(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018283
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/02 20060101AFI20240201BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20240201BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240201BHJP
B23Q 15/013 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B23F5/02
B23Q17/09 H
G05B19/404 K
B23Q15/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121510
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA08
3C001KB05
3C001KB07
3C001TA02
3C001TB07
3C029CC05
3C269AB06
3C269AB07
3C269BB03
3C269CC15
3C269EF10
3C269MN29
3C269RB09
(57)【要約】
【課題】工作物に対する砥石のサイクロイド軌跡によりインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行う加工方法において、所望のインボリュート形歯面を得ることができる歯車加工方法を提供する。
【解決手段】歯車加工方法は、測定用加工としての研磨加工または研削加工の最中に、インボリュート形歯面Wbの法線方向の加工抵抗R1を測定し、法線加工抵抗の目標値である目標加工抵抗Rtarと測定された法線加工抵抗R1との抵抗誤差ΔRに基づいて、実加工におけるサイクロイド軌跡Tr2を補正する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車形の工作物におけるインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行う歯車加工方法であって、
径方向外方に突出した1以上の砥石を備える回転工具を用い、前記工作物の回転軸線と前記回転工具の回転軸線とを平行に配置した状態で前記工作物と前記回転工具とを同期回転させることにより、前記工作物に対する前記砥石の運動軌跡をサイクロイド軌跡とし、前記工作物に対する前記砥石の前記サイクロイド軌跡により前記工作物における前記インボリュート形歯面の前記研磨加工または前記研削加工を行う加工方法であり、
測定用加工としての前記研磨加工または前記研削加工の最中に、前記インボリュート形歯面の法線方向の加工抵抗を測定し、
前記加工抵抗の目標値である目標加工抵抗と測定された前記加工抵抗との抵抗誤差に基づいて、実加工における前記サイクロイド軌跡を補正する、歯車加工方法。
【請求項2】
前記抵抗誤差に基づいて前記工作物と前記回転工具との相対的な加工初期位相を補正することによって、前記実加工における前記サイクロイド軌跡を補正する、請求項1に記載の歯車加工方法。
【請求項3】
前記抵抗誤差が大きいほど前記相対的な加工初期位相の補正量を大きくし、前記抵抗誤差が小さいほど前記相対的な加工初期位相の補正量を小さくする、請求項2に記載の歯車加工方法。
【請求項4】
前記相対的な加工初期位相の補正は、前記回転工具の加工初期位相を補正せずに、前記工作物の加工初期位相の補正により行う、請求項2または3に記載の歯車加工方法。
【請求項5】
前記相対的な加工初期位相の補正は、前記工作物の加工初期位相を補正せずに、前記回転工具の加工初期位相の補正により行う、請求項2または3に記載の歯車加工方法。
【請求項6】
前記相対的な加工初期位相の補正は、前記回転工具の加工初期位相の補正および前記工作物の加工初期位相補正により行う、請求項2または3に記載の歯車加工方法。
【請求項7】
前記目標加工抵抗と測定された前記加工抵抗との抵抗誤差は、前記目標加工抵抗と歯たけ方向中央における前記加工抵抗との抵抗誤差、または、前記目標加工抵抗と歯たけ方向全体における前記加工抵抗の平均値との抵抗誤差である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨加工または研削加工による歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ねじ状砥石による歯車研削を行うことが記載されている。また、ねじ状砥石により歯車ホーニングも知られている。また、特許文献2には、スカイビングカッタによる歯車加工を行うことが記載されている。
【0003】
特許文献3には、径方向外方に突出した1以上の砥石を備える回転工具を用い、工作物の回転軸線と回転工具の回転軸線とを平行に配置した状態で工作物と回転工具とを同期回転させることにより、工作物に対する砥石の運動軌跡をサイクロイド軌跡とし、工作物に対する砥石のサイクロイド軌跡により工作物におけるインボリュート形歯面の研削加工を行う加工方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-107359号公報
【特許文献2】特開2020-19096号公報
【特許文献3】特開2022-084107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載の加工方法にてインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行った場合に、インボリュート形歯面に形状誤差が生じることが分かった。例えば、理論上は、所望の研磨作用力または所望の研削取代となるようなサイクロイド軌跡により加工を行ったとしても、研磨作用力の大きさまたは研削取代の大きさに応じて、所望値とならないことがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、工作物に対する砥石のサイクロイド軌跡によりインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行う加工方法において、所望のインボリュート形歯面を得ることができる歯車加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、歯車形の工作物におけるインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行う歯車加工方法であって、
径方向外方に突出した1以上の砥石を備える回転工具を用い、前記工作物の回転軸線と前記回転工具の回転軸線とを平行に配置した状態で前記工作物と前記回転工具とを同期回転させることにより、前記工作物に対する前記砥石の運動軌跡をサイクロイド軌跡とし、前記工作物に対する前記砥石の前記サイクロイド軌跡により前記工作物における前記インボリュート形歯面の前記研磨加工または前記研削加工を行う加工方法であり、
測定用加工としての前記研磨加工または前記研削加工の最中に、前記インボリュート形歯面の法線方向の加工抵抗を測定し、
前記加工抵抗の目標値である目標加工抵抗と測定された前記加工抵抗との抵抗誤差に基づいて、実加工における前記サイクロイド軌跡を補正する、歯車加工方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様にかかる歯車加工方法によれば、測定用加工においてインボリュート形歯面の法線方向の加工抵抗を測定する。測定された加工抵抗は、加工抵抗の目標値である目標加工抵抗からずれる場合がある。そこで、目標加工抵抗と測定された加工抵抗との抵抗誤差が、所望のインボリュート形歯面の形状誤差に対応することを見出した。そこで、歯車加工方法において、目標加工抵抗と測定された加工抵抗との抵抗誤差に基づいて、実加工におけるサイクロイド軌跡を補正するようにした。その結果、所望のインボリュート形歯面を加工することができる。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、工作物に対する砥石のサイクロイド軌跡によりインボリュート形歯面の研磨加工または研削加工を行う加工方法において、所望のインボリュート形歯面を得ることができる歯車加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】工作物に対する回転工具の砥石の相対的な運動軌跡を示す図である。
【
図4】工作物に対する回転工具の砥石の刃先の相対的な運動軌跡を示す図である。
【
図5】回転工具の砥石が弾性変形している状態の図である。
【
図6】(a)は理論計算における弾性変形しない状態の回転工具の砥石の刃先のサイクロイド軌跡Tr0を示し、(b)は加工の経過時間における工作物のインボリュート形歯面の法線方向の加工抵抗R0(法線加工抵抗)を示す図である。
【
図7】(a)は第一例における加工の経過時間における法線加工抵抗の実測値R1を示し、(b)は(a)の場合における弾性変形しない状態の回転工具の砥石の刃先のサイクロイド軌跡Tr1を示す図である。
【
図8】(a)は第一例における弾性変形しない状態の回転工具の砥石の刃先の補正後のサイクロイド軌跡Tr2を示し、(b)は加工の経過時間における補正後の法線加工抵抗R2を示す図である。
【
図9】(a)は第二例における加工の経過時間における法線加工抵抗の実測値R1を示し、(b)は(a)の場合における弾性変形しない状態の回転工具の砥石の刃先のサイクロイド軌跡Tr1を示す図である。
【
図10】(a)は第二例における弾性変形しない状態の回転工具の砥石の刃先の補正後のサイクロイド軌跡Tr2を示し、(b)は加工の経過時間における補正後の法線加工抵抗R2を示す図である。
【
図11】歯車加工方法を示すフローチャートである。
【
図12】サイクロイド軌跡補正演算工程において用いる加工初期位相の補正値Δθと抵抗誤差ΔRとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
1.歯車加工装置1の構成
歯車加工装置1は、歯車加工方法を実行するための装置である。歯車加工装置1は、回転工具Tを用いて、歯車形の工作物Wにおけるインボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工を行う。歯車加工装置1は、回転工具Tと工作物Wとを相対的に移動させるための複数の構造体により構成される。歯車加工装置1は、例えば、公知のマシニングセンタの構成を適用する。
【0012】
歯車加工装置1の構成例について、
図1を参照して説明する。歯車加工装置1は、工具交換を可能なマシニングセンタを適用する。歯車加工装置1は、インボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工の他に、ギヤスカイビング加工やホブ加工等によって、工作物Wに歯形を切削加工することも可能である。なお、歯車加工装置1は、研磨加工または研削加工の専用機としても良い。
【0013】
本形態において、歯車加工装置1は、
図1に示すように、横形マシニングセンタの構成を適用する場合を例示するが、立形マシニングセンタなど、他の構成を適用することもできる。
図1に示すように、歯車加工装置1は、例えば、相互に直交する3つの直進駆動軸(X軸,Y軸,Z軸)を有する。ここで、回転工具Tの回転軸線Ctに平行な方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸およびY軸と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。
【0014】
さらに、歯車加工装置1は、工作物Wと回転工具Tとの相対姿勢を変更するための1つの回転駆動軸(B軸回りの回転駆動軸)を有する。本形態において、B軸は、Y軸方向に平行な軸線である。また、歯車加工装置1は、回転工具Tを回転するための回転駆動軸(Ct軸回りの回転駆動軸)、および、工作物Wを回転するための回転駆動軸(Cw軸回りの回転駆動軸)を有する。本形態においては、回転工具Tの回転軸線Ctは、Z軸方向に常に平行である。工作物Wの回転軸線Cwは、水平な軸線であって、B軸角度に応じてZ軸方向およびX軸方向に対して角度を取ることが可能となる。ただし、研磨加工または研削加工においては、工作物Wの回転軸線Cwは、回転工具Tの回転軸線Ctと平行な状態にて行われる。
【0015】
歯車加工装置1において、工作物Wと回転工具Tとを相対移動させる構成は、適宜選択可能である。例えば、歯車加工装置1は、B軸に代えて、X軸方向に平行な回転軸線であるA軸を有する構成としても良い。以下においては、歯車加工装置1は、回転工具TをY軸方向およびZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをB軸回りに回転可能とする場合を例に挙げる。
【0016】
歯車加工装置1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30とを備える。ベッド10は、設置面上に設置され、工作物保持装置20の形状および工具保持装置30の形状に応じた形状に形成される。本形態においては、ベッド10は、例えば、矩形状とする。ベッド10の上面には、X軸方向に延在する一対のX軸ガイドレール、および、Z軸方向に延在する一対のZ軸ガイドレールが形成されている。
【0017】
工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、B軸回りに回転可能とし、Cw軸回りに回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21、B軸回転テーブル22、工作物主軸装置23を主に備える。X軸移動テーブル21は、図示しないリニアモータまたはボールねじ機構によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレールに案内されながらX軸方向へ移動する。
【0018】
B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設けられ、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ移動する。また、B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21に対してB軸回りに回転可能に設けられる。B軸回転テーブル22には、図示しない回転モータおよび回転角度検出器が設けられ、B軸回転テーブル22は、回転モータを駆動することでB軸回りに回転可能となる。
【0019】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設けられ、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回りに回転する。工作物主軸装置23は、工作物Wを回転可能に保持する。工作物主軸装置23は、工作物主軸基台23a、工作物主軸ハウジング23b、および、工作物主軸23cを備える。工作物主軸基台23aは、B軸回転テーブル22の上面に固定されている。
【0020】
工作物主軸ハウジング23bは、工作物主軸基台23aに固定され、B軸中心線に直交するCw軸中心線を中心とする円筒内周面を有する。工作物主軸23cは、工作物主軸ハウジング23bに回転可能に支持される。工作物主軸23cには、工作物Wが着脱可能に保持される。つまり、工作物主軸23cは、工作物Wを工作物主軸ハウジング23bにCw軸回りに回転可能に保持し、工作物Wと一体的に回転する。
【0021】
工作物主軸ハウジング23bには、図示しない回転モータおよび回転角度検出器が設けられ、工作物主軸装置23は、回転モータの駆動により工作物WをCw軸回りに回転可能とする。このようにして、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、B軸回りに回転可能とし、Cw軸回りに回転可能とする。
【0022】
工具保持装置30は、コラム31、サドル32、工具主軸装置33を主に備える。コラム31は、図示しないリニアモータまたはボールねじ機構などの駆動装置によって駆動されることにより、ベッド10のZ軸ガイドレールに案内されながらZ軸方向へ移動する。コラム31の上下方向に延びる側面(
図1の左面)には、Y軸ガイドレールが形成されている。サドル32は、図示しないリニアモータまたはボールねじ機構などの駆動装置によって駆動されることにより、コラム31のY軸ガイドレールに案内されながらY軸方向へ移動する。
【0023】
工具主軸装置33は、サドル32に設けられると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、回転工具Tを保持する。工具主軸装置33には、図示しない回転モータおよび回転角度検出器が設けられ、工具主軸装置33は、回転モータの駆動により回転工具TをCt軸回りに回転可能とする。このようにして、工具保持装置30は、回転工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能とし、かつ、Ct軸回りに回転可能に保持する。
【0024】
工具主軸装置33は、工具主軸ハウジング33aと、工具主軸33bとを備える。工具主軸ハウジング33aがサドル32に固定され、工具主軸装置33の工具主軸33bが工具主軸ハウジング33aに回転可能に支持されている。工具主軸33bには、回転工具Tが着脱可能に保持される。つまり、工具主軸33bは、回転工具Tを工具主軸ハウジング33aにCt軸回りに回転可能に保持し、回転工具Tと一体的に回転する。
【0025】
2.工作物W
工作物Wについて、
図2を参照して説明する。加工対象の工作物Wは、外周面または内周面に凸歯が形成された歯車形(外歯車形または内歯車形)である。つまり、加工対象の工作物Wは、予め凸歯が形成されている。ここで、加工対象の工作物Wにおいて、それぞれの凸歯は、インボリュート形歯面Wbを有する。そして、工作物Wは、周方向に隣り合う凸歯の間、すなわち周方向に対向するインボリュート形歯面Wbの間に歯溝Waを有する。
【0026】
また、工作物Wの凸歯は、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に平行としても良いし、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に対して角度を有するようにしても良い。前者の工作物Wのインボリュート形歯面Wbは、平歯車の歯面となり、後者の工作物Wのインボリュート形歯面Wbは、はすば歯車の歯面となる。
【0027】
3.回転工具T
回転工具Tの構成について、
図2を参照して説明する。回転工具Tは、インボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工を行う工具である。研磨加工は、予め成形されたインボリュート形歯面Wbの凹凸を滑らかにする加工である。研削加工は、予め成形されたインボリュート形歯面Wbに対して僅かな除去加工を行う加工である。
【0028】
回転工具Tは、工具本体Taと、砥石Tbとを備える。工具本体Taは、例えば、円柱状に形成され、中心軸線が工具主軸33bのCt軸中心線に一致するように工具主軸33bに保持される。工具本体Taは、例えば、鋼材などにより形成される。
【0029】
砥石Tbは、工具本体Taの軸方向先端に設けられ、工具本体Taの径方向外方に突出するように設けられている。つまり、砥石Tbは、工具本体Taの軸方向から見た場合に、径方向に延在する長方形、または、先端側ほど幅狭となる台形などに形成される。本形態においては、砥石Tbは、工具本体Taの回転軸線に平行となるように、工具本体Taの軸方向に延在する板状に形成されている。また、砥石Tbは、板状の面法線方向(
図2の右)から見た場合に、長方形、または、先端側ほど幅狭となる台形などに形成されている。
【0030】
本形態においては、工作物Wの凸歯の歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に平行である場合を対象とし、砥石Tbは、工具本体Taの回転軸線に平行となるように、工具本体Taの軸方向に延在する板状に形成されている。ただし、工作物Wの凸歯の歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に対して角度を有する場合を対象とする場合には、砥石Tbも、工具本体Taの回転軸線に対して角度を有するように形成すれば良い。
【0031】
従って、砥石Tbは、回転工具Tの径方向外方の先端面Tb1と、回転工具Tの周方向を向く側面Tb2とを備える。そして、砥石Tbにおいて、工作物Wのインボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工を行う部位は、先端面Tb1と側面Tb2との稜線部分であって、この稜線部分Tb3が砥石Tbの刃先Tb3を構成する。
【0032】
工作物Wの回転軸線Cwと回転工具Tの回転軸線Ctとを平行に配置した状態で、工作物Wと回転工具Tとを同期回転させることによって、回転工具Tの砥石Tbにより、工作物Wのインボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工を行う。
【0033】
また、研磨加工を行うための砥石Tbは、弾性変形可能な弾性砥石が好適である。つまり、砥石Tbは、砥石Tbの刃先Tb3によってインボリュート形歯面Wbの研磨加工を行う際に、砥石Tbの刃先Tb3側が撓み変形する。また、研削加工を行うための砥石Tbは、弾性変形可能な弾性砥石としても良いし、弾性変形不能な砥石としても良い。
【0034】
なお、本形態においては、回転工具Tは、1つの砥石Tbを備える構成を例に挙げるが、複数の砥石Tbを備えるようにしても良い。複数の砥石Tbは、工具本体Taの外周面において周方向に断続的に設けられるようにしても良い。
【0035】
4.歯車加工動作
回転工具Tによる工作物Wのインボリュート形歯面Wbの加工方法について、
図2~
図5を参照して説明する。
図2に示すように、工作物Wの回転軸線Cwと回転工具Tの回転軸線Ctとを平行に配置する。この状態で、工作物Wと回転工具Tとを同期回転させる。
図2においては、工作物Wを左回りに回転させ、回転工具Tを右回りに回転させる。上記のような工作物Wと回転工具Tとの相対的な動作により、工作物Wに対する回転工具Tの砥石Tbの運動軌跡は、サイクロイド軌跡となる。工作物Wに対する砥石Tbのサイクロイド軌跡によって、インボリュート形歯面Wbの研磨加工または研削加工が行われる。
【0036】
ここで、
図3の二点鎖線は、
図2に示すように、工作物Wが左回りに回転し、回転工具Tが右回りに回転する場合において、工作物Wを固定したと仮定した場合の回転工具Tの砥石Tbの動作軌跡を示す。
【0037】
つまり、砥石Tbは、A1→A2→A3→A4→A5の順に移動する。回転工具Tは右回りに回転しているため、砥石Tbの姿勢は、A1からA5に行くに従って、砥石Tbの基端(
図3の上端)に対して、砥石Tbの刃先Tb3が右回りに移動するように変化する。そして、回転工具Tは、工作物Wの回転に同期して回転するため、回転工具Tの回転軸線Ctが、工作物Wに対して公転することになる。従って、砥石Tbの位置および姿勢が、
図3に示すように、工作物Wに対して変化する。
【0038】
図4において、太実線が、工作物Wに対して回転工具Tの砥石Tbの刃先Tb3の相対的な動作軌跡である。つまり、
図4に示すように、工作物Wの回転軸線Cwと回転工具Tの回転軸線Ctとを平行に配置した状態で、工作物Wと回転工具Tとを同期回転させることにより、工作物Wに対して回転工具Tの砥石Tbの刃先Tb3をサイクロイド軌跡に沿って移動させている。
【0039】
図3および
図4において、まず、A1→A2→A3に示すように、砥石Tbの刃先Tb3をサイクロイド軌跡に沿って移動させ、刃先Tb3をインボリュート形歯面Wbに非接触にて歯溝Waの内部空間に進入させる(歯溝進入工程)。
【0040】
このとき、砥石Tbは、砥石Tbの先端面Tb1を加工対象である歯溝Waの両側の歯面Wbのうちの一方のインボリュート形歯面Wbに向けるような姿勢にて、歯溝Waの内部空間に進入する。そして、歯溝Waの内部空間に進入した最終段階にて、砥石Tbは、加工対象である一方のインボリュート形歯面Wbの歯底付近にて接触する状態となる。このとき、砥石Tbの側面Tb2が、一方のインボリュート形歯面Wbの接触点における接線にほぼ等しい状態となる。
【0041】
続いて、A3→A4→A5に示すように、砥石Tbの刃先Tb3をサイクロイド軌跡に沿った移動を継続させながら、刃先Tb3を、歯溝Waにおけるインボリュート形歯面Wbの一方にて、インボリュート形歯面Wbの歯底側から歯先に向かって移動させる。つまり、インボリュート形歯面Wbの一方を、インボリュート形歯面Wbの歯底側から歯先に向かって研磨加工または研削加工する(歯面加工工程)。
【0042】
このとき、回転工具Tの砥石Tbの側面Tb2とインボリュート形歯面Wbとのなす角度を鋭角として、歯溝Waにおけるインボリュート形歯面Wbの一方を、インボリュート形歯面Wbの歯底側から歯先に向かって研磨加工または研削加工する。砥石Tbは弾性砥石である場合には、撓み変形することが可能である。そして、上記のように、砥石Tbの側面Tb2とインボリュート形歯面Wbとのなす角度を鋭角とすることで、砥石Tbが撓みやすい姿勢にできる。従って、
図5に示すように、砥石Tbの刃先Tb3が撓み変形しながら、インボリュート形歯面Wbの一方を研磨加工または研削加工することができる。そして、砥石Tbを板状としたとしても、弾性砥石により構成することで、砥石Tbの耐久性を確保することができる。
【0043】
ここで、インボリュート形歯面Wbは、インボリュート曲線であるのに対して、砥石Tbの刃先Tb3の軌跡は、サイクロイド曲線である。そのため、砥石Tbの刃先Tb3のサイクロイド軌跡のうち、インボリュート形歯面Wbに近似する部分を用いて、インボリュート形歯面Wbが研磨加工または研削加工される。このことは、工作物Wと回転工具Tの回転速度比、回転工具Tの砥石Tbの刃先直径、工作物Wと回転工具Tとの相対的な加工初期位相(回転位相調整量とも称する)を設定することにより、実現される。
【0044】
また、
図3~
図5には、1つの歯溝Waにおける一方のインボリュート形歯面Wbを研磨加工または研削加工する場合を示した。この動作を、全ての歯溝Waにて行うことにより、全ての歯溝Waにおける一方のインボリュート形歯面Wbを研磨加工または研削加工することができる。さらに、他方のインボリュート形歯面Wbについては、工作物Wと回転工具Tの回転方向を逆転させることにより、同様に研磨加工または研削加工することができる。
【0045】
なお、工作物Wに対する回転工具Tの加工初期位相(回転位相調整量)を、微小に増減することにより、砥石Tbによる研磨加工または研削加工におけるインボリュート形歯面Wbの法線方向の加工抵抗を調整することができる。つまり、研磨加工においては、研磨作用力を変更することができる。また、研削加工においては、研削取代を調整することができる。
【0046】
5.歯車加工方法の概要
5-1.はじめに
図6~
図10を参照して、本形態における歯車加工方法の概要について説明する。以下においては、砥石Tbの刃先Tb3の運動軌跡であるサイクロイド軌跡Trと、工作物Wのインボリュート形歯面Wbの法線方向の加工抵抗R(以下、「法線加工抵抗」と称する)とを用いて、歯車加工方法の概要について説明する。最初に、理論計算上の場合を説明し、その後に、実際の例として2例を挙げて説明する。
【0047】
5-2.理論計算上
図6(a)(b)を参照して、理論計算上における刃先Tb3のサイクロイド軌跡Tr0および法線加工抵抗R0について説明する。
【0048】
砥石Tbの刃先Tb3のサイクロイド軌跡Tr0は、回転工具Tの砥石Tbの刃先直径(砥石刃先直径)、および、工作物Wに対する回転工具Tの加工初期位相に応じて変化する。そこで、砥石Tbの刃先Tb3のサイクロイド軌跡Tr0は、インボリュート形歯面Wbに近似するように、砥石Tbの刃先直径、および、加工初期位相を設定することにより決定される。
【0049】
図6(a)に示すように、砥石Tbの刃先Tb3の理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0は、対象のインボリュート形歯面Wbに対して、研磨作用力または研削取代に応じて決定された分だけずらした位置を通過するように設定される。
【0050】
このときの理論計算上の法線加工抵抗R0は、
図6(b)のようになる。つまり、理論計算上の法線加工抵抗R0は、インボリュート形歯面Wbの歯たけ方向全体に亘って、一定となる。つまり、インボリュート形歯面Wbの歯たけ方向全体に亘って、研磨作用力または研削取代が一定となる。理論上は、インボリュート形歯面Wbにおいて、歯底側の位置Wb1、歯たけ方向中央位置Wb2、歯先側の位置Wb3のいずれにおいても、法線加工抵抗R0は同一となる。
【0051】
ここで、法線加工抵抗Rの測定は、例えば、
図1に示す歯車加工装置1におけるX軸方向の駆動装置による駆動力を用いることができる。本形態においては、インボリュート形歯面Wbの各位置を加工する際には、各加工位置の法線方向がほぼX軸方向に一致する構成であるためである。もちろん、より高精度に、法線加工抵抗Rを取得するように、X軸方向の駆動装置の駆動力のみならず、Y軸方向の駆動装置の駆動力を使用することもできる。なお、歯車加工装置1の機械構成や歯車加工における姿勢が異なる場合には、それらに応じた適切な駆動力を用いれば良い。
【0052】
5-3.第一例
図6(a)に示すように、砥石Tbの刃先Tb3が理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に沿って移動するようにしたとしても、法線加工抵抗Rは、理論計算上の法線加工抵抗R0のようにはならない場合がある。
【0053】
例えば、
図7(a)に示すように、実際に測定された法線加工抵抗R1(法線加工抵抗の測定値)は、理論計算上の法線加工抵抗R0とは異なる値となることがある。
図7(a)においては、測定された法線加工抵抗R1は、歯たけ方向全体に亘って一定とならず、歯たけ方向位置における法線加工抵抗Rの偏りを有する場合を示す。この他に、測定された法線加工抵抗R1は、歯たけ方向全体に亘って一定となる場合であって、理論計算上の法線加工抵抗R0とは異なる値となることもある。
【0054】
図7(a)においては、測定された法線加工抵抗R1は、インボリュート形歯面Wbにおいて、歯たけ方向中央位置Wb2よりも歯底側の位置Wb1が小さくなり、かつ、歯たけ方向中央位置Wb2よりも歯先側の位置Wb3が大きくなるような偏りを有する。
【0055】
さらに、
図7(a)において、歯たけ方向中央位置Wb2における法線加工抵抗R1は、R1centerである。本形態においては、歯たけ方向中央位置Wb2の法線加工抵抗R1centerと法線加工抵抗の平均値R1aveとは、同一値である。
【0056】
そして、歯たけ方向中央位置Wb2の法線加工抵抗R1centerおよび法線加工抵抗の平均値R1aveは、理論計算上の法線加工抵抗R0に対して、抵抗誤差ΔRだけ異なる。
【0057】
図7(a)に示す態様において、砥石Tbの刃先Tb3の測定時におけるサイクロイド軌跡Tr1は、
図7(b)の実線にて示すように、破線にて示す理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0からずれた軌跡となる。本形態においては、歯底側ほど浅くなる方向にずれている。
【0058】
そこで、サイクロイド軌跡Trを、理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に対して補正する。補正後のサイクロイド軌跡Tr2は、
図8(a)に示すような軌跡とする。第一例においては、補正後のサイクロイド軌跡Tr2は、理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に対して、歯たけ方向全体に亘って同一値だけ深い位置となるように補正する。
【0059】
砥石Tbの刃先Tb3を補正後のサイクロイド軌跡Tr2に沿って移動させることによって、
図8(b)の実線にて示すように、歯たけ方向中央位置Wb2の補正後の法線加工抵抗R2centerまたは補正後の法線加工抵抗の平均値R2aveが、理論計算上の法線加工抵抗R0に一致する。歯たけ方向中央位置Wb2の補正後の法線加工抵抗R2と、補正後の法線加工抵抗の平均値R2aveとが異なる場合には、いずれか一方が、理論計算上の法線加工抵抗R0に一致するようにすれば良い。
【0060】
つまり、歯たけ方向中央位置Wb2の補正後の法線加工抵抗R2centerまたは補正後の法線加工抵抗の平均値R2aveが、理論計算上の法線加工抵抗R0に一致するように、補正後のサイクロイド軌跡Tr2が決定される。そして、抵抗誤差ΔRに応じて補正量が決定される。
【0061】
5-4.第二例
第二例は、第一例に比べて、抵抗誤差ΔRが大きい場合である。第二例においては、
図9(a)に示すように、測定された法線加工抵抗R1は、理論計算上の法線加工抵抗R0よりもずれ量が大きくなっている。詳細には、歯たけ方向中央位置Wb2の法線加工抵抗R1centerおよび法線加工抵抗の平均値R1aveが、理論計算上の法線加工抵抗R0に対して、抵抗誤差ΔRだけ異なる。この場合、測定時におけるサイクロイド軌跡Tr1は、
図9(b)の実線にて示すように、破線にて示す理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0から大きくずれた軌跡となる。
【0062】
そこで、サイクロイド軌跡Trを、理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に対して補正する。補正後のサイクロイド軌跡Tr2は、
図10(a)に示すような軌跡とする。第二例においても、補正後のサイクロイド軌跡Tr2は、理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に対して、歯たけ方向全体に亘って同一値だけ深い位置となるように補正する。
【0063】
砥石Tbの刃先Tb3を補正後のサイクロイド軌跡Tr2に沿って移動させることによって、
図10(b)の実線にて示すように、歯たけ方向中央位置Wb2の補正後の法線加工抵抗R2centerまたは補正後の法線加工抵抗の平均値R2aveが、理論計算上の法線加工抵抗R0に一致する。つまり、歯たけ方向中央位置Wb2の補正後の法線加工抵抗R2centerまたは補正後の法線加工抵抗の平均値R2aveが、理論計算上の法線加工抵抗R0に一致するように、補正後のサイクロイド軌跡Tr2が決定される。そして、抵抗誤差ΔRに応じて補正量が決定される。
【0064】
6.歯車加工方法の説明
上述した歯車加工方法の概要における第一例または第二例のように、サイクロイド軌跡Tr2を補正することにより、抵抗誤差ΔRを小さくする。以下に、歯車加工方法の処理について、
図11~
図13を参照して説明する。
【0065】
まず、
図11に示すように、測定工程S1を実行する。測定工程S1は、
図6(a)(b)に示すように理論計算上のサイクロイド軌跡Tr0に従って、測定用加工としての研磨加工または研削加工を行う。そして、測定用加工の最中に、インボリュート形歯面Wbの歯たけ方向位置ごとに、インボリュート形歯面Wbの法線加工抵抗R1を測定する。測定工程S1において、例えば、
図7(a)または
図9(a)の実線にて示すような測定結果としての法線加工抵抗R1を取得する。
【0066】
続いて、
図11に示すように、サイクロイド軌跡補正演算工程S2を実行する。サイクロイド軌跡補正演算工程S2においては、補正後のサイクロイド軌跡Tr2を導出する。サイクロイド軌跡補正演算工程S2では、まず、測定された法線加工抵抗R1に基づいて、歯たけ方向中央位置Wb2における測定された法線加工抵抗R1center、または、法線加工抵抗の平均値R1aveを取得する(S11)。なお、法線加工抵抗R1centerと法線加工抵抗の平均値R1aveとは、いずれを用いても良い。
【0067】
ここで、本形態においては、例えば、理論計算上の法線加工抵抗R0を、法線加工抵抗の目標値である目標加工抵抗Rtarとする(
図6(b)に示す)。目標加工抵抗Rtarは、理論計算上の法線加工抵抗R0の他に、理想状態において実測された法線加工抵抗を用いることもできる。この場合、目標加工抵抗Rtarは、理想状態において実測された法線加工抵抗のうち歯たけ方向中央位置Wb2の法線加工抵抗、または、理想状態において実測された法線加工抵抗の平均値を用いることができる。
【0068】
そして、
図7(a)および
図9(a)に示すように、目標加工抵抗Rtarと、測定された法線加工抵抗R1centerまたは法線加工抵抗の平均値R1aveとの抵抗誤差ΔRを算出する(S12)。目標加工抵抗Rtarが理想状態において実測された法線加工抵抗に基づき設定された場合には、抵抗誤差ΔRは、歯たけ方向中央位置Wb2同士の抵抗誤差、または、平均値同士の抵抗誤差を算出すると良い。
【0069】
続いて、サイクロイド軌跡補正演算工程S2では、算出された抵抗誤差ΔRに基づいて、加工初期位相の補正値Δθを決定する(S13)。加工初期位相の補正値Δθの決定方法として、予め実測することにより、
図12に示すような、抵抗誤差ΔRと加工初期位相の補正値Δθとの関係マップを生成する。または、ΔR-Δθ関係マップは、数式にて表されるΔR-Δθ関係式とすることもできる。
【0070】
加工初期位相の補正値Δθは、抵抗誤差ΔRを小さくするような値とする。特に、加工初期位相の補正値Δθは、抵抗誤差ΔRをゼロとするような値とするのが好ましい。例えば、抵抗誤差ΔRが大きいほど、加工初期位相の補正値Δθを大きくし、抵抗誤差ΔRが小さいほど、加工初期位相の補正値Δθを小さくする。
【0071】
そして、算出された抵抗誤差ΔRを
図12におけるΔR-Δθ関係マップまたはΔR-Δθ関係式を用いて、抵抗誤差ΔRに対応する加工初期位相の補正値Δθを決定する。
【0072】
また、上記においては、
図12のΔR-Δθ関係マップまたはΔR-Δθ関係式は、実測により得られた法線加工抵抗を用いて生成したが、解析により生成することもできる。
【0073】
図11に示すように、サイクロイド軌跡補正演算工程S2において、加工初期位相の補正値の決定に続いて、補正後のサイクロイド軌跡Tr2を決定する(S14)。補正後のサイクロイド軌跡Tr2は、補正前のサイクロイド軌跡Tr0に対して、加工初期位相の補正値Δθに基づいて補正することにより得られる。つまり、実加工におけるサイクロイド軌跡を補正する。
図8(a)および
図10(a)の実線にて示すサイクロイド軌跡Tr2に相当する。
【0074】
換言すると、サイクロイド軌跡補正演算工程S2は、抵抗誤差ΔRに基づいて、実加工におけるサイクロイド軌跡を補正する。詳細には、抵抗誤差ΔRを小さくするように、実加工におけるサイクロイド軌跡を補正する。特に、本形態においては、加工初期位相を補正することによって、実加工におけるサイクロイド軌跡を補正する。
【0075】
図11に示すように、サイクロイド軌跡補正演算工程S2に続いて、決定された補正後のサイクロイド軌跡Tr2により実加工としての研磨加工または研削加工を行う(S3)。
【0076】
実加工において、加工初期位相の補正の方法として、以下の3通りのいずれかを適用できる。第一例として、加工初期位相の補正は、回転工具Tの加工初期位相を補正せずに、工作物Wの加工初期位相の補正により行う。第二例として、加工初期位相の補正は、工作物Wの加工初期位相を補正せずに、回転工具Tの加工初期位相の補正により行う。第三例として、加工初期位相の補正は、回転工具Tの加工初期位相の補正および工作物Wの加工初期位相補正により行う。
【0077】
ここで、一旦補正した後に再び補正を行う場合には、上記の処理を繰り返す。この場合、再び測定工程S1を実行する。再び測定工程S1を実行する場合において、補正前後における法線加工抵抗R1の比較を行うためには、工作物Wの回転初期位相を補正しない方が好ましい。従って、複数回の補正を行う場合には、第二例としての回転工具Tの加工初期位相の補正のみを適用するのが好ましい。
【0078】
実加工においては、インボリュート形歯面Wbの歯たけ方向全体に亘って、所望の研磨作用力または研削取代を有する加工を行うことができる。
【0079】
7.実施形態の効果
本形態にかかる歯車加工方法によれば、測定用加工においてインボリュート形歯面Wbの法線加工抵抗R1を測定する。測定された法線加工抵抗R1は、法線加工抵抗の目標値である目標加工抵抗Rtarからずれる場合がある。そこで、目標加工抵抗Rtarと測定された法線加工抵抗R1との抵抗誤差ΔRが、所望のインボリュート形歯面Wbの形状誤差に対応することを見出した。そこで、歯車加工方法において、目標加工抵抗Rtarと測定された法線加工抵抗R1との抵抗誤差ΔRに基づいて、実加工におけるサイクロイド軌跡Tr2を補正するようにした。その結果、所望のインボリュート形歯面Wbを加工することができる。
【符号の説明】
【0080】
W 工作物
Wb インボリュート形歯面
Tb 砥石
T 回転工具
Cw 工作物の回転軸線
Ct 回転工具の回転軸線
Tr,Tr0,Tr1,Tr2 サイクロイド軌跡
R,R0,R1,R2 法線加工抵抗
ΔR 抵抗誤差
Δθ 加工初期位相の補正値