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特開2024-18550負極活物質組成物、及びそれを含む全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018550
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】負極活物質組成物、及びそれを含む全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20240201BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121955
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】川辺 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝昭
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM12
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA13
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】全固体二次電池の負極材料として好適なチタン酸リチウム粉末を用いた負極活物質組成物、及び全固体二次電池を提供すること。
【解決手段】LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物であって、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在することを特徴とする負極活物質組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物であって、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在する負極活物質組成物。
【請求項2】
前記無機固体電解質が、硫化物無機固体電解質である請求項1に記載の負極活物質組成物。
【請求項3】
前記チタン酸リチウム粉末中における、前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率が、硫黄元素換算で、0.01質量%以上、1質量%以下である請求項1または2に記載の負極活物質組成物。
【請求項4】
前記硫黄元素含有の化合物が硫酸リチウムである請求項1から3のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【請求項5】
前記チタン酸リチウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.5μm以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【請求項6】
前記チタン酸リチウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が10μm以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【請求項7】
前記無機固体電解質の含有率が前記負極活物質組成物中に1質量%以上、50質量%以下である請求項1から6のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【請求項8】
正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が請求項1から7のいずれか一項に記載の負極活物質組成物を含む層である全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池の負極材料として好適なチタン酸リチウム粉末を用いた負極活物質組成物、及び全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。尚、本明細書において、リチウム電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、主にリチウムを吸蔵放出可能な材料を含む正極及び負極、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネート類やジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート類が使用されている。リチウム電池はこのように可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、液漏れを生じやすく、また短絡時に発火する恐れがあることから短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止の構造が必要になる。
このような状況下で有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は正極、負極および電解質すべてが固体からなるため、有機電解液を用いた電池の課題である安全性、信頼性を大きく改善できる可能性があり、また安全装置の簡略化が図れることから高エネルギー密度化が可能となるため、電気自動車や大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0004】
電解液を用いる従来のリチウムイオン二次電池とは異なり全固体二次電池では、優れたイオン伝導性や長期サイクル特性を実現するという観点より、良好な固-固界面を形成させ、その界面を継続的に維持することが非常に重要である。活物質と固体電解質の良好な界面を維持するために、チタン酸リチウムが注目されている。チタン酸リチウムは充放電に伴う体積変化が非常に小さいため、充放電中、活物質と固体電解質との界面が長期にわたって維持されることが期待されている。特許文献1には、特定のBET比表面積を有するチタン酸リチウムとチタン酸リチウムの平均粒径よりも小さい固体電解質粒子を用いる電極が開示されており、チタン酸リチウムと固体電解質粒子との接触が従来より良好になることが報告されている。また特許文献2には、リンおよびイオウからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素またはこの元素の化合物が表面の少なくとも一部に被覆されたリチウムチタン複合酸化物粒子が開示されている。特許文献2によれば、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、非水電解質(例えば非水電解液)の分解に伴うガス発生を抑制することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-243644号公報
【特許文献2】特開2010-27377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電極を用いることで、チタン酸リチウム粉末と固体電解質粉末の接触が良好になり全固体二次電池の電池特性の改善が見られたものの、更なる改善が必要であった。特に平均粒径の比較的小さいチタン酸リチウム粒子を用いた場合、特許文献1の構成においても電池特性の低下が見られ、これはチタン酸リチウム粒子同士が凝集してしまい、満足のいくチタン酸リチウム粉末と固体電解質粉末の接触が得られなかったためと考えられる。本発明は、上記課題に対してチタン酸リチウム粉末の粒径によらず固体電解質と良好な固-固界面を形成し、更に従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層を形成できる負極活物質組成物、及び全固体二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、平均粒径の比較的小さいチタン酸リチウム粉末を用いた場合においてもチタン酸リチウム粒子と固体電解質の接触面積を更に大きくするために研究を重ねた結果、チタン酸リチウムの一次粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物を存在させることで、チタン酸リチウム粉末と固体電解質が良好な固-固界面を形成し、更に従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層が得られることを見出し、本発明を完成した。前記チタン酸リチウム粉末と固体電解質とを含む負極活物質組成物を全固体二次電池に用いることで充電時の直流抵抗(充電直流抵抗)を低減することができる。尚、特許文献2には、全固体二次電池において、負極活物質と固体電解質を含む負極層の緻密性を高める効果については全く記載も示唆もされていない。
【0008】
本発明は、全固体二次電池の負極材料として好適なチタン酸リチウム粉末を用いた負極活物質組成物、及び全固体二次電池に関する。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)~(8)を提供するものである。
【0010】
(1)LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物であって、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在する負極活物質組成物。
【0011】
(2)前記無機固体電解質が、硫化物無機固体電解質である(1)に記載の負極活物質組成物。
【0012】
(3)前記チタン酸リチウム粉末中における、前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率が、硫黄元素換算で、0.01質量%以上、1質量%以下である(1)または(2)に記載の負極活物質組成物。
【0013】
(4)前記硫黄元素含有の化合物が硫酸リチウムである(1)から(3)のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【0014】
(5)前記チタン酸リチウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.5μm以上である(1)から(4)のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【0015】
(6)前記チタン酸リチウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が10μm以下である(1)から(5)のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【0016】
(7)前記無機固体電解質の含有率が前記負極活物質組成物中に1質量%以上、50質量%以下である(1)から(6)のいずれか一項に記載の負極活物質組成物。
【0017】
(8)正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の負極活物質組成物を含む層である全固体二次電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、チタン酸リチウム粉末の粒径によらず固体電解質と良好な固-固界面を形成し、更に従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層を形成することで、充電直流抵抗が低減された負極活物質組成物、及び全固体二次電池とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、全固体二次電池の負極材料として好適なチタン酸リチウム粉末を用いた負極活物質組成物、及び全固体二次電池に関する。
【0020】
〔負極活物質組成物〕
本発明の負極活物質組成物は、LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物であって、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在するものである。
【0021】
〔LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末〕
本発明のチタン酸リチウム粉末はLiTi12を主成分とし、本発明の効果が得られる範囲で、LiTi12以外の結晶質成分及び/または非晶質成分を含むことができる。主成分とは、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度の割合が90%以上であることを言う。本発明のチタン酸リチウム粉末は、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度の割合は92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。LiTi12以外の成分としては、結晶質成分に起因するメインピークの強度と、非晶質成分に起因するハローパターンの最高強度との総和である。特に本発明のチタン酸リチウム粉末は、その合成時の原料や合成条件に起因して、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、及び化学式が異なるチタン酸リチウムであるLiTiO3、Li0.6Ti3.48、等を前記結晶質成分として含むことがある。本発明のチタン酸リチウム粉末は、これらのLiTi12以外の結晶質成分、特にLi0.6Ti3.4の発生割合が少ないほど、蓄電デバイスの充電特性及び充放電容量を向上させることができる。X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度を100としたときに、アナターゼ型二酸化チタンのメインピークの強度と、ルチル型二酸化チタンのメインピーク強度と、LiTiOの(-133)面相当のピーク強度に100/80を乗じて算出したLiTiOのメインピークに相当する強度との総和が5以下であることが特に好ましい。ここで、LiTi12のメインピークとは、ICDD(PDF2010)のPDFカード00-049-0207におけるLiTi12の(111)面(2θ=18.33)に帰属する回折ピークに相当するピークである。アナターゼ型二酸化チタンのメインピークとは、PDFカード01-070-6826における(101)面(2θ=25.42)に帰属する回折ピークに相当するピークである。ルチル型二酸化チタンのメインピークとは、PDFカード01-070-7347における(110)面(2θ=27.44)に帰属する回折ピークに相当するピークである。LiTiOの(-133)面に相当するピークとは、PDFカード00-033-0831におけるLiTiOの(-133)面(2θ=43.58)に帰属する回折ピークに相当するピークである。Li0.6Ti3.4のメインピークとは、PDFカード01-070-2732における(101)面(2θ=19.98)に帰属する回折ピークに相当するピークである。なお、「ICDD」は、International Centre for Diffraction Data(国際回折データセンター)の略であり、「PDF」は、Powder Diffraction File(粉末回折ファイル)の略である。
【0022】
<硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の存在>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在する。それぞれ前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在するとは、本発明のチタン酸リチウム粉末の蛍光X線分析(XRF)や誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)など公知の分析装置において、硫黄が、それぞれ検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、硫黄元素換算で、0.001質量%である。
【0023】
<硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率>
チタン酸リチウム粉末中における、蛍光X線分析(XRF)から求めた本発明のチタン酸リチウム粉末の硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率は、硫黄元素換算で、0.01質量%以上、1質量%以下である。前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率がこの範囲であれば、空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層が得られ、充電直流抵抗が低減された全固体二次電池が得られる。硫黄元素または硫黄元素含有の化合物の含有率は、硫黄元素換算で、好ましくは0.01質量%以上、0.9質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上、0.85質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上、0.8質量%以下であり、ことさら好ましくは0.06質量%以上、0.75質量%以下であり、さらにより好ましくは0.1質量%以上、0.75質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以上、0.7質量%以下であり、最も好ましくは0.13質量%以上、0.4質量%以下である。なお、含有率とはチタン酸リチウム粉末全体の質量に占める前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在する質量の割合を硫黄元素換算で表す。
【0024】
また、本発明のチタン酸リチウム粉末では、チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面に、硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が存在すればよく、チタン酸リチウム粉末に含まれるチタン酸リチウムの一次粒子の内部よりも、表面に硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が多く存在するものであることが好ましい。具体的には、走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウムの一次粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウムの一次粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物中に含まれる硫黄元素の原子濃度をC1(atm%)および、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記硫黄元素の原子濃度をD2(atm%)とすると、下記式(I)を満たすことが好ましく、下記式(II)を満たすことがより好ましい。
C1>C2 (I)
C1/C2≧5 (II)
【0025】
本発明のチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウムの一次粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウムの一次粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が検出されないことが好ましい。前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物は一次粒子表面に化学的に結合した状態で定着していることが好ましい。前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物がこのような状態で存在する場合、空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層が得られ、充電直流抵抗に優れた全固体二次電池が得られる。エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。よって、100nm程度の深さ位置において、硫黄元素が0.5atm%以下の範囲で検出されてもよい。
【0026】
<D50>
本発明のチタン酸リチウム粉末のD50とは体積中位粒径の指標である。レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0027】
本発明のチタン酸リチウム粉末の一次粒子のD50は、空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層を得る観点から、D50は、0.5μm以上であり、0.55μm以上が好ましく、0.6μm以上がより好ましい。また、12μm以下であり、10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、4.8μm以下が特に好ましい。また、前記チタン酸リチウム粉末は一次粒子径0.5μm未満の一次粒子の累積体積頻度を10%~50%の範囲で含んでいてもよい。さらに、0.55μm未満の一次粒子の累積体積頻度を10%~55%の範囲で含んでいてもよく、0.6μm未満の一次粒子の累積体積頻度を10%~60%の範囲で含んでいてもよい。他方、前記チタン酸リチウム粉末は一次粒子径5μmを超える一次粒子の累積体積頻度を50%~90%の範囲で含んでいてもよく、4.5μmを超える一次粒子の累積体積頻度を45%~90%の範囲で含んでいてもよい。さらに、4μmを超える一次粒子の累積体積頻度を40%~90%の範囲で含んでいてもよく、2μmを超える一次粒子の累積体積頻度を15%~90%の範囲で含んでいてもよく、1.8μmを超える一次粒子の累積体積頻度を10%~90%の範囲で含んでいてもよい。
【0028】
[本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法]
以下に、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程、及び表面処理工程に分けて説明するが、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0029】
<原料の調製工程>
本発明のチタン酸リチウム粉末の原料は、チタン原料及びリチウム原料からなる。チタン原料としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン等のチタン化合物が用いられる。短時間でリチウム原料と反応し易いことが好ましく、その観点で、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。短時間の焼成で原料を十分に反応させるためには、チタン原料のD50は5μm以下が好ましい。
【0030】
リチウム原料としては、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物が用いられる。
【0031】
なお、チタン原料及びリチウム原料の仕込み比率としては、Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.81以上であればよく、0.83以上が好ましい。仕込み比率が少ないと、焼成後に得られるチタン酸リチウム粉末において特定の不純物相の発生を促し、電池特性への悪影響が懸念されるためである。
【0032】
本発明においては、以上の原料からなる混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0033】
混合物の調製方法としては、次に挙げる方法を採用することができる。第一の方法は、原料を調合後、混合と同時に粉砕を行う方法である。第二の方法は、各原料をD95が5μm以下になるまで粉砕した後、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。第三の方法は、各原料を晶析などの方法によって微粒子からなる粉末を製造し、必要に応じて分級して、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。なかでも、第一の方法において、原料の混合と同時に粉砕を行う方法は、工程が少ない方法なので工業的に有利な方法である。また、同時に導電剤を添加しても良い。
【0034】
第一から第三のいずれの方法においても、原料の混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0035】
前記第一から第三のいずれの方法で得られた混合物が混合粉末である場合は、そのまま次の焼成工程に供することができる。混合粉末からなる混合スラリーである場合は、混合スラリーをロータリーエバポレーターなどによって乾燥した後に次の焼成工程に供することができる。焼成がロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合スラリーのまま炉内に供することができる。
【0036】
<焼成工程>
次いで、得られた混合物を焼成する。特定の不純物相の割合を少なく、かつチタン酸リチウムの結晶性を高く、結晶子径や粉末の一次粒子径を大きくする観点から、焼成時の最高温度は、800℃以上であり、好ましくは810℃以上である。焼成により得られる粉末の比表面積を大きく、炉心管由来の不純物量を少なくする観点からは、焼成時の最高温度は、1100℃以下であり、好ましくは1000℃以下であり、より好ましくは960℃以下である。同様に前記二つの観点から、焼成時の最高温度での保持時間は、2分~60分であり、好ましくは5分~45分であり、より好ましくは5分~35分である。焼成時の最高温度が高い時には、より短い保持時間を選択することが好ましい。焼成時の昇温過程においては、焼成により得られる結晶子径を大きくする観点から、700℃~800℃の滞留時間を短くすることがよく、例えば15分以内が好ましい。
【0037】
前記条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。匣鉢に混合物を収容して焼成するローラーハース式焼成炉、またはメッシュベルト式焼成炉を用いる場合は、焼成時の混合物の温度分布の均一性を確保して得られるチタン酸リチウム粉末の品質を一定にするためには、匣鉢への混合物の収容量を少量にすることが好ましい。
【0038】
ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成ができる点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質なチタン酸リチウム粉末を得ることができる点から、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0039】
焼成時の雰囲気は、脱離した水分や炭酸ガスが排除できる雰囲気であれば、焼成炉に関わらず特に限定されるものではない。通常は、圧縮空気を用いた空気雰囲気とするが、酸素、窒素、または水素雰囲気などでも良い。
【0040】
焼成後のチタン酸リチウム粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、焼成後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。粉砕を行わず、凝集を解す程度の解砕を行うだけであれば、その後でも、焼成後のチタン酸リチウム粉末の高い結晶性が維持される。
【0041】
<表面処理工程>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、硫黄元素または硫黄元素含有の化合物を含有するチタン酸リチウム粉末であり、全固体二次電池の負極材料として適用した場合に充填率の高い緻密な負極層を形成することができるとともに充電直流抵抗を低減することができる。前記焼成工程で、前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物(以下、処理剤と記すことがある)を加えて、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造することができるが、より好ましくは、次のような表面処理工程などで、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造することができる。
【0042】
以上の工程により得られた、表面処理前のチタン酸リチウム粉末(以下、基材のチタン酸リチウム粉末と記すことがある。また、以下、基材のチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子を基材のチタン酸リチウム粒子と記すことがある)を、処理剤と混合して、好ましくは熱処理する。
【0043】
硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物(処理剤)としては、特に限定されないが、例えば、硫黄(たとえば、粉末状の硫黄等)、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸チタン、メチル硫酸リチウム、エチル硫酸リチウムなどの硫酸塩、メタンスルホン酸リチウム、エタンスルホン酸リチウムなどのスルホン酸塩、LiN(SOF)[LiFSI]、LiN(SOCF[LiTFSI]、及びLiN(SOなどのS=O基含有イミド塩などが挙げられる。なかでも、S=O基を含有する化合物が好ましく、硫酸リチウムとその水和物、及びメチル硫酸リチウム、メタンスルホン酸リチウム、LiTFSIがより好ましく、硫酸リチウムとその水和物がさらに好ましい。すなわち、本発明のチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子が、その表面に硫黄元素含有の化合物が存在するものである場合には、硫黄元素含有の化合物としては、上記処理剤として挙げた、硫黄元素を含有する化合物であることが好ましく、S=O基を含有する化合物がより好ましく、硫酸リチウムとその水和物、及びメチル硫酸リチウム、メタンスルホン酸リチウム、LiTFSIがさらに好ましく、硫酸リチウムとその水和物がさらにより好ましい。なお、これらは、焼成により、さらに酸化等したものであってもよい。
【0044】
硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物(処理剤)の添加量としては、チタン酸リチウム粉末中の前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物の含有率が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.1質量%以上の割合で添加すればよい。また、基材のチタン酸リチウム粉末に対して12質量%以下の割合で添加すればよく、好ましくは10質量%以下の割合であり、より好ましくは8質量%以下の割合である。処理剤としては、2種以上を併用してもよい。
【0045】
基材のチタン酸リチウム粉末と前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のチタン酸リチウム粒子の表面に前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0046】
乾式混合としては、例えば、ペイントミキサー、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0047】
湿式混合としては、水またはアルコール溶媒中に処理剤と基材のチタン酸リチウム粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0048】
溶媒量としては、処理剤と基材のチタン酸リチウム粉末が十分に濡れた状態になる量ならば問題はないが、処理剤と基材のチタン酸リチウム粉末は、溶媒中で均一に分散していればよく、そのためには、溶媒中に溶解する、処理剤の溶解量が処理剤の溶媒への全投入量の50%以上になる溶媒量が好ましい。処理剤の、溶媒への溶解量は温度が高いほど多くなることから、基材のチタン酸リチウム粉末と処理剤との溶媒中での混合は、加温しながら行うことが好ましく、また加温することで溶媒量も減量できるので、加温しながら混合する方法は、工業的に適した方法である。混合時の温度としては、40℃~100℃が好ましく、60℃~100℃がより好ましい。
【0049】
湿式混合の場合は、熱処理方法にもよるが、混合工程の後に行う熱処理の前に溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去は、溶媒を蒸発乾固させることで行うことが好ましく、溶媒を蒸発乾固させる方法としては、スラリーを撹拌羽で撹拌しながら加熱し蒸発させる方法、コニカルドライヤーなど撹拌させながら乾燥が可能な乾燥装置を用いる方法およびスプレードライヤーを用いる方法が挙げられる。熱処理が、ロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合した原料をスラリーのまま炉内に供することができる。
【0050】
基材のチタン酸リチウム粉末と処理剤と混合後には熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては、前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度であって、基材のチタン酸リチウム粒子が焼結することによる、比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては700℃以下であればよく、好ましくは600℃以下である。熱処理温度の下限値としては、300℃以上であればよく、好ましくは400℃以上である。熱処理時間としては、0.1時間~8時間であればよく、好ましくは0.5時間~5時間である。前記硫黄元素または硫黄元素含有の化合物が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度及び時間は、前記硫黄元素または硫黄元素を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。
【0051】
熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。
【0052】
以上のようにして得られた熱処理後のチタン酸リチウム粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、熱処理後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。
【0053】
本発明のチタン酸リチウム粉末は、表面処理工程で処理剤と混合した後に造粒して熱処理を行い、一次粒子が凝集した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0054】
本発明のチタン酸リチウム粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、発明のチタン酸リチウム粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後のチタン酸リチウム粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。熱処理条件としては、温度と保持時間が特定の範囲にあることで二次粒子形態や表面処理工程に大きく影響する。熱処理温度としては、450℃以上であればよく、550℃以下であればよい。熱処理温度が550℃を超えると比表面積が大きく低下し、電池性能、特に充電直流抵抗が大幅に増大するためである。また保持時間は1時間以上が好ましい、保持時間が短い場合、粉末に含まれる水分量の増加に加え、粒子表面状態にも影響を与えると推測されるためである。
【0055】
<周期律表>
本発明の周期律表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期律表をいう。
【0056】
〔無機固体電解質〕
無機固体電解質は、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質(温度25℃において、固体状を呈する電解質)のことである。無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性をほとんど有さないものが一般的である。
【0057】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する。無機固体電解質は(A)硫化物無機固体電解質と(B)酸化物無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明において、高いイオン伝導性を有し、室温での加圧のみで、粒界の少ない緻密な成形体が形成できるため、硫化物無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0058】
(A)硫化物無機固体電解質
硫化物無機固体電解質は、硫黄元素(S)を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。前記硫化物無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属硫化物と下記一般式(III)で表される硫化物の少なくとも1種を反応させるにより製造することができ、一般式(III)で表される硫化物を2種以上併用しても良い。
【0059】
(III)
(MはP、Si、Ge、B、Al、Ga、及びSbのいずれかを示し、x及びyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数を示す。)
【0060】
前記周期律表第1族に属する金属硫化物は硫化リチウム、硫化ナトリウム、および硫化カリウムのいずれかを示し、硫化リチウムおよび硫化ナトリウムがより好ましく、硫化リチウムが更に好ましい。
【0061】
一般式(III)で表される硫化物としては、P、SiS、GeS、B、Al、GaおよびSbのいずれかであることが好ましく、Pがより好ましい。
【0062】
前記のように製造された硫化物無機固体電解質における各元素の組成比は、前記周期律表第1族に属する金属硫化物、前記一般式(III)で表される硫化物および単体硫黄の配合量を調整することにより制御できる。
【0063】
本発明の硫化物無機固体電解質は非結晶ガラスであっても良く、結晶化ガラスであっても良く、結晶性材料であっても良い。
【0064】
硫化物無機固体電解質として、具体的に以下の組み合わせが好適に挙げられるが特に限定されない。
LiS-P、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、Li10GeP12
【0065】
前記組み合わせのなかでも、LiS-Pを組み合わせて製造されるLPSガラスおよびLPSガラスセラミックスが好ましい。
【0066】
前記周期律表第1族に属する金属硫化物と前記一般式(III)で表される硫化物の混合割合は、固体電解質として使用可能であれば、特に限定されないが、50:50~90:10(モル比)の割合であることが好ましい。金属硫化物のモル比が50以上、90以下であれば十分にイオン伝導度を高めることができる。その混合比(モル比)は60:40~80:20であることがより好ましく、70:30~80:20が更に好ましい。
【0067】
前記硫化物無機固体電解質は、イオン伝導度を高めるために周期律表第1族に属する金属硫化物と前記一般式(III)で表される硫化物以外に、LiI、LiBr、LiCl、及びLiFから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化リチウムや酸化リチウム、リン酸リチウム等のリチウム塩を含んでも良い。ただし、前記硫化物無機固体電解質とこれらリチウム塩の混合割合は、60:40~95:5(モル比)の割合であることが好ましく、より好ましくは80:20~95:5である。
【0068】
また上記以外の硫化物無機固体電解質として、LiPSClやLiPSBrなどのアルジェロダイト型固体電解質も好適に挙げられる。
【0069】
前記硫化物無機固体電解質の製造方法は、固相法、ゾルゲル法、メカニカルミリング法、溶液法、溶融急冷法等が好適に挙げられるが特に限定されない。
【0070】
(B)酸化物無機固体電解質
【0071】
酸化物無機固体電解質は、酸素元素を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0072】
酸化物無機固体電解質としては、例えば、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、およびLiBaLaTa12等が好適に挙げられる。
【0073】
無機固体電解質の体積平均粒径は特に限定されないが、0.01μm以上であればよく、0.1μm以上であることが好ましい。上限としては、100μm以下であればよく、50μm以下であることが好ましい。無機固体電解質の体積平均粒径は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機を使用して測定することができる。
【0074】
無機固体電解質の含有率は特に限定されないが、前記負極活物質組成物中に、1質量%以上であればよく、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。無機固体電解質の含有率が高いほどチタン酸リチウム粉末と固体電解質の接触が得られやすいため好ましい。また無機固体電解質の含有率が高すぎると全固体二次電池の電池容量が小さくなるため、70質量%以下であればよく、50質量%以下であることが好ましい。通常、全固体二次電池の電池容量を大きくするため無機固体電解質の含有率は低い方が好ましいが含有率が低い場合チタン酸リチウム粉末と固体電解質の接触が取りづらくなる。本発明の負極活物質組成物に用いられる前記チタン酸リチウム粉末を用いることで無機固体電解質の含有率は低い場合においても満足のいくチタン酸リチウム粉末と固体電解質の接触が得られる。負極活物質組成物中における、チタン酸リチウム粉末と無機固体電解質との含有率は、「チタン酸リチウム粉末:無機固体電解質」の質量比で、好ましくは99:1~30:70、より好ましくは95:5~40:60、さらに好ましくは80:20~50:50、特に好ましくは75:25~50:50である。
【0075】
〔その他の含有物〕
本発明の負極活物質組成物は、前記チタン酸リチウム粉末と前記無機固体電解質の他、導電剤、結着剤を含んでも良い。
【0076】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30m/g~3000m/gであり、さらに好ましくは50m/g~2000m/gである。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30m/g~600m/gであり、さらに好ましくは50m/g~500m/gである。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、2~150であり、好ましくは2~100、より好ましくは2~50である。
【0077】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極活物質組成物中に、0.1質量%~10質量%含まれていればよく、好ましくは0.5質量%~5質量%である。0.1質量%~10質量%の範囲とすることにより、活物質比率を十分なものとし、これにより、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの初期放電容量を十分なものとしながら、負極層の導電性をより高めることができる。
【0078】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、2万~100万である。負極層の結着性をより高める観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電剤との接触を妨げずに導電性をより高める観点から、50万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0079】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極活物質組成物中に、0.2質量%~15質量%含まれていればよい。結着性を高め負極層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの初期放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0080】
〔負極活物質組成物の作製方法〕
本発明の負極活物質組成物の作製方法は、特に限定されず、例えば、前記チタン酸リチウム粉末に対して、特定の割合の前記無機固体電解質の粉末を添加し混合機、撹拌機、分散機等で混合する方法、固体電解質を含むスラリーに前記チタン酸リチウム粉末を加える方法が好適に挙げられる。
【0081】
本発明の負極活物質組成物が、全固体二次電池において従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層が得られ、充電直流抵抗が低減された理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
本発明の負極活物質組成物は、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質とチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有化合物が存在するチタン酸リチウム粉末とを含む。通常チタン酸リチウムと無機固体電解質を混合させると、特にチタン酸リチウム粉末の粒径が小さい場合にチタン酸リチウム粒子同士が凝集してしまい、チタン酸リチウム粉末と固体電解質が負極活物質組成物中で均一に混合せず、その結果、空隙の多い充填率の低い負極活物質組成物しか得られない。一方で、本発明のチタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有化合物が存在することによりチタン酸リチウム粒子同士の凝集を抑制し、更に無機固体電解質、特に硫化物無機固体電解質との親和性が高まり負極活物質組成物中で均一に混合される。その結果、負極活物質組成物中で固体電解質と本発明のチタン酸リチウム粉末は良好な固-固界面を形成し、従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層を形成でき、全固体二次電池において特性が改善できると考えられる。
ここで、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池においては、チタン酸リチウム粒子同士の凝集が発生した場合でも、このような凝集部分にも、リチウムイオンなどの金属イオンのキャリアとなる有機電解液が容易に含侵する。よって、容易に固-液界面が形成されることから、このような凝集部分においても、有機電解液を介した、リチウムイオンなどの金属イオンの吸蔵および放出反応が可能となる。そのため、有機電解液を用いた二次電池においては、このようなチタン酸リチウム粒子同士の凝集が問題となることは少ないものであった。これに対し、全固体二次電池においては、このような凝集部分には、リチウムイオンなどの金属イオンのキャリアとなる無機固体電解質が入り込むことができず、固-固界面が形成されず、その結果として、リチウムイオンなどの金属イオンの吸蔵および放出反応が行われず、電池反応に寄与できないこととなる。すなわち、チタン酸リチウム粒子同士の凝集の問題は、無機固体電解質を用いた全固体二次電池に特有の問題であり、特に、この問題は、チタン酸リチウム粒子の粒径が小さくなるほど顕著となるものである。これに対し、本発明によれば、チタン酸リチウム粒子の表面に硫黄元素または硫黄元素含有化合物が存在することによりチタン酸リチウム粒子同士の凝集を抑制し、更に無機固体電解質、特に硫化物無機固体電解質との親和性が高まり、これにより、従来よりも空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層を得ることができるものであり、上記のような凝集部分の発生に起因する問題を有効に解決できるものである。
【0082】
本発明の負極活物質組成物は、全固体二次電池の負極に使用することができる。この際には、本発明の負極活物質組成物について、加圧成形を行うことで、加圧成形体とすることが好ましい。加圧成形の条件は、特に限定されないが、成形温度が、15℃~200℃であればよく、好ましくは25℃~150℃であり、成形圧力が、180MPa~1080MPaであればよく、好ましくは300MPa~800MPaである。本発明の負極活物質組成物は、空隙の少なく緻密な成形体を形成可能であり、そのため、空隙の少なく充填率の高い緻密な負極層とすることができる。本発明の負極活物質組成物を用いて得られる成形体は、充填率が、72.5%~100%であり、好ましくは73.5~100%である。なお、充填率の測定方法は、後述する実施例にて説明する。
【0083】
〔全固体二次電池〕
本発明の全固体二次電池は、正極、負極及び正極と負極間に位置する固体電解質層により構成されているが、本発明のLiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末と周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質を含む負極活物質組成物は、負極層に用いられる。負極層の作製方法は、特に限定されず、例えば、前記負極活物質組成物を加圧形成する方法や負極活物質組成物を溶剤に加えてスラリーにした後、この負極活物質組成物を集電体に塗布して、乾燥、加圧成型する方法などが好適に挙げることができる。
【0084】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。前記負極集電体の形態として、多孔質アルミニウムが好ましい。前記多孔質アルミニウムの空孔率は80%以上、95%以下であり、好ましくは85%以上、90%以下である。
【0085】
本発明の負極活物質組成物を含む負極層を備えていれば正極層、固体電解質層等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、全固体二次電池用正極層として用いられる正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1-x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる1種又は2種以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体、及びLiNi1/2Mn3/2から選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0086】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる1種以上の元素での置換が可能であり、またはこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0087】
正極用の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極活物質組成物への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0088】
正極活物質組成物は、前記の正極活物質および固体電解質を少なくとも含有し、必要に応じてアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤等を含んでも良い。正極の作製方法は、特に限定されず、例えば、前記正極活物質組成物の粉末を加圧形成する方法や正極活物質組成物の粉末を溶剤に加えてスラリーにした後、この正極活物質組成物を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型する方法などが好適に挙げることができる。
【0089】
正極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi,Nb、Ta,W,Zr、Al,SiまたはLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、LiTi12,LiTi,LiTaO,LiNbO,LiAlO,LiZrO,LiWO,LiTiO,Li,LiPO,LiMoO,LiBO,LiBO,LiCO,LiSiO,SiO,TiO,ZrO,Al,B等が挙げられる。
【0090】
固体電解質層は正極と負極間に位置しており、固体電解質層の厚みは特に限定されないが1μm~100μmの厚さを有していてもよい。固体電解質層の構成材料は前記硫化物無機固体電解質や酸化物無機固体電解質を利用することができ、電極に使用する固体電解質と異なっていても良い。また固体電解質層はブタジエンゴムやブチルゴム等のバインダを含んでいてもよい。
【0091】
全固体二次電池の構造には特に限定はなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。
【実施例0092】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。
[実施例1]
<原料調製工程>
Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径 4.6μm)とアナターゼ型TiO(平均粒径 3.1μm)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が41質量%となるようにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。この原料混合スラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD-20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製のビーズ(外径:0.65mm)をベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/s、スラリーフィード速度55kg/hrで、ベッセル内圧が0.02~0.03MPaになるように制御しながら処理して、原料粉末を湿式混合・粉砕した。
【0093】
<焼成工程>
得られた混合スラリーを、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)を用い、焼成炉の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2.5度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:600℃、中央部:840℃、焼成物回収側:840℃とし、焼成物の840℃での保持時間を30分とした。
【0094】
<後処理工程>
炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、ハンマーミル(ダルトン製、AIIW-5型)を使用して、スクリーン目開き:0.5mm、回転数:8,000rpm、粉体フィード速度:25kg/hrの条件で解砕した。
【0095】
<表面処理工程>
解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、処理剤としての硫酸リチウム1水和物(LiSO・HO)を解砕した焼成粉末に対して0.16質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、ペイントシェーカーで3時間混合処理した後、温度100℃で、乾燥した後、マッフル炉を用いて500℃で、1時間熱処理することで、チタン酸リチウム粉末を製造した。
【0096】
[実施例2、実施例3]
表面処理工程において、硫酸リチウム1水和物(LiSO・HO)の添加量を表1に示すようにしたこと以外は実施例1と同様に行い、実施例2、実施例3に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0097】
[比較例1]
表面処理工程において、硫酸リチウム1水和物(LiSO・HO)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に比較例1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0098】
[硫黄元素含有率の測定]
実施例1~3、比較例1のチタン酸リチウム粉末に含まれる硫黄元素の含有率を以下のようにして測定した。
【0099】
<蛍光X線分析(XRF):硫黄元素の同定と含有率測定>
蛍光X線誘分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末に含まれる硫黄元素を同定し定量分析した。
【0100】
[粉末物性の測定]
各実施例、比較例のチタン酸リチウム粉末の各種物性を以下のようにして測定した。
【0101】
<一次粒子のD50の算出:乾式レーザー回折散乱法>
各実施例、比較例のチタン酸リチウム粉末のD50は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を使用して測定した粒度分布曲線より算出した。50mlのイオン交換水を測定溶媒として収容した容器に50mgの試料を投入し、目視で粉が測定溶媒中に均一に分散したと分かるくらいまで容器を手で振り、容器を測定セルに収容して測定した。解砕処理は、装置内の超音波器で超音波(30W、3s)をかけた。さらに測定溶媒をスラリーの透過率が適正範囲(装置の緑のバーで表示される範囲)になるまで加えて粒度分布測定を行った。得られた粒度分布曲線から、解砕後の混合粉末のD50を算出した。
【0102】
〔負極活物質組成物の作製〕
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、各実施例および比較例のチタン酸リチウム粉末及び硫化物無機固体電解質であるLiPSCl粉末(レーザー回折・散乱型粒度分布測定機を使用して得られる体積平均粒径:6μm)をチタン酸リチウム:LiPSCl=70:30の質量比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し負極活物質組成物を得た。
【0103】
〔負極活物質組成物の物性測定〕
上記負極活物質組成物をそれぞれ100mg秤量し、これらの試料を、室温で10分プレス(360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.7mmのペレット(成形体)を作製した。
<負極活物質組成物の充填率の算出、及び、相対密度比の算出>
上記ペレットの体積および質量から計算される負極活物質組成物のペレット密度とLiPSClの密度(真密度)とチタン酸リチウムの密度(真密度)と負極活物質組成物におけるチタン酸リチウム粉末の混合比(α;0<α<1)とから計算される密度を用いて、負極活物質組成物の充填率を下記の式にて算出した(αは、負極活物質組成物全体を1とした時の、チタン酸リチウム粉末の含有比率)。
充填率(%)= (負極活物質組成物のペレット密度/((1-α)LiPSClの密度(真密度)+ α×チタン酸リチウムの密度(真密度))×100
そして、得られた充填率の値を用いて、比較例1の充填率の値を100%としたときを基準とした、実施例1~3の負極活物質組成物の相対密度比を算出した。結果を表1に示す。
【0104】
[電池特性の評価]
各実施例の負極活物質組成物のペレットを用いて全固体二次電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0105】
〔硫化物無機固体電解質の合成〕
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)をLiS:P=75:25のモル比になるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物を得た。
次に、80mLのジルコニアポットにジルコニアボール(直径3mm、160g)と得られた原料組成物2gを投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。このポットを遊星型ボールミル機にセットし、回転数510rpmで16時間メカニカルミリングを行い、黄色粉体の硫化物無機固体電解質(LPSガラス)を得た。得られたLPSガラス80mgを面積0.785cmの成形部を有するペレット成形機を用いて、360MPaの圧力でプレスすることでペレット状の固体電解質層を得た。
【0106】
〔全固体二次電池の作製〕
各実施例の負極活物質組成物のペレット、上記ペレット状の固体電解質層、及び対極としてのリチウムインジウム合金の箔をこの順で積層し、積層体をステンレススチール製の集電体で挟むことで全固体二次電池を作製した。
【0107】
<充電直流抵抗の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、チタン酸リチウムの理論容量の0.05Cに相当する電流で0.5Vまで充電を行い、さらに0.5Vで充電電流が0.01Cに相当する電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.05Cに相当する電流で2Vまで放電させる定電流放電を行った。次に、それぞれのCレート(0.1C、0.15C、0.2C、0.25C、0.3C、0.4C)に相当する電流値と、そのCレートで充電した時の、10秒後の電圧を用いて充電における直流抵抗を算出した。加えて実施例1~3の直流抵抗は、比較例1のそれぞれの値を100%としたときを基準とし、相対的な値を調べた。評価結果を表1に示す。1CのCとは充放電するときの電流値を表す。例えば、1Cは理論容量を1/1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指し、0.1Cなら理論容量を1/0.1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指す。
【0108】
【表1】
【0109】
上記表1において、本発明で用いられるチタン酸リチウム粉末の表面に硫黄元素が存在していることがわかる(すなわち、表面処理工程において、処理剤として、硫酸リチウム1水和物を使用して製造されたものであるから、チタン酸リチウム粉末の表面に、硫酸リチウム1水和物に由来の硫黄元素が、存在しているといえる。)。また本発明の負極活物質組成物の実施例1~3では、比較例1に比べ負極活物質組成物相対密度比が向上し、空隙の少なく充填率の高い負極活物質組成物を形成していることがわかり、その負極活物質組成物を用いた全固体二次電池において充電直流抵抗が低下していることがわかる。
【0110】
上記結果より、本発明の負極活物質組成物を用いることで、チタン酸リチウム粒子同士の凝集の発生を抑制でき、これにより、負極層をより緻密化することができ、その負極層を用いることで連続的なイオンおよび電子のパスを形成することができるため、優れた電池特性を示す。