(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018521
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
B63H 23/10 20060101AFI20240201BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240201BHJP
B63H 20/14 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B63H23/10
B63H20/00 610
B63H20/14 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121913
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 健司
(57)【要約】
【課題】 船外機においてエネルギー損失を低減する。
【解決手段】 船外機1は、船体2に支持された上部ケース3と、回動可能に上部ケースに支持された下部ケース4と、上部ケース内に配置された第1駆動源15と、上部ドライブシャフト17によって第1駆動源に接続された遊星歯車機構20と、下部ドライブシャフト18を介して遊星歯車機構に接続されたプロペラシャフト23と、下部ケースにトルクを与える第2駆動源31とを有する。遊星歯車機構は、太陽歯車35、複数の遊星歯車36を回転可能に支持する遊星キャリア37、及び内歯車38を有する。内歯車が、下部ドライブシャフトの上端に接続されている。太陽歯車が、上部ドライブシャフトの下端に接続されている。遊星キャリアは、下部ケースに下部ドライブシャフトの回転方向と逆向きのトルクを与えるように接続されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機であって、
船体に支持された上部ケースと、
上下に延びる第1軸線を中心として回動可能に前記上部ケースの下部に支持された下部ケースと、
前記上部ケース内に配置された第1駆動源と、
前記上部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線に沿って延び、上端において前記第1駆動源の出力軸に接続された上部ドライブシャフトと、
前記上部ケース又は前記下部ケースの内部に前記第1軸線に沿って配置され、前記上部ドライブシャフトの下端に接続された遊星歯車機構と、
前記下部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線に沿って延び、上端において前記遊星歯車機構に接続され、下端に第1ベベルギヤを有する下部ドライブシャフトと、
前記下部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線と直交する方向に延び、一端に前記第1ベベルギヤと噛み合う第2ベベルギヤを有し、前記下部ケースから突出した他端にプロペラを有するプロペラシャフトと、
前記下部ケースに前記第1軸線を中心としたトルクを与える第2駆動源とを有し、
前記遊星歯車機構は、太陽歯車と、前記太陽歯車に噛み合う複数の遊星歯車を回転可能に支持する遊星キャリアと、複数の前記遊星歯車に噛み合う内歯車とを有し、
前記内歯車が、前記下部ドライブシャフトの上端に接続され、
前記太陽歯車が、前記上部ドライブシャフトの下端に接続され、
前記遊星キャリアは、前記下部ケースに前記下部ドライブシャフトの回転方向と逆向きのトルクを与えるように接続されている船外機。
【請求項2】
前記遊星歯車機構は、前記上部ケース内に配置されている請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記遊星キャリアが前記下部ケースに固定されている請求項2に記載の船外機。
【請求項4】
前記遊星キャリアと前記下部ケースとが所定の変速比で接続する変速機構によって接続されている請求項2に記載の船外機。
【請求項5】
前記変速比が次の関係を満たすように設定されている請求項1に記載の船外機。
変速比=1-1/(プラネタリ変速比+1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは前記太陽歯車の歯数であり、Zcは前記内歯車の歯数である。
【請求項6】
複数の前記遊星歯車が、前記太陽歯車に噛み合う複数の内側遊星歯車と、前記内側遊星歯車及び前記内歯車に噛み合う複数の外側遊星歯車とを含み、
前記変速比が次の関係を満たすように設定されている請求項1に記載の船外機。
変速比=1+1/(プラネタリ変速比-1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは前記太陽歯車の歯数であり、Zcは前記内歯車の歯数である。
【請求項7】
前記上部ケースには、前記上部ドライブシャフトを回転可能に支持するための軸受と、オイルポンプと、前記オイルポンプから前記軸受に延びる第1油路とが設けられ、
前記遊星キャリアは、前記第1軸線を中心とする円環状であって、
前記遊星キャリアは、複数の前記遊星歯車のそれぞれを回転可能に支持する複数のピニオンシャフトを有し、
前記遊星キャリアの内周面は、前記上部ドライブシャフトの外周面と摺接し、
前記上部ドライブシャフトは、前記軸受に向けて開口する第1孔と、前記遊星キャリアの前記内周面に向けて開口する第2孔とを有し、前記第1孔において前記第1油路に接続する第2油路を有し、
前記遊星キャリアは、前記遊星キャリアの前記内周面からそれぞれに前記ピニオンシャフトのそれぞれの外周面に延び前記第2油路に接続する第3油路を有する請求項1に記載の船外機。
【請求項8】
前記上部ケースには、オイルポンプと、前記第1軸線を中心とした第1円筒部と、前記オイルポンプから前記第1円筒部の外周面又は内周面に延びる第1油路とが設けられ、
前記遊星キャリアは、前記第1軸線を中心とした第2円筒部と、複数の前記遊星歯車のそれぞれを回転可能に支持する複数のピニオンシャフトとを有し、
前記第2円筒部は、前記第1円筒部の前記外周面又は前記内周面と摺接し、
前記遊星キャリアは、前記第2円筒部の外周面又は内周面からそれぞれに前記ピニオンシャフトのそれぞれの外周面に延び前記第1油路に接続する第2油路を有する請求項1に記載の船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船体に設けられたエンジン及びモータジェネレータを含む駆動源と、駆動源の出力軸にベベルギヤを介して接続され、上下に延びるドライブシャフトと、ドライブシャフトの下部を受容する下部ケースと、下部ケース内でドライブシャフトの下端とベベルギヤを介して接続され、水平方向に延びたプロペラシャフトと、プロペラシャフトの下部ケースから突出した端部に設けられたプロペラとを有する船外機を開示している。下部ケースはドライブシャフトを中心として回動可能に船体に支持されており、電動油圧シリンダによって船体に対する角度が変更される。このような船外機は、舵角を変更するときに下部ケースのみを回動させるため、船外機の設置スペースを小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る内燃機関は、プロペラシャフトがベベルギヤを介してドライブシャフトに垂直に連結され、プロペラシャフトが下部ケースに支持されているため、ドライブシャフトのトルクがプロペラシャフトを介して下部ケースを回転させる方向に加わる。そのため、舵角、すなわち下部ケースの船体に対する角度を一定に維持するために、常に電動油圧シリンダに電力を供給する必要があり、エネルギー損失が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、船外機においてエネルギー損失を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、船外機(1)であって、船体(2)に支持された上部ケース(3)と、上下に延びる第1軸線(A)を中心として回動可能に前記上部ケースの下部に支持された下部ケース(4)と、前記上部ケース内に配置された第1駆動源(15)と、前記上部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線に沿って延び、上端において前記第1駆動源の出力軸に接続された上部ドライブシャフト(17)と、前記上部ケース又は前記下部ケースの内部に前記第1軸線に沿って配置され、前記上部ドライブシャフトの下端に接続された遊星歯車機構(20)と、前記下部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線に沿って延び、上端において前記遊星歯車機構に接続され、下端に第1ベベルギヤ(24)を有する下部ドライブシャフト(18)と、前記下部ケースに回転可能に支持され、前記第1軸線と直交する方向に延び、一端に前記第1ベベルギヤと噛み合う第2ベベルギヤ(25)を有し、前記下部ケースから突出した他端にプロペラ(26)を有するプロペラシャフト(23)と、前記下部ケースに前記第1軸線を中心としたトルクを与える第2駆動源(31)とを有し、前記遊星歯車機構は、太陽歯車(35)と、前記太陽歯車に噛み合う複数の遊星歯車(36)を回転可能に支持する遊星キャリアと(37)、複数の前記遊星歯車に噛み合う内歯車(38)とを有し、前記内歯車が、前記下部ドライブシャフトの上端に接続され、前記太陽歯車が、前記上部ドライブシャフトの下端に接続され、前記遊星キャリアは、前記下部ケースに前記下部ドライブシャフトの回転方向と逆向きのトルクを与えるように接続されている。
【0007】
この態様によれば、遊星キャリアから下部ケースに下部ドライブシャフトの回転方向と逆向きのトルクが加わる。これにより、下部ドライブシャフトからプロペラシャフトを介して下部ケースに加わるトルクの少なくとも一部が相殺される。そのため、下部ケースの上部ケースに対する角度を維持するために第2駆動源が発生するべき駆動力を低減させることができる。すなわち、船外機においてエネルギー損失を低減することができる。
【0008】
上記の態様において、前記遊星歯車機構は、前記上部ケース内に配置されているとよい。
【0009】
この態様によれば、下部ケースの小型化が可能になる。
【0010】
上記の態様において、前記遊星キャリアが前記下部ケースに固定されているとよい。
【0011】
この態様によれば、簡素な構成によって遊星キャリアと下部ケースとを接続することができる。
【0012】
上記の態様において、前記遊星キャリアと前記下部ケースとが所定の変速比で接続する変速機構(40)によって接続されているとよい。
【0013】
この態様によれば、遊星キャリアから下部ケースに伝達するトルクを調節することができる。
【0014】
上記の態様において、前記変速比が次の関係を満たすように設定されているとよい。
変速比=1-1/(プラネタリ変速比+1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは前記太陽歯車の歯数であり、Zcは前記内歯車の歯数である。
【0015】
この態様によれば、遊星キャリアから下部ケースに伝達するトルクと、下部ドライブシャフトからプロペラシャフトを介して下部ケースに伝達するトルクとが釣り合う。これにより、下部ケースの角度を維持するために第2駆動源が発生すべき駆動力を最小にすることができる。
【0016】
上記の態様において、複数の前記遊星歯車が、前記太陽歯車に噛み合う複数の内側遊星歯車(101)と、前記内側遊星歯車及び前記内歯車に噛み合う複数の外側遊星歯車(102)とを含み、前記変速比が次の関係を満たすように設定されているとよい。
変速比=1+1/(プラネタリ変速比-1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは前記太陽歯車の歯数であり、Zcは前記内歯車の歯数である。
【0017】
この態様によれば、遊星キャリアから下部ケースに伝達するトルクと、下部ドライブシャフトからプロペラシャフトを介して下部ケースに伝達するトルクとが釣り合う。これにより、下部ケースの角度を維持するために第2駆動源が発生すべき駆動力を最小にすることができる。
【0018】
上記の態様において、前記上部ケースには、前記上部ドライブシャフトを回転可能に支持するための軸受(50)と、オイルポンプ(51)と、前記オイルポンプから前記軸受に延びる第1油路(52)とが設けられ、前記遊星キャリアは、前記第1軸線を中心とする円環状であって、前記遊星キャリアは、複数の前記遊星歯車のそれぞれを回転可能に支持する複数のピニオンシャフト(57)を有し、前記遊星キャリアの内周面(65)は、前記上部ドライブシャフトの外周面(59)と摺接し、前記上部ドライブシャフトは、前記軸受に向けて開口する第1孔(64)と、前記遊星キャリアの前記内周面に向けて開口する第2孔(66)とを有し、前記第1孔において前記第1油路に接続する第2油路(63)を有し、前記遊星キャリアは、前記遊星キャリアの前記内周面からそれぞれに前記ピニオンシャフトのそれぞれの外周面(67)に延び前記第2油路に接続する第3油路(69)を有するとよい。
【0019】
この態様によれば、各遊星歯車と各ピニオンシャフトとの摺動部を潤滑することができる。
【0020】
上記の態様において、前記上部ケースには、オイルポンプ(51)と、前記第1軸線を中心とした第1円筒部(81)と、前記オイルポンプから前記第1円筒部の外周面(82)又は内周面(83)に延びる第1油路(52)とが設けられ、前記遊星キャリアは、前記第1軸線を中心とした第2円筒部(84)と、複数の前記遊星歯車のそれぞれを回転可能に支持する複数のピニオンシャフト(57)とを有し、前記第2円筒部は、前記第1円筒部の前記外周面又は前記内周面と摺接し、前記遊星キャリアは、前記第2円筒部の外周面(85)又は内周面(86)からそれぞれに前記ピニオンシャフトのそれぞれの外周面(67)に延び前記第1油路に接続する第2油路(63)を有するとよい。
【0021】
この態様によれば、各遊星歯車と各ピニオンシャフトとの摺動部を潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図6】第2実施形態に係る船外機の遊星歯車機構の説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る船外機1について説明する。
図1及び
図2に示すように、船外機1は、船体2に支持された上部ケース3と、上部ケース3の下部に支持された下部ケース4とを有する。船体2の船尾にブラケット5が設けられ、上部ケース3はブラケット5を介して船体2に支持されているとよい。ブラケット5はヒンジを含み、左右に延びる軸線を中心として船体2に対して回動可能に取り付けられているとよい。上部ケース3は、ブラケット5によって船体2に左右に延びる軸線を中心として回動可能に支持されているとよい。
【0024】
下部ケース4は、上下に延びる第1軸線Aを中心として回動可能に上部ケース3の下部に支持されている。上部ケース3の下端には、第1軸線Aに沿って上部ケース3の内部から外部に延びる軸受孔11が形成されている。下部ケース4の上端には、円筒形の連結部12が設けられている。連結部12は軸受13を介して軸受孔11に回転可能に支持されている。連結部12は、第1軸線Aと同軸に配置される。軸受13は例えばアンギュラ玉軸受であり、連結部12の軸受孔11に対する第1軸線Aに沿った方向への移動を規制するとよい。連結部12と軸受孔11との間には水の侵入を防止するためのシール部材が設けられているとよい。下部ケース4の下部は、前方を向く砲弾形に形成されているとよい。
【0025】
上部ケース3の内部には第1駆動源15が配置されている。第1駆動源15は、船外機1が推進力を発生させるために使用される。第1駆動源15は、内燃機関や電動モータであってよい。本実施形態では、第1駆動源15は電動モータである。第1駆動源15は上部ケース3に固定され、第1駆動源15の出力軸16は第1軸線Aに沿って配置されている。
【0026】
第1駆動源15の出力軸16には、上部ドライブシャフト17が接続されている。上部ドライブシャフト17は、上部ケース3に回転可能に支持され、第1軸線Aに沿って延びている。第1駆動源15の出力軸16の下端が、上部ドライブシャフト17の上端にカップリング等によって一体に回転するように結合されているとよい。
【0027】
上部ドライブシャフト17の下方には、下部ドライブシャフト18が第1軸線Aに沿って配置されている。下部ドライブシャフト18は、少なくとも下部ケース4に回転可能に支持されている。上部ドライブシャフト17の下端と下部ドライブシャフト18の上端とは遊星歯車機構20を介して接続されている。遊星歯車機構20は、上部ドライブシャフト17の回転を変速して下部ドライブシャフト18に伝達する。遊星歯車機構20は、上部ケース3又は下部ケース4の内部に第1軸線Aに沿って配置されている。本実施形態では、遊星歯車機構20は上部ケース3の内部に配置されている。また、下部ドライブシャフト18は連結部12の内孔21を通過し、下部ドライブシャフト18の上端が上部ケース3内に配置されている。下部ドライブシャフト18は、連結部12の内孔21に軸受13を介して回転可能に支持されているとよい。
【0028】
下部ケース4には、第1軸線Aと直交する方向に延びるプロペラシャフト23が回転可能に支持されている。プロペラシャフト23は、前後に延び、下部ケース4の後端を貫通している。プロペラシャフト23は、下部ケース4の内部に配置された前端と、下部ケース4の外部に配置された後端とを有する。下部ドライブシャフト18の下端には第1ベベルギヤ24が設けられ、プロペラシャフト23の前端には第1ベベルギヤ24に噛み合う第2ベベルギヤ25が設けられている。第1ベベルギヤ24と第2ベベルギヤ25との噛み合いによって、下部ドライブシャフト18が回転するとプロペラシャフト23が回転する。プロペラシャフト23の後端には、プロペラ26が設けられている。
【0029】
連結部12の上端には、径方向外方に突出するディスク部28が設けられている。ディスク部28は上部ケース3の内部に配置されている。ディスク部28は、第1軸線Aを中心とした円形に形成され、中央に連結部12の内孔21に連通する貫通孔を有する。ディスク部28は、第1軸線Aを中心とした筒形のスリーブ41を有する。ディスク部28の外周には、外歯車である第1ギヤ29が形成されている。
【0030】
上部ケース3には、下部ケース4に第1軸線Aを中心としたトルクを与える第2駆動源31が設けられている。第2駆動源31は、下部ケース4を上部ケース3に対して回動させるための駆動力を発生させる。第2駆動源31は、内燃機関や電動モータであってよい。本実施形態では、第2駆動源31は電動モータである。第2駆動源31は上部ケース3に固定され、第2駆動源31の出力軸32は第1軸線Aと平行に下向きに延びている。第2駆動源31の出力軸32には、第1ギヤ29と噛み合う外歯車である第2ギヤ33が設けられている。第2駆動源31の出力軸32が回転すると、第2ギヤ33及び第1ギヤ29の噛み合いにより、下部ケース4が上部ケース3に対して第1軸線Aを中心として回動する。
【0031】
太陽歯車35が、上部ドライブシャフト17の下端に接続されている。内歯車38は、下部ドライブシャフト18の上端に接続されている。本実施形態では、内歯車38は、底部を有する筒形の接続部材39と結合している。接続部材39の底部は、下部ドライブシャフト18の上端と結合している。これによって、内歯車38は下部ドライブシャフト18と一体に回転する。
【0032】
遊星歯車機構20は、太陽歯車35と、太陽歯車35に噛み合う複数の遊星歯車36を回転可能に支持する遊星キャリア37と、複数の遊星歯車36に噛み合う内歯車38とを有する。太陽歯車35、遊星キャリア37、及び内歯車38は、第1軸線Aを中心として互いに同軸に配置されている。太陽歯車35、遊星キャリア37、及び内歯車38のそれぞれは、第1軸線Aを中心として回転可能に配置されている。
【0033】
遊星キャリア37は下部ケース4に固定されている。本実施形態では、遊星キャリア37と下部ケース4とは、所定の変速比で接続する変速機構40を介して接続され、遊星キャリア37は、変速機構40を介して下部ケース4に下部ドライブシャフト18の回転方向と逆向きのトルクを与えるように接続されている。遊星キャリア37はスリーブ41によって下部ケース4のディスク部28に結合されていてもよく、スリーブ41は、ディスク部28に代えて連結部12に結合されてもよい。
【0034】
変速機構40は、遊星キャリア37の外周部に形成された外歯車である第3ギヤ43と、第3ギヤ43と噛み合う外歯車である第4ギヤ44と、第4ギヤ44とシャフト45によって接続され、第4ギヤ44と一体に回転する外歯車である第5ギヤ46と、スリーブ41に設けられ、第1軸線Aを中心とした外歯車である第6ギヤ47とを有する。シャフト45は第1軸線Aと平行に延び、上部ケース3に回転可能に支持されている。変速機構40の変速比は、第3~第6ギヤ43、44、46、47の歯数を調節することによって変更することができる。
【0035】
船外機1の遊星歯車機構20における潤滑構造について説明する。
図3に示すように上部ケース3には、上部ドライブシャフト17を回転可能に支持するための軸受50と、オイルポンプ51と、オイルポンプ51から軸受50に延びる第1油路52とが設けられている。具体的にはオイルポンプ51及び第1油路52は遊星歯車機構20の上方に配置されている。オイルポンプ51は、第1油路52にオイルを圧送する。第1油路52の端部は、軸受50の内周面54に開口している。
【0036】
遊星キャリア37は、ディスク55と、リング56と、ディスク55及びリング56を接続する複数のピニオンシャフト57とを有する。ディスク55は、円板状に形成されている。ディスク55は、上部ドライブシャフト17の下端の下方に、第1軸線Aと同軸に配置されている。リング56は、円環状に形成されている。リング56は、太陽歯車35よりも上方かつ軸受50よりも下方に、第1軸線Aと同軸に配置されている。リング56の内周面58は、上部ドライブシャフト17の外周面59に摺接している。複数のピニオンシャフト57は、第1軸線Aと平行に延び、ディスク55及びリング56に結合している。各ピニオンシャフト57には、ベアリング60を介して対応する遊星歯車36が回転可能に支持されている。太陽歯車35と上部ドライブシャフト17の下端との間には、スラスト方向及びラジアル方向の荷重を支持するベアリング61が設けられている。
【0037】
上部ドライブシャフト17は、第2油路63を有する。第2油路63は、軸受50に向けて開口する第1孔64と、遊星キャリア37の内周面65に向けて開口する第2孔66とを有する。第2油路63は、第1孔64において第1油路52に接続する。
【0038】
上部ドライブシャフト17の外周面59には、周方向に延在し、第1孔64に接続する油溝が設けられるとよい。また軸受50の内周面54には、周方向に延在し、第1油路52に接続する油溝が設けられてもよい。
【0039】
遊星キャリア37は、遊星キャリア37の内周面65からそれぞれにピニオンシャフト57のそれぞれの外周面67に延び第2油路63に接続する第3油路69を有する。第3油路69は、リング56の内周面58に開口した第3孔70と、各ピニオンシャフト57の外周面67に開口した複数の第4孔71とを有する。第3孔70は、第2油路63の第2孔66に接続する。第3油路69は、リング56内を第3孔70から分岐して各ピニオンシャフト57に延びた集合部72と、集合部72から各ピニオンシャフト57内に延び、各第4孔71に接続した複数の分岐部73とを有する。
【0040】
上部ドライブシャフト17の外周面59には、周方向に延在し、第2孔66に接続する油溝が設けられるとよい。また、リング56の内周面58には、周方向に延在し、第3孔70に接続する油溝が設けられてもよい。
【0041】
上記の潤滑構造によれば、オイルは、上部ケース3に設けられたオイルポンプ51から第1油路52、第2油路63、及び第3油路69を介して、ピニオンシャフト57の外周面67を供給される。これによって各遊星歯車36と各ピニオンシャフト57との摺動部を潤滑することができる。
【0042】
第2油路63は、上部ドライブシャフト17の下端に開口していてもよい。この構成によれば、オイルは、上部ドライブシャフト17の下端と遊星キャリア37のディスク55との間に供給され、上部ドライブシャフト17の下端と遊星キャリア37のディスク55との間に設けられたベアリング61を潤滑する。また、ベアリング61を潤滑したオイルは、更に太陽歯車35と各遊星歯車36との間に流れ、太陽歯車35と各遊星歯車36とを潤滑する。
【0043】
上記の潤滑構造の一部変形例について説明する。上記の潤滑構造と比較して、上部ケース3及び遊星キャリア37の構成のみが異なり、他の構成は同一である。以下の説明において、上記の潤滑構造と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
図4に示すように上部ケース3には、第1軸線Aを中心とした第1円筒部81が設けられている。第1円筒部81は遊星歯車機構20の上方に配置されている。第1油路52は、オイルポンプ51から第1円筒部81の外周面82又は内周面83に延びている。
【0045】
遊星キャリア37は、第1軸線Aを中心とした第2円筒部84と、第2円筒部84の外周面85又は内周面86からそれぞれにピニオンシャフト57のそれぞれの外周面67に延び第1油路52に接続する第2油路63を有する。
【0046】
第2円筒部84は、リング56から上方に延びている。第2円筒部84は第1円筒部81の内側に配置されている。第2円筒部84の外周面85は第1円筒部81の内周面83と摺接している。第2円筒部84は、第1軸線Aを中心として第1円筒部81に対して回転可能である。第1油路52は、オイルポンプ51から第1円筒部81の内周面83に延び、第1円筒部81の内周面83に開口している。第2油路63は、第2円筒部84の外周面85に開口し、第1油路52と接続している。第2円筒部84の外周面85には、周方向に延在し、第2孔66に接続する油溝が設けられるとよい。また、第1円筒部81の内周面83には、周方向に延在し、第1孔64に接続する油溝が設けられてもよい。
【0047】
上記の潤滑構造によれば、オイルは、上部ケース3に設けられたオイルポンプ51から第1油路52及び第2油路63を介して、ピニオンシャフト57の外周面67を供給される。これによって各遊星歯車36と各ピニオンシャフト57との摺動部を潤滑することができる。
【0048】
第2円筒部84の内側に第1円筒部81が配置されてもよい。この場合、第2円筒部84の内周面86が第1円筒部81の外周面82と摺接するとよい。また、第1油路52が第1円筒部81の外周面82に開口し、第2油路63が第2円筒部84の内周面86に開口しているとよい。
【0049】
第1実施形態に係る船外機1によれば、第1駆動源15が発生するトルクは、上部ドライブシャフト17、遊星歯車機構20、及び下部ドライブシャフト18を介してプロペラシャフト23に伝達され、プロペラ26が回転して推進力が発生する。遊星歯車機構20は、減速して上部ドライブシャフト17のトルクを下部ドライブシャフト18に伝達する。このとき、下部ドライブシャフト18のトルクがプロペラシャフト23を介して下部ケース4に伝達される。一方で、下部ドライブシャフト18及び内歯車38に対して逆回転する遊星キャリア37のトルクが下部ケース4に伝達される。そのため、内歯車38から下部ケース4に伝達されるトルクの少なくとも一部が、遊星キャリア37から下部ケース4に伝達されるトルクによって相殺される。そのため、上部ケース3に対する下部ケース4の角度、すなわち舵角を維持するために第2駆動源31が下部ケース4に加えるべきトルクを低減させることができる。その結果、第2駆動源31の消費エネルギー量を低減させることができる。すなわち、船外機1においてエネルギー損失を低減することができる。
【0050】
変速機構40の変速比は次の関係を満たすように設定されている。
変速比=1-1/(プラネタリ変速比+1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは太陽歯車35の歯数であり、Zcは内歯車38の歯数である。この構成によれば、遊星キャリア37から下部ケース4に伝達するトルクと、下部ドライブシャフト18からプロペラシャフト23を介して下部ケース4に伝達するトルクとが釣り合う。これにより、下部ケース4の角度を維持するために第2駆動源31が発生すべき駆動力を最小にすることができる。
【0051】
遊星歯車機構20を上部ケース3に設けることによって、下部ケース4の小型化が可能になる。これにより、船外機1が水から受ける抵抗を低減させることができる。また、遊星キャリア37を下部ケース4に固定することによって、簡素な構成によって遊星キャリア37と下部ケース4とを接続することができる。これにより船外機1の更なる小型化が可能になる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る船外機100は、第1実施形態に係る船外機1と比較して、遊星歯車36及び遊星キャリア37の構成のみが異なり、他の構成は同一である。以下の説明において、第1実施形態に係る船外機1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図5及び
図6に示すように、第2実施形態に係る船外機100では、遊星歯車36が、太陽歯車35に噛み合う複数の内側遊星歯車101と、内側遊星歯車101及び内歯車38に噛み合う複数の外側遊星歯車102とを含む。内側遊星歯車101の数と外側遊星歯車102の数は等しく設定されている。複数の内側遊星歯車101及び複数の外側遊星歯車102のそれぞれは、第1軸線Aと平行に配置され、遊星キャリア37に回転可能に支持されている。第2実施形態に係る船外機100の遊星キャリア37は、第1実施形態に係る船外機1の遊星キャリア37に対して逆方向に回転する。
【0054】
下部ケース4には、第1軸線Aと直交する方向に延びる第1プロペラシャフト110及び第2プロペラシャフト111が回転可能に支持されている。第1プロペラシャフト110は、前後に延び、下部ケース4の後端を貫通している。第1プロペラシャフト110は、下部ケース4の内部に配置された前端と、下部ケース4の外部に配置された後端とを有する。第1プロペラシャフト110は円筒形に形成されている。第2プロペラシャフト111は、第1プロペラシャフト110の内孔112に回転可能に支持されている。第2プロペラシャフト111は、第1プロペラシャフト110の前端から突出し、かつ下部ケース4の内部に配置された前端と、第1プロペラシャフト110の後端から突出し、下部ケース4の外部に配置された後端とを有する。
【0055】
下部ドライブシャフト18の下端には第1ベベルギヤ24が設けられている。第1プロペラシャフト110の前端には第1ベベルギヤ24に噛み合う第2ベベルギヤ113が設けられている。第2プロペラシャフト111の前端には第1ベベルギヤ24に噛み合う第3ベベルギヤ114が設けられている。第1プロペラシャフト110の後端には第1プロペラ115が設けられている。第2プロペラシャフト111の後端には第2プロペラ116が設けられている。第1プロペラシャフト110と第2プロペラシャフト111とは互いに逆方向に回転する。
【0056】
第2実施形態に係る船外機100では、遊星歯車機構20から下部ケース4に加わるトルクは、遊星キャリア37のトルクから内歯車38のトルクを引いた値となり、太陽歯車35のトルクと等しくなる。
【0057】
変速機構40の変速比は次の関係を満たすように設定されている。
変速比=1+1/(プラネタリ変速比-1)
プラネタリ変速比=Zc/Za
ここで、Zaは太陽歯車35の歯数であり、Zcは内歯車38の歯数である。この構成によれば、遊星キャリア37から下部ケース4に伝達するトルクと、下部ドライブシャフト18からプロペラシャフト23を介して下部ケース4に伝達するトルクとが釣り合う。これにより、下部ケース4の角度を維持するために第2駆動源31が発生すべき駆動力を最小にすることができる。
【0058】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。各実施形態において、上部ドライブシャフト17は第1駆動源15の出力軸16の一部として構成されてもよい。また、第2駆動源31の出力軸32は、シャフト等の伝達部材を介して第2ギヤ33に接続されてもよい。遊星歯車機構20が下部ケース4内に配置され、上部ドライブシャフト17が連結部12の内孔21を通過して上部ケース3から下部ケース4内に延びてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1、100 :船外機
2 :船体
3 :上部ケース
4 :下部ケース
15 :第1駆動源
17 :上部ドライブシャフト
18 :下部ドライブシャフト
20 :遊星歯車機構
23 :プロペラシャフト
24 :第1ベベルギヤ
25 :第2ベベルギヤ
26 :プロペラ
31 :第2駆動源
35 :太陽歯車
36 :遊星歯車
37 :遊星キャリア
38 :内歯車
40 :変速機構
50 :軸受
51 :オイルポンプ
52 :第1油路
57 :ピニオンシャフト
59 :上部ドライブシャフトの外周面
63 :第2油路
64 :第1孔
65 :遊星キャリアの内周面
66 :第2孔
67 :ピニオンシャフトの外周面
69 :第3油路
81 :第1円筒部
82 :第1円筒部の外周面
83 :第1円筒部の内周面
84 :第2円筒部
85 :第2円筒部の外周面
86 :第2円筒部の内周面
101 :内側遊星歯車
102 :外側遊星歯車
A :第1軸線