(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018238
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】インク及び当該インクを使用したインクリボン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20240201BHJP
【FI】
C09D11/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121438
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚己
(72)【発明者】
【氏名】合田 等
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BA04
4J039BE01
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】インクリボンカセットなどに収納した際に、追加部品等を使用することや、収納するインクリボンの長さを長くすることなしに、印字可能な文字数、特に光学読み取り装置で読み取り可能な文字数を増やすことができるインパクトプリンター用のインクリボンに使用するインク、及び当該インクを使用したインクリボンの提供。
【解決手段】繊維よりなるリボン生地に、インクを保持するインクリボンに使用するインクであって、着色顔料としてカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックは揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm3/100g以上78cm3/100g以下、かつ窒素吸着比表面積が300m2/g以上390m2/g以下であることを特徴とするインクリボン用インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維よりなるリボン生地に、インクを保持するインクリボンに使用するインクであって、着色顔料としてカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックは揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm3/100g以上78cm3/100g以下、かつ窒素吸着比表面積が300m2/g以上390m2/g以下であることを特徴とするインクリボン用インク。
【請求項2】
繊維よりなるリボン生地に、請求項1に記載のインクを保持することを特徴とするインクリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインパクトプリンター用のインクリボンに使用するインク、及び当該インクを使用したインクリボンに関し、詳しくはカーボンブラックを使用した黒色系のインク、及び当該インクを使用した黒色系のインクリボンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなインクリボンとして、綿、絹、合成繊維などの生地(基布)上に適量の油性インクを塗布して、生地(基布)にインクを内蔵させたインクリボンが、ドットインパクトプリンターで使用されてきた。
【0003】
このようなインクリボンは、通常一本のインクリボンの両端を繋ぎ合わせて、ループ状にして使用される。インクリボンカセットなどに収納することにより、ループ状にしたインクリボンは、ループの長手方向に繰り返し走行されて、インクリボンの内蔵したインクが
残り少なくなって、十分な印字濃度が得られない印字になるまで、プリンターで印字に使用される。
【0004】
このようなインクリボンは、インクリボンのループを何周、何十周にも渡って繰り返し印字に使用することができるので、インクリボンの長さに比べて印字できる文字数が、非常に多くなるという有利な特徴がある。このため、従来から、この有利な特徴をさらに向上するために、様々な提案がされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、インクリボン収納室の少なくとも一つの内壁面にシート状物が貼付され、前記シート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数が0.45以下で且つシート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角が60°以上である事を特徴とするインクリボンカセットが、提案されている。
【0006】
インクリボンカセット内に多くのインクリボンが収納できれば、インクリボンの長さ当たりの印字数を増やすことができるわけではないが、同一の大きさのインクリボンカセットで、より多くの文字数を印字することができるようになる。しかしながら、インクリボン収納室に収納するインクリボンが多くなり過ぎると、インクリボン収納室内で、インクリボンが動くことが出来なくなって、インクリボンの走行不良が発生することがあり、インクリボン収納室内に多くのインクリボンを収納することができなかった。このため、特許文献1では、インクリボン収納室内の動摩擦係数を小さくすることにより、インクリボン収納室内のインクリボンの移動がスムースになるようにして、インクリボンカセット(インクリボン収納室)内に通常より長尺のインクリボンを詰め込んでも、インクリボンの搬送異常による不具合の発生を抑制可能なインクリボンカセットを提案している。
【0007】
また、特許文献2などで、補充用のインクタンクから、インクリボンにインクを補充することができるインクリボンカセットが提案されている。特許文献2のインクリボンカセットでは、インクリボンがインクリボンカセット内を走行するのに伴って、インクタンクからインクがインクリボンに供給されるため、インクリボンの長さ当たりの印字数を増やすことができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1のインクリボンカセットは、上記のように、インクリボン長さ当たりの印字数を増やすことができるものではなく、追加部品である内壁面に貼り付けるシート状物が必要であり、かつ内壁面にシート状物を貼り付ける必要があるため、インクリボンカセットを長期間に渡って使用する場合などには、シート状物を貼り付けるため
に使用した粘着剤がインクリボン収納室内で湧き出して、インクリボンに付着し、インクリボンが走行不良となるおそれもある。
【0009】
また、特許文献2のインクリボンカセットでは、補充用のインクタンクをインクリボンカセットに設ける必要があるので、インクリボンカセットが大きくなる。また、液体のインクが補充用のインクタンクから漏れ出すことなく、かつ補充用のインクタンクから確実にインクリボンにインクを供給する必要があるため、インクタンク内でインクを保持する部品や、インクタンク内でインクを保持する部品からインクを外部へ供給する部品などが必要となり、多くの追加部品が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-55580号公報
【特許文献2】特開平9-109522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、インクリボンカセットなどに収納した際に、追加部品等を使用することや、収納するインクリボンの長さを長くすることなしに、印字可能な文字数、特に光学読み取り装置で読み取り可能な文字数を増やすことができるインパクトプリンター用のインクリボンに使用するインク、並びに当該インクを使用したインクリボンの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明は、繊維よりなるリボン生地に、インクを保持するインクリボンに使用するインクであって、着色顔料としてカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックは揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm3/100g以上78cm3/100g以下、かつ窒素吸着比表面積が300m2/g以上390m2/g以下であることを特徴とするインクリボン用インクである。
【0013】
第2発明は、繊維よりなるリボン生地に、第1発明に記載のインクを保持することを特徴とするインクリボンである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、インパクトプリンター用のインクリボン用インクに、揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm3/100g以上78cm3/100g以下かつ窒素吸着比表面積を300m2/g以上390m2/g以下であるカーボンブラックを使用することで、従来のインパクトプリンター用インクリボンよりも、インクリボンの長さ当たりの印字できる文字数、特に光学読み取り装置で読み取り可能な文字数が増加する。このため、本発明のインパクトプリンター用のインクリボン用のインクを使用すれば、インクリボンカセットなどに収納した際に、追加部品等を使用することや、収納するインクリボンの長さを長くすることなしに、印字可能な文字数を増やすことができるインパクトプリンター用のインクリボンに使用するインク、及び当該インクを使用したインクリボンを提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明のインク及びインクリボンを、さらに詳しく説明する。
【0016】
一般にインパクトプリンタ用インクリボンに使用される液状のインクは、下記の組成分が配合されている。
成 分 重量%
着色剤(顔料、染料) 5~40
油 剤 20~80
顔料分散剤 5~20
前記インクを含浸させるファブリックリボン用生地(基布)としては、たとえばナイロン、ポリエステル、コットン、絹などの各種繊維の織布が使用できる。リボン生地の厚さは80μm以上140μm以下が好ましい。リボン生地の厚さが80μm未満になると十分な量のインクが含浸できず、インクリボンの長さ当たりの印字できる文字数が非常に少なくなる。一方リボン生地の厚さが140μmを超えると、生地が厚すぎて、インパクトプリンターのヘッドピンで印字した字が潰れる。また、生地に含浸させるインクの量(生地面積1m2当たりに含浸するインクの重量)は、8g/m2以上21g/m2以下が好ましい。生地に含浸させるインクの量が、8g/m2未満になると、インクリボンの長さ当たりの印字できる文字数が非常に少なくなる。一方、生地に含浸させるインクの量が、21g/m2を超えると、印字された文字が滲んで、印字された文字が醜くなる。
【0017】
前記インクに使用される一般的な油剤としては、モーターオイルなどの鉱物油、ナタネ油、ヒマシ油、大豆油などの植物油、牛脚油などの動物油、流動パラフィン、エチレン系炭化水素油、ブチレン系炭化水素油などのオレフィン重合油、アゼライン酸ジエステル、アジピン酸ジエステルなどのジエステル油、直鎖状ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン油、イソステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ひまし油脂肪酸エステル、トリメリット酸エステル、ソルビット脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル、フタル酸エステル、リン酸エステルなどのエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエーテルなどのエーテルが挙げられる。
【0018】
前記インクに使用する油剤の粘度は、インクリボンの印字寿命が長くなるため低粘度の方が好ましく、油剤の25℃における粘度が400mPa・s以下であることが好ましい。さらには、25℃における粘度が50mPa・s以下であることがより好ましい。油剤の25℃における粘度が、400mPa・sを超えると、インクを下記する印字に適した粘度範囲とすることが困難になる。
【0019】
前記インクとしては、前記着色剤として、染料のみを使用する染料系インク、染料と顔料を併用する染顔料系インク、顔料のみを使用する顔料系インクのいずれもが使用可能であるが、この種のインクに要求される特性であるプリンターのヘッドのドットピン磨耗量の低減、光学式文字読取装置での読み取り適性(OCR適性)、目視での印字寿命の長寿命化を合わせて満足することができる点で、染料と顔料を併用する染顔料系インクが好ましい。ここで、光学式文字読取装置での読み取り適性(OCR適性)とは、赤外線反射で読み取れる文字数を多く印字できる性能であり、本発明が課題とする印字寿命の長寿命化とは、赤外線反射で読み取れる文字数を多く印字できる性能である。
【0020】
前記インクに使用する染料としては、たとえばニグロシン染料、オイルブラック、メチルバイオレットベース、スピロンブラック、バリファーストブラックなどの染料の1種または2種以上が使用できる。
【0021】
前記インクに使用する顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料、アニリンブラック、フタロシアニンブルー、ブリリアントカーミンなどの有機顔料の1種または2種以上が使用できる。これらの中でも、OCR適性を向上するためには、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックを含有しないインクでは、OCR適性の向上が非常に困難で、光学式文字読取装置での読み取ることができる文字を多く印字することができない。
【0022】
一方、インクに含有するカーボンブラックが多くなればなるほど、プリンターヘッドのドットピン磨耗量が増加する。このため、インクには、カーボンブラックを含有することが必須であるが、出来る限り少ない含有量で、OCR適性を発揮、すなわち、赤外線反射で読み取れる文字数を多く印字できることが好ましい。
【0023】
インパクトプリンター用のインクリボンでは、印字ヘッドから突出するヘッドピンでインクリボンを紙などの被印字物に打ちつけることによって、インクリボンから被印字物にインクが転写される。インクが転写された部分のインクリボンは、転写された分だけインクが減少する。このため、印字に使用された部分のインクリボンはインクが補給されなければ、再度、インクリボンの同じ箇所を使用して印字すると、印字濃度が低下する。しかしながら、インクリボンに使用するインクに十分な流動性があれば、印字によりインクが減少した部分に、周りのインクが減少していない部分のインクが補給されるので、再度、インクリボンの同じ箇所を使用して印字しても、印字濃度は前回とほぼ同じ濃度にすることができる。従って、この種のインパクトプリンターに使用されるインクリボンでは、インクの流動性を向上することにより、インクリボンの印字寿命を長寿命化することができると、考えられる。
【0024】
しかしながら、必ずしもインクの流動性を向上することによって、インクリボンの印字寿命を長寿命化することができるわけではなかった。インクの流動性は、インク粘度を低くすることにより向上できる。インクの粘度を低くすれば、印字によって使用されたインクが印字に使用されない周辺部分のインクリボンから補充されやすくなるが、同時に、印字によりインクリボンから被印字物に転写されるインクの量が必要以上に多くなるからである。印字によりインクリボンから被印字物に転写されるインクの量が必要以上に多くなると、インクリボンからインクが早く無くなって、逆に印字寿命が短くなることがあった。また、インクの粘度を低くするだけで印字寿命を向上しようとすると、印字1回あたりに使用されるインクの量が必要以上に多くなることよって、印字された文字が滲んで、印字された文字が醜くなることや、印字ヘッド近傍でインクリボンが被印字物に接触することにより、被印字物を汚すといった二次的な弊害も発生することがあった。
【0025】
このように、インクリボンの印字寿命を長寿命化するためには、インクの流動性、すなわちインクの粘度は、印字によって使用されたインクが周囲のインクリボンより補充されやすくなる程度に低く、印字によりインクリボンから被印字物に転写されるインクの量が必要以上に多くならない程度に高い範囲にならなければならない。
【0026】
また、インクリボンの印字寿命を長寿命化するための好ましいインク粘度は、インクリボンの長さや、プリンターのインクリボンを走行させる走行スピードによって異なる。例えば、インクリボンのループの長さであるインクリボン長が長く、プリンターの走行スピードが遅い場合と、インクリボン長が短く、プリンターの走行スピードが速い場合では、前者は後者に比べ、好ましいインク粘度が高くなる。前者は後者に比べ、インクリボンの印字に使用した箇所を、再び印字に使用するまでに経過する時間が長いので、比較的インク粘度が高くても、再び印字に使用する時までに、印字によって使用された部分のインクが印字に使用されない周辺部分のインクリボンから補充される。これに対して、後者は、前者に比べ、インクリボンの印字に使用した箇所を、再び印字に使用するまでに経過する時間が短いので、前者に対して好ましい粘度のインクを使用すると、再び印字に使用する時までに、印字によって使用された部分のインクを、印字に使用されない周辺部分のインクリボンから補充することが出来ないからである。
【0027】
インクリボンの印字寿命を長寿命化するための要因としては、インクの粘度のほかに、インクのチキソトロピー性がある。この種のインクリボンはチキソトロピー性を有しており、印字ヘッドピンがインクリボンを打ちつける際にインクに生じるせん断応力により、印字ヘッドピンで打ちつけられた部分のインク粘度が低下する。したがって、インクのチキソトロピー性により、インクの粘度が低下しやすい性質(以下、この性質をチキソトロピー性が高いと表現する。)を有していれば、印字で使用された部分のインク粘度が低下する。インパクトプリンター用のインクリボンでは、印字に使用する部分(以下、印字部と言う。)のインクリボンだけが印字ヘッドピンで打ちつけられるので、印字部のインクだけが粘度低下し、印字ヘッドピンで打ちつけられない周辺部分(以下、周辺部と言う。)のインクリボンのインク粘度は低下しない。このためインクのチキソトロピー性が高ければ、印字部のインクリボンのインクは粘度が大きく低下することによって、インクリボンから被印字物に多くのインクが転写されるのに対して、周辺部のインクリボンのインク粘度は低下しないので、周辺部から印字部へ十分な量のインクが供給されない。この結果、印字部から被印字物へ転写されるインクが、周辺部から印字部に供給されるインクよりも多くなり、印字部のインクが少なくなって、被印字物に転写される印字濃度が低下する。この結果、チキソトロピー性の高いインクを使用すると、チキソトロピー性の低いインクを使用した場合に比べて、印字できる文字数が少なくなり、インクリボンの印字寿命が短くなる。
【0028】
インクの粘度が低い場合にも、高い場合にも、インクのチキソトロピー性が高くなることによって、印字部へのインクの供給量が少なくなるので、周辺部にはインクが残っているにも関わらず、印字部のインクが非常に少なくなって、十分な濃度の印字をすることができなくなり、インクリボンの印字寿命が短くなる。したがって、インク粘度が低い場合にも、高い場合にも、インクのチキソトロピー性を低くできれば、インクリボンの印字寿命を長くすることができる。
【0029】
上記のように、使用されるインクリボンの長さや、プリンターの走行スピードによって、インクリボンの印字寿命を長くするために好ましいインク粘度は異なるが、どのような粘度のインクであっても、インクのチキソトロピー性を低くできれば、インクリボンの印字寿命を長くすることができる。
【0030】
インクの流動性、すなわちインク粘度は、インクに含有する各成分の性質とその含有比率によって、調整することができる。すなわち、含有する顔料、染料、油剤他の材料の含有割合や、含有する油剤の粘度等を変更することによって、調整することができる。また、インクのチキソトロピー性も、このような材料の含有割合だけで、或る程度の調整することができた。しかしながら、従来の方法では、チキソトロピー性をさらに低くしたインクを作製することができず、さらなるインクリボンの印字寿命の長寿命化をすることはできなかった。
【0031】
インクがより低いチキソトロピー性を発現するインク材料について、本発明者らが鋭意努力した結果、特定のカーボンブラックを使用すれば、インクのチキソトロピー性をより低くできることがわかった。すなわち、揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm3/100g以上78cm3/100g以下で、かつ窒素吸着比表面積が300m2/g以上390m2/g以下の範囲を同時に満足するカーボンブラックをインクに使用することにより、インクのチキソトロピー性を従来のインクよりも低くすることができることがわかった。
【0032】
インクのチキソトロピー性は、次に示す方法で測定することができる。サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製コーンプレート回転型(共軸二重円筒)粘度計ロトビスコ1(RotoVisco1)にて25℃で、0(1/s)~600(1/s)まで一定の割合で3分間かけてずり速度を速めながら、インクのせん断応力(以下、加速時のせん断応力と言う。)を測定した後、ずり速度を600(1/s)に固定して10分間インクのせん断応力を測定した後、600(1/s)~0(1/s)まで一定の割合で1分間かけてずり速度を遅めながら、インクのせん断応力(以下、減速時のせん断応力と言う。)を測定する。
【0033】
次に、X軸をずり速度(1/s)、Y軸をせん断応力(Pa)として、測定結果を示したグラフを作成し、グラフ上で、加速時のせん断応力を示す曲線をずり速度0(1/s)~600(1/s)まで積分した値から、減速時のせん断応力をずり速度0(1/s)~600(1/s)まで積分した値を差し引いた値を、インクのチキソトロピー性を示す値(Pa/s)とした。すなわち、本発明におけるインクのチキソトロピー性を示す値は、Y=0、X=0、X=600と加速時のせん断応力を示す曲線で囲まれた面積から、Y=0、X=0、X=600と減速時のせん断応力を示す曲線で囲まれた面積を引いた面積である。
【0034】
本発明のインクのチキソトロピー性を示す値は、4000Pa/s以下が好ましい。チキソトロピー性を示す値が4000Pa/s以下であり、かつ、インク粘度が、使用されるインクリボンの長さや、プリンターの走行スピードによって、インクリボンの印字寿命を長くするために好ましい値であれば、印字により必要以上に印字部のインクが消費されることなく、印字に使用された印字部のインクが周辺部のインクにより確実に補充されるので、インクリボン全体のインクをより有効に利用できるようになる。したがって、インク粘度を、使用されるインクリボンの長さや、プリンターの走行スピードによって、インクリボンの印字寿命を長くするために好ましい値とした上で、チキソトロピー性を低くすることができれば、インクリボンの印字寿命をより長寿命化することができる。
【0035】
本発明におけるインク粘度は、前記チキソトロピー性を示す値の測定において、ずり速度を600(1/s)に固定して10分間インクのせん断応力を測定した際に、10分経過した時点のせん断応力をずり速度で割った値である。
【0036】
インパクトプリンター用のインクリボンに使用するインクの粘度は、通常300mPa・s以上3500mPa・s以下である。上記のように、インクリボン長が長く、プリンターの走行スピードが遅い場合には、粘度が高い3500mPa・sに近いインクが使用され、インクリボン長が短く、プリンターの走行スピードが速い場合では、粘度が低い300mPa・s程度のインクが使用される。インク粘度が300mPa・s未満になると、インクが流動しやすくなりすぎて、インクリボン長が短く、プリンターの走行スピードが速いプリンターに使用したとしても、インクリボンの印字寿命が短くなる他、インクリボンが被印字物に接触することにより、被印字物を汚すおそれもある。一方、インク粘度が3500mPa・sを超えると、インクが流動しにくくなって、仮にインクのチキソトロピー性を示す値が4000Pa/s以下になったとしても、インクリボンの印字寿命を長寿命化する効果は得られない。
【0037】
本発明に使用するインクには、前記成分の他に、必要に応じて、樹脂のほか、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、分散剤などの添加剤を配合してもよい。樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール樹脂、天然系ゴム、合成系ゴムなどが使用できる。顔料を使用するので、顔料の分散性を高めるため、顔料分散剤を使用することが好ましい。
【0038】
本発明で使用するインクは、前記成分をロールミル、サンドミルなどで混練することにより調製できる。
【0039】
(実施例)
本発明を、以下の実施例、比較例を用いて、更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。以下、各材料の配合量について、部と表示するものについては、特に断りがない限り、重量部を示すものとする。
【0040】
(カーボンブラック)
揮発分、DBP吸収量、窒素吸着比表面積が、それぞれ表1に示す値であるカーボンブラックを準備した。各カーボンブラックの揮発分、DBP吸収量、窒素吸着比表面積は、以下の方法で測定した。
【0041】
(カーボンブラックの揮発分測定)
カーボンブラックをるつぼに入れ、950℃で7分間加熱し、風冷後に質量を測定し、減量分を算出。元の質量に対しての減量分の質量を100分率(%)で表したものを、揮発分とした。
【0042】
(DBP吸収量)
DBP吸収量(cm3/100g)は、JIS K 6217-4に準拠し、S-500吸収量測定装置(あさひ総研社製)を用いて、カーボンブラックにDBPを添加したときの粘度特性の変化によって発生するトルクを検出し、最大トルクの70%時のDBP添加量を試料100g当たりに換算して求めた。
【0043】
(カーボンブラック窒素吸着比表面積測定)
JIS K6127-2にしたがって測定を行った。
【0044】
【0045】
(インクの作製)
(実施例1)
カーボンブラックとして、表1のカーボンブラックAを用いて、下記に示す処方に従い各材料を混合し、3本ロールミルで混練してインクを調製した。
処 方 重量%
カーボンブラックA(固形分100% ) 5
アニリンブラック(固形分100% ) 12
トリメチロールプロパン脂肪酸エステル 71
染料溶解液(染料25%含有) 5
顔料分散剤 (固形分100% ) 7
【0046】
(実施例2)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2のインクを作製した。
【0047】
(実施例3)
インク材料を下記処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3のインクを作製した。
処 方 重量%
カーボンブラックA (固形分100% ) 5
アニリンブラック(固形分100% ) 12
流動パラフィン 71
染料溶解液(染料25%含有) 5
顔料分散剤 (固形分100% ) 7
【0048】
(実施例4)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例4のインクを作製した。
【0049】
(実施例5)
インク材料を下記処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5のインクを作製した。
処 方 重量%
カーボンブラックA(固形分100% ) 5
アニリンブラック(固形分100% ) 12
ひまし油脂肪酸エステル 71
染料溶解液(染料25%含有) 5
顔料分散剤(固形分100% ) 7
【0050】
(実施例6)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6のインクを作製した。
【0051】
(比較例1~15)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1~15のインクを作製した。
【0052】
(比較例16,17)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例3と同様の方法で、比較例16、比較例17のインクを作製した。
【0053】
(比較例18,19)
カーボンブラックを表2に記載のものに変更した以外は、実施例5と同様の方法で、比較例18、比較例19のインクを作製した。
【0054】
(表2)
(インクのチキソトロピー性)
各実施例、比較例で作製したインクについて、次の方法でチキソトロピー性を評価(チキソトロピー性を示す値を測定)した。サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製コーンプレート回転型(共軸二重円筒)粘度計ロトビスコ1(RotoVisco1)にて25℃で、0(1/s)~600(1/s)まで一定の割合で3分間かけてずり速度を速めながら、インクのせん断応力(以下、加速時のせん断応力と言う。)を測定した後、ずり速度を600(1/s)に固定して10分間インクのせん断応力を測定した後、600(1/s)~0(1/s)まで一定の割合で1分間かけてずり速度を遅めながら、インクのせん断応力(以下、減速時のせん断応力と言う。)を測定する。次に、X軸をずり速度(1/s)、Y軸をせん断応力(Pa)として、測定結果を示したグラフを作成し、グラフ上で、加速時のせん断応力を示す曲線をずり速度0(1/s)~600(1/s)まで積分した値から、減速時のせん断応力をずり速度0(1/s)~600(1/s)まで積分した値を差し引いた値を、チキソトロピー性を示す値(Pa/s)とした。測定結果を、表3に示す。
【0055】
(インク粘度)
各実施例、比較例で作製したインクについて、次の方法でインク粘度を測定した。前記チキソトロピー性を示す値の測定において、ずり速度を600(1/s)に固定して10分間インクのせん断応力を測定した際に、10分経過した時点のせん断応力を測定して、せん断応力をずり速度(600(1/s))で割った値をインクの粘度とした。測定結果を、表3に示す。
【0056】
(インクリボンの作製)
次に、得られた各実施例、比較例のインクを幅13mm、長さ25m、坪量64g/m2(厚み約122μm)のナイロン66生地に14g/m2の割合で含浸したインクリボンを準備した。次に、各実施例、比較例のインクリボンの両端を超音波溶着でつなぎ合わせて、各実施例、比較例のインクリボンループを準備した。
【0057】
(印字試験)
各実施例、比較例のインクリボンループを、所定のリボンカセットに装填して、所定の印字パターンを所定のインパクトプリンターで連続印字する印字試験を実施した。印字は24ピンワイヤドットプリンタで白色連票紙に行なった。
【0058】
(印字濃度測定)
サカタインクス株式会社製濃度計MR-12を用いて、Bフィルターを使用して、各実施例、各比較例の印字濃度を測定した。印字開始から印字濃度が0.35未満になるまで、5万字ごとに印字濃度を測定し、最後に印字濃度が0.35以上であった印字文字数を測定結果(印字寿命)とした。この評価結果を表3に示す。
【0059】
(表3)
表1、2、及び3に示すように、揮発分が7.0%以上8.5%以下、DBP吸収量が60cm
3/100g以上78cm
3/100g以下、かつ窒素吸着比表面積が300m
2/g以上390m
2/g以下の3種類の要件(以下、カーボンブラックの3特性と言う)を満足するカーボンブラックAとBを使用した実施例1と実施例2のインクリボンは、実施例1、2とインク粘度が同程度(600~700mPa・m)であるが、上記カーボンブラックの3特性のうちの少なくとも1つの特性を満足していないカーボンブラックC~Qを使用した比較例1~15に比べて印字寿命が20~40万文字長くなった。また、カーボンブラックの3特性を満足するカーボンブラックAとBを使用した実施例3と実施例4のインクリボンは、実施例3、4とインク粘度が同程度(3300~3400mPa・m)であるが、上記カーボンブラックの3特性のうちの少なくとも1つの特性を満足していないカーボンブラックC、Dを使用した比較例16、17に比べて印字寿命が20万文字長くなった。また、カーボンブラックの3特性を満足するカーボンブラックAとBを使用した実施例5と実施例6のインクリボンは、実施例5、6とインク粘度が同程度(320~330mPa・m)であるが、上記カーボンブラックの3特性のうちの少なくとも1つの特性を満足していないカーボンブラックC、Dを使用した比較例18、19に比べて印字寿命が30万文字長くなった。前記のように、インクリボンの印字寿命はインクリボンの長さ、プリンターの走行スピード、インク粘度等の影響を受けるが、これらが同条件であれば、顔料として上記の3特性を満足するカーボンブラックを使用することで、従来のインクリボンよりの印字寿命が長いインクリボンを得ることができた。