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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018458
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】制御装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240201BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20240201BHJP
   B60W 40/068 20120101ALI20240201BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240201BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B60W30/02
B60T8/172 B
B60W40/068
B60L15/20 J
B60L7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121816
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100142918
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 貴志
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】劉 海博
(72)【発明者】
【氏名】河合 恵介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充庸
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA49
3D241BB08
3D241BC01
3D241CC01
3D241CC08
3D241CD12
3D241CD17
3D241CE09
3D241DA13Z
3D241DA23Z
3D241DA39Z
3D241DA52B
3D241DA52Z
3D241DB02B
3D241DB05Z
3D241DB27B
3D241DB27Z
3D241DB32B
3D241DC45B
3D241DC45Z
3D241DC47B
3D241DC47Z
3D246DA01
3D246EA01
3D246GB18
3D246GC14
3D246HA02A
3D246HA08A
3D246HA25A
3D246HA35A
3D246HA64A
3D246HA72A
3D246HA93A
3D246HB02C
3D246HC01
3D246JA12
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA15
5H125CB02
5H125DD16
5H125EE41
5H125EE42
5H125EE44
5H125EE52
5H125EE63
(57)【要約】
【課題】スリップ率が小さい走行状態でも正確に路面摩擦係数μの最大値であるμpを推定することが可能な制御装置を提供する。
【解決手段】EVC10は、駆動輪に制駆動トルクを付与するトルク付与部(101)と、路面に対する駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出する率算出部(102)と、路面に対する駆動輪の摩擦係数を算出する係数算出部(103)と、率算出部が算出したスリップ率、及び係数算出部が算出した摩擦係数の組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別し、複数の選択データを用いて摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定する係数推定部(104)と、係数推定部が推定した最大摩擦係数を用いて、制駆動トルクを算出するトルク算出部(105)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与するトルク付与部(101)と、
前記移動体が走行する路面に対する前記駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出する率算出部(102)と、
前記路面に対する前記駆動輪の摩擦係数を、前記制駆動トルク及び前記駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出する係数算出部(103)と、
前記率算出部が算出したスリップ率、及び前記係数算出部が算出した摩擦係数の組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別し、複数の前記選択データを用いて前記摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定する係数推定部(104)と、
前記係数推定部が推定した最大摩擦係数を用いて、前記トルク付与部が付与する前記制駆動トルクを算出するトルク算出部(105)と、を備える制御装置。
【請求項2】
前記係数推定部は、
前記駆動輪の速度が所定値以下の場合に対応する前記組合せデータを前記非選択データとする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記係数推定部は、
前記スリップ率の変化割合が加速中に0以下又は減速中に0以上の場合に対応する前記組合せデータを前記非選択データとする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記係数推定部は、
前記スリップ率が所定値以上の場合に対応する前記組合せデータを前記非選択データとする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記係数推定部は、
前記摩擦係数が0近傍の場合に対応する前記組合せデータを前記非選択データとする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記係数推定部は、
前記駆動輪の方向を入力するステアリングの舵角が所定以上の場合に対応する前記組合せデータを前記非選択データとする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記係数算出部は、前記制駆動トルクを半分の値にして片側の駆動輪に作用するトルクとして前記摩擦係数を算出し、
前記係数推定部は、前記移動体の進行方向に向かって左右に設けられた一対の前記駆動輪の内、前記スリップ率が大きい側の駆動輪における前記選択データを用いて前記最大摩擦係数を推定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記係数推定部は、
複数の前記選択データに、前記スリップ率が0であり前記摩擦係数が0である原点データを加え、前記最大摩擦係数を推定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記係数推定部は、
複数の前記選択データを用いて前記摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定した後、この選択を解除して新たに選択した複数の前記選択データを用いて新たに最大摩擦係数を推定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項10】
制御装置に、
移動体に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与させ、
前記移動体が走行する路面に対する前記駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出させ、
前記路面に対する前記駆動輪の摩擦係数を、前記制駆動トルク及び前記駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出させ、
算出したスリップ率、及び算出した摩擦係数の組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別させ、複数の前記選択データを用いて前記摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定させ、
推定した最大摩擦係数を用いて、前記制駆動トルクを算出させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体である車両の制御装置として、下記特許文献1に記載のスリップ制御装置が知られている。下記特許文献1に記載のスリップ制御装置では、駆動輪にスリップが発生していると判断した場合に、駆動トルクと駆動輪加速度から路面摩擦係数μを簡易的に推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-19622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の路面摩擦係数μを推定する推定方法では、大きなスリップをしたタイミングで路面摩擦係数μを推定することになるので、微小なスリップでは路面摩擦係数μを推定することができず、路面摩擦係数μの推定頻度が極めて少なくなる。例えば、圧雪路を走行中に氷盤路に突入した場合には、路面摩擦係数μが急激に変動するいわゆるμジャンプ走行となるが、このような場合に従来の路面摩擦係数μを推定する推定方法では正しい路面摩擦係数μをリアルタイムに推定することができない。その結果、スリップ制御の精度が低下し、加速性が低下したり、安定性が低下したりするおそれがある。
【0005】
特に、路面摩擦係数μとスリップ率sとの関係は、路面状況によって異なり、路面摩擦係数μの最大値であるμpを推定できると、μpに対応するスリップ率sとなるように駆動制御を実行することが可能となり、路面摩擦係数μに応じた最適な加速性及び安定性を得ることができる。
【0006】
本開示は、スリップ率が小さい走行状態でも正確に路面摩擦係数μの最大値であるμpを推定することが可能な制御装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は制御装置であって、移動体に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与するトルク付与部(101)と、移動体が走行する路面に対する駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出する率算出部(102)と、路面に対する駆動輪の摩擦係数を、制駆動トルク及び駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出する係数算出部(103)と、率算出部が算出したスリップ率、及び係数算出部が算出した摩擦係数の組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別し、複数の選択データを用いて摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定する係数推定部(104)と、係数推定部が推定した最大摩擦係数を用いて、トルク付与部が付与する制駆動トルクを算出するトルク算出部(105)と、を備える。
【0008】
本開示はプログラムであって、制御装置に、移動体に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与させ、移動体が走行する路面に対する駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出させ、路面に対する駆動輪の摩擦係数を、制駆動トルク及び前記駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出させ、算出したスリップ率、及び算出した摩擦係数の組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別させ、複数の選択データを用いて前記摩擦係数の極大値である最大摩擦係数を推定させ、係数推定部が推定した最大摩擦係数を用いて、制駆動トルクを算出させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、スリップ率が小さい走行状態でも正確に路面摩擦係数μの最大値であるμpを推定することが可能な制御装置、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態であるEVCを搭載した車両の構成を説明するための構成図である。
図2図2は、本実施形態であるEVCの機能的な構成を説明するためのブロック構成図である。
図3図3は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図8図8は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、図2に示されるEVCの動作を説明する際に参照するμ―s特性図の一例である。
図10図10は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図11図11は、図2に示されるEVCの動作を説明する際に参照するTsMAX―μp特性図の一例である。
図12図12は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図13図13は、図2に示されるEVCの動作を説明する際に参照するTfil―μp特性図の一例である。
図14図14は、図2に示されるEVCの動作を説明するためのフローチャートである。
図15図15は、図2に示されるEVCの動作を説明する際に参照するTa―Vb特性図の一例である。
図16図16は、図2に示されるEVCの動作を説明する際に参照するTa―Vb特性図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
図1に示されるように、車両2は、EVC(Electric Vehicle Controller)10、EPS(Electric Power Steering)20、ブレーキECU(Electric Control Unit)22、インバータ24、モータジェネレータ26、ステアリング30、アクセルペダル32、ブレーキペダル34、EPSアクチュエータ40、デファレンシャルギア42、右前輪ブレーキ44FR、左前輪ブレーキ44FL、右後輪ブレーキ44RR、左後輪ブレーキ44RL、右前輪46FR、左前輪46FL、右後輪46RR、及び左後輪46RLを備えている。
【0013】
右前輪46FR及び左前輪46FLは、車両2の進行方向を決める操舵輪である。右前輪46FR及び左前輪46FLは、駆動力が伝達されない従動輪である。右前輪46FRは、車両2の右前方に設けられている。左前輪46FLは、車両2の左前方に設けられている。「前方」とは、車両2の前進方向であり、図2の上方向である。
【0014】
右前輪ブレーキ44FRは、右前輪46FRに設けられている。右前輪ブレーキ44FRは、ブレーキECU22から出力される制動信号に基づいて作動し、右前輪46FRに制動力を付与する。左前輪ブレーキ44FLは、左前輪46FLに設けられている。左前輪ブレーキ44FLは、ブレーキECU22から出力される制動信号に基づいて作動し、左前輪46FLに制動力を付与する。
【0015】
右前輪46FR及び左前輪46FLは、同調して左右に角度を変えるように構成されている。右前輪46FR及び左前輪46FLは、EPSアクチュエータ40によって操舵される。EPSアクチュエータ40は、EPS20から出力される操舵信号に基づいて転舵動作を行うように構成されている。EPS20には、操舵角信号が入力される。操舵角信号は、ステアリング30を操作することによって出力される信号である。操舵角信号は、運転者が意図する操舵角を指定する信号である。EPS20には、EVC10から制御信号が出力される。EPS20には、ブレーキECUから制動信号が出力される。EPS20は、操舵角信号、制御信号、及び制動信号を適宜演算することにより操舵信号を算出し、EPSアクチュエータ40に出力する。EPS20は、操舵信号をEVC10及びブレーキECU22に出力する。EPS20は、操舵信号をEPSアクチュエータ40に出力するための制御装置である。EPS20は、信号を送受信するためのインターフェイス、情報を格納するメモリ、演算を実行するCPUといった構成要素を有するコンピュータである。
【0016】
右後輪46RR及び左後輪46RLは、車両2を駆動する駆動輪である。右後輪46RRは、車両2の右後方に設けられている。左後輪46RLは、車両2の左後方に設けられている。「後方」とは、車両2の後退方向であり、図2の下方向である。
【0017】
右後輪ブレーキ44RRは、右後輪46RRに設けられている。右後輪ブレーキ44RRは、ブレーキECU22から出力される制動信号に基づいて作動し、右後輪46RRに制動力を付与する。左後輪ブレーキ44RLは、左後輪46RLに設けられている。左後輪ブレーキ44RLは、ブレーキECU22から出力される制動信号に基づいて作動し、左後輪46RLに制動力を付与する。
【0018】
ブレーキECU22は、所望の制動力を発生させるため、制動信号を各ブレーキに出力するための制御装置である。ブレーキECU22は、信号を送受信するためのインターフェイス、情報を格納するメモリ、演算を実行するCPUといった構成要素を有するコンピュータである。ブレーキECU22には、ブレーキペダル34を操作することによって出力させるブレーキ操作信号が入力される。ブレーキECU22には、EVC10から制御信号が出力される。ブレーキECU22には、EPS20から操舵信号が出力される。ブレーキECU22は、ブレーキ操作信号、制御信号、及び操舵信号を適宜演算することにより制動信号を算出する。ブレーキECU22は制動信号を、右前輪ブレーキ44FR、左前輪ブレーキ44FL、右後輪ブレーキ44RR、及び左後輪ブレーキ44RLに出力する。
【0019】
モータジェネレータ26は、駆動力を発生するモータとして機能するとともに、回生エネルギーを回収するジェネレータとしても機能する。モータジェネレータ26は、インバータ26から出力される交流電流によって回転駆動し駆動トルクを発生させる。発生した駆動トルクは、デファレンシャルギア42を介して右後輪46RR及び左後輪46RLに案分伝達される。
【0020】
インバータ24は、図示しないバッテリから供給される直流電流を交流電流に変換し、所望の周波数及び電圧でモータジェネレータ24に供給する。インバータ24は、EVC10から出力される目標トルク信号に基づいて、モータジェネレータ24が発生する駆動トルクに応じた電力を供給する。
【0021】
EVC10は、車両2を統合制御する制御装置である。EVC10は、信号を送受信するためのインターフェイス、情報を格納するメモリ、演算を実行するCPUといった構成要素を有するコンピュータである。EVC10には、アクセルペダル32の操作に応じたアクセル操作信号が入力される。EVC10には、EPS20から操舵信号が入力される。EVC10には、ブレーキECU22から制動信号が入力される。EVC10には、インバータ24からモータ電流信号が入力される。EVC10には、図示しないシフトレバーの操作に応じたシフトポジション信号が入力される。シフトポジション信号は、例えば、前進を指示するD信号や、後退を指示するR信号を含む。
【0022】
続いて、図2を参照しながら制御装置としてのEVC10の機能的な構成について説明する。EVC10には、駆動輪速度信号、従動輪速度信号、Gセンサ信号、モータ電流信号、アクセル操作信号、ブレーキ操作信号、及びシフトポジション信号が入力される。駆動輪速度信号は、右後輪46RRの回転速度を示す信号及び左後輪46RLの回転速度を示す信号を含んでいる。従動輪速度信号は、右前輪46FRの回転速度を示す信号及び左前輪46FLの回転速度を示す信号を含んでいる。Gセンサ信号は、図示しないGセンサが出力する信号であって、車両2にかかる加速度を示す信号である。モータ電流信号は、モータジェネレータ26に流れる電流値を示す信号である。
【0023】
EVC10は、機能的な構成要素として、要求トルク算出部100、トルク付与部101、率算出部102、係数算出部103、係数推定部104、及びトルク算出部105を備える。
【0024】
要求トルク算出部100は、EVC10に入力される各種信号に基づいて、アクセル要求トルクTaを算出する部分である。要求トルク算出部100は、例えば、アクセル操作信号やブレーキ操作信号に基づいて、駆動トルクや制動トルクを指定するアクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、例えば、シフトポジション信号に基づいて、前進や後退を指定するアクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaをトルク付与部101に出力する。
【0025】
トルク付与部101は、移動体である車両2に設けられた駆動輪としての右後輪46RR及び左後輪46RLに駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与する。トルク付与部101は、制駆動トルクを指定する目標トルク信号をインバータ24及びブレーキECU22に出力する。トルク付与部101は、要求トルク算出部100が算出するアクセル要求トルクTa、及びトルク算出部105が算出する補正されたアクセル要求トルクTaやスリップトルクTsの内、最も小さいトルクを目標トルクとする。制動方向に作用する制動トルクは、駆動輪のみならず従動輪にも付与することができる。制動方向に作用する制動トルクは、モータジェネレータ26による回生制動トルクとして付与してもよい。制動方向に作用する制動トルクは、右前輪ブレーキ44FR、左前輪ブレーキ44FL、右後輪ブレーキ44RR、及び左後輪ブレーキ44RLによる摩擦制動トルクとして付与してもよい。
【0026】
率算出部102は、移動体である車両2が走行する路面に対する駆動輪としての右後輪46RR及び左後輪46RLの滑り状態を示すスリップ率sを算出する。
【0027】
係数算出部103は、路面に対する駆動輪としての右後輪46RR及び左後輪46RLの摩擦係数μを、制駆動トルク及び駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出する。
【0028】
係数推定部104は、率算出部102が算出したスリップ率s、及びスリップ率と同じタイミングにおいて係数算出部103が算出した摩擦係数μの組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別する。係数推定部104は、複数の選択データを用いて摩擦係数μの極大値である最大摩擦係数μpを推定する。
【0029】
トルク算出部105は、係数推定部104が推定した最大摩擦係数μpを用いて、トルク付与部101が付与する制駆動トルクを算出する部分である。
【0030】
続いて、図3,4,5を参照しながら、最大摩擦係数μpの推定方法について説明する。図3のステップS101では、要求トルク算出部100がアクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaが0より大きいか否かを判断する。アクセル要求トルクTa>0であれば(S101:YES)、加速状態と判断され、プロセスがステップS102に進む。アクセル要求トルクTa>0でなければ(S101:NO)、減速状態と判断され、プロセスがステップS103に進む。
【0031】
ステップS102では、率算出部102が、右後輪46RRの車輪速度Vrrと、左後輪46RLの車輪速度Vrlとを比較する。率算出部102は、右後輪46RR側と左後輪46RL側とのどちらが低μ状態であるかを判断する。ステップS102は、加速状態前提の判断となるので、車輪速度が大きい方が低μ状態である。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrであれば(S102:YES)、プロセスはステップS105に進む。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrでなければ(S102:NO)、プロセスはステップS104に進む。
【0032】
ステップS104では、率算出部102がスリップ率sを次式(f001)で算出する。
s=(Vrr―Vb)/Vb (f001)
Vbは車体速度であり、公知の方法で算出することができる。車体速度Vbとして、従動輪速度Vを用いてもよい。
【0033】
ステップS105では、率算出部102がスリップ率sを次式(f002)で算出する。
s=(Vrl―Vb)/Vb (f002)
【0034】
ステップS103では、率算出部102が、右後輪46RRの車輪速度Vrrと、左後輪46RLの車輪速度Vrlとを比較する。率算出部102は、右後輪46RR側と左後輪46RL側とのどちらが低μ状態であるかを判断する。ステップS103は、減速状態前提の判断となるので、車輪速度が小さいが低μ状態である。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrであれば(S103:YES)、プロセスはステップS107に進む。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrでなければ(S103:NO)、プロセスはステップS106に進む。
【0035】
ステップS106では、率算出部102がスリップ率sを次式(f002)で算出する。
s=(Vrl―Vb)/Vb (f002)
【0036】
ステップS107では、率算出部102がスリップ率sを次式(f001)で算出する。
s=(Vrr―Vb)/Vb (f001)
【0037】
ステップS104、ステップS105、ステップS106、及びステップS107の処理が終了し、スリップ率sが算出されると、プロセスはステップS108に進む。
【0038】
ステップS108では、係数算出部103が、摩擦係数μを算出する。摩擦係数μは、駆動力Fxをタイヤ荷重Fzで除することで求められる。駆動力Fxは、次式(f003)で算出する。
【数1】

Mは、車体重量である。Vは、従動輪速度である。Frは、車両R/L(Road Load)であり、舗装された水平の道路を一定の速度で走行した際に受ける抵抗である。Frは、車体速度Vbに応じたマップ検索で算出される。TMGは、モータジェネレータ26が発生する駆動トルクである。TMGは、モータ電流から推定し、MGトルク遅れを模擬した時定数を有するローパスフィルタをかけて演算に使用することができる。TMGは、デファレンシャルギア42で左右輪にトルクが案分される。Tは、モータジェネレータ26に係る負荷又は損失である。Tは、駆動輪速度Vdに応じたマップ検索で算出される。rは、タイヤ半径である。
【0039】
タイヤ荷重Fzは、次式(f004)で算出する。
【数2】

lrは、車両2の重心から後輪中心までの距離である。Lは、前後輪のホイール間距離である。hは、車両2の重心高さである。摩擦係数μは、次式(f005)で算出する。
【数3】

Jは、駆動輪周りのイナーシャである。ωは、駆動輪速度である。駆動輪加速度は、ノイズ消し程度の時定数を有するローパスフィルタをかけて演算に用いることができる。
尚、摩擦係数μは、モータジェネレータ26が発生する駆動トルクTMGと、駆動輪加速度ΔVdとのマップから求めてもよい。
【0040】
ステップS108において、摩擦係数μが算出されると、プロセスは図4におけるステップS111に進む。図4を参照しながら説明を続ける。
【0041】
ステップS111では、要求トルク算出部100が、アクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaが0より大きいか否かを判断する。アクセル要求トルクTa>0であれば(S111:YES)、加速状態と判断され、プロセスはステップS112に進む。アクセル要求トルクTa>0でなければ(S111:NO)、減速状態と判断され、プロセスはステップS113に進む。
【0042】
ステップS112では、率算出部102が、スリップ率変化割合Δsが0以上か否かを判断する。スリップ率変化割合Δs≧0であれば(S112:YES)、プロセスはステップS114に進む。スリップ率変化割合Δs<0であれば(S112:NO)、プロセスはステップS119に進む。スリップ率の変化は加速側と減速側とでヒステリシスを持つので、ステップS112の判断においてはヒステリシスを持たせて判断する。
【0043】
ステップS113では、率算出部102が、スリップ率変化割合Δsが0以下か否かを判断する。スリップ率変化割合Δs>0であれば(S113:YES)、プロセスはステップS119に進む。スリップ率変化割合Δs≦0であれば(S113:NO)、プロセスはステップS114に進む。スリップ率の変化は加速側と減速側とでヒステリシスを持つので、ステップS113の判断においてはヒステリシスを持たせて判断する。
【0044】
ステップS114では、率算出部102が、スリップ量sの絶対値が所定値Mx未満であるか否かを判断する。|スリップ率s|<Mxであれば(S114:YES)、プロセスはステップS115に進む。|スリップ率s|<Mxでなければ(S114:NO)、プロセスはステップS119に進む。
【0045】
ステップS115では、係数算出部103が、摩擦係数μが0近傍であるか否かを判断する。|μ|>Pdであれば(S115:YES)、プロセスはステップS116に進む。|μ|>Pdでなければ(S115:NO)、プロセスはステップS119に進む。判断値Pdは、0としてもよく、0近傍の値としてもよい。
【0046】
ステップS116では、要求トルク算出部100が、駆動輪速度Vdの絶対値が1kphより大きいか否かを判断する。|Vd|>1kphであれば(S116:YES)、プロセスはステップS117に進む。|Vd|>1kphでなければ(S116:NO)、プロセスはステップS119に進む。尚、モータジェネレータのレゾルバ回転センサを用いて駆動輪速度Vdが正確に測定できれば、このステップS116の処理をしなくてもよい。
【0047】
ステップS117では、舵角が旋回状態であるか否かを判断する。|舵角|<Psであれば(ステップS117:YES)、プロセスはステップS118に進む。|舵角|<Psでなければ(ステップS117:NO)、プロセスはステップS119に進む。判断値Psは、舵角が旋回状態であるか直進状態であるかを判断する値に設定される。尚、横力補正を行って推定するのであれば、このステップS117の処理をしなくてもよい。
【0048】
ステップS118では、係数推定部104が、摩擦係数μとスリップ率sとの組合せデータ(μ,s)のマスクフラグXmaskを0に設定する。ステップS118では、係数推定部104が、摩擦係数μとスリップ率sとの組合せデータ(μ,s)のマスクフラグXmaskを1に設定する。ステップS118及びステップS119におけるマスクフラグ設定が完了すると、プロセスは図5におけるステップS121に進む。図5を参照しながら説明を続ける。
【0049】
ステップS121では、係数推定部104が、摩擦係数μとスリップ率sとの組合せデータ(μ,s)のマスクフラグXmaskが0であるか否かを判断する。Xmasuk=0であれば(ステップS121:YES)、プロセスはステップS122に進む。Xmasuk=0でなければ(ステップS121:NO)、プロセスはステップS124に進む。
【0050】
ステップS122では、係数推定部104が、マスクフラグXmaskが0となっている組合せデータ(μ,s)を記憶する。マスクフラグXmaskが0となっている組合せデータ(μ,s)は、記憶される選択データとなる。マスクフラグXmaskが1となっている組合せデータ(μ,s)は、記憶されない非選択データとなる。ステップS122に続くステップS123では、係数推定部104が、サンプルカウンターCsplを1つカウントアップする。
【0051】
ステップS124では、係数推定部104が、サンプルカウンターCsplが10以上となっているか否かを判断する。サンプルカウンターCspl≧10であれば(ステップS124:YES)、プロセスはステップS125に進む。サンプルカウンターCspl≧10でなければ(ステップS124:NO)、処理を終了しリターンする。
【0052】
ステップS125では、係数推定部104が、摩擦係数μの極大値である最大摩擦係数μpを3次関数近似によって推定する。係数推定部104は、所定数記憶している組合せデータ(μ,s)に原点データとして(0,0)を加え、3次関数近似によって最大摩擦係数μpを推定する。具体的な推定方法は後述する。ステップS125に続くステップS126では、係数推定部104が、サンプルカウンターCsplをリセットする。ステップS126に続くステップS127では、係数推定部104が、記憶している組合せデータ(μ,s)を消去する。
【0053】
続いて、係数推定部104による最大摩擦係数μpの推定方法について説明する。
3次関数近似したブラシモデル式は次式(f101)で表すことができる。式(f101)を式(f102)に変形する。尚、μは摩擦係数、sはスリップ率である。
【数4】

【数5】
【0054】
次式(f103)、(f104)、(f105)のように定義する。sに続く括弧内の数字及びμに続く括弧内の数字は、メモリに記憶してあるデータ番号である。
【数6】

【数7】

【数8】
【0055】
次式(f106)を計算することで、パラメータA,B,Cを算出することができる。
【数9】
【0056】
メモリに保存した1~N番目までのデータを次式(f107)のように連立させ、式(f108)のように行列形式に変換する。
【数10】

【数11】
【0057】
次式f(109)のように両辺にXをかけて、Dに掛ける数をXXの正方行列にする。
【数12】
【0058】
式(f109)の両辺にXXの逆行列(XX)-1をかけて、係数行列Dを次式f110で求める。
【数13】
【0059】
続いて、最大摩擦係数μpを求める。タイヤブラシモデル式が次式(f111)で泡わすことができる。
【数14】
【0060】
続いて、s/s+1をsと置くことで、3次関数近似を実行し次式(f112)を得る。
【数15】
【0061】
式(f112)において、s、s2、s3の係数をそれぞれA、B、Cとおくと、次式(f113)を得る。
【数16】
【0062】
式(f112)と式(f113)とから、式(f114)、式(f115)、式(f116)を得る。
【数17】

【数18】

【数19】
【0063】
最大摩擦係数μpを次式(f117)で算出することができる。
【数20】
【0064】
続いて、スリップ制御について図6,7,8を参照しながら説明する。図6のステップS201では、要求トルク算出部100が、アクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaが0より大きいか否かを判断する。アクセル要求トルクTa>0であれば(S201:YES)、加速状態と判断され、プロセスはステップS202に進む。アクセル要求トルクTa>0でなければ(S201:NO)、減速状態と判断され、プロセスはステップS203に進む。
【0065】
ステップS202では、トルク算出部105が、右後輪46RRの車輪速度Vrrと、左後輪46RLの車輪速度Vrlとを比較する。トルク算出部105は、右後輪46RR側と左後輪46RL側とのどちらを駆動輪速度として選択すべきかを判断する。ステップS202は、加速状態前提の判断となるので、車輪速度が大きい方を駆動輪速度として選択する。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrであれば(S202:YES)、プロセスはステップS205に進む。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrでなければ(S202:NO)、プロセスはステップS204に進む。
【0066】
ステップS204では、トルク算出部105が、右後輪46RRの車輪速度Vrrを駆動輪速度Vdとして設定する。ステップS205では、トルク算出部105が、左後輪46RLの車輪速度Vrlを駆動輪速度Vdとして設定する。
【0067】
ステップS203では、トルク算出部105が、右後輪46RRの車輪速度Vrrと、左後輪46RLの車輪速度Vrlとを比較する。トルク算出部105は、右後輪46RR側と左後輪46RL側とのどちらを駆動輪速度として選択すべきかを判断する。ステップS203は、減速状態前提の判断となるので、車輪速度が小さい方を駆動輪速度として選択する。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrであれば(S203:YES)、プロセスはステップS207に進む。車輪速度Vrl>車輪速度Vrrでなければ(S203:NO)、プロセスはステップS206に進む。
【0068】
ステップS207では、トルク算出部105が、右後輪46RRの車輪速度Vrrを駆動輪速度Vdとして設定する。ステップS206では、トルク算出部105が、左後輪46RLの車輪速度Vrlを駆動輪速度Vdとして設定する。
【0069】
ステップS204、ステップS205、ステップS206、及びステップS207の処理が終了し、駆動輪速度Vdが算出されると、プロセスはステップS208に進む。
【0070】
ステップS208では、トルク算出部105が、スリップ制御を開始するか否かを判断する。トルク算出部105は、駆動輪速度Vdと車体速度Vbとの差分の絶対値が、3kph以上となる場合にスリップ制御を開始すると判断する。|Vd-Vb|≧3kphであれば(S208:YES)、プロセスはステップS209に進む。|Vd-Vb|≧3kphでなければ(S208:NO)、プロセスはステップS210に進む。
【0071】
尚、車体速度Vbは、図1に例示するような2輪駆動の場合は従動輪速度を用いる。従って、右前輪46FRの車輪速度及び左前輪46FLの車輪速度から従動輪速度を算出し、車体速度Vbとする。
【0072】
4輪駆動の場合の車体速度Vbの算出方法について、図7を参照しながら説明する。ステップS301では、トルク算出部105が、Gセンサからの推定車速VGを算出する。推定車速VGは、推定車速VGの前回値であって保存されている前回推定車速VGpreとGセンサからの出力値の積分値を加算して算出する。
【0073】
ステップS301に続くステップS302では、要求トルク算出部100が、アクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaが0より大きいか否かを判断する。アクセル要求トルクTa>0であれば(S302:YES)、加速状態と判断され、プロセスはステップS303に進む。アクセル要求トルクTa>0でなければ(S302:NO)、減速状態と判断され、プロセスはステップS304に進む。
【0074】
ステップS303では、トルク算出部105が、車体速度Vbの推定値を算出する。トルク算出部105は、右前輪FRの車輪速度Vfr、左前輪FLの車輪速度Vfl、右後輪RRの車輪速度Vrr、左後輪RLの車輪速度Vrl、及び推定車速VGの内、最も小さい値を車体速度Vbの推定値とする。ステップS303の処理が終了すると、プロセスはステップS305に進む。
【0075】
ステップS304では、トルク算出部105が、車体速度Vbの推定値を算出する。トルク算出部105は、右前輪FRの車輪速度Vfr、左前輪FLの車輪速度Vfl、右後輪RRの車輪速度Vrr、左後輪RLの車輪速度Vrl、及び推定車速VGの内、最も大きい値を車体速度Vbの推定値とする。ステップS304の処理が終了すると、プロセスはステップS305に進む。
【0076】
ステップS305では、トルク算出部105が、推定した車体速度Vbと、右前輪FRの車輪速度Vfr、左前輪FLの車輪速度Vfl、右後輪RRの車輪速度Vrr、及び左後輪RLの車輪速度Vrlと、のいずれかが一致するか判断する。Vb=Vfr、Vfl、Vrr、Vrlであれば(S305:YES)、プロセスはステップS306に進む。Vb=Vfr、Vfl、Vrr、Vrlでなければ(S305:NO)、処理を終了する。
【0077】
ステップS306では、トルク算出部105が、ステップS305において推定した車体速度Vbと一致すると判断した車輪速度を推定車速VGの今回値として更新保存する。
【0078】
図6のステップS209からスリップ制御について説明を続ける。ステップS209では、トルク算出部105が、スリップ制御フラグXslipを1に設定し、プロセスは図8のステップS211に進む。
【0079】
ステップS210では、トルク算出部105が、スリップ制御フラグXslipが1であるか否かを判断する。スリップ制御フラグXslipが1であれば(S210:YES)、プロセスは図8のステップS211に進む。スリップ制御フラグXslipが1でなければ(S210:NO)、プロセスは図8のステップS216に進む。
【0080】
図8のステップS211では、要求トルク算出部100が、アクセル要求トルクTaを算出する。要求トルク算出部100は、算出したアクセル要求トルクTaが0より大きいか否かを判断する。アクセル要求トルクTa>0であれば(S211:YES)、加速状態と判断され、プロセスはステップS212に進む。アクセル要求トルクTa>0でなければ(S211:NO)、減速状態と判断され、プロセスはステップS213に進む。
【0081】
ステップS212では、トルク算出部105が、目標スリップ速度Vcmdを次式(f201)によって算出する。
Vcmd=(1+a)×Vb (f201)
Vbは車体速度である。aは、最大摩擦係数μpに対応するスリップ率から求められる数値である。図9に示されるように、μ―s特性曲線は、氷盤路や圧雪路で異なったものとなる。例えば、氷盤路では、最大摩擦係数μp1とスリップ率s1とを代表値とするような曲線となる。例えば、圧雪路では、最大摩擦係数μp2とスリップ率s2とを代表値とするような曲線となる。本実施形態では、既に最大摩擦係数μpを推定しているので、その推定した最大摩擦係数μpに対応するスリップ率sを特定することができる。数値aは、この特定したスリップ率sに対応する数値で、例えば、スリップ率sが3%であれば、0.03となる。
【0082】
ステップS213では、トルク算出部105が、目標スリップ速度Vcmdを次式(f202)によって算出する。
Vcmd=(1―a)×Vb (f202)
Vbは車体速度である。aは、最大摩擦係数μpに対応するスリップ率から求められる数値である。aについては、式(f201)において説明済みであるのでその説明を省略する。
【0083】
ステップS212及びステップS213において、目標スリップ速度Vcmdを算出すると、プロセスはステップS214に進む。ステップS214では、トルク算出部105が、スリップ制御フラグXslipが1であるか否かを判断する。スリップ制御フラグXslipが1であれば(S214:YES)、プロセスはステップS215に進む。スリップ制御フラグXslipが1でなければ(S214:NO)、処理を終了してリターンする。
【0084】
ステップS215では、トルク算出部105が、スリップトルクTsを設定する。トルク算出部105は、駆動輪速度Vdが目標スリップ速度VcmdになるようにPI_FB制御し、スリップトルクTsを設定する。
【0085】
トルク算出部105は、次式(f203)を用いて速度偏差eを算出する。
e=Vcmd―Vd (f203)
トルク算出部105は、次式(f204)を用いてスリップトルクTsを算出する。
Ts=Kp×e+Ki×∫e (f204)
式(f204)において、Kpは予め設定されている比例ゲインである。式(f204)において、Kiは、予め設定されている積分ゲインである。
トルク算出部105は、次式(f205)を用いてスリップトルクTsを下限値Tminから上限値Tmaxの範囲に制限する。下限値Tmin及び上限値Tmaxは予め設定されている。
Tmin<Ts<Tmax (f205)
【0086】
ステップS216では、トルク算出部105が、スリップトルクTsとアクセル要求トルクTaとを比較して、スリップ制御終了か否かを判断する。Ts>Taであれば(S216:YES)、スリップ制御終了と判断され、プロセスはステップS217に進む。Ts>Taでなければ(S216:NO)、プロセスはステップS218に進む。
【0087】
ステップS218では、トルク算出部105が、スリップ状態が解消しているか否かを判断する。|V-Vb|≦0であれば(S218:YES)、スリップ状態が解消しているものと判断され、プロセスはステップS217に進む。|V-Vb|≦0でなければ(S218:NO)、プロセスを終了してリターンする。
【0088】
ステップS217では、トルク算出部105が、スリップ制御フラグXslipを0に更新する。
【0089】
続いて、図10,11,12を参照しながら、μに応じたトルク制限について説明する。ステップS401では、トルク算出部105が、スリップ限界トルクTsMAXを設定する。図11に示されるように、スリップ限界トルクTsMAXは、最大摩擦係数μpとの相関関係で特定される。例えば、氷盤路の最大摩擦係数μp_iceに対しては、スリップ限界トルクTsMAX_iceが対応する。例えば、ドライ路面の最大摩擦係数μp_dryに対しては、スリップ限界トルクTsMAX_dryが対応する。図11に例示されるμpとTsMAXとの関係は、マップ保持されている。
【0090】
ステップS401に続くステップS402では、トルク算出部105が路面勾配を推定する。ステップS402に続くステップS403では、トルク算出部105が、登坂路であるか否かを判断する。例えば、路面勾配5%を超えると登坂路であると判断する場合、推定した路面勾配が5%以上となるか否かを判断する。推定した路面勾配<5%であれば(S403:YES)、プロセスはステップS404に進む。推定した路面勾配<5%でなければ(S403:NO)、プロセスは図12のステップS410に進む。
【0091】
ステップS404では、トルク算出部105が、スリップ限界トルクTsMAXとアクセル要求トルクTaとを比較する。Ta>TsMAXであれば(S404:YES)、プロセスはステップS405に進む。Ta>TsMAXでなければ(S404:NO)、プロセスは図12のステップS405に進む。
【0092】
ステップS405では、トルク算出部105がスリップ限界トルクTsMAXを上限とするようにアクセル要求トルクTaをキャップする。ステップS405の処理が終了すると、プロセスは図12のステップS406に進む。
【0093】
図12のステップS406では、トルク算出部105が、スリップ制御フラグXslipが1であるか否かを判断する。スリップ制御フラグXslipが1であれば(S406:YES)、プロセスはステップS407に進む。スリップ制御フラグXslipが1でなければ(S406:NO)、プロセスはステップS410に進む。
【0094】
ステップS407では、トルク算出部105が、初期スリップ状態であるか否かを判断する。|V-Vb|≧3kphであれば(S407:YES)、プロセスはステップS408に進む。|V-Vb|≧3kphでなければ(S407:NO)、プロセスはステップS409に進む。
【0095】
ステップS408では、トルク算出部105が、次式(f301)を用いてスリップ限界トルクTsMAXを下方に微修正する。
TsMAX=TsMAX-ΔK (f301)
【0096】
ステップS409では、トルク算出部105が、次式(f302)を用いてスリップ限界トルクTsMAXを上方に微修正する。
TsMAX=TsMAX+ΔK (f302)
【0097】
ステップS408及びステップS409の処理が終了すると、プロセスはステップS410に進む。ステップS410では、トルク算出部105が、トルクフィルタ時定数Tfilを設定する。トルクフィルタ時定数Tfilは、推定した最大摩擦係数μpに応じて設定される。図13に例示されるように、最大摩擦係数μpとトルクフィルタ時定数Tfilとの関係は予め定められている。例えば、氷盤路の最大摩擦係数μp_iceに対しては、トルクフィルタ時定数Tfil_iceが対応する。例えば、ドライ路面の最大摩擦係数μp_dryに対しては、トルクフィルタ時定数Tfil_dryが対応する。
【0098】
ステップS410に続くステップS411では、トルク算出部105が路面μに応じたトルクフィルタ補正を実行する。トルク算出部105は、トルクフィルタ時定数Tfilを用いて、1次ローパスフィルタ補正を行う。
【0099】
続いて、要求トルク算出部100のアクセル要求トルクTa算出方法について説明する。図14に示されるように、ステップS501では、要求トルク算出部100は、車速VbがVb=0を満たしているか否かを判断する。車速VbがVb=0を満たしている場合(ステップS501:YES)、プロセスはステップS502に進む。車速VbがVb=0を満たしていない場合(ステップS501:NO)、プロセスはステップS506に進む。
【0100】
ステップS502では、要求トルク算出部100は、Rレンジへの切り替え操作が行われたか否かを判断する。要求トルク算出部100は、例えば、図示しないシフト操作部のRスイッチが押圧された後、その状態が所定時間継続した場合には、Rレンジへの切り替え操作が行われたと判断する。要求トルク算出部100がRレンジへの切り替え操作が行われたと判断すると(ステップS502:YES)、プロセスはステップS503に進む。要求トルク算出部100がRレンジへの切り替え操作が行われたと判断しないと(ステップS502:NO)、プロセスはステップS504に進む。
【0101】
ステップS503では、要求トルク算出部100は、シフトフラグSHIFTをRに設定する。ステップS503におけるプロセスが終了すると、プロセスはステップS506に進む。
【0102】
ステップS504では、要求トルク算出部100は、Dレンジへの切り替え操作が行われたか否かを判断する。要求トルク算出部100は、例えば、図示しないシフト操作部のDスイッチが押圧された後、その状態が所定時間継続した場合には、Dレンジへの切り替え操作が行われたと判断する。要求トルク算出部100がDレンジへの切り替え操作が行われたと判断すると(ステップS504:YES)、プロセスはステップS505に進む。要求トルク算出部100がDレンジへの切り替え操作が行われたと判断しないと(ステップS504:NO)、プロセスはステップS506に進む。
【0103】
ステップS505では、要求トルク算出部100は、シフトフラグSHIFTをDに設定する。ステップS505におけるプロセスが終了すると、プロセスはステップS506に進む。
【0104】
ステップS506では、要求トルク算出部100は、シフトフラグSHIFTがDになっているか否かを判断する。シフトフラグSHIFTがDになっていれば(ステップS506:YES)、プロセスはステップS507に進む。シフトフラグSHIFTがDになっていなければ(ステップS506:NO)、プロセスはステップS508に進む。
【0105】
ステップS507では、要求トルク算出部100は、アクセル要求トルクTaをマップ検索値に設定する。ステップS508では、要求トルク算出部100は、アクセル要求トルクTaを、マップ検索値を負の値にして設定する。
【0106】
EVC10のメモリには、図15に示されるような駆動トルクマップが格納されている。EVC10のメモリには、図16に示されるような制動トルクマップが格納されている。
【0107】
図15に示される駆動トルクマップは、車速Vbと駆動トルクTaとの関係をマップ化したものである。駆動トルクマップでは、車速Vbと駆動トルクTaとの関係を示すグラフがアクセル操作量に応じて切り替わることにより、アクセル操作量に応じてマップ演算値が変化するようになっている。駆動トルクマップを用いて演算されるマップ演算値は、車両2を加速させるために駆動輪に付与すべき駆動トルクの目標値である。
【0108】
図16に示される制動トルクマップは、車速Vbと制動トルクTaとの関係をマップ化したものである。制動トルクマップでは、車速Vbと制動トルクTaとの関係を示すグラフがブレーキ操作量に応じて切り替わることにより、ブレーキ操作量に応じてマップ演算値が変化するようになっている。制動トルクマップを用いて演算されるマップ演算値は、車両2を減速させるために駆動輪及び従動輪にそれぞれ付与すべき制動トルクの目標値である。
【0109】
上記説明したように、本実施形態における制御装置としてのEVC10は、トルク付与部101と、率算出部102と、係数算出部103と、係数推定部104と、トルク算出部105と、を備えている。
【0110】
トルク付与部101は、移動体としての車両2に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与する。率算出部102は、移動体が走行する路面に対する駆動輪の滑り状態を示すスリップ率を算出する。係数算出部103は、路面に対する駆動輪の摩擦係数を、制駆動トルク及び駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出する。係数推定部104は、率算出部102が算出したスリップ率s、及びスリップ率sと同じタイミングにおいて係数算出部103が算出した摩擦係数μの組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別し、複数の選択データを用いて摩擦係数μの極大値である最大摩擦係数μpを推定する。トルク算出部105は、係数推定部104が推定した最大摩擦係数μpを用いて、トルク付与部105が付与する制駆動トルクを算出する。
【0111】
本実施形態におけるEVC10は、選別された選択データを用いて最大摩擦係数μpを推定するので、スリップ制御性が向上し、低μ路での加速性及び安定性が向上する。
【0112】
本実施形態において係数推定部104は、駆動輪の速度が所定値以下の場合に対応する組合せデータを非選択データとする。駆動輪の速度が所定値以下の場合に対応する組合せデータを選択しないことで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0113】
本実施形態において係数推定部104は、スリップ率sの変化割合が加速中に0以下又は減速中に0以上の場合に対応する組合せデータを非選択データとする。スリップ収束時は雪柱せん断力が小さくなり、摩擦係数に誤差が発生しやすくなるため、スリップ収束時の組合せデータを選択しないことで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0114】
本実施形態において、係数推定部104は、スリップ率sが所定値以上の場合に対応する組合せデータを非選択データとする。最大摩擦係数μpを超えると、駆動輪が空転してしまい、μ―s特性が近似不可能になるため、スリップ率sが所定値以上の場合の組合せデータを選択しないことで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0115】
本実施形態において、係数推定部104は、摩擦係数μが0近傍の場合に対応する組合せデータを前記非選択データとする。摩擦係数μが0近傍の場合に対応する組合せデータを選択しないことで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0116】
本実施形態において、係数推定部104は、駆動輪の方向を入力するステアリングの舵角が所定以上の場合に対応する組合せデータを非選択データとする。舵角が大きくなると摩擦円における横力成分が多くなるため、舵角が所定以上の場合に対応する組合せデータを選択しないことで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0117】
本実施形態において、係数算出部103は、制駆動トルクを半分の値にして片側の駆動輪に作用するトルクとして摩擦係数μを算出する。係数推定部104は、移動体の進行方向に向かって左右に設けられた一対の駆動輪の内、スリップ率sが大きい側の駆動輪における選択データを用いて最大摩擦係数μpを推定する。デファレンシャルギアの特性を反映させ、より滑りやすい駆動輪の選択データを用いることで、最大摩擦係数μpの推定制度が向上する。
【0118】
本実施形態において、係数推定部104は、複数の選択データに、スリップ率が0であり摩擦係数が0である原点データを加え、最大摩擦係数μpを推定する。原点データを加えることで、推定制度をより高めることができる。
【0119】
本実施形態において、係数推定部104は、複数の選択データを用いて摩擦係数μの極大値である最大摩擦係数μpを推定した後、この選択を解除して新たに選択した複数の選択データを用いて新たに最大摩擦係数μpを推定する。最大摩擦係数μpの推定に用いる選択データの数を限定することができ、推定応答性を向上させることができる。
【0120】
本実施形態におけるプログラムは、コンピュータをEVC10として機能させるプログラムである。このプログラムは、EVC10に、移動体に設けられた駆動輪に駆動方向又は制動方向に作用するトルクである制駆動トルクを付与させる。このプログラムは、EVC10に、移動体が走行する路面に対する駆動輪の滑り状態を示すスリップ率sを算出させる。このプログラムは、EVC10に、路面に対する駆動輪の摩擦係数μを、制駆動トルク及び駆動輪の駆動輪速度を含む情報を用いて算出させる。このプログラムは、EVC10に、算出したスリップ率s、及びスリップ率sと同じタイミングにおいて算出した摩擦係数μの組合せデータを、選択データ又は非選択データに選別させ、複数の選択データを用いて摩擦係数μの極大値である最大摩擦係数μpを推定させる。このプログラムは、EVC10に、推定した最大摩擦係数μpを用いて、制駆動トルクを算出させる。
【0121】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、1つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、1つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0122】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0123】
10:EVC
100:要求トルク算出部
101:トルク付与部
102:率算出部
103:係数算出部
104:係数推定部
105:トルク付与部
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