(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018250
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】折半屋根の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240201BHJP
E04G 23/03 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E04G23/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121460
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】北里 辰範
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB25
(57)【要約】
【課題】構造物の折半屋根の表面の凸部上の補修を容易に、かつ、水の侵入を十分に防止できる折半屋根の補修方法を提供する。
【解決手段】構造物の折半屋根の表面の凸部上に補修シートを貼り付ける折半屋根の補修方法であって、前記補修シートは、前記構造物の折半屋根の表面側に設けられる接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層をこの順に備え、前記折半屋根の表面の凸部を覆うあて物を被せる工程1と、前記あて物上から前記補修シートの接着層側面を前記あて物と前記折半屋根の表面とに貼り付ける工程2とを有することを特徴とする折半屋根の補修方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の折半屋根の表面の凸部上に補修シートを貼り付ける折半屋根の補修方法であって、
前記補修シートは、前記構造物の折半屋根の表面側に設けられる接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層をこの順に備え、
前記折半屋根の表面の凸部を覆うあて物を被せる工程1と、
前記あて物上から前記補修シートの接着層側面を前記あて物と前記折半屋根の表面とに貼り付ける工程2とを有する
ことを特徴とする折半屋根の補修方法。
【請求項2】
あて物は、折半屋根の凸部を覆う形状であって、少なくとも一方の端部の上面に傾斜面が形成されている請求項1記載の折半屋根の補修方法。
【請求項3】
工程2は、あて物の上面の平坦面に補修シートを貼り付ける工程(a)、前記あて物の傾斜面に前記補修シートを貼り付ける工程(b)、前記あて物の上面の平坦面に連続する側面に前記補修シートを貼り付ける工程(c)、及び、前記あて物の傾斜面に連続する傾斜側面に前記補修シートを貼り付ける工程(d)をこの順に有し、
前記工程(d)は、前記あて物の平坦面、傾斜面、側面及び傾斜側面の頂点から前記傾斜側面の対角方面に前記補修シートを引っ張りながら行う請求項2記載の折半屋根の補修方法。
【請求項4】
折半屋根の凸部は、前記折半屋根の表面に取り付けられたボルトである請求項1又は2記載の折半屋根の補修方法。
【請求項5】
ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1又は2記載の折半屋根の補修方法。
【請求項6】
あて物と接着層との間に下塗り層を設ける、請求項1又は2に記載の折半屋根の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビル等の構造物の折半屋根の補修方法に関する。さらに詳しくは、折半屋根の表面の凸部上に耐久性が非常に高く補修状態を長期間維持できる補修シートを貼り付ける補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫などの構造物の屋根として、波状の金属の屋根である折半屋根がよく知られているが、長期間風雨に曝されることによる劣化や台風等の災害による破損が生じると雨漏りの原因となることがあった。
特に折半屋根として重ね式折半屋根が従来から知られているが、重ね式折半屋根は、取り付け金具とガルバリウム鋼板(登録商標)等をボルトナットで固定した構造であるため屋根表面にボルトが取り付けられた状態にあり、ボルトと折半屋根表面とに隙間が生じて雨水の浸水などが生じ易いという問題があった。
【0003】
従来、構造物の屋根の補修方法として、例えば、
図5に示したように、屋根30の破損個所を被うようにブルーシート31を置き、重りとして複数の土嚢32をブルーシート31の上に配置する方法が一般的である。
また、土嚢32のような重りを用いてブルーシート31を配置する方法以外に、例えば、特許文献1や特許文献2等には、水を入れた袋を用いてブルーシートを固定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3225057号公報
【特許文献2】実用新案登録第3116572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のブルーシート31を用いた補修方法では、折半屋根の表面のボルトなどの凸部で折半屋根の表面との間に隙間が形成されて水の侵入を十分に防止できないという問題があった。
また、通常、ブルーシートの耐候性は余り高くないため1年ほどで劣化して張り替えをする必要があった。
【0006】
また、構造物の屋根の補修方法としてブルーシートに代えて補修シートを貼り付ける方法も知られているが、折半屋根の表面の補修に従来の補修シートを用いた場合であってもボルト等の凸部で折半屋根の表面との間に隙間が形成され、水の侵入を十分に防止できないという問題は解決できなかった。
【0007】
本発明は、このような従来の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造物の折半屋根の表面の凸部上の補修を容易に、かつ、水の侵入を十分に防止できる折半屋根の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、構造物の折半屋根の表面の凸部上の補修方法について鋭意検討した結果、該凸部を覆う形状のあて物を用いることで折半屋根との間の隙間を無くすことができ、更に該補修シートに屋根の特性に応じた性能を付与すること、具体的には、折半屋根に生じたひび割れや膨張に追従できる追従性、水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び、侵入した水分を水蒸気として排出できる水蒸気透過性等をさらに備えるとともに、補修シート自身の強度を担保する層を設けることを実現し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、構造物の屋根以外の部材、例えば、構造物の壁、軒、塀、門柱、門扉、門屋根等で凸部を有する表面に対しても補修シートを用いた補修方法として応用可能である。
【0009】
(1)本発明に係る折半屋根の補修方法は、構造物の折半屋根の表面の凸部上に補修シートを貼り付ける折半屋根の補修方法であって、前記補修シートは、前記構造物の折半屋根の表面側に設けられる接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層をこの順に備え、前記折半屋根の表面の凸部を覆うあて物を被せる工程1と、前記あて物上から前記補修シートの接着層側面を前記あて物と前記折半屋根の表面とに貼り付ける工程2とを有することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、折半屋根の表面に形成された凸部を覆うあて物を介して補修シートを貼り付けることができるため、上記凸部上であっても折半屋根の表面と補修シートとの間に隙間が形成されることなく貼り付けることができ、水の侵入を十分に防止できる。
上記補修シートは、接着層を介して折半屋根の表面に貼り付けられるため密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層上に設けられる樹脂層に、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れる性能を付与できる。
また、上記補修シートは工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、本発明によると、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の折半屋根の長期保護を実現することができる。
また、本発明に係る補修シートによる折半屋根の補修は、従来のブルーシートを配置する方法が一時的に風雨をしのぐ方法であったのとは本質的に異なり、従前に比べて極めて簡便な作業によって長期間耐久し得る補修をし得る。なぜならば、本発明に係る補修シートは、耐水性、塩分の遮断性に優れるので折半屋根材料を侵す物質から折半屋根材を守り、また適度な水蒸気透過性を有するが、その水蒸気透過性が折半屋根材に含む余分な水分を外界に放出し、腐食を防いだり錆を抑制したりするからである。
【0011】
(2)本発明は、上記あて物は、折半屋根の凸部を覆う形状であって、少なくとも一方の端部の上面に傾斜面が形成されている(1)に記載の折半屋根の補修方法である。
【0012】
この発明によると、上記あて物は、折半屋根の凸部を覆う部分の上面は平坦面で、端部が傾斜面を構成し、該平坦面と傾斜面とが連続して形成された構成であるため、あて物との間に隙間を形成することなく補修シートを折半屋根の表面に貼り付けることができ、シワの発生を好適に防止できる。
【0013】
(3)本発明は、上記工程2は、あて物の上面の平坦面に補修シートを貼り付ける工程(a)、前記あて物の傾斜面に前記補修シートを貼り付ける工程(b)、前記あて物の上面の平坦面に連続する側面に前記補修シートを貼り付ける工程(c)、及び、前記あて物の傾斜面に連続する傾斜側面に前記補修シートを貼り付ける工程(d)をこの順に有し、前記工程(d)は、前記あて物の平坦面、傾斜面、側面及び傾斜側面の頂点から前記傾斜側面の対角方面に前記補修シートを引っ張りながら行う(1)又は(2)記載の折半屋根の補修方法である。
【0014】
この発明によると、あて物の表面及び折半屋根の表面に補修シートを貼り付ける際にシワの発生を好適に防止でき、水分の侵入を長期間にわたって防止できる。
【0015】
(4)本発明は、折半屋根の凸部は、前記折半屋根の表面に取り付けられたボルトである(1)、(2)又は(3)記載の折半屋根の補修方法である。
【0016】
この発明によると、ボルトの上部に隙間やシワを生じることなく補修シートの貼り付けができる。
【0017】
(5)本発明は、ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていている(1)、(2)、(3)又は(4)記載の折半屋根の補修方法である。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下である。
【0018】
この発明によれば、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、コンクリート製の折半屋根に対してポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分は密着性を高めるように作用する。
【0019】
(6)本発明は、あて物と接着層との間に下塗り層を設ける、(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載の折半屋根の補修方法である。
【0020】
この発明によれば、あて物と接着層との間に設ける下塗り層は、相互の密着を高めるように作用するので、補修シートにより長期間安定して折半屋根を保護することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、構造物の折半屋根の表面の補修を、隙間を生じることなく容易に、かつ、長期間可能な補修シートを用いた折半屋根の補修方法を提供することができる。特に、折半屋根の表面の凸部上に隙間を生じさせることなく補修シートの貼り付けができ、また、補修シートに構造物の折半屋根の特性に応じた性能を付与し、折半屋根に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物の折半屋根に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物の折半屋根中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、強度を向上させること等を実現した補修シートを用いた折半屋根の補修方法を提供することができる。さらに、施工現場において、雨漏れ修理用の塗料にて、手塗りで層を複数積層する方法と比較して品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の補修対象の折半屋根の一部の模式図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明に用いるあて物の一例を示す模式図である。
【
図3】(a)~(d)は、本発明に係る折半屋根の補修方法の説明図である。
【
図4】(a)~(d)は、本発明に係る別の折半屋根の補修方法の説明図である。
【
図6】(A)、(B)は、本発明に用いる補修シートの一例を示す断面図である。
【
図7】(A)及び(B)は、本発明に用いる補修シートを棟部に貼り付ける様子を示す模式図である。
【
図8】(A)及び(B)は、本発明に用いる補修シートの別の一例を示す断面構成図である。
【
図9】(A)及び(B)は、本発明に用いる補修シートのメッシュ層の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る屋根の補修方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0024】
本発明は、構造物の折半屋根の表面の凸部に補修シートを貼り付ける折半屋根の補修方法(以下、本発明の補修方法ともいう)である。
図1は、本発明で使用する折半屋根の一部を示す模式図であり、
図1に示したように、折半屋根10は、波状の金属の屋根であり表面に凸部11を有する。
折半屋根10としては特に限定されず従来公知のものが使用できるが、取り付け金具とガルバリウム鋼板(登録商標)等をボルトナットで固定した構造の重ね式折半屋根は、凸部11であるボルトが表面から突出しており、特に本発明の補修方法が効果的である。この場合、折半屋根の表面に取り付けられたボルトが該折半屋根の凸部となる。
【0025】
本発明の補修方法は、折半屋根の表面の凸部を覆うあて物を被せる工程1を有する。
本発明において、上記あて物は、折半屋根の凸部を覆う形状であって、少なくとも一方の端部の上面に傾斜面が形成されていることが好ましい。
図2は、上記あて物の一例を示す模式図であり、(a)は、成型前のあて物を示し、(b)は、成形後のあて物を示す。
図2(a)に示したように、成型前のあて物15は平面視長方形であり、点線で示した幅方向に平行な2本の折り曲げ線と、該2本の折り曲げ線に対し垂直な2本の傾斜面用折り曲げ線が両端部付近に形成されている。更に、あて物15の両端面の上下付近から折り曲げ線と傾斜面用折り曲げ線との交点に向けて斜めの切れ目17が形成されている。
このような成型前のあて物15は、折り曲げ線及び傾斜面用折り曲げ線で山折りし、切れ目17で重なった部分をシワにならないように折り畳むことで、
図2(b)に示したように、下面が解放された箱状で傾斜面用折り曲げ線から端部にかけて傾斜面が形成されたあて物15が得られる。
【0026】
本発明において、あて物15は、ある程度の剛性と折り曲げ加工性とを備えたものであれば特に限定されず、例えば、板金等の金属材料、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等の樹脂材料等が挙げられる。なかでも安価で加工が容易である点で板金が好適に用いられる。
本発明において、2本の傾斜面用折り曲げ線の間隔Aは、折半屋根の表面に形成された凸部の間隔よりも広いことが好ましく、具体的に50mm~1000mm程度であることが好ましい。このような間隔Aを有することで、本工程1において、折半屋根の表面の凸部を覆うようにあて物を折半屋根に取り付けることができる。
【0027】
なお、
図2(b)に示したあて物15は、両端部付近に2つの傾斜面が形成されているが、例えば、
図4(b)、(c)に示したようにあて物15の一方の端部付近に傾斜面が形成されたものであってもい。
図4(a)に示したように、折半屋根10は、通常、隣接する波状形状の頂点をアングル12で連結して補強されるが、該アングル12部分は
図2(b)に示したような両端に傾斜面を有する構造であると隙間なく被せることができない。
そのため、アングル12部分に貼り付ける場合、成型前のあて物15は、アングル12側の端部が凸形状で、対向する端部に
図2(a)に示したような折り曲げ線と切れ目17とが形成されていることが好ましい。このような形状の成型前のあて物15は、折り曲げ線で山折りし、切れ目17で重なった部分をシワにならないように折り畳むことができる。
【0028】
上記工程1では、
図3(a)に示したように、折半屋根の表面の凸部11を覆うようにあて物15を被せる。その後、
図3(b)に示したように、折半屋根10とあて物15とをあて物15の両端付近でテープ16を用いて仮止めする。
アングル12部分に被せる場合、
図4(c)に示したように、あて物15の凸形状の端部をアングル12部分に被せ、該アングル12付近とその対向する端部付近とにテープ16を用いて仮止めする。
【0029】
本発明の補修方法は、あて物15上から補修シート1の接着層側面をあて物15と折半屋根の表面とに貼り付ける工程2を有する。
本工程2を行うことで、折半屋根の表面にあて物を介して補修シートの貼り付けができ、折半屋根の補修ができる。
なお、補修シート1の形状は、成型前のあて物15の相似であることが好ましく、成型後のあて物15に貼り付けた際に折半屋根10まで貼り付けることができるサイズに適宜調性される。
【0030】
本発明では、工程2は、あて物15の上面の平坦面に補修シート1を貼り付ける工程(a)、あて物15の傾斜面に補修シート1を貼り付ける工程(b)、あて物15の上面の平坦面に連続する側面に補修シートを貼り付ける工程(c)、及び、あて物15の傾斜面に連続する傾斜側面に補修シートを貼り付ける工程(d)をこの順に有すること好ましい。上記工程(a)~(d)を行うことでシワを発生させることなく好適に補修シート1の貼り付けができる。
具体的には、あて物15の上面の平坦面に補修シート1を貼り付ける工程(a)は、
図3(c)の“(a)”部分を貼り付ける。また、あて物15の傾斜面に補修シート1を貼り付ける工程(b)は、
図3(c)の“(b)”部分を貼り付ける。また、あて物15の上面の平坦面に連続する側面に補修シートを貼り付ける工程(c)は、
図3(c)の“(c)”部分を貼り付ける。また、あて物15の傾斜面に連続する傾斜側面に補修シートを貼り付ける工程(d)は、
図3(c)の“(d)”部分を貼り付ける。
【0031】
本発明において、上記工程(d)は、あて物15の平坦面、傾斜面、側面及び傾斜側面の頂点から上記傾斜側面の対角方面に補修シート1を引っ張りながら行うことが好ましい。補修シート1の(d)部分は貼り付け時に最もシワが発生しやすい部分であるが、このように引っ張りながら貼り付けることで、シワの発生を好適に防止できる。
図3(d)は、
図3(c)の破線の円で示した箇所の拡大図であるが、
図3(d)に示したように、具体的には補修シート1を斜め下方向に引張ながら貼り付けを行うことが好ましい。このように補修シート1を引っ張ることで、あて物15の平坦面、傾斜面、側面及び傾斜側面の頂点部分の補修シート1には、
図3(d)に矢印で示したような放射状の応力が加わることとなりシワの発生を好適に防止できる。
【0032】
アングル12付近に補修シート1を貼り付ける場合も
図4(c)に示したように上記と同様に補修シート1を引っ張りながら貼り付けることが好ましい。
なお、アングル12の外側端部の折半屋根には、
図4(d)に示したように平面視長方形で一方の端部に凹状の切り込みが形成された補修シートを用いて補修されることが好ましい。上記凹状の切り込みがアングル12の外側を挟むようにすることで、折半屋根の表面にシワなく貼り付けることができる。なお、アングル12の外側には通常凸部が形成されていないためあて物15を介して補修シート1の貼り付けを行う必要はないが、凸部が存在する場合、
図3で示したような方法で補修シート1の貼り付けを行えばよい。
【0033】
[補修シート]
本発明の補修方法で使用する補修シートは、構造物の折半屋根の表面側に設けられる接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層をこの順に備える。
上記補修シートは、折半屋根側の表面に接着層が形成されていることで、補修シートを貼り付ける工程において、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がないため極めて作業効率に優れ、また、熟練の職人によらずに均一な厚みの接着層を介して補修シートを折半屋根の表面等に貼り付けることができる。また、接着層が設けられていることで、表面に凹凸が形成された折半屋根の表面であっても凹みに接着層を埋め込んで補修シートの密着性を高めることができる。
【0034】
上記接着層は、粘着剤を用いてなる粘着層であってもよく、接着剤を用いてなる接着層であってもよいが、上記接着層のポットライフを考慮すると粘着層が好ましい。
上記粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等公知のものが挙げられるが、本発明において接着層は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、棟部や貫板に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れているため、保護シートによる棟部の補強をより好適に行うことができる。
上記アクリル系粘着剤としては特に限定されず市販品を使用するとことができ、例えば、オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0035】
上記アクリル系粘着剤からなる接着層(以下、粘着層ともいう)の積層量としては、棟部表面への十分な付着力を発揮できることから、20g/m2以上250g/m2以下が好ましい。
また、上記粘着層を介してあて物の表面に貼り付けたときの付着力が0.5N/mm2以上あることが好ましい。0.5N/mm2未満であると補修シートの折半屋根の表面等に対する密着性が不十分となることがある。
【0036】
上記補修シートに形成された接着層が接着剤から構成される接着層である場合、上記接着剤としては特に限定されず、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等公知の接着剤が挙げられる。
このような接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等が挙げられる。なかでも、保護シートが後述するポリマーセメント硬化層を有する構成の場合、該ポリマーセメント硬化層を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤は、ポリマーセメント硬化層との接着強度が高くなるのでより好ましい。
【0037】
上記補修シートにおいて、接着層は硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤を含むことで棟部の表面等に対するより優れた付着力を有するものとなり、また、上記補修シートの押し抜き強度も優れたものとなる。
本発明において、上記補修シートは、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上であることが好ましい。上記押し抜き強度が1.5kN以上であることで、上記補修シートにより補強された棟部の崩壊をより好適に防止できる。
【0038】
上記硬化剤としては特に限定されず、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系硬化剤等公知の硬化剤を使用できる。
【0039】
上記補修シートにおいて、折半屋根の表面等に対する付着力及び押し抜き強度に優れることから、上記接着層はゲル分率が30%~70%であることが好ましく、より好ましい下限は40%、より好ましい上限は65%である。
【0040】
上記補修シートにおいて、上記接着層の厚さとしては50~500μmであることが好ましい。50μm未満であると上記補修シートの折半屋根の表面等に対する付着力が不十分となることがあり、500μmを超えると、厚みにバラツキが生じやすく、また、施工時に平滑な施工面を得るためにローラー等で馴らした時に、端部から余分な接着剤がはみ出てしまうことがある。上記接着層の厚みのより好ましい下限は90μm、より好ましい上限は200μmである。
【0041】
上記補修シートは、上記接着層の表面保護のために、該接着層の表面に離型フィルムが貼り付けられていることが好ましい。上記離型フィルムとしては特に限定されず、例えば、基材層と離型層とを有するフィルムが挙げられる。
上記基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネートなどの合成樹脂が挙げられる。また、上記基材層は、紙を主成分として形成されてもよい。さらに、上記基材層は、2層以上の積層体であってもよい。
【0042】
上記離型層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等が挙げられる。上記離型層は、上記離型層を構成する材料及び有機溶剤を含む塗工液を上記基材層上にグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の方法によって塗布し、乾燥及び硬化させる塗工法によって形成することができる。また、上記離型層の形成に当たっては、基材層の積層面にコロナ処理や易接着処理を施してもよい。
【0043】
上記補修シートは、
図6に示す補修シート1のように、ポリマーセメント硬化層2と、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3とを少なくとも備えたものであることが好ましい。このポリマーセメント硬化層2と樹脂層3の両層が、
図6(A)に示したように、それぞれ単層で形成されてもよいし、
図6(B)に示したように積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との間に別の層を設けてもよい。
また、本発明においては、
図6に示したように、ポリマーセメント硬化層2の樹脂層3側と反対側面に上述した構成の接着層5が形成され、離型フィルム6が形成されていることが好ましい。
このような構成の補修シート1は、長期に亘って雨漏り等を防止することができ、折半屋根を長期にわたって保護することができる。また、ポリマーセメント硬化層2上に設けられる樹脂層3に、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れる性能を付与できる。
また、上記補修シート1は、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の屋根の長期保護を実現することができる。
【0044】
補修シート1は、水蒸気透過率が10~50g/m2.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層2はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層2上に設けられる樹脂層3は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、補修シート1全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、棟部の表面等に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止しやすくなり、更には接着性の低下も防止しやすくなる。水蒸気透過率が所定の範囲にある他のメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、折半屋根中の金属の腐食を抑制できる傾向になる点を挙げることができる。また、雨の日に補修シート1を折半屋根に施工する場合には、折半屋根の表面が濡れると共に、屋根自体が水分を含んだ状態での施工となるが、補修シート1が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された棟部の製造後)に棟部に浸み込んだ水分が外部へと抜けやすくなる。
上記補修シート1のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば折半屋根内に漆喰がある場合、該漆喰が硬化していないような状態でも当該折半屋根の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、漆喰を硬化させる際に急激に水分が抜けると漆喰がポーラスになって棟部の強度が落ちる傾向となるが、上記補修シート1を硬化前の漆喰を有する棟部に貼り付けることで、漆喰の硬化時の水分除去のスピード等をコントロールできるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m2.day未満であると、上記補修シート1が十分に水蒸気を透過させることができず、折半屋根の表面に貼り付けた後の膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となる可能性がある。50g/m2.dayを超えると、漆喰の硬化時の水分除去のスピードのコントロールが困難となる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m2.dayである。
このような水蒸気透過率を有する補修シート1は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層2と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層3に用いることとにより得ることができる。
上記水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定できる。
【0045】
補修シート1は、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。補修シート1で補強した折半屋根の表面に対し、更に重ねて補強を行うことができるため、例えば、2枚の補修シートを並べて貼り付けた場合、これらの補修シート同士の境目を覆うように別の補修シートを貼り付けることができる。
上記補修シート1のポリマーセメント硬化層2がセメントと樹脂とを含有するものであることで、先に折半屋根の表面等に貼り付けた補修シートの樹脂層に対しても好適な接着性を示す。そのため、重ねた状態で補修シートは好適に使用できる。
【0046】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層2は、
図7に示すように、折半屋根10側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層2は、例えば、
図6(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図6(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、折半屋根への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層2は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層3側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層が棟部等と接着することとなり両者に対する接着性が優れたものとなりやすい。
【0047】
ポリマーセメント硬化層2は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層2が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、折半屋根10への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。また、ポルトランドセメントの施工性もしくは施工後の物性を調整するために、ポルトランドセメントに、更に二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が加えられた公知の組成も使用可能である。
【0048】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層3を構成する樹脂成分と同じものであってもよい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層2の「硬化」の文言は、樹脂成分を熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化する(層として固まる)ような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0049】
上記ポリマーセメント硬化層2は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていることが好ましい。上記樹脂の含有量が10重量%未満であると、樹脂層に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、折半屋根の表面等に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0050】
ポリマーセメント硬化層2を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを、乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルションを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0051】
ポリマーセメント硬化層2は、その塗工液を離型シート又は
図6に示すように離型シート4上に形成された後述する樹脂層3上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルションとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層2を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層2を形成した後に樹脂層を形成してもよいが、
図6に示すように離型シート4上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント硬化層2を形成してもよい。本発明においては、例えば、離型シートにエンボス加工又はマット加工(凹凸形状の付与)をした上で、この上に樹脂層3(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)、ポリマーセメント硬化層2(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)の順番で形成し、樹脂層3に意匠性を付与するという方法を用いて補修シート1を製造してもよい。
【0052】
本発明では強度に優れる性能を付与できることからポリマーセメント硬化層2が後述するメッシュ層を有していてもよい。
メッシュ層を有する場合、例えば、離型シート上に樹脂層3をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後乾燥させる。
しかる後メッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、乾燥させることでポリマーセメント硬化層2にメッシュ層が存在する保護シート1を得ることができる。
また、離型シート上に樹脂層3をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でメッシュ層を貼り合わせた後、乾燥させるステップを経ずにメッシュ層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、しかる後全体を乾燥させることでポリマーセメント硬化層2にメッシュ層が存在する補修シート1を得ることも可能である。
【0053】
ポリマーセメント硬化層2の厚さは特に限定されないが、折半屋根10の大きさ、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層2の厚さとしては、例えば0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0054】
このポリマーセメント硬化層2は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層3に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば10~50g/m2.day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、このポリマーセメント硬化層は延伸性を付与できるので、折半屋根10の表面にひび割れや膨張が生じた場合であっても、折半屋根10の表面の変化に追従することができる。
【0055】
(メッシュ層)
図8(A)に示したように、補修シート1は、付着強度が優れたものとなることからメッシュ層7をポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との界面に備えることが好ましい。
上記付着強度とは、補修シート1のポリマーセメント硬化層2側の面をコンクリート表面に接着層5を介して貼り付け、樹脂層3の表面に引張治具を固定して該引張治具をコンクリート側と反対側に1500n/minの速度で引っ張ることで引張り層間剥離が生じる強度を測定することで得られる。
【0056】
また、メッシュ層7は、
図8(B)に示したようにポリマーセメント硬化層2の内部に存在していてもよい。メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の樹脂層3と接する面の反対側の面に配設されていてもよいが、メッシュ層7はポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていることが好ましい。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていることで、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との接触面積が増大し、両者の接着強度が優れたものとしやすくなり、ポリマーセメント硬化層2全体の強度も確保しやすくなる。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていないと、該メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との界面で剥離が生じ易くなる。
また、メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に存在している場合、該メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の厚みの半分の位置に存在していればよいが、より樹脂層3側に存在することが望ましい。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2中で樹脂層3側に存在している場合、付着力は平均的に1.3倍向上する。
【0057】
本発明において、メッシュ層7にポリマーセメント硬化層2を構成する材料(例えばセメント成分又は樹脂成分)が含侵されていることが好ましい。
メッシュ層7にポリマーセメント硬化層2を構成する材料が含侵されている状態とは、メッシュ層7を構成する繊維間にポリマーセメント硬化層2を構成する材料が充填された状態にあることを意味し、このような含侵状態にあることで、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との接着強度が極めて優れたものとしやすくなる。また、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2の材料との相互作用がより強固となりやすく、補修シート1の強度をより良好にしやすくなる。
【0058】
メッシュ層7は、
図9に示したように、経糸、緯糸の繊維を格子状にした構造が挙げられる。
上記繊維としては、例えば、ポリプロピレン系繊維、ビニロン系繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維から構成されたものである好ましく、なかでも、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維を好適に使用することができる。
またその形状は、特に限定されず、
図9に示したような二軸組布のほか、例えば、三軸組布等任意のメッシュ層7を用いることができる。
【0059】
メッシュ層7は、線ピッチ50mm~1.2mm(線密度0.2本~8.0本/cm)であることが望ましい。ピッチが1.2mm以下であると、メッシュの上下のポリマーセメント層の結合が不十分になり、保護シート1の表面強度が不十分となることがある。また、線ピッチが50mmを超えると、保護シート1の表面強度に悪影響はないが、引張強度が弱くなることがある。
本発明において、補修シート1の引張強度と表面強度はトレードオフの関係にあり、本発明に適用するに適したメッシュ層7は、線ピッチ50mm~1.2mmの範囲にあるものである。
【0060】
メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層2の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層2よりも小さくてもよい。
すなわち、メッシュ層7の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層2の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、メッシュ層7の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層2の平面視面積に対し60%以上、95%以下であることが好ましい。60%未満であると保護シート1の強度が不十分となることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。95%を超えると、メッシュ層7を介してポリマーセメント硬化層2が積層された構成において、ポリマーセメント硬化層2同士の接着強度が劣ることがあり、本発明に係る構造物保護シートを構造物に施工したときに、ポリマーセメント硬化層2部分に剥離が生じる危険性が高まる。なお、上記メッシュ層7等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0061】
(樹脂層)
樹脂層3は、折半屋根10とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層3は、例えば、
図3(A)に示すように単層であってもよいし、
図3(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0062】
樹脂層3は、柔軟性を有し、棟部に発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層3を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、上述したポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有す樹脂であることが好ましい。
【0063】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0064】
上記補修シート1において、樹脂層3は優れた水蒸気透過率を示す樹脂から構成されることが好ましい。これらの樹脂からなる樹脂層3を備えることで、上記保護シート1の水蒸気透過率を上述した範囲にすることができる。
【0065】
樹脂層3を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層3を形成できる。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層3、ポリマーセメント硬化層2の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層2、樹脂層3の順番であってもよい。
【0066】
樹脂層3の厚さは、折半屋根10の大きさ、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0067】
この樹脂層3は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、補修シート1の水蒸気透過率が10~50g/m2.dayとなるように適宜調整することが望ましい。こうすることにより、補修シート1に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層2と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層2との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0068】
また、樹脂層3は、補修シート1のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層3は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層3に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
また、補修シート1は、樹脂層3のポリマーセメント硬化層2側と反対側の表面をカーボン粒子含有オイルで汚染した後垂直に設置し、2メートル程度離れた位置から汚染された面に水道水を、ホースを用いてほぼ水平に勢いよくかけることで清掃したときの汚染物の除去率が95%以上であることが好ましい。樹脂層3の表面の清掃性が優れたものとなる。上記汚染物の除去率が95%未満の場合、防汚性が不十分となることがあり、感覚的にも『汚れている』という印象を受けやすくなる。他方、汚染物の除去率は高ければ高い方がよいが、通常は98%以下となる。
なお、このような汚染物の除去率を有する補修シート1は、例えば、樹脂層の樹脂として、アクリルシリコーン樹脂等の汚染物の除去をしやすい材料を選択するか、樹脂層にシリコーン樹脂又はシリコーン微粒子等の汚染物の除去をしやすい材料(防汚剤)を含有させる等によって得ることができる。
本発明における汚染性の評価は、後述する実施例の方法で実施することができる。
また、樹脂層3は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等が挙げられる。
【符号の説明】
【0069】
1 補修シート
2 ポリマーセメント硬化層
3 樹脂層
4 離型シート
5 接着層
7 メッシュ層
10 折半屋根
11 凸部
12 アングル
15 あて物
16 テープ
17 切れ目
30 屋根
31 ブルーシート
32 土嚢