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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018171
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】シート状移植用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/02 20060101AFI20240201BHJP
   C12N 11/16 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61F2/02
C12N11/16
A61L27/38
A61L27/52
A61L27/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121337
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】霜田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】古迫 正司
(72)【発明者】
【氏名】水野 均
(72)【発明者】
【氏名】津田 直人
【テーマコード(参考)】
4B033
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4B033NA16
4B033NB48
4B033NB63
4B033NC06
4B033ND12
4B033NF10
4B033NG05
4B033NH09
4B033NH10
4B033NJ10
4C081AC16
4C081CD02
4C081CD34
4C081DA02
4C081DA12
4C097AA30
4C097BB01
4C097CC01
4C097DD01
4C097DD15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低侵襲に体内に移植することができる、生細胞を封入したシート状移植用デバイスを提供する。
【解決手段】シート状移植用デバイス10は、生細胞を封入したハイドロゲルとハイドロゲルを被覆する半透膜とを有するシート状の細胞封入部1を備え、トラカール40を通過可能な第1形態と、細胞封入部1が厚さ方向に隙間を空けて配置される3次元の第2形態とをとることができる。細胞封入部1は、複数の直線部5および複数の連結部6を備え、直線部5と連結部6が細胞封入部1の長手方向に交互に配列する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有するシート状の細胞封入部を備え、
トラカールを通過可能な第1形態と、前記細胞封入部が厚さ方向に隙間を空けて配置される3次元の第2形態とをとることができる、シート状移植用デバイス。
【請求項2】
前記第1形態によって前記トラカールを通過後、腹腔内において前記第2形態に移行する、請求項1に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項3】
前記第2形態から前記第1形態に移行可能である、請求項2に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項4】
前記細胞封入部が、前記トラカールの内径以下の幅を有する帯状に形成され、
前記第2形態において、前記細胞封入部が幅方向に平行な軸線回りに湾曲し、
前記細胞封入部の弾性変形によって、前記シート状移植用デバイスが前記第2形態から前記第1形態に移行する、請求項1に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項5】
前記第2形態において、前記細胞封入部は、該細胞封入部の長手方向に沿って曲率が一方向に単調変化することによって渦巻き状に湾曲する、請求項4に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項6】
前記細胞封入部が、複数の短冊状の直線部と、隣接する2つの該直線部の長手方向の端部同士を連結する複数の連結部とを備え、
該連結部は、前記軸線回りに湾曲し、
前記連結部を伸ばすことによって、前記シート状移植用デバイスが前記第2形態から前記第1形態に移行する、請求項4に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項7】
前記第2形態において、前記細胞封入部の長手方向に沿って配列する複数の前記連結部が交互に逆方向に180°湾曲する、請求項6に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項8】
前記細胞封入部が、複数の短冊状の直線部と、隣接する2つの該直線部の幅方向の端部同士を連結する複数の連結部とを備え、
前記第2形態において、前記幅方向に沿って配列する前記複数の連結部が交互に逆方向に180°よりも小さい角度で湾曲し、
前記連結部の湾曲角度を180°に近づけることによって、前記シート状移植用デバイスが前記第2形態から前記第1形態に移行する、請求項4に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項9】
生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有する細胞封入部と、該細胞封入部の固定端が固定される基部とを備え、
トラカールを通過可能な第1形態と、前記トラカールの通過後の第2形態とをとることができ、
前記第1形態において、前記細胞封入部の可動端が、前記細胞封入部の少なくとも一部の弾性変形を伴って前記基部を通過する所定の軸線に近接する位置に配置され、
前記第2形態において、前記細胞封入部の前記可動端が、前記弾性変形の復元力によって前記軸線から離れた位置に配置される、シート状移植用デバイス。
【請求項10】
前記細胞封入部が、シート状であり、
前記第1形態において、前記細胞封入部の少なくとも一部が弾性変形の範囲内で折り畳まれる、請求項9に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項11】
前記基部が、前記シート状の細胞封入部の中心部に設けられ、
該細胞封入部が、前記基部回りの周方向に山折りおよび谷折りを交互に繰り返すことによって前記第1形態に折り畳まれる、請求項10に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項12】
前記細胞封入部を腹腔内に固定するためのアンカー部をさらに備える、請求項1または請求項9に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項13】
前記アンカー部が、臓器の隙間からウィンスロー孔に挿入され、前記臓器に引っ掛かってウィンスロー孔内に挿入状態に維持される形状を有する、請求項12に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項14】
複数の直棒状のサブユニットと、隣接する2つの該サブユニット同士を連結する複数の連結部とを備え、
各前記サブユニットが、厚さ方向に重ねられた複数の帯状の細胞封入部の束を備え、各該細胞封入部が、生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有し、
各前記サブユニットの横断面が、トラカールの内孔の横断面よりも小さく、
前記複数のサブユニットが直列に配列し前記トラカールを通過可能な第1形態と、前記複数のサブユニットが並列に配列する第2形態とをとることができる、シート状移植用デバイス。
【請求項15】
各前記サブユニットが、前記束を収容する物質透過性のケースを備え、
各前記連結部が、前記ケース同士を連結する、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項16】
各前記連結部が、隣接する2つの前記サブユニットの長手方向の端部同士を連結する湾曲部を備え、
前記第2形態において、前記シート状移植用デバイスの長手方向に沿って配列する前記湾曲部が交互に逆方向に180°湾曲し、
前記湾曲部を伸ばすことによって、前記シート状移植用デバイスが前記第2形態から前記第1形態に移行する、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項17】
各前記連結部が、隣接する2つの前記サブユニットを、該2つのサブユニットが並列に配列する相対位置と直列に配列する相対位置との間で並進移動可能に連結する、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項18】
少なくとも1つの前記サブユニットを腹腔内に固定するためのアンカー部をさらに備える、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項19】
前記アンカー部が、臓器の隙間からウィンスロー孔に挿入され、前記臓器に引っ掛かってウィンスロー孔内に挿入状態に維持される形状を有する、請求項18に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項20】
各前記細胞封入部が、隣接する他の前記細胞封入部との間に隙間を維持する突起を備える、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【請求項21】
各前記サブユニットにおいて、前記複数の細胞封入部が、前記並列の方向または前記直列の方向に重ねられている、請求項14に記載のシート状移植用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状移植用デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を封入したシートを折り畳むことによって形成された3次元の細胞封入デバイスが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1によれば、デバイスの実効面積を抑えながら細胞の容量を増やすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-512022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、膵臓前駆細胞を封入した複数の短冊状の細胞チャンバを微小間隔を空けて平行に配置することによって、膵臓前駆細胞を密集させ、糖尿病の治療に必要な量のインスリンを体内において産生することができる。しかし、このデバイスは比較的大きいので、体内に移植する際には、侵襲性が高い開腹手術が必要である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、低侵襲に体内に移植することができるシート状移植用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有するシート状の細胞封入部を備え、トラカールを通過可能な第1形態と、前記細胞封入部が厚さ方向に隙間を空けて配置される3次元の第2形態とをとることができる、シート状移植用デバイスである。
【0007】
本発明の他の態様は、生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有する細胞封入部と、該細胞封入部の固定端が固定される基部とを備え、トラカールを通過可能な第1形態と、前記トラカールの通過後の第2形態とをとることができ、前記第1形態において、前記細胞封入部の可動端が、前記細胞封入部の少なくとも一部の弾性変形を伴って前記基部を通過する所定の軸線に近接する位置に配置され、前記第2形態において、前記細胞封入部の前記可動端が、前記弾性変形の復元力によって前記軸線から離れた位置に配置される、シート状移植用デバイスである。
【0008】
本発明の他の態様は、複数の直棒状のサブユニットと、隣接する2つの該サブユニット同士を連結する複数の連結部とを備え、各前記サブユニットが、厚さ方向に重ねられた複数の帯状の細胞封入部の束を備え、各該細胞封入部が、生細胞を封入したハイドロゲルと該ハイドロゲルを被覆する半透膜とを有し、各前記サブユニットの横断面が、トラカールの内孔の横断面よりも小さく、前記複数のサブユニットが直列に配列し前記トラカールを通過可能な第1形態と、前記複数のサブユニットが並列に配列する第2形態とをとることができる、シート状移植用デバイスである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低侵襲に体内に移植することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るシート状移植用デバイスの第2形態を示す斜視図である。
図2】細胞封入部の構成を示す断面図である。
図3】トラカールを通過して腹腔内に挿入される第1形態の図1のシート状移植用デバイスを示す図である。
図4】アンカー部の一例を示す図である。
図5】第1実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの第2形態を示す斜視図である。
図6】トラカールを通過して腹腔内に挿入される第1形態の図5のシート状移植用デバイスを示す図である。
図7】第1実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの第2形態を示す平面図である。
図8】第1実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの第2形態を示す斜視図である。
図9図8の移植用デバイスの第1形態を示す図である。
図10】第2実施形態に係るシート状移植用デバイスの第2形態を示す(a)平面図および(b)側面図である。
図11図10の移植用デバイスの第1形態を示す側面図である。
図12】第2実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの部分断面図である。
図13】第2実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの第2形態を示す側面図である。
図14】第3実施形態に係るシート状移植用デバイスの第2形態を示す斜視図である。
図15】サブユニットの分解斜視図である。
図16】細胞封入部の(a)平面図および(b)I-I線における横断面図である。
図17】トラカールを通過して腹腔内に挿入される第1形態の図14のシート状移植用デバイスを示す図である。
図18】第3実施形態に係る他のシート状移植用デバイスの第2形態を示す(a)側面図および(b)平面図である。
図19図18のシート状移植用デバイスの第1形態と第2形態との間の移行動作を説明する図である。
図20】トラカールを通過して腹腔内に挿入される第1形態の図18のシート状移植用デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態に係るシート状移植用デバイスについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係るシート状移植用デバイス10は、糖尿病(特に、1型糖尿病またはインスリン依存状態の2型糖尿病)の患者の血糖値を正常化するためのデバイスであり、バイオ人工膵島とも呼ばれる。移植用デバイス10は、トラカール40を経由して患者の腹腔A内に移植され(図3参照。)、移植用デバイス10に含まれる生細胞2の働きによって血糖降下作用を発揮し血糖を調節する。
【0012】
図1に示されるように、移植用デバイス10は、シート状の細胞封入部1を備える。細胞封入部1は、トラカール40の内径よりも小さい幅を有する長尺の帯状に形成されている。一例において、腹腔鏡用の一般的なトラカール40の内径は5mmまたは12mmであるので、細胞封入部1の幅は5mm未満または12mm未満である。
図2に示されるように、細胞封入部1は、生細胞2を封入したシート状のハイドロゲル3と、ハイドロゲル3の表面を被覆する半透膜4と、を有する。
【0013】
生細胞2は、インスリンを分泌するインスリン分泌細胞を少なくとも含み、インスリン分泌細胞は、β細胞であってもよい。生細胞2は、α細胞、δ細胞、ε細胞およびPP(pancreatic polypeptide)細胞の少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞およびPP細胞は、膵島を構成する細胞であり、グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、グレリンおよび膵ポリペプチドをそれぞれ分泌する。生細胞2として膵島がハイドロゲル3内に含まれていてもよい。
生細胞2のドナーは、ヒト、ブタ、サル、ラットまたはマウス等の動物であり、ブタまたはヒトであることが好ましく、ドナー不足解消の観点からブタであることがより好ましい。膵島は、成体のブタ膵島、または、胎生期、新生児期もしくは周産期のブタ膵島であってもよい。
生細胞2は、インスリンを分泌するインスリン分泌細胞を少なくとも含み、インスリン分泌細胞は、他家ヒト細胞であってもよく、すなわち、ヒト胚性幹細胞やヒトiPS細胞から分化誘導されたヒトβ細胞であってもよく、さらに遺伝子組換え細胞であってもよい。
【0014】
ハイドロゲル3は、アルギン酸を化学架橋によってゲル化したものであり、ハイドロゲル3内において、生細胞2は、相互に間隔を空けて均一に分散し固定される。網目構造を有するハイドロゲル3は、酸素ならびに生細胞2の栄養素、分泌因子および老廃物等の小さな分子の通過を許容し、抗体等の大きな分子および細胞の通過を阻止する。このようなハイドロゲル3は、生存に必要な環境および足場を生細胞2に提供し、生細胞2または膵島に対する免疫拒絶を防止するとともに、細胞同士の衝突による細胞死や膵島の分解による機能低下を防ぐことができる。ハイドロゲル3の透過性は、アルギン酸の分子量、濃度、架橋基の種類および導入率、ゲル化に用いる2価金属イオンの種類および濃度、またはこれらの組み合わせによって調整される。
【0015】
本明細書において、「アルギン酸」は、アルギン酸塩および修飾されたアルギン酸(すなわちアルギン酸誘導体)を含む。ハイドロゲル3に使用されるアルギン酸は、任意の1つ以上のカルボキシル基に環状アルキン基が導入されたアルギン酸誘導体と、任意の1つ以上のカルボキシル基にアジド基が導入されたアルギン酸誘導体との組み合わせであってもよく、化学架橋が、環状アルキン基とアジド基とによって生じてもよい。具体的には、アルギン酸誘導体は、国際公開第2019/240219号、国際公開第2021/125225号、国際公開第2020/262642および国際公開第2022/137345に開示されるアルギン酸誘導体のいずれかであることが好ましい。
【0016】
アルギン酸誘導体は、生体適合性および安定性に優れ、細胞毒性が少なく、移植部位における癒着および炎症がほとんどない。また、アルギン酸誘導体のゲルは、溶解が少ないため長期間にわたって形状を維持することができ、生細胞2による血糖降下作用を長期間にわたって持続することができる。また、アルギン酸誘導体は、ゲルの作製が容易であること、および、バイオ3Dプリンタ等の使用によって所望の形状への成形が容易であることから、移植用デバイス10に最適な材料の一つである。
【0017】
半透膜4は、樹脂製のメッシュからなる基材の表面をセルロース誘導体でコーティングすることによって形成されている。セルロース誘導体は、好ましくは酢酸セルロースである。半透膜4は、ハイドロゲル3を封入する袋状であり、ハイドロゲル3の表面全体を被覆する。セルロース誘導体によって、細胞封入部1の組織との癒着が防止される。
半透膜4は、酸素ならびに生細胞2の栄養素、分泌因子および老廃物等の小さな分子の通過を許容し、抗体等の大きな分子および免疫細胞の通過を阻止する。これにより、半透膜4は、生細胞2または膵島に対する免疫拒絶を防止する。
【0018】
また、半透膜4は、移植用デバイス10に強度、すなわち物理的圧力に対する耐久性を付与する。重力の加わり方および外部からの物理的な影響等の状態を移植用デバイス10の全体にわたって均一にすることは困難であり、それに起因して、生細胞2の環境が場所によって異なり得る。強度を有する半透膜4によって移植用デバイス10の外側を被覆し、さらにハイドロゲル3によって細胞を固定することで、環境の差異が生細胞2に与える影響を緩和することができる。
【0019】
1つの移植用デバイス10に含まれるインスリン分泌細胞の数は、1000個~1000000個であることが好ましい。細胞封入部1の長さは、生細胞2の必要数に応じて設計される。例えば、細胞封入部1の幅は、1mm~20mmであり、細胞封入部1の長さは、30mm~1000mmである。
半透膜4の厚さは、2mm以下である。半透膜4の厚さは、1.5mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0020】
細胞封入部1は、以下のようにして作製される。
アルギン酸誘導体の溶液に生細胞2または膵島を懸濁して懸濁液を調整し、懸濁液をバイオ3Dプリンタを使用して2価金属イオンを含む溶液中に吐出しシート状に成形する。2価金属イオンは、カルシウムイオンであることが好ましい。2価金属イオンとの接触によって懸濁液中のアルギン酸誘導体のイオン架橋および化学架橋が進み、アルギン酸誘導体がゲル化され、生細胞2または膵島を封入したシート状のハイドロゲル3が作製される。一方、半透膜4は、熱加工、圧着加工、切断または熱密閉/融着等によって、後述する第2形態の形状を有する袋状に成形される。ハイドロゲル3を半透膜4内に封入し、半透膜4の開口部を加熱等によってシールすることによって、細胞封入部1が作製される。
【0021】
ゲル化は、懸濁液を半透膜4内に封入した後に行われてもよい。この場合、袋状の半透膜4内に懸濁液を封入し、半透膜4の開口部をシールし、その後に、2価金属イオンを含む溶液中に半透膜4を浸漬する。これにより、半透膜4内でアルギン酸誘導体がゲル化しハイドロゲル3が作製される。
【0022】
ハイドロゲル3内において生細胞2が均一に分散することが、物質透過性、生細胞2の生存および機能発揮にとって重要である。バイオ3Dプリンタを使用することによって、所望の形状のハイドロゲル3を作製することができるのみならず、ハイドロゲル3内の細胞の分散および配置を自由に制御することができる。
移植用デバイス10は、CPC(細胞培養加工施設)において製造され、その後、培養液、生理食塩水または保存液内に37℃または冷蔵で保存された状態で医療機関に提供される。
【0023】
図1および図3に示されるように、細胞封入部1は、複数の直線部5および複数の連結部6を備え、直線部5と連結部6が細胞封入部1の長手方向に交互に配列する。移植用デバイス10は、連結部6の変形によって、細胞封入部1が少なくとも部分的に真っ直ぐに伸びトラカール40内を通過可能な第1形態(図3参照。)と、細胞封入部1が蛇行形状に折り畳まれた3次元の第2形態(図1参照。)と、をとることができる。
【0024】
各直線部5は、平坦な短冊状であり、複数の直線部5は所定の同一の長さを有する。
各連結部6は、直線部5の幅方向に平行な軸線回りに180°湾曲し、隣接する2つの直線部5の長手方向の端部同士を連結する。連結部6は、真っすぐに伸びた形状に弾性変形可能である。
【0025】
第2形態において、細胞封入部1の長手方向に沿って配列する複数の連結部6は、交互に逆方向に湾曲し、それにより、複数の直線部5は、厚さ方向に隙間を空けて相互に並列に配列する。隣接する直線部5間に隙間を形成し直線部5同士が密着することを防止するために、直線部5の表面にスペーサとして凸部が設けられていてもよい。自然状態において、移植用デバイス10は、第2形態をとる。少なくとも一部の連結部6を伸ばすことによって、移植用デバイス10は、第2形態から、複数の直線部5が直列に配列する第1形態に移行する。
第2形態において、各連結部6は、180°よりも小さい角度で湾曲していてもよい。この場合、
【0026】
移植用デバイス10は、細胞封入部1を腹腔A内に固定するためのアンカー部7をさらに備えていてもよい。アンカー部7の形態は、移植用デバイス10の移植部位に応じて設計される。移植部位は、例えば、大網または小網上であってもよく、後腹膜の近傍の両側の脇腹であってもよい。
【0027】
アンカー部7は、ウィンスロー孔、モリソン窩またはダグラス窩のような、腹腔A内に元々存在する窪みに挿入および固定されるように構成されていてもよい。例えば、アンカー部7は、臓器D,Eの隙間からウィンスロー孔Cに挿入され、臓器D,Eに引っ掛かってウィンスロー孔C内に挿入状態に維持される形状を有していてもよい。一例において、図4に示されるように、アンカー部7は、一端部が渦巻き状に巻かれたワイヤであり、ワイヤの他端は細胞封入部1と接続される。
アンカー部7は、腹膜等の組織に固定可能な外科用のクリップ、例えばライゲーションクリップであってもよく、クリップは、ワイヤを介して細胞封入部1と接続されていてもよい。
【0028】
次に、移植用デバイス10の移植方法について説明する。
図3に示されるように、第1形態の移植用デバイス10が一端から他端まで順に、腹壁Bを貫通するトラカール40を通過して腹腔A内に挿入される。トラカール40を通過後、移植用デバイス10は、一端から順に第1形態から第2形態に自発的に移行する。
移植用デバイス10の全部が腹腔A内に挿入された後、アンカー部7によって細胞封入部1が周囲の組織または臓器に固定される。
アンカー部7を備えない移植用デバイス10の場合、移植用デバイス10は、腹腔A内に固定せずに留置されてもよく、腹壁等の組織に縫合によって固定されてもよい。あるいは、移植用デバイス10は、大網を縫合することによって形成されたポケット内に留置されてもよい。
【0029】
腹腔A内において、酸素およびグルコース等の栄養素が、移植用デバイス10の外側から半透膜4およびハイドロゲル3を透過して生細胞2に供給され、生細胞2がインスリンを分泌する。インスリンは、ハイドロゲル3および半透膜4を透過して移植用デバイス10の外側へ放出され、血糖降下作用を発揮して患者の血糖値を抑制する。
【0030】
このように、本実施形態によれば、第1形態の移植用デバイス10をトラカール40を経由して低侵襲に腹腔A内に移植することができる。
また、腹腔A内において、移植用デバイス10は第2形態に移行する。第2形態において、細胞封入部1は厚さ方向に直線部5間の隙間を空けて配置され、各位置の生細胞2に隙間を通して直線部5の両面から酸素および栄養素が効率的に供給される。これにより、移植用デバイス10内の全ての生細胞2によるインスリンの分泌を促進し、移植用デバイス10による高い治療効果を得ることができる。
【0031】
また、化学架橋されたアルギン酸誘導体から形成されるハイドロゲル3は、生体内での安定性に優れている。したがって、ハイドロゲル3の形状ならびに生細胞2の生存および機能が長期間にわたって維持され、それにより、移植用デバイス10は、長期間、例えば数年間にわたって血糖効果作用を維持することができる。
【0032】
ハイドロゲル3内のインスリン分泌細胞または膵島の機能が低下した場合、鉗子のような把持具をトラカール40を通過して腹腔A内に挿入し、把持具によって細胞封入部1の一端を把持し、細胞封入部1をトラカール40内に引き込む。移植用デバイス10は、部分的に第2形態から第1形態に移行しながらトラカール40内に引き込まれ、トラカール40を通過して体外へ取り出される。このように、移植用デバイス10は第2形態から第1形態に移行可能であるので、移植用デバイス10をトラカール40を経由して低侵襲で腹腔A内から容易に取り出すことができ、患者の少ない身体的負担で移植用デバイス10を交換することができる。
【0033】
本実施形態において、移植用デバイス10の一端に、X線不透過性の材料からなるマーカが配置されていてもよい。
この構成によれば、体外から腹部にX線を照射することによって、把持具によって把持すべき移植用デバイス10の一端を容易に確認することができる。
【0034】
本実施形態において、移植用デバイス10は、長尺の帯状の細胞封入部1が蛇行形状に折り畳まれた第2形態をとることとしたが、これに代えて、移植用デバイス10が、他の第2形態をとってもよい。図5から図9は、本実施形態に係る他の移植用デバイス10を示している。
【0035】
図5の移植用デバイス10の第2形態において、細胞封入部1は、長手方向に沿って一方向に曲率が単調に増加または減少することによって渦巻き状に湾曲する。細胞封入部1は、湾曲した形状から長手方向に真っ直ぐに伸びた形状へ弾性変形可能である。図6に示されるように、移植用デバイス10は、細胞封入部1が少なくとも部分的に伸びることによって第2形態から第1形態に移行し、トラカール40を通過後に細胞封入部1の弾性復元力によって第2形態に自発的に移行する。
【0036】
図5の第2形態において、細胞封入部1の全長にわたって曲率が変化し、細胞封入部1の全長が湾曲している。図7に示されるように、第2形態において、細胞封入部1は、交互に配列する湾曲部分および直線部分を有していてもよい。図5および図7の移植用デバイス10においても、細胞封入部1の表面にスペーサとして凸部が設けられていてもよい。
【0037】
図8の移植用デバイス10の細胞封入部1は、矩形のシート状に形成され、複数の短冊状の直線部5と、隣接する2つの直線部5の幅方向の端部同士を連結する複数の連結部6とを有する。この移植用デバイス10は、細胞封入部1が蛇腹状に折り畳まれた第2形態を有する。具体的には、第2形態において、直線部5の幅方向に沿って配列する複数の連結部6は、直線部5の長手方向に平行な軸線回りに交互に逆方向に180°よりも小さい角度で湾曲し、複数の直線部5は、厚さ方向に隙間を空けて相互に並列に配列する。
【0038】
図9に示されるように、移植用デバイス10を幅方向に圧縮し連結部6の湾曲角度を180°に近付けることによって、移植用デバイス10は、第2形態から、トラカール40の内径よりも小さい寸法まで幅方向に圧縮された第1形態に移行する。図9は、トラカール40内の第2形態の移植用デバイス10を長手方向に見た図である。
【0039】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るシート状移植用デバイスについて図面を参照して説明する。
図10および図11に示されるように、本実施形態に係るシート状移植用デバイス20は、傘のように開閉することによって第1形態と第2形態との間で移行する点において、第1実施形態と相違する。
本実施形態において、第1実施形態と相違する構成について説明し、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
移植用デバイス20は、シート状の細胞封入部11と、基部8とを有する。
細胞封入部11は、基部8を中心に広がる多角形状または円形状であり、中心部に基部8に固定される固定端11aを有し、外縁に可動端11bを有する。細胞封入部11は、生細胞2を封入するシート状のハイドロゲル3と、ハイドロゲル3の全表面を被覆する半透膜4とを有する。第1実施形態の細胞封入部1と同様に、細胞封入部11は、第2形態の形状を有する袋状に成形された半透膜4内にハイドロゲル3を封入することによって作製される。
【0041】
図11に示されるように、第1形態において、細胞封入部11は、基部8回りの周方向に山折りおよび谷折りを交互に繰り返すことによって折り畳まれる。したがって、細胞封入部11は、折り畳み可能な柔軟性を有する。図10において、細い実線は山折り線を示し、細い破線は谷折り線を示す。第1形態において、可動端11bは、少なくとも固定端11aおよび谷折り線における弾性変形を伴って軸線Xに近接する位置に配置され、移植用デバイス20は、軸線Xに直交する径方向においてトラカール40の内径よりも小さい寸法を有する。所定の軸線Xは、基部8を通過し、平坦に広げられた細胞封入部11に垂直な方向に延びる。第1形態において、山折りによって形成される複数の襞が軸線X回りに巻かれてもよい。
【0042】
第1形態において、細胞封入部11の少なくとも一部が弾性変形の範囲内で折り畳まれる。したがって、トラカール40を通過後、細胞封入部11の少なくとも一部の弾性変形の復元力によって可動端11bが軸線Xから径方向に離れ、それにより、細胞封入部11は、基部8を中心に2次元的または3次元的に広がった形状に展開する。これにより、移植用デバイス20は、第1形態から第2形態に自発的に移行する。図10の第2形態において、細胞封入部11が、折り線においてわずかに屈曲する3次元形状を有するが、平坦に広がる2次元形状を有していてもよい。
移植用デバイス20は、細胞封入部11を腹腔A内に固定するためのアンカー部7をさらに備えていてもよい(図11参照。)。アンカー部7は、基部8に接続されていてもよい。
【0043】
図10および図11は、説明を分かり易くするために、少ない襞を有する細胞封入部11を例示しているが、襞の数は任意であり、第1形態において細胞封入部11同士が密着する程度に多数の襞が密集していてもよい。
また、第2形態において、図10(b)のように略平坦に開くことなく、細胞封入部11の間隔がわずかに広がる程度に襞が折り畳まれた状態に維持されてもよい。
【0044】
次に、移植用デバイス20の移植方法について説明する。
第1形態の移植用デバイス20は、トラカール40を通過して腹腔A内に挿入される。トラカール40を通過後、移植用デバイス20は、第2形態に自発的に移行する。移植用デバイス20の全部が腹腔A内に挿入された後、アンカー部7によって細胞封入部11が周囲の組織または臓器に固定される。
アンカー部7を備えない移植用デバイス20の場合、移植用デバイス20は、腹腔A内に固定せずに留置されるか、腹壁等の組織に縫合によって固定されるか、または、大網を縫合することによって形成されたポケット内に留置されてもよい。
【0045】
このように、本実施形態によれば、第1形態の移植用デバイス20をトラカール40を経由して低侵襲に腹腔A内に移植することができる。
また、腹腔A内において、移植用デバイス20は第2形態に移行する。第2形態において、細胞封入部11は重なることなく広がり、各位置の生細胞2に細胞封入部11の両面から酸素および栄養素が効率的に供給される。これにより、細胞封入部11内の全ての生細胞2によるインスリンの分泌を促進し、移植用デバイス20による高い治療効果を得ることができる。
また、化学架橋されたアルギン酸誘導体から形成されるハイドロゲル3によって、移植用デバイス20は、長期間、例えば数年間にわたって血糖効果作用を維持することができる。
【0046】
ハイドロゲル3内のインスリン分泌細胞または膵島の機能が低下した場合、鉗子のような把持具をトラカール40を通過して腹腔A内に挿入し、把持具によって基部8を把持し、移植用デバイス20をトラカール40内に引き込む。移植用デバイス20は、第2形態から第1形態に移行しながらトラカール40内に引き込まれ、トラカール40を通過して体外へ取り出される。このように、移植用デバイス20は第2形態から第1形態に移行可能であるので、移植用デバイス20をトラカール40を経由して低侵襲で腹腔A内から容易に取り出すことができ、患者の少ない身体的負担で移植用デバイス20を交換することができる。
基部8を容易に確認可能にするために、基部8がX線不透過性の材料を含んでいてもよい。
【0047】
移植用デバイス20の回収時、はさみのような切断具をトラカール40を通過して腹腔A内に挿入し、第2形態の移植用デバイス20を腹腔A内で切断具によって複数の断片に切断し、断片をトラカール40または切開部を経由して腹腔A内から取り出してもよい。
【0048】
本実施形態において、移植用デバイス20は、単一の細胞封入部11を備えていてもよいが、図12に示されるように、相互に隙間を空けて厚さ方向に重ねられた複数の細胞封入部11を備えていてもよい。複数の細胞封入部11からなるシート状のユニット11Aが、第1形態と第2形態との間で移行する。この構成によれば、1つの移植用デバイス20に含まれる生細胞2の数を増やすことができ、また、移植用デバイス20内のあらゆる位置の生細胞2へ細胞封入部11間の隙間から酸素および栄養素を供給することができる。
【0049】
本実施形態において、移植用デバイス20は、図13に示されるように、少なくとも1つの細胞封入部11をそれぞれ有する複数のサブユニット11Bを備えていてもよい。例えば、複数のサブユニット11Bは、基部8間を接続するワイヤによって、軸線Xが直列に配列する方向に相互に連結されていてもよい。この構成によれば、トラカール40を通過して複数のサブユニット11Bを順番に腹腔A内に移植することができる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るシート状移植用デバイスについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係るシート状移植用デバイス30は、複数の細胞封入部12をそれぞれ有する複数のサブユニット9を備える点において、第1および第2実施形態と相違する。
本実施形態において、第1実施形態と相違する構成について説明し、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
図14に示されるように、移植用デバイス30は、複数のサブユニット9および複数の連結部13を備え、サブユニット9および連結部13が移植用デバイス30の長手方向に交互に配列する。移植用デバイス30は、連結部13の変形によって、トラカール40内を通過可能な第1形態(図17参照。)と、移植用デバイス30が蛇行形状に折り畳まれた3次元の第2形態(図14参照。)と、をとることができる。
【0052】
各サブユニット9は、相互に直交する長さ方向、幅方向および高さ方向を有する直棒状である。各サブユニット9の横断面は、トラカール40の内孔の横断面よりも小さい。
図15に示されるように、各サブユニット9は、複数のシート状の細胞封入部12の束と、物質透過性を有し束を収容するケース14とを有する。
【0053】
各細胞封入部12は、所定の長さを有する平坦な帯状であり、複数の細胞封入部12が厚さ方向に重ねられることによって束が形成される。図16に示されるように、各細胞封入部12は、生細胞2を封入するハイドロゲル3と、半透膜4とを有する。細胞封入部12は、帯形状の袋状に成形された半透膜4内にハイドロゲル3を封入することによって作製される。
【0054】
各細胞封入部12は、隣接する他の細胞封入部12との間に隙間を維持する複数のスペーサ15a,15bをさらに有する。複数のスペーサ15a,15bは、細胞封入部12の厚さ方向に突出する突起であり、長手方向に間隔をあけた複数の位置において細胞封入部12の幅方向の両端に設けられる。一端のスペーサ15aおよび他端のスペーサ15bは、相互に逆方向に突出する。
【0055】
ケース14は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンまたはナイロン等の生体適合性のポリマー樹脂から形成される。ケース14は、例えばメッシュ構造を有し、酸素、栄養素および分泌因子等の分子を透過させる。
ケース14は、細長い四角筒状であり、一の側面に該一の側面よりも小さい開口部14aを有する。ケース14内に開口部14aから細胞封入部12を1枚ずつ入れ細胞封入部12を重ねることによって、ケース14内に束が形成される。開口部14aは、半透膜4と同様の半透膜16によって塞がれてもよい。半透膜16は、開口部14aよりも大きく、ケース14の側面と同一の大きさ有し、開口部14aを囲む縁に接着、癒着または固定ピンによって固定される。
【0056】
連結部13は、サブユニット9の高さ方向に平行な軸線回りに180°湾曲する板ばねであり、隣接する2つのサブユニット9の長さ方向の端部同士を連結する。連結部13は、ケース14と同一のポリマー樹脂またはステンレス等の金属から形成され、ケース14同士を連結する。連結部13は、真っすぐに伸びた形状に弾性変形可能である。
【0057】
第2形態において、移植用デバイス30の長手方向に配列する複数の連結部13は、交互に逆方向に湾曲し、複数のサブユニット9は幅方向に相互に並列に配列してシート形状を成す。隣接するサブユニット9間に所定の寸法(例えば1mm)の隙間を形成しサブユニット9同士が密着することを防止するために、ケース14の表面にスペーサとして凸部が設けられていてもよい。自然状態において、移植用デバイス30は、第2形態をとる。少なくとも一部の連結部13を伸ばすことによって、移植用デバイス30は、第2形態から、複数のサブユニット9が直列に配列する第1形態に移行する。
移植用デバイス30は、少なくとも1つのサブユニット9を腹腔A内に固定するためのアンカー部7をさらに備えていてもよい(図17参照。)。
【0058】
一設計例において、各サブユニット9は、長さ115mm×幅7mm×高さ7mmであり、サブユニット9の数は10個、各サブユニット9における細胞封入部12の数は10枚であり、隣接するサブユニット9間の隙間は1mmであり、第2形態の移植用デバイス30は、長さ10cm×幅0.5cm×高さ7mmである。細胞封入部12は、長さ100mm×幅5mmであり、隣接する細胞封入部12の中心間距離は0.5mmであり、細胞封入部12の総有効面積は500cmである。生細胞2は、ハイドロゲル3内において単層を形成することが好ましい(図16(b)参照。)。
【0059】
次に、移植用デバイス30の移植方法について説明する。
図17に示されるように、第1形態の移植用デバイス30が一端から他端まで順にトラカール40を通過して腹腔A内に挿入される。トラカール40を通過後、移植用デバイス30は、一端から順に第1形態から第2形態に自発的に移行する。移植用デバイス30の全部が腹腔A内に挿入された後、アンカー部7によって細胞封入部1が周囲の組織または臓器に固定される。
アンカー部7を備えない移植用デバイス30の場合、移植用デバイス30は、腹腔A内に固定せずに留置されるか、腹壁等の組織に縫合によって固定されるか、または、大網を縫合することによって形成されたポケット内に留置されてもよい。
【0060】
このように、本実施形態によれば、第1形態の移植用デバイス30をトラカール40を経由して低侵襲に腹腔A内に移植することができる。
また、腹腔A内において、移植用デバイス30は第2形態に移行する。第2形態において、複数の細胞封入部12は隙間をあけて配置され、各位置の細胞封入部12内の生細胞2に隙間を通じて各サブユニット9の両面から酸素および栄養素が効率的に供給される。これにより、移植用デバイス30内の全ての生細胞2によるインスリンの分泌を促進し、移植用デバイス30による高い治療効果を得ることができる。
また、化学架橋されたアルギン酸誘導体から形成されるハイドロゲル3によって、移植用デバイス30は、長期間、例えば数年間にわたって血糖効果作用を維持することができる。
【0061】
ハイドロゲル3内のインスリン分泌細胞または膵島の機能が低下した場合、鉗子のような把持具をトラカール40を通過して腹腔A内に挿入し、把持具によって移植用デバイス30の一端を把持し、移植用デバイス30をトラカール40内に引き込む。移植用デバイス30は、部分的に第2形態から第1形態に移行しながらトラカール40内に引き込まれ、トラカール40を通過して体外へ取り出される。このように、移植用デバイス30は第2形態から第1形態に移行可能であるので、移植用デバイス30をトラカール40を経由して低侵襲で腹腔A内から容易に取り出すことができ、患者の少ない身体的負担で移植用デバイス30を交換することができる。
把持具によって把持すべき一端を容易に確認可能にするために、移植用デバイス30の一端に、X線不透過性の材料からなるマーカが配置されていてもよい。
【0062】
また、各サブユニット9において、複数の細胞封入部12は、複数のサブユニット9が並列する方向に重ねられているので、第2形態において、サブユニット9の高さ方向に貫通する隙間が細胞封入部12間に形成される。この隙間を通じて酸素および栄養素を細胞封入部12内の生細胞2に効率的に供給することができる。
各サブユニット9において、複数の細胞封入部12は、直列の方向(すなわち、サブユニット9の長さ方向)に重ねられていてもよい。この構成においても、同様に酸素および栄養素を細胞封入部12内の生細胞2に効率的に供給することができる。
【0063】
本実施形態において、連結部13が伸びることによって、移植用デバイス30が第2形態から第1形態に移行することとしたが、これに代えて、図18から図20に示されるように、各サブユニット9が、隣接する他のサブユニット9に対して長さ方向に並進移動することによって、移植用デバイス30が第1形態に移行するように構成されていてもよい。
【0064】
この場合、各連結部13は、隣接する2つのサブユニット9を、該2つのサブユニット9が並列に配列する相対位置と直列に配列する相対位置との間で並進移動可能に連結する。
具体的には、各連結部13は、矩形のリングである。各連結部13は、一のサブユニット9の端部に高さ方向の軸回りに回転可能に連結され、かつ、隣接する他のサブユニット9の長さ方向の移動を許容するように他のサブユニット9に係合する。
【0065】
図19は、1つの連結部13によって連結された2つのサブユニット9の動作を示している。図19において、左側のサブユニット9が右上に向かって押圧されることによって、2つのサブユニット9は第1形態から第2形態へ移行する。したがって、図20に示されるように、複数のサブユニット9は、トラカール40を通過して腹腔A内に順番に挿入されることによって、腹腔A内において第2形態を自発的に形成する。また、移植用デバイス30を腹腔内から取り出す際、複数のサブユニット9は、挿入時とは逆の過程を経て腹腔A内から取り出される。
【0066】
上記各実施形態において、シート状移植用デバイス10,20,30が、トラカール40を経由して腹腔A内に移植されることとしたが、これに代えて、他の管状のデバイスを経由して体内に移植されてもよい。例えば、シート状移植用デバイス10,20,30は、カテーテルを経由して皮下または腹腔A内に移植されてもよい。また、シート状移植用デバイスの移植部位は、腹腔A内に限定されず、肝臓内、筋肉内、大網内または腎被膜下等の他の部位であってもよい。
【0067】
以上、本発明について詳細に説明したが、上記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって各種の変更および修正が可能である。
【符号の説明】
【0068】
10,20,30 シート状移植用デバイス
1,11,12 細胞封入部
2 生細胞
3 ハイドロゲル
4,16 半透膜
5 直線部
6,13 連結部
7 アンカー部
8 基部
9 サブユニット
14 ケース
15a,15b スペーサ(突起)
40 トラカール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20