1のPFOS低減率は74%となり、パルス放電処理の前にオゾン水接触処理を行うことでパルス放電処理におけるPFOSの分解除去が促進されることが確認された。