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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018308
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】土留壁及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20240201BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E02D5/04
E02D17/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121558
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】柴田 靖
(72)【発明者】
【氏名】國分 智志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 純一
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB13
2D049FE08
(57)【要約】
【課題】親杭、補助杭及び連結部材が露出しない土留壁を提供する。
【解決手段】土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、隣接する親杭2間に設置される複数の横矢板3と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える土留壁1であって、横矢板3は、長手方向の両端部が親杭2によって支持される第1横矢板31と、長手方向の両端部が補助杭4又は連結部材5によって支持される第2横矢板32と、を含み、第1横矢板31及び第2横矢板32は、親杭2、補助杭4及び連結部材5の前面側を覆う丸太材311、321を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、
隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、
前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁であって、
前記横矢板は、
長手方向の両端部が前記親杭によって支持される第1横矢板と、
長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される第2横矢板と、を含み、
前記第1横矢板及び前記第2横矢板は、前記親杭、前記補助杭及び前記連結部材の前面側を覆う丸太材を備える土留壁。
【請求項2】
前記第2横矢板は、
前記丸太材と、
前記丸太材の背面側に沿う支持材と、
前記丸太材と前記支持材とを連結する複数の連結ボルトと、を備え、
長手方向の両端部を前記補助杭、前記連結部材のいずれかに背面側から係合させた状態の前記支持材と、長手方向の両端部を前記親杭の前面側に添わせた状態の前記丸太材とを複数の前記連結ボルトを介して連結することで、前記第2横矢板の長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される請求項1に記載の土留壁。
【請求項3】
前記親杭は、一対のフランジと、一対の前記フランジ同士を連結するウェブと、を一体に有するH形鋼であり、
前記第1横矢板の前記丸太材は、長手方向の両端部に前記親杭の前記フランジに係合可能な凹溝を有し、
前記凹溝は、前記第1横矢板の前記丸太材を水平姿勢に維持しつつ、隣接する前記親杭に対して前面側から係合可能な形状を有する請求項1又は2に記載の土留壁。
【請求項4】
前記第1横矢板は、
前記丸太材と、
前記丸太材の背面側に沿う支持材と、
前記丸太材と前記支持材とを連結する複数の連結ボルトと、を備え、
長手方向の両端部を前記親杭に背面側から係合させた状態の前記支持材と、長手方向の両端部を前記親杭の前面側に添わせた状態の前記丸太材とを複数の前記連結ボルトを介して連結することで、前記第1横矢板の長手方向の両端部が前記親杭によって支持される請求項1又は2に記載の土留壁。
【請求項5】
土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、
隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、
前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁の施工方法であって、
前記横矢板は、
長手方向の両端部が前記親杭によって支持される第1横矢板と、
長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される第2横矢板と、を含み、
前記土留壁の施工方法は、
土留壁施工地盤に所定の間隔で前記親杭を挿入する親杭挿入工程と、
土留壁施工地盤を前記親杭の前面側に沿って掘削する掘削工程と、
隣接する前記親杭間に前記第1横矢板を設置し、前記第1横矢板が備える丸太材によって前記親杭の前面側を覆う第1横矢板設置工程と、
前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して前記補助杭を挿入する補助杭挿入工程と、
前記連結部材を介して前記補助杭を前記親杭に連結される補助杭連結工程と、
隣接する前記親杭間に前記第2横矢板を設置し、前記第1横矢板が備える丸太材によって前記親杭、前記補助杭及び前記連結部材の前面側を覆う第2横矢板設置工程と、を含む土留壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親杭、横矢板及び補助杭を備える土留壁及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、隣接する親杭間に設置される複数の横矢板と、親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭(挿入杭)と、を備える土留壁が記載されている。このような土留壁では、補助杭に作用する背面側地盤の土圧が、親杭を背面側地盤に押し付ける方向のモーメントに変換されるので、親杭の根入れ部の長さを短くしたり、親杭の断面寸法を小さくできるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-197950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される土留壁では、親杭、補助杭及び連結部材の前面側が露出状態であるため、景観保護の観点から林道整備などへの適用が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁であって、前記横矢板は、長手方向の両端部が前記親杭によって支持される第1横矢板と、長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される第2横矢板と、を含み、前記第1横矢板及び前記第2横矢板は、前記親杭、前記補助杭及び前記連結部材の前面側を覆う丸太材を備える。
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の土留壁であって、前記第2横矢板は、前記丸太材と、前記丸太材の背面側に沿う支持材と、前記丸太材と前記支持材とを連結する複数の連結ボルトと、を備え、長手方向の両端部を前記補助杭、前記連結部材のいずれかに背面側から係合させた状態の前記支持材と、長手方向の両端部を前記親杭の前面側に添わせた状態の前記丸太材とを複数の前記連結ボルトを介して連結することで、前記第2横矢板の長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の土留壁であって、前記親杭は、一対のフランジと、一対の前記フランジ同士を連結するウェブと、を一体に有するH形鋼であり、前記第1横矢板の前記丸太材は、長手方向の両端部に前記親杭の前記フランジに係合可能な凹溝を有し、前記凹溝は、前記第1横矢板の前記丸太材を水平姿勢に維持しつつ、隣接する前記親杭に対して前面側から係合可能な形状を有する。
また、請求項4の発明は、請求項1又は2に記載の土留壁であって、前記第1横矢板は、前記丸太材と、前記丸太材の背面側に沿う支持材と、前記丸太材と前記支持材とを連結する複数の連結ボルトと、を備え、長手方向の両端部を前記親杭に背面側から係合させた状態の前記支持材と、長手方向の両端部を前記親杭の前面側に添わせた状態の前記丸太材とを複数の前記連結ボルトを介して連結することで、前記第1横矢板の長手方向の両端部が前記親杭によって支持される。
また、請求項5の発明は、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭と、隣接する前記親杭間に設置される複数の横矢板と、前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ前記親杭に連結部材を介して連結される複数の補助杭と、を備える土留壁の施工方法であって、前記横矢板は、長手方向の両端部が前記親杭によって支持される第1横矢板と、長手方向の両端部が前記補助杭又は前記連結部材によって支持される第2横矢板と、を含み、前記土留壁の施工方法は、土留壁施工地盤に所定の間隔で前記親杭を挿入する親杭挿入工程と、土留壁施工地盤を前記親杭の前面側に沿って掘削する掘削工程と、隣接する前記親杭間に前記第1横矢板を設置し、前記第1横矢板が備える丸太材によって前記親杭の前面側を覆う第1横矢板設置工程と、前記親杭の側部位置から背面側地盤に対して前記補助杭を挿入する補助杭挿入工程と、前記連結部材を介して前記補助杭を前記親杭に連結される補助杭連結工程と、隣接する前記親杭間に前記第2横矢板を設置し、前記第1横矢板が備える丸太材によって前記親杭、前記補助杭及び前記連結部材の前面側を覆う第2横矢板設置工程と、を含む。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、横矢板は、長手方向の両端部が親杭によって支持される第1横矢板と、長手方向の両端部が補助杭又は連結部材によって支持される第2横矢板と、を含むので、補助杭や連結部材の設置箇所にも横矢板を適切に設置できるだけでなく、横矢板の支持荷重を分散できる。また、第1横矢板及び第2横矢板は、親杭、補助杭及び連結部材の前面側を覆う丸太材を備えるので、土留壁によって景観が損なわれることを防止し、林道整備などへの適用を促進させることができる。また、丸太材として間伐材を使用すれば、森林資源の有効利用が図れる。
また、請求項2の発明によれば、補助杭や連結部材の設置箇所に第2横矢板をより適切に設置できる。
また、請求項3の発明によれば、長手方向の両端部に凹溝を有する丸太材で第1横矢板を簡易に構成できるだけでなく、第1横矢板を水平姿勢に維持しつつ、隣接する親杭に対して前面側から設置可能とし、第1横矢板の設置性を向上させることができる。
また、請求項4の発明によれば、第1横矢板と第2横矢板の構成を類似させることができるので、丸太材の共通化による施工コストの削減や、施工手順の共通化による施工性の向上が図れる。
また、請求項5の発明によれば、本発明の土留壁を適切に施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る土留壁の構造を示す概略斜視図である。
図2】横矢板を省略した土留壁の概略斜視図である。
図3】親杭に連結部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
図4】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す斜視図である。
図5】補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示す斜視図である。
図6】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す正面図である。
図7】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す平面図である。
図8】親杭に連結部材を介して補助杭を連結した状態を示す側面図である。
図9】(a)は図6のY-Y断面図であり、(b)は補助杭から掴み代部材を取り外した状態を示すY-Y断面図である。
図10】連結部材の斜視図である。
図11】第1横矢板の設置状態を示す土留壁の水平断面図である。
図12】第1横矢板の設置方法を説明する土留壁の水平断面図である。
図13】第2横矢板の設置状態を示す土留壁の水平断面図である。
図14】第2横矢板の設置方法を説明する土留壁の水平断面図である。
図15】土留壁の親杭挿入工程の説明図である。
図16】土留壁の1次掘削工程及び第1横矢板設置工程の説明図である。
図17】土留壁の2次掘削工程の説明図である。
図18】土留壁の補助杭挿入工程及び補助杭連結工程の説明図である。
図19】土留壁の第2横矢板設置工程の説明図である。
図20】土留壁の3次掘削工程の説明図である。
図21】土留壁の第1横矢板設置工程の説明図である。
図22】変形例に係る第1横矢板の設置状態を示す土留壁の水平断面図である。
図23】変形例に係る第1横矢板の設置方法を説明する土留壁の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[土留壁の構成]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1及び図2において、1は土留壁であって、該土留壁1は、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、隣接する親杭2間に設置される複数の横矢板3と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える。まず、横矢板3を除く土留壁1の構成について、図1図10を参照して説明する。
【0009】
図1図9に示すように、親杭2は、通常、土留壁施工地盤に鉛直方向に挿入(打設)される。使用部材としては、親杭横矢板土留壁などに一般的に使用されているH形綱が用いられる。H形鋼からなる親杭2は、一対のフランジ2aと、一対のフランジ2a同士を連結するウェブ2bと、を一体に有するとともに、ウェブ2bを溝底面とし、一対のフランジ2aを溝側面とする一対の溝部2cを有する。ウェブ2bには、第1ボルトB1を介して連結部材5を連結するためのボルト挿通孔(図示せず)が複数加工される。ボルト挿通孔は、親杭2を地盤に挿入する前に加工してもよいし、親杭2を地盤に挿入した後、親杭2に連結部材5を締結するタイミングで加工してもよい。
【0010】
親杭2を構成するH形綱の断面寸法は、壁高に応じて選定されるが、概ねH300~H500程度のものが多く使用される。また、親杭2は、土留壁施工地盤の掘削前に、掘削予定地盤の境界線に沿って所定間隔で地盤に挿入される。挿入間隔は、概ね1.0~2.0m程度とされる。
【0011】
補助杭4は、高さ方向に1又は複数段で設置される。図2は、補助杭4を上下方向に2段設置した例を示している。補助杭4としては、概ねH200~H400程度の断面のH形鋼を用いられる。H形鋼からなる補助杭4は、一対のフランジ4aと、一対のフランジ4a同士を連結するウェブ4bと、を一体に有するとともに、ウェブ4bを溝底面とし、一対のフランジ4aを溝側面とする一対の溝部4cを有する。補助杭4の段数及び挿入深さは、親杭2の天端許容変形量を基準とした設計計算によって決定されるが、通常のケースでは、高さ方向に1~4段程度で設置され、挿入深さは概ね2~5m程度である。
【0012】
補助杭4は、掘削の進行に伴って、所定の掘削段階毎に各親杭2に対して設置される。1箇所あたりの設置数は1本とすることも可能であるが、図示するように、1箇所あたり、親杭2の両側に左右一組で配置するのがモーメントを大きく確保する上で望ましい。設置は、親杭2の側部位置から略水平方向に沿って背面側地盤中に挿入し、挿入元側を連結部材5を介して親杭2に連結する。補助杭4の挿入方向は、水平方向を基本とするが、施工誤差を含め僅かに傾斜させて設置されていてもよい。
【0013】
図4図9に示すように、補助杭4の挿入方向基端側には、一対のフランジ4a及びウェブ4bに対して溶着される複数の補強部材41~44が設けられる。これらの補強部材41~44は、補助杭4の挿入方向基端側の変形を抑制し、補助杭4から親杭2に対するモーメントの伝達を確実に行わせる。
【0014】
補強部材41~44には、補助杭4の挿入方向基端面を覆う第1補強部材41が含まれる。第1補強部材41は、補助杭4の挿入方向基端面において、補助杭4の一対の溝部4cを塞ぐように溶着されている。また、第1補強部材41には、後述する掴み代部材6を連結するためのボルト挿通孔41aが加工されている。
【0015】
また、補強部材41~44には、補助杭4の一対の溝部4c内であって、連結部材5との締結位置近傍に設けられる複数の第2補強部材42~44が含まれる。
【0016】
挿入用重機(図示せず)を用いて補助杭4を背面側地盤に挿入する際には、補助杭4の挿入方向基端側に挿入用重機の掴み代が必要になる。図4図9に示すように、本実施形態の土留壁施工方法では、補助杭4の挿入方向基端部に着脱可能に装着され、補助杭4を背面側地盤に挿入する際、補助杭4を挿入する挿入用重機の掴み代となり、挿入後は補助杭4から取り外される掴み代部材6が用いられる。
【0017】
掴み代部材6は、一対のフランジ6aと、一対のフランジ6a同士を連結するウェブ6bと、を一体に有するH形鋼であり、補助杭4と同一断面のH形鋼が用いられる。掴み代部材6を構成するH形鋼には、挿入方向先端面を覆うように掴み代側継手部材61が溶着されている。掴み代側継手部材61には、複数の第3ボルトB3を介して補助杭4の第1補強部材41に締結するための複数のボルト挿通孔(図示せず)が加工されている。
【0018】
連結部材5は、1本の補助杭4に対して上下一対で使用される。上下一対の連結部材5は、補助杭4の上下幅寸法と同等の間隔を介して上下方向に並ぶように複数の第1ボルトB1及び第1ナットN1を介して親杭2に締結される。上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、補助杭4を背面側地盤に挿入する際のガイドとして機能する。また、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位は、挿入された補助杭4のフランジ4aと複数の第2ボルトB2及び第2ナットN2を介して締結される。
【0019】
具体的に説明すると、本実施形態の連結部材5は、図10に示すように、親杭2のウェブ2bに締結される親杭締結板部51と、補助杭4のフランジ4aに締結される補助杭締結板部52と、親杭締結板部51と補助杭締結板部52とを一体的に連結する複数の連結板部53と、複数の連結板部53同士を一体的に連結する補強板部58と、によって箱形に形成されている。
【0020】
親杭締結板部51には、第1ボルトB1を挿通可能な複数のボルト挿通孔51aが形成され、補助杭締結板部52には、第2ボルトB2を挿通可能な複数のボルト挿通孔52aが形成されている。また、連結部材5は、箱内部に連通する開口部56を有し、この開口部56を介してボルトB1、B2及びナットN1、N2の締結操作が行われる。
【0021】
本実施形態の第2ボルトB2は、上下一対の連結部材5の互いに対向する対向部位(補助杭締結板部52)と、該対向部位間に挿入された補助杭4(上下のフランジ4a)を上下方向に貫通するロングボルトで構成されている。ロングボルトからなる第2ボルトB2によれば、上下一対の連結部材5に対する補助杭4の締結に必要な第2ボルトB2の本数を削減できるだけでなく、上下の連結部材5に対する補助杭4の締結を同時に行うことができる。また、連結作業時に閉空間となる補助杭4のフランジ内側面に事前にナットを配置(溶接)するような作業も不要となるので、土留壁1の施工性を大幅に向上させることができる。
【0022】
また、図10に示すように、上下一対の連結部材5は、エンドプレート57を介して一体的に連結されて連結ユニットUを構成しており、連結ユニットUの状態で親杭2に締結される。つまり、上下一対の連結部材5は、個別に親杭2に締結されるのではなく、予め間隔を正確に計測してエンドプレート57に溶着されたユニット状態で一体的に親杭2に締結される。
【0023】
[横矢板]
つぎに、横矢板3について、図11図14を参照して説明する。横矢板3は、掘削に伴って隣接する親杭2間に順次設置され、土留めを図る板材である。横矢板3としては、長手方向の両端部が親杭2によって支持される第1横矢板31と、長手方向の両端部が補助杭4又は連結部材5によって支持される第2横矢板32と、が含まれる。第1横矢板31及び第2横矢板32は、いずれも親杭2、補助杭4及び連結部材5の前面側を覆う丸太材311、322を備える。
【0024】
具体的に説明すると、本実施形態の第1横矢板31は、断面円形の丸太材311を用いて構成されており、丸太材311の長手方向の両端部には、親杭2のフランジ2aに係合可能な凹溝311aが形成されている。図11に示すように、丸太材311からなる第1横矢板31は、両端部の凹溝311aを親杭2のフランジ2aに係合させて、隣接する親杭2間に設置されると、背面地盤の前面側を覆って土留め材として機能するだけでなく、親杭2の前面側を覆うカバー材として機能させることができる。なお、背面地盤と横矢板3(第1横矢板31、第2横矢板32)との間には、充填材Jを充填してもよい。
【0025】
このような第1横矢板31は、隣接する親杭2間に設置する際、長手方向の一端側が高く、長手方向の他端側が低くなるように傾斜させた状態で隣接する親杭2間に差し込み、その後に水平姿勢とすることで、両端部の凹溝311aを隣接する親杭2のフランジ2aに係合させることが可能であるが、本実施形態の第1横矢板31の凹溝311aは、第1横矢板31を水平姿勢に維持しつつ、隣接する親杭2に対して前面側から係合可能な形状を有する。これにより、上下方向に傾斜させるスペースがない状況でも、第1横矢板31を隣接する親杭2間に設置することが可能になる。
【0026】
具体的に説明すると、第1横矢板31の凹溝311aは、溝深さL1がフランジ21aとの係合代L2よりも深くなっている。また、凹溝311aの背面側には、第1横矢板31の背面部の長さL3が第1横矢板31の前面部の長さL4よりも短くするための切り欠き311bが形成されている。さらに、いずれか一方の凹溝311aは、前面側の溝側面が長手方向外側ほど溝幅を広げる傾斜面311cとなっている。
【0027】
このような第1横矢板31によれば、図12に示すように、第1横矢板31を水平姿勢に維持しつつ、傾斜面311cが形成される一端側の凹溝311aを一方の親杭2のフランジ2aに深く係合させた後、第1横矢板31の他端側を隣接する親杭2間に押し込み、その後、第1横矢板31を他端側にスライドさせることで、所謂「行って来い」方式で第1横矢板31を隣接する親杭2間に設置することが可能になる。なお、設置された第1横矢板31の水平方向の移動は、水平方向に隣接する第1横矢板31によって規制される。例えば、図12に示す例では、左側の第1横矢板31から順番に設置することで、第1横矢板31の水平方向の位置を規定することができる。
【0028】
図13及び図14に示すように、第2横矢板32は、断面半円状の丸太材321と、丸太材321の背面側に沿うアングル材、チャンネル材などの支持材322と、丸太材321と支持材322とを連結する複数の連結ボルト323と、を備える。
【0029】
このような第2横矢板32は、長手方向の両端部を補助杭4(例えば、第2補強部材43)、連結部材5(例えば、連結板部53)のいずれかに背面側から係合させた状態の支持材322と、長手方向の両端部を親杭2の前面側に添わせた状態の丸太材321とを複数の連結ボルト323を介して連結することで、第2横矢板32の長手方向の両端部が補助杭4又は連結部材5によって支持される。そして、設置された第2横矢板32は、背面地盤の前面側を覆って土留め材として機能するだけでなく、親杭2、補助杭4及び連結部材5の前面側を覆うカバー材として機能させることができる。なお、図14に示すように、第2横矢板32も、支持材322を斜めに差し込むことで、水平姿勢を維持しつつ、所謂「行って来い」方式で設置することができる。
【0030】
[土留壁の施工方法]
つぎに、林道整備に適用した土留壁1の施工手順について、図15図21を参照して説明する。なお、図15図21では、背面地盤の図示を省略する。
【0031】
図15図21に示す土留壁1の施工手順には、親杭挿入工程(図15参照)、1次掘削工程(図16参照)、第1横矢板設置工程(図16参照)、2次掘削工程(図17参照)、補助杭挿入工程(図18参照)、補助杭連結工程(図18参照)、第2横矢板設置工程(図19参照)、3次掘削工程(図20参照)及び2回目の第1横矢板設置工程(図21参照)が含まれる。
【0032】
図15に示すように、親杭設置工程では、杭打ち機などの施工機械を用いて、掘削境界線に沿って所定の間隔で親杭2を地盤に挿入する。
【0033】
図16に示すように、1次掘削工程では、油圧ショベルなど掘削機械を用いて、親杭2に沿って掘削予定地盤を掘削する。掘削の進行に伴い、親杭2間に第1横矢板31を設置する第1横矢板設置工程を実施し、土留めを図りながら徐々に掘り下げていく。設置された第1横矢板31は、土留め材として機能するだけでなく、親杭2の前面側を覆うカバー材としても機能する。
【0034】
図17に示すように、2次掘削工程では、掘削予定地盤を補助杭4の設置位置よりもやや掘り下げた位置まで掘削する。
【0035】
図18に示すように、補助杭挿入工程では、挿入用重機を用いて、背面地盤に補助杭4を挿入する。具体的に説明すると、補助杭4の挿入に先立ち、まず、親杭2の左右両側部に、それぞれ上下一対の連結部材5(連結ユニットU)を固定する。この作業は、親杭2のウェブ2bを挟むように、左右一組の連結ユニットUを配置し、複数の第1ボルトB1及び第1ナットN1を用いて、左右一組の連結ユニットUを親杭2のウェブ2bに締結することにより行われる。また、挿入する補助杭4の挿入方向基端部には、複数の第3ボルトB3及び第3ナットN3を用いて、掴み代部材6を装着する。
【0036】
補助杭4の挿入は、挿入用重機で掴み代部材6のウェブ6bを掴みながら行われる。補助杭4の挿入中は、補助杭4を上下一対の連結部材5間に位置させることにより、上下一対の連結部材5を挿入ガイドとして機能させる。挿入が完了したら、複数の第2ボルトB2及び第2ナットN2によって、補助杭4を連結部材5に締結させる補助杭連結工程を実施する。その後、掴み代部材6を補助杭4から取り外す。
【0037】
図19に示すように、第2横矢板設置工程では、親杭2間に第2横矢板32を設置する。このとき、第2横矢板32は、補助杭4又は連結部材5に係合する状態で設置される。そして、設置された第2横矢板32は、土留め材として機能するだけでなく、親杭2、補助杭4及び連結部材5の前面側を覆うカバー材としても機能する。
【0038】
図20に示すように、3次掘削工程では、掘削予定地盤の底面(林道施工面)まで掘り下げる。その後、図21に示すように、2回目の第1横矢板設置工程を実施することで、土留壁1が完成する。
【0039】
[実施形態の効果]
叙述の如く構成された本実施形態によれば、土留壁施工地盤に所定の間隔で挿入される複数の親杭2と、隣接する親杭2間に設置される複数の横矢板3と、親杭2の側部位置から背面側地盤に対して挿入され、かつ親杭2に連結部材5を介して連結される複数の補助杭4と、を備える土留壁1であって、横矢板3は、長手方向の両端部が親杭2によって支持される第1横矢板31と、長手方向の両端部が補助杭4又は連結部材5によって支持される第2横矢板32と、を含むので、補助杭4や連結部材5の設置箇所にも横矢板3を適切に設置できるだけでなく、横矢板3の支持荷重を分散できる。
【0040】
また、第1横矢板31及び第2横矢板32は、親杭2、補助杭4及び連結部材5の前面側を覆う丸太材311、321を備えるので、土留壁1によって景観が損なわれることを防止し、林道整備などへの適用を促進させることができる。また、丸太材311、321として間伐材を使用すれば、森林資源の有効利用が図れる。
【0041】
また、第2横矢板32は、丸太材321と、丸太材321の背面側に沿う支持材322と、丸太材321と支持材322とを連結する複数の連結ボルト323と、を備え、長手方向の両端部を補助杭4、連結部材5のいずれかに背面側から係合させた状態の支持材322と、長手方向の両端部を親杭2の前面側に添わせた状態の丸太材321とを複数の連結ボルト323を介して連結することで、第2横矢板32の長手方向の両端部が補助杭4又は連結部材5によって支持されるので、補助杭4や連結部材5の設置箇所に第2横矢板32をより適切に設置できる。
【0042】
また、親杭2は、一対のフランジ2aと、一対のフランジ2a同士を連結するウェブ2bと、を一体に有するH形鋼であり、第1横矢板31の丸太材311は、長手方向の両端部に親杭2のフランジ2aに係合可能な凹溝311aを有し、凹溝311aは、第1横矢板31の丸太材311を水平姿勢に維持しつつ、隣接する親杭2に対して前面側から係合可能な形状を有するので、長手方向の両端部に凹溝311aを有する丸太材311で第1横矢板31を簡易に構成できるだけでなく、第1横矢板31を水平姿勢に維持しつつ、隣接する親杭2に対して前面側から設置可能とし、第1横矢板31の設置性を向上させることができる。
【0043】
[第2実施形態]
つぎに、本発明の変形例に係る第1横矢板33について、図22及び図23を参照して説明する。ただし、前述した実施形態と共通の構成については、前述した実施形態と同じ符号を用いることで、前述した実施形態の説明を援用する場合がある。
【0044】
変形例の第1横矢板33は、断面半円状の丸太材331と、丸太材331の背面側に沿うアングル材、チャンネル材などの支持材332と、丸太材331と支持材332とを連結する複数の連結ボルト333と、を備える。
【0045】
このような変形例の第1横矢板33は、長手方向の両端部を親杭2のフランジ部2aに背面側から係合させた状態の支持材332と、長手方向の両端部を親杭2の前面側に添わせた状態の丸太材331とを複数の連結ボルト333を介して連結することで、第1横矢板33の長手方向の両端部が親杭2によって支持される。このような変形例の第1横矢板33によれば、第1横矢板33と第2横矢板32の構成を類似させることができるので、丸太材311、331の共通化による施工コストの削減や、施工手順の共通化による施工性の向上が図れる。なお、図23に示すように、変形例の第1横矢板33も、支持材332を斜めに差し込むことで、水平姿勢を維持しつつ、所謂「行って来い」方式で設置することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 土留壁
2 親杭
2a フランジ
2b ウェブ
2c 溝部
3 横矢板
31 第1横矢板
311 丸太材
311a 凹溝
311b 切り欠き
311c 傾斜面
32 第2横矢板
321 丸太材
322 支持材
323 連結ボルト
33 第1横矢板
331 丸太材
332 支持材
333 連結ボルト
4 補助杭
4a フランジ
4b ウェブ
4c 溝部
41 第1補強部材
41a ボルト挿通孔
42~44 第2補強部材
5 連結部材
51 親杭締結板部
52 補助杭締結板部
53 連結板部
56 開口部
57 エンドプレート
58 補強板部
6 掴み代部材
6a フランジ
6b ウェブ
61 掴み代側継手部材
U 連結ユニット
B1 第1ボルト
B2 第2ホルト
B3 第3ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図16
図17
図18
図19
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図21
図22
図23