(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018114
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】演算装置、量子状態生成装置、演算方法、量子状態生成方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20240201BHJP
【FI】
G06N10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121218
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】須佐 友紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 愛子
(57)【要約】
【課題】パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くできるようにする。
【解決手段】演算装置が、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、得られた量子状態を用いて演算を行う演算手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、
得られた量子状態を用いて演算を行う演算手段と、
を備える演算装置。
【請求項2】
前記計画生成手段は、前記離調の大きさが増加から減少に転じた後、前記ポンプ信号の強度が増加から減少に転じる、前記計画を生成する
請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記計画生成手段は、生成した計画に基づいて前記発振器を制御した場合に得られる量子状態を示す情報を取得し、取得した情報に基づいて前記計画を更新する、
請求項1または請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記計画生成手段は、量子状態に対する評価を示す目的関数を用いて、前記時間経過に応じた前記ポンプ信号の強度を示す第1関数に含まれる内部パラメータの値と、前記時間経過に応じた前記離調の大きさを示す第2関数に含まれる内部パラメータの値との探索をおこなって、前記計画を更新する
請求項3に記載の演算装置。
【請求項5】
前記第1値および前記第4値は何れも0であり、
前記第1関数は、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の開始時の値が0であり、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の終了時の値が1である、経過時間の多項式と、前記第2値とが掛け合わせられた関数であり、
前記第2関数は、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の開始時の値が1であり、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の終了時の値が0である、前記経過時間の多項式と、前記第3値とが掛け合わせられた関数である、
請求項4に記載の演算装置。
【請求項6】
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、
を備える量子状態生成装置。
【請求項7】
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成し、
得られた量子状態を用いて演算を行う、
ことを含む演算方法。
【請求項8】
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する、
ことを含む量子状態生成方法。
【請求項9】
パラメトリック発振を行う発振器を用いて演算を行う演算装置に、
前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、
得られた量子状態を用いて演算を行うことと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
パラメトリック発振を行う発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成装置に、
前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算装置、量子状態生成装置、演算方法、量子状態生成方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態が生成され、生成された重ね合わせ状態を用いて量子アニーリングや、量子ゲートを用いた量子計算アルゴリズムなどの演算が行われる場合がある(例えば、特許文献1参照)。量子ゲートを用いた量子計算アルゴリズムの例として、ショア(Shor)の素因数分解アルゴリズムや、グローバー(Grover)の探索アルゴリズムなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間がなるべく短いことが好ましい。
【0005】
本発明の目的の一例は、上述の課題を解決することのできる演算装置、量子状態生成装置、演算方法、量子状態生成方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、演算装置は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、得られた量子状態を用いて演算を行う演算手段と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、量子状態生成装置は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、を備える。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、演算方法は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成し、得られた量子状態を用いて演算を行う、ことを含む。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、量子状態生成方法は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する、ことを含む。
【0010】
本発明の第5の態様によれば、プログラムは、パラメトリック発振を行う発振器を用いて演算を行う演算装置に、前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、得られた量子状態を用いて演算を行うことと、を実行させるためのプログラムである。
【0011】
本発明の第6の態様によれば、プログラムは、パラメトリック発振を行う発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成装置に、前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る演算装置の構成の例を示す図である。
【
図2】実施形態に係るカー非線形性パラメトリック発振器の構成の例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る計画生成部が2次関数を用いて算出する離調の例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る計画生成部が2次関数を用いて算出するポンプ強度の例を示す図である。
【
図5】実施形態において、生成時間が約2ナノ秒の場合に、計画生成部が2次関数を用いて算出する離調の例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る演算装置が取得する量子状態のフィデリティの例を示す図である。
【
図7】理想的な猫状態の場合のウィグナー分布の例を示す図である。
【
図8】猫状態の生成に失敗した場合のウィグナー分布の例を示す図である。
【
図9】時間に応じて制御パラメータ値を線形に変化させる場合の、初期離調の例を示す図である。
【
図10】時間に応じて制御パラメータ値を線形に変化させて得られる量子状態のフィデリティの例を示す図である。
【
図11】実施形態において、2次以上の関数を用いる場合のフィデリティの例を示す図である。
【
図12】実施形態に係る演算装置が猫状態を生成する手順の例を示す図である。
【
図13】実施形態に係る演算装置の構成の、もう1つの例を示す図である。
【
図14】実施形態に係る量子状態生成装置の構成の例を示す図である。
【
図15】実施形態に係る演算方法における処理の手順の例を示す図である。
【
図16】実施形態に係る量子状態生成方法における処理の手順の例を示す図である。
【
図17】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、実施形態に係る演算装置の構成の例を示す図である。
図1に示す構成で、演算装置10は、複数のカー非線形性パラメトリック発振器(Kerr-nonlinear Parametric Oscillator;KPO)100と、制御部200とを備える。制御部200は、問題設定部210と、計画生成部220と、制御実行部230とを備える。
【0015】
演算装置10は、カー非線形性パラメトリック発振器100を用いて演算を行う。具体的には演算装置10は、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態を量子ビットとして用いて、量子アニーリングによって最適化問題を解くなど、量子コンピューティング(量子力学を利用する演算)を行う。
特に、演算装置10は、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態が2つのコヒーレント状態の重ね合わせ状態になるように、カー非線形性パラメトリック発振器100を制御する。2つのコヒーレント状態の重ね合わせ状態を、猫状態とも称する。
【0016】
演算装置10は、得られた猫状態を用いて、量子アニーリングによって最適化問題を解く、あるいは、量子ゲートを用いた量子計算アルゴリズムを実行するなど、生成した猫状態を変数の初期値として用いて量子コンピューティングを行う。例えば、演算装置10が生成する猫状態は、ショアの素因数分解アルゴリズム、および、グローバーの探索アルゴリズムに用いることができる。
演算装置10は、演算装置の例に該当する。また、演算装置10は、量子状態制御装置の例にも該当する。
【0017】
カー非線形性パラメトリック発振器100は、カー非線形性を有する非線形共振回路である。カー非線形性パラメトリック発振器100の共振周波数を、その共振周波数の約2倍の周波数で変調すると、カー非線形性パラメトリック発振器100は、パラメトリック発振する発振器として動作する。
カー非線形性パラメトリック発振器100が、ジョセフソンパラメトリック発振器(Josephson Parametric Oscillator;JPO)を用いて構成されていてもよい。ただし、カー非線形性パラメトリック発振器100の構成は、これに限定されない。
【0018】
図2は、カー非線形性パラメトリック発振器100の構成の例を示す図である。
図2に示す構成で、カー非線形性パラメトリック発振器100は、超電導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference Device;SQUID)110と、キャパシタ120および140と、磁場発生部150とを備える。超電導量子干渉素子110は、2つのジョセフソン接合111が設けられた超電導体のループを含んで構成される。
【0019】
磁場発生部150は、コイルを用いて構成され、磁場発生部150を流れる電流に応じて磁場を発生させる。磁場発生部150と超電導量子干渉素子110とは磁気的に結合されており、磁場発生部150が磁場を発生させることで超電導量子干渉素子110に磁束が印加される。
【0020】
超電導量子干渉素子110とキャパシタ120とのループは、共振回路130を構成する。この共振回路130の共振周波数は、磁場発生部150を流れる電流の大きさによって制御される。磁場発生部150に交流電流を流すことで生じる磁場の周期的な変化に応じて超電導量子干渉素子110のインダクタンスが周期的に変化し、共振回路130の共振周波数が周期的に変化する。この共振周波数の周期的な変化によって、共振回路130が磁場の変化(交流磁場)にパラメトリック共鳴する。
【0021】
磁場発生部150が磁場を発生させることは、磁場発生部150が電磁波を出力することと捉えることもできる。共振回路130が磁場の変化にパラメトリック共鳴することは、共振回路130が、磁場発生部150が出力する電磁波にパラメトリック共振することと捉えることもできる。
【0022】
共振回路130の共振周波数が、磁場発生部150を流れる電流の周波数の半分に近く、かつ、磁場発生部150を流れる電流の大きさが、ある大きさ以上の場合、パラメトリック共鳴によって、共振回路130がパラメトリック発振する。共振回路130は、磁場発生部150を流れる電流の周波数の半分の周波数で発振する。
【0023】
磁場発生部150を流れる電流(制御部200が磁場発生部150へ流す電流)を、カー非線形性パラメトリック発振器100への入力信号として把握し、ポンプ信号と称する。ポンプ信号の周波数は、磁場発生部150を流れる電流の周波数である。ポンプ信号の振幅は、磁場発生部150を流れる電流の振幅である。
【0024】
ポンプ信号の電流の交流成分の振幅(電流振幅)iアンペア(A)と、電流値による共振周波数fの変化量df/diとの積β=i*df/diを、ポンプ信号の強度、またはポンプ強度と称する。ここでは、「*」は掛け算を表す。
電流値による共振周波数の変化量df/diは回路の構造と周波数とで決まるため、ポンプ強度βはポンプ信号の電流振幅に比例する。したがって、ポンプ信号の電流振幅を調整することで、ポンプ強度を調整することができる。
【0025】
ポンプ強度βの値を大きくすることを、ポンプ強度を強める、または、ポンプ強度を大きくするとも称する。
また、共振回路130の発振を、カー非線形性パラメトリック発振器100の発振とも称する。ポンプ信号の角周波数をωpとすると、カー非線形性パラメトリック発振器100の発振角周波数はωp/2である。
カー非線形性パラメトリック発振器100から、ポンプ信号の周波数の半分の周波数の電磁波が出力されていることを観測することで、パラメトリック発振が生じていることが確認される。
【0026】
カー非線形性パラメトリック発振器100の共振周波数から発振周波数を減算した差を離調と称し、Δで表す。離調Δは、カー非線形性パラメトリック発振器100の共振周波数ω0と発振角周波数ωp/2とを用いて、式(1)のように表される。
【0027】
【0028】
共振回路130内部で発生するコヒーレント状態が、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態に該当する。カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態は、カー非線形性パラメトリック発振器100から出力される電磁波の位相を測定することによって観測される。
すなわち、共振回路130がパラメトリック発振する際、とり得るコヒーレント状態が2通りあり、これら2つのコヒーレント状態のそれぞれが、量子状態に該当する。これら2つのコヒーレント状態の量子力学的な重ね合わせ状態が、猫状態に該当する。
【0029】
制御部200は、カー非線形性パラメトリック発振器100を制御する。特に、制御部200は、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態を、真空状態から猫状態へと変化させる。また、制御部200は、得られた猫状態を用いて、例えば量子アニーリングなどの演算を行う。
【0030】
量子状態を、ある所望の状態に変化させることを、量子状態を生成するとも称する。例えば、所望の量子状態が猫状態である場合、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態を猫状態に変化させることを、猫状態を生成するとも称する。
制御部200が、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態を、真空状態から猫状態または猫状態の生成に失敗した量子状態に変化させる処理を、猫状態生成処理、または、1回の猫状態生成処理とも称する。制御部200は、猫状態生成処理を繰り返して、猫状態を生成するための制御の計画を探索する。
【0031】
問題設定部210は、演算装置10が解くべき問題として与えられた問題を、演算装置10に設定する。例えば、演算装置10が解くべき問題として最適化問題が与えられた場合、問題設定部210は、最適化問題における目的関数および制約条件を、カー非線形性パラメトリック発振器100間の結合に反映させるように、カー非線形性パラメトリック発振器100間の結合を設定する。
上述したように、演算装置10が解くべき問題は、量子アニーリング、または、量子ゲートを用いた量子計算アルゴリズムを用いる問題など、いろいろな問題とすることができる。
【0032】
計画生成部220は、制御部200によるカー非線形性パラメトリック発振器100の制御の計画を立案する。具体的には、計画生成部220は、猫状態の生成開始時から終了時までの、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御パラメータの値を決定する。
【0033】
計画生成部220が、ポンプ強度の値と離調の値とを決定するようにしてもよい。上記のように、ポンプ強度βは、ポンプ信号の電流振幅と、電流値による共振周波数fの変化量との積である。上記のように、離調は、カー非線形性パラメトリック発振器100の共振周波数から発振周波数を減算した差である。
あるいは、計画生成部220が、ポンプ強度の値と、ポンプ信号の周波数の値とを決定するようにしてもよい。
ポンプ信号の周波数を、ポンプ周波数とも称する。
【0034】
制御実行部230は、計画生成部220が決定する制御パラメータ値にしたがって、カー非線形性パラメトリック発振器100を制御する。
カー非線形性パラメトリック発振器100の制御は、ポンプ強度およびポンプ周波数を調整することで行うことができる。計画生成部220が、ポンプ強度の値と離調の値とを決定する場合、制御実行部230が、ポンプ強度の値および離調の値からポンプ周波数の値を算出するようにしてもよい。制御実行部230は、得られたポンプ強度およびポンプ周波数に従って、カー非線形性パラメトリック発振器100にポンプ信号を入力する。これにより、制御実行部230は、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御を実行する。
【0035】
計画生成部220が、ポンプ強度の値と、ポンプ周波数の値とを決定する場合、制御実行部230は、計画生成部220が算出したポンプ強度およびポンプ周波数に従って、カー非線形性パラメトリック発振器100にポンプ信号を入力する。
【0036】
以下では、計画生成部220が、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御パラメータの値として、離調の値とポンプ強度の値とを決定する場合を例に説明する。ただし、計画生成部220が値を決定する制御パラメータは特定のものに限定されず、離調およびポンプ強度を算出可能ないろいろなパラメータとすることができる。例えば、計画生成部220が、上記のように、ポンプ強度の値およびポンプ周波数の値を決定するようにしてもよい。
【0037】
計画生成部220は、離調の大きさ(絶対値)およびポンプ強度が、いずれも一旦大きくなった後、小さくなるように計画する。計画生成部220が、内部パラメータを含む2次関数または3次以上の関数を用いて離調およびポンプ強度を算出するようにしてもよい。ここでいう関数に含まれる内部パラメータは、関数に含まれるパラメータ(とりうる値に自由度があるもの)のうち引数以外のパラメータである。
【0038】
計画生成部220による計画の生成と、制御実行部230によるカー非線形性パラメトリック発振器100の制御とを繰り返し、猫状態を得られる内部パラメータ値を探索するようにしてもよい。あるいは、制御実行部230が、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御に代えて、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態の生成のシミュレーションを行い、シミュレーション結果に基づいて、内部パラメータ値の探索を行うようにしてもよい。
【0039】
以下では、演算装置10の動作について、演算装置10の動作確認のためにおこなった数値実験を例に説明する。ここでいう数値実験は、動作確認対象である演算装置10の動作を、例えばシミュレーションなど計算によって確認することである。具体的には、数値実験では、制御実行部230が行う処理として、計画生成部220が生成した計画に基づいて量子状態の生成のシミュレーションを行い、シミュレーション結果を評価することで計画を評価するようにした。量子状態の生成のシミュレーションは、シュレディンガー方程式を数値的に解くことでおこなった。
数値実験では、カー非線形性パラメトリック発振器のハミルトニアンとして、式(2)に示されるハミルトニアンを用いた。
【0040】
【0041】
式(2)に示すハミルトニアンH^RWAは、実験室系のハミルトニアンの回転座標系表示を近似したものである。なお、サーカムフレックス(Circumflex)を「^」で表す場合がある。例えば、サーカムフレックス付きのHを、H^とも表記する。
Tは、猫状態の生成時間を示す。すなわち、Tは、猫状態生成処理に要する時間を示す。tは、猫状態生成処理の開始時からの経過時間を表す。猫状態生成処理の開始時から時間tが経過したタイミングを、時間t経過時とも表記する。
t/Tは、猫状態の生成時間Tに対する経過時間tの割合を表す。
【0042】
Δ(t/T)は、時間t経過時における離調Δの値を表す。Δ(t/T)は、式(3)のように表される。
【0043】
【0044】
a^は、消滅演算子(Annihilation Operator)を表す。消滅演算子をa^annとも表記する。
ダガー記号付きのa^は、生成演算子(Creation Operator)を表す。生成演算子をa^creとも表記する。
χは、カー係数を表す。
β(t/T)は、時間t経過時におけるポンプ強度βの値を表す。
【0045】
実験室系のハミルトニアンH^KPOは、式(4)のように表される。
【0046】
【0047】
実験室系のハミルトニアンの回転座標系表示H^RFは、式(5)のように表される。
【0048】
【0049】
eは、ネイピア数を表す。
離調Δの初期値は、0よりも小さい値とする。ここでは、初期値は、猫状態生成処理の開始時、すなわち、時間0経過時における値である。離調Δの初期値を、ΔIで示す。Δ(0)=ΔI<0と表される。
離調の初期値を初期離調とも称する。
【0050】
離調Δの最終値は、0とする。ここでは、最終値は、猫状態生成処理の終了時、すなわち、時間T経過時における値である。Δ(1)=0と表される。
ポンプ強度βの初期値は、0とする。β(0)=0と表される。
ポンプ強度βの最終値は、0よりも大きい値とする。ポンプ強度の最終値をβFで示す。β(1)=βF>0と表される。ポンプ強度の最終値βFは、例えば、生成したい猫状態に応じて定められる。演算装置10が、ポンプ強度の最終値βFを予め記憶しておくようにしてもよい。あるいは、ユーザなど人が、ポンプ強度の最終値βFを演算装置10に入力するようにしてもよい。
【0051】
初期離調ΔIを0よりも小さい値にし、ポンプ強度βの初期値を0にすることで、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態を真空状態にする。真空状態から、ポンプ強度βを大きくしてカー非線形性パラメトリック発振器100を発振させ、猫状態を生成する。
ブラ-ケット記法(Bra-ket Notation)で、真空状態(の状態ベクトル表記)を|0vac>で表す。猫状態を|ψcat>で表す。猫状態|ψcat>は、式(6)のように表される。
【0052】
【0053】
|α>、および、|-α>は、2つのコヒーレント状態を表す。
離調Δの最終値を0、ポンプ強度の最終値をβF、カー係数をχとし、カー非線形性パラメトリック発振器100を用いて猫状態を生成する場合、αは、式(7)のように表される。
【0054】
【0055】
計画生成部220が、時間tの2次関数(Quadratic Function)を用いて、制御パラメータの値を算出するようにしてもよい。例えば、計画生成部220が、式(8)に基づいて、時間t経過時の離調Δの値を算出するようにしてもよい。
【0056】
【0057】
「(quad)」は、2次関数を用いる場合の表記であることを表す。例えば、Δ(quad)(t/T)は、離調Δの計算に2次関数を用いる場合の、時間t経過時の離調Δの値を示す。ΔI
(quad)は、離調Δの計算に2次関数を用いる場合の初期離調ΔIを示す。初期離調ΔIが、後述する3次以上の関数を用いる場合と異なっていてもよいことを明確にするために、「ΔI
(quad)」と表記している。
【0058】
aは、式(8)の右辺に示す2次関数「ΔI
(quad)[1-a(t/T)2-(1-a)t/T]」に含まれる内部パラメータである。ΔI
(quad)も、この2次関数に含まれる内部パラメータに該当する。
【0059】
計画生成部220が、式(9)に基づいて、時間t経過時のポンプ強度βの値を算出するようにしてもよい。
【0060】
【0061】
bは、式(9)の右辺に示す2次関数に含まれる内部パラメータである。
内部パラメータ値の探索について上述したように、計画生成部220による計画の生成と、制御実行部230によるカー非線形性パラメトリック発振器100の制御とを繰り返し、猫状態(後述する理想的な猫状態)を得られる内部パラメータa、bそれぞれの値および初期離調Δi
(quad)、またはこれらのうち一部の値を探索するようにしてもよい。あるいは、制御実行部230が、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御に代えて、カー非線形性パラメトリック発振器100における量子状態の生成のシミュレーションを行い、シミュレーション結果に基づいて、猫状態を得られる内部パラメータa、bそれぞれの値および初期離調Δi
(quad)、またはこれらのうち一部の値を探索するようにしてもよい。
【0062】
図3は、計画生成部220が2次関数を用いて算出する離調Δの例を示す図である。
図3は、数値実験で得られた離調Δの計算値をグラフで示している。
図3のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tに対する経過時間tの割合t/Tを示す。縦軸は、離調Δ
(quad)(t/T)を2πで除算した値を、単位をギガヘルツ(GHz)として示す。πは、円周率を示す。
【0063】
数値実験では、猫状態の生成時間Tをいろいろに設定して、それぞれの生成時間Tのもとで、上記のように内部パラメータa、bそれぞれの値、および初期離調Δ
I
(quad)を最適化する解探索をおこなっている。
図3は、それぞれの生成時間Tについて、最適化で得られた内部パラメータaの値および初期離調Δ
I
(quad)を式(8)に設定して得られる、t/TとΔ
(quad)(t/T)/2πとの関係を示している。
【0064】
生成時間Tが比較的短い場合の線が、グラフの下側に示され、生成時間が比較的長い場合の線が、グラフの上側に示されている。例えば、線L111は、生成時間Tが約1ナノ秒(ns)の場合の、t/TとΔ(quad)(t/T)/2πとの関係を示している。線L113は、生成時間Tが約10ナノ秒の場合の、t/TとΔ(quad)(t/T)/2πとの関係を示している。また、線L112は、生成時間Tが約2ナノ秒の場合の、t/TとΔ(quad)(t/T)/2πとの関係を示している。
【0065】
図4は、計画生成部220が2次関数を用いて算出するポンプ強度の例を示す図である。
図4は、数値実験で得られたポンプ強度の計算値をグラフで示している。
図4のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tに対する経過時間tの割合t/Tを示す。縦軸は、ポンプ強度β
(quad)(t/T)を、ポンプ強度の最終値β
Fで除算した値を示す。
【0066】
図4は、数値実験で設定した生成時間Tそれぞれについて、最適化で得られた内部パラメータbの値を式(9)に設定して得られる、t/Tとβ
(quad)(t/T)/β
Fとの関係を示している。
【0067】
生成時間Tが比較的短い場合の線が、グラフの上側に示され、生成時間が比較的長い場合の線が、グラフの下側に示されている。例えば、線L121は、生成時間Tが約1ナノ秒(ns)の場合の、t/Tとβ(quad)(t/T)/βFとの関係を示している。線L113は、生成時間Tが約10ナノ秒の場合の、t/Tとβ(quad)(t/T)/βFとの関係を示している。また、線L112は、生成時間Tが約2ナノ秒の場合の、t/Tとβ(quad)(t/T)/βFとの関係を示している。
【0068】
図5は、生成時間Tが約2ナノ秒の場合に、計画生成部220が2次関数を用いて算出する離調の例を示す図である。
図5のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tに対する経過時間tの割合t/Tを示す。線L131は、t/TとΔ
(quad)(t/T)/Δ
I
(quad)との関係を示している。線L131に関しては、
図5のグラフの縦軸は、離調Δ
(quad)(t/T)を初期離調Δ
I
(quad)で除算した値を示す。Δ
I
(quad)<0なので、
図3のグラフでは下に凸な形の線が示されているのに対し、
図5の線L131は上に凸な形になっている。
線L132は、t/Tとβ
(quad)(t/T)/β
Fとの関係を示している。線L132に関しては、
図5のグラフの縦軸は、ポンプ強度β
(quad)(t/T)を、ポンプ強度の最終値β
Fで除算した値を示す。
【0069】
図6は、演算装置10が取得する量子状態のフィデリティ(Fidelity、忠実度)の例を示す図である。
図6は、数値実験で設定した生成時間Tそれぞれについて、得られた量子状態のフィデリティを示している。フィデリティは、2つの量子状態の類似度を、[0,1]の範囲の値で示す指標である。ここでは、猫状態の生成処理で得られた量子状態と、理想的な猫状態として定められた量子状態とのフィデリティを用いる。この場合のフィデリティFは、式(10)のように表すことができる。
【0070】
【0071】
<ψ|は、猫状態の生成処理で得られた量子状態を示す。
また、式(10)では、|ψcat>は、理想的な猫状態を示す。「理想的な」と称するのは、式(6)を満たす猫状態の中でも、αの値に応じて量子状態が異なるからである。式(6)を満たす猫状態を、量子アニーリング等における量子ビットの初期状態として用いる場合、e―2|α|2の値は小さい方が好ましく、したがって、αの値は大きい方が好ましい。一方、例えば式(4)示すハミルトニアンH^KPOを用いる場合、αの値が大きすぎると、かえって猫状態が生成されにくくなる。これらを踏まえた適切なαの値の場合の猫状態が、理想的な猫状態として定められているものとする。
【0072】
図6のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tを、単位をナノ秒として示す。縦軸は、フィデリティを示す。
図6のグラフでは、猫状態の生成時間Tが1ナノ秒から10ナノ秒までの区間で、数値実験で得られた量子状態のフィデリティがプロットされている。猫状態の生成時間Tが1ナノ秒から10ナノ秒までの区間で、フィデリティは、0.984以上という高い値となっている。特に、猫状態の生成時間Tが約2ナノ秒のときに、一旦、フィデリティが極大になっており、その値は約1となっている。猫状態の生成時間Tが2ナノ秒から10ナノ秒までの区間で、フィデリティは、0.996以上となっており、特に、猫状態の生成時間Tが6ナノ秒から10ナノ秒までの区間で、フィデリティは、約1となっている。
【0073】
図7は、理想的な猫状態の場合のウィグナー分布(Wigner Distribution)の例を示す図である。ウィグナー分布は、ウィグナー関数の値の分布を表すものであり、量子状態の表現に用いることができる。
図7の例では、ウィグナー関数の値がグレースケールで示されている。
【0074】
図7の例で、点P11付近、および、点P12付近のそれぞれで分布値が極大になっており、それぞれの極大点を中心とするおよそ同心円状の等高線を形成するような分布が見受けられる。このように、2つの同心円状の分布の等高線が形成されるウィグナー分布が、猫状態のウィグナー分布の例に該当する。また、
図7の例のように、2つの極大点が何れもx軸上に位置する分布に限らず、このような分布を、原点を中心に回転した分布も、猫状態のウィグナー分布の例に該当する。
【0075】
また、点P11付近、および、点P12付近の2つの極大点間の距離は、式(6)および式(7)のαに比例する。この距離が大きい量子状態ほど、量子ビットの初期状態としては好ましい。一方、上記のように、猫状態を生成し得るαの大きさには上限がある。したがって、猫状態のウィグナー分布における2つの極大点間の距離の大きさにも上限がある。
【0076】
図8は、猫状態の生成に失敗した場合のウィグナー分布の例を示す図である。
図7の場合と異なり
図8の例では、同心円状の等高線を形成するような分布は見受けられない。量子ビットの初期状態として用いられる量子状態としては、
図8の例における量子状態よりも、
図7の例における量子状態の方が好ましい。
【0077】
数値実験では、計画生成部220が2次関数を用いて制御パラメータ値を算出する場合との比較対称として、時間に応じて制御パラメータ値を線形に変化させる場合についても、シミュレーションで量子状態を取得し、フィデリティを算出した。この場合の離調Δの値は、式(11)のように示される。
【0078】
【0079】
「(lin)」は、線形関数を用いる場合の表記であることを示す。例えば、Δ(lin)(t/T)は、離調Δの計算に線形関数を用いる場合の、時間t経過時の離調Δの値を示す。ΔI
(lin)は、離調Δの計算に線形関数を用いる場合の初期離調ΔIを示す。
「×」は掛け算を表す。右辺の「(1-t/T)」が、「ΔI
(lin)」の引数を表すものではなく、「ΔI
(lin)」と「(1-t/T)」との掛け算を行うことを明確にするために、「×」を示している。
式(11)は、式(8)で内部パラメータaの値を0とした場合の式に相当する。
また、ポンプ強度βの値は、式(12)のように示される。
【0080】
【0081】
式(12)は、式(9)で内部パラメータbの値を0とした場合の式に相当する。
線形関数を用いる場合、初期離調ΔIを最適化の対称(探索の対称)とした。
【0082】
図9は、時間に応じて制御パラメータ値を線形に変化させる場合の初期離調Δ
Iの例を示す図である。
図9のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tを、単位をナノ秒として示す。縦軸は、初期離調Δ
Iを2πで除算した値を、単位をギガヘルツ(GHz)として示す。
図9は、上記の最適化で得られた初期離調Δ
Iを、猫状態の生成時間Tごとに示している。
【0083】
図10は、時間に応じて制御パラメータ値を線形に変化させて得られる量子状態のフィデリティの例を示す図である。
図10のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tを、単位をナノ秒として示す。縦軸は、フィデリティを示す。
図6の例と
図10の例とを比較すると、特に猫状態の生成時間Tが比較的短い区間において、
図6の例の方が、フィデリティが高いと評価できる。例えば、
図6の例では、猫状態の生成時間Tが1ナノ秒から10ナノ秒までの区間で、フィデリティが0.984以上になっている。これに対し、
図10の例では、猫状態の生成時間Tが1ナノ秒のときは、フィデリティは、約0.1である。また、
図10の例では、フィデリティが0.984に達するのは、猫状態の生成時間Tが約7ナノ秒の場合である。
【0084】
このように、離調Δの値およびポンプ強度βの値を、2次関数を用いて算出する場合の方が、1次関数を用いて算出する場合よりも、比較的短時間で理想の猫状態、または、それに近い量子状態を得易いと評価できる。離調Δの値およびポンプ強度βの値を、2次関数を用いて算出する場合、以下のように、理想的な猫状態を得易いと考えられる。
【0085】
猫状態の生成処理の開始時には、初期離調ΔIを適切な値に設定することで、エネルギー準位間のバンド幅を広げることができ、これにより、不都合な量子状態への遷移を抑制することができる。一方、初期離調ΔIの大きさが大き過ぎると、量子状態を、初期状態である真空状態から変化させることが困難になる。そこで、演算装置10は、初期離調ΔIの大きさが大き過ぎず、かつ、小さ過ぎないように、初期離調ΔIの値を設定する。
計画生成部220が、初期離調ΔIを探索するようにしてもよい。あるいは、ユーザが初期離調ΔIを決定して演算装置10に入力するようにしてもよい。
【0086】
次に、演算装置10は、ポンプ強度βの値を徐々に大きくすることで、量子状態を変化させる。その際、猫状態(2つのコヒーレント状態の重ね合わせ状態)ができ始めるタイミング付近で、特に、不都合な量子状態に遷移し易くなると考えられる。特に、猫状態の生成時間Tが比較的短い場合、量子状態の遷移が非断熱的な遷移となり、この点で、不都合な量子状態に遷移し易いと考えられる。ここでの不都合な量子状態は、その後の状態遷移で理想的な猫状態に到達できない量子状態、または、理想的な猫状態への到達が困難な量子状態である。
そこで、演算装置10は、ポンプ強度βの値を大きくすると共に、離調Δの大きさも大きくすることで、量子状態が不都合な量子状態に遷移し難くする。
【0087】
不都合な量子状態に遷移し易いタイミングが過ぎた後、離調Δの大きさが大きいままだと、量子状態の遷移が進まず、理想的な猫状態へも遷移しないことが考えられる。そこで、演算装置10は、離調Δの大きさを小さくしていき、最終的には離調の値を0にする。一方、演算装置10は、ポンプ強度βについては、最終的に0よりも大きい値にして、量子状態の遷移を促す。
【0088】
例えば、不都合な量子状態に遷移し易いタイミングが過ぎた後、演算装置10が、離調Δの大きさを小さくし始めるとともに、ポンプ強度については一時的に強めることで、量子状態の変化を促進させるようにしてもよい。演算装置10が、不都合な量子状態に遷移し易いタイミングが過ぎた後に、量子状態の変化を促進させることで、所望の量子状態(理想的な猫状態)を得られると期待される。
【0089】
図5には、演算装置10が、先に、離調Δの大きさを小さくし始め、その後、ポンプ強度βを小さくし始める例が示されている。
図5の例で、演算装置10は、約t/T=0.4経過時に、線L131で示される離調Δの大きさを増加から減少に転じさせている。その後、演算装置10は、t/T=0.6を少し過ぎた頃に、線L132で示されるポンプ強度βを増加から減少に転じさせている。
【0090】
このように、離調Δの大きさおよびポンプ強度βを増加させてから減少させる過程を経ることで、時々刻々と変化するハミルトニアン下で、最大エネルギー状態をおおよそ維持することができ、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。特に、猫状態の生成時間Tが比較的短く、非断熱遷移が起き易い場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0091】
なお、例えば式(2)に示されるハミルトニアンH^RWAにマイナスの符号を付すなど、ハミルトニアンの値の大小関係を反転させることも可能である。この場合、演算装置10が行う上記の処理は、最小エネルギー状態をおおよそ維持するものと解することができる。
【0092】
なお、猫状態の生成時間Tを短くすると、得られたスケジュールの最適解において、離調Δの大きさが、猫状態の生成時間Tの減少時間に対して指数的に大きくなるという、数値実験の結果が得られた。例えば、
図3で、猫状態の生成時間Tが比較的長い線L113の付近では、猫状態の生成時間Tが減少しても、離調Δの最小値(ピーク値)は、あまり減少していない。一方、猫状態の生成時間Tが比較的短い線L111の付近では、猫状態の生成時間Tの減少に対して、離調Δの最小値が大幅に減少している。
これは、猫状態の生成時間Tを短くすることで、不都合な量子状態への遷移しやすさが指数的に増大するためと考えられる。
【0093】
ポンプ強度βの最大値も、猫状態の生成時間Tの減少時間に対して指数的に大きくなるという、数値実験の結果が得られている。例えば、
図4で、猫状態の生成時間Tが比較的長い線L123の付近では、猫状態の生成時間Tが減少しても、ポンプ強度βの最大値は、あまり増加していない。一方、猫状態の生成時間Tが比較的短い線L121の付近では、猫状態の生成時間Tの減少に対して、ポンプ強度βの最大値が大幅に増加している。
【0094】
このように、離調Δの値およびポンプ強度βの値を、2次関数を用いて算出する場合、比較的短時間で理想の猫状態、または、それに近い量子状態を得られる点で、処理時間に関するメリットと、演算精度に関するメリットとを得られる。
処理時間に関するメリットとして、猫状態の生成時間と、猫状態を変数の初期値として用いた量子コンピューティングの時間とを合計した処理全体の時間が短くなることが挙げられる。あるいは、コヒーレンス時間(Coherence Time)に関する制約など、処理全体の時間に上限がある場合、猫状態の生成時間が短いことで、猫状態を変数の初期値として用いた量子コンピューティングに、より多くの時間を割り当てることができる。
【0095】
演算精度に関するメリットとして、猫状態の生成時間が短いことで、生成される猫状態に対するノイズの影響が小さく、この点で、理想的な猫状態により近い量子状態を得られることが挙げられる。理想的な猫状態に近い量子状態を変数の初期値として用いて量子コンピューティングを行うことで、量子コンピューティングで得られる解の精度が高いことが期待される。
【0096】
数値実験では、計画生成部220が3次以上の関数を用いて離調Δおよびポンプ強度βの計算を行う場合について、シミュレーションで量子状態を求め、フィデリティを算出した。具体的には、計画生成部220が離調Δを算出するための関数として、式(13)に示される関数Δ(dΔ)(t/T)を設定した。
【0097】
【0098】
dΔは、式(13)の右辺における次数を表す整数であり、dΔ≧2である。dΔ=2の場合は、式(13)は、式(8)と同様の式になる。
「(dΔ)」は、dΔ次の関数を用いる場合の表記であることを表す。
また、計画生成部220がポンプ強度βを算出するための関数として、式(14)に示される関数β(dΔ)(t/T)を設定した。
【0099】
【0100】
dβは、式(14)の右辺における次数を表す整数であり、dβ≧2である。dβ=2の場合は、式(14)は、式(9)と同様の式になる。dβの値は、dΔの値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
「(dβ)」は、dβ次の関数を用いる場合の表記であることを表す。
【0101】
図11は、2次以上の関数を用いる場合のフィデリティの例を示す図である。
図10のグラフの横軸は、猫状態の生成時間Tを、単位をナノ秒として示す。縦軸は、フィデリティを示す。
数値実験で、式(13)および式(14)を2次関数から6次関数までのそれぞれに設定し、シミュレーションで量子状態を生成してフィデリティを算出した。
図11は、数値実験の結果として算出されたフィデリティを示している。
なお、数値実験では、式(13)と式(14)とを同じ次数に設定している。すなわち、dΔの値とdβの値とを同じ値に設定している。また、数値実験において、それぞれの生成時間Tのもとで、内部パラメータa
i、b
iおよび初期離調Δ
I
(dΔ)を最適化する解探索をおこなっている。
【0102】
凡例の「d」は、多項式の次数を示す。黒丸(●)のプロットは、2次関数を用いた場合の、猫状態の生成時間Tごとのフィデリティを示す。四角形(■)のプロットは、3次関数を用いた場合の、猫状態の生成時間Tごとのフィデリティを示す。上三角(▲)のプロットは、4次関数を用いた場合の、猫状態の生成時間Tごとのフィデリティを示す。下三角(▼)のプロットは、5次関数を用いた場合の、猫状態の生成時間Tごとのフィデリティを示す。星印(★)のプロットは、6次関数を用いた場合の、猫状態の生成時間Tごとのフィデリティを示す。
【0103】
図11に示す数値実験の結果で、猫状態の生成時間Tが1ナノ秒から10ナノ秒までの区間では、2次関数から6次関数の何れを用いた場合も、フィデリティがおよそ1になっている。このことは、例えば、
図10に示す線形関数を用いた場合と比較して良好な結果と評価できる。このことから、2次以上の関数を用いることで、線形関数を用いる場合よりも短時間で猫状態を生成できると期待される。
【0104】
また、猫状態の生成時間Tが0.1ナノ秒から1ナノ秒までの区間では、おおよその傾向として、2次関数を用いた場合よりも、3次以上の関数を用いた場合の方が、フィデリティが高いと把握することができる。
このことからすると、3次以上の関数を用いることで、2次関数を用いる場合よりもさらに短い猫時間の生成時間Tで理想的な猫状態を得られると期待される。
【0105】
なお、演算装置10が用いる離調Δおよびポンプ強度βの計画は、経過時間tに対して滑らかで連続的な値をとるものに限定されず、離調Δの大きさおよびポンプ強度βの値が、一旦増加した後、減少するいろいろな計画とすることができる。
例えば、計画生成部220が、離調Δおよびポンプ強度βの計画、またはこれらのうち何れか一方の計画として、経過時間tに対する三角形関数(Triangular Function)で示される計画を生成するなど、経過時間tに対して滑らかでない計画を生成するようにしてもよい。
あるいは、計画生成部220が、離調Δおよびポンプ強度βの計画、またはこれらのうち何れか一方の計画として、経過時間tに対する階段関数(Step Function または Staircase Function)で示される計画を生成するなど、経過時間tに対して不連続な計画を生成するようにしてもよい。
【0106】
図12は、演算装置10が猫状態を生成する手順の例を示す図である。演算装置10は、複数のカー非線形性パラメトリック発振器100それぞれに対して
図12の処理を行う。あるいは、複数のカー非線形性パラメトリック発振器100の特性が全て同一である場合、演算装置10が、1つのカー非線形性パラメトリック発振器100に対して
図12の処理を行ってカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を完成させるようにしてもよい。そして、演算装置10が、完成させた計画に基づいて、全てのカー非線形性パラメトリック発振器100において猫状態を生成するようにしてもよい。
【0107】
(ステップS1)
図12の処理で、計画生成部220は、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を初期設定する。
例えば、計画生成部220は、式(13)における初期離調Δ
I
(dΔ)および内部パラメータa
i(i=2、・・・、dΔ)のそれぞれに、予め定められている初期値を設定する。これにより、計画生成部220は、時間ごとの離調Δ(t/T)の値の計画を初期設定する。また、計画生成部220は、式(14)におけるポンプ強度βの最終値β
Fに、理想的な猫状態に応じてユーザが指定する値を設定し、内部パラメータb
i(i=2、・・・、dβ)のそれぞれに、予め定められている初期値を設定する。これにより、計画生成部220は、時間ごとのポンプ強度β(t/T)の値の計画を初期設定する。
ただし、計画生成部220が、関数の内部パラメータに初期値を設定する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、計画生成部220が、初期離調Δ
I
(dΔ)、内部パラメータa
i、および、内部パラメータb
i、あるいはこれらのうち一部の初期値を、ランダムに設定するようにしもよい。
【0108】
さらに、必要に応じて計画生成部220は、得られた計画を実行するために、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御で値を直接設定する対象となる制御パラメータの、時間ごとの値を算出する。例えば、計画生成部220は、生成した離調およびポンプ強度の計画を実行するために、ポンプ信号としてカー非線形性パラメトリック発振器100に入力するべき電流の振幅および周波数を算出する。
あるいは、計画生成部220に代えて制御実行部230が、ステップS2でカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御を行う際に、計画で示される値を、上記の制御パラメータの値に変換するようにしてもよい。
ステップS1の後、処理がステップS2へ進む。
【0109】
(ステップS2)
制御実行部230は、計画生成部220が生成した計画に従ってカー非線形性パラメトリック発振器100を制御し、量子状態を生成する。例えば、制御実行部230は、計画生成部220が時間ごとに算出した振幅および周波数のポンプ信号をカー非線形性パラメトリック発振器100に入力することで、カー非線形性パラメトリック発振器100を制御する。
あるいは、制御実行部230が、カー非線形性パラメトリック発振器100の制御に代えてシミュレーションで量子状態を算出するようにしてもよい。これにより、演算装置10は、計画段階ではカー非線形性パラメトリック発振器100の制御を実際に行う必要なしに、制御計画を完成させることができる。
ステップS2の後、処理がステップS3へ進む。
【0110】
(ステップS3)
制御部200は、ステップS2で得られた量子状態のフィデリティを算出する。具体的には、制御部200は、上記の式(10)に基づいて、フィデリティを算出する。
ステップS3の後、処理がステップS4へ進む。
【0111】
(ステップS4)
制御部200は、ステップS2からS5のループの終了条件が成立しているか否かを判定する。ここでの終了条件は、特定のものに限定されない。例えば、フィデリティが所定の閾値以上である場合、ステップS2からS5のループを終了するという終了条件が設定されていてもよい。あるいは、ステップS2からS5のループを所定回数以上繰り返し実行した場合、このループを終了するという終了条件が設定されていてもよい。
【0112】
終了条件が成立していると制御部200が判定した場合(ステップS4:YES)、演算装置10は、
図12の処理を終了する。
一方、終了条件が成立していないと制御部200が判定した場合(ステップS4:NO)、処理がステップS5へ進む。
【0113】
(ステップS5)
計画生成部220は、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を調整する。
例えば、計画生成部220は、ステップS3で算出されたフィデリティの値に基づいて、フィデリティの値をより大きくなるように、式(13)における初期離調ΔI
(dΔ)および内部パラメータaiのそれぞれ値、および、式(14)における内部パラメータbiのそれぞれの値を探索する解探索を行う。
【0114】
計画生成部220が解探索を行う方法は、特定の方法に限定されない。例えば、計画生成部220が、Powell法またはBFGS(Broyden-Fletcher-Goldfarb-Shanno)法など公知の最適化手法を用いて、初期離調ΔI
(dΔ)、内部パラメータai、および、内部パラメータbiのそれぞれの値を探索するようにしてもよい。
計画生成部220は、得られた値を式(13)および(14)に設定することで、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を更新する。
【0115】
ステップS2からS5のループで、制御部200が、上記の式(10)で示されるフィデリティの値を最大化する最適化問題を解くことで、初期離調ΔI
(dΔ)、内部パラメータai、および、内部パラメータbiのそれぞれの値を探索するようにしてもよい。
あるいは、制御部200が、最終ハミルトニアンに対するエネルギー期待値を最大化する最適化問題を解くことで、初期離調ΔI
(dΔ)、内部パラメータai、および、内部パラメータbiのそれぞれの値を探索するようにしてもよい。演算装置10が生成した量子状態を|ψ>と表記して、最終ハミルトニアンHは、式(15)のように示される。
【0116】
【0117】
最終ハミルトニアンHに対するエネルギー期待値Eは、式(16)のように示される。
【0118】
【0119】
さらに、ステップS1の場合と同様、必要に応じて計画生成部220は、得られた計画を実行するために、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御で値を直接設定する対象となる制御パラメータの、時間ごとの値を算出する。あるいは上述したように、計画生成部220に代えて制御実行部230が、ステップS2でカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御を行う際に、計画で示される値を、値を直接設定する対象となる制御パラメータの値に変換するようにしてもよい。
ステップS5の後、処理がステップS2へ戻る。
【0120】
以上のように、計画生成部220は、カー非線形性パラメトリック発振器100に入力されるポンプ信号βの強度が時間経過に応じて第1値(ポンプ強度の初期値)から増加した後、第2値(ポンプ強度の最終値βF)まで減少し、かつ、カー非線形性パラメトリック発振器100の共振周波数と発振周波数との離調Δの大きさが時間経過に応じて第3値(初期離調ΔIの大きさ)から増加した後、第4値(離調の最終値の大きさ)まで減少するように、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を生成する。制御実行部230は、計画生成部220が生成した計画に基づいてカー非線形性パラメトリック発振器100を制御して量子状態を生成する。また、制御実行部230は、得られた量子状態を用いて演算を行う。
【0121】
演算装置10は、ポンプ信号βの強度を時間経過に応じて増加させることで、量子状態を猫状態に向けて変化させる。その際、猫状態ができ始めるタイミング付近で、特に、不都合な量子状態に遷移し易くなると考えられる。特に、猫状態の生成時間Tが比較的短い場合、量子状態の遷移が非断熱的な遷移となり、この点で、不都合な量子状態に遷移し易いと考えられる。
そこで、演算装置10が、ポンプ強度βの値を大きくすると共に、離調Δの大きさも大きくすることで、量子状態が不都合な量子状態に遷移し難くすることができる。
【0122】
不都合な量子状態に遷移し易いタイミングが過ぎた後、離調Δの大きさが大きいままだと、量子状態の遷移が進まず、理想的な猫状態へも遷移しないことが考えられる。そこで、演算装置10は、離調Δの大きさを小さくしていき、最終的には離調の値を0にする。一方、演算装置10は、ポンプ強度βについては、最終的に0よりも大きい値にして、量子状態の遷移を促進させることができる。
【0123】
演算装置10では、このような過程を経ることで、時々刻々と変化するハミルトニアン下で、最大エネルギー状態をおおよそ維持することができ、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
特に、演算装置10によれば、カー非線形性パラメトリック発振器100を用いて猫状態を生成する際、猫状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。例えば、演算装置10によれば、猫状態の生成に要する時間を、離調Δおよびポンプ強度βのスケジューリングに線形関数を用いる場合よりも、猫状態の生成に要する時間を短くすることができる。
カー非線形性パラメトリック発振器100は、パラメトリック発振を行う発振器の例に該当する。猫状態は、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態の例に該当する。
【0124】
また、計画生成部220は、離調Δの大きさが増加から減少に転じた後、ポンプ強度βが増加から減少に転じる、計画を生成する。
演算装置10によれば、不都合な量子状態に遷移し易いタイミングが過ぎた後、離調Δの大きさが小さく、かつ、ポンプ強度βが大きい時間帯を設けることができ、量子状態が理想的な猫状態に向かって遷移することを促進させることができる。演算装置10によれば、この点で、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0125】
また、計画生成部220は、生成した計画に基づいてカー非線形性パラメトリック発振器100を制御した場合に得られる量子状態を示す情報を取得する。そして、計画生成部220は、取得した情報に基づいて計画を更新する。
これにより、計画生成部220は、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を、最適化手法など解探索の手法を用いて更新することができる。この点で、演算装置10によれば、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する好適な制御方法が予め判っていない場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0126】
また、計画生成部220は、量子状態に対する評価を示すフィデリティを目的関数に用いて、時間経過に応じたポンプ強度βを示す第1関数に含まれる内部パラメータの値と、時間経過に応じた離調Δの大きさを示す第2関数に含まれる内部パラメータの値との探索をおこなって、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の計画を更新する。
【0127】
式(9)が第1関数の例に該当する。式(9)では、内部パラメータbが、第1関数に含まれる内部パラメータの例に該当する。式(14)も第1関数の例に該当する。式(14)では、内部パラメータbiが、第1関数に含まれる内部パラメータの例に該当する。
また、式(8)が第2関数の例に該当する。式(8)では、内部パラメータaおよび初期離調ΔIが、第2関数に含まれる内部パラメータの例に該当する。式(13)も第2関数の例に該当する。式(13)では、内部パラメータaiおよび初期離調ΔI
(dΔ)が、第2関数に含まれる内部パラメータの例に該当する。
【0128】
演算装置10によれば、関数の内部パラメータの値を、最適化手法など解探索の手法を用いて探索することで、計画を生成することができる。ここでいう計画を生成することには、計画を更新することが含まれる。
また、演算装置10によれば、計画が関数の形で示され、関数に引数値を入力することで、離調Δの値およびポンプ強度βの値を得られ、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御を実行することができる。このように、演算装置10では、カー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御を実行する際の負荷が比較的小さい。
【0129】
また、第1値(ポンプ強度の初期値)および第4値(離調の最終値の大きさ)は何れも0である。時間経過に応じたポンプ強度βを示す第1関数は、猫状態を生成するためのカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の開始時の値が0であり、猫状態を生成するためのカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の終了時の値が1である、経過時間tの多項式と、第2値(ポンプ強度の最終値βF)とが掛け合わせられた関数である。時間経過に応じた離調Δの値を示す第2関数は、猫状態を生成するためのカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の開始時の値が1であり、猫状態を生成するためのカー非線形性パラメトリック発振器100に対する制御の終了時の値が0である、経過時間tの多項式と、第3値(初期離調ΔI)とが掛け合わせられた関数である。
【0130】
演算装置10によれば、時間経過に応じた離調Δの値を、上記の式(8)または式(13)に例示されるような比較的簡単な関数で示すことができ、時間経過に応じたポンプ強度βの値も、上記の式(9)または式(14)に例示されるような比較的簡単な関数で示すことができる。
【0131】
図13は、実施形態に係る演算装置の構成の、もう1つの例を示す図である。
図13に示す構成で、演算装置610は、計画生成部611と、量子状態生成部612と、演算部613とを備える。
かかる構成で、計画生成部611は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、発振器に対する制御の計画を生成する。量子状態生成部612は、計画に基づいて発振器を制御して量子状態を生成する。演算部613は、得られた量子状態を用いて演算を行う。
計画生成部611は、計画生成手段の例に該当する。量子状態生成部612は、量子状態生成手段の例に該当する。演算部613は、演算手段の例に該当する。
【0132】
演算装置610では、ポンプ信号の強度を時間経過に応じて増加させて、発振器における量子状態の遷移を促し、かつ、離調の大きさを大きくして、量子状態が理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移することを抑制することができる。演算装置610では、その後、離調の大きさを減少させることで、理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移し易い状態と考えられる猫状態のでき始めの量子状態を過ぎた後、量子状態の遷移を促進させることができる。これにより、演算装置610では、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0133】
特に、演算装置610では、パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。すなわち、演算装置610では、重ね合わせ状態の生成時間が比較的短く非断熱遷移が起き易い場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0134】
計画生成部611は、例えば、
図1の計画生成部220等の機能を用いて実現することができる。量子状態生成部612は、例えば、
図1の制御実行部230等の機能を用いて実現することができる。演算部613は、例えば、
図1の問題設定部210および制御実行部230等の機能を用いて実現することができる。
【0135】
図14は、実施形態に係る量子状態生成装置の構成の例を示す図である。
図14に示す構成で、量子状態生成装置620は、計画生成部621と、量子状態生成部622とを備える。
かかる構成で、計画生成部621は、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、発振器に対する制御の計画を生成する。量子状態生成部622は、計画に基づいて発振器を制御して量子状態を生成する。
計画生成部621は、計画生成手段の例に該当する。量子状態生成部622は、量子状態生成手段の例に該当する。
【0136】
量子状態生成装置620では、ポンプ信号の強度を時間経過に応じて増加させて、発振器における量子状態の遷移を促し、かつ、離調の大きさを大きくして、量子状態が理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移することを抑制することができる。量子状態生成装置620では、その後、離調の大きさを減少させることで、理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移し易い状態と考えられる猫状態のでき始めの量子状態を過ぎた後、量子状態の遷移を促進させることができる。これにより、量子状態生成装置620では、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0137】
特に、量子状態生成装置620では、パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。すなわち、量子状態生成装置620では、重ね合わせ状態の生成時間が比較的短く非断熱遷移が起き易い場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0138】
計画生成部611は、例えば、
図1の計画生成部220等の機能を用いて実現することができる。量子状態生成部612は、例えば、
図1の制御実行部230等の機能を用いて実現することができる。
【0139】
図15は、実施形態に係る演算方法における処理の手順の例を示す図である。
図15に示す演算方法は、計画を生成すること(ステップS611)と、量子状態を生成すること(ステップS612)と、演算を行うこと(ステップS613)とを含む。
計画を生成すること(ステップS611)では、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、発振器に対する制御の計画を生成する。
量子状態を生成すること(ステップS612)では、計画に基づいて発振器を制御して量子状態を生成する。
演算を行うこと(ステップS613)では、得られた量子状態を用いて演算を行う。
【0140】
図15に示す演算方法によれば、ポンプ信号の強度を時間経過に応じて増加させて、発振器における量子状態の遷移を促し、かつ、離調の大きさを大きくして、量子状態が理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移することを抑制することができる。
図15に示す演算方法では、その後、離調の大きさを減少させることで、理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移し易い状態と考えられる猫状態のでき始めの量子状態を過ぎた後、量子状態の遷移を促進させることができる。これにより、
図15に示す演算方法では、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0141】
特に、
図15に示す演算方法では、パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。すなわち、
図15に示す演算方法では、重ね合わせ状態の生成時間が比較的短く非断熱遷移が起き易い場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0142】
図16は、実施形態に係る量子状態生成方法における処理の手順の例を示す図である。
図16に示す量子状態生成方法は、計画を生成すること(ステップS621)と、量子状態を生成すること(ステップS622)とを含む。
計画を生成すること(ステップS621)では、パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、発振器に対する制御の計画を生成する。
量子状態を生成すること(ステップS622)では、計画に基づいて発振器を制御して量子状態を生成する。
【0143】
図16に示す量子状態生成方法によれば、ポンプ信号の強度を時間経過に応じて増加させて、発振器における量子状態の遷移を促し、かつ、離調の大きさを大きくして、量子状態が理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移することを抑制することができる。
図16に示す量子状態生成方法では、その後、離調の大きさを減少させることで、理想的な猫状態以外の状態に向かって遷移し易い状態と考えられる猫状態のでき始めの量子状態を過ぎた後、量子状態の遷移を促進させることができる。これにより、
図16に示す量子状態生成方法では、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0144】
特に、
図16に示す量子状態生成方法では、パラメトリック発振を行う発振器を用いて、区別可能な複数の量子状態の重ね合わせ状態を生成する際、重ね合わせ状態の生成に要する時間を比較的短くすることができる。すなわち、
図16に示す量子状態生成方法では、重ね合わせ状態の生成時間が比較的短く非断熱遷移が起き易い場合でも、理想的な猫状態、またはそれに近い状態を得られると期待される。
【0145】
図17は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成の例を示す図である。
図17に示す構成で、コンピュータ700は、CPU710と、主記憶装置720と、補助記憶装置730と、インタフェース740と、不揮発性記録媒体750と、量子チップ760とを備える。
【0146】
上記の演算装置10、演算装置610および量子状態生成装置620のうち何れか1つ以上またはその一部が、コンピュータ700に実装されてもよい。その場合、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU710は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。各装置と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って通信を行うことで実行される。
量子チップ760は、量子力学における量子状態を用いて動作するチップ(回路)である。量子チップ760は、パラメトリック発振を行う発振器を含んで構成され、発振器が量子状態を示す。発振器における量子状態は、CPU710の制御に従って遷移する。発振器における量子状態を用いて、例えば量子アニーリングなどの量子コンピューティングを行うことができる。量子チップ760が、コンピュータ700の本体に外付けの量子デバイスとして構成されていてもよい。
コンピュータ700が、量子チップ760を用いて量子状態を生成するようにしてもよい。あるいは、コンピュータ700が、CPU710を用いたシミュレーションにて量子状態を生成するようにしてもよい。
【0147】
演算装置10がコンピュータ700に実装される場合、制御部200およびその各部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0148】
また、CPU710は、プログラムに従って、制御部200が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。演算装置10と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。演算装置10とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が表示装置および入力デバイスを備え、CPU710の制御に従って各種画像の表示を行い、ユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0149】
演算装置610がコンピュータ700に実装される場合、計画生成部611、量子状態生成部612、および、演算部613の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0150】
また、CPU710は、プログラムに従って、演算装置610が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。演算装置610と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。演算装置610とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が表示装置および入力デバイスを備え、CPU710の制御に従って各種画像の表示を行い、ユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0151】
上述したプログラムのうち何れか1つ以上が不揮発性記録媒体750に記録されていてもよい。この場合、インタフェース740が不揮発性記録媒体750からプログラムを読み出すようにしてもよい。そして、CPU710が、インタフェース740が読み出したプログラムを直接実行するか、あるいは、主記憶装置720または補助記憶装置730に一旦保存して実行するようにしてもよい。
【0152】
なお、演算装置10、演算装置610および量子状態生成装置620が行う処理の全部または一部を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0153】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0154】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0155】
(付記1)
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、
得られた量子状態を用いて演算を行う演算手段と、
を備える演算装置。
【0156】
(付記2)
前記計画生成手段は、前記離調の大きさが増加から減少に転じた後、前記ポンプ信号の強度が増加から減少に転じる、前記計画を生成する
付記1に記載の演算装置。
【0157】
(付記3)
前記計画生成手段は、生成した計画に基づいて前記発振器を制御した場合に得られる量子状態を示す情報を取得し、取得した情報に基づいて前記計画を更新する、
付記1または付記2に記載の演算装置。
【0158】
(付記4)
前記計画生成手段は、量子状態に対する評価を示す目的関数を用いて、前記時間経過に応じた前記ポンプ信号の強度を示す第1関数に含まれる内部パラメータの値と、前記時間経過に応じた前記離調の大きさを示す第2関数に含まれる内部パラメータの値との探索をおこなって、前記計画を更新する
付記3に記載の演算装置。
【0159】
(付記5)
前記第1値および前記第4値は何れも0であり、
前記第1関数は、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の開始時の値が0であり、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の終了時の値が1である、前記経過時間の多項式と、前記第2値とが掛け合わせられた関数であり、
前記第2関数は、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の開始時の値が1であり、前記量子状態を生成するための前記発振器に対する制御の終了時の値が0である、前記経過時間の多項式と、前記第3値とが掛け合わせられた関数である、
付記4に記載の演算装置。
【0160】
(付記6)
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成する計画生成手段と、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成手段と、
を備える量子状態生成装置。
【0161】
(付記7)
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成し、
得られた量子状態を用いて演算を行う、
ことを含む演算方法。
【0162】
(付記8)
パラメトリック発振を行う発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成し、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成する、
ことを含む量子状態生成方法。
【0163】
(付記9)
パラメトリック発振を行う発振器を用いて演算を行う演算装置に、
前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、
得られた量子状態を用いて演算を行うことと、
を実行させるためのプログラム。
【0164】
(付記10)
パラメトリック発振を行う発振器を制御して量子状態を生成する量子状態生成装置に、
前記発振器に入力されるポンプ信号の強度が時間経過に応じて第1値から増加した後、第2値まで減少し、かつ、前記発振器の共振周波数と発振周波数との離調の大きさが前記時間経過に応じて第3値から増加した後、第4値まで減少するように、前記発振器に対する制御の計画を生成することと、
前記計画に基づいて前記発振器を制御して量子状態を生成することと、
を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0165】
10、610 演算装置
100 カー非線形性パラメトリック発振器
200 制御部
210 問題設定部
220、611、621 計画生成部
230 制御実行部
620 量子状態生成装置
612、622 量子状態生成部
613 演算部