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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018172
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ファイバ状移植用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61M1/36 185
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121338
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】霜田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】古迫 正司
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA08
4C077FF04
(57)【要約】
【課題】患者にかかる負担を低減しながら移植する。
【解決手段】移植用デバイス10は、生細胞2が封入された中空糸110を備える移植用デバイス100,400,500であって、前記中空糸110が、先端が腹腔内に配置され基端が腹腔の外に配置される管41を通過できる移植用形状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞が封入された中空糸を備え、
前記中空糸が、先端が腹腔内に配置され基端が前記腹腔の外に配置される管を通過できる移植用形状に形成されている、移植用デバイス。
【請求項2】
前記中空糸が、屈曲、湾曲、巻付け、および編み込みの少なくとも1つを行うことによって前記移植用形状に形成されている、請求項1に記載の移植用デバイス。
【請求項3】
前記移植用形状が、前記管の内径よりも小さい外径を有する螺旋形状である、請求項1に記載の移植用デバイス。
【請求項4】
前記管を通過させる時に前記中空糸を前記移植用形状に保持するための保持部材を備える、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の移植用デバイス。
【請求項5】
前記中空糸を巻付ける、生体吸収性材料からなる1以上の保持部材を備え、
前記中空糸が、前記保持部材の周囲において前記螺旋形状に形成されている、請求項3に記載の移植用デバイス。
【請求項6】
前記生細胞がインスリンを分泌可能であり、
前記保持部材と前記保持部材の周囲に配置された前記螺旋形状の前記中空糸とを有する膵島ユニットを複数備え、
前記複数の膵島ユニットのうち一つの前記中空糸と前記複数の膵島ユニットの他の一つの前記中空糸とが、前記螺旋形状に形成されている前記中空糸の軸方向の端部において連結されている請求項5に記載の移植用デバイス。
【請求項7】
前記複数の膵島ユニットの束の横断面を内包する円の直径が前記管の内径よりも小さい請求項6に記載の移植用デバイス。
【請求項8】
前記複数の膵島ユニットの束を複数備え、
異なる前記束の前記中空糸同士が連結されている請求項6に記載の移植用デバイス。
【請求項9】
腹腔内に固定するためのアンカー部を備える、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の移植用デバイス。
【請求項10】
前記複数の膵島ユニットを並列に束ねる生体吸収性材料からなるバンドル部材を備える、請求項5に記載の移植用デバイス。
【請求項11】
前記保持部材の直径が1mm以上である請求項5に記載の移植用デバイス。
【請求項12】
前記保持部材が、前記生体吸収性材料から成る連続気孔の多孔質部材である請求項4に記載の移植用デバイス。
【請求項13】
前記生細胞がインスリンを分泌可能であり、
前記保持部材と前記保持部材によって前記移植用形状に保持される前記中空糸とを有する少なくとも1つの膵島ユニットと、
前記少なくとも1つの前記膵島ユニットを収容する半透膜と、を備える請求項1~3の何れかに記載の移植用デバイス。
【請求項14】
請求項1~請求項13の何れか1項に記載の移植用デバイスと、
前記移植用デバイスを収容する収容部材と、を備え、
前記収容部材の開口端部が前記管の前記基端の側の所定位置に配置された状態で、前記収容部材から前記管内に前記移植用デバイスを移動するように構成されている、移植用デバイスキット。
【請求項15】
前記収容部材内の前記移植用デバイスを押すことができるプランジャを備え、
前記プランジャによって前記収容部材から前記管内に前記移植用デバイスを移動できる、請求項14に記載の移植用デバイスキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植用デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体適合材料で形成された中空管を有し、中空管内に薬物を収容する移植用デバイスが知られている。また、排泄に抵抗するように設計された移植用デバイスであって、薬物リザーバ部分と留置用フレーム部分とを備え、留置用フレーム部分が薬物リザーバ部分の膀胱からの偶発的な排泄を防止するものが知られている。また、アンフォールドするフォールドコンフィギュレーションを有し、細胞チャンバーを含み、小さい切開部位から植え込まれた後にフラット化して広がって受容者から押し出されることを減少させ挿入物を最大化させる移植用デバイスが知られている。例えば特許文献1~3を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009-504271号公報
【特許文献2】特表2011-505988号公報
【特許文献3】特表2016-512022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述のデバイスを例えば人工膵島等の多くの生細胞を収容するデバイスとして使用する場合、デバイスをかなり長くする必要があり、数m又はそれ以上の長さが必要となる。また、デバイスを直線状に変形させて体内に挿入する作業は、煩わしく、長時間を要し、作業の安定性を低下させる。また、デバイスが非常に長い場合、直線状に変形されたデバイスを体内に入った部分から順次元の形状に戻す必要がある。また、体内の条件が患者によって異なる。このため、より患者に負担をかけないデバイスが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様の移植用デバイスは、生細胞が封入された中空糸を備え、前記中空糸が、先端が腹腔内に配置され基端が前記腹腔の外に配置される管を通過できる移植用形状に形成されている。
【0006】
本発明の第2の態様の移植用デバイスキットは、前記移植用デバイスと、前記移植用デバイスを収容する収容部材と、を備え、前記収容部材の開口端が前記管の前記基端側の所定位置に配置された状態で、前記収容部材から前記管内に前記移植用デバイスを移動するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、患者にかかる負担を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の第1の例の移植用デバイスの概略正面図である。
図2】第1実施形態の中空糸の概略斜視図である。
図3】第1実施形態の中空糸と中空糸内に流入する懸濁液を示す概略斜視図である。
図4】第1実施形態に用いられる液流入器具の概略正面図である。
図5図4におけるV-V線断面図である。
図6】第1実施形態の膵島ユニットの一部の概略正面図である。
図7】第1実施形態の保持部材の分解の後の移植用デバイスの概略正面図である。
図8】第1実施形態に用いられる管および移植用デバイスを示す概略断面図である。
図9】第1実施形態の第2の例の移植用デバイスの概略正面図である。
図10】第1実施形態に用いられる中空糸の概略断面図である。
図11】第1実施形態の第3の例の移植用デバイスの概略正面図である。
図12】第1実施形態に用いられるトラカールの概略正面図である。
図13図12におけるXIII方向矢視図である。
図14】第1実施形態の動作説明図である。
図15】第1実施形態の動作説明図である。
図16】第2実施形態の移植用デバイスの概略正面図である。
図17】第1実施形態の移植用デバイスの変形例の膵島ユニットの概略正面図である。
図18】第1実施形態の移植用デバイスの変形例の膵島ユニットの概略正面図である。
図19】第2実施形態の移植用デバイスの変形例の膵島ユニットの概略正面図である。
図20】第3実施形態の移植用デバイスの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態に係る移植用デバイスについて図面を参照して説明する。
第1実施形態に係る移植用デバイス100は、糖尿病(特に、1型糖尿病またはインスリン依存状態の2型糖尿病)の患者の血糖値を正常化するためのデバイスである。当該デバイスはバイオ人工膵島とも呼ばれる。本実施形態では、移植用デバイス100はトラカール40の管41を経由して患者の腹腔内に移植される(図12図14等)。管41はカニューラ等と称される場合もある。移植用デバイス100は例えば移植用デバイス10に含まれる生細胞2の働きによって血糖降下作用を発揮し血糖を調節する。移植用デバイス100がその他の機能を備えていることもあり得る。
【0010】
実施形態の移植用デバイス100は、中空糸110と、生細胞2と、生細胞2を中空糸110の中空部111内において保持するゲル120と、を有する(図1)。
【0011】
生細胞2は、インスリンを分泌するインスリン分泌細胞を少なくとも含み、インスリン分泌細胞は、β細胞であってもよく、他家ヒト細胞であってもよい。即ち、ヒト胚性幹細胞やヒトiPS細胞から分化誘導されたヒトβ細胞であってもよく、さらに遺伝子組換え細胞であってもよい。生細胞2は、α細胞、δ細胞、ε細胞およびPP(pancreatic polypeptide)細胞の少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞およびPP細胞は、膵島を構成する細胞であり、グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、グレリンおよび膵ポリペプチドをそれぞれ分泌する。生細胞2は、ヒト、動物等から採取した膵島の一部の細胞又は全部であってもよく、培養によって得られた膵島又はその細胞であってもよい。また、生細胞2は、幹細胞(胚性幹細胞やiPS細胞)より分化されて得られた膵島細胞又はその細胞であってもよい。また、生細胞2は、前記膵島細胞又は前記膵島の一部の細胞又は全部をゲル120を用いて被覆した細胞カプセルであってもよい。
【0012】
生細胞2のドナーは、ヒト、ブタ、サル、ラットまたはマウス等の動物であり、ブタまたはヒトであることが好ましい。ドナー不足解消の観点からブタ等の動物が検討されており、本実施形態ではブタ由来の生細胞2が説明されている。膵島は、成体のブタ膵島、または、胎生期、新生児期もしくは周産期のブタ膵島であってもよい。
【0013】
ゲル120は、合成アルギン酸誘導体等のアルギン酸を化学架橋によってゲル化したものであり、ゲル120内において、生細胞2は、相互に間隔を空けて、又は、互いの密着が少なくなるように、分散されることが好ましい。またゲルの硬さの程度を調節するため天然アルギン酸を加えてもよい。合成アルギン酸誘導体と天然アルギン酸を混合し硬さを調節する際には様々な可能性が考えられるが、硬度については一般的に分子量がより高いもの、あるいはG/M比率が高いものにおいて高くなりやすい。天然アルギン酸として、コンブ、ワカメ等から得られるものを使用できる。ゲル120は一例ではハイドロゲルである。ゲル120は一例では網目構造を持つ高分子である。実施形態において、ゲル120は前記構造の高分子が水、後述の体液等の液体によって膨潤したものも指し、ゲル120の高分子は水又は後述の体液に不溶である。ゲル120は、酸素の通過を許容し、生細胞2の栄養素、分泌因子、および老廃物等の小さな分子の通過を許容する。ゲル120は、抗体等の大きな分子および免疫細胞の通過の阻止を行う。前記通過の阻止を中空糸110が主に担う場合はゲル120が当該機能を有しない場合もある。ゲル120の作成時に下記の調整条件を変更することにより網目構造のメッシュのサイズ(粗さ)は調整可能である。ゲル120は、生存に必要な環境および足場を生細胞2に提供し、生細胞2に対する免疫拒絶を防止する。ゲル120の上記通過特性(メッシュのサイズ)の調整条件は、一例では、アルギン酸の分子量、濃度、架橋基の種類および導入率、ゲル化に用いる2価金属イオンの種類および濃度、またはこれらの組み合わせである。免疫細胞の通過の阻止をゲル120が主に担う場合は中空糸110が当該機能を有しない場合もある。
【0014】
本明細書において、「アルギン酸」は、アルギン酸塩および修飾されたアルギン酸(すなわちアルギン酸誘導体)を含む。ゲル120に使用されるアルギン酸は、任意の1つ以上のカルボキシル基に環状アルキン基が導入されたアルギン酸誘導体と、任意の1つ以上のカルボキシル基にアジド基が導入されたアルギン酸誘導体との組み合わせであってもよく、化学架橋が、環状アルキン基とアジド基とによって生じてもよい。具体的には、アルギン酸誘導体は、国際公開第2019/240219号、国際公開第2021/125225号、国際公開第2020/262642号、および国際公開第2022/137345号に開示されるアルギン酸誘導体のいずれかであることが好ましい。なお、上記の通過特性を有すると共に生細胞2を中空糸110の中空部111内において保持できる他のゲルを用いることも可能である。また、上記化学架橋以外の方法でゲル120の高分子同士を架橋してもよい。
【0015】
アルギン酸誘導体は、生体適合性および安定性に優れ、細胞毒性が少なく、移植部位における癒着および炎症がほとんどない。また、アルギン酸誘導体のゲルは、溶解が少ないため長期間にわたって形状を維持することができ、生細胞2による血糖降下作用を長期間にわたって持続することができる。また、アルギン酸誘導体は、ゲルの作製が容易であること、および、バイオ3Dプリンタ等の使用によって所望の形状への成形が容易であることから、移植用デバイス100に最適な材料の一つである。
【0016】
中空糸110は、一例では、少なくとも一種類以上の樹脂を溶媒に溶解させ、溶解した樹脂を紡糸口金から吐出し空中を経て凝固液中に至らせることにより作製できる。凝固した中空糸110に洗浄、熱処理等の他の処理が施されてもよい。また、当該樹脂の種類は特に限定されるものではない。当該樹脂として、例えば、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、ポリスルホン系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、酢酸セルロースなどのセルロース系重合体、ポリアミド系重合体、ポリカーボネート系重合体などの樹脂を選択できる。上記の選択された樹脂と共にエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等を溶媒に混ぜてもよい。より好ましくは、当該樹脂は酢酸セルロースなどのセルロース系重合体である。中空糸110は生体の組織との癒着を下記移植において好ましく防止又は低減できるものであればよい。当該機能を考慮して中空糸110の材質は適宜設定され得る。
【0017】
中空糸110は、酸素の通過を許容し、生細胞2の栄養素、分泌因子、および老廃物等の小さな分子の通過を許容する。好ましくは、中空糸110は抗体等の大きな分子および免疫細胞の通過の阻止を行う。これにより、中空糸110は、生細胞2または膵島に対する免疫拒絶を防止する。一方、中空糸110は、小さな分子を効率よく透過させるために、中空糸の膜の厚さは癒着を防げる程度で薄い方がよい。前記通過の阻止をゲル120が主に担う場合は中空糸110が当該機能を有しない場合もある。
【0018】
また、中空糸110は、移植用デバイス100に強度、すなわち物理的圧力に対する耐久性を付与する。重力の加わり方、外部からの物理的な影響等の外的影響条件を移植用デバイス100の全体にわたって均一にすることは困難である。また、外的影響条件に起因して、生細胞2の環境は移植場所によって異なり得る。実施形態では、ゲル120よりも少なくとも引張り剛性が高い中空糸110が移植用デバイス100の外側が被覆されている。さらに、ゲル120によって細胞が固定されている。このため、外的影響条件の差異が生細胞2に与える影響が緩和される。
【0019】
移植用デバイス100は、以下のようにして作製される。
先ず、アルギン酸誘導体の溶液に生細胞2を懸濁して懸濁液3aを調整する。そして、懸濁液3aを中空糸110内に生細胞2を含む懸濁液3aを流入させる。使用する中空
糸内径やアルギン酸溶液/細胞密度によって注入速度は変えてもよい。
【0020】
一例では、図4に示すように、複数本の中空糸110から成る中空糸110の束の両端をそれぞれ固定する液流入器具200が用いられる。液流入器具200の一端側に中空糸110の束の一端側が固定材211を用いて固定される。また、液流入器具200の他端側に中空糸110の束の他端側が固定材212を用いて固定される。固定材211,212は、公知の中空糸膜における中空糸の束の固定に用いられる公知の材質から成る。固定材211,212は例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂等からなる。また、公知の中空糸膜における中空糸の束の固定方法を用いて、固定材211,212による中空糸110の束の端部の固定が行われ得る。固定材211,212は液流入器具200の一端側および他端側にそれぞれ固定される。
【0021】
液流入器具200は、懸濁液3aを液流入器具200内に流入させるための流入口220と、流入口220と連通している流路230と、を有する。流入口220から流入した懸濁液3aは流路230を介して中空糸110の束の一端側に到達する。実施形態では、流路230は、流入口220と一端側の固定材211との間の空間である。より具体的に、流路230は、流入口220と、一端側の固定材211と、液流入器具200の本体201の内周面とによって覆われた空間である。各中空糸110の一端側は流路230に開口している(図4)。
【0022】
液流入器具200は、懸濁液3aを液流入器具200から流出させるための流出口240と、流出口240と連通している流路250と、を有する。各中空糸110の他端側は流路230に開口している。各中空糸110の他端から流出した懸濁液3aは、流路250を介して流出口240から液流入器具200の外に流出する。なお、流出口240を閉鎖する閉鎖手段が設けられていると、各中空糸110内に懸濁液3aが効率的に流入する場合がある。閉鎖手段の代わりに流出口240の流量を低減する流量低減手段が設けられてもよい。また、各中空糸110の他端が固定材212によって閉鎖されていてもよい。
【0023】
続いて、各中空糸110内に懸濁液3aが入っている状態で、固定材211と固定材212との間の各中空糸110の両端部が融着される。これにより、各中空糸110の一端側および他端側の開口が閉鎖され、各中空糸110の一端側および他端側で中空部111が外部と連通しなくなる。例えば、液流入器具200によって中空糸110の束が支持されている状態で、固定材211と固定材212との間の各中空糸110の一端側および他端側を公知の熱融着シーラを用いて熱融着する。または、クリップ等の固定部材を用いて各中空糸110の一端側および他端側の開口が閉鎖されてもよい。または、接着剤を用いて各中空糸110の一端側および他端側の開口が閉鎖されてもよい。
【0024】
次に、懸濁液3aが入っている各中空糸110と、2価金属イオンを含む架橋用溶液との接触が行われる。これにより、各中空糸110中のアルギン酸誘導体が架橋してゲル120となり、ゲル120は各中空糸110の中空部111内において生細胞2を保持する。これにより、前記外的影響条件等が生細胞2に与える影響が緩和される。
【0025】
2価金属イオンを含む架橋用溶液との接触が、後述の中空糸110の巻付けの後、又は、中空糸110を癖付け部材に巻付けた後に行われてもよい。この場合、中空糸110が巻付け後の形状に保持され易くなる。
2価金属イオンは、カルシウムイオンであることが好ましいが、架橋用溶液として他の溶液を用いることも可能である。2価金属イオンとの接触によって懸濁液3a中のアルギン酸誘導体のイオン架橋および化学架橋が進み、アルギン酸誘導体がゲル化される。前記接触のため、例えば、懸濁液3aが入っている各中空糸110が架橋用溶液に数分、数十分等の所定時間だけ浸漬される。
【0026】
ゲル化は、後述の中空糸110の巻付けの後に行われてもよい。この場合、巻付け後の中空糸110内でその形状において懸濁液3aがゲル化されるので、中空糸110が巻付け後の形状に維持され易い。
【0027】
中空糸110内において生細胞2が相互に間隔を空けて、又は、互いの密着や接触が少なくなるように分散することは、前記通過特性、生細胞2の生存および機能発揮等にとって好ましい。生細胞2が分散している懸濁液3aを比較的断面積が小さい中空部111に流入させることにより、前述の分散の達成が容易となる。懸濁液3aの条件、中空糸110の内径、流入速度等の条件が適宜調整されることは当然である。これら条件の変更によって、中空糸110内の生細胞2の分散および配置を制御することもできる。
【0028】
次に、中空糸110の巻付けが行われる。図1図6等に示すように、中空糸110は、生体吸収性材料を用いて作られた保持部材(コア部材)130に巻付けられる。これにより中空糸110が後述の管41を通過できる螺旋形状(移植用形状)となる。このように比較的小さい螺旋形状では、中空糸110同士の隙間が小さくする動きに対し中空糸110、ゲル120等の弾性力が少なからず働く場合が多い。これは、中空糸110同士の間隔を維持する上で有用である。なお、中空糸110が巻径が軸方向に徐々に変化する螺旋形状に形成されてもよい。
【0029】
第1実施形態では、主に湾曲および/又は巻付けによって中空糸110が移植用形状となり、主に屈曲を使う場合よりも生細胞2に対するダメージを低減できる場合が多い。
巻付けピッチは、生細胞2への酸素および栄養素の通過性を考慮し、生細胞2およびゲル120が収容された中空糸110の平均外径の1.2倍以上であることが好ましい。巻付けピッチは、生細胞2の移植数を考慮し、生細胞2およびゲル120が収容された中空糸110の平均外径の2倍以下又は3倍以下であることが好ましい。巻付けピッチは移植で求められる条件に応じて変更可能であり、巻付けピッチを前記以外にすることも可能である。例えば、移植の条件に応じて巻付けピッチを中空糸110の平均外径と同一にすることもできる。
【0030】
一例では、保持部材130を支持装置で支持すると共に、支持装置によって保持部材130をその中心軸線周りに回転させる。この状態で、中空糸110をその端部から保持部材130に向かって糸送りから送り出す。この時、中空糸110と糸送りとを前記中心軸線に沿った方向に相対移動させることにより、前述の巻付けピッチで中空糸110が保持部材130に巻付けられる。
【0031】
保持部材130への巻付けを行う前に、中空糸110に癖付けを行うことも可能である。例えば、中空糸110を癖付け部材に巻付けることにより、中空糸110に螺旋形状となるような癖付けをする。一例では、癖付け部材は保持部材130と同等又は保持部材130よりも少し小さい外径を有する部材であり、保持部材130の外周面には螺旋状の溝が形成されている。
【0032】
生体吸収性材料としては、ポリグリコール酸樹脂、ポリアミノ酸樹脂等の合成樹脂が用いられる。生体吸収性材料として、タンパク質、多糖類などの天然生体高分子材料が用いられてもよい。その他の公知の生体吸収性材料を用いることも可能である。生体吸収性材料としては、後述の移植部位の体液によって2週間以内に分解され始める材料が好ましい。当該分解により、後述の移植の後に、保持部材130と生体組織との癒着が効果的に防止又は低減される。また、当該分解により、後述の移植の後に、中空糸110に対し体液が接触し易くなり、中空糸110の周囲の体液の流通も良好になる。
【0033】
また、実施形態では保持部材130は連続気孔の多孔質部材である。当該構成は、保持部材130が移植部位の体液によって分解され易い。また、当該構成は、分解前の状態においても、中空糸110の周囲の体液の流通を良好にするために有利である。
【0034】
保持部材130の太さは3mm以上である。保持部材130の断面が円形である場合は、太さは保持部材130の外径である。当該寸法設定は、保持部材130と生体組織との癒着の防止又は低減に効果的に寄与する。
保持部材130の太さが1mm以上であれば保持部材130と生体組織との癒着の防止又は低減の効果が期待できる。保持部材130の太さは好ましくは2mm以上である。また、保持部材130の太さが50mm以下であることは、管41を経由した移植用デバイス100の腹腔内への配置において、患者にかかる負担の低減に寄与する。保持部材130の太さは18mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。また、生細胞2の密度を上げるために、保持部材130の太さは18mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。
【0035】
移植用デバイス100の第1の例は、生細胞2およびゲル120が収容された中空糸110と、当該中空糸110が巻付けられた保持部材130と、を有する膵島ユニット101を少なくとも1つ備える。図1は、複数の膵島ユニット101を備える移植用デバイス100を示す。図1図8等に示すように、複数の膵島ユニット101は、互いに接続部材(アンカー部)102によって接続される。一例では、接続部材102は、中空糸110と同じ材料から形成される。接続部材102の材料が、中空糸110用の前述の材料から選択されてもよい。各接続部材102の一端はある一つの膵島ユニット101の中空糸110の端部に接続され、各接続部材102の他端は他の一つの膵島ユニット101の中空糸110の端部に接続される。これにより、図1図8等のように、複数の膵島ユニット101の中空糸110は互いに接続される。
【0036】
移植用デバイス100の第2の例は、筒状部104aを有する収容部材104に収容された1つ又は複数の膵島ユニット101である(図9)。当該1つ又は複数の膵島ユニット101は例えば第1の例で示したものである。収容部材104は例えば樹脂、金属等から成る。図15に示すように、収容部材104の筒状部104aの内径D1(図15)はトラカール40の管41の後端の内径D2(図15)に対し同等又は少し小さい。一例では、筒状部104aの内径は20mm程度である。図9では、各膵島ユニット101が筒状部104aの軸方向に延びるように、複数の膵島ユニット101が収容部材104内に配置される。また、図9は、例えば14個の膵島ユニット101が筒状部104aの軸方向のある位置に配置される場合の一部断面側面図の例である。筒状部104aの内径が20~25mm程度であり、保持部材130又は膵島ユニット101の外径が3~4mm程度であれば、図9と同様の態様で収容部材104内に20個程度の膵島ユニット101を配置できる場合もある。
【0037】
一例として、断面円形の保持部材130の直径が4mmであり、当該保持部材130に中空糸110が55回程度巻かれる場合、中空糸110の長さは700mm程度となる。そして、図10に示すように中空糸110が内径d1,d2が0.5mmの断面円形状である場合、中空糸110の中空部111の体積は135mm程度となる。各生細胞2の直径が0.15mm程度であれば、計算上では中空部111内の1mm当たり平均で20個の生細胞2を配置できる可能性がある。この場合、20個の膵島ユニット101によって5万個以上の生細胞2が保持されていることになる。
【0038】
収容部材104はその基端部側にプランジャ105を有する。プランジャ105は筒状部104aの中心軸線に沿った方向に延びており、筒状部104aの基端を閉鎖する基端壁104cの孔をプランジャ105が挿通している。プランジャ105の先端は筒状部104a内に配置され、プランジャ105の基端は筒状部104a外に配置されている。筒状部104aの先端は開口している開口端部であり、当該開口端部には後述のシール部310と同様の構造を有するシール部106が設けられている。当該開口端部にシール部106が設けられない場合もある。筒状部104a内の移植用デバイス100は、プランジャ105によって押されるとシール部106を介して筒状部104aの外に出るが、プランジャ105によって押されない状態では筒状部104a内に留まっている。
【0039】
なお、収容部材104の一部又は全部が樹脂製の膜、袋等であってもよい。例えば収容部材104の基端側が袋である場合、プランジャ105の全体が袋内に配置されてもよく、プランジャ105の基端側が袋の壁を挿通して袋の外に配置されてもよい。また、シール部106が紙、樹脂、ゴム、ウレタン等から成る膜であってもよい。膜の場合は移植時に膜が破られる。
【0040】
移植用デバイス100の第3の例は、第1の例又は第2の例において、1つ又は複数の膵島ユニット101を収容する半透膜4を備える(図11)。図11は第2の例において移植用デバイス100に半透膜4が設けられている。一例では、半透膜4は、樹脂製のメッシュ構造を有する基材の表面にコーティングを形成することによって作製される。コーティングは、中空糸110と同じ材料から形成される。コーティングは、好ましくは酢酸セルロースから成る。コーティングおよび基材の材料が、中空糸110用の前述の材料から選択されてもよい。基材の材料が中空糸110用の前述の材料から選択される場合はコーティングは無くてもよい。
【0041】
半透膜4の網目構造のメッシュのサイズ(粗さ)は、生細胞2の通過を阻止できるサイズ、又は、生細胞2の通過が容易ではないサイズであることが好ましい。実施形態では、半透膜4の網目構造のメッシュの穴の平均の大きさが生細胞2の平均外径以下であれば、生細胞2の通過が阻止されると言える。半透膜4の網目構造のメッシュの穴の平均の大きさが生細胞2の平均外径の1.5倍以下であれば、生細胞2の通過が容易ではないと言える。
【0042】
半透膜4は、中空糸110の壁厚を薄くすることを可能とする。中空糸110の壁が薄い程、酸素、栄養素、老廃物、分泌因子等の通過の抵抗が低減される傾向がある。このため、半透膜4によって移植用デバイス100から生細胞2が脱落することを防止しつつ、酸素、栄養素、老廃物、分泌因子等の通過の抵抗を低減することが可能となる。
一例では、半透膜4は、熱加工、圧着加工、接着、縫合、融着、閉鎖部材等によって、開口部が閉鎖され、これによって1つ又は複数の膵島ユニット101が半透膜4に収容される。閉鎖部材として、糸、紐、クリップ等の公知の部品を使用可能である。
【0043】
一例では、移植用デバイス10は、CPC(細胞培養加工施設)において製造され、その後、培養液、生理食塩水、または保存液内に37℃または冷蔵で保存された状態で医療機関に提供される。収容部材104内に培養液、生理食塩水、または保存液が収容されていてもよい。
【0044】
次に、移植用デバイス10の移植方法について説明する。
図12に示すように、トラカール40の管41の先端が腹腔内に配置された状態で、移植用デバイス10は管41を通過して腹腔内に到達する。この時、管41の後端は体外に配置されている。
【0045】
図12および図13に示すように、一例では、トラカール40は管41を有し、管41の先端側に取付けられたバルーン42および固定ディスク43も有する。バルーン42は図示しないポンプに接続され、ポンプからの空気によって膨らむ。固定ディスク43は管41の外周面に沿って管41の長手方向に移動可能である。膨らんだバルーン42と固定ディスク43とによって患者の体の一部を挟むことによって、管41が患者の体に装着される。第1実施形態では、管41の先端は斜めにカットされた形状である。
【0046】
トラカール40はシール部材300を備え、シール部材300はシール部310を有する。シール部310は複数のシール片311を備えている。各シール片311はゴム、ウレタン等のゴム状弾性を有する材料から成り、各シール片311の一端はシール部材300の孔301の内周面に固定されている。また、各シール片311は孔301の内周面からその径方向内側に向かって延びており、複数のシール片311の他端は孔301の中心に集まっている。シール部310がトラカール用の公知の他の構成のシールであってもよい。
【0047】
一例では、管41の先端が切開された皮膚に挿入され、管41内に配置された内視鏡を用いた観察が行われている状態で、管41の先端が腹腔内に配置される。続いて、管41又は他のトラカール等の管を介して気腹が行われた状態で、シール部310を介して管41内に第1の例の移植用デバイス100が挿入される(図14)。トラカール40にシール部310が設けられていない場合は、シール部310を介さずに移植用デバイス100が管41内に挿入される。そして、管41内に挿入可能な手術器具を用いて管41内の移植用デバイス100が腹腔側に向かって押され、移植用デバイス100が腹腔内に配置される。第3の例の移植用デバイス100も第1の例の移植用デバイス100と同様の方法で腹腔内に配置される。
【0048】
第2の例の移植用デバイス100の場合は、収容部材104の筒状部104aの先端の開口端部がトラカール40の基端部に接続される(図15)。この場合、管41の基端側であるトラカール40の基端部は開口端部を配置するための所定位置となる。図15では開口端部がトラカール40の基端部の径方向内側に配置されるが、開口端部が基端部の径方向外側に配置されてもよい。
【0049】
筒状部104aの先端部の外周面にはOリング等のシール104bが設けられている。シール104bによって筒状部104aとシール部材300の孔301との間がシールされる。トラカール40の基端部であるシール部材300の孔301の中心軸線と、管41の中心軸線と、接続された筒状部104aの中心軸線は略一致している。なお、シール104bは、開口端部の内周面、開口端部の先端面等、接続相手に応じた場所に設けられる。
【0050】
この状態で、プランジャ105によって移植用デバイス100が押されると、シール部310を介して管41内に移植用デバイス100が挿入される。トラカール40にシール部310が設けられていない場合は、シール部310を介さずに移植用デバイス100が管41内に挿入される。
そして、プランジャ105によって移植用デバイス100が更に押されると、移植用デバイス100が腹腔内に配置される。なお、移植が腹腔以外の体腔に行われる場合、前述と同様の方法で移植用デバイス100が腹腔以外の体腔に配置される。
【0051】
移植用デバイス100が腹腔内に挿入された後、例えば接続部材(アンカー部)102が縫合糸で腹腔内の固定部位に固定される。固定部位は腹壁、腹腔内の組織、臓器、大網、小網等である。移植部位は、例えば、大網上または小網上であってもよく、後腹膜の近傍の両側の脇腹であってもよい。移植用デバイス100が、ウィンスロー孔、モリソン窩またはダグラス窩のような、腹腔内に元々存在する窪みに挿入および固定されるように構成されていてもよい。アンカー部が、腹膜等の組織に固定可能な外科用のクリップ、例えばライゲーションクリップを備えていてもよく、ワイヤを備えていてもよい。または、移植用デバイス100は、腹腔内の組織の一部である大網を縫合することによって形成されたポケット内に留置される。
【0052】
腹腔内において、酸素、グルコース等の栄養素が、中空糸110およびゲル120を透過して生細胞2に供給される。生細胞2から分泌されるインスリンは、ゲル120および中空糸110を透過して移植用デバイス100の外側へ放出される。移植用デバイス100が半透膜4を有する場合は、栄養素およびインスリンが半透膜4も透過する。
【0053】
腹腔内において、保持部材130は移植部位の体液によって分解される。保持部材130が分解された後は図7のように中空糸110および接続部材102が残る。保持部材130が分解されて無くなるので、中空糸110の形状が維持され易い。中空糸110の長さ方向の2つ以上の部分が互いに接触すると、接触部は接触部から離れた位置よりも体液の流通量が低下する可能性がある。中空糸110の形状が維持されることは、このような接触の防止に繋がる。
【0054】
なお、トラカール40の管41の代わりにトロッカーカテーテル等の他の管を用いて移植用デバイス100が腹腔内に配置されてもよい。また、シール部材300が無い状態で移植用デバイス100が管41を介して腹腔内に配置されてもよい。
【0055】
(第2実施形態)
以下に、本発明の第2実施形態に係る移植用デバイスについて図面を参照して説明する。
第2実施形態の移植用デバイス400は、第1実施形態と異なる保持部材132を備えており、中空糸110が第1実施形態と異なる形状で保持部材132に保持される(図16)。第2実施形態では、第1実施形態と同様の構成には同様の符号を付し、その構成や当該構成により得られる同様の作用効果の説明を省略する。なお、第2実施形態でも第1実施形態で説明した変形例を適宜適用可能である。
【0056】
第2実施形態の保持部材132は、保持部材130と同じ材料から成り、例えば板形状を有する。保持部材132の表面には図示しない溝が形成されており、生細胞2およびゲル120が収容された中空糸110が当該溝に保持されている(図16)。これにより中空糸110が管41を通過できる繰返し屈曲形状(移植用形状)となる。第2実施形態では、主に屈曲によって中空糸110が移植用形状となり、主に湾曲を使う場合よりも中空糸110の密度を上げ易い。
図16では中空糸110の位置に溝が形成されているが、溝の代わりに図16に黒丸132aで示される位置に係合部が設けられてもよい。この場合、中空糸110の屈曲部が係合部に引っ掛けられ、これにより中空糸110が保持部材132によって保持される。保持部材132が他の形状を有し、他の態様で中空糸110が保持部材132に保持されてもよい。
【0057】
第2実施形態でも、中空糸110と、当該中空糸110を保持する保持部材132と、を有する単一又は複数の膵島ユニット101’を有する。図16の複数の膵島ユニット101’の中空糸110は互いに接続部材(アンカー部)102によって接続されている。
第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、保持部材132は移植部位の体液によって分解され、保持部材132が分解された後は中空糸110および接続部材102が残る。
【0058】
なお、第1実施形態の保持部材130の一部に保持部材130と共には分解しない残留部131が設けられてもよい(図17)。
残留部131は、一例では略円筒形に形成される。残留部131は、中空糸110用の前述の様々な材料から選択された材料から成り、第1実施形態の保持部材130の外周面の一部を形成している。図17の残留部131は、コイル形状の中空糸110の内径よりも大きい外径を有する径方向突出部131aを有する。残留部131が、第1実施形態の保持部材130の外周面の周方向の一部を形成していてもよい。この場合、残留部131はスケルトン構造を有することになる。
【0059】
残留部131が、中空糸110の複数個所に結合手段によって取付けられていてもよい。結合手段は、生体適合性を有する糸、紐、クリップ、接着剤等である。
残留部131が、ゲル120用の前述の様々な材料から選択された材料から形成されてもよく、生体適合性の他の材料から形成されてもよい。この場合、中空糸110の複数部分が残留部131内に埋設されるように残留部131が形成されると、残留部131に対する中空糸110の移動が効果的に抑制される。
【0060】
当該構成では、保持部材130が体液で分解された後、中空糸110、接続部材102、および残留部131が残る(図18)。残留部131は中空糸110の形状および位置を維持するのに役立つ。つまり中空糸110同士の隙間が維持され、これは中空糸110の密集による酸素不足、栄養不足等の防止に有利である。
【0061】
なお、第2実施形態の保持部材132の一部に保持部材132と共には分解しない残留部133が設けられてもよい(図19)。当該構成では、保持部材132が体液で分解された後、中空糸110、接続部材102、および残留部133が残る。
【0062】
残留部133は、一例では棒状、紐状、糸状等の細長い形状を有する。残留部133は、中空糸110用の前述の様々な材料から選択された材料から成り、第2実施形態の保持部材132の表面の一部を形成している。図19の残留部133が、中空糸110の複数個所に結合手段によって取付けられていてもよい。結合手段は、生体適合性を有する糸、紐、クリップ、接着剤、溶着、圧着等である。
【0063】
残留部133が、ゲル120用の前述の様々な材料から選択された材料から形成されてもよく、生体適合性の他の材料から形成されてもよい。この場合、中空糸110の複数部分が残留部133内に埋設されるように残留部133が形成されると、残留部133に対する中空糸110の移動が効果的に抑制される。
【0064】
(第3実施形態)
以下に、本発明の第3実施形態に係る移植用デバイスについて図面を参照して説明する。第3実施形態では、第2実施形態と同様の構成には同様の符号を付し、その構成や当該構成により得られる同様の作用効果の説明を省略する。なお、第3実施形態でも第2実施形態で説明した変形例を適宜適用可能である。
【0065】
第3実施形態の移植用デバイス500は、中空糸110が第2実施形態と異なる移植用形状とされている(図20)。第3実施形態では、一部の中空糸110は縦糸であると共に他の一部の中空糸110が横糸であり、中空糸110はその縦糸が横糸に編み込まれて目が粗い布形状又は編み込み形状となっている。当該形状の短辺の長さは管41の内径よりも小さい。第3実施形態では、当該編み込みによって、中空糸110が管41を通過可能な移植用形状とされている。第3実施形態では、編み込みが用いられて中空糸110が移植用形状となっている。編み込みにより中空糸110同士の互いの位置がずれ難くなり、これは中空糸110の形状の長期に亘る維持のために有用である。
なお、縦糸が横糸に編み込まれる代わりに、縦糸が横糸に結合手段によって取付けられていてもよい。結合手段は、生体適合性を有する糸、紐、クリップ、接着剤、溶着、圧着等である。
【0066】
なお、移植用デバイス500は、第2実施形態の保持部材132の代わりに保持部材135を備える。保持部材135は、底板135aと、底板135aの外周縁から底板135aの厚さ方向に延びる少なくとも1つの壁135bとを備える。保持部材135は、底板135aおよび壁135bによって画定される空間内に移植用形状とされた中空糸110を収容している。底板135aの長辺又は短辺の何れかの壁135bを省くことも可能であり、底板135aと対向する蓋部材を設けることも可能である。底板135aがその厚さ方向に貫通する複数の孔を備えていてもよい。保持部材135と中空糸110とによって第1および第2実施形態と同様に膵島ユニット101’’が形成される。
各実施形態では、移植用形状における最長部の寸法は当該移植用デバイス100,400,500の中空糸110の全長の少なくとも1/50以下であることが好ましい。
【0067】
各実施形態の移植用デバイスは、生細胞2が封入された中空糸110が、管41を通過できる移植用形状に形成されている。このため、管41を介した移植時に、生細胞2が封入された中空糸110をその形状を基本的に変化させずに腹腔まで移動できる。このため、管41の内外で中空糸110の形状が比較的大きく変化する場合と比べ、移植作業がスムーズになる。
【0068】
また、当該構成によって、移植時の中空糸110の変形が少なくて済み、移植時に中空糸110が無用に管41、腹膜、臓器等に押付けられることがなくなる。これは、生細胞2等に対する前述の外的影響条件を低減し、又は所望の条件に近付けることができる。
【0069】
また、当該構成によって、中空糸110の形状を設計形状に近い状態にできる。例えば、中空糸110同士の隙間を設計した隙間に近い状態に維持できる。これは、生細胞2への酸素、栄養素等の供給、生細胞2からの老廃物、分泌因子等の放出を良好にするために有用である。
【0070】
なお、各実施形態において、保持部材が無い場合でも、中空糸110をその移植用形状を維持しながら腹腔内に配置できる場合もある。例えば、図7の移植用デバイス100の複数の螺旋形状の中にそれぞれ配置用器具の先端を挿入し、配置用器具の先端と共に移植用デバイス100を腹腔内に移動できる。また、ゲル120および生細胞2が封入された中空糸110の剛性が、保持部材無しの上記の腹腔への移動に対し十分である場合もある。
【0071】
各実施形態の移植用デバイスは、管41を通過させる時に中空糸を前記移植用形状に保持するための保持部材を備える。第1実施形態では、例えば管41内で移植用デバイスを押す時、多くの場合は主に保持部材が押される。また、保持部材が押されることによる中空糸110の形状の変化は、保持部材が無い状態で中空糸110が押される場合のそれよりも小さい。第2および第3実施形態でも同様である。
【0072】
また、腹腔内における移植用デバイスの移動、移植用デバイスの固定等の際に、保持部材が鉗子等の医療器具によって把持される。このため、保持部材があることにより、腹腔内における中空糸110の形状の変化が、保持部材が無い場合よりも小さくなる。
【0073】
第1実施形態の移植用デバイスは、複数の膵島ユニット101のうち一つの中空糸110と複数の膵島ユニット101の他の一つの中空糸110とが、螺旋形状の軸方向の端部において接続部材102によって連結されている。このため、保持部材が分解した後でも、複数の螺旋形状の互いに対する位置が変化し難い。なお、螺旋形状の軸方向の端部において、互いの中空糸110を結ぶことによって一つの中空糸110と他の一つの中空糸110とが連結されてもよい。当該連結部もアンカー部として使用可能である。
【0074】
第1実施形態の移植用デバイスは、複数の膵島ユニット101を備え、当該複数の膵島ユニット101から成る束の横断面を内包する円の直径が管41の内径よりも小さい。このため、全長は長い中空糸110が管41内にコンパクトに配置される。
【0075】
なお、第1実施形態において、複数の膵島ユニット101から成る束を複数備え、異なる束の中空糸110同士が連結されていてもよい。例えば、第1実施形態において、複数の膵島ユニット101から成る第1の束の中空糸110と、複数の膵島ユニット101から成る第2の束の中空糸110とが、連結さえている。この場合、管41内に2以上の束を同時に配置することも可能となり、作業効率が向上できる。
【0076】
上記実施形態の移植用デバイスは、腹腔内に固定するための接続部材102(アンカー部)を備える。当該アンカー部があることによって、移植用デバイスを容易且つ確実に腹腔内に固定できる。
【0077】
各実施形態で、複数の膵島ユニット101を並列に束ねる生体吸収性材料からなるバンドル部材を備えていてもよい。バンドル部材によって、管41内および腹腔内における複数の膵島ユニット101の互いに対する移動が抑制される。当該構成は作業効率の向上に寄与する。
【0078】
また、前記実施形態では、移植用デバイス100,400,500が収容部材104に収容された移植用デバイスキットが説明されている。当該移植用デバイスキットは、収容部材104の開口端が管41の基端側の所定位置に配置された状態で、収容部材104から管41内に移植用デバイス100,400,500を移動するように構成されている。このため、管41内への移植用デバイス100,400,500の移動が容易に行われる。また、移植用デバイス100,400,500が外部の空気等と触れる時間が短くなり、これは移植用デバイス100,400,500へのダメージの低減、感染症の予防等の観点で有利である。
【0079】
収容部材104には、収容部材104内の移植用デバイス100,400,500を押すことができるプランジャ105が設けられ、プランジャ105によって収容部材104から管41内に移植用デバイスを移植用デバイス100,400,500を移動できる。当該構成によって、管41内への移植用デバイス100,400,500の移動が更に容易となる。また、移植用デバイス100,400,500が外部の空気等と触れる時間を更に短縮することが可能となる。
【0080】
なお、腹腔内において中空糸110内の生細胞2の環境が維持されるのであれば、ゲル120の代わりに液を用いることも可能であり、ゲル120および液の両方を用いないことも可能である。液として、培養液、生理食塩水、または保存液等が用いられ得る。
【0081】
なお、各実施形態では、内径d1,d2(図10)が0.5mmの断面円形状である中空糸110が用いられている。生細胞2と中空糸110の内周面との間のゲル120が薄い方が、生細胞2への酸素、栄養素等の供給、生細胞2からの老廃物、分泌因子等の放出が良好になる。国際公開第2022/137345号には、ゲル120の厚さは3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましいと書かれている。各実施形態の中空糸110内では、ゲル120の厚さは当然に1mm以下となる。このように、各実施形態では生細胞2の環境が良好であると言える。環境は、生細胞2への酸素、栄養素等の供給、生細胞2からの老廃物、分泌因子等の放出等である。
【0082】
このため、中空糸110が断面円形状である場合は、内径d1,d2(図10)が3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
また、中空糸110が断面楕円形である場合は、短内径d1(図10)が3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。このため、中空糸110が断面楕円形である場合の方が、生細胞2の環境を維持しながら、移植用デバイス100,400,500内の生細胞2の数を増やすことができる。なお、図10の外径D3,D4は内径d1,d2に厚みtを加えた値となる。また、中空糸110の内径d1,d2が上記の値以上であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が達成され得る。
【0083】
本開示の実施形態について詳述したが、本開示は上述した個々の実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、または、特許請求の範囲に記載された内容とその均等物から導き出される本発明の思想および趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、置き換え、変更、部分的削除等が可能である。例えば、上述した実施形態において、各動作の順序の変更、各処理の順序の変更、条件に応じた一部の動作の省略又は追加、条件に応じた一部の処理の省略又は追加は、上記の例に拘泥されることなく可能である。また、上記実施形態の説明に数値又は数式が用いられている場合も同様である。
【符号の説明】
【0084】
2 生細胞
3a 懸濁液
4 半透膜
40 トラカール
41 管
100,400,500 移植用デバイス
101,101’,101’’
膵島ユニット102 接続部材(アンカー部)
104 収容部材
110 中空糸
120 ゲル
130,132,135 保持部材
131,133 残留部
200 液流入器具
300 シール部材
310 シール部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図18
図19
図20