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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018156
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】放射線遮蔽材組成物
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20240201BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20240201BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/08
C08L63/00 C
C08K3/30
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121308
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】591065653
【氏名又は名称】株式会社三幸
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 理
(72)【発明者】
【氏名】小栗 康生
(72)【発明者】
【氏名】奥野 敦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛文
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD051
4J002DG047
4J002EN016
4J002EN056
4J002FD146
4J002FD207
4J002GB00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】中性子及びガンマ線に対する遮蔽効果を有する放射線遮蔽材組成物を提供する。
【解決手段】本発明の放射線遮蔽材組成物は、エポキシ樹脂と、原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物と、
を有することを特徴とする放射線遮蔽材組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂の水素原子個数密度が、5.8×1022個/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、又はそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1、又は2に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミンを含むアミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸及び酸無水物系硬化剤からなる群から選ばれた1種以上の硬化剤を含むことを特徴とする請求項1、又は2に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が脂環骨格を有するエポキシ樹脂であって、前記脂環骨格を有するエポキシ樹脂は、環状オレフィンをエポキシ化して得られたエポキシ樹脂、又は芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られたエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂を硬化させたものであることを特徴とする請求項1、又は2に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項6】
前記硬化剤が脂環骨格を有するアミンまたはおよび脂肪族アミンであることを特徴とする請求項4に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項7】
前記金属化合物は、硫酸バリウムであることを特徴とする請求項1、又は2に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項8】
前記放射線遮蔽材組成物中の硫酸バリウムの含有量が65質量%以上であることを特徴とする請求項7に記載の放射線遮蔽材組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の前記放射線遮蔽材組成物を含むことを特徴とする硬化物、又は注型材。
【請求項10】
前記注型材の粘度が600dPa・s以下であることを特徴とする請求項9に記載の注型材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子及びガンマ線に対する遮蔽効果を有する放射線遮蔽材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉や、医療・産業・研究で用いられる加速器などの施設では、中性子が発生するこことから、人体を保護するための遮蔽材が用いられている。また中性子は、原子核と反応を起こしてガンマ線を発生するため、中性子が発生する施設では、中性子と合わせてガンマ線の遮蔽も必要になる。
【0003】
中性子の遮蔽には、中性子と衝突して効果的に減速し、吸収する元素としての水素を多く含み、比較的低い原子番号の元素からなる物質が用いられている。一方、ガンマ線の遮蔽には、鉛を代表とする高い原子番号の元素からなる物質が用いられている。ここで、最も一般的に、中性子及びガンマ線の遮蔽材として用いられている物質は、コンクリートではあるが、その中性子に対する遮蔽効果が限定的であることから、加速器施設などで全体的に中性子を遮蔽する必要がある場合、大規模な遮蔽体として、水などを湛えたタンクを設置したり、局所的な遮蔽材として、ポリエチレンなどのブロックを置いていた。
【0004】
しかし、これらの水やポリエチレンなどの水素を多く含む物質は、ガンマ線に対する遮蔽効果が高くないが、中性子が発生する場所には、中性子と原子核とによる反応により生じる二次ガンマ線など、常にガンマ線も存在していることから、中性子と同等以上の放射線被爆の線源となりうることもある。そこで、一個の遮蔽材で、中性子については水と同等以上、且つガンマ線についてはコンクリートと同等以上の遮蔽性能を同時に持つ物質であれば、上述した中性子源を持つ施設で、単一で万能な遮蔽材として使用することが可能となる。
【0005】
例えば、特許文献1には、水素密度の高い粒状ポリエチレンとガンマ線遮蔽効果を有する粉末状鉛及び鉛化合物と、バリウム及び硫酸バリウム等のバリウム化合物等を流動パラフィン等と混錬した放射線遮蔽材が開示されている。また、特許文献2には、硬化性樹脂材料、原子番号が22以上の重金属又は原子番号が22以上の重金属を含む化合物、及び熱中性子吸収材から成る放射線遮蔽材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53-105700号公報
【特許文献2】特開2003-255081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された放射線遮蔽材は、固形物でなく、取り扱いが困難である。また、一般的に使用されている物質で、中性子及びガンマ線に対する遮蔽性能を同時に満たす物質は知られていない。すなわち、中性子に対して水と同等以上、ガンマ線に対してはコンクリートと同等以上の遮蔽性能を同時に満たす中性子・ガンマ線兼用遮蔽材への開発が求められていた。具体的な遮蔽材の要件として、(1)核分裂、(α、n)中性子などに対して、常温の水を超える中性子遮蔽性能を有すること、(2)10MeV以下のX線やガンマ線に対して一般的に用いられるコンクリートを超えるガンマ線遮蔽性能を有すること、(3)鉛などの有害な重金属を含まず、環境負荷が少ない材質であること、(4)補助遮蔽材として、十分に実用に耐える強度や、コストを実現することが挙げられる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、中性子及びガンマ線に対する遮蔽効果を有する放射線遮蔽材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の放射線遮蔽材組成物は、エポキシ樹脂と、原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物と、を有することを特徴とする。
この構成により、中性子に対しては水と同等以上の遮蔽効果を有するとともに、ガンマ線に対してはコンクリートと同等以上の遮蔽効果を有する。
【0010】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記エポキシ樹脂の水素原子個数密度が、5.8×1022個/cm以上であることを特徴とする。
この構成により、中性子に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、又はそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする。
この構成により、中性子に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記エポキシ樹脂が、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミンを含むアミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸及び酸無水物系硬化剤からなる群から選ばれた1種以上の硬化剤を含むことを特徴とする。
この構成により、中性子に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記エポキシ樹脂が脂環骨格を有するエポキシ樹脂であって、前記脂環骨格を有するエポキシ樹脂は、環状オレフィンをエポキシ化して得られたエポキシ樹脂、又は芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られたエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂を硬化させたものであることを特徴とする。
この構成により、中性子に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記硬化剤が脂環骨格を有するアミンまたはおよび脂肪族アミンであることを特徴とする。
この構成により、中性子に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記金属化合物は、硫酸バリウムであることを特徴とする。
この構成により、ガンマ線に対する遮蔽効果を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の放射線遮蔽材組成物は、前記放射線遮蔽材組成物中の硫酸バリウムの含有量が65質量%以上であることを特徴とする。
この構成により、ガンマ線に対する十分な遮蔽効果を維持することができる。
【0017】
また、本発明の硬化材、又は注型材は、前記放射線遮蔽材組成物を含むことを特徴とする。
この構成により、中性子及びガンマ線に対する遮蔽効果を有する。
【0018】
また、本発明の硬化材は、前記注型材の粘度が600dPa・s以下であることを特徴とする。
この構成により、任意な形状の型枠に充填することが容易である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の放射線遮蔽材組成物は、中性子に対しては水と同等以上の遮蔽効果を有するとともに、ガンマ線に対してはコンクリートと同等以上の遮蔽効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態の放射線遮蔽材組成物について、以下説明する。
【0021】
本発明に係る実施形態の放射線遮蔽材組成物は、エポキシ樹脂と、原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物と、を有する。ここで、本実施形態の放射線遮蔽材組成物は、エポキシ樹脂の海の中に、当該金属化合物が島のように存在している。
【0022】
エポキシ樹脂の水素原子個数密度が、5.8×1022個/cm以上であると好ましい。中性子に対する遮蔽性能は、水素原子個数密度に依存することから、5.8×1022個/cm以上であると好ましく、6.8×1022個/cm以上であるとより好ましい。なお、エポキシ樹脂の水素原子個数密度は、Ultimate analyzer(CHN分析計)などを用いて測定される。
【0023】
また、本実施形態のエポキシ樹脂は、その分子内に2個以上の反応性エポキシ環を有するエポキシ化合物と後述する硬化剤との三次元架橋反応により硬化した熱硬化性樹脂を言う。エポキシ化合物として、(1)下記一般式で示されるようなビスフェノールA型樹脂、(2)ビスフェノールF型樹脂、(3)ビスフェノールAD型樹脂などが挙げられる。さらに、本発明のエポキシ樹脂として、中性子に対する遮蔽性能は、水素原子個数密度に依存することから、上記(1)~(3)の芳香族環に水素添加した材料であると好適である。
【0024】
【化1】
【0025】
さらに、本実施形態のエポキシ樹脂として、エポキシ樹脂が脂環骨格を有するエポキシ樹脂であって、前記脂環骨格を有するエポキシ樹脂は、環状オレフィンをエポキシ化して得られたエポキシ樹脂、又は下記一般式で示されるような芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られたエポキシ樹脂であり、上述したエポキシ樹脂を硬化させたものであるとより好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
また、本実施形態のエポキシ樹脂には、(i)アミン系硬化剤、例えば脂肪族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミン、(ii)ポリアミノアミド系硬化剤、(iii)酸及び酸無水物系硬化剤を含まれてもよい。特に、本実施形態のエポキシ樹脂に含まれる硬化剤として、下記一般式で示されるような脂環骨格を有するアミンまたはおよび脂肪族アミンであると好ましい。主剤であるエポキシ樹脂に対して、これらの硬化剤を添加することにより、両者が架橋反応で三次元構造をとり、硬化する。ここで、本発明のエポキシ化合物に対する硬化剤の配合量は、硬化剤によって適宜選択されるが、エポキシ化合物100質量部に対して、硬化剤は10~200質量部が好ましく、20~100質量部であるとより好ましい。
【0028】
【化3】
【0029】
本実施形態の原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物として、酸化バリウム(BaO)、炭酸バリウム(BaCO)、硫酸バリウム(BaSO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、クロム酸バリウム(BaCrO)、バリウムフェライト(BaFe1219)などが挙げられる。特に、本実施形態の原子番号56以上の金属元素又は遷移金属元素を含有する金属化合物は、硫酸バリウムであると、天然の重晶石の成分であり、溶解度が低く、取り扱い上安全である観点から好ましい。
【0030】
また、硫酸バリウムの粒径は、使用するエポキシ樹脂の粘度との関係で定まる。硫酸バリウムが大粒子である場合、エポキシ樹脂が非常に低粘度の場合、エポキシ樹脂が硬化する前に硫酸バリウム粒子が沈降してしまい、不均等に分布する恐れがある。また硫酸バリウムが小粒子である場合、エポキシ樹脂が高粘度であると、本実施形態の放射線遮蔽材組成物全体の粘度が上昇し、十分均一に混合することができない恐れがある。さらに、硫酸バリウムの結晶形状が板状や針状などの場合、球状に近い結晶より組成物の粘度が増加する傾向がある。
【0031】
例えば、硫酸バリウム粒子の形状が球状とみなせる場合、その粒径は3μm~20μmであると好ましく、10μm~15μmであるとより好ましい。
【0032】
本実施形態の放射線遮蔽材組成物中の硫酸バリウムの含有量が65質量%以上であると、十分なガンマ線に対する遮蔽効果を有する点で好ましい。なお、硫酸バリウムの含有量が65質量%未満であると十分なガンマ線に対する遮蔽効果を発揮することができず、また硫酸バリウムの含有量が70質量%以上であると、本実施形態の放射線遮蔽材組成物の粘度が高くなりすぎて注型を行うことが困難となる。
【0033】
本実施形態の放射線遮蔽材組成物は、BC、BN、B、及びB(OH)等のホウ酸化合物粉末を必要に応じ本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。上述した硬化剤を配合したエポキシ樹脂にさらにホウ素酸化合物を添加すると好ましい。
【0034】
本実施形態のエポキシ樹脂にホウ素酸化合物を添加すると好ましい理由は、ホウ素(B)が、次のような特性を有する核種だからである。水素によって減速された中性子を更に低エネルギー中性子に対して捕獲断面積の大きい核種(例えば、ホウ素)に捕獲させることにより、中性子遮蔽効果を高めることができる。特に、水素によって減速された中性子の捕獲反応後にガンマ線を放出しない核種(例えば、ホウ素)を用いることにより、二次ガンマ線の生成を抑制して、中性子及び二次ガンマ線による総線量を低減することができる。
【0035】
本実施形態の放射線遮蔽材組成物は、エポキシ樹脂が有する中性子遮蔽性能を大きく損なわず、硫酸バリウムが有する二次ガンマ線による線量も抑制できるよう混錬されていることから、中性子に対しては水と同等以上の遮蔽効果を有するとともに、ガンマ線に対してはコンクリートと同等以上の遮蔽効果を有する。
【0036】
本実施形態の硬化物、又は注型材は、上述した本実施形態の放射線遮蔽材組成物を含むものである。本実施形態の硬化物、又は注型材は、上述した本実施形態の放射線遮蔽材組成物と同様に、中性子に対しては水と同等以上の遮蔽効果を有するとともに、ガンマ線に対してはコンクリートと同等以上の遮蔽効果を有する
【0037】
本実施形態の硬化物は、本実施形態の放射線遮蔽材組成物を硬化させることにより得られる。本実施形態の硬化物の形状は、特に制限されないが、ブロック状や、平板状等が挙げられる。
【0038】
また、本実施形態の注型材は、本実施形態の放射線遮蔽材組成物を含み、注型可能な流動性を有している。また、本実施形態の注型材は、その粘度が600dPa・s以下であると、任意の形状の型枠に充填しやすい点で好ましい。
【0039】
本実施形態の放射線遮蔽材組成物の製造方法は、以下の通りである。
【0040】
先ず、放射線遮蔽材組成物の原料の1つである、エポキシ樹脂は5.8×1022個/cm以上であると好ましい。また、硫酸バリウムと混合する前に、エポキシ樹脂に対し、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミンを含むアミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸及び酸無水物系硬化剤からなる群から選ばれた1種以上の硬化剤を添加すると好ましい。主剤であるエポキシ樹脂に対して、これらの硬化剤を添加することにより、両者が架橋反応で三次元構造をとり、硬化する。
【0041】
また、硫酸バリウムの粒径は3μm~20μmであると好ましく、10μm~15μmであるとより好ましい。
【0042】
上述したエポキシ樹脂と、硫酸バリウムとの重量配分が35質量%:65質量%となるように計量し、混合機を用いて混合することにより、混合物が得られる。エポキシ樹脂と、硫酸バリウムとの混合に用いられる混合機は、特段の制限はないが、撹拌と同時に脱泡が可能な混合機であると好ましい。例えば、株式会社愛工舎製作所製のケミカルミキサーなどが挙げられる。
【0043】
そして、得られた混合物を、脱泡専用機、又は脱泡可能な混合機を用いて脱泡する。一般的に、ある物質の放射線遮蔽性能(放射線の減衰)は、同一組成であれば密度×厚さの指数関数で減衰する。すなわち、当該物質の密度が小さくなると、その放射線遮蔽性能は低下する。本実施形態の硬化物、又は注型材の遮蔽の対象である放射線は透過する距離が長いため、本実施形態の硬化物、又は注型材中の泡の存在により、密度低下とみなされる。よって、本実施形態の硬化物、又は注型材中の泡の混入が、中性子遮蔽性能等が低下すことになることから、泡を可能な限り排除すると好ましい。また、脱泡時間は、選定したエポキシ樹脂と硫酸バリウムとの混合物における反応熱の上昇傾向及び硬化時間のデータより決定すると好ましく、1分間~120分間であれば良く、7分間~60分間で調整するとより好ましい。脱泡専用機は、株式会社大塚製作所製の真空脱泡装置などが挙げられる。
【0044】
このようにして、本実施形態の放射線遮蔽材組成物が得られる。
【0045】
本実施形態の硬化物、又は注型材の製造方法の一例として、いわゆる注型法を、以下説明する。
【0046】
必要な部材の形状となるように型枠を組み、本実施形態の放射線遮蔽材組成物を流し込む。ここで、エポキシ樹脂として、室温硬化型エポキシ樹脂を用いる場合は、当該型枠に注型後、室温(25℃)で静置することにより、十分硬化させる。本実施形態の硬化物、又は注型材の温度を、CA熱電対や放射温度計などの適切な温度計を用いて測定し、本実施形態の硬化物、又は注型材の温度が室温に戻ったことを確認することにより、硬化の完了を確認することができる。ここで、硬化時間は、1時間~168時間であれば良く、6時間~72時間で調整するとより好ましい。
【0047】
また、エポキシ樹脂として、加温硬化型エポキシ樹脂を用いる場合は、該型枠に注型し、室温(25℃)で96時間程静置した後、用いた加温硬化型エポキシ樹脂の特性に応じた加熱処理を行うことにより、硬化の完了とする。ここで、当該加熱処理の一例として、80℃で1時間加熱した後、さらに150℃で3時間加熱するなどが挙げられる。なお、JIS K 7148-1:2015「プラスチック-エポキシ樹脂-示差熱走査熱量測定(DSC)による硬化度の測定法」により、測定してもよい。
【0048】
また、本実施形態の放射線遮蔽材組成物の実施例を示して、以下説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
エポキシ樹脂(三共薬品製、製品名:ER130)203gと、硬化剤(三共薬品製、製品名:EH-10)60.9gとを計量し、ケミカルミキサー(株式会社 愛工舎製作所製、型式:ACM-5LVT、仕様:単層100V)内に注入し、2分間撹拌した。なお、撹拌子は2軸仕様(スパイラルフック型:SCS13型)であった。
【0050】
次に、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)491gを加え、撹拌しながら脱泡機にて30分間脱泡することにより、実施例1に係る放射線遮蔽材組成物を得た。なお、実施例1で用いた硫酸バリウムの平均粒径は、レーザー回折・散乱法により得られる粒度分布から算出される累積50%径(メジアン径D50)は、12μmであった。
【0051】
そして、実施例1に係る放射線遮蔽材組成物の一部を採取し、粘度測定を行った結果、開始時の粘度は33dPa・sであり、2時間経過後の粘度は34dPa・sであったことから、注型して硬化物を得るのに十分な流動性を有することを確認した。
【0052】
また、実施例1に係る放射線遮蔽材組成物の残りの一部を直径40mm、高さ250mmの透明塩ビ管に注型した。そして、20℃で、72時間静置後、高さ方向に上下2か所を切り出し、それらの比重を測定し、上部から切り出した上部試料の比重の平均値(2.22g/cm)と、下部から切り出した下部試料の比重の平均値(2.23/cm)とに有意な差がないことを確認した。硫酸バリウムの比重は、エポキシ樹脂よりも大きいため、エポキシ樹脂が硬化する前に硫酸バリウムが沈降して下部に硫酸バリウムが溜まってしまうことにより、上部に硫酸バリウムが十分に存在せず、ガンマ線遮蔽性能が低下してしまうおそれがあることから、上下の比重分布を測定し、非均質性が生じていないことを確認した。
【0053】
(実施例2)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル製、製品名:YX-8000)271.3gと、硬化剤(三菱ケミカル製、製品名:jERキュア113)78.7gとを計量し、ケミカルミキサー(株式会社 愛工舎製作所製、型式:ACM-5LVT、仕様:単層100V)内に注入し、2分間撹拌した。なお、撹拌子は2軸仕様(スパイラルフック型:SCS13型)であった。
【0054】
次に、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)650gを加え、撹拌しながら脱泡機にて30分間脱泡することにより、実施例2に係る放射線遮蔽材組成物を得た。実施例2に係る放射線遮蔽材組成物の一部を採取し、粘度測定を行った結果、開始時の粘度は128dPa・sであり、2時間経過後の粘度は149dPa・sであったことから、実施例1と同様に、注型して硬化物を得るのに十分な流動性を有することを確認した。
【0055】
また、実施例2に係る放射線遮蔽材組成物の残りの一部を直径40mm、高さ250mmの透明塩ビ管に注型した。そして、20℃で96時間静置後、80℃で1時間加熱し、その後150℃で3時間加熱した後、高さ方向に上下2か所を切り出し、それらの比重を測定し、上部から切り出した上部試料の比重の平均値(2.099g/cm)と、下部から切り出した下部試料の比重の平均値(2.096/cm)とに有意な差がないことを確認し、非均質性が生じていないことを確認した。
【0056】
(実施例3)
エポキシ樹脂(三共薬品製、製品名:ER130)1,765gと、硬化剤(三共薬品製、製品名:EH-10)529gとを計量し、ケミカルミキサー(株式会社 愛工舎製作所製、型式:ACM-5LVT、仕様:単層100V)内に注入し、2分間撹拌した。なお、撹拌子は2軸仕様(スパイラルフック型:SCS13型)であった。
【0057】
次に、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)4,261gを加え、撹拌しながら脱泡機にて75分間脱泡することにより、実施例3に係る放射線遮蔽材組成物を得た。実施例3に係る放射線遮蔽材組成物を、アルミ板及びPTFE板で構成された成型用型枠(300mm×300mm×30mm)に注型した。そして、20℃で、72時間以上静置し、実施例3に係る硬化物を得た。このようにして得られた実施例3に係る硬化物を試験体1枚分とし、後述する中性子線及びガンマ線遮蔽効果の測定試験では、実施例3に係る硬化物の試験体10枚分を作製した。
【0058】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)に代えて、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BF-1)を用いたこと以外、実施例1と同様にし、比較例1に係る放射線遮蔽材組成物を得た。比較例1で用いた硫酸バリウムの平均粒径(メジアン径D50)は、0.05μmであった。そして、比較例1に係る放射線遮蔽材組成物の一部を採取し、粘度測定を行った結果、開始時の粘度は420~500dPa・sであった。
【0059】
(比較例2)
比較例2は、実施例1の硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)に代えて、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:B-30)を用いたこと以外、実施例1と同様にし、比較例1に係る放射線遮蔽材組成物を得た。比較例2で用いた硫酸バリウムの平均粒径(メジアン径D50)は、0.3μmであった。そして、比較例2に係る放射線遮蔽材組成物の一部を採取し、粘度測定を行った結果、開始時の粘度は測定不能(4000dPa・s)であった。
【0060】
(比較例3)
比較例3は、実施例1の硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)に代えて、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:沈降性硫酸バリウム100)を用いたこと以外、実施例1と同様にし、比較例3に係る放射線遮蔽材組成物を得た。比較例3で用いた硫酸バリウムの平均粒径(メジアン径D50)は、0.6μmであった。そして、比較例3に係る放射線遮蔽材組成物の一部を採取し、粘度測定を行った結果、開始時の粘度は測定不能(1550~1670dPa・s)であった。
【0061】
(比較例4)
比較例4は、実施例1の硫酸バリウム(堺化学製、製品名:BMH-100)に代えて、硫酸バリウム(堺化学製、製品名:板状硫酸バリウムA)を用いたこと以外、実施例1と同様にし、比較例4に係る放射線遮蔽材組成物を得た。比較例4で用いた硫酸バリウムの平均粒径(メジアン径D50)は、5~10μmであった。そして、比較例4に係る放射線遮蔽材組成物は、半固形であるため、粘度測定を行うことができなかった。
【0062】
そして、実施例1、2に係る放射線遮蔽材組成物、及び実施例3に係る硬化物について、次のような物性値を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、実施例1、2に係る放射線遮蔽材組成物の測定結果を表1に示し、実施例3に係る硬化物の測定結果を表2に示す。
【0063】
〈中性子線及びガンマ線遮蔽効果〉
実施例1、2に係る放射線遮蔽材組成物の中性子線及びガンマ線遮蔽性能は、最も信頼性の高い計算法とされるANISNコードによる1次元計算で算出した。中性子に対する遮蔽性能を評価するための中性子源は、原子力施設において、最も重要で、遮蔽性能を評価する際に最もよく使われる核分裂線源であるCf-252の自発核分裂中性子源とした。また、ガンマ線に対する遮蔽性能を評価するためのガンマ線源は、原子力や加速器施設で放射化により生じるガンマ線の最も主要なものであるCo-60からのガンマ線とした。
【0064】
照射形状は、無限の広さを持つ平板に、一様な平行ビーム状の中性子、又はガンマ線が垂直に入射する形状として、厚さ方向の実効線量の分布を計算して、厚さごとの実効線量の減衰を求めた。具体的には、中性子に対する遮蔽性能は、入射位置から中性子と二次ガンマ線との合計線量が1/10、1/100、1/1000となる厚さを評価した。ガンマ線に対する遮蔽性能は、入射位置からガンマ線の線量が1/10となる厚さを評価した。ここで、上述した計算に使用した核定数ファイルは、MATXSLIB-J33であった。上述した計算においては、角度分点数としてS16をとり、ルジャンドル展開項数はPで打ち切った。さらに、収束基準は2×10-4とした。
【0065】
実施例1、2に係る放射線遮蔽材組成物の中性子線性能の比較対象は、水とした。また、実施例1、2に係る放射線遮蔽材組成物のガンマ線性能の比較対象は、コンクリートとした。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、実施例1に係る放射線遮蔽材組成物は、カルホルニウム252から放出される中性子について、半無限平板の遮蔽材に平行ビーム状に中性子が入射した時の中性子線量減衰率が水より25%小さい程度(中性子+二次ガンマ線線量率が1/10になる厚さ寸法が水の1.25倍以内)であった。また、水中で二次ガンマ線線量率が中性子線量率を超える厚さ以上の厚さにおける二次ガンマ線線量率が水の1/5以下であった。さらに、コバルト60から放出される光子について、半無限平板の遮蔽材に平行ビーム状に光子が入射し際の線量減衰が比重2.2g/cmのコンクリートと同等以上(線量率が1/10になる厚さがコンクリートの1.00倍以内)であった。
【0068】
また、実施例2に係る放射線遮蔽材組成物は、カルホルニウム252から放出される中性子について、半無限平板の遮蔽材に平行ビーム状に中性子が入射した時の中性子線量減衰率が水と同等(中性子+二次ガンマ線線量率が1/10になる厚さ寸法が水の1.10倍以内)であった。また、水中で二次ガンマ線線量率が中性子線量率を超える厚さ以上の厚さにおける二次ガンマ線線量率が水の1/5以下であった。さらに、コバルト60から放出される光子について、半無限平板の遮蔽材に平行ビーム状に光子が入射し際の線量減衰が比重2.2g/cmのコンクリートと同等以上(線量率が1/10になる厚さがコンクリートの1.02倍以内)であった。
【0069】
また、実施例3に係る硬化物について、Am-Be中性子(点線源)からの中性子が透過した時の中性子及び二次ガンマ線の減衰(遮蔽体の有無による線量の比)を測定し、同じ条件で測定した水、又はコンクリートにおける減衰と比較した。具体的には、厚さ寸法30cmの実施例3に係る硬化物、水、及び密度2.37g/cmのコンクリートを透過した際の中性子及び二次ガンマ線線量の減衰を測定した。
【0070】
さらに、実施例3に係る硬化物について、Co-60点線源からのガンマ線が透過した時のガンマ線線量の減衰(遮蔽体の有無による線量の比)を測定し、同じ測定条件で測定したコンクリートにおける減衰と比較した。具体的には、厚さ寸法30cmの実施例3に係る硬化物、及び密度2.37g/cmのコンクリートを透過した際のガンマ線線量の減衰を測定した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示す通り、実施例3に係る硬化物は、中性子の遮蔽性能を示すAm-Be中性子源からの中性子の30cm厚さ透過後の中性子+二次ガンマ線の線量率の減衰は、0.0177であり、コンクリート(0.0523)をはるかに凌ぎ、水(0.0190)と同等以上の中性子遮蔽性能を示した。また、ガンマ線の遮蔽性能を示すコバルト60線源からのガンマ線の30cm厚さ透過後のガンマ線の線量率の減衰は約0.050(約1/20)であり、コンクリート(約0.050)とほぼ同等のガンマ線遮蔽性能を示した。
【0073】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る放射線遮蔽材組成物は、中性子及びガンマ線に対する遮蔽効果を有する遮蔽材として好適である。また、本発明に係る放射線遮蔽材組成物は、人体や環境への負荷が小さい原料を用いている観点から、環境負荷低減につながる。