(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018506
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】血流画像形成装置及び血流画像形成プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121890
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 惇
(72)【発明者】
【氏名】田中 智彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601DE04
4C601DE05
4C601EE04
4C601EE09
4C601JB35
4C601JB50
4C601JC06
4C601JC11
4C601JC37
4C601KK19
4C601KK24
4C601KK25
(57)【要約】
【課題】血流を表すドプラ画像である血流画像において、ブルーミングアーチファクトをより低減する。
【解決手段】ドプラ処理部40は、被検体に対する超音波の送受波により得られた受信ビームデータ列に基づいてドプラ信号を生成する。受信ビームデータ列により2次元データ空間が構成される。分布データ演算部42は、ドプラ信号に基づいて、2次元データ空間における各データ要素についての、ドプラ信号のパワー、被検体内の組織の速度、又は、被検体内の組織の速度の分散の少なくとも1つを演算する。判別指標マップ生成部44は、2次元データ空間において設定されたROI52毎の分布データに基づいて、受信ビームデータ列で構成された2次元データ空間における血流領域Aである確からしさを表す判別指標マップを生成する。血流画像形成部46は、ドプラ信号と判別指標マップに基づいて、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、
前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、又は、前記被検体内の組織の速度の分散分布の少なくとも一つである分布データを演算する分布データ演算部と、
前記関心領域毎の前記分布データに基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、
前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、
を備えることを特徴とする血流画像形成装置。
【請求項2】
前記判別指標マップ生成部は、前記関心領域毎の前記パワー分布における最頻値近傍のパワーのばらつき具合、前記関心領域毎の前記速度分布における最頻値近傍の速度のばらつき具合、又は、前記関心領域毎の前記分散分布における最頻値近傍の分散のばらつき具合に基づいて、前記判別指標マップを生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の血流画像形成装置。
【請求項3】
前記判別指標マップ生成部は、前記判別指標マップが有する判別指標を正規化し、
前記血流画像形成部は、前記ドプラ信号、及び、正規化された判別指標を有する前記判別指標マップに基づいて血流画像を形成する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の血流画像形成装置。
【請求項4】
前記関心領域の大きさを表すパラメータ、及び、前記正規化に関するパラメータを含む、前記血流画像を形成する処理に係るパラメータがユーザからの指定に基づいて設定可能である、
ことを特徴とする請求項3に記載の血流画像形成装置。
【請求項5】
前記判別指標マップを表示部に表示させる表示制御部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の血流画像形成装置。
【請求項6】
被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、
前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、及び、前記被検体内の組織の速度の分散分布を演算する分布データ演算部と、
前記パワー分布、前記速度分布、及び、前記分散分布に基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、
前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、
を備えることを特徴とする血流画像形成装置。
【請求項7】
コンピュータを、
被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、
前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、又は、前記被検体内の組織の速度の分散分布の少なくとも一つである分布データを演算する分布データ演算部と、
前記関心領域毎の前記分布データに基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、
前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、
として機能させることを特徴とする血流画像形成プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、
前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、及び、前記被検体内の組織の速度の分散分布を演算する分布データ演算部と、
前記パワー分布、前記速度分布、及び、前記分散分布に基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、
前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、
として機能させることを特徴とする血流画像形成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、血流画像形成装置及び血流画像形成プログラムの改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、被検体に向けて超音波を送信し、散乱体(例えば被検体内の組織)からの反射波を受信し、受信した反射波に基づいて超音波画像を形成する装置である。超音波診断装置においては種々の超音波画像を形成し得る。例えば、送受信に要する時間と音速から散乱体までの距離を計測し、反射波の信号強度(音圧)を輝度に変換することで、超音波断層画像(Bモード画像)を形成することができる。
【0003】
超音波画像の1つとして、被検体である生体内の組織の運動が表されたドプラ画像がある。ドプラ画像としては、生体内の組織の運動の方向及び速度を色で表すColor Doppler Imaging(CDI)という技術により形成されるカラードプラ画像、及び、ドプラ信号の信号強度であるパワーを色や色の明るさで表すパワー画像がある。ドプラ画像はドプラ効果に基づいて形成される。具体的には、まず、超音波プローブより血流領域に複数回の超音波送受信(パケット送受信)を行い受信信号を得る。次に、受信信号間の自己相関演算により位相回転量(位相変化量)を計算し、ドプラシフトを検出する。得られたドプラシフトの強度と符号、あるいは、ドプラ信号の強度に応じて着色を施して血流画像を形成し、これをBモードに重畳して表示する。
【0004】
受信信号には、組織の動きや、血管壁などの組織構造による超音波ビームの反射、屈折、散乱、減衰により、血流以外のドプラシフト信号が混合している。これにより、血流を表すドプラ画像である血流画像において、本来血流がない領域に、血流が表示されるようなアーチファクト(偽像)が出現する場合がある。アーチファクトとして、血管の下部に出現するブルーミングアーチファクトと呼ばれるものがある。
【0005】
ブルーミングアーチファクトが生じる原因は1つではないが、ここでは
図20を参照して、代表的な原因を説明する。超音波プローブは、超音波を送信してから散乱体からの反射波を受信するまでの間の時間(被検体内では超音波の速度は一定とみなされるため、これは超音波プローブから散乱体までの間の距離とみなすことができる)によって、散乱体の位置が特定される。ここで、超音波プローブから送信された超音波が血管壁(特に下側の血管壁)で反射し、その反射波が血流によって位置Sにてさらに反射し、その反射波を超音波プローブが受信する場合がある。その超音波及び反射波の経路は
図20の一点鎖線で示す通りである。そうすると、超音波プローブとしては、受信した反射波を、超音波の送信方向にあり、一点鎖線の経路の半分の距離である位置S’から反射波とみなしてしまう。これにより、本来位置Sにおける血流成分が位置S’に描画されてしまい、これがブルーミングアーチファクトとなる。
【0006】
従来、このようなアーチファクトを低減するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、1枚の超音波画像に対応する1フレーム分の受信信号全体の、ドプラ信号のパワーや速度の分散の統計値を用いて、血管描画をするパワー又は速度の分散の閾値を自動的に設定することで、ブルーミングアーチファクトを低減に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の記載された技術によっても、ブルーミングアーチファクトを低減し得る。しかしながら、同じフレーム内でもアーチファクトのパワーや速度、あるいは速度の分散は場所毎に異なるため、1フレーム全体に対して画一的な閾値を適用してもアーチファクトが残留する可能性がある。したがって、血流画像において、よりブルーミングアーチファクトを低減することができることを可能とする新たな技術が望まれる。
【0009】
本明細書で開示される血流画像形成装置の目的は、血流を表すドプラ画像である血流画像において、ブルーミングアーチファクトをより低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示される血流画像形成装置は、被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、又は、前記被検体内の組織の速度の分散分布の少なくとも一つである分布データを演算する分布データ演算部と、前記関心領域毎の前記分布データに基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間は、観念上、血流(血管)に対応する血流領域と、血流以外の被検体の組織に対応するバックグラウンド領域と、血流領域の下側にあり、ドプラ画像おいてブルーミングアーチファクトを生じさせるブルーミング領域とに分けられる。血流領域内に設定された関心領域の分布データと、バックグラウンド領域内に設定された関心領域の分布データと、ブルーミング領域内に設定された関心領域の分布データとの特徴が互いに異なるという特徴がある。したがって、各関心領域の分布データに基づいて、2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成することができる。当該判別指標マップにより、血流領域とその他の領域(すなわちバックグラウンド領域及びブルーミング領域)を識別可能になる。すなわち、判別指標マップに基づいて、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像を形成することができる。
【0012】
前記判別指標マップ生成部は、前記関心領域毎の前記パワー分布における最頻値近傍のパワーのばらつき具合、前記関心領域毎の前記速度分布における最頻値近傍の速度のばらつき具合、又は、前記関心領域毎の前記分散分布における最頻値近傍の分散のばらつき具合に基づいて、前記判別指標マップを生成するとよい。
【0013】
血流領域内に設定された関心領域の分布データと、その他の領域に設定された関心領域の分布データとの間では、特に、パワーの最頻値近傍のパワーのばらつき具合、速度の最頻値近傍の速度のばらつき具合、又は、速度の分散の最頻値近傍の分散のばらつき具合が異なる、という特徴を有する。したがって、当該構成によれば、より好適に、血流領域とその他の領域を識別可能な判別指標マップを生成することができる。
【0014】
前記判別指標マップ生成部は、前記判別指標マップが有する判別指標を正規化し、前記血流画像形成部は、前記ドプラ信号、及び、正規化された判別指標を有する前記判別指標マップに基づいて血流画像を形成するとよい。
【0015】
当該構成によれば、ある関心領域についての判別指標が他の関心領域に比してかなり大きくなってしまった場合であっても、血流領域とその他の領域(バックグラウンド領域及びブルーミング領域)とを好適に識別すること(すなわち、ブルーミングアーチファクトが好適に低減された血流画像を得ること)ができる。
【0016】
前記関心領域の大きさを表すパラメータ、及び、前記正規化に関するパラメータを含む、前記血流画像を形成する処理に係るパラメータがユーザからの指定に基づいて設定可能であるとよい。
【0017】
当該構成によれば、ユーザは、血流画像におけるブルーミングアーチファクトの低減具合を調整することができる。
【0018】
前記判別指標マップを表示部に表示させる表示制御部と、をさらに備えるとよい。
【0019】
当該構成によれば、ユーザは、ブルーミングアーチファクトを低減するために用いられた判別指標マップを確認することができる。
【0020】
また、本明細書で開示される血流画像形成装置は、被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、及び、前記被検体内の組織の速度の分散分布を演算する分布データ演算部と、前記パワー分布、前記速度分布、及び、前記分散分布に基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本明細書で開示される血流画像形成プログラムは、コンピュータを、被検体内のビーム走査面に対して超音波の送受波を行う超音波プローブからの受信信号に基づいて生成された、前記ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する受信ビームデータ列を取得する受信ビームデータ取得部と、前記受信ビームデータ列で構成される2次元データ空間において設定された複数の関心領域それぞれについて、前記受信ビームデータ列に基づいて、前記受信ビームデータから得られるドプラ信号のパワー分布、前記被検体内の組織の速度分布、又は、前記被検体内の組織の速度の分散分布の少なくとも一つである分布データを演算する分布データ演算部と、前記関心領域毎の前記分布データに基づいて、前記2次元データ空間における血流領域である確からしさを表す判別指標マップを生成する判別指標マップ生成部と、前記受信ビームデータ列から得られるドプラ信号及び前記判別指標マップに基づいて、前記被検体内の血流が表された血流画像を形成する血流画像形成部と、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本明細書で開示される血流画像形成装置によれば、血流を表すドプラ画像である血流画像において、ブルーミングアーチファクトをより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図5A】血流領域内に設定されたROIにおけるパワー分布の例を示すグラフである。
【
図5B】バックグラウンド領域に設定されたROIにおけるパワー分布の例を示すグラフである。
【
図5C】ブルーミング領域に設定されたROIにおけるパワー分布の例を示すグラフである。
【
図6A】血流領域に設定されたROIにおける速度分布の例を示すグラフである。
【
図6B】バックグラウンド領域に設定されたROIにおける速度分布の例を示すグラフである。
【
図6C】ブルーミング領域に設定されたROIにおける速度分布の例を示すグラフである。
【
図7A】血流領域に設定されたROIにおける速度の分散分布の例を示すグラフである。
【
図7B】バックグラウンド領域に設定されたROIにおける速度の分散分布の例を示すグラフである。
【
図7C】ブルーミング領域に設定されたROIにおける速度の分散分布の例を示すグラフである。
【
図8】パワー分布における最頻値を構成する山の幅を表すグラフである。
【
図10】
図9のラインDに沿った判別指標の変動を示すグラフである。
【
図11】判別指標とゲインとの関係を示すグラフである。
【
図12】パワー画像とゲインマップに基づいて血流画像が形成される処理を表す概念図である。
【
図13A】本実施形態に係るブルーミングアーチファクト低減処理を行わなかった場合の血流画像の例を示す図である。
【
図13B】本実施形態に係るブルーミングアーチファクト低減処理を行った場合の血流画像の例を示す図である。
【
図16】ユーザインターフェースの例を示す図である。
【
図17】推定されたドプラシフトのスペクトラムを表すグラフである。
【
図18A】血流領域に含まれるデータ要素のドプラシフトのスペクトラムの例を示すグラフである。
【
図18B】バックグラウンド領域に含まれるデータ要素のドプラシフトのスペクトラムの例を示すグラフである。
【
図18C】ブルーミング領域に含まれるデータ要素のドプラシフトのスペクトラムの例を示すグラフである。
【
図19】本実施形態に係る超音波診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図20】ブルーミングアーチファクトが生じる原因の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本実施形態に係る血流画像形成装置としての超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置される装置である。超音波診断装置10は、生体である被検体に対して超音波を送受波し、それにより得られた受信信号に基づいて、超音波画像を形成して表示する装置である。
【0025】
特に、超音波診断装置10は、受信信号間の位相変化量に基づくドプラシフトを検出し、ドプラシフトに応じて被検体内の組織の速度、速度の分散、又はパワーなどを表す超音波画像であるドプラ画像を形成する。ドプラ画像としては、組織の速度又は速度の分散の向き及び大きさを色で表したカラードプラ画像、並びに、パワーを色などで表したパワー画像がある。パワーとは、ドプラシフトを表すドプラ信号の強度を表すものであり、パワー画像は、カラードプラ画像に比して、例えば遅い血流でも明るく表示できる、などの利点を有する。本明細書では、ドプラ画像のうち、被検体内の血流を表すものを血流画像と呼ぶ。
【0026】
超音波プローブであるプローブ12は、超音波の送信及び反射波の受信を行うデバイスである。具体的には、プローブ12は、被検体の体表に当接され、被検体に向けて超音波ビームを送信し、被検体内の組織において反射した反射波を受信する。プローブ12内には、複数の振動素子からなる振動素子アレイが設けられている。振動素子アレイに含まれる各振動素子には、後述の送信部14から電気信号である送信信号が供給され、これにより、超音波ビーム(送信ビーム)が生成される。超音波ビームが走査されることで被検体内にビーム走査面が形成される。また、振動素子アレイに含まれる各振動素子は、被検体からの反射波を受信し、反射波を電気信号である受信信号に変換して後述の受信部16に送信する。
【0027】
送信部14は、送信ビームフォーマとして機能する。送信部14は、超音波の送信時において、複数の送信信号をプローブ12(詳しくは振動素子アレイ)に対して並列的に供給する。これにより、プローブ12から超音波ビームが送信される。
【0028】
受信部16は、受信ビームフォーマとして機能する。受信部16は、反射波の受信時において、プローブ12(詳しくは振動素子アレイ)から、ビーム走査面を形成する各送信ビームに対応する複数の受信信号を並列的に受け取る。受信部16は、複数の受信信号に対して、整層加算処理などの処理が実施され、これにより複数の受信ビームデータ(受信ビームデータ列)が生成される。このように、本実施形態では、受信部16が受信ビームデータ取得部に相当する。各受信ビームデータは、被検体の深さ方向に並ぶ、反射波の信号強度を示す複数の信号(データ)により構成される。すなわち、受信ビームデータ列によって、深さ方向及び方位方向(送信ビームの走査方向)に並ぶ2次元データ空間が定義され得る。なお、ビーム走査面の全体から得られた受信ビームデータ列(本明細書では受信フレームデータと呼ぶ)が有する信号強度を輝度値に変換することで1枚のBモード画像が形成される。本明細書では、Bモード画像の各画素に対応する受信ビームデータ列のデータ部分をデータ要素と呼ぶ。
【0029】
信号処理部18は、受信部16からの各受信ビームデータに対して、検波処理、対数増幅処理、ゲイン補正処理、あるいはフィルタ処理などを含む各種信号処理を行う。
【0030】
シネメモリ20は、信号処理部18で処理された複数個の受信フレームデータを記憶するメモリである。シネメモリ20は、信号処理部18からの受信フレームデータを入力された順番に出力するFIFO(First In First Out)バッファである。
【0031】
断層画像形成部22は、シネメモリ20からの受信フレームデータに基づいて、超音波断層画像(すなわちBモード画像)を形成する。具体的には、断層画像形成部22は、受信フレームデータに含まれる各受信ビームデータの各データ要素が有する信号強度を輝度値に変換することで、Bモード画像を形成する。
【0032】
ドプラ画像形成部24は、被検体に対する超音波の送受波によって得られた複数の受信信号間のドプラシフトに基づいてドプラ画像を形成する。ドプラ画像形成部24が行う処理の詳細については後述する。
【0033】
表示制御部26は、断層画像形成部22で形成されたBモード画像を、例えば液晶パネルなどにより構成される表示部としてのディスプレイ28に表示させる。また、表示制御部26は、断層画像形成部22で形成されたBモード画像に、ドプラ画像形成部24で形成されたドプラ画像を重畳させてディスプレイ28に表示させる。
【0034】
入力インターフェース30は、例えばボタン、トラックボール、あるいはタッチパネルなどから構成される。入力インターフェース30は、ユーザの指示を超音波診断装置10に入力するためのものである。
【0035】
メモリ32は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などを含んで構成される。メモリ32には、超音波診断装置10の各部を動作させるための血流画像形成プログラムが記憶される。なお、血流画像形成プログラムは、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から血流画像形成プログラムを読み取って実行することができる。
【0036】
制御部34は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部34としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部34は、メモリ32に記憶された超音波画像処理プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0037】
なお、送信部14、受信部16、信号処理部18、断層画像形成部22、ドプラ画像形成部24、及び、表示制御部26の各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0038】
図2は、ドプラ画像形成部24の構成概略図である。
図2に示されるとおり、ドプラ画像形成部24は、ドプラ処理部40、分布データ演算部42、判別指標マップ生成部44、及び、血流画像形成部46としての機能を発揮する。
【0039】
ドプラ処理部40は、シネメモリ20からの受信ビームデータを複素信号(実数部信号(I成分)及び虚数部信号(Q成分))に分ける直交検波処理、直交検波処理によって得られた複素信号に対して、被検体の体動などに起因するノイズ(クラッタ成分)を除去するためのウォールフィルタを適用するフィルタ処理、受信ビームデータ間の位相変更量を演算するための、I成分とQ成分との間の相関を演算する自己相関演算などを実行する。
【0040】
本明細書では、ドプラ処理部40により処理された受信ビームデータをドプラ信号と呼ぶ。詳しくは、直交検波処理や自己相関演算などにより得られた信号は、組織成分と血流成分が混合した信号となっているため、当該信号にウォールフィルタを適用して血流成分のみを抽出したものをドプラ信号と呼ぶ。ドプラ信号は、各データ要素についての、各ドプラシフト(シフト周波数)に対する信号強度を示す信号となる。
図3は、あるデータ要素についてのドプラ信号の例を示すグラフである。
図3は、横軸がドプラシフト(シフト周波数)を表し、縦軸が信号強度を表す。
図3に示すように、ドプラ信号は、中心周波数fを中心に信号強度が分布しているのが一般的である。なお、ドプラ処理部40(及びドプラ画像形成部24に含まれる他の処理部)の処理の対象は、受信フレームデータの全体でなくてもよく、その一部(例えばユーザから指定された関心領域)のみであってよい。
【0041】
分布データ演算部42は、各データ要素についての
図3に示すようなドプラ信号に基づいて、各データ要素についての、ドプラ信号のパワー、被検体内の組織の速度、又は、被検体内の組織の速度の分散の少なくとも1つを演算する。具体的には、分布データ演算部42は、信号強度の積分値(グラフの着色部分)に基づいて、当該データ要素のパワーを演算する。また、信号強度を有するドプラシフトは幅を持っているため、分布データ演算部42は、信号強度を有するドプラシフトから演算される速度の平均速度を当該データ要素の速度として演算する。さらに、分布データ演算部42は、ドプラ信号のグラフの幅に基づいて、当該データ要素の速度の分散を演算する。
【0042】
分布データ演算部42が、各データ要素についてのパワー、速度、又は速度の分散を演算することで、受信ビームデータ列(つまり2次元配列されたデータ要素群)で構成される2次元データ空間におけるパワー分布を示すパワーマップ、速度分布を示す速度マップ、又は、速度の分散分布を示す分散マップが演算されることになる。
【0043】
図4は、パワーマップ50の例を示す概念図である。
図4(及び後述の
図9についても同様)においては、X軸方向は方位方向を表し、Z軸方向は深さ方向を表している。
【0044】
パワーマップ50(又は速度マップや分散マップでもよい)において、観念上、血流(血管)に対応する血流領域A、血流以外の被検体の組織に対応するバックグラウンド領域B、及び、血流領域Aの下側(Z軸方向正側)にあり、ドプラ画像おいてブルーミングアーチファクトを生じさせるブルーミング領域Cに分けられる。
【0045】
分布データ演算部42は、受信ビームデータ列で構成された2次元データ空間(すなわちパワーマップ50、速度マップ、又は分散マップ)において、複数の関心領域(ROI(Region Of Interest))52を設定する。なお、
図4においては、複数のROI52のうち一部のROI52のみが図示されている。特に、分布データ演算部42は、1つのROI52が複数のデータ要素を含むように、各ROI52を設定する。そうすると、分布データ演算部42は、複数のROI52それぞれについて、パワーの分布を示すパワー分布、速度の分布を示す速度分布、又は速度の分散の分布を示す速度の分散分布の少なくとも一つである分布データを得ることができる。
【0046】
ここで重要な点は、血流領域AにおけるROI52aの分布データと、バックグラウンド領域BにおけるROI52bの分布データと、ブルーミング領域CにおけるROI52cの分布データとの特徴が互いに異なる、ということである。
【0047】
図5Aは、血流領域A内に設定されたROI52aにおけるパワー分布の例を示すグラフであり、
図5Bは、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおけるパワー分布の例を示すグラフであり、
図5Cは、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおけるパワー分布の例を示すグラフである。
図5A~
図5Cにおいては、横軸がパワーを表し、縦軸が頻度(データ要素数)を表す。すなわち、
図5A~
図5Cは、各ROI52におけるパワーのヒストグラムを表している。
【0048】
図5Aに示される通り、血流領域Aに設定されたROI52aにおけるパワー分布は、パワーのばらつきが大きく、特定のパワーの頻度が突出して大きくなることがない。すなわち、パワーのグラフは幅広で高さの低い山の形状となる。これに対し、
図5Bに示される通り、バックグラウンド領域Bに設定されたROI52bにおけるパワー分布は、パワーのばらつきが小さく、特定のパワー(低パワー)の頻度が突出して大きくなっている。すなわち、パワーのグラフは幅狭で高さの高い山の形状となる。ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおけるパワー分布は、血流領域Aとバックグラウンド領域Bのパワー分布の特徴を併せ持ったものとなる。具体的には、
図5Cに示される通り、ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおけるパワー分布は、パワーのばらつきが小さく、特定のパワー(低パワー)の頻度が突出して大きくなっている幅狭の山と、幅広で高さの低い(幅狭の山よりもピークが低い)山とを併せ持った形状となる。
【0049】
図6Aは、血流領域A内に設定されたROI52aにおける速度分布の例を示すグラフであり、
図6Bは、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおける速度分布の例を示すグラフであり、
図6Cは、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおける速度分布の例を示すグラフである。
図6A~
図6Cにおいては、横軸が速度を表し、縦軸が頻度(データ要素数)を表す。すなわち、
図6A~
図6Cは、各ROI52における速度のヒストグラムを表している。
【0050】
図6Aに示される通り、血流領域Aに設定されたROI52aにおける速度分布は、パワー分布とは反対に、速度のばらつきが小さく、特定の速度の頻度が突出して大きくなっている。すなわち、速度のグラフは幅狭で高さの高い山の形状となる。これに対し、
図6Bに示される通り、バックグラウンド領域Bに設定されたROI52bにおける速度分布は、パワー分布とは反対に、速度のばらつきが大きく、特定の速度の頻度が突出して大きくなることがない。すなわち、速度のグラフは幅広で高さの低い山の形状となる。ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおける速度分布は、血流領域Aとバックグラウンド領域Bの速度分布の特徴を併せ持ったものとなる。具体的には、
図6Cに示される通り、ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおける速度分布は、速度のばらつきが小さく、特定の速度の頻度が突出して大きくなっている幅狭の山と、幅広で高さの低い(幅狭の山よりもピークが低い)山とを併せ持った形状となる。
【0051】
速度の分散分布は、概ね速度分布と同じような特徴を呈する。
図7Aは、血流領域A内に設定されたROI52aにおける速度の分散分布の例を示すグラフであり、
図7Bは、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおける速度の分散分布の例を示すグラフであり、
図7Cは、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおける速度の分散分布の例を示すグラフである。
図7A~
図7Cにおいては、横軸が速度の分散を表し、縦軸が頻度(データ要素数)を表す。すなわち、
図7A~
図7Cは、各ROI52における速度の分散のヒストグラムを表している。
【0052】
図7Aに示される通り、血流領域Aに設定されたROI52aにおける速度の分散分布は、速度の分散のばらつきが小さく、特定の分散の頻度が突出して大きくなっている。すなわち、速度の分散のグラフは幅狭で高さの高い山の形状となる。これに対し、
図7Bに示される通り、バックグラウンド領域Bに設定されたROI52bにおける速度の分散分布は、分散のばらつきが大きく、特定の分散の頻度が突出して大きくなることがない。すなわち、速度の分散のグラフは幅広で高さの低い山の形状となる。ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおける速度の分散分布は、血流領域Aとバックグラウンド領域Bの速度の分散分布の特徴を併せ持ったものとなる。具体的には、
図7Cに示される通り、ブルーミング領域Cに設定されたROI52cにおける速度の分散分布は、分散のばらつきが小さく、特定の分散の頻度が突出して大きくなっている幅狭の山と、幅広で高さの低い(幅狭の山よりもピークが低い)山とを併せ持った形状となる。
【0053】
判別指標マップ生成部44は、分布データ演算部42が演算した、ROI52毎の分布データに基づいて、受信ビームデータ列で構成された2次元データ空間における血流領域Aである確からしさを表す判別指標マップを生成する。具体的には、判別指標マップとは、受信ビームデータ列で構成された2次元データ空間にある各データ要素に対して、血流領域Aである確からしさを表す判別指標が付与されて生成されるマップである。上述のように、血流領域A、バックグラウンド領域B、及びブルーミング領域CにおけるROI52の分布データの特徴が互いに異なることから、判別指標マップ生成部44は、ROI52における分布データの特徴に基づいて、各ROI52(すなわち各ROI52を構成する各データ要素)に対して、当該ROI52が血流領域A内にある確からしさを表す判別指標(値)を付与する。
【0054】
分布データ演算部42により、各ROI52のパワー分布が演算されている場合、判別指標マップ生成部44は、ROI52毎のパワー分布における最頻値近傍のパワーのばらつき具合に基づいて、判別指標マップを生成する。
【0055】
図8は、あるROI52のパワー分布を示すグラフである。判別指標マップ生成部44は、まず、パワー分布における最頻値を特定する。そして、グラフにおいて最頻値を含む山の幅wに基づいて、当該ROI52に付与する判別指標を決定する。具体的には、幅wが大きいほど判別指標が大きくなるように、換言すれば、幅wが小さいほど判別指標が小さくなるように、判別指標を決定する。
【0056】
なお、本実施形態では、山の幅wとしては、頻度が最頻値に基づいて決定される2つのパワーの差分(具体的には、最頻値×0.6の値をとる2つのパワー値の差分)としているが、山の幅wは、その他の指標により演算されてもよい。例えば、上記0.6の値を他の値とするようにしてもよい。
【0057】
上述のように、血流領域A内に設定されたROI52aにおけるパワー分布を示すグラフ(
図5A参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり大きくなる。一方、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおけるパワー分布を示すグラフ(
図5B参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり小さくなる。また、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおけるパワー分布を示すグラフ(
図5C参照)においては、幅広の山も含まれているものの、最頻値を構成する山に着目すると、バックグラウンド領域B同様、当該山の幅wはかなり小さくなる。つまり、最頻値を構成する山の幅wに基づいて判別指標を決定することで、血流領域Aに設定されたROI52aに対しては比較的大きい値の判別指標を付与することができる一方、バックグラウンド領域Bのみならずブルーミング領域Cに対しては比較的小さい値の判別指標を付与することができる。
【0058】
分布データ演算部42により、各ROI52の速度分布が演算されている場合、判別指標マップ生成部44は、ROI52毎の速度分布における最頻値近傍の速度のばらつき具合に基づいて、判別指標マップを生成する。速度分布が演算された場合でも、パワー分布の場合と同様に、判別指標マップ生成部44は、速度分布を示すグラフにおいて最頻値を含む山の幅wに基づいて、当該ROI52に付与する判別指標を決定する。ただし、速度分布の場合は、判別指標マップ生成部44は、パワー分布の場合とは逆に、幅wが小さいほど判別指標が大きくなるように、換言すれば、幅wが大きいほど判別指標が小さくなるように、判別指標を決定する。
【0059】
上述のように、血流領域A内に設定されたROI52aにおける速度分布を示すグラフ(
図6A参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり小さくなる。一方、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおける速度分布を示すグラフ(
図6B参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり大きくなる。また、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおける速度分布を示すグラフ(
図5C参照)においては、最頻値を含む山の幅wはバックグラウンド領域Bよりは小さいが、血流領域Aよりは大きくなる。つまり、最頻値を構成する山の幅wに基づいて判別指標を決定することで、血流領域Aに設定されたROI52aに対しては比較的大きい値の判別指標を付与することができる一方、バックグラウンド領域Bのみならずブルーミング領域Cに対しては比較的小さい値の判別指標を付与することができる。
【0060】
分布データ演算部42により、各ROI52の速度の分散分布が演算されている場合、判別指標マップ生成部44は、ROI52毎の分散分布における最頻値近傍の分散のばらつき具合に基づいて、判別指標マップを生成する。分散分布が演算された場合でも、パワー分布又は速度分布の場合と同様に、判別指標マップ生成部44は、分散分布を示すグラフにおいて最頻値を含む山の幅wに基づいて、当該ROI52に付与する判別指標を決定する。分散分布の場合は、パワー分布の場合とは逆であって速度分布の場合と同じように、幅wが小さいほど判別指標が大きくなるように、換言すれば、幅wが大きいほど判別指標が小さくなるように、判別指標を決定する。
【0061】
上述のように、血流領域A内に設定されたROI52aにおける分散分布を示すグラフ(
図7A参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり小さくなる。一方、バックグラウンド領域B内に設定されたROI52bにおける分散分布を示すグラフ(
図7B参照)では、最頻値を含む山の幅wはかなり大きくなる。また、ブルーミング領域C内に設定されたROI52cにおける分散分布を示すグラフ(
図7C参照)においては、最頻値を含む山の幅wはバックグラウンド領域Bよりは小さいが、血流領域Aよりは大きくなる。つまり、最頻値を構成する山の幅wに基づいて判別指標を決定することで、血流領域Aに設定されたROI52aに対しては比較的大きい値の判別指標を付与することができる一方、バックグラウンド領域Bのみならずブルーミング領域Cに対しては比較的小さい値の判別指標を付与することができる。
【0062】
図9は、判別指標マップ生成部44によって生成された判別指標マップ54の例を示す概念図である。また、
図10は、
図9のZ軸方向に平行なラインDに沿った判別指標の変動を示すグラフである。判別指標マップ54においては、血流領域Aに対応する部分の判別指標が大きくなり、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに対応する部分の判別指標は小さくなっている。
【0063】
本実施形態では、判別指標マップ生成部44は、各データ要素に付与された判別指標を正規化する処理を行う。例えば、判別指標マップ生成部44は、正規化処理として、判別指標マップ54において、判別指標が所定の閾値(
図10参照)以下のデータ要素の判別指標を0にする処理を行う。閾値以下の値の判別指標(すなわちかなり小さい値の判別指標)に対応するデータ要素は、血流領域Aに対応するデータ要素である可能性がかなり低いからである。
【0064】
また、演算の仕方によっては、判別指標が、例えば10,000など、かなり大きい値となる場合がある。つまり、判別指標が取り得る値がかなり幅広となる可能性がある。判別指標のばらつきが大きいと、後述の血流画像形成部46の処理において、血流領域Aとその他の領域(バックグラウンド領域B及びブルーミング領域C)を好適に識別することが困難となり得る。したがって、判別指標マップ生成部44は、正規化処理として、判別指標マップ54の各データ要素が有する判別指標を0~1の間の値に変換する。このように判別指標が変換(正規化)された判別指標マップ54をゲインマップと呼ぶ。本実施形態では、判別指標マップ生成部44は、ゲイン関数を用いて判別指標を正規化(変換)する。正規化は、例えば以下の式1で表される。
【数1】
式1において、(x,z)は、X軸座標がx、Z軸座標がzの位置にあるデータ要素を示す。g(x,z)は、ゲインマップの各データ要素(x,z)の判別指標(正規化された判別指標)を表し、d(x,z)は、正規化前のデータ要素(x,z)の判別指標を表す。G(d(x,z))は、ゲイン関数を表す。ゲイン関数は、例えば
図11に示すようなシグモイド関数であってよい。
【0065】
本実施形態では、ゲインマップが有する各データ要素の判別指標は0~1の値を有するようになる。特に、ゲインマップ56では、血流領域Aに対応するデータ要素は1又はそれに近い値の判別指標を有し、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに対応するデータ要素は0又はそれに近い値の判別指標を有するようになる。
【0066】
血流画像形成部46は、ドプラ処理部40の処理により得られたドプラ信号、及び、判別指標マップ生成部44により生成された判別指標マップに基づいて、被検体内の血流が表された血流画像を形成する。本実施形態では、分布データ演算部42により、パワーマップ、速度マップ、又は分散マップが演算されているため、血流画像形成部46は、パワーマップ、速度マップ、又は分散マップと、判別指標マップとに基づいて血流画像を形成する。
【0067】
具体的には、血流画像形成部46は、
図12に示すように、パワーマップ50にゲインマップ56(正規化された判別指標マップ)を掛け合わせることで、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像としてのパワー画像58を形成する。パワーマップ50にゲインマップ56を掛け合わせる、とは、パワーマップ50のデータ要素が有するパワーに、ゲインマップ56の当該データ要素の判別指標(0~1)を掛け合わせ、その演算結果をパワー画像58の当該データ要素の信号値とすることを意味する。上述のように、ゲインマップ56では、血流領域Aに対応するデータ要素は1又はそれに近い値の判別指標を有しており、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに対応するデータ要素は0又はそれに近い値の判別指標を有しているため、パワー画像58においては、血流領域Aに対応するデータ要素の信号値は、パワーマップ50が有するパワーがほぼそのまま残り、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに対応するデータ要素の信号値はほぼ0となる。
【0068】
同じようにして、血流画像形成部46は、パワーマップ50に変えて、速度マップとゲインマップ56とを掛け合わせることで、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像としての速度画像を得ることができる。また、血流画像形成部46は、パワーマップ50に変えて、分散マップとゲインマップ56とを掛け合わせることで、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像としての分散画像を得ることができる。
【0069】
上述の通り、本実施形態によれば、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像(パワー画像又はカラードプラ画像(速度画像あるいは分散画像))を得ることができる。
図13A及び
図13Bには本実施形態の効果が示されている。
図13Aは、本実施形態に係る上述のブルーミング低減処理を行わなかった場合のパワー画像の例を示す図である。
図13Aには、血管60の下側にブルーミングアーチファクト62が生じていることが認められる。
図13Bは、本実施形態に係るブルーミングアーチファクト低減処理を行った場合のパワー画像の例を示す図である。
図13Bには、
図13Aでは生じていたブルーミングアーチファクト62がかなり低減されていることが示されている。
【0070】
表示制御部26は、ドプラ画像形成部24により形成された血流画像をディスプレイ28に表示させる。例えば、表示制御部26は、断層画像形成部22により形成されたBモード画像に血流画像を重畳させてディスプレイ28に表示させる。
【0071】
表示制御部26は、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像と、ブルーミングアーチファクトが低減されていない血流画像をディスプレイ28に表示させてもよい。例えば、
図14に示すように、表示制御部26は、ブルーミングアーチファクトが低減されたパワー画像58と、ブルーミングアーチファクトが低減されていないパワー画像(すなわちパワーマップ50)を並べて表示させるようにしてもよい。これにより、ユーザは、ブルーミングアーチファクトがどれだけ低減されたかを把握できるし、ブルーミングアーチファクト低減処理が行われていない元のパワー画像も確認することができる。
【0072】
また、表示制御部26は、判別指標マップ生成部44により生成された判別指標マップをディスプレイ28に表示させてもよい。例えば、
図15に示すように、表示制御部26は、ブルーミングアーチファクトが低減されたパワー画像58と、それを得るために用いたゲインマップ56を並べて表示させるようにしてもよい。ゲインマップ56に代えて、正規化前の判別指標マップを表示してもよい。これにより、ユーザは、ブルーミングアーチファクトを低減するために用いられたゲインマップ56(又は判別指標マップ)を確認することができる。
【0073】
ドプラ画像形成部24は、本実施形態に係る血流画像を形成する処理、換言すれば、ブルーミングアーチファクト低減処理に係るパラメータを、ユーザからの指定に基づいて設定可能であるとよい。当該パラメータとしては、これらに限られるものではないが、例えば、分布データ演算部42が設定するROI52(
図4参照)の大きさを表すパラメータ、及び、判別指標マップ生成部44による判別指標の正規化に関するパラメータが含まれる。判別指標の正規化に関するパラメータとは、例えば、
図10に示された閾値、あるいは、ゲイン関数としてのシグモイド関数(
図11参照)のゲイン値などである。
【0074】
例えば、
図16に示すように、上述の各パラメータの組み合わせをプリセットとして予め複数設定しておき、入力インターフェース30として、各プリセットに対応する複数のプリセットボタン70を設けておくことができる。ユーザが所望のプリセットボタン70を選択して操作すると、ドプラ画像形成部24は、操作されたプリセットボタン70に対応するプリセットが示す各パラメータをブルーミングアーチファクト低減処理のパラメータとして設定する。表示制御部26は、各パラメータの設定値をディスプレイ28に表示してもよい。また、ディスプレイ28はタッチパネルであってよく、ディスプレイ28に対する操作によって、各パラメータを個別に設定可能であってもよい。
【0075】
上述の実施形態では、判別指標マップ生成部44は、分布データ演算部42が演算した、パワーマップ、速度マップ、又は、分散マップのいずれかを用いて判別指標マップを生成していたが、分布データ演算部42は、パワーマップ、速度マップ、及び、分散マップを演算した上で、判別指標マップ生成部44は、パワーマップ、速度マップ、及び、分散マップに基づいて判別指標マップを生成するようにしてもよい。
【0076】
この場合、判別指標マップ生成部44は、各データ要素について演算されたパワー、速度、及び速度の分散に基づいて、各データ要素についてのドプラシフトωのスペクトラムを推定する。具体的には、まず、判別指標マップ生成部44は、ドプラシフトωのスペクトラムがガウシアン分布であるとし、ガウシアンS
0(ω)を以下の式2に示すように設定する。
【数2】
式2において、ω
0は当該データ要素の速度であり、σは当該データ要素の速度の分散である。
【0077】
次に、判別指標マップ生成部44は、以下の式3に示すように、パワーをガウシアンS
0(ω)の総パワーで除算したパラメータAを演算する。
【数3】
式3において、Pは当該データ要素のパワーである。
【0078】
そして、判別指標マップ生成部44は、最終的に、ドプラシフトωのスペクトラムS(ω)を以下の式4で推定する。
【数4】
このように推定されたドプラシフトωのスペクトラムS(ω)は、
図17に示すような、積分値がPとなるグラフとなる。
【0079】
ここで、血流領域Aに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)と、バックグラウンド領域Bに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)と、ブルーミング領域Cに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)との特徴が互いに異なる、ということが重要である。
【0080】
図18Aは、血流領域Aに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)の例を示すグラフであり、
図18Bは、バックグラウンド領域Bに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)の例を示すグラフであり、
図18Cは、ブルーミング領域Cに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)の例を示すグラフである。
図18A~
図18Cにおいては、横軸がドプラシフトωを表し、縦軸がパワーを表す。
【0081】
血流領域Aに含まれるデータ要素のスペクトラムS(ω)は、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに比して、ドプラシフトωが大きいところにピークがあり、且つ、パワーが大きくなっている。したがって、判別指標マップ生成部44は、より大きなドプラシフトωにおいてピークを有するスペクトラムS(ω)程大きな値となる、スペクトラムS(ω)の1次モーメントを演算し、これを当該データ要素の判別指標とする。スペクトラムS(ω)の1次モーメントM
1は、以下の式5により演算される。
【数5】
【0082】
これにより、血流領域Aに含まれるデータ要素には、比較的大きい値の判別指標が付与することができる一方、バックグラウンド領域B及びブルーミング領域Cに対しては比較的小さい値の判別指標を付与することができる。なお、ドプラシフトωのスペクトラムS(ω)に基づいて判別指標を付与する場合、上述のように、データ要素毎に処理を行うため、分布データ演算部42は、ROI52を設定する必要がなく、ROI52毎の分布データを得る必要はない。
【0083】
なお、上記実施形態では、スペクトラムS(ω)の1次モーメントM
1を判別指標としていたが、2次以降のモーメントも考慮して判別指標を演算するようにしてもよい。なお、任意のn次モーメントM
nは以下の式6により演算される。
【数6】
【0084】
本実施形態に係る超音波診断装置10の概要は以上の通りである。以下、
図19に示されるフローチャートに従って、超音波診断装置10の処理の流れを説明する。
【0085】
ステップS10において、送信部14はプローブ12に対して複数の送信信号を供給し、プローブ12はこれに基づいて被検体に超音波を送信する。プローブ12は、被検体からの反射波を受信して複数の受信信号を受信部16へ送る。受信部16は、複数の受信信号に基づいて、受信ビームデータ列を生成する。
【0086】
ステップS12において、ドプラ処理部40は、受信ビームデータ列を構成する各受信ビームデータに基づいてドプラ信号を生成する。分布データ演算部42は、各データ要素についてのドプラ信号に基づいて、各データ要素についてのパワー、速度、又は速度の分散を演算する。ここでは、分布データ演算部42は各データ要素のパワーを演算し、これによりパワーマップ50(
図4参照)を生成するものとする。また、分布データ演算部42は、パワーマップ50において複数のROI52を設定し、これにより、ROI52毎のパワー分布を得る。
【0087】
ステップS14において、判別指標マップ生成部44は、ステップS12で設定された複数のROI52のうちから、対象ROIを選択する。
【0088】
ステップS16において、判別指標マップ生成部44は、ステップS14で選択した対象ROIのパワー分布に基づいて、対象ROI(すなわち対象ROIに含まれるデータ要素)の判別指標を演算する。
【0089】
ステップS18において、判別指標マップ生成部44は、ステップS12で設定されたすべてのROI52についての判別指標の演算が完了したか否かを判定する。判別指標を演算していないROI52が残っている場合は、ステップS14に戻り、再度のステップS14にて、判別指標マップ生成部44は、判別指標を演算していないROI52を対象ROIとして選択する。すべてのROI52についての判別指標の演算が完了している場合はステップS20に進む。
【0090】
ステップS20において、判別指標マップ生成部44は、各データ要素について演算された判別指標を正規化してゲインマップ56を生成する。
【0091】
ステップS22において、血流画像形成部46は、ステップS12で生成したパワーマップ50にステップS20で生成されたゲインマップ56を掛け合わせることで、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像としてのパワー画像58を形成する。
【0092】
ステップS22において、表示制御部26は、断層画像形成部22で形成されたBモード画像に、ステップS22で形成されたドプラ画像を重畳させてディスプレイ28に表示させる。
【0093】
以上、本開示に係る血流画像形成装置を説明したが、本開示に係る血流画像形成装置は上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0094】
例えば、本実施形態では、血流画像形成装置が超音波診断装置10であったが、血流画像形成装置は超音波診断装置10に限られず、その他のコンピュータであってもよい。この場合、血流画像形成装置としてのコンピュータが、ドプラ画像形成部24の機能を発揮する。具体的には、血流画像形成装置としてのコンピュータは、超音波診断装置から受信ビームデータ列を取得し(この場合コンピュータのインターフェースが受信ビームデータ取得部に相当する)、ドプラ画像形成部24が当該受信ビームデータ列に基づいて上述の処理を行うことで、ブルーミングアーチファクトが低減された血流画像が形成される。
【符号の説明】
【0095】
10 超音波診断装置、12 プローブ、14 送信部、16 受信部、18 信号処理部、20 シネメモリ、22 断層画像形成部、24 ドプラ画像形成部、26 表示制御部、28 ディスプレイ、30 入力インターフェース、32 メモリ、34 制御部、40 ドプラ処理部、42 分布データ演算部、44 判別指標マップ生成部、46 血流画像形成部。