(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018430
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工装置の制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01S 3/00 20060101AFI20240201BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20240201BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240201BHJP
【FI】
H01S3/00 B
H01S3/067
B23K26/064 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121775
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉武 直毅
(72)【発明者】
【氏名】横井 忠正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 豊
【テーマコード(参考)】
4E168
5F172
【Fターム(参考)】
4E168CB02
4E168DA45
4E168EA17
4E168EA20
5F172AE12
5F172AF02
5F172AF03
5F172AF06
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5F172DD01
5F172EE13
5F172NQ30
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザ光のビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げるための技術を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置100は、シード光源2と、励起光源3,9A,9Bと、シード光と励起光とが入射されることによりシード光を増幅するように構成された増幅ファイバ1,8を含むレーザ増幅部と、レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構14と、シード光源2および励起光源3,9A,9Bを制御する制御部20とを備える。制御部20は、シード光源2から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、シード光源2を制御する。制御部20は、パルス列に関するパラメータに従って、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード光を発生させるシード光源と、
励起光を発生させる励起光源と、
前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、
前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、
前記シード光源および前記励起光源を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源を制御し、
前記制御部は、前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記増幅ファイバは、
前記シード光源からの前記シード光を前記励起光源からの第1の励起光によって増幅する第1の光ファイバと、
前記第1の光ファイバから出力された光を前記励起光源からの第2の励起光によって増幅する第2の光ファイバとを含み、
前記励起光源は、
前記第1の励起光を発する第1の励起光源と、
前記第2の励起光を発する第2の励起光源とを含み、
前記制御部は、前記第1の光ファイバから出射される複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記第1の励起光のパワーを制御する、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記パルス列に関する前記パラメータと、前記最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率との関係を定めるテーブルに従って、前記シード光源を制御する、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記パルス列に関する前記パラメータは、
前記パルス列の繰り返し周波数、
前記複数の光パルスの各々のパルスの幅、
前記複数の光パルスの間の間隔、
前記複数の光パルスの本数、
前記パルス列の平均出力、および
前記励起光源に供給される励起電流
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記レーザ増幅部から出力される前記レーザ光のパルス列内の複数のパルスのうちの最初の光パルスの強度と、少なくとも、2番目の光パルス、最大光量の光パルスおよび最小光量の光パルスのうちのいずれかのパルスの強度との比を用いて、次回以降に前記シード光源から発生させる前記パルス列における前記複数のパルスの光量、または、前記励起光源から発生させる前記励起光の光量を補正するフィードバック制御を行う、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
シード光を発生させるシード光源と、励起光を発生させる励起光源と、前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、前記シード光源および前記励起光源を制御する制御部とを備えたレーザ加工装置の制御方法であって、
前記シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源を制御するステップを備え、
前記シード光源を制御するステップは、
前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップを含む、レーザ加工装置の制御方法。
【請求項7】
シード光を発生させるシード光源と、励起光を発生させる励起光源と、前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、前記シード光源および前記励起光源を制御する制御部とを備えたレーザ加工装置の制御方法を前記制御部に実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
前記シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源を制御するステップを備え、
前記シード光源を制御するステップは、
前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップを含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置、レーザ加工装置の制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
増幅ファイバを利用したMOPA(Master Oscillator and Power Amplifier)方式を採用し、シード光として半導体レーザ(LD)からの光を利用するレーザ加工装置が提案されている。上記のレーザ加工装置は、出射光の繰り返し周波数、ピークパワー、パルス幅等を互いに独立に変更できることにより、加工対象に応じて最適なパラメータを選択し易いという特徴を有する。
【0003】
このようなレーザ加工装置において、出力パワーを安定化させるための方法がこれまでに提案されている。たとえば、特開2011-181761号公報(特許文献1)は、MOPA型ファイバレーザの非発光期間における励起光の強度を制御することにより、レーザ加工装置から出力されるパルス光のエネルギを非発光期間の長さによらず安定化させることを開示する。特開2017-168549号公報(特許文献2)は、MOPA型ファイバレーザにおける励起光のパワーを制御するための2つのモードを有するレーザ加工装置を開示する。2つのモードのうちの一方のモードでは、増幅光のパルス幅の設定値が大きくなるほど、パルス幅の最小設定値における閾値以内で増幅光のピークエネルギーが増大するように励起光のパワーが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-181761号公報
【特許文献2】特開2017-168549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、レーザ印字には、より深い印字加工を、より短いタクトで実現するための手段が求められている。このためには、レーザ光のビーム品質を維持しながら、パルスエネルギおよびレーザ平均出力を上げる必要がある。
【0006】
MOPA型ファイバレーザにおいてパルスエネルギを上げるための1つの方法は、繰返し周波数を下げることである。繰返し周波数を下げることによって、パルス間隔が長くなる。これにより、増幅ファイバ内では、励起光によりポンピングされる希土類元素の蓄積量が増加するので、増幅ファイバから出力される光パルスのエネルギを高めることができる。しかし一方で、瞬間的なピークパワーが高くなることにより、非線形効果の一種である誘導ラマン散乱(SRS)が生じる可能性がある。SRSが発生した場合、増幅ファイバから出力される光の波長成分が広がるため、ビーム品質が低下するという問題がある。
【0007】
一般的には、励起光量を下げることにより、ファイバレーザから出力される光の瞬間的なピークパワーを、SRSが発生しない程度のピークパワーに制御する。しかしながら、励起光量を下げることによって、レーザ平均出力も下がる。
【0008】
本開示の目的は、MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザ光のビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一例に従うレーザ加工装置は、シード光を発生させるシード光源と、励起光を発生させる励起光源と、シード光と励起光とが入射されることによりシード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、シード光源および励起光源を制御する制御部とを備える。制御部は、シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、シード光源を制御する。制御部は、パルス列に関するパラメータに従って、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率を制御する。
【0010】
上記の構成によれば、MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザのビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げることができる。複数の光パルスが増幅ファイバに入射した際の出力光の瞬間的なピークパワーを抑えることにより、SRSを抑制することができるので、レーザ光のビーム品質を維持することができる。したがって、非線形効果の発生を抑制しつつレーザ平均出力を上げることができる。
【0011】
上述の開示において、増幅ファイバは、シード光源からのシード光を励起光源からの第1の励起光によって増幅する第1の光ファイバと、第1の光ファイバから出力された光を励起光源からの第2の励起光によって増幅する第2の光ファイバとを含む。励起光源は、第1の励起光を発する第1の励起光源と、第2の励起光を発する第2の励起光源とを含む。制御部は、第1の光ファイバから出射される複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、第1の励起光のパワーを制御する。
【0012】
上記の構成によれば、1段目、2段目の光ファイバによる光増幅の両方において、非線形効果の発生を抑制しつつレーザ光を増幅できる。したがってレーザ平均出力を上げることができる。
【0013】
上述の開示において、制御部は、パルス列に関するパラメータと、最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率との関係を定めるテーブルに従って、シード光源を制御する。
【0014】
上記の構成によれば、最初の光パルスの光量およびパルスの光量の増加の曲率をテーブルに従って決定することにより、パルス列の制御が容易となる。
【0015】
上述の開示において、パルス列に関するパラメータは、パルス列の繰り返し周波数、複数の光パルスの各々のパルスの幅、複数の光パルスの間の間隔、および、複数の光パルスの本数、パルス列の平均出力、および、励起光源に供給される励起電流のうちの少なくとも1つを含む。
【0016】
上記の構成によれば、繰り返し周波数、パルス幅等のパラメータが互いに独立であるため、それらのパラメータを任意に組み合わせてMOPA型ファイバレーザを制御することにより、MOPA型ファイバレーザから、所望の品質および所望の出力を有するレーザ光を出力することができる。
【0017】
上述の開示において、制御部は、レーザ増幅部から出力されるレーザ光のパルス列内の複数のパルスのうちの最初の光パルスの強度と、少なくとも、2番目の光パルス、最大光量の光パルスおよび最小光量の光パルスのうちのいずれかのパルスの強度との比を用いて、次回以降にシード光源から発生させるパルス列における複数のパルスの光量、または、励起光源から発生させる励起光の光量を補正するフィードバック制御を行う。
【0018】
上記の構成によれば、制御部が、レーザ増幅部から出力されるレーザ光の強度に基づいてシード光あるいは励起光の光量を制御するフィードバック制御を行うことにより、レーザ増幅部から出力されるレーザ光のパルス列に含まれる複数のパルスの強度を安定させることができる。
【0019】
本開示の一例に従うレーザ加工装置の制御方法は、シード光を発生させるシード光源と、励起光を発生させる励起光源と、シード光と励起光とが入射されることによりシード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、シード光源および励起光源を制御する制御部とを備えたレーザ加工装置の制御方法である。制御方法は、シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、シード光源を制御するステップを備える。シード光源を制御するステップは、パルス列に関するパラメータに従って、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップを含む。
【0020】
上記の構成によれば、MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザのビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げることができる。複数の光パルスが増幅ファイバに入射した際の出力光の瞬間的なピークパワーを抑えることにより、SRSを抑制することができるので、レーザ光のビーム品質を維持することができる。したがって、非線形効果の発生を抑制しつつレーザ平均出力を上げることができる。
【0021】
本開示の一例に従うプログラムは、シード光を発生させるシード光源と、励起光を発生させる励起光源と、シード光と励起光とが入射されることによりシード光を増幅するように構成された増幅ファイバを含むレーザ増幅部と、レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構と、シード光源および励起光源を制御する制御部とを備えたレーザ加工装置の制御方法を制御部に実行させるプログラムである。制御方法は、シード光源から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、シード光源を制御するステップを備える。シード光源を制御するステップは、パルス列に関するパラメータに従って、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップを含む。
【0022】
上記の構成によれば、MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザのビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げることができる。複数の光パルスが増幅ファイバに入射した際の出力光の瞬間的なピークパワーを抑えることにより、SRSを抑制することができるので、レーザ光のビーム品質を維持することができる。したがって、非線形効果の発生を抑制しつつレーザ平均出力を上げることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、MOPA型ファイバレーザにより構成されるレーザ加工装置において、レーザのビーム品質を維持しつつレーザ平均出力を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の実施形態に従うレーザ加工装置の利用場面の一例を模式的に例示する図である。
【
図2】
図1に示した増幅ファイバの構造の一例を示した図である。
【
図3】実施形態における、シード光および励起光の制御を説明した図である。
【
図4】増幅ファイバのエネルギ準位図、および増幅ファイバによる光増幅を模式的に示した図である。
【
図5】残留反転分布と、入力光エネルギと、出力光エネルギとの関係を示した図である。
【
図6】
図1に示した制御装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図7】制御装置の記憶部に記憶されるテーブルの構成の一例を示した図である。
【
図8】
図7に示したテーブルにより定義されるパターンのうちの1つについて、マルチパルスの波形の制御の例を模式的に示した図である。
【
図9】
図7および
図8に示すテーブルに従って制御される入力信号(マルチパルス)の波形の例を示した図である。
【
図10】シード光パルスの波形の制御の他の例を示した図である。
【
図11】本実施の形態におけるシード光パルスの制御によって、増幅ファイバから出力されるパルスの波形の具体的な例を示した図である。
【
図12】本実施の形態に従うシード光パルスの制御によるシード光パルスの波形の例、および、MOPA型ファイバレーザからの出力波形の例を示した図である。
【
図13】本実施の形態によるレーザ加工装置の制御方法の一例を示したフローチャートである。
【
図14】レーザ光出力のフィードバック制御のための構成の例を示した図である。
【
図15】フィードバック制御のための制御装置の構成を示したブロック図である。
【
図16】本実施の形態に係るフィードバック制御の例を示した図である。
【
図17】フィードバック制御に用いる入力光制御の補正量を説明した図である。
【
図18】本実施の形態に係るフィードバック制御によってシードLD電流値が補正される場合のフローを示したフローチャートである。
【
図19】本実施の形態に係るフィードバック制御によって1段目の増幅部の励起LDの電流値が補正される場合のフローを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
本明細書では「パルス列」および「マルチパルス」との用語は、ある時間間隔で時間軸上に並べられた複数の光パルスからなる1つのグループを意味する。また、本明細書では、マルチパルスの繰り返しの周波数を「繰り返し周波数」と称する。以下の説明において、レーザダイオードを「LD」と表記する。
【0027】
<A.適用例>
図1は、本開示の実施形態に従うレーザ加工装置100の利用場面の一例を模式的に例示する図である。
図1に示すように、レーザ加工装置100は、種光用半導体レーザ(シードLD)のレーザ信号光を、多段の増幅ファイバで増幅して、高いパワーを有するレーザ光を出力するように構成される。具体的には、レーザ加工装置100は、光ファイバ1,8と、シードLD2と、励起LD3,9A,9Bと、アイソレータ4,6,11と、バンドパスフィルタ(BPF)7と、コンバイナ5,10と、エンドキャップ12と、ドライバ21,22,23A,23Bとを備える。レーザ加工装置100は、さらに、レーザビーム走査機構14と、制御装置20と、入力部25とを備える。
【0028】
図1に示す構成において、レーザ増幅部は、増幅部101および増幅部102により構成される。増幅部101は、光ファイバ1、シードLD2および励起LD3を含み、シードLD2からのシード光を増幅する。増幅部102は、光ファイバ8および励起LD9A,9Bを含み、増幅部101から出力されたレーザ光を増幅する。
【0029】
光ファイバ1,8は増幅ファイバであり、光増幅成分である希土類元素が添加されたコア、およびそのコアの周囲に設けられるクラッドを有する。コアに添加される希土類元素の種類は特に限定されず、たとえばEr(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Nd(ネオジム)などがある。一例として光ファイバ1,8は、Ybがコアに添加された増幅ファイバである。
【0030】
光ファイバ1,8の各々は、たとえばコアの周囲に1層のクラッドが設けられたシングルクラッドファイバでもよく、コアの周囲に2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバでもよい。なお、この実施形態では、光ファイバ1,8は、ともにダブルクラッドファイバである。
【0031】
図2は、
図1に示した増幅ファイバの構造の一例を示した図である。
図2(A)および
図2(B)は、シングルクラッドファイバの一例の断面図であり、ファイバの延在方向に対して垂直方向および平行方向の断面をそれぞれ示している。
図2(A)および
図2(B)を参照して、シングルクラッドファイバは、希土類元素が添加されたコア31と、コア31の周囲に設けられ、かつコア31よりも屈折率が低いクラッド32とを含む。クラッド32の外表面は外皮34に覆われる。
【0032】
図2(C)および
図2(D)は、ダブルクラッドファイバの一例の断面図であり、ファイバの延在方向に対して垂直方向および平行方向の断面をそれぞれ示している。
図2(C)および
図2(D)を参照して、ダブルクラッドファイバは、希土類元素が添加されたコア35と、コア35の周囲に設けられ、かつコア35よりも屈折率が低い第1クラッド36と、第1クラッド36の周囲に設けられ、かつ第1クラッド36よりも屈折率が低い第2クラッド37とを含む。たとえば第1クラッド36の材料はガラスであり、第2クラッド37の材料は低屈折率樹脂である。第2クラッド37の外表面は外皮38に覆われる。
【0033】
図1に戻り、シードLD2はシード光を発するレーザ光源である。シード光の波長は、たとえば1000~1100nmの範囲から選択された波長である。ドライバ21はシードLD2にパルス状の電流を繰り返して注入することにより、シードLD2をパルス駆動する。したがってシードLD2からはシード光のパルスが発せられる。
【0034】
シードLD2から出射されるシード光はアイソレータ4を通過する。アイソレータ4は一方向の光のみを透過し、その光と逆方向に入射する光を遮断する機能を実現する。本実施の形態では、アイソレータ4はシードLD2からのシード光を透過させるとともに光ファイバ1からの戻り光を遮断する。これによって光ファイバ1からの戻り光がシードLD2に入射するのを防ぐことができる。
【0035】
励起LD3は、光ファイバ1のコアに添加された希土類元素を励起するための第1の励起光を発する励起光源である。希土類元素がYbの場合、励起光の波長はたとえば940±10nmとなる。ドライバ22は、励起LD3を駆動する。
【0036】
コンバイナ5はシードLD2からのシード光と励起LD3からの励起光とを結合して、第1の光ファイバである光ファイバ1に入射させる。
【0037】
光ファイバ1に入射した励起光はコアに含まれる希土類元素に吸収され、希土類元素が励起される。シードLD2からのシード光が光ファイバ1のコアを伝搬すると、励起された希土類元素がシード光により誘導放出を起こすためシード光が増幅される。なお、光ファイバ1がシングルクラッドファイバである場合、シード光および励起光はともにコアに入射する。これに対し、光ファイバ1がダブルクラッドファイバである場合、シード光はコアに入射し、励起光は第1クラッドに入射する。ダブルクラッドファイバの第1クラッドは励起光の導波路として機能する。第1クラッドに入射した励起光が第1クラッドを伝搬する過程で、コアを通過するモードによりコア中の希土類元素が励起される。
【0038】
アイソレータ6は、光ファイバ1によって増幅され、かつ光ファイバ1から出射されたシード光(光パルス)を通過させるとともに光ファイバ1に戻る光を遮断する。
【0039】
バンドパスフィルタ7は、光ファイバ1から出力される光パルスのピーク波長を含む波長帯の光を通過させるとともに、その波長帯と異なる波長帯の光を除去する。
【0040】
励起LD9A,9Bは、第2の光ファイバである光ファイバ8のコアに含まれる希土類元素を励起するための第2の励起光を発する。ドライバ23A,23Bは励起LD9A,9Bのそれぞれを駆動する。
図1に示す例では、増幅部102の励起LDの個数は2個であるが、励起LDの個数はこのように限定されるものではない。
【0041】
コンバイナ10は、バンドパスフィルタ7を通過した光パルスと、励起LD9A,9Bからの励起光とを結合して光ファイバ8に入射させる。光ファイバ1における光増幅作用と同じ作用によって、光ファイバ8に入射した光パルスが励起光によって増幅される。
【0042】
アイソレータ11は、光ファイバ8に戻る光を遮断する。エンドキャップ12は、ピークパワーの高い光パルスが光ファイバから大気中に出射される際に光ファイバの端面と大気との境界面で生じるダメージを防止するために設けられる。
【0043】
レーザビーム走査機構14は、レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査するための走査機構である。図示しないが、レーザビーム走査機構14は、たとえばエンドキャップ12からの出射光であるレーザビームの径を所定の大きさに調整するためのコリメータレンズ、および、コリメータレンズを通過後のレーザビームを加工対象物50の表面上で二次元方向に走査するためのガルバノスキャナ、レーザビームを集光するためのfθレンズ等を含んでもよい。加工対象物50の表面上でレーザ光L、すなわちレーザ増幅部からの出力光が二次元方向に走査されることにより、金属等を素材とする加工対象物50の表面が加工される。たとえば加工対象物50の表面に文字や図形等からなる情報が印字(マーキング)される。
【0044】
制御装置20は、ドライバ21,22,23A,23Bおよびレーザビーム走査機構14を制御することによりレーザ加工装置100の動作を統括的に制御する。したがって、制御装置20は、シードLD2、励起LD3、9A、9Bを制御する。
【0045】
入力部25は、たとえばユーザからの情報(たとえば加工対象物50の表面に印字される文字、記号等の情報)を受付けて、その受付けた情報を制御装置20に送信する。制御装置20は、たとえば入力部25からの情報に基づいて、ドライバ21,22,23A,23Bの動作開始および動作終了を制御するとともに、ドライバ21,22,23A,23Bを動作させている間、レーザビーム走査機構14の動作を制御する。
【0046】
制御装置20はドライバ22,23A,23Bを制御することによって励起LD3,9A,9Bが発する励起光のパワーを変化させる。励起LD3,9A,9Bは、ドライバ22,23A,23Bからそれぞれ供給される駆動電流に応じたパワーを有する励起光を出力する。各ドライバ22,23A,23Bから出力される駆動電流の大きさは制御装置20によって制御される。
【0047】
制御装置20は、たとえば所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータにより実現される。入力部25はユーザが情報を入力することができる装置であれば特に限定されず、たとえばマウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。
【0048】
図3は、実施形態における、シード光および励起光の制御を説明した図である。
図3に示すように、実施形態では、シードLDから、シード光のパルス列、すなわちマルチパルスを所定の周波数で繰り返し出力させる。繰り返し周波数は、たとえば10kHz~1000kHzの範囲内で可変である。マルチパルスに含まれるパルスの本数は、任意に設定可能である。
【0049】
図3において、マルチパルスに含まれる複数のパルスの一部を時間的に拡大して示す。マルチパルス内のパルス幅、およびパルスの間の間隔は、たとえばナノ秒レベル(たとえば10ナノ秒程度)である。なお、パルス幅は、各パルスのFWHM(半値全幅)により定義することができる。
【0050】
パルスの「ピークパワー」を、そのパルスの最大光強度であると定義する。「パルスエネルギ」とは、1パルスのエネルギであり、エネルギとパルス幅の積分によって求められる。「レーザ平均出力」とは一定時間におけるレーザ出力の平均値であり、パルスレーザでは、パルスエネルギと繰返し周波数の積算によって定義される。
【0051】
図3に示すように、シード光を増幅ファイバに入力するに先立ち、光増幅物質である希土類元素を予め励起するため、励起光が増幅ファイバに入力される。このときの励起光の光量は、シード光の増幅時の励起光の光量に比べて小さい。シード光の入力に同期して増幅ファイバに入力される励起光の光量を大きくする。
【0052】
本実施の形態では、シード光パルスをマルチパルスにすることにより、増幅ファイバに蓄積される励起光量のエネルギを、マルチパルス内の各パルスによって消費させる。これにより、レーザ加工装置から出力されるパルスの1本あたりのピークパワーを下げる。この結果、出力光の瞬間的なピークパワー(特に1本目のパルスのピークパワー)を抑えることができるので、SRSなどの非線形効果の発生を抑制することができる。
【0053】
本実施の形態では、さらに、マルチパルス内の各パルスの光量を曲線的に増加させる。「曲線的に増加」とは、マルチパルス内におけるパルスの光量の変化が、時間的に後のパルスほど大きくなることを意味する。なお、
図3では、マルチパルスに関連する各種のパラメータを説明するため、便宜上、マルチパルスに含まれる各パルスのピークパワーがほぼ等しいように示されている。マルチパルス内の各パルスの光量を曲線的に増加させる例については、後に詳細に説明する。
【0054】
マルチパルス内のk番目のパルスのピークパワーをpk(kは1以上の整数)とする。たとえば、「曲線的に増加」に含まれる1つの例は、(pk+1-pk)<(pk+2-pk+1)という関係である。なお、「曲線的に増加」とは、時間的に隣り合う3つのパルスの間のピークパワーの大小関係によって決まるように限定されるものではない。本実施の形態では、パルスの光量の変化の傾きが時間的に後のパルスほど大きくなるのであればよい。たとえば、複数のパルスのうちのあるパルスの光量が、そのパルスの1つ前のパルスの光量と同じ(または減少してもよい)であり、次のパルスの光量がそのパルスの光量よりも大きいというのでもよい。本実施の形態では、複数のパルスの光量が全体として曲線的に増加していればよい。
【0055】
複数のパルスのうち光量が最も小さいのは、最初のパルスである。本実施の形態では、最初のパルスの光量および光パルスの光量の増加の曲率を、マルチパルスに関するパラメータに従って決定する。たとえば、マルチパルスの繰り返し周波数に従って最初のパルスの光量および光パルスの光量の増加の曲率が決定される。これにより、マルチパルスのパルス毎のピークパワーを誘導ラマン散乱の発生閾値以下としつつレーザ平均出力を高めることができる。
【0056】
<B.増幅ファイバにおける光増幅>
図4は、増幅ファイバのエネルギ準位図、および増幅ファイバによる光増幅を模式的に示した図である。
図4において白抜きの円は、基底状態に遷移するYbイオンを表わす。
図4においてハッチングを付した円は、誘導放出されたYbイオンを表わす。
【0057】
Ybは原子番号70の元素であり、Yb
3+イオンの電子配置は[Xe]4f
13構造をしているため、基底状態
2F
7/2と励起状態
2F
5/2しか存在しない。基底状態
2F
7/2は4つのシュタルク準位で形成され、励起状態
2F
5/2は3つのシュタルク準位で形成される。このため励起光の波長と誘導放出光(信号光)の波長とは異なる。ただし
図4では基底状態の4つのシュタルク準位および、励起状態の3つのシュタルク準位の図示を簡略化し、単に基底状態および励起状態として示している。
【0058】
図4(A)は、励起光によりYbイオンが励起されている状態を示す。Yb添加ファイバの場合、たとえば、基底準位E1のYbイオンは、波長940nmの励起光を吸収することにより、励起準位E2にポンプアップされる。この状態で、たとえば1062nmの信号光を入射すると、
図4(B)および
図4(C)に示すように、誘導放出が生じる。これにより信号光が増幅されるとともに、励起準位E2のYbイオンが基底準位E1に緩和する。なお、励起光によるポンピングが継続されている間は、信号光パルスが増幅ファイバに入射されるごとに誘導放出が生じて信号光パルスが増幅される。
【0059】
図4(B)は、マルチパルスのうちの最初のパルスの入射による誘導放出を模式的に示す。
図4(C)は、マルチパルスのうちの2番目のパルスの入射による誘導放出を模式的に示す。励起光によるYbイオンのポンピングは、最初のパルスが入射する直前に最大となる。したがって、最初のパルスが大きく増幅される。一方、パルスの間隔が十分に小さい場合(例えば10ナノ秒程度)、最初のパルスで消費されるYbイオンに対して2番目以降のパルスまでに励起されるYbイオンが少なくなるため、2番目以降のパルスに対しては、増幅ファイバによる増幅率が下がる。
【0060】
本実施の形態では、マルチパルスのうちの最初のパルスの光量を低くする。これにより、励起準位から基底準位に緩和するYbイオンの数を少なくする。励起準位にあるYbイオンの原子密度分布は、2番目以降のパルスに対しても、ある程度確保されている。したがって、2番目以降のパルスの光量を徐々に上げることによって、増幅ファイバから誘導放出により出力されるレーザ光パルスのピークパワーを高めることができる。これにより、増幅後の各パルスのピークパワーをSRSの発生閾値以下としつつ、レーザ平均出力を高めることができる。
【0061】
増幅ファイバから出力されるパルスのエネルギは、主に励起光量と信号光量とによって制御可能である。しかし、マルチパルス内の各パルスがナノ秒レベルのパルスである場合、各パルスに対して励起光の光量を制御することは容易ではない。したがって本実施の形態では、励起光量を変化させずに、マルチパルス内の各パルスの光量を制御することにより、レーザ平均出力を制御する。
【0062】
<C.マルチパルス波形>
増幅ファイバから出力されるレーザ光のパワーPは、励起準位の原子分布密度N2、信号光量I、および増幅ファイバの固有パラメータ(放出断面積、結合効率など)を用いて表現することができる。
【0063】
マルチパルス内の複数のパルスを、時間の早いほうから順にn1,n2,・・・,n*とラベル付けする。各パルス番号のパルスによる入力光エネルギI1,I2,・・・,I*に対する増幅ファイバ出力光エネルギをP1,P2,・・・,P*と表わす。P1,P2,・・・,P*は、以下のように表わすことができる。
【0064】
P1=I1+A×σ21×I1
P2=I2+(C1+B(t))×σ21×I2
P3=I3+(C2+B(t))×σ21×I3
・・・
ここで、Aは、n1のパルスが入射する直前の反転分布密度であり、B(t)はn1のパルスの入射後からn2のパルスが入射するまでの間に、励起光によって増加する反転分布密度であり、C1は、n1のパルスの入射直後に残留する反転分布密度であり、σ21は、増幅ファイバの放出断面積である。なお、B(t)は時間と励起光量とに依存する。
【0065】
P1,P2,P3,・・・の各式における第一項を、第二項に対して十分に小さいとして無視する。また、パルス間隔が一定であるとして、B(t)を定数Bとみなす。さらに、Pn,In(n=1,2,3…)を、時間の関数として表現すると、出力光エネルギPを、以下の式(1)のように表わすことができる。
【0066】
P(t)=(C(t)+B))×σ21×I(t)・・・(1)
一方、エネルギ保存測により、以下の式(2)が成り立つ。式(2)において、aは、n1のパルスの入射によって誘導放出に使用された反転密度分布と、上記Aとの比を表わす。
【0067】
Cn=Cn-1+B(t)-a×Pn-1・・・(2)
式(2)を変形すると、Cn-Cn-1=B(t)-a×Pn-1と表わされる。B(t)を定数Bに置き換えて、上記の式を時間の関数として表現すると、dC(t)/dt=B-a×P(t)と表わすことができる。
【0068】
ここで、P(t)が時間によらず一定であるとすると、P(t)を定数Pと置くことができる。したがって、dC(t)/dt=B-a×Pとなる。この式の両辺を時間tで積分することにより、以下の式(3)が得られる。なお、Dは定数である。
【0069】
C(t)=(B-a×P)×t+D・・・(3)
残留反転分布C(t)は、時間tについての一次式である。さらに、基底準位から励起準位に原子が励起される速度よりも、励起準位から基底準位に原子が緩和する速度のほうが早いとすると、B<a×Pとなるので、比例定数(B-a×P)は負となる。したがって残留反転分布C(t)は、時間とともに単調に減少する関数である。
【0070】
次に、式(1)に式(2)を代入すると、出力光エネルギ(パワー)Pは、以下の式(4)で表わされる。
【0071】
P=((B-a×P)×t+D+B))×σ21×I(t)・・・(4)
式(4)を変形すると、入力光エネルギI(t)は式(5)のように表わすことができる。
【0072】
I(t)=P/{((B-a×P)×t+D+B)}/σ21・・・(5)
B-a×P=α、P/σ21=β、D+B=γ(α、β、γは定数、α<0、β>0、γ>0)と置くと、入力光エネルギI(t)は、式(6)のように表わすことができる。
【0073】
I(t)=β/(α×t+γ)・・・(6)
図5は、残留反転分布C(t)と、入力光エネルギI(t)と、出力光エネルギP(t)との関係を示した図である。
図5に示すように、式(3)で表現される残留反転分布C(t)は、時間に対して線形な単調減少関数である。これに対して、式(5)に従う入力光エネルギI(t)は、時間に対して曲線的に上昇する関数である。式(3)で表現される残留反転分布C(t)と式(5)に従う入力光エネルギI(t)との組み合わせにより、マルチパルス内の各パルスに対して増幅ファイバから取り出される出力光エネルギP(t)は一定になる。
【0074】
ここで式(6)を詳しくみると、入力光エネルギI(t)は、時間tの-1乗に基づいた関数となっている。具体的には、tの係数にあたるα/βは負であり、t=-γ/αのとき分母が0になることから、式(6)により表現される関数は、t=-γ/αを原点とし、さらに、符号を反転させた反比例の関数になっていることがわかる。したがって、入力光エネルギーを上昇させる際には、時間tの-1乗に基づいた関数に沿うように、入力光エネルギーを上昇させることがより望ましいといえる。
【0075】
<D.パルス制御のための構成>
図6は、
図1に示した制御装置の機能ブロックの例を示す図である。
図6に示すように、制御装置20は、記憶部201と、条件設定部202と、シードLD制御部203と、励起LD制御部206とを備える。
図6に示した構成は、ハードウェア(電子回路)によって実現されてもよく、ソフトウェアによって実現されてもよい。
【0076】
記憶部201は、シード光および励起光に関する条件を、レーザ加工装置からの出力光(以下では、単に「出力光」とも呼ぶ)の条件と関連付けて記憶する。この記憶内容には、たとえば出力光のパワーに対するシード光(マルチパルス)および励起光パワーおよびの条件等がある。このような条件関係は、たとえばテーブル、関数、マップ等の形式に従って記憶部201に記憶される。
【0077】
条件設定部202は、入力部25に入力された情報および、記憶部201に記憶された条件に基づいて、シードLDおよび励起LDの駆動条件を設定する。たとえばレーザ加工装置の出力(平均出力)、マルチパルスの繰り返し周波数等の条件が入力部25に入力される。条件設定部202は、入力部25に入力された条件、記憶部201に記憶されているシード光(マルチパルス)および励起光の条件に従って、シード光および励起光の制御のための条件を設定する。
【0078】
シードLD制御部203は、条件設定部202によって設定された条件に従ってシードLD2を駆動するためのドライバ21を制御する。ドライバ21は、シードLD制御部203の制御により、シードLD2に駆動電流を供給する。
【0079】
励起LD制御部206は、条件設定部202によって設定された条件に従って、励起LD3を駆動するためのドライバ22、励起LD9Aを駆動するためのドライバ23Aおよび、励起LD9Bを駆動するためのドライバ23Bを制御する。ドライバ22,23A,23Bの各々は、励起LD制御部206の制御により、対応する励起LDに駆動電流を供給する。
【0080】
一実施形態では、シード光(マルチパルス)の条件は、たとえばテーブルの形式で記憶部201に記憶される。
図7は、制御装置20の記憶部201に記憶されるテーブルの構成の一例を示した図である。
図8は、
図7に示したテーブルにより定義されるパターンのうちの1つについて、マルチパルスの波形の制御の例を模式的に示した図である。
【0081】
図7に示されるように、テーブルでは、平均出力、マルチパルスの繰り返し周波数、マルチパルスに含まれるパルスの本数、マルチパルス内のパルスの間の間隔、マルチパルス内の各パルスの幅、シードLDに注入される電流のパターンが設定される。一例として、平均出力がA(mJ)、繰り返し周波数f(kHz)、パルス本数が10、パルス間隔がt1(nsec)、パルス幅がt2(nsec)の場合のシードLD電流パターンが、パターン1と定義される。パルス間隔t1およびパルス幅t2は、パターンによらない装置固定値であってもよい。あるいはパルス間隔t1およびパルス幅t2は、パターンに応じて制御される値であってもよい。
【0082】
図8には、シードLD電流パターンがパターン1である例が示されている。テーブルには、パルス番号(n1,n2,・・・,n10)ごとにシードLD電流値(i1,i2,・・・,i10)が定義される。基本的には、シードLDは、シードLD電流が閾値電流を上回った時点から発光し、その後は、シードLDの出力は、シードLD電流の増加量に比例して増加する。
図7および
図8から理解されるように、シードLD電流のパターンとして、シード電流の変化の周期(
図7に示されるようなパルス間隔t1およびパルス幅t2)、および、
図8に示されるようなパルスごとのシード電流の値を設定することにより、シードLDから発せられるパルスの間隔および出力を任意に設定できる。
【0083】
本実施の形態では、平均出力、繰り返し周波数、パルス本数、パルスの間隔、パルス幅等のパラメータが互いに独立であるため、それらのパラメータを任意に組み合わせてMOPA型ファイバレーザを制御することにより、MOPA型ファイバレーザから、所望の品質および所望の出力を有するレーザ光を出力することができる。本実施の形態の一例によれば、
図7および
図8に従って、シード光パルスを制御する。したがって、マルチパルス内の最初のパルスの光量および、パルスの光量の増加の曲率を、繰り返し周波数、マルチパルス内の各々のパルスの幅、および、パルスの間の間隔のうちの少なくとも1つに従って決定することができる。
【0084】
図9は、
図7および
図8に示すテーブルに従って制御される入力信号(マルチパルス)の波形の例を示した図である。
図9には、パルス本数が10本、20本および30本の例について、入力信号の光量の時間に対する変化が示される。シードLD電流を制御することにより、パルスの光量を、時間に対して曲線的に増加させるように制御できることが分かる。
【0085】
図10は、シード光パルスの波形の制御の他の例を示した図である。
図10に示す例では、シード光パルス(入力信号)の光量が一定値に達した後に、光量が、その値に保たれる。
【0086】
上記の通り、シードLDの出力は、閾値電流に対するシードLD電流の増加量に比例して増加する。しかし、シードLDの出力に上限があることが十分に想定される。シードLDの出力の上限を超える電流をシードLDに供給した場合には、シードLDが故障することが起こりえる。パルス本数が多い場合、あるいは、シード光パルスの強度の増加の曲率を大きくする場合、シードLDから発せられるパルスの数が、予め設定された本数に達する前に、シード光パルスの強度が、その上限に達する可能性がある。
【0087】
したがって、
図10に示されるように、シードLDの出力が上限に達しないように、シードLDの出力に制限値を設けてもよい。制限値は、たとえば、シードLDの出力の上限値に対して所定の割合(たとえば90%)を乗じた値に設定されてもよい。
図10に示すように電流パターンを設定することにより、シードLDの故障を防ぎつつ、レーザ加工装置の平均出力を上げることができるという効果を得ることができる。
【0088】
なお、
図7および
図8に示したテーブルの内容は、本実施の形態によるシード光パルスの制御の一例を示すものである。したがって、テーブルの設定に応じて、シード光パルスをより柔軟に制御することができる。以下に、シード光パルスの制御の他の例を示す。ただし、シード光パルスの制御は、以下に記載した内容にのみ限定されるものではない。
【0089】
たとえばマルチパルス内のパルスの光量の変化の曲率を、パルス本数に応じて設定しても良い。したがって、パルス本数に応じてパルスの光量の変化の曲率が異なっていてもよい。ただし、マルチパルス内のパルスの本数が増えるほど、増幅ファイバ内において、より多くのポンピング電子が誘導放出に使用されるため、ピークパワーが減少する。したがって、マルチパルスのうちの最初のパルスの光量、および、パルスの光量の変化の曲率を、より小さいパルス数(たとえばパルス数が10)の時の条件に揃えておいてもよい。これにより、パルス数が増えた場合(たとえばパルス数が20あるいは30の場合)にも、ビーム品質を保つことができる。
【0090】
また、繰返し周波数を小さくした場合には、ポンピング時間が増えるため、マルチパルス内の最初のパルスが入射する直前において、ポンピング電子の量がより多くなる。このため、マルチパルス内の最初のパルスによって増幅ファイバから出射されるパルスのピークパワーが高くなりやすい。さらに、増幅ファイバから出射される2番目以降のパルスのピークパワーが大きく減衰する可能性がある。したがって、マルチパルスのうちの最初のパルスの光量および、パルスの光量の変化の曲率を、繰返し周波数が低いときの条件に揃えておいてもよい。あるいは、繰返し周波数が低いほど、マルチパルスのうちの最初のパルスの光量が小さくなるように、最初のパルスの光量が設定されてもよい。これにより、繰返し周波数を変化させた場合に、MOPA型ファイバレーザから出力されるパルスのピークパワーを安定させることができる。
【0091】
また、マルチパルス内の各パルスの幅が大きいほど、より多くのポンピング電子が誘導放出に使用される。この点を考慮して、各パルスの幅が大きいほど、マルチパルス内の最初のパルスの光量を大きくしてもよい。
【0092】
また、マルチパルス内のパルスの間隔が短いほど、より多くのポンピング電子が誘導放出に使用される。したがって、パルスの間隔が短いほど、パルスの光量の変化の曲率を最初は小さくしてもよい。たとえば、パルスの間隔が短いほど、マルチパルス内の最初のパルスの光量を大きくすることにより、パルスの光量の変化の曲率を、最初のほうのパルスに対して小さくし、後のほうのパルスに対して大きくするのでもよい。
【0093】
<E.パルス制御および出力の例>
図11は、本実施の形態におけるシード光パルスの制御によって、増幅ファイバから出力されるパルスの波形の具体的な例を示した図である。
【0094】
図11には、シード光パルスの波形パターンとして、パルスの光量が時間に対して直線的に変化するパターン、および、パルスの光量が時間に対して曲線的に変化するパターンとが示される。さらに、パルスの光量が時間に対して曲線的に変化するパターンについては、1本目のパルス光量がより大きいパターンと、1本目のパルス光量がより小さいパターン(
図11において「入力減少」と表記)とが示される。なお、シード光パルス波形が時間に対して直線的に変化するパターンは、本実施の形態との比較のためのパターンである。
【0095】
図11では、増幅ファイバから出力されるパルスとして、増幅段に入力されるパルスの波形、および、増幅段から出力されるパルスの波形が示される。「増幅段」は、
図1に示す増幅部102に相当する。したがって、増幅段の入力波形とは、
図1の増幅部101から出力されたパルスの波形に相当する。増幅段の出力波形とは、増幅部101から出力されたパルスが増幅部102に入力されることによって増幅部102から出力されたパルスの波形である。
【0096】
まず、シード光パルス波形パターンと増幅段の入力波形とを比較する。パルスの光量が時間に対して直線的に変化するパターン、時間に対して曲線的に変化するパターンの両方とも、増幅段の入力波形におけるパルスの光量の変化は、元のシード光パルス波形パターンにおけるパルスの光量の変化を反映している。すなわち、パルスの光量が時間に対して直線的に変化するパターンの場合、増幅段の入力波形におけるパルスの光量も時間に対して直線的に変化する。パルスの光量が時間に対して曲線的に変化するパターンの場合、増幅段の入力波形におけるパルスの光量も時間に対して曲線的に変化する。本明細書では、このような関係を「比例」と呼ぶ。すなわち増幅部101から出力されるパルスの強度は、シード光パルスの強度と比例の関係にある。
【0097】
増幅部101の光ファイバ1は、入力されたシード光パルスを増幅する。光ファイバ1において、励起準位にある原子の一部は、入力されたマルチパルスによって消費されるものの、励起準位にある原子が十分に残っている。これは、光ファイバ1では、放出断面積などのファイバ固有値が光ファイバ8よりも小さいため、光ファイバ1の出力が小さい一方で、励起光パワーが光ファイバ1に十分に供給されているためである。すなわち、1段目の増幅ファイバである光ファイバ1では、マルチパルスの増幅に用いられる励起光エネルギよりも、光ファイバ1に供給される励起光エネルギが十分に大きい。この結果、光ファイバ1から出力されるパルス光の強度が、入射されるパルス光の強度に比例する。光ファイバ1に供給される励起光エネルギを大きくするためには、励起光のパワーを適切に制御すればよい。制御装置20は、ドライバ22を制御することにより、ドライバ22から励起LD3に供給される励起電流を制御する。したがって、制御装置20により、励起LD3から光ファイバ1に入射される励起光のパワーが制御される。これにより、光ファイバ1に供給される励起光エネルギを大きくすることができる。
【0098】
一方、増幅段の入力波形と、増幅段の出力波形とを比較する。増幅段に入力されるパルスの強度が時間に対して直線的に変化するパターンの場合、最初のパルスのピークパワーが大きい。この結果、2番目のパルスのピークパワーが最初のパルスのピークパワーに対して大きく減衰する。増幅段の出力波形は、増幅段の入力波形に対して、いわば「反転」している。
【0099】
増幅段に入力されるパルスの強度が時間に対して曲線的に変化するパターンの場合、に変化するパターンの場合、増幅段の出力波形では、パルスの強度が時間に対して減少する。しかし、その減衰の程度は、直線的に変化する入力波形パターンに対する増幅段の出力波形に比べて緩やかである。さらに、マルチパルスの最初のパルス強度を減少させることにより、増幅段の出力波形での減衰の程度を抑えることができる。
【0100】
図12は、本実施の形態に従うシード光パルスの制御によるシード光パルスの波形の例、および、MOPA型ファイバレーザからの出力波形の例を示した図である。
図12から、マルチパルス内の複数のパルスの強度を時間に対して曲線的に増加させること、および、マルチパルス内の最初のパルスの強度を小さくすることによって、増幅段から出力される最初のパルスのピークパワーを抑えることができるとともに、各パルスのピークパワーの変動を小さくすることができることが分かる。この状態で増幅段の増幅ファイバに入力される励起光パワーを上昇させることにより、SRSの発生を防ぎつつ平均出力を高めることができる。
【0101】
図13は、本実施の形態によるレーザ加工装置の制御方法の一例を示したフローチャートである。このフローチャートに示された処理は、たとえば制御装置20が、記憶部201からプログラムを読み出すことにより実行されてもよい。言い換えると、プログラムは、コンピュータである制御装置20に、
図13に示す制御方法を実行させるように構成される。
【0102】
図13を参照して、処理が開始されると、ステップS1において、制御装置20(条件設定部202)は、入力部25(
図1を参照)に入力された条件に基づき、記憶部201に記憶されたテーブル(
図7、
図8を参照)を参照して、シード光パルスパターンを選択する(S1)。条件設定部202は、記憶部201に記憶されたテーブルを参照して、入力部25(
図1を参照)に入力された条件(たとえば平均出力、繰り返し周波数等)の条件に該当するマルチパルスの条件(マルチパルスの繰り返し周波数、パルス本数、パルス間隔、パルス幅、およびシードLD電流パターン)を決定する。これにより、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの強度、およびマルチパルス内の複数のパルスの強度の変化の曲率が決定される。
【0103】
制御装置20は、決定されたシード光パルスパターンに従って、ドライバ21を制御することにより、シードLD2を制御する(ステップS2)。シードLD2は、制御装置20の制御により、複数の光パルスの強度が時間に対して曲線的に増加するようにマルチパルスを発する。同様に、ステップS2において、制御装置20は、ドライバ22,23A,23Bをそれぞれ制御することにより、励起LD3,9A,9Bを制御する(ステップS2)。これにより、励起LD3から、シード光パルスを増幅するための励起光が光ファイバ1に入射される。また、励起LD9A,9Bからは、光ファイバ1から出力されるパルスを増幅するための励起光が光ファイバ8に入射される。この結果、光ファイバ8からは、加工対象物50の加工のためのレーザ光が出力される。
【0104】
<F.他の実施の形態>
図7~
図10を参照して説明した例では、励起LD9A,9Bから光ファイバ1に入射される励起光のパワーが一定であるとした。しかしながら、マルチパルス内のパルスの本数が増えるにつれて、励起LD9A,9Bから光ファイバ1に入射される励起光のパワーを上げてもよい。これにより、レーザ平均出力を上げることができる。したがって、本実施の形態では、パルス列に関するパラメータとして、パルス列の繰り返し周波数、複数の光パルスの各々のパルスの幅、複数の光パルスの間の間隔、複数の光パルスの本数、パルス列の平均出力、励起光源に供給される励起電流のうちの少なくとも1つに従って、複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、光パルスの光量の増加の曲率を制御してもよい。
【0105】
また、本実施の形態によれば、レーザ加工装置は、レーザ光出力パワーに基づいて、シード光あるいは励起光のパワーを制御するフィードバック制御を行うことができる。フィードバック制御のための構成を以下に説明する。
【0106】
図14は、レーザ光出力のフィードバック制御のための構成の例を示した図である。
図14に示すように、レーザ加工装置100Aは、レーザ加工装置100の構成要素(
図1参照)に加えて、光分岐器13と、受光素子15とを備える。光分岐器13は、光ファイバ8から出射されたパルス光を分岐する。光分岐器13は、たとえばファイバータップであるが、これに限定されない。受光素子15は、光分岐器13によって分岐されたパルス光を受光して、受光したパルス光の強度を示す受光信号を制御装置20に出力する。したがって、2段目の光ファイバ8による増幅後のパルスパターン(受光素子15にて取得されたパルス番号n1~n*の光パルスのパターン)が、制御装置20に入力される。
【0107】
2段目の光ファイバ8による増幅後のパルスパターンを検出する位置は、上記のように限定されるものではない。たとえば、レーザビーム走査機構14においてパルス光を分岐させて、受光素子15は、その分岐されたパルス光を受光してもよい。受光素子15に入力される光の強度は、その場でイニシャライズされてもよく、事前に光学素子(減衰層など)で調整されることにより上限が決まっていてもよい。設定値にイニシャライズされていることにより、受光素子15の所定の破壊閾値に対してどのくらいの余裕度があるかを確認することができる。
【0108】
制御装置20は、受光素子15からの受光信号に基づいて、シード光のパターンを補正する、または、1段目の増幅部101の励起光パワーを調整する。なお、2段目の増幅部102の励起LD9A,9Bの制御に比べると、1段目の増幅部101の励起LD3の制御のほうがフィードバック制御が容易である。しかし、本実施の形態に係るフィードバック制御では、受光素子15からの受光信号に基づいて、増幅部102の励起LD9A,9Bを制御してもよい。
【0109】
図15は、フィードバック制御のための制御装置の構成を示したブロック図である。
図6に示した構成に加えて、制御装置20は、補正部205を備える。補正部205は、受光素子15からの入力信号である増幅後のパルスパターンに基づき、条件設定部202によって設定されたシードLD2の駆動条件、または励起LD3の駆動条件を補正する。
【0110】
一例では、補正部205は、受光素子15から入力されたパルスパターンから、制御の補正値を算出する。補正部205は、その補正値を用いて、シードLD2に注入する電流のパターンを補正する。あるいは、補正部205は、算出された補正値を用いて、励起LD3に注入する電流の大きさを補正する。励起LD3に注入する電流の大きさを補正することにより、励起LD3から出力される励起光のパワーが補正される。これにより、1段目の光ファイバ1によるパルスの増幅量が調整されるので、2段目の光ファイバ8に入力されるパルス光の強度およびパターンを補正することができる。
【0111】
図16は、本実施の形態に係るフィードバック制御の例を示した図である。なお、
図16に示した数値は、一例であり、本実施の形態を限定することを意図していない。
図16に示されるように、出力光に関する項目「Max/n1」、「Min/n1」、「n2/n1」と、入力光に関する項目「補正」および「補正量」とが対応付けられる。「出力光」とは、2段目の光ファイバ8による増幅後のマルチパルスである。「入力光」とは、シード光、または、1段目の光ファイバ1に入射される励起光を意味する。
【0112】
項目「Max/n1」は、増幅後のマルチパルスにおける、n1のパルスの強度に対する、強度が最大となるパルスの強度比である。「Min/n1」は、増幅後のマルチパルスにおける、n1のパルスの強度に対する、ピークパワーが最小となるパルスの強度比である。「n2/n1」は、増幅後のマルチパルスにおける、n1パルスの強度に対するn2パルスの強度比である。入力光に関する項目「補正」はシードLD2に供給される電流の値の補正、または励起LD3に供給される電流の値の補正の有無を意味する。「補正量」は、その補正における補正量を示す。
【0113】
「Max/n1」、「Min/n1」、「n2/n1」のすべてが1に近い値であるほど、出力光のマルチパルスに含まれる各パルスの強度が揃っていることを示す。
図16に示した例では、たとえばMax/n1=1.03で入力光の補正量値を規定化したとする。すなわちMax/n1=1.03のときには、入力光の補正は「なし」であり、補正量は「0」である。
【0114】
出力光のマルチパルスにおいて、n1パルスの強度が最大であり、n2以後のパルスでは強度が減衰する場合、Max/n1の値は1.00であり、Min/n1およびn2/n1の値は1よりも小さい。特に、マルチパルス内の複数のパルスの間で強度が大きく減衰するほど、Min/n1およびn2/n1の値が小さくなる。したがって、このような場合には、たとえばシードLD2に供給される電流を補正量だけ減少させる。Min/n1およびn2/n1の値が小さいほど補正量が大きい。
【0115】
一方、Max/n1の値が1.03よりも大きい場合、マルチパルス内の複数のパルスの間では、n1パルスのピークパワーよりも、n2以後のパルスの強度が大きい。このような場合にも、「Max/n1」、「Min/n1」、「n2/n1」の値に応じて補正量が決定されて、シードLD2に供給される電流値が、その補正量に従って補正される。この場合、たとえばシードLD2に供給される電流を補正量だけ増加させる。なお、補正量を減少させる場合と比較すると、補正量を増加させる制御のほうが、補正量は小さい。
【0116】
図17は、フィードバック制御に用いる入力光制御の補正量を説明した図である。
図17に示す2つのグラフは、出力光のMin/n1(
図17では「n_min/n1」と表記)に対する補正量の例、および出力光のMax/n1(
図17では「n_max/n1」と表記)に対する補正量の例を示す。
図17のグラフでは、出力光のMax/n1=1.3で補正量の値を規定化している。また、比較のため、2つのグラフは、縦軸のスケールおよび横軸のスケールを同一としている。
【0117】
図17に示すように、出力光の項目Max/n1(n_max/n1)に従って補正量を決定するよりも、出力光の項目Min/n1(n_min/n1)に従って補正量を決定するほうが、入力光の制御のための補正量が大きくなる。これは出力光のMin/n1が小さいほど、出力光のマルチパルスの波形において、n1パルスの強度が最大であり、n2以後のパルスにおいての強度の減衰が大きいためである。
【0118】
補正量の決定について、制御装置20は、たとえば
図16に示される関係を、テーブルの形式で記憶していてもよい。補正部205は、そのテーブルに従って補正量を決定することができる。また、
図17に示されるように、n_min/n1に対する補正量の関係、およびn_max/n1に対する補正量の関係は、適切な関数式によって近似することが可能である。したがって、制御装置20は、n_min/n1に対する補正量の傾向を表わす近似式、および、n_max/n1に対する補正量の傾向を表わす近似式を予め記憶してもよい。補正部205は、それらの近似式に基づき、n_min/n1の値、およびn_max/n1の値から補正量を決定することができる。
【0119】
決定された補正量をシードLD2の電流の制御に適用する場合、n1~n*のパルスに対応するシードLD電流値に補正量が一律に適用されてもよい。すなわち、シードLD電流値が補正量に相当する分だけ全体的に増加あるいは減少してもよい。しかし、補正量の適用はこのように限定されるものではない。特定の番号のパルスのシード電流値にのみ補正量が適用されるのでもよい。たとえば、シード光のマルチパルス内のn1のパルスの光量を補正するために、n1のパルスに対応するシードLD電流値のみ補正されてもよい。あるいは、シード光のマルチパルス内での複数のパルスの光量の増加の曲率を調整するために、1つまたは複数の特定のパルスに対応するシードLD電流値が補正されてもよい。
【0120】
図18は、本実施の形態に係るフィードバック制御によってシードLD電流値が補正される場合のフローを示したフローチャートである。
図18に示すように、処理が開始されると、ステップS11において、受光素子15は、レーザ光パルスを受光する。これにより受光素子15から制御装置20にレーザ光パルスのパルスパターンが入力される。
【0121】
ステップS12において、制御装置20は、レーザ光パルスのパルスパターンに基づき、レーザ光パルスの強度に関する項目n_min/n1、n_max/n1、n2/n1の各々が設定閾値内であるかどうかを判定する。なお、この判定のために設定閾値が制御装置20に予め入力される。判定の基準となる閾値の設定は以下の例に限定されないが、たとえばn_min/n1が0.5以上、n_max/n1が1.3以下、n2/n1が0.5以上とされる。なお、ステップS12において、n2/n1を判定の基準としてもよい。また、ステップS12の判定は、制御装置20内において、たとえば補正部205により実行される。
【0122】
項目n_min/n1、n_max/n1、n2/n1の各々が設定閾値内であると判定される場合(ステップS12においてYES)、補正は完了する。一方、ある項目が設定閾値内にない場合(ステップS12においてNO)、処理はステップS13に進む。ステップS13では、制御装置20において、レーザ光パルスのパルスパターン(マルチパルス)における複数のパルス(パルス番号n1,n2,・・・,n*のパルス)の関係から、シードLD2に注入される電流の補正値が算出される。上記のように、補正部205は、テーブルまたは関数(
図16および
図17を参照)に従って、補正量を決定することができる。なお、補正について、補正部205は、ステップS13において決定した補正量に従って、記憶部201に予め記憶されたテーブル(
図7および
図8を参照)に登録された値を書き換えてもよい。あるいは、補正部205は、記憶部201に予め記憶されたテーブルに登録された値を読み出して、その読み出した値を補正してもよい。この場合、テーブルに登録された値はそのまま維持される。
【0123】
ステップS13に続き、ステップS14では、制御装置20から、シードLD2を駆動するドライバ21(
図1を参照)に、補正した電流パターンが注入される。ステップS14の処理の後、全体の処理は、ステップS11に戻される。
【0124】
図19は、本実施の形態に係るフィードバック制御によって1段目の増幅部101の励起LD3の電流値が補正される場合のフローを示したフローチャートである。
図19に示すフローは、基本的には、
図18に示すフローと同じである。したがって、
図18に示すフローでの処理と同様の処理については、簡単に説明する。
【0125】
処理が開始されると、ステップS21において、受光素子15は、レーザ光パルスを受光する。ステップS22において、制御装置20は、レーザ光パルスのパルスパターンに基づき、レーザ光パルスの強度に関する項目n_min/n1、n_max/n1、n2/n1の各々が設定閾値内であるかどうかを判定する。項目n_min/n1、n_max/n1、n2/n1の各々が設定閾値内であると判定される場合(ステップS22においてYES)、補正は完了する。一方、ある項目が設定閾値内にない場合(ステップS22においてNO)、処理はステップS23に進む。
【0126】
ステップS23では、制御装置20において、レーザ光パルスのパルスパターン(マルチパルス)における複数のパルス(パルス番号n1,n2,・・・,n*のパルス)の関係から、1段目の増幅部101の励起LD3に注入される電流の補正値が算出される。補正部205は、テーブルまたは関数(
図16および
図17を参照)に従って、補正量を決定することができる。補正部205は、ステップ23において決定した補正量に従って、記憶部201に予め記憶されたテーブル(
図7および
図8を参照)に登録された値を書き換えてもよく、記憶部201に予め記憶されたテーブルに登録された値を読み出して、その読み出した値を補正してもよい。
【0127】
ステップS23に続き、ステップS24では、制御装置20から、励起LD3を駆動するドライバ22(
図1を参照)に、補正した電流パターンが注入される。ステップS24の処理の後、全体の処理は、ステップS21に戻される。
【0128】
図18または
図19に示したフィードバック制御を実行するタイミングは特に限定されない。たとえば、フィードバック制御は、実際の加工に先立って、レーザビーム走査機構14のシャッターを閉じた状態で実行されてもよく、加工中に実施されてもよい。
【0129】
<G.付記>
以上のように、本実施の形態は以下のような開示を含む。
【0130】
(構成1)
シード光を発生させるシード光源(2)と、
励起光を発生させる励起光源(3,9A,9B)と、
前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバ(1,8)を含むレーザ増幅部と、
前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構(14)と、
前記シード光源(2)および前記励起光源(3,9A,9B)を制御する制御部(20)とを備え、
前記制御部(20)は、前記シード光源(2)から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源(2)を制御し、
前記制御部(20)は、前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御する、レーザ加工装置(100)。
【0131】
(構成2)
前記増幅ファイバ(1,8)は、
前記シード光源(2)からの前記シード光を前記励起光源(3,9A,9B)からの第1の励起光によって増幅する第1の光ファイバ(1)と、
前記第1の光ファイバから出力された光を前記励起光源(3,9A,9B)からの第2の励起光によって増幅する第2の光ファイバ(8)とを含み、
前記励起光源(3,9A,9B)は、
前記第1の励起光を発する第1の励起光源(3)と、
前記第2の励起光を発する第2の励起光源(9A,9B)とを含み、
前記制御部(20)は、前記第1の光ファイバから出射される複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記第1の励起光のパワーを制御する、構成1に記載のレーザ加工装置(100)。
【0132】
(構成3)
前記制御部(20)は、前記パルス列に関する前記パラメータと、前記最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率との関係を定めるテーブルに従って、前記シード光源(2)を制御する、構成1または構成2に記載のレーザ加工装置(100)。
【0133】
(構成4)
前記パルス列に関する前記パラメータは、
前記パルス列の繰り返し周波数、
前記複数の光パルスの各々のパルスの幅、
前記複数の光パルスの間の間隔、
前記複数の光パルスの本数、
前記パルス列の平均出力、
前記励起光源(3,9A,9B)に供給される励起電流
のうちの少なくとも1つを含む、構成1から構成3のいずれか1つに記載のレーザ加工装置(100)。
【0134】
(構成5)
前記制御部(20)は、前記レーザ増幅部から出力される前記レーザ光のパルス列内の複数のパルスのうちの最初の光パルスの強度と、少なくとも、2番目の光パルス、最大光量の光パルスおよび最小光量の光パルスのうちのいずれかのパルスの強度との比を用いて、次回以降に前記シード光源(2)から発生させる前記パルス列における前記複数のパルスの光量、または、前記励起光源(3,9A,9B)から発生させる前記励起光の光量を補正するフィードバック制御を行う、構成1から構成4のいずれか1つに記載のレーザ加工装置(100)。
【0135】
(構成6)
シード光を発生させるシード光源(2)と、励起光を発生させる励起光源(3,9A,9B)と、前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバ(1,8)を含むレーザ増幅部と、前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構(14)と、前記シード光源(2)および前記励起光源(3,9A,9B)を制御する制御部(20)とを備えたレーザ加工装置(100)の制御方法であって、
前記シード光源(2)から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源(2)を制御するステップ(S1,S2)を備え、
前記シード光源(2)を制御するステップは、
前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップ(S2)を含む、レーザ加工装置(100)の制御方法。
【0136】
(構成7)
シード光を発生させるシード光源(2)と、励起光を発生させる励起光源(3,9A,9B)と、前記シード光と前記励起光とが入射されることにより前記シード光を増幅するように構成された増幅ファイバ(1,8)を含むレーザ増幅部と、前記レーザ増幅部から出力されるレーザ光を走査する走査機構(14)と、前記シード光源(2)および前記励起光源(3,9A,9B)を制御する制御部(20)とを備えたレーザ加工装置(100)の制御方法を前記制御部(20)に実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
前記シード光源(2)から複数の光パルスを含むパルス列を繰り返し発生させ、かつ、前記複数の光パルスの光量が時間に対して曲線的に増加するように、前記シード光源(2)を制御するステップ(S1,S2)を備え、
前記シード光源(2)を制御するステップは、
前記パルス列に関するパラメータに従って、前記複数の光パルスのうちの最初の光パルスの光量、および、前記光パルスの光量の増加の曲率を制御するステップ(S2)を含む、プログラム。
【0137】
本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0138】
1,8 光ファイバ、2 シードLD、3,9A,9B 励起LD、4,6,11 アイソレータ、5,10 コンバイナ、7 バンドパスフィルタ、12 エンドキャップ、13 光分岐器、14 レーザビーム走査機構、15 受光素子、20 制御装置、21,22,23A,23B ドライバ、25 入力部、31,35 コア、32 クラッド、34,38 外皮、36 第1クラッド、37 第2クラッド、50 加工対象物、100 レーザ加工装置、101 増幅部、102 増幅部、201 記憶部、202 条件設定部、203 シードLD制御部、205 補正部、206 励起LD制御部、E1 基底準位、E2 励起準位、N1,N2 原子分布密度、S1,S2,S11~S14,S21~S24 ステップ。