(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018244
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/22 20100101AFI20240201BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240201BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240201BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20240201BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240201BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01L33/22
H01L33/32
H01L21/205
H01L21/203 S
C23C14/06 A
C23C16/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121448
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】三輪 浩士
(72)【発明者】
【氏名】坊山 晋也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義樹
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
5F045
5F103
5F241
【Fターム(参考)】
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5F241CB36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】III族窒化物半導体からなる発光機能部を備えた発光素子の製造方法であって、透過率及び表面の平坦性に優れた下地層をPSS上に形成することのできる発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様として、PSS10上に、AlNからなるバッファ層11を介して、AlNからなる下地層12を形成する工程と、下地層12上に、III族窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、発光層132を含む発光機能部13を形成する工程と、を含み、下地層12を形成する工程において、原料ガスのV/III比を1.0以上、2.0以下の範囲内として、MOVPE法によりAlNをエピタキシャル成長させて、下地層12を形成する、発光素子1の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSS上に、AlNからなるバッファ層を介して、AlNからなる下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、III族窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、発光層を含む発光機能部を形成する工程と、
を含み、
前記下地層を形成する工程において、原料ガスのV/III比を1.0以上、2.0以下の範囲内として、MOVPE法によりAlNをエピタキシャル成長させて、前記下地層を形成する、
発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記下地層を形成する工程において、前記原料ガスのV/III比を1.5以上、2.0以下の範囲内とする、
請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記下地層を形成する工程において、スパッタリングにより前記バッファ層を形成する、
請求項1又は2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光機能部を形成する工程が、前記下地層上に第1のAlGaN層を形成する工程と、前記第1のAlGaN層上に第2のAlGaN層を形成する工程とを含み、
800℃以上、1100℃以下の範囲内の成長温度でn型のAlGaNをエピタキシャル成長させることにより前記第1のAlGaN層を形成し、
前記第1のAlGaN層を形成した後、前記n型のAlGaNのGa原料ガスの供給を止めた状態で、800℃以上、1100℃以下の範囲内の温度でのアニール処理を30秒以上実施した後、前記第2のAlGaN層を形成する、
請求項1又は2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1のAlGaN層のAl組成が、0.6以上、0.7以下の範囲内にある、
請求項4に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に凹凸パターンが形成されたサファイア基板(PSS)上にバッファ層としてのAlN層を介して平坦な表面を有するAlGaN下地層を形成し、その上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、発光層を含む発光機能部を形成する発光素子の製造方法が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子の製造方法によれば、PSS上にスパッタリングによりAlN層を形成した後、1150℃以上の温度で熱処理を施すことにより、PSSの凹凸パターンの突起の斜面からのAl組成の大きいAlGaNの成長量を減らし、AlGaN下地層の表面にPSSの凹凸パターンに由来する溝を残さず、平坦にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PSSの突起の斜面から成長するAlGaNには、GaとAlの組成の不均一性が生じる。これは、GaNが基板に垂直な方向に成長しやすい(C面成長しやすい)のに対して、AlNがマイグレーションしにくいために突起の斜面から優先的に成長することによる。このため、特許文献1に記載の発光素子の製造方法によれば、凸部からのAlGaNの成長量を減らすことにより、AlGaN下地層の表面が平坦になるものの、GaとAlの組成の不均一性によりAlGaN下地層の透過率が低下し、発光素子の光取出効率が低減するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、III族窒化物半導体からなる発光機能部を備えた発光素子の製造方法であって、透過率及び表面の平坦性に優れた下地層をPSS上に形成することのできる発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の発光素子の製造方法を提供する。
【0008】
[1]PSS上に、AlNからなるバッファ層を介して、AlNからなる下地層を形成する工程と、前記下地層上に、III族窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、発光層を含む発光機能部を形成する工程と、を含み、前記下地層を形成する工程において、原料ガスのV/III比を1.0以上、2.0以下の範囲内として、MOVPEによりAlNをエピタキシャル成長させて、前記下地層を形成する、発光素子の製造方法。
[2]前記下地層を形成する工程において、前記原料ガスのV/III比を1.5以上、2.0以下の範囲内とする、上記[1]に記載の発光素子の製造方法。
[3]前記下地層を形成する工程において、スパッタリングにより前記バッファ層を形成する、上記[1]又は[2]に記載の発光素子の製造方法。
[4]前記発光機能部を形成する工程が、前記下地層上に第1のAlGaN層を形成する工程と、前記第1のAlGaN層上に第2のAlGaN層を形成する工程とを含み、800℃以上、1100℃以下の範囲内の成長温度でn型のAlGaNをエピタキシャル成長させることにより前記第1のAlGaN層を形成し、前記第1のAlGaN層を形成した後、前記n型のAlGaNのGa原料ガスの供給を止めた状態で、800℃以上、1100℃以下の範囲内の温度でのアニール処理を30秒以上実施した後、前記第2のAlGaN層を形成する、上記[1]又は[2]に記載の発光素子の製造方法。
[5]前記第1のAlGaN層のAl組成が、0.6以上、0.7以下の範囲内にある、上記[4]に記載の発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、III族窒化物半導体からなる発光機能部を備えた発光素子の製造方法であって、透過率及び表面の平坦性に優れた下地層をPSS上に形成することのできる発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、下地層の形成における原料ガスのV/III比と下地層の表面の平坦性の関係を示す表である。
【
図3】
図3は、下地層の形成における原料ガスのV/III比と下地層の表面の平坦性の関係を示す表である。
【
図4】
図4は、下地層の形成における原料ガスのV/III比と下地層の表面の平坦性の関係を示す表である。
【
図5】
図5は、
図2~4に示される9つのウェハの透過率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、バッファ層の成膜方法と下地層の表面の平坦性の関係を示す表である。
【
図7】
図7(a)は、n型コンタクト層の形成条件と発光素子の逆方向リーク特性との関係を示す表である。
図7(b)は、n型コンタクト層の形成条件と発光素子の順方向リーク特性との関係を示す表である。
【
図8】
図8(a)、(b)は、n型コンタクト層の形成後にnアニールを実施した発光素子の時間の経過による出力の変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、n型コンタクト層のX線ロッキングカーブ測定により得られた(102)面回折ピークの半値幅と発光素子の出力との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、n型コンタクト層のAl組成と発光素子の時間の経過による出力の変化との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、n型コンタクト層のAl組成と下地層の表面の状態との関係を示す表である。
【
図12】
図12(a)は、n型コンタクト層のAl組成とn型コンタクト層のX線ロッキングカーブ測定により得られた(105)面回折ピークの半値幅との関係を示すグラフである。
図12(b)は、n型コンタクト層のAl組成とn型コンタクト層の緩和率との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、n型コンタクト層のAl組成と発光素子1に63A/cm
-2の電流を流すときの動作電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発光素子の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子1の垂直断面図である。発光素子1は、フリップチップ実装型の発光ダイオード(LED)であり、表面に凹凸パターンが形成されたサファイア基板(PSS)10と、PSS10上のAlNからなるバッファ層11と、バッファ層11上のAlNからなる下地層12と、下地層12上の発光層を含むIII族窒化物半導体からなる発光機能部13と、を備える。
【0012】
なお、発光素子1の構成における「上」とは、
図1に示されるような向きに発光素子1を置いたときの「上」であり、PSS10からp電極16に向かう方向を意味するものとする。
【0013】
PSS10は、複数の突起101からなる凹凸パターンを上面に有する。この凹凸パターンにより光を乱反射させ、発光素子1の内部への光の閉じ込めを低減させることにより、光取り出し効率を向上させることができる。PSS10の凹凸パターンは、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングにより形成される。
【0014】
突起101の形状は、NとAlが表面に配列した斜面を有する形状であり、典型的には、円錐や多角錐である。突起101の平面配置パターンは、例えば、三角格子、四角格子、六角格子などの多角格子のパターンである。PSS10の主面は、例えば、c面であり、この場合、突起101の斜面はc面と異なる面である。
【0015】
バッファ層11は、PSS10の上面を覆うように形成され、下地層12のエピタキシャル成長のために、PSS10と下地層12との格子定数差を緩衝する。突起101の大きさに対してバッファ層11の厚さは小さい(例えば20nm)ため、バッファ層11の表面はPSS10の凹凸パターンに由来する凹凸パターンを有する。バッファ層11は、スパッタリングや有機金属気相成長(MOVPE)法などにより形成することができるが、下記の理由でスパッタリングを用いることが好ましい。
【0016】
バッファ層11をスパッタリングで形成することにより、結晶欠陥を少なくすることができる。特に、螺旋転位及び螺旋転位を含む混合転位の低減に効果がある。バッファ層11をスパッタリングで形成して転位密度を低減することにより、バッファ層11上にエピタキシャル成長する層の転位密度を低減することができるため、発光素子1の発光層近傍の転位に起因する出力の低下を抑えることができる。また、バッファ層11上にエピタキシャル成長する層の転位密度を低減することにより、リーク電流を低減することもできる。また、本実施の形態に係るスパッタリングにより形成されたバッファ層11は、MOVPE法で形成された核形成層と比較して、C濃度が低いため、Cによる光の吸収を抑えることができる。
【0017】
下地層12は、発光機能部13の成長の下地となる層であり、PSS10の凹凸パターンに由来する凹凸が抑えられた、平坦性の高い表面を有する。下地層12は、PSS10の凹凸パターンに由来する凹凸を抑えるように形成されるため、その表面の全体がPSS10の突起101よりも高い位置にある。下地層12の厚さは、例えば500nmである。下地層12は、MOVPE法により形成される。
【0018】
発光機能部13は、例えば、
図1に示されるように、n型コンタクト層131と、n型コンタクト層131上の発光層132と、発光層132上の電子ブロック層133と、電子ブロック層133上のp型クラッド層134と、p型クラッド層134上のp型コンタクト層135を含む。n型コンタクト層131にはn電極15が接続され、p型コンタクト層135にはp型コンタクト層135上に形成された透明電極14を介してp電極16が接続される。
【0019】
発光機能部13は、III族窒化物半導体を主成分とし、例えば、MOVPE法により形成される。発光機能部13をMOVPE法により形成する場合、下地層12と発光機能部13を同じ装置のチャンバー内で連続して形成することができる。下地層12の表面が高い平坦性を有するため、発光機能部13を構成する下地層12上に成長するIII族窒化物半導体は優れた結晶品質を有する。
【0020】
発光層132は、n型コンタクト層131に積層される層である。発光層132は、AlGaNからなり、好ましくは多重量子井戸(MQWs)構造を有する。発光層132のAl組成x(MQWs構造を有する場合は井戸層のAl組成x)は、所望の発光波長に応じて設定され、例えば、発光波長がおよそ280nmである場合には、0.35~0.45に設定される。ここで、上記のAl組成xは、Gaの含有量とAlの含有量の合計を1としたときのAlの含有量の割合であり、AlGaNの理想的な組成においてはAlxGa1-xN(0≦x≦1)と表される。
【0021】
例えば、発光層132は、井戸層が2層のMQWs構造、すなわち、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層された構造を有する。第1井戸層及び第2井戸層は、n型のAlGaNからなる。第1障壁層、第2障壁層、及び第3障壁層は、第1井戸層及び第2井戸層よりもAl組成の高いn型のAlGaN(Al組成xが1のもの、すなわちAlNを含む)からなる。
【0022】
一例としては、第1井戸層及び第2井戸層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ0.4、1.8nm、9.0×1018/cm3である。また、第1障壁層及び第2障壁層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ0.5、11nm、9.0×1018/cm3である。また、第3障壁層のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、0.5、5.5nm、5.0×1018/cm3である。
【0023】
n型コンタクト層131は、Si、GeなどのIV族元素をドナーとして含むn型のAlGaNからなる。n型コンタクト層131のAl組成xの下限値は、発光層132から発せられる光の吸収を抑えることのできる範囲の下限値として設定される。n型コンタクト層131のAl組成xが発光層132を構成するAlGaNのAl組成x(発光層132がMQWs構造を有する場合は井戸層のAl組成x)よりも0.1以上大きければ、発光層132から発せられる光のn型コンタクト層131による吸収を効果的に抑えることができ、0.15以上大きければ、より効果的に抑えることができる。したがって、n型コンタクト層131のAl組成xが発光層132のAl組成xよりも0.1以上大きいことが好ましく、0.15以上大きいことがより好ましい。
【0024】
例えば、発光層132のAl組成xが0.35~0.45である場合、およそ280nmの波長を有する光が発せられ、n型コンタクト層131のAl組成xが0.5以上であれば効果的に吸収を抑えることができ、0.55以上であればより効果的に吸収を抑えることができる。
【0025】
また、n型コンタクト層131のAl組成xの上限値は、Al組成xの増加に伴う電気抵抗の増加を抑えることのできる範囲の上限値として設定することができる。AlGaNの電気抵抗は、Al組成xを増加させていったときに、0.7まではほとんど一定であるが、0.7を超えると増加し始める。このため、n型コンタクト層131のAl組成xは0.7以下に設定されることが好ましい。
【0026】
また、n型コンタクト層131のAl組成xを0.6以上、0.7以下の範囲内とすることにより、n型コンタクト層131の結晶性を高め、発光素子1のデバイス特性の向上や長寿命化を図ることができる。この場合、理想的には、n型コンタクト層131は、AlxGa1-xN(0.6≦x≦0.7)で表される組成を有する。一例としては、n型コンタクト層131のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ0.6、1.3μm、2.0×1019/cm3である。
【0027】
電子ブロック層133は、第3障壁層よりもAl組成xの高いp型のAlGaNからなる。電子ブロック層133によって、発光層132からp型コンタクト層135側への電子の拡散を抑制している。電子ブロック層133のAl組成x、厚さ、ドーパントとしてのMgの濃度は、例えば、それぞれ0.85、25nm、1.0×1020/cm3である。
【0028】
p型クラッド層134は、第1p型クラッド層と第2p型クラッド層を順に積層した構造を有する。第1p型クラッド層及び第2p型クラッド層は、p型のGaNからなる。第1p型クラッド層の厚さ、ドーパントとしてのMg濃度は、例えば、それぞれ50nm、4.0×1019/cm3である。また、第2p型クラッド層の厚さ、ドーパントとしてのMgの濃度は、例えば、それぞれ400nm、1.0×1019/cm3である。
【0029】
p型コンタクト層135は、p型のGaNからなる。p型コンタクト層135の厚さ、ドーパントとしてのMg濃度は、例えば、それぞれ18nm、1.5×1020/cm3である。
【0030】
p型コンタクト層135表面の一部領域には溝が設けられている。溝はp型コンタクト層135、p型クラッド層134、電子ブロック層133、及び発光層132を貫通し、n型コンタクト層131に達しており、この溝により露出したn型コンタクト層131の表面にn電極15が接続されている。
【0031】
透明電極14は、例えば、IZO、ITO、ICO、ZnOなどの導電性酸化物からなる。p電極16は、例えば、Ni/Auからなる。n電極15は、例えば、Ti/Al/Ni、V/Al/Ni、V/Al/Ruなどからなる。
【0032】
(発光素子の製造方法)
以下に、本発明の実施の形態に係る発光素子1の製造方法の一例について説明する。MOVPE法による発光素子1の各層の形成においては、Ga原料ガス、Al原料ガス、N原料ガスとしては、例えば、それぞれトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、アンモニアを用いる。また、n型ドーパントの原料ガス、p型ドーパントの原料ガスとしては、例えば、それぞれSiの原料ガスであるシランガス、Mgの原料ガスであるビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムガスを用いる。また、キャリアガスとしては、例えば、水素ガスや窒素ガスを用いる。また、本実施の形態における各層の成長温度は、成膜装置の加熱用ヒーターの温度であり、PSS10の表面温度は加熱用ヒーターの温度よりもおよそ100℃低い。
【0033】
まず、PSS10をArやN2のプラズマ中に曝す事によって洗浄する前処理を実施し、PSS10の表面に付着した有機物や酸化物を除去する。
【0034】
次に、PSS10上に、スパッタリングやMOVPE法によりAlNからなるバッファ層11を形成する。スパッタリングによりバッファ層11を形成する場合の成長温度は、例えば、600℃であり、例えば、単結晶構造を有するバッファ層11を形成する場合、N原料ガスの流量と不活性ガスの流量の合計に対してN原料ガスの流量を50%~100%、好ましくは50%とする。また、MOVPE法によりバッファ層11を形成する場合は、成長温度が、例えば、900℃であり、バッファ層11の原料ガスのV/III比が、例えば、56である。ここで、V/III比は、III族元素であるAlとV族元素であるNの原料ガスにおける原子数の比を意味する。
【0035】
次に、バッファ層11上に、MOVPE法によりAlNからなる下地層12を形成する。このとき、原料ガスのV/III比を、1.0以上、2.0以下の範囲内とすることにより、PSS10の表面の突起101の斜面から成長するAlNの結晶性がよくなり、その結果、結晶性及び表面の平坦性に優れた下地層12が得られる。
【0036】
これは、突起101の斜面の表面にAlとNが交互に1:1で配置されているために、原料ガスにおけるAlとNの比が1にある程度近いことがAlNの成長に適していることによると考えられる。すなわち、下地層12の材料としてAlGaNではなくAlNを用いて、かつ原料ガスのV/III比を、1.0以上、2.0以下の範囲内とすることにより、MOVPE法により結晶性及び表面の平坦性に優れた下地層12を形成することができる。
【0037】
さらに、原料ガスのV/III比を、1.5以上、2.0以下の範囲内とすることにより、下地層12の結晶性をより高めて、透過率を向上させることができる。
【0038】
下地層12の成長温度は、例えば、1000℃以上、1450℃以下の範囲内にある。また、下地層12の成長圧力は、例えば、20mbar以上、500mbar以下の範囲内にある。
【0039】
また、下地層12の結晶性をより向上させるため、バッファ層11を形成した後、下地層12の形成前に1150℃以上で、かつPSS10の分解温度である1450℃以下であるアニール処理を実施する方法や、下地層12の上面をGaNキャップ層で覆った状態で1000~1300℃の高温の熱処理を実施する方法を用いてもよい。GaNキャップ層は、上記の高温の熱処理における下地層12の蒸発を抑えるために用いられ、高温の熱処理により蒸発して消滅する。
【0040】
次に、下地層12上に、MOVPE法によってSiなどのIV族元素を含むAlGaNからなるn型コンタクト層131を形成する。n型コンタクト層131の形成においては、n型コンタクト層131の電気抵抗を低くするため、n型コンタクト層131の原料ガスのV/III比を1000以上、3200以下の範囲内に設定する。このV/III比は、III族元素であるGa、AlとV族元素であるNの原料ガスにおける原子数の比を意味する。
【0041】
また、n型コンタクト層131の形成においては、n型コンタクト層131の成長温度を1100℃以下に設定することが好ましい。成長温度を1100℃以下に設定することにより、成長温度の増加に伴う電気抵抗の増加を抑えることができる。成長温度を1100℃以下に設定することにより、III族元素、特に蒸発しやすいGaの蒸発が抑えられて、III族空孔の過剰な発生が抑えられる。これにより、III族空孔とIV族元素との複合欠陥の影響による電気抵抗の増加が抑えられるものと考えられる。
【0042】
また、n型コンタクト層131の形成においては、n型コンタクト層131の成長温度を800℃以上に設定することが好ましい。成長温度が800℃に満たない場合、V族元素Nの原料であるアンモニアが分解し難くなるため、アンモニアの供給量を大きくしなければならなくなり、V/III比を異常に高く設定しなければならなくなる。また、成長温度が低い場合、III族原料からCが混入するという問題も生じ得るため、成長温度をこの問題を回避できる温度、例えば800℃以上に設定することが好ましい。
【0043】
また、n型コンタクト層131の成長圧力は、例えば、20~200mbarに設定する。
【0044】
下地層12上にn型コンタクト層131を形成した後、n型コンタクト層131を構成するAlGaNのGa原料ガスの供給を止めた状態、例えばアンモニアガスなどのN原料ガスとキャリアガスのみを供給する状態で、800℃以上、1100℃以下の範囲内の温度でのアニール処理を30秒以上、例えば180秒の間実施することが好ましい。これにより、n型コンタクト層131の表面のGaが脱離して結晶性が低下することによる発光素子1の出力の低下を抑えることができる。
【0045】
次に、n型コンタクト層131上に、MOVPE法によって発光層132を形成する。発光層132の形成は、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層して行う。発光層132の成長条件は、例えば、成長温度が975℃、成長圧力が400mbarである。
【0046】
次に、発光層132上に、MOVPE法によって電子ブロック層133を形成する。電子ブロック層133の成長条件は、例えば、成長温度が1025℃、成長圧力が50mbarである。
【0047】
次に、電子ブロック層133上に、MOVPE法によってp型クラッド層134を形成する。p型クラッド層134の形成は、第1p型クラッド層、第2p型クラッド層の順に積層して行う。第1p型クラッド層及び第2p型クラッド層の成長条件は、例えば、成長温度が1050℃、成長圧力が200mbarである。
【0048】
次に、p型クラッド層134上に、MOVPE法によってp型コンタクト層135を形成する。p型コンタクト層135の成長条件は、例えば、成長温度が1050℃、成長圧力が100mbarである。
【0049】
次に、p型コンタクト層135表面の所定領域をドライエッチングし、n型コンタクト層131に達する深さの溝を形成する。
【0050】
次に、p型コンタクト層135上に透明電極14を形成する。次に、透明電極14上にp電極16、溝の底面に露出するn型コンタクト層131上にn電極15を形成する。透明電極14、p電極16、およびn電極15は、スパッタや蒸着などによって形成する。
【0051】
(評価実験)
図2~4は、下地層12の形成における原料ガスのV/III比と下地層12の表面の平坦性の関係を示す表である。
図2~4は、PSS10上にバッファ層11を介して下地層12が形成されたウェハの上面及び断面の原子間力顕微鏡(AFM)像、並びに外観写真を含む。また、
図2~4は、それぞれのウェハについての、下地層12の形成における成長温度、原料ガスのV/III比、及び成膜速度を含む。
【0052】
図2~4は、原料ガスのV/III比がおよそ1.0以上、2.0以下の範囲内にあるときに、下地層12の表面の平坦性が高くなり、かつ外観写真で確認される変色が抑えられることを示している。
【0053】
図5は、
図2~4に示される9つのウェハの透過率を示すグラフである。
図5に含まれる「V/III比」の値は、下地層12の形成における原料ガスのV/III比の値である。
【0054】
図5は、原料ガスのV/III比が1.0以上であるときに、下地層12の結晶性が高まって透過率が大きくなり、原料ガスのV/III比が1.5以上であるときに、さらに下地層12の結晶性が高まって透過率が大きくなることを示している。
【0055】
図6は、バッファ層11の成膜方法と下地層12の表面の平坦性の関係を示す表である。
図6は、
図2~4と同様に、PSS10上にバッファ層11を介して下地層12が形成されたウェハの上面及び断面の原子間力顕微鏡(AFM)像、並びに外観写真を含む。また、
図6は、それぞれのウェハについての、下地層12の形成における成長温度、原料ガスのV/III比、及び成膜速度を含む。
【0056】
図6の左側のウェハは、MOVPE法によりバッファ層11が形成されたものである。このMOVPE法によるバッファ層11の形成は、成長温度が900℃、バッファ層11の原料ガスのV/III比が56の条件により実施した。
図6の右側のウェハは、スパッタリングによりバッファ層11が形成されたものである。このスパッタリングによるバッファ層11の形成は、成長温度が600℃、成膜圧力が1.8Pa、N原料ガスの流量と不活性ガスの流量の合計に対するN原料ガスの流量が50%の条件により実施した。
【0057】
図6は、バッファ層11をMOVPE法とスパッタリングのいずれの方法を用いて形成した場合であっても、表面の平坦性の高い下地層12が得られることを示している。
【0058】
図7(a)は、n型コンタクト層131の形成条件と発光素子1の逆方向リーク特性との関係を示す表である。
図7(a)は、発光素子1に-5Vの逆方向電圧を印加したときに流れるリーク電流の大きさを示している。
図7(b)は、n型コンタクト層131の形成条件と発光素子1の順方向リーク特性との関係を示す表である。
図7(b)は、発光素子1に1μAのリーク電流が流れるときの順方向電圧の大きさを示している。
【0059】
図7(a)、(b)の「nアニール」は、n型コンタクト層131を形成した後、N原料ガスとしてのアンモニアガスとキャリアガスのみをチャンバー内に供給した状態で実施する、980℃、180秒のアニール処理である。
図7(a)、(b)は、n型コンタクト層131の形成後にnアニールを実施した場合に、逆方向及び順方向のリーク電流の発生が抑えられることを示している。
【0060】
図8(a)、(b)は、それぞれn型コンタクト層131の形成後にnアニールを実施した2つの発光素子1の時間の経過による出力(エレクトロルミネッセンススペクトルのピーク強度)の変化を示すグラフである。
図8(a)、(b)は、n型コンタクト層131の形成後にnアニールを実施することにより、発光素子1の寿命が延びることを示している。
【0061】
図9は、n型コンタクト層131のX線ロッキングカーブ測定により得られた(102)面回折ピークの半値幅と発光素子1の出力との関係を示すグラフである。
図9は、n型コンタクト層131のX線ロッキングカーブの半値幅が狭い、すなわちn型コンタクト層131の結晶性が高いほど、発光素子1の出力が大きくなることを示している。
【0062】
図10は、n型コンタクト層131のAl組成と発光素子1の時間の経過による出力の変化との関係を示すグラフである。
図10における「Al:0.58」、「Al:0.68」、「Al:0.73」、「Al:0.78」は、それぞれn型コンタクト層131のAl組成を示している。
図10は、n型コンタクト層131のAl組成xが0.68~0.73であるときに発光素子1の寿命が延びることを示している。
【0063】
図11は、n型コンタクト層131のAl組成と下地層12の表面の状態との関係を示す表である。
図11は、n型コンタクト層131の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を含む。
図11は、n型コンタクト層131のAl組成によりn型コンタクト層131の結晶性が変化し、Al組成xが0.60~0.80であるときにn型コンタクト層131の結晶性が高くなることを示している。
【0064】
図12(a)は、n型コンタクト層131のAl組成とn型コンタクト層131のX線ロッキングカーブ測定により得られた(105)面回折ピークの半値幅との関係を示すグラフである。
図12(b)は、n型コンタクト層131のAl組成とn型コンタクト層131の緩和率との関係を示すグラフである。
図12(a)、(b)は、Al組成xが0.55~0.8の範囲内では、Al組成xが小さいほど結晶性が劣化する(半値幅が大きくなる)ことを示している。
【0065】
図13は、n型コンタクト層131のAl組成と発光素子1に63Acm
-2の電流を流すときの動作電圧との関係を示すグラフである。
図13は、n型コンタクト層131のAl組成がおよそ0.6以上、0.7以下の本以内にあるときに発光素子1の動作電圧が抑えられることを示している。
【0066】
(実施の形態の効果)
上記の本発明の実施の形態によれば、原料ガスのV/III比を1.0以上、2.0以下の範囲内として、MOVPE法によりAlNを成長させることにより、透過率及び表面の平坦性に優れた下地層をPSS上に形成することができる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、発光素子1は、フェイスアップ実装型であってもよい。また、発光素子1の下地層12の形成条件などの本発明の特徴は、レーザーダイオードなどのLED以外の発光素子の製造方法に適用することもできる。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0068】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0069】
1 発光素子
10 PSS
11 バッファ層
12 下地層
13 発光機能部
131 n型コンタクト層
132 発光層
133 電子ブロック層
134 p型クラッド層
135 p型コンタクト層
14 透明電極
15 n電極
16 p電極