(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018414
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】摩擦係数演算装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/068 20120101AFI20240201BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20240201BHJP
G01N 3/56 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B60W40/068
G01M17/02
G01N3/56 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121748
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充庸
(72)【発明者】
【氏名】河合 恵介
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】劉 海博
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA49
3D241DA03Z
3D241DA04Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB27Z
3D241DB32Z
3D241DB47Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
【課題】精度良く摩擦係数の推定最大値を算出可能な摩擦係数演算装置を提供すること。
【解決手段】
推定摩擦最大値μ
pを推定する摩擦係数演算装置は、スリップ率および摩擦係数を算出する演算部10と、タイヤブラシモデルのスリップ率に関する関数であって、傾きを変化させる複数のパラメータを有し、スリップ率が微小領域の推定の摩擦係数を算出するタイヤブラシモデル式と、算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cと、を用いて推定摩擦最大値を算出する最大摩擦推定部20と、を備える。最大摩擦推定部は、タイヤモデル摩擦μ
mを算出するモデル演算部21と、パラメータの値を推定するパラメータ推定部23とを有する。パラメータ推定部は、タイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となるパラメータの値を排除し、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを0に近付けることを可能とするパラメータの値を求めるパラメータ制約部232を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が路面を走行する際のタイヤに関する情報を検出する検出部(S)から送信される検出信号に基づいて、前記タイヤと前記路面との物理的現象をシミュレートするタイヤブラシモデルを用いて前記タイヤと前記路面との間の摩擦係数の推定の最大値である推定摩擦最大値(μp)を推定する摩擦係数演算装置であって、
前記検出信号に基づいて、前記タイヤと前記路面との間のスリップ率および前記タイヤと前記路面との間の摩擦係数を算出する演算部(10)と、
前記タイヤブラシモデルにおけるスリップ率と摩擦係数との関係を示す演算式であって、前記タイヤと前記路面との間のスリップ率が、前記タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合の前記タイヤと前記路面との間の推定の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式と、前記演算部が算出するスリップ率および摩擦係数と、を用いて前記推定摩擦最大値を算出する最大摩擦推定部(20)と、を備え、
前記演算部が算出するスリップ率を算出スリップ率(sc)とし、前記演算部が算出する摩擦係数を算出摩擦係数(μc)としたとき、
前記タイヤブラシモデル式は、前記タイヤブラシモデルのスリップ率に関する関数であって、前記タイヤブラシモデル式の傾きを変化させる複数のパラメータを有し、
前記最大摩擦推定部は、
前記タイヤブラシモデル式に前記算出スリップ率を代入して前記タイヤブラシモデルの摩擦係数であるタイヤモデル摩擦(μm)を算出するモデル演算部(21)と、
前記算出摩擦係数と前記タイヤモデル摩擦との差が小さくなるように前記パラメータの値を推定するパラメータ推定部(23)とを有し、
前記パラメータ推定部は、前記タイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となる前記パラメータの値を排除し、且つ、前記タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを0に近付けることを可能とする前記パラメータの値を求めるパラメータ制約部(232)を含む摩擦係数演算装置。
【請求項2】
前記タイヤブラシモデル式は、下記数式1であって、
【数1】
前記パラメータは、数式1におけるHと、HKと、HK
2と、であって、
前記パラメータ制約部は、前記パラメータにおいて下記数式2の関係が成立するように前記パラメータの値を制約する請求項1に記載の摩擦係数演算装置。
【数2】
【請求項3】
前記パラメータ推定部は、前記演算部が算出する前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を取得して、取得した情報を所定の数だけ記憶するパラメータ記憶部(231)を有し、前記パラメータ記憶部に記憶された複数の前記算出スリップ率および複数の前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を用いて前記パラメータの値を推定し、
前記パラメータ記憶部は、前記演算部から前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を取得する度に、取得した情報の数だけ、記憶した複数の前記算出スリップ率および複数の前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を更新する請求項1または2に記載の摩擦係数演算装置。
【請求項4】
前記演算部は、算出した前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を複数記憶する算出記憶部(13)と、前記算出記憶部に記憶された前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数の少なくとも一方が正常であるか否かを判定する算出判定部(14)と、を有し、
前記パラメータ推定部は、前記算出判定部によって正常と判定された前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数に基づいて、前記パラメータの値を推定する請求項1または2に記載の摩擦係数演算装置。
【請求項5】
前記算出判定部は、前記算出記憶部に記憶された複数の前記算出スリップ率の平均値と予め定められたスリップ率閾値との差に基づいて、前記算出記憶部に記憶された前記算出スリップ率が正常であるか否かを判定するとともに、前記算出記憶部に記憶された複数の前記算出摩擦係数の平均値と予め定められた摩擦係数閾値との差に基づいて、前記算出記憶部に記憶された前記算出摩擦係数が正常であるか否かを判定する請求項4に記載の摩擦係数演算装置。
【請求項6】
前記演算部は、算出した前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を複数記憶する算出記憶部(13)を有し、
前記算出記憶部は、前記算出スリップ率の大きさに対応する複数の番地(M1~M10)を有し、前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を、前記複数の番地のうち、前記算出スリップ率の大きさに基づいて予め定められた番地に記憶する請求項1または2に記載の摩擦係数演算装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記複数の番地のうち前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報が記憶されていない情報未登録番地に、推定したスリップ率の情報および推定した摩擦係数の情報を記憶させるデータ補完部(15)を有し、
前記データ補完部は、前記算出記憶部に記憶されている前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報に基づいて前記情報未登録番地に記憶させるスリップ率および摩擦係数を推定する請求項6に記載の摩擦係数演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦係数演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車の駆動力を制御する方法として、タイヤに発生する駆動力が最大となる最適なスリップ率を推定し、推定した最適なスリップ率に基づいてスリップ率制御を行う駆動力制御方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この駆動力制御方法では、タイヤブラシモデルにおいて、タイヤに発生する駆動力とスリップ率との関係式から得られるスリップ率に関する三次関数の演算式を用いて最適なスリップ率を算出する。
【0003】
ここで、例えば、車両が急加速する際の最適なスリップ率とは、タイヤが空転を開始する直前のスリップ率である。そして、最適なスリップ率となるように車両の速度およびタイヤの速度を制御することで、タイヤに発生する駆動力が最大となり、且つ、タイヤが空転しないように車両を制御することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】前田健太、藤本博志、堀洋一著、タイヤブラシモデルを用いた最適スリップ率推定に基づく電気自動車の駆動力制御法、電気学会産業応用部門大会2012、年2012年8月21日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スリップ率は、路面の摩擦係数と相関関係を有する。この摩擦係数は、スリップ率が上昇するに伴って上昇し、スリップ率が最適なスリップ率となるタイヤが空転を開始する直前の際にその値が最大となる。そして、摩擦係数は、車両を安定して走行させるために必要な路面の状態に関する情報であって、特に、摩擦係数の最大値の情報が重要となる。このため、例えば、ナビゲーションシステムにおいて、地図情報と路面の摩擦係数の最大値の情報とを連係させておくことで、この摩擦係数の最大値の情報を有効活用することができる。なお、摩擦係数は、タイヤに発生する駆動力を垂直抗力で除算した値である。
【0006】
このため、発明者は、非特許文献1に記載の演算式を利用して摩擦係数の推定最大値を算出することを検討した。この非特許文献1に記載の演算式を用いて摩擦係数の推定最大値を算出する場合、最適なスリップ率を求めることで、摩擦係数の推定最大値を精度良く算出することができる。しかし、最適なスリップ率を求めるには、空転開始の直前までタイヤを回転させる必要がある。このようなタイヤを空転開始の直前まで回転させることは容易でない。
【0007】
そこで、発明者は、最適なスリップ率に比較して小さなスリップ率を算出し、算出したスリップ率を非特許文献1に記載の演算式に代入することで、摩擦係数の推定最大値を算出することを検討した。しかし、発明者の鋭意検討によれば、この方法によっては、摩擦係数の推定最大値を精度良く算出することが難しいことが分かった。
【0008】
本開示は、精度良く摩擦係数の推定最大値を算出可能な摩擦係数演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
車両が路面を走行する際のタイヤに関する情報を検出する検出部(S)から送信される検出信号に基づいて、タイヤと路面との物理的現象をシミュレートするタイヤブラシモデルを用いてタイヤと路面との間の摩擦係数の推定の最大値である推定摩擦最大値(μp)を推定する摩擦係数演算装置であって、
検出信号に基づいて、タイヤと路面との間のスリップ率およびタイヤと路面との間の摩擦係数を算出する演算部(10)と、
タイヤブラシモデルにおけるスリップ率と摩擦係数との関係を示す演算式であって、タイヤと路面との間のスリップ率が、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合のタイヤと路面との間の推定の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式と、演算部が算出するスリップ率および摩擦係数と、を用いて推定摩擦最大値を算出する最大摩擦推定部(20)と、を備え、
演算部が算出するスリップ率を算出スリップ率(sc)とし、演算部が算出する摩擦係数を算出摩擦係数(μc)としたとき、
タイヤブラシモデル式は、タイヤブラシモデルのスリップ率に関する関数であって、タイヤブラシモデル式の傾きを変化させる複数のパラメータを有し、
最大摩擦推定部は、
タイヤブラシモデル式に算出スリップ率を代入してタイヤブラシモデルの摩擦係数であるタイヤモデル摩擦(μm)を算出するモデル演算部(21)と、
算出摩擦係数とタイヤモデル摩擦との差が小さくなるようにパラメータの値を推定するパラメータ推定部(23)とを有し、
パラメータ推定部は、タイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となるパラメータの値を排除し、且つ、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを0に近付けることを可能とするパラメータの値を求めるパラメータ制約部(232)を含む。
【0010】
ここで、スリップ率が、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合、摩擦係数は、スリップ率に略比例して増加する。このため、タイヤブラシモデル式をスリップ率に略比例して増加する摩擦係数となるように近似させる場合、タイヤブラシモデル式のパラメータには、タイヤブラシモデル式を一次関数および二次関数とする候補が含まれる。
【0011】
しかし、発明者の鋭意検討によれば、タイヤブラシモデル式を一次関数および二次関数で示した場合、当該タイヤブラシモデル式から推定摩擦最大値を精度良く算出することができない。
【0012】
また、発明者の鋭意検討によれば、摩擦係数は、スリップ率が略最大スリップ率となる際、スリップ率の増加に対する摩擦係数の変化の割合が0となる部分を有する。このため、タイヤブラシモデル式をスリップ率の増加に対する摩擦係数の変化の割合が0となる部分を有するように近似させる場合、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きが0に近付く部分を有する。
【0013】
以上より、本発明によれば、スリップ率が微小領域である場合の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、パラメータの値の候補から推定摩擦最大値を精度良く算出することができない候補を除外することができる。このため、スリップ演算部11が微小領域の値の算出スリップ率しか算出できない場合であっても、推定されたパラメータの値に基づいて精度良く推定摩擦最大値を算出することができる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る制御装置の概略構成図である。
【
図2】摩擦係数とスリップ率との相関関係を示す摩擦-スリップ率特性を示す図である。
【
図3】タイヤブラシモデル式を摩擦係数およびスリップ率のグラフで示した理論特性を示す図である。
【
図4】理論特性が摩擦-スリップ率特性から乖離する例を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るスリップ演算部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係る摩擦演算部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係るモデル演算部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態に係る誤差演算部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】第1実施形態に係るパラメータ推定部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第1実施形態に係る最大値演算部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】第1実施形態に係る最大値演算部が推定摩擦最大値を算出する方法を説明するための図である。
【
図12】第2実施形態に係る制御装置の概略構成図である。
【
図13】第2実施形態に係る算出記憶部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】第2実施形態に係る算出記憶部および算出判定部を説明するための図である。
【
図15】第2実施形態に係る算出判定部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】算出スリップ率および算出摩擦係数の経時変化を示す図である。
【
図17】算出摩擦係数に外れ値が含まれる場合の理論特性を示す図である。
【
図18】第3実施形態に係る制御装置の概略構成図である。
【
図19】第3実施形態に係る算出記憶部を説明するための図である。
【
図20】第3実施形態に係る算出記憶部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図21】比較的近い値の算出スリップ率および算出摩擦係数が繰り返し検出される状態を示す図である。
【
図22】繰り返し比較的近い値の算出スリップ率および算出摩擦係数が検出された場合の理論特性の一例を示す図である。
【
図23】第3実施形態に係るパラメータ推定部が推定したパラメータによって求められる理論特性の一例を示す図である。
【
図24】第4実施形態に係る制御装置の概略構成図である。
【
図25】第4実施形態に係る算出記憶部を説明するための図である。
【
図26】第4実施形態に係る算出記憶部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図27】第4実施形態に係るデータ補完部が実行する制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図28】算出スリップ率および算出摩擦係数が階段状に検出された場合の経時変化を示す図である。
【
図29】階段状に検出された算出スリップ率および算出摩擦係数のみを用いた場合の理論特性の一例を示す図である。
【
図30】第4実施形態に係るパラメータ推定部が推定したパラメータによって求められる理論特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態について、
図1~
図11を参照して説明する。本実施形態の摩擦係数演算装置は、例えば、電気自動車の走行を制御する車両用制御システムに用いられる。車両用制御システムは、例えば、車両を駆動させるためのモータの回転数等を制御するためのものである。車両用制御システムは、
図1に示すように、車両の挙動に関する各種情報を検出する検出部Sおよび当該検出部Sが検出する情報に基づいてモータの回転数を制御する制御装置1を有する。この制御装置1は、ECUと呼ばれるものであって本実施形態の摩擦係数演算装置としても機能する。なお、ECUはElectronic Control Unitの略である。
【0018】
検出部Sは、車両の挙動に関する情報のうち、特に車両が路面を走行する際のタイヤに関する各種情報を検出するセンサ群であって、車両に設けられている。具体的に、検出部Sは、車両の速度を検出する車速センサ、タイヤの回転速度を検出する車輪速度センサ、ハンドルの回転角を検出する舵角センサ、車両のヨー方向の回転角速度を検出するヨーレートセンサ、車両の加速度を検出する加速度センサを有する。さらに、検出部Sは、タイヤに加えられるトルクの大きさを検出するトルクセンサおよびタイヤに発生する荷重を検出する荷重センサを有する。検出部Sは、これら各種センサが検出する検出値に応じた検出信号を制御装置1に送信する。
【0019】
制御装置1は、CPU、ROMおよびRAM等のメモリを含んで構成されるマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。メモリは、非遷移的実体的記憶媒体で構成されている。制御装置1は、ROM内に記憶されたプログラムに基づいて各種演算、処理を行う。制御装置1は、
図1に示すように、演算部10および最大摩擦推定部20を有する。
【0020】
制御装置1は、検出部Sから各種センサが検出する検出値に応じた検出信号が入力されると、ROM内に記憶されたプログラムを実行することで、演算部10および最大摩擦推定部20として機能する。あるいは、制御装置1は、演算部10および最大摩擦推定部20に一対一に対応する複数の回路モジュールを備えていてもよい。
【0021】
以下、演算部10および最大摩擦推定部20について、個々に説明する。まず、演算部10について説明する。演算部10は、検出部Sから送信される各種検出信号に基づいて車両が路面を走行する際のタイヤと路面との間に滑りが生じる際のスリップ率およびタイヤと路面との間の摩擦係数を算出する演算装置である。演算部10は、スリップ率を算出するスリップ演算部11および摩擦係数を算出する摩擦演算部12を有する。
【0022】
スリップ演算部11は、検出部Sから各種センサが検出する検出値に応じた検出信号が入力されると、これら検出値に基づいてタイヤと路面との間のスリップ率を算出する。スリップ演算部11は、例えば、車両が直進する場合、車速センサが検出する車両の速度と車輪速度センサが検出するタイヤの回転速度との差に基づいてスリップ率を算出する。また、スリップ演算部11は、例えば、車両が横滑りする場合、車速センサおよび車輪速度センサが検出する検出値に加えて、舵角センサと、ヨーレートセンサと、加速度センサとが検出する検出値に基づいてスリップ率を算出する。スリップ演算部11は、出力側に最大摩擦推定部20が接続されている。スリップ演算部11によって算出されたスリップ率の情報は、最大摩擦推定部20の後述のモデル演算部21に送信される。以下、スリップ演算部11が算出したスリップ率を算出スリップ率scとも呼ぶ。
【0023】
摩擦演算部12は、検出部Sから各種センサが検出する検出値に応じた検出信号が入力されると、これら検出値に基づいて路面の摩擦係数を算出する。摩擦演算部12は、例えば、トルクセンサと、荷重センサと、加速度センサとが検出する検出値に基づいて摩擦係数を算出する。摩擦演算部12は、出力側に最大摩擦推定部20が接続されている。摩擦演算部12によって算出された摩擦係数の情報は、最大摩擦推定部20の後述の誤差演算部22に送信される。以下、摩擦演算部12が算出した摩擦係数を算出摩擦係数μcとも呼ぶ。
【0024】
なお、図示しないが、演算部10と最大摩擦推定部20との間にはノイズフィルタが設けられている。このノイズフィルタは、例えば、ローパスフィルタなどで構成されており、スリップ演算部11が算出した算出スリップ率scおよび摩擦演算部12が算出した算出摩擦係数μcに車両の振動等に起因するノイズが含まれる場合に、当該ノイズを除去するものである。
【0025】
最大摩擦推定部20は、スリップ演算部11から送信される算出スリップ率scの情報および摩擦演算部12から送信される算出摩擦係数μcの情報に基づいてタイヤと路面との間の摩擦係数の推定の最大値を算出する演算装置である。最大摩擦推定部20は、後述のタイヤブラシモデルを用いて当該摩擦係数の推定の最大値を算出する。最大摩擦推定部20は、モデル演算部21と、誤差演算部22と、パラメータ推定部23と、最大値演算部24と、を有する。
【0026】
モデル演算部21は、スリップ演算部11から送信される算出スリップ率scの情報に基づいて、後述のタイヤブラシモデルにおける摩擦係数の理論上の推定値であるタイヤモデル摩擦μmを算出するものである。モデル演算部21の入力側にはスリップ演算部11が接続されている。モデル演算部21は、スリップ演算部11から算出スリップ率scの情報が入力されると、後述のタイヤブラシモデル式に基づいてタイヤモデル摩擦μmを算出する。モデル演算部21は、出力側が誤差演算部22に接続されている。モデル演算部21によって算出されるタイヤモデル摩擦μmの情報は、誤差演算部22に送信される。
【0027】
誤差演算部22は、モデル演算部21が算出するタイヤモデル摩擦μmと摩擦演算部12が算出する算出摩擦係数μcとの差であるモデル誤差μerrを算出するものである。誤差演算部22は、タイヤモデル摩擦μmと、当該タイヤモデル摩擦μmを算出するために用いた算出スリップ率scと同じタイミングで算出された算出摩擦係数μcとの差を算出してモデル誤差μerrを算出する。
【0028】
誤差演算部22は、モデル演算部21からタイヤモデル摩擦μmの情報が入力されるとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μcの情報が入力されると、タイヤモデル摩擦μmと算出摩擦係数μcとの差分値であるモデル誤差μerrを算出する。モデル誤差μerrは、タイヤモデル摩擦μmから算出摩擦係数μcを減算して得られる値であって、絶対値として算出される。誤差演算部22は、出力側がパラメータ推定部23に接続されている。誤差演算部22によって算出されたモデル誤差μerrの情報は、パラメータ推定部23に送信される。
【0029】
パラメータ推定部23は、誤差演算部22から送信されるモデル誤差μerrの情報に基づいて、後述のタイヤブラシモデル式の最適なパラメータを推定するものである。パラメータ推定部23は、誤差記憶部231および、パラメータ制約部232を有する。
【0030】
誤差記憶部231は、誤差演算部22から送信される情報を記憶するものである。換言すれば、誤差記憶部231は、スリップ演算部11が算出する算出スリップ率scおよび摩擦演算部12が算出する算出摩擦係数μcそれぞれに関する情報を記憶するものである。誤差記憶部231は、誤差演算部22からモデル誤差μerrの情報を取得する毎に、当該モデル誤差μerrの情報を記憶可能に構成されている。
【0031】
誤差記憶部231は、予め定められた所定の数のモデル誤差μerrの情報を記憶する。本実施形態の誤差記憶部231は、例えば、10個のモデル誤差μerrの情報を記憶可能に構成されている。なお、誤差記憶部231に記憶可能なモデル誤差μerrの情報の数は、10個に限定されず、10個より少なくてもよいし、10個より多くてもよい。本実施形態では、誤差記憶部231がパラメータ記憶部として機能する。
【0032】
パラメータ制約部232は、パラメータ推定部23が後述のタイヤブラシモデル式の最適なパラメータを推定する際に、推定するパラメータを限定するものである。パラメータ制約部232についての詳細な説明は後述する。
【0033】
パラメータ推定部23は、出力側にモデル演算部21および最大値演算部24が接続されている。パラメータ推定部23によって推定された最適なパラメータの情報は、モデル演算部21および最大値演算部24に出力される。
【0034】
最大値演算部24は、パラメータ推定部23によって推定されたタイヤブラシモデル式のパラメータの情報に基づいて、摩擦係数の推定の最大値である推定摩擦最大値μpを算出するものである。最大値演算部24は、パラメータ推定部23から当該パラメータの情報が入力されると、推定摩擦最大値μpを算出する。
【0035】
ところで、摩擦係数は、スリップ率と相関関係を有し、スリップ率の変化に応じてその値が変化する。例えば、車両が加速する際の摩擦係数は、
図2の破線で示す摩擦-スリップ特性FSに示すように、タイヤが空転しない粘着領域においてスリップ率が上昇するに伴って上昇する。また、摩擦係数は、粘着領域において、スリップ率の値が、タイヤが空転を開始する直前まで上昇した際に最大となる。そして、スリップ率の値が、タイヤが僅かでも空転する空転領域では、スリップ率が上昇するに伴って徐々に減少する。
【0036】
また、車両を減速させる際の摩擦係数は、スリップ率の値が、タイヤが空転しない粘着領域では、スリップ率が減少するに伴って減少する。なお、
図2に示す黒丸は、タイヤが空転を開始する直前のスリップ率、すなわち、タイヤが空転しない粘着領域における最大のスリップ率を示し、スリップ率が、タイヤが空転しない粘着領域で最大となる際の摩擦係数の大きさを示す。このように、摩擦係数は、粘着領域でスリップ率の値が最大となる際に、最大となる。以下、粘着領域で最大となる際のスリップ率を最大スリップ率とも呼ぶ。
【0037】
そして、このような相関関係を有する摩擦係数およびスリップ率を示す摩擦-スリップ特性FSは、タイヤブラシモデル式によって示されるグラフの一部と類似する。タイヤブラシモデル式は、タイヤブラシモデルにおけるスリップ率、摩擦係数、タイヤに発生する荷重等の関係を示す演算式である。このため、まずタイヤブラシモデルおよびタイヤブラシモデル式について説明する。
【0038】
タイヤブラシモデルとは、タイヤと路面との接触領域内の物理的現象をシミュレートするものであって、タイヤに複数のブラシ状の弾性体が取り付けられたタイヤモデルである。タイヤに発生する駆動力は、タイヤブラシモデルを用いた場合、下記数式1に示すタイヤブラシモデル式で示すことができる。
【0039】
【数1】
ここで、数式1におけるFdは、タイヤに発生する駆動力を示す。また、数式1におけるsは、タイヤと路面との間のスリップ率を示す。そして、数式1におけるHは、数式1に示すタイヤブラシモデル式の傾きを変化させるパラメータであって、タイヤブラシモデルのタイヤ設置面の長さ、タイヤ設置面の幅およびタイヤ前後方向のブラシのせん断剛性に基づいて定められる。また、数式1におけるHは、以下の数式2のように示すことができる。
【0040】
【数2】
また、数式1におけるKは、数式1に示すタイヤブラシモデル式の傾きを変化させるパラメータであって、タイヤ設置面の長さ、タイヤ設置面の幅およびタイヤ前後方向のブラシのせん断剛性と、タイヤと路面との間の摩擦係数とに基づいて定められる。また、数式1におけるKは、以下の数式3のように示すことができる。
【0041】
【数3】
ここで、数式2および数式3におけるaは、タイヤブラシモデルにおけるタイヤ設置面の長さを示す。また、数式2および数式3におけるbはタイヤブラシモデルにおけるタイヤ設置面の幅を示す。そして、数式2および数式3におけるC
xは、タイヤブラシモデルにおけるタイヤ前後方向のブラシのせん断剛性を示す。また、数式3におけるμ
pは、摩擦係数の推定の最大値であって、スリップ率が、最大スリップ率となった場合における摩擦係数を示す。
【0042】
ところで、摩擦係数は、タイヤに発生する駆動力を垂直抗力で除算することで求めることができる。このため、タイヤブラシモデルのタイヤモデル摩擦μmは、数式1に示すタイヤブラシモデル式および垂直抗力を用いて変換した下記数式4に示すタイヤブラシモデル式によって算出することができる。
【0043】
【数4】
ここで、数式4におけるF
zは、タイヤに発生する垂直抗力を示す。この数式4は、タイヤブラシモデルにおける摩擦係数の理論上の特性を示すものである。そして、数式4に示すように、タイヤモデル摩擦μ
mは、スリップ率に関する三次関数を含む演算式によって求めることができる。そして、数式4に示すタイヤモデル摩擦μ
mとスリップ率との対応関係は、
図3の実線で示す理論特性Thのように表すことができる。ただし、理論特性Thは、
図3に示すように、摩擦-スリップ特性FSと乖離する場合がある。
【0044】
このような場合、数式4に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるHと、HKと、HK
2を変更することで、
図3に示すように、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。そして、摩擦-スリップ特性FSに近付けた理論特性Thを用いて推定摩擦最大値μ
pを得ることができる。
【0045】
ここで、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付ける方法の一例について説明する。まず、検出部Sから送信される検出信号に基づいて複数の算出スリップ率scを算出し、算出した複数の算出スリップ率scを数式4に示すタイヤブラシモデル式に代入することで、複数のタイヤモデル摩擦μmを算出する。これにより、理論特性Thが得らえる。
【0046】
そして、複数のタイヤモデル摩擦μmと、当該複数のタイヤモデル摩擦μmを算出するために用いた複数の算出スリップ率scと同じタイミングで算出された複数の算出摩擦係数μcとの差であるモデル誤差μerrをそれぞれ求める。そして、求めたそれぞれのモデル誤差μerrが小さくなるように、数式4に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるHと、HKと、HK2を変更する。すなわち、モデル誤差μerrが0に近づくよう数式4に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるHと、HKと、HK2を変更する。
【0047】
これにより、理論特性Thが摩擦-スリップ特性FSに乖離する場合であっても、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。そして、摩擦-スリップ特性FSに近付けた理論特性Thを用いて推定摩擦最大値μpを得ることができる。
【0048】
しかし、上記方法によって理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けて推定摩擦最大値μpを精度良く算出する場合、スリップ率が最大スリップ率まで増加した際にスリップ演算部11が算出する算出スリップ率scが必要となる。しかし、スリップ率を最大スリップ率まで増加させるには、空転開始の直前までタイヤを回転させる必要がある。このようなタイヤを空転開始の直前まで回転させることは容易でない。
【0049】
そして、スリップ率が最大スリップ率まで増加しない場合、スリップ演算部11は、スリップ率が最大スリップ率まで増加した際の算出スリップ率scを算出することができない。この場合、数式4に示すタイヤブラシモデル式において、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに精度良く近付けることができず、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することが難しい。
【0050】
また、例えば、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して充分小さいようなスリップ率が0.1以下である微小領域となる状態で車両が走行している場合、スリップ演算部11は、当該微小領域の値の算出スリップ率scしか算出しない。このような場合、上記方法によって推定摩擦最大値μpを得ることができない虞がある。このため、発明者は、スリップ演算部11が最大スリップ率に比較して小さいような微小領域の値の算出スリップ率scしか算出しない場合であっても、以下の方法によって推定摩擦最大値μpを得ることを検討した。
【0051】
まず、算出スリップ率scの値が、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して充分小さいような微小領域の値である場合、タイヤブラシモデルにおけるスリップ率を以下の数式5のように示すことができる。
【0052】
【数5】
このため、算出スリップ率s
cの値が微小領域の値である場合、数式4に示すタイヤブラシモデル式は、以下の数式6に示すタイヤブラシモデル式に置き換えることができる。
【0053】
【数6】
数式6は、タイヤブラシモデルにおけるスリップ率と摩擦係数との関係を示す演算式である。そして、数式6は、タイヤと路面との間のスリップ率が、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合のタイヤと路面との間の推定の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式である。また、数式6は、タイヤブラシモデル式の傾きを変化させるパラメータを複数有する。
【0054】
そして、スリップ演算部11によって微小領域の値の算出スリップ率scを複数得る場合、モデル演算部21は、数式6に示すタイヤブラシモデル式に複数の算出スリップ率scを代入することで、複数のタイヤモデル摩擦μmを算出する。これにより、算出スリップ率scの値が微小領域の値である場合であっても、理論特性Thを得ることができる。
【0055】
また、パラメータ推定部23は、モデル誤差μerrが小さくなるように、数式6に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるHと、HKと、HK2との値を算出する。パラメータ推定部23は、例えば、モデル誤差μerrが0に近づくように、数式6の第1項におけるHと、第2項におけるHKと、第3項におけるHK2を求める。これにより、数式6に示すタイヤブラシモデル式から得ることができる理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。
【0056】
そして、発明者は、このように摩擦-スリップ特性FSに近付けた理論特性Thを用いて推定摩擦最大値μpを算出することを検討した。しかし、発明者の更なる鋭意検討によって、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることが難しい場合があることが分かった。
【0057】
例えば、数式6において、モデル誤差μerrが0に近づくように求めたパラメータの第2項におけるHKおよび第3項におけるHK2が0である場合、数式6は、スリップ率に関する一次関数となる。
【0058】
これに対して、タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合の摩擦-スリップ特性FSは、スリップ率の増加に応じて摩擦係数が略直線状に増加する。すなわち、微小領域の摩擦-スリップ特性FSにおいて、摩擦係数は、スリップ率に略比例して増加する。
【0059】
このため、モデル誤差μ
errが小さくなるように、数式6に示すタイヤブラシモデル式の第1項におけるHの値を算出した場合、理論特性Thは、
図4の一点鎖線に示すように、直線状となる場合を含む。すなわち、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けるための最適なパラメータには、理論特性Thを直線形状とする値が含まれる。この場合、理論特性Thと摩擦-スリップ特性FSとが乖離するため、推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない。
【0060】
また、数式6において、モデル誤差μ
errが0に近づくように求めたパラメータの第1項におけるHおよび第3項におけるHK
2が0である場合、数式6は、スリップ率に関する二次関数となる。そして、モデル誤差μ
errが小さくなるように、数式6に示すタイヤブラシモデル式の第2項におけるHKの値を算出した場合、理論特性Thは、
図4の二点鎖線に示すように、上向きに凸の放物線状となる場合を含む。すなわち、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けるための最適なパラメータには、理論特性Thを上向きが凸の放物線状とする値が含まれる。この場合、理論特性Thと摩擦-スリップ特性FSとが乖離するため、推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない。
【0061】
このように、モデル誤差μerrが小さくなるように数式6に示すタイヤブラシモデル式のHと、HKと、HK2との値を算出する場合、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない理論特性Thとなることがある。すなわち、モデル誤差μerrが小さくなるようにタイヤブラシモデル式のH、HK、HK2それぞれの値を算出しても、理論特性Thと摩擦-スリップ特性FSとが乖離する可能性が有る。換言すれば、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けるためのタイヤブラシモデル式のH、HK、HK2それぞれの値の候補には、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補が含まれる。これは、発明者の鋭意検討によって、分かった。
【0062】
そこで、発明者は、タイヤブラシモデル式のパラメータであるH、HK、HK2それぞれの値を推定する際に、これらH、HK、HK2それぞれの値の候補から推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補を除外する方法を検討した。
【0063】
ここで、摩擦-スリップ特性FSは、
図2等に示すように、スリップ率の上昇に伴い摩擦係数が増加するものの、スリップ率が最大スリップ率に近づくにつれて、スリップ率の増加に伴う摩擦係数の増加の割合は低下する。すなわち、摩擦-スリップ特性FSは、スリップ率が最大スリップ率に近づくにつれて、徐々に摩擦係数の増加率が減少する。そして、スリップ率が最大スリップ率に略等しい値まで増加すると、スリップ率が増加しても摩擦係数が略変化せず一定となる。換言すれば、摩擦-スリップ特性FSは、スリップ率が略最大スリップ率となる際、スリップ率の増加に対する摩擦係数の変化の割合が0となる停留部分を有する形状である。
【0064】
このため、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近似させる場合、数式6に示すタイヤブラシモデル式をスリップ率に関する三次関数で示した場合のグラフは、スリップ率の上昇に伴い摩擦係数が増加する形状となる。そして、スリップ率に関する三次関数で示した場合のグラフは、極大値および極小値を有さない形状であって、且つ、スリップ率の増加に対する摩擦係数の変化の割合が0となる停留部分を1つのみ有する形状となる。すなわち、当該グラフは、変曲点における傾きが0となる部分を1つ有する。
【0065】
ここで、数式6に示すスリップ率に関する三次関数における傾きは、数式6をスリップ率で微分した以下の数式7のように示すことができる。
【0066】
【数7】
そして、数式6に示すスリップ率に関する三次関数において、傾きが0となる部分を1つ有することから、数式7の判別式である数式8において、H、HKおよびHK
2の関係を以下のように示すことができる。
【0067】
【数8】
そして、数式6の第3項におけるHK
2を、数式8を用いることで、第1項におけるHおよび第2項におけるHKを用いて以下の数式9のように示すことができる。
【0068】
【数9】
そして、数式9におけるHK
2を数式6に示すタイヤブラシモデル式に代入することで、以下の数式10に置き換えることができる。
【0069】
【数10】
このように数式6を数式10に置き換えることで、タイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、パラメータの値の候補から推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない候補を除外することができる。このため、本実施形態のパラメータ推定部23は、
図1に示すように、パラメータの値の候補から推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない候補を除くためのパラメータ制約部232を有する。パラメータ制約部232は、タイヤブラシモデル式である数式6を数式10に変換させる数式変換部であって、パラメータ推定部23がタイヤブラシモデル式の最適なパラメータを推定する際に、パラメータの値を限定するものである。
【0070】
具体的に、本実施形態のパラメータ制約部232は、数式6に示すタイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となるパラメータの値を排除し、且つ、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きが0になることを可能とするパラメータの値を求めるものである。そして、パラメータ制約部232は、数式6に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるH、HKおよびHK2において上記数式9の関係が成立するようにパラメータの値を制約するものである。
【0071】
そして、本実施形態のパラメータ推定部23は、誤差演算部22が算出したモデル誤差μerrが小さくなるように、数式10に示すタイヤブラシモデル式のパラメータであるHおよびHKの値を算出する。パラメータ推定部23は、例えば、モデル誤差μerrが0に近づくように、数式10の第1項におけるHおよび第2項におけるHKを求める。これにより、数式10に示すタイヤブラシモデル式から得ることができる理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。そして、このように得ることができる理論特性Thは、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない理論特性Thが除かれている。パラメータ推定部23は、算出したタイヤブラシモデル式のパラメータであるHおよびHKの値の情報を、モデル演算部21および最大値演算部24に出力する。
【0072】
また、最大値演算部24は、パラメータ推定部23によって算出されたタイヤブラシモデル式のパラメータであるHおよびHKの値の情報に基づいて、推定摩擦最大値μpを算出する。
【0073】
ここで、推定摩擦最大値μpは、数式2および数式3に基づいて、以下の数式11により求めることができる。
【0074】
【数11】
ここで、数式11におけるHおよびHKは、パラメータ推定部23において理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることが可能であるとして推定されたパラメータ値である。このため、パラメータ推定部23によって算出されたタイヤブラシモデル式のパラメータであるHおよびHKの値および数式11に基づいて推定摩擦最大値μ
pを算出することができる。
【0075】
続いて、制御装置1が実行する制御処理の一例について
図5~
図10に示すフローチャートを参照して説明する。制御装置1は、
図5~
図10に示す各制御処理を、予め定められた所定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0076】
まず、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図5に示すスリップ演算部11が実行する処理について説明する。スリップ演算部11は、算出スリップ率s
cを算出するために
図5に示す処理を所定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0077】
最初に、ステップS10において、スリップ演算部11は、検出部Sから送信される検出信号のうち、算出スリップ率scを算出するために必要な情報を検出する。算出スリップ率scを算出するために必要な情報は、例えば、車両が直進する場合、車速センサが検出する車両の速度の情報および車輪速度センサが検出するタイヤの回転速度の情報である。
【0078】
そして、ステップS12において、スリップ演算部11は、算出スリップ率scを算出するために必要な情報に基づいて、算出スリップ率scを算出する。ステップS14において、スリップ演算部11は、算出した算出スリップ率scの情報をモデル演算部21に送信する。
【0079】
続いて、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図6に示す摩擦演算部12が実行する処理について説明する。摩擦演算部12は、算出摩擦係数μ
cを算出するために
図6に示す処理を所定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0080】
最初に、ステップS20において、摩擦演算部12は、検出部Sから送信される検出信号のうち、算出摩擦係数μcを算出するために必要な情報を検出する。算出摩擦係数μcを算出するために必要な情報は、例えば、トルクセンサが検出するタイヤに加えられるトルクの情報と、荷重センサが検出するタイヤに発生する荷重の情報と、加速度センサが検出する車両の加速度の情報である。
【0081】
そして、ステップS22において、摩擦演算部12は、算出摩擦係数μ
cを算出するために必要な情報に基づいて、算出摩擦係数μ
cを算出する。ここで、摩擦演算部12が
図6に示す処理を実行するタイミングは、スリップ演算部11が
図5に示す処理を実行するタイミングと同じタイミングである。このため、摩擦演算部12は、スリップ演算部11が算出スリップ率s
cを算出する処理を行う制御周期と同じ制御周期で算出摩擦係数μ
cを算出する。
【0082】
ステップS24において、摩擦演算部12は、算出した算出摩擦係数μcの情報を誤差演算部22に送信する。
【0083】
続いて、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図7に示すモデル演算部21が実行する処理について説明する。モデル演算部21は、
図7に示す処理を、スリップ演算部11から算出スリップ率s
cの情報が入力される度に繰り返し実行する。
【0084】
スリップ演算部11から算出スリップ率scの情報が入力されると、ステップS30において、モデル演算部21は、スリップ演算部11から送信される算出スリップ率scの情報および数式6に基づいて、タイヤモデル摩擦μmを算出する。具体的に、モデル演算部21は、タイヤブラシモデル式の数式6に算出スリップ率scを代入して演算することでタイヤモデル摩擦μmを算出する。ステップS32において、モデル演算部21は、算出したタイヤモデル摩擦μmの情報を誤差演算部22に送信する。
【0085】
続いて、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図8に示す誤差演算部22が実行する処理について説明する。誤差演算部22は、
図8に示す処理を、モデル演算部21からタイヤモデル摩擦μ
mの情報が入力されるとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μ
cの情報が入力される度に繰り返し実行する。
【0086】
ステップS40において、誤差演算部22は、タイヤモデル摩擦μmから算出摩擦係数μcを減算することで得られる値の絶対値をモデル誤差μerrとして算出する。
【0087】
ここで、上記のように、スリップ演算部11が算出スリップ率scを算出する処理と摩擦演算部12が算出摩擦係数μcを算出する処理は、同じ制御周期で繰り返し実行される。このため、誤差演算部22が算出するモデル誤差μerrは、同じ制御周期で算出された算出スリップ率scに基づいて算出されるタイヤモデル摩擦μmと算出摩擦係数μcとの誤差である。
【0088】
ステップS42において、誤差演算部22は、算出したモデル誤差μerrの情報をパラメータ推定部23に送信する。
【0089】
続いて、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図9に示すパラメータ推定部23が実行する処理について説明する。パラメータ推定部23は、
図9に示す処理を、誤差演算部22からモデル誤差μ
errの情報が入力される度に繰り返し実行する。
【0090】
誤差演算部22からモデル誤差μ
errの情報が入力されると、ステップS50において、パラメータ推定部23は、入力されたモデル誤差μ
errの情報を誤差記憶部231に記憶する。なお、本実施形態のパラメータ推定部23は、誤差記憶部231に10個のモデル誤差μ
errの情報を記憶可能に構成されている。このため、パラメータ推定部23は、
図9に示す処理が実行される毎(すなわち、制御周期毎)に、パラメータ推定部23に入力されたモデル誤差μ
errの情報を記憶する。
【0091】
そして、誤差記憶部231に10個のモデル誤差μerrの情報が記憶されている状態でステップS50の処理を実行する場合、パラメータ推定部23は、10個の古いモデル誤差μerrの情報のうち、最も古いモデル誤差μerrの情報を消去する。そして、パラメータ推定部23は、新たに入力されたモデル誤差μerrの情報を誤差記憶部231に記憶する。すなわち、誤差記憶部231は、誤差演算部22からモデル誤差μerrの情報を1つ取得する度に、記憶したモデル誤差μerrの情報を1つ更新する。
【0092】
続いて、ステップS52において、パラメータ推定部23は、タイヤブラシモデル式のパラメータの推定する際のパラメータを制約する。上述したように、数式6に示すタイヤブラシモデル式のパラメータには、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補が含まれる。このため、ステップS52において、パラメータ制約部232は、数式6に示すタイヤブラシモデル式のパラメータの候補から推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補を除外する。具体的に、パラメータ制約部232は、数式6に示すタイヤブラシモデル式を数式10示すタイヤブラシモデル式に置き換える。
【0093】
そして、ステップS54において、パラメータ推定部23は、誤差記憶部231に記憶されているモデル誤差μerrが0に近づくように、数式10のパラメータである第1項のHおよび第2項のHKを求める。例えば、誤差記憶部231に10個のモデル誤差μerrの情報が記憶されている場合、パラメータ推定部23は、当該10個のモデル誤差μerrそれぞれが0に近づくように、数式10のパラメータである第1項のHおよび第2項のHKを求める。
【0094】
モデル誤差μerrが0に近づくようにHおよびHKを求める方法は、例えば、適応フィルタを用いる方法を採用することができる。具体的には、適応フィルタは、逐次型最小二乗法を用いるものであってもよいし、カルマンフィルタを用いるものであってもよい。
【0095】
これにより、数式10に示すタイヤブラシモデル式から得ることができる理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。そして、このように得ることができる理論特性Thは、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない理論特性Thが除かれている。
【0096】
ステップS56において、パラメータ推定部23は、算出したHおよびHKの値の情報をモデル演算部21および最大値演算部24に送信する。
【0097】
パラメータ推定部23は、算出したHおよびHKの値の情報をモデル演算部21に送信することで、ステップS30において、モデル演算部21がタイヤモデル摩擦μmを算出する際に用いる数式6に示すタイヤブラシモデル式を更新する。このため、ステップS56の処理がされた後に実行される制御周期で実行されるステップS30の処理では、モデル演算部21は、パラメータ推定部23から送信されたパラメータの値の情報に基づいてタイヤモデル摩擦μmを算出する。具体的には、モデル演算部21は、数式6の第1項におけるHと、第2項におけるHKと、第3項におけるHK2それぞれの値がパラメータ推定部23から送信されるこれらHの値およびHKの値によって更新された状態でタイヤモデル摩擦μmを算出する。
【0098】
続いて、制御装置1が実行する制御処理のうち、
図10に示す最大値演算部24が実行する処理について説明する。最大値演算部24は、
図10に示す処理を、パラメータ推定部23からHおよびHKの値の情報が入力される度に繰り返し実行する。
【0099】
パラメータ推定部23からHおよびHKの値の情報が入力されると、ステップS60において、最大値演算部24は、パラメータ推定部23から入力されるHおよびHKの値の情報および数式11に基づいて、推定摩擦最大値μpを算出する。具体的に、最大値演算部24は、数式11にHおよびHKの値を代入して演算することで推定摩擦最大値μpを算出する。
【0100】
ここで、最大値演算部24は、パラメータ推定部23からHおよびHKの値の情報が入力される度に推定摩擦最大値μpを算出する。そして、パラメータ推定部23は、所定の制御周期毎にスリップ演算部11が算出スリップ率scを算出するとともに、摩擦演算部12が算出摩擦係数μcを算出する度に、HおよびHKの値を推定し、推定した情報を最大値演算部24に送信する。
【0101】
このため、
図11に示すように、最大値演算部24は、スリップ演算部11が検出部Sから算出スリップ率s
cの算出に必要な情報を検出し、摩擦演算部12が検出部Sから算出摩擦係数μ
cの算出に必要な情報を検出する度に推定摩擦最大値μ
pを算出する。換言すれば、最大値演算部24は、誤差記憶部231に記憶され、算出スリップ率s
cおよびに算出摩擦係数μ
cに基づいて算出されるモデル誤差μ
errの情報が更新される度に推定摩擦最大値μ
pを算出する。
【0102】
そして、ステップS62において、最大値演算部24は、算出した推定摩擦最大値μpの情報を、例えば車両を駆動させるためのモータの回転数を制御するモータ駆動回路に出力する。これにより、制御装置1が車両を駆動させるためのモータの回転数を制御する際に、摩擦係数演算装置が算出した推定摩擦最大値μpの情報を用いることができる。
【0103】
以上の如く、本実施形態の制御装置1は、スリップ率が微小領域である場合の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式と、算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcと、を用いて推定摩擦最大値μpを算出する最大摩擦推定部20と、を備える。タイヤブラシモデル式は、タイヤブラシモデルのスリップ率に関する関数であって、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを変化させる複数のパラメータを有する。最大摩擦推定部20は、タイヤブラシモデル式に算出スリップ率scを代入してタイヤモデル摩擦μmを算出するモデル演算部21と、算出摩擦係数μcとタイヤモデル摩擦μmとの差が小さくなるようにパラメータの値を推定するパラメータ推定部23とを有する。パラメータ推定部23は、タイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となるパラメータの値を排除し、且つ、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きが0になることを可能とするようにパラメータの値を求めるパラメータ制約部232を含む。
【0104】
これによれば、スリップ率が微小領域である場合の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、パラメータの値の候補から推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補を除外することができる。このため、スリップ演算部11が微小領域の値の算出スリップ率scしか算出できない場合であっても、タイヤブラシモデル式から得ることができる理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることができる。そして、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付けることが可能であるとして推定されたパラメータの値に基づいて精度良く推定摩擦最大値μpを算出することができる。
【0105】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0106】
(1)上記実施形態では、上記数式6に示したタイヤブラシモデル式において、当該タイヤブラシモデル式のパラメータは、数式6におけるHと、HKと、HK2とで示されている。そして、パラメータ制約部232は、パラメータにおいて上記数式9の関係が成立するようにパラメータの値を制約する。
【0107】
ここで、推定摩擦最大値μpは、数式11に示すように、数式6におけるパラメータであるHおよびHKに基づいて算出することができる。このため、上記数式6におけるパラメータのH、HK、HK2が数式9とは異なる関係式で規定される場合に比較して、推定摩擦最大値μpを算出し易くできる。
【0108】
(2)上記実施形態では、パラメータ推定部23は、算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcそれぞれに関するモデル誤差μerrの情報を取得して、取得したモデル誤差μerrの情報を10個だけ記憶する誤差記憶部231を有する。そして、パラメータ推定部23は、誤差記憶部231に記憶された複数のモデル誤差μerrの情報を用いてタイヤブラシモデル式のパラメータの値を推定する。
【0109】
誤差記憶部231は、算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcそれぞれに関するモデル誤差μerrの情報を1つ取得する度に、記憶したモデル誤差μerrの情報を1つ更新する。
【0110】
これによれば、パラメータ推定部23は、タイヤブラシモデル式のパラメータの値を推定する際に、更新されたモデル誤差μerrの情報以外のモデル誤差μerrの情報を用いてパラメータの値を推定することができる。このため、パラメータの値を推定する際に用いるモデル誤差μerr全ての情報を都度更新させて推定する場合に比較して、パラメータ推定部23の消費電力を抑制することができるとともに、パラメータの値を推定する際の処理速度を速くすることができる。
【0111】
(第1実施形態の変形例)
上述の第1実施形態では、誤差記憶部231が誤差演算部22からモデル誤差μerrの情報を1つ取得する度に、パラメータ推定部23がタイヤブラシモデル式のパラメータの値を推定する例について説明したが、これに限定されない。例えば、パラメータ推定部23は、誤差記憶部231が誤差演算部22からモデル誤差μerrの情報を複数(例えば2つ)取得する度に、タイヤブラシモデル式のパラメータの値を推定する構成であってもよい。
【0112】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図12~
図17を参照して説明する。本実施形態では、演算部10が算出記憶部13と、算出判定部14とを有する点が第1実施形態と相違しており、また、演算部10が実行する制御処理の一部が第1実施形態と相違している。これ以外は、第1実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、第1実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0113】
図12に示すように、演算部10は、スリップ演算部11および摩擦演算部12に加えて、算出記憶部13と、算出判定部14とを有する。
【0114】
算出記憶部13は、スリップ演算部11が算出した算出スリップ率scの情報および摩擦演算部12が算出した算出摩擦係数μcの情報を記憶するものである。算出記憶部13は、同じ制御周期で算出された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を紐づけて記憶する。
【0115】
算出記憶部13は、予め定められた所定の数の算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を記憶する。本実施形態の算出記憶部13は、例えば、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報をそれぞれ10個ずつ紐づけた状態で記憶可能に構成されている。なお、算出記憶部13は、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を10個より少ない数だけ記憶可能に構成されていてもよいし、10個より多い数だけ記憶可能に構成されていてもよい。
【0116】
算出判定部14は、スリップ演算部11が算出した算出スリップ率scおよび摩擦演算部12が算出した算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定するものである。算出判定部14は、算出記憶部13に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報に基づいて、スリップ演算部11が算出する算出スリップ率scおよび摩擦演算部12が算出する算出摩擦係数μcが正常か否かを判定する。
【0117】
続いて、算出記憶部13が実行する制御処理について、
図13を参照して説明する。算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率s
cの情報が入力されるとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μ
cの情報が入力される度に
図13に示す処理を繰り返し実行する。
【0118】
まず、ステップS70において、算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率scの情報を取得するとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μcの情報を取得する。そして、スリップ演算部11から算出スリップ率scの情報を取得し、摩擦演算部12から算出摩擦係数μcの情報を取得すると、ステップS72において、算出記憶部13は、入力された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を記憶する。算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を記憶する際、スリップ演算部11は、同じ制御周期で算出された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を紐づけて記憶する。
【0119】
そして、ステップS74において、算出記憶部13は、自身に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が予め定められた所定の数以上であるか否かを判定する。ここで、本実施形態の算出記憶部13は、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報をそれぞれ10個ずつ記憶可能に構成されている。このため、ステップS74において、算出記憶部13は、自身に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が10個以上であるか否かを判定する。算出記憶部13は、自身に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が10個以上になるまでステップS70およびステップS72の処理を繰り返し実行する。
【0120】
本実施形態の算出記憶部13は、
図14に示すように、10個の算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が紐づけられた状態で記憶される第1番地M1~第10番地M10を有する。算出記憶部13は、算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が入力されると、入力された順に第1番地M1~第10番地M10に算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を記憶していく。すなわち、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10に時系列順に算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を記憶していく。
【0121】
本実施形態の算出記憶部13は、第1番地M1に最も古い算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が入力される。そして、第1番地M1から第10番地M10に向かうにしたがい、新しい算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が入力されるように構成されている。
【0122】
記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が10個以上であると判定すると、ステップS76において、算出記憶部13は、10個の算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報それぞれを算出判定部14に一括送信する。そして、ステップS78において、算出記憶部13は、送信した10個の算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報それぞれを一括消去する。
【0123】
続いて、算出判定部14が実行する制御処理について、
図15を参照して説明する。算出判定部14は、算出記憶部13から10個の算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報それぞれが入力される度に
図15に示す処理を繰り返し実行する。
【0124】
算出記憶部13から10個の算出スリップ率scの情報が入力されると、ステップS80において、算出判定部14は、10個の算出スリップ率scの平均値である平均スリップ率saveを算出する。
【0125】
ステップS81において、算出判定部14は、10個の算出スリップ率scそれぞれと平均スリップ率saveとの差分値である平均スリップ率誤差savearrを10個算出する。平均スリップ率誤差savearrは、平均スリップ率saveから10個の算出スリップ率scそれぞれを減算して得られる値であって、絶対値として算出される。
【0126】
ステップS82において、算出判定部14は、算出した10個の平均スリップ率誤差savearrそれぞれに基づいて、10個の算出スリップ率scそれぞれが正常であるか否かを判定する。具体的に、算出判定部14は、算出した10個の平均スリップ率誤差savearrそれぞれがスリップ率閾値sth以下であるか否かを判定する。
【0127】
算出判定部14は、算出した平均スリップ率誤差savearrがスリップ率閾値sth以下である場合、スリップ率閾値sth以下であると判定された平均スリップ率誤差savearrに対応する算出スリップ率scが正常であると判定する。これに対して、算出判定部14は、算出した平均スリップ率誤差savearrがスリップ率閾値sth以下でない場合、スリップ率閾値sth以下でないと判定された平均スリップ率誤差savearrに対応する算出スリップ率scが異常であると判定する。
【0128】
スリップ率閾値sthは、所定の制御周期で検出部Sから検出した情報に基づいて複数の算出スリップ率scを算出した場合に許容可能な算出スリップ率scの変化量の予測最大値である。スリップ率閾値sthは、算出判定部14に予め設定されており、例えば、予め行われる実験等によって得ることができる。
【0129】
ステップS83において、算出判定部14は、10個の算出スリップ率scのうち平均スリップ率誤差savearrがスリップ率閾値sth以下でないと判定した算出スリップ率scおよび該算出スリップ率scに紐づけされた算出摩擦係数μcの情報を消去する。
【0130】
10個全ての算出スリップ率scが異常であると判定される場合、算出判定部14は、算出記憶部13に記憶された10個全ての算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcの情報を消去する。これに対して、10個の算出スリップ率scの少なくとも1つが正常であると判定される場合、ステップS84において、算出判定部14は、10個の算出摩擦係数μcの平均値である平均摩擦係数μaveを算出する。
【0131】
ステップS85において、算出判定部14は、異常と判定されなかった算出スリップ率scに紐づけられた算出摩擦係数μcそれぞれと平均摩擦係数μaveとの差分値である平均摩擦係数誤差μavearrを算出する。平均摩擦係数誤差μavearrは、平均摩擦係数μaveから算出摩擦係数μcそれぞれを減算して得られる値であって、絶対値として算出される。
【0132】
ステップS86において、算出判定部14は、算出した1個または複数の平均摩擦係数誤差μavearrそれぞれに基づいて、異常と判定されなかった算出スリップ率scに紐づけられた算出摩擦係数μcそれぞれが正常であるか否かを判定する。具体的に、算出判定部14は、算出した平均摩擦係数誤差μavearrそれぞれが摩擦係数閾値μth以下であるか否かを判定する。
【0133】
算出判定部14は、算出した平均摩擦係数誤差μavearrが摩擦係数閾値μth以下である場合、摩擦係数閾値μth以下であると判定された平均摩擦係数誤差μavearrに対応する算出摩擦係数μcが正常であると判定する。これに対して、算出判定部14は、算出した平均摩擦係数誤差μavearrが摩擦係数閾値μth以下でない場合、摩擦係数閾値μth以下でないと判定された平均摩擦係数誤差μavearrに対応する算出摩擦係数μcが異常であると判定する。
【0134】
摩擦係数閾値μthは、所定の制御周期で検出部Sから検出した情報に基づいて複数の算出摩擦係数μcを算出した場合に許容可能な算出摩擦係数μcの変化量の予測最大値である。摩擦係数閾値μthは、算出判定部14に予め設定されており、例えば、予め行われる実験等によって得ることができる。
【0135】
ステップS83において、算出判定部14は、異常と判定されなかった算出スリップ率scに紐づけられた算出摩擦係数μcのうち、平均摩擦係数誤差μavearrが摩擦係数閾値μth以下でないと判定した算出摩擦係数μcおよび当該算出摩擦係数μcに紐づけされた算出スリップ率scの情報を消去する。
【0136】
これにより、例えば、算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cの経時変化を
図16のように示した際に、算出摩擦係数μ
cの移動平均ALより大きく乖離する算出摩擦係数μ
cを外れ値として判定することができる。そして、外れ値である算出摩擦係数μ
cの情報を消去するとともに、当該算出摩擦係数μ
cに紐づけられた算出スリップ率s
cの情報を消去することができる。
【0137】
なお、図示しないが、算出スリップ率scの移動平均より大きく乖離する算出スリップ率scが存在する場合、当該算出スリップ率scを外れ値として判定することもできる。そして、外れ値である算出スリップ率scの情報を消去するとともに、当該算出スリップ率scに紐づけられた算出摩擦係数μcの情報を消去することができる。
【0138】
ステップS87において、算出判定部14は、ステップS83で消去されなかった算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を最大摩擦推定部20に送信する。具体的に、算出判定部14は、算出記憶部13から取得した10個の算出スリップ率s
cのうち、ステップS83で消去された算出スリップ率s
cの情報を除く算出スリップ率s
cの情報をモデル演算部21に送信する。また、算出判定部14は、算出記憶部13から取得した10個の算出摩擦係数μ
cのうち、ステップS83で消去された算出摩擦係数μ
cの情報を除く算出摩擦係数μ
cの情報を誤差演算部22に送信する。そして、最大摩擦推定部20は、入力された算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報に基づいて、
図7~
図10に示す処理を実行することで推定摩擦最大値μ
pを算出する。
【0139】
以上の如く、本実施形態の演算部10は、算出摩擦係数μcの情報および算出摩擦係数μcの情報をそれぞれ10ずつ個記憶する算出記憶部13を有する。また、演算部10は、算出記憶部13に記憶された算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcそれぞれが正常であるか否かを判定する算出判定部14と、を有する。
【0140】
パラメータ推定部23は、算出判定部14によって正常と判定された算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcに基づいて、タイヤブラシモデル式のパラメータの値を推定する。
【0141】
これによれば、算出判定部14は、算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cが車両の振動等に起因するノイズによって異常となる場合に、当該算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cを異常として判定することができる。そして、算出判定部14は、正常である算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報のみを最大摩擦推定部20に送信する。このため、
図17に示すように、理論特性Thを求める際に、外れ値を含めずに理論特性Thを求めることができる。したがって、理論特性Thに基づいて推定摩擦最大値μ
pを算出する際に、精度よく推定摩擦最大値μ
pを算出することができる。
【0142】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0143】
(1)上記実施形態では、算出判定部14は、平均スリップ率誤差savearrとスリップ率閾値sthとの差に基づいて、算出記憶部13に記憶された算出スリップ率scが正常であるか否かを判定する。また、算出判定部14は、平均摩擦係数誤差μavearrと摩擦係数閾値μthとの差に基づいて、算出記憶部13に記憶された算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定する。
【0144】
これによれば、簡易に算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定することができる。
【0145】
(第2実施形態の変形例)
上述の第2実施形態では、算出判定部14は、平均スリップ率誤差savearrとスリップ率閾値sthとの差に基づいて、算出スリップ率scが正常であるか否かを判定する。また、算出判定部14は、平均摩擦係数誤差μavearrと摩擦係数閾値μthとの差に基づいて、算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定する。しかし、算出スリップ率scが正常であるか否かを判定する方法および算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定する方法はこれに限定されない。
【0146】
例えば、算出判定部14は、移動平均を用いて算出スリップ率scおよび算出摩擦係数μcが正常であるか否かを判定してもよい。
【0147】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、
図18~
図23を参照して説明する。本実施形態では、演算部10が算出記憶部13を有していない点が第2実施形態と相違しており、また、演算部10が実行する制御処理の一部が第2実施形態と相違している。これ以外は、第2実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第2実施形態と異なる部分について主に説明し、第2実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0148】
図18に示すように、演算部10は、算出判定部14を備えていない。そして、算出記憶部13は、第2実施形態と同様、同じ制御周期で算出された算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報をそれぞれ10個ずつ紐づけて第1番地M1~第10番地M10に記憶する。
【0149】
ただし、本実施形態の算出記憶部13は、
図19に示すように、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶される算出スリップ率s
cの情報が算出スリップ率s
cの値に基づいて、定められている。すなわち、算出記憶部13の第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶される算出スリップ率s
cの情報は、その記憶される算出スリップ率s
cの値によって定められている。
【0150】
そして、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶される算出スリップ率scの値は、所定の範囲を有する。本実施形態では、第1番地M1~第10番地M10に、算出スリップ率scの値が0.0から0.1までの範囲の算出スリップ率scの情報が記憶されるように設定されている。そして、第1番地M1~第10番地M10それぞれには、0.0から0.1まで範囲の算出スリップ率scの値を10個に当分割した領域毎の算出スリップ率scの情報が記憶されるように設定されている。換言すれば、第1番地M1~第10番地M10に記憶される算出スリップ率scの情報は、0.0から0.1までの範囲の算出スリップ率scの値において、互いに同じ範囲を有する10個の領域のいずれかが記憶されるように設定されている。
【0151】
例えば、第1番地M1には、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0以上0.01未満であった場合の算出スリップ率scの情報が記憶される。また、第2番地M2には、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0.01以上0.02未満であった場合の算出スリップ率scの情報が記憶される。また、第9番地M9には、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0.08以上0.09未満であった場合の算出スリップ率scの情報が記憶される。そして、第10番地M10には、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0.09以上0.1以下であった場合の算出スリップ率scの情報が記憶される。なお、第3番地~第8番地M8に入力される算出スリップ率scの値の詳細は記載しないが、第1番地M1等と同様、0.01毎の範囲を有する算出スリップ率scの情報が記憶される。
【0152】
このように、第1番地M1~第10番地M10のそれぞれは、記憶される算出スリップ率scの値が互いに異なるように予め定められている。なお、第1番地M1~第10番地M10に記憶される算出スリップ率scの情報は、0.0から0.1まで範囲の算出スリップ率scに限定されない。例えば、第1番地M1~第10番地M10に記憶される算出スリップ率scの情報は、0.0から0.1までの範囲より狭い範囲(例えば、0.0から0.08までの範囲)であってもよい。また、第1番地M1~第10番地M10に記憶される算出スリップ率scの情報は、0.0から0.1までの範囲より広い範囲(例えば、0.0から0.15まで範囲)であってもよい。
【0153】
また、第1番地M1~第10番地M10に記憶される算出スリップ率scの値の範囲は、互いに異なって設定されていてもよい。例えば、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶される算出スリップ率scの値の範囲は、第1番地M1~第10番地M10の順に広くなるように設定されてもよい。また、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶される算出スリップ率scの値の範囲は、第1番地M1~第10番地M10の順に狭くなるように設定されてもよい。
【0154】
続いて、算出記憶部13が実行する制御処理について、
図20を参照して説明する。算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率s
cの情報が入力されるとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μ
cの情報が入力される度に
図20に示す処理を繰り返し実行する。
【0155】
まず、ステップS70において、算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率scの情報を取得するとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μcの情報を取得する。そして、ステップS71において、算出記憶部13は、スリップ演算部11から取得した算出スリップ率scの値に基づいて、第1番地M1~第10番地M10のうち取得した算出スリップ率scに対応する番地を検出する。
【0156】
例えば、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0.005であった場合、算出記憶部13は、対応する番地を第1番地M1として検出する。また、スリップ演算部11から入力される算出スリップ率scの値が0.085であった場合、算出記憶部13は、対応する番地を第9番地M9として検出する。
【0157】
そして、ステップS73において、算出記憶部13は、スリップ演算部11から取得した算出スリップ率scの情報を対応する番地に記憶する。また、算出記憶部13は、当該算出スリップ率scと同じ制御周期で算出された算出摩擦係数μcの情報を、算出スリップ率scの情報を記憶した番地と同じ番地に記憶する。これにより、同じ制御周期で算出された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が紐づけされて同じ番地に記憶される。
【0158】
また、算出記憶部13は、ステップS73において算出スリップ率scの情報を対応する番地に記憶する際、記憶しようとする番地に算出スリップ率scの情報が既に記憶されている場合、記憶されている古い算出スリップ率scの情報を消去して記憶する。すなわち、算出記憶部13は、記憶しようとする番地に過去の制御周期で取得された算出スリップ率scの情報が既に記憶されている場合、算出スリップ率scの情報を新たに所得した算出スリップ率scの情報に更新する。
【0159】
算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率s
cの情報が入力される度に
図20に示す処理を繰り返すことで、第1番地M1~第10番地M10のうち、対応する番地に算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を記憶していく。これにより、予め定められた算出スリップ率s
cの領域毎に、算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が算出記憶部13に記憶される。
【0160】
ステップS76において、算出記憶部13は、記憶した算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を最大摩擦推定部20に送信する。具体的に、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶された算出スリップ率s
cの情報をモデル演算部21に送信する。また、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶された算出摩擦係数μ
cの情報を誤差演算部22に送信する。そして、最大摩擦推定部20は、入力された算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報に基づいて、
図7~
図10に示す処理を実行することで推定摩擦最大値μ
pを算出する。
【0161】
ところで、車両の運転開始直後等、
図20に示す制御処理が充分な数だけ実行されておらず、第1番地M1~第10番地M10の全てに算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が記憶されていない場合がある。このような場合であっても、最大摩擦推定部20は、算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が記憶されている番地の情報に基づいて
図7~
図10に示す処理を実行することで推定摩擦最大値μ
pを算出してもよい。
【0162】
また、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が所定期間更新されない場合、その算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を消去してもよい。例えば、第1番地M1に算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が記憶後、所定時間経過しても情報が更新されない場合、所定時間経過後に第1番地M1に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を消去してもよい。または、第1番地M1に算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が更新されない場合、所定の制御周期の数だけ制御処理を行った後に第1番地M1に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を消去してもよい。
【0163】
このように算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を消去することで、実際の路面の状態と過去の路面の状態とが異なる場合に、これら過去の情報に基づいて推定摩擦最大値μpが算出されることを回避することができる。
【0164】
以上の如く、本実施形態の演算部10は、算出摩擦係数μcの情報および算出摩擦係数μcの情報をそれぞれ10ずつ個記憶する算出記憶部13を有する。
【0165】
算出記憶部13は、算出スリップ率scの大きさに対応する第1番地M1~第10番地M10を有する。そして、算出記憶部13は、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を、第1番地M1~第10番地のうち、算出スリップ率scの大きさに基づいて予め定められた番地に記憶する。
【0166】
これによれば、算出記憶部13は、予め定められた算出スリップ率scの領域毎に算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を記憶することができる。このため、理論特性Thを求める際に、各領域の算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報に基づいて、理論特性Thを得ることができる。したがって、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付け易くできる。
【0167】
ここで、
図21に示すように、比較的近い値の算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が繰り返し算出記憶部13に入力される場合の理論特性Thの求め方について検討する。このような場合、算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を入力された順に第1番地M1~第10番地M10に記憶すると、
図22の一点鎖線に示す理論特性Thのように、理論特性Thが摩擦-スリップ特性FSから乖離する可能性が有る。
【0168】
これは、1つの領域において複数の算出スリップ率s
cの値が集中して検出されるとともに、その他の領域の算出スリップ率s
cの値が検出されていない状態で理論特性Thを求めるためである。このような場合、最大摩擦推定部20がタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、これら集中する算出スリップ率s
cの値の近似値を通過する三次関数には、推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない候補が含まれる。すると、
図21の一点鎖線に示す理論特性Thのように、理論特性Thが摩擦-スリップ特性FSから乖離することが有る。
【0169】
これに対して、本実施形態によれば、算出記憶部13は、予め定められた算出スリップ率scの領域毎に算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を記憶する。そして、所定の領域に算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が記憶された状態で新しい算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が入力された場合、それらの情報は更新される。また、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が入力されない領域においては、以前に入力された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が維持される。
【0170】
このため、比較的近い値の算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が繰り返し算出記憶部13に入力される場合であっても、
図23に示すように、1つの領域において複数の算出スリップ率s
cの値が集中して検出されることが回避される。また、その他の領域の算出スリップ率s
cの値が入力されていない状態が回避される。
【0171】
したがって、最大摩擦推定部20がタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補が含まれることを抑制できる。そして、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付け易くできる。
【0172】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、
図24~
図30を参照して説明する。本実施形態では、演算部10がデータ補完部15を有する点が第3実施形態と相違しており、また、演算部10が実行する制御処理の一部が第3実施形態と相違している。これ以外は、第3実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第3実施形態と異なる部分について主に説明し、第3実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0173】
図15に示すように、本実施形態の演算部10は、データ補完部15を有する。データ補完部15は、算出記憶部13の第1番地M1~第10番地M10のうち、算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が記憶されていない番地に記憶させるスリップ率および摩擦係数の推定値を算出するものである。
【0174】
例えば、
図25に示すように、算出記憶部13の第1番地M1~第10番地M10のうち、第2番地M2に算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が記憶されていないとする。そして、算出記憶部13の第1番地M1~第10番地M10のうち、第2番地M2以外の番地に算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報が記憶されているとする。このような場合に、データ補完部15は、第2番地M2以外の番地に記憶されている算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報に基づいて、第2番地M2に推定した算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報を記憶させる。
【0175】
なお、
図25において、算出記憶部13に記憶されている算出摩擦係数μ
cの情報を黒丸で示し、算出記憶部13に記憶されていない算出摩擦係数μ
cの情報を白丸で示している。
【0176】
以下、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が記憶されている番地を情報登録番地、算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報が記憶されていない番地を情報未登録番地と呼ぶ。また、情報未登録番地に記憶させるスリップ率の推定値を推定スリップ率se、情報未登録番地に記憶させる摩擦係数の推定値を推定摩擦係数μeとも呼ぶ。
【0177】
本実施形態のデータ補完部15は、情報未登録番地の推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを近似曲線によって求める。具体的に、データ補完部15は、線形近似によって情報未登録番地の推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求めてもよい。例えば、第1番地M1および第3番地M3が情報登録番地であって、第2番地M2が情報未登録番地である場合の推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求め方について説明する。
【0178】
ここで、
図25に示すように、情報未登録番地である第2番地M2に互いに隣り合う第1番地M1および第3番地M3それぞれに記憶されている算出スリップ率s
cの値を通る仮想の線を仮想線CLとする。データ補完部15は、第2番地M2に含まれる0.01以上0.02未満のスリップ率の値のうち、仮想線CL上位置付けられる値を推定スリップ率s
eとして算出する。また、データ補完部15は、このように求められた推定スリップ率s
eに対応する摩擦係数の値を推定摩擦係数μ
eとして算出する。これによれば、データ補完部15は、情報未登録番地に記憶させる推定スリップ率s
eおよび推定摩擦係数μ
eを、当該情報未登録番地に互いに隣り合う情報登録番地に記憶された算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cに基づいて算出することができる。
【0179】
なお、データ補完部15が推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを算出する方法は、線形近似以外の方法であってもよい。例えば、データ補完部15は、対数近似によって推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求めてもよい。また、データ補完部15は、移動平均によって推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求めてもよい。
【0180】
続いて、算出記憶部13およびデータ補完部15それぞれが実行する制御処理について、
図26および
図27を参照して説明する。算出記憶部13は、スリップ演算部11から算出スリップ率s
cの情報が入力されるとともに、摩擦演算部12から算出摩擦係数μ
cの情報が入力される度に
図26に示す処理を繰り返し実行する。なお、
図26に示すステップS70、ステップS71およびステップS73の処理は、第3実施形態の
図20を参照して説明した各ステップの処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0181】
ステップS73で算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報を紐づけて対応する番地に記憶した後、ステップS731において、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10に情報未登録番地があるか否かを判定する。第1番地M1~第10番地M10に情報未登録番地があると判定しない場合、ステップS732およびステップS733の処理をスキップする。
【0182】
これに対して、第1番地M1~第10番地M10に情報未登録番地があると判定する場合、ステップS732において、算出記憶部13は、推定スリップ率seの情報および推定摩擦係数μeの情報を要求するための信号をデータ補完部15へ送信する。さらに、算出記憶部13は、情報登録番地に記憶されている算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報と、第1番地M1~第10番地M10それぞれが情報登録番地であるか情報未登録番地であるかの情報をデータ補完部15へ送信する。
【0183】
また、
図27に示すように、データ補完部15は、ステップS90において、算出記憶部13から送信される推定スリップ率s
eの情報および推定摩擦係数μ
eの情報を要求する信号を受信したか否かを判定する。データ補完部15は、ステップS90において、算出記憶部13から送信される推定スリップ率s
eの情報および推定摩擦係数μ
eの情報を要求する信号を受信するまで待機する。
【0184】
データ補完部15は、当該要求信号を受信すると、ステップS92において、情報未登録番地に記憶させるための推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを近似曲線によって求める。具体的に、データ補完部15は、情報登録番地に記憶されている算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報に基づいて、線形近似によって推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求める。データ補完部15は、第1番地M1~第10番地M10のうち、複数の番地が情報未登録番地である場合、これら複数の情報未登録番地それぞれに記憶させる推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求める。
【0185】
そして、ステップS94において、データ補完部15は、算出した推定スリップ率seの情報および推定摩擦係数μeの情報を算出記憶部13に送信する。
【0186】
図26に戻り、算出記憶部13は、ステップS733において、データ補完部15から送信される推定スリップ率s
eの情報および推定摩擦係数μ
eの情報を受信したか否かを判定する。算出記憶部13は、ステップS733において、データ補完部15から送信される推定スリップ率s
eの情報および推定摩擦係数μ
eの情報を受信するまで待機する。
【0187】
ステップS733において、データ補完部15から送信される推定スリップ率seの情報および推定摩擦係数μeの情報を受信したと判定する場合、ステップS77において、算出記憶部13は、当該推定スリップ率seの情報を対応する情報未登録番地に記憶する。また、算出記憶部13は、推定摩擦係数μeの情報を対応する情報未登録番地に記憶する。これにより、第1番地M1~第10番地M10それぞれには、算出スリップ率scの情報および推定スリップ率seの情報のうちいずれか一方が記憶されるとともに、算出摩擦係数μcの情報および推定摩擦係数μeの情報のうちいずれか一方が記憶される。そして、算出記憶部13は、ステップS79の処理に進む。
【0188】
ステップS79において、算出記憶部13は、第1番地M1~第10番地M10それぞれに記憶されたスリップ率の情報および摩擦係数の情報を最大摩擦推定部20に送信する。このスリップ率の情報には、ステップS731で第1番地M1~第10番地M10に情報未登録番地がある判定された場合、スリップ演算部11が算出した算出スリップ率scの情報に加えて、データ補完部15が推定した推定スリップ率seの情報が含まれる。また、摩擦係数の情報には、ステップS731で第1番地M1~第10番地M10に情報未登録番地がある判定された場合、摩擦演算部12が算出した算出摩擦係数μcの情報に加えて、データ補完部15が推定した推定摩擦係数μeの情報が含まれる。
【0189】
そして、最大摩擦推定部20は、入力された算出スリップ率s
c、推定スリップ率s
e、算出摩擦係数μ
c、推定摩擦係数μ
eそれぞれの情報に基づいて、
図7~
図10に示す処理を実行することで推定摩擦最大値μ
pを算出する。
【0190】
以上の如く、本実施形態の制御装置1は、演算部10は、第1番地M1~第10番地M10のうち情報未登録番地に推定スリップ率seの情報および推定摩擦係数μeの情報を記憶させるデータ補完部15を有する。データ補完部15は、情報登録番地に記憶されている算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報に基づいて推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを推定する。
【0191】
これによれば、演算部10は、第1番地M1~第10番地M10のいずれかに情報未登録番地が存在する場合であっても、当該情報未登録番地に対応する推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求めることができる。このため、理論特性Thを求める際に、算出スリップ率sc、推定スリップ率se、算出摩擦係数μc、推定摩擦係数μeそれぞれの情報に基づいて、理論特性Thを得ることができる。したがって、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付け易くできる。
【0192】
ここで、
図28に示すように、算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cが階段状に上昇する場合の理論特性Thの求め方について検討する。このような場合、算出記憶部13には、第1番地M1~第10番地M10において情報登録番地と、情報未登録番地とが存在する虞がある。すると、情報登録番地に記憶されている算出スリップ率s
cの情報および算出摩擦係数μ
cの情報のみに基づいて理論特性Thを求める場合、
図29の一点鎖線に示す理論特性Thのように、理論特性Thが摩擦-スリップ特性FSから乖離する可能性が有る。
【0193】
これは、第1番地M1~第10番地M10のうち、複数の番地にスリップ率の情報および摩擦係数の情報が記憶され、その他の番地にスリップ率の情報および摩擦係数の情報が記憶されていない状態で理論特性Thを求めるためである。このような場合、最大摩擦推定部20がタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、これら集中する算出スリップ率s
cの値の近似値を通過する三次関数のグラフに推定摩擦最大値μ
pを精度良く算出することができない候補が含まれる。すると、
図29の破線に示す理論特性Thのように、理論特性Thが摩擦-スリップ特性FSから乖離することが有る。
【0194】
これに対して、本実施形態によれば、情報登録番地に記憶された算出スリップ率scの情報および算出摩擦係数μcの情報に基づいて情報未登録番地に対応する推定スリップ率seおよび推定摩擦係数μeを求めることができる。このため、第1番地M1~第10番地M10それぞれに、算出スリップ率scの情報および推定スリップ率seの情報のうちいずれか一方を記憶させるとともに、算出摩擦係数μcの情報および推定摩擦係数μeの情報のうちいずれを一方が記憶させることができる。
【0195】
したがって、階段状に上昇する算出スリップ率s
cおよび算出摩擦係数μ
cの値が検出される場合であっても、
図30に示すように、スリップ率の情報および摩擦係数の情報が記憶されない状態となることを回避することができる。そして、最大摩擦推定部20がタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、理論特性Thが集中する算出スリップ率s
cの値の近似値のみを通過する三次関数のグラフとなるパラメータの候補が含まれることを回避することができる。
【0196】
このため、最大摩擦推定部20がタイヤブラシモデル式のパラメータを推定する際に、推定摩擦最大値μpを精度良く算出することができない候補が含まれることを抑制できる。そして、理論特性Thを摩擦-スリップ特性FSに近付け易くできる。
【0197】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0198】
上述の実施形態では、摩擦係数演算装置が電気自動車の走行を制御する車両用制御システムに用いられ、車両を駆動させるためのモータの回転数等を制御するECUに含まれる例について説明したが、これに限定されない。
【0199】
例えば、摩擦係数演算装置は、車両の制動を制御するブレーキシステムに用いられ、ブレーキを制御するECUに含まれていてもよい。また、摩擦係数演算装置は、摩擦係数演算装置単体として用いられ、車両に設けられてもよい。この場合、摩擦係数演算装置は、CPU、ROMおよびRAM等のメモリを含んで構成されるマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。
【0200】
上述の実施形態では、パラメータ制約部232が、タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きが0になることを可能とするようにパラメータの値を求める例について説明したが、これに限定されない。タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを0に近付けることが可能であれば、パラメータ制約部232が制約するパラメータの値はタイヤブラシモデル式の変曲点の傾きが0にならなくてもよい。
【0201】
上述の実施形態では、スリップ率が0.1以下となる領域を微小領域として、当該微小領域におけるタイヤブラシモデル式を数式6等で示したが、これに限定されない。タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して充分小さいようなスリップ率の値であれば、スリップ率が0.1より大きい値を含む領域であっても、数式6等に示すタイヤブラシモデル式を採用することができる。
【0202】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0203】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0204】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0205】
(本発明の特徴)
[請求項1]
車両が路面を走行する際のタイヤに関する情報を検出する検出部(S)から送信される検出信号に基づいて、前記タイヤと前記路面との物理的現象をシミュレートするタイヤブラシモデルを用いて前記タイヤと前記路面との間の摩擦係数の推定の最大値である推定摩擦最大値(μp)を推定する摩擦係数演算装置であって、
前記検出信号に基づいて、前記タイヤと前記路面との間のスリップ率および前記タイヤと前記路面との間の摩擦係数を算出する演算部(10)と、
前記タイヤブラシモデルにおけるスリップ率と摩擦係数との関係を示す演算式であって、前記タイヤと前記路面との間のスリップ率が、前記タイヤが空転を開始するスリップ率に比較して小さい微小領域である場合の前記タイヤと前記路面との間の推定の摩擦係数を算出するためのタイヤブラシモデル式と、前記演算部が算出するスリップ率および摩擦係数と、を用いて前記推定摩擦最大値を算出する最大摩擦推定部(20)と、を備え、
前記演算部が算出するスリップ率を算出スリップ率(sc)とし、前記演算部が算出する摩擦係数を算出摩擦係数(μc)としたとき、
前記タイヤブラシモデル式は、前記タイヤブラシモデルのスリップ率に関する関数であって、前記タイヤブラシモデル式の傾きを変化させる複数のパラメータを有し、
前記最大摩擦推定部は、
前記タイヤブラシモデル式に前記算出スリップ率を代入して前記タイヤブラシモデルの摩擦係数であるタイヤモデル摩擦(μm)を算出するモデル演算部(21)と、
前記算出摩擦係数と前記タイヤモデル摩擦との差が小さくなるように前記パラメータの値を推定するパラメータ推定部(23)とを有し、
前記パラメータ推定部は、前記タイヤブラシモデル式が一次関数および二次関数となる前記パラメータの値を排除し、且つ、前記タイヤブラシモデル式の変曲点の傾きを0に近付けることを可能とする前記パラメータの値を求めるパラメータ制約部(232)を含む摩擦係数演算装置。
【0206】
[請求項2]
前記タイヤブラシモデル式は、下記数式1であって、
【数1】
前記パラメータは、前記数式1におけるHと、HKと、HK
2と、であって、
前記パラメータ制約部は、前記パラメータにおいて下記数式2の関係が成立するように前記パラメータの値を制約する請求項1に記載の摩擦係数演算装置。
【数2】
【0207】
[請求項3]
前記パラメータ推定部は、前記演算部が算出する前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を取得して、取得した情報を所定の数だけ記憶するパラメータ記憶部(231)を有し、前記パラメータ記憶部に記憶された複数の前記算出スリップ率および複数の前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を用いて前記パラメータの値を推定し、
前記パラメータ記憶部は、前記演算部から前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を取得する度に、取得した情報の数だけ、記憶した複数の前記算出スリップ率および複数の前記算出摩擦係数それぞれに関する情報を更新する請求項1または2に記載の摩擦係数演算装置。
【0208】
[請求項4]
前記演算部は、算出した前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を複数記憶する算出記憶部(13)と、前記算出記憶部に記憶された前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数の少なくとも一方が正常であるか否かを判定する算出判定部(14)と、を有し、
前記パラメータ推定部は、前記算出判定部によって正常と判定された前記算出スリップ率および前記算出摩擦係数に基づいて、前記パラメータの値を推定する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の摩擦係数演算装置。
【0209】
[請求項5]
前記算出判定部は、前記算出記憶部に記憶された複数の前記算出スリップ率の平均値と予め定められたスリップ率閾値との差に基づいて、前記算出記憶部に記憶された前記算出スリップ率が正常であるか否かを判定するとともに、前記算出記憶部に記憶された複数の前記算出摩擦係数の平均値と予め定められた摩擦係数閾値との差に基づいて、前記算出記憶部に記憶された前記算出摩擦係数が正常であるか否かを判定する請求項4に記載の摩擦係数演算装置。
【0210】
[請求項6]
前記演算部は、算出した前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を複数記憶する算出記憶部(13)を有し、
前記算出記憶部は、前記算出スリップ率の大きさに対応する複数の番地(M1~M10)を有し、前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報を、前記複数の番地のうち、前記算出スリップ率の大きさに基づいて予め定められた番地に記憶する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の摩擦係数演算装置。
【0211】
[請求項7]
前記演算部は、前記複数の番地のうち前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報が記憶されていない情報未登録番地に、推定したスリップ率の情報および推定した摩擦係数の情報を記憶させるデータ補完部(15)を有し、
前記データ補完部は、前記算出記憶部に記憶されている前記算出スリップ率の情報および前記算出摩擦係数の情報に基づいて前記情報未登録番地に記憶させるスリップ率および摩擦係数を推定する請求項6に記載の摩擦係数演算装置。
【符号の説明】
【0212】
10 演算部
20 最大摩擦推定部
21 モデル演算部
23 パラメータ推定部
232 パラメータ制約部
S 検出部
sc 算出スリップ率
μc 算出摩擦係数
μm タイヤモデル摩擦
μp 推定摩擦最大値
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
前記タイヤブラシモデル式は、下記数式1であって、
【数1】
前記パラメータは、数式1におけるHと、HKと、HK
2と、であって、
前記タイヤモデル摩擦は、数式1におけるμmであって、
前記タイヤと前記路面との間のスリップ率は、数式1におけるsであって、
数式1におけるFzは、前記タイヤに発生する垂直抗力であって、
前記パラメータ制約部は、前記パラメータにおいて下記数式2の関係が成立するように前記パラメータの値を制約する請求項1に記載の摩擦係数演算装置。
【数2】