(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018289
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】メタン酸化カップリング触媒、及びそれを用いた炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/12 20060101AFI20240201BHJP
B01J 27/125 20060101ALI20240201BHJP
B01J 27/135 20060101ALI20240201BHJP
B01J 27/138 20060101ALI20240201BHJP
C07C 9/06 20060101ALI20240201BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20240201BHJP
C07C 2/82 20060101ALI20240201BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B01J27/12 Z
B01J27/125 Z
B01J27/135 Z
B01J27/138 Z
C07C9/06
C07C11/04
C07C2/82
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121517
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】本橋 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】松本 知大
(72)【発明者】
【氏名】石村 真優子
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB08A
4G169BB08B
4G169BC01A
4G169BC04A
4G169BC04B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC20A
4G169BC38A
4G169BC39A
4G169BC39B
4G169BC40A
4G169BC40B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC49A
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC53A
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD15A
4G169BD15B
4G169CB07
4G169CB25
4G169DA05
4G169EC25
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC23
4H006BA03
4H006BA06
4H006BA08
4H006BA10
4H006BA12
4H006BA30
4H006BA37
4H006BA53
4H006BC10
4H006BE30
4H039CA19
4H039CA29
4H039CC20
(57)【要約】
【課題】メタンから炭素数が2以上の炭化水素を高収率かつ高選択率で生成させることができる新たな触媒を提供すること。
【解決手段】金属の酸フッ化物を含むことを特徴とするメタン酸化カップリング(OCM)触媒を用いればよい。これは、金属原子と酸素原子とフッ素原子の化合物であり、金属の酸化物と金属のフッ化物とを混合した多相系の混合物を触媒として用いる従来技術とは異なるものである。本発明の金属の酸フッ化物は、従来型のOCM反応触媒であるMn-Na
2WO
4/SiO
2に比べて大きなメタン転化率及びC
2収率を示し、OCM触媒として優れた特性を備える。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の酸フッ化物を含むことを特徴とするメタン酸化カップリング触媒。
【請求項2】
前記金属の酸フッ化物の含有量が30質量%以上である請求項1記載のメタン酸化カップリング触媒。
【請求項3】
前記金属の酸フッ化物が結晶を形成する請求項1記載のメタン酸化カップリング触媒。
【請求項4】
前記金属の酸フッ化物が下記一般式(1)で表すものである請求項1記載のメタン酸化カップリング触媒。
ZOxFy ・・・・・(1)
(一般式(1)中、Zは1以上の金属原子であり、Zに含まれる各々の金属原子の価数とその金属原子の原子数との積の総和が2x+yと一致することを条件に、xは1以上の整数であり、yは1以上の整数である。)
【請求項5】
前記一般式(1)において、Zが、第1族元素、第2族元素、第3族元素、第4族元素、第5族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4記載のメタン酸化カップリング触媒。
【請求項6】
下記一般式(2)~(7)のいずれかで表す請求項5記載のメタン酸化カップリング触媒。
AOF・・・(2)、 A6O5F8・・・(3)
D5EO4F・・・(4)、 D5E2O6F・・・(5)
D4GO4F・・・(6)、 J4E2O7F2・・・(7)
(上記一般式(2)及び(3)中、Aは第3族元素である。上記一般式(4)及び(5)中、Dは第1族元素であり、Eは第4族元素又は第14族元素である。上記一般式(6)中、Dは第1族元素であり、Gは第5族元素である。上記一般式(7)中、Jは第2族元素であり、Eは第14族元素である。)
【請求項7】
下記群より選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項6記載のメタン酸化カップリング触媒。
群:SmOF、ScOF、YOF、Y6O5F8、YbOF、Yb6O5F8、Li5SiO4F、Li5Ti2O6F、Li4NbO4F、Ca4Si2O7F2
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のメタン酸化カップリング触媒を用いることを特徴とし、メタンから炭素数2以上の炭化水素を合成する炭化水素の製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素がエチレン及び/又はエタンを含む請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
600℃以上1000℃以下の温度範囲の反応系内でメタンと酸素とを接触させる請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン酸化カップリング触媒、及びそれを用いた炭化水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンは、天然ガスの主成分として豊富に存在し、また、石油留分等の炭化水素の水素化分解や接触分解プロセスの副生物等としても多量に得られる。このように、メタンは、安定的な供給が可能で安価である等、工業用原料としての基本的条件を満たしているが、他の炭化水素と比較して反応性が低い等の理由により、そのほとんどがそのまま燃料として利用されるに留まっている。一方で、近年の石油資源問題に鑑みると、メタンを単に燃料として利用するだけでなく、これをより有用な化合物に変えて有効利用できる技術が望まれている。
【0003】
このようなメタンの有効利用のための反応技術として、古くからメタンを1000℃以上の著しく高温下で脱水素カップリングしてアセチレンやエチレンに転化する技術が検討されている。特に最近では、メタンの酸化カップリング反応、すなわちメタンを酸素の存在下で触媒に接触させ、比較的温和な条件下でエチレン、エタン等の炭素数2以上の炭化水素を製造する技術が注目されている。
【0004】
温和な条件下で、メタンからエチレンやエタンを合成する反応としては、例えばメタンと酸素とを反応させてエチレンやエタンを合成するメタン酸化カップリング反応(Oxidative Coupling of Methane、OCM反応)が挙げられる。この反応を、以下の2式に示す。
CH4+1/2O2→1/2C2H4+H2O
CH4+1/4O2→1/2C2H6+1/2H2O
【0005】
このOCM反応は、埋蔵量が豊富であるが用途に乏しいメタンを、化学産業のキー化合物であるエチレンやエタンへ直接転換する魅力的な反応である。しかしながら、これまでコストの観点等から産業的に有用なプロセスは開示されていない。これは、OCM反応には、次の式に示す熱力学的に有利な阻害反応であるメタンの完全酸化が存在し、メタンを高い選択率及び収率でエチレンやエタンへ転換する優れた触媒が未だ見出されていないためである。
CH4+2O2→CO2+2H2O
【0006】
これまで、OCM反応における高活性触媒の一つとして、Li/MgOが知られている(非特許文献1参照)。この触媒は、目的物であるエチレン及びエタンの収率が約19% であるが、生成物中の目的物選択率が約50%と活性が低い。
【0007】
さらに、Mn-Na2WO4/SiO2もOCM反応に高活性を示す触媒として知られている(非特許文献2及び3参照)。この触媒は、目的物であるC2化合物の収率が15~25%、目的物選択率が60~80%と比較的高活性を示すものである。
【0008】
このような背景のもと、本発明者らにより一般式Li2ABO4(Aは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される1種以上であり、Bは、Si及び/又はGeである。)で表されるLi含有複合金属酸化物がOCM反応における触媒として提案されている(特許文献1を参照)。この複合金属酸化物触媒によれば、メタンから炭素数2以上の炭化水素を高収率かつ高選択率で生成させることができる。なお、「高選択率」とは、上記のような完全酸化反応に対して、メタンから炭素数2以上の炭化水素を与えるOCM反応の選択性が高いとの意味である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Ito,J.H.Lunsford,Nature 1985,721-722,314.
【非特許文献2】S.Arndt,T.Otremba,U.Simon,M.Yildiz,H.Schubert,R.Schomacker,Applied Catalysis A:General 2012,425-426,53.
【非特許文献3】E.V.Kondratenko,T.Peppel,D.Seeburg,V.A.Kondratenko,N.Kalevaru,A.Martin,S.Wohlrab,Catalysis Science Technology 2017,7,366.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、メタンから炭素数が2以上の炭化水素を高収率かつ高選択率で生成させることができる新たな触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、金属原子と酸素原子とフッ素原子の化合物である、金属の酸フッ化物がOCM反応において良好な収率と反応選択性を備えることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、金属の酸化物と金属のフッ化物とを混合した多相系の混合物を触媒として用いる例はこれまでにも存在したが、本発明では、金属原子と酸素原子とフッ素原子とが1つの化合物となって単一相の結晶を形成したもの、すなわち金属の酸フッ化物を触媒の構成要素として用いる点でこれまでのものと異なる。もっとも、触媒中に不純物が含まれる場合もあり、そのような場合には、本発明の触媒は、触媒全体としてそのような不純物と金属の酸フッ化物とを含んだ多相系になることもあるが、それでも触媒としての活性を与える金属の酸フッ化物自体は単一相の結晶であり、上記のような金属の酸化物と金属のフッ化物との単なる混合物とは全く異なるものである。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)本発明は、金属の酸フッ化物を含むことを特徴とするメタン酸化カップリング触媒である。
【0014】
(2)また本発明は、上記金属の酸フッ化物の含有量が30質量%以上である(1)項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
【0015】
(3)また本発明は、上記金属の酸フッ化物が結晶を形成する(1)項又は(2)項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
【0016】
(4)また本発明は、上記金属の酸フッ化物が下記一般式(1)で表すものである(1)項~(3)項のいずれか1項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
ZOxFy ・・・・・(1)
(一般式(1)中、Zは1以上の金属原子であり、Zに含まれる各々の金属原子の価数とその金属原子の原子数との積の総和が2x+yと一致することを条件に、xは1以上の整数であり、yは1以上の整数である。)
【0017】
(5)また本発明は、上記一般式(1)において、Zが、第1族元素、第2族元素、第3族元素、第4族元素、第5族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種である(4)項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
【0018】
(6)また本発明は、下記一般式(2)~(7)のいずれかで表す(1)項~(5)項のいずれか1項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
AOF・・・(2)、 A6O5F8・・・(3)
D5EO4F・・・(4)、 D5E2O6F・・・(5)
D4GO4F・・・(6)、 J4E2O7F2・・・(7)
(上記一般式(2)及び(3)中、Aは第3族元素である。上記一般式(4)及び(5)中、Dは第1族元素であり、Eは第4族元素又は第14族元素である。上記一般式(6)中、Dは第1族元素であり、Gは第5族元素である。上記一般式(7)中、Jは第2族元素であり、Eは第14族元素である。)
【0019】
(7)また本発明は、下記群より選択される少なくとも1つの化合物を含む(1)項~(6)項のいずれか1項記載のメタン酸化カップリング触媒である。
群:SmOF、ScOF、YOF、Y6O5F8、YbOF、Yb6O5F8、Li5SiO4F、Li5Ti2O6F、Li4NbO4F、Ca4Si2O7F2
【0020】
(8)本発明は、(1)項~(7)項のいずれか1項記載のメタン酸化カップリング触媒を用いることを特徴とし、メタンから炭素数2以上の炭化水素を合成する炭化水素の製造方法でもある。
【0021】
(9)また本発明は、上記炭化水素がエチレン及び/又はエタンを含む(8)項記載の製造方法である。
【0022】
(10)また本発明は、600℃以上1000℃以下の温度範囲の反応系内でメタンと酸素とを接触させる(8)項又は(9)項記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、メタンから炭素数が2以上の炭化水素を高収率かつ高選択率で生成させることができる新たな触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施例1のSmOFのX線回折(XRD)である。この図において、上段が実施例1のSmOFのXRDチャートであり、下段が無機結晶構造データベース(ICSD)から入手したSmOFのXRDチャートである。
【
図2】
図2は、実施例2のScOFのXRDである。この図において、上段が実施例2のScOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したScOFのXRDチャートである。
【
図3】
図3は、実施例3のYOFのXRDである。この図において、上段が実施例3のYOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYOFのXRDチャートである。
【
図4】
図4は、実施例4のY
6O
5F
8のXRDである。この図において、上段が実施例4のY
6O
5F
8のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したY
6O
5F
8のXRDチャートである。
【
図5】
図5は、実施例5のYbOFのXRDである。この図において、上段が実施例5のYbOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYbOFのXRDチャートである。
【
図6】
図6は、実施例6のYb
6O
5F
8のXRDである。この図において、上段が実施例6のYb
6O
5F
8のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYb
6O
5F
8のXRDチャートである。
【
図7】
図7は、実施例7のLi
5SiO
4FのXRDである。この図において、上段が実施例7のLi
5SiO
4FのXRDチャートであり、下段が、B.Dongらによって報告(Solid State Ionics327,64-70(2018))されたLi
5SiO
4FのXRDチャートである。
【
図8】
図8は、
図8は、実施例8のLi
5Ti
2O
6FのXRDである。
【
図9】
図9は、実施例9のLi
4NbO
4FのXRDである。この図において、上段が実施例9のLi
4NbO
4FのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したLi
4NbO
4FのXRDチャートである。
【
図10】
図10は、実施例10のCa
4Si
2O
7F
2のXRDである。この図において、上段が実施例10のCa
4Si
2O
7F
2のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したCa
4Si
2O
7F
2のXRDチャートである。
【
図11】
図11は、実施例1及び比較例1についての試料評価結果であり、
図11(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図11(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例2及び比較例2についての試料評価結果であり、
図12(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図12(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例3、実施例4及び比較例3についての試料評価結果であり、
図13(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図13(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例5、実施例6及び比較例4についての試料評価結果であり、
図14(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図14(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例7及び比較例5についての試料評価結果であり、
図15(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図15(B)は、反応温度750℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例8及び比較例6についての試料評価結果であり、
図16(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図16(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例9及び比較例7についての試料評価結果であり、
図17(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図17(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例10及び比較例9についての試料評価結果であり、
図18(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図18(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例9と比較例8についての試料評価結果であり、
図19(A)は、CH
4/O
2=4におけるCH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図19(B)は、CH
4/O
2=2におけるCH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものである。
【
図20】
図20は、実施例9の金属酸フッ化物(Li
4NbO
4F)について、触媒活性評価前後のSEM-EDX観察した際の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のメタン酸化カップリング触媒の一実施形態、及び本発明のメタンから炭素数2以上の炭化水素を合成する炭化水素の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0026】
<メタン酸化カップリング触媒>
まずは、本発明のメタン酸化カップリング触媒について説明する。
【0027】
本発明のメタン酸化カップリング触媒(以下、OCM触媒とも呼ぶ。)は、金属の酸フッ化物を含むことを特徴とする。これまで、OCM反応を促進させるための触媒として、上記先行技術文献に挙げた通り、金属の酸化物及びその混合物を用いることが検討されてきた。また、そのような検討の派生として、金属の酸化物と金属のフッ化物を組み合わせた混合物を触媒として用いることも検討されていた。本発明は、金属の酸化物を単独で用いたり、それに金属のフッ化物を組み合わせた混合物を用いたりするのとは異なり、金属の酸フッ化物を用いる点でこれらの従来技術は異なるものである。
【0028】
金属の酸フッ化物とは、金属原子と酸素原子とフッ素原子との化合物であり、上記のような混合物とは異なる。この化合物は、単一相の結晶を形成し、その結晶中に酸素アニオンのサイトとフッ化物イオンのサイトを併せ持つ。このような特徴が、OCM反応における高活性と高選択性をもたらすものと推察される。本発明の触媒は、OCM反応を促進する中心的な成分としてこうした金属の酸フッ化物を含むものであり、触媒中における金属の酸フッ化物の含有量は、30質量%以上となるのが好ましく、40質量%以上となるのがより好ましく、50質量%以上となるのがさらに好ましく、60質量%以上となるのが特に好ましく、70質量%以上となるのが最も好ましい。なお、本発明の金属の酸フッ化物を担持体に担持させて触媒として用いることもあるが、この場合、「触媒中における金属の酸フッ化物の含有量」とは、当該触媒から担持体の質量を除いた部分の質量に対する金属の酸フッ化物の含有量を意味する。
【0029】
本発明で用いる金属の酸フッ化物としては、金属原子と酸素原子とフッ素原子との化合物でありさえすればよいが、より具体的には、下記一般式(1)で表すものを挙げることができる。
【0030】
ZOxFy ・・・・・(1)
【0031】
上記一般式(1)中、Zは1以上の金属原子である。本発明における金属原子には、水素を除く第1族から第12族の元素に加え、ホウ素を除く第13族の元素や、炭素を除く第14族の元素も含まれる。すなわち、第14族に属する珪素やゲルマニウムは、半導体であるとして一般には金属原子に含めない場合もあるが、本発明ではこれらも金属原子として扱う。Zは、単一の金属原子であってもよいし、2種以上の金属原子であってもよい、例えば、Zが2種の金属原子を含む場合、一般式(1)は、Z1
n1Z2
n2OxFyの一般式で表されることになる。このような一般式も一般式(1)に含まれるものとする。なお、一般式(1)におけるZには原子数が下付文字として表されていないが、これは、Zとなる金属原子が1種とは限られないためにその原子数の記載を省略したためであり、Zの原子数が1であるために原子数が表記されないということではない。一般式(1)に含まれる実際の化合物では、当然ながらZとなる金属原子に応じて、例えばY6O5F8やLi5Ti2O6F等のように、その原子数が下付文字として表されたものになる。
【0032】
一般式(1)におけるZに含まれる各々の金属原子の価数とその金属原子の原子数との積の総和が2x+yと一致することを条件に、xは1以上の整数であり、yは1以上の整数である。これは、正電荷をもつ金属原子と、2価の負電荷をもつ酸素原子と、1価の負電荷をもつフッ素原子との間で、化合物全体として正負の電荷が釣り合うことを意味するものである。例えば、Y6O5F8で表す化合物であれば、Yは3価の原子なので正電荷は18となり、5個の酸素原子と8個のフッ素原子とを合わせた負電荷の18と釣り合いが取れている。また、Li5Ti2O6Fで表す化合物であれば、Zには5個のLi原子と2個のTi原子が含まれ、1価のLi原子が5個なのでその積は5となり、4価のTi原子が2個なのでその積は8となり、これら積の総和は13の正電荷になる。一方、負電荷は6個の酸素原子と1個のフッ素原子で13となり、正負の釣り合いが取れる。
【0033】
すなわち、例えば、一般式(1)におけるZとして2種の原子を含む、Z1
n1Z2
n2OxFyの一般式で表す化合物であれば、(Z1の価数)×n1+(Z2の価数)×n2=2x+yの等式が成立することになる。「Zに含まれる各々の金属原子の価数とその金属原子の原子数との積の総和が2x+yと一致する」とはこのような状態を表すものである。このことは、Zが3種以上の金属原子を含む場合も同様である。
【0034】
より好ましい形態として、一般式(1)におけるZが、第1族元素、第2族元素、第3族元素、第4族元素、第5族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であることを挙げられる。このような元素としては、Li、Na、Cs等の第1族元素、Be、Mg、Ca、St、Ba等の第2族元素、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の第3族元素、Ti、Zr、Hf等の第4族元素、V、Nb、Ta等の第5族元素、Si、Ge、Sn、Pb等の第14族元素を挙げることができる。これらの中でも、Li、Sc、Y、Sm、Yb、Si、Ti、Nb等を好ましく挙げることができる。
【0035】
このような形態の好ましい例として、一般式(1)で表す化合物が下記一般式(2)~(7)のいずれかで表すものであることを挙げることができる。
【0036】
AOF・・・(2)、 A6O5F8・・・(3)
D5EO4F・・・(4)、 D5E2O6F・・・(5)
D4GO4F・・・(6)、 J4E2O7F2・・・(7)
【0037】
上記一般式(2)及び(3)中、Aは第3族元素である。上記一般式(4)及び(5)中、Dは第1族元素であり、Eは第4族元素又は第14族元素である。上記一般式(6)中、Dは第1族元素であり、Gは第5族元素である。上記一般式(7)中、Jは第2族元素であり、Eは第14族元素である。これらの元素の具体例については、既に述べた通りである。
【0038】
一般式(1)で表す化合物としてさらに好ましい例として、SmOF、ScOF、YOF、Y6O5F8、YbOF、Yb6O5F8、Li5SiO4F、Li5Ti2O6F、Li4NbO4F、Ca4Si2O7F2より選択される少なくとも1つの化合物を挙げることができる。なお、本発明はこれらの化合物に何ら限定されるものではない。
【0039】
本発明の金属の酸フッ化物は、特に限定されないが、金属酸化物とフッ素源となる化合物とをよく混合し、大気中で700~1100℃程度で焼成することにより得られる。この焼成を行うのに先立って、焼成温度よりも低い温度で仮焼成してもよい。
【0040】
フッ素源となる化合物は、フッ素を含む化合物である。このような化合物としては、フッ素を含む無機物や有機物を挙げることができる。なお、フッ素源としては、焼成後に残留物を生じないものや、目的物となる金属の酸フッ化物を構成する金属のフッ化物を挙げることができる。焼成後に残留物を生じないフッ素源としては、フッ化アンモニウム、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。「目的物となる金属の酸フッ化物を構成する金属のフッ化物」とは、例えば、金属の酸フッ化物としてYOFを得ようとする場合には、フッ素源としてYF3のようなイットリウムとフッ素を含む化合物が挙げられ、Li5Ti2O6Fを得ようとする場合には、LiFやTiF4のようなリチウムやチタンとフッ素を含む化合物が挙げられる。
【0041】
金属の酸フッ化物をOCM反応における触媒として用いる場合、上記のように焼成して得た金属の酸フッ化物の結晶をそのまま用いてもよいし、適当な担持体の表面に金属の酸フッ化物を担持して用いてもよい。このような担持体としては、シリカ、アルミナ等を挙げることができる。なお、上記のように、触媒中における金属の酸フッ化物の含有量として30質量%以上等となるのが好ましいと述べたが、ここでいう触媒中の酸フッ化物の含有量は、既に述べた通り、上記のような担持体を除いた質量に対する含有量である。
【0042】
<炭化水素の製造方法>
次に、本発明の、メタンから炭素数2以上の炭化水素を合成する炭化水素の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と適宜省略する。)の一実施態様について説明する。
【0043】
本発明の製造方法は、上記本発明のメタン酸化カップリング触媒を用いることを特徴とし、メタンから炭素数2以上の炭化水素を合成するものである。炭素数2以上の炭化水素には、エタン及びエチレンといった炭素数2の炭化水素のほか、プロパン等の炭素数3以上の炭化水素が含まれる。これらの炭化水素のうち、エタンやエチレンといった炭素数2の炭化水素が大部分を占める。本発明の製造方法により、燃焼して熱エネルギーを取り出す程度の用途しかないメタンを、より化学工業的な価値の高いエタンやエチレンに転換することができる。
【0044】
具体的には、本発明の製造方法では、上記本発明の金属の酸フッ化物を含む触媒を用い、これの存在下、メタンと酸素とを加熱下で接触させて炭素数2以上の炭化水素を合成する。この反応は、既に説明したOCM(メタン酸化カップリング)反応である。
【0045】
反応系内の温度としては、特に限定されないが、600℃以上1000℃以下であることを好ましく挙げることができる。この温度の下限は、650℃であることがより好ましく、700℃であることがさらに好ましく、750℃であることが特に好ましい。また、この温度の上限は、950℃であることがより好ましく、900℃であることがさらに好ましく、850℃であることが特に好ましい。反応系内の温度が上記の範囲であることにより、メタンの転化率を良好なものにしつつ、メタンが完全酸化してしまう反応を抑制して収率や選択性を良好なものとすることができる。また、反応系内の温度を上記の範囲で低めに設定することでエタンの収率を高めることができ、反応系内の温度を上記の範囲で高めに設定することでエチレンの収率を高めることができる。
【0046】
反応系内におけるメタンと酸素のモル比としては、メタン/酸素の比で2~5程度とすることが好ましい。メタンと酸素のモル比がこの範囲であることにより、メタンが過剰に酸化されてしまって炭素数2以上の炭化水素の収率が低下してしまうことを抑制でき、良好な収率を保つことができるので好ましい。
【実施例0047】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
[SmOFの合成(実施例1)]
実施例1の金属酸フッ化物として、固相反応法によりSmOFの合成を行った。原料試薬としてNH
4F及びSm
2O
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をNH
4F:Sm
2O
3=3.1:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中1000℃で12時間焼成することで、目的のSmOFを得た。
得られたSmOFのX線回折(XRD)を
図1に示す。
図1は、実施例1のSmOFのX線回折(XRD)である。この図において、上段が実施例1のSmOFのXRDチャートであり、下段が無機結晶構造データベース(ICSD)から入手したSmOFのXRDチャートである。
図1に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするSmOFの結晶が得られたことを確認した。
【0049】
[ScOFの合成(実施例2)]
実施例2の金属酸フッ化物として、固相反応法によりScOFの合成を行った。原料試薬としてNH
4F及びSc
2O
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をNH
4F:Sc
2O
3=3.7:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間焼成することで、目的のScOFを得た。
得られたScOFのXRDを
図2に示す。
図2は、実施例2のScOFのXRDである。この図において、上段が実施例2のScOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したScOFのXRDチャートである。
図2に示すように、副生成物とみられるScF
3のピークがわずかに観察されたものの、その他の部分において両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするScOFの結晶が得られたことを確認した。
【0050】
[YOFの合成(実施例3)]
実施例3の金属酸フッ化物として、固相反応法によりYOFの合成を行った。原料試薬としてY
2O
3及びYF
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をY
2O
3:YF
3=1.0:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のフッ素の損失を考慮して、YF
3を10%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間焼成することで、目的のYOFを得た。
得られたYOFのXRDを
図3に示す。
図3は、実施例3のYOFのXRDである。この図において、上段が実施例3のYOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYOFのXRDチャートである。
図3に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするYOFの結晶が得られたことを確認した。
【0051】
[Y
6O
5F
8の合成(実施例4)]
実施例4の金属酸フッ化物として、固相反応法によりY
6O
5F
8の合成を行った。原料試薬としてY
2O
3及びYF
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をY
2O
3:YF
3=4.0:7.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のフッ素の損失を考慮して、YF
3を25%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間焼成することで、目的のY
6O
5F
8を得た。
得られたY
6O
5F
8のXRDを
図4に示す。
図4は、実施例4のY
6O
5F
8のXRDである。この図において、上段が実施例4のY
6O
5F
8のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したY
6O
5F
8のXRDチャートである。
図4に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするY
6O
5F
8の結晶が得られたことを確認した。
【0052】
[YbOFの合成(実施例5)]
実施例5の金属酸フッ化物として、固相反応法によりYbOFの合成を行った。原料試薬としてNH
4F及びYb
2O
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をNH
4F:Yb
2O
3=3.0:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中970℃で12時間焼成することで、目的のYbOFを得た。
得られたYbOFのXRDを
図5に示す。
図5は、実施例5のYbOFのXRDである。この図において、上段が実施例5のYbOFのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYbOFのXRDチャートである。
図5に示すように、原料として用いたYb
2O
3と副生成物とみられるYb
6O
5F
8のピークが観察されたものの、その他の部分において両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするYbOFの結晶が得られたことを確認した。なお、これらピークの積分比から、実施例5のYbOFは、少なくとも70質量%以上の純度を有すると見積もられた。
【0053】
[Yb
6O
5F
8の合成(実施例6)]
実施例6の金属酸フッ化物として、固相反応法によりYb
6O
5F
8の合成を行った。原料試薬としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びYb
2O
3を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をPTFE:Yb
2O
3=2.2:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中550℃で4時間仮焼成し、前駆体を得た。さらに、その前駆体を大気中850℃で12時間本焼成することで、目的のYb
6O
5F
8を得た。
得られたYb
6O
5F
8のXRDを
図6に示す。
図6は、実施例6のYb
6O
5F
8のXRDである。この図において、上段が実施例6のYb
6O
5F
8のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したYb
6O
5F
8のXRDチャートである。
図6に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするYb
6O
5F
8の結晶が得られたことを確認した。
【0054】
[Li
5SiO
4Fの合成(実施例7)]
実施例7の金属酸フッ化物として、固相反応法によりLi
5SiO
4Fの合成を行った。原料試薬としてLi
2O、LiF及びSiO
2を用い、目的化合物が0.01molとなるように各原料試薬をLi
2O:LiF:SiO
2=2:1:1の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中500℃で12時間仮焼成し、前駆体を得た。さらに、その前駆体を大気中700℃で12時間本焼成することで、目的のLi
5SiO
4Fを得た。
得られたLi
5SiO
4FのXRDを
図7に示す。
図7は、実施例7のLi
5SiO
4FのXRDである。この図において、上段が実施例7のLi
5SiO
4FのXRDチャートであり、下段が、B.Dongらによって報告(Solid State Ionics327,64-70(2018))されたLi
5SiO
4FのXRDチャートである。
図7に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするLi
5SiO
4Fの結晶が得られたことを確認した。
【0055】
[Li
5Ti
2O
6Fの合成(実施例8)]
実施例8の金属酸フッ化物として、固相反応法によりLi
5Ti
2O
6Fの合成を行った。原料試薬としてLi
2CO
3、TiO
2及びLiFを用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をLi
2CO
3:TiO
2:LiF=2:2:1の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のリチウムの損失を考慮して、Li
2CO
3を3%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間焼成することで、目的のLi
5Ti
2O
6Fを得た。
得られたLi
5Ti
2O
6FのXRDを
図8に示す。
図8は、実施例8のLi
5Ti
2O
6FのXRDである。
図8に示すように、XRDにおいて(200)の強いピークと(111)の弱いピークが観察され、結晶が得られたことを確認した。
【0056】
[Li
4NbO
4Fの合成(実施例9)]
実施例9の金属酸フッ化物として、固相反応法によりLi
4NbO
4Fの合成を行った。原料試薬としてLiOH・H
2O、Nb
2O
5及びLiFを用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をLiOH・H
2O:Nb
2O
5:LiF=3.0:0.5:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらを乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のリチウムの損失を考慮して、LiOH・H
2Oを3%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間焼成することで、目的のLi
4NbO
4Fを得た。
得られたLi
4NbO
4FのXRDを
図9に示す。
図9は、実施例9のLi
4NbO
4FのXRDである。この図において、上段が実施例9のLi
4NbO
4FのXRDチャートであり、下段がICSDから入手したLi
4NbO
4FのXRDチャートである。
図9に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするLi
4NbO
4Fの結晶が得られたことを確認した。
【0057】
[Ca
4Si
2O
7F
2の合成(実施例10)]
実施例10の金属酸フッ化物として、固相反応法によりCa
4Si
2O
7F
2の合成を行った。原料試薬としてCaCO
3、CaF
2及びSiO
2を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をCaCO
3:CaF
2:SiO
2=2.9:1.1:2.0の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のフッ素の損失を考慮して、CaF
2を10%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中900℃で12時間仮焼成し、前駆体を得た。さらに、その前駆体を大気中1100℃で12時間本焼成することで、目的のCa
4Si
2O
7F
2を得た。
得られたCa
4Si
2O
7F
2のXRDを
図10に示す。
図10は、実施例10のCa
4Si
2O
7F
2のXRDである。この図において、上段が実施例10のCa
4Si
2O
7F
2のXRDチャートであり、下段がICSDから入手したCa
4Si
2O
7F
2のXRDチャートである。
図10に示すように、両者のXRDパターンは良く一致し、目的とするCa
4Si
2O
7F
2の結晶が得られたことを確認した。
【0058】
[比較例1~4]
比較例1~4としては、以下の試薬[Sm2O3(比較例1)、Sc2O3(比較例2)、Y2O3(比較例3)及びYb2O3(比較例4)]をそのまま用いた。
比較例1:酸化サマリウム Sm2O3(99.9%,富士フイルム和光純薬株式会社製)
比較例2:酸化スカンジウム Sc2O3(99.99%,株式会社高純度化学研究所製)
比較例3:酸化イットリウム Y2O3(99.9%,富士フイルム和光純薬株式会社製)
比較例4:酸化イッテルビウム Yb2O3(99.99%,株式会社高純度化学研究所製)
【0059】
[Li4SiO4の合成(比較例5)]
比較例5として、固相反応法によりLi4SiO4の合成を行った。原料試薬としてLi2CO3及びSiO2を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をLi2CO3:SiO2=2:1の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のリチウムの損失を考慮して、Li2CO3を3%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中850℃で12時間焼成することで、目的のLi4SiO4を得た。
【0060】
[Li2TiO3の合成(比較例6)]
比較例6として、固相反応法によりLi2TiO3の合成を行った。原料試薬としてLi2CO3及びTiO2を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をLi2CO3:TiO2=1:1の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のリチウムの損失を考慮して、Li2CO3を3%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中850℃で12時間焼成することで、目的のLi4SiO4を得た。
【0061】
[Li3NbO4の合成(比較例7)]
比較例7として、固相反応法によりLi3NbO4の合成を行った。原料試薬としてLi2CO3及びNb2O5を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をLi2CO3:Nb2O5=3:1の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。なお、この際、焼成時のリチウムの損失を考慮して、Li2CO3を3%過剰に加えた。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中850℃で12時間焼成することで、目的のLi3NbO4を得た。
【0062】
[Mn-Na2WO4/SiO2の合成(比較例8)]
比較例8として、湿式含浸法によりMn-Na2WO4/SiO2の合成を行った。原料試薬としてMn(NO3)2・6H2O、Na2WO4・2H2O及びSiO2を用い、Mn(NO3)2及びNa2WO4がそれぞれ2質量%及び5質量%となるように秤量し、それらを純水に溶解させた。この溶液に担体であるSiO2を浸して100℃で加熱して乾燥させ、さらに大気中850℃で5時間焼成することで、目的のMn-Na2WO4/SiO2を得た。なお、これは上記非特許文献2及び3にて開示された、高活性を示すOCM反応触媒と同等のものである。
【0063】
[Ca2SiO4の合成(比較例9)]
比較例9として、固相反応法によりCa2SiO4の合成を行った。原料試薬としてCaCO3及びSiO2を用い、目的化合物が0.010molとなるように各原料試薬をCaCO3:SiO2=2.0:1.0の比でそれぞれ秤量し、これらに少量のエタノールを加えてから乳鉢と乳棒を用いて混合及び粉砕した。得られた混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気中850℃で12時間仮焼成し、前駆体を得た。さらに、その前駆体を大気中1300℃で12時間本焼成することで、目的のCa2SiO4を得た。
【0064】
[触媒活性の評価1]
実施例1~10及び比較例1~9の各試料のそれぞれについて、0.3gを内径4mmのアルミナ反応管に詰め、触媒評価装置(SMP-MR3F、株式会社シマピコ製)にセットした。この反応管にCH4(1.00mL/min)、O2(0.25mL/min)及びN2(8.75mL/min)の混合ガスを流しながら昇温し、試料から発生したガスをガスクロマトグラフ(GC、Micro GC 3000、インフィコン株式会社製)により分析した。なお、この分析において、キャリアガスはアルゴンとし、カラムはPlot Q及びMolecular Sieve 4Aとした。標準ガス(Standrd Gas、ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて窒素のシグナルの相対強度から、CH4、C2H6、C2H4、CO2及びCOのガス積分係数を算出し、600~800℃の分析温度範囲で50℃おきに測定を行った。各試料におけるCH4転化率、C2選択率及びC2収率を算出した結果を表1に示す。なお、CH4転化率とは、供給したCH4の量に対して反応により消失したCH4の量の割合(%)であり、C2収率とは、供給したCH4の量に対して生成したC2化合物及びC3化合物の量の割合(%)であり、C2選択率とは、C2収率/CH4転化率の比(%)である。すなわち、C2選択率とは、反応したCH4のうち、C2及びC3化合物に転換されたものの割合になる。
【0065】
【0066】
[触媒活性の評価2]
実施例9及び比較例8の各試料のそれぞれについて、混合ガスの比率をCH4(1.00mL/min)、O2(0.50mL/min)及びN2(8.50mL/min)に変更したことを除き、上記触媒活性の評価1と同様の手順で触媒活性を評価した。その結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、希土類酸フッ化物SmOF、ScOF、YOF、Y6O5F8、YbOF及びYb6O5F8は、いずれも対応する酸化物Sm2O3、Sc2O3、Y2O3及びYb2O3より高い活性を示した。特に、酸フッ化物では酸化物に比べて高いC2選択率が得られた。また、リチウム含有複合酸フッ化物Li5SiO4F、Li5Ti2O6F及びLi4NbO4Fも高いC2収率を示し、特に、表2に示すように、CH4/O2=2とし、反応温度を800℃とした条件においては、Li4NbO4FのC2収率が27.7%と高い値を示した。これは、上記非特許文献2及び3にて開示された従来型のOCM反応触媒であるMn-Na2WO4/SiO2の16.2%を大きく上回るものだった。さらに、表1に示すように、カルシウム含有複合酸フッ化物Ca4Si2O7F2もまた、対応する酸化物Ca2SiO4に比べて高いC2選択率を示した。
【0069】
また、本発明の金属酸フッ化物型の触媒と、金属酸化物型の触媒との対比のために、触媒活性の評価1及び2におけるCH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものを
図11~19に示す。
図11は、実施例1及び比較例1についての試料評価結果であり、
図11(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図11(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図12は、実施例2及び比較例2についての試料評価結果であり、
図12(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図12(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図13は、実施例3、実施例4及び比較例3についての試料評価結果であり、
図13(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図13(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図14は、実施例5、実施例6及び比較例4についての試料評価結果であり、
図14(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図14(B)は、反応温度850℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図15は、実施例7及び比較例5についての試料評価結果であり、
図15(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図15(B)は、反応温度750℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図16は、実施例8及び比較例6についての試料評価結果であり、
図16(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図16(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図17は、実施例9及び比較例7についての試料評価結果であり、
図17(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図17(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図18は、実施例10及び比較例9についての試料評価結果であり、
図18(A)は、CH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図18(B)は、反応温度800℃におけるC
2炭化水素とCO
xとの選択性を示すグラフである。
図19は、実施例9と比較例8についての試料評価結果であり、
図19(A)は、CH
4/O
2=4におけるCH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものであり、
図19(B)は、CH
4/O
2=2におけるCH
4転化率、C
2選択率及びC
2収率の反応温度に対する変化をプロットしたものである。
【0070】
図11~19に示すように、金属酸フッ化物型の触媒は、いずれも対応する金属酸化物型の触媒よりも高い性能を示すことが理解される。
【0071】
[結晶のSEM-EDX観察]
実施例9の金属酸フッ化物(Li
4NbO
4F)の結晶について、上記試験前後のSEM-EDX画像を
図20に示す。
図20は、実施例9の金属酸フッ化物(Li
4NbO
4F)について、触媒活性評価前後のSEM-EDX観察した際の画像である。
図20に示すように、実施例9の金属酸フッ化物の結晶では、それを構成するNb、O及びFの各原子が結晶の全体にわたってそれぞれ均一に存在していることが理解され、このことから、本発明の金属酸フッ化物は、フッ化物と酸化物の単なる混合物ではなく、一つの化合物として単一相の結晶を形成していることがわかる。そして、そうした構造は、OCM反応の触媒として用いた後も破壊されずに維持されることがわかる。