(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018252
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】複合電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20240201BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240201BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240201BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01F27/00 S
H01F17/00 D
H01F27/32 140
H05K3/46 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121463
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】露谷 和俊
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏之
(72)【発明者】
【氏名】古橋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 卓也
【テーマコード(参考)】
5E044
5E070
5E316
【Fターム(参考)】
5E044CA02
5E070AA05
5E070AB01
5E316AA12
5E316AA38
5E316CC04
5E316CC08
5E316CC32
5E316DD23
5E316DD24
5E316DD32
5E316DD33
5E316EE33
5E316FF07
5E316FF13
5E316FF14
5E316GG15
5E316GG17
5E316HH11
5E316JJ14
(57)【要約】
【課題】電子部品が埋め込まれた絶縁層の表裏に配線構造体が設けられた構造を有する複合電子部品において反りを抑制する。
【解決手段】複合電子部品1は、電子部品2が埋め込まれた絶縁層12と、絶縁層12の表面12b側に位置する絶縁層11及びその両面に配置された導体層C0,C1を含む第1の配線構造体と、絶縁層12の表面12a側に位置し、絶縁層13,14及びその両面に配置された導体層C2~C4を含む第2の配線構造体とを備える。絶縁層14は芯材に樹脂を含浸させた材料からなり、絶縁層11は芯材を含まない樹脂材料からなる。このように、第1の配線構造体よりも層数の多い第2の配線構造体に芯材が含まれていることから、反りの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品が埋め込まれた第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層の一方の表面側に位置し、少なくとも1層の第2の絶縁層及びその両面に配置された導体層を含む第1の配線構造体と、
前記第1の絶縁層の他方の表面側に位置し、前記第2の絶縁層よりも層数の多い複数の第3の絶縁層及びその両面に配置された導体層を含む第2の配線構造体と、を備え、
前記複数の第3の絶縁層の少なくとも1層は、芯材に樹脂を含浸させた材料からなり、
前記第2の絶縁層は、芯材を含まない樹脂材料からなる、複合電子部品。
【請求項2】
前記第1の絶縁層は、芯材を含まない樹脂材料からなる、請求項1に記載の複合電子部品。
【請求項3】
前記複数の第3の絶縁層のうち、最表層に位置する絶縁層は芯材に樹脂を含浸させた材料からなり、他の絶縁層は芯材を含まない樹脂材料からなり、
前記第2の配線構造体に含まれる導体層のうち、最表層に位置する第1の導体層の一部は外部端子を構成する、請求項1に記載の複合電子部品。
【請求項4】
前記電子部品は、前記複数の第3の絶縁層のうち前記最表層に位置する絶縁層よりも線膨張係数が小さく、
前記複数の第3の絶縁層のうち前記最表層に位置する絶縁層は、前記第2の絶縁層よりも線膨張係数が小さく、
前記第2の絶縁層は、前記第1の絶縁層よりも線膨張係数が小さい、請求項3に記載の複合電子部品。
【請求項5】
前記第2の配線構造体に含まれる導体層は、第1のコイルパターンを含む第2の導体層と、平面視で前記第1のコイルパターンと重なる第2のコイルパターンを含む第3の導体層とをさらに含む、請求項3に記載の複合電子部品。
【請求項6】
前記第1の配線構造体は、第3のコイルパターンを含む第4の導体層と、平面視で前記第3のコイルパターンと重なる第4のコイルパターンを含む第5の導体層とをさらに含み、
前記第3のコイルパターンは前記第1のコイルパターンに接続され、
前記第4のコイルパターンは前記第2のコイルパターンに接続される、請求項5に記載の複合電子部品。
【請求項7】
前記複数の第3の絶縁層のうち最表層に位置する絶縁層は、前記芯材が厚み方向において前記第1の導体層側にオフセットしている、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の複合電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は複合電子部品に関し、特に、電子部品が埋め込まれた絶縁層と、絶縁層の表裏に設けられた配線構造体とを備える複合電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁層に電子部品を埋め込んだ構造を有するプリント配線板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子部品が埋め込まれた絶縁層の表裏にさらに配線構造体を設けることによって複合電子部品を構成する場合、形状(例えば、反りの発生)、強度(例えば、割れ・欠けの発生)、端子の接続信頼性等で、課題が生じることがある。
【0005】
本開示においては、電子部品が埋め込まれた絶縁層の表裏に配線構造体が設けられた構造を有し、品質が改善された複合電子部品が説明される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る複合電子部品は、電子部品が埋め込まれた第1の絶縁層と、第1の絶縁層の一方の表面側に位置し、少なくとも1層の第2の絶縁層及びその両面に配置された導体層を含む第1の配線構造体と、第1の絶縁層の他方の表面側に位置し、第2の絶縁層よりも層数の多い複数の第3の絶縁層及びその両面に配置された導体層を含む第2の配線構造体とを備え、複数の第3の絶縁層の少なくとも1層は、芯材に樹脂を含浸させた材料からなり、第2の絶縁層は、芯材を含まない樹脂材料からなる。
【0007】
本開示によれば、第1の配線構造体よりも層数の多い第2の配線構造体に芯材が含まれていることから、例えば、反りの発生を効果的に抑制する等、形状の信頼性を改善できる。
【0008】
本開示において、第1の絶縁層は、芯材を含まない樹脂材料からなるものであっても構わない。これよれば、電子部品の埋め込みが妨げられることがない。
【0009】
本開示において、複数の第3の絶縁層のうち、最表層に位置する絶縁層は芯材に樹脂を含浸させた材料からなり、他の絶縁層は芯材を含まない樹脂材料からなり、第2の配線構造体に含まれる導体層のうち、最表層に位置する第1の導体層の一部は外部端子を構成しても構わない。これよれば、外部端子を構成する第1の導体層の下地に芯材が配置されることから、芯材が内部回路の特性に影響を与えにくい。
【0010】
本開示において、電子部品は、複数の第3の絶縁層のうち最表層に位置する絶縁層よりも線膨張係数が小さく、複数の第3の絶縁層のうち最表層に位置する絶縁層は、第2の絶縁層よりも線膨張係数が小さく、第2の絶縁層は、第1の絶縁層よりも線膨張係数が小さくても構わない。これよれば、形状の信頼性をより改善することが可能となる。
【0011】
本開示において、第2の配線構造体に含まれる導体層は、第1のコイルパターンを含む第2の導体層と、平面視で第1のコイルパターンと重なる第2のコイルパターンを含む第3の導体層とをさらに含んでいても構わない。これよれば、第1及び第2のコイルパターン間に芯材が存在しないことから、芯材が第1及び第2のコイルパターンの特性に影響を与えることがない。
【0012】
本開示において、第1の配線構造体は、第3のコイルパターンを含む第4の導体層と、平面視で第3のコイルパターンと重なる第4のコイルパターンを含む第5の導体層とをさらに含み、第3のコイルパターンは第1のコイルパターンに接続され、第4のコイルパターンは第2のコイルパターンに接続されていても構わない。これよれば、第3及び第4のコイルパターンを磁気結合させるとともに、第1及び第2のコイルパターンからなる回路と第3及び第4のコイルパターンからなる回路を直列に接続することが可能となる。
【0013】
本開示において、複数の第3の絶縁層のうち最表層に位置する絶縁層は、芯材が厚み方向において第1の導体層側にオフセットしていても構わない。これよれば、芯材と導体パターンが干渉しにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本開示に係る技術によれば、電子部品が埋め込まれた絶縁層の表裏に配線構造体が設けられた構造を有し、品質が改善された複合電子部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示に係る技術の一実施形態による複合電子部品1の外観を示す略斜視図である。
【
図2】
図2(a)は
図1に示すA-A線に沿った断面を一方向側から見た略断面図であり、
図2(b)は
図1に示すA-A線に沿った断面を逆方向側から見た略断面図である。
【
図3】
図3は、複合電子部品1の略分解斜視図である。
【
図4】
図4は、導体層C4に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。
【
図5】
図5は、導体層C3に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。
【
図6】
図6は、導体層C2に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。
【
図7】
図7は、ESD保護部品2が埋め込まれた層の略平面図である。
【
図8】
図8は、導体層C1に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。
【
図9】
図9は、導体層C0に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。
【
図11】
図11は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図12】
図12は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図13】
図13は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図14】
図14は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図15】
図15は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図16】
図16は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図17】
図17は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図18】
図18は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図19】
図19は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図20】
図20は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図21】
図21は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図22】
図22は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【
図23】
図23は、複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る技術の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本開示に係る技術の一実施形態による複合電子部品1の外観を示す略斜視図である。
【0018】
本実施形態による複合電子部品1は表面実装型のチップ部品であり、
図1に示すように、素体10と、素体10の表面にアレイ状に配列された複数の外部端子とを備えている。複数の外部端子は、8つの信号端子20~27及び2つのグランド端子28,29からなる。
【0019】
図2(a)は
図1に示すA-A線に沿った断面を一方向側から見た略断面図であり、
図2(b)は
図1に示すA-A線に沿った断面を逆方向側から見た略断面図である。
【0020】
図2(a)及び(b)に示すように、素体10は、樹脂などからなる絶縁層11~14がこの順に積層された構造を有している。このうち、絶縁層11は絶縁層12の一方の表面12b側に設けられ、絶縁層13,14は絶縁層12の他方の表面12a側に設けられている。絶縁層12の一方の表面12b側には導体層C1が形成される。導体層C1は絶縁層11によって覆われる。絶縁層11の表面には、導体層C0が形成される。導体層C0はソルダーレジスト31によって覆われる。絶縁層11及びその両面に配置された導体層C0,C1は、第1の配線構造体を構成する。導体層C0,C1は、それぞれ絶縁層11,12に埋め込まれている。これにより、導体層C0が絶縁層11の表面から突出するように設けられている場合と比べて、第1の配線構造体の最表面の平坦性が高められることから、ソルダーレジスト31の厚さを薄くしても、十分な絶縁特性を確保することが可能となる。
図2(a)及び(b)に示す例では、第1の配線構造体に1層の絶縁層11が含まれているが、第1の配線構造体に含まれる絶縁層の層数については特に限定されない。
【0021】
絶縁層12の他方の表面12a側には導体層C2が形成される。導体層C2は絶縁層13によって覆われる。絶縁層13の表面には、導体層C3が形成される。導体層C3は絶縁層14によって覆われる。絶縁層14の表面には、導体層C4が形成される。導体層C4はソルダーレジスト32によって覆われる。絶縁層13,14及びこれらの両面に配置された導体層C2~C4は、第2の配線構造体を構成する。導体層C2,C3は、それぞれ絶縁層13,14に埋め込まれている。これに対し、導体層C4は、絶縁層14の表面から突出している。
図2(a)及び(b)に示す例では、第2の配線構造体に2層の絶縁層13,14が含まれているが、第2の配線構造体に含まれる絶縁層の層数については、第1の配線構造体に含まれる絶縁層の層数よりも多い限り、特に限定されない。
【0022】
絶縁層11~14は、いずれも表裏に導体層が存在する層間膜であり、その意味においてソルダーレジスト31,32は絶縁層に該当しない。したがって、最表層に位置する絶縁層は、絶縁層11,14である。ソルダーレジスト31は、絶縁層11の最表層の全面を覆っている。これにより、導体層C0は、露出することなくソルダーレジスト31で覆われる。これに対し、ソルダーレジスト32には部分的に開口が設けられており、開口から露出する導体層C4の一部が外部端子として用いられる。
【0023】
絶縁層12にはESD保護部品2が埋め込まれている。ESD保護部品2は半導体基板によって構成されるため、絶縁層11~14とは熱膨張係数が大きく異なっている。しかしながら、本実施形態においては、ESD保護部品2が積層方向における略中央部に埋め込まれ、その両側に絶縁層11,13,14が設けられていることから、積層方向における対称性を厚みの調整により調整する自由度が高く、温度変化に起因する複合電子部品1全体の反りが発生しにくい。
【0024】
また、本実施形態においては、絶縁層11~14のうち、最表層に位置する絶縁層14については、芯材15に樹脂を含浸させた材料からなる。他の絶縁層11~13は、芯材を含まない樹脂材料からなる。このように、絶縁層14の材料として芯材15に樹脂を含浸させた材料を用いることにより、全体の強度が高められる。
【0025】
配線基板材料に用いられる樹脂及び配線導体の線膨張係数は、電子部品比べて大きいことから、
図2に例示する構成の場合、電子部品を基準とした線膨張係数のバランスが表裏(絶縁層14側、絶縁層11側)で異なる。これに対して、絶縁層14として芯材15を含む材料を用いることで、絶縁層14の線膨張係数を絶縁層11及び13よりも低く設定することにより、反りの発生を抑制することができる。また、絶縁層14は最表層に位置し、その表面には外部端子等の回路特性に影響が少ない部材が設けられることから、芯材15が回路特性に与える影響を比較的小さく抑えることができる。また、絶縁層14と、芯材(たとえば、ガラスクロスなど)が含浸されたマザーボードとの線膨張係数の差が軽減されることから、熱等により発生する応力差が抑えられる。これにより、外部端子とマザーボードとのはんだ接続における品質低下を抑制する事が可能となる。
【0026】
線膨張係数の小さい内蔵電子部品と接続されるビア(120~127)は、小径であることを求められることから、接続不具合などのリスクが高まる傾向にある。これに対して、本実施形態の構成を採用することで、線膨張係数の小さい電子部品と絶縁層14により熱収縮が抑制され、接続品質の向上が期待される。
【0027】
なお、本実施形態においては、電子部品の線膨張係数が最も小さく、次にマザーボードと電子部品間の熱応力を抑制可能な絶縁層14、次に絶縁層11及び13、次に電子部品を埋め込む絶縁層12という順で、線膨張係数が大きくなるように設計されてもよい。ここで、絶縁層14に埋め込まれる導体層C3と芯材15の干渉を防止するためには、芯材15が厚み方向において導体層C4側にオフセットしているとよい。
【0028】
絶縁層11~13については芯材を含まない樹脂材料からなることから、回路特性や微細配線の形成容易性、より小さいビアを形成する加工性などが向上する。例えば、絶縁層11,13の表裏にはコイルパターンが形成されるため、絶縁層11,13の材料として芯材を含む材料を用いると、コイルパターン間における結合に芯材が影響する可能性があるが、本実施形態においては、絶縁層11,13の材料として芯材を含まない樹脂材料を用いていることから、ほぼ設計通りのコイル特性を得ることが可能となる。また、絶縁層12にはESD保護部品2が埋め込まれるため、絶縁層12の材料として芯材を含む材料を用いると、芯材が埋め込みの妨げになるおそれがあるが、本実施形態においては、絶縁層12の材料として芯材を含まない樹脂材料を用いていることから、ESD保護部品2の埋め込みが容易となる。さらに、回路特性を向上する為の配線及び層間スペースの減少によるESD起因による絶縁破壊を抑制する事が可能となり、当然ながら耐圧特性が向上する。また、絶縁層11~13間には多数のビア導体が存在するが、絶縁層11~13には芯材が含まれていないため、ビア導体を埋め込むためのビアの形成も容易である。
【0029】
【0030】
図3に示すように、複合電子部品1にはコイルパターン41~48が埋め込まれている。このうち、コイルパターン41,42は導体層C3に配置され、コイルパターン43,44は導体層C2に配置され、コイルパターン45,46は導体層C1に配置され、コイルパターン47,48は導体層C0に配置される。コイルパターン41,43は絶縁層13を介して平面視で互いに重なっており、コイルパターン42,44は絶縁層13を介して平面視で互いに重なっている。また、コイルパターン45,47は絶縁層11を介して平面視で互いに重なっており、コイルパターン46,48は絶縁層11を介して平面視で互いに重なっている。
【0031】
図4~
図6、
図8及び
図9は、それぞれ導体層C4、C3、C2、C1及びC0に設けられた導体パターンの形状を示す略平面図である。また、
図7は、ESD保護部品2が埋め込まれた層の略平面図である。ここで、
図4~
図9に示すA-A線は、
図2(a)及び(b)に示す断面に対応している。
【0032】
図4に示すように、導体層C4には、導体パターン50~59及びグランドパターンGPが設けられている。導体パターン50~57のうちソルダーレジスト32から露出する部分は表面処理され、それぞれ信号端子20~27として用いられる。導体パターン58,59のうちソルダーレジスト32から露出する部分は表面処理され、それぞれグランド端子28,29として用いられる。また、導体パターン58,59は、グランドパターンGPを介して互いに接続されている。グランドパターンGPは直線的に延在する導体パターンであり、その幅は導体パターン58,59の幅よりも狭い。このように、グランドパターンGPと信号端子20~27及び導体パターン58,59は、互いに同じ導体層C4に配置されていることから、グランドパターンGPを設けるための専用の導体層を追加する必要はない。
【0033】
図5に示すように、導体層C3には、コイルパターン41,42と導体パターン60,61,63~66が設けられている。コイルパターン41の外周端は、ビア導体102を介して導体パターン52に接続されている。コイルパターン42の外周端は、ビア導体107を介して導体パターン57に接続されている。また、導体パターン60,61,63~66は、絶縁層14に設けられたビア導体100,101,103~106を介して、それぞれ導体パターン50,51,53~56に接続されている。コイルパターン41とコイルパターン42は、ギャップG1を介して隣り合っている。導体層C3においては、ギャップG1にグランドパターンなどが設けられておらず、コイルパターン41とコイルパターン42は、絶縁層14を介して直接隣り合っている。
【0034】
図6に示すように、導体層C2には、コイルパターン43,44と導体パターン70~76が設けられている。コイルパターン43の外周端は、ビア導体113を介して導体パターン63に接続されている。コイルパターン44の外周端は、ビア導体116を介して導体パターン66に接続されている。また、導体パターン70~74は、ビア導体110,111,114,115,118を介して、それぞれ導体パターン60,61,64,65,68に接続されている。導体パターン75,76は、ビア導体112,117を介して、それぞれコイルパターン41,42の内周端に接続されている。コイルパターン43とコイルパターン44は、ギャップG1を介して隣り合っている。導体層C2においては、ギャップG1にグランドパターンなどが設けられておらず、コイルパターン43とコイルパターン44は、絶縁層13を介して直接隣り合っている。
【0035】
コイルパターン41~44は、いずれも導体パターンが約4ターン巻回された構成を有している。そして、コイルパターン41とコイルパターン43は積層方向に重なり、そのパターン形状は外周端及び内周端の位置を除いてほぼ一致している。同様に、コイルパターン42とコイルパターン44は積層方向に重なり、そのパターン形状は外周端及び内周端の位置を除いてほぼ一致している。さらに、コイルパターン41とコイルパターン42のパターン形状は平面視で対称形であり、コイルパターン43とコイルパターン44のパターン形状は平面視で対称形である。
【0036】
図7に示すように、ESD保護部品2の表面には、端子電極80~87が設けられている。端子電極80~83は、絶縁層12に設けられたビア導体120~123を介して、それぞれ導体パターン70~73に接続される。また、端子電極84~87は、絶縁層12に設けられたビア導体124~127を介して、導体パターン74に共通に接続される。
【0037】
図8に示すように、導体層C1には、コイルパターン45,46と導体パターン91,93,94,97が設けられている。コイルパターン45の外周端は、ビア導体130を介して導体パターン70に接続される。コイルパターン46の外周端は、ビア導体135を介して導体パターン73に接続される。コイルパターン45の内周端は、ビア導体132を介して導体パターン75に接続される。コイルパターン46の内周端は、ビア導体136を介して導体パターン76に接続される。また、導体パターン91,94は、ビア導体131,134を介して、それぞれ導体パターン71,72に接続される。さらに、導体パターン93,97は、ビア導体133,137を介して、それぞれコイルパターン43,44の内周端に接続される。コイルパターン45とコイルパターン46は、ギャップG2を介して隣り合っている。導体層C1においては、ギャップG2にグランドパターンなどが設けられておらず、コイルパターン45とコイルパターン46は、絶縁層12を介して直接隣り合っている。
【0038】
図9に示すように、導体層C0には、コイルパターン47,48が設けられている。コイルパターン47の外周端及び内周端は、ビア導体141,143を介して、それぞれ導体パターン91,93に接続されている。コイルパターン48の外周端及び内周端は、ビア導体144,147を介して、それぞれ導体パターン94,97に接続されている。コイルパターン47とコイルパターン48は、ギャップG2を介して隣り合っている。導体層C0においては、ギャップG2にグランドパターンなどが設けられておらず、コイルパターン47とコイルパターン48は、絶縁層11を介して直接隣り合っている。
【0039】
コイルパターン45~48は、いずれも導体パターンが約5ターン巻回された構成を有している。そして、コイルパターン45とコイルパターン47は積層方向に重なり、そのパターン形状は外周端及び内周端の位置を除いてほぼ一致している。同様に、コイルパターン46とコイルパターン48は積層方向に重なり、そのパターン形状は外周端及び内周端の位置を除いてほぼ一致している。さらに、コイルパターン45とコイルパターン46のパターン形状は平面視で対称形であり、コイルパターン47とコイルパターン48のパターン形状は平面視で対称形である。
【0040】
図10は、本実施形態による複合電子部品1の等価回路図である。
【0041】
図10に示すように、本実施形態による複合電子部品1においては、信号端子20,22間にコイルパターン45,41が直列に接続され、信号端子21,23間にコイルパターン47,43が直列に接続され、信号端子24,26間にコイルパターン48,44が直列に接続され、信号端子25,27間にコイルパターン46,42が直列に接続される。そして、コイルパターン41,43が磁気結合することによってコモンモードフィルタCMF1が構成され、コイルパターン42,44が磁気結合することによってコモンモードフィルタCMF2が構成され、コイルパターン45,47が磁気結合することによってコモンモードフィルタCMF3が構成され、コイルパターン46,48が磁気結合することによってコモンモードフィルタCMF4が構成される。さらに、信号端子20,21,24,25とグランド端子28,29の間には、ESD保護部品2に集積された保護素子が挿入される。これにより、本実施形態による複合電子部品1は、ESD保護機能付きのコモンモードフィルタのアレイを構成する。グランド端子29は、グランドパターンGPを介してESD保護部品2に接続される。
【0042】
グランドパターンGPは、導体パターン58と導体パターン59を接続することによって、グランド端子28とグランド端子29を接続する役割を果たす。ここで、導体パターン59には対応するビア導体は設けられておらず、したがって、グランド端子29に与えられたグランド電位は、導体パターン59及びグランドパターンGPを介して、導体パターン58に供給される。つまり、グランド端子29は、いわゆるダミー端子として用いられる。このようなグランド端子29を設けているのは、本実施形態による複合電子部品1を回路基板に実装した際、実装強度を十分に確保するためである。また、平面視で導体パターン59と重なる位置にはビア導体が設けられていないことから、導体パターン59には剥離が生じやすいが、本実施形態においてはグランドパターンGPを介して導体パターン59が導体パターン58に繋がっていることから、導体パターン59の剥離も防止される。
【0043】
このように、本実施形態による複合電子部品1は、ESD保護部品2が埋め込まれた絶縁層12の一方の表面12b側に1層の絶縁層11を配置し、他方の表面12a側に2層の絶縁層13,14を配置した構成において、絶縁層14の材料として芯材15に樹脂を含浸させた材料を用いている。このように、絶縁層の層数が多い側の配線構造体に芯材15を含む絶縁層を配置していることから、全体の反りを効果的に防止することが可能となる。また、芯材15を有する絶縁層14を備えることで、複合電子部品1全体の強度を改善することができる。また、絶縁層14は、ESD保護部品2が埋め込まれた絶縁層12、導体層が配置された絶縁層11、13よりも、線膨張係数が低いことから、たとえば、複合電子部品1をマザーボードなどの基板に実装した際の応力が緩和される。これにより、複合電子部品1の信頼性が改善される。
【0044】
一方、互いに結合するコイルパターン間に位置する絶縁層11,13については、芯材を含まない樹脂材料を用いていることから、芯材がコイル特性に影響を与えることがない。さらに、ESD保護部品2が埋め込まれる絶縁層12についても芯材を含まない樹脂材料を用いていることから、芯材によって埋め込みが阻害されることもない。
【0045】
しかも、複合電子部品1を回路基板に実装した場合に、回路基板との距離が近いコイルパターン41~44のターン数、配線長及びコイル径よりも、回路基板との距離が遠いコイルパターン45~48のターン数、配線長及びコイル径を大きくしていることから、よりインダクタンスの大きいコイルパターン45~48が回路基板の影響を受けにくくなる。
【0046】
また、ESD保護部品2が埋め込まれた絶縁層12の他方の表面12a側にコイルパターン41~44を配置し、一方の表面12b側にコイルパターン45~48を配置していることから、各コモンモードフィルタのインダクタンスを十分に高めることができるとともに、絶縁層11~14とESD保護部品2の熱膨張係数の差に起因する複合電子部品1の反りを低減することが可能となる。
【0047】
また、コイルパターン41~44とコイルパターン45~48が積層方向に十分に離れており、両者のパターン形状、具体的には径及びターン数が互いに異なっていることから、両者間に生じる磁気結合が抑えられる。このため、特性調整のために、例えばコイルパターン41~44のパターン形状を変更しても、コイルパターン45~48の特性がほとんど変化しないことから、設計変更が容易となる。しかも、同じ導体層に位置する2つのコイルパターンが平面視で対称形であることから、2つのコモンモードフィルタに特性差がほとんど生じないとともに、パターン設計も容易となる。
【0048】
次に、本実施形態による複合電子部品1の製造方法について説明する。
【0049】
図11~
図23は、本実施形態による複合電子部品1の製造方法を説明するためのプロセス図である。
【0050】
まず、キャリア付き銅箔200を用意し、その表面にレジストパターン201を形成する(
図11)。キャリア付き銅箔200は、2層の銅箔の間に剥離層が設けられた構造を有している。レジストパターン201は、導体層C0のネガパターンである。この状態で、電解メッキを行い、レジストパターン201を除去することによって導体層C0を形成する(
図12)。次に、導体層C0が埋め込まれるよう、キャリア付き銅箔200の表面に絶縁層11を形成する(
図13)。これにより、導体層C0に位置する導体パターンは、側面及び上面が絶縁層11によって覆われた状態となる。
【0051】
次に、ビア導体を形成すべき箇所にビア202を形成することによって導体層C0の一部を露出させた後、無電解メッキによって絶縁層11の表面にシード層203を形成する(
図14)。ここで、絶縁層11には芯材が含まれていないことから、容易にビア202を形成することが可能である。次に、シード層203の表面にレジストパターン204を形成した後、電解メッキを行うことによって導体層C1を形成する(
図15)。次に、レジストパターン204を除去した後(
図16)、導体層C1が埋め込まれるよう、絶縁層11の表面に絶縁層12Aを形成し、その表面にESD保護部品2を搭載する(
図17)。これにより、導体層C1に位置する導体パターンは、側面及び上面が絶縁層12Aによって覆われた状態となる。次に、ESD保護部品2が埋め込まれるよう、絶縁層12Aの表面に絶縁層12Bを形成する(
図18)。これにより、ESD保護部品2は、絶縁層12A.12Bからなる絶縁層12に埋め込まれる。
【0052】
次に、
図14~
図16を用いて説明したプロセスを繰り返すことにより、絶縁層12の表面に導体層C2を形成した後、導体層C2が埋め込まれるよう、絶縁層12の表面に絶縁層13を形成する(
図19)。このプロセスを繰り返すことにより、絶縁層13の表面に導体層C3を形成した後、導体層C3が埋め込まれるよう、絶縁層13の表面に絶縁層14を形成する(
図20)。ここで、絶縁層14の材料として、芯材15が厚み方向において導体層C3の反対側にオフセットした材料を用いれば、芯材15と導体層C3の干渉が生じにくくなる。例えば、絶縁層14を熱プレスによる硬化工程において、低圧状態及び高圧状態における温度及び時間を調整することにより、絶縁層13及び14と接する面に対して絶縁層14及びソルダーレジスト層32と接する面側に芯材15をオフセットさせることが可能となる。次に、絶縁層14の表面に導体層C4を形成した後、キャリア付き銅箔200に設けられた剥離層を介して銅箔の1層を剥離し(
図21)、キャリア付き銅箔200の残った銅箔をエッチングにより除去する(
図22)。このエッチングにより、導体層C4の形成に用いたシード層も除去される。そして、絶縁層11,14の最表面にそれぞれソルダーレジスト31,32を形成した後(
図23)、表面処理により信号端子21~27及びグランド端子28,29を形成すれば、本実施形態による複合電子部品1が完成する。
【0053】
このように、本実施形態による複合電子部品1の製造プロセスにおいては、外部端子の下地となる絶縁層14の材料として芯材15に樹脂を含浸させた材料を用いる一方、他の絶縁層11~13には加工性に優れた樹脂材料を用いていることから、プロセス難易度を抑えつつ、反りの発生しにくい複合電子部品1を作製することが可能となる。
【0054】
以上、本開示に係る技術の実施形態について説明したが、本開示に係る技術は、上記の実施形態に限定されることなく、その主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示に係る技術の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、絶縁層12にESD保護部品2を埋め込んでいるが、絶縁層12に埋め込む電子部品がこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 複合電子部品
2 ESD保護部品(電子部品)
10 素体
11~14,12A,12B 絶縁層
12a,12b 絶縁層の表面
15 芯材
20~27 信号端子
28,29 グランド端子
31,32 ソルダーレジスト
41~48 コイルパターン
50~59 導体パターン
60,61,63~66,68 導体パターン
70~76 導体パターン
80~87 端子電極
91,93,94,97 導体パターン
100~107,110~118,120~127,130~137,141,143,144,147 ビア導体
200 キャリア付き銅箔
201 レジストパターン
202 ビア
203 シード層
204 レジストパターン
C0~C4 導体層
CMF1~CMF4 コモンモードフィルタ
G1,G2 ギャップ
GP グランドパターン