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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018368
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】腸内細菌叢改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/835 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
A61K36/835
A61P1/00
A61K127:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121668
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 広恵
(72)【発明者】
【氏名】坂井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】光井 太一
(72)【発明者】
【氏名】河野 宏行
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩平
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB12
4C088AC05
4C088BA09
4C088CA05
4C088NA14
4C088ZA66
(57)【要約】
【課題】腸内細菌叢改善作用を向上できる腸内細菌叢改善用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の腸内細菌叢改善用組成物は、沈香葉の溶媒抽出物を有効成分として含有する。前記溶媒抽出物は、熱水抽出物であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈香葉の溶媒抽出物を有効成分として含有する腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項2】
前記溶媒抽出物は、熱水抽出物である請求項1に記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【請求項3】
前記腸内細菌叢改善は、ビフィズス菌数の増加、Erysipelatoclostridium属細菌の割合減少、腸内pHの低下、並びに腸内の酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の合計量に対するプロピオン酸の含有割合の増加、から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の腸内細菌叢改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈香葉の溶媒抽出物を含有する腸内細菌叢改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌叢(腸内フローラ)の細菌種のバランスが、健康維持に重要な役割を持つことが明らかとなってきている。細菌叢は、比較的安定した生態系ではあるが、様々な因子の影響を受けて、その構成や活性が変化することもある。ストレス、老化等により細菌叢の細菌種のバランスが崩れると、健康状態に影響が出るおそれがある。幅広い疾病に対する予防する方法の一つとして、腸内環境の維持及び健全化がますます重要になってきている。
【0003】
従来より、安全性の高い植物由来の天然成分からなる機能性素材としてジンチョウゲ科沈香の乾燥葉が知られている。特許文献1,2に開示されるように、ジンチョウゲ科沈香の乾燥葉は、副交感神経を介した回腸自動運動の促進することにより発揮される緩下効果の他、デトックス効果等の生体に有効な効果を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-217398号公報
【特許文献2】特開2008-303198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ジンチョウゲ科沈香の乾燥葉の新たな生理作用を模索した。その結果、沈香葉の溶媒抽出物が腸内細菌叢改善作用を向上できることを発見するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、沈香葉の溶媒抽出物が細菌叢改善作用を向上させることを見出したことに基づいてなされたものである。
上記課題を解決するための本発明の一態様の腸内細菌叢改善用組成物は、沈香葉の溶媒抽出物を有効成分として含有することを要旨とする。
【0007】
前記腸内細菌叢改善用組成物において、前記溶媒抽出物は、熱水抽出物であってもよい。
前記腸内細菌叢改善用組成物において、前記腸内細菌叢改善は、ビフィズス菌数の増加、Erysipelatoclostridium属細菌の割合減少、腸内pHの低下、並びに腸内の酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の合計量に対するプロピオン酸の含有割合の増加、から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の腸内細菌叢改善用組成物によれば、腸内細菌叢改善作用を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の腸内細菌叢改善用組成物を具体化した第1の実施形態を説明する。腸内細菌叢改善用組成物は、沈香葉の溶媒抽出物を有効成分として含有する。
(沈香葉)
沈香は、主としてタイ、ベトナム、カンボジア、及びマレーシア等の東南アジアに生息するジンチョウゲ科アクイラリア属(Aquilaria)の植物である。沈香葉には、主な薬効成分としてゲンクワニン5-O-β-プリメベロシド(Genkwanin5-O-β-primeveroside)が含有される。
【0010】
沈香葉は、乾燥処理後、溶媒抽出処理してもよく、溶媒抽出処理前に焙煎処理してもよい。焙煎は、沈香葉を乾煎りすることにより行われる。具体的には、容器に沈香葉を入れ、水分は加えず、容器の外から所定の温度に加熱することにより行われる。沈香葉の焙煎温度は、好ましくは130~170℃、より好ましくは140~160℃で行われる。焙煎温度が130℃未満の場合、沈香由来の青臭い香りが残り、後味が苦くなる場合がある。一方、焙煎温度が170℃を超える場合、強い焦げ臭が発生する場合がある。
【0011】
沈香葉の焙煎時間は、特に限定されない。高温である焙煎温度を長時間維持すると沈香葉が炭化するおそれがあるため、好ましくは、加熱した容器に沈香葉を投入してさらに加熱を続け、所定の温度に到達したと同時に加熱を停止し、速やかに沈香葉を取り出し、送風して強制冷却を行う。
【0012】
(溶媒抽出)
沈香葉の溶媒抽出物の製造方法は、沈香葉に溶出用溶媒としての水、有機溶媒、又はそれらの混合液を添加する工程を含む。溶出用溶媒としては、水、有機溶媒、及び水/有機溶媒の混合液が挙げられる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の親水性有機溶媒、ヘキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中で安全性、取り扱い性等の観点から、水、エタノール、又はエタノール/水の混合液が好ましく、水がより好ましく、熱水が特に好ましい。エタノール/水の混合液中のエタノールの濃度は、主成分であるゲンクワニン5-O-β-プリメベロシドの抽出効率の観点から、好ましくは55~95容量%、より好ましくは60~80容量%である。
【0013】
溶出用溶媒の使用容量は、沈香葉の質量に対して好ましくは1~500倍量、より好ましくは5~200倍量、さらに好ましくは10~150倍量である。溶出用溶媒の使用容量が1倍量未満の場合には、主成分であるゲンクワニン5-O-β-プリメベロシドの抽出率が悪いので好ましくない。逆に溶出用溶媒の使用容量が500倍量を超える場合には、不必要に大きな装置が必要となるばかりでなく、濃縮等の工程に時間を要し、作業性が著しく低下するので好ましくない。また、溶出用溶媒中において、主成分であるゲンクワニン5-O-β-プリメベロシドの濃度が低下し、有効量の摂取が困難となる。
【0014】
また、主成分であるゲンクワニン5-O-β-プリメベロシドの抽出効率を向上させるために、抽出処理前に採取時に混入するゴミ等の夾雑物を除去し、沈香葉を粉砕することが好ましい。抽出温度は好ましくは30~100℃の幅広い温度範囲において適用することができる。抽出温度が30℃未満の場合には、含有成分の抽出率が悪いので好ましくない。逆に抽出温度が100℃を超える場合には、抽出溶媒が蒸発するため好ましくない。なお、抽出操作は、前記抽出温度で撹拌又は静置しながら数十秒~数時間行えばよい。そして、上記の抽出条件で含有成分を十分に抽出した後、濾紙濾過、珪藻土濾過などの濾過処理を行なうことにより沈香葉の抽出物が得られる。上記のように得られた沈香葉の抽出物は、溶出用溶媒を用いて抽出した抽出液をそのまま飲食品、医薬品等に適用してもよい。また、溶媒を蒸発させて濃縮処理して適用してもよく、乾燥及び粉末化して適用してもよい。
【0015】
(腸内細菌叢の改善)
本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物は、例えばビフィズス菌数の増加、Erysipelatoclostridium(エリシペラトクロスリジウム)属細菌の割合減少、腸内pHの低下、並びに腸内の酢酸、プロピオン酸、酪酸の合計量に対するプロピオン酸の含有割合の増加等の作用を有する。腸内細菌叢改善用組成物は、ビフィズス菌数の増加等により腸内細菌叢の改善、悪化の軽減等の作用を発揮する。
【0016】
(用途)
本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物は、腸内細菌叢改善作用を得ることを目的とした健康食品、サプリメントとして適用してもよい。また、腸内細菌叢改善を目的とした各種医薬品、医薬部外品に適用してもよい。
【0017】
本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物を飲食品に適用する場合、そのままの形態で、又は種々の食品素材に添加することによって使用することができる。また、腸内細菌叢改善用組成物を錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル等)、顆粒剤、及び粉末剤の形態として直接摂取する構成を適用してもよい。前記飲食品としては、その他の食品添加物として糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0018】
飲食品において用途を表示する場合、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物の各種用途の表示内容としては、上述した腸内細菌叢改善、ビフィズス菌数の増加、Erysipelatoclostridium属細菌の割合減少、腸内pHの低下、並びに腸内の酢酸、プロピオン酸、酪酸の合計量に対するプロピオン酸の含有割合の増加等の表示の他、腸内細菌叢改善に伴う糖尿病、免疫低下、ストレス、肥満等の各症状の改善、予防、悪化の防止、又は症状の悪化の遅延を示唆する表示も含まれる。
【0019】
本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物の効果について説明する。
(1)本実施形態の腸内細菌叢改善用組成物は、有効成分として沈香葉の溶媒抽出物が含まれる。したがって、特に腸内細菌に影響を与え、これまで知られていなかった細菌叢改善作用を向上させる効果を発揮する。
【0020】
(2)有効成分として沈香葉の熱水抽出物が用いられる場合、生体適用性をより向上できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0021】
・上記実施形態における腸内細菌叢改善用組成物は、ヒトが摂取する飲食品及び医薬品等に対して適用することができるのみならず、家畜の飼料にサプリメント、栄養補助食品、医薬品等として配合してもよい。
【0022】
・溶出用溶媒を用いた抽出方法は、コスト削減のために抽出後の固液分離処理後の抽出液を次の抽出処理に複数回用いてもよい。
【実施例0023】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:沈香葉の溶媒抽出物の調製>
原料として沈香葉の乾燥粉砕物1kgに抽出溶媒として水15Lを加えた。90℃で60分間撹拌しながら抽出した。そして、抽出液を濾過して残渣を除去することによって、水抽出物を得た。得られた水抽出液をBrix20~25°に濃縮した後、賦形剤としてマルトデキストリンを50質量%添加し、スプレードライヤーで乾燥しながら粉末化し、水分含有量7質量%以下の粉末を得た。
【0024】
<試験例2:腸内細菌叢改善の評価>
(1)ヒト大腸フローラモデル
ヒト大腸フローラモデルとして、ヒト糞便をGAM培地で培養することにより、個人の腸内環境を再現する試験系が知られている(「A Single-Batch Fermentation System to Simulate Human Colonic Microbiota for High-Throughput Evaluation of Prebiotics」Takagi et al., PloS ONE(2016))。かかるヒト大腸フローラモデルを使用することにより、個人差、生活習慣を排除したうえで(被験物質添加前の腸内細菌叢が同じ)、沈香葉の溶媒抽出物の腸内細菌叢に及ぼす影響を評価できる。
【0025】
(被験者)
20代の男性3名と女性5名にした。
(培養方法)
ヒト腸管モデルシステム(Kobe University Human Intestinal Modek[KUHIM])を使用した。糞便は、BD BBLカルチャースワブ(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に採取した。採便後は、4℃で保管し、24時間以内に培養試験に供した。
【0026】
(a)GAM培地5.9g(最終100mL相当量)を測り、超純水80mLに溶解した。消泡剤5μLを添加し、よく撹拌したのち115℃、15分のオートクレーブを行った。
【0027】
(b)培養開始前にガス置換(N:CO=8:2)を行いながら37℃に降温した。
(c)規定量の試料を50mL遠心チューブに測り、滅菌水20mLに溶かした。その後、(b)の培地に添加した。
【0028】
(d)試験時に1%アスコルビン酸入り生理食塩水2mLに懸濁し、培養槽に100μL播種した。
(添加量)
試験例1において粉末化された沈香葉の溶媒抽出物を試料として300mg又は600mg添加した。
【0029】
(統計解析)
一元配置分散分析(ANOVA)及び多重比較検定(Tukey)
(2)pHに与える影響
48時間培養後の培地のpHを測定した。各被験者のpHの値と、平均値及び標準誤差(SE)を求めた。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
表1に示されるように、沈香葉の溶媒抽出物により、被験者全員の培地pHの低下が観察された(コントロールvs 300mg p=0.30718、コントロールvs 600mg p=0.00908)。600mgの添加でコントロールに対して有意差ありの結果となった。ウィルコクソン順位和検定法への検定法変更により300mg摂取においても有意差ありの結果となった(Wilcoxon matched-pairs signed rank test p=0.0078)。沈香葉が腸内細菌叢に影響を与え、有機酸等の生成によりpHが低下しているものと思われる。大腸菌、ウェルシュ菌等の悪玉菌が作り出す成分は、腸内をアルカリ性にすることから、沈香葉の溶媒抽出物により腸内細菌叢が改善する方向へ変化し、腸内のpHが低下することが確認された。
【0031】
(3)有機酸産生に与える影響
48時間培養後の培地中において、腸内細菌の代謝産物である酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の3種類の有機酸の合計(100質量%)に対するプロピオン酸産生の割合(質量%)を求めた。有機酸の定量は、HPLCを用い、各種標準品から求めた検量線より求めた。各被験者の各有機酸の割合と、平均値及び標準誤差(SE)を求めた。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
表2に示されるように、沈香葉の溶媒抽出物により、プロピオン酸の割合の有意な増加が観察された(コントロールvs 300mg p=0.0234)。プロピオン酸の増加は、免疫機能の増加や食欲抑制効果等の良い影響を与えることが知られている。つまり、沈香葉の溶媒抽出物により腸内細菌叢が改善する方向へ変化し、プロピオン酸の産生を促進していることが確認された。
【0033】
(4)ビフィズス菌数に与える影響
48時間培養後の培地中のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の菌数を測定した。各培養後の培地より抽出したDNAを用いてビフィドバクテリウム属の菌定量解析(PCR)を行った。各被験者のビフィドバクテリウム属の菌量(log10表記)と、平均値及び標準誤差(SE)を求めた。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
表3に示されるように、沈香葉の溶媒抽出物により、8名中7名において、ビフィドバクテリウム属の増加が観察された。つまり、沈香葉の溶媒抽出物により腸内細菌叢が改善する方向へ変化し、いわゆる善玉菌であるビフィズス菌数の増加に影響を与えていることが確認された。
【0035】
(5)Erysipelatoclostridium属の割合に与える影響
48時間培養後の培地中の腸内細菌叢解析(NGS)を行った(リード数51564/sample)。培養液から細菌DNAを抽出し、次世代シークエンサー解析(NGS)を行い、各試験試料におけるErysipelatoclostridium属の変化を評価した。各被験者のErysipelatoclostridium属のリード数を求めた。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
表4に示されるように、NGS解析の結果(0(コントロール) vs 300 mg の2群検定)から、Erysipelatoclostridium属の有意な減少が見られた(P=0.039)。Erysipelatoclostridium属は、例えば消化管炎症時に増加する悪玉菌であるため、沈香葉の溶媒抽出物により腸内細菌叢が改善する方向へ変化し、いわゆる悪玉菌であるErysipelatoclostridium属の割合に影響を与えていることが確認された。