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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018322
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】レーザダイオードバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20240201BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01S5/343 610
H01S5/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121584
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲生
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AD02
5F173AH22
5F173AP83
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】一次劈開時に劈開面にクラックが発生するのを抑制できるレーザダイオードバーの製造方法を提供する。
【解決手段】レーザダイオードバー40の製造方法は、GaN基板1にGan積層体10を形成し、さらに複数のエミッタ30を形成するステップと、ブロック20毎にGaN基板1を分割するステップと、ブロック20に対して所定のピッチで劈開用傷50を形成するステップと、劈開用傷50を起点としてブロック20を劈開し、レーザダイオードバー40を得るステップと、を備えている。劈開用傷50の深さをT1とし、GaN積層体10の厚さT4とGaN基板1の厚さT0との合計をT3とし、断面視で、劈開用傷50の底面と先端面とのなす角度をθとするとき、T1/T3≧28(%)、かつ90(°)≦θ≦140(°)の関係を満たす。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に複数の窒化物半導体層を形成するステップと、
複数の前記窒化物半導体層が形成された前記基板に複数のエミッタを形成するステップと、
複数の前記エミッタを含む所定の大きさのブロック毎に前記基板を分割するステップと、
分割後の前記ブロックに対して、所定のピッチで劈開用傷を形成するステップと、
前記劈開用傷を起点として前記ブロックを劈開し、レーダダイオードバーを得るステップと、を少なくとも備え、
前記劈開用傷の深さをT1とし、複数の前記窒化物半導体層の厚さと前記基板の厚さT0との合計をT3とし、断面視で、前記劈開用傷の底面と前記劈開用傷の先端面とのなす角度をθとするとき、
T1/T3≧28(%) ・・・(1)、かつ
90(°)≦θ≦140(°) ・・・(2)
の関係を満たすことを特徴とするレーザダイオードバーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザダイオードバーの製造方法において、
前記劈開用傷は、前記ブロックの劈開方向に沿って、50μm以上の長さを有していることを特徴とするレーザダイオードバーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザダイオードバーの製造方法において、
前記基板の厚さT0は、50μm以上、100μm以下であることを特徴とするレーザダイオードバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザダイオードバーの製造方法、特に窒化物半導体系レーザダイオードバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銅、金、樹脂など種々の材料において、レーザ加工への期待が高まっている。生産性の高い加工を実現するには、高効率で高出力のレーザ光が得られるレーザ光源が要求されている。この要求に好適なレーザ光源として、半導体レーザ素子が知られている。レーザ光の出力を高めるためには、それぞれレーザ光を出射するエミッタを複数個有するレーザダイオードバーが有用である。また、銅等への吸収率が高いことから、青色のレーザ光を出射する窒化物半導体(以下、GaNまたはGaN系と呼ぶことがある。)レーザ素子の利用が広がりつつある。
【0003】
通常、レーザダイオードバーを製造するにあたって、GaN系半導体層が積層されたGaN基板を劈開(以下、一次劈開と呼ぶことがある。)して、レーザダイオードバーをGaN基板から分割する。劈開面がレーザダイオードバーにおける各エミッタの共振器端面となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、劈開予定位置に沿って2種類の分割補助溝を隣接して形成した後に、GaN基板を一次劈開して、レーザダイオードバーを形成する方法が開示されている。この方法によれば、劈開位置を制御し、高い精度で所望の位置でGaN系半導体層が積層されたGaN基板を分割することができ、レーザダイオードバーの歩留まりを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-117494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述した一次劈開時に、劈開面にクラックが発生することがある。特に、他の半導体材料に比べて、GaNは硬いため、クラックが発生しやすい。このようなクラックが発生すると、レーザ光の発光層である活性層にダメージが発生し、レーザ光が発生しなかったり、レーザ光のビーム品質が低下したりといったレーザ特性の悪化につながる。また、長期使用時にエミッタの故障・破壊が生じやすいと言った信頼性低下の課題も生じる。
【0007】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、一次劈開時に劈開面にクラックが発生するのを抑制できるレーザダイオードバーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係るレーザダイオードバーの製造方法は、基板に複数の窒化物半導体層を形成するステップと、複数の前記窒化物半導体層が形成された前記基板に複数のエミッタを形成するステップと、複数の前記エミッタを含む所定の大きさのブロック毎に前記基板を分割するステップと、分割後の前記ブロックに対して、所定のピッチで劈開用傷を形成するステップと、前記劈開用傷を起点として前記ブロックを劈開し、レーダダイオードバーを得るステップと、を少なくとも備え、前記劈開用傷の深さをT1とし、複数の前記窒化物半導体層の厚さと前記基板の厚さT0との合計をT3とし、断面視で、前記劈開用傷の底面と前記劈開用傷の先端面とのなす角度をθとするとき、
T1/T3≧28(%) ・・・(1)、かつ
90(°)≦θ≦140(°) ・・・(2)
の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一次劈開時に劈開面にクラックが発生するのを抑制できる。このことにより、活性層へのダメージを低減してレーザ特性の低下や信頼性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】実施形態に係るレーザダイオードバーの製造方法の一工程を示す模式図である。
図1B図1AのIB-IB線での断面図である。
図2A図1Aに示す工程の続きの工程を示す模式図である。
図2B図2AのIIB-IIB線での断面図である。
図3図2に示す工程の続きの工程を示す模式図である。
図4図3に示す工程の続きの工程を示す模式図である。
図5A図4に示す工程の続きの工程を一の方向から見た模式図である。
図5B図4に示す工程の続きの工程を他の方向から見た模式図である。
図6図5Aに示す工程の続きの工程を示す模式図である。
図7】劈開用傷形成後のGaN基板の断面模式図である。
図8】実施形態に係る一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。
図9A】劈開用傷の深さが所定よりも浅い場合に、一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。
図9B】劈開用傷の底面と劈開用傷の先端面とのなす角度が所定よりも大きい場合に、一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。
図10】実施例1~11及び比較例に係る一次劈開後の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0012】
(実施形態)
[レーザダイオードバーの製造方法]
図1Aは、実施形態に係るレーザダイオードバーの製造方法の一工程を示す模式図であり、図1Bは、図1AのIB-IB線での断面図である。図2Aは、図1Aに示す工程の続きの工程を示す模式図であり、図2Bは、図2AのIIB-IIB線での断面図である。図3は、図2に示す工程の続きの工程を示す模式図であり、図4は、図3に示す工程の続きの工程を示す模式図であり、図5Aは、図4に示す工程の続きの工程を一の方向から見た模式図であり、図5Bは、図4に示す工程の続きの工程を他の方向から見た模式図である。図6は、図5Aに示す工程の続きの工程を示す模式図である。
【0013】
なお、以降の説明において、GaN基板1の厚さ方向をZ方向と呼び、GaN基板1に形成された、分割前のレーザダイオードバー40におけるエミッタ30の配列方向をX方向と呼ぶことがある。また、X方向及びZ方向とそれぞれ直交する方向をY方向と呼ぶことがある。また、Z方向において、p側電極8が形成される側を上または上方と呼び、n側電極7が形成される側を下または下方と呼ぶことがある。
【0014】
GaN基板1において、GaN積層体10が形成される面を表面と呼び、これに対向する面、つまり、n側電極7が形成される面を裏面と呼ぶ。
【0015】
なお、本番明細書において、「直交」または「平行」あるいは「同じ」とは、「直交」または「平行」あるいは「同じ」とは、レーザダイオードバー40を構成する各部の製造公差を含んで直交している、または平行である、あるいは同じであるという意味であり、比較対象同士が厳密に直交している、または平行である、あるいは同じであることまでを意味するものではない。
【0016】
レーザダイオードバー40を製造するにあたって、まず、図1A,1Bに示すように、エピタキシャル成長法により、GaN基板1の表面にGaN積層体10を形成する。図1Bに示すように、GaN積層体10は、複数の窒化物半導体層からなる。具体的には、GaN積層体10は、n型AlGaNクラッド層2(以下、単にn型クラッド層2という。)と活性層3とp型AlGaNクラッド層4(以下、単にp型クラッド層4という。)とp型GaNコンタクト層5(以下、単にp型コンタクト層5という。)とを含んでいる。なお、n型クラッド層2とp型クラッド層4とにおけるAlとGaとの組成比は、エミッタ30(図2B参照)から出射されるレーザ光の特性仕様に応じて適宜決定される。また、活性層3は、公知の多重量子井戸(MQW)層であり、InGaN層とGaN層、または、InとGaの組成比が異なるInGaN層を交互に積層してなる。活性層3におけるInとGaとの組成比も、エミッタ30から出射されるレーザ光の特性仕様に応じて適宜決定される。
【0017】
次に、図2A,2Bに示すように、GaN積層体10を公知のフォトリソグラフィーとエッチングとにより加工し、図2Bに示すリッジ部11(p型コンタクト層5とp型クラッド層4とが積層された凸部)とその両側に分離溝12とを形成する。さらに、絶縁層6とp側電極8を表面に、n側電極7を裏面にそれぞれ形成してエミッタ原型31を複数形成する。本実施形態では、p側電極8は、p側オーミック電極8Aとp側ボンディング電極8Bとからなる。また、p側ボンディング電極8Bは、密着層8Cと金または金合金からなるボンディング層8Dとを含むが、これ以外の層を含んでいてもよい。エミッタ原型31において、リッジ部11及びその両側に設けられた分離溝12はY方向に直線状に設けられている。また、複数のエミッタ原型31は、X方向に周期的に形成されている。
【0018】
次に、図3に示すように、GaN基板1を複数のブロック20に分割する。1つのブロック20には、複数のエミッタ原型31が含まれている。
【0019】
次に、図4に示すように、Y方向に一定の間隔をあけて、ブロック20の端面から所定の長さの一次劈開用の傷50(以下、劈開用傷50と言う。)を形成する。劈開用傷50は、Y方向に関し、エミッタ30の共振器長L(図6参照)毎に形成される。
【0020】
劈開用傷50は、ブロック20におけるGaN積層体10の表面からかつX方向に沿って所定の長さにわたって、所定の出力のレーザ光を照射することで形成される。この場合のレーザ光の波長は、GaN積層体10に吸収される程度の波長であり、具体的には、活性層3の発光波長に近い値である。なお、図示しないが、共振器長L毎に図示しない補助溝を設け、補助溝を通るようにレーザ光を照射して劈開用傷50を形成してもよい。
【0021】
図5A,5Bに示すように劈開台60は、一方向に直線状に延びる溝61が設けられた支持台である。劈開用傷50が形成されたブロック20の表面と裏面のそれぞれに保護シート70を貼り付ける。次に、劈開用傷50の長さ方向と溝61の延びる方向とを合わせ、かつ劈開用傷50が溝61と対向するように、ブロック20を劈開台60にセットする。
【0022】
ブロック20が劈開台60にセットされた状態で、ブロック20の裏面に貼り付けられた保護シート70に劈開用のカット刃80を溝61の延びる方向に沿って押し当て、ブロック20を押圧する。劈開用傷50の先端を起点として、GaN基板1に所定以上の力が加わることで、GaN積層体10を含むGaN基板1が、劈開用傷50の長さ方向に劈開され、レーザダイオードバー40(図6参照)が得られる。
【0023】
最後に、図6に示すように、レーザダイオードバー40のY方向の一方の端面に端面コート層9Aを、他方の端面に端面コート層9Bをそれぞれ形成して、レーザダイオードバー40を得る。端面コート層9A,9Bがそれぞれ形成された面が、エミッタ30の共振器端面に相当し、本実施形態では、端面コート層9Aが形成された面がレーザ光の発光点32が位置する面となる。なお、本実施形態において、レーザダイオードバー40の厚さT3、この場合は、GaN積層体10の厚さT4とGaN基板1の厚さT0との合計が90μm、レーザダイオードバー40の幅W、つまり、エミッタ30が並んだ方向の長さが100mm、レーザダイオードバー40の共振器長Lが2mmである。ただし、これらの値は特に限定されず、レーザダイオードバー40に搭載されるエミッタ30の個数等に応じて適宜変更されうる。
【0024】
なお、劈開用傷50をGaN基板1、正しくはGaN積層体10の表面に形成するのは、一次劈開工程で、活性層3にダメージが発生するのを避けるためである。GaN積層体10の表面から所定の深さで劈開用傷50を形成し、劈開用傷50に沿って、裏面からカット刃80でGaN基板1を押圧し、分割することで、活性層3に過度の圧力が加わって、活性層3にダメージが発生するのを抑制できる。
【0025】
[本開示に至った知見]
図7は、劈開用傷形成後のGaN基板の断面模式図を示す。
【0026】
本願発明者等は、後で述べる実施例1~11及び比較例での検討、さらに図示しない検討結果から、劈開用傷50の深さT1と劈開用傷50の底面と劈開用傷50の先端面とのなす角度θ(以下、単に角度θと言う。)とを変化させた場合に、一次劈開面におけるクラックの発生状況が変化することを見出した。
【0027】
さらに言うと、図7に示す厚さT2と、GaN基板1の厚さT0とGaN積層体10の厚さT4との合計値T3(以下、トータル厚さT3と言う。)との比が、所定値を超えると一次劈開面にクラックが発生することを見出した。なお、厚さT2は、トータル厚さT3から劈開用傷50の深さT1を差し引いた値である。
【0028】
本願発明者等の検討によれば、厚さT2とトータル厚さT3との比が29%よりも大きくなると、一次劈開面にクラックが発生することがわかった。言い換えると、式(1)に示す関係を満たすことで、クラックの発生が抑制された。
【0029】
T1(=T3-T2)/T3≧28(%) ・・・(1)
ただし、クラックの発生は、角度θにも依存しており、本願発明者等の検討によれば、式(1)に示す関係を満足しつつ、式(2)に示す関係も満足させることで、クラックの発生が抑制されることがわかった。
【0030】
θ≦140(°) ・・・(2)
式(1)、(2)に示す関係を満たすことで、クラックの発生が抑制される原因を以下に考察する。
【0031】
図8は、実施形態に係る一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。図9Aは、劈開用傷の深さが所定よりも浅い場合に、一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。図9Bは、劈開用傷の底面と劈開用傷の先端面とのなす角度が所定よりも大きい場合に、一次劈開工程でGaN基板に加わる力を示す模式図である。
【0032】
前述したように、GaN基板1を一次劈開するにあたって、GaN積層体10が形成されたGaN基板1に対して、表面から劈開用傷50を形成し、一次劈開時の起点とする。
【0033】
一次劈開時には、劈開用傷50の先端面からGaN基板1に力が加わる。この力は、GaN基板1の表面に平行な方向である水平方向(本実施形態では、X方向)と、GaN基板1の表面に直交する方向である垂直方向(本実施形態では、Z方向)とのそれぞれに伝搬される。
【0034】
本願発明者等の検討によれば、GaN基板1に水平方向に加わる力と垂直方向に加わる力との比は、図7に示すトータル厚さT3に対する厚さT2の比T2/T3と、前述の角度θとに依存していることがわかった。なお、T2=T3-T1であるため、式(1)では、比T2/T3に代えて、比T1/T3を用いている。
【0035】
比T1/T3が式(1)に示す関係を満足し、かつ角度θが式(2)に示す関係を満足する場合、GaN基板1に水平方向に加わる力と垂直方向に加わる力とが略均等となる。このことにより、垂直方向への劈開面の湾曲がなくなり、垂直方向及び水平方向へ劈開の進行速度が揃った状態となる。その結果、クラックが発生せず、平滑な劈開面が形成されると推測される。
【0036】
一方、比T1/T3が式(1)に示す関係を満足しないか、または、角度θが式(2)に示す関係を満足しない場合、GaN基板1に水平方向に加わる力が、垂直方向に加わる力よりも大きくなる。このため、垂直方向にGaN基板1が劈開される力が加わる前に水平方向にGaN基板1が劈開される力が多く加わる。その結果、水平方向への劈開の進行速度が垂直方向への劈開の進行速度よりも速くなり、劈開面にクラックが発生する可能性が高くなるものと推測された。
【0037】
特に、劈開の初期においては、GaNに垂直方向に加わる力が弱いため、劈開用傷50の先端面の近傍にクラックが発生しやすくなる。なお、さらに、劈開が進むとGaN基板1に水平方向に加わる力と垂直方向に加わる力とが略均等となるため、劈開用傷50の先端面から離れた場所では、クラックが発生しない場合がある。
【0038】
[まとめ]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザダイオードバー40の製造方法は、以下のステップを少なくとも備えている。
【0039】
つまり、GaN基板1に複数の窒化物半導体層であるGaN積層体10を形成するステップと、GaN積層体10が形成されたGaN基板1に複数のエミッタ30を形成するステップと、を備えている。
【0040】
さらに、レーザダイオードバー40の製造方法は、複数のエミッタ30を含む所定の大きさのブロック20毎にGaN基板1を分割するステップと、分割後のブロック20に対して、所定のピッチで劈開用傷50を形成するステップと、劈開用傷50を起点としてブロック20を劈開し、レーダダイオードバーを得るステップと、を備えている。
【0041】
劈開用傷50の深さをT1とし、GaN積層体10の厚さとGaN基板1の厚さT0との合計をT3とし、断面視で、劈開用傷50の底面と劈開用傷50の先端面とのなす角度をθとするとき、
T1/T3≧28(%) ・・・(1)、かつ
90(°)≦θ≦140(°) ・・・(2)
の関係を満たしている。
【0042】
劈開面にクラックが入ると、クラックがある劈開面が共振器端面となるエミッタ30で活性層3にダメージが発生して、レーザ光が発生しなかったり、レーザ光のビーム品質が低下したりといったレーザ特性の悪化につながることがある。また、クラックまたはその近傍の領域にレーザ光が吸収されて、長期使用時に、共振器端面が熱的に破壊し、エミッタ30の動作信頼性が低下してしまうことがある。
【0043】
一方、本実施形態によれば、一次劈開時に劈開面にクラックが発生するのを抑制できる。このことにより、活性層3へのダメージを低減してレーザ特性の低下や信頼性の低下を抑制できる。
【0044】
以下、本開示の技術を実施例によりさらに詳しく説明する。なお、以下に示す実施例は、本開示に示す技術を何ら制限するものではない。
【実施例0045】
<実施例1>
まず、厚さT0が85μmのGaN基板1を準備し、その表面にエピタキシャル成長法により、GaN積層体10を形成した。GaN積層体10の厚さT4は5μm程度であった。
【0046】
GaN積層体10をフォトリソグラフィーとエッチングとを用いて加工し、さらに、n側電極7、絶縁層6、p側電極8をスパッタリングとフォトリソグラフィーとエッチングとを用いて形成した。その結果、GaN基板1に複数のエミッタ原型31を形成した。
【0047】
さらに、GaN基板1を複数のブロック20に分割した後、各ブロック20に対して、Y方向に間隔をあけて複数の劈開用傷50を形成した。劈開用傷50のY方向の間隔は約2mmであり、劈開用傷50のX方向の長さは約300μmであった。
【0048】
なお、劈開用傷50を形成するにあたって、GaN積層体10の表面から、ブロック20の左方側面を起点としてX方向に沿って、レーザ光を照射した。このとき、最大出力が160mWのレーザ光照射装置を用いて、50%程度のパワーでレーザ光をGaN積層体10の表面に照射した。
【0049】
次に、図5A,5Bに示す手順で、劈開用傷50を起点として、ブロック20を一次劈開し、一次劈開後のレーザダイオードバー40の劈開面に端面コート層9A,9Bをそれぞれ形成し、レーザダイオードバー40を完成させた。
【0050】
<実施例2~9>
劈開用傷50を形成する際のレーザ光の出力を除いて、実施例1に示した手順と同様の手順でレーザダイオードバー40を形成した。
【0051】
なお、実施例2~9において、劈開用傷50を形成する際のレーザ光の出力を、最大出力の10%~80%まで、8段階に均等な割合で増加させた。
【0052】
<実施例10>
GaN基板1の厚さT0を50μmとし、劈開用傷50を形成する際のレーザ光の出力を最大出力の40%とした以外は、実施例1に示した手順と同様の手順でレーザダイオードバー40を形成した。
【0053】
<実施例11>
GaN基板1の厚さT0を100μmとし、劈開用傷50を形成する際のレーザ光の出力を最大出力の90%とした以外は、実施例1に示した手順と同様の手順でレーザダイオードバー40を形成した。
【0054】
<比較例>
劈開用傷50を形成する際のレーザ光の出力を最大出力の20%とした以外は、実施例1に示した手順と同様の手順でレーザダイオードバー40を形成した。
【0055】
<実施例1~11と比較例との劈開面の形状比較>
図10は、実施例1~11及び比較例に係る一次劈開後の断面写真を示し、表1は、実施例1~11及び比較例に係る劈開用傷50の深さ及び角度とクラックの発生状況との関係を示す。
【0056】
なお、図10に示す断面写真は、コントラストを強調したレーザ顕微鏡を用いて取得した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1及び図10に示すように、実施例1~11に示す各例では、いずれも劈開面にクラックの発生は見られなかった。一方、比較例では、図10に示すように、劈開面、具体的には、劈開用傷50の先端面の近傍にシェルクラックが発生しているのが確認された。
【0059】
表1に示すように、比較例における比T1/T3は、24(%)であり、角度θは150(°)であった。
【0060】
一方、実施例1における比T1/T3は、28(%)であり、角度θは140(°)であった。また、実施例1~11における比T1/T3は、28(%)~74(%)の範囲であり、いずれも式(1)に示す関係を満足した。また、実施例1~11における角度θは、106(°)~140(°)の範囲であり、いずれも式(2)に示す関係を満足した。
【0061】
実施例1~11に示す結果と照らし合わせると、比T1/T3及び角度θは、それぞれ、式(3)、(4)に示す関係を満たしているとも言える。
【0062】
28(%)≦T1/T3≦74(%) ・・・(3)
106(°)≦θ≦140(°) ・・・(4)
なお、表1や図10には図示していないが、実施例1に示す条件のうち、劈開用傷50の長さを変化させて、クラックの発生の有無を調べた。
【0063】
その場合、劈開用傷50の長さを50μmまで短くした場合でもクラックの発生は見られなかった。つまり、劈開用傷50は、ブロック20の劈開方向であるX方向に沿って、50μm以上の長さを有していればよいことがわかった。
【0064】
また、GaN基板1の厚さT0が50μm以上、100μm以下の範囲で、比T1/T3と角度θとがそれぞれ式(1)、(2)に示す関係を満たすようにすることで、一次劈開後の劈開面にクラックが発生するのを抑制できることがわかった。なお、この場合も、比T1/T3と角度θとがそれぞれ式(3)、(4)に示す関係を満たせば、一次劈開後の劈開面にクラックが発生するのを抑制できる。
【0065】
(その他の実施形態)
なお、本願明細書では、ブロック20を一次劈開してレーザダイオードバー40を得る方法について説明したが、レーザダイオードバー40をさらに個片化して、単一のエミッタ30を有するGaN系半導体レーザ素子を製造する方法に、本開示の方法が適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示のレーザダイオードバーの製造方法は、一次劈開時に劈開面にクラックが発生するのを抑制し、レーザ特性の低下や信頼性の低下を抑制できるため、有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 GaN基板(基板)
2 n型クラッド層
3 活性層
4 p型クラッド層
5 p型コンタクト層
6 絶縁層
7 n側電極
8 p側電極
8A p側オーミック電極
8B p側ボンディング電極
9A,9B 端面コート層
10 GaN積層体
11 リッジ部
12 分離溝
20 ブロック
30 エミッタ
40 レーザダイオードバー
50 劈開用傷
60 劈開台
70 保護シート
80 カット刃
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10