(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001824
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】センシング繊維部材
(51)【国際特許分類】
D02G 3/28 20060101AFI20231227BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20231227BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20231227BHJP
D03D 15/533 20210101ALI20231227BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20231227BHJP
D03D 15/44 20210101ALI20231227BHJP
D03D 15/50 20210101ALI20231227BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20231227BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20231227BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20231227BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231227BHJP
【FI】
D02G3/28
D02G3/36
D03D1/00 Z
D03D15/533
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/50
D04B1/16
D04B21/16
H01L41/193
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100727
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】594149804
【氏名又は名称】カジナイロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】小森 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貫生
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AA06
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002FA06
4L036MA04
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4L036MA37
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4L036UA25
4L048AA13
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA52
4L048AB01
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC13
4L048CA00
4L048CA05
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、しなやかで風合いに優れ、かつ、従来の圧電材料を用いた接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである、センシング繊維部材の提供。
【解決手段】本発明のセンシング繊維部材は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を配したカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該カバーリングヤーンの少なくとも1本が、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンであり、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化を読み取ることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を配したカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該カバーリングヤーンの少なくとも1本が、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンであり、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化を読み取ることを特徴とする前記センシング繊維部材。
【請求項2】
前記芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンが、コアスパンヤーンである、請求項1に記載のセンシング繊維部材。
【請求項3】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触、荷重又は引張力を感知する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項4】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材の伸縮又は曲げ変形を感知する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項5】
前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への液体の接触又は湿度の変化を感知する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項6】
前記カバーリングヤーンの芯糸の混率が、5質量%~12質量%である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項7】
前記互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有する、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項8】
前記芯材としての線状導電体は、マルチフィラメント導電性繊維である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項9】
前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された織物である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項10】
前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された編物である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項11】
前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーン同士が、諸撚糸である、請求項1又は2に記載のセンシング繊維部材。
【請求項12】
諸撚糸である請求項11に記載のセンシング繊維部材が、織り込まれている織物。
【請求項13】
諸撚糸である請求項11に記載のセンシング繊維部材が、編み込まれている編物。
【請求項14】
芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも1本有する、物体の近接又は接触又は引張力を感知するためのセンシング繊維部材であって、該少なくとも1本のカバーリングヤーンの線状導電体とグラウンドとの間の該物体の近接又は接触による静電容量の変化により、該センシング繊維部材への物体の近接又は接触又は引張力が感知される、前記センシング繊維部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を配したカバーリングヤーンを有するセンシング繊維部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル技術が提案されている。これらは、柔軟な繊維基材上に、センサ、バッテリー、ヒーター、ペルチェ素子等の機能素子を設けるものであり、非常に薄型で可撓性のある製品が実現できるため、これからのIoT(Internet of Things)社会において非常に重要である。
【0003】
上記センサの1つとして、従来、接触に対するセンシング機能をもつ繊維部材として、
図1に示すような、圧電型の加工糸や圧電センサが提案されている。以下の特許文献1~5に記載されるように、一般に、圧電型の加工糸(圧電糸、圧電繊維ともいう。)は、導電性繊維の周りをポリ乳酸やポリフッ化ビニリデン等の圧電材料で被覆し、さらにその周りを金属メッキなどの導体で被覆した構造をもっている。ポリ乳酸は、結晶性のヘリカルキラル高分子であり、その一軸延伸フィルムは圧電性を有している。圧電性とは応力を印加すると電荷が発生する性質である。これにより内層側の導電性繊維(1)と外側の導電性繊維(3)との間に、例えば、
図1に示すように、(1)側が[-]、(3)側が「+」の荷電が発生する。また、この逆の場合もある。この場合、圧電材料を配向させることが必要であり、メッキ工程において生産性を高めることが困難であるという問題があるため、現状、加工糸1m当たり約1000円~5000円と非常に高価なものとなっている。また、
図1に示すような構造では、1万m以上といった長尺の加工糸を製造することは、現状、困難であるため、圧電糸を織物や経編の経糸として使用することが非常に困難である。さらに、圧電材料であるポリ乳酸の剛性によって、圧電糸の風合いが悪くなり、繊維としてしなやかさに欠けるものとなるという問題もある。
【0004】
また、以下の特許文献6、7に記載されるように、2つの近接した電極間の、接触や荷重が加えられた際の静電容量の変化を検知することにより、接触又は荷重を感知する接触センシング繊維部材が知られており、それ以外にも、1つの電極に対して導体(人体など)が近接する際の静電容量の変化を検知する技術は知られている。しかしながら、従来技術では、2つの電極間の絶縁体として、主にウレタンやシリコーンなどの絶縁体が使われており、電極間の距離を大きく変化させることが困難なため、出力(感度)が小さく、また、高コストであり風合いが良好ではなかった。また、特許文献8に記載されるように、1つの電極を利用する場合、静電容量変化が非常に微小であるため、この微小信号を検知するための高度な信号処理回路を用いる必要があるが、現状、接触の感度は低く、また、近接センサとしての感度が低いものしか得られていない。
【0005】
他方、以下の特許文献9、10に記載されるように、バルキー性に優れたカバーリングヤーンや高生産性で且つ高品質なカバーリングヤーンに関する技術は知られているが、これらのカバーリングヤーンに関する技術をセンシング繊維部材として用いることは記載されておらず示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6025854号公報
【特許文献2】特許第6689943号公報
【特許文献3】特開2020-090768号公報
【特許文献4】特開2020-036027号公報
【特許文献5】特許第6107069号公報
【特許文献6】特許第5754946号公報
【特許文献7】特開2006-234716号公報
【特許文献8】特開2016-173685号公報
【特許文献9】特開平10-25635号公報
【特許文献10】特開2013-231246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した技術水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用も可能であり、しなやかで風合いに優れ、かつ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである、センシング繊維部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭利検討し実験を重ねた結果、以下の構造とすることで、前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を配したカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該カバーリングヤーンの少なくとも1本が、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンであり、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化を読み取ることを特徴とする前記センシング繊維部材。
[2]前記芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンが、コアスパンヤーンである、前記[1]に記載のセンシング繊維部材。
[3]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への物体の接触、荷重又は引張力を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[4]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材の伸縮又は曲げ変形を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[5]前記センシング繊維部材が、該センシング繊維部材への液体の接触又は湿度の変化を感知する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[6]前記カバーリングヤーンの芯糸の混率が、5質量%~12質量%である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のセンシング繊維部材。
[7]前記互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有する、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[8]前記芯材としての線状導電体は、マルチフィラメント導電性繊維である、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[9]前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された織物である、前記[1]または[2]に記載のセンシング繊維部材。
[10]前記カバーリングヤーンが少なくとも2本以上配された編物である、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[11]前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーン同士が、諸撚糸である、前記[1]又は[2]に記載のセンシング繊維部材。
[12]諸撚糸である前記[11]に記載のセンシング繊維部材が、織り込まれている織物。
[13]諸撚糸である前記[11]に記載のセンシング繊維部材が、編み込まれている編物。
[14]芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを少なくとも1本有する、物体の近接又は接触を感知するためのセンシング繊維部材であって、該少なくとも1本のカバーリングヤーンの線状導電体とグラウンドとの間の該物体の近接又は接触による静電容量の変化により、該センシング繊維部材への物体の近接又は接触が感知される、前記センシング繊維部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用可能であり、しなやかで風合いに優れ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係る接触センシング繊維部材は、一般的な繊維材料であるポリエステル、ナイロン等を用いて荷重又は引張力のセンシングが可能であるため、非常に低コストで接触センシング繊維を実現でき、また、コアスパンヤーン含め、ノウハウが確立している繊維加工技術であるカバーリング技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、さらに、圧電糸に比較して、非常に風合い良い加工糸が実現できるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
本発明に係る接触センシング繊維部材は、静電容量及び/又は抵抗値が変化するものであり、荷重又は引張力を連続的に印加している状態を検知することができる。
また、本発明に係る接触センシング繊維部材では、前記芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンが、コアスパンヤーンである場合、天然繊維や生分解糸の使用が容易であり、鞘糸に機能性を付与させやすい。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での触覚をデジタル化して伝達するセンサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサ(生体センサ)の埋め込み、人の在・不在の検知センサ、後部座席の子供の放置防止、見守りセンサ等の各種用途に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本実施形態のセンシング繊維部材の模式図である。
【
図3】諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材の外観拡大写真である。
【
図4】諸撚糸である本実施形態のセンシング繊維部材を織り込んだ細幅織物の写真である。
【
図5】実施例4の、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維を配したコアスパンヤーンを用いた諸撚糸における出力電流値(センサ出力)の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を配したカバーリングヤーンを少なくとも2本有し、その内の2本が互いに近接して配置されているセンシング繊維部材であって、該カバーリングヤーンの少なくとも1本が、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンであり、該互いに近接して配置されている2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化及び/又は静電容量の変化を読み取ることを特徴とする前記センシング繊維部材である。
【0013】
芯材としての線状導電体(芯糸)は、導電性である限り特に制限はないが、導電性繊維、例えば、炭素繊維、金属繊維等、材質自体が導電性を有する線状導電体であってもよく、導電性のない繊維に導電性を付与した線状導電体でもよい。前者としては、炭素を繊維化したカーボン繊維が、後述する水分センシングにおいて耐久性が高く好ましい。また、SUS素材を繊維化したものであれば、防錆性を確保でき、回路等と接続する終端処理を簡便にできるという点で好ましい。後者としては、ナイロン等の繊維の周りに銀、銅などの金属めっきを施したものや、金属箔をテープ状に加工して繊維に巻回したもの、繊維にエアロゾル状の導電体をスプレーにより繊維表面に付着させたものを用いることが、風合いや柔軟性を高められる観点から、好ましい。この場合、導電性繊維がマルチフィラメントからなることが、良好な導電性を得られる点、また、強度を高められる点から好ましい。ナイロンに代えて、ポリアリレート、アラミド等の高強度繊維等を用いれば引張強度をさらに高めることができる。あるいは、ウレタンやシリコーン等の弾性体の周りにストレッチャブルな金属インクを用いて導電性を付与した線状導電体を用いてもよい。この場合、ストレッチャブルな繊維部材を得ることができる。また、線状導電体として、導電性材料と絶縁性材料の混合物を線状にしたものを用いてもよい。例えば、ナイロンやポリエステル等の樹脂にカーボン系導電性材料や金属を混合した材料を線状に加工した材料を用いれば、導電性は劣るものの格段に低コストの線状導電体を得ることができる。また、線状導電体は、風合いは悪化するものの低コスト化の観点から、1本又は複数本の金属ワイヤーであってもよい。例えば、直径30μm~1mm程度といった金属ワイヤーを用いれば、格段に強度を高めることができる。
【0014】
線状導電体、例えば、導電性繊維の繊度は、良好な風合いが得やすくなる観点から、10dtex~15000dtexであることが好ましく、より好ましくは20dtex~5000dtexである。また、マルチフィラメントである場合、単糸繊度は、良好な風合いを得やすいことと、高い導電性が得やすくなる観点から、1dtex~30dtexであることが好ましく、より好ましくは2dtex~10dtexである。フィラメント数については、10~200とすることがより好ましい。フィラメント数を10以上とすることは、良好な風合いが得られやすく、また、良好な導電性を確保しやすくなる点で好ましい。但し、フィラメント数が多すぎるとコストが高くなってしまい、剛性も、より高くなるため逆に風合いが低下する場合がある。これらを総合して、上記のフィラメント数の範囲とすることが好ましい。
【0015】
線状導電体を成す導電性材料は、対をなす2本のカバーリングヤーン間で同一の材料を用いてもよいし、異種材料を用いてもよく、任意の材料の組み合わせを用いることができる。接触や荷重、引張のセンシング用途の場合、同一の導電性材料を用いることが、生産が効率的に可能である点で好ましい。水分などの液体のセンシングを行う場合、対を成す2本のカバーリングヤーンの線状導電体として異種材料を用いると、この異種材料間を橋渡しして液体が付着した際にいわゆるガルバニック作用とよばれる電気化学的作用によって電圧や電流が発生するため、電源無しでも液体のセンシングが可能となる。異種材料の組み合わせとしては、例えば、鉄と銅、鉄と銀、アルミニウムと銅、銀と銅など、任意のものを用いることができる。
【0016】
本明細書中、被覆材(カバー糸ともいう。)としての用語「絶縁性繊維」は、前記した芯材としての線状導電体のうちの対になる2本同士を電気的に絶縁することができる限り、特に制限はなく、ポリ乳酸(PLA)等の圧電体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の強誘電体を包含する。但し、カバー糸は、静置状態で前記した芯材としての線状導電体を隙間なくカバーリングできて、電気的なショートを起こし難いものとするため、被覆性、センシング性能、及び風合いの観点から、斑なく、被覆厚みを均一化できるマルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸のいずれかを含むことが好ましく、マルチフィラメント絶縁性繊維又は絶縁性紡績糸からなることが最も好ましい。絶縁性繊維の材料は、接触や引張、液体の接触等のセンシングの作用がない状態(アイドリング状態)で絶縁性が確保できるものであれば特に制限はないが、コスト、入手の容易性の観点から、ポリエステル(PE)、ナイロン(Ny、ポリアミド)、エポキシ系、アクリル系等の合成繊維が好ましく、セルロース繊維等の天然繊維、半合成繊維、再生繊維であっても構わない。また、絶縁性繊維の材料として、ポリ乳酸(PLA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電体、強誘電体や、生分解性樹脂を用いることができる。圧電体であれば、アイドリング状態で絶縁性を保持でき、かつ、応力印加時にはその圧電特性に応じた出力信号も合わせて得られるため、センサ感度が高くなる。但し、コスト面や織編物にした時の風合い等の面からは、ポリエステル、ナイロン、アクリル系等の衣料用に用いられる繊維を使用することが好ましい。
また、抵抗値の変化によりセンシングを行う場合、カバー糸(鞘糸)として、絶縁性繊維に導電性をわずかに付与した材料を用いてもよい。このときの鞘糸の導電性の範囲は、互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗の変化を読み取ることができる範囲であればよい。具体的には、互いに近接して配置されるカバーリングヤーンの線状導電体間の抵抗(センサ抵抗)の値が、0.5kΩ~5GΩの範囲内にあり、かつセンサ抵抗値が、線状導電体のみの抵抗(配線抵抗)の値に対して、20倍~1×109倍であることが好ましい。これにより、互いに近接する2本のカバーリングヤーンを構成する2本の線状導電体間に電圧を印加した際、電気的なショートを起こすことがなく、配線抵抗値に対してセンサ抵抗値が十分に大きいため、配線抵抗の影響を受けず、荷重や引張力などの検知を正しく行うことができる。センサ抵抗値は、0.5kΩ~100MΩの範囲内であることが、読み出し回路が簡便になる点でさらに好ましい。鞘糸材料の電気抵抗率の範囲としては、104Ω・m~5×109Ω・mであることが、上記のセンサ抵抗値の範囲を容易に満たすことができる点で好ましい。
導電性をわずかに付与した鞘糸の材料としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の絶縁性材料に、導電性付与材料、例えば、カーボン系導電性材料、金属粒子、銅硫化物などの金属硫化物、酸化スズ系や酸化亜鉛などの金属酸化物等、を含有させた材料を用いることができる。あるいは、鞘糸として、絶縁性繊維と導電性繊維の両方を適宜混合させて用いてもよい。例えば、帯電防止繊維として販売されているクラカーボ(株式会社クラレ製、登録商標)、ベルトロン(KBセーレン社製、登録商標)、サンダーロン(日本蚕毛染色社製、登録商標)等を、所望のセンサ抵抗値になるように選択して用いることができる。 また、本発明では後述するコアスパンヤーン(CSY)を用いるため、長繊維での使用が困難な天然繊維や生分解性繊維を容易に使用でき、それぞれの特性を発現させることができる。
【0017】
本実施形態のセンシング繊維部材は、用いられる被覆材(カバー糸)の材質として、より速乾性となる繊維の組み合わせであることが好ましい。特に水分やエタノールなどのセンシングを行う場合は、カバー糸に速乾性の繊維を用いることによって、一旦、水分等に接触した後に短時間で乾燥することが可能となるため、より速く元の状態に戻ることができる。速乾性の繊維としては、水分率の低い合成繊維を使うこともできるが、吸水性及び速乾性能を両立させるためには、合成繊維とセルロース繊維を組み合わせることが、特に好ましい。このとき、合成繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等、セルロース繊維としては、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、キュプラ、モダール等の再生セルロース繊維、アセテート等の半合成繊維などが好ましく、マルチフィラメント長繊維であることが特に好ましい。両繊維の組み合わせは、カバー糸において両繊維を混用することもでき、後述するダブルカバーリングにおいて、合成繊維とセルロース繊維でそれぞれカバーリングすることもできる。
【0018】
絶縁性繊維の繊度は、絶縁性を確保しやすい観点から、30綿番手~5綿番手であることが好ましく、より好ましくは20綿番手~5綿番手である。巻き付け量は、後述する芯糸の混率を好ましい範囲にするように調整すればよい。
【0019】
前記カバーリングヤーンは、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングした構造である。好ましくは、鞘糸となる短繊維の紡績時に、前記芯糸を挿入して被覆されるコアスパンヤーン(CSY)である。
本願本発明者らは、カバーリングヤーンとしてコアスパンヤーンを使用するための検討を行い、芯糸の絶縁性を確保してセンシング性能を発現できることを見出した。但し、通常の条件では被覆状態のばらつきによって部分的に絶縁性が劣りセンシング性能が低下することがわかり、特定のカバーリング条件とすることで連続的に優れたセンシング性能を発現できるコアスパンヤーンを作製することができた。
具体的には、前記芯糸と鞘糸の重量割合を特定範囲とすることが重要である。通常のコアスパンヤーンであれば、芯糸の混率は15質量%~30重量%であるが、本願発明では、芯糸の混率を5質量%~12重量%とすることが好ましく、特に好ましくは10重量%以下である。
本実施形態では、2本以上のカバーリングヤーンのうち、少なくとも1本以上が、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンであることが必要であり、該カバーリングヤーンはコアスパンヤーンであることが好ましい。
【0020】
このとき、絶縁性短繊維をランダム方向に巻き付けたカバーリングヤーン以外のカバーリングヤーンとしては、芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維を一方向に巻き付けてカバーリングしたカバーリングヤーンを用いることができる。かかるカバーリングヤーンの製造方法は特に制限はないが、例えば、特許文献9に記載される以下の方法が挙げられる。
カバー糸が巻かれたボビンを、2本足フライヤを装着したカバーリング装置に仕掛けて稼働させる。芯糸は中空スピンドル中空部を通って、上方のスネールガイドを通り、テイクアップロールでテイクアップされる。カバー糸は2本足フライヤの一方の足ガイドへ通され、中空スピンドルの回転(ボビンの同調)によりボビンから解舒され、カバー糸は芯糸に捲回されながらスネールガイドを通り、テイクアップされる。フライヤの足数を2本にする理由は、フライヤが回転した時にフライヤのバランスをとるためである。上記カバーリング装置を縦方向に2段並べ、2つのボビンから2種のカバー糸(同種でも異種でもよい)を順にカバーリングする、いわゆるダブルカバーリングを行ってもよい。このとき、各々のカバー糸を同方向にカバーリング(2種のカバー糸がいずれもS撚、又はいずれもZ撚)すれば、厚みを均一に、かつ、絶縁性繊維の隙間を確実に埋めることができ、センシング性能を向上させることができ、特に好ましい。カバー糸は、風合い及び被覆性を向上させやすい観点から、仮撚り加工糸(ウーリー糸)であることもできる。
【0021】
図2、
図3に、本実施形態の1態様のセンシング部材として、2本のカバーリングヤーンを撚り糸とする一例を示す。このとき、前記互いに近接して配置される2本のカバーリングヤーンにおける、芯材としての線状導電体(導電性繊維)の周囲に配置される絶縁性短繊維(紡績糸)がランダム方向に巻き付けられており、該2本のカバーリングヤーンが合わせて撚られた諸撚糸であることが好ましい。諸撚糸(本発明では上記カバーリングヤーン2本を更に撚り合わせた態様を言う)であれば、当然に、前記2本のカバーリングヤーンが互いに近接して配置され、また、該2本のカバーリングヤーン同士が、交差する接点を有することになる。
【0022】
本実施形態のセンシング繊維部材は、上述の諸撚糸を織物の一方方向に連続して存在させた、細幅織物形状とすることができる。細幅織物の外観の例を
図4に示す。細幅織物の幅方向の中央部に経糸として諸撚糸を織り込む場合、諸撚糸を経糸、緯糸のいずれか、あるいは両方に用いてもよく、センシングしたい箇所の数に応じて任意の本数で配置すればよい。連続生産の点からは、経糸の一部に該諸撚糸を配置することが好ましい。これにより、該諸撚糸が織り込まれた部分への物体の接触又は荷重の感知、及び/又は液体の接触、または湿度の変化を感知することができる。細幅織物の一部に諸撚糸を織り込んだ場合、繊維部材の形状がテープ状となるため、諸撚糸のみの場合と比較して、衣類や鞄等の繊維製品に取り付けやすいという利点がある。諸撚糸を配置した織物の幅は1~200mmが好ましく、5~30mmがより好ましい。該諸撚糸以外の糸使いは特に限定されず、織組織についても特に限定されない。また、本実施形態の繊維センシング部材を配した布帛等の静電気対策の目的で、上述の諸撚糸の周囲に導電性材料を練りこんだ制電糸を巻き付け、この糸を織物に埋め込んでもよい。制電糸としては、単位長さあたりの電気抵抗値が10
6~10
10Ω/cm程度のものが用いられ、例えば、KBセーレン社製の「ベルトロン(登録商標)」カーボンベルトロンタイプ、ホワイトベルトロンタイプ、クラレ社製の「クラカーボ(登録商標)」などが挙げられる。または、本実施形態の繊維センシング部材を配した布帛において、該部材の近傍や、複数配した該部材の間に、上記制電糸を配することで、同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、上述の諸撚糸を経緯に合わせて複数本配置した織物形状とすることもできる。経糸を5本並行に配置し、緯糸を左右に織り込んで配置させる場合、前記組紐様の織物形状は、かかる構造に限定されない。例えば、幅150cm~200cm程度、長さ50m程度の織物中に、経糸、緯糸ともに5~10cmピッチで上述の諸撚糸を織り込んだセンシング繊維部材を構成することができる。このような複数本の諸撚糸を織り込んだセンシング繊維部材を用いれば、各諸撚糸の位置での荷重を同時計測することができるため、与えられた荷重の位置をマッピング計測することができる。かかるセンシング繊維部材を、例えば、ベッドパッドやシーツ、枕カバー、等に用いて、人体の有無や動きを計測することも可能になる。
あるいは、上述のカバーリングヤーンを経糸と緯糸に配した織物とすることもできる。この場合、当該経緯糸の交差部分で二本のカバーリングヤーンが近接して配置されるため、この部分で既述のセンシング機能が発現し、センシング繊維部材として適用できる。かかる織物の形状としては、任意のものを用いることができる。
また、上述の諸撚糸を編物に配することができる。あるいは、上述のカバーリングヤーンを二本以上配置して、部分的に近接または交差させ、センシング機能を発現させることもできる。
さらに、上述のカバーリングヤーンを布帛縫製時や刺繍時のミシン上糸と下糸に使う態様もある。これにより、布帛の上下にカバーリングヤーンが1本ずつ配され、当該カバーリングヤーンの近接点で上述のセンシング機能が発現し、センシング繊維部材として適用できる。
上述の織物や編物等の布帛を構成する場合、対となる2本のカバーリングヤーンの線状導電体は、その電極取り出し部(回路への実装部分)において、一方が布帛の表側、もう一方が布帛の裏側に取り出すことがより好ましい。特に、電圧印加用の線状導電体を全て布帛の同じ側に取り出し、信号出力用の線状導電体をこの反対側へ取り出すことが好ましい。この好ましい例においては、複数本のカバーリングヤーンの線状導電体を電気的に接続して電圧を印加し、また、各々の信号を独立させて読み出す場合において、これらの電気的短絡や短絡防止をより省スペースで可能にできるという利点や、実装が簡単になるため生産性が向上するという利点がある。
また、
【0024】
芯材としての線状導電体の周りに被覆材としての絶縁性繊維をカバーリングした2本のカバーリングヤーンの間の抵抗変化を測定するための装置系は特に制限は無く、対になる2本のカバーリングヤーンの末端で導電性繊維を開放し、反対側の端部で2本の線状導電体間に、電圧を供給すると同時に、電圧、電流、抵抗を測定することができるソースメーター(SMU、ソース・メジャー・ユニット)を接続して、対になるカバーリングヤーンの間の抵抗を測定することができる。あるいは、かかる測定機器を用いずに、アナログ/デジタル変換回路、電流電圧変換回路、増幅回路等からなる読み出し回路を作製し、これを用いて抵抗を測定してもよい。
センシング原理としては、荷重や引張の印加による鞘糸や芯糸の変形による電気特性の変化を検知するものであると考えている。特に、荷重や引張の印加により、鞘糸同士がより密に接触し、コンタクトの数が増えることで鞘糸を流れる微電流が増加するという原理が主であると考えられる。以下にこの原理について述べる。本発明の鞘糸を構成する絶縁性繊維は、理想的な絶縁体であれば2本の線状導電体間には電流が全く流れないのに対し、現実の絶縁体は、その電気抵抗率が106~109Ω・mとして知られるように、ごくわずかに導電性を有している。絶縁性ポリマー内の電気伝導メカニズムは、電子やイオンが局所的な状態を行き来するホッピング伝導として知られている。絶縁性ポリマーには、理想的には荷電粒子が存在しないが、実際のポリマー材料には、製造工程で導入される触媒や水分などの不純物が含まれており、これらの不純物に起因する解離イオンが印加された電界に反応して移動し、微弱な電流が発生する。このようにごくわずかに導電性を有する鞘糸が、近接する2本の線状導電体の間に配置された構造体に対して、荷重や引張力を印加した場合、鞘糸を構成する複数の繊維同士がより密接に接触することによって、互いの電気的接触点が増加し、微弱電流の値が大きくなる。これにより、センサ抵抗値が低くなり、荷重や引張の検知ができるという原理である。
【0025】
対になるカバーリングヤーンの間の等価回路は、
図2に示す抵抗(R)とコンデンサー(C)の並列接続回路として考えることができる。
抵抗値の変化でセンシング信号を読み取る場合、電源として直流電源を用いることができる。
静電容量の変化を読みとる場合は、電源として交流電源を用い、対になるカバーリングヤーンの中の線状導電体間に周波数fの交流を与え、この間のインピーダンス変化を検出すればよい。静電容量を計測するためには、ごく一般的な計測器や回路を用いればよく、例えば、LCRメータやインピーダンスアナライザ等の計測器を用いることができる。あるいは、参照信号となる交流信号を用意し、出力信号と参照信号とを乗算することによって周波数解析を行うロックインアンプ回路を組み合わせて用いてもよい。この場合、静電容量の微小な変化をより精度良く計測できるという利点がある。あるいは、静電容量の変化を読み出すために、電源として直流電源を用いて、2本の線状導電体間に電圧を印加し、この間のインピーダンスの時間変化を読み取る(電流値変化をモニターする)方法を採ることもできる。直流電源を用いる場合は、非常に安価な回路で計測できるという利点がある。ここで、2つの電極間の静電容量は、下記式:
C=ε(S/L)
{式中、εは2つの電極間の誘電率、Sは電極面積、そしてLは、電極間の距離である。}で記述できる。
【0026】
上記式C=ε(S/L)から、静電容量Cは、導体間の距離Lに逆比例し、電極面積に比例する。接触等の検知対象となる物体が荷電していない絶縁体の場合、対をなす線状導電体間の距離が小さくなり、電極面積はほとんど変化しないため、静電容量が増大することで物体の接触を検知できる。また、接触する物体が導電性である場合には、物体の接触による寄生容量がさらに加わるため、静電容量の変化が生じる。
【0027】
接触する物体が導電性を有する場合、寄生容量が加わることと、電荷のグラウンドへのリークが増大することにより、見かけ上の静電容量が小さくなっている。このように、接触又は荷重による静電容量の変化を読み取ることによっても、接触又は荷重、あるいは引張力の検知が可能である。尚、本実施形態での2つの線状導電体間には、カバー糸と外気(外気:大気中の場合は大気、真空中の場合は真空、置換ガス中の場合は当該置換ガス、等)が絶縁体として存在しており、この間を流れる電流の原理は、電極間の距離や印加電圧、外気の湿度等の条件によって異なってくる。例えば、空間電荷制限電流が変化する原理の他に、漏れ電流、イオン性の伝導など種々の原理を採り得るものであり、抵抗値の変化か静電容量の変化のいずれか又は両方を出力信号として読み出してもよい。
【0028】
本実施形態のセンシング繊維部材は、外部からの作用によって2つの線状導電体間のインピーダンスが変化し、この外部からの作用を検知できるものである。例えば、接触や荷重の印加によって2つの線状導電体間の距離が変化することによって、2つの線状導電体間の抵抗値及び又は静電容量(すなわちインピーダンス)が変化するため、接触や荷重を検知することができる。また、外部からの作用が引張力や曲げ応力の場合も、線状導電体間の距離の変化や、鞘糸や芯糸の変形に応じたインピーダンス変化が生じるため、この外部作用を検知することができる。あるいは、2つの線状導電体間に、この間のインピーダンス変化が生じ得る物質を含有させる場合、この物質の有無を検知することができる。例えば、2つの線状導電体間に、水道水などの超純水ではない水や、食塩水、イオン飲料、水とエタノールの混合物等を滴下した場合、この線状導電体間の抵抗値が大きく低下してこの間の電流値が増大するため、これらの液体の有無を検知することができる。また、湿度が変化したときも同じくインピーダンス変化が生じるため、湿度センサとして用いることができる。
【0029】
あるいは、接触や荷重の印加と、水分などの液体の接触とを同時に検知することもできる。荷重印加時と水分が滴下された時の抵抗値変化量は、後述するように5倍以上の違いがあり、また、水分が乾燥するにしたがって出力量が刻一刻と変化していくことから、出力値の挙動からこれらの検知を区別することが可能である。かかる実施形態において、例えば、ベッドシーツパッドに既述の諸撚糸を複数本織り込んだ織物を構成することにより、要介護者等のベッド利用者の動きと、水濡れ、尿漏れなどの検知を同時に行うことが可能になる。
【0030】
以下の実施例では、本実施形態のセンシングの例として、該センシング繊維部材への物体の接触又は荷重の感知、及び/又は該センシング繊維部材への液体(水道水、エタノールと水の混合液)の接触の感知について述べる。
【実施例0031】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明の一例について述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例、比較例に用いた各特性値の測定方法は以下のとおりのものであった。
【0032】
(1)抵抗値(電流)の測定
近接する2本のカバーリングヤーンの2本の線状導電体間の抵抗値は、カバーリングヤーンの一方の末端では2つの線状導電体を電気的に開放し、もう一方の末端の2つの線状導電体間に、電圧、電流を供給すると同時に、電圧、電流、抵抗を測定することができるソースメーター(SMU:ソース・メジャー・ユニット、Keithley社の2614B)を接続することで測定した。2本の線状導電体間に一定の電圧をかけ、ソースメーターで出力される電流値を常にモニターする自作プログラムを用いて、荷重印加の前後での電流値を計測した。諸撚糸の場合、対をなす線状導電体部分の長さ(センシングが有効な長さ)を10cmとしたサンプルを作製してセンシング特性を測定した。
【0033】
(2)荷重印加
サンプル(例えば、諸撚糸の2つの導電性繊維間)に電圧を印加した状態で、印加荷重に対する電流変化を測定する。その際の荷重印加は以下のように行う。
平らなステージ上にセンシング繊維部材を置き、この上からフォースゲージ(IMADA社製、full-range 20N)を用いて荷重を印加し、そのときの荷重値をモニターする。圧子は、円形でφ12.5mmのものを使用した。
【0034】
(3)接触・荷重センシング特性
以下の評価基準で接触・荷重センシング特性を判定した:
(評価基準)
接触や荷重のないときの2本の線状導電体間の電流値をIとし、繊維部材に対して円形でφ12.5mmの圧子を用いて、上記(2)の方法で3.7Nの荷重を印加したときの電流値とIとの差をΔIとするとき、
◎:ΔI/Iが20%以上。
〇:ΔI/Iが1%以上20%未満。
×:検知不能。
【0035】
(4)歩留まり
得られた諸撚糸を長さ30cmずつ切断して、各々の抵抗率を測定し、以下の評価基準で判定した。抵抗率が10MΩ以上となるものを合格とし、20本測定した時の合格率で判定した。
(評価基準)
◎:合格率90%以上
○:合格率70%以上、90%未満
△:合格率50%以上、70%未満
×:合格率50%未満
【0036】
[実施例1]
線状導電体として、ナイロン66繊維に銀めっきを施したマルチフィラメントからなる導電性繊維を用いた。ナイロン繊維の繊度が33dtex、銀めっき後の繊度が40dtex、フィラメント数が7本のものを線状導電体として用いた。
上記の線状導電体を芯糸として、鞘糸にキュプラスライバー(旭化成株式会社製、綿番手10/1)を用いて、村田機械のVORTEX精紡機を使用して、紡績速度300m/分でCSY(コアスパンヤーン)加工を施した。芯糸/鞘糸の重量混率は8/92であった(芯糸混率8重量%)。
得られたコアスパンヤーン2本を纏めてS撚りし、撚り数が163T/mの諸撚糸を作成した。この諸撚り糸の繊度は1180dtexであった。
上記で得られた諸撚糸に荷重を印加した時の電流値(センサ出力)の変化状態から、本諸撚糸が接触センシング繊維部材として有用であると判断し、上記で得られた諸撚糸を用いて、荷重印加したときのセンシング特性等を評価した。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0037】
[実施例2]
鞘糸の綿番手を15/1に変更した以外は実施例1と同様に諸撚糸を作製した。芯糸/鞘糸の重量混率は11/89であった。
歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0038】
[実施例3]
鞘糸としてマイクロリヨセル(レンチング社製「リヨセルMicro」、綿番手10/1)を用いる以外は実施例1と同様に~諸撚糸を作製した。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0039】
[実施例4]
鞘糸の綿番手を15/1に変更した以外は実施例3と同様に諸撚糸を作製した。芯糸/鞘糸の重量混率は11/89であった。
上記で得られた諸撚糸に荷重を印加した時の電流値(センサ出力)の変化状態を、
図5に示す。場所を変えて荷重印加-除去を5回繰り返す動作を2回行ったところ、いずれの測定点でも荷重印加と除去に伴う電流値の変化を確認できた。
図5に示す結果から、本諸撚糸が接触センシング繊維部材として有用であると判断し、上記で得られた諸撚糸を用いて、荷重印加したときのセンシング特性等を評価した。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0040】
[実施例5]
鞘糸としてポリエステル(綿番手10/1)を用いる以外は実施例1と同様に諸撚糸を作製した。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0041】
[実施例6]
鞘糸の綿番手を15/1に変更した以外は、実施例5と同様に諸撚糸を作製した。芯糸/鞘糸の重量混率は11/89であった。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0042】
[実施例7]
鞘糸の綿番手を20/1に変更した以外は、実施例1と同様に諸撚糸を作製した。芯糸/鞘糸の重量比率は15/85であった。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0043】
[実施例8]
鞘糸の綿番手を20/1に変更した以外は、実施例5と同様に諸撚糸を作成した。芯糸/鞘糸の重量比率は15/85であった。歩留まり、接触・荷重センシング特性の結果を以下の表1に示す。
【0044】
本発明に係る接触センシング繊維部材は、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、織物や経編の経糸として使用可能であり、しなやかで風合いに優れ、従来の圧電材料を用いた接触に対する接触センシング繊維部材(圧電糸)に比較して格段に低コストである。すなわち、本発明に係る接触センシング繊維部材は、特殊な圧電材料を必要とせず、一般的な繊維材料であるポリエステル、ナイロン等を用いて荷重のセンシングが可能であるため、非常に低コストで接触センシング繊維を実現でき、また、ノウハウが確立している繊維加工技術であるカバーリング技術を用いるため、長尺での加工が可能であり、量産性に優れ、さらに、圧電糸に比較して、非常に風合い良い加工糸が実現できるため、織物や編物等の繊維部材への加工が容易となる。
本発明に係る接触センシング繊維部材は、静電容量及び/又は抵抗値が変化するものであり、荷重や引張力を連続的に印加している状態を検知することができる。
したがって、本発明に係る接触センシング繊維部材は、柔軟性や伸縮性のある繊維基材の上に電気的な機能素子を設けたスマートテキスタイル用途、例えば、踏んだら検知可能なラグ、人の出入り検知用防犯マット、人数カウント用マット等、接触センシング織編物、例えば、看護や介護等の現場での見守りセンサ、工場等の生産現場での触覚をデジタル化して伝達するセンサ、車両シートベルト等へのセンサ埋め込み用部材、例えば、車両用シートベルト、ハンドル、ダッシュボード等への接触センサ(生体センサ)の埋め込み、人の在・不在の検知センサ、後部座席の子供の放置防止、見守りセンサ等の各種用途に広く利用可能である。