(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018138
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】針の検査装置を有する横編機と、横編機の針の検査方法
(51)【国際特許分類】
D04B 35/10 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
D04B35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121264
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】串橋 明
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏英
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054AB02
4L054LA09
4L054NA02
(57)【要約】
【構成】 硬質表面層と硬質表面層とは色または明暗が異なる下層を有する横編機の針を、横編機上で検査する。横編機のレールに沿って針床の上方を移動する撮像装置により、針床から進出した針のフックを撮像する。撮像したフックの画像での、硬質表面層と下層との色または明暗の違いから、判別装置により硬質表面層の摩耗を検査する。撮像したフックの画像を、照合装置により、針床での針のIDに対応させる。
【効果】 針の摩耗を自動的に検査できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針床と、針床の針を進退させる針の進退手段と、針床の上方のレールと、レールを走行するヤーンフィーダとを備え、かつ針床の針のフックは、硬質表面層と、硬質表面層とは色または明暗が異なる下層とを有する、横編機であって、
前記レールに沿って針床の上方を移動し、かつ針床から進出した針のフックを撮像する撮像装置と、
撮像したフックの画像での、硬質表面層と下層との色または明暗の違いから、硬質表面層の摩耗を判別する判別装置と、
撮像したフックの画像を針のIDに対応させる照合装置、とを備える針の検査装置を有する横編機。
【請求項2】
前記判別装置は、前記色または明暗の違いから、針のフックでの下層の露出面積あるいは硬質表面層の残存面積を求め、求めた露出面積または残存面積からフックの摩耗具合を判別することを特徴とする、請求項1の針の検査装置を有する横編機。
【請求項3】
前記判別装置は、前記色または明暗の違いから、フックの下層が露出したことを検出すると、フックが摩耗したと判別するように構成されていることを特徴とする、請求項1の針の検査装置を有する横編機。
【請求項4】
前記撮像装置は、前記レール上を移動する移動体に支持されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかの針の検査装置を有する横編機。
【請求項5】
前記針の進退手段は針床に沿って走行するキャリッジであり、
前記撮像装置は、キャリッジに支持されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかの針の検査装置を有する横編機。
【請求項6】
前記撮像装置は、カメラと、フックからの入射光を前記カメラへ向けて反射するミラー面、とを備えていることを特徴とする、請求項1~5のいずれかの針の検査装置を有する横編機。
【請求項7】
前記撮像装置は先端部が針のフックを向いているファイバスコープであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかの針の検査装置を有する横編機。
【請求項8】
針床と、針床の針を進退させる針の進退手段と、針床の上方のレールと、レールを走行するヤーンフィーダとを備え、かつ針床の針のフックは、硬質表面層と、硬質表面層とは色または明暗が異なる下層とを有する、横編機の針の検査方法であって、
前記レールに沿って針床の上方を移動する撮像装置により、針床から進出した針のフックを撮像すると共に、
撮像したフックの画像での、硬質表面層と下層との色または明暗の違いから、判別装置により硬質表面層の摩耗を検査し、
撮像したフックの画像を、照合装置により、針のIDに対応させることを特徴とする、横編機の針の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は横編機の針の検査に関する。
【背景技術】
【0002】
金属繊維あるいは強化繊維から成る糸を用い、産業資材などを編成すると、横編機の針は例えば1週間程度で摩耗し、針の先端のフックが損傷することがある。フックが破損すると、満足な編成はできない。針の損傷を遅らせるため、(特許文献1:特開2010-13787)は針のフックにDLCコーティング(ダイアモンドライクカーボン・コーティング)を施すことを提案している。DLCコーティングは針の損傷を遅らせるが、損傷を防止するものではない。
【0003】
特許文献2(特開2019-85689)は、針の下地の上に、赤色、橙色、黄色などの中間層を設け、最上部にDLC層などを設けることを開示している。最上部のDLC層が摩耗すると、中間層が現れることから、針の摩耗を検査できる。
【0004】
特許文献3(特開2021-195698)は、針の検査を目的とするものではないが、横編機の針床の上部にカメラを設けて編目を撮像し、編目の良否を検査することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-13787
【特許文献2】特開2019-85689
【特許文献3】特開2021-195698
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属繊維や強化繊維などを用いて編成すると、針は短期間で摩耗するので、横編機の針を自動的に検査することが必要である。この発明の課題は、針の摩耗を自動的に検査できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の針の検査装置を有する横編機は、針床と、針床の針を進退させる針の進退手段と、針床の上方のレールと、レールを走行するヤーンフィーダとを備え、かつ針床の針のフックは、硬質表面層と、硬質表面層とは色または明暗が異なる下層とを有する、横編機であって、
前記レールに沿って針床の上方を移動し、かつ針床から進出した針のフックを撮像する撮像装置と、
撮像したフックの画像での、硬質表面層と下層との色または明暗の違いから、硬質表面層の摩耗を判別する判別装置と、撮像したフックの画像を針のIDに対応させる照合装置とを備えている。
【0008】
この発明の横編機の針の検査方法は、針床と、針床の針を進退させる針の進退手段と、針床の上方のレールと、レールを走行するヤーンフィーダとを備え、かつ針床の針のフックは、硬質表面層と、硬質表面層とは色または明暗が異なる下層とを有する、横編機の針の検査方法であって、
前記レールに沿って針床の上方を移動する撮像装置により、針床から進出した針のフックを撮像すると共に、
撮像したフックの画像での、硬質表面層と下層との色または明暗の違いから、判別装置により硬質表面層の摩耗を検査し、
撮像したフックの画像を、照合装置により、針のIDに対応させることを特徴とする。
【0009】
この発明では、横編機の針を撮像装置により撮像し、判別装置によりフックの画像を検査し、照合装置によりフックの画像あるいは針の損傷の有無などを針のIDに対応させる。このようにして、針床の針を自動的に検査する。なおレールに沿って移動するとは、レールに平行に移動することである。また針床の長手方向とレールの長手方向は平行である。
【0010】
好ましくは、前記判別装置は、前記色または明暗の違いから、針のフックでの下層の露出面積あるいは硬質表面層の残存面積を求め、求めた露出面積または残存面積からフックの摩耗具合を判別する。このようにすると、硬質表面層の摩耗を定量的に評価し、交換が必要な針を正確に指示できる。
【0011】
好ましくは、前記判別装置は、前記色または明暗の違いから、フックの下層が露出したことを検出すると、フックが摩耗したと判別する。このようにすると、硬質表面層が一部でも剥離すると、針の交換を要求するので、余裕を持って針を交換できる。
【0012】
好ましくは、前記撮像装置はレール上を移動する移動体に支持されている。このようにすると、横編機に標準的に備わっているヤーンフィーダなどを移動体とし、撮像装置を移動させることができる。
【0013】
好ましくは、横編機は、針の進退手段として,針床に沿って走行するキャリッジを備え、前記撮像装置はキャリッジに支持されている。このようにすると横編機のキャリッジにより撮像装置を移動させ、かつ撮像装置への給電と撮像装置からのデータ転送もキャリッジを介して行うことができる。
【0014】
好ましくは、撮像装置は、カメラと、フックからの入射光をカメラへ向けて反射するミラー面、とを備えている。針のフックは頂部が折り返し、フック内部の撮像を妨げる。しかしミラーをフックの内部に向き合うように配置し、ミラーによりフックからの入射光をカメラへ転送すると、フックの内部を容易に撮像できる。なおミラーは取り付けが容易なプリズムミラーが好ましい。針床が複数有る場合、ミラー面を針床毎に設けることが好ましい。
【0015】
好ましくは、撮像装置は先端部が針のフックを向いているファイバスコープである。ファイアバスコープは小形で可撓性があるので、フックの内部を容易に撮像できる。針床が複数有る場合、ファイバスコープの先端を各針床へ向けて分岐させることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例の横編機の要部平面図で、針床上の撮像装置を示す。
【
図2】実施例の横編機の要部鉛直方向断面図で、針床上の撮像装置を示す。
【
図6】横編機の要部鉛直方向断面図で、ファイバスコープを用いる撮像装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例0018】
図1~
図8に実施例とその変形を示し、横編機の周知の部分は簡単に説明する。
図1,
図2は、実施例の横編機2の針床4,5の要部を示す。針6は所定のピッチで規則的に針床4,5に配置され、編目を形成するためのフック7を備え、さらに図示しないベラなどを備えている。9は針床4,5間の隙間、即ち歯口である。
【0019】
針床4,5内に後退している状態では、針6が針床の溝に収容されるため、フック7の内側などの撮像は難しい。針6は、後述のキャリッジにより、針床4,5から、タック位置、タック位置よりも進出したクリア位置(編目を払う位置),及び向かい合う針床の針へ編目を受け渡す受け渡し位置などへ、進出する。これらの位置の内で、タック位置は、他の位置よりも長い時間に渡ってフック7の位置が一定であるため、フック7を撮像するのに適している。キャリッジにより針6を進退させるのでは無く、針床4,5の針毎にリニアモータを設けることにより、針を進退させても良い。また針床は一枚でもあるいは4枚などでも良い。
【0020】
頂部8がフック7の先端を折り返すことにより形成されるため、フック7を直上部から撮像すると、フック7の内部が見えないことがある。そこで好ましくは、プリズムミラー14を用いる。プリズムミラー14は、針床4,5毎に設けた一対のミラー面15,15を備え、好ましくはLEDなどの光源16,16からフック7を照明し、フック7,7からの入射光をミラー面15,15で反射させ、カメラ12へ転送する。実施例では、針6の直上部にプリズムミラー14を配置し、ミラー面15,15を用い、水平方向に沿ってかつ針床4,5の長手方向に直角な撮像方向から、フック7の内部を撮像した。カメラ12は、例えばミラー面15,15毎の撮像素子を備えている。なお撮像方向は水平でなくても良く、また針床4,5の長手方向に対して斜めの方向でも良い。またプリズムミラー14以外のミラーを用いても良い。
【0021】
プリズムミラー14はカメラ12に取り付けられ、これらが撮像装置10を構成する。撮像装置10は、後述のキャリッジあるいはヤーンフィーダを転用した移動体などに取り付け、針床4,5の上部(歯口9の上部)を移動させる。
【0022】
図3に示すように、針6は金属の下地20とDLC(ダイアモンドライクカーボン)などの硬質表面層21とを備えている。硬質表面層21は針6の全体に設けても、フック7の周辺のみに設けても良い。硬質表面層21は、DLCの他に、窒化チタン、炭化チタンなどでも良い。例えばDLC,窒化チタンなどの硬質表面層21は暗く、金属色の下地20との明暗の違いにより、識別できる。
【0023】
図4は変形例の針26を示し、下地20と硬質表面層21の間に、色彩を持つ中間層22を設ける。中間層22は例えば黄銅/銅などの有彩色の金属メッキ膜が好ましい。サブミクロンオーダーの膜厚を持ち、表面と底面とでの光の干渉により発色する金属膜、金属酸化物膜なども、中間層22に適している。針26では、中間層22と硬質表面層21との色相の違いにより、硬質表面層21の剥離を検出できる。
【0024】
図5は,金属繊維あるいは強化繊維などからなる糸との接触により摩耗した、フック7を模式的に示す。金属繊維などとの接触により、例えばフック7の頂部8、フック7の内側などに、損傷部24が発生する。一旦硬質表面層21が剥離すると、その後の摩耗は速く、フック7の頂部8がなくなる、フック7が内側から折れるなどのトラブルが生じる。
【0025】
図6は変形例の横編機3を示し、撮像装置10の代わりに、針床4,5毎のファイバスコープ33、33と、新たなカメラ32から成る,撮像装置30を用いる。他の点では、
図1,
図2の横編機2と同様である。ファイバスコープ33は複数の光学ファイバの束からなる受光ファイバ34と、LED等の図示しない光源の光を投光する投光ファイバ35とから成り、先端で向きを変えてフック7を撮像する。
【0026】
図6では、キャリッジあるいはヤーンフィーダを転用した移動体にカメラ32を設けた。しかしファイバスコープ33は可撓性があり、コイル状にして、繰り出しかつ巻き取ることができる。そこでカメラ32を横編機の端に固定し、ファイバスコープ33をコイル状にして、一端をカメラ32に固定し、他端を
図6の位置に配置しても良い。
【0027】
カメラ12,32への給電とデータ転送では、キャリッジにカメラ12,32を設ける場合、キャリッジの電源から給電し、かつキャリッジと横編機2,3のコントローラとの通信を利用し、撮像したデータを転送できる。移動体にカメラ12,32を設ける場合、移動体への給電と通信が可能であれば,これらを用いてカメラ12,32を駆動し、撮像した画像を転送できる。移動体への給電も通信もできない場合、電池によりカメラ12,32を駆動し、画像をメモリに記憶する。そして針の撮像を終了すると、移動体を横編機2,3の端部などへ復帰させ、電池への充電と、メモリからの画像の読み出しを行う。またフック7の画像がどの針7に対応するかを明確にするため、例えば撮像した時刻を画像と共に記憶し、これと同時にどの時刻にカメラ12,32がどの針番号の針を撮像していたかのデータを記憶する。なお針番号は針床での針のIDで、針番号のデータ形式は1,2,3,…等に限らず、AF62,4C12など、針を特定できるものであれば良い。
【0028】
図7に、横編機2,3の構造を示す。針床4,5の上部をキャリッジ40が往復し、針6を進退させて編目を形成する。また針床4,5の上部に複数のレール42が設けられ、複数のヤーンフィーダ44を移動させる。ヤーンフィーダ44は、キャリッジ40が連行し、あるいは自律走行する。
図7は、1個のヤーンフィーダを移動体45とし、撮像装置10,30を搭載する例を示す。
【0029】
コントローラ46はキャリッジ40をコントロールする。横編機2,3は、針6の検査用に、判別装置48と照合装置50を備えている。判別装置48は、撮像装置10,30からのフックを画像解析し、硬質表面層21と下地20との明暗の違い、あるいは硬質表面層21と中間層22との色の違いから、硬質表面層21の剥離を検出する。ここで剥離箇所があれば、その面積/程度によらず、ほどなく損傷にいたるものとして,不良と判別しても良い。あるいは、硬質表面層21が剥離した面積、もしくは下地20,中間層22の露出面積を求め、剥離面積が所定値に達した際に不良と判別しても良い。
【0030】
コントローラ46は、キャリッジ40あるいは移動体45の位置から、撮像装置10,30がどの時刻にどの針を撮像していたかのデータを記憶する。また各針6には針番号(針のID)が付与され、針番号により針6を特定できる。そこで撮像時刻を針番号に変換するためのデータをコントローラから照合装置50へ供給し、判別装置48からの出力(不良な針を撮像した時刻など)を、不良な針の番号に変換し出力する。
【0031】
時刻と針番号を紐付ける代わりに、画像のフレーム番号を針番号と紐付けることもできる。例えば以下のようにする。コントローラ46は、撮像装置10,30に撮像の開始と終了を指示し、所定の時間間隔で撮像装置10,30に針を撮像させる。このようにして、各針のフックを1枚~複数枚の所定枚数ずつ撮像させる。撮像開始から終了までに撮像した位置は、その間のキャリッジ40の位置,あるいは移動体45の位置から判明するので、照合装置50は画像の番号(フレーム番号)を針番号に変換できる。また判別装置48の出力を照合装置50へ入力し、問題の有る針の番号を特定するのではなく、照合装置50から針番号を照合装置48へ入力し、照合装置48が問題の有る針の番号を出力しても良い。画像の撮像時刻あるいはフレーム番号を針番号に変換する方法は任意である。
【0032】
図8は針の検査アルゴリズムを示す。針6の検査は編成前あるいは編成後に行う。例えば編成前に針6を検査する場合、各針6のフック7を撮像装置10,30により撮像する(ステップS1)。
【0033】
針6毎にフックを解析し、硬質表面層21と下地20との明暗の違い、あるいは硬質表面層21と中間層22との色の違いから、フックの摩耗を検出する。明度あるいは色が異なる面積から、硬質表面層21が剥離した面積を求め,剥離面積が所定値以上で不良と判別する。あるいは硬質表面層21の剥離を検出すると、直ちに不良と判別しても良い(ステップS2)。不良と判別した針の番号を求め出力する(ステップS3)。
【0034】
編成では、金属繊維あるいは強化繊維などを用い,産業資材を編成する。編成後に針を検査する場合も、ステップS1~S3を実行すれば良い。
【0035】
実施例では、横編機2,3が2枚の針床4,5を備える場合を説明したが、4枚等の針床を備える場合、各針床の針6を検査するように、撮像装置10,30を変更する。横編機には、針以外にも、シンカー、ループプレッサ-、目移し部材など、糸と擦れ合う部材がある。これらの部材の摩耗も同様に検査できる。また移動体はヤーンフィーダを転用したものでなくても良い。