(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018292
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】トンネル覆工コンクリートの施工方法及びトンネル覆工コンクリート用付着防止剤
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240201BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20240201BHJP
C04B 41/64 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
E04G21/02 103A
C04B41/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121520
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 智行
(72)【発明者】
【氏名】田邉 康孝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 裕光
(72)【発明者】
【氏名】西浦 秀明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 有佐
(72)【発明者】
【氏名】黒川 尚義
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
4G028
【Fターム(参考)】
2D155DA00
2D155LA06
2E172AA05
2E172DB13
2E172DD04
4G028CA01
4G028CB08
4G028CD03
(57)【要約】
【課題】先打ちコンクリートの表層劣化防止効果に優れるとともに、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの縁切り性に優れるトンネル覆工コンクリートの施工方法及びトンネル覆工コンクリート用付着防止剤を提供する。
【解決手段】先打ちコンクリート11を打設する工程と、先打ちコンクリート11の打継面11aに、付着防止剤12を塗設する工程と、付着防止剤12が塗設された打継面に接するように、後打ちコンクリート13を打設する工程と、を有し、付着防止剤12が、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する、トンネル覆工コンクリートの施工方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先打ちコンクリートを打設する工程と、
前記先打ちコンクリートの打継面に、付着防止剤を塗設する工程と、
前記付着防止剤が塗設された前記打継面に接するように、後打ちコンクリートを打設する工程と、を有し、
前記付着防止剤が、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する、
トンネル覆工コンクリートの施工方法。
【請求項2】
前記付着防止剤を塗設した前記打継面の水の接触角が、80度以上である請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの施工方法。
【請求項3】
前記付着防止剤を塗設し、後打ちコンクリートを打設した際の付着強度が、0.7N/mm2以下である請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの施工方法。
【請求項4】
前記付着防止剤が、シラン化合物及びシロキサン化合物を含有する請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの施工方法。
【請求項5】
トンネル覆工コンクリートの打継面に塗布する付着防止剤であって、
シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有するトンネル覆工コンクリート用付着防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工コンクリートの施工方法及びトンネル覆工コンクリート用付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を構築する際、施工上の制約等の理由により、旧コンクリートと新コンクリートとの打継部分を設けざるを得ない場合がある。この場合、双方の密着性が不十分であることによる弊害、たとえば雨水の侵入によるコンクリート内部の劣化や鉄筋の腐食および水路等では漏水が生じやすいことから、例えば、特許文献1及び2には、新旧コンクリートの一体化を図る打継方法が提案されている。
【0003】
一方、トンネルなどのコンクリート構造物の施工方法として、型枠の設置、コンクリートの打設、型枠の移動及び解体を繰り返して構築していく方法がある。この施工方法では、先打ちコンクリートを打設し、所定時間経過後に、後打ちコンクリートを打設するため、コンクリートの継ぎ目に打継目地が形成される。ところが、コンクリートの温度及び乾燥収縮による体積変化により、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとが互いに離れる方向に変形するため、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとが付着していると、打継目地に沿った先打ちおよび後打ちコンクリートの弱点部に沿って、ひび割れが発生し、浮き及び剥離が発生しやすくなるという課題があった。
この課題に対し、例えば、特許文献3及び4には、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの一体化を防ぐ打継方法、ひび割れ防止剤、及びコンクリート打継面用縁切り剤が報告されている。
また、非特許文献1には、覆工コンクリートの打継目地部の縁切り剤と付着強度試験結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-101456号公報
【特許文献2】特開2017-172220号公報
【特許文献3】特開2019-035283号公報
【特許文献4】特開2020-132499号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松丸貴英 他著「覆工コンクリート目地部の縁切り対策について」土木学会第71回年次学術講演会、平成28年9月7~9日、p.875-876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3及び4、並びに非特許文献1には、脆弱層を形成することによる先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの縁切り効果についての検討はなされているものの、先打ちコンクリートの表層劣化防止効果に優れるとともに、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの縁切り性に優れる施工方法及び付着防止剤については、十分な検討がなされていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、先打ちコンクリートの表層劣化防止効果に優れるとともに、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの縁切り性に優れるトンネル覆工コンクリートの施工方法及びトンネル覆工コンクリート用付着防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、先打ちコンクリートを打設する工程と、先打ちコンクリートの打継面に、付着防止剤を塗設する工程と、付着防止剤が塗設された打継面に接するように、後打ちコンクリートを打設する工程と、を有し、付着防止剤が、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する、トンネル覆工コンクリートの施工方法である。
【0008】
付着防止剤を塗設した打継面の水の接触角は、80度以上であることが好ましい。
【0009】
付着防止剤を塗設し、後打ちコンクリートを打設した際の打継面の付着強度は、0.7N/mm2以下であることが好ましい。
【0010】
付着防止剤は、シラン化合物及びシロキサン化合物を含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明のトンネル覆工コンクリート用付着防止剤は、トンネル覆工コンクリートの打継面に塗布する付着防止剤であって、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトンネル覆工コンクリートの施工方法及び付着防止剤によれば、先打ちコンクリートの表層劣化防止効果に優れるとともに、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの縁切り性に優れるトンネル覆工コンクリートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のトンネル覆工コンクリートの施工方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のトンネル覆工コンクリートの施工方法の一実施形態について、
図1を参照しながら説明する。
【0015】
[トンネル覆工コンクリートの施工方法]
本発明のトンネル覆工コンクリートの施工方法は、先打ちコンクリートを打設する工程と、先打ちコンクリートの打継面に、付着防止剤を塗設する工程と、付着防止剤が塗設された打継面に接するように、後打ちコンクリートを打設する工程と、を有し、付着防止剤が、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有するものである。
以下、各構成の詳細を説明する。
【0016】
(先打ちコンクリートを打設する工程)
先打ちコンクリートを打設する方法としては、公知の技術を用いることができる。一般的に、地山を掘削して構築するトンネルの施工方法として、NATM工法が挙げられる。NATM工法では、地山にコンクリートを吹付けて吹付けコンクリートを施工した後(1次覆工コンクリートとも称される。)、ロックボルトを打設し、防水処理をし、その後、セントル(型枠)10を用いてトンネルの内周面となる覆工コンクリートを打設する(2次覆工コンクリートとも称される。)(
図1(a)参照)。セントル10をトンネルの軸方向に移動させることによって、トンネルの内周面に、トンネルの軸方向に、順に覆工コンクリートが施工される。
本明細書では、既設の覆工コンクリートを先打ちコンクリート11と記載し、その後に打設される覆工コンクリートを後打ちコンクリート13と記載する。また、打継面とは、先打ちコンクリート11の、トンネル軸方向に垂直な端面であって、後打ちコンクリート13と接する面を意味する(以下、打継面11aと記載する。)。
【0017】
(付着防止剤を塗設する工程)
次に、
図1(b)に示すように、先打ちコンクリート11の打継面11aに、付着防止剤12を塗設する。塗設方法としては、作業効率が良く、また塗布量を把握できる観点から、刷毛又はローラーによる塗布、噴霧器による噴霧等が挙げられる。
【0018】
-塗布量-
打継面11aへの付着防止剤12の塗布量は、80g/m2以上であることが好ましく、90g/m2以上であることがより好ましく、100g/m2以上であることが更に好ましい。塗布量の上限値は特に限定されないが、例えば300g/m2以下、特には200g/m2以下である。
【0019】
先打ちコンクリート11の打継面11aは、概ね平滑であることが好ましい。本発明の付着防止剤12は、後述の粘度を有することから、平滑な打継面11aに対し、良好な付着性を有する。
【0020】
打継面11aに塗設する付着防止剤12は、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有するものである。付着防止剤12の詳細は、後述する。
【0021】
(後打ちコンクリートを打設する工程)
後打ちコンクリート13を打設する工程は、上記先打ちコンクリート11を打設する工程と同様に、セントル10を用いて行うことができる(
図1(c)参照)。
【0022】
-付着強度-
付着防止剤12を塗設し、後打ちコンクリート13を打設した際の打継面11aの付着強度は、0.7N/mm2以下であることが好ましく、0.5N/mm2以下であることがより好ましい。本明細書において、「付着強度」とは、付着防止剤を介在させた先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの付着強度を示す。
【0023】
本発明の施工方法によれば、詳細は後述するが、付着防止剤12を用いているため、先打ちコンクリート11への表層劣化防止効果に優れ、かつ、先打ちコンクリート11と後打ちコンクリート13との縁切り効果が得られる。その結果、先打ちコンクリート11と後打ちコンクリート13との間の打継目地14周辺におけるコンクリートのひび割れ及び剥離を防止することができる。
【0024】
[トンネル覆工コンクリート用付着防止剤]
本発明のトンネル覆工コンクリート用付着防止剤12(以下、単に付着防止剤12と記載する。)は、トンネル覆工コンクリートの打継面11aに塗布する付着防止剤であって、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する。
以下、各成分の詳細を説明する。
【0025】
(シラン化合物)
シラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
シラン化合物は、上記のいずれか1つを含有してもよく、2つ以上を組み合わせて含有してもよい。
シラン化合物は、付着防止剤12に、撥水性及びコンクリートの表面劣化防止効果を付与する。
【0026】
付着防止剤12中のシラン化合物の含有量は、10質量%以上95質量%以下であることが好ましく、30質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
シラン化合物の含有量が、10質量%以上であることにより、撥水性及びコンクリートの表面劣化防止効果を有し、95質量%以下であることにより、塗装作業性が良好となる。
【0027】
(シロキサン化合物)
シロキサン化合物としては、例えば、オルガノポリシロキサンレジンが挙げられる。オルガノポリシロキサンレジンは、メチルポリシロキサンレジンとメチルフェニルポリシロキサンレジンとに大別される。
【0028】
メチルポリシロキサンレジンとしては、一般にSiO2、CH3SiO3/2、(CH3)2SiO、(CH3)3SiO1/2の構造単位を組み合わせてできる三次元網状構造の共重合体が挙げられる。
【0029】
メチルフェニルポリシロキサンレジンとしては、一般にSiO2、CH3SiO3/2、C6H5SiO3/2、(CH3)2SiO、(C6H5)3SiO3/2、(CH3)3SiO1/2、(C6H5)(CH3)SiO、(C6H5)2SiOの構造単位を組み合わせてできる三次元網状構造の共重合体が挙げられる。
【0030】
オルガノポリシロキサンレジンとしては、例えば、SR2406、SR2410、SR2420、SR2416、SR2402、AY42-161(以上東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、ワッカーBS1042(以上旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)、FZ-3704、FZ-3511(以上日本ユニカー社製)、KC-89S、KR-242A、KC-89、KC-89S、KR-400、KR-500、KR-510、X-40-9225、X-40-9246、X-40-9250、X-40-9227、X-40-9238、X-40-9247、KR-251、KR-400、KR-401N、KR-510、KR-9218、KR-217、X-41-1053、X-41-1056、X-41-1805、X-41-1810、X-40-175、X-40-2239、X-40-2308、X-40-2327、X-40-2651、X-40-2655A、X-40-9740、KR-271、KR-282、KR-300、KR-311、KR-212、KR-213、KR-255、ES-1001N、ES-1002T、ES-1023、ES-5206、ES-5230、ES-5235、ES-9706(以上信越化学工業(株)製)などの市販品を用いてもよい。
【0031】
付着防止剤12中のシロキサン化合物の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。シロキサン化合物の含有量が、1質量%以上であることにより、撥水性及びコンクリートの表面劣化防止効果に優れ、30質量%以下であることにより、塗装作業性が良好となる。
【0032】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂としては、シリコーン樹脂及びアクリルシリコーン樹脂が挙げられる。
付着防止剤12中のシリコーン樹脂の含有量は、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、1質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。シリコーン樹脂の含有量が、1質量%以上であることにより、撥水性及びコンクリートの表面劣化防止効果に優れ、80質量%以下であることにより、塗装作業性が良好となる。
【0033】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン樹脂)、ECTFE(エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロ、エチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)、PVF(ポリフッ化ビニル)、含フッ素ビニルモノマー及び該含フッ素ビニルモノマーと共重合可能なビニル基を含有する重合性ビニルモノマーを、ラジカル重合開始剤を用いて、塊状重合、溶液重合、乳化重合法等の重合方法で重合させて得られる含フッ素共重合体等が挙げられる。
付着防止剤12中のフッ素樹脂の含有量は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、1質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。フッ素樹脂の含有量が、1質量%以上であることにより、撥水性及びコンクリートの表面劣化防止効果に優れ、60質量%以下であることにより、塗装作業性が良好となる。
【0034】
(その他の成分)
付着防止剤12は、その他の成分として、添加剤、溶媒、硬化剤、色材、その他樹脂、単量体等を含有してもよい。添加剤としては、濡れ剤、硬化促進剤、粘性調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0035】
濡れ剤としては、シリコーンオイル、界面活性剤等が挙げられる。付着防止剤12中の濡れ剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。濡れ剤の含有量が上記範囲であることにより、コンクリートへの濡れ性や含浸性、塗装作業性が良好となる。
【0036】
硬化促進剤としては、金属触媒を用いることが好ましく、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレエート、ジオクチルスズマレエート、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物;りん酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェート等のりん酸又はりん酸エステル;ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウムなどの有機チタネート化合物;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトライソブチルジルコネート、ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。
硬化促進剤は、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂の硬化を促進する効果を有する。
付着防止剤12中の硬化促進剤の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が、0.05質量%以上であることにより、付着防止剤12の乾燥時間を短縮することができ、5質量%以下であることにより、塗付剤の貯蔵安定性が向上する。
【0037】
コンクリートへの塗装作業性を向上し、垂直面に塗装する際にも付着防止材の垂れや飛散を防止するためには、粘性調整剤を含むことが好ましい。
粘性調整剤としては、脂肪酸アマイド、脂肪酸エステル、有機変性粘土鉱物、金属石鹸、アクリルオリゴマー、酸化ポリエチレン等が挙げられる。
付着防止剤12中の粘性調整剤の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。粘性調整剤の含有量が、上記範囲であることにより、塗装作業性が良好となる。
【0038】
本発明の付着防止剤は無溶剤でも適用できるが、粘性や溶解性を調整するために適宜溶媒を含むこともできる。
溶媒としては、水、アルコール、弱溶剤、強溶剤等が挙げられる。溶媒を含有することにより、付着防止剤12の粘度を調整することができる。また、溶媒は、塗装作業性、並びに他の配合物の溶解性及び分散性を向上させる。
付着防止剤12中の溶媒の含有量は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量が、1質量%以上であることにより、塗装作業性が良好となる。また、溶媒の含有量が、50質量%以下であることにより、環境への負荷を軽減することができ、また、乾燥時間を短縮することができる。
【0039】
(接触角)
付着防止剤12を塗設した打継面11aの水の接触角は、80度以上170度未満であることが好ましく、90度以上170度未満であることが好ましく、100度以上160未満であることがより好ましい。水の接触角が、80度以上であることにより、十分な撥水性を有し、後打ちコンクリート13の付着を防止することができる。また、打継面11aの水の接触角が、170度未満であることにより、塗装作業性が良好となる。
付着防止剤12を塗設した打継面11aの水の接触角は、JIS R 3257に従っ測定するものとする。
【0040】
(シラン化合物とシロキサン化合物の割合)
シラン化合物とシロキサン化合物の割合(シラン化合物:シロキサン化合物)は、30:1以上1:1以下であることが好ましく、20:1以上3:2以下であることがより好ましい。シラン化合物とシロキサン化合物の割合が、上記範囲であることにより、コンクリート含浸性と撥水性のバランスが良好になり、縁切り効果が高くなる。
【0041】
(粘度)
付着防止剤12の粘度は、80mPa・s以上500mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以上500mPa・s以下がより好ましく、150mPa・s以上300mPa・s以下が更に好ましい。本発明において、先打ちコンクリート11の打継面11aはトンネルの軸方向に垂直な方向(鉛直方向)であることから、粘度が上記範囲であることにより、塗装作業性が向上し、垂れや飛散を防止しやすくなるとともに均一に塗装しやすくなる。
粘度は、JIS K 7117に従って測定するものとする。
【0042】
本発明の付着防止剤は、シラン化合物、シロキサン化合物、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有することによって、これら樹脂又は化合物は被塗面である先打ちコンクリートへの付着性と保護性に優れるとともに、表面の撥水性に優れる。このため、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの縁切り性に優れるとともに、先打ちコンクリートの表層劣化防止効果に優れる。また、先打ちコンクリート11と後打ちコンクリート13との縁切り性が良好であるため、覆工コンクリートの打継目地14周辺のコンクリートのひび割れ及び剥離を防止することができる。
【実施例0043】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
本発明の施工方法による覆工コンクリートの縁切り性、付着防止剤の性能を評価するため、以下の試験を行った。
【0045】
(供試体の作製)
供試体は、覆工コンクリートの施工サイクルを模して以下の要領にて作成した。
(1)先打ちコンクリートの打設:円柱の供試体型枠にφ100mm×100mmの先打ちコンクリートを打込み後、木製型枠を設置し、24時間室温にて静置した。
(2)付着防止剤の塗布:脱型し、打継目に付着防止剤を塗布した後、24時間室温にて静置した。各実施例及び比較例における付着防止剤の塗布量を表1に示す。
(3)後打ちコンクリートの打設:φ100mm×100mmの後打ちコンクリートを打設し、48時間室温にて静置してφ100mm×200mmの供試体を得た。
【0046】
付着防止剤の成分の詳細は以下のとおりである。
・シロキサン化合物(商品名「KC-89S」、信越化学工業株式会社製)
・シロキサン化合物(商品名「ワッカーBS1042」、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)
・シリコーン樹脂(商品名「ゼムラックYC3623」、アルキルシリコーン樹脂、株式会社カネカ製)
・フッ素樹脂(商品名「ルミフロンLF200」、架橋性含フッ素共重合体、AGC株式会社製)
・アルキッド樹脂塗料(商品名「タイコーペイント」、合成樹脂調合ペイント、大日本塗料株式会社製)
・濡れ剤(商品名「BYK-320」、変性シリコーン、ビックケミージャパン株式会社製)
・硬化促進剤(商品名「ネオスタンU-100」、スズ系硬化触媒、日東化成株式会社製)
・粘性調整剤(商品名「ターレン8200-20」、脂肪酸アマイド、共栄社化学株式会社製)
【0047】
[実施例2から実施例18]
付着防止剤の配合を表1に記載のものとした以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0048】
[比較例1]
比較例1については、付着防止剤を塗布せずに同様の試験を行った。
【0049】
[比較例2]
付着防止剤の代わりにアルキッド樹脂塗料を使用したこと以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0050】
[評価]
上記実施例及び比較例について、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0051】
(塗装作業性)
先打ちコンクリートの打継面に対し、ローラーによって付着防止剤の塗設作業を行い、以下の基準で評価を行った。
A:支障なく塗設が可能である。
B:塗設が可能であるが工夫が必要である。
C:塗設が困難である。
【0052】
(垂れ防止性)
先打ちコンクリートの打継面に対し、ローラーによって付着防止剤の塗設作業を行い、乾燥前の付着防止剤の状態について以下の基準で評価を行った。
A:垂れも飛散も生じず、容易に施工できる。
B:飛散を生じないが、垂れを防止するために工夫が必要である。
C:垂れと飛散を生じる。
【0053】
(乾燥性)
先打ちコンクリート11の打継面に対し、ローラーによって付着防止剤の塗設作業を行い、乾燥性について以下の基準で評価を行った。
A:乾燥時間が5時間以内である。
B:乾燥時間が10時間以内である。
C:乾燥時間が10時間を超える。
【0054】
(付着強度)
上記方法によって得た供試体(材齢2日)について、中央点載荷法による曲げ強度試験を実施し、打継面の付着強度を測定した。
【0055】
(撥水性)
先打ちコンクリート11の打継面11aに対し、ローラーによって付着防止剤の塗設作業を行い、乾燥後にJIS R 3257に準ずる方法によって23℃における水の接触角を測定した。
【0056】
(縁切り性)
付着強度試験の破断箇所について、以下の基準で評価を行った。
縁切り性を有している場合は先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの界面に破壊を生じなかった。また、縁切り性に加えてコンクリートの表面劣化防止効果にも優れる場合は界面に凹凸を生じることなく破断した。
A:N=3の評価において、いずれも先打ちコンクリート11および後打ちコンクリート13に破壊が生じず、付着防止剤と後打ちコンクリート13の界面で凹凸を生じることなく破断する。
B:N=3の評価において、いずれも先打ちコンクリート11および後打ちコンクリート13に破壊が生じず、付着防止剤と後打ちコンクリート13の界面で破断するが、1以上2未満のサンプルで破断面に20面積%未満の凹凸がある。
C:N=3の評価において、いずれも先打ちコンクリート11および後打ちコンクリート13に破壊が生じず、付着防止剤と後打ちコンクリート13の界面で破断するが、N=3のサンプルすべてに破断面に凹凸を生じるか、1以上のサンプルで破断面に20面積%以上の凹凸がある。
D:先打ちコンクリート11および後打ちコンクリート13に破壊が生じる。
【0057】
【0058】
付着防止剤を使用しない比較例1に比べ、付着防止剤を使用した実施例1~18及び比較例2は縁切り性に優れていた。また、合成樹脂調合ペイントを用いた比較例2に比べて実施例1~18は付着強度が低く、縁切り性に加えてコンクリートの表層劣化防止効果にも優れていることが確認できた。
本発明のトンネル覆工コンクリートの施工方法は、鉄道トンネル及び道路トンネルの他、人道トンネルや地下発電所等、NATM(山岳トンネル工法)で構築する地下構造物全般を含めた施工に用いることができる。さらには、トンネル覆工コンクリートに限られず、コンクリート同士の縁切り性が求められる建造物にも適用することができる。