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特開2024-18466ガード触媒層、炭化水素油の水素化処理装置、および炭化水素油の水素化処理方法
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  • 特開-ガード触媒層、炭化水素油の水素化処理装置、および炭化水素油の水素化処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018466
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ガード触媒層、炭化水素油の水素化処理装置、および炭化水素油の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20240201BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240201BHJP
   B01J 35/55 20240101ALI20240201BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B01J27/19 M
B01J35/10 301C
B01J35/10 301A
B01J35/02 301C
C10G45/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121826
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 直也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 匡
(72)【発明者】
【氏名】山根 健治
(72)【発明者】
【氏名】新宅 泰
(72)【発明者】
【氏名】松元 雄介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BB14B
4G169BC59B
4G169BC68B
4G169BD07B
4G169CC02
4G169CC04
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA06
4G169EB08
4G169EB14X
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EC07X
4G169EC08X
4G169EC28
4G169EE06
4H129AA02
4H129CA08
4H129DA15
4H129KA06
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC32X
4H129KC32Y
4H129KC33X
4H129KC33Y
4H129KD15Y
4H129KD24Y
4H129KD37Y
4H129KD44Y
4H129NA02
4H129NA05
4H129NA09
4H129NA37
(57)【要約】
【課題】炭化水素油の水素化処理においてスケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力の高いガード触媒を提供すること。
【解決手段】少なくとも第一層触媒を含む第一層と第二層触媒を含む第二層とを積層して成るガード触媒層であって、前記第一層触媒および前記第二層触媒の断面が、それぞれ、触媒断面の中心側に凹んだ曲線または触媒断面の中心側に屈折した直線から成る複数の凹縁と、触媒断面の中心と反対側に突出した曲線または触媒断面の中心と反対側に屈折した直線から成る前記凹縁と同数の凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、前記第一層触媒の断面の中心部には中空部が存在し、前記第二層触媒は、二峰性の細孔分布を有し、0.8~1.4ml/gの細孔容積を有する、ガード触媒層。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第一層触媒を含む第一層と第二層触媒層を含む第二層とを積層して成るガード触媒層であって、
前記第一層触媒および前記第二層触媒は、それぞれ独立に、無機酸化物担体と、前記無機酸化物担体に担持された金属成分とを含み、
前記第一層触媒は柱状であり、長軸方向に垂直な前記第一層触媒の断面が、前記第一層触媒の断面の中心側に凹んだ曲線または前記第一層触媒の断面の中心側に屈折した直線から成る複数の第一凹縁と、前記第一層触媒の断面の中心と反対側に突出した曲線または前記第一層触媒の断面の中心と反対側に屈折した直線から成る前記第一凹縁と同数の第一凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
前記第一層触媒の断面の中心部には、中空部が存在し、
前記第二層触媒は柱状であり、長軸方向に垂直な前記第二層触媒の断面が、前記第二層触媒の断面の中心側に凹んだ曲線または前記第二層触媒の断面の中心側に屈折した直線から成る複数の第二凹縁と、前記第二層触媒の断面の中心と反対側に突出した曲線または前記第二層触媒の断面の中心と反対側に屈折した直線から成る前記第二凹縁と同数の第二凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
前記第二層触媒は二峰性の細孔分布を有し、
前記第二層触媒の、水のポアフィリング法で測定した細孔容積は0.8~1.4ml/gである
ことを特徴とするガード触媒層。
【請求項2】
前記第一層触媒の断面は、3~14個の前記第一凹縁と前記第一凸縁を有することを特徴とする請求項1に記載のガード触媒層。
【請求項3】
前記第一層触媒の断面は、
曲率半径がR1かつ円弧長がL1である4つの前記第一凹縁と、曲率半径がR2かつ円弧長がL2である4つの前記第一凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
1.5<R1/R2<10、かつ0.5<L1/L2<3.0の条件を満足することを特徴とする請求項2に記載のガード触媒層。
【請求項4】
前記第一層触媒の断面において、前記中空部に外接する外接円の半径をR3と定義し、かつ前記第一層触媒に外接する外接円の半径をR4と定義した場合において、
0.2<R3/R4<0.8の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載のガード触媒層。
【請求項5】
前記第一層触媒は、前記断面において前記第一層触媒に外接する外接円の直径が2~15mmであり、長軸方向の長さが7~30mmであり、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.4ml/gであることを特徴とする請求項1に記載のガード触媒層。
【請求項6】
前記第二層触媒は、前記断面において前記第二層触媒に外接する外接円の直径が1.5~10mmであり、長軸方向の長さが3~15mmであることを特徴とする請求項1に記載のガード触媒層。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載されたガード触媒層を備える、炭化水素油の水素化処理装置。
【請求項8】
炭化水素油を請求項1~6のいずれか一項に記載されたガード触媒層と接触させる水素化処理工程を含む、炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項9】
前記炭化水素油が、重質炭化水素油であって、密度が0.90~1.05g/cm3であり、硫黄分含有量が1~6質量%であり、かつ沸点が360℃以上の成分を80質量%以上含む、請求項8に記載の炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項10】
前記水素化処理工程を、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、かつ液空間速度が0.1~0.5hr-1の条件下で実施する、請求項8に記載の炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素存在下で炭化水素油、特に重質炭化水素油(以下「重質油」とも記載する)中の夾雑物(以下「スケール」とも記載する)等を効率よく除去するためのガード触媒ならびにそれを用いた炭化水素油の水素化処理装置および炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素油の水素化処理プロセスでは、原料油中に含まれる鉄さび粒子などの夾雑物(スケール)が触媒層に堆積することで偏流や差圧が発生すると、触媒の失活や、所望の圧力での運転の支障となることから、原料油中に含まれる夾雑物を除去することが求められる。水素化処理装置中の上流部には、水素化活性を示しつつ、夾雑物を除去し、偏流を抑制することを主目的とするガード触媒が充填されるが、近年の原料油の更なる重質化や、重質油の水素化処理装置における処理量増加へ対応するため、これまで以上に脱スケール能及び偏流抑制能の高いガード触媒システムが求められている。
【0003】
触媒層中でのスケール堆積や偏流発生を抑制するために、様々な試みがなされている。特許文献1には、反応塔上部触媒床に堆積する夾雑物を除去し、差圧の解消と触媒床における触媒活性の維持、ひいては安定な運転を保持するための水素化脱硫用ガード触媒の提供を目的として、活性成分を担体に担持した触媒であって、活性金属である周期律表第7族b金属の分散性がCO吸着率として2~30%である触媒が記載されている。
【0004】
特許文献2には、触媒担体、たとえば、ボリア3~10重量%、シリカ4~19重量%及び残部Al23からなり、1000~1500℃の温度範囲で焼成された、比表面積が5m2/g以上、細孔直径40オングストローム以上の細孔容積が0.1ml/g以上で、見掛気孔率が20~70%の多孔性無機酸化物担体に、周期律表第V族、第VI族及び第VIII族金属からなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属の酸化物又は硫化物を好ましくは0.1~4重量%担持させてなることを特徴とする脱スケール用水素化処理触媒が開示されている。
【0005】
下記特許文献3には、従来の脱硫、又は脱金属触媒の上流側に充填する脱スケール剤および触媒として、表面積1m2/g以下で細孔直径10μ以上の細孔容積が0.1ml/g以上の触媒が開示されている。形状は球状の他に中空のマカロニ状、車輪状、花弁状等の形でもよく、粒子のサイズは最長方向で1mm~5cmのものが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-173808号公報
【特許文献2】特開平05-184941号公報
【特許文献3】特開平02-305891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、既存のガード触媒や脱メタル触媒グレーディングの組み合わせだけでは、脱スケール能及び偏流抑制能は十分でなく、夾雑物(スケールの一種)の触媒層への堆積による運転トラブルが発生することがあった。例えば、夾雑物が触媒層に堆積することで触媒層に偏流が発生し、偏流に起因するホットスポットの発現に伴うコーク生成の増大による触媒層閉塞や触媒劣化が発生することがあった。夾雑物(スケール)の一種として、例えば鉄さび粒子が挙げられ、該粒子が硫化して生成する硫化鉄はコーク生成を促進するしコーク堆積をも加速させてしまう。そのため、夾雑物の触媒層への堆積を抑制することは、装置の運転期間及び触媒寿命を長期化するためにも重要であった。
【0008】
本発明の目的は、スケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力の高いガード触媒層、およびこれを用いた重質炭化水素油の水素化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の形状を有する触媒を上流部に、またその下流に特定の細孔容積を有する触媒を充填した、ガード触媒積層システムが、特異的に優れた脱スケール能及び偏流抑制能を示すことを見出した。
【0010】
本発明は、たとえば以下の[1]~[10]に関する。
[1]本発明のガード触媒層は、
少なくとも、第一層触媒を含む第一層と第二層触媒を含む第二層とを積層して成るガード触媒層であって、
前記第一層触媒および前記第二層触媒は、それぞれ独立に、無機酸化物担体と、前記無機酸化物担体に担持された金属成分とを含み、
前記第一層触媒は柱状であり、長軸方向に垂直な前記第一層触媒の断面が、前記第一層触媒の断面の中心側に凹んだ曲線または前記第一層触媒の断面の中心側に屈折した直線から成る複数の第一凹縁と、前記第一層触媒の断面の中心と反対側に突出した曲線または前記第一層触媒の断面の中心と反対側に屈折した直線から成る前記第一凹縁と同数の第一凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
前記第一層触媒の断面の中心部には、中空部が存在し、
前記第二層触媒は柱状であり、長軸方向に垂直な前記第二層触媒の断面が、前記第二層触媒の断面の中心側に凹んだ曲線または前記第二層触媒の断面の中心側に屈折した直線から成る複数の第二凹縁と、前記第二層触媒の断面の中心と反対側に突出した曲線または前記第二層触媒の断面の中心と反対側に屈折した直線から成る前記第二凹縁と同数の第二凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
前記第二層触媒は二峰性の細孔分布を有し、
前記第二層触媒の、水のポアフィリング法で測定した細孔容積は0.8~1.4ml/gである
ことを特徴とするガード触媒層。
【0011】
このように、第一層触媒の断面が特徴的な形状を有し、第二層触媒の断面が特徴的な形状を有し、かつ第二層触媒が特徴的な細孔分布を有し、大きな細孔容積を有することにより、スケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力の高いガード触媒層を提供することができる。
【0012】
[2]
前記第一層触媒の断面は、3~14個の前記第一凹縁と前記第一凸縁を有することを特徴とする前記[1]のガード触媒層。
すなわち、スケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力を発揮するためには、凹縁と凸縁が3~14個であることが好ましい。
【0013】
[3]
前記第一層触媒の断面は、
曲率半径がR1かつ円弧長がL1である4つの前記第一凹縁と、曲率半径がR2かつ円弧長がL2である4つの前記第一凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成し、
1.5<R1/R2<10、かつ0.5<L1/L2<3.0の条件を満足することを特徴とする前記[2]のガード触媒層。
【0014】
このように、第一層触媒の断面を構成する第一凹縁と第一凸縁の曲率半径と円弧長に所定の条件を付することにより、ガード触媒を水素化処理装置に充填した場合において、炭化水素油を長軸方向に流した際に、第一層触媒の外縁部の表面の溝(凹面)で適度にスケールを捕捉できる脱スケール能を高めると共に、炭化水素油の流通性(液拡散性)を向上させることができる。
【0015】
[4]
前記第一層触媒の断面において、前記中空部に外接する外接円の半径をR3と定義し、かつ前記第一層触媒に外接する外接円の半径をR4と定義した場合において、
0.2<R3/R4<0.8の条件を満足することを特徴とする前記[1]~[3]のいずれかのガード触媒層。
【0016】
このように、第一層触媒断面の中空部と外接円の半径との関係に所定の条件を付することにより、機械強度を保持しつつ、炭化水素油の流通性やスケール捕捉能を上昇させることができる。
【0017】
[5]
前記第一層触媒は、前記断面において前記第一層触媒に外接する外接円の直径が2~15mmであり、長軸方向の長さが7~30mmであり、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.4ml/gであることを特徴とする前記[1]~[4]のいずれかのガード触媒層。
【0018】
[6]
前記第二層触媒は、前記断面において前記第二層触媒に外接する外接円の直径が1.5~10mmであり、長軸方向の長さが3~15mmであることを特徴とする前記[1]~[5]のいずれかのガード触媒層。
【0019】
[7]
前記[1]~[6]のいずれかのガード触媒層を備える、炭化水素油の水素化処理装置。
【0020】
[8]
炭化水素油を前記[1]~[6]のいずれかのガード触媒層と接触させる水素化処理工程を含む、炭化水素油の水素化処理方法。
【0021】
[9]
前記炭化水素油が、重質炭化水素油であって、密度が0.90~1.05g/cm3であり、硫黄分含有量が1~6質量%であり、かつ沸点が360℃以上の成分を80質量%以上含む、前記[8]の炭化水素油の水素化処理方法。
【0022】
[10]
前記水素化処理工程を、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、かつ液空間速度が0.1~0.5hr-1の条件下で実施する、前記[8]または[9]の炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、炭化水素油、特に重質油の水素化処理において、高い脱スケール能と偏流抑制能とを実現することができる。偏流によるホットスポットの生成と触媒劣化を抑制し、また差圧の発生を抑制することで、触媒寿命の安定化や、原料油の重質化に対応することが出来る。
【0024】
本発明のガード触媒層は、フィードは重質油のみならず、灯油、軽油、減圧軽油(VGO)の水素化処理装置や水素化分解処理装置などに広く活用することができる。
また、本発明に用いられる触媒(第一層触媒、第二層触媒)はそれ自身が高い細孔容積を有するため、触媒外表面でのスケール捕捉のみならず、NiやV等の原料油中に溶解している金属成分を触媒内部にも捕捉することができる点も特長である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本実施の形態に係るガード触媒層に含まれる第一層触媒の断面を示す図である。
図2図2は、本実施の形態に係るガード触媒層に含まれる第一層触媒の断面を示す図である。
図3図3は、本実施の形態に係るガード触媒層に含まれる第一層触媒の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものでない。
なお、本明細書において「x~y」で表される数値範囲は、「x以上y以下」を表す。
【0027】
本発明は、炭化水素油の水素化処理装置に用いられるガード触媒層及び炭化水素油の水素化処理方法を提供するものである。前記ガード触媒層は、通常、水素化処理装置の最上流部で用いられるが、前記ガード触媒層のさらに上流側にフィルター部を必要に応じて適宜設置してもよい。
【0028】
本発明に従って充填されるガード触媒層は、一般的な炭化水素油の水素化処理に用いることが出来るが、特に夾雑物を多く含み、スケールの発生や偏流が運転上の課題となりやすい、重質油の水素化処理に適している。重質油の水素化処理触媒システムは、通常、上流部からガード触媒部、脱メタル部、トランジション部、脱硫部を積層することで構成される。
【0029】
本発明に係るガード触媒層は、少なくとも、第一層触媒を含む第一層と第二層触媒を含む第二層とを積層して成る。
本発明に係るガード触媒層は、主に炭化水素油の水素化処理に用いられる。第一層触媒としては、断面形状が特定のものであることを除いて、炭化水素油、特に重質油の水素化処理に使用される従来の水素化処理触媒と同様のものを用いることができる。また、第二層触媒としては、断面形状が特定のものであり、細孔容積が所定の範囲にあり、かつ細孔分布が特定のものであることを除いて、炭化水素油、特に重質油の水素化処理に使用される従来の水素化処理触媒と同様のものを用いることができる。したがって、第一層触媒および第二層触媒は、通常、それぞれアルミナを主成分とする無機酸化物担体、および前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含んでいる。
【0030】
<無機酸化物担体>
前記無機酸化物担体は、アルミナ(より具体的には、γ-アルミナ)を主成分とした担体であり、任意に担体添加成分を含んでもよい。
無機酸化物担体は、アルミニウムを酸化物(Al23)基準で好ましくは60~100質量%、より好ましくは65~100質量%含む。
【0031】
このような無機酸化物担体は、上記組成範囲内にあるアルミナを主体としていることから、高い比表面積、高い細孔容積、高い耐圧強度および耐摩耗強度、ならびに押出成形に適するなどの高い生産性を兼ね備えているため、水素化処理触媒用の担体として適している。
【0032】
担体添加成分の例としては、リン酸化物、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、およびマグネシアからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物が挙げられる。これらは通常、アルミナとのと共に複合酸化物(たとえば、アルミナ-シリカ、アルミナ-チタニア)を形成している。
前記無機酸化物担体は、さらには、ゼオライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト等の鉱物を含んでいてもよい。
【0033】
(無機酸化物担体の製造方法)
アルミナを主成分とする前記無機酸化物担体は、様々な方法で調製することができるが、水酸化アルミニウムを焼成することでアルミナを主成分とする担体を得ることが一般的である。例えば酸性アルミニウム塩および塩基性アルミニウム塩から中和法でアルミナ水和物を主成分とする担体前駆体を調製し、それを焼成することでアルミナを主成分とする前記無機酸化物担体を得ても良いし、市販の水酸化アルミニウム粉末を焼成することでアルミナを主成分とする前記無機酸化物担体を得ても良い。
【0034】
酸性アルミニウム塩は水溶性の塩であり、その例としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられる。塩基性アルミウム塩も同様に水溶性の塩であり、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリウムなどが挙げられる。市販の水酸化アルミニウム粉末としては、SASOL社のCATAPALやPURAL、UOP社のVERSALなどが挙げられる。
【0035】
前記担体添加成分の原料は、前記無機酸化物担体を製造する際の様々な工程で添加することが出来る。例えば酸性アルミニウム塩および塩基性アルミニウム塩の中和時に担体添加成分原料を共存させたり、水酸化アルミニウムを主成分とする担体前駆体を熟成工程において担体前駆体に担体添加成分原料を添加したり、アルミナ水和物の捏和工程でアルミナ水和物に担体添加成分原料を添加したり、あるいは得られたアルミナ担体に担体添加成分原料をポアフィリング法で含浸することによっても、担体添加成分を添加することが出来る。
【0036】
リンを含む担体添加成分原料の例としては、リン酸アンモニア、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、亜リン酸などの水中でリン酸イオン又は亜リン酸イオンを生じるリン酸化合物が挙げられる。
【0037】
ケイ素を含む担体添加成分原料の例としては、ケイ酸ナトリウム、四塩化ケイ素、シリカ粉末、シリカゾル、シリカゲルが挙げられる。ケイ酸ナトリウムは安価であるので特に好ましい。
【0038】
チタンを含む担体添加成分原料の例としては、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、水酸化チタンゲル、メタチタン酸、チタニア粉末が挙げられる。硫酸チタン、硫酸チタニルは安価であるので特に好ましい。
【0039】
ジルコニウムを含む担体添加成分原料の例としては、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコニア粉末が挙げられる。
【0040】
ホウ素を含む担体添加成分原料の例としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アルミニウムが挙げられる。
マグネシウムを含む担体添加成分原料の例としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。
【0041】
また、得られたアルミナ水和物のスラリーや粉末に、必要に応じて、水と、有機酸類または糖類から選ばれる少なくとも一種の有機添加剤を添加した後、アルミナ水和物を熟成してもよい。有機酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。また糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類等があげられる。
【0042】
アルミナ水和物および必要に応じて任意成分を含む担体前駆体は、たとえばスチームジャケット付双腕式ニーダーに入れて加熱捏和して成形可能な捏和物とした後、押し出し成形などにより、後述する所定の断面形状を有するように成形される。
【0043】
次いで、成形された捏和物を加熱処理することで、無機酸化物担体を製造する。加熱処理の温度は、例えば400~1200℃、好ましくは450~1100℃であり、加熱処理の時間は、例えば0.5~10時間、好ましくは2~5時間である。加熱処理温度が前記下限値以上であることは、無機酸化物担体中での有機添加物の残存を防ぐ観点、および無機酸化物担体の平均細孔径の低下を防ぐ観点から、好ましい。加熱処理温度が前記上限値以下であることは、担体の比表面積低下を防ぐ観点から、好ましい。
前記加熱処理の前に、成形された捏和物を例えば70~150℃、好ましくは90~130℃で加熱乾燥してもよい。
【0044】
(活性金属成分)
前記無機酸化物担体には、活性金属成分が担持されている。
前記無機酸化物担体担体に対し、活性金属成分の原料と、酸と、水とを含む含浸液を調製し、含浸することで、金属成分の原料を無機酸化物担体に担持する。金属成分は、通常、モリブデンを含み、かつニッケルおよび/またはコバルトを含む。
【0045】
前記第一層触媒中のモリブデンの含有量は、酸化物(MoO3)換算で好ましくは1~6質量%、より好ましくは1~5質量%であり、また前記第二層触媒中のモリブデンの含有量は好ましくは1~9質量%、より好ましくは2~8質量%である。前記第一層触媒中および前記第二層触媒中のニッケル及びコバルトの合計の含有量は、共に酸化物(NiO、CoO)換算で好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.2~4.0質量%である。
【0046】
活性金属成分の原料としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、硝酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸ニッケル、炭酸ニッケルが挙げられる。
各金属成分の原料の配合量は、製造される水素化触媒中でのモリブデンの量、ならびにニッケルおよび/またはコバルトの量が上述した範囲内となるように設定される。金属成分の原料の量または組成は、水素化処理を実施する原料油の種類、または生成油の用途に応じて、適宜に選択される。
【0047】
含浸液を調製する際には、無機酸あるいは有機酸を用いて含浸液のpHを4以下にして、金属成分の原料を溶解させることが好ましい。無機酸としては、リン酸類や硝酸などが挙げられ、リン酸類としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が使用でき、特に、クエン酸、リンゴ酸が好適に用いられる。
【0048】
金属成分の原料が担持された無機酸化物触媒を焼成することで、前記第一層触媒および前記第二層触媒が製造される。焼成温度は、例えば400~800℃、好ましくは400~750℃、さらに好ましくは450~700℃であり、焼成時間は、例えば0.5~10時間、好ましくは1~8時間である。
【0049】
(第一層触媒の断面形状)
図1は、柱状である第一層触媒の、軸方法と垂直な断面の一態様を示す図である。第一層触媒は、図1の紙面の垂直方向を長軸として所定の長さを有している。
【0050】
図1に示すように、第一層触媒2の断面は、4つの第一凹縁4と4つの第一凸縁6とを交互に連結して閉じた領域を形成しており、断面中心部に中空部8を有している。このため、第一層触媒2は、外面から視た場合に、長軸方向に中空部8が貫通すると共に、交互に凹凸する歯車状の外周面を有する、中空構造を備えている。
【0051】
第一凹縁4と第一凸縁6とは、直接連結していてもよく、これらを連結する第一連結縁(図示せず)を介して連結していてもよい。第一連結縁の合計長は、断面の周長の、たとえば20%以下、10%以下、または5%以下であってもよい。
【0052】
第一層触媒2は表面に溝(断面における第一凹縁4)を有している。第一層触媒2は、充填時に主に長軸方向が水平方向を向くため、溝も水平方向を向き、原料油の水平方向への液拡散性が高くなる。さらに、触媒の溝および中空構造により第一層の空隙率が高められ、脱スケール能力および液再分散能力が高められる、すなわちスケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力が高められる、と考えられる。
【0053】
ここで、第一層触媒2の断面は、第一凹縁4の曲率半径をR1かつその円弧長をL1とし、第一凸縁6の曲率半径をR2かつその円弧長をL2と定義した場合に、好ましくは1.5<R1/R2<10、かつ0.5<L1/L2<3.0の条件を満足している。なお、図1は、R1/R2=5かつL1/L2=1の場合を例示している。
【0054】
より好ましくは2<R1/R2<10、さらに好ましくは3<R1/R2<8である。また、より好ましくは0.6<L1/L2<2.5、さらに好ましくは0.7<L1/L2<2.0である。
【0055】
上述のように、第一層触媒2の断面を構成する第一凹縁4と第一凸縁6の曲率半径と円弧長に所定の条件を付することにより、ガード触媒層を水素化処理装置に設けた場合において、炭化水素油をガード触媒層に流した際に、第一層触媒2の外縁部の表面の溝(凹面)で適度にスケールを捕捉できる脱スケール能を高めると共に、炭化水素油の流通性(液拡散性)を向上させることができる。すなわち、スケールの堆積及び偏流の生成を抑制する能力を高めることができる。
【0056】
これに対し、図2(a)は、R1/R2の値を0.2にした場合の第一層触媒2の断面を示す図である。R1/R2>1.5であると、第一層触媒2のくびれ部分である第一凹縁4が深くなり過ぎず、ローブ部分である第一凸縁6は機械衝撃に対する耐性に優れる。
【0057】
また、図2(b)は、R1/R2の値を図1に示した場合と同様の5に保持しつつも、L1/L2の値を0.5以下にした場合の第一層触媒2の断面を示す図である。L1/L2>0.5であると、第一層触媒2の第一凹縁4が長く、かつ深くなるため、炭化水素油の流通性およびスケール捕捉能が向上する。
【0058】
また、図2(c)は、R1/R2の値を2とし、L1/L2の値を3.0以上にした場合の第一層触媒2の断面を示す図である。L1/L2<3.0であると、ガード触媒のくびれ部分である第一凹縁4が大きくかつ深くなり過ぎず、ローブ部分である第一凸縁6は機械衝撃に対する耐性に優れる。
【0059】
また、中空部8は円形状を有しており、中空部8の半径をR3と定義し、かつ第一層触媒に外接する外接円12の半径をR4と定義した場合において、好ましくは0.2<R3/R4<0.8の条件を満足する。
【0060】
中空部8は、図3に示すように、多角形状を有していてもよい。この場合には、中空部8´の多角形外接円10の半径を中空部8´の半径R3と定義し、かつ第一層触媒2に外接する外接円12の半径をR4と定義した場合において、好ましくは0.2<R3/R4<0.8、より好ましくは0.3<R3/R4<0.7の条件を満足する。R3/R4>0.2であると、中空部8、8´の径が太く、炭化水素油の流通性やスケール捕捉能を上昇させることができる。また、R3/R4<0.8であると、第一層触媒は、断面の径方向に厚く、機械強度に優れる。なお、多角形の中空部8´を採用する場合、中空部8´の角の数は四つ以上であることが好ましい。
【0061】
また、図1図3に示す第一層触媒2、2´は、0.2<R3/R4<0.8の条件を満足する。これにより、ガード触媒の機械強度を保持しつつ、炭化水素油の流通性やスケール捕捉能を上昇させることができる。
【0062】
前記断面において第一層触媒2に外接する外接円12の直径は、好ましくは2~15mmであり、第一層触媒2の長軸方向の長さは、好ましくは7~30mmである。
また、第一層触媒2は、必ずしも上述したように、4つの第一凹縁4と4つの第一凸縁6とを交互に連結して閉じた、所定の数量的条件を備える領域を形成していなくてもよい。
【0063】
たとえば、第一凹縁4と第一凸縁6は必ずしも4つに限定されず、3~14個の第一凹縁4と第一凸縁6が交互に連結して閉じていてもよい。なお、第一凹縁4と第一凸縁6の個数は、3~8個であればより好ましい。
【0064】
そして、第一凹縁4と第一凸縁6は、必ずしも所定の曲率半径を有する必要はなく、凹縁4は、第一層触媒2の断面の中心側に凹んだ曲線を有し、第一凸縁6は、第一層触媒2の断面の中心と反対側に突出した曲線から構成されていてもよい。
【0065】
また、第一凹縁4と第一凸縁6は、必ずしも曲線から成る必要はなく、第一凹縁4が第一層触媒2の断面の中心側に屈折した「<」形状の直線を有し、第一凸縁6が第一層触媒2の断面の中心と反対側に屈折した「<」形状の直線から構成されていてもよい。
【0066】
(第二層触媒の断面形状)
柱状である第二層触媒の、長軸方向と垂直な断面(図示せず)は、第二層触媒の断面の中心側に凹んだ曲線または第二層触媒の断面の中心側に屈折した直線から成る複数の第二凹縁と、第二層触媒の断面の中心と反対側に突出した曲線または第二層触媒の断面の中心と反対側に屈折した直線から成る第二凹縁と同数の第二凸縁とを交互に連結して閉じた領域を形成している。
【0067】
第二凹縁と第二凸縁とは、直接連結していてもよく、これらを連結する第二連結縁(図示せず)を介して連結していてもよい。第二連結縁の合計長は、断面の周長の、たとえば20%以下、10%以下、または5%以下であってもよい。
断面形状の具体例としては三葉型、四葉型が挙げられ、これらは従来の一般的なものでよい。
【0068】
第二層触媒は表面に溝(断面における第二凹縁)を有している。第二層触媒2は、充填時に主に長軸方向が水平方向を向くため、溝も水平方向を向き、原料油の水平方向への液拡散性が高くなり、以って偏流抑制能が高められる、と考えられる。
【0069】
第二層触媒の前記断面の断面中心部には、好ましくは中空部8が存在しない。中空部8を有さない第二層触媒は、機械強度に優れる。
前記断面において第二層触媒に外接する外接円の直径は、好ましくは1.5~10mmであり、第二層触媒の長軸方向の長さは、好ましくは3~15mmである。また、第二層触媒における前記外接円の直径は、好ましくは、第一層触媒における前記外接円の直径よりも小さい。
【0070】
(触媒の物性)
第一層触媒2は、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が好ましくは0.5~1.4ml/gである。第一層触媒の細孔分布が0.5ml/g以上であると、第一層触媒そのものが原料油中に含まれるNiやV等の除去すべき金属分をも捕捉する能力を併せ持つことが出来る。また細孔容積が1.4ml/g以下であると、第一層触媒は圧壊強度が良好である。
【0071】
第二層触媒は、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.8~1.4ml/gである。
また、第二層触媒は、二峰性の細孔分布を有する。具体的には、第二層触媒は、水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径が5~10000nmの範囲で極大値を2つ有し、好ましくは細孔径が5~100nmの範囲および100nmを超え10000nm以下の範囲、より好ましくは細孔径が10~80nmの範囲および200~5000nmの範囲に、極大値を1つずつ有する。
【0072】
第二層触媒はメソ細孔を有することによりNi、V等の原料油中に溶解している金属成分を捕捉し、またマクロ細孔を有することにより油を効率よく拡散させることができる。
細孔直径100~10000nmの範囲の細孔容積(PVma)と、細孔直径5~100nmの範囲の細孔容積(PVme)との割合(PVma/PVme)は、好ましくは0.1~0.5である。
細孔分布の形状は、たとえば、特許第5922372号に記載されている方法に従って担体を調製することにより二峰性とすることができる。
【0073】
第二層触媒は、高い細孔容積および二峰性細孔分布を有するため、すなわち原料油が容易に拡散出来るマクロ細孔を有するため、触媒への原料油の染み込みが容易に進行し、かつ染み込んだ油は触媒中へと拡散したうえで触媒下に染み出すことから、油拡散能力を有し、以って偏流抑制能を発揮すると考えられる。また、第二層触媒は、メソ細孔を有するため、原料油中に溶解しているNiやV等の金属成分を捕捉すると考えられる。
【0074】
(ガード触媒層)
本発明に係るガード触媒層は、第一層触媒2を含む第一層と第二層触媒層を含む第二層とを積層したものであり、炭化水素油、特に重質油の水素化処理に用いると、高い偏流抑制能およびスケール捕捉能を発揮する。
【0075】
第一触媒層の割合は、好ましくはガード触媒層のうち10容積%~90容積%、より好ましくは20容積%~80容積%である。第一触媒層の割合がこの範囲にあると、第一層触媒の有する特にスケール捕捉能が十分に発揮されるためである。
【0076】
また、第二触媒層の割合は、好ましくはガード触媒層のうち10容積%~90容積%、より好ましくは20容積%~80容積%である。第二触媒層の割合がこの範囲にあると、第二層触媒の有する特に偏流抑制能が十分に発揮されるためである。
【0077】
炭化水素油の水素化処理装置において、本発明に係るガード触媒層を(第一層が上流側、第二層下流側となるように)原料油の流路の上流部に設け、好ましくはその下流部に水素化処理触媒が充填された水素化処理触媒層を設けることで、水素化処理反応を行うことができる。本発明に係る触媒で処理される原料油に制限はなく、灯油、軽油、減圧軽油(VGO)等を処理することが出来るが、特にスケール分を多く含む重質油の処理に適している。重質油は、蒸留時の残渣を主成分とするものであり、常圧蒸留残渣油(AR)および減圧蒸留残渣油(VR)、接触分解残油、ビスブレーキング油、ビチューメンなどの密度の高い石油留分を挙げることができる。
【0078】
これらの重質油は、通常アスファルテンが1質量%以上含まれているが、これらの重質油から抽出したアスファルテンも原料油として用いることができる。本発明においては、原料油として、これらを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、コーカー油、合成原油、ナフサカット原油、重質軽油、減圧軽油、LCO、GTL(Gas To Liquid)油、ワックス等を常圧蒸留残渣油等と混合して重質油として水素化処理をすることもできる。
【0079】
原料重質油としては、密度が0.9~1.05g/cm3、硫黄分が1~6質量%、窒素分が2000質量ppmを超え10000質量ppm以下、360℃以上の沸点である成分が80質量%以上の蒸留性状を有するものが好ましい。
【0080】
本発明のガード触媒層を使用した水素化処理は、たとえば、固定床反応装置に、流通方向に、ガード部、脱メタル部、トランジション部、脱硫部となるように前記触媒を積層して充填し、水素雰囲気下、高温高圧条件で、重質油を通液して行なわれる。
【0081】
得られた処理油は、必要に応じて、流動接触分解装置にて接触分解処理される。上記流動接触分解装置による接触分解処理は、特に制限はなく、公知の方法、条件で行えばよい。例えば、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシアなどのアモルファス触媒や、フォージャサイト型結晶アルミノシリケートなどのゼオライト触媒を用い、反応温度450~650℃程度、好ましくは480~580℃、再生温度550~760℃程度、反応圧力0.1~5MPa程度、好ましくは0.2~2MPaの範囲で適宜選定すればよい。最終工程である流動接触分解装置にて接触分解処理された生成油は、燃料や石油化学製品の原料として使用することができる。
【実施例0082】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0083】
<細孔分布の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約3g採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水銀圧入法(カンタクローム社製 ポアマスター GT-60)にて、担体については水銀の接触角:150°、表面張力:480dyn/cmの条件で、また触媒については水銀の接触角:130°、表面張力:470dyn/cmの条件で、細孔分布を測定した。平均細孔径は細孔容積の50%に相当する細孔直径とした。細孔径が5nm~10000nmの範囲で極大値が一つであるものを単峰性、極大値が二つであるものを二峰性とした。
【0084】
<担体の細孔容積の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約30g採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水のポアフィリング法により細孔容積を測定した。
【0085】
<担体の調製>
[担体調製例1]
(担体(1-A)の調製)
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水35.2kgを張り込み、攪拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)13.0kgを添加し、60℃に加温して循環させた。得られた希釈硫酸アルミニウム水溶液のpHは2.3であった。次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液9.5kg(Al23として濃度22質量%)を、攪拌し、循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の希釈硫酸アルミニウム水溶液に180分かけて添加し、アルミナ水和物を得た。添加後の水溶液のpHは、9.5であった。アルミナ水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去した。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が8質量%となるように調製した後、還流器を備えた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ水和物を得た。
【0086】
こうして得られたケーキ状のアルミナ水和物を、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーで濃縮捏和した。得られた捏和物を押出成型機にて、穴の形状がR1/R2=5、R3/R4=0.5、L1/L2=1かつ直径(外接円の直径、以下も同様)=6.5mmである中空四葉型のダイスを用いて、柱状に押し出し、所定の長さ(10mm)で切断することでアルミナ成型品を得た。得られたアルミナ成型品を、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3時間焼成して、担体(1-A)を得た。
【0087】
[担体調製例2]
(担体(1-B)の調製)
ダイスを穴の形状がR1/R2=5、R3/R4=0.1、L1/L2=1かつ直径=6.5mmである中空四葉型のダイスに変更した以外は担体調製例1と同様にして、担体(1-B)を得た。
【0088】
[担体調製例3]
(担体(1-C)の調製)
ダイスを穴の形状がR1/R2=5、R3/R4=0.5、L1/L2=0.2かつ直径=6.5mmである中空四葉型のダイスに変更したこと以外は担体調製例1と同様にして、担体(1-C)を得た。
【0089】
[担体調製例4]
(担体(1-D)の調製)
ダイスを穴の形状がR1/R2=5、L1/L2=1かつ直径=6.5mmである中実四葉型のダイスに変更したこと以外は担体調製例1と同様にして、担体(1-D)を得た。
【0090】
[担体調製例5]
(担体(1-E)の調製)
ダイスを穴の形状が直径6.5mmの中実円形のダイスに変更したこと以外は担体調製例1と同様にして、担体(1-E)を得た。
【0091】
[担体調製例6]
(担体(2-A)の調製)
ダイスを穴の形状が直径1.7mmの一般的な中実四葉型のダイスに変更したこと以外は担体調製例1と同様にして、担体(2-A)を得た。
【0092】
[担体調製例7]
(担体(2-B)の調製)
ダイスを穴の形状が直径1.7mmの一般的な中実円形のダイスに変更したこと以外は担体調製例6と同様にして、担体(2-B)を得た。
【0093】
[担体調製例8]
(担体(2-C)の調製)
アルミナ水和物を双腕式ニーダーで練る際にアルミナ水和物に60%硝酸(富士フイルム和光純薬(株)製)200gを添加したこと以外は担体調製例6と同様にして、担体(2-C)を得た。
【0094】
<含浸液の調製>
[含浸液調製例1]
(含浸液(a)の調製)
三酸化モリブデン21.2gと炭酸ニッケル7.7gを、イオン交換水400mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸8.6gとクエン酸6.4gを加えて溶解させ、含浸液(a)を調製した。
【0095】
[含浸液調製例2]
(含浸液(b)の調製)
三酸化モリブデン38.6gと炭酸ニッケル14.1gを、イオン交換水350mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸9.0gとクエン酸11.6gを加えて溶解させ、含浸液(b)を調製した。
【0096】
[触媒調製例1]
<第一層触媒(1-ア)の調製>
500gの担体調製例1で得られた担体(1-A)に、500g分の担体(1-A)の細孔容積と等しくなるように純水を加えて希釈した、含浸液調製例1で得られた含浸液(a)を噴霧含浸させた後、得られた担体を250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して第一層触媒(1-ア)を得た。
【0097】
[触媒調製例2~5]
<第一層触媒(1-イ)~(1-オ)の調製>
担体および含浸液の種類を表1に記載のように変更したこと以外は触媒調製例1と同様にして、第一層触媒(1-イ)~(1-オ)を調製した。
【0098】
[触媒調製例6]
<第二層触媒(2-ア)の調製>
500gの担体調製例6で得られた担体(2-A)に、500g分の担体(2-A)の細孔容積と等しくなるように純水を加えて希釈した、含浸液調製例2で得られた含浸液(b)を噴霧含浸させた後、得られた担体を250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して第二層触媒(2-ア)を得た。
【0099】
[触媒調製例7~8]
<第二層触媒(2-イ)~(2-ウ)の調製>
担体および含浸液の種類を表1に記載のように変更したこと以外は触媒調製例6と同様にして、第二層触媒(2-イ)~(2-ウ)を調製した。
【0100】
[実施例1]
<ガード触媒層の形成>
直径30cm長さ0.8mのアクリル円筒を、長軸方向が垂直になるように固定した。アクリル円筒の直下には、上面にステンレス性金網が張られた液受け部を、アクリル円筒と隙間の無いように取り付けた。液受け部は、アクリル円筒の長さ方向に垂直な断面が扇形に13等分されるようにアクリル板で仕切った。
【0101】
液受け部の上に、第二層触媒(2-ア)を高さが30cmになるまでアクリル円筒に充填し、表面を平らに均した。更にアクリル円筒内の第二層触媒(2-ア)の層の上に、第一層触媒(1-ア)を高さが30cmになるまで充填し、表面を平らに均し、ガード触媒層を形成した。第一層触媒(1-ア)の層の高さと第二層触媒(2-ア)の層の高さとの合計は60cmであり、第一層触媒(1-ア)の上部からアクリル円筒の上端までの20cmは空間であった。
アクリル円筒の上端に、直径0.5cmの穴が75個均一に開いた直径30cmのアクリル多孔板を設置した。
【0102】
[実施例2~3、比較例1~4]
第一層触媒と第二層触媒との組み合わせを表1に記載のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル円筒内にガード層を形成し、アクリル円筒の上端にアクリル多孔板を設置した。
【0103】
<ガード触媒層の評価>
(触媒のスケール捕捉能の評価)
事前に400℃1時間乾燥処理を行った粉末状の酸化鉄(III)(メルク社製、<5μmグレード)100gを市販の灯油9L中に懸濁し、これをアクリル多孔板の上からアクリル円筒内に5L/分の速度で2分間流した。ガード触媒層を通過した灯油を液受け部で回収し、13分割された各液受け部から灯油を回収し、減圧濾過により酸化鉄粉末と灯油とを分離した。回収した酸化鉄粉末を400℃1時間乾燥させた後に重量を測定することで、ガード触媒層で捕捉されなかったスケールの量を定量した。ガード触媒層のスケール捕捉能は、以下の式により算出した。
スケール捕捉能指標 = (100-液受け部から回収された酸化鉄の合計重量(g))/100
すなわち、スケール捕捉能指標が大きいほどガード触媒層に捕捉されたスケールの量が多いことを示す。
【0104】
(触媒の偏流抑制能の評価)
アクリル多孔板の上から市販の灯油をアクリル円筒内に5L/分の速度で2分間流した。ガード触媒層を通過した灯油を液受け部で回収し、13分割された各液受け部に回収された灯油の重量を測定し、その標準偏差を算出した。ガード触媒層の偏流抑制能は、実施例1の標準偏差を100とし、それに対する相対値を算出して比較した。すなわち、値が小さいほど偏流が発生していないことを示す。
【0105】
【表1】
【符号の説明】
【0106】
2、2´ 第一層触媒
4 第一凹縁
6 第一凸縁
8、8´ 中空部
10 多角形外接円
12 外接円
図1
図2
図3