(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018347
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/26 20060101AFI20240201BHJP
G01N 27/72 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01B7/26
G01N27/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121633
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雄治
(72)【発明者】
【氏名】堀野 孝
(72)【発明者】
【氏名】大仁田 俊
【テーマコード(参考)】
2F063
2G053
【Fターム(参考)】
2F063AA15
2F063AA16
2F063BB03
2F063BB05
2F063BC05
2F063BD11
2F063BD13
2F063CA34
2F063DA02
2F063DA05
2F063DB05
2F063DC08
2F063DD02
2F063GA52
2G053AA25
2G053AB01
2G053BA03
2G053BA15
2G053BC10
2G053BC20
2G053CA05
2G053CC03
2G053DA01
2G053DA09
(57)【要約】
【課題】非破壊的に鋼材の焼入れ深さの評価を行うにあたり、小型化、低コスト化が可能な焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を提供する。
【解決手段】鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを、鋼材10に間隔を開けて対向させて、かつ、一方の磁極20aと鋼材10との間に検出部30aを介して配置し、永久磁石20のみからの磁界を検出部30aにより測定する焼入れ深さ評価方法を開示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、
永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に検出部を介して配置し、前記永久磁石のみからの磁界を前記検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
【請求項2】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、
永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に第1検出部を介して配置すると共に、前記両磁極のうち他方の磁極に第2検出部を配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び前記第2検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
【請求項3】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、
永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に第1検出部を介して配置すると共に、前記一方の磁極と前記鋼材との間ではない前記一方の磁極に第2検出部を配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び前記第2検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
【請求項4】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、
永久磁石と、
前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された検出部と、を備え、
前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記検出部を介して配置し、
前記永久磁石のみからの磁界を前記検出部により測定する焼入れ深さ評価装置。
【請求項5】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、
永久磁石と、
前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された第1検出部と、
前記両磁極のうち他方の磁極に配置された第2検出部と、を備え、
前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部を介して配置し、
前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び第2検出部で測定する焼入れ深さ評価装置。
【請求項6】
鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、
永久磁石と、
前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された第1検出部と、
前記一方の磁極の前記鋼材と対向させない側面に配置された第2検出部と、を備え、
前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部を介して配置し、
前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び第2検出部で測定する焼入れ深さ評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入れは、焼入れ時間が短く、焼入れ深さを容易にコントロールできるため、高強度を必要とする様々な部品に対して利用されている。鋼材の焼入れ深さにより機械的特性が変化する為、製造後に焼入れ深さを評価する必要がある。
【0003】
特許文献1の発明の背景には、非破壊的に鋼材の焼入れ深度(深さ)の測定を行なう装置として鋼材の保磁力Hcと鋼材の硬度との関係を利用するものがある。この方法は、鋼材の表面に馬蹄形の電磁石をおき励磁電流で十分励磁して、検出器を含めた永久磁石を形成し、次に励磁電流の方向を変えこれらの永久磁石の束が0になるように電流を流すと、永久磁石の起磁力と外部より加えた起磁力は平衡するので、その平衡の関係から電磁石(検出器)のコイルの巻回数をN、励磁電流をIcとしたとき、Fc=N・Icが焼入れ硬化部の深さの関数となっていることを利用して、励磁電流Icを測定して焼入れ深度(深さ)を測定することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法は、装置が大型化し、高コスト化する恐れがある。
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、非破壊で鋼材の焼入れ深さの評価を行うにあたり、小型化、低コスト化が可能な焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
(1)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に検出部を介して配置し、前記永久磁石のみからの磁界を前記検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
(2)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に第1検出部を介して配置すると共に、前記両磁極のうち他方の磁極に第2検出部を配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び前記第2検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
(3)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石の両磁極のうち一方の磁極を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極と前記鋼材との間に第1検出部を介して配置すると共に、前記一方の磁極と前記鋼材との間ではない前記一方の磁極に第2検出部を配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び前記第2検出部により測定する焼入れ深さ評価方法。
(4)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、永久磁石と、前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された検出部と、を備え、前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記検出部を介して配置し、前記永久磁石のみからの磁界を前記検出部により測定する焼入れ深さ評価装置。
(5)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、永久磁石と、前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された第1検出部と、前記両磁極のうち他方の磁極に配置された第2検出部と、を備え、前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部を介して配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び第2検出部で測定する焼入れ深さ評価装置。
(6)鋼材の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置であって、永久磁石と、前記永久磁石の両磁極のうち一方の磁極の前記鋼材と対向させる対向面に配置された第1検出部と、前記一方の磁極の前記鋼材と対向させない側面に配置された第2検出部と、を備え、前記一方の磁極の前記対向面を、前記鋼材に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部を介して配置し、前記永久磁石のみからの差動磁界を前記第1検出部及び第2検出部で測定する焼入れ深さ評価装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、非破壊で鋼材の焼入れ深さの評価を行うにあたり、小型化、低コスト化が可能な焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
【
図2】
図2は、鋼材10の表面の焼入れ深さを非破壊で評価する際の標準線の作成方法を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
【
図4】第3の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
【
図5(a)】
図5(a)は、本予備実験における焼入れ層と焼入れ層を形成していない層(未焼入れ層)の初磁化曲線のグラフである。
【
図5(b)】
図5(b)は、本予備実験における焼入れ層と焼入れ層を形成していない層(未焼入れ層)の比透磁率のグラフである。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法における測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第2の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法における測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図1(b)及び
図3(b)で、どの領域のベクトル分布を測定するのかを説明する概念図である。
【
図9】
図9は、焼入れ深さ0mm時の磁束ベクトル分布図である。
【
図10】
図10は、焼入れ深さ1mm時の磁束ベクトル分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
本実施形態に係る焼入れ深さ評価方法は、
図1に示すように、測定対象物である鋼材10の表面10Aaの焼入れ層10Aの深さ(焼入れ深さ:以下同じ。)を非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石20(20A及び20B)の両磁極20a、20b(N極:20a、S極:20b)のうち一方の磁極(本実施形態ではN極20a)を、前記鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極20aと前記鋼材10との間に検出部30aを介して配置し、前記永久磁石20のみからの磁界を前記検出部30aにより測定することを特徴とする。
【0010】
本実施形態に係る焼入れ深さ評価装置100は、
図1に示すように、鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置100であって、永久磁石20と、前記永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aの前記鋼材10と対向させる対向面20a1に配置された検出部30aと、を備え、前記一方の磁極20aの前記対向面20a1を、前記鋼材20に間隔を開けて対向させて、かつ、前記検出部30aを介して配置し、前記永久磁石20のみからの磁界を前記検出部30aにより測定することを特徴とする。
【0011】
永久磁石20は励磁用コイルが無くても、すなわち、永久磁石20のみであっても、測定対象の鋼材10に磁界を印加する。そのため、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを、鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて配置させると、永久磁石20のみがつくる交流磁場により鋼材10に磁界が印加される。
【0012】
なお、鋼材10の焼入れ層10Aと焼入れ層10Aの内層に存在する焼入れされていない未焼入れ層10Bでは磁気特性が変化する。従って、永久磁石20から鋼材10に印加された磁界を測定し、変化する磁気特性を評価することで、鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価することができる。また、励磁用コイルが無い永久磁石のみからの磁界を測定するため、小型化、低コスト化が可能になる。
【0013】
前記磁界の測定は、
図1に示すように、前記一方の磁極20aの対向面20a1と前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置する検出部30aにより行う。
前記検出部30aは、ホール素子で構成されている。また、ホール素子は、保持部材30bに保持されて、前記一方の磁極20aと前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置されており、前記検出部30a(ホール素子)と前記保持部材30bとで検出手段30を構成している。
このような検出手段30を用いることで、永久磁石20のみからの磁界を測定しやすくなり、かつ、前記間隔を開けて対向させやすくなるため好ましい。
【0014】
鋼材10の素材鋼は、焼入れ層10Aを形成させることができれば特に限定されない。鋼材10の素材鋼は、例えば、SCM440(C:0.38%~0.43%、Si:0.15%~0.35%、Mn:0.60%~0.90%、P≦0.030%、S≦0.030%、Ni≦0.25%、Cr:0.90%~1.20%、Mo:0.15%~0.30%)が用いられる。
鋼材10の形状は、例えば、
図1に示すような板状で構成されており、素材側である未焼入れ層10Bと表面側である焼入れ層10Aを有している。
【0015】
永久磁石20は、例えば、希土類磁石、フェライト磁石を用いることができる。なお、永久磁石20は、磁束密度が高く、強い磁力を持つという観点から、希土類磁石の中でもネオジウム磁石を用いることが好ましい。
永久磁石20の形状は、特に限定されないが、例えば、円柱状で構成されている。
【0016】
検出部30aであるホール素子は、非接触で位置や角度を検出可能な磁気センサである。
ホール素子は、例えば、感磁面を貫く垂直方向の磁界を検出する横型のホール素子で構成されている。
保持部材30bは、検出部30aを前記一方の磁極20aと前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置するための保持具である。保持部材30bは、例えば、絶縁性の板状長尺物で構成されている。
【0017】
次に、検出部30a(本実施形態ではホール素子)により永久磁石20のみからの磁界を測定し、鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価するまでの方法を説明する。
(1)標準サンプルの作成
(1-a)鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価する製品と同一の素材鋼を準備する。
(1-b)前記同一の素材鋼に対して、当該製品に行う焼入れと同様の条件で加熱時間を調整して焼入れを行い、焼入れ深さが異なる複数の焼入れ鋼材(例:焼入れ深さ1mm、3mm、5mm)のサンプル片及び焼入れしない素材鋼(焼入れ深さ0mm)のサンプル片をそれぞれ作製する。これらを標準サンプルとする。
【0018】
(2)標準サンプルの測定
(1)で作製したそれぞれのサンプル片の表面(素材鋼はその表面、焼入れ鋼材は焼入れした表面)に、検出部30aを対向させて配置し、その検出部30a上に、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを対向させて配置し、検出部30aにより、それぞれのサンプル片における前記永久磁石20のみからの磁界を測定する。
【0019】
(3)磁束密度値の算出及び標準線の作成
図2は、鋼材10の表面の焼入れ深さを非破壊で評価する際の標準線の作成方法を説明するための概念図である。
測定した磁界からそれぞれのサンプル片における磁束密度値を周知の方法で算出する。次に、焼入れしない素材鋼の磁束密度値を基準としてそれぞれのサンプル片の各焼入れ深さにおける磁束密度値の変化率(以下、これを単に「変化率」という。)を下記式(1)により算出し、横軸を焼入れ深さ(X)、縦軸を変化率(Y)としてプロットし、標準線(最小二乗法による近似曲線)Y=aX+b(a、bは定数)を作成する(
図2参照)。
式(1)
【数1】
【0020】
(4)作成した標準線から製品の焼入れ深さを算出して評価
製品の表面(焼入れ層)に対して、検出部30aを対向させて配置し、その検出部30a上に、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを対向させて配置し、検出部30aにより、当該製品の表面における前記永久磁石20のみからの磁界を測定する。
【0021】
また、測定した磁界からその製品における磁束密度値を周知の方法で算出する。
更に、前記焼入れしない素材鋼の磁束密度値を基準として前記算出した磁束密度値の当該製品における変化率(標準線でいうY値)を上記式(1)により算出する。
最後に、前記作成した標準線Y=aX+b(a、bは定数)のYに当該算出した製品における変化率を入力し、Xを算出することで、当該製品における焼入れ深さを評価することができる。
【0022】
なお、永久磁石20は、複数(
図1では2個)の永久磁石20A、20Bを直列につないで設置してもよく、1個のみの永久磁石を用いてもよい。また、本実施形態(
図1)では、鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて配置する永久磁石20の一方の磁極をN極20aで説明したが、S極20bであってもよい。
【0023】
また、本実施形態では、検出部30aをホール素子で説明したが、磁気センサであり、
前記一方の磁極20aと前記鋼材10との間に配置することが出来ればホール素子でなくてもよい(例えば、検出コイルであってもよい)。
ただし、ホール素子は、非接触で位置や角度を検出可能な磁気センサである。従って、ホール素子は、検出コイルよりも小型化が図れるため好ましい。
【0024】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
本実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置は、第1の実施形態における検出手段30が検出手段30A(第1検出手段30A1及び第2検出手段30A2)に、検出部30aが第1検出部30a1及び第2検出部30a2に、保持部材30bが第1保持部材30b1及び第2保持部材30b2にそれぞれ置き換えられた構成を有する。
【0025】
本実施形態に係る焼入れ深さ評価方法は、
図3に示すように、鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを、前記鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極20aと前記鋼材10との間に第1検出部30a1を介して配置すると共に、前記両磁極20a、20bのうち他方の磁極(本実施形態ではS極20b)に第2検出部30a2を配置し、前記永久磁石20のみからの差動磁界を前記第1検出部30a1及び前記第2検出部30a2により測定することを特徴とする。
【0026】
本実施形態に係る焼入れ深さ評価装置200は、
図3に示すように、鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置200であって、永久磁石20と、前記永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aの前記鋼材20と対向させる対向面20a1に配置された第1検出部30a1と、前記両磁極のうち他方の磁極20bに配置された第2検出部30a2と、を備え、前記一方の磁極20aの前記対向面20a1を、前記鋼材10に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部30a1を介して配置し、前記永久磁石20のみからの差動磁界を前記第1検出部30a1及び第2検出部30a2により測定することを特徴とする。
【0027】
永久磁石20は、励磁用コイルが無くても、すなわち、永久磁石20のみであっても、測定対象の鋼材10に磁界を印加する。そのため、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを、鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて配置させると、永久磁石20のみがつくる交流磁場により鋼材10に磁界が印加される。
【0028】
なお、鋼材10の焼入れ層10Aと焼入れ層10Aの内層に存在する焼入れされていない未焼入れ層10Bでは磁気特性が変化する。従って、永久磁石20から鋼材10に印加された磁界を測定し、変化する磁気特性を評価することで、鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価することができる。また、励磁用コイルが無い永久磁石のみからの磁界を測定するため、小型化、低コスト化が可能になる。
更に、本実施形態では、前記測定する磁界は、永久磁石のみからの両磁極20a、20b間の差動磁界を測定する。従って、第1の実施形態よりもより高精度に焼入れ深さを評価することができる。
【0029】
前記差動磁界の測定は、
図3に示すように、前記一方の磁極20aの対向面20a1と前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置する第1検出部30a1と、前記他方の磁極20bに配置する第2検出部30a2により行う。
【0030】
前記第1検出部30a1はホール素子で構成されている。また、ホール素子は、第1保持部材30b1に保持されて、前記一方の磁極20aと前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置されており、前記第1検出部30a1(ホール素子)と前記第1保持部材30b1とで第1検出手段30A1を構成している。
前記第2検出部30a2はホール素子で構成されている。また、ホール素子は、第2保持部材30b2に保持されて、前記他方の磁極20bに配置されており、前記第2検出部30a2(ホール素子)と前記第2保持部材30b2とで第2検出手段30A2を構成している。
【0031】
このような検出手段30A(第1検出手段30A1及び第2検出手段30A2)を用いることで、永久磁石20のみからの差動磁界を測定しやすくなり、かつ、第1検出手段30A1側は、前記間隔を開けて対向させやすくなるため好ましい。
【0032】
第1検出部30a1及び第2検出部30a2であるホール素子は、非接触で位置や角度を検出可能な磁気センサである。
これらホール素子は、例えば、感磁面を貫く垂直方向の磁界を検出する横型のホール素子で構成されている。
【0033】
第1保持部材30b1は、第1検出部30a1を前記一方の磁極20aと前記鋼材10の表面10Aaとの間に配置するための保持具である。第2保持部材30b2は、第2検出部30a2を前記他方の磁極20bに配置するための保持具である。
第1保持部30b1及び第2保持部30b2は、例えば、絶縁性の板状長尺物で構成されている。
【0034】
測定対象物である鋼材10の素材鋼及び永久磁石20は、第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0035】
次に、第1検出部30a1及び第2検出部30a2(本実施形態ではホール素子)により永久磁石20のみからの差動磁界を測定し、鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価するまでの方法を説明する。
【0036】
(1)標準サンプルの作成
(1-a)鋼材10の表面10Aaの焼入れ深さを非破壊で評価する製品と同一の素材鋼を準備する。
(1-b)前記同一の素材鋼に対して、当該製品に行う焼入れと同様の条件で加熱時間を調整して焼入れを行い、焼入れ深さが異なる複数の焼入れ鋼材(例:焼入れ深さ1mm、3mm、5mm)のサンプル片及び焼入れしない素材鋼(焼入れ深さ0mm)のサンプル片をそれぞれ作製する。これらを標準サンプルとする。
【0037】
(2)標準サンプルの測定
(1)で作製したそれぞれのサンプル片の表面(素材鋼はその表面、焼入れ鋼材は焼入れした表面)に、第1検出部30a1を対向させて配置し、その第1検出部30a1上に、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを対向させて配置し、他方の磁極20bに第2検出部30a2を配置し、第1検出部30a1及び第2検出部30a2により、それぞれのサンプル片における前記永久磁石20のみからの差動磁界を測定する。
【0038】
(3)磁束密度値の算出及び標準線の作成
測定した差動磁界からそれぞれのサンプル片における磁束密度値を周知の方法で算出する。次に、焼入れしない素材鋼の磁束密度値を基準としてそれぞれのサンプル片の各焼入れ深さにおける磁束密度値の変化率を下記式(2)により算出し、横軸を焼入れ深さ(X)、縦軸を変化率(Y)としてプロットし、標準線(最小二乗法による近似曲線)Y=aX+b(a、bは定数)を作成する(
図2参照)。
式(2)
【数2】
【0039】
(4)作成した標準線から製品の焼入れ深さを算出して評価
製品の表面(焼入れ層)に対して、第1検出部30a1を対向させて配置し、その第1検出部30a1上に、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを対向させて配置し、他方の磁極20bに第2検出部30a2を配置し、第1検出部30a1及び第2検出部30a2により、それぞれのサンプル片における前記永久磁石20のみからの差動磁界を測定する。
【0040】
また、測定した差動磁界からその製品における磁束密度値を周知の方法で算出する。
更に、前記焼入れしない素材鋼の磁束密度値を基準として前記算出した磁束密度値の当該製品における変化率(標準線でいうY値)を上記式(1)により算出する。
最後に、前記作成した標準線Y=aX+b(a、bは定数)のYに当該算出した製品における変化率を入力し、Xを算出することで、当該製品における焼入れ深さを評価することができる。
【0041】
なお、永久磁石20は、複数(
図3では2個)の永久磁石20A、20Bを直列につないで設置してもよく、1個のみの永久磁石を用いてもよい。また、本実施形態(
図3)では、鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて配置する永久磁石20の一方の磁極をN極20aで説明したが、S極20bであってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、第1検出部30a1をホール素子で説明したが、磁気センサであり、前記一方の磁極20aと前記鋼材10との間に配置することが出来ればホール素子ではなく、検出コイルでもよい。また、第2検出部30a2もホール素子で説明したが、第1検出部30a1と同様に、磁気センサであり、前記他方の磁極20bに配置することが出来ればホール素子ではなく、検出コイルでもよい。
【0043】
ただし、ホール素子は、非接触で位置や角度を検出可能な磁気センサである。従って、ホール素子は、検出コイルよりも小型化が図れる第1検出部30a1及び第2検出部30a2に第1ホール素子及び第2ホール素子として用いることが好ましい。
【0044】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置を模式的に示す図であり、(a)はその鳥観図、(b)は(a)のA-A’線で切った断面図である。
本実施形態に係る焼入れ深さ評価方法及び焼入れ深さ評価装置は、検出手段30Aが検出部30AA(具体的には、第2検出部30A2が第2検出部30AA2)に置き換えられた構成を有する。その他の構成は第2の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0045】
本実施形態に係る焼入れ深さ評価方法は、
図4に示すように、鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価方法であって、永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aを、前記鋼材10の表面10Aaに間隔を開けて対向させて、かつ、前記一方の磁極20aと前記鋼材10との間に第1検出部30a1を介して配置すると共に、前記一方の磁極20aと前記鋼材10の表面10Aaとの間ではない前記一方の磁極20aに第2検出部30a2を配置し、前記永久磁石20のみからの差動磁界を前記第1検出部30a1及び前記第2検出部30a2により測定することを特徴とする。
【0046】
本実施形態に係る焼入れ深さ評価装置300は、鋼材10の焼入れ深さを非破壊で評価する焼入れ深さ評価装置300であって、永久磁石20と、前記永久磁石20の両磁極20a、20bのうち一方の磁極20aの前記鋼材10と対向させる対向面20a1に配置された第1検出部30a1と、前記一方の磁極20aの前記鋼材10に対向させない側面20a2に配置された第2検出部30a2と、を備え、前記一方の磁極20aの前記対向面20a1を、前記鋼材10に間隔を開けて対向させて、かつ、前記第1検出部30a1を介して配置し、前記永久磁石20のみからの差動磁界を前記第1検出部30a1及び第2検出部30a2で測定することを特徴とする。
【0047】
すなわち、第1検出部30a1を一方の磁極20aの対向面20a1に、第2検出部30a2を前記一方の磁極20aの側面20a2に配置し、前記差動磁界を測定する。
本実施形態では上述した構成を備えることで、第2の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【実施例0048】
(予備実験)
素材鋼としてSCM440(C:0.38%~0.43%、Si:0.15%~0.35%、Mn:0.60%~0.90%、P≦0.030%、S≦0.030%、Ni≦0.25%、Cr:0.90%~1.20%、Mo:0.15%~0.30%)を用いて、下記条件にて高周波誘導加熱による焼入れを行い、焼入れ深さ3.0mmの焼入れ層を形成した。
[焼入れ条件]
・熱処理条件 最高到達温度:950℃、時間:5.0秒
・周波数 200kHZ
前記焼入れ条件により焼入れ層を形成した焼入れ鋼材と焼入れ層を形成していない素材鋼における初磁化曲線と比透磁率を測定した。
【0049】
図5に、本予備実験における焼入れ層と焼入れ層を形成していない層(未焼入れ層)の(a)初磁化曲線と(b)比透磁率のグラフを示す。
図5(a)に示した初磁化曲線と
図5(b)に示した比透磁率のグラフから、焼入れの有無によって透磁率が低下することが分かる。詳しくは、未焼入れ層に比べて、焼入れ層の最大比透磁率が61.3%減少しており、磁気特性が低下していることが確認できる。
以上から焼入れ鋼材内の焼入れ層と未焼入れ層では磁気特性が変化することが確認できる。
【0050】
(実施例)
素材鋼としてSCM440(C:0.38%~0.43%、Si:0.15%~0.35%、Mn:0.60%~0.90%、P≦0.030%、S≦0.030%、Ni≦0.25%、Cr:0.90%~1.20%、Mo:0.15%~0.30%)を用いて、上記条件にて高周波誘導加熱による焼入れを行い、加熱時間を調整して、焼入れ深さ1mm、3mm、5mmの焼入れ層を形成した。
次に、永久磁石と焼入れ鋼材間に配置したホール素子に得られる磁界の大きさを、焼入れ深さ0mm(上記焼入れを行っていない素材鋼を使用)、1mm、3mm、5mmの時でどのように変化するかについて測定を行った。なお、本測定では各々5回計測し、その平均値で評価した。
【0051】
まず、
図1に示すような第1の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法(ホール素子が1個の場合)について検討を行った。
図6は、第1の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法における測定結果を示すグラフである。
図6は、未焼入れ鋼材を測定した際のホール素子に得られる磁束密度値を基準とした各焼入れ深さにおける変化率を示している。また、
図6の縦軸は焼入れ深さ0mm時と比較した変化率、横軸は焼入れ深さを示している。ここでの変化率は上述した式(1)で算出している。
【0052】
なお、
図6には三次元有限要素法の
図5の非線形磁気特性を考慮した磁界解析による解析結果も併せて示している。
図6から本評価と解析の両方で焼入れ深さが深くなると変化率は下がり傾向であることが確認された。また、変化率としては焼入れ深さ0mmと比べて、焼入れ深さ5mmまででは約0.3%程度の変化率が確認された。
【0053】
次に、
図3に示すような第2の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法(ホール素子が2個の場合)について検討を行った。
図7は、第2の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法における測定結果を示すグラフである。
なお、
図7においては未焼入れ鋼材を測定した際のホール素子の差動で得られる磁束密度値を基準とした各焼入れ深さにおける変化率を示している。なお、この
図7においても縦軸は焼入れ深さ0mm時と比較した変化率、横軸は焼入れ深さを示している。また、ここでの変化率は上述した式(2)で算出している。
【0054】
図7から焼入れ深さが深くなるほど変化率は下がり傾向であることが確認できる。また、変化率としては焼入れ深さ0mm時と比べて、焼入れ深さ5mmまででは、約0.7%程度の変化率がある。このように差動による磁束密度値を取ることで鋼材内に入る磁束密度がより詳しくわかり、より正確に焼入れ深さ毎の変化率を確認することができたと考えられる。
また、
図6と
図7を比べても、差動磁界を測定した方が焼入れ深さ毎の磁束密度値の変化率が大きく出ることも確認できた。従って、第1の実施形態(
図1、
図6)よりも第2の実施形態(
図3、
図7)の方がより高精度に焼入れ深さを評価できると考えられる。
【0055】
また、
図4に示すような第3の実施形態に係る焼入れ深さ評価方法(ホール素子が2個の場合)についても検討を行ったところ、第2の実施形態(
図3)と同様の測定結果(傾向)が確認された。
【0056】
図8から
図10は三次元有限要素法磁界解析における磁束ベクトル分布に関連する図である。
詳しくは、
図8は、
図1(b)及び
図3(b)で、どの領域の磁束ベクトル分布を測定するのかを説明する概念図である。
図9は、焼入れ深さ0mm時の磁束ベクトル分布図である。
図10は、焼入れ深さ1mm時の磁束ベクトル分布図である。
【0057】
図9及び
図10から、未焼入れ層と焼入れ層では透磁率が異なるので、磁束が焼入れ硬化層から未焼入れ層へ流れているのが分かる。この時にホール素子部分にあたるところの平均磁界値は0mm時では、1.00843155[T]、1mm時では、1.00743163[T]であり、磁束密度値が低下していることが確認できる。