(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018378
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】チタノシリケートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/08 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C01B39/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121688
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀春
(72)【発明者】
【氏名】熊田 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 典生
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA20
4G073BA63
4G073BD01
4G073CZ55
4G073FB01
4G073FB46
4G073FB50
4G073FC22
4G073FC25
4G073GA03
4G073UA01
4G073UA03
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡易な方法でチタノシリケートの製造が可能なチタノシリケートの製造方法を提供する。
【解決手段】チタノシリケートの製造方法において、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物および水と混合して原料混合物を調製し、原料混合物に210℃以上の温度下で水熱合成処理を実施してチタノシリケートを得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物および水と混合して原料混合物を調製し、原料混合物に210℃以上の温度下で水熱合成処理を実施してチタノシリケートを得る、チタノシリケートの製造方法。
【請求項2】
前記層状アルカリ金属ケイ酸塩は、カネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイトおよびケニヤアイトの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記チタン化合物は、チタン酸化物、チタンハロゲン化物および有機チタン化合物の少なくとも1種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水熱合成における温度は350℃以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水熱合成における温度は220℃以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物のpHは12.0以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記チタノシリケートとしてETS-4型またはETS-10型のチタノシリケートを得る、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタノシリケートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、有機化合物の酸化反応の触媒としてまたは混合物から特定物質を分離する分子ふるいとして、チタノシリケートが注目されている(特許文献1~7および非特許文献1~3)。
【0003】
従来、チタノシリケートは、塩基性のシリカ源溶液(例えば、シリカ、水酸化ナトリウム、脱イオン水を含む混合物)と、酸性のチタン源溶液(例えば、硫酸チタン(IV)、硫酸、脱イオン水を含む混合物)とをそれぞれ調整し、それらの溶液を混合し、その後この原料混合物に水熱合成処理を実施することにより製造される(非特許文献1~3)。
【0004】
また、アルミノシリケート(ゼオライト)中のアルミニウムの一部をチタンに置き換えてチタノシリケートを得る方法も知られている。例えば、特許文献6および7には、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、水および構造規定剤等の原料を用いて、特定のゼオライト構造を有するアルミノシリケートを合成し、アルミノシリケートを酸処理し、酸処理したアルミノシリケートを、気相の塩化チタンまたはチタンアルコキシドとともに加熱する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-292171号公報
【特許文献2】特開2007-145687号公報
【特許文献3】特開2008-050186号公報
【特許文献4】特開2008-200553号公報
【特許文献5】特開2009-274062号公報
【特許文献6】特開2018-162183号公報
【特許文献7】特開2020-189765号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yin-Qing Zhang,et al.,Chem.Mater.,2011,Vol.23,pp.1166-1173
【非特許文献2】Sankar Nair,et al.,Chem.Mater.,2001,Vol.13,pp.4247-4254
【非特許文献3】C.C.Pavel,et al.,Microporous and Mesoporous Mater.,2002,Vol.56,pp.227-239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1~3に記載の方法では、水熱合成処理に供する原料混合物を調製する前に、適切な濃度のシリカ源溶液およびチタン源溶液をそれぞれ事前に調製する工程が必要である。一方、特許文献6および7に記載の方法では、アルミノシリケートを酸処理する工程が必要である。
【0008】
しかしながら、そのような溶液材料の事前の調製工程およびケイ酸塩材料の酸処理工程は、煩雑で、かつ工業的生産の観点からは工程数を増加させてコストの増加を招きやすい。
【0009】
そこで、工程数を低減し、より簡便な方法でチタノシリケートを製造できることが好ましい。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、溶液材料の事前の調製工程およびケイ酸塩材料の酸処理工程を回避可能で簡便なチタノシリケートの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物をアルカリ金属水酸化物および水と混合して得た原料混合物に水熱合成処理を実施することにより、解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物および水と混合して原料混合物を調製し、原料混合物に210℃以上の温度下で水熱合成処理を実施してチタノシリケートを得る、チタノシリケートの製造方法。
<2>
前記層状アルカリ金属ケイ酸塩は、カネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイトおよびケニヤアイトの少なくとも1種を含む、<1>に記載の製造方法。
<3>
前記チタン化合物は、チタン酸化物、チタンハロゲン化物および有機チタン化合物の少なくとも1種である、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>
前記水熱合成における温度は350℃以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法。
<6>
前記水熱合成における温度は220℃以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の製造方法。
<7>
前記原料混合物のpHは12.0以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の製造方法。
<8>
前記チタノシリケートとしてETS-4型またはETS-10型のチタノシリケートを得る、<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、溶液材料の事前の調製工程およびケイ酸塩材料の酸処理工程が不要で、より簡易な方法でチタノシリケートを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたチタノシリケートのXRDパターンと、ETS-4型チタノシリケートの参照パターンとの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物および水と混合して原料混合物を調製し、原料混合物に210℃以上の温度下で水熱合成処理を実施してチタノシリケートを得る、チタノシリケートの製造方法である。本発明において、原材料の反応機構は定かではないが、後ほど詳述するように、水熱合成処理中に、層状アルカリ金属ケイ酸塩中のアルカリ金属イオンと、溶媒に溶解したチタンイオンとのイオン交換が生じ、イオン交換と熱エネルギーの影響を受けたケイ酸塩がチタノシリケートに相変化する、と考えられる。
【0015】
本発明の製造方法において、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物および水と混合して原料混合物が調製される。層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物はそれぞれ、チタノシリケートの製造におけるシリカ源およびチタン源である。このように、本発明の製造方法では、シリカ源を溶解させたシリカ源溶液およびチタン源を溶解させたチタン源溶液を別々に準備するのではなく、用意した層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物をそのまま同じ溶媒(水)と混合する。
【0016】
層状アルカリ金属ケイ酸塩、チタン化合物、アルカリ金属水酸化物および水の混合手法は特に制限されない。混合は、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物を、アルカリ金属水酸化物の水溶液に投入する方法によって実施してもよく、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物に、アルカリ金属水酸化物の水溶液を投入する方法によって実施してもよく、および、層状アルカリ金属ケイ酸塩、チタン化合物、アルカリ金属水酸化物を順番に水に投入する方法によって実施してもよい。
【0017】
層状アルカリ金属ケイ酸塩は、アルカリ金属を含む層状構造のケイ酸塩であり、劈開性を有し、薄く剥れやすい化合物である。層状アルカリ金属ケイ酸塩の種類は特に制限されず、層状アルカリ金属ケイ酸塩は天然鉱物でも合成物であってもよい。
【0018】
層状アルカリ金属ケイ酸塩に含まれるアルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムおよびカリウムが挙げられる。アルカリ金属は、ナトリウムおよびカリウムの少なくとも1種を含むことが好ましく、ナトリウムを含むことがより好ましい。アルカリ金属中のナトリウムおよびカリウムの合計含量は、アルカリ金属原子の総原子数を基準にして、50原子%以上であることが好ましく、75原子%以上であることがより好ましく、90原子%以上であることがさらに好ましい。アルカリ金属中のナトリウムおよびカリウムの合計含量は、100原子%以下であることができ、95原子%以下であってもよい。特に、アルカリ金属は、ナトリウムおよびカリウムの少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウムであることがより好ましい。
【0019】
層状アルカリ金属ケイ酸塩は、アルカリ金属に加えて、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウムおよびストロンチウム)、アルミニウムおよび亜鉛などのアルカリ金属以外の金属イオンを含んでいてもよい。チタノシリケート中の不純物を低減する観点から、層状アルカリ金属ケイ酸塩中のアルカリ金属以外の金属イオンの含量は、金属イオンの総数を基準にして10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、1原子%以下であることがさらに好ましい。特に、層状アルカリ金属ケイ酸塩は、アルカリ金属以外の金属イオンを含まないことが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、ナトリウムを含む層状アルカリ金属ケイ酸塩が好ましく使用できる。そのようなケイ酸塩としては、例えばカネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイトおよびケニヤアイトが挙げられる。層状アルカリ金属ケイ酸塩は、カネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイトおよびケニヤアイトの少なくとも1種を含むことが好ましく、マガディアイトおよびケニヤアイトの少なくとも1種を含むことがより好ましい。層状アルカリ金属ケイ酸塩におけるマガディアイトおよびケニヤアイトの合計量は、層状アルカリ金属ケイ酸塩の総質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。層状アルカリ金属ケイ酸塩におけるマガディアイトおよびケニヤアイトの合計量は、層状アルカリ金属ケイ酸塩の総質量を基準として、100質量%以下であることができ、95質量%以下でもよい。特に、層状アルカリ金属ケイ酸塩は、マガディアイトおよびケニヤアイトの少なくとも1種からなることが好ましい。
【0021】
マガディアイトの代表的な化学式は、Na2Si14O29・nH2Oであり、ケニヤアイトの代表的な化学式は、Na2Si22O45・nH2Oである。上記化学式において、nは1~20の数、より一般的には5~15の数であり、これらの化合物は、水素原子がNaの1つと置換された構造(「Na2」の部分が「NaH」で表される)または水素原子が2つのNaに加えてさらに付加された構造(「Na2」の部分が「Na2H」で表される)を有することもある。マガディアイトおよびケニヤアイトの合成方法は、特に制限されず、例えば小菅勝典ら、「マガディアイトとケニヤアイトの水熱合成」、Journal of the Ceramic Society of Japan、第100巻(3)、326-331頁(1992)に記載されている。
【0022】
シリカ源として、層状アルカリ金属ケイ酸塩以外のシリカ材料(例えば、市販のシリカ粒子、アルミノシリケート)を使用することも可能である。ただし、シリカ源は、層状アルカリ金属ケイ酸塩を主成分とすることが好ましい。シリカ源における層状アルカリ金属ケイ酸塩の含量は、シリカ源の総質量を基準にして、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。シリカ源における層状アルカリ金属ケイ酸塩の含量は、シリカ源の総質量を基準にして、100質量%以下であることができ、95質量%以下でもよい。シリカ源は、層状アルカリ金属ケイ酸塩からなることが好ましい。
【0023】
チタン化合物は、水あるいはアルカリ金属水酸化物の水溶液に溶解できる化合物であれば、特に制限されず、チタノシリケートの製造方法において一般に使用できるチタン化合物であることができる。チタン化合物は、粉末状、粒状、液状であることができる。本発明の製造方法において好ましく使用できるチタン化合物としては、例えば二酸化チタン(チタニア)、有機チタン化合物(例えば、炭素数1~4のアルコキシ基を含むチタンアルコキシド)およびハロゲン化チタン(例えば、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン)が挙げられる。チタン化合物は、チタノシリケート中の不純物を低減する観点から、二酸化チタンであることがより好ましい。
【0024】
層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物の使用量および配合比は、結果物であるチタノシリケートの目標とする製造量に応じて予め調整される。層状アルカリ金属ケイ酸塩の量は、チタン化合物1質量部に対して3~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、7~30質量部であることがさらに好ましい。層状アルカリ金属ケイ酸塩中のSi原子とチタン化合物中のTi原子との質量比Si/Tiは、5~20であることが好ましく、6~15であることがより好ましい。特に、層状アルカリ金属ケイ酸塩がマガディアイトでありかつチタン化合物が二酸化チタンである場合、マガディアイト/二酸化チタンの質量比は、5~30であることが好ましく、11~27であることがより好ましい。層状アルカリ金属ケイ酸塩がケニヤアイトでありかつチタン化合物が二酸化チタンである場合、ケニヤアイト/二酸化チタンの質量比は、5~30であることが好ましく、10~25であることがより好ましい。
【0025】
アルカリ金属水酸化物は、特に制限されないが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも1種であることが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、チタノシリケート中の不純物を低減する観点から、水酸化ナトリウムであることがより好ましい。水は特に制限されないが、好ましくは蒸留水または脱イオン水である。
【0026】
アルカリ金属水酸化物および水の量は、これらを混合してアルカリ金属水酸化物の水溶液を調製したときに、濃度が0.5~2.0Mとなるように調整することが好ましい。水の量は、層状アルカリ金属ケイ酸塩10gに対して、300mL~1.5Lであることが好ましく、400mL~1.0Lであることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物および水としては、市販されているアルカリ金属水酸化物の水溶液を使用することもできる。
【0027】
調製後、つまり水熱合成前の原料混合物のpHは、強アルカリ性(pH11超)であることが好ましい。原料混合物のpHが強アルカリ性である場合、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物が溶媒に溶解しやすくなる。材料の溶解性を高める観点から、原料混合物のpHは、12.0以上であることが好ましく、12.5以上であることがより好ましく、12.7以上であることがさらに好ましい。原料混合物のpHは、例えば13.5以下であり、13.3以下でもよい。
【0028】
本発明の製造方法では、原料混合物に210℃以上の温度下で水熱合成処理を実施してチタノシリケートが得られる。水熱合成処理には、オートクレーブなどの耐圧性機器を使用する。
【0029】
水熱合成処理の温度は210℃以上である。温度が210℃以上であることにより、層状アルカリ金属ケイ酸塩中のアルカリ金属イオンと溶媒に溶解したチタンイオンとのイオン交換が生じやすくなると推定される。水熱合成処理の温度は、220℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましく、235℃以上であることがさらに好ましい。水熱合成処理の温度が高すぎると、耐圧性機器が耐えられない場合があり、加えて、層状アルカリ金属ケイ酸塩の層状構造がすべて破壊され、シリカ源として層状アルカリ金属ケイ酸塩を使用する恩恵を受けられない場合もあり得る。そこで、水熱合成処理の温度は、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。
【0030】
水熱合成処理の処理時間は、水熱合成処理の設定温度に依存し、概ね1~3日間、好ましくは1.5~2.5日間である。
【0031】
一般的な耐圧性機器を使用する場合、水熱合成処理の圧力は、概ね10~20気圧であるが、これに限定されない。
【0032】
本発明の製造方法により得られるチタノシリケートにおいて、Si原子およびTi原子の原子比Si/Tiは、1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、2~7であることがさらに好ましい。また、本発明の製造方法により得られるチタノシリケートにおいて、アルカリ金属原子MおよびSi原子の原子比M/Siは、0~10であることが好ましく、0.1~5であることがより好ましく、0.5~3であることがさらに好ましい。原子比M/Si=0は、層状アルカリ金属ケイ酸塩中のアルカリ金属がすべてTi原子に置換された場合を表す。
【0033】
本発明の製造方法によれば、種々のタイプのチタノシリケートを製造可能である。本発明の製造方法で製造可能なチタノシリケートとしては、例えば、TS-1、TS-2、ETS-1、ETS-2、ETS-4およびETS-10が挙げられる。TS-1は、構造コードがMFIであるチタノシリケートであり、TS-2は、構造コードがMELであるチタノシリケートである。また、ETS-1、ETS-2、ETS-4およびETS-10は、ナトリウムイオンを含むチタノシリケートである。このようなチタノシリケートは、化合物中のナトリウムイオンおよびチタンイオンの各濃度を調整することで、所望の構造を有するチタノシリケートを得やすくなる。ナトリウムイオンおよびチタンイオンの各濃度の調整は、例えば、層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物の配合比を調整することにより行うことができる。より具体的には、ナトリウムイオン濃度を上げる場合には、層状アルカリ金属ケイ酸塩の量を増やせばよく、ナトリウムイオン濃度を下げる場合には、層状アルカリ金属ケイ酸塩の量を減らせばよい。チタンイオン濃度についても同様である。得られたチタノシリケートの構造は、XRD(X線回折)パターンに基づいて評価できる。
【0034】
本発明の製造方法によれば、用意した層状アルカリ金属ケイ酸塩およびチタン化合物をそのまま同じ溶媒(水)と混合して調製した原料混合物に水熱合成処理を実施するだけでチタノシリケートを製造することが可能である。したがって、本発明の製造方法では、溶液材料の事前の調製工程およびケイ酸塩材料の酸処理工程などの煩雑な工程が不要で、より簡易な方法でチタノシリケートを製造することが可能となる。
【0035】
さらに、本発明の製造方法によれば、特許文献6および7に記載の方法で実施する酸処理は不要であり、そのような方法に比べて環境への影響が少ない。
【0036】
加えて、例えば非特許文献1の方法では、チタノシリケートを生成するのに少なくとも5日(非特許文献1の
図2)を要しているが、本発明では、3日以下と、より短い時間でチタノシリケートを生成することができる。
【0037】
本発明の製造方法により、このように簡易かつ短時間でチタノシリケートを製造できる理由は、定かではないが、次のように推察できる。層状アルカリ金属ケイ酸塩は、複数の層構造からなり、それらの層構造は、層間空間に存在する水酸基やアルカリ金属イオンを介して互いに結合しているとされている。そのような構造を有する層状アルカリ金属ケイ酸塩に水熱合成処理を実施すると、層構造間の結合が切れ、広がった層間空間を通ってチタンイオンが導入される、と考えられる。その後、チタンイオンがイオン化傾向の強いアルカリ金属イオンと置き換わり(イオン交換)、イオン交換と熱エネルギーの影響を受けたケイ酸塩がチタノシリケートに相変化する、と考えられる。層状構造の相変化が生じることで、シリカ源の全てが溶媒に溶解した原料から結晶を析出する場合に比べて、より短時間でチタノシリケートを製造できた可能性が高い。
【実施例0038】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
粉末状のケニヤアイト10g、粉末状のチタニア1gおよび水酸化ナトリウム水溶液(1M)500mLを混合し、充分に撹拌して、原料混合液を調製した。原料混合液のpHは13であった。この原料混合液をオートクレーブに入れ、240℃で48時間(2日間)、水熱合成処理を実施した。また、結果物についてXRD測定を行った。
図1は、実施例1で得られた結果物のXRDパターンを示す。そのパターンが、ETS-4型のチタノシリケートの参照パターンと一致することから、ETS-4型のチタノシリケートが生成したことが分かる。
【0040】
<実施例2>
粉末状のマガディアイト10g、粉末状のチタニア0.8gおよび水酸化ナトリウム水溶液(1M)500mLを混合し、充分に撹拌して、原料混合液を調製した。原料混合液のpHは13であった。この原料混合液をオートクレーブに入れ、240℃で48時間(2日間)、水熱合成処理を実施した。実施例1と同様に、結果物についてXRD測定を行い、そのパターンを確認した。その結果、ETS-4型のチタノシリケートが得られた。
【0041】
<比較例>
粉末状のケニヤアイト10g、粉末状のチタニア1gおよび水酸化ナトリウム水溶液(1M)500mLを混合し、充分に撹拌して、原料混合液を調製した。原料混合液のpHは13であった。この原料混合液をオートクレーブに入れ、200℃で60時間(2.5日)、水熱合成処理を実施した。実施例1と同様に、結果物についてXRD測定を行い、そのパターンを確認した。比較例では、ケニヤアイトおよびチタニアが残存しており、チタノシリケートは生成しなかった。