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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018233
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20240201BHJP
   G01R 33/26 20060101ALI20240201BHJP
   G01R 33/20 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N24/00 P
G01R33/26
G01R33/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121430
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】佐光 暁史
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(57)【要約】
【課題】 被測定場の測定値におけるノイズ成分を抑制して測定精度を高くする。
【解決手段】 受光装置13は、励起光に対応して磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を受光し蛍光強度に対応する蛍光センサー信号を生成し、演算処理装置31は、蛍光センサー信号または前記蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出する。演算処理装置31は、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されているときの測定値を本測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときであって本測定値の測定前に測定された測定値を前段測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定後に測定された測定値を後段測定値としたとき、前段測定値および後段測定値をそれぞれ所定の比率で本測定値から減算して、被測定場の測定値を導出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、
前記マイクロ波で前記磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う高周波磁場発生器と、
前記磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、
前記磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し前記蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号を生成する蛍光受光装置と、
前記蛍光センサー信号または前記蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出する演算処理装置とを備え、
前記演算処理装置は、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されているときの前記測定値を本測定値とし、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されていないときであって前記本測定値の測定前に測定された前記測定値を前段測定値とし、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されていないときであって前記本測定値の測定後に測定された前記測定値を後段測定値としたとき、前記前段測定値および前記後段測定値をそれぞれ所定の比率で前記本測定値から減算して、前記被測定場の測定値を導出すること、
を特徴とする測定装置。
【請求項2】
被測定場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に対して、所定の測定シーケンスに従って、前記マイクロ波で前記磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに、前記磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射し、
前記磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し前記蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号を生成し、
前記蛍光センサー信号または前記蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出し、
前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されているときの前記測定値を本測定値とし、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されていないときであって前記本測定値の測定前に測定された前記測定値を前段測定値とし、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されていないときであって前記本測定値の測定後に測定された前記測定値を後段測定値としたとき、前記前段測定値および前記後段測定値をそれぞれ所定の比率で前記本測定値から減算して、前記被測定場の測定値を導出すること、
を特徴とする測定方法。
【請求項3】
前記蛍光センサー信号または前記検出信号に対して、所定の窓関数を適用し、前記窓関数を適用した後の前記蛍光センサー信号または前記検出信号に基づいて前記測定値を導出し、
前記窓関数は、前記励起光の照射期間の前半における第1期間と後半における第2期間との間での、前記蛍光センサー信号または前記検出信号の積算値の差分を前記測定値として導出するためのものであり、
前記前段測定値および前記後段測定値の測定の際にそれぞれ、前記比率に対応する重み係数を乗じた前記窓関数を適用して前記前段測定値および前記後段測定値を導出し、実質的に前記前段測定値および前記後段測定値をそれぞれ前記比率で前記本測定値から減算するようにして、前記本測定値並びに前記前段測定値および前記後段測定値から前記被測定場の測定値を導出すること、
を特徴とする請求項2記載の測定方法。
【請求項4】
前記蛍光センサー信号に対して、前記励起光を分岐して得られる参照光を受光して生成される参照光センサー信号に基づくコモンモードリジェクションを行い、前記コモンモードリジェクションに基づいて前記検出信号を生成することを特徴とする請求項2または請求項3記載の測定方法。
【請求項5】
(a)前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されているときの前記測定値と、前記被測定場が前記磁気共鳴部材に印加されていないときの前記測定値とを交互に取得し、(b)前記後段測定値を、次の前記本測定値についての前記前段測定値として使用して、連続的に前記被測定場の測定値を導出することを特徴とする請求項2記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁場測定装置は、窒素と格子欠陥(NVセンター:Nitrogen Vacancy Center)を有するダイヤモンド構造などといったセンシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている。ODMRでは、このようなNVセンターを有するダイヤモンドといった磁気共鳴部材に対して、被測定磁場とは別に静磁場が印加されるとともに、所定のシーケンスでレーザー光(初期化および測定のための励起光)並びにマイクロ波が印加され、その磁気共鳴部材から出射する蛍光の光量が検出されその光量に基づいて被測定磁場の磁束密度が導出される。
【0003】
例えば、ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(d)励起光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。また、スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVセンターに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVセンターに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVセンターに印加し、(e)励起光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。
【0004】
あるセンサー装置は、上述のようなNVセンターを含むダイヤモンドセンサーを使用した核磁気共鳴で磁場測定を行っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-138772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
センシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴においては、蛍光から得られる検出信号が微弱であるため、ノイズの影響を受けやすく測定精度が低くなってしまう。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ノイズ成分を抑制して測定精度を高くする測定装置および測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る測定装置は、被測定場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材と、マイクロ波で磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う高周波磁場発生器と、磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号を生成する蛍光受光装置と、蛍光センサー信号または蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出する演算処理装置とを備える。そして、演算処理装置は、被測定場が磁気共鳴部材に印加されているときの測定値を本測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定前に測定された測定値を前段測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定後に測定された測定値を後段測定値としたとき、前段測定値および後段測定値をそれぞれ所定の比率で本測定値から減算して、被測定場の測定値を導出する。
【0009】
本発明に係る測定方法は、(a)被測定場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材に対して、所定の測定シーケンスに従って、マイクロ波で磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに、磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射し、(b)磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号を生成し、蛍光センサー信号または蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出する。そして、被測定場が磁気共鳴部材に印加されているときの測定値を本測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定前に測定された測定値を前段測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定後に測定された測定値を後段測定値としたとき、前段測定値および後段測定値をそれぞれ所定の比率で本測定値から減算して、被測定場の測定値を導出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノイズ成分を抑制して測定精度を高くする測定装置および測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、励起光の光量に対する蛍光センサー信号のレベルの非線形性について説明する図である。
図3図3は、測定シーケンスの一例を示す図である。
図4図4は、参照光センサー信号ref1(t),ref2(t)、蛍光センサー信号PL(t)、およびCMR信号CMR_SIG(t)について説明する図である。
図5図5は、窓関数の一例を示す図である。
図6図6は、図5に示す窓関数の周波数特性を示す図である。
図7図7は、実施の形態1に係る測定装置の動作について説明するフローチャートである。
図8図8は、測定値の取得について説明するフローチャートである。
図9図9は、本発明の実施の形態2に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
図10図10は、蛍光センサー信号および窓関数の一例を示す図である。
図11図11は、実施の形態3における連続的な被測定場の測定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
実施の形態1.
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。図1に示す測定装置は、センサー部10と、高周波電源11と、発光装置12と、受光装置13とを備える。
【0015】
センサー部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定場(例えば磁場の強度、向きなどといった磁場)を検出する。なお、被測定場は、単一周波数の交流場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流場でもよいし、直流場でもよい。
【0016】
この実施の形態では、センサー部10は、磁気共鳴部材1、高周波磁場発生器2、および磁石3を備え、ODMRで被測定場を検出する。
【0017】
磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、被測定場(ここでは、磁場)に対応して電子スピン量子状態が変化するとともに、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じた周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。つまり、磁場の測定位置に、磁気共鳴部材1が配置される。
【0018】
この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンターを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンターは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取り得る。
【0019】
ここでは、磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンターとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センターを含むダイヤモンドなどの部材である。NVセンターの場合、基底状態がms=0,+1,-1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=-1の準位がゼーマン分裂する。NVセンターが、ms=+1およびms=-1の準位の励起状態から基底状態へ遷移する際に、所定の割合で蛍光を伴い、残りの割合のNVセンターは、励起状態(ms=+1またはms=-1)から基底状態(ms=0)へ無輻射で遷移する。
【0020】
なお、磁気共鳴部材1に含まれるカラーセンターは、NVセンター以外のカラーセンターでもよい。
【0021】
高周波磁場発生器2は、マイクロ波を磁気共鳴部材1に印加して、磁気共鳴部材1の電子スピン量子操作を行う。例えば、高周波磁場発生器2は、板状コイルであって、マイクロ波を放出する略円形状のコイル部と、そのコイル部の両端から延び基板に固定される端子部とを備える。高周波電源11は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器2に導通させる。そのコイル部は、その両端面部分において、磁気共鳴部材1を挟むように所定の間隔で互いに平行な2つの電流を導通させ、上述のマイクロ波を放出する。ここでは、コイル部は板状コイルであるが、表皮効果により、コイル部の端面部分をマイクロ波の電流が流れるため、2つの電流が形成される。これにより、空間的に均一な強度のマイクロ波が磁気共鳴部材1に印加される。
【0022】
NVセンターの場合、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってカラーセンターが形成されており、ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔)(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり空孔と窒素との対の配列方向)は4種類あり、それらの配列方向のそれぞれに対応するゼーマン分裂後のサブ準位(つまり、基底からのエネルギー準位)が互いに異なる。したがって、マイクロ波の周波数に対する静磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きi(i=1,2,3,4)に対応して、互いに異なる4つのディップ周波数対(fi+,fi-)が現れる。ここでは、この4つのディップ周波数対のうちのいずれかのディップ周波数に対応して、上述のマイクロ波の周波数(波長)が設定される。
【0023】
また、磁石3は、磁気共鳴部材1に静磁場(直流磁場)を印加し、磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンター)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。ここでは、磁石3は、リング型の永久磁石であり、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマコバ磁石などである。
【0024】
この実施の形態では、上述の静磁場の印加方向は、上述の被測定磁場の印加方向と同一となり、上述の静磁場の印加によって、上述のディップ周波数での蛍光強度変化が増強され、感度が高くなる。
【0025】
さらに、この実施の形態では、磁気共鳴部材1は、上述のマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な複数のカラーセンター(ここでは、NVセンター)を備え、磁石3は、磁気共鳴部材1の所定領域(励起光の照射領域)に対して略均一な静磁場を印加する。例えば、その所定領域における静磁場の強度についての最大値と最低値との差分や比率が所定値以下となるように静磁場が印加される。
【0026】
また、磁気共鳴部材1において、上述の欠陥および不純物の配列方向が、上述の静磁場の向き(および印加磁場の向き)に略一致するように、磁気共鳴部材1の結晶が形成され、磁気共鳴部材1の向きが設定される。
【0027】
さらに、この実施の形態では、励起光を磁気共鳴部材1に照射するために、発光装置12から磁気共鳴部材1までの光学系が設けられており、また、磁気共鳴部材1からの蛍光を検出するために、磁気共鳴部材1から受光装置13までの光学系が設けられている。
【0028】
発光装置12は、光源としてのレーザーダイオードなどを備え、その光源で、磁気共鳴部材1に照射すべき励起光として、所定波長のレーザー光を出射する。また、受光装置13は、受光素子としてのフォトダイオードやフォトトランジスターなどを備え、磁気共鳴部材1により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、その蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号PLを生成する。この蛍光は、例えば複合放物面型集光器(CPC)などの光学系によって受光装置13へ向けて集光される。
【0029】
ここで、測定原理について説明する。
【0030】
上述の励起光の強度Iは、次式のように、本来の強度Ilaserとノイズ成分の強度Inoiseとの和となっている。なお、このノイズ成分は、発光装置12の電源電圧のふらつきや光源の発光量のふらつきなどに起因して発生し、例えばkHzオーダー程度から100kHzオーダー程度の範囲の周波数を有する。
【0031】
I=Ilaser+Inoise
【0032】
また、蛍光センサー信号PLのレベルは、基本的には励起光の強度Iが大きいほど高くなる。ただし、被測定場による電子スピン量子状態の変化に起因して、測定時の励起光照射開始時点の蛍光強度が小さくなっており、その後、被測定場による電子スピン量子状態の変化の影響がなくなるまで、蛍光強度が徐々に大きくなっていく。そのため、その被測定場による電子スピン量子状態の変化に起因する蛍光センサー信号PLのレベル変動分αcont(t)に比例する検出信号が、被測定場を示す信号として導出される。蛍光センサー信号PLは、次式で表される。ここで、当該蛍光強度は比較的低いため、蛍光センサー信号PLのレベルは、非線形性を有する。図2は、励起光の光量に対する蛍光センサー信号のレベルの非線形性について説明する図である。例えば図2に示すように、蛍光センサー信号PLのレベルの傾きは、蛍光強度が小さいほど、大きくなっている。
【0033】
PL(t)=α(t)×f(I)=(αinit+αcont(t))×I=(αinit+αcont(t))×f(Ilaser+Inoise
【0034】
ここで、αinitは、励起光の強度Iに対して比例する部分(被測定場による電子スピン量子状態の変化に影響を受けない部分)を示す係数であり、fは、励起光の強度Iに対する非線形性を示す関数である。例えば、fは、N次式(N≧2)であり、この実施の形態では、fは2次式(f(x)=x+γ・x,γは定数)である。この場合の蛍光センサー信号PLは、次式で表される。
【0035】
なお、この関数fや定数γは、受光装置13のセンサーについての実験などにより予め導出される。また、この関数fは、指数関数などといった他の関数形を有していてもよい。
【0036】
PL(t)=α(t)×f(I)=(αinit+αcont(t))×I=(αinit+αcont(t))×{(Ilaser+Inoise)+γ(Ilaser+Inoise}=αinit {(γIlaser +Ilaser)+(2γIlaser+1)Inoise+γInoise }+αcont(t){(Ilaser+Inoise)+γ(Ilaser+Inoise
【0037】
他方、励起光から分岐した参照光の参照光センサー信号のレベルrefは、励起光の強度Iに比例するため、次式のように表される。ここで、当該参照光の強度は比較的高いため、参照光センサー信号PLのレベルは、参照光強度に対して線形(比例)となる。
【0038】
ref=ref1=ref2=β×I=β×(Ilaser+Inoise
【0039】
ここで、βは、定数である。なお、ref1,ref2については後述する。
【0040】
具体的には、PLは、テーラー展開し、Inoise<<Ilaserであるため3次項以降を無視することで、上述の式で示される。また、以下のように、上述のPLおよびrefをInoiseでテーラー展開(マクローリン展開)し、3次項以降を無視して近似することで、そのPLおよびrefからCMR信号CMR_SIG(t)が導出される。なお、以下の式において、PL(Ilaser+Inoise)は、PLが(Ilaser+Inoise)の関数であることを示し、PL(Ilaser)は、Inoiseを0としたときのPLである。同様に、ref(Ilaser+Inoise)は、refが(Ilaser+Inoise)の関数であることを示し、ref(Ilaser)は、Inoiseを0としたときのrefである。なお、PL’は、Inoise=0での、InoiseについてのPLの1次微分係数であり、ref’は、Inoise=0での、Inoiseについてのrefの1次微分係数である。
【0041】
PL(Ilaser+Inoise)=PL(Ilaser)+PL’(Ilaser)Inoise+・・・
【0042】
ref(Ilaser+Inoise)=ref(Ilaser)+ref’(Ilaser)Inoise+・・・
【0043】
ここで、Inoise<<Ilaserであるため、Inoiseの3次項以降は無視できる。そのため、上述のPLおよびrefは、以下の式に近似される。
【0044】
PL(Ilaser+Inoise)=PL(Ilaser)+PL’(Ilaser)Inoise
【0045】
ref(Ilaser+Inoise)=ref(Ilaser)+ref’(Ilaser)Inoise
【0046】
ここで、PL(t)に対してコモンモードリジェクションが実行され、CMR信号が生成される。具体的には、CMR信号CMR_SIG(t)は、αinitについてのInoiseの影響が除去されるように、次式で導出される。
【0047】
CMR_SIG(t)=PL-(PL’(Ilaser)/ref’(Ilaser))ref
【0048】
ここで、PL’(Ilaser)/ref’(Ilaser)=αinit(2γIlaser+1)/βであるので、CMR信号CMR_SIG(t)は、次式のようになる。なお、次式では、時間tに拘わらず定数である項(後述)を除去するために、定数αinitγIlaser が加算されている。
【0049】
CMR_SIG(t)=PL(t)-αinit(2γIlaser+1)/β×ref(t)+αinitγIlaser =αcont(t){(Ilaser+Inoise)+γ(Ilaser+Inoise
【0050】
ここで、PL(t)における、αinit{(Ilaser+Inoise)+γ(Ilaser+Inoise}については、十分小さい項γInoise を無視し、αinit{(Ilaser+Inoise)+γ(Ilaser+Inoise}=αinit(γIlaser+1)Ilaser+αinit(2γIlaser+1)Inoise=αinit(2γIlaser+1)×(Ilaser+Inoise)-αinitγIlaserとしている。
【0051】
また、レベル変動成分信号SD(t)は、次式のように導出される。これにより、αcont(t)についてのInoiseの影響が除去される。
【0052】
SD(t)=αcont(t)=CMR_SIG(t)/(ref(t)+γ・ref(t)
【0053】
上述のCMR信号CMR_SIG(t)またはレベル変動成分信号SD(t)が検出信号(被測定場を示す信号)として導出され、その検出信号のピーク値(t=0の値)、時間積分値、後述の積算値の差分などが被測定場の強度と相関があるため、検出信号のピーク値、時間積分値、後述の積算値の差分などと被測定場の強度との対応関係を予め実験などで特定しておき、その対応関係を示す計算式やテーブルを使用して、検出信号のピーク値、時間積分値、後述の積算値の差分などから被測定場の強度が導出される。
【0054】
このような測定原理に基づき、以下に述べる構成が設けられている。
【0055】
図1に示す測定装置は、さらに、発光装置12から磁気共鳴部材1までの励起光の光路上に、光学素子としての光分離部21,22を備える。光分離部21,22は、それぞれ、励起光の一部を、励起光から分岐させ、参照光として別の方向に出射する。例えば、光分離部21,22は、偏向無依存型のビームスプリッターである。
【0056】
また、図1に示す測定装置は、参照光を受光し、その参照光の強度に対応する参照光センサー信号ref1,ref2(上述のref)を生成する受光装置23,24を備える。
【0057】
この実施の形態では、励起光から2つの参照光が別々に生成され、2つの参照光センサー信号ref1,ref2が生成される。参照光センサー信号ref1は、後述のコモンモードリジェクションに使用され、参照光センサー信号ref2は、デジタイズされ、検出信号SDの生成に使用される。
【0058】
さらに、図1に示す測定装置は、アナログ演算回路としてのCMR演算部25を備える。CMR演算部25は、蛍光センサー信号PLに対して、参照光センサー信号ref1に基づくコモンモードリジェクションを行い、そのコモンモードリジェクションに基づくCMR信号CMR_SIGを生成する。具体的には、CMR演算部25は、係数部25aと、オフセット除去部25bと、差動アンプ25cとを備える。係数部25aは、所定係数αinit(2γIlaser+1)/βを参照光センサー信号ref1に乗算する。オフセット除去部25bは、上述のオフセット分を示す定数αinitγIlaser を係数部25aの出力信号ref1×αinit(2γIlaser+1)/βから減算する。差動アンプ25cは、蛍光センサー信号PLと、オフセット除去部25bの出力信号ref1×αinit(2γIlaser+1)/β-αinitγIlaser との差分を演算し、その演算結果をCMR信号CMR_SIGとして出力する。なお、図1では、オフセット除去部25bは、上述のオフセット分を示す定数αinitγIlaser を係数部25aの出力信号ref1×αinit(2γIlaser+1)/βから減算しているが、その代わりに、上述のオフセット分を示す定数αinitγIlaser を蛍光センサー信号PLに加算してもよいし、あるいは、上述のオフセット分を示す定数αinitγIlaser を差動アンプ25cの出力信号に加算してもよい。
【0059】
なお、アナログ演算回路としての係数部25aを設けてもよいし、係数部25aを設けずに、受光装置23のゲインを調整して、所定係数αinit(2γIlaser+1)/βを乗算した参照光センサー信号を出力するようにしてもよい。
【0060】
さらに、図1に示す測定装置は、CMR信号CMR_SIGおよび参照センサー信号ref2をそれぞれデジタイズするアナログデジタル変換器26,27、および測定装置の制御および信号処理を行う演算処理装置31を備える。
【0061】
アナログデジタル変換器26,27は、所定のビット数かつ所定のサンプリング周期(速度)で、CMR信号CMR_SIGおよび参照センサー信号ref2をそれぞれデジタイズし、デジタイズしたCMR信号CMR_SIGおよび参照センサー信号ref2を演算処理装置31に出力する。
【0062】
演算処理装置31は、例えばコンピューターを備え、信号処理プログラムをコンピューターで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置31は、そのコンピューターを測定制御部41および演算部42として動作させ、また、不揮発性の記憶装置43を備える。
【0063】
記憶装置43には、信号処理プログラムが記憶されており、そのコンピューターは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備え、信号処理プログラをRAMにロードしてCPUで実行することで、測定制御部41および演算部42として動作する。
【0064】
測定制御部41は、所定の測定シーケンスに従って、(a)高周波電源11および発光装置12を制御し、(b)上述のようにデジタイズされたCMR信号CMR_SIGおよび参照光センサー信号ref2を取得してRAMや記憶装置43に記憶し、演算部42に、被測定場の測定値を導出させる。
【0065】
この測定シーケンスは、被測定場の周波数などに従って設定される。例えば、被測定場が比較的高周波数の交流場である場合には、この測定シーケンスには、スピンエコーパルスシーケンス(ハーンエコーシーケンスなど)が適用される。ただし、測定シーケンスは、これに限定されるものではない。また、例えば、被測定場が比較的低周波数の交流場である場合、被測定場の1周期において、複数回、ラムゼイパルスシーケンス(つまり、直流場の測定シーケンス)で、その物理場の測定を行い、それらの測定結果に基づいて、被測定場(強度、波形など)を特定するようにしてもよい。
【0066】
図3は、測定シーケンスの一例を示す図である。図3は、スピンエコーパルスシーケンスの場合の、被測定磁場に対するマイクロ波パルスのタイミング、および励起光の照射タイミング(初期化と測定の2回)を示している。図3に示すように、各測定について、励起光の照射期間において、蛍光が検出される。
【0067】
図4は、参照光センサー信号ref1(t),ref2(t)、蛍光センサー信号PL(t)、およびCMR信号CMR_SIG(t)について説明する図である。
【0068】
図4に示すように、参照光センサー信号ref1(t),ref2(t)は、照射期間の略矩形のパルス信号となり、蛍光センサー信号PL(t)は、照射期間において徐々に立ち上がり一定レベルに収束するパルス信号となる。そして、コモンモードリジェクションによって、CMR信号CMR_SIG(t)が得られる。
【0069】
ここでは、演算部42は、上述のように、デジタイズされたCMR信号CMR_SIG(t)およびデジタイズされた参照光センサー信号ref2(t)から、αcont(t)に比例するレベル変動成分信号SD(t)を計算して生成し、その信号SD(t)に基づいて被測定場の測定値(ここでは、磁束密度や磁場の波形など)を導出する。あるいは、演算部42は、上述のように、デジタイズされたCMR信号CMR_SIG(t)を検出信号とし、その検出信号(CMR信号)に基づいて被測定場の測定値を導出してもよい。
【0070】
具体的には、演算部42は、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されているときの測定値を本測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときであって本測定値の測定前に測定された測定値を前段測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときであって本測定値の測定後に測定された測定値を後段測定値としたとき、前段測定値および後段測定値をそれぞれ所定の比率で本測定値から減算して、被測定場の測定値を導出する。つまり、同一の測定方法で、本測定値、前段測定値、および後段測定値が取得され、前段測定値および後段測定値で本測定値が補正され、補正後の本測定値が、その時点での被測定場の測定値とされる。
【0071】
例えば、前段測定値Sa、本測定値So、および後段測定値Sbの重み係数を-0.5、+1.0、-0.5として、前段測定値、本測定値、および後段測定値にそれぞれ重み係数を乗じたものの合計を、被測定場の測定値S(S=-0.5×Sa+So-0.5×Sb)とする。ここでは、前段測定値Saの重み係数と後段測定値Sbの重み係数とは互いに同一である。なお、この比率は、前段測定値および後段測定値の重み係数と本測定値の重み係数との間で正負が反転しており、かつ、前段測定値、本測定値、および後段測定値の重み係数の合計がゼロであれば、他の比率でもよい。
【0072】
さらに、実施の形態1では、演算部42は、検出信号(CMR_SIG(t)またはSD(t))に対して、所定の窓関数を適用し、その窓関数を適用した後の蛍光センサー信号PL(t)または検出信号(CMR_SIG(t)またはSD(t))に基づいて各測定値(前段測定値、本測定値、および後段測定値)を導出する。
【0073】
図5は、窓関数の一例を示す図である。図5に示すように、上述の窓関数は、期間P1と期間P2とで正負が反転し、絶対値が同一である波形として表される。ここでは、窓関数は、励起光の照射期間の前半における第1期間P1と後半における第2期間P2との間での、検出信号(CMR_SIG(t)またはSD(t))の積算値の差分を導出するためのものである。
【0074】
また、図6は、図5に示す窓関数の周波数特性を示す図である。検出信号がCMR信号である場合には、演算部42は、(a)励起光の照射期間の前半部分における期間P1および後半部分における期間P2において、それぞれ、互いに同一複数回得られる(例えば1000回などといった所定サンプリング数の)、デジタイズされたCMR信号の値を積算し、(b)期間P1についてのCMR信号の積算値(総和や平均)と期間P2についてのCMR信号の積算値(総和や平均)との差分を計算してCMR信号におけるノイズ成分を除去する。例えば図4に示すように、前半部分における期間P1は、照射開始時刻(t=0)から所定時間長の期間であり、後半部分における期間P2は、照射終了時刻(t=te)まで所定時間長の期間である。ここでは、P1とP2の時間長は同一である。そして、前半部分の積算値から後半部分の積算値を減算して、その減算結果の値を、窓関数適用後のCMR信号の値とすることで、CMR信号のノイズ成分(約10kHz以上といった高周波ノイズ成分)が抑制される。なお、検出信号がSD信号である場合も同様である。
【0075】
この実施の形態では、演算部42は、例えば図5に示すように、前段測定値および後段測定値の測定の際にそれぞれ、その比率に対応する重み係数を乗じた窓関数を適用して前段測定値および後段測定値を導出し、実質的に前段測定値および後段測定値をそれぞれ上述の比率で本測定値から減算するようにして、本測定値並びに前段測定値および後段測定値から被測定場の測定値を導出する。
【0076】
さらに、図5に示すように、前段測定値、本測定値、および後段測定値の重み係数を-0.5、+1.0、-0.5とした場合の、一連の窓関数の周波数特性は、例えば図6に示すような周波数特性となり、数kHz以下のノイズ成分(1/fノイズなど)が抑制される。なお、図6における破線(比較例)は、前段測定値および後段測定値を適用しない場合の周波数特性を示しており、前段測定値および後段測定値を適用した場合、前段測定値および後段測定値を適用しない場合より数kHz以下のノイズ成分(1/fノイズなど)の減衰率が大きくなっている。
【0077】
また、この実施の形態では、アナログデジタル変換器26は、アナログデジタル変換器27に比べ高速に動作し、アナログデジタル変換器27は、アナログデジタル変換器26に比べ高精度のデジタイズを行う。
【0078】
例えば、アナログデジタル変換器26は、例えば200Mサンプル/秒で、入力アナログ信号を20ビットのデジタル信号へ変換し、アナログデジタル変換器27は、例えば100kサンプル/秒で、入力アナログ信号を24ビットのデジタル信号へ変換する。
【0079】
なお、アナログデジタル変換器26によりアナログデジタル変換されたCMR信号は、比較的早く変化するため、高速なアナログデジタル変換器26でサンプリングされ、上述のように、複数サンプリングに基づくノイズ除去が行われる。他方、上述のように、アナログデジタル変換器27によりアナログデジタル変換された参照光センサー信号ref2は、CMR信号における、励起光のノイズ成分Inoiseの影響を理論上消すための演算に使用され、検出される蛍光センサー信号PLにおけるレベル変動分αcont(t)とノイズ成分強度Inoiseとの積の項の、蛍光センサー信号PLの電圧レベルに対する相対的な電圧レベルに応じた精度でその演算をする必要があるため、比較的高精度のアナログデジタル変換器27でサンプリングされる。
【0080】
次に、当該実施の形態に係る測定装置の動作について説明する。図7は、実施の形態1に係る測定装置の動作(つまり、測定方法)について説明するフローチャートである。
【0081】
被測定場(ここでは、交流磁場Bac)の測定位置にセンサー部10が配置される。なお、センサー部10を走査しつつ複数の測定位置でそれぞれ測定を行うようにしてもよい。
【0082】
その後、まず、測定制御部41は、被測定場がオフされた状態(つまり、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていない状態)で測定を行い、前段測定値を取得する(ステップS1)。
【0083】
ここで、測定値の取得について説明する。図8は、測定値の取得について説明するフローチャートである。
【0084】
測定制御部41は、所定の測定シーケンスに従って、発光装置12に励起光を発光させたり、高周波磁場発生器2にマイクロ波を送出させたりする(ステップS11)。
【0085】
これにより、測定時の励起光の照射期間において、受光装置13から蛍光センサー信号PL(アナログ信号)が出力され、受光装置23,24から参照光センサー信号ref1,ref2(アナログ信号)がそれぞれ出力される(ステップS12)。そして、CMR演算部25により、蛍光センサー信号PL(t)および参照光センサー信号ref1からCMR信号CMR_SIG(t)が出力されアナログデジタル変換器26によりデジタイズされる(ステップS13)。
【0086】
測定制御部41が、このCMR信号CMR_SIG(t)(デジタル信号)を取得すると、演算部42は、CMR信号に対して上述の窓関数を適用し、窓関数適用後のCMR信号の積算値(例えば、上述の期間P1での積算値と期間P2での積算値との差分)を上述の測定値として導出し、図示せぬメモリーなどに記憶する(ステップS14)。
【0087】
このようにして、測定値(ここでは、前段測定値、ただし、本測定値および後段測定値についても同様)が取得される。なお、検出信号として、SD(t)が使用される場合には、上述のように、参照光センサー信号ref2およびCMR信号に基づいて、SD(t)が導出され、SD(t)に対して上述の窓関数が適用され、窓関数適用後のSD(t)の積算値が上述の測定値として導出される。
【0088】
次に、測定制御部41は、被測定場がオンされた状態(つまり、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されている状態)で上述の測定を行い、本測定値を取得する(ステップS2)。
【0089】
その後、測定制御部41は、被測定場がオフされた状態で上述の測定を行い、後段測定値を取得する(ステップS3)。
【0090】
そして、演算部42は、後段測定値の取得後、本測定値、並びに、本測定値の直前および直後の前段測定値および後段測定値に基づいて、被測定場の測定値を導出する(ステップS4)。具体的には、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないため、前段測定値および後段測定値は、測定系に由来するノイズ成分(1/fノイズなど)を示す。そのため、本測定値から、特定の比率で前段測定値および後段測定値を減算することで、本測定値における、それらのノイズ成分が抑制される。
【0091】
以上のように、上記実施の形態1によれば、高周波磁場発生器2は、被測定場に対応して電子スピン量子状態が変化するとともにマイクロ波で電子スピン量子操作の可能な磁気共鳴部材1の電子スピン量子操作をマイクロ波で行う。発光装置12は、磁気共鳴部材1に照射すべき励起光を出射する。受光装置13は、磁気共鳴部材1によりその励起光に対応して発せられる蛍光を受光しその蛍光の強度に対応する蛍光センサー信号を生成する。演算処理装置31は、蛍光センサー信号から得られる検出信号に基づいて測定値を導出する。演算処理装置31は、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されているときの測定値を本測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときであって本測定値の測定前に測定された測定値を前段測定値とし、被測定場が磁気共鳴部材に印加されていないときであって本測定値の測定後に測定された測定値を後段測定値としたとき、前段測定値および後段測定値をそれぞれ所定の比率で本測定値から減算して、被測定場の測定値を導出する。
【0092】
これにより、本測定値の直前および直後の両方においてノイズ成分の測定値として前段測定値および後段測定値を導出し、前段測定値および後段測定値によって本測定値を補正しているので、ノイズ成分が抑制され測定精度が高くなる。
【0093】
実施の形態2.
【0094】
図9は、本発明の実施の形態2に係る測定装置の構成を示すブロック図である。図10は、蛍光センサー信号および窓関数の一例を示す図である。
【0095】
実施の形態2では、コモンモードリジェクションを行わずに、アナログデジタル変換器26によって蛍光センサー信号PL(t)がデジタイズされ、演算部42は、蛍光センサー信号PL(t)に対して上述の窓関数を適用し、その窓関数を適用した後の蛍光センサー信号PL(t)に基づいて各測定値(前段測定値、本測定値、および後段測定値)を導出する。ここでは、窓関数は、励起光の照射期間の前半における第1期間P1と後半における第2期間P2との間での、蛍光センサー信号PL(t)の積算値の差分を導出するためのものである。なお、上述の検出信号と同様に、窓関数適用後の蛍光センサー信号PL(t)の積算値の差分は被測定場の強度と相関があるため、両者の対応関係を予め実験などで特定しておき、その対応関係を示す計算式やテーブルを使用して、窓関数適用後の蛍光センサー信号PL(t)の積算値の差分から被測定場の強度が導出される。
【0096】
そして、演算部42は、後段測定値の取得後、本測定値、並びに、本測定値の直前および直後の前段測定値および後段測定値に基づいて、被測定場の測定値を導出する。
【0097】
なお、実施の形態2に係る測定装置についてのその他の構成および動作については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0098】
実施の形態3.
【0099】
図11は、実施の形態3における連続的な被測定場の測定について説明する図である。実施の形態3では、例えば図11に示すように、(a)被測定場が磁気共鳴部材1に印加されているときの測定値と、被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときの測定値とを(ここでは、所定の時間間隔で繰り返し)交互に取得し、(b)(第i回の測定)の後段測定値Sb(i)を、次の(つまり、第(i+1)回の測定の)本測定値So(i+1)についての前段測定値Sa(i+1)として使用して、連続的に被測定場の測定値S(i),S(i+1),・・・を導出する。なお、各測定値Sa,Sb,Soの取得(つまり、測定)については、実施の形態1または2と同様である。
【0100】
したがって、(第i回の測定についての)被測定場が磁気共鳴部材1に印加されていないときの測定値は、後段測定値Sb(i)および前段測定値Sa(i+1)として使用されるため、少なくとも、第(i+1)回の測定が完了するまで図示せぬメモリーで保持される。
【0101】
なお、実施の形態3に係る測定装置についてのその他の構成および動作については、実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。
【0102】
以上のように、上記実施の形態3によれば、後段測定値Sb(i)を、次の本測定値So(i+1)についての前段測定値Sa(i+1)として使用するため、連続的に複数回の測定を行う際の所要時間が短くなる。すなわち、所定時間あたりの測定回数が多くなり、測定値を平均化した場合、測定値のランダムノイズを(測定回数の平方根に比例して)低減させることができ、測定感度が向上する。
【0103】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0104】
例えば、上記実施の形態では、光検出磁気共鳴に基づき磁場測定が行われるが、温度測定なども同様に実行可能である。また、磁場測定により得られる磁場に基づく電流測定を行うことも可能である。
【0105】
また、上記実施の形態では、コモンモードリジェクション用の参照光とは別に、上述の参照光センサー信号を使用した検出信号の演算のための参照光を励起光から分岐させているが、コモンモードリジェクション用に分岐した参照光を、上述の参照光センサー信号を使用した検出信号の演算のための参照光としても使用してもよい。また、上述の参照光センサー信号ref1,ref2を別々に生成しているが、1つの参照光センサー信号refを生成し、その参照光センサー信号refを上述の参照光センサー信号ref1,ref2として使用するようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、検出信号としてCMR信号またはレベル変動成分信号が使用されるが、それらとは異なる信号(被測定場を示す信号)を検出信号として使用してもよい。
【0107】
また、上記実施の形態において、差動アンプ25bは、アナログデジタル変換器26とは別に設けられていてもよいし、アナログデジタル変換器26に内蔵されていてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態では、窓関数は、矩形状の波形(つまり、期間P1,P2のそれぞれにおいて一定な値)を有しているが、他の形状の波形でもよい。つまり、窓関数は、期間P1,P2のそれぞれにおいて変化する値を取ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、例えば、光検出磁気共鳴を利用した測定装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 磁気共鳴部材
2 高周波磁場発生器
3 磁石
12 発光装置
13 受光装置(蛍光受光装置の一例)
23 受光装置
24 受光装置
31 演算処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11