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特開2024-18294無機コーテッドサンドおよびその製造方法、ならびに無機コーテッドサンドの保存安定性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018294
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】無機コーテッドサンドおよびその製造方法、ならびに無機コーテッドサンドの保存安定性向上方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/18 20060101AFI20240201BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B22C1/18
B22C1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121526
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】石山 翔午
(72)【発明者】
【氏名】青沼 宏明
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA18
4E092BA01
4E092CA03
(57)【要約】
【課題】再生砂もしくは非晶化度の高い耐火性骨材を用いて作製された無機コーテッドサンドの保存安定性を向上できる無機コーテッドサンドを提供する。
【解決手段】無機コーテッドサンドは、耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、両性金属から形成された第1被覆層と、前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む第2被覆層と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、
両性金属から形成された第1被覆層と、
前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む第2被覆層と、
を有する、無機コーテッドサンド。
【請求項2】
請求項1に記載の無機コーテッドサンドであって、
前記両性金属が、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫の中から選ばれる1種以上である、無機コーテッドサンド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無機コーテッドサンドであって、
前記第1被覆層の含有量は、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)いずれか100質量部に対して、0.02質量部以上10質量部以下である、無機コーテッドサンド。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の無機コーテッドサンドであって、
前記第2被覆層の含有量は、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)いずれか100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下である、無機コーテッドサンド。
【請求項5】
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、
両性金属から形成された第1被覆層と、
前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む第2被覆層と、
を有する、無機コーテッドサンドの製造方法であって、
前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、前記両性金属と、を混合し、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)の表面に前記第1被覆層を形成する工程と、
表面に前記第1被覆層が形成された前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、メタケイ酸塩水和物の溶融液と、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度まで冷却し、前記第1被覆層上に前記第2被覆層を形成する工程と、
を含む、無機コーテッドサンドの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の無機コーテッドサンドにより形成された鋳造用鋳型。
【請求項7】
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)上に、メタケイ酸塩水和物層を有する、無機コーテッドサンドにおいて、
前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、前記メタケイ酸塩水和物層との間に、両性金属から形成される第1被覆層を介在させることにより当該無機コーテッドサンドの保存安定性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機コーテッドサンドおよびその製造方法、ならびに無機コーテッドサンドの保存安定性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の鋳造に用いられる鋳型としては、例えば、耐火性骨材と、耐火性骨材の表面に形成された無機粘結剤層とを有する無機コーテッドサンドを用いて、目的とする形状に造型して得られたものが知られている。
このような無機コーテッドサンドに関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2020-11296号公報)、特許文献2(特開2014-117740号公報)に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、耐火性骨材と、前記耐火性骨材の表面に形成された無機系粘結剤層と、を有する乾態の無機コーテッドサンドであって、該無機系粘結剤層がメタケイ酸塩水和物を含む、無機コーテッドサンドについて記載されている。
【0004】
特許文献2には、加熱した耐火性骨材に対して、粘結材として特定の水ガラス水溶液を混和せしめ、水分を蒸発させることにより、かかる耐火性骨材の表面に粘結材の被覆層を形成してなる、常温流動性を有する乾態のコーテッドサンドに関する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-11296号公報
【特許文献2】特開2014-117740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鋳造後、鋳型に用いたコーテッドサンドは、通常、鋳型を破壊(解砕)して単粒子にした回収砂に種々の方法で再生処理を施した再生砂として再利用される。経済的観点及び廃棄物低減の観点から、鋳物工場では、再生砂を用いて鋳型を製造することは一般的である。
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1および2に記載されるような無機コーテッドサンドの再生砂を用い、新たにメタケイ酸塩水和物層を形成して無機コーテッドサンドを作製すると、その保存安定性の点で改善の余地があることを判明した。また、非晶化度が比較的高い耐火性骨材を用いてメタケイ酸塩水和物層を形成して無機コーテッドサンドを作製した場合においても、その保存安定性が十分ではない場合があることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、かかる問題を解決する点から鋭意検討を行ったところ、耐火性骨材の表面に所定の無機粘結剤層が被覆された再生砂、または非晶化度が比較的高い耐火性骨材に対し、メタケイ酸塩水和物層を形成する前に、予め両性金属を用いた被膜を形成することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、
両性金属から形成された第1被覆層と、
前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む第2被覆層と、
を有する、無機コーテッドサンドが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、
両性金属から形成された第1被覆層と、
前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む第2被覆層と、
を有する、無機コーテッドサンドの製造方法であって、
前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、前記両性金属と、を混合し、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)の表面に前記第1被覆層を形成する工程と、
表面に前記第1被覆層が形成された前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、メタケイ酸塩水和物の溶融液と、を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度まで冷却し、前記第1被覆層上に前記第2被覆層を形成する工程と、
を含む、無機コーテッドサンドの製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
上記の無機コーテッドサンドにより形成された鋳造用鋳型が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)上に、メタケイ酸塩水和物層を有する、無機コーテッドサンドにおいて、
前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)と、前記メタケイ酸塩水和物層との間に、両性金属から形成される第1被覆層を介在させることにより当該無機コーテッドサンドの保存安定性を向上させる方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、再生砂または非晶化度の高い耐火性骨材を用いて作製された無機コーテッドサンドの保存安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。また、本明細書中において、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければA以上B以下の範囲を表す。また、各実施形態に記載される構成・要素は発明の効果を損なわない限りにおいて適宜組み合わせることもできる。
【0015】
<無機コーテッドサンド>
本実施形態の無機コーテッドサンドは、耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)の表面に、両性金属から形成された第1被覆層と、前記第1被覆層上に形成されたメタケイ酸塩水和物から形成からされた第2被覆層(以下「メタケイ酸塩水和物層(C)」とも称する。)と、を有する。
すなわち、再生砂(A)または耐火性骨材(B)を用いて無機コーテッドサンドを作製する際に、再生砂(A)または耐火性骨材(B)上にメタケイ酸塩水和物層(C)(第2被覆層)を形成する前に、両性金属から形成された第1被覆層を介在させることによって、再生砂(A)または耐火性骨材(B)を用いた無機コーテッドサンドの保存安定性を向上することができる。
【0016】
かかる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推測される。
(i)再生砂(A)の表面には、鋳造に一度使用された無機粘結剤の残留物が付着している。そこで、無機粘結剤の残留物を有する再生砂(A)の表面にメタケイ酸塩水和物を被覆して無機コーテッドサンドを作製した場合、残留物中の成分とメタケイ酸塩水和物が反応して、メタケイ酸水和物結晶が融解し、無機コーテッドサンドが湿態化してしまう。
(ii)一方、非晶化度が20%以上の耐火性骨材(B)の表面にメタケイ酸塩水和物を被覆して無機コーテッドサンドを作製した場合も(i)と同様に、耐火性骨材(B)の非晶質成分とメタケイ酸塩水和物が反応しうるため、メタケイ酸水和物結晶が融解し、無機コーテッドサンドが湿態化してしまう。
(iii)そこで、再生砂(A)または耐火性骨材(B)上にメタケイ酸塩水和物層(C)を形成する前に、両性金属から形成された第1被覆層を介在させることによって、かかる両性金属がメタケイ酸塩水和物結晶に作用して結晶を安定化させ、融解を抑制できると推測される。その結果、その後、第1被覆層上にメタケイ酸塩水和物層(C)を形成したとしても、無機コーテッドサンドの湿態化を抑制し、保存安定性を向上できる。
【0017】
以下、本実施形態の無機コーテッドサンドについてさらに具体的に説明する。
【0018】
無機コーテッドサンドは、具体的には無機コーテッドサンド(砂)の粒子群で構成される。
【0019】
流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、無機コーテッドサンドは球状であることが好ましい。ここで、無機コーテッドサンドが球状とはボールのような丸い形状をしたものをいう。
より具体的には、流動性、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、無機コーテッドサンドの球形度は好ましくは0.75以上であり、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.82以上である。また、球形度の上限値については、具体的には1以下である。本実施形態において、無機コーテッドサンドの球形度は、具体的には後述する耐火性骨材の球形度と一致する。
【0020】
ここで、無機コーテッドサンドの球形度は、光学顕微鏡またはデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により得られた粒子の像(写真)を画像解析することにより、粒子の粒子投影断面の面積及び該断面の周囲長を求め、次いで、〔粒子投影断面の面積(mm)と同じ面積の真円の円周長(mm)〕/〔粒子投影断面の周囲長(mm)〕を計算し、任意の50個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して求めることができる。
【0021】
無機コーテッドサンドの平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさ、保存安定性の観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、無機コーテッドサンドの平均粒子径が上記下限値以上であると、鋳型の製造の際に、メタケイ酸塩水和物層(C)等の使用量を減らすことができるため、無機コーテッドサンドの再生がより容易となる点においても好ましい。
無機コーテッドサンドの平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。また、無機コーテッドサンドの平均粒子径が上記上限値以下であると、鋳型の製造の際に、空隙率が小さくなり、鋳型強度を高められる点においても好ましい。
【0022】
本実施形態において、無機コーテッドサンドおよび後述する耐火性骨材の平均粒子径は、具体的には以下の方法により測定することができる。
【0023】
(平均粒子径の測定方法)
粒子の粒子投影断面からの球形度=1の場合は直径(mm)を測定し、一方、球形度<1の場合はランダムに配向させた粒子の長軸径(mm)と短軸径(mm)を測定して(長軸径+短軸径)/2を求め、任意の100個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して平均粒子径(mm)とする。長軸径と短軸径は、以下のように定義される。粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最小となる粒子の幅を短軸径といい、一方、この平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を長軸径という。
粒子の長軸径と短軸径は、光学顕微鏡またはデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により該粒子の像(写真)を撮影し、得られた像を画像解析することにより求めることができる。
【0024】
[再生砂(A)]
再生砂(A)は、耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する。
再生砂(A)は、例えば、後述の製造方法によって得られるものである。
【0025】
(耐火性骨材)
耐火性骨材の材料として、天然砂および人工砂からなる群から選択される1種以上が挙げられる。耐火性骨材は、具体的には耐火性骨材の粒子群で構成される。
【0026】
天然砂としては、例えば、石英質を主成分とする珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
人工砂としては、例えば、合成ムライト砂、SiOを主成分とするSiO系の鋳物砂、Alを主成分とするAl系の鋳物砂、SiO/Al系の鋳物砂、SiO/MgO系の鋳物砂、SiO/Al/ZrO系の鋳物砂、SiO/Al/Fe系の鋳物砂、スラグ由来の鋳物砂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。ここで、主成分とは、砂の含有成分の中で最も多い成分をいう。
人工砂とは、天然より産出する鋳物砂ではなく、人工的に金属酸化物の成分を調製し、溶融または焼結した鋳物砂のことを表す。また、使用済みの耐火性骨材を回収した回収砂や、回収砂に再生処理を施した再生砂なども使用できる。
【0028】
耐火性骨材は、無機コーテッドサンドの流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、好ましくは粒子状である。
また、耐火性骨材の平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上である。また、耐火性骨材の平均粒子径が上記下限値以上であると、鋳型の製造の際に、無機粘結剤層(a)の使用量を減らすことができるため、無機コーテッドサンドの再生がより容易となるという点においても好ましい。
耐火性骨材の平均粒子径は、鋳型品質および鋳型強度向上の観点や、鋳型の造型しやすさの観点から、好ましくは2mm以下であり、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。また、耐火性骨材の平均粒子径が上記上限値以下であると、鋳型の製造の際に、空隙率が小さくなり、鋳型強度を高められるという点においても好ましい。
【0029】
耐火性骨材の非晶化度は、骨材の表面がより平滑になって鋳型強度がより向上する観点や、低熱膨張性を得る観点から、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、80%以上がより更に好ましい。
耐火性骨材の非晶化度の上限は限定されないが、例えば、100%以下であり、99%以下であってもよい。
【0030】
耐火性骨材の非晶化度の制御方法には様々な手法があるが、一般には溶融物を急冷させるような製造方法を用いることが好ましい。例えば、原料を溶融させ、エアーで風砕させ急冷する方法や、火炎中において処理し、急冷させる方法がある。いずれにおいても、冷却方法は材質、粒径によって様々な速度で適宜選択されればよい。また、一旦結晶化したものを熱処理と冷却処理にて非晶化させる方法も考えられる。これらの中でも、加熱と冷却が容易に制御できる火炎溶融法を用いたものが好ましい。
【0031】
(無機粘結剤層(a))
無機粘結剤層(a)は、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含み、耐火性骨材の表面を被覆している。なお、被覆とは、連続である場合に限られず、一部に非連続な部分があってもよい。
【0032】
無機粘結剤層(a)は、耐火性骨材と耐火性骨材の表面に形成された無機粘結剤を有する無機コーテッドサンドを鋳造用の鋳型に成形し、鋳型として使用した後、再生して再生砂としたときに、当該無機粘結剤が残留無機粘結剤として耐火性骨材の表面に存在するものを意図する。
すなわち、無機粘結剤層(a)に含まれる上記のケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物は、残留無機粘結剤が耐火性骨材の表面に存在していることを意図する。
上記ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物は、具体的には、例えば、ケイ酸塩、およびメタケイ酸塩等、反応物としては、ケイ酸塩と非晶質シリカとの反応物、メタケイ酸塩と非晶質シリカとの反応物等がそれぞれ挙げられ、1種または2種以上が混在している。また、塩を構成するカチオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、およびアンモニウムなどの1価のカチオン、並びに、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛などの2価のカチオンが挙げられる。
【0033】
無機粘結剤層(a)は、保存安定性をより向上させる観点から、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫の中から選ばれる1種以上をさらに含有することが好ましい。こうすることにより、仮に、無機粘結剤層(a)の表面にメタケイ酸塩水和物を被覆した場合であっても、無機粘結剤層(a)中の酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫が当該メタケイ酸塩水和物の結晶に作用して結晶を安定化させることができ、メタケイ酸水和物結晶の融解を抑制するため、保存安定性を一層向上できる。
【0034】
無機粘結剤層(a)にケイ酸塩やケイ酸塩の反応物が含まれていることを確認する方法としては、例えば、再生砂を塩酸水溶液中で攪拌して溶出した成分をICP発光分析装置で分析し、ケイ酸イオンやナトリウムイオン等の濃度などを求める方法、再生砂表面を走査型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で元素分析し、ケイ素やナトリウムなどの存在を確認する方法、あるいは23Na、29Si固体NMRによるケイ酸塩由来の構造を確認する方法が挙げられる。
【0035】
[耐火性骨材(B)]
耐火性骨材(B)は非晶化度が少なくとも20%以上であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは50%以上である。
耐火性骨材(B)としては、上記再生砂(A)の耐火性骨材として説明したもののうち、非晶化度が20%以上のものが用いられる。
【0036】
耐火性骨材(B)の非晶化度は、例えば、以下に示されるX線回折法によって求められる。
(X線回折法)
耐火性骨材(B)を乳鉢で粉砕し、粉末X線回折装置のX線ガラスホルダーに圧着して測定する。粉末X線回折装置は、理学電機社製MultiFlex(光源CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)を用い、2θ=5~90°の範囲で走査間隔0.01°、走査速度2°/min、スリット DS1、SS1、RS0.3mmにて行う。2θ=10°~50°の範囲で、低角度側及び高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグラウンドとし、機器付属のソフトを用いて結晶化度を求め、100から引いて非晶化度とする。具体的には、バックグラウンドより上の面積について、非晶質ピーク(ハロー)と各結晶性成分をカーブフィッティングにより分離し、それぞれの面積を求め、下記式にて非晶化度(%)を計算する。
非晶化度(%)=ハローの面積/(結晶性成分面積+ハロー面積)×100
【0037】
[第1被覆層]
第1被覆層は、再生砂(A)および耐火性骨材(B)の表面に形成された被覆層であり、無機コーテッドサンドの保存安定性の向上に用いられる。なお、被覆層は、全面を連続的に覆う場合に限られず、一部に非連続な領域または非被覆領域があってもよい。
第1被覆層は、両性金属から形成される。本実施形態において、両性金属とは、両性酸化物又は両性水酸化物を意味する。具体的には、アルミニウム、亜鉛、錫、および鉛の酸化物あるいは水酸化物を示す。特に、本実施形態の両性金属は、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫の中から選ばれる1種以上または2種以上であることが好ましい。
第1被覆層が両性金属を含むことによって、再生砂(A)および耐火性骨材(B)と、メタケイ酸塩水和物層(C)の相互作用を抑制し、無機コーテッドサンドの保存安定性を向上できる。
【0038】
第1被覆層の含有量は、保存安定性を向上する観点から、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)いずれか100質量部に対して、好ましくは0.02質量部以上であり、より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.10質量部以上である。
第1被覆層の含有量は、良好な保存安定性を保持しつつ、無機コーテッドサンドの良好な鋳造性、取扱い性を向上する点から、前記再生砂(A)および/または前記耐火性骨材(B)いずれか100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。
第1被覆層の含有量は、無機コーテッドサンドの製造工程で添加する両性金属量(質量)を調整することで制御できる。
【0039】
第1被覆層における両性金属の性状は、特に限定されないが、メタケイ酸塩水和物結晶に作用しやすくなる観点から、粒子であることが好ましい。すなわち、第1被覆層は、両性金属の粒子から形成されるものであってもよい。
【0040】
第1被覆層における両性金属の各平均粒子径はメタケイ酸塩水和物結晶に作用しやすくなる観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下であり、さらにより好ましくは20μm以下であり、さらにより好ましくは15μm以下である。
また、第1被覆層における両性金属の各平均粒子径は、取り扱いやすさの観点、入手容易性の観点、及び安全性の観点から、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.3μm以上であり、さらに好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは1μm以上である。
【0041】
第1被覆層における両性金属(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫)の各平均粒子径は、具体的には、以下の測定方法を用いて行うことができる。
(平均粒子径の測定方法)
レーザー回折式粒度分布測定装置LA-960V2(堀場製作所社製)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径(d50)である。分析条件は以下の通りである。
・測定方法:フロー法
・分散媒:水
・分散方法:攪拌、内蔵超音波3分
・試料濃度:2mg/100mL
・屈折率:酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫の各屈折率(酸化亜鉛:2.00、水酸化亜鉛:1.63、水酸化アルミニウム:1.57、酸化錫:2.01)
【0042】
ここで、上記のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50は、例えば無機コーテッドサンドから第1被覆層を水で溶解または分散させて除去し、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫を取り出し、次いで、得られた酸化亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、および酸化錫の粒度をレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定することによって得ることができる。
【0043】
第1被覆層中の両性金属の合計含有量は、保存安定性を向上する観点から、第1被覆層100質量部に対し、好ましくは40質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、さらに好ましくは80質量部以上であり、ことさらに好ましくは90質量部以上であり、100質量部であってもよい。
【0044】
[メタケイ酸塩水和物層(C)(第2被覆層)]
メタケイ酸塩水和物層(C)は、第1被覆層上に形成された被覆層であり、再生砂(A)および耐火性骨材(B)に粘結剤としての機能を付与するために用いられる。メタケイ酸塩水和物層(C)は、第1被覆層の表面に直接接するようにして形成されることが好ましい。
なお、被覆とは、連続である場合に限られず、一部に非連続の領域があってもよい。
【0045】
メタケイ酸塩水和物層(C)は、メタケイ酸塩水和物を含む無機粘結剤を含有する。
【0046】
無機コーテッドサンド中のメタケイ酸塩水和物層(C)の含有量は、保存安定性を向上させ、鋳型強度を向上させる観点から、無機コーテッドサンド中の水以外の成分全体に対して、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、さらにより好ましくは0.7質量%以上であり、殊更好ましくは0.9質量%以上である。
また、成形金型への充填性を向上させる観点、および、鋳型強度を向上させる観点から、無機コーテッドサンド中のメタケイ酸塩水和物層(C)の含有量は、無機コーテッドサンド中の水以外の成分全体に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下であり、さらにより好ましくは4.5質量%以下であり、殊更好ましくは4質量%以下である。
ここで、メタケイ酸塩水和物層(C)の含有量は、メタケイ酸塩水和物層(C)に含まれる水を除く含有量をいう。例えば、後述するメタケイ酸ナトリウム水和物を用いる場合、メタケイ酸ナトリウムに換算して含有量を求める。
【0047】
保存安定性を向上しつつ、鋳型強度を向上させる観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)の含有量は、再生砂(A)または耐火性骨材(B)100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上であり、さらにより好ましくは0.7質量部以上であり、殊更好ましくは0.9質量部以上である。
また、保存安定性を保持しつつ、成形金型への充填性を向上させる観点、および、鋳型強度を向上させる観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)の含有量は、再生砂(A)または耐火性骨材(B)100質量部に対し、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、さらに好ましくは6質量部以下であり、さらにより好ましくは4.5質量部以下であり、殊更好ましくは4質量部以下である。
【0048】
次に、メタケイ酸塩水和物層(C)に含まれる成分を説明する。
【0049】
(無機粘結剤)
無機粘結剤は、メタケイ酸塩水和物を含み、メタケイ酸塩水和物層(C)に粘結剤としての機能を付与するために用いられる。
【0050】
メタケイ酸塩水和物としては、メタケイ酸ナトリウム水和物が好ましい
メタケイ酸ナトリウム水和物としては、メタケイ酸ナトリウム5水和物およびメタケイ酸ナトリウム9水和物から選択される少なくとも1種が好ましく、メタケイ酸ナトリウム9水和物がより好ましい。
【0051】
メタケイ酸塩水和物層(C)中の無機粘結剤の含有量は、鋳型強度を向上する観点、および、鋳型の表面形状を良好にする観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)全体に対して好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。
また、保存安定性を保持し、高温での鋳型の変形を抑制する観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)中の無機粘結剤の含有量は、メタケイ酸塩水和物層(C)全体に対して好ましくは94質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下である。
ここで、メタケイ酸塩水和物層(C)中の無機粘結剤の含有量は、メタケイ酸塩水和物層(C)中の水以外の成分全体に対する、水分を除く無機粘結剤の含有量をいう。
【0052】
無機粘結剤中のメタケイ酸ナトリウムの含有量の合計は、鋳型強度を向上する観点、生産性に優れる観点および入手容易性の観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、よりさらに好ましくは98質量%以上であり、よりさらに好ましくは実質的に100質量%である。
ここで「実質的」とは、意図せずに含まれる成分、例えば、原料であるメタケイ酸ナトリウム中に含まれるメタケイ酸ナトリウム以外の成分を含みうることを意味する。
無機粘結剤中のメタケイ酸ナトリウムの含有量の合計は、無機粘結剤中の水以外の成分全体に対する、メタケイ酸ナトリウムの含有量の合計をいう。
【0053】
また、無機コーテッドサンド中の無機粘結剤の含有量は、保存安定性を向上しつつ、鋳型強度を向上させる観点から、再生砂(A)または耐火性骨材(B)100質量部に対して、好ましくは0.03質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上であり、さらにより好ましくは0.7質量部以上である。
また、保存安定性を保持し、成形金型への充填性を向上させる観点から、無機コーテッドサンド中の無機粘結剤の含有量は、再生砂(A)または耐火性骨材(B)100質量部に対して、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下であり、さらにより好ましくは2質量部以下である。
【0054】
(無機微粒子)
本実施形態において、無機コーテッドサンドは、無機微粒子をさらに含んでもよい。
無機微粒子を含む場合、無機微粒子はメタケイ酸塩水和物層(C)の一部をなすことが好ましい。具体的には、メタケイ酸塩水和物層(C)は、その層上および層中の少なくとも一方に無機微粒子をさらに含むことが好ましく、層上に無機微粒子をさらに含むことがより好ましい。無機微粒子は、メタケイ酸塩水和物層(C)上とメタケイ酸塩水和物層(C)中の両方に含まれていてもよい。こうすることで、無機コーテッドサンドの粒子同士が無機微粒子を介してより強固に結着し、その結果、得られる鋳型の強度をさらに向上させることができる。なお、メタケイ酸塩水和物層(C)上の無機微粒子は、メタケイ酸塩水和物層(C)に一部埋め込まれていてもよい。
【0055】
無機微粒子としては限定されないが、例えば、シリカ粒子、シリコン粒子等が挙げられ、鋳型の強度を向上させる観点から、シリカ粒子が好ましく、比表面積が大きく、メタケイ酸塩との反応性が高い観点から、非晶質シリカ粒子がより好ましい。これらの無機微粒子は一種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
(その他添加剤)
メタケイ酸塩水和物層(C)には、上述の成分の他、必要に応じて各種添加剤を含有させてもよい。その他添加剤としては、保湿剤、耐湿向上剤、耐火性骨材と無機粘結剤の結合を強化するカップリング剤、滑剤、界面活性剤、離型剤等が挙げられる。
保湿剤としては、たとえば多価アルコール、水溶性高分子、炭化水素類、糖類、タンパク質、上述したもの以外の無機化合物が挙げられる。
耐湿向上剤としては、金属酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
滑剤としては、例えば、ワックス類;脂肪酸アマイド類;アルキレン脂肪酸アマイド類;ステアリン酸;ステアリルアルコール;ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;ステアリン酸モノグリセリド;ステアリルステアレート;硬化油等が挙げられる。
離型剤としては、例えば、パラフィン、ワックス、軽油、マシン油、スピンドル油、絶縁油、廃油、植物油、脂肪酸エステル、有機酸、黒鉛微粒子、雲母、蛭石、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤等が挙げられる。
【0057】
(水分量)
メタケイ酸塩水和物層(C)中の水の含有量は、高強度の鋳型を得る観点から、無機粘結剤100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。
また、成形金型への充填性の観点及び高強度の鋳型を得る観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)中の水の含有量は、無機粘結剤100質量部に対して、好ましくは180質量部以下であり、より好ましくは160質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下、よりさらに好ましくは140質量部以下である。
【0058】
無機コーテッドサンドに含まれるメタケイ酸塩水和物層(C)中の水の含有量は、無機粘結剤の種類に応じて調整することができる。
【0059】
無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウムであるとき、高強度の鋳型を得る観点、および、簡便に鋳型を製造する観点から、メタケイ酸塩水和物層(C)中の水の含有量は、メタケイ酸ナトリウム100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは65質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは110質量部以上であり、また、流動性を良好にし、成形金型への充填性をより一層向上させる観点から、好ましくは180質量部以下、より好ましくは160質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、より更に好ましくは140質量以下である。
例えば、メタケイ酸塩水和物層(C)を構成する無機粘結剤がメタケイ酸ナトリウム5水和物のみである場合の水の含有量はメタケイ酸ナトリウム100質量部に対して74質量部であり、メタケイ酸ナトリウム9水和物のみである場合の水の含有量はメタケイ酸ナトリウム100質量部に対して133質量部である。
【0060】
<再生砂(A)の製造方法/鋳物砂の再生方法>
無機コーテッドサンドを用いた鋳造後の鋳型廃砂の再生方法としては、公知の方法(例えば「鋳型造型法」、第4版、社団法人日本鋳造技術協会、平成8年11月18日、327~330頁)に準じることができる。例えば、乾式研磨処理(機械的磨耗)、湿式研磨処理、焙焼処理などの方法やこれらの処理を組み合わせた方法が知られている。
【0061】
乾式研磨処理では、鋳型廃砂の表面に存在する無機粘結剤(例えば、水ガラス)由来成分を除去する。除去には、例えば、砂を高速気流により装置内で上昇させ、衝突板に衝突させることによって、砂粒相互の衝突と摩擦により磨鉱処理するサンドリクレーマー、高速回転するローター上に砂を投入し、その遠心力で生ずる投射砂と落下する投入砂との間で起こる衝突と摩擦によって磨鉱処理する高速回転するロータリーリクレーマー、砂粒同士の摩擦を利用して磨鉱処理するアジテーターミル等を用いた方法を用いることができる。
また、湿式研磨処理としては、例えば、羽を回転させたトラフ内の砂粒相互の摩擦によって磨鉱処理するトラフ磨鉱機を用いた方法が挙げられる。
【0062】
焙焼処理としては、例えば、流動焙焼炉やロータリーキルンなどの焙焼炉を用いて、その焙焼炉内に砂を隋時投入し、200~1000℃の範囲で焼成する方法が挙げられる。
【0063】
どの方法を用いて再生してもよいが、湿式処理や焙焼処理は工程が煩雑で、エネルギー負荷が大きいため、なかでも、乾式研磨処理が好ましい。
【0064】
<無機コーテッドサンドの製造方法>
無機コーテッドサンドの製造方法は、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)を準備する工程;再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)と、前記両性金属と、を混合し、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)の表面に前記第1被覆層を形成する工程;表面に前記第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)と、メタケイ酸塩水和物の溶融液とを混合して混合物を得る工程;および前記混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度まで冷却し、前記第1被覆層上にメタケイ酸塩水和物層(C)(第2被覆層)を形成する工程を含む。
これにより、乾態の無機コーテッドサンドを得ることができる。
【0065】
かかる製造方法によれば、メタケイ酸塩水和物層(C)を結晶化させることができるため、従来の製造方法に比べて、流動性に優れた無機コーテッドサンドを得ることができる。また、メタケイ酸塩水和物の水溶液を用いることを要しないために、脱水工程の必要がなく、無機コーテッドサンドの製造方法を簡略化できる。
【0066】
前記第1被覆層を形成する工程は、具体的には、予め再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)を120~199℃に加熱したところに、両性金属を投入し、攪拌、混合する。これにより、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)の表面に両性金属を付着させて加熱することで、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)の表面に第1被覆層を形成する。
また、両性金属は固体状、または水分散液にした後に投入し、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)と混合してもよい。また、両性金属の投入は、一括して行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
【0067】
次に、混合物を得る工程では、具体的には、メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度にて、第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)の表面に、流動化したメタケイ酸ナトリウム水和物を被覆する。
メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度にて、第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)とメタケイ酸塩水和物を混合する方法としては、例えば、メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度に加熱した当該再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)にメタケイ酸塩水和物を投入し、メタケイ酸塩水和物を融解させながら再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)とメタケイ酸塩水和物とを混合する方法;加熱融解させたメタケイ酸塩水和物を第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)に投入し、混合する方法が挙げられる。
これらの中でも、コーティング時間を短くできる観点から、加熱融解させたメタケイ酸塩水和物を第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)に投入し、混合する方法が好ましい。
同様の観点から、混合物を得る工程において、メタケイ酸塩水和物を予め水溶液にしないで混合することが好ましい。また混合物を得る工程が、水を意図的に添加する工程を含まないことが好ましい。
第1被覆層が形成された再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)とメタケイ酸塩水和物とを混合するときの攪拌速度や処理時間等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0068】
混合物を冷却する工程では、混合物を得る工程で得られた混合物をメタケイ酸塩水和物の融点未満の温度に冷却することにより、メタケイ酸塩水和物の流動性を低減させ、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)の第1被覆層上にメタケイ酸塩水和物を定着させることによって、メタケイ酸塩水和物層(C)を形成する。
【0069】
以上の方法により、本実施形態における無機コーテッドサンドを得ることができる。
また、得られた無機コーテッドサンドは、単独で、もしくはその他の公知の耐火性骨材やその他の添加剤と組み合わせて、所望の鋳型を造型することができる。
【0070】
<鋳型>
本実施形態の鋳造用鋳型は、前述の本実施形態における無機コーテッドサンドにより形成されたものである。鋳造用鋳型の造型方法としては、加熱された成形金型を用いた造型方法、加熱された成形金型にさらに水蒸気を通気した後、熱風を通気する造型方法等が挙げられる。
【0071】
<保存安定性の向上方法>
本実施形態の保存安定性向上方法は、耐火性骨材と、当該耐火性骨材の表面に形成され、ケイ酸塩およびケイ酸塩の反応物の中から選ばれる1種以上を含む無機粘結剤層(a)と、を有する再生砂(A)、および/または、非晶化度が少なくとも20%以上である耐火性骨材(B)上にメタケイ酸塩水和物層(C)を有する、無機コーテッドサンドにおいて、再生砂(A)および/または耐火性骨材(B)と、メタケイ酸塩水和物層(C)との間に、両性金属から形成される第1被覆層を介在させるものである。
これにより、無機コーテッドサンドの保存安定性を向上できる。
無機コーテッドサンドとしては、上述したものを用いることができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
[1]まず、以下の原料を用いて再生砂および無機コーテッドサンドを製造した。
<原料>
[耐火性骨材]
・耐火性骨材1:エスパール#60L(山川産業社製、平均粒子径:241μm)
・耐火性骨材2:三河珪砂R6(三河珪石社製、平均粒子径:200μm)
・耐火性骨材(B1):球状溶融シリカ(火炎溶融法により、天然珪砂を球状化することによって作製したもの、平均粒子径:200μm)
・耐火性骨材(B2):ナイガイセラビーズ60#650(伊藤忠セラテック社製 平均粒子径:200μm)
【0075】
なお、耐火性骨材の非晶化度(%)は以下の手順で測定した。結果を表1に示す。
(X線回折法)
耐火性骨材を乳鉢で粉砕し、粉末X線回折装置のX線ガラスホルダーに圧着して測定した。粉末X線回折装置は、理学電機社製MultiFlex(光源CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)を用い、2θ=5~90°の範囲で走査間隔0.01°、走査速度2°/min、スリット DS1、SS1、RS0.3mmにて行った。2θ=10°~50°の範囲で、低角度側及び高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグラウンドとし、機器付属のソフトを用いて結晶化度を求め、100から引いて非晶化度とした。具体的には、バックグラウンドより上の面積について、非晶質ピーク(ハロー)と各結晶性成分をカーブフィッティングにより分離し、それぞれの面積を求め、下記式にて非晶化度(%)を計算した。
非晶化度(%)=ハローの面積/(結晶性成分面積+ハロー面積)×100
【0076】
[無機粘結剤]
・メタケイ酸ナトリウム9水和物(NaSiO・9HO)(日本化学工業社製)
[無機微粒子]
・非晶質シリカ微粒子:デンカ溶融シリカ SFP-20M(平均粒子径d50:0.4μm、非晶化度:99.5%以上)(デンカ社製)
[両性金属]
・水酸化アルミニウム(Al(OH)):富士フィルム和光純薬社製、粉末状、平均粒子径d50:2.01μm
・酸化錫(SnO):富士フィルム和光純薬社製、粉末状、平均粒子径d50:5.02μm
・水酸化亜鉛(Zn(OH)):米山薬品工業社製、粉末状、平均粒子径d50:7.34μm
【0077】
<再生砂(A1)の作製方法>
(1)無機コーテッドサンドの作製
耐火性骨材として耐火性骨材1(エスパール#60L)100質量部を攪拌機に投入した。次いで、80℃に加熱して溶融させたメタケイ酸ナトリウム9水和物(2.00質量部)を撹拌機に投入して4分間混練した後、さらに非晶質シリカ微粒子(0.6質量部)を投入して、2分間混練を行い、再生砂(A1)の作製に用いる乾態の無機コーテッドサンドを得た。
(2)鋳型の作製
得られた無機コーテッドサンド10kgを試験鋳型作製用の金型に流し込み、加熱炉にて180℃で20分間加熱することで、試験鋳型を得た。
(3)鋳造
得られた試験鋳型にアルミニウム合金AC4C材(720℃)10kgを注湯した。
(4)回収砂の作製
鋳造後の試験鋳型から鋳物を取り出し、ハンマー等で試験鋳型を解砕し、ミニクラッシャー(太洋マシナリー社製)にてさらに粉砕処理を行って回収砂を得た。
(5)再生砂の作製
回収砂100kgを、流動層を具備した乾式鋳物砂再生装置(日本鋳造社製ハイブリッドサンドマスター)に投入し、ローターの回転数2400rpmにて60分バッチ処理することで、再生砂(A1)を得た。
【0078】
<実施例1~3>
耐火性骨材として再生砂(A1)100質量部を準備し、予め加熱炉中で150℃に加熱した後に攪拌機に投入した。次いで、表1に示す量の水酸化亜鉛を投入し、撹拌機内の混合物の温度が125℃以下になるまで攪拌を続けた。その後、得られた混合物を室温まで冷却し、篩(20メッシュ)を通じて凝集物を除去することで、再生砂(A1)の表面に第1被覆層を形成した。
次に、第1被覆層が形成された再生砂(A1)と、80℃に加熱して溶融させたメタケイ酸ナトリウム9水和物(2.00質量部)を撹拌機に投入して4分間混練して実施例1~3の各無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0079】
<実施例4~5>
耐火性骨材として再生砂(A1)100質量部を準備し、予め加熱炉中で150℃に加熱した後に攪拌機に投入した。次いで、表1に示す量の水酸化アルミニウムの水分散液(水は水酸化アルミニウムに対して400質量部)または酸化錫の水分散液(水は水酸化アルミニウムに対して400質量部)を投入し、撹拌機内の混合物の温度が80℃以下になるまで攪拌を続けた。その後、得られた混合物を室温まで冷却し、篩(20メッシュ)を通じて凝集物を除去することで、再生砂(A1)の表面に第1被覆層を形成した。
次に、第1被覆層が形成された再生砂(A1)と、80℃に加熱して溶融させたメタケイ酸ナトリウム9水和物(2.00質量部)を撹拌機に投入して4分間混練して実施例4~5の各無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0080】
<実施例6>
耐火性骨材として耐火性骨材(B1)(球状溶融シリカ)を用いた以外は実施例1~3と同様にして無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0081】
<実施例7>
耐火性骨材として耐火性骨材(B2)(ナイガイセラビーズ60#650)を用いた以外は実施例1~3と同様にして無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0082】
<比較例1>
水酸化亜鉛または水酸化アルミニウムまたは酸化錫をいずれも加えず第1被覆層を形成する工程を行わなかった以外は、実施例1~5と同様にして比較例1の無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0083】
<比較例2>
耐火性骨材を耐火性骨材(B1)(球状溶融シリカ)とした以外は比較例1と同様にして比較例2の無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0084】
<比較例3>
耐火性骨材を耐火性骨材(B2)(ナイガイセラビーズ60#650)とした以外は比較例1と同様にして比較例2の無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0085】
<比較例4>
耐火性骨材を耐火性骨材2(三河珪砂R6)とした以外は比較例1と同様にして比較例2の無機コーテッドサンドを得た。表1に、無機コーテッドサンドの配合組成を示す。
【0086】
[2]次に、得られた無機コーテッドサンドを用いて、以下の評価・測定を行った。
<湿態化までの時間の測定>
無機コーテッドサンドを作製して直ぐに、無機コーテッドサンド2kgをポリ袋に入れて密閉して、25℃/55%RH恒温室に放置し、24Hrごとに無機コーテッドサンドの状態(乾態または湿態)を以下の手順で確認した。無機コーテッドサンドが湿態化していた場合、ポリ袋に入れてから湿態化するまでの時間を「湿態化までの時間」とした。
【0087】
<無機コーテッドサンドの乾態または湿態の確認手順>
直径76mm、高さ125mmの円筒形透明ブラスチックボトルにその体積の半分量の無機コーテッドサンドを入れ、軸心が水平方向になるように保持して、室温(25℃)、25rpmの速度にて水平な軸心周りに回転させた。円筒内で流動している無機コーテッドサンド層の斜面が平坦面状となり、かかる斜面と水平面との間に形成される角度(動的安息角)が測定できた場合を「乾態」、円筒内で無機コーテッドサンドが流動せず、または流動しても無機コーテッドサンド層の斜面が平坦面として形成されず、その結果、動的安息角を測定することができない場合を「湿態」とした。
表1より、各実施例においては、比較例のものに比べて、無機コーテッドサンドの湿態化を抑制していることから、保存安定性に優れていることがわかった。
【0088】
【表1】