IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノエビアの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018332
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】老化細胞細胞死誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/73 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240201BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240201BHJP
   A61P 27/12 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 17/14 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 13/12 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 19/10 20060101ALN20240201BHJP
   A61P 21/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61K 133/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
A61K36/73
A61P43/00 107
A61Q19/08
A61Q7/00
A61K8/9789
A61P27/12
A61P17/14
A61P9/00
A61P1/16
A61P11/00
A61P29/00
A61P13/12
A61P9/10 101
A61P1/04
A61P3/10
A61P3/00
A61P19/02
A61P25/28
A61P35/00
A61P25/00
A61P19/10
A61P21/00
A61K133:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121605
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000135324
【氏名又は名称】株式会社ノエビア
(72)【発明者】
【氏名】高原 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】山村 野乃
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC37
4C083DD27
4C083DD38
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE22
4C088AB51
4C088AC03
4C088BA09
4C088NA14
4C088ZA01
4C088ZA15
4C088ZA33
4C088ZA36
4C088ZA45
4C088ZA59
4C088ZA68
4C088ZA75
4C088ZA81
4C088ZA92
4C088ZA94
4C088ZA96
4C088ZA97
4C088ZB11
4C088ZB22
4C088ZB26
4C088ZC21
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】
本発明はセイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする、老化細胞の蓄積を抑制する効果を発揮する老化細胞細胞死誘導剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
セイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする老化細胞細胞死誘導剤を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする老化細胞細胞死誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化細胞細胞死誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シワ、タルミ、皮膚の弾性低下、皮膚表面形態の乱れなどの皮膚症状の悪化の要因としては、例えば加齢や紫外線による真皮線維芽細胞の機能低下に伴うコラーゲン等の真皮マトリックスの減少や変性が挙げられる。一般的に、機能が低下した細胞は老化細胞と呼ばれており、加齢等により生体内において増加することが知られている。そのため老化細胞の増加が皮膚の老化現象にも密接に関与すると考えられている。
【0003】
近年では老化細胞がSASP(Senescent associated secretory phenotype)という現象を介して、炎症性物質やプロテアーゼなどを分泌し、周囲の細胞機能に影響を与えることが明らかになり、老化細胞が生体の老化を促進する可能性が示唆されている(非特許文献1)。さらに、老化細胞を特異的に除去することで抗老化効果が得られることも分かってきている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Byun HO et al. BMB Rep. 549-558(2015)
【非特許文献2】Baker DJ et al. Nature. 479(7372):232-6(2011)
【非特許文献3】Megan Scudellari. Nature. 2017 Oct 24;550(7677):448-450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はセイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする、老化細胞の蓄積を抑制する効果を発揮する老化細胞細胞死誘導剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決する手段は、セイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする老化細胞細胞死誘導剤を提供することである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤はセイヨウナツユキソウエキスを有効成分とし、老化細胞の蓄積を抑制する効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
[セイヨウナツユキソウ]
本発明で使用するセイヨウナツユキソウエキスに用いられるセイヨウナツユキソウ(Filipendula ulmaria (L.) Maxim.またはSpiraea ulmaria Linne)はバラ科シモツケソウ属(Filipendula)またはバラ科シモツケ属(Spiraea)に分類される双子葉植物である。
【0010】
本発明で使用するセイヨウナツユキソウエキスは、通常皮膚外用剤に配合されるものを用いることができる。植物から直接抽出したものを用いても、市販のセイヨウナツユキソウエキスを用いてもよい。市販のセイヨウナツユキソウエキスとしては、ファルコレックス シモツケソウB(一丸ファルコス株式会社)等が挙げられる。本発明においては北海道増毛町湯ノ沢で有機栽培したセイヨウナツユキソウから得られる抽出物を用いることが好ましい。
【0011】
抽出に使用し得るセイヨウナツユキソウの構成部位としては、例えば、葉、茎、花、蕾、地上全草等が挙げられるが、好ましくは花である。
【0012】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤へのセイヨウナツユキソウエキスの配合量は、老化細胞細胞死誘導剤全量に対し、0.00001質量%~5質量%が好ましく、0.00001質量%~1質量%がさらに好ましい。
【0013】
次にセイヨウナツユキソウの栽培方法の好ましい例を示す。
【0014】
[北海道増毛町湯ノ沢]
北海道の北西部、留萌振興局管内南部にあり、標高1492mの暑寒別岳を含む地域である。本発明においては、増毛町の中でも湯ノ沢地区で栽培することが好ましい。
【0015】
[圃場準備]
定植前に圃場の土壌改質を目的として、有機肥料の施肥を行う。具体的には、有機肥料として、醗酵鶏糞、油粕、醗酵油粕、骨粉、魚粉、米糠、醗酵米糠、腐葉土、バーク堆肥、苦土石灰、消石灰、ヨウ成リン肥、炭酸カルシウム、グアノから選択される1種又は2種以上を併用して用いる。
【0016】
醗酵鶏糞、油粕、醗酵油粕、骨粉、魚粉、米糠、醗酵米糠、腐葉土、バーク堆肥、ヨウ成リン肥、グアノは、おもに三大栄養素である窒素、リン酸、カリを補給するために使用する。これらは、1種を単独で、若しくは2種以上を併用して用いる。これらの肥料の施肥量は、元の土壌の状態によって増減できる。
【0017】
施肥は、定植前7日以上前に行うことが好ましい。定植前6日以内に行うと、肥料による土壌改善効果が十分ではなく、肥料焼けや、初期の生育不良の原因となる。有機肥料は溝施肥でも、全面施肥でも問題ないが、作業効率の点から全面施肥が好ましい。
【0018】
[定植]
3~5月頃、又は8~11月頃に、株分けし、成長に合わせて間引きを行うことが好ましい。定植は畝間90~100cmとすることが栽培効率の点から好ましい。
【0019】
[育成]
適宜追肥を行うことにより、より成長が見込まれる。適宜雑草を除去し、乾燥状態に応じ潅水を行う。
【0020】
[収穫]
開花期に合わせて花序の収穫を行う。保存する場合は、乾燥した条件下で保存する。また、熱乾燥して保存することも可能である。
【0021】
[抽出]
抽出物を調製する際には、乾燥させて用いる。
抽出溶媒としては、水、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等の低級アルコール、1,3-ブチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル,プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル,酢酸ブチル等のエステル類、アセトン,エチルメチルケトン等のケトン類などの極性有機溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。また、生理食塩水,リン酸緩衝液,リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。
上記溶媒による抽出物は、そのままでも用いることができるが、濃縮、乾固したものを水や極性溶媒に再度溶解したり、或いはそれらの皮膚生理機能向上作用を損なわない範囲で脱色、脱臭、脱塩等の精製処理を行ったり、カラムクロマトグラフィーによる分画処理を行った後に用いてもよい。また、抽出物を酸、アルカリ、酵素などを用いて加水分解したものを用いてもよい。また保存のため、精製処理の後凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~30倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0022】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤は、老化細胞の蓄積を抑制することができる。
本明細書において、「老化細胞」とは細胞老化が誘導された細胞で、生存可能な状態を維持し、かつ代謝的活性を有しながらも、増殖能力を失った状態の細胞を意味する。
本明細書において、老化細胞の蓄積抑制とは、老化細胞を特異的にアポトーシスさせることを含む。すなわち、老化細胞の蓄積抑制とは、すでに老化細胞となった細胞にアポトーシスを誘導し、減少させることで、その蓄積を抑制するものである。本発明の老化細胞細胞死誘導剤が有する老化細胞に対するアポトーシス誘導作用は、通常、細胞老化が誘導されていない増殖中の正常細胞に対しては障害しない。本明細書において「正常細胞」とは、生存可能な状態を維持し、かつ代謝的活性及び増殖能力を有する細胞を意味する。
【0023】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤は、老化細胞をアポトーシスさせることで、老化細胞がSASPを分泌することを介して周囲の細胞を老化させることを抑制することができる。すなわち、老化細胞の蓄積抑制とは、正常細胞が老化細胞へと変化することを抑制することにより、老化細胞を増やさないことで、その蓄積を抑制するものでもある。
そのため、本発明の老化細胞細胞死誘導剤が有する作用は、抗老化作用とも言い換えることができる。ここで抗老化とは、細胞老化を抑制することであってよい。
【0024】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤は、その老化細胞の蓄積抑制作用により、細胞老化や老化細胞から分泌されるSASPに関連又は起因する疾患又は症状の改善又は予防することが期待される。かかる疾患や症状としては、早老症、白内障、脱毛症、心肥大、脂肪肝、間質性肺炎、COPD、腎糸球体硬化、動脈硬化、関節炎、椎間板変性、サルコペニア、炎症性腸疾患、糖尿病、メタボリックシンドローム、がん、肉腫、リンパ腫、認知症、下垂体腫瘍、神経変性疾患等が挙げられる。また、本発明の老化細胞細胞死誘導剤により、骨量減少の緩和、脂肪組織萎縮、心機能の向上、呼吸機能の回復、筋増強、運動機能の改善、健康寿命の延伸、寿命延伸効果などの効果も期待される。
【0025】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤には、上述の成分の他に、通常の化粧料、医薬部外品に用いられる任意成分を、本発明の効果を阻害しない程度に配合することができる。具体的には、油剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、香料、保湿剤、抗酸化剤、抗炎症剤、抗菌剤等を挙げることができる。
【0026】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤の剤型は、特に限定されず、水系、油系、乳化型等いずれの剤型でもよい。
【0027】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤は定法により調製することができる。
【0028】
本発明の老化細胞細胞死誘導剤は、例えば、ローション剤、乳剤、軟膏の剤型で用いることができる。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0030】
まず、実施例等に用いる植物抽出物の調製方法を示す。
【0031】
(1)栽培から収穫
北海道増毛町湯の沢の有機JAS認定圃場にて、セイヨウナツユキソウの栽培を行った。9月中旬、定植の1週間前に、有機栽培用鶏糞、有機栽培用米糠、有機栽培用石灰、有機栽培用熔燐、油粕、バーク堆肥、グアノを施肥し、圃場を整備した。定植は株分けした株を株間30cm、畝間90cmとなるように行った。5月上旬に、有機栽培用鶏糞、有機栽培用米糠を追肥した。また、適宜雑草を除去した。6月中旬の開花期に花序を収穫し、水洗し、屋外で風乾した。ある程度乾燥したところで、熱乾燥を行い、水分を除去した状態で保管した。
(2)セイヨウナツユキソウエキスの調製
(1)で得られた有機栽培セイヨウナツユキソウの花序を乾燥させて粉砕し、20質量倍量の精製水を加えてオートクレーブにて20分間、121℃に加温して抽出した。温度の高い状態を保って吸引濾過により不溶物を取り除いた後、凍結乾燥を行って抽出物を得た。得られた乾燥物を50容量%のエタノール水溶液にエキス純分として1質量%となるように溶解後、再度ろ過することにより、セイヨウナツユキソウエキスを調製した。
【0032】
[ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞を用いた試験]
ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞を10cmディッシュで継代を重ね細胞老化を誘導した。継代数の少ない(継代数7)正常ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(以下、正常細胞という)と継代数を重ねた(継代数21)細胞老化誘導ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(以下、老化細胞という)を5×10個/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、5%のFBSを含有するDMEM培地にて一晩培養した。セイヨウナツユキソウエキスを任意の濃度で溶解した5%のFBSを含有するDMEM培地に交換し、37°C、5%COインキュベーター内で72時間培養し水溶性テトラゾリウム塩WST-8を発色試薬として用いて各ウェル中の生細胞数を計測した(CellCountingKit-8;株式会社同仁化学研究所)。セイヨウナツユキソウエキスの濃度(w/v%)が表1に示す量になるように培地に溶解した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
正常細胞群と老化細胞群を比較し、セイヨウナツユキソウエキスを添加した場合には正常細胞群では有意な生存率の変化が見られないが、老化細胞群では有意に生存率が減少した。
以上の結果より、本願発明のセイヨウナツユキソウエキスを有効成分とする老化細胞細胞死誘導剤は老化細胞を特異的に、有意に細胞死誘導させることで、老化細胞の蓄積を抑制する効果を発揮する。
また、本願発明の老化細胞細胞死誘導剤は、老化細胞の細胞死を誘導することで、老化細胞がSASPを介して周囲の細胞を老化させることを抑制することによっても老化細胞の蓄積を抑制する効果を発揮する。