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特開2024-18254毛髪処理剤、毛髪処理方法及び毛髪処理剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018254
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】毛髪処理剤、毛髪処理方法及び毛髪処理剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240201BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240201BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/19
A61K8/02
A61Q5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121466
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】505248842
【氏名又は名称】Re&Do株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】上野山 晴久
(72)【発明者】
【氏名】田中 康敬
(72)【発明者】
【氏名】上野山 光広
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA112
4C083AB132
4C083AB172
4C083AB232
4C083AB432
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC442
4C083AC792
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD512
4C083DD08
4C083DD23
4C083DD28
4C083EE07
4C083FF04
(57)【要約】
【課題】摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤と、着色や着色増毛したい頭髪に容易に毛髪処理剤を塗着させることのできる毛髪処理方法とを提供すること。
【解決手段】本発明に係る毛髪処理剤は、毛髪用着色剤又は着色増毛剤として用いられる毛髪処理剤であって、(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(C)破断崩壊助剤、及び(D)希釈剤を含有し、肌に付着すると摩擦による除去が可能な耐水性の被膜を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪用着色剤又は着色増毛剤として用いられる毛髪処理剤であって、肌に付着すると摩擦による除去が可能な耐水性の被膜を形成する毛髪処理剤。
【請求項2】
(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(C)破断崩壊助剤、及び(D)希釈剤を含有する請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
容器内に噴射剤とともに収容されてエアゾール用としてある請求項1又は2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
毛髪の生え際用とした請求項1又は2に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の毛髪処理剤を毛髪に付着させ、当該毛髪処理剤が肌に付着した場合、その肌に付着した毛髪処理剤に摩擦を加えて除去する毛髪処理方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の毛髪処理剤を製造するための毛髪処理剤の製造方法であって、
製造しようとする毛髪処理剤に対応する(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(D)希釈剤、を選定し、基本となる基本剤を作る第1工程と、
前記基本剤の性状に応じ、(C)破断崩壊助剤を選択して混合し、毛髪処理剤を得る第2工程と、
前記毛髪処理剤を毛髪及び肌に塗布し、乾燥させた後、増毛又は着色増毛効果、髪へのなじみ・接着安定性、可撓性、耐水性、摩擦による剥がれやすさ、毛髪からの剥がれのない事、との性状・性能を調べる第3工程とを実施し、
前記第3工程において前記性状・性能がそれぞれ一定の基準を満たさない場合は添加する(C)破断崩壊助剤の添加量や種類を変えて前記第3工程を繰り返す毛髪処理剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、毛髪用着色剤又は着色増毛剤として用いられる毛髪処理剤、これを用いた毛髪処理方法及び毛髪処理剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毛髪に毛髪処理剤を塗布し、頭髪を着色ないし着色増毛する方法に関しては、如何にすれば毛髪にしっかりと毛髪処理剤を塗着させるかが重要な課題とされてきた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4665196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、毛髪処理剤を毛髪にしっかりと塗着できる、換言すれば強固に固着する被膜の毛髪処理剤であればあるほど、毛髪処理剤を毛髪に塗布(施術)する際に、不要な部分に毛髪処理剤が付着すると、その毛髪処理剤の塗膜を剥がす作業が困難化することになるので、毛髪処理剤が不要な部分にかからないように慎重に作業(施術)を行う必要があり、高度なテクニックや集中力、熟練等が要求されることも少なくない。
【0005】
例えば、エアゾール仕様とした毛髪処理剤の場合は、その噴射量を少なくしたり噴射パターン(噴霧の幅)を小さくして毛髪処理剤の飛び散りを少なくしたりすることにより、上記作業の容易化をある程度図ることができるが、この場合、頭髪全体を処理するには長時間を要することとなる。
【0006】
そこで、本発明者らは、従来の考え方とは正反対の方法、すなわち毛髪に対する被膜との密着性を上げることよりむしろ、毛髪処理剤の塗膜を摩擦によって剥ぎ取り易い耐水性の被膜にすることによって、万が一不要部分に毛髪処理剤が付着したとしてもその部分の被膜は直ぐに除去できるようにし、これにより、処理作業を簡便にし、作業時間の短縮を図ることをも可能とすることに想い到った。
【0007】
本発明は、以上の事柄を鑑みてなされたもので、その目的は、摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤及びその製造方法と、着色や着色増毛したい頭髪に容易に毛髪処理剤を塗着させることのできる毛髪処理方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る毛髪処理剤は、毛髪用着色剤又は着色増毛剤として用いられる毛髪処理剤であって、肌に付着すると摩擦による除去が可能な耐水性の被膜を形成する(請求項1)。この毛髪処理剤は、(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(C)破断崩壊助剤、及び(D)希釈剤を含有してもよい(請求項2)。
【0009】
上記毛髪処理剤が、容器内に噴射剤とともに収容されてエアゾール用としてあってもよい(請求項3)。
【0010】
上記毛髪処理剤を、毛髪の生え際用としてもよい(請求項4)。
【0011】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係る毛髪処理方法は、請求項1又は2に記載の毛髪処理剤を毛髪に付着させ、当該毛髪処理剤が肌に付着した場合、その肌に付着した毛髪処理剤に摩擦を加えて除去する(請求項5)。
【0012】
他方、上記目的を達成するために、本発明に係る毛髪処理剤の製造方法は、請求項1又は2に記載の毛髪処理剤を製造するための毛髪処理剤の製造方法であって、製造しようとする毛髪処理剤に対応する(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(D)希釈剤、を選定し、基本となる基本剤を作る第1工程と、前記基本剤の性状に応じ、(C)破断崩壊助剤を選択して混合し、毛髪処理剤を得る第2工程と、記毛髪処理剤を毛髪及び肌に塗布し、乾燥させた後、増毛又は着色増毛効果、髪へのなじみ・接着安定性、可撓性、耐水性、摩擦による剥がれやすさ、毛髪からの剥がれのない事、との性状・性能を調べる第3工程とを実施し、前記第3工程において前記性状・性能がそれぞれ一定の基準を満たさない場合は添加する(C)破断崩壊助剤の添加量や種類を変えて前記第3工程を繰り返す(請求項6)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤及びその製造方法と、着色や着色増毛したい頭髪に容易に毛髪処理剤を塗着させることのできる毛髪処理方法とが得られる。
【0014】
(発明の経緯)
以下、本願発明が上記効果を奏することの説明を兼ねて、発明の経緯について述べる。
【0015】
上述のように、本発明者らは、毛髪処理剤の耐水性の塗膜を摩擦によって剥ぎ取り易い被膜にすることに想到した。ここで、摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤を作る方法として、例えば従来ある顔料系の毛髪処理剤の被膜を、剥がれやすい処方に変更するには、(1)使用している接着性の被膜部剤の量を極端に少なくする、(2)被膜部剤の樹脂を接着性の悪い(劣る)樹脂に変更する、(3)顔料や増量成分を多くし、更に被膜部剤の樹脂量を下げて接着性を悪くする、等によって可能になるようにも思われるが、検討・研究したところどういう処方でも出来るという容易いものではないことが分かった。
【0016】
本発明を実施・検討するにあたり、従来の毛髪処理剤の処方を基本に、それぞれの基本処方に適した方法を、前述の(1)~(3)のような方法にアレンジして試したところ、一応摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤が作れたものの、一方では「摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤」を作るという同じ目的の為に、前述の(1)~(3)などの方法を試したのにも拘らず、用いた従来の毛髪処理剤の性能より更に強固に固着する取れない被膜に変化したものも出てきた。
【0017】
一応摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤が作れたもののみを対象にし、出来た毛髪処理剤について詳査すると、被膜はぱさぱさで使い物に成らないとか、触っただけで剥げ落ちるとか、被膜が摩擦している周りの被膜を引きちぎったような形で千切れて細い毛髪を巻き込んでしまうとか、毛髪本来の艶や手触りが極端に悪くなるとか、又処理直後にはよかった被膜が数時間すると毛髪上の被膜までポロポロと剥げ落ちたり、時間が経つと生え際などの毛髪の上でまるで塗膜が虫歯の歯並びのようにみじめな形相となったりするものなどが生じた。
【0018】
そこで更に、前記のような中でも、本発明の毛髪処理剤の塗膜として採用出来そうなものを選び、詳査すると(A)塗膜が砂のようにぱさぱさの物、(B)表面は綺麗でありながら塗膜を指やブラシで摩擦すると被膜が薄くなった時点でガラスのような割れ方をするもの、(C)徐々にきれいな形で被膜の厚さが薄くなりながら毛髪の生え際(毛穴の)すぐ近くにある摩擦されていない塗膜の厚みがある部分を全く傷つけること無く、被膜を綺麗に落とせるもの等があった。
【0019】
従来の毛髪処理剤を基にして摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤に変化させるのは容易いことでは無い事と考え、そこで、「摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤に向いた性質の樹脂や顔料は一般に存在しないかと種々検討したところ、木材や金属に塗る塗料に使用されている樹脂(工業用塗料)の一つに求める性状に近いものがあるのを見つけた。然しながら、化粧品や医薬部外品に使う事の出来る樹脂は決められており残念ながら、該樹脂は化粧品に使用できるものではなく、該樹脂を本発明に使用することは不可能であった。
【0020】
そこで、本発明者らは、原点に還り、初めから従来の毛髪処理剤を基にして取れやすい被膜に置き換える事を考えるのではなく、その工業用塗料の樹脂と同じようなものの性質を持つ毛髪処理剤を作る為の研究に至った。即ち化粧品や医薬部外品などの人体に使用される事の出来る原材料でその工業用樹脂の性状を持たせる事を目指した。研究を続ける内に、摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤は、ある程度の時間が経てば崩壊するような性状、言い換えれば昔、樹脂製品が世の中に出回りだした頃に頻繁に起こった現象であるが、使っていたプラスチック製品がひび割れしてきたり、表面が白粉化し脆弱したりするような性状のある方が好ましいと考えた。
【0021】
例えば砂糖は、同じ砂糖でありながら白砂糖、角砂糖、氷砂糖、金平糖や綿菓子、さらに板状などの砂糖が存在する。このうち白砂糖、角砂糖、氷砂糖や綿菓子の性状で毛髪について本発明と似た効果は発揮できないが、金平糖のような状態を毛髪の上で作れば似たような効果を発揮できる可能性がある。
【0022】
同じ材料(原料)で調合順序や調合比等を色々と試行錯誤したが、残念ながら樹脂もそれぞれで、顔料も好みの色や塗面の状態が様々な為、結局調合割合、調合順序、加工の仕方も種々の顔料や樹脂に統一出来る絶対的な方法を決定することは不可能に近い事がわかった。
更に、重要なことは、本願発明の実施として用いるには塗布直後もしくは一定時間は摩擦によって剥がせるが、以後、完全乾燥時には、少々触ってもとれない(剥がれない)しっかりとした被膜に変性させることが好ましい。即ち、前述の樹脂製品が世の中に出回りだした頃に頻繁に起こった現象のような、使っていたプラスチック製品がひび割れしてきたり、表面が白紛化し脆弱したりするような性状では十分ではない事が分かった。
【0023】
鋭意検討した結果、顔料や樹脂に破断崩壊助剤となる成分を添加する事によって毛髪処理剤を作れば、塗布直後及び指触乾燥後の一定時間内は摩擦によって崩れやすくなる塗膜を、最も安定した状態で作れ、本発明の摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤を完成出来ることが分かった。
【0024】
ここで、破断崩壊助剤とは顔料や樹脂に添加する事によって毛髪処理剤の塗膜を摩擦によって崩れ易くすることができる成分である。
【0025】
このようにして、本願発明の毛髪処理剤は、不要部分に付着した場合でも塗布直後及び指触乾燥後の一定時間内は摩擦によって剥がす事が出来る。また、本願発明の毛髪処理方法では、不要部分に付着したとしてもその部分の被膜を直ぐに除去できる上記毛髪処理剤を用いるので、着色や着色増毛したい頭髪に容易に毛髪処理剤を塗着させることができる。
【0026】
本願明細書において、毛髪処理剤あるいはその被膜につき「摩擦によって剥がす事が出来る」とは、毛髪処理剤を皮膚上に塗着させ、その被膜(塗膜)が半乾燥もしくは乾燥直後の状態において、指又はブラシ等でその被膜をこするなどして摩擦し被膜に力を加えるとき、その被膜が(容易に)千切れ剥がれる被膜強度を持つことをいう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(A)はテスト1における施術前の被験者の腕の状態、(B)はテスト1における毛髪処理剤を吹き付けた直後の被験者の腕の状態を示す写真である。
図2】(A)はテスト1において被験者の腕の皮膚に付着した毛髪処理剤をブラシで除去している途中の状態、(B)はテスト1における施術後の被験者の腕の状態を示す写真である。
図3】(A)及び(B)は、それぞれ図1(A)の腕、図2(B)の腕の拡大写真である。
図4】(A)~(C)はテスト2における施術前、毛髪処理剤を吹き付けた直後及び施術後の被験者の耳回りの状態を示す写真、(D)及び(E)はテスト3における施術前及び施術後の被験者の額の生え際の状態を示す写真、(F)及び(G)はテスト4における施術前及び施術後の被験者の頭頂部の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0029】
本実施の形態に係る毛髪処理剤は、毛髪用着色剤又は着色増毛剤として用いられるもの、換言すれば、毛髪に付着すると、着色作用又は増毛作用を発揮するものであって、少なくとも、(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(C)破断崩壊助剤、及び(D)希釈剤を含有する(各成分の詳細は後述する)。
【0030】
また、本実施の形態に係る毛髪処理方法は、上記毛髪処理剤を毛髪に付着させ、当該毛髪処理剤が肌に付着した場合、その肌に付着した毛髪処理剤に摩擦を加えて除去するものである。
【0031】
ここで、本例の毛髪処理剤は、容器(耐圧容器ないしスプレー缶)内に噴射剤(例えばジメチルエーテルの他、LPG、炭酸ガス、窒素などが使用可能である)とともに収容してエアゾール用(着色スプレー)としてあってもよいし、噴射剤の収容されない容器に収容されて用いるようにしてあってもよい。後者の一例としては、まつげに塗布されるマスカラと同様に毛髪に毛髪処理剤を塗布することができるように、チューブ入りで棒状のアプリケータ(ブラシ)として構成した容器に毛髪処理剤を収容することが考えられる。
【0032】
上述のように(C)破断崩壊助剤を含有した本例の毛髪処理剤は、摩擦によって(容易に)剥がす事の出来る被膜を形成する。斯かる毛髪処理剤が皮膚上に付着して形成された被膜は摩擦によって剥がれ落ちる(皮膚上においては付着直後も被膜の乾燥後も剥ぎ取り易い)が、毛髪上に塗布した毛髪処理剤は、毛髪は触れると動く(移動する)ために、少々力を入れて指やブラシで触れたところで毛髪上の塗膜を剥がすほどの摩擦力を発揮できないので、毛髪上に塗布した毛髪処理剤はそのまま取れずに残ることになる。
【0033】
本例の毛髪処理剤を頭髪に塗布したとき、不要な部分に付着しなかった場合は勿論そのままにすれば良いが、不要な部分に付着して被膜が形成された場合は、その不要な被膜を指や布、ティッシュ、ブラシ、櫛、スポンジのいずれか又は併用してこすり取ればよい。このときの摩擦の加圧の程度は、スポンジに洗剤を付け食器を洗ったり、体を洗ったりするときの加圧程度であり、きつくゴシゴシという程の強いものではない。さらに言えば、例えば指や布、ティッシュでは黒板やホワイトボードに書いた文字を消す程度、ブラシでは歯磨きする程度、好ましくは乳幼児の歯を磨くようなソフトな加圧であり皮膚を傷つけたり赤くしたりするような強さではない。また、摩擦のタイミングは、毛髪処理剤の付着後すぐから開始でき、指触乾燥直後から5分以内とすることが考えられる。
【0034】
ここで、毛髪に毛髪処理剤を塗布する作業(施術)を行った際に、毛髪処理剤が毛髪からずれ、特に毛髪の生え際付近の皮膚に付着したままにすると目立ちやすい。しかし、このような場合でも、生え際付近の皮膚に付着した毛髪処理剤(の被膜)を指やブラシで擦り取る(摩擦して剥ぎ取る)ようにすれば、毛髪の塗膜は剥がれることなく皮膚上の塗膜だけを容易に剥ぎ取ることができ、容易に剥ぎ取れるので生え際付近の毛根等を傷めず、生え際が後退等する恐れも可及的に小さくすることができる。従って、本例の毛髪処理剤は、毛髪の生え際用として用いて特に好適である。
【0035】
(接着性の必要性)
もし毛髪処理剤の塗膜に接着性が無く、単に毛髪上にそっと載っているような状態であれば、いくら毛髪が「触れると動く(移動する)」とは言え、指やブラシが触れれば毛髪に付いた毛髪処理剤の塗膜も薄くなったり取れたりしてしまうので、毛髪処理剤(着色剤又は着色増毛剤)としての性能を発揮できない。このために本例の(B)耐水性被膜部剤に接着性を持たせ、毛髪処理剤が毛髪への接着性を有するようにする必要がある。
【0036】
(耐水性の必要性)
さらに(B)耐水性被膜部剤に耐水性を持たせ、本例の毛髪処理剤の被膜の耐水性が少なくとも弱耐水性以上(弱耐水性、中耐水性さらには強耐水性)となるようにする必要がある。なぜなら、被膜に耐水性を持たせていないと、処理後、頭髪に付いた着色塗膜は雨や汗によって簡単に溶けて皮膚上に垂れ、毛髪は勿論、生え際などに処理した被膜の薄い部分では見る影も無いほどみじめな汚れ方をするからである。また、本例の毛髪処理剤が非水溶性顔料以外の染料や顔料を含む場合には、塗膜を剥ぎ取った際にその染料等だけが皮膚に展着し染みを作ってしまう懸念もあるからである。
【0037】
ここでいう被膜の「中耐水性」とは、毛髪処理剤をガラス板上に塗着させ乾燥後、そのガラス板を常温水の入った容器に入れ1分間浸漬させたとき、その被膜が溶解したり自然に剥がれ落ちたりしない耐水強度を持つことを指し、「弱耐水性」とは、毛髪処理剤をガラス板上や掌に塗着させ、乾燥後、その板や掌を常温水の入った容器に水没させたとき、直ぐには溶けださないが、水中で塗膜表面をしばらく(例えば10秒程度)浸漬した後にこするとその被膜が徐々に剥がれ落ちる程度の耐水強度を持つことを指す。また、「強耐水性」とは、毛髪処理剤をガラス板に塗着し、完全乾燥後、その板を常温水の入った容器に水没させたとき、すぐに溶け出さず、水中で塗膜表面をしばらく(例えば10秒程度)浸漬した後にこすっても被膜が徐々に剥がれ落ちることなく、かつ、毛髪処理剤をガラス板に塗着し、完全乾燥後30分以上水没させ放置したとき、ガラス板から塗膜が剥がれることなく、さらにその塗膜を乾燥後、塗膜表面を指でこすっても溶解することのない耐水強度を持つことを指し、本例の毛髪処理剤の被膜がこのような強耐水性を持つようにしてもよい。
【0038】
本例の毛髪処理剤が以上の機能を有するように、(A)~(D)の成分や配合を決定すればよく(この決定の際、毛髪処理剤に持たせるしなやかさ、艶、手触りなどを考慮してもよいことは勿論である)、それぞれの具体例は以下の通りである。
【0039】
(A)非水溶性顔料としては、毛髪につけることの出来る大きさの非水溶性の顔料成分、例えば従来ヘアカラーに用いられている顔料、固形粉体、短繊維物質などの有色粉状物など種々用いることが出来る。具体的には、黄酸化チタン、べンガラ、黒酸化鉄、紺青、酸化クロム、群青、カーボンブラック、アンバー、カラミン、フミン酸、墨汁等顔料のほか、固形分粉体としては無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、カオリン、ベントナイト、セリライト、雲母チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、沈降性炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミマグネシウム、硫酸カルシウム、チョーク粉、軽石粉、真珠粉、蚕繭粉、粉末結晶セルロース、ユリア樹脂微粉末の、何れか1種または混合物として採用することができる。又、(A)非水溶性顔料としては、(A)非水溶性顔料と(B)耐水性被膜部剤用樹脂を共有する一液型であっても良い。(A)非水溶性顔料は、単体もしくは非水溶性増量剤を加えて目的とする毛髪処理剤の着色度合いや被膜厚さ等その必要性状に応じるように調整、配合することが出来る。
【0040】
(B)接着性を有する耐水性被膜部剤としては、接着性を有し、毛髪へのなじみが良く、可撓性を有し、疎水性であり、耐水性に優れた被膜を形成する樹脂成分がアクリル酸オクチルオクチルアミド・アクリル酸エステル共重合体の非中和物、酢酸ビニル・クロトン酸共重合体の非中和物、クロトン酸・酢酸ビニルネオデカン酸ビニル共重合体の非中和物、アクリル酸オクチルアクリルアミド・アクリル酸ヒドロキシプロピル・メタアクリル酸ブチルアミノエチル共重合体の非中和物などや、シリコーン樹脂、ウレタン変性樹脂、シリコーン変性樹脂等の単品又は混合物や共重合物から選択される樹脂の内、接着性を有するものを用いることができる。
【0041】
(C)破断崩壊助剤としては、シリコーンやラノリン等の油脂類、界面活性剤、無水ケイ酸、チタン増量剤、酸化鉄、酸化チタン等を用いることができる。(C)破断崩壊助剤は、製造しようとする毛髪処理剤の内容物(内容物により、調合割合や調合順序、加工の仕方も変わってくる)や性状・性能(容器等に収容されているときの性状等のみならず、毛髪等に塗布された毛髪処理剤が形成する塗膜の状態等も含む)に応じて選択・決定すればよく、常に一つの物に限定されない。
【0042】
(C)破断崩壊助剤の選択・決定(ないし毛髪処理剤の製造)は、例えば以下のようにして行える。
(第1工程)製造しようとする毛髪処理剤に対応する(A)非水溶性顔料、(B)接着性を有する耐水性被膜部剤、(D)希釈剤、を選定し、基本となる基本剤を作る。
(第2工程)基本剤の性状に応じ、(C)破断崩壊助剤を選択して混合し、毛髪処理剤を得る。
(第3工程)毛髪処理剤を毛髪及び肌(掌)に塗布し、乾燥させた後、増毛又は着色増毛効果、髪へのなじみ・接着安定性、可撓性、耐水性、摩擦による剥がれやすさ(掌)、毛髪からの剥がれのない事、等の性状・性能を調べる。
(第4工程)性状・性能が一定の基準(製造しようとする毛髪処理剤に要求する基準)を満たせば、そこで完成とし、満たさない場合は添加する(C)破断崩壊助剤の添加量や種類を変えて(第3工程)を繰り返し、一定の条件を満たせば完成とし、(第3工程)を所定回数(例えば10回~100回)繰り返しても一定の基準を満たさない場合は基本剤の配合等を見直すことが考えられる。
【0043】
上記(第2工程)は、例えば(イ)基本剤が柔軟な塗膜を形成する場合は固形物を(C)破断崩壊助剤として、(ロ)基本剤が硬い塗膜を形成する場合は油脂や界面活性剤を(C)破断崩壊助剤として、(ハ)基本剤が分子量の大きな接着樹脂を用いた塗膜のように樹脂同士の結合が切れにくい塗膜を形成する場合は固形物と油脂や界面活性剤を組み合わせて(C)破断崩壊助剤とすることが考えられる。
【0044】
そして、基本剤に(C)破断崩壊助剤を混合し、摩擦で剥がれ易い被膜にするということは、脆化させるという事ではない。毛髪上の塗膜はあくまでも毛髪へのなじみが良く、可撓性を有し、耐水性のある被膜を形成する毛髪処理剤でなくてはならないから脆化させてはいけない。その為に、夫々の毛髪処理剤の塗膜性状に合った成分を(C)破断崩壊助剤として使う必要がある。
【0045】
固形物の(C)破断崩壊助剤としては、片栗粉など澱粉、HEC、CMC、CPCなどのセルロース樹脂、薄力紛、塩、砂糖などの他、毛髪処理剤の着色剤や増量成分としても使われる、金属酸化物(酸化鉄や酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等)、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、カオリン、ベントナイト、セリライト、雲母チタン、酸化セリウム、沈降性炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミマグネシウム、硫酸カルシウム、チョーク粉、軽石粉、真珠粉、粉末結晶セルロース、胡粉などが単体又は混合物として採用することができる。
【0046】
油脂の(C)破断崩壊助剤としてはシリコーン系やフッ素系樹脂の低粘度物、若しくはラノリンなどの動物油、椿油などの植物油など、又樹脂の非中和物を用いることも出来る。「非中和物」とは「未中和物」を指し、中和が完成されていない状態の不完全未中和物を含める。
【0047】
界面活性剤の(C)破断崩壊助剤としては、毛髪処理剤の成分として用いる接着性樹脂や着色/着色増毛成分との相溶性等に問題が無い限り公知のアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤の何れでも採用することができる。
【0048】
(D)希釈剤としては、エタノールや炭化水素油、及び少量の水(エタノール量に対して10重量%以下の水)など従来着色剤/着色増毛剤に用いられている希釈剤は問題なく使用できる。
【0049】
下の表1(表中に示されている数値の単位は重量%である)に、毛髪処理剤の比較例(従来例)を3例挙げ、それぞれに対する本発明の三つの実施例を並記した。
比較例1は、本発明を実施する前の普通の耐水性の毛髪処理剤を示す。実施例1は比較例1に破断崩壊助剤を加えたのち該処方が摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤に調整した本発明の実施例である。
比較例2は、本発明を実施する前の普通の耐水性の毛髪処理剤を示す。実施例2は比較例2に破断崩壊助剤を加えたのち該処方が摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤に調整した本発明の実施例である。
比較例3は、本発明を実施する前の普通の耐水性の毛髪処理剤を示す。実施例3は比較例3に破断崩壊助剤を加えたのち該処方が摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤に調整した本発明の実施例である。
【0050】
又、比較例1~3、実施例1~3夫々について行った性状・性能試験の評価結果も表1に示してある。表1の夫々の評価は、夫々に得られた液を、刷毛で掌や毛髪に適量をつけて乾燥直後及び5分後の被膜を、及び、夫々の液30mlを夫々耐圧容器に入れバルブを装着後ジメチルエーテルを夫々の耐圧容器に70mlずつ加えエアゾールスプレーを作り、噴射ボタンを付け、掌や毛髪にスプレーし、被膜乾燥直後及び5分後の被膜を調べ、各項目についての評価結果は液のみとスプレーでの被膜の総合結果を示す。なお、摩擦による剥がれやすさについては、上記の液を掌につけ乾燥させた被膜および、夫々掌にスプレーした塗膜をドライヤーで乾燥後の被膜について判断した結果を示したものである。また、各項目の評価は、3人の熟練したパネラーが1~5点の5段階で評価し、その平均値が3.5点以上の場合を〇、それ未満の場合を×として示した。そして、総合判断で〇と評価したものは、すべての評価項目で〇のついたものであり、本発明の「摩擦によって剥がす事の出来る毛髪処理剤」として使用できるものに該当する。
【0051】
【表1】
【0052】
以下、本例の毛髪処理剤の効果を確認するためにスプレー(エアゾール)タイプの本例の毛髪処理剤を被験者に施術して行ったテスト1~4について説明する。毛髪処理剤の施術箇所を、テスト1では腕、テスト2では耳回り、テスト3では額の生え際、テスト4では頭頂部とした。図1図3の写真はテスト1、図4(A)~(C)はテスト2、図4(D)及び(E)はテスト3、図4(F)及び(G)はテスト4の実施時にそれぞれ撮影した写真である。
【0053】
図1(A)及び図3(A)に示す被験者の腕に本例の毛髪処理剤を吹き付けて図1(B)に示す状態となるようにし、その後、ブラシで腕の皮膚に付着した毛髪処理剤を除去したところ(図2(A)参照)、図2(B)及び図3(B)に示す状態となったのであり、このことから、本例の毛髪処理剤は毛に付着したものはそのままにしながら、肌に付着したものは容易に除去できることが理解できる。
【0054】
そして、テスト2に対応する図4(A)~(C)の写真、テスト3に対応する図4(D)及び(E)の写真、テスト4に対応する図4(F)及び(G)の写真から、本例の毛髪処理剤が着色作用ないし着色増毛作用を発揮することが理解され、特に、図4(C)及び図4(E)からは、毛髪処理剤が不要な部分に付着しないようにすることができることが理解される。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。
図1
図2
図3
図4