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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018453
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240201BHJP
   H01L 23/28 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
H01L21/78 U
H01L23/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121809
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植茶 雅史
(72)【発明者】
【氏名】南雲 裕司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 勝
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】北市 充
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】木山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
【テーマコード(参考)】
4M109
5F063
【Fターム(参考)】
4M109DB17
5F063AA50
5F063BA43
5F063BA45
5F063BB14
5F063CB03
5F063CB10
5F063CB22
5F063CB28
5F063CC35
5F063DD81
(57)【要約】
【課題】 半導体装置と樹脂との密着性を確保することができる新たな技術を提案する。
【解決手段】 半導体装置は、上から見たときに四角形であり、表面と、表面の反対側に位置する裏面と、表面及び裏面を接続する4つの側面と、を有する半導体基板を備える。各側面は、半導体基板の表面の周縁が伸びる方向に沿って凸部と凹部が交互に繰り返し出現する段差部を有している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上から見たときに四角形であり、表面(12a)と、前記表面の反対側に位置する裏面(12b)と、前記表面及び前記裏面を接続する4つの側面(12c)と、を有する半導体基板(12)を備え、
前記各側面は、前記半導体基板の前記表面の周縁が伸びる方向に沿って凸部(30a)と凹部(30b)が交互に繰り返し出現する段差部(30)を有している、
半導体装置(10、100)。
【請求項2】
前記半導体基板の前記裏面に金属層(140)が設けられており、
前記金属層は、前記裏面の外周縁に沿って間隔を空けて設けられた複数の切り欠き部(141)を有しており、
前記複数の切り欠き部では、前記裏面が露出している、請求項1に記載の半導体装置(100)。
【請求項3】
前記各側面は、少なくとも一部がへき開面である、請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
六方晶の結晶構造を有する半導体ウェハ(2)の第1表面(2a)に形成された金属層(40、140)の表面(40a、140a)に、前記半導体ウェハを複数の四角形領域に区画するように延びる分割予定線(4)に沿って押圧部材(60、160)を押し当てることにより、前記半導体ウェハに前記分割予定線に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に伸びるクラック(5)を形成する工程と、
前記クラックを形成する前記工程の後に、前記第1表面の反対側に位置する前記半導体ウェハの第2表面(2b)に、前記分割予定線に沿って分割部材(62)を押し当てることにより、前記クラックを起点として前記半導体ウェハと前記金属層を分割する工程、
を備え、
前記分割予定線が、前記半導体ウェハの{11-20}面もしくは{1-100}面とは異なる方向に沿って伸びている、
製造方法。
【請求項5】
前記クラックを形成する前記工程では、前記分割予定線に沿って前記金属層(140)に前記押圧部材(160)を押し当てることにより、前記金属層に、前記分割予定線に沿って間隔を空けて配列されているとともに前記半導体ウェハの前記第1表面まで達する複数の穴(142)を形成する、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置及びその製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、表面と、裏面と、表面及び裏面を接続する側面と、を有する半導体基板を備える半導体装置が開示されている。この半導体基板の側面には、半導体基板の表面の周縁が伸びる方向に沿って改質層が設けられている。改質層は、レーザの照射により結晶が改質された結晶欠陥の層である。この半導体装置では、改質層によってパッケージ樹脂に対する密着性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-57579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、特許文献1とは異なる手法により、半導体装置と樹脂との密着性を確保することができる新たな技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置は、上から見たときに四角形であり、表面(12a)と、前記表面の反対側に位置する裏面(12b)と、前記表面及び前記裏面を接続する4つの側面(12c)と、を有する半導体基板(12)を備える。前記各側面は、前記半導体基板の前記表面の周縁が伸びる方向に沿って凸部(30a)と凹部(30b)が交互に繰り返し出現する段差部(30)を有している。
【0006】
この半導体装置では、半導体基板の各側面に、半導体基板の表面の周縁が伸びる方向に沿って凸部と凹部が繰り返される段差部が設けられている。このため、側面の表面積が増大し、例えば、半導体装置を樹脂により封止するときには、段差部に入り込んだ樹脂が、アンカーとして機能する。これにより、封止後の半導体装置と樹脂との間の剥離が抑制される。このように、上記の半導体装置では、半導体基板の各側面の段差部により、樹脂との密着性を確保することができる。
【0007】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、六方晶の結晶構造を有する半導体ウェハ(2)の第1表面(2a)に形成された金属層(40、140)の表面(40a、140a)に、前記半導体ウェハを複数の四角形領域に区画するように延びる分割予定線(4)に沿って押圧部材(60、160)を押し当てることにより、前記半導体ウェハに前記分割予定線に沿うとともに前記半導体ウェハの厚み方向に伸びるクラック(5)を形成する工程と、前記クラックを形成する前記工程の後に、前記第1表面の反対側に位置する前記半導体ウェハの第2表面(2b)に、前記分割予定線に沿って分割部材(62)を押し当てることにより、前記クラックを起点として前記半導体ウェハと前記金属層を分割する工程、を備える。前記分割予定線が、前記半導体ウェハの{11-20}面もしくは{1-100}面とは異なる方向に沿って伸びている。なお、本明細書でいう{11-20}面は、結晶の対称性により等価な全ての面(11-20)、(-1-120)、(1-210)、(-12-10)、(-2110)、(2-1-10)を含む面を意味している。また、本明細書でいう{1-100}面は、結晶の対称性により等価な全ての面(1-100)、(-1100)、(0-110)、(01-10)、(10-10)、(-1010)を含む面を意味している。
【0008】
この製造方法では、半導体ウェハの第1表面に金属層を形成した後に、分割予定線に沿って、第1表面側から金属層の表面に押圧部材を押し当てる。押圧部材を押し当てることにより、第1表面側にクラックが形成される。その後、分割予定線に沿って第2表面側から分割部材を半導体ウェハに押し当てる。これにより、クラックを起点として、クラックを介して隣接する領域を引き離す方向に力が加わる。その結果、クラックが半導体ウェハの厚み方向に伸展する。このとき、半導体ウェハが、クラックを起点として結晶面でへき開することにより、半導体ウェハが分割される。また、金属層に対してもクラックを跨いで隣接する領域を引き離す方向に力が加わり、金属層も分割される。
【0009】
六方晶の結晶構造では、結晶面の一つである{11-20}面が、複数の結晶格子に亘って途切れることなく直線的に伸びている。このため、仮に分割予定線が{11-20}面に一致する方向に沿って伸びている場合、押圧部材を半導体ウェハに押し当てると、クラックが{11-20}面に沿って形成される。上述の通り、半導体ウェハが分割されるときには、半導体ウェハがクラックを起点として、結晶面に沿ってへき開する。このため、{11-20}面に一致する分割予定線に沿って分割部材を半導体ウェハに押し当てると、半導体ウェハが{11-20}面に沿って直線的に分割され得る。この場合、分割後の半導体ウェハの側面(分割面)の少なくとも1つが{11-20}面となり、当該分割面が滑らかな平坦面となる。
【0010】
これに対して、上記の製造方法では、分割予定線が、半導体ウェハの{11-20}面とは異なる方向に沿って伸びている。このため、押圧部材を半導体ウェハに押し当てたときに、クラックが{11-20}面とは異なる方向に沿って形成される。したがって、クラックを起点として半導体ウェハが分割されるときには、分割後の半導体ウェハの側面に複数の凸部及び複数の凹部を有する段差部が形成され、段差部の形成によって側面の表面積が増大する。
【0011】
このように、上記の製造方法では、クラックが{11-20}面とは異なる方向に沿って形成されるので、分割後の半導体ウェハの側面に段差部が形成される。このため、例えば、この製造方法により製造された半導体装置を樹脂により封止するときには、段差部に入り込んだ樹脂が、アンカーとして機能する。これにより、封止後の半導体装置と樹脂との間の剥離が抑制される。このように、上記の製造方法により製造された半導体装置では、その側面に段差部が形成されるため、樹脂との密着性を確保することができる。
【0012】
なお、上述した説明では、分割予定線が{11-20}面とは異なる方向に伸びている場合を例に挙げたが、分割予定線が{1-100}面とは異なる方向に伸びている場合についても同様に、分割後の半導体ウェハの側面に段差部が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の半導体装置の側面図。
図2】実施例1の半導体装置を上から見た図。
図3】SiCの結晶構造を説明するための図。
図4】実施例1の半導体装置の半導体基板のへき開によって段差部が形成された二つの側面の交差辺近傍の部分拡大図。
図5】半導体ウェハの平面図。
図6】実施例1の金属形成工程を説明するための図。
図7】実施例1のクラック形成工程を説明するための図。
図8】実施例1の分割工程を説明するための図。
図9】分割予定線が伸びる方向を説明するための図。
図10】分割工程により分割された半導体ウェハの分割面を示す光学顕微鏡写真。
図11】個片化された複数の半導体装置を示す図。
図12】実施例2の半導体装置を下から見た図。
図13】実施例2の半導体装置を製造するための押圧部材の斜視図。
図14】実施例2のクラック形成工程を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記半導体基板の前記裏面に金属層が設けられていてもよい。前記金属層は、前記裏面の外周縁に沿って間隔を空けて設けられた複数の切り欠き部を有してもよい。前記複数の切り欠き部では、前記裏面が露出していてもよい。
【0015】
このような構成では、金属層に、半導体基板の裏面の外周縁に沿って複数の切り欠き部が設けられている。このため、半導体装置を樹脂により封止するときに、樹脂が切り欠き部にも入り込む。これにより、樹脂が、切り欠き部内においてもアンカーとして機能する。したがって、半導体装置と樹脂との密着性をより確保することができる。
【0016】
本明細書が開示する一例の半導体装置では、前記各側面は、少なくとも一部がへき開面であってもよい。
【0017】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記クラックを形成する工程では、前記分割予定線に沿って前記金属層に前記押圧部材を押し当てることにより、前記金属層に、前記分割予定線に沿って間隔を空けて配列されているとともに前記半導体ウェハの前記第1表面まで達する複数の穴を形成してもよい。
【0018】
このような構成では、分割予定線に沿って半導体ウェハに押圧部材を押し当てたときに、間隔を空けて配列された穴に沿って金属層が分割される。このため、分割後には、半導体ウェハの第1表面が、その外周縁に沿って間隔を空けて露出することとなる。すなわち、分割後の金属層には、その外周縁に沿って間隔を空けて設けられた複数の切り欠き部が形成される。このため、この製造方法により製造された半導体装置を樹脂により封止するときには、樹脂が切り欠き部にも入り込む。これにより、樹脂が、切り欠き部内においてもアンカーとして機能する。したがって、半導体装置と樹脂との密着性をより確保することができる。
【0019】
(実施例1)
以下、図面を参照して、実施例1の半導体装置10について説明する。図1に示すように、半導体装置10は、半導体基板12と、金属層40を備えている。半導体基板12は、表面12aと、表面12aの反対側に位置する裏面12bと、表面12aと裏面12bとを接続する側面12cを有している。図2に示すように、半導体基板12は、上から見たときに、四角形の形状を有している。図示されていないが、半導体基板12には、トランジスタやダイオード等の機能を有する半導体素子が形成されている。半導体基板12は、SiC(炭化シリコン)により構成されている。なお、半導体基板12は、GaN(窒化ガリウム)等の他の半導体材料によって構成されていてもよい。
【0020】
半導体基板12は、図3に示す六方晶の結晶構造を有している。図3に示すように、半導体基板12は、複数の結晶面((11-20)面等)を有している。図示していないが、図3の紙面に平行な面が(0001)面である。本実施例では、半導体基板12の表面12aが(0001)面である。図1及び図4に示すように、半導体基板12の各側面12cには、段差部30が形成されている。図4に示すように、段差部30は、半導体基板12の表面12aの周縁が伸びる方向(半導体基板12を上から見たときに側面12cが伸びる方向)に沿って繰り返し出現する凸部30a及び凹部30bを有している。各凸部30a及び各凹部30bは、半導体基板12の厚み方向に沿って線状に伸びている。複数の凸部30a及び複数の凹部30bにより半導体基板12の各側面12c(図4では仮想線により示す)が構成されている。凸部30a及び凹部30bを構成する各面は、図3に示す結晶面のいずれかに一致している。すなわち、各側面12cは、半導体基板12の複数の結晶面を含んでいる。図1に示すように、段差部30は、半導体基板12の厚み方向において、半導体基板12の表面12aから裏面12bに達しない位置まで形成されている。段差部30が形成されていない部分の半導体基板12の厚みは、特に限定されないが、例えば、約10μmである。
【0021】
図1に示すように、金属層40は、半導体基板12の裏面12bに設けられている。金属層40を構成する材料は特に限定されないが、金属層40は、例えば、チタン、ニッケル及び金を積層した多層膜である。金属層40は、半導体基板12の裏面12bの略全域に設けられている。金属層40は、半導体装置10の電極として機能する。なお、図示していないが、半導体基板12の表面12aに電極が設けられていてもよい。
【0022】
本実施例の半導体装置10は、例えば、半導体モジュールを製造するために、樹脂により封止されることがある。本実施例の半導体装置10では、半導体基板12の各側面12cに、半導体基板12の表面12aの周縁が伸びる方向に沿って凸部30aと凹部30bが繰り返される段差部30が設けられている。このため、半導体装置10を樹脂により封止するときに、樹脂が、段差部30(凹部30b)に入り込むことでアンカーとして機能する。これにより、封止後の半導体装置10と樹脂との間の剥離が抑制される。このように、本実施例の半導体装置10では、半導体基板12の各側面12cの段差部30により、樹脂との密着性を確保することができる。
【0023】
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。まず、図5に示す半導体ウェハ2を準備する。半導体ウェハ2には、複数の素子領域3がマトリクス状に形成されている。図5では、各素子領域3を実線により模式的に示している。説明の便宜上、隣り合う素子領域3の間の境界であって、後に半導体ウェハ2を個々の素子領域3に分割する際の分割線を分割予定線4と称する。すなわち、分割予定線4は、半導体ウェハ2を複数の四角形領域に区画するように延びている。分割予定線4は、実際に半導体ウェハ2の上に記された線ではなく、仮想的な線である。分割予定線4は、目視できるように、実際に半導体ウェハ2の上に描かれた線や溝であってもよい。各素子領域3には、トランジスタやダイオード等の機能を有する半導体素子が形成されている。半導体ウェハ2は、SiC(炭化シリコン)により構成されている。なお、半導体ウェハ2は、GaN(窒化ガリウム)等の他の半導体材料によって構成されていてもよい。図6等に示すように、半導体ウェハ2は、第1表面2aと、第1表面2aの裏側に位置する第2表面2bを有している。なお、後述するが、分割予定線4は、半導体ウェハ2の{11-20}面とは異なる方向に沿って伸びている。
【0024】
(金属層形成工程)
図5に示す半導体ウェハ2に対して、図6に示す金属層形成工程を実施する。金属層形成工程では、半導体ウェハ2の第1表面2aに金属層40を形成する。金属層40は、チタン、ニッケル及び金を積層した多層膜である。金属層40は、第1表面2aの略全域を覆うように形成される。すなわち、金属層40は、複数の素子領域3に跨るように第1表面2a上に形成される。金属層40は、完成した半導体装置の電極として機能する。
【0025】
(クラック形成工程)
次に、図7に示すクラック形成工程を実施する。クラック形成工程では、半導体ウェハ2の第1表面2a側から、金属層40の表面40aに対して、スクライビングホイール60を押し当てることにより、半導体ウェハ2にクラック5を伴うスクライブラインを形成する。スクライビングホイール60は、円板状(円環状)の部材であり、支持装置(不図示)に回転可能に軸支されている。ここでは、スクライビングホイール60を金属層40の表面40aに押し当てながら、分割予定線4に沿って移動(走査)させる。スクライビングホイール60は、分割予定線4に沿って移動する際に、路面上を転がるタイヤのように金属層40の表面40a上を転がる(転動する)。スクライビングホイール60は、周縁部分が鋭くなっており、金属層40の表面40aに分割予定線4に沿って、金属層40が塑性変形したライン(スクライブライン)を形成する。表面40aがスクライビングホイール60により押圧されると、半導体ウェハ2の内部には、金属層40を介して第1表面2aの表層の領域に圧縮応力が生じる。スクライビングホイール60による押圧箇所にはスクライブライン(すなわち、溝)が形成される一方で、圧縮応力が生じた領域の直下では、半導体ウェハ2の内部に引張応力が生じる。引張応力は、圧縮応力が生じる領域の直下において、半導体ウェハ2の第1表面2aに沿って、分割予定線4から離れる方向に生じる。この引張応力により、半導体ウェハ2の内部に、半導体ウェハ2の厚み方向に伸びるクラック5が形成される。ここでは、スクライビングホイール60を、表面40aに押し当てながら、分割予定線4に沿って移動させることにより、隣り合う素子領域3の境界に沿うとともに、半導体ウェハ2の厚み方向に伸びるように、クラック5が形成される。クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2aの表層近傍に形成される。スクライビングホイール60が「押圧部材」の一例である。
【0026】
(分割工程)
次に、図8に示す分割工程を実施する。図8では、第2表面2bを上にして半導体ウェハ2が描かれていることに留意されたい。分割工程では、分割予定線4(クラック形成工程で形成されたクラック5)に沿ってブレイクプレート62を押し当て、分割予定線4に沿って(素子領域3の境界に沿って)半導体ウェハ2を分割する。ここでは、半導体ウェハ2の第2表面2bにブレイクプレート62を押し当てる。ブレイクプレート62は、板状の部材であり、下端(第2表面2bに押し当てられる端縁)部分が稜線状(鋭い刃状)になっているが、半導体ウェハ2を切削することなく、押し付けられるだけである。
【0027】
ブレイクプレート62を第2表面2bに押し当てると、半導体ウェハ2が撓む。ここで、クラック5は、半導体ウェハ2の第1表面2a側に形成されている。このため、半導体ウェハ2に第2表面2b側からブレイクプレート62を押し当てると、押し当てられた部分(ライン)を軸として半導体ウェハ2が撓み、第1表面2a側ではクラック5に対して分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わる。また、上述したように、クラック5の周囲には引張応力が印加されている。このため、第2表面2bにブレイクプレート62を押し当てると、クラック5が半導体ウェハ2の厚み方向に伸展し、クラック5を起点として、半導体ウェハ2が結晶面に沿ってへき開する。これにより、半導体ウェハ2が分割される。すなわち、半導体ウェハ2の分割面(図1等に示す側面12c)はへき開面となる。また、金属層40は、半導体ウェハ2の第1表面2a上に形成されているので、金属層40に対しても分割位置に隣接する2つの素子領域3を引き離す方向に力が加わり、金属層40が引き離されるように変形して分割予定線4に沿って分割される。ブレイクプレート62は、「分割部材」の一例である。
【0028】
ここで、本実施例では、半導体ウェハ2が、六方晶の結晶構造を有している。図9に示すように、六方晶の結晶構造では、結晶面の一つである{11-20}面(図9では、(11-20)面及び(-1-120)面を図示)が、複数の結晶格子に亘って途切れることなく直線的に伸びている。このため、仮に分割予定線4が{11-20}面に一致する方向に沿って伸びている場合、スクライビングホイール60を半導体ウェハ2に押し当てると、クラック5が{11-20}面に沿って形成される。上述したように、半導体ウェハ2が分割されるときには、半導体ウェハ2がクラック5を起点として、結晶面に沿ってへき開する。このため、{11-20}面に一致する分割予定線4に沿ってブレイクプレート62を半導体ウェハ2に押し当てると、半導体ウェハ2が{11-20}面に沿って直線的に分割され得る。この場合、分割後の半導体ウェハ2の側面(分割面)の少なくとも1つが{11-20}面となり、当該分割面が滑らかな平坦面となる。
【0029】
これに対して、本実施例の製造方法では、図9に示すように、分割予定線4が半導体ウェハ2の{11-20}面とは異なる方向({11-20}面から角度θだけ傾斜する方向)に沿って伸びている。このため、スクライビングホイール60を半導体ウェハ2に押し当てたときに、クラック5が{11-20}面とは異なる方向に沿って(分割予定線4に沿って)形成される。したがって、クラック5を起点として半導体ウェハ2が分割されるときには、半導体ウェハ2が、複数の結晶面が露出するようにジグザグにへき開する。その結果、分割後の半導体ウェハ2の側面(分割面)には、複数の結晶面により構成される複数の凸部及び複数の凹部を有する段差部(図4に示す段差部30)が形成される。図10は、上述した分割工程により分割された半導体ウェハ2の分割面を示す光学顕微鏡写真である。図10に示すように、図10の左右方向に沿って、凸部30aと凹部30bが繰り返し出現する段差部30が形成されていることがわかる。
【0030】
分割工程では、上述のブレイクプレート62を第2表面2bに押し当てる工程を、各分割予定線4に沿って繰り返し実施する。これにより、半導体ウェハ2と金属層40を各素子領域3の境界に沿って分割することができる。これにより、図11に示すように、半導体ウェハ2が複数の半導体装置10に個片化される。これにより、金属層40(電極)が形成された複数の半導体装置10が完成する。なお、図11では、段差部30の図示を省略している。
【0031】
以上に説明したように、本実施例の製造方法では、クラック5が{11-20}面とは異なる方向に沿って形成されるので、分割後の半導体ウェハ2の側面に段差部30が形成される。このため、例えば、この製造方法により製造された半導体装置10を樹脂により封止するときには、段差部30に入り込んだ樹脂が、アンカーとして機能する。これにより、封止後の半導体装置10と樹脂との間の剥離が抑制される。このように、本実施例の製造方法により製造された半導体装置10では、その側面12cに段差部30が形成されるため、樹脂との密着性を確保することができる。
【0032】
なお、本実施例の製造方法では、分割予定線4に沿ってクラック5が形成される。このため、分割工程において半導体ウェハ2を分割するときには、図10に示すように、クラック5が形成されている深さ範囲Rには段差部30が形成されず、当該範囲Rは略平坦な面となる。しかしながら、当該範囲Rの深さは、半導体ウェハ2の厚み全体に対して極めて小さいため、製造される半導体装置10において、樹脂に対する密着性にはほとんど影響を与えない。
【0033】
(実施例2)
実施例2の半導体装置100では、金属層140の構成が実施例1と異なっている。実施例1では、金属層40が、半導体基板12の裏面12bの略全域に設けられていた。本実施例では、図12に示すように、金属層140が、半導体基板12の裏面12bの外周縁に沿って所定の間隔で設けられた複数の切り欠き部141を有している。各切り欠き部141では、半導体基板12の裏面12bが露出している。
【0034】
本実施例では、金属層140に、半導体基板12の裏面12bの外周縁に沿って複数の切り欠き部141が設けられている。このため、半導体装置100を樹脂により封止するときに、樹脂が切り欠き部141にも入り込む。これにより、樹脂が、切り欠き部141内においてもアンカーとして機能する。したがって、半導体装置100と樹脂との密着性をより確保することができる。
【0035】
次に、実施例2の半導体装置100の製造方法について説明する。実施例2の製造方法では、実施例1と比較して、クラック形成工程が異なっている。その他の工程(金属層形成工程、分割工程等)については、実施例1と同様である。
【0036】
実施例2では、図13に示すスクライビングホイール160が使用される。スクライビングホイール160は、実施例1のスクライビングホイール60と比較して、周縁部分の構成が異なっている。スクライビングホイール160の周縁部分は、スクライビングホイール160の回転軸方向から見て、波形状を有している。すなわち、周縁部分には、スクライビングホイール160の周方向に沿って複数の溝161が設けられ、スクライビングホイール160の外周を構成する稜線が断続的に存在している。
【0037】
本実施例では、図14に示すように、金属層140の表面140aに対して、スクライビングホイール160を押し当てることにより、半導体ウェハ2にクラック5を形成する。スクライビングホイール160は、周縁部分が波形状を有している(複数の溝161が設けられている)ので、スクライビングホイール160を分割予定線4に沿って一定の荷重で移動(転動)させると、金属層140に対する押圧力が大きい領域と小さい領域とが、分割予定線4に沿って所定の間隔で繰り返し出現する。これにより、半導体ウェハ2には、分割予定線4に沿ってクラック5が形成される一方、金属層140には、スクライビングホイール160の外周に断続的に存在する稜線に対応して、分割予定線4に沿って間隔を空けて配列される穴142が形成される。ここでは、金属層140の表面140aから半導体ウェハ2の第1表面2aまで達する穴142が形成される荷重で、スクライビングホイール160を転動させる。すなわち、この工程では、各穴142の底部に半導体ウェハ2の第1表面2aが露出する。その後、実施例1と同様に、分割工程を行うことにより、半導体ウェハ2が複数の半導体装置100に個片化される。
【0038】
実施例2では、半導体ウェハ2にクラック5を形成するときに、金属層140に対して、分割予定線4に沿って間隔を空けて配列された複数の穴142を同時に形成する。したがって、分割予定線4に沿って半導体ウェハ2にブレイクプレート62を押し当てたときに、間隔を空けて配列された穴142に沿って金属層140が分割される。このため、分割後には、半導体ウェハ2の第1表面2aが、その外周縁に沿って間隔を空けて露出することとなる。すなわち、分割後の金属層140には、その外周縁に沿って間隔を空けて設けられた複数の切り欠き部(図12の符号141)が形成される。このため、本実施例の製造方法により製造された半導体装置100は、樹脂により封止するときに、樹脂が切り欠き部にも入り込む。これにより、樹脂が、切り欠き部内においてもアンカーとして機能する。したがって、半導体装置100と樹脂との密着性をより確保することができる。
【0039】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
2:半導体ウェハ、2a:第1表面、2b:第2表面、4:分割予定線、5:クラック、10:半導体装置、12:半導体基板、12a:表面、12b:裏面、12c:側面、30:段差部、30a:凸部、30b:凹部、40:金属層
図1
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