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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001828
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】自動滴定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/16 20060101AFI20231227BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G01N31/16 A
G01N27/26 341B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100736
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】岡野 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 成明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英二
(72)【発明者】
【氏名】小林 亘
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042CB03
2G042FB03
2G042GA10
2G042HA04
2G042HA07
2G042HA10
(57)【要約】
【課題】滴定の精度を維持しつつ、手分析に近い操作で滴定時間の短縮を図ることが可能な自動滴定装置を提供する。
【解決手段】自動滴定装置100は、滴加部2の動作を制御する滴加制御部111と、検出部10の出力信号を取得する取得部102と、滴加制御部111による滴加部2の動作の制御モードを設定するモード設定部112と、検出部10の出力信号に基づいて終点を検出する処理を行う演算部113と、を有し、滴加制御部111は、上記制御モードとして、滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬Tの滴加量を略一定とする第1のモードと、検出部10の出力信号に応じて滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬Tの滴加量を制御する第2のモードと、で滴加部2の動作を制御可能であり、モード設定部112は、滴定の開始から滴定の終了までの間に、上記制御モードを第1のモードと第2のモードとの間で相互に切り替え可能である構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液に滴定試薬を滴加する滴加部の動作を制御する滴加制御部と、
被検液の化学量又は物理量を検出して電気信号を出力する検出部の出力信号を取得する取得部と、
前記滴加制御部による前記滴加部の動作の制御モードを設定するモード設定部と、
前記取得部により取得された前記検出部の出力信号に基づいて終点を検出する処理を行う演算部と、
を有し、
前記滴加制御部は、前記制御モードとして、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を略一定とする第1のモードと、前記取得部により取得された前記検出部の出力信号に応じて前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を制御する第2のモードと、で前記滴加部の動作を制御可能であり、
前記モード設定部は、滴定の開始から滴定の終了までの間に、前記制御モードを前記第1のモードと前記第2のモードとの間で相互に切り替え可能であることを特徴とする自動滴定装置。
【請求項2】
操作者の操作に応じて前記モード設定部に指示を入力可能な操作部を有し、
前記モード設定部は、操作者の操作に応じて前記操作部から入力された指示に応じて、前記制御モードを、前記第1のモードから前記第2のモードへと切り替え可能であると共に、前記第2のモードから前記第1のモードへと切り替え可能であることを特徴とする請求項1に記載の自動滴定装置。
【請求項3】
前記モード設定部は、前記滴加制御部が前記第1のモードで前記滴加部の動作を制御している際に、前記滴定試薬の滴加量、又は前記取得部により取得された前記検出部の出力信号若しくは該出力信号に基づく値が、所定の条件を満たした場合に、前記制御モードを前記第1のモードから前記第2のモードへと切り替え可能であることを特徴とする請求項1の自動滴定装置。
【請求項4】
情報を出力可能な出力部を有し、
前記出力部は、前記滴加制御部が前記第1のモードで前記滴加部の動作を制御している際に、前記滴定試薬の滴加量、又は前記取得部により取得された前記検出部の出力信号若しくは該出力信号に基づく値が、所定の条件を満たした場合に、前記制御モードを前記第1のモードから前記第2のモードへと切り替えることを操作者に促す情報を出力可能であることを特徴とする請求項1の自動滴定装置。
【請求項5】
情報を出力可能な出力部を有し、
前記出力部は、前記取得部により取得された前記検出部の出力信号又は該出力信号に基づく値をリアルタイムで操作者に報知する情報を出力可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動滴定装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記滴加制御部が前記第1のモードで前記滴加部の動作を制御している際に前記終点を検出する処理を行うと共に、前記滴加制御部が前記第2のモードで前記滴加部の動作を制御している際に前記終点を検出する処理を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動滴定装置。
【請求項7】
前記滴加制御部は、前記第2のモードにおいて、前記滴定試薬を被検液に滴加した際に前記取得部により取得される前記検出部の出力信号の変化が第1の値の場合は、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を第1の滴加量とし、前記滴定試薬を被検液に滴加した際に前記取得部により取得される前記検出部の出力信号の変化が前記第1の値よりも大きい第2の値の場合は、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を前記第1の滴加量よりも少ない第2の滴加量とするように、前記滴加部の動作を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動滴定装置。
【請求項8】
前記滴加制御部は、前記第2のモードにおいて、前記滴加部により次に滴加する前記滴定試薬の量を制御することで、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を制御することを特徴とする請求項7に記載の自動滴定装置。
【請求項9】
前記滴加制御部は、前記第2のモードにおいて、前記滴加部による前記滴定試薬の前の滴加終了から次の滴加開始までの時間間隔を制御することで、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を制御することを特徴とする請求項7に記載の自動滴定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滴定試薬の滴加、滴定の終点の検出などを自動的に行う自動滴定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検液中の目的物質の量(濃度)を測定するために、様々な分野で滴定が利用されている。滴定では、被検液に滴定試薬を少量ずつ滴加し、被検液の化学量又は物理量の変化を検出部(センサ)により出力信号(電気信号)として検出し、滴定の終点に到達するまでに必要とした滴定試薬の量から目的物質の量(濃度)を求めることができる。このような滴定における滴定試薬の滴加、滴定の終点の検出などを自動的に行う自動滴定装置が実用化されている。
【0003】
滴定においては、滴定試薬の滴加量に対して検出部の出力信号(被検液の化学量又は物理量)の変化が直線的に変化せず、特に滴定の終点付近において変化量が大きくなることがある。そこで、自動滴定装置において、滴定試薬を滴加した際の検出部の出力信号の変化が小さい場合には滴定試薬の滴加を多く・速く行い、検出部の出力信号の変化が大きい場合(終点付近)には滴定試薬の滴加を少なく・ゆっくり行う制御が用いられている(特許文献1、特許文献2)。具体的には、検出部の出力信号に応じて、滴定試薬の滴加量や滴加間隔をフィードバック制御して、単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御する。この制御によれば、終点検出の精度向上を図りつつ、滴定時間の短縮を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-108917号公報
【特許文献2】特開2017-151071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動滴定装置によれば、検出部の出力信号に基づいて終点が自動的に検出されるため、ガラスビュレットによる手分析の場合のように、終点検出精度の個人差が生じず、また熟練した滴定技術を必要としない。そして、上述のように、自動滴定装置において、検出部の出力信号に応じて単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御する場合、終点検出の精度向上を図りつつ、滴定時間の短縮を図ることができる。
【0006】
しかしながら、自動滴定装置において上記制御を用いる場合、検出部の出力信号の安定度合いを判断しながら滴定が進むため、滴定時間が長くかかることがある。そのため、操作者の滴定技術が熟練している場合、あるいは大まかな滴定量がわかっている場合などには、ガラスビュレットによる手分析の方が滴定時間が短い場合があり得る。
【0007】
これに対し、上記制御における滴定試薬の滴加量や滴加間隔を調整して、滴定時間の更なる短縮を図ることが考えられるが、滴定を速く進めようとすると終点を上手く検出できなくなることがある。また、自動滴定装置には、大まかな滴定量がわかっている場合などに、終点付近まで予め一定量の滴定試薬を一気に注入する機能(「予備注入」などと呼ばれる。)が設けられることがある。しかし、目的物質の量(濃度)に変動があるサンプルを測定する場合などには対応できない場合もあり、予備注入により終点を超えて滴定試薬を注入してしまうことがある。
【0008】
このように、手分析に近い操作と、正確な終点検出のための滴定の制御と、を組み合わせた動作を、簡単に行うことが可能な自動滴定装置が求められている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、滴定の精度を維持しつつ、手分析に近い操作で滴定時間の短縮を図ることが可能な自動滴定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は本発明に係る自動滴定装置にて達成される。要約すれば、本発明は、被検液に滴定試薬を滴加する滴加部の動作を制御する滴加制御部と、被検液の化学量又は物理量を検出して電気信号を出力する検出部の出力信号を取得する取得部と、前記滴加制御部による前記滴加部の動作の制御モードを設定するモード設定部と、前記取得部により取得された前記検出部の出力信号に基づいて終点を検出する処理を行う演算部と、を有し、前記滴加制御部は、前記制御モードとして、前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を略一定とする第1のモードと、前記取得部により取得された前記検出部の出力信号に応じて前記滴加部による単位時間あたりの前記滴定試薬の滴加量を制御する第2のモードと、で前記滴加部の動作を制御可能であり、前記モード設定部は、滴定の開始から滴定の終了までの間に、前記制御モードを前記第1のモードと前記第2のモードとの間で相互に切り替え可能であることを特徴とする自動滴定装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、滴定の精度を維持しつつ、手分析に近い操作で滴定時間の短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自動滴定装置の模式図である。
図2】自動滴定装置の滴定装置本体の概略ブロック図である。
図3(a)】実施例における時短滴定モードの動作手順を示すフローチャート図である。
図3(b)】実施例における時短滴定モードの動作手順を示すフローチャート図である。
図4】自動滴定装置の設定画面の模式図である。
図5】自動滴定装置の測定画面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る自動滴定装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0014】
[実施例1]
1.自動滴定装置の構成
まず、本発明に係る自動滴定装置の一実施例の構成について説明する。本実施例では、本発明に係る自動滴定装置を、pH複合電極を用いた硫酸の水酸化ナトリウムによる中和滴定(酸・塩基滴定)に適用するものとして説明する。
【0015】
図1は、本実施例の自動滴定装置100の構成を示す模式図である。自動滴定装置100は、大別して、滴定装置本体1と、滴定ビュレット2と、スターラー(マグネティックスターラー)7と、を有する。
【0016】
滴定装置本体1は、滴定ビュレット2の動作の制御、終点検出、濃度演算などを行う。滴定装置本体1については後述して更に説明する。
【0017】
滴加部としての滴定ビュレット2は、滴定装置本体1の制御により稼動し、被検液への滴定試薬の滴加を行う。滴定ビュレット2は、ピストン4の往復動による滴定試薬Tの吐出及び吸引のためのシリンジ3、流路の切り替えを行うための三方コック5などを有し、各部を連動させることで、滴定試薬容器6からシリンジ3への滴定試薬Tの吸引及びシリンジ3から滴定ノズル9への滴定試薬Tの吐出を行うことができるようになっている。つまり、滴定ビュレット2は、シリンジ3と、シリンジ3に嵌合されたピストン4と、ピストン4に連結された駆動部21と、を有する。ピストン4は、駆動部21によりシリンジ3内を図中上下に往復動可能とされている。駆動部21は、滴定装置本体1にビュレット接続ケーブル12により接続され、滴定装置本体1からの信号により駆動が制御される。シリンジ3は、滴定試薬Tを収容した滴定試薬容器6に、第1の導入管13、三方コック5の第1の弁51、第2の弁52、及び第2の導入管14を介して接続されている。したがって、駆動部21によりピストン4を駆動することにより、滴定試薬容器6内の滴定試薬Tは、第1の導入管13、三方コック5の第1の弁51、第2の弁52、及び第2の導入管14を介してシリンジ3内へと導入される。また、三方コック5の第3の弁53は、第3の導入管15を介して、後述する被検液容器11内に挿入された滴定ノズル9に接続されている。三方コック5、滴定試薬容器6、滴定ノズル9なども滴定ビュレット2を構成する。
【0018】
スターラー7は、被検液Sを収容する被検液容器11が配置される。被検液容器11内には、撹拌子8が配置され、この撹拌子8はスターラー7により回転可能とされている。スターラー7は、撹拌子8を回転させて、被検液容器11内の被検液Sと滴定試薬Tとの撹拌を行う。また、被検液容器11内には、被検液の化学量又は物理量を検出して電気信号を出力する検出部としてのpH複合電極10が挿入されている。pH複合電極10は、pH電極(本実施例ではpHガラス電極)とされる測定電極と比較電極とを有し、被検液SのpHを比較電極に対する測定電極の電位(測定電極と比較電極との間の電位差)として出力する。pH複合電極10は、電極接続ケーブル16(測定電極用のリード線及び比較電極用のリード線を含む。)により滴定装置本体1に接続されている。
【0019】
図2は、本実施例における滴定装置本体1の概略ブロック図である。滴定装置本体1は、制御部101、取得部102、記憶部103、表示部104、操作部105などを有する。
【0020】
制御部101は、演算処理手段、記憶手段、入出力手段などを備えたマイクロコンピュータで構成され、内蔵する記憶手段や上記記憶部103に記憶されたプログラムやデータ(各種の滴定パラメータ、各種の閾値など)に基づいて処理を実行し各種の機能を実現する。本実施例では、制御部101は、滴加制御部111、モード設定部112、演算部113などの機能ブロックを有して構成される。滴加制御部111は、被検液に滴定試薬を滴加する滴定ビュレット2の動作を制御する。モード設定部112は、滴加制御部111による滴定ビュレット2の動作の制御モードを設定する。演算部113は、取得部102により取得されたpH複合電極10の出力信号に基づいて終点検出や濃度演算などの処理を行う。
【0021】
また、取得部102は、pH複合電極10の出力信号を増幅するアンプ121、増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器122などを有して構成され、pH複合電極10の出力信号を取得する。
【0022】
また、記憶部103は、電子的なメモリなどで構成され、制御部101の処理に必要なプログラムやデータ(各種の滴定パラメータ、各種の閾値など)、取得部102により取得された出力信号又は該出力信号に基づいて制御部101により得られた値(pH値など)、滴定結果(滴定量、濃度など)などを記憶する。
【0023】
また、表示部104は、制御部101の制御のもと、取得部102により取得された出力信号又は該出力信号に基づいて制御部101により得られた値(pH値など)、滴定結果(滴定量、濃度など)などを表示して操作者(作業者)に報知する。表示部104は、情報を出力可能な出力部を構成する。
【0024】
また、操作部105は、入力手段としてのキー(あるいはボタンやスイッチ)などを有する。また、操作部105は、操作者による操作に応じて、制御部101に対して、滴定方法(滴定モード)の入力(作成、選択)、滴定パラメータの入力(変更、選択)、滴定の開始・終了の指示の入力などを行う。
【0025】
なお、表示部104、操作部105は、これらの機能の一部又は全てを実現するタッチパネルを有して構成されていてもよい。また、滴定装置本体1には、情報を出力可能な出力部として、プリンタ106や、滴定装置本体1をパーソナルコンピュータなどの外部機器と直接又はネットワークを介して接続するためのインターフェイス部107などが設けられていてよい。インターフェイス部107を介して外部機器に送られた情報は、外部機器の表示手段による表示や外部機器の演算処理手段による処理に供される。
【0026】
本実施例の自動滴定装置100を使用して滴定を行う場合、滴定試薬容器6に滴定試薬T(本実施例では0.1N水酸化ナトリウム水溶液)を入れ、三方コック5を切り替えて第1、第2の弁51、52を開とし、滴定試薬容器6とシリンジ3とを第1、第2の導入管13、14により接続する。そして、駆動部21によりピストン4を図中下方へと動かして、滴定試薬Tをシリンジ3内に導入する。その後、三方コック5を切り替えて、第2、第3の弁52、53を開とし、シリンジ3と滴定ノズル9とを第2、第3の導入管14、15を介して接続する。そして、駆動部21によりピストン4を図中上方へと動かして、シリンジ3、第2、第3の導入管14、15及び滴定ノズル9を滴定試薬Tで満たす。次に、スターラー7に被検液容器11を置き、被検液容器11内に撹拌子8を配置する。そして、被検液容器11に被検液S(本実施例では約1Nの硫酸(硫酸水溶液))をホールピペットなどにより所定量(本実施例では1mL)正確に測り入れ、純水(イオン交換水)を所定量(本実施例では約100mL)加える。そして、被検液容器11内に配置した撹拌子8をスターラー7により回転させ、被検液Sと純水とを十分に撹拌する。この状態で、操作者による操作部105における操作に応じて滴定が開始される。スターラー7は滴定の間は常に回転させておく。
【0027】
2.制御モード
次に、本実施例における滴定装置本体1(滴加制御部111)による滴定ビュレット2の動作の制御モードについて説明する。
【0028】
前述のように、自動滴定装置においては、検出部の出力信号に応じて単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御することが行われている。つまり、滴定試薬を滴加した際の検出部の出力信号の変化が小さい場合には滴定試薬の滴加を多く・速く行い、検出部の出力信号の変化が大きい場合(終点付近)には滴定試薬の滴加を少なく・ゆっくり行う。本実施例では、このような滴定装置本体1(滴加制御部111)による滴定ビュレット2の動作の制御モードを、「通常滴定モード」という。
【0029】
ここで、「通常滴定モード」における滴定試薬の滴加量及び滴加速度に関する主な滴定パラメータである「待ち時間(s)」、「待ち感度(mV)」、「注入量制御点(mV)」について説明する。「待ち時間(s)」は、前の滴加終了から次の滴加開始までの時間間隔(あるいは、次に滴定試薬を滴加した後に検出部の出力信号を取得するまでの時間)である。「待ち感度(mV)」は、滴定の進行に伴う、検出部の出力信号(本実施例ではpH複合電極10の比較電極に対する測定電極の電位。以下、単に「電位」ともいう。)の安定度合いを判断するための、電位の範囲である。滴加終了時の電位と「待ち時間(s)」経過後の電位との差が、「待ち感度(mV)」の設定値より小さければ、電位が安定していると判断して、次の滴加に移行する。一方、設定値以上であれば、電位が不安定と判断し、次の滴加への移行を延長して、予め設定された時間(本実施例では0.5秒)毎に設定値を下回るまで繰り返し判断し続ける。つまり、滴定試薬の滴加直後の電位と、「待ち時間(s)」経過後の電位との差が、「待ち感度(mV)」未満であれば次の滴加に移行する。「注入量制御点(mV)」は、滴定の進行に伴う、滴定ビュレット2からの滴加量を制御するための、電位の閾値である。前回の滴加時と今回の滴加時の電位の変化が、「注入量制御点(mV)」の設定値より小さい場合は、次回の滴加量を増やす。一方、設定値以上の場合は、次回の滴加量を減らす。
【0030】
このように、「通常滴定モード」では、電位に応じて、滴定試薬の滴加量や滴加間隔をフィードバック制御して、単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御する。この制御によれば、終点検出の精度向上を図りつつ、滴定時間の短縮を図ることができる。
【0031】
しかしながら、前述のように、「通常滴定モード」では、電位の安定度合いを判断しながら滴定が進むため、滴定時間が長くかかることがある。そのため、操作者の滴定技術が熟練している場合、あるいは大まかな滴定量がわかっている場合などには、ガラスビュレットによる手分析の方が、滴定時間が短い場合があり得る。これに対し、上述のような「通常滴定モード」の滴定パラメータを調整して、滴定時間の更なる短縮を図ることが考えられるが、滴定を速く進めようとすると終点を上手く検出できなくなることがある。また、前述のように、大まかな滴定量がわかっている場合などに、終点付近まで予め一定量の滴定試薬を一気に注入する「予備注入」が行われることがある。しかし、従来、予備注入中は、電位の測定、記録は行われず、終点の検出は行われないため、予備注入のままであると終点の検出ができない。また、従来、予備注入中に、任意に予備注入を停止して「通常滴定モード」へ移行することはできない。そのため、目的物質の量(濃度)に変動あるサンプルを測定する場合などには対応できない場合があり、予備注入により終点を超えて滴定試薬を注入してしまうことがある。
【0032】
そこで、本実施例では、自動滴定装置100は、滴加制御部111が、滴定ビュレット2の動作の制御モードとして、滴定ビュレット2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を略一定とする第1のモード(「定速滴加モード」)と、電位に応じて滴定ビュレット2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御する第2のモード(「通常滴定モード」)と、で滴定ビュレット2の動作を制御可能である構成とされる。また、本実施例では、自動滴定装置100は、モード設定部112が、滴定の開始から滴定の終了までの間に、滴加制御部111による滴定ビュレット2の動作の制御モードを、第1のモード(「定速滴加モード」)と第2のモード(「通常滴定モード」)との間で相互に切り替え可能である構成とされる。
【0033】
つまり、本実施例では、自動滴定装置100は、「定速滴加モード(無制御滴定)」と「通常滴定モード」とを相互に切り替えることができる時短滴定モードでの動作が可能とされている。「定速滴加モード」では、電位の安定度による滴定試薬の滴加量や滴加間隔の制御は行わない。そして、「定速滴加モード」では、予め設定された量(定速滴加量(Fix.I.))の滴定試薬を予め設定された時間間隔(定速滴加間隔)で滴加する。本実施例では、定速滴加間隔は0.5秒である。また、本実施例では、滴定中(滴定の開始から滴定の終了までの間)に、「定速滴加モード」と「通常滴定モード」とを何回でも切り替え可能とされている。また、本実施例では、「定速滴加モード」中も終点検出が可能とされている。
【0034】
本実施例における時短滴定モードの動作の概略は次のとおりである。時短滴定モードでの滴定は、「定速滴加モード」で開始される。「定速滴加モード」時の滴定量は積算される。そして、「定速滴加モード」の途中で、次の(1)~(3)のいずれかの操作(又は処理)により「定速滴加モード」から「通常滴定モード」への切り替えが行われる。(1)操作者の判断による任意のタイミングで操作者が操作部105においてキー操作することにより行われる。(2)予め設定された任意の終点接近条件(電位、微分値(滴定試薬滴加毎の電位変化量)、滴定量などの滴定状態を示す指標値の閾値)に到達するとそのことを示す情報(警報)が表示部104に表示され、それに応じて操作者が操作部105においてキー操作することにより行われる。(3)予め設定された任意の終点接近条件(電位、微分値(滴定試薬滴加毎の電位変化量)、滴定量などの滴定状態を示す指標値の閾値)に到達すると自動で行われる。また、「通常滴定モード」の途中で、操作者が操作部105においてキー操作することにより、「通常滴定モード」から「定速滴加モード」への切り替えが行われる。本実施例では、上記「定速滴加モード」から「通常滴定モード」への切り替え、「通常滴定モード」から「定速滴加モード」への切り替えは、滴定が終了するまで何度でも繰り返すことができる。
【0035】
なお、本実施例では、「定速滴加モード」、「通常滴定モード」のいずれにおいても、電位の測定、記録が行われ、表示部104においてリアルタイムで電位又は電位に基づく値(pH値など)が表示される。また、本実施例では、終点時に「通常滴定モード」又は「定速滴加モード」のどちらのモードであっても、終点の検出が行われる。本実施例では、終点の検出は、電位変化の1次微分の極大値を算出することで行われる。
【0036】
ここで、本実施例では、「通常滴定モード」では、終点検出の精度を上げるために、滴定試薬の滴加量や滴加間隔の制御が行われているので、「通常滴定モード」で終点を迎えるのが望ましい。ただし、「定速滴加モード」のまま終点を迎えても、「通常滴定モード」よりも終点検出の精度が低い可能性はあるが、要求される精度などによっては十分の精度で終点を検出することができる。
【0037】
このような時短滴定モードによれば、手分析に近い感覚での滴定が可能である。そして、「定速滴加モード」では電位の変化や安定度によらず滴定が進行するため、「通常滴定モード」での滴定に適度に「定速滴加モード」での滴定を組み合わせることで、滴定時間が短縮される。また、このような時短滴定モードによれば、目的物質の量(濃度)に変動のあるサンプル(試料)にも柔軟に対応できる。以下、更に詳しく説明する。
【0038】
3.時短滴定モードの動作手順
次に、本実施例における時短滴定モードの動作手順について説明する。図3(a)、(b)は、本実施例における時短滴定モードの動作手順の概略を示すフローチャート図である。図3(a)、(b)では、時短滴定モードの動作手順は、便宜上、分割して示されており、特に図3(a)には時短滴定モードを構成する「定速滴加モード」の動作手順が示され、図3(b)には時短滴定モードを構成する「通常滴定モード」の動作手順が示されている。ここでは、自動滴定装置100は、前述の操作により、操作部105における操作者による操作に応じて滴定を開始することが可能な状態になっているものとする。
【0039】
制御部101は、時短滴定モードでの滴定が開始されて、予め設定された測定前待ち時間が経過したら、予め設定された待ち時間(Int.T.)に達するまで、予め設定された時間間隔である0.5秒間隔で電位(E、E、E、・・・Eintt)の測定を行わせる(S101、S102)。そして、制御部101は、待ち時間(Int.T.)に到達したら、待ち時間(Int.T.)の間に電位の変動幅(絶対値)、すなわち、待ち時間当たりの電位の変化量|Eintt-E|が予め設定された待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断する(S103)。制御部101は、S103で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回っていない(「NO」)と判断した場合は、延長時間(E)を予め設定された時間である0.5秒に設定し(S104)、延長時間(E)経過後に取得した電位(EET)に基づいて、電位の変動幅(絶対値)、すなわち、|EET-EのE秒後の電位|が待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断する(S105)。制御部101は、S105で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回っていない(「NO」)と判断した場合は、延長時間(E)を予め設定された時間である0.5秒だけ増やして(S106)、延長時間(E)経過後に取得した電位(EET)に基づいて、上記同様電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断することを繰り返す(S105)。制御部101は、S105で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回った(「YES」)と判断した場合は、最後に取得した電位(EET)などを記憶部103に保存する(S107)。一方、制御部101は、S103で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回った(「YES」)と判断した場合は、待ち時間の延長を行わずに待ち時間経過後の電位(Eintt)などを記憶部103に保存する(S107)。この電位が、被検液の電気的な量に応じたpH複合電極の出力信号である電位の初期値(初期電位)となる。また、S107において、制御部101は、上記保存した電位又は上記保存した電位に基づく値(pH値など)を表示部104に表示させる。S101~S107の処理では、各制御モードでの滴定に入る前に、最初に被検液の電気的な量に応じた初期電位を取得するために、電位の安定度合いを判断している。制御部101は、初期電位を保存した後に、制御モードの判定に移行し、判定した制御モードでの滴定に入る。
【0040】
次に、制御部101は、現在の制御モードの設定の判定を行う(S108)。具体的には、制御部101は、現在の制御モードの設定が「定速滴加モード」であるか否かの判定を行う。制御部101(モード設定部112)は、S108で「定速滴加モード」である(「YES」)と判定した場合は、「定速滴加モード」に移行するようにS109の処理に進み、「通常滴定モード」である(「NO」)と判定した場合は、「通常滴定モード」に移行するようにS117の処理に進む。時短滴定モードでは、滴定中に任意のタイミングで、操作者による操作部105におけるキー操作により「定速滴加モード」と「通常滴定モード」との切り替えが可能である。そのため、滴定試薬の滴加を行う前に毎回、上述のようにして現在の制御モードの設定を判定し、設定されている制御モードに移行するようになっている(S108、S115、S126)。
【0041】
時短滴定モードでの滴定は「定速滴加モード」で開始されるため、S108で最初は「定速滴加モード」である(「YES」)と判定される。そして、制御部101(滴加制御部111)は、滴定ビュレット2により予め設定された定速滴加量(Fix.I.)の滴定試薬を被検液に滴加する(S109)。以降、制御部101は、滴定ビュレット2による滴定試薬の滴加を行う毎に滴加量を記憶部103に積算して記憶させていく。これにより、後述のようにして検出される終点までの滴定量が求められる。制御部101は、滴定試薬の滴加の0.5秒後の電位(E)を取得し(S110)、取得した電位など(電位、滴定量、微分値など)を記憶部103に保存する(S111)。また、S111において、制御部101は、今回保存した電位又は今回保存した電位に基づく値(pH値など)を表示部104に表示させる。次に、制御部101は、予め設定された終点接近条件を満たすか否かの判定(終点接近フラグ判定)を行う(S112)。具体的には、制御部101は、電位、微分値、滴定量などの滴定状態を示す指標値の少なくとも一つが、それに対応して予め設定された閾値に到達したか否かの判定を行う。制御部101は、S112で終点接近条件を満たす(「YES」)と判定した場合は、表示部104にそのことを示す情報(「定速滴加モード」から「通常滴定モード」へと切り替えることを操作者に促す情報)である終点接近フラグ(警報)を表示させて(S113)、S114の処理に進む。制御部101は、S112で終点接近条件を満たさない(「NO」)と判定した場合は、終点接近フラグの表示を行わずにS114の処理に進む。そして、制御部101は、滴定の終点の判断を行う(S114)。終点の判断の方法は特に制限されるものではなく、例えば利用可能な公知の方法を適宜用いることができる。詳しい説明は省略するが、本実施例では、制御部101(演算部113)は、電位変化の1次微分の極大値を検出することに基づいて終点の判断を行う。制御部101は、S114で終点と判断した場合は、滴定を終了する。一方、制御部101は、S114で終点ではないと判断した場合は、現在の制御モードの設定の判定を行う(S115)。制御部101(モード設定部112)は、S115で「定速滴加モード」である(「YES」)と判定した場合は、「定速滴加モード」を継続するようにS116の処理に進み、「通常滴定モード」である(「NO」)と判定した場合は、「通常滴定モード」に移行するようにS117の処理に進む。
【0042】
制御部101(滴加制御部111)は、S115で「定速滴加モード」である(「YES」)と判定した場合、前回の滴定試薬の滴加から予め設定された定速滴加間隔である0.5秒経過したか確認し(S116)、経過したらS109の処理に戻り、滴定ビュレット2により予め設定された定速滴加量(Fix.I.)の滴定試薬を被検液に滴加する(S109)。その後、上記同様にS109~S116の処理が繰り返され、電位の測定、記憶、表示などが行われる。
【0043】
制御部101(モード設定部112)は、S108又はS115で「通常滴定モード」である(「NO」)と判定した場合は、「通常滴定モード」に移行するようにS117の処理に進む。そして、制御部101(滴加制御部111)は、滴定ビュレット2により予め設定された最小滴加量(Min.I.)の滴定試薬を被検液に滴加する(S117)。最小滴加量(Min.I.)は、滴定の進行に伴う、1回の滴加量の下限量である。制御部101は、滴定試薬の滴加から予め設定された待ち時間(Int.T.)に達するまで、予め設定された時間間隔である0.5秒間隔で電位(E、E、E、・・・Eintt)の測定を行わせる(S118、S119)。そして、制御部101は、待ち時間(Int.T.)に到達したら、待ち時間(Int.T.)の間に電位の変動幅(絶対値)、すなわち、待ち時間当たりの電位の変化量|Eintt-E|が予め設定された待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断する(S120)。制御部101は、S120で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回っていない(「NO」)と判断した場合は、延長時間(E)を予め設定された時間である0.5秒に設定し(S121)、延長時間(E)経過後に取得した電位(EET)に基づいて、電位の変動幅(絶対値)、すなわち、|EET-EのE秒後の電位|が待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断する(S122)。制御部101は、S122で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回っていない(「NO」)と判断した場合は、延長時間(E)を予め設定された時間である0.5秒だけ増やして(S123)、延長時間(E)経過後に取得した電位(EET)に基づいて、上記同様電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回ったか否かを判断することを繰り返す(S122)。制御部101は、S122で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回った(「YES」)と判断した場合は、最後に取得した電位(EET)などを記憶部103に保存する(S124)。一方、制御部101は、S120で電位の変動幅(絶対値)が待ち感度(Int.S.)を下回った(「YES」)と判断した場合は、待ち時間の延長を行わずに待ち時間経過後の電位(Eintt)などを記憶部103に保存する(S124)。また、S124において、制御部101は、今回保存した電位又は今回保存した電位に基づく値(pH値など)を表示部104に表示させる。
【0044】
その後、制御部101は、滴定の終点の判断を行う(S125)。終点の判断の方法は上述のとおりである。制御部101は、S125で終点と判断した場合は、滴定を終了する。一方、制御部101は、S125で終点ではないと判断した場合は、現在の制御モードの設定の判定を行う(S126)。制御部101(モード設定部112)は、S126で「定速滴加モード」である(「YES」)と判定した場合は、「定速滴加モード」に戻るようにS116の処理に戻り、「通常滴定モード」である(「NO」)と判定した場合は、「通常滴定モード」を継続するようにS127の処理に進む。
【0045】
制御部101(滴加制御部111)は、S126で「通常滴定モード」である(「NO」)と判定した場合、今回保存した電位と前回保存した電位との差分(絶対値)が予め設定された注入量制御点(Del.C.)を超えたか否かを判断する(S127)。制御部101(滴加制御部111)は、S127で超えた(「YES」)と判断した場合は、滴定ビュレット2により、前回の滴加量よりも予め設定された1段階分だけ少ない量の滴定試薬を被検液に滴加し(S128)、S118の処理に戻る。なお、S128において、滴加量が最小滴加量(Min.I.)に達している場合は、最小滴加量(Min.I.)の滴定試薬が被検液に滴加される。一方、制御部101(滴加制御部111)は、S127で超えていない(「NO」)と判断した場合は、滴定ビュレット2により、前回の滴加量よりも予め設定された1段階分だけ多い量の滴定試薬を被検液に滴加し(S129)、S118の処理に戻る。なお、S129において、滴加量が最大滴加量(Max.I.)に達している場合は、最大滴加量(Max.I.)の滴定試薬が被検液に滴加される。最大滴加量(Max.I.)は、滴定の進行に伴う、1回の滴加量の上限量である。
【0046】
なお、S115で「通常滴定モード」に移行した場合、その後の処理における図示の電位Eは、「定速滴加モード」で最後に保存された電位とされる。また、S128又はS129からS118に戻って滴定試薬の滴加を行った場合、その後の処理における図示の電位Eは、その滴加の前に最後に保存された電位とされる。
【0047】
また、上述の手順における「定速滴加モード」の滴定パラメータ(定速滴加量、定速滴加間隔など)、「通常滴定モード」の滴定パラメータ(待ち時間、待ち感度、滴定量の1段階の変更量、延長時間、最小滴加量、最大滴加量など)は、後述する設定画面などを介して変更可能とされていてよい。
【0048】
また、上述の手順では、終点接近条件を満たした場合に終点接近フラグを表示するものとしたが、これに代えて又は加えて、終点接近条件を満たした場合に自動で「定量滴加モード」から「通常滴定モード」に切り替えるようになっていてもよい。また、これら終点接近フラグの表示や自動切り替えの手順が設けられていなくてもよい。
【0049】
4.設定画面及び測定画面
次に、本実施例における滴定モードの設定方法、及び時短滴定モード時の制御モードの切り替え方法について更に説明する。図4(a)、(b)は、本実施例における滴定モードの設定方法を説明するための、表示部104に表示される設定画面141の一例の模式図である。また、図5は、本実施例における時短滴定モード時の制御モード(「定速滴加モード」、「通常滴定モード」)の切り替え方法を説明するための、表示部104に表示される測定画面143の一例の模式図である。なお、図示の設定画面141や測定画面143の例では、前述の「定速滴加モード」は、「セミオート機能(あるいはSemi-Auto)」と表現されている。
【0050】
本実施例では、滴定装置本体1は、表示部104の前方に操作部105を有しており、操作部105には、テンキー、ファンクションキー、カーソルキー、エンターキーなどのキー(あるいはボタンやスイッチ)が設けられている。操作者は、表示部104を見ながら操作部105のキーを操作することで、所望のメニューの呼び出しや情報の入力、確定など行うことができる。
【0051】
図4(a)は、本実施例における滴定モードの設定画面141を構成する滴定モード選択画面141aの一例を示している。図4(b)は、本実施例における滴定モードの設定画面141を構成する滴定条件編集画面141bの一例を示している。本実施例では、自動滴定装置100は、その自動滴定装置100の提供者により用意された種々の滴定に対応する複数のデフォルトの滴定モード、あるいはユーザーにより任意に入力された特定の滴定に対応する単数又は複数の滴定モードを記憶部103に記憶することができる。図4(a)に示すような滴定モード選択画面141aにおいて、操作部105におけるキー操作によりいずれかの滴定モード(モードNo.)を選択すると、その滴定モードの滴定条件を設定するための図4(b)に示すような滴定条件編集画面141bが呼び出される。本実施例では、滴定条件編集画面141bで設定可能な滴定条件の1つとして、「定速滴加モード」のON/OFFの設定142が設けられている。滴定条件編集画面141bで「定速滴加モード(セミオート機能)」をONとすると、前述の時短滴定モードでの滴定が可能になる。また、本実施例では、滴定条件編集画面141bで「定速滴加モード(セミオート機能)」をONにすると、「定速滴加モード(セミオート機能)」に関連する滴定パラメータ(定速滴加量、終点接近フラグ(終点接近条件))の設定が可能になる。なお、滴定条件編集画面141bで「定速滴加モード(セミオート機能)」をOFFとすると、滴定の開始から終了まで「通常滴定モード」で滴定を行うことになる。
【0052】
図5は、時短滴定モード(セミオート機能ON)での滴定中の測定画面143の一例を示している。測定画面143の滴定表示部144には、取得された電位又は取得された電位に基づく値(pH値など)がリアルタイムで表示される。図示の例では、滴定表示部144には、滴定量とpH値との関係を示すグラフが逐次更新されて表示されるようになっている。前述のように、時短滴定モードでは、最初は「定速滴加モード」で滴定が開始される。そして、「定速滴加モード」での滴定の実行中は、そのことを示す情報として「Semi-Auto」のアイコン145が、測定画面143に表示される。また、本実施例では、予め設定された終点接近条件を満たすとそのことを示す情報として終点接近フラグのアイコン146が、測定画面143に表示される。また、測定画面143には、操作部105の所定のキー(本実施例では複数のファンクションキーのうちの一つであるF1キー)に対応する位置(例えば、該キーの正面あるいは真上にあたる位置)に、切り替え表示部147が設けられている。切り替え表示部147は、「定速滴加モード」での滴定の実行中は「通常滴定モード」への切り替え機能であることを示すように「通常滴定」と表示され、「通常滴定モード(セミオート機能)」での滴定の実行中は「定速滴加モード」への切り替え機能であることを示すように「セミオート」と表示される。そして、操作者は、例えば終点接近フラグの表示に応じるなどして、任意のタイミングでF1キーを操作することで、「定速滴加モード(セミオート機能)」から「通常滴定モード」に移行することができ、また「通常滴定モード」から「定速滴加モード(セミオート機能)」に戻ることができる。なお、測定画面143のガイド表示部148に、「定速滴加モード(セミオート機能)」と「通常滴定モード」との切り替えはF1キーで行うことを示すガイドを表示してもよい。
【0053】
5.測定例
表1は、本実施例と比較例とで終点までの滴定量及び滴定時間を比較した結果の一例を示す。本実施例では、前述の中和滴定を前述の時短滴定モードで行った。「定速滴加モード」から「通常滴定モード」への切り替えは滴定量が9mLの時点で行った。一方、比較例では、本実施例の自動滴定装置100を使用して前述の中和滴定を「通常滴定モード」のみで行った。表1の結果は、本実施例及び比較例のそれぞれについて5回の滴定を行った際の平均値を示している。なお、C.V.値(%)とは、測定値に対する繰り返し性を意味し、次式、C.V.値(%)=(標準偏差)÷(滴定試薬滴加量平均(mL))×100により求められる。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す結果から、本実施例と比較例とで、終点までの滴加量の平均値はほぼ一致し、C.V.値も共に0.25%以下であり、終点検出が共に繰り返し性良く正確に行われていることがわかる。一方、滴定時間は、本実施例において比較例よりも大幅に短縮できていることがわかる。
【0056】
以上のように、本実施例では、時短滴定モードにより、手分析に近い感覚での滴定が可能である。そして、「定速滴加モード」では電位の変化や安定度によらず滴定が進行するため、「通常滴定モード」での滴定に適度に「定速滴加モード」での滴定を組み合わせることで、滴定時間が短縮される。つまり、本実施例では、時短滴定モードにおいて、「定速滴加モード」と「通常滴定モード」とを任意のタイミングで任意の回数切り替えることができる。そのため、例えば、操作者の判断により「定速滴加モード」から「通常滴定モード」に切り替えた後、未だ終点に接近していないと判断して「通常滴定モード」から「定速滴定モード」に戻して滴定時間の短縮を図ることなどが可能である。また、本実施例では、終点が1つの中和滴定を例としているが、終点が複数ある滴定もある。例えば、硫酸・マンガンの水酸化ナトリウムによる中和滴定(終点が2つ)、硫酸銅めっき液の水酸化ナトリウムによる中和滴定(終点が2つ)などを例に挙げることができる。このような滴定を時短滴定モードで行う場合、1段目の終点が接近した際に「定速滴加モード」から「通常滴定モード」に切り替え、1段目の終点を「通常滴定モード」でより正確に検出することができる。その後、「通常滴定モード」から「定速滴加モード」に戻して滴定時間の短縮を図り、2段目の終点が接近した際に「定速滴加モード」から「通常滴定モード」に切り替え、2段目の終点を「通常滴定モード」でより正確に検出することができる。また、本実施例では、時短滴定モードにより、目的物質の量(濃度)に変動のあるサンプル(試料)についても柔軟に対応して、終点検出の精度を維持しつつ滴定時間の短縮を図ることができる。
【0057】
このように、本実施例では、自動滴定装置100は、被検液Sに滴定試薬を滴加する滴加部2の動作を制御する滴加制御部111と、被検液Sの化学量又は物理量を検出して電気信号を出力する検出部10の出力信号を取得する取得部102と、滴加制御部111による滴加部2の動作の制御モードを設定するモード設定部112と、取得部102により取得された検出部10の出力信号に基づいて終点を検出する処理を行う演算部113と、を有する。本実施例では、滴加制御部111は、制御モードとして、滴加部2による単位時間(例えば0.5秒間隔)あたりの滴定試薬の滴加量を略一定とする第1のモード(「定速滴加モード」)と、取得部102により取得された検出部10の出力信号に応じて滴加部2による単位時間あたり(例えば0.5秒間隔)の滴定試薬の滴加量を制御する第2のモード(「通常滴定モード」)と、で滴加部2の動作を制御可能である。そして、本実施例では、モード設定部112は、滴定の開始から滴定の終了までの間に、制御モードを第1のモードと第2のモードとの間で相互に切り替え可能である。本実施例では、自動滴定装置100は、操作者の操作に応じてモード設定部112に指示を入力可能な操作部105を有し、モード設定部112は、操作者の操作に応じて操作部105から入力された指示に応じて、制御モードを、第1のモードから第2のモードへと切り替え可能であると共に、第2のモードから第1のモードへと切り替え可能である。また、本実施例では、モード設定部112は、滴加制御部111が第1のモードで滴加部2の動作を制御している際に、滴定試薬の滴加量、又は取得部102により取得された検出部10の出力信号若しくは該出力信号に基づく値が、所定の条件を満たした場合に、制御モードを第1のモードから第2のモードへと切り替え可能である。また、本実施例では、自動滴定装置100は、情報を出力可能な出力部(本実施例では表示部)104を有し、出力部104は、滴加制御部111が第1のモードで滴加部2の動作を制御している際に、滴定試薬の滴加量、又は取得部102により取得された検出部10の出力信号若しくは該出力信号に基づく値が、所定の条件を満たした場合に、制御モードを第1のモードから第2のモードへと切り替えることを操作者に促す情報を出力可能である。
【0058】
また、本実施例では、自動滴定装置100は、情報を出力可能な出力部104を有し、出力部104は、取得部102により取得された検出部10の出力信号又は該出力信号に基づく値をリアルタイムで操作者に報知する情報を出力可能である。また、本実施例では、演算部113は、滴加制御部111が第1のモードで滴加部2の動作を制御している際に終点を検出する処理を行うと共に、滴加制御部111が第2のモードで滴加部2の動作を制御している際に終点を検出する処理を行う。また、本実施例では、滴加制御部111は、第2のモードにおいて、滴定試薬を被検液Sに滴加した際に取得部102により取得される検出部10の出力信号の変化が第1の値の場合は、滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を第1の滴加量とし、滴定試薬を被検液Sに滴加した際に取得部102により取得される検出部10の出力信号の変化が上記第1の値よりも大きい第2の値の場合は、滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を上記第1の滴加量よりも少ない第2の滴加量とするように、滴加部2の動作を制御する。なお、滴加制御部111は、第2のモードにおいて、滴加部2により次に滴加する滴定試薬の量を制御することで、滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御することができる。また、滴加制御部111は、第2のモードにおいて、滴加部2による滴定試薬の前の滴加終了から次の滴加開始までの時間間隔を制御することで、滴加部2による単位時間あたりの滴定試薬の滴加量を制御することができる。
【0059】
本実施例の自動滴定装置100によれば、手分析に近い操作と、正確な終点検出のための滴定の制御と、を組み合わせた動作を、簡単に行うことが可能である。したがって、本実施例の自動滴定装置100によれば、滴定の精度を維持しつつ、手分析に近い操作で滴定時間の短縮を図ることが可能となる。
【0060】
[その他]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【0061】
滴定は、中和滴定、非水中和滴定、酸化還元滴定、沈殿滴定、キレート滴定、温度滴定などのあらゆる滴定であってよい。また、滴定に使用する検出部(センサ)は、pH電極、ORP電極、電導度電極、イオン電極、吸光度センサ、温度センサなどの滴定に使用できるあらゆる検出部(センサ)であってよい。また、被検液の化学量又は物理量は、液の電気的な量、呈色、温度などであってよい。また、自動滴定装置は、食品の酸度、塩分測定、メッキ液の濃度管理、石油の中和価測定などのあらゆる分野で用いられるものであってよい。
【0062】
また、上述の実施例において自動滴定装置の表示部で表示するものとした情報は、音声(警報音やメッセージ)の発生、光の発光(点灯や点滅)などにより操作者に報知してもよい。また、操作者に対する情報の報知は、自動滴定装置に接続された外部機器において行ってもよい。
【0063】
また、上述の実施例において自動滴定装置の操作部におけるキー操作で行うものとした操作者による情報の入力は、音声による入力などの他の入力手段で行ってもよい。また、操作者による情報の入力は、自動滴定装置に接続された外部機器において行ってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 滴定装置本体
2 滴定ビュレット(滴加部)
7 スターラー
10 pH複合電極(検出部)
100 自動滴定装置
101 制御部
102 取得部
111 滴加制御部
112 モード設定部
113 演算部
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5