(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018427
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】塗膜シート、塗膜シートの製造方法及び塗膜シートによる保護方法、断熱方法、遮熱方法、遮音方法、広告方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20240201BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240201BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240201BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240201BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121770
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】514007966
【氏名又は名称】合資会社GS工事
(71)【出願人】
【識別番号】522304556
【氏名又は名称】株式会社フューコム
(71)【出願人】
【識別番号】522304567
【氏名又は名称】株式会社 ジー・スタッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 明
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AR00B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA23A
4F100CC00A
4F100DE01A
4F100EH46A
4F100GB07
4F100GB41
4F100GB76
4F100HB00C
4F100JH01
4F100JJ02
4F100JK07A
4F100JK08B
4F100JK12A
4F100JN06A
4J038CG142
4J038HA006
4J038KA21
4J038NA13
4J038PB06
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 建築物やエアコン室外機の筐体等の保護等に適用できる塗膜シートを提供する。
【解決手段】 弾力性を有する第1の中空ビーズ2と、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズ3と、を含む塗膜形成材を、伸縮性を有する基礎材上に塗装し、塗膜層4と基礎層5を含む塗膜シートを得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、を含む塗膜層と、
伸縮性を有し、前記塗膜層の基礎となる基礎層と、
を含む塗膜シート。
【請求項2】
弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、前記各中空ビーズの隣接間隙よりも粒径の小さい反射材と、を含む塗料を、伸縮性を有するシートに塗布し、塗膜形成後の前記シートを塗膜シートとする塗膜シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の塗膜シート又は請求項2に記載の製造方法によって得られた塗膜シートを保護対象の所定面に貼り付けることで前記保護対象を保護する保護方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塗膜シート又は請求項2に記載の製造方法によって得られた塗膜シートを断熱対象の所定面に貼り付けることで前記断熱対象を断熱する断熱方法。
【請求項5】
請求項1に記載の塗膜シート又は請求項2に記載の製造方法によって得られた塗膜シートを遮熱対象の所定面に貼り付けることで前記遮熱対象を遮熱する遮熱方法。
【請求項6】
請求項1に記載の塗膜シート又は請求項2に記載の製造方法によって得られた塗膜シートを防音対象の所定面に貼り付けることで前記防音対象を防音する防音方法。
【請求項7】
請求項1に記載の塗膜シート又は請求項2に記載の製造方法によって得られた塗膜シートの塗膜層に広告情報を載せ、広告設置面に貼り付けることで広告する広告方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や空調(エアコン)室外機等の装置、その他ヘルメット等の装着物の保護、断熱、遮熱、防音等(以下、「保護等」と言う)に用いられる塗膜シート、塗膜シートの製造方法及び当該塗膜シートによる保護等の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物やエアコンの保護等を目的として、各種塗料が活用されることが増えてきた。例えば、断熱や遮熱を目的として、建築物の屋根や壁、エアコン室外機の筐体の表面等への断熱、遮熱塗装が挙げられる。
【0003】
しかしながら、塗膜の形成には一定の技術が求められるため、塗布者によっては、塗膜の品質が異なってくるという問題がある。また、塗膜の形成には時間がかかる、屋外においては天候等の環境影響を受ける等の問題もある。
【0004】
このような中、建築物やエアコン室外機等の保護等を目的とする技術として、透明熱線反射層を有する積層フィルムとポリカーボネートシートの積層体であって、該ポリカーボネートシート側に取り外し可能な(1)軟質発泡合成樹脂製の吸着シ-トまたは(2)両面粘着シ-トまたは(3)軟質合成樹脂製の吸着盤のいずれか一つを設けた、窓ガラス取り付け用紫外線遮断省エネシート(特許文献1)が挙げられる。塗膜層のシート化は、上記問題に対して有用な可能性がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように、主材料として軟質素材が用いられる場合、通常、塗料から所定以上の均等な厚みや強度を有する塗膜を実現することは困難である。そのため、気温等の外部環境が苛酷であると、塗膜が変形する等、保護等の目的を達成できないという問題が生じる。
【0006】
また、従来塗料によって伸縮性のある吸着シート等の表面に塗膜が形成された塗膜シートは、使用時(貼付時)には硬化して、本来の伸縮性が失われるという問題がある。これにより、保護等の対象表面が曲面等の場合に、曲面等の形状に適合させて貼り付けることが困難になる。
【0007】
このように、対象物への塗膜形成にあたっては、施工者の技能や天候等の施工環境、対象物の形状等に左右されない、一定品質の塗膜の提供が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、様々な対象物に対して、常に一定品質の塗膜を形成できる塗膜シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、を含む塗膜層と、伸縮性を有し、前記塗膜層の基礎となる基礎層と、を含む塗膜シートである。また、第2の発明は、弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、前記各中空ビーズの隣接間隙よりも粒径の小さい反射材と、を含む塗料を、伸縮性を有するシートに塗布し、塗膜形成後の前記シートを塗膜シートとする塗膜シートの製造方法である。また、第3の発明は、第1の発明の塗膜シート又は第2の発明の製造方法によって得られた塗膜シートトを保護対象の所定面に貼り付けることで前記保護対象を保護する保護方法である。また、第4の発明は、第1の発明の塗膜シート又は第2の発明の製造方法によって得られた塗膜シートを断熱対象の所定面に貼り付けることで前記断熱対象を断熱する断熱方法である。また、第5の発明は、第1の発明の塗膜シート又は第2の発明の製造方法によって得られた塗膜シートを遮熱対象の所定面に貼り付けることで前記遮熱対象を遮熱する遮熱方法である。また、第6の発明は、第1の発明の塗膜シート又は第2の発明の製造方法によって得られた塗膜シートを防音対象の所定面に貼り付けることで前記防音対象を防音する防音方法である。また、第7の発明は、第1の発明の塗膜シート又は第2の発明の製造方法によって得られた塗膜シートの塗膜層に広告情報を載せ、広告設置面に貼り付けることで広告する広告方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塗膜シートは、塗膜中において、弾力性を有する第1の中空ビーズと、これより硬質な素材の第2の中空ビーズを含むため、中空ビーズ同士が接触しても壊れることなく塗膜層を形成し、これを維持する効果が期待できる。また、これによってできた中空ビーズの密な構造は、弾性を維持しつつ、塗膜層を保護等の目的に応じた所望の厚さになることが期待できる。また、本発明に係る塗膜シートは、伸縮性を有する基礎材に上記塗膜が形成されるため、シート全体として所定の伸縮性を有し、様々な形状面への適用が期待できる。また、本発明に係る塗膜シートを製造するための塗料には、前記中空ビーズの隣接間隙よりも粒径が小さい反射材が含まれることにより、塗膜形成過程で反射材が塗膜中の水分によって塗膜表面に押し出され、日光の反射層を形成する効果が期待できる。このように、本発明に係る塗膜シートは、対象を保護すること、断熱すること、遮熱すること、防音すること等、目的に応じた利用が期待できる。また、本発明に係る塗膜シートは、その第1の中空ビーズと第2の中空ビーズの隣接関係により、収縮や伸長による塗膜表面のしわやハリを和らげる効果が期待でき、塗膜表面を印字面として、変形等の影響を受けにくい広告媒体として利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】塗膜シートの概念の一例を示す模式図である。
【
図2】塗膜シート(印刷後)の一例を示す図である。
【
図3】ヘルメット用の塗膜シートの各パーツを示す図である。
【
図4】ヘルメットと塗膜シートの貼付位置の関係図である。
【
図5】塗膜シート貼り付け後のヘルメットの状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0014】
<塗料>
図1が示すように、本実施形態に係る塗膜シート1は、弾力性を有する素材の中空ビーズ2(第1の中空ビーズ)と、これより硬質な素材の中空ビーズ3(第2の中空ビーズ)と、を含む水性系又は溶剤系の塗料によって形成された塗膜層4と、塗膜層4の基礎となる伸縮性のある基礎層5を有する。
図1は、塗膜層4の中に弾力性を有する素材と硬質素材からなる複数種の中空ビーズが含まれることと、各種類の中空ビーズの粒径には幅があることを示すイメージ図である。また、
図1には記載されていないが、本発明に係る塗膜シート1は、日光の反射層を塗膜表面に形成するための反射材や、塗膜層4と基礎層5の付着性を強化するための下地調整剤や、塗膜層4の表面の艶仕上げ、防汚等のコーティング剤等が使用されるものでもよい。
【0015】
塗膜層4を形成する塗料の主成分としては、例えば、アクリルエマルジョン樹脂が挙げられる。また、塗料は、アクリル系以外にウレタン系、シリコン系、フッ素系成分を主成分とするものでもよい。
【0016】
弾力性を有する第1の中空ビーズ2の素材としては、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック、ゴム等のエラストラマが挙げられる。また、弾力性を有する中空ビーズ2は、塗膜層4の主成分と同じ素材が好ましく、例えば、塗膜層4の主成分がアクリルエマルジョン樹脂の場合、アクリル中空ビーズであることが好ましい。本実施例では、アクリル中空ビーズが用いられた。
【0017】
硬質の中空ビーズ3の素材としては、例えば、セラミック中空ビーズ、ガラス中空ビーズが挙げられる。また、セラミック中空ビーズとして、二酸化ケイ素65~73%、酸化アルミニウム12~18%を主成分とする火山灰を原料とするものが挙げられる。本実施例では、セラミック中空ビーズが用いられた。
【0018】
第1の中空ビーズ2と第2の中空ビーズ3との割合は、重量ベースで1対1付近であればよい。第1の中空ビーズ2の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、塗膜の柔軟性が高くなるが、1回の塗布による塗膜の厚みが十分取れない。一方、第2の中空ビーズ3の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、1回の塗布による塗膜の厚みが厚くなるが、塗膜の柔軟性が損なわれる。
【0019】
このように中空ビーズに、弾力性を有する素材と硬質素材が用いられるのは、中空ビーズが隣接しても壊れず、密で厚みを有する塗膜を実現し、そのような塗膜が有する効果(保護効果、断熱効果、遮熱効果、防音効果、制振効果等)を活かすためである。なお、本実施例では、各粒径のアクリル中空ビーズ及びセラミック中空ビーズは、重量ベースで概ね1対1の割合である。
【0020】
ここで、中空ビーズとは、ビーズ内部に空隙、空間を有する粒子のことであり、ビーズ内外で空気が遮断された閉系、多孔構造やドーナツ構造等、ビーズ内外が通じた開放系のいずれであってもよい。
【0021】
第1の中空ビーズ2および第2の中空ビーズ3等の中空ビーズの粒径分布は、所定の広がり(例えば、粒径80μmから50μmまでの広がり)を有することが好ましい。粒径分布に所定の広がりがあることで、塗膜層4から水等の溶媒が揮発して塗膜が形成された際、最大粒径の中空ビーズ同士の間に、小さい粒径の中空ビーズが入り込むことにより、中空ビーズがより稠密になる。なお、中空ビーズの最大粒径は、中空ビーズのフィルタリングに使用されるフィルタの目の粗さ、メッシュサイズ等により規定されてもよい。
【0022】
中空ビーズは、いずれの成分においても3つの粒径のラインナップ(粒径ラインナップ)からなる。ここで、粒径ラインナップとは、中空ビーズの粒径が意図する複数の分布ピークを有することを意味するものである。本実施例では、各素材の中空ビーズは、粒径80μm、60μm、50μmに中空率(粒径ごとの中空部分の体積の総和が塗膜中に占める割合)のピークを有し、重量比は、概ね5対3対2である。
【0023】
本実施例では、80μmの中空ビーズが体積、重量ともに最大である。また、各粒径の中空ビーズの膜厚は約1μmから数μmであり、一般的にビーズ内の中空部分の体積はビーズの80%以上である。
【0024】
中空ビーズの粒径分布の確認方法は様々である。例えば、塗膜断面の拡大画像の中空ビーズの面積から粒子径と粒子数を測定する方法がある。また、個々の粒子の体積を計測して相当する粒径を測定するコールター法、その他、いわゆる遠心沈降法、レーザ回折・散乱法等がある。なお、中空ビーズは非常に微細であることから、正確な粒径の中空ビーズの製造は技術的に困難である。そのため、製造誤差を前提に粒径分布が確認されるべきである。例えば、80μmから±5μmの粒径の全ての中空ビーズは、80μmの粒径の中空ビーズとしてカウントされる方法が挙げられる。
【0025】
塗膜中の中空ビーズの密度は、第2の中空ビーズによって第1の中空ビーズに多少の応力がかかる程度が好ましい。このような密度レベルの塗膜から保護効果、断熱効果、遮熱効果、防音効果、制振効果等が得られる。具体的には、第1の中空ビーズ2と第2の中空ビーズ3を含む塗膜層4が外部からの圧力、熱、音等を遮断、低減する。
【0026】
また、第1の中空ビーズ2及び第2の中空ビーズ3等の中空ビーズの形状は、球形状が好ましいが、球形状でなくてもよい。中空ビーズが、破片のような歪な形で、球形でない場合の粒径は、当該形状の最大幅と最小幅の平均又は最大幅や最小幅でもよい。
【0027】
反射材は、所定の反射率が実現できるものであればどのようなものでもよい。反射材は、光(日射)を光源方向に反射する素材を意味する。反射率は、例えば、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率で表され、素材の種類や使用量等によって反射率は異なってくる。上記の中空ビーズ素材は、反射材になり得るものである。反射材は、塗膜形成後に、コーティング剤等とともに用いられてもよいし、あらかじめ塗料に含有されるものでもよい。後者の場合、反射材の粒径は、例えば1μm以下が望ましい。
【0028】
<コーティング剤>
メタノール(90重量%以上)、水(4重量%以上)、酸化スズ(SnO2)(0.1重量%)の混合物が主な塗膜コーティング剤である。コーティング剤は、特開2019-002671号公報に記載の親水コート又はこれに準じたものでよい。本発明における塗膜層4は、コーティング剤によるコーティング膜を含めたものでもよいし、含めたものでなくてもよい。
【0029】
コーティング剤は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等の光触媒等の成分を含んでもよい。この場合、塗膜は保護等のための下層部と別の機能を有する上層部の多機能構造となる。例えば、コーティング剤中の酸化チタン等の光触媒はその親水性と光触媒反応によって塗装表面を清浄にする。
【0030】
<基礎層>
基礎層5は、上記塗料による塗膜の土台となり、伸縮性のある素材から選ばれる。建築物やエアコン等の壁面、ヘルメット等への貼付を目的とする場合、PET等を基材とするシール(表面が塗膜層形成用で、裏面が粘着剤等による粘着性能を有するもの)が挙げられる。通常のシールとしては、樹脂や紙等の素材からなる表層(塗膜の土台部分)、表層の裏側部分であり接着剤が固定された接着層、シールの使用直前まで接着層を保護する剥離シートという構成が挙げられる。素材に求められる伸縮性は、ヘルメット表面(曲面)やエアコン室外機筐体やバス、電車等の移動体のエッジ部分等、平面以外の貼付面に対して、しわ、だぶつき、切れ等が生じない程度である。
【0031】
(実施例1)
本発明に係る塗膜シート1の製造及び塗膜シート1への印字について以下、説明する。
図2は塗膜シート1の例である。インクジェット作画媒体である3M製グラフィックフィルムIJ180mCシリーズのものを基礎層5として、塗料が塗布されたものであり、塗膜厚約400μm(乾燥時)である。1回目の塗布で約200μm(乾燥時)、2回目の塗布で約400μm(乾燥時)の塗膜が形成された。塗布方法は限定されるものではなく、ローラーによる塗布、吹き付けによる塗布等どのような方法でもよい。塗膜形成後、塗膜シート1の塗膜面に印字された。
【0032】
表1は上記シートについての評価結果である。
【表1】
【0033】
塗膜は、上記フィルム上において、ほぼ均等に予定の膜厚に形成された。また、シートは、伸縮性を失わず、裁断等の取扱性において不具合は認められなかった。また、インクジェットによる塗膜層への印字において、文字等のぼやけやにじみ等の不具合は認められなかった。
【0034】
(実施例2)
本発明に係る塗膜シート1のヘルメットへの適用について以下、説明する。
【0035】
まず、ヘルメット表面の形状に適合するように、実施例1の塗膜シート1(印刷無)が
図3のように4つのパーツに裁断された。
図3の上のパーツは、中央部分がヘルメットの正面下部に貼り付けられる。
図3の下の中央のパーツは、ヘルメットの前後にわたる頭頂部に貼り付けられる。
図3の下の左右のパーツは、ヘルメットの左右側面部に貼り付けられる。
図4は、各パーツとヘルメットの貼付位置の関係を示すものである。
【0036】
各パーツには、所定の切れ込みが設けられている。これらの切れ込みは、ヘルメットの半球面に各パーツをフィットさせるためのものである。これらの切れ込みは、貼付対象の形状に合わせて適宜設けられた。貼付対象面の曲率が大きくなるほど、切れ込みが多く設けられた。また、シートの伸縮性等を踏まえ、最大5mm程度の切れ込み幅が設けられた。
【0037】
塗膜シート1の各パーツのヘルメットへの貼り付けは、次のように行われた。
まず、パーツから剥離紙が剥がされ、ヘルメットの予定する位置に接着面が貼り付けられた。切れ込みのないシートの場合、半球面に貼り付けられると、シートに余分が生じ、ダブつきとなる。本実施例では、シートがダブつかないように、あらかじめ、所定の形状にされ、切れ込みが設けられている。ただし、ヘルメットに貼り付けられたパーツの切れ込みは、そのままでは隙間を生む。
【0038】
次に、シートの切れ込みの隙間がなくなるように、作業者の指の腹等で圧力がかけられ、シートが引き延ばされた。本実施例では、ヘルメットの所定位置にシートの接着面が貼り付けられた直後の状態は、シートの切れ込み部にはくさび形の隙間が生じた。シートの引き延ばし作業は、この切れ込みの隙間をなくすためのものである。手作業によってシートが延ばされ、切れ込みの隙間が埋められた。
【0039】
上記作業は、各パーツについて行われた。本実施例では、最初に、
図3の上のパーツが、次に、
図4の下の中央のパーツが、最後に、
図3の下の左右のパーツが貼り付けられた。
図4は、全てのパーツが貼り付けられた後のヘルメットの状態を示したものである。
【0040】
本実施例では、各パーツの準備とヘルメットへの貼り付けが繰り返し行われ、ヘルメットの所定面に過不足なく貼り付けられることが確認された。なお、これまで、一般的な水溶性断熱塗料によって塗膜が形成されたシートが試作されたことがあった。しかしながら、当該シートでは、シートの引き延ばし作業が困難であった。
【0041】
シート貼付後のヘルメットは、断熱ヘルメットとして供された。塗膜シート1が貼り付けられる前のヘルメットは、屋外作業時に日光によって高温化し、ヘルメット装着者が熱中症になる等、健康影響を与える問題があった。これに対し、塗膜シート1が貼り付けられた後のヘルメットは、日光による高温化を防ぎ、ヘルメット内部への伝熱を抑えることが確認された。
【0042】
(実施例3)
本発明に係る塗膜シート1の塗膜層(塗料)の断熱、防音等の効果について、以下、説明する。
【0043】
塗料の塗布対象設備は、複数企業(鉄道、電力、製造業)の事務所、工場の屋根・外壁、空調・電気設備(エアコン室外機、変電所制御盤、鉄道通信設備、サーバー室)である。塗布は、対象設備の表面の汚れを高圧水洗で取り除かれた後、ローラー刷毛で膜厚約400μm(乾燥時)にされた。塗膜面は、コーティング剤によってコーティングされた。
【0044】
表2は塗膜の通年観察結果である。各施設の塗布面は、約400μmの膜厚を1年間維持した。この膜厚の変化の有無は拡大写真と目視に基づくものである。
【表2】
【0045】
上記のローラー刷毛により1回目の塗布で約200μm(乾燥時)、2回目の塗布で約400μm(乾燥時)の膜厚が形成された。この膜厚の状態は1年経過後もほぼ変化がなかった。
【0046】
また、エアコン室外機表面への塗料の塗布(塗膜形成)によって、年間平均約17%の電力が削減された。また、塗膜部分とそれ以外の部分の表面は、赤外線サーモグラフィーによると、夏季において、温度差が30~40℃あった(図省略)。
【0047】
また、低周波音の発生源が近くにある建物外壁に形成された塗膜は、低周波音を軽減した。具体的には、「非常に不快な音が聞こえる」、「不快な音聞こえる」、「音が聞こえる」、「わずかに音が聞こえる」、「ほとんど音が聞こえない」という5段階の官能評価指標において、塗膜形成前の「音が聞こえる」を、塗膜形成後に「わずかに音が聞こえる」にした。
【0048】
また、塗膜部分の外観に目視による汚れは確認されなかった。塗膜形成から約1年経過後、目視観察において、塗膜がない壁面にはホコリの付着や汚れが確認されたのに対し、塗膜が形成された壁面には、ホコリの付着や汚れは確認さなかった。
【0049】
(考察)
実施例1~3に基づく考察について以下、説明する。
【0050】
本発明に係る塗膜シート1の塗膜層4を構成する中空ビーズは、弾力性を有するアクリルビーズ(第1の中空ビーズ2)と硬質素材のセラミックビーズ(第2の中空ビーズ3)である。このように2種類の素材により、各素材の特性を活かした塗膜ができた。
【0051】
実施例1では、基礎層5となるフィルム上に200μmを単位とする塗膜層4が形成されることが確認された。すなわち、本発明に係る塗膜シート1の塗膜層4は、所定の膜厚(例えば、400μm、600μm、800μm、1000μmの膜厚)を形成可能であることが示唆された。また、実施例2においても確認されたように、塗膜シート1は、塗膜形成後においても基礎層5となるフィルムの伸縮性を失わずに、貼付対象面に貼り付けられることが確認された。すなわち、本発明に係る塗膜シート1は、半球面やその他様々な貼付面に対して適用できることが示唆された。
【0052】
断熱塗料は、一般的には、耐熱性に優れたセラミックやガラスを素材とする中空ビーズが塗料中に用いられることが多い。しかしながら、これらの硬質素材の中空ビーズのみが塗料に使用されると、その中空ビーズは互いの接触等によって割れてしまうことが多い。別の試験においては、実施例1~3に使用された中空ビーズと同程度の量のガラスビーズのみ用いられた場合、ほとんどのビーズが割れるという結果になった。
【0053】
一方、実施例1~3において、塗膜層4が形成された後、多くのビーズは割れずに密な状態を維持した。すなわち、硬質素材の中空ビーズと弾力性素材の中空ビーズの組み合わせが、密な中空ビーズの層を形成し、所定の膜厚を形成し得ることが示唆された。
【0054】
どのような素材が弾力性素材か、硬質素材かについては、素材間の相対的な問題である。実施例1~3において、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズとの組み合わせでは割れが生じなかった。これは、セラミック中空ビーズに隣接するアクリル中空ビーズの弾性によるものと考えられる。このように他方の素材の中空ビーズの圧力に耐えることができる素材が選択されていればよい。
【0055】
ここで、素材の弾性の指標としてヤング率がある。合成樹脂のヤング率は4以下であることが多い。ガラスのヤング率は80、セラミックを形成する二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物のヤング率は100以上であると言われている。これらの技術常識と実施例1~3の結果を踏まえると、少なくともヤング率4以下の素材と、80以上の素材の組み合わせが、密な中空ビーズ層を塗料中に形成し得ることが示唆される。
【0056】
中空ビーズの使用量は、塗膜の厚さやビーズの粒径によって変わるものである。中空ビーズ同士が隣接する程度の中空ビーズの密度レベルは、本実施例レベルの膜厚形成のための目安となることが示唆される。
【0057】
実施例1~3において各素材の中空ビーズの粒径は、80μm、60μm、50μmで、重量比は5対3対2である。体積比でも最大粒径の中空ビーズの割合が最も大きい。実施例3等では、最大粒径の中空ビーズの体積比が最大の場合に、最大の防音効果となることが確認されており、断熱等その他の効果についても同様の効果が得られることが示唆される。
【0058】
実施例3では、粒径ラインナップは、中空ビーズの密な構造を可能にし、これにより防音効果を大きくすることが確認された。これに基づくと、2つ以上の粒径分布のピークを有する中空ビーズの組み合わせも防音等各種効果に寄与する可能性が示唆される。そのような粒径のピークは、実施例と同様に、80μm、60μm、50μmのいずれかにあってもよいし、それ以外やさらに小さくてもよい。
【0059】
実施例1~3では、セラミック中空ビーズの製造過程で破砕してできた微小粉(粒径1μm以下)が反射材として用いられた場合に、塗膜表面に反射層が形成されることが確認された。塗膜形成過程において、塗膜中の水分は、塗膜の外へと移動すると考えられる。
【0060】
この時、塗膜中の反射材は、水分によって塗膜表面部へと押し出され、反射層を形成することが示唆される。また、このように反射材が塗膜中を移動し、反射層を形成するためには、反射材の粒径が、隣接する中空ビーズの間隙(隣接間隙)を通過できるサイズであるべきことが示唆される。
【0061】
塗膜形成材としては、実施例3では、アクリル系以外にウレタン系、シリコン系、フッ素系が同程度の防音効果を有することが確認されている。すなわち、合成樹脂全般が本発明に係る塗膜シート1の塗膜形成材として適用できることが示唆される。
【0062】
塗膜形成材と第1の中空ビーズ2の素材は、同一であることが好ましい。これにより成形後の塗膜も一定の伸縮性を備えたものになり、シート全体として貼付時に求められる伸縮性が保たれるからである。本実施例においては、塗膜成形材としては、アクリル系が最も適していることが確認された。
【0063】
ただし、塗膜形成材と第1の中空ビーズ2の素材は、必ずしも同一である必要はない。塗膜は、第2の中空ビーズ3を破壊しない程度の軟性を有し、基礎層5の伸縮性が完全に失われなければよい。すなわち、シート全体として貼付時に求められる伸縮性を有するものであれば、合成樹脂全般が塗膜形成材になり得ることが示唆される。
【0064】
実施例2では、塗膜シート1は、一定の伸縮性により、ヘルメット表面に過不足なく貼り付け可能であることが確認された。このような性質を実現するのに、アクリル系やその他の合成樹脂全般が有用であることが示唆される。
【0065】
また、実施例2において、本発明に係る塗膜シート1が一定程度引き延ばされた。しかしながら、塗膜シート1は、このような引き延ばしによっても目的とする機能を失わないと評価される。その理由は、次のように説明される。
【0066】
塗装シート1の塗膜に関して、塗膜形成時の塗料中の水分等は、塗料の乾燥によって揮発し、これにより塗膜の収縮による圧力が各中空ビーズにかかることになる。そのため、本発明に係る塗膜シート1の塗膜中には、弾力性のある第1の中空ビーズ2と硬質な第2の中空ビーズ3が密に接触した状態において、弾力性のある第1の中空ビーズ2は、多少なり凹状に変形していることが予想される。
【0067】
このような状態にある塗膜シート1は、引き延ばされたとしても、第1の中空ビーズ2の引き延ばし方向の凹状の変形が解消される程度であれば、各中空ビーズの密な関係は維持可能である。すなわち、塗膜シート1は、多少引き延ばされたとしても、保護等の目的を果たす機能を失わないことが示唆される。
【0068】
実施例2では、ヘルメット表面に過不足なく塗膜シート1が貼り付けられることが確認された。これは、塗膜シート1に印刷された文字、模様等の表示物が、貼付後においてもダブつき等の不具合なく表示可能であることを示唆するものである。すなわち、塗膜シート1は、広告媒体として、様々な形状の広告設置面に適用可能なことが示唆される。また、塗膜シート1は、広告媒体としての機能だけでなく、断熱等の他の機能を同時に備え得ることも示唆される。
【0069】
実施例1では、塗膜シート1への広告の印刷方法は、インクジェットによる吹き付けにより行われたが、熱圧着によるレーザー印刷や、平板等によるオフセット印刷等も利用可能であると考えられる。また、広告展開の例としては、ヘルメットへの適用だけでなく、建築物やバス、電車等の移動体に適用されるケースが挙げられる。例えば、バスへの適用では、人目に触れやすい車体側面部を広告設置面として、広告情報が印刷された塗膜シート1が貼付され、従来的な広告媒体として機能するだけでなく、夏季は断熱、遮光機能によって車内の高温化を防ぐことで冷房効率に寄与し、冬季は断熱機能によって暖房効率に寄与することが示唆される。
【0070】
本発明に係る塗膜シート1には、製造品質面において利点がある。従来的な塗装作業による場合、塗装から塗料乾燥まで時間を要し、その間、風雨、振動、日射等の影響を多少なりとも受ける。そのような塗装環境下で形成された塗膜は、膜厚等、必ずしも一定の品質を有するとは限らない。これに対し、本発明に係る塗膜シート1は、温湿度等が管理された環境下での製造が可能なため、所定レベルの品質を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、建築物やエアコン室外機等の保護等の分野に利用することができる。また、本実施例に係る設備に限らず、例えば車両、航空機、船舶等様々な対象に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 塗膜シート
2 弾力性を有する中空ビーズ(第1の中空ビーズ)
3 第1の中空ビーズより硬質な素材である中空ビーズ(第2の中空ビーズ)
4 塗膜層
5 基礎層