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特開2024-1838プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001838
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20231227BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181602
(22)【出願日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2022100109
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隼佑
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA11
4E137AA15
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137CB01
4E137DA15
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
4E137HA06
(57)【要約】
【課題】プレス成形後のトリミング工程を必須とすることなく、縮みフランジ変形によって生じるしわを十分に抑制し、曲げ成形にも適用可能なプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部3aを有する天板部3と、天板部3からパンチ肩R部9を介して連続する縦壁部5とを有するプレス成形品1を成形する方法であって、金属板を中間成形品15に成形する第1成形工程と、第1成形工程で成形した中間成形品15を目標形状のプレス成形品1に成形する第2成形工程とを備え、中間成形品15は、天板部3側のパンチ肩R部27の端部の位置が目標形状と同一であって、少なくとも天板部3の凸状外周縁部3aに連続するパンチ肩R部27の曲率半径が目標形状より大きいことを特徴とするものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を成形するプレス成形方法であって、
金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、
該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、
前記中間成形品は、天板部側のパンチ肩R端部の位置が目標形状と同一であって、少なくとも該天板部の凸状外周縁部に連続するパンチ肩R部の曲率半径が目標形状より大きいことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、
前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とする請求項1記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品の製造方法であって、
金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、
該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、
前記中間成形品は、天板部側のパンチ肩R端部の位置が目標形状と同一であって、少なくとも該天板部の凸状外周縁部に連続するパンチ肩R部の曲率半径が目標形状より大きいことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、
前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とする請求項4記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と、縦壁部とを有するプレス成形品を成形するプレス成形方法に関し、特に、前記プレス成形品を成形する際の縮みフランジ変形に伴うしわの発生を抑制するプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進む中で、二酸化炭素排出規制を受けて、燃費向上やEV化のために車体の軽量化も必要とされている。これら車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への590MPa級以上の高強度鋼板(ハイテン材とも称する)の適用が進んでいる。ハイテン材を車体構造部品にプレス成形する際には、縮みフランジ変形により生じるしわの抑制が課題となっている。
【0003】
例えば、自動車部品には、AピラーアッパーやAピラーロア、バンパー部品等のように、天板部と、縦壁部と、フランジ部を有する部品がある。このような部品において天板部の外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した形状となっている場合、プレス成形の際に当該部位のフランジ部は縮みフランジ変形し、フランジ部の端部にしわが発生する場合がある。特にハイテン材の場合、高強度化によって座屈しやすくなり、しわが発生しやすい。また、フランジ部を有さず、天板部と縦壁部から構成される部品も同様に、縮みフランジ変形によって縦壁部の端部にしわが発生しやすい。
【0004】
そこで、特許文献1には、天板部と、天板部に連続して先端にフランジのない斜壁部を有し、斜壁部の全体もしくは一部が平面視でプレス成形品の長手方向において前記斜壁部側に凸状に湾曲したプレス成形品を成形する方法が開示されている。特許文献1の方法では、ブランク材における斜壁部に相当する部位よりも端部側の部位をダイとパンチで挟持した状態で斜壁部を形成することにより、ブランク材の板厚方向への座屈を防止して、斜壁部に発生するしわを抑制できる。
【0005】
また、特許文献2には、天板部とフランジ部とが側壁部を介して幅方向で連続しているハット形断面を有すると共に天板部及びフランジ部が長手方向に沿って天板部側に凸に湾曲した湾曲部分を有するプレス成形品を製造する方法が開示されている。特許文献2の方法は、フランジ部位置よりも外周部分にシワ押さえ領域を設定し段絞りで成形を行う段絞り工程を有し、さらにフランジ部位置の一部にもシワ押さえで押さえる付加領域を設定することにより、フランジ部で発生するしわを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-221558号公報
【特許文献2】特開2018-034176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス成形方法では、ブランク材における斜壁部に相当する部位よりも端部側の部位をダイとパンチで挟持した状態で斜壁部を成形するため、ダイとパンチで挟持した部位を次工程でトリミングする必要がある。
【0008】
また、特許文献2に記載のプレス成形方法は、フランジしわの発生を抑制できるものの、しわ押さえを使用するため、曲げ(フォーム)成形によるプレス成形には適用できないという課題がある。
【0009】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、プレス成形後のトリミング工程を必須とすることなく、縮みフランジ変形によって生じるしわを十分に抑制し、曲げ成形にも適用可能なプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を成形する方法であって、金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、前記中間成形品は、天板部側のパンチ肩R端部の位置が目標形状と同一であって、少なくとも該天板部の凸状外周縁部に連続するパンチ肩R部の曲率半径が目標形状より大きいことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とするものである。
【0013】
(4)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を製造する方法であって、金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、前記中間成形品は、天板部側のパンチ肩R端部の位置が目標形状と同一であって、少なくとも該天板部の凸状外周縁部に連続するパンチ肩R部の曲率半径が目標形状より大きいことを特徴とするものである。
【0014】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とするものである。
【0015】
(6)また、上記(4)又は(5)に記載のものにおいて、前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、第1成形工程で目標形状よりも縮みフランジ変形量の小さい中間成形品を成形し、第2成形工程で中間成形品を目標形状に成形することにより、第2成形工程において縮みフランジ変形による材料移動が生じにくくてしわになりにくい。
このため、本発明は目標形状の成形品の板厚増加を抑制でき、しわのない良好な形状のプレス成形品が得られ、プレス成形における歩留まり向上に繋がる。
また、本発明はパンチとダイでブランクの端部を挟持する必要がないので、従来のトリミング工程を必須としない。
さらに、本発明はしわ押さえも必要としないので、曲げ成形にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法の説明図である。
図2】実施の形態で対象とした部品(目標形状)の説明図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図である。
図3】実施の形態の第2成形工程における成形過程を示す図である(その1)。
図4】実施の形態の第2成形工程における成形過程を示す図である(その2)。
図5】第1成形工程及び第2成形工程における材料流入量の説明図である。
図6】パンチ肩R部の曲率半径を変更した3例の中間成形品の断面形状と目標形状の断面形状とを比較して示す図である。
図7】中間成形品のパンチ肩R部の曲率半径と、各工程における材料流入量との関係を示すグラフである。
図8】従来のプレス成形方法で成形したプレス成形品の板厚増加率分布及び最大板厚増加率を示す図である。
図9】従来のプレス成形方法における成形過程を示す図である(その1)。
図10】従来のプレス成形方法における成形過程を示す図である(その2)。
図11】本発明を適用できる部品(目標形状)の他の例を示す図であり、図11(a)は斜視図、図11(b)は平面図である。
図12図11の部品を従来のプレス成形方法で成形した場合に生じるしわを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法が目標とするプレス成形品について、図2の例に基づいて説明する。なお、図2は、プレス成形品の全体又は特徴的な一部を示したものである。図2に示すプレス成形品1は、天板部3と、縦壁部5と、フランジ部7を有するものであって、天板部3の外周縁の一部が外方に向かって凸状に湾曲した部位(以下、「凸状外周縁部3a」という)を有するものである。なお、凸状外周縁部3aと他の部位との境界は、例えば天板部3を平面視したときの凸状外周縁部3aのR止まりまでとする。
また、本例のプレス成形品1の天板部3と縦壁部5とが成す角度、縦壁部5とフランジ部7とが成す角度はそれぞれ90°とした。
【0019】
プレス成形品1における天板部3と縦壁部5の境界部は、プレス成形に用いたパンチのパンチ肩部の形状に対応したR形状となっているので、当該部位を「パンチ肩R部9」と称する。また、縦壁部5とフランジ部7の境界部は、ダイのダイ肩部の形状に対応したR形状となっているので「ダイ肩R部11」と称する。以降、本明細書において単に「パンチ肩R部9」、「ダイ肩R部11」と表記したときには金型側ではなくプレス成形品1側の上記部位を指す。
【0020】
まず、本実施の形態に係るプレス成形方法を説明するに先立って、従来の方法で図2のようなプレス成形品1をプレス成形する場合の問題点について説明する。
図8は、従来の方法でプレス成形品1をプレス成形した場合についてFEM解析した結果であり、板厚増加率の分布を色の濃淡で示している。板厚増加率は、プレス成形後のプレス成形品1の板厚とプレス成形前のブランクの板厚との差(板厚増分)を求め、ブランクの板厚との比(割合)で表したものであり、値が大きいほど板厚が増加していることを表している。また、板厚が増加するほど、プレス成形品1の該部位にしわが発生しやすくなる。さらに、板厚増加が局所的になるほどしわになりやすい。
【0021】
図2のようなプレス成形品1を従来の方法で成形する場合、例えば、目標形状に対応した形状のパンチとダイを用い、平板状のブランクを1工程で目標形状に成形する。この場合、天板部3の凸状外周縁部3aに連続する縦壁部5、及びこの縦壁部5に連続するフランジ部7は、縮みフランジ変形して材料が集中し、しわが発生しやすい。図2に示すプレス成形品1の場合、最も板厚が増加したのは図8の矢印で示すフランジ部7の端部であり、最大板厚増加率は+12.5%であった。このように、局所的に板厚が増加することで当該部分にしわが生じ、問題となっていた。図8のようにフランジ部7の板厚が局所的に増加する理由を図9図10を用いて説明する。
【0022】
図9及び図10は、上述した従来のプレス成形方法でプレス成形品1を成形する場合の成形過程を示したものである。
図9では、ブランク13の変形過程を、正面図(図9の上側の図、図2(b)の矢印方向からみた図)及び断面図(図9の下側の図、図2(b)のA-A´断面に相当する図)でそれぞれ示している。
図10では、ブランク13の変形過程を、上面図、正面図(図9の正面図と同じ)及び側面図でそれぞれ示している。図10においてはブランク13の形状を分かりやすくするため、ダイ23の図示を省略した。
なお、図中の「10mmup」等の数値は、ブランク13の板厚分を考慮したパンチ21とダイ23のプレス方向の距離を示している。したがって、「10mmup」とは、パンチ21のフランジ部とダイ23のフランジ部とのプレス成形方向の隙間がブランク13の板厚に+10mmを加えた状態であることを示している。また、「0mmup」は成形下死点の状態を示している。
【0023】
天板部3の凸状外周縁部3aに連続する縦壁部5(図2(a)参照)が成形され始めると、図9図10の「10mmup」の正面図に示すように、縮みフランジ変形によってブランク13の端部に例えば二つの大きな山状のしわが生じる。この二つの大きな山状のしわは、縮みフランジ変形が進むにしたがって中央に集中してくっきりした形状になる(図10の「5mmup」「3mmup」の正面図参照)。
【0024】
成形の進行に伴って、ダイ23が相対的に移動してダイ23の下面がしわの頂部に到達すると、ダイ23がしわを押し潰すように成形が進行するが、「1mmup」まで成形が進むとブランク13はしわを残したまま拘束され、成形下死点に至る(「0mmup」参照)。
【0025】
上記のように、従来の成形過程では、パンチ21とダイ23の間の隙間で大きなしわが生じて、このしわを潰しきれないままフランジ部7を成形するため、プレス成形品1にしわが残存し、しわが生じた部分の板厚が局所的に増加していた。
【0026】
成形過程でしわが生じないようにする手段としては、フランジ部7に相当する部位にしわ押さえを用いるとよいが、しわ押さえを用いない曲げ成形では適用できない。
【0027】
また、上述した縮みフランジ変形によるしわは、図11に示すようなプレス成形品14の場合も同様に生じる。図11のプレス成形品14は、フランジ部を有さず、天板部3と、縦壁部5によって構成されるものであって、図2のプレス成形品1と同様に天板部3の外周縁の一部が外方に向かって凸状に湾曲した部位(凸状外周縁部3a)を有するものである。
【0028】
図11のようなプレス成形品14を従来の方法、即ち、目標形状に対応した形状のパンチとダイを用い、平板状のブランクを1工程で目標形状に成形すると、図12に示すように、天板部3の凸状外周縁部3aに対応する縦壁部5の端部(図中破線円で囲んだ部分)にしわが発生する。
【0029】
1工程で成形した場合に、図2のプレス成形品1のフランジ部7や図11のプレス成形品14の縦壁部5にしわが生じる原因は、縮みフランジ変形により、材料が凸状湾曲部位に集中して移動するからである。
そこで、発明者は、中間成形品を介して目標形状を成形する2工程でのプレス成形方法を用いて、各工程における縮みフランジ変形量を低減する方法について検討した。そして、縮みフランジ変形量を抑えて成形することができ、かつ、目標成形時に伸びの材料流れを生じさせて縮み方向の材料移動を低減できるような中間成形品の形状を発案した。
本実施の形態に係るプレス成形方法は上記発案に基づくものである。以下、図2のプレス成形品を成形する場合を例に挙げて、具体的に説明する。
【0030】
本実施の形態に係るプレス成形方法は、図2のようなプレス成形品1を成形する方法であって、図1に示すように、ブランク13を中間成形品15に成形する第1成形工程と、中間成形品15をプレス成形品1に成形する第2成形工程を備えている。
なお、プレス成形方法を実行することによって、プレス成形品1が製造されるので、プレス成形方法の発明は、プレス成形品の製造方法の発明として構成することができる。したがって、以下に説明するプレス成形方法の実施の形態は、プレス成形品の製造方法の実施の形態と共通するものである。
【0031】
図1(a)は第1成形工程の成形前の状態のパンチ17、ダイ19及びブランク13の斜視図であり、図1(b)は図1(a)のB断面図である。
また、図1(c)は第2成形工程の成形前の状態のパンチ21、ダイ23及び中間成形品15の斜視図であり、図1(d)は図1(c)のC断面図である。
なお、図1(a)~図1(d)の各金型は肉厚部分を無視して成形面部の形状のみを板状に図示している。
また、図1(d)に示す中間成形品15において、プレス成形品1に対応する部位には同一の符号を付している。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0032】
<第1成形工程>
第1成形工程は、図1(a)、図1(b)に示すように金属板であるブランク13を中間成形品15にプレス成形する工程である。
第1成形工程に用いるパンチ17は、肩部の曲率半径R1が、第2成形工程で用いる目標形状に対応した形状のパンチ21の肩部の曲率半径R2よりも大きくなっている(R1>R2)。
【0033】
第1成形工程では、図1(b)に示すように、パンチ17の天板成形面部上面とパッド25でブランク13の一部を挟持した状態でダイ19を相対的に移動させる。これにより、パンチ肩R部27の曲率半径が目標形状のパンチ肩R部9の曲率半径より大きい中間成形品15が成形される。なお、中間成形品15の天板部3側のパンチ肩R端部の位置(パンチ肩R部27における天板部3側のR開始位置)は目標形状と同一である。即ち、中間成形品15のパンチ肩R部27は、天板部3側のR開始位置が目標形状のパンチ肩R部9の天板部3側のR開始位置と一致するように形成されている。
中間成形品15は上記のような形状であることから、平板状のブランク13を目標形状に成形する場合と比べて、小さい縮みフランジ変形量で成形することができる。
したがって、第1成形工程において中間成形品15のフランジ部33の端部は板厚が増加しにくく、しわが生じにくい。
【0034】
<第2成形工程>
第2成形工程は、第1成形工程で成形した中間成形品15を目標形状のプレス成形品1に成形する工程である。第2成形工程のパンチ21及びダイ23は目標形状に対応した形状であり、図9の従来例の金型と同様であるので同一の符号を付している。
【0035】
第2成形工程では、図1(d)に示すように、中間成形品15の天板部3をパンチ21の上面に合わせてセットする。このとき、中間成形品15のパンチ肩R部27のR開始位置をパンチ21の肩部のR開始位置と一致させる。そしてパンチ21の上面とパッド25で中間成形品15の天板部3を挟持した状態でダイ23を相対的に移動させ、中間成形品15を目標形状に成形する。
中間成形品15をパンチ21の上面にセットした状態では、中間成形品15のパンチ肩R部27からフランジ部33にかけての部分が、周方向に湾曲してパンチ21の縦壁成形面部から離間した状態になっており、傘を広げたような状態になっている。
【0036】
この状態から、成形を開始することになるが、その成形過程の様子を図3図4に示す。
図3では、中間成形品15の変形過程を、図9と同様に正面図及び断面図でそれぞれ示している。図4では、中間成形品15の変形過程を、図10と同様に上面図、正面図及び側面図でそれぞれ示している。「15mmup」等の数値の意味や、上面図、正面図及び側面図でダイ23の図示を省略した点も図10と同様である。
【0037】
図3に示すように、「10mmup」でダイ23の肩部が中間成形品15のパンチ肩R部27に接触すると、「3mmup」に至るまで目標形状の縦壁部5が形成される。従来例では縦壁部5の成形時に縮みフランジ変形が生じて、パンチ21とダイ23の間の隙間で大きな山状のしわが生じていた(図9の「10mmup」~「3mmup」参照)。
これに対し、本実施の形態の第2成形工程では、パンチ21とダイ23の隙間の大きさに関わりなく、中間成形品15のフランジ部33がパンチ21のフランジ成形面部近傍に位置しており、しわも生じていない。これは、中間成形品15が加工硬化によって平板状のブランク13よりも剛性が高くなっていることから材料が移動しにくくなっており、フランジ部33が変形しにくいからである。
【0038】
ダイ23が「1mmup」まで相対的に移動すると、目標形状のダイ肩R部11及びこれに連続するフランジ部7の成形が始まり、フランジ部7が変形しやすくなる。しかし、この時点でパンチ21のフランジ成形面とダイ23のフランジ成形面の間のプレス成形方向の隙間は板厚+1mmととても小さくなっているので、フランジ部7がほとんど縮みフランジ変形することなく成形下死点に至る。したがって、成形完了後のプレス成形品1のフランジ部7にもしわが発生しにくい。
【0039】
また、第2成形工程においては、成形過程で生じるひずみを局所的に集中させずに分散させる効果があり、これにより縮みフランジ変形をさらに緩和できる。この点について図4に基づいて説明する。
【0040】
図4に示すように、「15mmup」の状態では、未だダイ23が中間成形品15に接触しておらず、中間成形品15のパンチ肩R部27からフランジ部33にかけての部分が傘を広げたような形状となっている。
「15mmup」の状態からダイ23を相対的に移動させると、「10mmup」のときにダイ23が中間成形品15のパンチ肩R部27に接触し、「10mmup」の側面図に示すように、パンチ肩R部27に屈曲部が生じて目標形状のパンチ肩R部9及び縦壁部5に成形され始める。
【0041】
このとき、ダイ23が湾曲したパンチ肩R部27や縦壁部29を押圧することで、フランジ部33の先端部を周方向に引き伸ばす力が作用して縮みフランジ変形に対抗し、縮み方向の材料流れを緩和させる。これにより、ひずみが分散して局所的に集中することがないので、縮みフランジ変形をさらに緩和できる。
【0042】
このように、中間成形品15の剛性が高いことから第2成形工程における成形過程で材料移動が生じにくくなっており、さらに、縮みフランジ変形を緩和する材料流れが生じるため、成形完了後のプレス成形品1のフランジ部7は板厚が増加しにくい。
【0043】
上記のように本実施の形態では、第1成形工程で縮みフランジ変形量の小さい中間成形品15を成形し、第2成形工程で中間成形品15を目標形状に成形することにより、局所的な板厚増加の問題を解消し、プレス成形品1のフランジ部7に生じるしわを抑制できる。
さらに、パンチとダイでブランクの端部を挟持する必要がないので、特許文献1に示す従来例のようにトリミング工程を必要としない。
【0044】
また、本実施の形態のプレス成形方法は、しわ押さえを用いることなくフランジ部7のしわを抑制することができるので、曲げ(フォーム)成形によるプレス成形にも適用できる。即ち、中間成形品15を成形する第1成形工程で絞り成形又は曲げ成形を適用し、目標形状を成形する第2成形工程で曲げ成形を適用する場合に特に効果的である。
【0045】
さらに、本実施の形態のプレス成形方法は、縮みフランジ変形によってしわが生じやすい高強度鋼板を用いる場合に特に効果的である。例えば、金属板であるブランクを引張強度が590MPa級以上の鋼板としてもよく、その場合も十分なしわの低減効果を奏することができる。
なお、上述のプレス成形方法の第1成形工程及び第2成形工程を実行することで、目標とするプレス成形品が製造でき、製造されたプレス成形品は上述の通り、しわが抑制されたものとなる。
【0046】
上記は、図2のようなフランジ部7を有するプレス成形品1を成形する場合を例に挙げて説明したものであるが、図11図12に示したようなフランジ部を有さないプレス成形品14を成形する場合にも同様の作用によりしわを低減することができる。
【0047】
なお、上述したように、本実施の形態のプレス成形方法は、縮みフランジ変形量が目標形状より小さい中間成形品15を介することで、プレス成形品1に生じるしわを低減できるようにしたものである。この中間成形品15の縮みフランジ変形量はパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほどより小さくなる。この点についてさらに説明する。
【0048】
図5(a)は、第1成形工程における成形前のブランク13の断面形状を破線、成形後の成形下死点における中間成形品15の断面形状を実線で示したものである。ここで、図5(a)におけるブランク13の端部から中間成形品15のフランジ部33の端部までの距離を第1成形工程での材料流入量と定義する。
この第1成形工程での材料流入量は、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほど小さくなる。図6にその具体例を示す。
【0049】
図6はパンチ肩R部9の曲率半径が4mmである目標形状(R4)と、パンチ肩R部27の曲率半径が6mm、8mm、10mmである中間成形品15(R6、R8、R10)の断面形状を、天板部3を重ねて図示し、比較したものである。中間成形品15の天板部3と目標形状の天板部3は同一形状であり、中間成形品15のパンチ肩R部27の天板部3側端部(R開始位置)は目標形状と同じ位置となっている。
【0050】
図6に示すように、パンチ肩R部27の曲率半径が大きい中間成形品15ほど、フランジ部33の端部が紙面右側に位置することがわかる。即ち、パンチ肩R部27の曲率半径が大きい中間成形品15ほど、図5(a)に示した材料流入量が小さいと言える。
材料流入量が小さいと第1成形工程における縮みフランジ変形量が小さくなるので、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を大きくすることで第1成形工程における板厚増加(ブランク13からの板厚増加)を低減できる。
【0051】
図5(b)は、第1成形工程の成形下死点における中間成形品15の断面形状を破線、第2成形工程の成形下死点におけるプレス成形品1の断面形状を実線で示したものである。ここで、図5(b)における中間成形品15のフランジ部33の端部からプレス成形品1のフランジ部7の端部までの距離を第2成形工程での材料流入量と定義する。
この第2成形工程での材料流入量は、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほど大きくなる。材料流入量が大きいと第2成形工程における縮みフランジ変形量が大きくなるので、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を大きくすることで第2成形工程における板厚増加(中間成形品15からの板厚増加)は大きくなる。
【0052】
上述したように、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほど、第1成形工程での材料流入量が小さく、第2成形工程での材料流入量が大きくなる。図6に示した4例の場合における中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径と各工程の材料流入量との関係を図7に示す。
【0053】
図7に示すように、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を大きくするほど、第1成形工程での材料流入量を少なくし板厚増加を低減できるが、第2成形工程での材料流入量が多くなり板厚増加が増大する。また、第1成形工程での材料流入量は、第2成形工程での材料流入量より著しく多い。したがって、目標形状における板厚増加を抑制するには、第1成形工程での材料流入量を少なくするとよく、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を大きくするとよい。
さらに、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径について、目標形状の曲率半径の2倍から5倍程度とするのが好ましい。この点については、下記の実施例でも本発明の効果とともに具体的に説明する。
【実施例0054】
本発明のプレス成形方法における縮みフランジ変形によるしわの抑制効果について、FEM解析を用いて具体的な検討を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例では、板厚1.0mm、引張強度が980MPa級の鋼板をブランクとして用い、図2のプレス成形品1を目標形状としてプレス成形する場合について確認した。
鋼板を1工程で目標形状に成形する従来例と、鋼板を2工程で目標形状に成形する本発明例についてFEM解析を実施し、成形下死点における縮みフランジ変形部位の最大板厚増加率を求めた。なお、従来例の解析結果は図8で説明したとおりであるので、以下では本発明例の解析結果について説明する。
【0055】
本発明例では、パンチ肩R部9の曲率半径が4mmである目標形状(図6のR4)に対し、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を8mm、10mmとした2例(図6のR8、R10)についてFEM解析を行った。その結果を表1に示す。なお、表1に示す中間成形品の最大板厚増加率と目標成形品の最大板厚増加率はいずれもブランクの板厚を基準とする増加率を示したものである。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、従来例(No.1)では目標成形品(プレス成形品1)の最大板厚増加率が12.5%であったのに対し、本発明例(No.2、No.3)では目標成形品の最大板厚増加率がどちらも従来例より低減した。その結果、上記のように本実施例では、本発明によって縮みフランジ変形によるフランジしわを従来よりも抑制できることが示された。
なお、前述したように、第2成形工程後の目標成形品の板厚増加がなるべく低減するように中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を設定することで、より効果的にしわを抑制することができる。この点について、以下具体的に説明する。
【0058】
No.2とNo.3の中間成形品15の最大板厚増加率を比較すると分かるように、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほど、第1成形工程における中間成形品15の最大板厚増加率が減少している。これは、図6に示すように、パンチ肩R部27の曲率半径が大きい中間成形品15ほどフランジ部33の端部が紙面右側にせり出し、第1成形工程での材料流入量(図5(a)参照)が小さくなるからである。第1成形工程での材料流入量が小さくなれば、中間成形品15の縮みフランジ変形量は小さくなるので、最大板厚増加率も低減する。
【0059】
また、No.2とNo.3の目標成形品の最大板厚増加率を比較すると分かるように、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が大きいほど、第2成形工程における目標成形品の最大板厚増加率も減少した。ここで、最大板厚増加率がより小さくなったのは、曲率半径を最も大きくしたNo.3であった。
【0060】
本実施例では、中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径が最も大きい例が最も板厚増加率を低減した。このように、第2成形工程後の目標成形品の板厚増加がなるべく小さくなるように中間成形品15のパンチ肩R部27の曲率半径を設定すればよく、これにより、しわ抑制効果を最大限に奏することができて効果的である。
【符号の説明】
【0061】
1 プレス成形品(目標形状)
3 天板部
3a 凸状外周縁部
5 縦壁部
7 フランジ部
9 パンチ肩R部
11 ダイ肩R部
13 ブランク(金属板)
14 プレス成形品(目標形状の他の例)
15 中間成形品
17 パンチ(第1成形工程)
19 ダイ(第1成形工程)
21 パンチ(第2成形工程又は従来例)
23 ダイ(第2成形工程又は従来例)
25 パッド
27 パンチ肩R部(中間成形品)
29 縦壁部(中間成形品)
31 ダイ肩R部(中間成形品)
33 フランジ部(中間成形品)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12