(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018455
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】流路チップ、誘電泳動装置、及び、制御電圧補正方法
(51)【国際特許分類】
B01D 57/02 20060101AFI20240201BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240201BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240201BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240201BHJP
B03C 5/00 20060101ALI20240201BHJP
B03C 5/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B01D57/02
G01N37/00 101
C12M1/00 A
B01J19/00 N
B01J19/00 321
B03C5/00 Z
B03C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121811
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
【テーマコード(参考)】
4B029
4D054
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
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4D054FA10
4D054FB02
4D054FB09
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4D054FB12
4D054FB13
4D054FB20
4G075AA39
4G075AA61
4G075BB05
4G075DA02
4G075EB21
4G075EB50
4G075EC21
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB11
(57)【要約】
【課題】サンプル液体に含まれる誘電体粒子の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる流路チップを提供する。
【解決手段】流路チップ11は、基板21と液体受け部FWと一対の第1電極33a、33bと一対の第2電極43a、43bとを備える。液体受け部FWには、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能である。一対の第1電極33a、33bは、制御電圧が印加されることによって、液体受け部FWに注入されたサンプル液体に含まれる誘電体粒子P1に対して誘電泳動力を作用させることが可能である。一対の第2電極43a、43bは、一対の第1電極33a、33bと異なる位置に配置される。一対の第1電極33a、33b間に印加される制御電圧は、液体受け部FWに注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスに基づいて補正される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能な液体受け部と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることの可能な一対の第1電極と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される一対の第2電極と
を備え、
前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正される、流路チップ。
【請求項2】
前記参照液体の電気抵抗率は、前記第2電極の電気抵抗率よりも小さい、請求項1に記載の流路チップ。
【請求項3】
前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、補正係数に基づいて補正され、
前記補正係数は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスと、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して測定された前記一対の第1電極間のインピーダンスとに基づいて算出される、請求項1又は請求項2に記載の流路チップ。
【請求項4】
前記制御電圧は、交流電圧であり、
前記補正係数は、前記制御電圧の周波数に応じた値を有する、請求項3に記載の流路チップ。
【請求項5】
前記液体受け部は、
前記基板の前記主面側に配置され、前記サンプル液体を注入することが可能な第1流路と、
前記第1流路から離隔し、前記基板の前記主面側に配置され、前記参照液体を注入することが可能な第2流路と
を含み、
前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置され、
前記一対の第2電極は、前記第1流路及び前記一対の第1電極から離隔し、前記基板の前記主面と前記第2流路との間に配置され、
前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記第2流路に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正される、請求項1又は請求項2に記載の流路チップ。
【請求項6】
前記液体受け部は、
前記基板の前記主面側に配置され、前記サンプル液体を注入することが可能な第1流路と、
前記第1流路から離隔し、前記基板の前記主面側に配置され、前記参照液体を注入することが可能な貯留部と
を含み、
前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置され、
前記一対の第2電極は、前記第1流路及び前記一対の第1電極から離隔し、前記基板の前記主面と前記貯留部との間に配置され、
前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記貯留部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正される、請求項1又は請求項2に記載の流路チップ。
【請求項7】
前記液体受け部は、第1流路を含み、
前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置され、前記制御電圧が印加されることによって、前記第1流路に前記参照液体が注入されていない状態において前記第1流路に注入された前記サンプル液体に含まれる前記誘電体粒子に対して、前記誘電泳動力を作用させることが可能であり、
前記一対の第2電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置され、
前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記第1流路に前記サンプル液体が注入されていない状態において前記第1流路に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正される、請求項1又は請求項2に記載の流路チップ。
【請求項8】
流路チップと、電圧制御装置とを備え、
前記流路チップは、
基板と、
前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能な液体受け部と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることの可能な一対の第1電極と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される一対の第2電極と
を含み、
前記電圧制御装置は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する、誘電泳動装置。
【請求項9】
流路チップを使用する制御電圧補正方法であって、
前記流路チップは、
基板と、
前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能な液体受け部と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることの可能な一対の第1電極と、
前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される一対の第2電極と
を含み、
前記制御電圧補正方法は、
前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して前記一対の第2電極間のインピーダンスを測定する工程と、
前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する工程と
を含む、制御電圧補正方法。
【請求項10】
前記参照液体の電気抵抗率は、前記第2電極の電気抵抗率よりも小さい、請求項9に記載の制御電圧補正方法。
【請求項11】
前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して前記一対の第1電極間のインピーダンスを測定する工程を更に含み、
前記制御電圧を補正する前記工程は、
前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスと、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して測定された前記一対の第1電極間のインピーダンスとに基づいて、補正係数を算出する工程と、
前記補正係数に基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する工程と
を含む、請求項9又は請求項10に記載の制御電圧補正方法。
【請求項12】
前記制御電圧は、交流電圧であり、
前記補正係数を算出する前記工程と、前記制御電圧を補正する前記工程とは、前記制御電圧の周波数が変更される度に実行される、請求項11に記載の制御電圧補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路チップ、誘電泳動装置、及び、制御電圧補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスのようなマイクロ空間内の粒子制御技術として、誘電泳動が活用されている。バイオ分野では、主に細胞又は微生物を対象として、特性解析及び分離濃縮について様々な研究開発が行われている。形態はさまざまであるが、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載された分離装置は、血中循環癌細胞(誘電体粒子)を含む試料液(サンプル液体)が所定方向に流れる流路と、置換部と、解析部と、分離部とを備える。分離部は、一対の電極と、電源部と、収集部とを備える。電源部は、交流電圧を発生して、一対の電極間に供給する。これにより、正の誘電泳動力(引力)が癌細胞に作用し、癌細胞は一対の電極に引きつけられながら一対の電極の延在方向に沿って流路を流れ、収集部に収集される。つまり、分離装置は、白血球等の細胞から癌細胞を分離し、癌細胞を収集する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された分離装置において、分離部の内部には、寄生抵抗及び寄生容量等の様々な寄生成分が存在する。従って、試料液に対して実際に印加される交流電圧の電圧値は、電源部が出力する交流電圧の電圧値(設定値)よりも小さくなる。その結果、白血球等の細胞からの癌細胞の分離性能及び収集性能が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、サンプル液体に含まれる誘電体粒子の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる流路チップ、誘電泳動装置、及び、制御電圧補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面によれば、流路チップは、基板と、液体受け部と、一対の第1電極と、一対の第2電極とを備える。液体受け部は、前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能である。一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることが可能である。一対の第2電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される。前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正される。
【0008】
本発明の一態様においては、前記参照液体の電気抵抗率は、前記第2電極の電気抵抗率よりも小さいことが好ましい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、補正係数に基づいて補正されることが好ましい。前記補正係数は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスと、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して測定された前記一対の第1電極間のインピーダンスとに基づいて算出されることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記制御電圧は、交流電圧であることが好ましい。前記補正係数は、前記制御電圧の周波数に応じた値を有することが好ましい。
【0011】
本発明の一態様においては、前記液体受け部は、第1流路と、第2流路とを含むことが好ましい。第1流路は、前記基板の前記主面側に配置され、前記サンプル液体を注入することが可能であることが好ましい。第2流路は、前記第1流路から離隔し、前記基板の前記主面側に配置され、前記参照液体を注入することが可能であることが好ましい。前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置されることが好ましい。前記一対の第2電極は、前記第1流路及び前記一対の第1電極から離隔し、前記基板の前記主面と前記第2流路との間に配置されることが好ましい。前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記第2流路に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正されることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様においては、前記液体受け部は、第1流路と、貯留部とを含むことが好ましい。第1流路は、前記基板の前記主面側に配置され、前記サンプル液体を注入することが可能であることが好ましい。貯留部は、前記第1流路から離隔し、前記基板の前記主面側に配置され、前記参照液体を注入することが可能であることが好ましい。前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置されることが好ましい。前記一対の第2電極は、前記第1流路及び前記一対の第1電極から離隔し、前記基板の前記主面と前記貯留部との間に配置されることが好ましい。前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記貯留部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正されることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様においては、前記液体受け部は、第1流路を含むことが好ましい。前記一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間に配置され、前記制御電圧が印加されることによって、前記第1流路に前記参照液体が注入されていない状態において前記第1流路に注入された前記サンプル液体に含まれる前記誘電体粒子に対して、前記誘電泳動力を作用させることが可能であることが好ましい。前記一対の第2電極は、前記基板の前記主面と前記第1流路との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置されることが好ましい。前記一対の第1電極間に印加される前記制御電圧は、前記第1流路に前記サンプル液体が注入されていない状態において前記第1流路に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて補正されることが好ましい。
【0014】
本発明の他の局面によれば、誘電泳動装置は、流路チップと、電圧制御装置とを備える。前記流路チップは、基板と、液体受け部と、一対の第1電極と、一対の第2電極とを含む。液体受け部は、前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能である。一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることが可能である。一対の第2電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される。前記電圧制御装置は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する。
【0015】
本発明の更に他の局面によれば、制御電圧補正方法は、流路チップを使用する。前記流路チップは、基板と、液体受け部と、一対の第1電極と、一対の第2電極とを備える。液体受け部は、前記基板の一方の主面側に配置され、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能である。一対の第1電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間に配置され、制御電圧が印加されることによって、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体に含まれる誘電体粒子に対して誘電泳動力を作用させることの可能である。一対の第2電極は、前記基板の前記主面と前記液体受け部との間において、前記一対の第1電極と異なる位置に配置される。前記制御電圧補正方法は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して前記一対の第2電極間のインピーダンスを測定する工程と、前記一対の第2電極間のインピーダンスに基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する工程とを含む。
【0016】
本発明の一態様においては、制御電圧補正方法において、前記参照液体の電気抵抗率は、前記第2電極の電気抵抗率よりも小さいことが好ましい。
【0017】
本発明の一態様においては、制御電圧補正方法は、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して前記一対の第1電極間のインピーダンスを測定する工程を更に含むことが好ましい。前記制御電圧を補正する前記工程は、前記液体受け部に注入された前記参照液体を介して測定された前記一対の第2電極間のインピーダンスと、前記液体受け部に注入された前記サンプル液体を介して測定された前記一対の第1電極間のインピーダンスとに基づいて、補正係数を算出する工程と、前記補正係数に基づいて、前記一対の第1電極間に印加する前記制御電圧を補正する工程とを含むことが好ましい。
【0018】
本発明の一態様においては、前記制御電圧は、交流電圧であることが好ましい。前記補正係数を算出する前記工程と、前記制御電圧を補正する前記工程とは、前記制御電圧の周波数が変更される度に実行されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サンプル液体に含まれる誘電体粒子の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る誘電泳動装置を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す第1電極及び第2電極を拡大して示す図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った流路チップの概略的な断面図である。
【
図4】
図2のIV-IV線に沿った流路チップの概略的な断面図である。
【
図5】
図2のV-V線に沿った流路チップの詳細な断面図である。
【
図6】本実施形態に係る制御電圧補正方法を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係る流路チップの寄生成分を示す等価回路の回路図である。
【
図8】本実施形態に係るサンプル液体を介して測定されたインピーダンス及び参照液体を介して測定されたインピーダンスを示すグラフである。
【
図9】本実施形態に係るサンプル液体を介して測定されたインピーダンスと、参照液体を介して測定されたインピーダンスとの差分値を示すグラフである。
【
図10】本実施形態に係る電圧出力効率の周波数依存性を示すグラフである。
【
図11】本実施形態に係る特定電圧値を有する制御電圧を第1電極に印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値の一例を示すグラフである。
【
図12】本実施形態に係る電圧出力効率の一例を示すグラフである。
【
図13】本実施形態に係る補正係数の一例を示すグラフである。
【
図14】本実施形態に係る補正後の制御電圧を第1電極に印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値を示すグラフである。
【
図15】本実施形態の第1変形例に係る流路チップの貯留部及び第2電極を示す平面図である。
【
図16】
図15のXVI-XVI線に沿った流路チップの概略的な断面図である。
【
図17】本実施形態の第2変形例に係る誘電泳動装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0022】
図1~
図12を参照して、本発明の実施形態に係る誘電泳動装置1を説明する。まず、
図1~
図5を参照して誘電泳動装置1を説明する。
図1は、誘電泳動装置1を示す平面図である。
図2は、
図1に示す第1電極33a、33b及び第2電極43a、43bを拡大して示す図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿った概略的な断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿った概略的な断面図である。
図5は、
図2のV-V線に沿った詳細な断面図である。
【0023】
図1に示すように、誘電泳動装置1は、サンプル液体(試料液体)に含まれる誘電体粒子P1に誘電泳動力を作用させることで、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離して、誘電体粒子P1を収集する。サンプル液体は、例えば、血液などの体液である。血液は、懸濁液の一例である。誘電体粒子P1は、例えば、細胞、タンパク質、核酸、又は、微生物である。細胞は、例えば、癌細胞である。他の成分P2は、例えば、特定種類の誘電体粒子P1と異なる種類の誘電体粒子である。一例として、サンプル液体は血液であり、誘電体粒子P1は癌細胞であり、他の成分P2は白血球である。
【0024】
具体的には、誘電泳動装置1は流路チップ11を備える。流路チップ11は、サンプル液体に含まれる誘電体粒子P1に誘電泳動力を作用させることで、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離して、誘電体粒子P1を収集する。誘電体粒子P1の直径は、例えば、数μm以上、数十μm以下である。
【0025】
流路チップ11は、基板21と、液体受け部FWと、一対の第1電極33a、33bと、一対の第2電極43a、43bと、一対の第1電極パッド部331a、331bと、一対の第2電極パッド部431a、431bとを備える。
【0026】
基板21の素材は、例えば、石英ガラスである。ただし、基板21の素材は、石英ガラスに限定されない。基板21は、略矩形の平板形状を有する。ただし、基板21の形状は、略矩形の平板形状に限定されない。
【0027】
液体受け部FWは、基板21の一対の主面のうちの一方の主面211の側に配置される。
図1の例では、基板21の一方の主面211は基板21の上面であり、基板21の他方の主面は基板21の下面である。
【0028】
液体受け部FWには、サンプル液体又は参照液体を注入することが可能である。液体受け部FWは、サンプル液体又は参照液体を受ける。参照液体は、流路チップ11の寄生成分のうち、サンプル液体の寄生成分以外の寄生成分を抽出する際に参照される液体である。寄生成分とは、寄生抵抗、寄生容量、及び、寄生インダクタンスのうちの1以上の成分のことである。寄生成分の詳細は、後述する。
【0029】
参照液体の電気抵抗は、第2電極43a、43bの電気抵抗よりも小さい。具体的には、参照液体の電気抵抗率は、第2電極43a、43bの電気抵抗率よりも小さい。また、参照液体の電気抵抗は、サンプル液体の電気抵抗よりも小さい。具体的には、参照液体の電気抵抗率は、サンプル液体の電気抵抗率よりも小さい。参照液体は、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液、又は、塩化カリウム(KCl)水溶液である。参照液体の導電率は、例えば、100μS/cm以上である。
【0030】
液体受け部FWは、第1流路31を含む。第1流路31には、サンプル液体を注入することが可能である。サンプル液体は第1流路31を流れる。第1流路31は、分離流路311と、一対の収集流路313a、313bとを含む。また、流路チップ11は、第1供給部315と、第1収集部317aと、第2収集部317bとを更に備える。
【0031】
分離流路311は、方向D1に沿って直線状に延びる。分離流路311の一端は、第1供給部315に接続されている。第1供給部315は、分離流路311にサンプル液体を供給する。第1供給部315は、例えば、開口を有する。第1供給部315は、例えば、サンプル液体の供給源にチューブにより接続される。
【0032】
また、第1流路31は、分離流路311の他端において、収集流路313aと、収集流路313bとに分岐している。
【0033】
収集流路313aは、分離流路311からの誘電体粒子P1が流れ込む流路である。収集流路313bは、分離流路311からの他の成分P2が流れ込む流路である。収集流路313aの一端及び収集流路313bの一端は、分離流路311の他端に接続されている。収集流路313aの他端は、第1収集部317aに接続されている。収集流路313bの他端は、第2収集部317bに接続されている。第1収集部317aは、分離対象である誘電体粒子P1を収集する。第1収集部317aは、例えば、開口を有し、誘電体粒子P1を含む溶液を流路チップ11から外部に供給してよい。第2収集部317bは、非分離対象である他の成分P2を収集する。第2収集部317bは、例えば、開口を有し、他の成分P2を含む溶液を流路チップ11から外部に供給してよい。
【0034】
第1電極33a、33bは、制御電圧Vcnが印加されることによって、液体受け部FWに注入されたサンプル液体に含まれる誘電体粒子P1に対して誘電泳動力を作用させることが可能である。
図1の例では、第1電極33a、33bは、制御電圧Vcnが印加されることによって、第1流路31に注入されたサンプル液体に含まれる誘電体粒子P1に対して誘電泳動力を作用させることが可能である。第1電極33a、33bの素材は、アルミニウム等の金属である。
【0035】
また、第1電極33a、33bは、液体受け部FWに注入されたサンプル液体に対して、測定用電圧Vm1を印加することもできる。測定用電圧Vm1は交流電圧である。測定用電圧Vm1は、第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定するための電圧である。
図1の例では、第1電極33a、33bは、第1流路31に注入されたサンプル液体に対して、測定用電圧Vm1を印加する。
【0036】
図2に示すように、第1電極33a、33bは、平面視において、第1流路31(分離流路311)に対して鋭角θに交差している。第1電極33a、33bの各々は、櫛歯形状の電極である。第1電極33aと第1電極33bとは、電気的に分離されている。
【0037】
第1電極33aは、複数の第1線部333aを含む。複数の第1線部333aは、方向D1に等間隔で配置される。方向D1は、第1流路31(分離流路311)が延びる方向を示す。複数の第1線部333aは、平面視において、第1流路31(分離流路311)に対して鋭角θに交差している。つまり、複数の第1線部333aは、平面視において、方向D1に対して鋭角θに傾斜している。方向D1に対する第1線部333aの傾斜角度θは、例えば、10度以上60度以下である。複数の第1線部333aのうちの1つの第1線部333aの一端は、第1電極パッド部331aに接続される。複数の第1線部333aの他端は連結されている。第1線部333aは、方向D3の一方側と他方側との間において、方向D1に対して鋭角θになるように延在している。方向D3は、基板21に沿って、方向D1に略直交する。
【0038】
第1電極33bは、複数の第1線部333bを含む。複数の第1線部333bは、方向D1に等間隔で配置される。複数の第1線部333bは、平面視において、第1流路31(分離流路311)に対して鋭角θに交差している。つまり、複数の第1線部333bは、平面視において、方向D1に対して鋭角θに傾斜している。方向D1に対する第1線部333bの傾斜角度θは、例えば、10度以上60度以下である。複数の第1線部333bの一端は、第1電極パッド部331bに接続される。第1線部333bは、方向D3の一方側と他方側との間において、方向D1に対して鋭角θになるように延在している。
【0039】
第1線部333aと第1線部333bとは、方向D1において、間隔をあけて交互に配置される。第1線部333aの傾斜角度θと第1線部333bの傾斜角度θとは、略同じである。
【0040】
図2及び
図3に示すように、第1電極33a、33bは、基板21の主面211と液体受け部FW(
図1)との間に配置される。
図3の例では、第1電極33a、33bは、基板21の主面211と第1流路31(分離流路311)との間に配置される。具体的には、第1線部333a、333bが、基板21の主面211と第1流路31(分離流路311)との間に配置される。
【0041】
図3に示すように、第1電極33a、33bは、基板21の主面211に配置されている。また、流路チップ11は、絶縁保護膜23と、流路カバー25とを更に備える。そして、絶縁保護膜23は、第1電極33a、33bを覆う。絶縁保護膜23は、例えば、酸化膜である。酸化膜は、例えば、シリコン酸化膜(SiOx)である。なお、絶縁保護膜23は、絶縁体である限りは特に限定されず、例えば、窒化膜であってもよい。窒化膜は、例えば、シリコン窒化膜である。第1電極33a、33bが絶縁保護膜23で覆われていることによって、電極金属と液体との界面で生じる電気化学的反応を抑制し、経時的な電極金属の劣化及び摩耗を抑制できる。
【0042】
絶縁保護膜23の上面には、流路カバー25が配置されている。流路カバー25の素材は、例えば、PDMS(ジメチルポリシロキサン)等のシリコーンである。流路カバー25は、凹状の流路溝251を有する。流路溝251は、方向D1(
図2)に沿って延びる。方向D3における流路溝251の幅は、例えば、マイクロスケールである。流路溝251と、絶縁保護膜23の上面とによって、第1流路31が構成される。このように、流路カバー25が基板2の主面211の側に取り付けられることにより、第1流路31が基板21の主面211の側に配置される。
【0043】
図1に戻って、方向D3における基板21の幅は、方向D3における流路カバー25の幅よりも大きい。また、第1電極パッド部331a、331bは、方向D3における第1流路31の一方側において、第1流路31(分離流路311)から離れて配置される。第1電極パッド部331aの少なくとも一部及び第1電極パッド部331bの少なくとも一部は、流路カバー25の外側に配置されている。また、第1電極パッド部331a、331bのうち、流路カバー25の外側に配置されている部分は、絶縁保護膜23で覆われていない。従って、流路カバー25の外側において、第1電極パッド部331a、331bを電圧制御装置100に電気的に接続可能である。
【0044】
第1電極パッド部331aは、第1電極33aに接続される。第1電極パッド部331bは、第1電極33bに接続される。
【0045】
液体受け部FWは、第2流路41を更に含む。第2流路41には、参照液体を注入することが可能である。第2流路41は、方向D2に沿って直線状に延びる。方向D2は、方向D1に対して略平行である。方向D2は、第2流路41が延びる方向を示す。第2流路41は、第1流路31から方向D3に離隔している。方向D3は、基板21の主面211に沿って、方向D1、D2に略直交する。参照液体は第2流路41を流れる。また、流路チップ11は、第2供給部411と、回収部413とを更に備える。
【0046】
第2流路41の一端は、第2供給部411に接続されている。第2供給部411は、第2流路41に参照液体を供給する。第2供給部411は、例えば、開口を有する。第2供給部411は、例えば、参照液体の供給源にチューブにより接続される。第2流路41の他端は、回収部413に接続されている。回収部413は、第2流路41から流れ込む参照液体を回収する。回収部413は、例えば、開口を有し、参照液体を流路チップ11から外部に供給してよい。
【0047】
第2電極43a、43bは、液体受け部FWに注入された参照液体に対して、測定用電圧Vm2を印加する。測定用電圧Vm2は交流電圧である。測定用電圧Vm2は、第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定するための電圧である。
図1の例では、第2電極43a、43bは、第2流路41に注入された参照液体に対して、測定用電圧Vm2を印加する。第2電極43a、43bの素材は、アルミニウム等の金属である。
【0048】
図2に示すように、第2電極43a、43bは、方向D3において、第1電極33a、33b及び第1流路31から離隔しつつ、第1電極33a、33bの隣りに配置される。第2電極43a、43bは、平面視において、第2流路41に対して略直交している。第2電極43a、43bの各々は、櫛歯形状の電極である。第2電極43aと第2電極43bとは、電気的に分離されている。
【0049】
第2電極43aは、複数の第2線部433aを含む。複数の第2線部433aは、方向D2に等間隔で配置される。複数の第2線部433aは、平面視において、第2流路41に対して略直交している。複数の第2線部433aの一端は連結されている。複数の第2線部433aのうちの1つの第2線部433aの他端は、第2電極パッド部431aに接続される。第2線部433aは、方向D3の一方側と他方側との間において、方向D1に対して略直交するように延在している。
【0050】
第2電極43bは、複数の第2線部433bを含む。複数の第2線部433bは、方向D2に等間隔で配置される。複数の第2線部433bは、平面視において、第2流路41に対して略直交している。つまり、複数の第2線部433bは、平面視において、方向D2に対して略直交している。複数の第2線部433bの一端と他端とのうちの他端は、第2電極パッド部431bに接続される。第2線部433bは、方向D3の一方側と他方側との間において、方向D1に対して略直交するように延在している。
【0051】
第2線部433aと第2線部433bとは、方向D2において、間隔をあけて交互に配置される。
【0052】
図2及び
図4に示すように、第2電極43a、43bは、基板21の主面211と液体受け部FW(
図1)との間において、第1電極33a、33bと異なる位置に配置される。
図4の例では、第2電極43a、43bは、基板21の主面211と第2流路41との間において、第1電極33a、33bと異なる位置に配置される。具体的には、第2線部433a、433bが、基板21の主面211と第2流路41との間に配置される。
【0053】
図4に示すように、第2電極43a、43bは、基板21の主面211に配置されている。絶縁保護膜23は、第2電極43a、43bを覆う。第2電極43a、43bが絶縁保護膜23で覆われていることによって、電極金属と液体との界面で生じる電気化学的反応を抑制し、経時的な電極金属の劣化及び摩耗を抑制できる。
【0054】
絶縁保護膜23の上面には、流路カバー25が配置されている。流路カバー25は、流路溝251(
図3)と同様の凹状の流路溝252を有する。流路溝252は、方向D2に沿って延びる。方向D3(
図2)における流路溝252の幅は、例えば、マイクロスケールである。流路溝252と、絶縁保護膜23の上面とによって、第2流路41が構成される。このように、流路カバー25が基板2の主面211の側に取り付けられることにより、第2流路41が基板21の主面211の側に配置される。
【0055】
図1に戻って、第2電極パッド部431a、431bは、方向D3における第2流路41の一方側と他方側とのうちの他方側において、第2流路41から離れて配置される。第2電極パッド部431aの少なくとも一部及び第2電極パッド部431bの少なくとも一部は、流路カバー25の外側に配置されている。また、第2電極パッド部431a、431bのうち、流路カバー25の外側に配置されている部分は、絶縁保護膜23で覆われていない。従って、流路カバー25の外側において、第2電極パッド部431a、431bを測定装置200に電気的に接続可能である。
【0056】
第2電極パッド部431aは、第2電極43aに接続される。第2電極パッド部431bは、第2電極43bに接続される。
【0057】
誘電泳動装置1は電圧制御装置100を更に備える。電圧制御装置100は、第1電極パッド部331a、331bに電気的に接続される。
【0058】
電圧制御装置100は、第1電極パッド部331a、331bを介して、第1電極33a、33bに対して、誘電体粒子P1に応じた制御電圧Vcnを印加する。つまり、電圧制御装置100は、第1電極パッド部331a、331bを介して、第1電極33aと第1電極33bとの間に、誘電体粒子P1に応じた制御電圧Vcnを印加する。制御電圧Vcnは交流電圧である。誘電体粒子P1に応じた制御電圧Vcnは、誘電体粒子P1に対して特異的に誘電泳動力(引力)を作用させる電場を発生させる周波数であって、誘電体粒子P1を破壊しない程度の大きさの電圧である。
【0059】
具体的には、制御電圧Vcnの周波数は、第1電極33a、33bによって誘電体粒子P1に対して正の誘電泳動力(引力)が作用するように設定される。従って、正の誘電泳動力(引力)が誘電体粒子P1に作用し、誘電体粒子P1は第1電極33a、33b(第1線部333a、333b)に引きつけられながら第1電極33a、33b(第1線部333a、333b)の延在方向に沿って分離流路311を流れ、収集流路313aを通って第1収集部317aに収集される。一方、他の成分P2に対しては、誘電泳動力が作用しないか、又は、正又は負の誘電泳動力(引力又は斥力)が作用したとしてもその誘電泳動力は比較的小さくなるように、制御電圧Vcnの周波数が設定される。従って、他の成分P2は、分離流路311における方向D1の流れによって流され、収集流路313bを通って第2収集部317bに収集される。
【0060】
以上、
図1を参照して説明したように、誘電体粒子P1に対して正の誘電泳動力(引力)を作用させることで、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離して、誘電体粒子P1を第1収集部317aに収集する。
【0061】
次に、
図5を参照して、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離する原理を説明する。
図5は、
図2のV-V線に沿った詳細な断面図である。
図5に示すように、他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離は、誘電体粒子P1の捕捉を通じて行われる。この場合、誘電体粒子P1に対する捕捉力は、サンプル液体SPの方向D1への進行力と、一対の第1電極33a、33bによって生成される電場EFに起因する電気引力とのバランスとで定まる。方向D1は、第1流路31(分離流路311)におけるサンプル液体SPの流れの方向を示す。また、第1電極33a、33bの傾斜角度θ(
図2)も、誘電体粒子P1の捕捉及び分離に寄与する。以下、本実施形態では、誘電体粒子P1の捕捉及び分離に関し、電気引力(電気的束縛力)に着目する。具体的には、本実施形態では、第1電極33a、33b間に印加される制御電圧Vcnに着目し、流路チップ11の寄生成分に起因する制御電圧Vcnの減衰を抑制する。詳細は、後述する。
【0062】
図1に戻って、電圧制御装置100は、第1電極パッド部331a、331bを介して第1電極33a、33bに測定用電圧Vm1を印加し、サンプル液体を介して第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定することもできる。この場合、電圧制御装置100は、測定用電圧Vm1の周波数を変更しながら、周波数ごとに、インピーダンスIM1を測定する。
【0063】
電圧制御装置100は、電源部101と、制御部102と、測定部103とを含む。
【0064】
制御部102は、電源部101及び測定部103を制御する。制御部102は、例えば、プロセッサと、記憶装置とを含む。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)である。記憶装置は、データ及びコンピュータープログラムを記憶する。記憶装置は、半導体メモリのような主記憶装置と、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ、及び/又は、ハードディスクドライブのような補助記憶装置とを含む。記憶装置は、リムーバブルメディアを含んでいてもよい。記憶装置は、非一時的コンピューター読取可能記憶媒体の一例に相当する。
【0065】
電源部101は、分離対象の誘電体粒子P1に応じた制御電圧Vcn又は測定用電圧Vm1を生成する。そして、電源部101は、第1電極パッド部331a、331bを介して、第1電極33a、33bに対して制御電圧Vcn又は測定用電圧Vm1を印加する。電源部101は、例えば、ファンクションジェネレータ等の信号発生器である。
【0066】
電源部101によって第1電極33a、33b間に測定用電圧Vm1が印加された状態において、測定部103は、液体受け部FWに注入されたサンプル液体を介して一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。
図1の例では、測定部103は、第1流路31に注入されたサンプル液体を介して一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。具体的には、測定部103は、電源部101によって第1電極33a、33b間に測定用電圧Vm1を印加した状態で、第1電極33a、33b間に流れる電流を第1電極33a、33bを介して測定する。測定部103は、測定用電圧Vm1と第1電極33a、33bを介して測定した電流とから、第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を算出する。測定部103は、例えば、オシロスコープ等の測定器である。
【0067】
電圧制御装置100は、例えば、ソース・メジャー・ユニットによって構成されていてもよい。
【0068】
誘電泳動装置1は測定装置200を更に備える。測定装置200は、第2電極パッド部431a、431bに電気的に接続される。
【0069】
測定装置200は、第2電極パッド部431a、431bを介して第2電極43a、43bに測定用電圧Vm2を印加し、参照液体を介して第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。この場合、測定装置200は、測定用電圧Vm2の周波数を変更しながら、周波数ごとに、インピーダンスIM2を測定する。
【0070】
測定装置200は、電源部201と、制御部202と、測定部203とを含む。
【0071】
制御部202は、電源部201及び測定部203を制御する。制御部202の構成は、制御部102の構成と同様である。
【0072】
電源部201は、測定用電圧Vm2を生成する。そして、電源部201は、第2電極パッド部431a、431bを介して、第2電極43a、43bに対して測定用電圧Vm2を印加する。電源部201は、例えば、ファンクションジェネレータ等の信号発生器である。
【0073】
電源部201によって第2電極43a、43b間に測定用電圧Vm2が印加された状態において、測定部203は、液体受け部FWに注入された参照液体を介して一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。
図1の例では、測定部203は、第2流路41に注入された参照液体を介して一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。具体的には、測定部203は、電源部201によって第2電極43a、43b間に測定用電圧Vm2を印加した状態で、第2電極43a、43b間に流れる電流を第2電極43a、43bを介して測定する。測定部203は、測定用電圧Vm2と第2電極43a、43bを介して測定した電流とから、第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を算出する。測定部203は、例えば、オシロスコープ等の測定器である。
【0074】
測定部203は、測定用電圧Vm2の周波数及び第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を示すデータを、電圧制御装置100の制御部102に出力する。
【0075】
測定装置200は、例えば、ソース・メジャー・ユニットによって構成されていてもよい。
【0076】
以上、
図1を参照して説明したように、本実施形態によれば、サンプル液体が注入される第1流路31と、参照液体が注入される第2流路41とが離隔している。そして、サンプル液体のインピーダンスIM1と、参照液体のインピーダンスIM2とが、別々に測定される。従って、第1流路31が参照液体に汚染させることを防止できるとともに、第2流路41がサンプル液体に汚染させることを防止できる。また、インピーダンスIM1の測定とインピーダンスIM2の測定とを並行して実行することもできる。その結果、誘電体粒子P1の分離及び収集処理のスループットを向上できる。
【0077】
次に、
図1及び
図6を参照して、本実施形態に係る制御電圧補正方法を説明する。制御電圧補正方法では、流路チップ11が使用される。制御電圧補正方法は、誘電泳動装置1によって実行される。本実施形態では、制御電圧補正方法を実行することで、流路チップ11において、他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対する流路チップ11の寄生成分の影響を低減できる。
【0078】
図6は、本実施形態に係る制御電圧補正方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、制御電圧補正方法は、工程S1~工程S7を含む。
【0079】
図1及び
図6に示すように、まず、工程S1において、液体受け部FWに参照液体が注入される。本実施形態では、工程S1において、第2供給部411は、第2流路41に参照液体を注入する。
【0080】
次に、工程S2において、測定装置200の電源部201は、一対の第2電極43a、43b間に測定用電圧Vm2を印加し、測定装置200の測定部203は、液体受け部FWに注入された参照液体を介して一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。本実施形態では、工程S2において、測定部203は、第2流路41に注入された参照液体を介して一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。測定用電圧Vm2は、特定電圧値Vxを有する。測定用電圧Vm2は交流電圧である。従って、特定電圧値Vxは実効値によって示される。
【0081】
好ましくは、測定部203は、測定用電圧Vm2の周波数を変えながら、周波数ごとに、参照液体を介して一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。そして、制御部202の記憶装置は、測定用電圧Vm2の周波数ごとに、一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を記憶する。制御部202は、周波数ごとのインピーダンスIM2を示すデータを、電圧制御装置100に出力する。そして、電圧制御装置100において、制御部102の記憶装置は、測定用電圧Vm2の周波数ごとにインピーダンスIM2を記憶する。
【0082】
次に、工程S3において、液体受け部FWにサンプル液体が注入される。本実施形態では、工程S3において、第1供給部315は、第1流路31(分離流路311)にサンプル液体を注入する。
【0083】
次に、工程S4において、電圧制御装置100の電源部101は、一対の第1電極33a、33b間に測定用電圧Vm1を印加し、電圧制御装置100の測定部103は、液体受け部FWに注入されたサンプル液体を介して一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。本実施形態では、工程S4において、測定部103は、第1流路31(分離流路311)に注入されたサンプル液体を介して一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。測定用電圧Vm1は交流電圧である。測定用電圧Vm1は、測定用電圧Vm2と同じ特定電圧値Vxを有する。
【0084】
好ましくは、測定部103は、測定用電圧Vm1の周波数を変えながら、周波数ごとに、サンプル液体を介して一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。そして、制御部102の記憶装置は、測定用電圧Vm1の周波数ごとに、一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を記憶する。
【0085】
次に、工程S5において、電圧制御装置100の制御部102は、工程S2で測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2と、工程S4で測定された一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1とに基づいて、一対の第1電極33a、33b間に印加する制御電圧Vcnを補正する。
【0086】
具体的には、工程S5は、工程S51と、工程S52とを含む。
【0087】
工程S51において、制御部102は、液体受け部FW(第2流路41)に注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2と、液体受け部FW(第1流路31)に注入されたサンプル液体を介して測定された一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1とに基づいて、補正係数Cを算出する。この場合、インピーダンスIM1は、特定周波数fxの測定用電圧Vm1を第1電極33a、33b間に印加したときに測定された第1電極33a、33b間のインピーダンスである。同様に、インピーダンスIM2は、特定周波数fxの測定用電圧Vm2を第2電極43a、43b間に印加したときに測定された第2電極43a、43b間のインピーダンスである。測定用電圧Vm1の特定周波数fxと測定用電圧Vm2の特定周波数fxとは同じである。
【0088】
補正係数Cは、電圧出力効率VOEを使用して、式(1)によって示される。電圧出力効率VOEは、式(2)によって示される。従って、電圧出力効率VOEは、「サンプル液体に印加する電圧の目標値である特定電圧値Vx」に対する「特定電圧値Vxを有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値」の割合を示す。
【0089】
C=1/VOE …(1)
VOE=(IM1-IM2)/IM1 …(2)
【0090】
次に、工程S52において、制御部102は、補正係数Cに基づいて、一対の第1電極33a、33b間に印加する制御電圧Vcnを補正する。具体的には、制御部102は、補正係数Cに基づいて、特定電圧値Vxを有する制御電圧Vcnを補正する。つまり、制御部102は、補正係数Cに基づいて特定電圧値Vxを補正して、補正電圧値Vyを算出する。具体的には、制御部102は、式(3)によって、補正電圧値Vyを算出する。そして、制御部102は、補正電圧値Vy及び特定周波数fxを有する制御電圧Vcnを出力するように、電源部101を制御する。特定電圧値Vxは、サンプル液体に印加する電圧の目標値を示している。
【0091】
Vy=C×Vx …(3)
【0092】
次に、工程S6において、電源部101は、補正後の制御電圧Vcnを第1電極33a、33b間に印加する。補正後の制御電圧Vcnは、補正電圧値Vy及び特定周波数fxを有する制御電圧である。
【0093】
次に、工程S7において、制御部102は、制御電圧Vcnの周波数を変更する指示を受け付けたか否かを判定する。
【0094】
工程S7で周波数を変更する指示を受け付けたと判定された場合は(YES)、処理は工程S51に進む。そして、工程S51において、制御部102は、変更後の周波数を有する測定用電圧Vm1、Vm2で測定されたインピーダンスIM1、IM2に基づいて、補正係数Cを新たに算出する。この場合、制御部102は、変更後の周波数を特定周波数fxに設定する。
【0095】
一方、工程S7で周波数を変更する指示を受け付けていないと判定された場合は(NO)、制御電圧補正方法は終了する。
【0096】
以上、
図6を参照して説明したように、本実施形態によれば、電圧制御装置100は、液体受け部FW(第2流路41)に注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2に基づいて、一対の第1電極33a、33b間に印加する制御電圧Vcnを補正する(工程S5)。従って、流路チップ11において、サンプル液体に含まれる他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる。寄生成分は、流路チップ11の内部に存在する寄生成分である。
【0097】
また、本実施形態によれば、補正係数Cを算出する工程S51と、制御電圧Vcnを補正する工程S52とは、制御電圧Vcnの周波数が変更される度に実行される(工程S7)。従って、制御電圧Vcnの周波数ごとに、周波数に応じて適切に制御電圧Vcnを補正できる。
【0098】
次に、
図7~
図10を参照して、流路チップ11における誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる理由を詳細に説明する。
図7は、流路チップ11の寄生成分(以下、「デバイス内寄生成分PR」と記載する。)を示す等価回路の回路図である。
図8は、サンプル液体を介して測定されたインピーダンスIM1及び参照液体を介して測定されたインピーダンスIM2を示すグラフである。
図9は、周波数が10
4Hz以上10
6Hz以下の範囲でのインピーダンスIM1とインピーダンスIM2との差分値DFを示すグラフである。
図8及び
図9は、両対数グラフを示し、横軸は測定用電圧Vm1、Vm2の周波数[Hz]を示し、縦軸はインピーダンス[Ω]を示す。
図10は、電圧出力効率VOEの周波数依存性を示すグラフである。
図10において、横軸は測定用電圧Vm1、Vm2の周波数[Hz]を示し、縦軸は電圧出力効率VOE[%]を示す。
図10では、理解を容易にするために便宜上、電圧出力効率VOEを百分率[%]で示している。
【0099】
まず、
図7を参照して、デバイス内寄生成分PRについて説明する。
図7に示すように、デバイス内寄生成分PRは、電極金属の寄生成分PR1、絶縁保護膜23の寄生成分PR2、液界面の寄生成分PR3、及び、液の寄生成分RP4を含む。電極金属の寄生成分PR1は、第1電極33a、33bの寄生抵抗R、又は、第2電極43a、43bの寄生抵抗Rを示す。絶縁保護膜23の寄生成分PR2は、絶縁保護膜23の寄生抵抗R及び寄生容量Cを示す。液界面の寄生成分PR3は、第1電極33a、33bとサンプル液体との界面における寄生抵抗R及び寄生容量C、又は、第2電極43a、43bと参照液体との界面における寄生抵抗R及び寄生容量Cを示す。液の寄生成分PR4は、サンプル液体の寄生抵抗R及び寄生容量C、又は、参照液体の寄生抵抗R及び寄生容量Cを示す。
【0100】
本実施形態では、参照液体を使用して、デバイス基礎寄生成分PR0を抽出する。デバイス基礎寄生成分PR0は、デバイス内寄生成分PRのうち、液の寄生成分PR4以外の寄生成分PR1、PR2、PR3である。
【0101】
具体的には、参照液体の電気抵抗率(電気抵抗)は、第2電極43a、43bの電気抵抗率(電気抵抗)よりも小さい。換言すれば、参照液体の導電率は、第2電極43a、43bの導電率よりも大きい。従って、
図8に示すように、測定装置200によって参照液体を介して測定された第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2は、デバイス基礎寄生成分PR0を示す。このように、本実施形態では、流路チップ11のデバイス基礎寄生成分PR0を容易に抽出できる。参照液体の電気抵抗は、例えば、測定用電圧Vm2の周波数が10
4Hz以上10
6Hz以下の範囲において、10
3Ω以下である。参照液体の電気抵抗は、例えば、測定用電圧Vm2の周波数が10
5Hz以上10
6Hz以下の範囲において、10
2Ω以下である。
【0102】
一方、
図8に示すように、電圧制御装置100によってサンプル液体を介して測定された第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1は、デバイス内寄生成分PRを示しており、デバイス基礎寄生成分PR0を含む。
図8の例では、測定用電圧Vm1の周波数が約10
4Hz以上である場合に、インピーダンスIM1は、略一定になる。従って、周波数が約10
4Hz以上である場合のインピーダンスIM1は、主に、サンプル液体の電気抵抗を示す。なぜなら、インピーダンスの虚部であるリアクタンスは周波数依存性を有するが、インピーダンスの実部であるレジスタンスは周波数依存性を有しないからである。
【0103】
そこで、
図9に示すように、周波数が10
4Hz以上10
6Hz以下の範囲において、インピーダンスIM1からインピーダンスIM2を差し引いた差分値DF(=IM1-IM2)は、液の寄生成分PR4(
図7)である「サンプル液体の寄生抵抗(電気抵抗)」を示す。
図8の例では、サンプル液体の寄生抵抗(電気抵抗)を示す差分値DFは、約1kΩである。
【0104】
差分値DF(=IM1-IM2)を使用して、電圧出力効率VOEを、上記の式(2)により算出できる。
図10から理解できるように、周波数が約10kHz以上で、電圧出力効率VOEが50%以上になる。周波数が約10kHz以上であっても、電圧出力効率VOEは、周波数に依存している。
【0105】
電圧出力効率VOEは、「サンプル液体に印加する電圧の目標値である特定電圧値Vx」に対する「特定電圧値Vxを有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値」の割合を示している。流路チップ11には、デバイス基礎寄生成分PR0が存在するため、電圧出力効率VOEは、100%にはならない。つまり、デバイス基礎寄生成分PR0によって、特定電圧値Vxを有する制御電圧Vcnは減衰するため、電圧出力効率VOEは、100%にはならない。
【0106】
そこで、デバイス基礎寄生成分PR0によって減衰する電圧値を、特定電圧値Vxに上乗せすることで、制御電圧Vcnの電圧値を補正する。その結果、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値を、目標値である特定電圧値Vxにすることができる。つまり、本実施形態では、流路チップ11においてサンプル液体に含まれる他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対するデバイス基礎寄生成分PR0の影響を低減できる。
【0107】
具体的には、制御部102は、上記の式(1)及び式(3)に示すように、電圧出力効率VOEから補正係数Cを算出し、補正係数Cを特定電圧値Vxに乗じることで、補正電圧値Vyを算出する。補正係数Cは電圧出力効率VOEの逆数であるため、補正係数Cを特定電圧値Vxに乗じることで、デバイス基礎寄生成分PR0によって減衰する電圧値を特定電圧値Vxに上乗せした補正電圧値Vyを得ることができる。補正係数Cは、1よりも大きい実数である。そして、制御部102は、補正電圧値Vyを有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加するように電源部101を制御する。その結果、電源部101は、補正電圧値Vyを有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加する。本実施形態によれば、インピーダンスIM1、IM2を測定し、補正係数Cを算出することで、制御電圧Vcnを容易に補正できる。
【0108】
ここで、複数の流路チップ11を製造する際には、複数の流路チップ11間において、公差内で製造バラツキが発生し得る。例えば、複数の流路チップ11を製造する際には、複数の流路チップ11間において、公差内で絶縁保護膜23の厚み及び構造のバラツキが発生し得る。特に、絶縁保護膜23の寄生成分PR2(
図7)は、高リアクタンス成分である。従って、特に、複数の流路チップ11間において、絶縁保護膜23のバラツキが発生すると、第1電極33a、33bに印加した制御電圧Vcnと実際にサンプル液体に印加された電圧との差分電圧にも、バラツキが発生し得る。その結果、補正なしでは、複数の流路チップ11間において、分離対象である誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能にもバラツキが発生し得る。
【0109】
そこで、本実施形態では、絶縁保護膜23の寄生成分PR2を含むデバイス基礎寄生成分PR0によって減衰する電圧値を、特定電圧値Vxに上乗せすることで、制御電圧Vcnの電圧値を補正する。つまり、式(1)~式(3)によって、補正係数Cを算出し、補正係数Cによって制御電圧Vcnを補正することで、デバイス基礎寄生成分PR0の影響を低減している。その結果、複数の流路チップ11間において、絶縁保護膜23等の製造バラツキが存在する場合でも、複数の流路チップ11の性能のバラツキを抑制できる。
【0110】
次に、
図11~
図13を参照して、具体例を挙げながら、制御電圧Vcnの補正処理を説明する。
図11~
図13の説明において、一例として、サンプル液体に印加する電圧の目標値である特定電圧値Vxを「12V」とする。
【0111】
図11は、特定電圧値Vxを有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr0を示すグラフである。横軸は制御電圧Vcnの周波数[MHz]を示し、縦軸は電圧[V]を示す。
図12は、
図11の電圧値Vr0に対応する電圧出力効率VOEを示すグラフである。横軸は制御電圧Vcnの周波数[MHz]を示し、縦軸は電圧出力効率VOE[%]を示す。
図12では、理解を容易にするために便宜上、電圧出力効率VOEを百分率[%]で示している。
図13は、補正係数Cを示すグラフである。
図13では、理解を容易にするために便宜上、補正係数Cを百分率[%]で示している。上記の式(1)に示されるように、補正係数Cは、電圧出力効率VOEの逆数(1/VOE)によって示される(C=1/VOE)。横軸は制御電圧Vcnの周波数[MHz]を示し、縦軸は補正係数C[%]を示す。
図14は、補正後の制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合にサンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr1を示すグラフである。横軸は制御電圧Vcnの周波数[MHz]を示し、縦軸は電圧[V]を示す。
【0112】
図11に示されるように、電源部101が特定電圧値Vx(=12V)を有する制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合、デバイス基礎寄生成分PR0の影響により電圧減衰が発生し、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr0は、特定電圧値Vx(=12V)よりも小さくなる。また、電圧値Vr0は、制御電圧Vcnの周波数に応じて変化する。
【0113】
そこで、
図12に示されるように、制御部102は、周波数ごとに電圧出力効率VOEを算出する。電圧出力効率VOEは、
図11に示す電圧値Vr0に対応した値をとる。
【0114】
更に、
図13に示されるように、制御部102は、周波数ごとに、
図12に示す電圧出力効率VOEの逆数である補正係数Cを算出する。そして、制御部102は、上記の式(3)によって、周波数ごとに、補正係数C及び特定電圧値Vxを使用して補正電圧値Vyを算出する。その結果、電源部101は、補正電圧値Vyを有する制御電圧Vcnを、第1電極33a、33bに印加する。
【0115】
よって、
図14に示されるように、補正後の制御電圧Vcnを第1電極33a、33bに印加した場合、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr1は、周波数に依存することなく略一定になる。具体的には、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr1は、目標値である特定電圧値Vx(=12V)に略一致する。このように、デバイス基礎寄生成分PR0の影響を低減して、サンプル液体に対して、目標値である特定電圧値Vx(電圧値Vr1)の電圧を印加できる。
【0116】
また、複数の流路チップ11間において、絶縁保護膜23等の製造バラツキが存在する場合でも、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr1は、目標値である特定電圧値Vx(=12V)に略一致する。このように、絶縁保護膜23の寄生成分PR2等を含むデバイス基礎寄生成分PR0の影響を低減することで、複数の流路チップ11間において、流路チップ11による誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能のバラツキを抑制できる。
【0117】
更に、
図13に示すように、補正係数Cは、制御電圧Vcnの周波数に応じた値を有する。従って、本実施形態によれば、制御電圧Vcnの周波数ごとに、周波数に応じて適切に制御電圧Vcnを補正できる。その結果、
図14に示されるように、広い周波数の範囲にわたって、サンプル液体に実際に印加される電圧の電圧値Vr1を、目標値である特定電圧値Vx(=12V)に略一致させることができる。
【0118】
(第1変形例)
図15及び
図16を参照して、本実施形態の第1変形例に係る流路チップ11を説明する。第1変形例に係る流路チップ11が第2流路41(
図1)に代えて貯留部41Aを備える点で、第1変形例は上記実施形態と主に異なる。以下、第1変形例が上記実施形態と異なる点を主に説明する。
【0119】
図15は、第1変形例に係る流路チップ11の貯留部41A及び第2電極43a、43bを示す平面図である。
図16は、
図15のXVI-XVI線に沿った概略的な断面図である。
図15及び
図16は、流路チップ11のうち、貯留部41Aの周辺及び貯留部41Aのみを示している。
【0120】
図15及び
図16に示すように、流路チップ11は、
図1に示す第2流路41に代えて、貯留部41Aを備える。貯留部41Aには、参照液体を貯留することが可能である。貯留部41Aは、第1流路31(
図1)から離隔している。
図16に示すように、貯留部41Aは、基板21の主面211の側に配置される。貯留部41Aは、流路カバー25に設けられた貫通孔によって構成されている。そして、流路カバー25は、貯留部41Aに参照液体を注入するための開口部412を有している。貯留部41Aは、第2流路41(
図3)のように、四方が壁で囲まれた細長に延びる管状の流路ではなく、上方が開口した凹状の穴として構成されている。
【0121】
図15及び
図16に示すように、流路チップ11は、一対の第2電極43a、43bを有する。一対の第2電極43a、43bは、第1流路31(
図1)及び一対の第1電極33a、33b(
図1)から離隔し、基板21の主面211と貯留部41Aとの間に配置される。第2電極43a、43bは、絶縁保護膜23によって覆われている。
【0122】
第2電極43aは、櫛歯状に配置された複数の第2線部433aを有する。第2電極43bは、櫛歯状に配置された複数の第2線部433bを有する。複数の第2線部433a及び複数の第2線部433bは、方向D1に沿って延びる。複数の第2線部433aは、方向D3において、等間隔で配置される。複数の第2線部433bは、方向D3において、等間隔で配置される。第2線部433aと第2線部433bとは、方向D3において、間隔をあけて交互に配置される。
【0123】
第1変形例に係る流路チップ11の場合、測定装置200は、貯留部41Aに参照液体を注入した状態で、第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。そして、一対の第1電極33a、33b間に印加される制御電圧Vcnは、貯留部41Aに注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2に基づいて補正される。従って、第1変形例によれば、上記実施形態と同様に、流路チップ11において、サンプル液体に含まれる他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる。また、複数の流路チップ11間において、流路チップ11による誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能のバラツキを抑制できる。
【0124】
具体的には、一対の第1電極33a、33b間に印加される制御電圧Vcnは、貯留部41Aに注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2と、第1流路31に注入されたサンプル液体を介して測定された一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1とに基づいて補正される。
【0125】
また、第1変形例によれば、サンプル液体が注入される第1流路31と、参照液体が注入される貯留部41Aとが離隔している。そして、サンプル液体のインピーダンスIM1と、参照液体のインピーダンスIM2とが、別々に測定される。従って、第1流路31が参照液体に汚染させることを防止できるとともに、貯留部41Aがサンプル液体に汚染させることを防止できる。また、インピーダンスIM1の測定とインピーダンスIM2の測定とを並行して実行することもできる。その結果、誘電体粒子P1の分離及び収集処理のスループットを向上できる。
【0126】
(第2変形例)
図17を参照して、本実施形態の第2変形例に係る誘電泳動装置1を説明する。第2変形例に係る流路チップ11Aが第1流路31に第1電極33a、33b及び第2電極43a、43bを備える点で、第2変形例は上記実施形態と主に異なる。以下、第2変形例が上記実施形態と異なる点を主に説明する。
【0127】
図17は、第2変形例に係る誘電泳動装置1を示す平面図である。
図17に示すように、液体受け部FWは、第1流路31を含む。
【0128】
一対の第1電極33a、33bは、第1流路31に参照液体が注入されていない状態において第1流路31に注入されたサンプル液体に含まれる誘電体粒子P1に対して、誘電泳動力を作用させることが可能である。つまり、電圧制御装置100(電源部101)は、第1流路31に参照液体が注入されておらず、第1流路31にサンプル液体が注入されている状態において、第1電極33a、33bに制御電圧Vcnを印加する。
【0129】
また、電圧制御装置100(電源部101)は、第1流路31に参照液体が注入されておらず、第1流路31にサンプル液体が注入されている状態において、第1電極33a、33bに測定用電圧Vm1を印加することもできる。この場合、電圧制御装置100(測定部103)は、第1流路31にサンプル液体が注入された状態において、一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。
【0130】
一方、一対の第2電極43a、43bは、基板21の主面211(
図3)と第1流路31(
図3)との間において、一対の第1電極33a、33bと異なる位置に配置される。
【0131】
測定装置200(電源部201)は、第1流路31にサンプル液体が注入されておらず、第1流路31に参照液体が注入されている状態において、第2電極43a、43bに測定用電圧Vm2を印加する。そして、測定装置200(測定部203)は、第1流路31に参照液体が注入された状態において、一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。
【0132】
一対の第1電極33a、33b間に印加される制御電圧Vcnは、第1流路31にサンプル液体が注入されていない状態において第1流路31に注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2に基づいて補正される。従って、第2変形例によれば、上記実施形態と同様に、流路チップ11Aにおいて、サンプル液体に含まれる他の成分P2からの誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能に対する寄生成分の影響を低減できる。また、複数の流路チップ11A間において、流路チップ11Aによる誘電体粒子P1の分離性能及び収集性能のバラツキを抑制できる。
【0133】
具体的には、一対の第1電極33a、33b間に印加される制御電圧Vcnは、第1流路31に注入された参照液体を介して測定された一対の第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2と、第1流路31に注入されたサンプル液体を介して測定された一対の第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1とに基づいて補正される。
【0134】
引き続き
図17を参照して第2電極43a、43bを説明する。第2電極43a、43bは、第1電極33a、33bに対して方向D1に離隔している。第2電極43a、43bは、絶縁保護膜23(
図3)によって覆われている。
【0135】
第2電極43aは、櫛歯状に配置された複数の第2線部433aを有する。第2電極43bは、櫛歯状に配置された複数の第2線部433bを有する。複数の第2線部433a及び複数の第2線部433bは、方向D3に沿って延びる。第2線部433aと第2線部433bとは、方向D1において、間隔をあけて交互に配置される。
【0136】
複数の第2線部433aの一部は、平面視において、収集流路313aに略直交し、方向D1に等間隔で配置される。複数の第2線部433bの一部は、平面視において、収集流路313aに略直交し、方向D1に等間隔で配置される。
【0137】
複数の第2線部433aの他の一部は、平面視において、収集流路313bに略直交し、方向D1に等間隔で配置される。複数の第2線部433bの他の一部は、平面視において、収集流路313bに略直交し、方向D1に等間隔で配置される。
【0138】
また、第2変形例によれば、第1流路31に対応して、第1電極33a、33b及び第2電極43a、43bを配置している。従って、第2流路41又は貯留部41Aを別個に設ける場合と比較して、流路チップ11Aを小型化できる。
【0139】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素は適宜改変可能である。例えば、ある実施形態に示される全構成要素のうちのある構成要素を別の実施形態の構成要素に追加してもよく、または、ある実施形態に示される全構成要素のうちのいくつかの構成要素を実施形態から削除してもよい。
【0140】
また、図面は、発明の理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の構成は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0141】
(1)
図1、
図15、及び、
図17を参照して説明した本実施形態、第1変形例、及び、第2変形例において、誘電泳動装置1は、電圧制御装置100及び測定装置200のいずれか1つを備えていればよい。誘電泳動装置1が、電圧制御装置100を備え、測定装置200を備えていない場合は、電圧制御装置100を第2電極パッド部431a、431bに接続することで、電圧制御装置100によって、第2電極43a、43b間のインピーダンスIM2を測定する。また、誘電泳動装置1が、測定装置200を備え、電圧制御装置100を備えていない場合は、測定装置200を第1電極パッド部331a、331bに接続することで、測定装置200によって、第1電極33a、33b間のインピーダンスIM1を測定する。また、測定装置200によって、第1電極33a、33b間に制御電圧Vcnを印加する。
【0142】
(2)
図1及び
図15を参照して説明した本実施形態及び第1変形例において、一対の第2電極43a、43bを1組として電極ユニットを構成したときに、流路チップ11は、複数の電極ユニットを備えていてもよい。この場合は、複数の電極ユニットは、方向D2に間隔をあけて配置される。そして、複数の電極ユニットによってそれぞれ測定された複数のインピーダンスIM2の平均値に基づいて補正係数Cを算出してもよい。
【0143】
(3)
図17を参照して説明した第2変形例において、第2電極43a、43bは、第1電極33a、33bよりも、方向D1の下流に配置されていた。ただし、第2電極43a、43bは、第1電極33a、33bよりも、方向D1の上流に配置されていてもよい。
【0144】
また、第2電極43a、43bは、収集流路313a及び収集流路313bのうちのいずれか一方に対応して配置されてもよい。
【0145】
(4)
図6を参照して説明した制御電圧補正方法において、工程S3、S4を工程S1、S2の前に実行してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、流路チップ、誘電泳動装置、及び、制御電圧補正方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0147】
11、11A 流路チップ
21 基板
31 第1流路
41 第2流路
41A 貯留部
33a、33b 第1電極
43a、43b 第2電極
100 電圧制御装置
FW 液体受け部