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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018142
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】土壌の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20240201BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240201BHJP
   C11D 7/10 20060101ALI20240201BHJP
   C11D 7/18 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
C11D7/26
C11D7/10
C11D7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121270
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】下田 政朗
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡之
【テーマコード(参考)】
4D004
4H003
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB02
4D004AB03
4D004CA15
4D004CA34
4D004CA37
4D004CA40
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
4H003DA20
4H003DB01
4H003DB02
4H003EA12
4H003EB04
4H003EB08
4H003ED02
4H003EE04
4H003EE05
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】汚染土壌の洗浄性に優れた土壌の洗浄方法を提供する。
【解決手段】土壌と、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う、土壌の洗浄方法。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌と、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う、土壌の洗浄方法。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【請求項2】
土壌と土壌洗浄剤組成物を混合した混合物を撹拌混合し、その後、該混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去する、請求項1に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項3】
(a)成分は、過酸化水素及び過炭酸ナトリウムから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項4】
土壌洗浄剤組成物は、(a)成分を、0.01質量%以上1.0質量%以下含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項5】
(b)成分は、硫酸第一鉄である、請求項1~4の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項6】
土壌洗浄剤組成物は、(b)成分を、鉄イオン換算で、0.005質量%以上0.2質量%以下含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項7】
(c)成分は、第一解離定数が1.2以上4.6以下の、一価の有機酸、二価の有機酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上である、請求項1~6の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項8】
土壌洗浄剤組成物は、(c)成分を、0.01質量%以上0.3質量%以下含有する、請求項1~7の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項9】
土壌洗浄剤組成物は、更に(d)アスコルビン酸及びその塩、タンニン酸、エリソルビン酸及びその塩、アスコルビン酸誘導体及びその塩、ハイドロサルファイト、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ピロ亜硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、並びに没食子酸から選ばれる1種以上を含む、請求項1~8の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項10】
土壌洗浄剤組成物は、(e)ポリ硫酸第二鉄及び塩化第二鉄から選ばれる1種以上を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項11】
土壌は、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された土壌である、請求項1~10の何れか1項に記載の土壌の洗浄方法。
【請求項12】
下記(a)成分、下記(b)成分及び下記(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成される土壌洗浄剤組成物製造用のキットであって、下記(a)成分と下記(b)成分が別の剤に含まれている、キット。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【請求項13】
(a)成分と(c)成分が同じ剤に含まれる、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
(b)成分を含む剤は、更に(d)アスコルビン酸及びその塩、タンニン酸、エリソルビン酸及びその塩、アスコルビン酸誘導体及びその塩、ハイドロサルファイト、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ピロ亜硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、並びに没食子酸から選ばれる1種以上を含む、請求項12又は13に記載のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の洗浄方法及び土壌洗浄剤組成物製造用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業廃棄物の不法投棄、工場における廃棄物処理、最終処分場からの有害物質漏出事故による土壌汚染そして石油コンビナート、ガソリンスタンドや化学工場などの敷地・跡地では、種々の油類の漏出事故や長期にわたる漏出により、様々な場面で深刻な土壌汚染にみまわれるケースが多発している。
【0003】
従来、このような汚染土壌の修復方法には、掘削後の焼却処理、固化・固定化、囲い込み処理、バイオレメディエーション、分解除去法などの技術が用いられてきた。
また、有機化合物で汚染された土壌中の有機化合物を薬剤により分解除去する浄化技術として、フェントン反応を用いる原位置酸化分解技術が知られている。フェントン反応とは、過酸化水素に鉄(II)化合物が触媒的に反応して複雑な連鎖反応が起り、酸化力の強いヒドロキシルラジカル(・OH)を発生させる方法で、反応式は次のようになる。
Fe2+ + H → Fe2+ + OH +・OH
フェントン反応以外にも様々なヒドロキシルラジカルを発生させる方法があるが、本反応は一番基本的な方法である。この反応は二価鉄が作用することで過酸化水素からヒドロキシルラジカルを発生させる反応であり、発生したヒドロキシルラジカルは、ラジカルの中で最も強い酸化力を示す。その強力な酸化力を利用して、有害物質や難分解性の汚染物質の分解など、様々な分野へ応用されている。
【0004】
特許文献1には、還元剤、金属酸化物及び酸化剤からなる有機化合物分解材が開示されている。
特許文献2には、有機汚染物質に汚染された汚染物を浄化するに当たり、過酸化水素及び鉄系触媒を汚染物に添加した後に、過硫酸塩を添加する有機汚染物質の浄化方法が開示されている。
特許文献3には、有機物で汚染された地盤を清浄化する汚染地盤の清浄化方法であって、汚染地盤に過酸化水素水と第一塩化鉄を供給する工程と、汚染地盤を撹拌翼によって撹拌する工程とを備える汚染地盤の清浄化方法が開示されている。
特許文献4には、有機化合物で汚染された土壌を原位置で洗浄する方法であって、土壌に過酸化水素水を供給し、通水洗浄を行う原位置洗浄方法が開示されている。
特許文献5には、汚染土壌中の炭化水素化合物を酸化分解する酸化分解工程を含み、この酸化分解工程において、汚染土壌に対して、過酸化水素及び二価鉄を含有するフェントン試薬を添加する汚染土壌の浄化方法が開示されている。
特許文献6には、水系システムで形成された金属を含むバイオフィルムに、(a)ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物と(b)還元剤とを接触させるバイオフィルムの除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-249237号公報
【特許文献2】特開2006-341195号公報
【特許文献3】特開2001-79534号公報
【特許文献4】特開2007-237132号公報
【特許文献5】特開2020-195970号公報
【特許文献6】国際公開第2020/230626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェントン法による処理では、反応が瞬時に終了したり、二価鉄が直ぐに酸化され沈殿したりすることで、処理範囲を広げることや長期にわたって処理能力を維持することが困難となる場合がある。例えば高濃度に汚染された土壌を浄化する場合、反応が瞬時に終了するために、どうしても必要以上に酸化剤や二価鉄の量を多くして対応する場合がある。しかし過剰量の二価鉄が用いられた場合、酸化された鉄スラッジが多くなり、その処理コストにより経済性が悪化するおそれがある。さらに地下水に流出した場合は、地下水が赤く着色する「赤水」と呼ばれる現象を引き起こす。また過剰量の酸化剤が用いられた場合、二価鉄が酸化されてしまうとフェントン試薬としての強い分解能力が失われて、水中には酸化剤が残存することになり、それが分解され酸素ガスを放出する。これによって発生した酸素ガスが土壌粒子を持ち上げ移動することで、別の場所で地盤に影響を及ぼすことも想定される。
本発明は、汚染土壌の洗浄性に優れた土壌の洗浄方法及びキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、土壌と、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う、土壌の洗浄方法に関する。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【0008】
また、本発明は、上記(a)成分、(b)成分及び(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成される土壌洗浄剤組成物製造用のキットであって、上記(a)成分と上記(b)成分が別の剤に含まれているキットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汚染土壌の洗浄性に優れた土壌の洗浄方法及び土壌洗浄剤組成物製造用のキットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の土壌の洗浄方法が、汚染土壌の洗浄力に優れる理由は必ずしも定かではないが以下のように推察される。
フェントン反応では、(a)成分であるヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物に(b)成分である二価の鉄を含む化合物が触媒的に反応して複雑な連鎖反応が起こり、酸化力の強いヒドロキシルラジカル(以下、OHラジカルという)が発生する。
(c)成分は、鉄イオンと錯体を形成し、この連鎖反応で生じる三価の鉄を含む化合物の不溶化を抑制することで、反応が起こりやすくなると推察される。これにより、フェントン反応が長期にわたり継続して行われるようになるものと推察される。
また、(c)成分を含み、更に三価の鉄イオンを二価の鉄イオンに還元する(d)成分を含むことで、フェントン反応により生成するOHラジカルの生成量が向上することで、土壌の洗浄力が向上するものと推察される。
更に、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む土壌洗浄剤組成物で、土壌を複数回洗浄すると、2回目以降の土壌の洗浄では、該組成物中のOHラジカル量が緩やかに減少するためと推察する。これは、1回目の洗浄でのヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物の添加によって、2回目の土壌洗浄剤組成物の酸化還元電位が1回目の土壌洗浄剤組成物の酸化還元電位より高くなり、OHラジカルの失活が遅くなることに起因すると推察される。
なお、本発明の土壌の洗浄方法及び土壌洗浄剤組成物製造用のキットは、上記の作用機構になんら限定されるものではない。
【0011】
本発明の土壌の洗浄方法は、土壌と、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【0012】
<土壌洗浄剤組成物>
まず、本発明の土壌の洗浄方法に用いられる土壌洗浄剤組成物について、詳細に説明する。
本発明の土壌洗浄剤組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する。
本発明の土壌洗浄剤組成物は、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された土壌を洗浄する、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された土壌用洗浄剤組成物であってよく、石油系化合物により汚染された土壌を洗浄する石油系化合物で汚染された土壌用洗浄剤組成物であってよい。
【0013】
<(a)成分>
(a)成分は、ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物である。
(a)成分としては、フェントン反応によりヒドロキシルラジカルを生成する化合物が挙げられる。
(a)成分としては、過酸化水素、過炭酸塩及び有機過酸から選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、入手容易性、経済性及びヒドロキシルラジカル生成能の観点から、過酸化水素及び過炭酸塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。過炭酸塩としては、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどの過炭酸アルカリ金属塩が挙げられ、入手容易性、経済性及びヒドロキシルラジカル生成能の観点から、過炭酸ナトリウムが好ましい。
【0014】
<(b)成分>
(b)成分は、二価鉄化合物である。(b)成分は、鉄(II)の硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、過塩素酸塩、水酸化物、酸化物から選ばれれる1種以上が挙げられる。水への溶解性、入手容易性、経済性の観点から、(b)成分は、鉄(II)の硫酸塩、硝酸塩及び塩酸塩から選ばれる1種以上が好ましい。これらの塩は、水和物であってもよい。(b)成分としては、硫酸第一鉄が挙好ましい。硫酸第一鉄としては、硫酸鉄(II)無水物、硫酸鉄(II)・7水和物が挙げられる。
(b)成分は、土壌洗浄剤組成物中で二価の鉄イオンを生成可能な化合物であってもよい。つまり、(b)成分は、三価の鉄化合物と、該鉄化合物の三価の鉄イオンを二価の鉄イオンに還元しうる還元剤と、の混合物であってもよい。
三価の鉄化合物としては、鉄(III)の硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、過塩素酸塩、水酸化物、酸化物から選ばれる1種以上が挙げられる。三価の鉄化合物は、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄なども使用できる。三価の鉄イオンを二価に還元しうる還元剤としては、後に詳細に説明する(d)成分が挙げられる。
【0015】
<(c)成分>
(c)成分は、ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上である。
(c)成分は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、第一解離定数(以下pKa1という)が1.2以上4.6以下の、一価の有機酸、二価の有機酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。
(c)成分のpKa1は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.5以上、そして、好ましくは3.9以下、より好ましくは3.3以下である。
(c)成分の有機酸の分子量(Mw)は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、例えば、70以上、更に75以上、更に95以上、そして、200以下、更に180以下、更に165以下、更に160以下であってよい。
(c)成分の有機酸の炭素数は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、好ましくは2以上、そして、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。
(c)成分の有機酸は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、カルボン酸が好ましく、モノカルボン酸又はジカルボン酸がより好ましい。
(c)成分としては、分子量70以上200以下、更に180以下の炭素数2又は3のヒドロキシモノカルボン酸、分子量70以上200以下、更に180以下の炭素数3又は4のジカルボン酸、分子量70以上200以下の炭素数5以上8以下のヒドロキシカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩が挙げられる。
(c)成分は、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、酒石酸(pKa1:2.98、Mw:150.1)、コハク酸(pKa1:4.19、Mw:118.1)、リンゴ酸(pKa1:3.4、Mw:134.1)、マロン酸(pKa1:2.9、Mw:104.1)、3-ヒドロキシプロピオン酸(pKa1:4.5、Mw:90.1)、乳酸(pKa1:3.86、Mw:90.1)、グリコール酸(pKa1:3.83、Mw:76.1)、マレイン酸(pKa1:1.92、Mw:116.1)、フマル酸(pKa1:3.02、Mw:116.1)、グルコン酸(pKa1:3.86、Mw:196)、及びそれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩が好ましく、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0016】
(c)成分の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0017】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、水を含有する。水は、水道水、地下水、河川水、湖沼水、井戸水などを使用することができる。水は、組成物中、(a)成分、(b)成分、(c)成分及びその他成分を除いた残部であってよく、例えば、組成物中の水の含有量は、90質量%以上99.9質量%以下である。
【0018】
<組成、任意成分等>
本発明の土壌洗浄剤組成物、すなわち、土壌洗浄時に土壌に接触させる土壌洗浄剤組成物は、(a)成分を、ヒドロキシルラジカル生成の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上、そして、瞬時な反応により水中に(a)成分が残存する観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0019】
本発明の土壌洗浄剤組成物に対する(a)成分の使用量は、ヒドロキシルラジカル生成の観点から、過酸化水素換算で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上、そして、瞬時な反応により水中に(a)成分が残存する観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0020】
本発明の土壌洗浄剤組成物、すなわち、土壌洗浄時に土壌に接触させる土壌洗浄剤組成物は、(b)成分を、ヒドロキシルラジカル生成の観点から、鉄イオン換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、そして、生成する鉄スラッジ量の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下含有する。
【0021】
本発明の土壌洗浄剤組成物、すなわち、土壌洗浄時に土壌に接触させる土壌洗浄剤組成物は、(c)成分を、二価鉄イオンの錯体形成の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、そして、洗浄後の洗浄廃水処理の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下、より更に好ましくは0.2質量%以下含有する。
【0022】
本発明の土壌洗浄剤組成物における、(a)成分の過酸化水素換算の含有量と(b)成分の鉄イオン換算の含有量の質量比(a)/(b)は、効率的なヒドロキシルラジカル生成量の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは1.0以上、そして、過剰な(a)成分が残存する観点から、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは10以下である。
【0023】
本発明の土壌洗浄剤組成物における、(b)成分の鉄イオン換算の含有量と(c)成分の含有量の質量比(b)/(c)は、錯体形成による継続的なヒドロキシルラジカル生成の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、そして、洗浄後の洗浄廃水処理の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0024】
<(d)成分>
本発明の土壌洗浄剤組成物は、任意に(d)三価の鉄イオンを二価の鉄イオンに還元しうる還元作用を有する化合物〔但し、(c)成分を除く〕〔以下、(d)成分という〕を含むことができる。
(d)成分は、アスコルビン酸及びその塩、タンニン酸、エリソルビン酸及びその塩、アスコルビン酸誘導体及びその塩、ハイドロサルファイト、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ピロ亜硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、並びに没食子酸から選ばれる1種以上が好ましく、入手容易性及び還元性の観点から、アスコルビン酸及びその塩、ハイドロサルファイト、並びにヒドロキシメタンスルホン酸塩から選ばれる1種以上が好ましく、ヒドロキシルラジカル生成量の観点から、アスコルビン酸及びその塩から選ばれる1種以上が好ましい。(d)成分の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0025】
本発明の土壌洗浄剤組成物が(d)成分を含む場合、本発明の土壌洗浄剤組成物、すなわち、土壌洗浄時に土壌に接触させる土壌洗浄剤組成物は、(d)成分を、ヒドロキシルラジカル生成量の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、洗浄後の洗浄廃水処理の観点から、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下含有する。
【0026】
本発明の土壌洗浄剤組成物が(d)成分を含む場合、本発明の土壌洗浄剤組成物における、(b)成分の鉄イオン換算の含有量と(d)成分の含有量の質量比(b)/(d)は、還元作用による効率的なヒドロキシルラジカル生成量の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、そして、洗浄後の洗浄廃水処理の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは3以下である。
【0027】
<(e)成分>
本発明の土壌洗浄剤組成物は、任意に(e)ポリ硫酸第二鉄及び塩化第二鉄から選ばれる1種以上〔以下、(e)成分という〕を含むことができる。ポリ硫酸第二鉄は、例えば、特公昭51-17516号公報に記載された方法で、硫酸第一鉄水溶液中の硫酸を、硫酸第一鉄1モル当たり0.5モル未満になるようにして酸化することにより調製することができる。
【0028】
本発明の土壌洗浄剤組成物が(e)成分を含む場合、本発明の土壌洗浄剤組成物、すなわち、土壌洗浄時に土壌に接触させる土壌洗浄剤組成物は、(e)成分を、芳香族系化合物や不飽和炭化水素成分の洗浄性向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、生成する鉄スラッジ量を低減する観点から、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0029】
<その他の成分>
本発明の土壌洗浄剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、その他の任意成分を、目的に応じて適宜含有することができる。例えば、本発明の土壌洗浄剤組成物は、ゲル化防止剤、増粘剤、香料、染料、顔料、殺菌剤、防腐剤、pH調整剤、pH緩衝剤などの成分を含有することができる。
【0030】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された土壌を洗浄することができる。すなわち、本発明は、土壌中の、石油系化合物のような油性汚れ、揮発性有機化合物及び重金属を除去することができる。石油系化合物は、例えば、石油系炭化水素が挙げられる。石油系化合物は、例えば、ガソリン、灯油、軽油、重油、機械油などであってよい。揮発性有機化合物は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンや揮発性有機塩素化合物であるトリクロロエチレン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素などであってよい。重金属は、例えば、鉛、六価クロム、カドミウム、砒素、水銀及びその化合物などであってよい。
【0031】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、(a)成分と、(b)成分と、(c)成分と、水とを配合してなり、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された土壌を洗浄する、土壌洗浄剤組成物であってよい。前記した好ましい態様はこの土壌洗浄剤組成物に適宜適用できる。また、前記した各成分の含有量は、配合量に置き換えてこの土壌洗浄剤組成物に適用できる。
【0032】
<土壌洗浄剤組成物製造用のキット>
本発明は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成される土壌洗浄剤組成物製造用のキットであって、(a)成分と(b)成分が別の剤に含まれている、キットを提供する。
【0033】
本発明のキットの例としては、
(1)(a)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分及び(c)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキット
(2)(a)成分及び(c)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキット
(3)(a)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤と、(c)成分を含む剤(この剤は任意に(a)成分又は(b)成分を含んでよい)とから構成されるキット
が挙げられる。
【0034】
本発明のキットでは、酸化能を有する(a)成分と、二価鉄化合物である(b)成分は分離して保存、供給するのが化合物安定性の観点から好ましく、土壌洗浄剤組成物製造時の作業性の観点から、(a)成分及び(c)成分を含む剤と、(b)成分を含む剤とのキットとして供給するのが好ましい。(b)成分及び(c)成分が固体である場合や液体であっても(b)成分と(c)成分の反応性が低い場合には(a)成分を含む剤と、(b)成分及び(c)成分を含む剤とのキットとして供給することが可能である。キットとしては、剤の安定性、作業性の観点から、(a)成分及び(c)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキットがより好ましい。(a)成分、(b)成分及び(c)成分の具体例及び好ましい例などは、本発明の土壌洗浄剤組成物と同じである。本発明の土壌洗浄剤組成物で述べた事項は、本発明のキットに適宜適用することができる。
【0035】
本発明のキットを構成する各剤において、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の含有量は、例えば、前記範囲の含有量や質量比でこれらの成分を含有する本発明の土壌洗浄剤組成物が製造できるような量であってよい。
【0036】
本発明のキットを構成する剤は、それぞれ任意に(d)成分、(e)成分及びその他の任意成分を含むことができる。これらの好ましい態様は、本発明の土壌洗浄剤組成物と同じである。(d)成分及び(e)成分は、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤に含むことが好ましい。
【0037】
(a)成分、(b)成分、(c)成分、任意に(d)成分、任意に(e)成分から選ばれる成分を含む複数の剤は、土壌の洗浄の際に混合され、希釈せず又は水で希釈されて、所定の土壌洗浄剤組成物が調製される。
本発明の土壌洗浄剤組成物製造用のキットは、本発明の土壌洗浄剤組成物の調製に好適に用いられる。
【0038】
(a)成分を含む剤は、(a)成分を、3質量%以上、更に5質量%以上、更に25質量%以上、そして、100質量%以下、更に90質量%以下含有することが好ましく、100質量%含有してもよい。
また、(b)成分を含む剤は、(b)成分を、5質量%以上、更に10質量%以上、更に20質量%以上、そして、100質量%以下、更に90質量%以下含有することが好ましく、100質量%含有してもよい。
また、(c)成分を含む剤は、(c)成分を、5質量%以上、更に10質量%以上、更に20質量%以上、そして、100質量%以下、更に90質量%以下含有することが好ましく、100質量%含有してもよい。
また、(d)成分を含む剤は、(d)成分を、5質量%以上、更に10質量%以上、更に20質量%以上、そして、100質量%以下、更に90質量%以下含有することが好ましく、100質量%含有してもよい。
また、(e)成分を含む剤は、(e)成分を、5質量%以上、更に10質量%以上、更に20質量%以上、そして、100質量%以下、更に90質量%以下含有することが好ましく、100質量%含有してもよい。
【0039】
<土壌の洗浄方法>
本発明の土壌の洗浄方法は、土壌と、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う、土壌の洗浄方法である。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物から選ばれる1種以上
(b)成分:二価鉄化合物
(c)成分:ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上
【0040】
また、本発明の土壌の洗浄方法は、石油系化合物、揮発性有機化合物及び重金属から選ばれる1以上で汚染された掘削土壌と、前記の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有する土壌洗浄剤組成物と、を接触させた後、土壌と土壌洗浄剤組成物の混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去すること、を行う土壌の洗浄を2回以上行う、掘削土壌の洗浄方法であってよい。
本発明の土壌の洗浄方法には、本発明の土壌洗浄剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、本発明の土壌の洗浄方法における(a)成分、(b)成分、(c)成分及び任意成分等の具体例や好ましい態様などは、本発明の土壌洗浄剤組成物と同じである。本発明の土壌の洗浄方法には、本発明の土壌洗浄剤組成物及び/又は本発明の土壌洗浄剤組成物製造用のキットを用いることができる。
【0041】
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と水とを混合し、これに(a)成分と(b)成分と(c)成分とを混合することができる。また、本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と、(a)成分及び(c)成分を含む剤と、(b)を含む剤と、水とを混合することができる。
【0042】
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と土壌洗浄剤組成物との混合物において、土壌洗浄剤組成物(液体)と土壌(固体)との割合(液体/固体の質量比:液固比)は、効率的な洗浄の観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、そして、洗浄廃水を低減する観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.2以下である。
【0043】
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と土壌洗浄剤組成物とを接触させる時間は、洗浄性の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、そして、作業効率の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは16時間以下、更に好ましくは10時間以下である。
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と土壌洗浄剤組成物とを混合した混合物を撹拌混合してもよい。該混合物を撹拌混合する時間は、混合均一性の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、そして、撹拌機の消費エネルギーの観点から、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、更に好ましくは30分以下である。
【0044】
本発明の洗浄方法では、(a)成分を、土壌と水との混合物に対して、洗浄性の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、そして、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下用いることができる。
【0045】
本発明の土壌の洗浄方法では、(b)成分を、土壌と水との混合物に対して、好ましくは0.002質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.03質量%以下用いることができる。
【0046】
本発明の土壌の洗浄方法では、(a)成分と(b)成分を合計で、土壌と水との混合物に対して、好ましくは0.007質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上、そして、好ましくは1.6質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下用いることができる。
【0047】
本発明の土壌の洗浄方法では、(c)成分を、土壌と水との混合物に対して、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは0.5質量%以下用いることができる。
【0048】
本発明の土壌の洗浄方法では、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を合計で、土壌と水との混合物に対して、好ましくは0.012質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、そして、好ましくは2.1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下用いることができる。
【0049】
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌の洗浄を、洗浄性の効率化の観点から、2回以上、好ましくは3回以上、そして、回収水処理の観点から、好ましくは5回以下行うことができる。
【0050】
土壌の洗浄を複数回行う場合、土壌と本発明の土壌洗浄剤組成物とを混合して土壌の洗浄を行った後、該土壌と土壌洗浄剤組成物との混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去する。本発明の土壌の洗浄方法では、この土壌と土壌洗浄剤組成物とを混合する混合工程と、土壌と土壌洗浄剤組成物との混合物から土壌洗浄剤組成物を除去する工程と、を行うことを1回の土壌の洗浄工程とし、この工程を2回以上繰り返す。
本発明の土壌の洗浄方法では、土壌と土壌洗浄剤組成物との混合物から土壌洗浄剤組成物の一部又は全部を除去するために、土壌と土壌洗浄剤組成物の分離操作を行うことができる。分離操作としては、静置により土壌を沈殿させ土壌洗浄剤組成物である上澄み液を除去する操作、メッシュ等を用いて濾過により土壌と土壌洗浄剤組成物を分離する操作、等が挙げられる。
土壌と土壌洗浄剤組成物との混合物から除去される土壌洗浄剤組成物は、再汚染の観点から、土壌に混合された土壌洗浄剤組成物の、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、脱水性の観点から、100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0051】
本発明の土壌の洗浄方法では、洗浄した土壌のすすぎは行ってもよいし、行わなくてもよい。工程の簡略化などの観点では、本発明では、すすぎ工程を実施しなくてもよい。
【0052】
本発明の土壌の洗浄方法では、掘削土壌を、その土壌が存在する場所(現地)で洗浄してもよいし、原位置とは異なる場所(現地外)で洗浄してもよい。例えば、掘削土壌を、現地とは異なる場合に設けた洗浄設備で洗浄することができる。その際、例えば、現地から掘削により採取した土壌を、現地とは異なる場所に設けた洗浄設備に移送して洗浄することができる。洗浄設備は、現地の近くに設置することが好ましい。例えば、ある区域内の所定の場所(現地)で土壌を採取し、同じ区域内の採取場所とは別の場所に洗浄設備を設けることができる。このように、いわゆる現地プラントとして洗浄設備を設けて掘削土壌を洗浄することができる。
また、原位置で洗浄する場合は、例えば掘削した場所に土壌洗浄剤組成物を添加し、重機(バックホウやパワーショベルなど)で簡易的に撹拌洗浄することができる。この場合、地下水を土壌洗浄剤組成物の水の一部として利用することもできる。
【0053】
本発明の土壌の洗浄方法では、洗浄後、土壌を遠心分離することが好ましい。遠心分離の条件は、例えば、遠心加速度が100G以上1200G以下、処理時間が1分以上10分以下である。遠心分離により、土壌と液相との分離が促進され、土壌の回収、再利用(埋め戻し)が容易となる。
遠心分離機が無い場合は、自然沈降し、上澄み液だけを除去することができる。自然沈降させる時間は、10分以上が好ましく、より好ましくは15分以上、更に好ましくは30分以上静置することが好ましい。
【0054】
洗浄後の土壌は、採取した場所や別の場所に埋め戻して再利用することができる。
【実施例0055】
表1~3の土壌洗浄剤組成物の調製には、下記の成分を用いた。
<(a)成分>
・過酸化水素:過酸化水素の30質量%水溶液(富士フイルム和光純薬社製)
・過炭酸Na/炭酸Na=4/1(質量比):(富士フイルム和光純薬社製)
・過炭酸Na/炭酸Na=2/1(質量比):(富士フイルム和光純薬社製)
<(b)成分>
・FeSO・7HO:硫酸鉄(II)・7水和物(富士フイルム和光純薬社製)
<(c)成分>
・酒石酸:DL-酒石酸(富士フイルム和光純薬社製)
・リンゴ酸:DL-リンゴ酸(富士フイルム和光純薬社製)
・コハク酸(林純薬工業社製)
・グルコン酸:グルコン酸の50質量%水溶液(富士フイルム和光純薬社製)
<(d)成分>
・アスコルビン酸:L(+)-アスコルビン酸(富士フイルム和光純薬社製)
・ハイドロサルファイト:ハイドロサルファイトナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
<(e)成分>
・ポリ硫酸第二鉄:ポリテツ(比重1.45以上(20℃)、鉄(Fe3+)11質量%以上、鉄(Fe2+)0.07質量%以下、硫酸イオン(SO 2-)25質量%以下、日鉄鉱業社製)、ポリ硫酸第二鉄を37質量%と換算した。
【0056】
[洗浄性の評価方法]
(1)洗浄試験
(1-1)模擬汚染砂の調製
市販の川砂(あかぎ園芸製群馬県渡良瀬川川砂を水洗い・アク抜き・ふるい通し・選別した砂)を105℃で24時間以上乾燥し室温まで冷却した後、この川砂に軽油を0.5質量%(5000mg/kg)添加し、均一になるようにハンドミキサーで混合し、7日以上室温にて養生し、模擬汚染砂を調製した。
(1-2)洗浄性の評価
表の組成になるように土壌洗浄剤組成物50gを調製した。ただし、土壌洗浄剤組成物は40gの洗浄液Aと10gの洗浄液Bとから構成されるキットを調製し、洗浄時に洗浄液Aと洗浄液Bを混合して用いた。洗浄液Aは(a)成分と、(c)成分を含む場合は(c)成分と、残部が水であり、洗浄液Bは(b)成分と、(d)成分を含む場合は(d)成分と、(e)成分を含む場合は(e)成分と、残部が水である。
100mlスクリュー管に、(1-1)で調製した模擬汚染砂を50g入れ、このスクリュー管に洗浄液Aを40g添加した後、更に洗浄液Bを10g添加し、転倒回転型撹拌器(ロータ・ミックス(型式:RKVSD)、東京硝子機械株式会社製)を用いて回転数20rpmで10分間撹拌洗浄した。
撹拌後30分間静置し、上澄液を抜き取り、洗浄1回のサンプルを得た。別途、上澄液を抜き取ったスクリュー管に再度、洗浄液Aと洗浄液Bを添加し、同様に撹拌→静置→上澄液抜き取りを繰り返し、洗浄2回及び洗浄3回のサンプルを得た。
上澄液を抜き取り後の汚染砂が入った100mlスクリュー管を40℃乾燥器で7日間乾燥した。
次に、前記サンプルの100mlスクリュー管に、50mlのジクロロメタンを添加し、ペンシルミキサーで1分間撹拌し、60分静置した。
静置後の上澄液を50mlスクリュー管に移した後、ジクロロメタンを揮発させた。揮発後、30mlのn-ヘキサンを添加し、スクリュー管内の油をn-ヘキサンに溶解後、このn-ヘキサンを0.8μmのフィルター(ADVANTEC製DISMIC25CS080AN)でろ過し、ろ液を精秤した30mlスクリュー管に移した。このろ液からn-ヘキサンを揮発後、40℃乾燥器で2時間乾燥し、抽出した油が残った30mlスクリュー管を精秤した。
この定量結果を模擬汚染砂50gに含まれる軽油の量として、模擬汚染砂に残存する軽油の量(全石油系炭化水素:Total Petroleum Hydrocarbon:TPH(mg/kg))を算出した。
(1-3)スラッジ量の評価
(1-2)1回目の洗浄時に、転倒回転型撹拌器を用いて10分間撹拌洗浄し、30分間静置後のスラッジ(川砂由来の微粒分と鉄由来の不溶化物を合せたもの)量の高さを測定し、100mlスクリュー管の径からスラッジ体積を算出した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】