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特開2024-18080フィルムの製造方法、および被膜除去装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018080
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法、および被膜除去装置
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/00 20060101AFI20240201BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B29B17/00
C08J7/00 306
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121167
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八尋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 空
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
【テーマコード(参考)】
4F073
4F401
【Fターム(参考)】
4F073AA23
4F073BA23
4F073BB01
4F073CA01
4F073CA21
4F073HA11
4F073HA12
4F401AA15
4F401AA22
4F401AA40
4F401AB10
4F401AD01
4F401BA06
4F401CA41
4F401CB40
4F401EA46
4F401EA79
(57)【要約】
【課題】本発明は、積層体から高効率に被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法および被膜除去装置を提供することを課題とする。
【解決手段】フィルムの少なくとも片面に被膜を有する積層体から前記被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法であって、当該工程において、水を主成分とする洗浄液を前記被膜に付与する洗浄液付与工程と、プラズマを利用した表面処理を前記被膜に施す表面処理工程とを有し、前記被膜が水溶性樹脂を含む層Xを含有するフィルムの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの少なくとも片面に被膜を有する積層体から前記被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法であって、当該工程において、水を主成分とする洗浄液を前記被膜に付与する洗浄液付与工程と、プラズマを利用した表面処理を前記被膜に施す表面処理工程とを有し、前記被膜が水溶性樹脂を含む層Xを含有するフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記洗浄液付与工程の後に、前記表面処理工程を有する、請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記水溶性樹脂がビニルアルコール残基を有する樹脂である請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記層Xの厚みが10nm以上1000nm以下であることを特徴する請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記表面処理が大気圧プラズマ処理である請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記大気圧プラズマ処理の放電処理強度が、100W・min/m以上である請求項5に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
水溶性樹脂を含む被膜を少なくとも片面に有する積層体から前記被膜を剥離除去するための装置であって、前記被膜に洗浄液を付与するための洗浄液付与機構と、前記洗浄液付与機構の後に前記被膜にプラズマを利用した表面処理するため表面処理機構とを備えた、被膜除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体から被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法および被膜除去装置に関し、さらに詳細には、被膜除去性と生産性を両立するフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは様々な分野に利用されている一方、マイクロプラスチックなど海洋汚染の原因物とされ、プラスチックによる環境負荷低減が急務となっている。また、近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスが急激に増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために重要な積層セラミックコンデンサ(MLCC)の数も爆発的に増加している。MLCCの一般的な製造方法は、プラスチックフィルムを基材とし、該基材上に離型層を設けた離型フィルム上に、セラミックグリーンシートと電極を積層して乾燥して固めた後、該積層体を離型フィルムから剥離し複数層を積層し、焼成するというものである。この工程において、離型フィルムは、工程中で不要物として廃棄されることとなる。
【0003】
すなわち、近年のMLCC数量の爆発的増加で不要物として廃棄される離型フィルムが増えることによる環境への負荷が課題となりつつある。MLCCの製造工程で用いられる離型フィルムに含まれる離型層の成分は、離型性の観点から、一般的にはフィルムを構成する成分とは異なる組成であるため、離型層がついた離型フィルムをそのまま再溶融した場合、離型層の成分が異物として存在するため、再利用が難しく、フィルムを再利用するためには、離型層などの被膜を除去することが必要である。
【0004】
そこで被膜を除去するする技術の例として、特許文献1では、被膜を有するフィルムにコロナ処理を行った後、アルカリ性洗浄液に接触させることで、被膜を除去する方法が開示されている。また、特許文献2では、被膜を有するフィルムにプラズマ処理を行い、被膜を除去する方法が開示されている。さらに、特許文献3では、被膜として、離型層とフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設け、温水槽に浸漬させることで離型層を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-90094号公報
【特許文献2】特開2007-2293号公報
【特許文献3】特開2004-363140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような、MLCC数量の爆発的増加に伴い、不要物として廃棄される離型フィルムが増えることによる環境への負荷を低減することが重要である。そのため、離型層などの被膜を確実に除去することに加え、処理速度が速い被膜除去方法が求められる。
【0007】
以上の要望に対し、本発明者らが前述の従来技術について確認したところ、特許文献1に記載の技術の場合は、被膜除去性は比較的良好である一方、アルカリ性洗浄液を使用することから環境負荷が大きくなるという問題がある。特許文献2に記載の技術の場合、被膜除去性が不十分であり、被膜除去性を向上するために処理時間を長くした場合でも、生産性の低下や電力消費増による環境負荷増大という問題がある。また、特許文献3に記載の技術の場合、温水槽内に樹脂成分が溶出するため、処理時間の経過とともに温水槽中の樹脂成分の濃度が上昇して、初期の剥離能力を継続して発現することができないという問題がある。さらに、樹脂濃度の上昇を抑制するために、水の供給量を増大する手法を採用した場合でも、水の供給量とともに廃水量も増大するため環境負荷が大きくなる、という問題がある。
【0008】
以上の点から、本発明の課題は、積層体から高効率に被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法および被膜除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一態様は以下の通りである。
(1)フィルムの少なくとも片面に被膜を有する積層体から前記被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法であって、当該工程において、水を主成分とする洗浄液を前記被膜に付与する洗浄液付与工程と、プラズマを利用した表面処理を前記被膜に施す表面処理工程とを有し、前記被膜が水溶性樹脂を含む層Xを含有するフィルムの製造方法。
(2)前記洗浄液付与工程の後に、前記表面処理工程を有する、(1)に記載のフィルムの製造方法。
(3)前記水溶性樹脂がビニルアルコール残基を有する樹脂である(1)または(2)に記載のフィルムの製造方法。
(4)前記層Xの厚みが10nm以上1000nm以下であることを特徴する(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
(5)前記表面処理が大気圧プラズマ処理である(1)~(4)のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
(6)前記大気圧プラズマ処理の放電処理強度が、100W・min/m以上である(5)に記載のフィルムの製造方法。
(7)水溶性樹脂を含む被膜を少なくとも片面に有する積層体から前記被膜を剥離除去するための装置であって、前記被膜に洗浄液を付与するための洗浄液付与機構と、前記洗浄液付与機構の後に前記被膜にプラズマを利用した表面処理するため表面処理機構とを備えた、被膜除去装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層体から高効率に被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法および被膜除去装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に具体例を挙げつつ、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の好ましい一態様は、フィルムの少なくとも片面に被膜を有する積層体から前記被膜を除去する工程を有するフィルムの製造方法であって、当該工程において、水を主成分とする洗浄液を前記被膜に付与する洗浄液付与工程と、プラズマを利用した表面処理を前記被膜に施す表面処理工程とを有し、前記被膜が水溶性樹脂を含む層Xを含有するフィルムの製造方法、である。本発明でいう被膜は積層体の片面にあっても両面にあってもよく、特に限定されない。被膜としては、環境負荷の点から水溶性樹脂を含む層Xを有することが好ましい。被膜は、層Xの単層体であっても、層Xを含む2つ以上の層の積層体であっても、層Xを含む層と層Xを含まない層の積層体であってもよい。
【0013】
また、被膜の一部に層Xのほかに、離型成分を含むことが好ましく、効率的に被膜剥離の効果を発現することができる。ここでいう離型成分とは、被膜表面の水に対する接触角を大きく、すなわち、被膜の表面エネルギーを小さくする成分である。前記被膜は、離型成分として、硬化型シリコーン樹脂であるジメチルシロキサンを主骨格とする熱硬化型シリコーン樹脂化合物、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するオルガノポリシロキサンに光重合開始剤を配合しUV光を照射することによって硬化させるUV硬化型シリコーン樹脂化合物、長鎖アルキル基を有する化合物、およびフッ素を有する化合物より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。被膜は層Xに離型成分が混合されていてもよいし、それぞれの層が積層されていてもよい。積層された被膜の場合には、フィルムの直上に層X、ついで最表面に離型成分を含む層の順に形成されていることが好ましく、離型成分として水の透過性が高いジメチルシロキサンを主骨格とする熱硬化型シリコーン樹脂化合物を有することが特に好ましい。
【0014】
水溶性樹脂としては、ビニルアルコール残基を有する樹脂、セルロース残基を有する樹脂、アクリル残基を有する樹脂、ポリエステル残基を有する樹脂などが挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、被膜除去性の観点から、層Xは水溶性樹脂として、ビニルアルコール残基を有する樹脂を含むことが好ましい。ビニルアルコール残基を有する樹脂では、後述の通り、水酸基や酢酸基の割合が異なるポリビニルアルコールや、水酸基や酢酸基以外の官能基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコール等がある。セルロース残基を有する樹脂では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等がある。アクリル残基を有する樹脂としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシイソプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシイソプロピルメタクリレート等が挙げられる。ポリエステル残基を有する樹脂としては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、4ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を原料とする樹脂が挙げられる。
【0015】
水溶性樹脂としてビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、重合度は200を超え1,000以下が好ましく、300以上1,000以下がより好ましく、さらに好ましくは400以上600以下である。重合度を1000以下とすることで、ポリビニルアルコールの分子鎖が長くなり、分子鎖内におけるパッキングを抑制し、結晶化度が低くでき、水溶性を高くできる。また、重合度を200超とすることで、層Xをコーティングによって設ける際、塗布性を良好にでき、塗布性の悪化によってフィルム上に偏在したり、結晶化度が高くなってしまい水溶性が悪化することを抑制できる。なお、重合度は、JIS K 6726(1994)で求められる平均重合度を指す。
【0016】
また、上記した観点から層Xを構成する樹脂全体に対してビニルアルコール残基を有する樹脂を60質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、ビニルアルコール残基を有する樹脂のみからなることが特に好ましい。
【0017】
また、水溶性樹脂としてビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、けん化度は好ましくは30以上90以下、より好ましくは60以上88以下である。ポリビニルアルコールは、側鎖として少なくともヒドロキシル基と酢酸基を有するが、けん化度が高いほど官能基としての嵩が小さいヒドロキシル基の量が多く、酢酸基の量が少ない。そのため、けん化度が高い場合、分子鎖パッキングによる結晶化が生じやすい傾向にある。けん化度を90以下とすると、結晶化度を低くでき、水溶性がより向上する。また、けん化度を30以上とすると、酢酸基の量を一定以下にできるため、水溶性が良好となる。
【0018】
また、水溶性樹脂として用いるビニルアルコール残基を有する樹脂として、水酸基や酢酸基以外の官能基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコールを用いることも好ましい実施形態である。共重合量としては、ビニルアルコール残基を有する樹脂全体に対して0.1mol%以上10mol%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mol%以上5.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以上3.0mol%以下である。共重合量を前述の範囲とすると、層Xをコーティングによって設ける際、塗布性が良好となり、フィルム上に偏在して結晶化度が過剰に高くなることを抑制することができる。
【0019】
水溶性樹脂としてビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、メラミンやオキサゾリンなどの架橋作用のある樹脂は含有しないことが好ましい。バインダーや架橋作用のある樹脂は、ビニルアルコール残基を有する樹脂の側鎖の水酸基と相互作用し、水溶性を著しく低下させ、再利用性が困難となる傾向にある。
【0020】
本発明の水溶性樹脂を含む層Xの厚みは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。層Xの厚みを10nm以上とすることで、被膜の水溶性が向上し、被膜除去性を良好にすることができる。また、層Xの厚みを1000nm以下とすることで、層Xをコーティングによって設ける場合、塗布性を良好にすることができる。
【0021】
本発明の被膜を除去する工程は、水を主成分とする洗浄液を前記被膜に付与する洗浄液付与工程と、プラズマを利用した表面処理を前記被膜に施す表面処理工程とを有する。
【0022】
本発明の洗浄液付与工程に用いる洗浄液は、環境負荷低減の観点から、水を主成分とする。また水を主成分として界面活性剤などを添加することで、洗浄液と被膜表面との濡れ性を改善して、被膜全体に洗浄液を行き渡らせやすくしてもよい。洗浄液の温度は高いほど、水溶性樹脂の溶解速度が早まるため、被膜を有する積層体に付与された洗浄液の温度は40℃以上であることが好ましく、熱による基材寸法変化抑制のためには150℃以下であることがより好ましい。従って洗浄液は、洗浄液の温度と洗浄液が付与された箇所の積層体の温度がそれぞれ40℃から150℃の範囲となるように、使用する装置構成に合わせて温度調整されることが好ましい。なお、洗浄液が水を主成分とする、ということは、洗浄液に含まれる水の質量比率が60質量%以上であることをいう。また、環境負荷低減の観点から洗浄液に含まれる水の質量比率が80質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明の洗浄液付与工程において洗浄液を被膜に付与する方法は、いかなる手法でもよく、例えば、スプレーノズルを用いて洗浄液を液滴の状態で付与してもよいし、高圧洗浄機やスチーム発生装置を用いて、高圧あるいは高温の洗浄液を付与してもよい。洗浄液の付与量は、剥離対象である被膜の性状や厚みによって、適宜調整されることが好ましく、洗浄液の付与方法によって適正に管理されるのがよい。例えば、洗浄液を定量ポンプで送液することで管理したり、洗浄液が送液される流路の途中に流量計を設置したり、被膜表面に付与された洗浄液を回収して重量測定をしてもよい。あるいは、水溶性樹脂に洗浄液が含有されて重量測定が困難な場合には、被膜を有する積層体と付与された洗浄液、剥離した後の被膜、これら全てを回収して、洗浄液の付与量を算出してもよい。
【0024】
また、本発明の洗浄液付与工程によって、十分に溶解した被膜は、剥離手段によって除去を促進することができる。剥離手段は、回転するブラシを被膜に接触させたり、稜線を持つ部材に連続的に接触させて削ぎ落としたり、エアノズルによって吹き飛ばすなど、いかなる方法であってもよい。
【0025】
本発明の表面処理工程は、プラズマを利用した表面処理を被膜に施す。プラズマを利用した表面処理としては、コロナ処理、火炎処理、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理などが挙げられる。プラズマを利用した表面処理を行うことで、発生した酸素ラジカルが被膜の有機物成分を水や二酸化炭素に分解することができる。
【0026】
プラズマを利用した表面処理の中でも、大気圧プラズマ処理が好ましい。ここでいう大気圧とは700Torr~780Torrの範囲である。大気圧プラズマ処理は、相対する電極とアースロール間に処理対象の積層体を導き、装置中にプラズマ励起性気体を導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、該気体をプラズマ励起させ電極間においてグロー放電を行うものである。
【0027】
プラズマ励起性気体とは前記のような条件においてプラズマ励起されうる気体をいう。プラズマ励起性気体としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素、またはテトラフルオロメタンのようなフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。また、プラズマ励起性気体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の混合比で組み合わせてもよい。プラズマ処理における高周波電圧の周波数は1kHz~100kHzの範囲が好ましい。また、以下方法で求められる放電処理強度(E値)は、100W・min/m以上で処理することが好ましい。放電処理強度(E値)が低すぎると、被膜の除去性が低下する場合がある。
<放電処理強度(E値)の求め方>
E=Vp×Ip/(S×Wt)
E:E値(W・min/m
Vp:印加電圧(V)
Ip:印加電流(A)
S:処理速度(m/min)
Wt:処理幅(m)
本発明のフィルム製造方法は、洗浄液付与工程の後に、表面処理工程を有することが被膜除去性の観点から好ましい。洗浄液付与工程を経ることで、水溶性樹脂を含む層Xを含有する被膜の水分率は高くなる。そのため、洗浄液付与工程の後に、プラズマ処理を利用した表面処理を行うと、酸素ラジカルに加え、より酸化力の高いヒドロキシラジカルが発生し、被膜を水や二酸化炭素として分解し、効率的に除去することができる。なお、洗浄力強化のため、上記態様としつつ、洗浄液付与工程の前に表面処理工程を有していてもよい。水溶性樹脂を含む層Xは、洗浄液付与工程の前でも、空気中の水分を含むため、洗浄液付与工程の前に表面処理工程を有していても、ヒドロキシラジカル発生による効率的な被膜除去の効果を得ることができる。
【0028】
本発明のフィルム製造方法は、生産性の観点からRtoR搬送式であることが好ましい。搬送速度は10m/minであることが好ましく、30m/min以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明の被膜除去装置の好ましい一態様は、水溶性樹脂を含む被膜を少なくとも片面に有する積層体から前記被膜を剥離除去するための装置であって、前記被膜に洗浄液を付与するための洗浄液付与機構と、少なくとも前記洗浄液付与機構の後に前記被膜にプラズマを利用した表面処理するため表面処理機構とを備える。なお、洗浄力強化のため、上記態様としつつ、前記洗浄液付与機構の前に前記表面処理機構を有していてもよい。
【0030】
次に、積層体から被膜を除去してられたフィルムを再生原料とする方法に係る好ましい一態様について述べる。上述の方法で被膜を除去した得られたフィルムロールを、モーターにて駆動する回転刃を有するクラッシャーに導入して粉砕した後、押出機に導入して溶融し、ストランド状に押出加工し、ペレット状に裁断して再生原料を得る方法を取ることが好ましい。溶融する温度は、再生原料の固有粘度を好ましい範囲とするため、250℃以上300℃以下であることが好ましい。また、押出機が有するスクリュウは単軸でも二軸でも構わない。被膜を除去して得られたフィルムには、フィルム自体が粒子を含有している場合や、被膜を除去した際の残渣が含まれる場合があるため、含有される成分を均一に混練する観点から、押出機は二軸であることが好ましい。また、溶融押出する際に、フィルム以外の成分を適正な範囲とするため、フィルターでろ過することも好ましい。
【0031】
[特性の評価方法]
A.層Xの組成分析
層Xの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを測定し、ビニルアルコール残基などの有無を分析する。
[TOF-SIMSの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、TOF-SIMSスペクトルを測定する。
装置:ION-TOF社製TOF.SIMS5
1次イオン種:Bi ++
1次イオンの加速電圧:25kV
パルス幅:125ns
パンチング:なし(高空間分解能測定)
ラスターサイズ:40μm×40μm
スキャン数:64回
2次イオンの極性:正
帯電中和:あり
後段加速電圧:9.5kV。
[FT-IRの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、FT-IRスペクトルを測定する。
装置:PerkinElmer社製Spectrum100
光源:特殊セラミックス
検出器:DTGS
分解能:4cm-1
積算回数:256回
測定波数範囲:4,000~680cm-1
測定モード:減衰全反射(ATR)法
付属装置:1回反射型ATRクリスタル(材質:ダイヤモンド/ZnSe)。
【0032】
B.各層の厚み
下記の方法にて、積層体の被膜の各層の厚みを求める。被膜断面を、幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000倍の倍率で観察し、各層の厚みを測定する。
【0033】
C.被膜除去性の評価
積層体から被膜を除去して得られたフィルムを60℃、95%RHの雰囲気下で24時間静置した後、フィルム表面の20秒後の水接触角を後述の方法に従って測定する。接触角は大きいほど望ましい。なお、60℃、95%RHの雰囲気下で24時間静置することにより、フィルムへの物理的表面処理の影響を減らすことができるので、被膜除去性の評価が可能となる。
【0034】
<水接触角の測定方法>
共和界面科学株式会社製の接触角計DM501および付属の解析ソフトFAMASを用いて以下の方法で測定する。23℃、65%RHの雰囲気下、試料表面に純水を2μL滴下し、水滴が接触した時間を0秒として、20秒後の水滴形状を撮影し、θ/2法により、水接触角を測定する。場所を変えて5回測定し、平均値を採用する。
【0035】
K.再利用性の評価
積層体から被膜を除去して得られたフィルムを粉砕し、180℃で2時間乾燥した後、押出機に投入し280℃で溶融押出した後、25℃に冷却したキャストドラム上でシート状に成形し、得られたシートを後述のL.の方法によって固有粘度を測定する。その固有粘度IV(R)と、フィルムの固有粘度IV(I)の差(ΔIV)が小さいほど望ましい。
【0036】
L.固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mlに積層体から被膜を除去して得られたフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/dl)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定する。また、同様に溶媒の粘度を測定する。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記(a)式により、[η](dl/g)を算出し、得られた値でもって固有粘度とする。
(a)ηsp/C=[η]+K[η]・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度(dl/g)/溶媒粘度(dl/g))-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0037】
次に、新規樹脂チップを180℃で2時間乾燥した後、押出機に投入し280℃で溶融押出して、25℃に冷却したキャストドラム上でシート状に成形し、固有粘度IV(I)を同様に測定する。
【0038】
異物の混入などによって生じる樹脂チップの品質低下は、IV(R)とIV(I)の差として表れるので、下記(b)式により、ΔIVを算出する。
(b)ΔIV=IV(R)-IV(I)
【実施例0039】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0040】
[PET-1の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合ポリエステルを得た。得られた溶融重合ポリエステルのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0041】
[MB-1の製造]PET-1を80質量部と粒径0.1μmの架橋ポリスチレン粒子(スチレン・アクリレート共重合体)の10質量%水スラリーを10質量部(架橋ポリスチレン粒子として1質量部)供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、架橋ポリスチレン粒子を1質量%含有するマスターバッチを得た。ガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.61、末端カルボキシル基量は22eq./tであった。
【0042】
[塗剤Aの作製]特開平9-227627号公報を参考にして、けん化度88、平均重合度500、スルホン酸ナトリウムの共重合量1mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Aを得た。
【0043】
[塗剤Bの作製]付加反応型シリコーン樹脂離型剤(信越化学工業株式会社製商品名KS-847T)100質量部、白金触媒(信越化学工業株式会社製商品名CAT-PL-50T)1質量部を、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Bを得た。
【0044】
[塗剤Cの作製]縮合反応型シリコーン樹脂離型剤(ダウ・東レ株式会社製商品名SRX290)100質量部、硬化剤(ダウ・東レ株式会社製商品名SRX242C)6質量部を、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Cを得た。
【0045】
[塗剤Dの作製]UV硬化型シリコーン樹脂離型剤(ビッグケミー社製商品名BYK-3500)1質量部、UV硬化性樹脂(新中村化学工業株式会社製商品名“NKエステル”(登録商標)A-DPH)99質量部、光重合開始剤(IGM RESINS社製商品名“OMNIRAD”(登録商標)907)5質量部を、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比3:1)にて固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Dを得た。
【0046】
[塗剤D2の作製]UV硬化型シリコーン樹脂離型剤(ビッグケミー社製商品名BYK-3500)1質量部、UV硬化性樹脂(新中村化学工業株式会社製商品名“NKエステル”(登録商標)A-DPH)99質量部、光重合開始剤(IGM RESINS社製商品名“OMNIRAD”(登録商標)907)5質量部を、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比3:1)にて固形分20質量%となるように調整し、塗剤D2を得た。
【0047】
[塗剤Eの作製]長鎖アルキル基含有化合物として、長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)の“ピーロイル”(登録商標)1050)を固形分換算で10質量部、架橋剤としてメラミン系架橋剤(住友化学(株)の“スミマール”(登録商標)M-55)を固形分換算で1.0質量部、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(テイカ(株)のテイカキュア(商品名)AC-700)を固形分換算で1.3質量部を量り取り、溶媒としてトルエンを400質量部、メチルエチルケトンを130質量部に混合し、塗剤Eを得た。
【0048】
[塗剤Fの作製]特開平9-227627号公報を参考にして、けん化度88、平均重合度500、スルホン酸ナトリウムの共重合量1mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Aを得た。
【0049】
[被膜を有する積層体aの作製]
原料としてPET-1を80質量部、MB-1を20質量部混合し、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムに、乾燥後の塗布厚みが100nmとなるようにバーコート法にて塗剤Aを塗布し、続いてフィルムのフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで230℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、層Xが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。
【0050】
得られた積層ポリエステルフィルムの層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対の面に、乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Bを用いてグラビアコート法にて塗布し、被膜を有する積層体aを得た。
【0051】
[被膜を有する積層体bの作製]
塗剤Bの代わりに塗剤Cを用いた以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体bを得た。
【0052】
[被膜を有する積層体cの作製]
塗剤Bの代わりに塗剤Dを用い、乾燥後に酸素濃度0.1体積%の雰囲気下で積算光量200mJ/cmでUV照射した以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体cを得た。
【0053】
[被膜を有する積層体dの作製]
塗剤Dの代わりに塗剤D2を用い、乾燥後の厚みが1000nmとなるようにした以外は、被膜を有する積層体cと同様にして、被膜を有する積層体dを得た。
【0054】
[被膜を有する積層体eの作製]
塗剤Bの代わりに塗剤Eを用いた以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体eを得た。
【0055】
[被膜を有する積層体fの作製]
層Xの乾燥後の厚みが10nmとなるようにした以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体fを得た。
【0056】
[被膜を有する積層体gの作製]
層Xの乾燥後の厚みが50nmとなるようにした以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体gを得た。
【0057】
[被膜を有する積層体hの作製]
層Xの乾燥後の厚みが1000nmとなるようにした以外は、被膜を有する積層体aと同様にして、被膜を有する積層体hを得た。
【0058】
(実施例1)
被膜を有する積層体aを、巻出しと巻き取り装置のある被膜除去装置に導入し、30N/mの張力下で、50m/minの速度で搬送し、表面処理工程にて被膜表面を大気圧プラズマ処理(E値200W・min/m)した後、洗浄液付与工程にて80℃の水を洗浄液とした槽に1秒間浸漬搬送させ、被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0059】
(実施例2)
被膜を有する積層体aを、巻出しと巻き取り装置のある被膜除去装置に導入し、30N/mの張力下で、50m/minの速度で搬送し、洗浄液付与工程にて80℃の水を洗浄液とした槽に1秒間浸漬搬送させた後、表面処理工程にて被膜表面を大気圧プラズマ処理(E値200W・min/m)し、被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0060】
(実施例3)
被膜を有する積層体aを、巻出しと巻き取り装置のある被膜除去装置に導入し、30N/mの張力下で、50m/minの速度で搬送し、洗浄液付与工程にて80℃の水を洗浄液として被膜表面にスプレーノズルにて洗浄液を20mL/m付与した後、金属製のブラシロールを用いてフィルム搬送方向に対して500rpmで逆回転し、被膜表面に接触させ、さらに表面処理工程にて被膜表面を大気圧プラズマ処理(E値200W・min/m)し、被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0061】
(実施例4)
表面処理工程として、被膜表面にコロナ処理(E値200W・min/m)を用いた以外は、実施例3と同様に被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0062】
(実施例5)
特開2000-356714号公報を参考にして、表面処理工程として、下記の条件にて被膜表面に火炎処理を用いた以外は、実施例3と同様に被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0063】
火炎と被膜の接触時間:約0.01秒
外炎の接触面積/内炎の最大面積:5
内炎の先端から被膜表面までの距離:約5mm。
【0064】
(実施例6~8)
表面処理工程にて大気圧プラズマ処理のE値として、実施例6では50W・min/m、実施例7では100W・min/m、実施例8では1000W・min/mにした以外は、実施例3と同様に被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0065】
(実施例9~15)
被膜を有する積層体として、実施例9では被膜を有する積層体b、実施例10では被膜を有する積層体c、実施例11では被膜を有する積層体d、実施例12では被膜を有する積層体e、実施例13では被膜を有する積層体f、実施例14では被膜を有する積層体g、実施例15では被膜を有する積層体hを用いた以外は、実施例3と同様に被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0066】
(比較例1)
被膜を有する積層体aを、巻出しと巻き取り装置のある被膜除去装置に導入し、30N/mの張力下で、50m/minの速度で搬送し、洗浄液付与工程にて80℃の水を洗浄液とした槽に1秒間浸漬搬送させ、被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0067】
(比較例2)
被膜を有する積層体aを、巻出しと巻き取り装置のある被膜除去装置に導入し、30N/mの張力下で、50m/minの速度で搬送し、表面処理工程にて被膜表面を大気圧プラズマ処理(E値200W・min/m)し、被膜を除去することでフィルムを回収した。
【0068】
各評価結果を表1~3に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
なお、実施例に関し、明細書の説明と表の記載に齟齬がある場合は、表の記載を優先する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のフィルム製造方法は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用で使用した後の離型用フィルムから被膜を高効率に除去したフィルムを製造することができるため、フィルムを原料として容易に再利用することができる。