(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018220
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240201BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01L21/52 A
H01L21/78 G
H01L21/78 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121410
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 輝顕
(72)【発明者】
【氏名】植茶 雅史
(72)【発明者】
【氏名】南雲 裕司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 勝
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】北市 充
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】木山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
【テーマコード(参考)】
5F047
5F063
【Fターム(参考)】
5F047AA11
5F047BA06
5F047BA52
5F047BC02
5F047BC07
5F047CA00
5F063AA02
5F063BA07
5F063BA22
5F063BA43
5F063BA45
5F063BB01
5F063CB10
5F063CB28
5F063DD34
5F063DD81
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体基板をはんだ接合する際に、はんだの不要な濡れ広がりを好適に抑制する半導体装置及びその製造を提供する。
【解決手段】半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板の表面に設けられた金属層20と、を備える。金属層は、第1金属層(ニッケル層24、チタン層22)と、第1金属層の表面を覆っており、第1金属層よりもはんだ濡れ性が高い第2金属層(金層26)と、を有している。第2金属層は、金属層の主表面に露出している。第1金属層は、金属層の側面に露出している。金属層の主表面20aには、突起部30が設けられている。突起部は、主表面の外周縁に沿って一巡するように伸びている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(12)と、
前記半導体基板の表面(12a)に設けられた金属層(20)と、
を備え、
前記金属層が、
第1金属層(22、24)と、
前記第1金属層の表面を覆っており、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高い第2金属層(26)と、
を有しており、
前記第2金属層が、前記金属層の主表面(20a)に露出しており、
前記第1金属層が、前記金属層の側面(20b)に露出しており、
前記金属層の前記主表面に、突起部(30)が設けられており、
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って一巡するように伸びている、
半導体装置(10)。
【請求項2】
前記突起部の外周端において、前記第1金属層が1μm以上の幅で露出している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記突起部の高さ(h)は、前記金属層の厚さ(t)の1/2以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体基板の側面(12c)は、劈開面である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
第1金属層がニッケル層及び/又はチタン層であり、
第2金属層が金層である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って起伏を有している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って断続的に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
半導体装置の製造方法であって、
半導体ウェハ(2)の第1表面(2a)に形成されている金属層(20)の主表面(20a)に対して分割予定線(4)に沿って押圧部材(60)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記金属層を変形させて、前記分割予定線に沿って伸びる溝と、前記溝に隣接して伸びる突起部(30)を形成するとともに、前記半導体ウェハに対して前記分割予定線に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びるクラック(5)を形成する工程であって、前記金属層は、第1金属層(22、24)と、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高く前記第1金属層の表面を覆っているとともに前記金属層の前記主表面に露出する第2金属層(26)とを有している、前記工程と、
前記クラックを形成する前記工程の後に、前記第1表面の反対側に位置する前記半導体ウェハの第2表面(2b)に対して前記分割予定線に沿って分割部材(62)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記半導体ウェハを分割する工程、
を備える、製造方法。
【請求項9】
前記押圧部材が、スクライビングホイールであり、
前記押圧部材を押し当てることが、スクライビングホイールを転動させることであり、
前記クラックを形成する前記工程において、前記第1表面に、前記分割予定線に沿って、前記半導体ウェハの前記厚み方向に延びる前記クラックを伴うスクライブラインが形成される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
第1金属層が金層であり、
第2金属層がニッケル層及び/又はチタン層である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置及びその製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、裏面に金属層が形成された半導体基板を備える半導体装置が開示されている。この金属層は、パッケージ基板に対してはんだ接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、半導体基板をはんだ接合するときに利用される金属層の材料には、はんだ濡れ性が高い金属が用いられる。このため、特許文献1の技術では、金属層をパッケージ基板に対してはんだ接合するときに、はんだが金属層の側面(すなわち、外周面)まで濡れ広がり、はんだが半導体基板の側面まで到達し得る。その結果、半導体装置の特性にばらつきが生じる。本明細書では、半導体基板をはんだ接合する際に、はんだの不要な濡れ広がりを好適に抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置(10)は、半導体基板(12)と、前記半導体基板の表面(12a)に設けられた金属層(20)と、を備える。前記金属層が、第1金属層(24)と、前記第1金属層の表面を覆っており、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高い第2金属層(26)と、を有している。前記第2金属層が、前記金属層の主表面(20a)に露出している。前記第1金属層が、前記金属層の側面(20b)に露出している。前記金属層の前記主表面に、突起部(30)が設けられている。前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って一巡するように伸びている。
【0006】
この半導体装置では、はんだ濡れ性が高い第2金属層が金属層の主表面に露出している。このため、金属層を対象部材にはんだ接合するときに、金属層の主表面に好適にはんだが濡れ広がる。一方で、金属層の主表面には、その外周縁に沿って一巡する突起部が設けられている。このため、金属層を対象部材にはんだ接合するときに、突起部によりはんだが塞き止められ、金属層よりも外周側まではんだが濡れ広がることが抑制される。また、この半導体装置では、第1金属層が金属層の側面に露出している。このため、仮にはんだが突起部を越えた場合であっても、金属層の側面には、はんだ濡れ性が低い第1金属層が露出しているので、金属層の側面でははんだが濡れ広がり難く、はんだが半導体基板の側面まで到達することが抑制される。以上の通り、この半導体装置では、はんだの濡れ性を確保しつつ、はんだの不要な濡れ広がりを抑制することができる。
【0007】
また、本明細書は、半導体装置の製造方法を開示する。半導体装置の製造方法は、半導体ウェハ(2)の第1表面(2a)に形成されている金属層(20)の主表面(20a)に対して分割予定線(4)に沿って押圧部材(60)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記金属層を変形させて、前記分割予定線に沿って伸びる溝と、前記溝に隣接して伸びる突起部(30)を形成するとともに、前記半導体ウェハに対して前記分割予定線に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びるクラック(5)を形成する工程であって、前記金属層は、第1金属層(22、24)と、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高く前記第1金属層の表面を覆っているとともに前記金属層の前記主表面に露出する第2金属層(26)とを有している、前記工程と、前記クラックを形成する前記工程の後に、前記第1表面の反対側に位置する前記半導体ウェハの第2表面(2b)に対して前記分割予定線に沿って分割部材(62)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記半導体ウェハを分割する工程、を備える。
【0008】
この製造方法では、半導体ウェハの第1表面に形成された金属層の主表面に対して分割予定線に沿って押圧部材を押し当てる。押圧部材を押し当てることにより、第1表面側にクラックが形成される。また、押圧部材を押し当てることで、金属層が塑性変形して溝が形成され、押圧部材が金属層に食い込んだ分だけ、金属層が分割予定線に隣接する範囲に押し出される。これにより、溝に隣接して伸びる突起部が形成される。その後、分割予定線に沿って第2表面側から分割部材を半導体ウェハに押し当てる。これにより、クラックを割り広げて、クラックを介して隣接する領域を引き離す方向に力が加わる。その結果、クラックが半導体ウェハの厚み方向に伸展する。これにより、分割予定線に沿って半導体ウェハが分割される。また、金属層に対してもクラックを跨いで隣接する領域を引き離す方向に力が加わり、金属層も分割される。
【0009】
このように、上記の製造方法では、クラックを形成する際に、分割予定線(溝)に隣接して伸びる突起部が形成される。このため、分割予定線に沿って半導体ウェハ及び金属層を分割すると、分割後の金属層の主表面には、その外周縁に沿って一巡する突起部が設けられることとなる。したがって、この製造方法により製造された半導体装置では、金属層を対象部材にはんだ接合するときに、突起部によりはんだが塞き止められ、金属層よりも外周側まではんだが濡れ広がることが抑制される。また、金属層は、第1金属層と第2金属層の二層を含んでいるので、分割後の金属層は、その側面にはんだ濡れ性が低い第1金属層が露出した状態となる。したがって、この製造方法により製造された半導体装置では、仮にはんだが突起部を越えた場合であっても、金属層の側面でははんだが濡れ広がり難く、はんだが半導体基板の側面まで到達することが抑制される。以上の通り、この製造方法により製造された半導体装置では、濡れ性を確保しつつ、はんだの不要な濡れ広がりを抑制することができる。
【0010】
なお、本明細書において「はんだ」は、例えば、スズ等の金属を主成分とする金属の融点(溶融と凝固)を利用した接合材の他に、金属微粒子の分散媒体(有機溶剤等)に対する分散と析出を利用した導電性接合剤を包含する包括的な意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施例の半導体装置の金属層の突起部周辺の拡大図。
【
図4】実施例の半導体装置をはんだ接合する状態を説明するための図。
【
図5】実施例の半導体装置をはんだ接合する他の状態を説明するための図。
【
図9】クラック形成工程において形成される突起部を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記突起部の外周端において、前記第1金属層が1μm以上の幅で露出していてもよい。
【0013】
このような構成では、金属層をはんだ接合するときに、仮にはんだが突起部を越えた場合であっても、第1金属層によってはんだの濡れ広がりをより効果的に抑制することができる。
【0014】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記突起部の高さは、前記金属層の厚さの1/2以上であってもよい。
【0015】
このような構成では、金属層をはんだ接合するときに、はんだが突起部を越えて濡れ広がることをより効果的に抑制することができる。
【0016】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記半導体基板の側面は、劈開面であってもよい。
【0017】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、第1金属層がニッケル層及び/又はチタン層であってもよく、第2金属層が金層であってもよい。
【0018】
金層は、はんだ濡れ性が比較的高く、ニッケル層及びチタン層は、はんだ濡れ性が低い。このため、この構成では、はんだの濡れ性を確保しつつ、はんだの不要な濡れ広がりを効果的に抑制することができる。
【0019】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って起伏を有していてもよい。前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って断続的に形成されていてもよい。
【0020】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記押圧部材が、スクライビングホイールであってもよく、前記押圧部材を押し当てることが、スクライビングホイールを転動させることであってもよく、前記クラックを形成する前記工程において、前記第1表面に、前記分割予定線に沿って、前記半導体ウェハの前記厚み方向に延びる前記クラックを伴うスクライブラインが形成されてもよい。
【0021】
このような構成では、スクライビングホイールを円板状(円環状)として回転可能に軸支することにより、スクライビングホイールを転動させることで、分割予定線に沿って容易にクラックを形成することができる。
【0022】
本明細書が開示する一例の製造方法では、第1金属層がニッケル層及び/又はチタン層であってもよく、第2金属層が金層であってもよい。
【0023】
(実施例)
以下、図面を参照して、実施例の半導体装置10について説明する。実施例の半導体装置10は、半導体基板12と、金属層20を備えている。半導体基板12は、第1主面12aと、第1主面12aの反対側に位置する第2主面12bと、第1主面12aと第2主面12bとを接続する側面12cを有している。図示されていないが、半導体基板12には、トランジスタやダイオード等の機能を有する半導体素子が形成されている。半導体基板12は、SiC(炭化シリコン)により構成されている。なお、半導体基板12は、Si(シリコン)やGaN(窒化ガリウム)等、他の半導体材料によって構成されていてもよい。半導体基板12の側面12cは、劈開面となっている。
【0024】
金属層20は、半導体基板12の第1主面12aに設けられている。金属層20は、チタン層22と、ニッケル層24と、金層26を有している。チタン層22は、半導体基板12の第1主面12aを覆っている。ニッケル層24は、チタン層22の表面を覆っている。金層26は、ニッケル層24の表面を覆っている。金層26は、金(すなわち、Au)により構成されている。金属層20の主表面20aには、金層26が露出している。金属層20の側面20bには、チタン層22及びニッケル層24が露出している。すなわち、金属層20の側面20bにおいては、チタン層22及びニッケル層24は、金層26に覆われていない。チタン層22の厚さは約200nmであり、ニッケル層24の厚さは約1000nmであり、金層26の厚さは約50nmである。ニッケル層24及びチタン層22が「第1金属層」の一例であり、金層26が「第2金属層」の一例である。なお、第2金属層を構成する金属としては、金の他に、銀を例示することができる。
【0025】
金層26は、ニッケル層24よりもはんだ濡れ性が高い。金属のはんだ濡れ性は、例えば、はんだの濡れ広がり率により評価することができる。濡れ広がり率は、或る金属の表面にはんだを載置して溶融させ、溶融後(濡れ広がった後)の形状を測定することにより算出することができる。具体的には、濡れ広がった後のはんだの高さをH、直径をDとしたときに、100×(D-H)/Dにより濡れ広がり率を算出することができる。金層26の濡れ広がり率は約95%であり、ニッケル層24の濡れ広がり率は約50%である。
【0026】
金属層20は、突起部30を有している。
図2にドットハッチングで示すように、突起部30は、金属層20の主表面20aの外周縁に沿って一巡している。
図3に示すように、突起部30の高さh(金属層20の主表面20aからの高さ)は、金属層20の厚さt(半導体基板12の第1主面12aから主表面20aまでの厚さ)の1/2以上である。厚さt及び高さhは、特に限定されるものではないが、例えば、金属層20の厚さtが約200~5000nmであり、突起部30の高さhが約100~3000nmである。なお、突起部30は、主表面20aの外周縁に沿って起伏を有していてもよく、また、突起部30は、主表面20aの外周縁に沿って断続的に形成されていてもよいが、金属層20の厚さtの1/2以上である部分の割合が主表面20aの外周縁全体の長さに対して、例えば1/3以上、特には1/2以上であることが好ましい。
【0027】
図3に示すように、突起部30の外周端の一部30aにおいても、ニッケル層24及びチタン層22が露出している。すなわち、当該一部30aでは、ニッケル層24及びチタン層22が金層26に覆われていない。半導体基板12を下から見たときの当該一部30aの幅w(
図2も参照)は、約2μmである。
【0028】
本実施例の半導体装置10は、例えば、ヒートシンク等の導体板40にはんだ接合される。
図4及び
図5は、半導体装置10を、導体板40に対して金属層20を介してはんだ50により接合したときの状態を示している。
図4に示すように、半導体装置10の金属層20は、その主表面20aにはんだ濡れ性が高い金層26が露出している。このため、金属層20を導体板40にはんだ接合するときに、金属層20の主表面20aに好適にはんだ50が濡れ広がる。一方で、金属層20の主表面20aには、その外周縁に沿って一巡する突起部30が設けられている。このため、金属層20を導体板40にはんだ接合するときに、突起部30によりはんだ50が塞き止められ、金属層20よりも外周側まではんだ50が濡れ広がることが抑制される。なお、突起部30が、主表面20aの外周縁に沿って起伏を有する場合及び断続的に形成されている場合であっても、はんだ50の表面張力等の作用もあり、はんだ50の外周側までの濡れ拡がりを抑制することができる。
【0029】
また、この半導体装置10では、ニッケル層24及びチタン層22が突起部30の一部30a及び金属層20の側面20bに露出している。このため、
図5に示すように、仮にはんだ50が突起部30を越えてしまった場合であっても、はんだ濡れ性が低いニッケル層24及びチタン層22が露出しているので、金層26からニッケル層24及びチタン層22へはんだ50が濡れ広がり難く、はんだ50が半導体基板12の側面12cまで到達することが抑制される。以上の通り、この半導体装置では、金属層20の主表面20aに対するはんだの濡れ性を確保しつつ、はんだの不要な濡れ広がりを抑制することができる。
【0030】
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。まず、
図6に示す半導体ウェハ2を準備する。半導体ウェハ2には、複数の素子領域3がマトリクス状に形成されている。
図6では、各素子領域3を実線により模式的に示している。説明の便宜上、隣り合う素子領域3の間の境界であって、後に半導体ウェハ2を個々の素子領域3に分割する際の分割線を分割予定線4と称する。分割予定線4は、実際に半導体ウェハ2の上に記された線ではなく、仮想的な線である。分割予定線4は、目視できるように、実際に半導体ウェハ2の上に描かれた線や溝であってもよい。各素子領域3には、トランジスタやダイオード等の機能を有する半導体素子が形成されている。半導体ウェハ2は、SiC(炭化シリコン)により構成されている。なお、半導体ウェハ2は、Si(シリコン)やGaN(窒化ガリウム)等、他の半導体材料によって構成されていてもよい。
図7等に示すように、半導体ウェハ2は、第1表面2aと、第1表面2aの裏側に位置する第2表面2bを有している。
【0031】
(金属層形成工程)
図6に示す半導体ウェハ2に対して、
図7に示す金属層形成工程を実施する。金属層形成工程では、半導体ウェハ2の第1表面2aに金属層20を形成する。金属層20は、チタン層22と、ニッケル層24と、金層26(金(Au)により構成された層)を有している。半導体ウェハ2の第1表面2a上に、チタン層22、ニッケル層24、金層26をこの順に成膜する。金属層20は、第1表面2aの略全域を覆うように形成される。すなわち、金属層20は、複数の素子領域3に跨るように第1表面2a上に形成される。金属層20は、完成した半導体装置の電極として機能する。チタン層22の厚さは約200nmであり、ニッケル層24の厚さは約1000nmであり、金層26の厚さは約50nmである。
【0032】
(クラック形成工程)
次に、
図8に示すクラック形成工程を実施する。クラック形成工程では、半導体ウェハ2の第1表面2a側から、金属層20の主表面20aに対して、スクライビングホイール60を押し当てることにより、半導体ウェハ2にクラック5を伴うスクライブライン61を形成する。スクライビングホイール60は、円板状(円環状)の部材であり、支持装置(不図示)に回転可能に軸支されている。ここでは、スクライビングホイール60を金属層20の主表面20aに押し当てながら、分割予定線4に沿って移動(走査)させる。スクライビングホイール60は、分割予定線4に沿って移動する際に、路面上を転がるタイヤのように金属層20の主表面20a上を転がる(転動する)。スクライビングホイール60は、周縁部分が鋭い稜線になっており、金属層20の主表面20aに分割予定線4に沿って、金属層20が塑性変形したライン(スクライブライン61)を形成する。スクライビングホイール60としては、周縁部に稜線が連続して形成されたスクライビングホイールの他に、周縁部に切り欠き(溝)が形成され、稜線が断続したスクライビングホイールを使用することができる。主表面20aがスクライビングホイール60により押圧されると、半導体ウェハ2の内部には、第1表面2aの表層の領域に圧縮応力が生じる。スクライビングホイール60による押圧箇所にはスクライブライン61(すなわち、溝)が形成される一方で、圧縮応力が生じた領域の直下では、半導体ウェハ2の内部に引張応力が生じる。スクライブライン61を形成する溝の底部には半導体ウェハ2の第1表面2aが露出し、半導体ウェハ2の第1表面2aがスクライビングホイール61によって直接押圧される。引張応力は、圧縮応力が生じる領域の直下において、半導体ウェハ2の第1表面2aに沿って、分割予定線4から離れる方向に生じる。この引張応力により、半導体ウェハ2の第1表面2aから内部に、半導体ウェハ2の厚み方向に延びるクラック5が形成される。ここでは、スクライビングホイール60を、主表面20aに押し当てながら、分割予定線4に沿って移動させることにより、隣り合う素子領域3の境界に沿って、金属層20がスクライブライン61によって分割されるとともに、半導体ウェハ2の厚み方向に延びるように、クラック5が形成される。クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2aの表層近傍に形成される。スクライビングホイール60が「押圧部材」の一例である。なお、一般に、圧縮応力はクラックの形成及び伸展を抑制するため、クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2aのスクライビングホイール60による押圧箇所の圧縮応力が生じた領域の外側から、圧縮応力が生じた領域の直下の引張応力が生じた領域に延びるように形成される。また、スクライブライン61を形成する溝の底部に半導体ウェハ2の第1表面2aが露出しない場合(すなわち、半導体ウェハ2の第1表面2aが金属層20(例えば、チタン層22)を介して押圧される場合)であっても、スクライビングホイール60による押圧荷重を制御することにより、クラック5を形成させることができる。
【0033】
上述したように、金属層20は、スクライビングホイール60が押し当てられることにより塑性変形する。このとき、スクライビングホイール60が主表面20aに食い込んだ分(形成されるスクライブライン61の体積分)だけ、分割予定線4に隣接する範囲に金属層20が押し出され、金属層20の全体又は大部分が分割される。これにより、金属層20の主表面20aには、分割予定線4の両側に隣接して伸びる突起部30が形成される。ここで、金層26の厚さは、ニッケル層24及びチタン層22と比較して極めて薄い。このため、
図9に示すように、スクライブライン61の側壁部では、スクライビングホイール60によって金層26が側方に押し出され、露出したニッケル層24も側方に押し出され、更に露出したチタン層22も側方に押し出され、スクライブライン61の底部には、半導体ウェハ2の第1表面2aが露出する。例えば、スクライビングホイール60として、周縁部に切り欠き(溝)が形成され、稜線が断続したスクライビングホイール60を使用することにより、起伏を有する突起部30や、断続的に連続する突起部30を形成することができる。
【0034】
(分割工程)
次に、
図10に示す分割工程を実施する。
図10では、第2表面2bを上にして半導体ウェハ2が描かれていることに留意されたい。分割工程では、分割予定線4(クラック形成工程で形成されたクラック5)に沿ってブレイクプレート62を押し当て、分割予定線4に沿って(素子領域3の境界に沿って)半導体ウェハ2を分割する。ここでは、半導体ウェハ2の第2表面2bにブレイクプレート62を押し当てる。ブレイクプレート62は、板状の部材であり、下端(第2表面2bに押し当てられる端縁)部分が稜線状(鋭い刃状)になっているが、半導体ウェハ2を切削することなく、押し付けられるだけである。
【0035】
ブレイクプレート62を第2表面2bに押し当てると、半導体ウェハ2が撓む。ここで、クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2a側に形成されている。このため、半導体ウェハ2に第2表面2b側からブレイクプレート62を押し当てると、押し当てられた部分(ライン)を軸として半導体ウェハ2が撓み、第1表面2a側ではクラック5に対して分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わる。また、上述したように、クラック5の周囲には引張応力が印加されている。このため、第2表面2bにブレイクプレート62を押し当てると、クラック5が半導体ウェハ2の厚み方向に伸展し、半導体ウェハ2が分割予定線4に沿って分割される。このとき、半導体ウェハ2は、クラック5を起点として劈開する。すなわち、半導体ウェハ2の分割面(
図1に示す側面12c)は劈開面となる。また、金属層20は、スクライブライン61に沿って分割されているので、半導体ウェハ2が分割されることにより、個片化された半導体装置10を得ることができる。また、スクライブライン61の形成時に金属層20が完全には分割されていない場合(半導体ウェハ2の第1表面2aが露出していない場合)でも、分割されていない金属層20は半導体ウェハ2の第1表面2a上に形成され、スクライブライン61の底に露出しているので、第2表面2bにブレイクプレート61を押し当てると、金属層20に対しても分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わり、金属層20が引き離されるように変形してスクライブライン61に沿って分割される。ブレイクプレート62は、「分割部材」の一例である。
【0036】
分割工程では、上述のブレイクプレート62を第2表面2bに押し当てる工程を、各分割予定線4に沿って繰り返し実施する。これにより、半導体ウェハ2と金属層20(金属層20が完全には分割されていない場合)を各素子領域3の境界に沿って分割することができる。これにより、
図11に示すように、半導体ウェハ2が複数の半導体装置10に個片化される。これにより、金属層20(電極)が表面に形成された複数の半導体装置10が完成する。上述したように、スクライブライン61の側壁では、半導体装置10の表面付近では金層26が押し出されてスクライブライン61の底部付近ではニッケル層24やチタン層22が露出している。また、個片化後の金属層20の分割面にもニッケル層24やチタン層22が露出する。このため、個片化された半導体装置10の金属層20は、外周端でニッケル層24やチタン層22が露出した状態となる。
【0037】
この製造方法では、半導体ウェハ2の第1表面2aにチタン層22、ニッケル層24、及び金層26を有する金属層20を形成した後に、分割予定線4に沿って、第1表面2a側から金属層20の主表面20aにスクライビングホイール60を押し当てる。スクライビングホイール60を押し当てることにより、金属層20の全体又は大部分が分割され、半導体ウェハ2の第1表面2a側にクラック5が形成される。また、スクライビングホイール60を押し当てることで、金属層20が塑性変形し、スクライビングホイール60が金属層20に食い込んだ分だけ、金属層20が分割予定線4に隣接する範囲に押し出されて金属層20が分割される。これにより、分割予定線4に隣接して伸びる突起部30が形成される。その後、分割予定線4に沿って第2表面2b側からブレイクプレート62を半導体ウェハ2に押し当てる。これにより、クラック5を割り広げて、クラック5を介して隣接する領域を引き離す方向に力が加わる。その結果、クラック5が半導体ウェハ2の厚み方向に伸展する。これにより、分割予定線4に沿って半導体ウェハ2が分割される。また、金属層20が完全には分割されない場合には、金属層20に対してもクラック5を跨いで隣接する領域を引き離す方向に力が加わり、金属層20も分割される。
【0038】
このように、上記の製造方法では、クラック5を形成する際に、分割予定線4に隣接して伸びる突起部30が形成される。このため、分割予定線4に沿って半導体ウェハ2(及び残存する金属層20)を分割すると、分割後の金属層20の主表面20aには、その外周縁に沿って一巡する突起部30が設けられることとなる。したがって、この製造方法により製造された半導体装置10では、金属層20を対象部材(
図4及び5の導体板40等)にはんだ接合するときに、突起部30によりはんだが塞き止められ、金属層20よりも外周側まではんだが濡れ広がることが抑制される。また、金属層20は、ニッケル層24(及びチタン層22)と金層26を含んでいるので、分割後の金属層20は、その側面にはんだ濡れ性が低いニッケル層24(及びチタン層22)が露出した状態となる。したがって、この製造方法により製造された半導体装置10では、仮にはんだが突起部30を越えた場合であっても、金属層20(ニッケル層24及びチタン層22)の側面でははんだが濡れ広がり難く、はんだが半導体基板の側面まで到達することが抑制される。以上の通り、この製造方法により製造された半導体装置では、濡れ性を確保しつつ、はんだの不要な濡れ広がりを抑制することができる。
【0039】
なお、上述した実施例では、金属層20が、チタン層22とニッケル層24と金層26により構成されていた。しかしながら、金属層20を構成する金属の種類は特に限定されず、金属層20の主表面20aに露出する金属のはんだ濡れ性が、当該金属の下層に位置する金属のはんだ濡れ性よりも高ければよい。
【0040】
また、上述した実施例において、突起部30の外周端の一部30aには、ニッケル層24が露出していなくてもよい。また、突起部30の高さhが、金属層20の厚さtの1/2未満であってもよい。このような構成であっても、はんだの不要な濡れ広がりを抑制することができる。
【0041】
以下に、本明細書に開示の構成を列記する。
(構成1)
半導体基板(12)と、
前記半導体基板の表面(12a)に設けられた金属層(20)と、
を備え、
前記金属層が、
第1金属層(24)と、
前記第1金属層の表面を覆っており、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高い第2金属層(26)と、
を有しており、
前記第2金属層が、前記金属層の主表面(20a)に露出しており、
前記第1金属層が、前記金属層の側面(20b)に露出しており、
前記金属層の前記主表面に、突起部(30)が設けられており、
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って一巡するように伸びている、
半導体装置(10)。
(構成2)
前記突起部の外周端において、前記第1金属層が1μm以上の幅で露出している、構成1に記載の半導体装置。
(構成3)
前記突起部の高さ(h)は、前記金属層の厚さ(t)の1/2以上である、構成1または2に記載の半導体装置。
(構成4)
前記半導体基板の側面(12c)は、劈開面である、構成1~3のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成5)
第1金属層がニッケル層及び/又はチタン層であり、
第2金属層が金層である、構成1~4のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成6)
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って起伏を有している、構成1~5のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成7)
前記突起部が、前記主表面の外周縁に沿って断続的に形成されている、構成1~5のいずれか一項に記載の半導体装置。
(構成8)
半導体装置の製造方法であって、
半導体ウェハ(2)の第1表面(2a)に形成されている金属層(20)の主表面(20a)に対して分割予定線(4)に沿って押圧部材(60)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記金属層を変形させて、前記分割予定線に沿って伸びる溝と、前記溝に隣接して伸びる突起部(30)を形成するとともに、前記半導体ウェハに対して前記分割予定線に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に延びるクラック(5)を形成する工程であって、前記金属層は、第1金属層(22、24)と、前記第1金属層よりもはんだ濡れ性が高く前記第1金属層の表面を覆っているとともに前記金属層の前記主表面に露出する第2金属層(26)とを有している、前記工程と、
前記クラックを形成する前記工程の後に、前記第1表面の反対側に位置する前記半導体ウェハの第2表面(2b)に対して前記分割予定線に沿って分割部材(62)を押し当てることにより、前記分割予定線に沿って前記半導体ウェハを分割する工程、
を備える、製造方法。
(構成9)
前記押圧部材が、スクライビングホイールであり、
前記押圧部材を押し当てることが、スクライビングホイールを転動させることであり、
前記クラックを形成する前記工程において、前記第1表面に、前記分割予定線に沿って、前記半導体ウェハの前記厚み方向に延びる前記クラックを伴うスクライブラインが形成される、構成8に記載の製造方法。
(構成10)
第1金属層が金層であり、
第2金属層がニッケル層及び/又はチタン層である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【0042】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
2:半導体ウェハ
5:クラック
10:半導体装置
12:半導体基板
20:金属層
22:チタン層
24:ニッケル層
26:金層
30:突起部