(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018236
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】トリコモナス原虫検出用オリゴヌクレオチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6893 20180101AFI20240201BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240201BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20240201BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C12Q1/6893 Z ZNA
C12Q1/04
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121436
(22)【出願日】2022-07-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.ノニデット
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道渕 真史
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 峻史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広道
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)検出用オリゴヌクレオチドを提供すること。
【解決手段】以下の特徴(A)及び(B)を有する、トリコモナス原虫検出用プローブが開示される:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1~3のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも14塩基の塩基配列であって、配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目若しくは配列番号2の912~925番目の塩基配列S1又は前記塩基配列S1と相補的な塩基配列S2を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴(A)及び(B)を有する、トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)検出用プローブ:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1~3のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも14塩基の塩基配列であって、配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目又は配列番号2の912~925番目の塩基配列S1或いは前記塩基配列S1と相補的な塩基配列S2を少なくとも含む塩基配列
、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
【請求項2】
前記(A-2)の塩基配列が、前記(A-1)の塩基配列の全長の中央から前後に3塩基以内の領域にミスマッチ塩基が存在する塩基配列である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記(A)の塩基配列の長さが14~25塩基である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記(A-1)の塩基配列が、配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項5】
前記(B)の標識が蛍光色素標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項6】
前記(B)の標識が、前記プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光する蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項7】
前記(B)の標識が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
前記(B)の標識が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項9】
前記(B)の標識が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G,TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項10】
前記(B)において、標識されている末端塩基がシトシンである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のプローブを用いて、検体試料中に含まれ得るトリコモナス原虫を検出する方法。
【請求項12】
以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)トリコモナス原虫を含み得る試料を提供する工程、
(2)工程(1)で提供された試料を添加した反応液において核酸増幅反応を行う工程、及び
(3)工程(2)の1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前記プローブを用いて検出する工程、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(2)がPCR反応により実施され、前記PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(2)の核酸増幅反応で使用するプライマーセットとして、配列番号1若しくは配列番号3の309~340番目又は配列番号2の876~907番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S11、又は前記塩基配列S11において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S12を有する第一のプライマーと、配列番号1若しくは配列番号3の360~429番目又は配列番号2の927~958番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S21、又は前記塩基配列S21において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S22を有する第二のプライマーとを含むプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第一のプライマーが、配列番号10及び11のいずれかで示される塩基配列S13若しくは前記塩基配列S13と相補的な塩基配列S14、又は前記塩基配列S13若しくはS14において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S15を有し、かつ、前記第二のプライマーが、配列番号12~14のいずれかで示される塩基配列S23若しくは前記塩基配列S23と相補的な塩基配列S24、又は前記塩基配列S23若しくはS24において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S25を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記工程(3)の検出する工程が、融解曲線分析により実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれかに記載のプローブを含む、トリコモナス原虫を検出するための試薬キット。
【請求項19】
配列番号1若しくは配列番号3の309~340番目又は配列番号2の876~907番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S11、又は前記塩基配列S11において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S12を有する第一のプライマーと、配列番号1若しくは配列番号3の360~429番目又は配列番号2の927~958番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S21、又は前記塩基配列S21において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S22を有する第二のプライマーとを含むプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを更に含む、請求項18に記載の試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料中に含まれるトリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)を検出するためのオリゴヌクレオチドに関する。更に、本発明は、該オリゴヌクレオチドを用いて、検体試料中に含まれるトリコモナス原虫を検出する方法及びその方法に用いるための試薬・キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
性感染症は性的接触によって感染する病気であり、無症状や自覚しない軽症の場合も多く、感染がいつの間にか広がってしまうという問題がある。性感染症を引き起こす原因微生物としては、Chlamydia trachomatis、Neisseria gonorrhoeaeが代表例として挙げられる。更に、その他の原因微生物として、Mycoplasma genitalium、Mycoplasma hominis、Ureaplasma parvum、Ureaplasma urealyticum、Trichomonas vaginalis、Treponema pallidum等も知られている。
【0003】
これらの性感染症を引き起こす原因微生物のうち、トリコモナス原虫は膣炎、尿道炎、膀胱炎等を引き起こすことが報告されており、これを簡便、迅速、高感度に検出することは臨床診断上重要である。トリコモナス原虫の検査方法としては、これまでに顕微鏡検査、培養検査、遺伝子検査が開発されている。これらの検査方法のうち、顕微鏡検査が最も主流とされているが、検査の精度は鏡検者のスキルと機器の品質に依存するという問題がある。また、最近では顕微鏡検査では感度が不足していることも懸念されている。それに対して、遺伝子検査はトリコモナス原虫を迅速に感度よく検査でき、作業者のスキルの影響を受けにくい特徴がある(非特許文献1)。
【0004】
トリコモナス原虫の遺伝子検査方法としては、これまでに、ダブル標識核酸プローブ(Taqmanプローブ、加水分解プローブ等とも呼ばれる)を用いたリアルタイムPCR法等で検出する方法が実施されている。本方法では、定量的な検出も可能であるが、PCRのサイクル毎に測光する必要があるため、最も短い場合でも検出に約1時間を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Issa,R.M.et al.,Iranian Journal of Clinical Infectious Diseases,2006;1(4):171-175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
核酸増幅産物を検出する方法として、融解曲線解析法が知られている。融解曲線解析法は、核酸増幅と検出を別工程で実施することができ、最短30分間程度で比較的簡便に測定が可能である。さらに蛍光標識核酸プローブを用いた融解曲線解析は、自動分析装置を利用した遺伝子検査にも適合させ易いという利点がある。しかし未だ、融解曲線解析法で高感度にトリコモナス原虫を検出可能な核酸プローブは知られていない。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の1つの目的は、簡便でありながら、高感度に、検体試料中に含まれるトリコモナス原虫を検出する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を行った結果、特定のオリゴヌクレオチドプローブを用いることで、簡便でありながら、高感度にトリコモナス原虫を検出する方法を見出した。斯かる知見を基に更に検討を重ねることにより、本発明を完成した。即ち、本発明の概要は以下の通りである。
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[項1] 以下の特徴(A)及び(B)を有する、トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)検出用プローブ:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1~3のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも14塩基の塩基配列であって、配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目又は配列番号2の912~925番目の塩基配列S1或いは前記塩基配列S1と相補的な塩基配列S2を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
[項2] 前記(A-2)の塩基配列が、前記(A-1)の塩基配列の全長の中央から前後に3塩基以内の領域にミスマッチ塩基が存在する塩基配列である、項1に記載のプローブ。
[項3] 前記(A)の塩基配列の長さが14~25塩基である、項1又は2に記載のプローブ。
[項4] 前記(A-1)の塩基配列が、配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を含む、項1~3のいずれかに記載のプローブ。
[項5] 前記(B)の標識が蛍光色素標識である、項1~4のいずれかに記載のプローブ。
[項6] 前記(B)の標識が、前記プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光する蛍光消光色素による標識である、項1~5のいずれかに記載のプローブ。
[項7] 前記(B)の標識が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素による標識である、項1~6のいずれかに記載のプローブ。
[項8] 前記(B)の標識が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、項1~7のいずれかに記載のプローブ。
[項9] 前記(B)の標識が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G,TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、項1~8のいずれかに記載のプローブ。
[項10] 前記(B)において、標識されている末端塩基がシトシンである、項1~9のいずれかに記載のプローブ。
[項11] 項1~10のいずれかに記載のプローブを用いて、検体試料中に含まれ得るトリコモナス原虫を検出する方法。
[項12] 以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)トリコモナス原虫を含み得る試料を提供する工程、
(2)工程(1)で提供された試料を添加した反応液において核酸増幅反応を行う工程、及び
(3)工程(2)の1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前記プローブを用いて検出する工程、
を含む、項11に記載の方法。
[項13] 前記工程(2)がPCR反応により実施され、前記PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである項12に記載の方法。
[項14] 前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、項13に記載の方法。
[項15] 前記工程(2)の核酸増幅反応で使用するプライマーセットとして、配列番号1若しくは配列番号3の309~340番目又は配列番号2の876~907番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S11、又は前記塩基配列S11において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S12を有する第一のプライマーと、配列番号1若しくは配列番号3の360~429番目又は配列番号2の927~958番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S21、又は前記塩基配列S21において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S22を有する第二のプライマーとを含むプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを使用する、項12~14のいずれかに記載の方法。
[項16] 前記第一のプライマーが、配列番号10及び11のいずれかで示される塩基配列S13若しくは前記塩基配列S13と相補的な塩基配列S14、又は前記塩基配列S13若しくはS14において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S15を有し、かつ、前記第二のプライマーが、配列番号12~14のいずれかで示される塩基配列S23若しくは前記塩基配列S23と相補的な塩基配列S24、又は前記塩基配列S23若しくはS24において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S25を有する、項15に記載の方法。
[項17] 前記工程(3)の検出する工程が、融解曲線分析により実施される、項12~16のいずれかに記載の方法。
[項18] 項1~10のいずれかに記載のプローブを含む、トリコモナス原虫を検出するための試薬キット。
[項19] 配列番号1若しくは配列番号3の309~340番目又は配列番号2の876~907番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S11、又は前記塩基配列S11において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S12を有する第一のプライマーと、配列番号1若しくは配列番号3の360~429番目又は配列番号2の927~958番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S21、又は前記塩基配列S21において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S22を有する第二のプライマーとを含むプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを更に含む、項18に記載の試薬キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、簡便でありながら、高感度に、検体試料中に含まれるトリコモナス原虫を検出できる。また、本発明によれば、核酸精製工程を経ておらず増幅反応を阻害する生体由来の夾雑物を含み得るような検体試料からでも、検体試料中に含まれるトリコモナス原虫を高感度に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の結果の代表例を示す図(配列番号7で示されるプローブを用いて融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ)である。
【
図2】実施例2の結果の代表例を示す図(配列番号11及び配列番号13の組合せで示されるプライマーを用いて融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ)である。
【
図3】実施例3の尿検体を用いた場合の結果を示す図である。
【
図4】トリコモナス原虫の3種のBTUB遺伝子バリエーションの塩基配列(配列番号1~3)の一部と、試験例で用いた各プローブの塩基配列との対応関係を示す図である。二重下線を付した部分が配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目及び配列番号2の912~925番目の塩基配列に対応する領域である。四角で囲んだ塩基はミスマッチ塩基を示す。黒丸は蛍光消光色素の結合位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中に記載された非特許文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用され、その全体が明細書に組み込まれる。また、本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方又は両方を意味する。本明細書中の「含む」は、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を包含する。
【0013】
また、本明細書では、核酸プライマーを単にプライマーという場合があり、核酸プローブ及び標識プローブを単にプローブという場合があり、これらを総称してオリゴヌクレオチドともいう。
【0014】
本明細書では、配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、市販のソフトウェアGENETYX(株式会社ゼネティックス社)を用いて、又は全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出することができる。
【0015】
一つの実施形態において、本発明は、特定塩基配列を含む標識プローブを使用することで、短時間で高感度にトリコモナス原虫を検出する手法を提供する。一つの実施形態において、本発明は、トリコモナス原虫由来の特定塩基配列領域をターゲットとして標識プローブを設計することで、性感染症を引き起こすトリコモナス原虫を、例えば、融解曲線解析において高感度に検出できる。本明細書において、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3は、トリコモナス原虫由来の塩基配列(マルチコピー遺伝子であるBTUBコード配列の全長又は一部に相当する塩基配列)であり、これらはトリコモナス原虫のBTUBコード配列のバリエーションに相当する。本発明は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3に示される塩基配列の領域をターゲットとする特定塩基配列を含む標識プローブ(本明細書では、これを「核酸プローブ」等ともいう)を包含する。
【0016】
本発明の実施態様の一つは、検体試料中に含まれ得るトリコモナス原虫を検出する方法である。本発明の方法は、後述する特定塩基配列を有する標識プローブを使用する。特定の実施形態では、一つの特定標識プローブを反応液中で用いることで、例えばPCR-融解曲線解析法(RT-PCR-融解曲線解析法を含む)等において、検体試料中に含まれ得るトリコモナス原虫を高感度に検出することができる。
特定の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも以下の工程(A)及び(B):
(A)トリコモナス原虫由来の塩基配列に存在する特定領域を鋳型として、特定塩基配列を含む複数の核酸プライマーからなる核酸プライマーセットを用いて核酸増幅反応を行い、1又は複数の核酸増幅産物を生成する工程;及び
(B)工程(A)で得られた1又は複数の増幅産物を、特定の塩基配列からなる1又は複数の本発明の標識プローブを用いて検出する工程、
を含む。好ましくは、工程(A)においてPCR反応を行い、且つ、工程(B)において融解曲線解析法を行う、PCR-融解曲線解析法である。工程(A)及び(B)は同一の反応液中で行ってもよい。また、工程(A)及び(B)を連続して又は同時並行的に行ってもよい。
【0017】
特定の実施形態では、検体試料中に含まれ得るトリコモナス原虫を検出する方法は、少なくとも以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)トリコモナス原虫を含み得る試料を提供する工程、
(2)工程(1)で提供された試料を添加した反応液において核酸増幅反応を行う工程、及び
(3)工程(2)の1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の本発明の標識プローブを用いて検出する工程、
を含むことが好ましい。当該方法は、工程(2)をPCR反応により実施し、且つ、工程(3)を融解曲線分析により実施すること(PCR-融解曲線解析法)が好ましい。工程(2)及び(3)は同一の反応液中で行ってもよい。また、工程(2)及び(3)を連続して又は同時並行的に行ってもよい。
【0018】
[工程(1)]
一つの実施形態において、工程(1)は、トリコモナス原虫を含む可能性のある検体試料(例えば、動植物組織、体液、排泄物、細胞等の生体試料;施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったもの又はそれらを洗浄した洗浄液等の環境試料等)を用意する。本発明において使用できる検体試料は、トリコモナス原虫を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。例えば、トリコモナス原虫への感染が疑われる被験体から採取した血液、血液培養液、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰、唾液、口腔内擦過物、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられるが、これらに限定されない。トリコモナス原虫が性感染症の主要な原因菌という観点から、検体試料としては、例えば、組織切片、皮膚、吐瀉物、尿、分離培養コロニー、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、又は咽頭ぬぐい液を用いるのが好ましく、尿を用いるのが更に好ましい。生体試料を測定対象の検体試料とする場合、各生体試料に応じて、特に制限はされないが、希釈又は懸濁、遠心、酵素処理、ろ過、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、有機溶媒処理、破砕処理、磨砕処理等の前処理若しくは核酸抽出を行っても行わなくてもよい。本発明では、前記前処理若しくは核酸抽出を行わなくても、トリコモナス原虫を高感度に検出できる。
【0019】
検体試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。特定の好ましい実施形態では、検体試料は、DNAを単離・精製した試料でなくてもよく、例えば、生体から採取した検体をタンパク質分解酵素(例えば、プロテイナーゼK)処理及び/又は熱処理(例えば、60~100℃で1秒~10分間)によるタンパク分解変性処理をし、検体中に存在しているDNase(DNA分解酵素)を予め分解除去した試料をそのまま用いてもよい。
【0020】
核酸抽出の方法は、特に制限されないが、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。核酸抽出には、例えば、各メーカーから販売されているキット等を使用してもよく、自動核酸抽出精製装置を用いてもよい。
【0021】
特定の好ましい実施形態において、検体試料は、従来の核酸増幅反応において通常は必須と考えられていた核酸精製工程を省略したものであってもよい。核酸精製工程を経ていない生体試料には、その生体試料に含まれる各種タンパク質等の核酸増幅阻害物質が含まれるが、後述の実施例の結果に示されるように、本発明によれば、このような生体試料を検体試料とする場合であっても高感度にトリコモナス原虫を検出できる。核酸精製を行う場合、専用試薬が必要であることに加えて、作業が煩雑で手間と時間がかかるという問題がある。核酸精製工程を省略した検体試料を用いる場合、検体試料の採取から遺伝子検査結果を得るまでの時間を短縮することができ、例えば、検体試料の採取から遺伝子検査結果が得られるまでの時間を1日以内、好ましくは半日以内、より好ましくは6時間以内、更に好ましくは3時間以内、なかでも好ましくは2時間以内(例えば、1時間以内)とすることが可能である。このように、核酸精製工程を経ていない検体試料を用いて本発明の方法を行う場合、核酸精製の手間を省くことができ、簡便且つ短時間でトリコモナス原虫を検出することができる。
【0022】
[工程(2)]
一つの実施形態において、工程(2)は、核酸増幅法(1又は複数の核酸プライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと)により、核酸増幅産物を生成させる工程であることが好ましい。核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法、TMA法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。核酸増幅法はPCR法(RT-PCR法を含む)が好ましいが、これに限定されない。
【0023】
(PCR反応)
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応である。PCR反応は、通常、(i)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(ii)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(iii)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことを含む。DNAポリメラーゼとしては、例えば、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT、これらの変異体が挙げられる。本発明では、簡便、迅速、高感度、且つ検体による増幅阻害耐性を有するという観点から、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。また、工程(3)を融解曲線解析法により実施する場合には、蛍光消光プローブを用いる観点からも、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0024】
PCR反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。例えば、最初の工程(i)を80~100℃で0秒~300秒程度(例えば0.5~300秒程度)行ってもよく、2回目以降(繰り返し)の工程(i)を80~100℃で0.5~300秒程度行ってもよく、工程(ii)を35~80℃で1~300秒程度行ってもよく、工程(iii)を35~85℃で1~300秒程度行ってもよい。工程(i)から(iii)までのサイクルは30~70回繰り返すことが好ましい。ここで繰り返し行うサイクルの温度及び時間は、1~3サイクル毎に変化させてもよい。
【0025】
(DNAポリメラーゼ)
工程(2)で使用し得るDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが好ましいが、これに限定されない。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼであり、より好ましくは、パイロコッカス(Pyrococcus)属及びサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌に由来するDNAポリメラーゼが挙げられる。また、好適なDNAポリメラーゼには、ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体も含まれる。変異体としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加した変異体或いは野生型のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体等が挙げられる。具体的には、DNAポリメラーゼの変異体には、ポリメラーゼ活性の増強、エキソヌクレアーゼ活性の欠損、基質特異性の調整等を目的とした変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
【0027】
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9°N-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)が、伸長性や熱安定性に優れているという観点から、本発明においてとりわけ好適に用いることができる。
【0028】
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)等が挙げられ、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0029】
(KOD由来のDNAポリメラーゼ)
本明細書において、KOD由来のDNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼともいう)とは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、天然由来のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)をいう。一つの好ましい実施形態において、工程(2)は、このようなKOD由来のDNAポリメラーゼを使用して核酸増幅反応を行う。KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、検体由来の阻害物質による増幅阻害耐性に優れている。本発明では、このようなKOD DNAポリメラーゼを使用することが、後述の実施例に示すように、簡便でありながら、迅速、高感度でトリコモナス原虫を検出する点でより好ましい。
【0030】
(核酸プライマーセット)
工程(2)で使用し得る核酸プライマーセットは、後述のプローブが複合体を形成できるトリコモナス原虫由来の核酸断片を増幅し得るものであれば、特に限定されない。より高感度な判定結果が得られ易いという観点から、核酸プライマーセットは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3で示される塩基配列(トリコモナス原虫のマルチコピー遺伝子であるBTUB塩基配列の一部又は全部を含む塩基配列)を増幅し得る核酸プライマーセットであることが好ましい。
【0031】
例えば、核酸プライマーセットは、配列番号1若しくは配列番号3の309~340番目又は配列番号2の876~907番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S11、又は前記塩基配列S11において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S12を有する第一のプライマーと、配列番号1若しくは配列番号3の360~429番目又は配列番号2の927~958番目の塩基配列或いは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数20~32の塩基配列S21、又は前記塩基配列S21において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S22を有する第二のプライマーとを含むプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットであることが好ましい。
【0032】
更に好ましくは、配列番号10及び配列番号11のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する第一のプライマーと、配列番号12~14のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する第二のプライマーとを含み、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的であるプライマーセットである。少ない量(例えば1~20コピー程度)のトリコモナス原虫を検出する場合であっても高い蛍光変化率で高感度に検出し易いという観点から、本発明に用いられ得る核酸プライマーセットは、配列番号10及び配列番号11のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する第一のプライマーと、配列番号12及び配列番号13のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列を有するプライマーとを含み、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的であるプライマーセットであることが特に好ましい。
【0033】
また、前記プライマーセットは、前記各プライマーは、配列番号10~14のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を有していてもよい。
【0034】
[工程(3)]
工程(3)の実施態様は特に限定されず、当該分野で公知の任意の方法で実施することができる。検出対象のトリコモナス原虫は他の感染性微生物と同様に変異し得る。ここで、プライマー又はプローブの塩基配列とターゲットのトリコモナス原虫変異体の塩基配列とにミスマッチが生じると、標的遺伝子又はそれに由来する核酸増幅産物(標的核酸)に対するプライマー又はプローブの結合力は低下することになり得る。とりわけ、リアルタイムPCR法において標的核酸とプローブとの間のミスマッチが多い場合は、標的核酸に十分にプローブが結合できなくなるため、見かけ上増幅曲線の立ち上がりが遅れる、或いは全く立ち上がりがなくなる場合があり、このような状況は偽陰性を誘発し得る。融解曲線解析法の場合はPCRを終えてから工程(3)を行うため、仮にプライマー又はプローブにミスマッチがあったとしても、最終的に核酸増幅産物が得られていれば検出は可能であるため、リアルタイムPCR法よりもミスマッチの影響を抑えることできる。従って、工程(3)では、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することが特に好ましい。また、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することで、より短時間(例えば、核酸増幅反応反応開始から融解曲線解析完了まで45分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下)で検出することも可能である。
【0035】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-1)及び(3-2):
(3-1)工程(2)の核酸増幅産物と、1又は複数の本発明の核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成する工程;及び
(3-2)工程(3-1)の複合体を検出する工程
を含むことが好ましい。トリコモナス原虫の検出において、高感度な判定結果を得るために、工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る核酸増幅産物と特異的に反応して複合体を形成しうる後述の核酸プローブを用いることが好ましい。
工程(3-1)のハイブリダイズは、核酸増幅産物と核酸プローブが十分にハイブリダイズする温度条件下で実施されることが好ましい。このような温度条件としては、例えば、核酸プローブのTm値より少なくとも5℃低い温度、より好ましくは少なくとも10℃低い温度を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0036】
(核酸プローブ)
本発明の核酸プローブは、少なくとも以下の(A)及び(B)の特徴を有する、トリコモナス原虫検出用プローブであり得る:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1~3のいずれかで示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも14塩基の塩基配列であって、配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目又は配列番号2の912~925番目の塩基配列S1或いは前記塩基配列S1と相補的な塩基配列S2を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
このような特徴を有する核酸プローブを用いることで、例えば、融解曲線解析においても高感度にトリコモナス原虫を検出することができる。
【0037】
本発明の核酸プローブは、(A)の塩基配列を有するものであれば特に限定されないが、後述するグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識した核酸プローブとする場合には、当該色素で標識される少なくとも一つの末端塩基がシトシンであることが好ましい。
【0038】
一つの実施形態において、本発明の核酸プローブは、配列番号1若しくは配列番号3の300~450番目又は配列番号2の867~1017番目の塩基配列と85%以上の同一性を示す塩基配列を有するトリコモナス原虫(トリコモナス原虫の変異体を含む)を検出でき、好ましくは、配列番号1若しくは配列番号3の300~450番目又は配列番号2の867~1017番目の塩基配列と90%以上、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列を有するトリコモナス原虫(トリコモナス原虫の変異体を含む)を検出できる核酸プローブであり得る。
【0039】
特定の実施形態では、本発明の核酸プローブは、(A-1)で示される塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列(A-2)を含むプローブであり得る。置換、欠失、挿入若しくは付加し得る塩基の数は、好ましくは1又は2個であり得る。このように塩基の置換、欠失、挿入若しくは付加を有する場合、該プローブはミスマッチ塩基を含むといい、本発明においてはこのようなミスマッチ塩基を含むプローブも好適に使用できることが、後述の実施例において確認されている。
【0040】
本明細書において、ミスマッチ塩基(又は単に「ミスマッチ」ともいう)を含むとは、標的核酸の塩基配列(標的核酸が核酸増幅反応後に二本鎖となる場合は、二本鎖が解離したいずれか一本鎖の核酸の塩基配列)と相補的ではない塩基を含むことをいう。例えば、標的核酸の塩基配列にシトシン塩基が存在する場合において、プローブにおける当該シトシン塩基に対応する位置の塩基がグアニン以外の塩基(例えば、アデニン塩基、シトシン塩基、チミン塩基、及びユニバーサル塩基)となっていることをいう。例えば、変異し易い標的核酸の領域を検出する場合には、変異し易い塩基に対応するプローブの位置にミスマッチ塩基(例えば、ユニバーサル塩基)を選択することができる。
【0041】
本発明の核酸プローブがミスマッチ塩基を含む場合、ミスマッチ塩基の位置は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。より確実に核酸増幅産物を検出し易くなるという観点からは、ミスマッチ塩基は各プローブの末端塩基ではないことが好ましい。例えば、ミスマッチ塩基の位置は、プローブを構成する塩基配列全長nの中央(nが奇数の場合、(n+1)/2、nが偶数の場合、n/2)から前後に5mer以内が好ましく、前後に4mer以内がより好ましく、前後に3mer以内が更に好ましく、前後に2mer以内が更により好ましく、前後に1mer以内が特に好ましい。
【0042】
一つの好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブは、配列番号1~3のいずれかで示される塩基配列、又は前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも14塩基の塩基配列S1、或いは前記塩基配列S1において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列S2を含むプローブである。当該核酸プローブは、少なくとも配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目又は配列番号2の912~925番目の塩基配列S1、或いは前記塩基配列S1と相補的な塩基配列S2を含むことが好ましい。これらの本発明の核酸プローブは、前記塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブであってもよい。これらのプローブにおいて、置換、欠失、挿入若しくは付加され得る塩基の数は、0個、1個、又は2個が好ましく、0個又は1個であることがより好ましい。このようなプローブと核酸増幅産物とを反応させることで、より良好にトリコモナス原虫を検出することができる。
【0043】
本発明の核酸プローブの長さとしては、14塩基以上であれば特に限定されず、例えば15塩基以上、好ましくは16塩基以上であり、通常、25塩基以下、好ましくは20塩基以下、更に好ましくは19塩基以下である。プローブの長さは、より好ましくは14~25塩基、更に好ましくは14~20塩基であり得る。特定の実施形態において、本発明の核酸プローブの長さは、14~17塩基であってもよく、14~16塩基であってもよい。このような長さのプローブを用いることで、より高感度にトリコモナス原虫を検出することができる。
【0044】
特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブの具体例としては、配列番号4~7のいずれかで示される塩基配列又は前記配列と相補的な塩基配列、或いはそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブを挙げることができる。このような特定の塩基配列を有するプローブを用いることにより、より一層高感度トリコモナス原虫を検出することができる。
【0045】
上記のプローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されていることが好ましい。一つの実施形態において、本発明の核酸プローブは、該核酸プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光又は蛍光を生じるように標識されていることが好ましく、消光を生じるように標識されていることがより好ましい。標識物質としては特に制限はないが、蛍光色素であることがより好ましい。
【0046】
蛍光色素としては特に標的の核酸増幅産物とハイブリダイズして複合体を形成することにより蛍光を生じる蛍光物質又は消光を生じる蛍光物質のいずれであってもよいが、好ましくは標的の核酸増幅産物とハイブリダイズした際に消光を生じる蛍光物質であり、特に好ましくは、標的の核酸増幅産物とハイブリダイズにおいてグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素(例えば、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素)である。具体的には、フルオロセイン及びその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、ローダミン及びその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(GR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシローダミン、x-ローダミン、スルホローダミン101酸クロリド)、並びにBODIPY及びその誘導体(例えば、BODIPY-FL、BODIPY-FL/C3、BODIPY-FL/C6、BODIPY-5-FAM、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、BODIPY-R6G、BODIPY-564、BODIPY-581、BODIPY-591、BODIPY-630、BODIPY-650、BODIPY-665)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
より具体的には、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素として、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G(CR6G),TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素を挙げることができ、本発明にはこれらの蛍光消光色素が好適に使用され得る。
【0048】
特定の好ましい実施形態では、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンであるプローブがより好ましい。このようなプローブは、核酸増幅産物にハイブリダイズした際に、核酸増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0049】
なお、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基と核酸増幅産物中のグアニン塩基が塩基対を形成しなくとも、それらの塩基同士の距離が近ければ蛍光は消光できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。即ち、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(シトシン塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0050】
従って、蛍光消光色素で標識されている少なくとも一つの末端塩基がシトシンでない核酸プローブであっても、反応液の蛍光強度の変化を測定できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。例えば、該プローブがハイブリダイズした際に、蛍光消光色素が標識されている末端塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(末端塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0051】
特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブを工程(3)で用いる。このように本発明の核酸プローブを用いることでトリコモナス原虫を検出できる。本発明の方法は、本発明のプローブを1種類使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0052】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)の少なくとも一つを含む態様であり得る:
(3-a)工程(2)と同時に、反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をリアルタイムでモニターする工程。
(3-b)工程(2)の終了後に、反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をエンドポイントでモニターする工程。
(3-c)工程(2)の終了後に、反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度の温度依存性を測定する工程。
工程(3-a)、(3-b)、又は(3-c)により、簡便、迅速、且つ高感度に、核酸増幅産物と核酸プローブとで形成される複合体の生成を検出することができる。工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)は組み合わせて実施してもよく、例えば、工程(3-a)及び(3-b)の両方、又は工程(3-a)及び(3-c)の両方を行うこともできる。一つの実施形態では、より迅速に核酸増幅産物の検出を行う観点から、工程(3-b)又は(3-c)が好ましい。特に工程(3-c)、すなわち融解曲線解析法が好ましい。
【0053】
(工程(3-a))
工程(3-a)は、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターする方法(所謂、リアルタイムPCR法)であり、既知濃度のコントロール物質と比較することにより、定量解析が可能である。
【0054】
(工程(3-b))
工程(3-b)は、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターすることで、検体試料中に含まれる標的核酸を迅速に検出することができる。さらに、エンドポイントでの蛍光強度等を比較することでおおよその標的核酸量も推定可能である。
例えば、蛍光消光色素で標識された核酸プローブを含む反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターする。核酸増幅反応終了後に、反応液の蛍光強度を測定し、反応後の反応液の蛍光強度を反応前の反応液の蛍光強度と比較することで、標的核酸の増幅の有無を確認することができる。或いは、反応後の反応液の蛍光強度をコントロール反応液の蛍光強度と比較することでも検体試料中に含まれる標的核酸の有無を確認することができる。コントロール反応液とは、測定したい検体試料の代わりに陰性と判明している試料或いは陽性と判明している試料を加えた反応液である。
核酸増幅反応の進行は、一般的にリアルタイムでモニターする必要があるが、より迅速、簡便に検出する目的では、エンドポイントで測定することが好ましい。
【0055】
(工程(3-c))
工程(3-c)において、蛍光強度の温度依存性を測定するとは、具体的には、反応液の温度を低温から高温に変化させながら、各温度における蛍光強度を測定することであり得る。得られた蛍光強度について温度で一次微分することにより、使用する核酸プローブに固有の融解温度(Tm値)を求めることができる。また、蛍光強度は目的に合わせて蛍光消光率等に変換してもよい。
Tm値を用いた標的核酸の検出、分析等を融解曲線分析という。一般的に、Tm値は、オリゴヌクレオチドがその相補鎖と二本鎖を形成している割合と二本鎖を形成せず一本鎖である割合が等しいときの温度をいう。Tm値は、塩基配列に固有の値であるため、融解曲線分析は標的核酸の塩基配列多型を分析する手法として使用できる。ここでいう塩基配列多型とは、一塩基多型、塩基置換、塩基欠損、塩基挿入等を含む。
【0056】
一例として、融解曲線分析はSNP解析等にも応用されている。プローブに対して標的核酸の塩基配列に変異がある場合、プローブがハイブリダイズした際に塩基がミスマッチしているため、一般的にTm値は低くなる。したがって、Tm値の大きさを比較することで一塩基多型の解析(SNP解析)も行うことができる。
【0057】
[トリコモナス原虫を検出するための試薬]
別の実施形態として、本発明は、トリコモナス原虫を検出するための試薬を提供する。試薬には、前述で説明した本発明の核酸プローブに加えて、核酸増幅反応、及び検出に必要な成分を少なくとも含むことが好ましい。当該必要な成分は、それぞれ公知のものを用いることができる。例えば、本発明の試薬は、PCR用核酸プライマーセット、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びマグネシウム塩等の無機塩類を少なくとも含むことが好ましい。PCR用核酸プライマーセット及び検出用核酸プローブは、トリコモナス原虫の複数領域を増幅させるために複数セットを含むことができる。各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、核酸プローブは0.01~1μMが好ましく、0.02~0.5μMがより好ましい。核酸プローブセットとして使用する場合は、該プローブセットに含まれる各核酸プローブがそれぞれ上記濃度の範囲内であることが好ましい。核酸プライマーは0.01~10μMが好ましい。DNAポリメラーゼは0.01~1U/μLが好ましく、0.02~0.5U/μLがより好ましい。デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)は0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩等の無機塩類は0.1~10mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0058】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、本発明の試薬は、当該技術分野で知られる添加物等を含んでいてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物として、公知の抗DNAポリメラーゼ抗体、リン酸等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物として、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄又は酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、カルニチン、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデットP40等が挙げられる。また、偽陰性の判定を容易にするために、本発明の試薬は、当該分野で公知のインターナルコントロールを含むことも好ましい。本発明では、これらの添加物を1種類単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0059】
特定の実施形態において、本発明の試薬は、インターナルコントロールを含むことが好ましい。インターナルコントロールを組み合わせて使用することにより、核酸増幅反応が正常に行えていることを容易に確認でき、偽陰性の発生リスクを低減し、より高精度なトリコモナス原虫検査が可能となる。融解曲線解析法で、インターナルコントロールを組み合わせて使用する場合、インターナルコントロールの検出温度と本発明のトリコモナス原虫検出用プローブの検出温度は、一定程度(例えば、5℃以上)離れていることが好ましい。例えば、融解曲線解析法でインターナルコントロール及び/又は本発明のトリコモナス原虫検出用プローブを使用する場合の検出温度は当該分野で公知の方法により決定することができ、それにより互いの検出温度が例えば5℃以上異なるものを当業者は適宜選択して使用することができる。
【0060】
[トリコモナス原虫を検出するための試薬キット]
別の実施形態として、本発明は、トリコモナス原虫を検出するための試薬キットが提供される。本発明のキットは、前述で説明した本発明の核酸プローブ又は本発明の試薬を含み、トリコモナス原虫を検出(鑑別を含む)できるように構成されていれば特に限定されない。例えば、本発明のキットは、被検出対象の存在を検出又は定量することができる試薬、及び/又は、使用方法等を説明する使用説明書等を任意に含むことができる。例えば、本発明のキットは、前記核酸プローブ、核酸増幅反応に必要な成分、及び増幅産物の検出に必要な成分を同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。また、本発明のキットは、陽性コントロール液及び/又は陰性コントロール液を含めることもできる。
【実施例0061】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1:トリコモナス原虫検出の確認試験
(1-1)方法
トリコモナス原虫を特異的に検出できるオリゴヌクレオチドプローブを探索するために、市販されているトリコモナス原虫のDNA(vircell社製)を1反応あたり50コピー使用し、配列番号1~3に示される塩基配列に基づき設計した計6種のオリゴヌクレオチドプローブで非特異増幅の有無及びトリコモナス原虫の検出を確認した。非特異増幅の有無については陰性試料として精製水を測定に使用した。使用したオリゴヌクレオチドプローブは、配列番号4~9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを常法に従って合成したものを使用した(5’末端又は3’末端のいずれかの末端のみをCR6Gで標識。各プローブにおける標識位置は
図4参照)。また、オリゴヌクレオチドプライマーセットとして、配列番号11で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号13若しくは配列番号14のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのセットを使用した。
【0063】
(1-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号11で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
3.0μM 配列番号13若しくは配列番号14で示されるプライマー
0.4μM 配列番号4~9のいずれかで示されるプローブ
(1-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数50回)
(1-4)結果
図1は、代表例として配列番号7で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によって50コピーのトリコモナス原虫の検出を行った際に得られた検出グラフである。同様に本実施例で用いたプローブによる測定結果を表1にまとめた。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
【0064】
下記表1の結果に示されるように、同じBTUB配列における近い領域でプローブを設計しても、検出できる場合と検出できない場合があることが示された。そこで、これらのプローブの塩基配列を確認したところ、トリコモナス原虫を検出できたプローブ(配列番号4~7)は、配列番号1若しくは配列番号3の345~358番目又は配列番号2の912~925番目の領域に相当する塩基配列(
図4において二重下線で示される領域)を含むように設計されていたのに対し、検出できなかったプローブはこれらの領域に相当する塩基配列の一部しか含まないものであった。この結果から、検体試料中からトリコモナス原虫を高感度に検出するためには、上記所定領域の塩基配列の全長を含むように設計することが重要であることが明らかとなった。また、配列番号4及び6~7に示されるプローブは、配列番号1~3に示される塩基配列とは異なるミスマッチ塩基を、プローブを構成する塩基配列の中央付近に含むように設計されたものである。この結果から、本発明のトリコモナス原虫検出用プローブはミスマッチ塩基を含むものであってもよいことが確認された。また陰性試料として精製水を使用して非特異増幅の確認を行ったところ、いずれのプローブを用いた場合でも非特異増幅の発生は認められなかった。
【0065】
【0066】
実施例2:トリコモナス原虫検出のプライマー組合せ試験
(2-1)方法
上記実施例1で確認した本発明のプローブと一緒に使用されるオリゴヌクレオチドプライマーの組合せ(プライマーセット)を検証するため、市販されているトリコモナス原虫のDNA(vircell社製)を1反応あたり5コピー使用し、配列番号1~3に示される塩基配列に基づき設計した計6種のオリゴヌクレオチドプライマーの組合せでトリコモナス原虫の検出を確認した。本試験例ではオリゴヌクレオチドプローブとして、配列番号7に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した(3’末端をCR6Gで標識。
図4参照)。オリゴヌクレオチドプライマーは配列番号10若しくは配列番号11のいずれかで示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号12~14のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのセットを使用した。
【0067】
(2-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号10若しくは配列番号11で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
3.0μM 配列番号12~14のいずれかで示されるプライマー
0.4μM 配列番号7で示されるプローブ
(2-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数50回)
(2-4)結果
図2は、配列番号7で示されるプローブと共に、配列番号11及び配列番号13の組合せで示されるオリゴヌクレオチドプライマーを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってトリコモナス原虫の検出を行った際に得られた検出グラフである。同様に本実施例で用いたオリゴヌクレオチドプローブによる測定結果を表2にまとめた。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
【0068】
この結果に示されるように、本発明のプローブを使用する場合は、プライマーの組合せによらず、いずれのプライマーセットを用いる場合でも、検体試料中のトリコモナス原虫を検出できることが分かる。しかし、本試験例のように非常に低コピーのトリコモナス原虫DNAを検出する場合には、配列番号10又は配列番号11のプライマーと組み合わせるプライマーとして、配列番号14のプライマーを使用すると、配列番号12又は13のプライマーを使用する場合よりも蛍光値が低下する傾向が示された。この結果から、より高感度にトリコモナス原虫を検出するためには、選択するオリゴヌクレオチドプライマーの組合せも影響し、特に、配列番号10及び12、配列番号10及び13、配列番号11及び12、配列番号11及び13の組合せで、低コピーのトリコモナス原虫DNAを検出する場合にも蛍光変化率が高くなり好ましいことが確認された。
【0069】
【0070】
実施例3:簡易前処理を行った尿検体におけるトリコモナス原虫検出
(3-1)方法
陰性尿検体を13,000rpmで遠心して得た上清に対して10コピー/テストとなるようトリコモナス原虫のDNAを添加した試料を測定した。
(3-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
0.5μM 配列番号11で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
3.0μM 配列番号13で示されるプライマー
0.4μM 配列番号7で示されるプローブ(3’末端をCR6Gで標識)
(3-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数50回)
(3-4)結果
図3は、陰性尿検体を13,000rpmで遠心し、上清に対して10コピー/テストとなるようトリコモナス原虫のDNAを添加した試料を測定した際に得られた検出グラフである。本発明のオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブを用いた場合に、トリコモナス原虫を十分な感度で検出できることが分かる。本試験例で用いられた尿検体の遠心上清は、核酸精製工程を経ていないため、核酸増幅反応を阻害するような各種タンパク質等の生体由来の夾雑物を含む。この本試験例の結果から、本発明によれば、このように尿検体を簡便に処理しただけの試料においても問題なく高感度に測定できることが確認された。
本発明に記載のオリゴヌクレオチドプローブを使用した方法、試薬又はキットを使用することで、簡便、高感度に試料中に含まれるトリコモナス原虫を検出できる。したがって、本発明は研究用途のみならず、作業者のスキルや機器の性能による影響を受けにくく、トリコモナス原虫の早期発見、早期治療を実現し、性感染症拡大防止に繋がり臨床診断や環境検査等にも大きく貢献することができる。